(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160518
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】印刷版用親水化剤
(51)【国際特許分類】
B41N 3/08 20060101AFI20231026BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B41N3/08 101
C09K3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070935
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】林 優惟子
(72)【発明者】
【氏名】江塚 博紀
【テーマコード(参考)】
2H114
【Fターム(参考)】
2H114AA03
2H114AA04
2H114DA04
2H114DA21
2H114DA64
2H114DA77
2H114EA04
2H114GA23
(57)【要約】
【課題】印刷版に対する濡れ性が良好で、有効成分の濃度が1.0重量%以上のような高濃度においても泡立たず、pHによらず金属版や装置を腐食しない印刷版用親水化剤を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物を有効成分として含む印刷版用親水化剤。
【化1】
(EOはオキシエチレン基であり、aはEOで示されるオキシエチレン基の平均付加モル数である。AOは炭素数3~4のオキシアルキレン基であり、bはAOで示されるオキシアルキレン基の平均付加モル数である。aは1~60、bは0~15であり、aとbは、0.8≦a/(a+b)≦1の関係を満たす。Rは直鎖又は分岐のアルキル基を表し、アルキル基の炭素数の合計は1~10である。mは1または2である。Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を有効成分として含む印刷版用親水化剤。
【化1】
(EOはオキシエチレン基であり、aはEOで示されるオキシエチレン基の平均付加モル数である。AOは炭素数3~4のオキシアルキレン基であり、bはAOで示されるオキシアルキレン基の平均付加モル数である。aは1~60、bは0~15であり、aとbは、0.8≦a/(a+b)≦1の関係を満たす。Rは直鎖又は分岐のアルキル基を表し、アルキル基の炭素数は1~10である。mは1または2である。Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版用親水化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
凹版、平版、凸版等の印刷版を用いるグラビア印刷、オフセット印刷、活版印刷等は、版の態様を変えることによって印刷の品質をコントロールすることができ、高精細な印刷ができることから広く行われている。
【0003】
平板印刷は本質的に水と油が交じり合わない性質を利用した印刷方式であり、印刷半面は水を受容し油性インキを反撥する範囲である非画線部と、水を反撥し油性インキを受容する範囲である画線部からなる。湿し水によって、非画像領域を湿潤させて画像領域と非画像領域との界面化学的な差を拡大して、非画像領域のインキ反撥性と画像領域のインク受容性とを増大させることがなされる。そのために、湿し水には、様々な化学物質を添加し、その性能を最大限に発揮できるように鋭意検討されてきた。
【0004】
また、グラビア印刷等の凹版印刷には油性インキが多用されているが、労働環境上、地球環境上、防災上の問題、更には食品関連に使用する場合の残留溶剤等の問題がある。そこで、水性インキを用いる版印刷が注目されている。しかし、水性インキにおいては、表面張力による版面へのインキ濡れ不良のために、インキの転写性等の問題が発生し、高品質の印刷物を得られ難いという問題があるため、それを改善すべく、種々の提案がなされている。
【0005】
特許文献1には、特定の式で表されるグリセリントリエステルを含有する湿し水組成物が開示されている。そして、このような湿し水組成物は、ブランケットパイリングの発生を抑制するため、長時間の連続印刷(ロングラン印刷)が可能で、その結果生じる堆積物についても良好な洗浄性を有し、給水ローラー汚れも抑えられ(汚れ耐性に優れ)、乳化耐性および版面への耐性を有し、良好な印刷適性を有するとされている。一方、湿し水は一般に水で希釈して使用されるため、希釈時に泡立たないよう低泡性であることが求められる。しかし、特許文献1に記載の湿し水組成物の低泡性は不十分であった。
