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特開2023-160531インクジェットインク組成物、記録物、インクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160531
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物、記録物、インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20231026BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231026BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070949
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056FC06
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA09
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB57
4J039AD09
4J039AE04
4J039AE11
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE28
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】触感、耐擦過性、及び基材への密着性に優れた印刷層を与えるインクジェット印刷用インク組成物、及び該インク組成物からなるインク層を有する印刷物及び記録物、並びにインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】下記(A)、(B)及び(C)成分を含有するインク組成物であり、
(A)シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョン:固形分量で0.5~20質量部、
(B)ウレタン系樹脂エマルジョン:固形分量で10~79.5質量部、
(C)顔料:20~89.5質量部(但し、(A)成分及び(B)成分の固形分量、及び(C)成分の合計は100質量部)
前記(A)成分が(a1)ポリオルガノシロキサン:60~99質量部と(a2)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体:1~40質量部((a1)及び(a2)成分の合計は100質量部)との共重合物のエマルジョンであることを特徴とする、前記インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)、(B)及び(C)成分を含有するインク組成物であり、
(A)シリコーンアクリル共重合樹脂のエマルジョン:固形分量で0.5~20質量部、
(B)ウレタン系樹脂のエマルジョン:固形分量で10~79.5質量部、
(C)顔料:20~89.5質量部
(但し、(A)成分の固形分量、(B)成分の固形分量、及び(C)成分の合計は100質量部である)
前記(A)成分が
(a1)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサン:60~99質量部と
(a2)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体:1~40質量部((a1)及び(a2)成分の合計は100質量部である)との共重合物のエマルジョンであることを特徴とする、前記インク組成物
【化1】
(式中、Rは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり(但し、後記するRで定義される基及びフェニル基を除く)、Rは、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Rは互いに独立に、フェニル基又は上記Rで定義される基であり、少なくとも1のRはフェニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、a、b、c及びdは実数であり、a、b、c及びdの合計に対し、aは0.11≦a/(a+b+c+d)<1となる数であり、bは0.00001≦b/(a+b+c+d)≦0.05となる数であり、cは0≦c/(a+b+c+d)≦0.6となる数であり、及び、dは0.000001≦d/(a+b+c+d)≦0.24となる数である)。
【請求項2】
前記(B)成分が、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、及びポリカーボネートポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂のエマルジョンである、請求項1記載のインク組成物。
【請求項3】
前記(A)シリコーンアクリル共重合樹脂のエマルジョンが、乳化粒子の平均一次粒子径1000nm以下を有する、請求項1又は2記載のインク組成物。
【請求項4】
前記(C)顔料が平均粒子径5nm~10μmを有する、請求項1又は2記載のインク組成物。
【請求項5】
インク組成物中(A)成分量が固形分で0.1~20質量%であり、(B)成分量が固形分で3~70質量%であり、(C)成分量が0.1~25質量%である、請求項1又は2記載のインク組成物。
【請求項6】
さらに(D)水溶性有機溶剤をインク組成物の総質量に対して3質量%~70質量%で含有する、請求項1~5のいずれか1項記載のインク組成物。
【請求項7】
(D)成分が、溶解パラメータ(SP値)10以上を有し、炭素数3個以上を有する有機溶剤である、請求項6記載のインク組成物。
【請求項8】
インク組成物の総質量に対して水を10質量%以上で含む、請求項1~7のいずれか1項記載の記載のインク組成物。
【請求項9】
