(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160516
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】記録装置およびインクタンク
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
B41J2/175 309
B41J2/175 119
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070933
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米澤 詩織
(72)【発明者】
【氏名】澄川 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】山口 顕郎
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA29
2C056EB20
2C056EB21
2C056KB37
2C056KC02
2C056KC09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、インクタンクが傾いた場合であってもインクタンクに規定量のインクを残す記録装置を提供することを目的とする。
【解決手段】着脱可能なインクタンクと、装着されている前記インクタンクからインク流路を介してインクが供給される記録ヘッドと、複数の電極を用いて前記インクタンクのインク残量を規定量で検知するインク検知手段と、を備える記録装置を提供する。前記インクタンクは、前記インクタンクの底面の一部で窪んだプール部と、前記インク流路へ前記インクを供給するために、前記プール部の側壁に設けられたインク供給口と、を備える。前記複数の電極のうち少なくとも1つの電極は、前記プール部の前記側壁から前記プール部の内側に突出した位置に設けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着脱可能なインクタンクと、
装着されている前記インクタンクからインク流路を介してインクが供給される記録ヘッドと、
複数の電極を用いて前記インクタンクのインク残量を規定量で検知するインク検知手段と、を備える記録装置であって、
前記インクタンクは、
前記インクタンクの底面の一部で窪んだプール部と、
前記インク流路へ前記インクを供給するために、前記プール部の側壁に設けられたインク供給口と、を備え、
前記複数の電極のうち少なくとも1つの電極は、前記プール部の前記側壁から前記プール部の内側に突出した位置に設けられる、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの電極は、前記インクタンクを前記記録装置に装着したときの姿勢における水平方向において、前記プール部の長さの中心近傍に設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記プール部の底面から前記少なくとも1つの電極までの高さは、前記プール部の底面から前記インク供給口までの高さよりも高い、
ことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの電極は、前記側壁から前記中心近傍に延び、
前記少なくとも1つの電極の前記中心近傍の端部以外は、絶縁体からなるカバーで覆われる、
ことを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電極は、前記プール部の高さ以下で前記プール部の側壁に設けられる、
ことを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの電極の長さは、前記水平方向における前記プール部の全長以下である、
ことを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの電極は、前記インクタンクを前記記録装置に装着したときの姿勢における垂直方向において、前記プール部の長さの中心近傍に設けられる、
ことを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの電極と異なる電極は、前記インク流路内に配置される、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記プール部の底面の形状は、平面又は曲面である、
ことを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項10】
記録装置に供給するインクを貯留するインクタンクであって、
底面の一部で窪んだプール部と、