【0006】
特許文献2には、特定の式で示されるプロピレングリコールモノアルキルエーテル、特定の式で示されるプロピレングリコール、および2-エチル-1,3-ヘキサンジオールを含有する平版印刷版用湿し水組成物が記載されている。この湿し水組成物は、従来一般に濡れ性向上剤として使用されてきたイソプロピルアルコール系に代替しうる作業環境上快適且つ安全で、また、高速で回転する部材の条件下でも良好で安定した印刷適性を発揮することができるとされている。しかし、特許文献2に記載の湿し水組成物は、印刷版や装置に対する防錆性は不十分であった。
【0007】
特許文献3には、基板上に少なくとも親水性膨潤層を備えた平版印刷版用の湿し水であって、親水基が硫酸エステル塩および/またはリン酸エステル塩であるアニオン性の界面活性剤を含有し、かつpHが6~11である平版印刷版用湿し水が開示されている。この湿し水は、平版印刷版用の湿し水の保存性および印刷特性の改良、特にインキの乾燥性に優れ、印刷機が錆びやすい酸性条件を避けることで錆が発生しにくくなるとされている。しかし、特許文献3に記載の湿し水は、特に硫酸エステル塩型のアニオン性界面活性剤を用いる場合の保存安定性や印刷汚れ防止効果を確保するためにpHを6~11とする必要があるうえ、希釈時や、印刷版の材質や水溶性インクの組成により、1.0重量%以上のような高濃度で界面活性剤を含有させて使用する際に泡立つ場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-205873号公報
【特許文献2】特開2001-138655号公報
【特許文献3】特開平11-48633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の従来技術の問題点に鑑みて、本発明は、印刷版に対する濡れ性が良好で、有効成分の濃度が1.0重量%以上のような高濃度においても泡立たず、pHによらず金属版や装置を腐食しない印刷版用親水化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した。その結果、下記に示す特定の化合物を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
即ち本発明は、下記式(1)で表される化合物を有効成分として含む印刷版用親水化剤に関する。
【0012】
【0013】
(EOはオキシエチレン基であり、aはEOで示されるオキシエチレン基の平均付加モル数である。AOは炭素数3~4のオキシアルキレン基であり、bはAOで示されるオキシアルキレン基の平均付加モル数である。aは1~60、bは0~15であり、aとbは、0.8≦a/(a+b)≦1の関係を満たす。Rは直鎖又は分岐のアルキル基を表し、アルキル基の炭素数は1~10である。mは1または2である。Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンである。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、印刷版に対する濡れ性が良好で、有効成分の濃度が1.0重量%以上のような高濃度においても泡立たず、pHによらず金属版や装置を腐食しない印刷版用親水化剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限及び下限)の数値を含むものとする。例えば「2~10」は2以上10以下を表す。
【0016】
本発明の実施形態に係る印刷版用親水化剤は、下記式(1)で表される化合物を有効成分として含む。
【0017】
【0018】
(EOはオキシエチレン基であり、aはEOで示されるオキシエチレン基の平均付加モル数である。AOは炭素数3~4のオキシアルキレン基であり、bはAOで示されるオキシアルキレン基の平均付加モル数である。aは1~60、bは0~15であり、aとbは、0.8≦a/(a+b)≦1の関係を満たす。Rは直鎖又は分岐のアルキル基を表し、アルキル基の炭素数は1~10である。mは1または2である。Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンである。)
【0019】
式(1)中のRは炭素数1~10の直鎖または分岐のアルキル基である。アルキル基は炭素数が4以上の場合は分岐構造が好ましい。Rの炭素数としては1~4であることが好ましい。炭素数が10より大きい場合、低泡性や防錆性に劣ることがある。