下記(A’)成分、(B’)成分及び(C)成分、及び水を含有するインク組成物であり、
(A’)シリコーンアクリル共重合樹脂:インク組成物中に0.1~20質量%、
(B’)ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、及びポリカーボネートポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂:インク組成物中に3~70質量%、
(C)顔料:インク組成物中に0.1~25質量%
前記(A’)成分が
(a1)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサン:60~99質量部と
(a2)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体:1~40質量部((a1)及び(a2)成分の合計は100質量部である)との共重合物であることを特徴とする、前記インク組成物
【化2】
(式中、Rは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり(但し、後記するRで定義される基及びフェニル基を除く)、Rは、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Rは互いに独立に、フェニル基又は上記Rで定義される基であり、少なくとも1のRはフェニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、a、b、c及びdは実数であり、a、b、c及びdの合計に対し、aは0.11≦a/(a+b+c+d)<1となる数であり、bは0.00001≦b/(a+b+c+d)≦0.05となる数であり、cは0≦c/(a+b+c+d)≦0.6となる数であり、及び、dは0.000001≦d/(a+b+c+d)≦0.24となる数である)。
【請求項10】
さらに(D)水溶性有機溶剤をインク組成物の総質量に対して3質量%~70質量%で含有する、請求項9記載のインク組成物。
【請求項11】
(D)成分が、溶解パラメータ(SP値)10以上を有し、炭素数3個以上を有する有機溶剤である、請求項10記載のインク組成物。
【請求項12】
前記インク組成物からなる皮膜の静摩擦係数と動摩擦係数の差が0.05未満である、請求項1~11のいずれか1項記載のインク組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のインク組成物を含むインクジェット印刷用インク。
【請求項14】
被記録媒体と、該被記録媒体に付着させた請求項1~12のいずれか1項記載のインク組成物とを有する、印刷物。
【請求項15】
前記被記録媒体がインク低吸収性または非吸収性である、請求項14記載の印刷物。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項記載のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出し、該インク組成物を被記録媒体に付着させて請求項14又は15記載の印刷物を得る工程を含む、前記印刷物の製造方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項記載のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出し、該インク組成物を被記録媒体に付着させて印刷を行う工程を含む、インクジェット記録方法。
【請求項18】
前記被記録媒体がインク低吸収性または非吸収性である、請求項17記載のインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物、記録物、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムは流動性の高い液体インクを微細なノズルから噴射し、基材に付着させて印刷を行う印刷システムである。このシステムは、比較的安価な装置で、高解像度、高品位の画像を高速かつ、低騒音で印刷可能という特徴を有し、最近急速に普及している。
【0003】
被記録媒体として、インク低吸収性または非吸収性の被記録媒体への記録へのインクジェット記録方法の利用も、今後、期待されている。このような用途では、高いレベルの画像の発色性や堅牢性(耐擦過性、耐光性、耐オゾンガス性、耐水性など)が要求されるため、色材として顔料を用いたインクが特に有用である。
【0004】
色材として顔料を含む顔料インクで印刷される印刷物は、被記録媒体の表面上に顔料成分が局在化しやすく、発色性が高い。顔料は、インクが被記録媒体に付着する過程や付着後に起こるビヒクル成分の蒸発や浸透により、被記録媒体の表面にとどまる。しかし、顔料インクは、色材である顔料が被記録媒体の表面上に存在しやすいため、インクの皮膜の密着性、耐擦過性、などが特に重要である。顔料インクで記録されるこれら特性を向上するために、インクにウレタン樹脂を添加することが検討されている。
【0005】
例えば、特開2021-107527では、水性インクジェットインクに水分散ポリウレタン樹脂を使用している。耐久性及び加工性に優れるインクジェットインクを提供できるとあるが、ウレタン樹脂だけでは表面が滑らずに引っかかるため、耐擦過性は低いことが懸念される。
【0006】
また、特開2019-6936ではウレタンにジメチルシリコーンを必須とし、捺染時に摩擦堅牢性、洗濯堅牢性を持たせることが出来ることを開示している。しかしジメチルシリコーンは初期の耐水性は高いが、経時で表面のジメチルシリコーンが揮散・ふき取れてしまうため、性能が十分とは言い切れない。
【0007】
さらに、WO2017/104318では、粉体のアクリル変性ポリオルガノシロキサンを光重合モノマーに入れてインクジェットプリンター用液体組成物として耐摩耗性が高いと提案している。しかしながら、アクリルであるため密着性は劣ると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-107527号公報