前記記録装置にインクを供給するための、前記プール部の側壁に設けられたインク供給口と、
前記プール部の前記側壁から前記プール部の内側に突出した位置に設けられる電極と、
を有することを特徴とするインクタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置およびインクタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に供給するインクを貯留するためのインクタンクとして、様々な形態を有するインクタンクがある。例えば、インクの貯留方式は、インクタンク内部に収納したスポンジにインクを浸透させることでインクを貯留するスポンジ方式、インクタンク内部に直接インクを貯留する生タンク方式、及びインクを可撓性の袋に貯留した袋方式である。スポンジ方式は、インクタンク内部にスポンジを収納するため、インクタンク内部の容積に対するインクの貯留量が少なくなる。また、袋方式は、インクを収納する袋をケーシングで保護する必要があるため、インクタンク内部の容積に対するインク貯留量が少なくなる。一方で、インクタンク内部に貯留可能なインク量が最も多い方式は、生タンク方式である。
【0003】
従来、インクジェット記録装置は、生タンク方式のインクタンク内部のインク残量が一定の閾値未満となった場合、ユーザに対する警告及びインクジェット記録装置の動作停止を行っている。インクジェット記録装置は、インクタンクを含むインク供給ユニットからインクの供給を受ける。インクジェット記録装置の警告機能及び動作停止機能は、インク不足による記録不良の発生を防止するために設けられている。そのため、インクジェット記録装置は、インクタンクに適切な量のインクを残す必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1は、インクタンクの内側底面が液体供給口に近づくほど深くなる傾斜面を有する形状と、インクタンク内の液体供給口を挟んで液面からほぼ等しい深さにある少なくとも2箇所にインクの有無を検知する電極部材の配置を開示している。また、特許文献2は、インクタンクからのインクを退避して貯留する容積の変化が可能な貯留部を用いて一定量のインクを移動させ、インク残量が規定量以下になった場合、貯留部の容積を縮小させて貯留部へ規定量になるまで戻す機構を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-334921号公報
【特許文献2】特開2017-189914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、インクジェット記録装置にエアを入れないようにするために、インクジェット記録装置内に気液分離機構を設ける必要があるが、インクジェット記録装置が大型化するといった課題がある。また、特許文献2は、インクタンクが傾斜した場合、貯留部にインクが多く残るといった課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、インクタンクが傾いた場合であってもインクタンクに規定量のインクを残す記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る記録装置は、以下の構成を備える。すなわち、着脱可能なインクタンクと、装着されている前記インクタンクからインク流路を介してインクが供給される記録ヘッドと、複数の電極を用いて前記インクタンクのインク残量を規定量で検知するインク検知手段と、を備える記録装置であって、前記インクタンクは、前記インクタンクの底面の一部で窪んだプール部と、前記インク流路へ前記インクを供給するために、前記プール部の側壁に設けられたインク供給口と、を備え、前記複数の電極のうち少なくとも1つの電極は、前記プール部の前記側壁から前記プール部の内側に突出した位置に設けられる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクタンクが傾いた場合であってもインクタンクに規定量のインクを残す記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るインクジェット記録装置の斜視図。
【
図2】本発明に係るインクタンクホルダの概要を示す図。
【
図4】第1実施形態に係るインクタンクの内部構成を示す斜視図。
【
図5】第1実施形態に係るインクタンクのプール部を拡大した断面図。
【
図6】第1実施形態に係るインク残量の検知を説明する図。
【
図7】第1実施形態に係るインクタンクが後方傾斜した場合のインクタンクの断面図。
【
図8】本発明に係るインクジェット記録装置のハードウェア構成を示す図。
【
図9】インクタンクが前方傾斜した際のインクタンク左側の断面図。
【
図10】従来のインクタンクの姿勢に応じたインク残量を説明するための図。