【0020】
式(1)中のAOは炭素数3~4のオキシアルキレン基であり、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシイソブチレン基、オキシ1-エチルエチレン基、オキシ2-ブチレン基、オキシテトラメチレン基が例示できる。AOの平均付加モル数bが2以上の場合、2以上のAOは同種の基であっても、異種の基であってもよい。AOが2種以上の異種の基である場合は、ランダム状付加(ランダム共重合体)でもブロック状付加(ブロック共重合体)のいずれでもよい。AOとしては、炭素数3のオキシプロピレン基が好ましい。
【0021】
式(1)中、EOで示されるオキシエチレン基の平均付加モル数をa、AOで示される炭素数3~4のオキシアルキレン基の付加モル数をbとすると、aは1~60、bは0~15である。好ましくはaが2~55、bが0~13、より好ましくはaが5~45、bが0~10である。aが60より大きいと、水溶性が低下することがある、また、bが15より大きいと、濡れ性が低下することがある。
【0022】
EOとAOが存在する場合の両者の付加形式は、付加の順序に特に制限はなく、各平均付加モル数の和であるa+b(a>0、b>0)が2以上の場合、ランダム状であってもブロック状であってもよい。なお、低泡性の観点からはEO鎖がRに結合する付加形式が好ましい。
【0023】
各平均付加モル数の和であるa+bの上限は、特に限定はないが、希釈時の溶解性、取り扱い性の観点からは、75以下が好ましく、70以下がより好ましく、55以下がさらに好ましい。また、a+bの下限は1以上であればよいが、濡れ性の観点から4以上が好ましい。
【0024】
a/(a+b)は、親水性が強いポリオキシエチレン基と親油性が強い炭素数3~4のポリオキシアルキレン基とのバランスを意味し、0.8≦a/(a+b)≦1の関係を満たす。a/(a+b)が0.8よりも小さい場合、低泡性と湿潤性が低下することがある。
【0025】
式(1)中、mは1または2であればよいが、適用する印刷版の材質に応じて異なる傾向にある。例えば、銅製の版に対して好ましくはm=2であり、アルミニウム製の版およびSUS製の版に対して好ましくはm=1である。
【0026】
m=2の場合、式(1)中のR-O-[(EO)a/(OA)b]-で示されるエステル基は、同じでも異なってもよいが、同じであるのが好ましい。
【0027】
式(1)中、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンである。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。有機アンモニウムとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。Mは、好ましくは水素原子、ナトリウム、カリウムである。また、m=1の場合、Mは同じであっても異なってもよいが、同じであるのが好ましい。
【0028】
前述の式(1)で示される化合物の重量平均分子量は、特に限定はなく、例えば、150~7000とすることができる。
【0029】
前述の式(1)で示される化合物は、定法に従って合成することができるが、市販のものを使用することこともできる。
【0030】
印刷版用親水化剤には、前述の式(1)で示される化合物を1種のみ用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0031】
印刷版用親水化剤は、前述の式(1)で示される化合物のみで構成されてもよいが、当該化合物以外に、助剤として、防腐剤、キレート剤、着色剤などを含有してもよい。
【0032】
印刷版用親水化剤は、必要に応じてイオン交換水、水道水、井戸水などの水、或いは、有機溶媒などで希釈して使用することができる。有機溶媒は、適用する印刷版、印刷方式等に応じて適宜選択することができ、例えば、アセトン等の水溶性有機溶媒が挙げられる。希釈倍率は、使用用途や目的などに応じて適宜決定され、例えば1.5~10000倍である。なお、この希釈したものも、本発明に係る印刷版用親水化剤の範疇に含むものとする。
【0033】
印刷版用親水化剤は、式(1)で示される化合物を含むため、各種の印刷版、印刷方式において親水化剤として好適である。例えば、後述するように、良好な、高濃度での低泡性、防錆効果、pHによらない濡れ性を有する。なお、適用可能な印刷版の材質は特に限定はないが、金属製の版への適用が効果的であり、銅、ステンレス鋼(SUS)又はアルミニウム製の版への適用がより効果的である。