【特許文献2】特開2019-6936号公報
【特許文献3】WO2017/104318
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、触感、耐擦過性、及び基材への密着性に優れた印刷層を与えるインクジェット印刷用インク組成物、及び該インク組成物からなるインク層を有する印刷物及び記録物、並びにインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(A)シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョン、(B)ウレタン系樹脂エマルジョン、及び(C)顔料を所定の割合で配合したインク組成物から得られる層が触感、耐擦過性、及び基材への密着性に優れることを見いだした。特に本発明は、インクジェット印刷用の水系インク組成物、並びに該水系インク組成物による皮膜が形成された印刷物を提供する。
【0011】
すなわち本発明は、下記(A)、(B)及び(C)成分を含有するインク組成物であり、
(A)シリコーンアクリル共重合樹脂のエマルジョン:固形分量で0.5~20質量部、
(B)ウレタン系樹脂のエマルジョン:固形分量で10~79.5質量部、
(C)顔料:20~89.5質量部
(但し、(A)成分の固形分量、(B)成分の固形分量、及び(C)成分の合計は100質量部である)
前記(A)成分が
(a1)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサン:60~99質量部と
(a2)アクリル酸エステル単量体及び/ 又はメタクリル酸エステル単量体:1~40質量部((a1)及び(a2)成分の合計は100質量部である)との共重合物のエマルジョンであることを特徴とする、前記インク組成物を提供する。
【化1】
(式中、Rは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり(但し、後記するRで定義される基及びフェニル基を除く)、Rは、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Rは互いに独立に、フェニル基又は上記Rで定義される基であり、少なくとも1のRはフェニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、a、b、c及びdは実数であり、a、b、c及びdの合計に対し、aは0.11≦a/(a+b+c+d)<1となる数であり、bは0.00001≦b/(a+b+c+d)≦0.05となる数であり、cは0≦c/(a+b+c+d)≦0.6となる数であり、及び、dは0.000001≦d/(a+b+c+d)≦0.24となる数である)。
【0012】
更に本発明は、下記(A’)成分、(B’)成分及び(C)成分、及び水を含有するインク組成物であり、
(A’)シリコーンアクリル共重合樹脂:インク組成物中に0.1~20質量%、
(B’)ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、及びポリカーボネートポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂:インク組成物中に3~70質量%、
(C)顔料:インク組成物中に0.1~25質量%
前記(A’)成分が
(a1)下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサン:60~99質量部と
(a2)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体:1~40質量部((a1)及び(a2)成分の合計は100質量部である)との共重合物であることを特徴とする、前記インク組成物を提供する。
【化2】
(式中、Rは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり(但し、後記するRで定義される基及びフェニル基を除く)、Rは、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Rは互いに独立に、フェニル基又は上記Rで定義される基であり、少なくとも1のRはフェニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、a、b、c及びdは実数であり、a、b、c及びdの合計に対し、aは0.11≦a/(a+b+c+d)<1となる数であり、bは0.00001≦b/(a+b+c+d)≦0.05となる数であり、cは0≦c/(a+b+c+d)≦0.6となる数であり、及び、dは0.000001≦d/(a+b+c+d)≦0.24となる数である)。
【0013】
更に本発明は、被記録媒体と、該被記録媒体に付着させた前記インク組成物からなる層とを有する、記録物または印刷物を提供する。特にはインク低吸収性または非吸収性の被記録媒体を有する記録物または印刷物を提供する。また本発明は、前記インク組成物をインクジェットヘッドから吐出し、該インク組成物を被記録媒体に付着させて印刷を行う工程を含む印刷物の製造方法を提供する。さらには、本発明のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出し、該インク組成物を被記録媒体に付着させて印刷を行う工程を含む、インクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインク組成物は、触感、耐擦過性、及び基材への密着性に優れたインク層を有する印刷物及び記録物を提供する。特に、インク低吸収性またはインク非吸収性の被記録媒体に対する塗工性、密着性、及び定着性に優れ、触感、耐擦過性、及び耐久性などに優れる印刷層を与える。本発明のインク組成物はインクジェット印刷用のインク組成物として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、(A)シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンと(B)ウレタン系樹脂エマルジョン、(C)顔料を所定の割合で配合したインク組成物である。以下、各成分について詳細に説明する。