【
図11】本発明のインクタンクの姿勢に応じたインク残量を説明するための図。
【
図12】プール部の底面の形状の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
(第1実施形態)
記録装置は、着脱可能なインクタンクと、装着されているインクタンクからインク流路を介してインクが供給される記録ヘッドと、複数の電極を用いてインクタンクのインク残量を規定量で検知するインク検知手段と、を備える。インクタンクは、インクタンクの底面の一部で窪んだプール部と、インク流路へインクを供給するために、プール部の側壁に設けられたインク供給口と、を備える。複数の電極のうち少なくとも1つの電極は、プール部の側壁からプール部の内側に突出した位置に設けられる。
【0013】
なお、本実施形態においては、帯状のシートに複数のラベルを剥離可能に仮付けされているラベルシートに画像を形成するラベル印刷用のインクジェット記録装置を説明する。このように、インクジェット方式により記録される記録媒体はラベルシートである。しかしながら、本実施形態は、インクジェット記録方式により記録媒体に画像を記録する装置であれば、インクジェット記録装置に限られない。例えば、カット紙や長尺ロール紙を記録媒体としてインクジェット記録方式により画像を記録するインクジェット記録装置であっても良い。また、インクジェット記録装置には、印刷機能のみならず、切断機構等のフィニッシャ機構が含まれていても良い。また、インクジェット記録装置は、原稿画像を光学的に読取可能な読取機能(スキャン機能)を有するMFP(Multifunctional Printer)であっても良い。
【0014】
図1は、本発明に係るインクジェット記録装置の斜視図である。
【0015】
インクジェット記録装置101は、記録媒体としてラベルシートに画像を形成する記録装置であり、例えば、ラベルプリンターである。インクジェット記録装置101は、搬送装置102、記録ヘッド103、インクタンク104、及びインクタンクホルダ105を備える。
【0016】
搬送装置102は、帯状のラベルシートをロールに捲装したロール紙を、記録ヘッド103のインク吐出口(ノズル)が形成された吐出口面との対向位置に搬送する。搬送されたロール紙に対して、記録ヘッド103のインク吐出口からインク滴を吐出することにより、ロール紙上の各ラベルに所望の画像が記録される。
【0017】
記録ヘッド103は、用紙の搬送方向と直交する方向に移動しながら吐出を行うシリアル型記録ヘッドであって良く、用紙の搬送方向に対する幅領域に渡って構成されたライン型記録ヘッドであっても良い。
【0018】
インクタンク104は、記録ヘッド103に供給するインクを貯留する貯留部である。なお、本実施形態において用いられるインク色は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)とする。しかしながら、インク色は、それらに限られず、ライトシアン等、他の色を含むものであっても良い。
【0019】
インクタンクホルダ105は、インクタンク104を着脱可能に保持する部材である。インクタンクホルダ105にインクタンク104が装着されると、インクタンク104のインクは、不図示のインク流路を経て記録ヘッド103へ供給される。
【0020】
次に、
図8は、本発明に係るインクジェット記録装置のハードウェア構成を示す図である。
【0021】
インクジェット記録装置101は、CPU601、インタフェース602、ROM603、メモリ604、RAM605、操作パネル606、記録ヘッド制御回路607、及び出力ポート608を備える。また、インクジェット記録装置101は、モータ駆動部609、検出部610、検出部611、昇降モータ駆動部612、ヘッドアップダウンモータ613、搬送モータ614、キャッピングモータ615、ポンプモータ616、及びインク残量検知部618を備える。
【0022】
CPU601は、インクジェット記録装置101の各部の動作の制御処理及びデータ処理を実行する。CPU601は、外部のホストコンピュータ600からインタフェース602を介して受信した画像データに基づいて、記録ヘッド103のインク吐出口(ノズル)からインク滴を記録媒体上に吐出させる。これにより、記録媒体(例えば、ラベルシート)に画像が記録される。CPU601は、記録ヘッド制御回路607及び出力ポート608を介して、記録ヘッド103及びモータ駆動部609を制御する。また、CPU601は、モータ駆動部609、検出部610及び検出部611を制御することにより、記録媒体を搬送する。
【0023】
ROM603は、インクジェット記録装置101の各部の動作の制御処理プログラムを記憶する。メモリ604は、各種データを記憶し、例えば、HDD及びSSDである。RAM605は、CPU601によってインクジェット記録装置101の各部の動作の制御処理を実行するためのワークエリアを提供する。