【実施例0034】
以下、本発明に係る実施形態を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0035】
(試験例)
(1)低泡性
後述する表1及び3に示す各種化合物を用いて、表2に示す配合比の化合物又は組成物を印刷版用親水化剤とする実施例1~8、表3に示す配合比の化合物又は組成物を印刷版用親水化剤とする比較例1~5を準備した。ついで、これらをイオン交換水で希釈し、それぞれ2%水溶液を100g調製した。これを、50mL蓋つきメスシリンダーに30mL入れて、手動で10秒間振とうした後、10秒間静置した時の泡高さを測定した。評価基準は下記のとおりである。
◎:泡高さ0mm以上、1mm未満
○:泡高さ1mm以上、2mm以下
△:泡高さ2mmより高い
【0036】
(2)防錆効果
(1)と同様に、実施例1~8、比較例1~5の印刷版用親水化剤を準備した。ついで、これらをイオン交換水で希釈し、それぞれ1%水溶液(pH2、7、13)を100g調製した。この水溶液のpHは、塩酸または水酸化ナトリウムにより調整した。また、銅版として、TP技研株式会社製、無酸素銅の酸化被膜を除去したものを準備した。酸化被膜の除去は、紙やすりにより行った。
酸化被膜を除去した前述の銅版に、前述の各水溶液を0.3mL塗布し、10分後にふき取った後の銅版の状態を目視で観察した。観察結果を下記に示す5段階に区分した。
1点:すべてのpHにおいて変化なし
2点:一部のpHにおいて銅板がほんのわずかに変色した
3点:一部のpHにおいて銅板がわずかに変色した
4点:一部のpHにおいて銅板が変色した
【0037】
評価基準は、下記のとおりである。尚、3点以下を合格とした。
◎:1点
○:2点又は、3点
△:4点
【0038】
(3)濡れ性
(1)と同様に、実施例1~8、比較例1~5の印刷版用親水化剤を準備した。ついで、これらをアセトンで希釈し、それぞれ0.1%アセトン溶液を100g調製した。銅、アルミニウム、またはSUS製の版(50×15×1.5mm)にそのアセトン溶液を0.5g塗布し、その後、30分間風乾させてアセトンを除去した。この処理後の版の上にイオン交換水を1.0μL滴下し、1100ms後の接触角を測定した。
評価は以下のように行った。0.1%アセトン溶液に替えて、イオン交換水を用いた以外は、同様にしてブランクを作製した。ブランクの接触角は銅板が70.9°、アルミニウム板が93.4°、SUS板が103.0°であった。なお、銅製の版はTP技研株式会社製、無酸素銅、アルミニウム製の版はTP技研株式会社製、アルミニウム板(A5052P)、SUS製の版はTP技研株式会社製、ステンレス鋼板SUS304を使用し、接触角計は協和界面科学株式会社製、DropMaster DM-701、解析ソフトはFAMASを用いた。評価基準は、下記のとおりである。
◎:ブランクからの変化率が50%以上
○:ブランクからの変化率が30%以上、50%未満
△:ブランクからの変化率が30%未満
尚、ブランクからの変化率(%)は、下記式により算出した。
【0039】
【0040】
【0041】
表1に、実施例及び比較例で用いた化合物A1~A6、A’1の式(1)との対応を示す。化合物A1~A6、A’1の名称は、下記のとおりである。なお、表1中、MEAはモノエタノールアミンである。化合物A1~A6、A’1の合成法は後述する。
A1:ポリオキシエチレンメチルエーテルリン酸モノエステル
A2:ポリオキシエチレンメチルエーテルリン酸ジエステル
A3:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテルリン酸モノエステル
A4:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンメチルエーテルリン酸ジエステルモノエタノールアミン
A5:ポリオキシエチレンメチルエーテルリン酸ジエステルナトリウム
A6:ポリオキシエチレンポリオキシブチレンイソノニルエーテルリン酸モノエステル
A’1:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸モノエステル
【0042】
(合成例1:化合物A1の合成)