【0016】
(A)シリコーンアクリル共重合樹脂のエマルジョン
(A)成分は、(a1)下記一般式(1)で表されるポリオルガノシロキサン60~99質量部と(a2)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体1~40質量部((a1)及び(a2)成分の合計は100質量部である)との共重合物であるシリコーンアクリル共重合樹脂のエマルジョンである。
【化3】
(式中、Rは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり(但し、後記するRで定義される基及びフェニル基を除く)、Rは、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基であり、Rは互いに独立に、フェニル基又は上記Rで定義される基であり、少なくとも1のRはフェニル基であり、Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、a、b、c及びdは実数であり、a、b、c及びdの合計に対し、aは0.11≦a/(a+b+c+d)<1となる数であり、bは0.00001≦b/(a+b+c+d)≦0.05となる数であり、cは0≦c/(a+b+c+d)≦0.6となる数であり、及び、dは0.000001≦d/(a+b+c+d)≦0.24となる数である)
より詳細には(a1)上記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンと(a2)アクリル酸エステル単量体及び/又はメタクリル酸エステル単量体とを、乳化グラフト重合させて得られる、シリコーンアクリル共重合樹脂のエマルジョンである。
【0017】
(a1)成分と(a2)成分の配合比は、(a1)成分と(a2)成分の合計量100質量部に対して、(a1)成分が60~99質量部であり、(a2)成分が1~40質量部であることが好ましい。好ましくは(a1)成分が70~95質量部であり、(a2)成分が5~30質量部である。
【化4】
【0018】
は、互いに独立に、置換もしくは非置換の、炭素数1~20の、好ましくは炭素数1~10の、より好ましくは炭素数1~6の、1価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部が、フッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、及び、アルキル又はアルコキシなどで置換されたものが挙げられる。Rとしては、非置換の炭素数1~6のアルキル基が好ましく、さらに好ましくはメチル基である。
【0019】
は、互いに独立に、炭素数2~6のアルケニル基、又は、炭素原子に結合する水素原子の一部がメルカプト基、ビニル基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基で置換されている炭素数1~6のアルキル基である。炭素数2~6のアルケニル基としてはビニル基、アリル基等が挙げられる。Rは、好ましくは、アクリロキシ基又はメタクリロキシ基を有する炭素数1~6のアルキル基である。該アルキル基はメチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。Rは、互いに独立に、フェニル基又は上記Rで定義される基であり、少なくとも1のRはフェニル基である。
【0020】
Xは、互いに独立に、置換もしくは非置換の、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基、又はヒドロキシル基である。非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、上記Rのために例示した基が挙げられる。炭素数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。Xとして、好ましくはヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、メチル基及びブチル基である。
【0021】
a、b、c及びdは実数であり、a~dの合計数に対し、aは0.11≦a/(a+b+c+d)<1未満(例えば、0.999999以下)となる数であり、好ましくは0.59≦a/(a+b+c+d)≦0.99998の数である。bはa~dの合計数に対し0.00001≦b/(a+b+c+d)≦0.05となる数であり、好ましくは0.00001≦b/(a+b+c+d)≦0.01となる数である。cはa~dの合計数に対し0≦c/(a+b+c+d)≦0.6となる数であり、好ましくは0≦c/(a+b+c+d)≦0.30となる数である。dはa~dの合計数に対し0.000001≦d/(a+b+c+d)≦0.24となる数であり、好ましくは0.00001≦d/(a+b+c+d)≦0.1となる数である。bは5質量%を超えると塗膜の触感向上が見られなくなり、防汚性も落ちる。dは、24.0質量%を超えると重量平均分子量が小さくなり、触感の向上が見られなくなるため好ましくない。cはフェニル基を有するシロキサン単位の数である。上記範囲で有することにより透明性や耐熱性の点で好ましい。
【0022】
(a1)ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は5000~50万、好ましくは8000~45万、より好ましくは10万~45万であり、更に好ましくは15万~40万である。該重量平均分子量を有することで、シリコーン特有の良好な滑り性を付与するコーティング剤が得られる。