【0024】
操作パネル606は、各種データを表示する画面を備え、ユーザからの各種操作の入力を受け付けるユーザインタフェース(UI)である。操作パネル606は、例えば、タッチパネルである。
【0025】
記録ヘッド制御回路607は、記録ヘッド103(記録ヘッドK、記録ヘッドC、記録ヘッドM、記録ヘッドY)の出力を制御する。
【0026】
モータ駆動部609は、昇降モータ駆動部612からポンプモータ616の出力を制御する。
【0027】
検出部610及び検出部611は、例えば、記録媒体(用紙)の有無を検出するセンサである。検出部610は、記録ヘッド103より搬送方向上流側に設けられる。検出部611は、記録ヘッド103より搬送方向下流側に設けられる。
【0028】
CPU601は、インク残量検知部618を介して、電極501と電極503との間で検知される検知信号(例えば、抵抗値)と閾値との比較に基づいて、インクタンク104のインク残量を検知する。
【0029】
図2は、本発明に係るインクタンクホルダの概要を示す図である。
図2(a)は、インクタンクホルダ105にインクタンク104を挿入する際の斜視図である。
図2(b)は、インクタンクホルダ105を右側面から見た断面図である。
【0030】
インクタンクホルダ105は、インクタンク104を収容する部材である。インクタンクホルダ105は、一方に開口部を有する中空箱状のホルダ本体106、収容室107、イジェクタ201、及びレバー202を備える。
【0031】
ホルダ本体106は、インクタンク104を受け入れるための開口部を有する矩形状の中空容器である。また、ホルダ本体106は、複数のインクタンク104をそれぞれ独立して収容するための複数の収容室107を有する。
【0032】
収容室107は、インクタンク104を効率的に収容するための空間を有する。
【0033】
イジェクタ201は、インクタンク104を収容室107に導入し、収容室107からインクタンク104を排出するための部材である。
【0034】
レバー202は、イジェクタ201を操作するための部材である。
【0035】
以下、インクタンクホルダ105にインクタンク104を装着する要領を、
図2(b)を用いて説明する。レバー202を矢印Aの方向へ回転させる。レバー202の回転に伴ってイジェクタ201の後方部が収容室107の下方部から若干突出した状態となる。次に、ユーザは、
図2(a)に示すように、インクタンク104をイジェクタ201の上に載せ、収容室107の内部へインクタンク104を挿入する。その後、ユーザは、インクタンク104の後方を押しながら、レバー202を
図2(b)の矢印Bの方向へ回転させる。ここで、レバー202の先端に設けられた係合部202aは、ホルダ本体106の開口部の上縁に形成された被係合部202bと係合する。さらに、レバー202の移動に伴ってイジェクタ201は、インクタンク104を収容室107の内部へ導く。
【0036】
ここで、
図3は、本発明に係るインクタンクの斜視図である。
【0037】
インクタンク104は、ジョイント部104A、ジョイント部104B、及び保護部材404を備える。ジョイント部104A、ジョイント部104B、及び保護部材404がインクタンク104において位置する方向をインクタンク104の「前方」と定義する。ジョイント部104A、ジョイント部104B、及び保護部材404がインクタンク104において位置しない方向をインクタンク104の「後方」と定義する。
【0038】
インクタンク104が収容室107の内部へ導かれると、収容室107内で予め固定された中空針(不図示)の一方の端部が、
図3に示すジョイント部104A及びジョイント部104Bに突き刺さる。これにより、インクタンクホルダ105へのインクタンク104の装着が完了する。インクタンク104のインクは、中空針(不図示)を介して、インクタンク104と記録ヘッド103との間を接続するインク流路へ供給される。
【0039】
次に、インクタンクホルダ105からインクタンク104を取り出す要領を、
図2(b)を用いて説明する。まず、ユーザは、係合部202aと被係合部202bとの係合を解除するために、レバー202を
図2(b)の矢印Aの方向へ回転させる。これにより、レバー202の移動に伴ってイジェクタ201が収容室107の開口部側へ移動するため、インクタンク104は収容室107の開口部から外へ移動する。インクタンク104が移動する際、中空針(不図示)からインクタンク104のジョイント部104A及びインクタンク104Bが抜脱する。これにより、インクタンク104がインクタンクホルダ105から取り出し可能となる。
【0040】