オキシ塩化リンに対して、0.8~1.3倍モル量のポリオキシエチレンメチルエーテル(日油株式会社製、ユニオックスM―400)とトリエチルアミン1.0~3.0倍モル量を滴下し、トルエン中で30℃以下、1~5時間反応させた。反応後、イオン交換水2.0~10.0倍モル量を加えて、40~70℃において1~5時間加水分解を行った。その後、脱溶媒とろ過を行うことで化合物A1を得た。
【0043】
(合成例2:化合物A2の合成)
オキシ塩化リンに対して、2.0~2.3倍モル量のポリオキシエチレンメチルエーテル(日油株式会社製、ユニオックスM―1000)とトリエチルアミン2.0~3.0倍モル量を滴下し、トルエン中で30℃以下、2~6時間反応させた。反応後、イオン交換水1.0~10.0倍モル量を加えて、40~70℃において1~5時間加水分解を行った。その後、脱溶媒とろ過を行うことで化合物A2を得た。
【0044】
(合成例3:化合物A3の合成)
ポリオキシエチレンメチルエーテル(日油株式会社製、ユニオックスM―400)に替えて、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテルを用いた以外は、合成例1と同様にして、化合物A3を得た。
【0045】
(合成例4:化合物A4の合成)
ポリオキシエチレンメチルエーテル(日油株式会社製、ユニオックスM―1000)に替えて、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンメチルエーテルを用いた以外は、合成例2と同様にして、各成分を反応させ、加水分解を行った後、脱溶媒とろ過を行った。その後、モノエタノールアミン(MEA)により中和することで、化合物A4を得た。
【0046】
(合成例5:化合物A5の合成)
ポリオキシエチレンメチルエーテル(日油株式会社製、ユニオックスM―1000)に替えて、ポリオキシエチレンメチルエーテル(日油株式会社製、ユニオックスM―2000)を用いた以外は、合成例2と同様にして、各成分を反応させ、加水分解を行った後、脱溶媒とろ過を行った。その後、水酸化ナトリウムにより中和することで、化合物A5を得た。
【0047】
(合成例6:化合物A6の合成)
オキシ塩化リンに対して、0.8~1.3倍モル量のポリオキシエチレンポリオキシブチレンイソノニルエーテルとトリエチルアミン1.0~3.0倍モル量を滴下し、トルエン中で30℃以下、1~5時間反応させた。反応後、イオン交換水2.0~10.0倍モル量を加えて、40~70℃において1~5時間加水分解を行った。その後、イオン交換水により50~70℃で水洗を行い、脱溶媒を行うことで化合物A6を得た。
【0048】
(合成例7:化合物A’1の合成)
ポリオキシエチレンポリオキシブチレンイソノニルエーテルに替えて、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(日油株式会社製、ノニオンK―204)を用いた以外は、合成例6と同様にして、化合物A’1を得た。
【0049】
表3中の比較例2~5で用いた化合物は、下記の市販品を使用した。
ポリオキシエチレンメチルエーテル:日油株式会社製「ユニオックスM―1000」
リン酸トリス(2-エチルヘキシル):東京化成工業株式会社製
トリアセチン:東京化成工業株式会社製
プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル:東京化成工業株式会社製
プロピレングリコール:株式会社ADEKA製
2-エチル-1,3-ヘキサンジオール:富士フィルム和光純薬株式会社製
【0050】
【0051】
【0052】
(結果)
実施例1~8については、版に対する良好な濡れ性を有し、式(1)で示される化合物の濃度が2%と高濃度の希釈溶液においても泡立たないか、泡立ちが大幅に抑制されており、pHによらず銅版の腐食が大幅に抑制されていることが分かる。
【0053】
これに対して、比較例1~5は、実施例1~8に比して十分な性能が得られていないことが分かる。比較例1はRの炭素数が12であるため、低泡性と防錆効果が良好ではない。比較例2はリン酸基を含有しない化合物のため、低泡性、濡れ性、防錆効果が良好ではない。比較例3はトリエステルでありかつ所定のポリエーテル鎖を含有しない化合物のため、濡れ性が良好ではない。比較例4は低泡性、濡れ性が良好ではない。比較例5は低泡性と防錆効果が良好ではない。尚、比較例3の低泡性、防錆効果に関しては、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)の水溶性が低く、適切な希釈液を調製できず、測定できなかった。