ここで、ポリオルガノシロキサンの分子量(M)は、1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液の比粘度ηsp(25℃)から計算することができる。
ηsp=(η/η0)-1
(η0:トルエンの粘度 η:溶液の粘度)
ηsp=[η]+0.3[η]2乗
[η]=2.15×10-40.65
具体的には、エマルジョン20gをIPA(イソプロピルアルコール)20gと混合し、エマルジョンを破壊した後、IPAを廃棄し、残ったゴム状のオルガノポリシロキサンを105℃×3時間乾燥する。これを1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液とし、ウベローデ粘度計にて25℃で測定を行う。上記式に粘度を代入することにより分子量(M)を求めることができる(参考文献:中牟田、日化、77 858[1956]、Doklady Akad. Nauk. U.S.S.R. 89 65[1953])。
【0023】
このような(a1)ポリオルガノシロキサンは、エマルジョンの形態で使用されることが好ましく、市販品を使用してもよいし、合成してもよい。合成する場合は、公知の乳化重合法で実施でき、例えばフッ素原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基を有してもよい環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤を、アニオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸等の触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。
(4-e-f) Si(OR (2)
(式中、Rは重合性二重結合を有する1価有機基、特にアクリロキシ基又はメタクリロキシ基置換の炭素数1~6のアルキル基を示す。Rは炭素数1~4のアルキル基、Rは炭素数1~4のアルキル基、eは2~3、fは0~1の整数を示し、e+f=2~3である。)
【0024】
上記環状オルガノシロキサンとしては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。好ましくは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが用いられる。
【0025】
シランカップリング剤としては、例えば、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどのアクリルシラン類;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン類等が挙げられる。又はこれらを縮重合したオリゴマーはアルコールの発生が抑えられより好ましい場合がある。特にアクリルシラン系が好ましい。ここで、(メタ)アクリロキシは、アクリロキシ又はメタクリロキシを示す。これらシランカップリング剤は、環状オルガノシロキサン100質量部に対し0.01~10質量部使用することが好ましく、0.01~5質量部の使用が更に好ましい。0.01質量部未満であると、コーティング剤とした際に透明性が低下し、10質量部を超えると、摺動性が発揮できない可能性がある。
【0026】
環状オルガノシロキサンに上記シランカップリング剤を共重合することにより、ポリオルガノシロキサンに重合性基(R)が導入される。これにより(a2)(メタ)アクリル酸エステル単量体を(a1)ポリオルガノシロキサンにグラフトさせることができる。
【0027】
重合に用いる重合触媒としては、公知の重合触媒を使用すればよい。中でも強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは乳化能を持つドデシルベンゼンスルホン酸である。
【0028】
酸触媒の使用量としては、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2~2質量部である。
【0029】
重合する際の界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等が挙げられるが、中でも水に溶けやすく、ポリエチレンオキサイド鎖を持たないものが好ましい。更に好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん及びアルキルりん酸塩であり、特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムである。
【0030】
アニオン系界面活性剤の使用量は、環状オルガノシロキサン100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0031】
重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。
【0032】
(a2)アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル(以下、アクリル成分ということがある)は、炭素数1~20の、好ましくは炭素数1~6の、より好ましくは炭素数1~3の、直鎖及び分岐のアルキルエステルである。アミド基、ビニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能基を有してもよい。アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。これらのうち1種のみ、又は2種以上を共重合させればよい。好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、又は、メタクリル酸エチルである。アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルは、ガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)が120℃以下であるのがよく、110℃以下であるのがよい。下限値は-50℃が好ましい。得られるシリコーンアクリル共重合樹脂のTgが0℃以上、好ましくは5℃以上となるように(a2)成分を調整して、グラフト共重合させる。シリコーンアクリル樹脂が上記Tgを有することにより、防汚性能の高い樹脂を得ることができる。