以上の通り、インクタンク104のインクタンクホルダ105に対する着脱操作において、インクタンク104が収容室107で円滑に移動できると良い。また、インクジェット記録装置101を設計する上で収容室107を必要最小限の寸法に抑えることが要求される。すなわち、インクタンク104の収容室107への挿入精度の向上及びインクジェット記録装置101の小型化を実現するために、それぞれの収容室107を区画する左右両側壁の内面の間隔は、インクタンク104の両側部外面の間隔(幅)と略同一に(厳密には若干広く)設定すると良い。
【0041】
図4は、第1実施形態に係るインクタンクの内部構成を示す斜視図である。
図4でインクタンク104の右側面は、取り外されている。
【0042】
インクタンク104は、インク容器部402、インク容器蓋403、保護部材404、プール部405、突出部406、傾斜部407、インク貯留室408、底壁部409、及び電極501を備える。インクタンク104は、インク容器部402と、インク容器蓋403と、保護部材404とを結合することで製造される。
【0043】
インク容器部402は、インクタンク104の後端からインクタンク104の前端までの幅(長手方向の距離)と短手方向の幅と、を有する中空容器である。インク容器部402の一方の端部は開口部を有する。
【0044】
インク容器蓋403は、熱カシメ(部品を熱変形させて他の部品と締結させる方法)をするための嵌合筒部が設けられており、保護部材404と熱カシメにより結合されている。
【0045】
インク容器部402の底壁部409には、インクが溜まるプール部405と、プール部405へインクを導く傾斜部407とが設けられている。このような構成により、インク貯留室408のインク残量が少なくなるにつれ、インクがプール部405へ導かれる。そのため、規定量のインクをインク貯留室408に残すことができる。
【0046】
なお、インク貯留室408のインクが完全になくなった場合、記録ヘッド103へエアが流入し、記録ヘッド103のノズルからインクが吐出されなくなる。そこで、プール部405に若干のインクが残っていると良い。
【0047】
傾斜部407は、下方へと突出する横断面矩形の突出部406を有する。突出部406の内部には、直方体形状の空間領域が形成される。
【0048】
インク貯留室408は、インクを保持するための空間を有する。インク貯留室408を形成するために、インク容器部402は、インク容器蓋403と超音波溶着される。
【0049】
インクタンク104の製造方法については、インク容器部402とインク容器蓋403との溶着は、長手方向の側面から型を抜く場合は接合範囲が広くなり、均一に接合するには大型の溶着機が必要となるため、短手方向から型を抜いて製造する方法が好ましい。
【0050】
図5は、第1実施形態に係るインクタンクのプール部405を拡大した断面図である。
図5(a)は、プール部における各部の構成を説明する断面図である。なお、
図5におけるインクタンク104の姿勢は、インクジェット記録装置101に装着されたときの姿勢である。
【0051】
インクタンク104は、絶縁体からなる電極カバー502に部分的に覆われた電極501、インク供給口505、及び大気連通口507を備える。プール部405の水平方向の中心に位置する電極501の端部(接点と呼ぶ)は、プール部405のインクを検知するために電極カバー502に覆われていない。また、電極501はプール部405の側壁に1つ設けられるが、インク残量の検知精度を向上させるために、プール部405の側壁に2つ以上設けられても良い。あるいは、電極501は、プール部405の側壁から延びた形態でなくても良い。例えば、電極501がプール部405の中心に配置されるように、プール部405の中心の側壁に電極501の接点が直接配置されても良い。インク供給口505は、インク流路504へインクを供給するための部材である。大気連通口507は、外部とインクタンク104との間でエアの行き来を確保する部材である。
【0052】
ここで、プール部405の底面の形状について説明する。
図12は、プール部の底面の形状の一例を説明するための図である。一実施形態として、プール部405の底面の形状は、平面又は曲面である。
図12(a)は、プール部405の底面の形状が平面である場合を示す。
図12(b)は、プール部405の底面の形状が曲面である場合を示す。プール部405の底面の形状を変更することにより、プール部405に残るインク残量を低減できる。
【0053】
インクジェット記録装置101は、電極503及びインク流路504を備える。電極503は、インク供給口505に近い側のインク流路504に配置されるが、記録ヘッド103に近い側のインク流路504に配置されても良い。
【0054】