【0033】
上記(a1)ポリオルガノシロキサンと、(a2)(メタ)アクリル酸エステル単量体のグラフト共重合は従来公知の方法に従えばよく、例えばラジカル開始剤を用いて行えばよい。ラジカル開始剤は、特に制限されないが、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素が挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。
【0034】
エマルジョンの安定性向上のため、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。
【0035】
更に、分子量を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。
【0036】
(A)シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンの固形分は35~50質量%が好ましい。また、粘度(25℃)は、500mPa・s以下が好ましく、20~300mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。該エマルジョンは、乳化粒子の平均一次粒子径が1000nm以下であるのがよく、好ましくは100nm~500nm、さらに好ましくは150~350nmである。平均一次粒子径が大きすぎる場合には、白化が見られ、小さすぎる場合には、分散性が低下する問題がある。樹脂エマルジョンの乳化粒子の平均一次粒子径は、日本電子製JEM-2100TMを用いて測定される体積基準の平均粒子径である。
【0037】
(A)成分のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンは、(A)成分の固形分量、(B)成分の固形分量、(C)成分の合計100質量部に対し、(A)成分の固形分量で0.5~20質量部が好ましく、好ましくは1.5質量部~20質量部、さらに好ましくは2質量部~15質量部が好ましい。(A)シリコーンアクリル共重合樹脂のガラス転移温度Tgは0℃以上が好ましく、より好ましくは5℃以上である。尚、ガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)はエマルジョンを乾燥したのち、フローテスター試験機にて測定することができる。
【0038】
上記(A)シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを含むインクジェット印刷用のインク組成物から得られるインク層は、優れた耐水性、耐湿性、高光沢、及び耐アルコール性を有する。(A)成分の量は、本発明のインク組成物100質量%中、固形分で0.1~20%である事が好ましく、0.4~18%である事が好ましく、0.5~15%が好ましく、0.6~10%である事が好ましく、さらに1.5%~8%が好ましい。固形分で上記下限値未満だと触感、耐擦過性や防汚性が十分に発揮できず、上記上限値超だと塗膜表面が汚れやすくなるおそれがある。
【0039】
(B)ウレタン系樹脂エマルジョン
(B)ウレタン系樹脂エマルジョンは、公知の方法、例えばアニオン又はノニオン系乳化剤等を用いた乳化重合法で合成したものを用いてもよいし、市販品を使用してもよい。ウレタン系樹脂としては、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとの反応物で、該ポリオールとしてポリエーテル系、ポリカーボネート系、ポリエステル系等を用いた各種水溶性ウレタン樹脂が挙げられる。ウレタン系樹脂エマルジョンは、これらウレタン系樹脂を乳化したものである。該ウレタン系樹脂エマルジョンが皮膜形成能を有するためには、乳化粒子の粒子径が10~500nmであることが好ましい。ウレタン系樹脂の粘度(25℃)は10~500mPa・sであるものを用いるとよい。また、ウレタン系樹脂のガラス転移温度Tgは、120℃以下であり、60℃以下が好ましく、30℃以下が更に好ましい。なお、ガラス転移温度の下限値は-50℃が好ましい。ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0040】
市販のポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、アデカ社製アデカボンタイターHUX-350、DIC社製WLS-201,WLS-202、第一工業製薬社製スーパーフレックスE-4000,E-4800などが挙げられる。ポリカーボネート系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、例えば、DIC社製ハイドランWLS-210,WLS-213、宇部興産社製UW-1005E,UW-5502、三洋化成社製パーマリンUA-368、第一工業製薬社製スーパーフレックス460,スーパーフレックス470などが挙げられる。ポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、アデカ社製アデカボンタイターHUX-380,HUX-540、第一工業製薬社製スーパーフレックス420,スーパーフレックス860などが挙げられる。
【0041】
(B)ウレタン樹脂エマルジョンの乳化粒子の平均粒子径はより好ましくは10nm~500nm、さらに好ましくは20nm~350nm、さらに好ましくは20nm~150nmである。該平均粒子径は日本電子製JEM-2100TMを用いて測定される体積基準の平均粒子径である。
【0042】