電極501と電極503は、インクタンク104のインク残量を検知するためのセンサであり、例えば、接触式センサである。導電性液体(例えば、インク)が電極501(検知電極)と電極503(グランド電極)とに触れることにより、電極501と電極503が短絡して電流が流れる。インク残量検知部618は、短絡電流から検知信号(例えば、抵抗値)を求める。そして、インク残量検知部618は、検知信号(例えば、抵抗値)が閾値よりも小さいか否かに基づいて、プール部405のインク残量を検知する。なお、インク残量の検知方法は、上記の電極式センサに限られることはなく、他の方法であっても良い。
【0055】
図5(b)は、プール部405における各部の位置関係を説明する断面図である。
【0056】
プール部405の底面から電極501の接点までの高さをh0、プール部405の底面から傾斜部407までの高さをh1、プール部405の底面からインク供給口505までの高さをh2、インクタンク104の側壁から電極501の接点までの距離をl0、プール部405の全長をdとする。ここで、h0がh1以下となるように、電極501はプール部405の側壁に設けられる。また、l0がd以下となるように、電極501の長さが決定される。
【0057】
図6は、第1実施形態に係るインク残量の検知を説明する図である。
図6(a)は、インクの液面506が電極501の高さよりも上にある図である。
【0058】
図6(a)で、プール部405においてインクの液面506が電極501の高さ(
図5(b)のh
0)よりも上にあるため、電極501と電極503はインクに接触する。ここで、電極501と電極503は導通する。インク残量検知部618は、電極501と電極503の導通によって生じる検知信号(例えば、抵抗値)が閾値よりも小さい場合、プール部405にインク残量が有ると判定する。
【0059】
図6(b)は、インクの液面506が電極501の高さよりも下にある図である。
【0060】
図6(b)で、プール部405においてインクの液面506が電極501の高さ(
図5(b)のh
0)よりも下にあるため、電極501はインクに接触せず、電極503はインクと接触する。つまり、電極501と電極503は導通しない。インク残量検知部618は、検知信号(例えば、抵抗値)が閾値よりも大きい場合、プール部405にインク残量が無いと判定する。ここで、CPU601は、記録ヘッド103へエアが入らないように、モータ駆動部609に対しインクの供給を停止する制御を行う。
【0061】
なお、本実施形態では、電極カバー502は、電極501の接点以外の部分を覆っている。電極501の接点は、インクの液面506を検知するために、電極カバー502に覆われていない。これにより、電極501とインクの液面506との接触領域を電極501の端部(接点)に限定できる。ここで、インクタンク104が前方傾斜した場合、電極カバー502の有無によりインクの液面506の検知位置が変化することを説明する。
【0062】
図9は、インクタンクが前方傾斜した際のインクタンクの左側の断面図である。
図9(a)は、電極カバー502で部分的に覆われた電極501によりインクの液面を検知した結果を示す。
図9(a)でインクタンク104の左端が「前方」であり、右端が「後方」である。電極501とインクの液面との接点(インクの検知位置)は、「×」で示される。
【0063】
図9(b)は、電極カバーで部分的に覆われていない電極501によりインクの液面を検知した結果を示す図である。
図9(b)でインクタンク104の左端が「前方」であり、右端が「後方」である。電極501がインクの液面を検知した位置は、「×」で示される。破線は、
図9(a)でインク残量検知部618により判定されたプール部405のインク残量(インクの液面)を示す。電極501が電極カバー502に覆われていない場合、電極501の全域が接点となるため、電極501の右端と左端のうち、より低い位置にある左端でインクの液面を検知することになる。つまり、インクタンク104が前方傾斜した場合、インク残量検知部618は、プール部405に規定量未満でインク残量が有ると判定してしまう。
【0064】
ここで、
図9(a)と
図9(b)のインク残量(インクの液面の高さ)を比較すると、
図9(b)のインクの液面の高さは、
図9(a)のインクの液面の高さよりも低下している。
図9(b)では、インク残量検知部618によるインク残量の検知が遅くなるため、インクの液面の高さが低くなっている。そのため、
図9(b)のインクタンク104は、記録ヘッド103にエアを入れないようにするために規定したインク残量を残すことができない。
【0065】
以上の通り、電極501の接点以外の部分が電極カバー502に覆われていない場合、規定量のインクをプール部405に残すことができない。そこで、本実施形態は、電極501の接点以外の部分を電極カバー502で覆っている。
【0066】
上記で説明した通り、電極503は、インクタンク104に近い側のインク流路504に配置されるが、記録ヘッド103に近い側のインク流路504に配置されても良い。また、電極501の高さ(
図5(b)のh
0に相当)は、プール部405に規定量のインクを残すため、インク供給口505の高さ(
図5(b)のh
2に相当)よりも高いと良い。なお、規定量とは、記録ヘッド103にエアを入れないための設計上のインク量のことをいう。
【0067】
図7は、第1実施形態に係るインクタンクが後方傾斜した場合のインクタンクの断面図である。
【0068】
プール部405の底面から電極501の接点までの高さをh0、プール部405の底面から傾斜部407までの高さをh1、プール部405の底面からインク供給口505までの高さをh2、インク供給口505から電極501の接点までの距離をl0、プール部405の全長をdとする。また、AA'はインクタンク104の水平位置を表し、AA'とプール部405の全長dとがなす角度をθとする。
【0069】
インクタンク104が後方に角度θ傾斜した時に、インクの液面がプール部405から外側(具体的には傾斜部407)に流出しない条件は、式(1)で表される。
h1≧h0+(d-l0)tanθ (1)
【0070】
また、インクタンク104が後方に角度θ傾斜した時に、インクの液面がインク供給口505に接する条件は、式(2)で表される。
h2≦h0-l0tanθ (2)
【0071】
次に、距離l
0が短い場合のインク残量について説明する。
図10は、従来のインクタンクの姿勢に応じたインク残量を説明するための図である。
図10(a)は、インクタンク104が水平時のインク残量を示す図である。
図10(a)~
図10(c)は、説明の容易化のために、電極501とインク供給口505のみを示す。
【0072】
インクタンク104において距離l0が短い場合、電極501はインクタンク104の前方の側壁に設けられる。インクの液面と電極501との接点は、「×」で示される。インク残量検知部618は、プール部405の電極501の接点の位置にインク残量が有ると判定する。この際、インク残量は、例えば、7.3mlである。
【0073】
図10(b)は、インクタンク104が前方5°傾斜時のインク残量を示す図である。なお、インクタンク104の傾斜角度θの一例として、θ=5°を用いて説明するが、θ=5°に限られるものではない。
【0074】
インクの液面と電極501との接点は×で示される。インク残量検知部618は、プール部405の電極501の接点の位置にインク残量が有ると判定する。この際、インク残量は、例えば、4.8mlである。
【0075】
図10(c)は、インクタンク104が後方5°傾斜時のインク残量を示す図である。
【0076】
インクの液面と電極501との接点は、「×」で示される。インク残量検知部618は、プール部405の電極501の接点の位置にインク残量が有ると判定する。この際、インク残量は、例えば、8.9mlである。
【0077】
図10(a)~
図10(c)のインク残量の結果から、以下の関係が導かれる。水平時のインク残量:前方5°傾斜時のインク残量:後方5°傾斜時のインク残量=7.3ml:4.8ml:8.9mlの関係が得られる。前方5°傾斜時のインク残量は、水平時のインク残量よりも少なくなるため、記録ヘッド103にエアが入り込む可能性がある。一方で、後方5°傾斜時のインク残量は、水平時のインク残量よりも多いため、インクの無駄が発生する。つまり、インクタンク104において距離l
0が短い場合、インクタンク104の姿勢の影響により、規定量のインクをプール部405に残すことができない。
【0078】
図11は、本発明のインクタンクの姿勢に応じたインク残量を説明するための図である。
図11(a)は、インクタンク104が水平時のインク残量を示す図である。
図11(a)~
図11(c)は、説明の容易化のために、電極501、電極カバー502、及びインク供給口505のみを示す。
【0079】
インクタンク104が水平に位置する場合、電極501はインクタンク104のプール部405の中心に位置する。インクの液面と電極501との接点は、「×」で示される。インク残量検知部618は、プール部405の電極501の接点の位置にインク残量があると判定する。この際、インク残量は、例えば、4.8mlである。
【0080】
図11(b)は、インクタンク104が前方5°傾斜時のインク残量を示す図である。
【0081】
インクの液面と電極501との接点は、「×」で示される。インク残量検知部618は、プール部405の電極501の接点の位置にインク残量が有ると判定する。この際、インク残量は、例えば、4.8mlである。
【0082】
図11(c)は、インクタンク104が後方5°傾斜時のインク残量を示す図である。
【0083】
インクの液面と電極501との接点は、「×」で示される。インク残量検知部618は、インク残量検知部618は、プール部405の電極501の接点の位置にインク残量が有ると判定する。この際、インク残量は、例えば、4.8mlである。
【0084】
図11(a)~
図11(c)のインク残量の結果から、以下の関係が導かれる。水平時のインク残量:前方5°傾斜時のインク残量:後方5°傾斜時のインク残量=4.8ml:4.8ml:4.8mlの関係が得られる。前方5°及び後方5°傾斜時のインク残量は、水平時のインク残量と同じである。つまり、本発明のインクタンク104は、従来のインクタンクとは異なり、インクタンク104の姿勢(前方又は後方傾斜)に依存することなく、規定量のインクをプール部405に残すことができる。
【0085】
以上の通り、本実施形態によれば、インクタンク内に配置される電極とインクの液面との接点をプール部の中心近傍に配置する。これにより、インクタンクが傾いたとしても、記録ヘッドへのエアの流入を防ぐために規定した規定量のインクをインクタンクに残すことができる。また、インクタンクが傾いたとしても、インクタンクに過剰にインクが残ることを防止できる。
【0086】
なお、インクタンク内に配置される電極とインクの液面との接点は、プール部の中心近傍でなくとも、少なくともプール部の側壁からプール部の中心側に突出した位置とすることにより、インクタンクに過剰にインクが残ることを防止できるという効果を得ることが出来る。
【0087】
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0088】
本明細書の開示は、以下の記録装置及びインクタンクを含む。
(項目1)
着脱可能なインクタンクと、
装着されている前記インクタンクからインク流路を介してインクが供給される記録ヘッドと、
複数の電極を用いて前記インクタンクのインク残量を規定量で検知するインク検知手段と、を備える記録装置であって、
前記インクタンクは、
前記インクタンクの底面の一部で窪んだプール部と、
前記インク流路へ前記インクを供給するために、前記プール部の側壁に設けられたインク供給口と、を備え、
前記複数の電極のうち少なくとも1つの電極は、前記プール部の前記側壁から前記プール部の内側に突出した位置に設けられる、
ことを特徴とする記録装置。
(項目2)
前記少なくとも1つの電極は、前記インクタンクを前記記録装置に装着したときの姿勢における水平方向において、前記プール部の長さの中心近傍に設けられる、
ことを特徴とする項目1に記載の記録装置。
(項目3)
前記プール部の底面から前記少なくとも1つの電極までの高さは、前記プール部の底面から前記インク供給口までの高さよりも高い、
ことを特徴とする項目1又は2に記載の記録装置。
(項目4)
前記少なくとも1つの電極は、前記側壁から前記中心近傍に延び、
前記少なくとも1つの電極の前記中心近傍の端部以外は、絶縁体からなるカバーで覆われる、
ことを特徴とする項目2に記載の記録装置。
(項目5)
前記少なくとも1つの電極は、前記プール部の高さ以下で前記プール部の側壁に設けられる、
ことを特徴とする項目1から4のいずれか一項目に記載の記録装置。
(項目6)
前記少なくとも1つの電極の長さは、前記水平方向における前記プール部の全長以下である、
ことを特徴とする項目1から5のいずれか一項目に記載の記録装置。
(項目7)
前記少なくとも1つの電極は、前記インクタンクを前記記録装置に装着したときの姿勢における垂直方向において、前記プール部の長さの中心近傍に設けられる、
ことを特徴とする項目1から6のいずれか一項目に記載の記録装置。
(項目8)
前記少なくとも1つの電極と異なる電極は、前記インク流路内に配置される、
ことを特徴とする項目1から7のいずれか一項目に記載の記録装置。
(項目9)
前記プール部の底面の形状は、平面又は曲面である、
ことを特徴とする項目1から8のいずれか一項目に記載の記録装置。
(項目10)
記録装置に供給するインクを貯留するインクタンクであって、
底面の一部で窪んだプール部と、
前記記録装置にインクを供給するための、前記プール部の側壁に設けられたインク供給口と、
前記プール部の前記側壁から前記プール部の内側に突出した位置に設けられる電極と、
を有することを特徴とするインクタンク。
【0089】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0090】
101 インクジェット記録装置
102 搬送装置
103 記録ヘッド
104 インクタンク
105 インクタンクホルダ
106 ホルダ本体
107 収容室
201 イジェクタ
202 レバー
202a 係合部
202b 被係合部
402 インク容器部
403 インク容器蓋
404 保護部材
405 プール部
406 突出部
407 傾斜部
408 インク貯留室
409 底壁部