(B)成分の樹脂エマルジョンの配合量は、(A)成分の固形分量、(B)成分の固形分量、(C)成分の合計100質量部に対し、固形分量で10~79.5質量部であり、好ましくは20~79質量部であり、より好ましくは25~75質量部である。インク組成物中には固形分量で3~80質量%、3.5~70質量%、好ましくは4~30質量%、好ましくは4.5~15質量%で含まれるのがよい。この樹脂エマルジョン(固形分)が上記下限値未満であると、耐摩耗性など被膜特性が非常に悪くなるという不具合があり、上記上限値を超えると触感が悪くなるという不具合がある。
【0043】
(C)顔料
(C)顔料としてはインク組成物に配合される従来公知の顔料であればよく、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。無機顔料としては、酸化チタン、赤酸化鉄(べんがら)、黄酸化鉄、黒酸化鉄、紺青、亜鉛華、コバルト青、エメラルド緑、ビリジャン、チタン白、カーボンブラックなどが挙げられる。有機顔料としてはアルカリブルー、リゾールレッド、カーミン6B、ジスアゾエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド、イソインドリンエローなどが挙げられる。
【0044】
本発明に使用される顔料をカラーインデックスで示すと、ピグメントホワイト4、ピグメントホワイト6、ピグメントホワイト21、ピグメントブラック7(カーボンブラック)、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、60、ピグメントグリーン7(塩素化フタロシアニングリーン)、36(臭素化フタロシアニングリーン)、ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、57:1、97、122、149、168、177、178、179、206、207、209、242、254、255、ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213、ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74等が挙げられる。
【0045】
(C)顔料の平均粒子径としては特に限定されないが、5nm~10μmであることが好ましく、より好ましくは10nm~5μmである。なお、平均粒子径は、レーザー回折法による粒度分布測定における累積体積基準平均値(又はメジアン径)として測定することができる。
【0046】
(C)顔料の配合量は(A)成分の固形分量、(B)成分の固形分量、(C)成分の合計100質量部に対して20~89.5質量部であり、好ましくは20~80質量部である。インク組成物中には0.1~25質量%、好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは1~15質量%で含まれるのがよい。顔料が上記下限値未満であると、隠ぺい性が無く意匠性を変える事が出来ないという不具合があり、上記上限値を超えると分散性が悪く、ブツなどが発生して好ましくないという不具合がある。
【0047】
(D)水溶性有機溶剤
本発明のインク組成物は更に水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノエーテル、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールモノエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、アセトン、酢酸エチル、ジアセトンアルコール、1,3-プロパンジオールなどがあげられる。これら1種単独でも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0048】
好ましくは、水溶性有機溶剤は、炭素原子数3個以上を有するのが望ましい。炭素原子数3個未満である有機溶剤は、エマルジョンの安定化を低下させる恐れがある。さらに好ましくは炭素原子数10以下である。また、水溶性有機溶剤の溶解パラメーター(sp値)は10以上であることが好ましい。sp値10以上を有し、炭素原子数3個以上の有機溶剤としては、例えば、グリセリン(SP値:21.1)、1,3-プロパンジオール(SP値:13.5)、ジエチレングリコール(SP値:14.6)、プロピレングリコール(SP値:14.8)などである。sp値の上限は特に制限されないが、通常、30以下である。
【0049】
本発明のインク組成物中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インクジェットインク組成物の全質量を基準として、合計で3質量%以上70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5~60質量%、さらに好ましくは15~55質量%、さらに好ましくは25~50質量%である。
【0050】
本発明の好ましい実施形態に係るインク組成物は、水を含有する、水系インク組成物である。これにより、高分子がエマルション形態で分散しやすく、定着性及び耐擦過性にさらに優れた画像をインクジェット法により容易に形成することができる。
【0051】
水の含有量はインク組成物の総量に対して、10質量%以上、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。なおインク組成物中の水というときには、例えば、原料として用いる高分子粒子の分散液、顔料分散液、添加する水等からくる水を含むものとする。水の含有量が10質量%以上であることによりインク組成物を比較的低粘度とすることができる。また、水の含有量の上限はインク組成物の総量に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0052】
本発明のインク組成物は、(A)シリコーンアクリル共重合樹脂のエマルジョン、(B)ウレタン樹脂のエマルジョン、及び(C)顔料をあらかじめ水分散させたもの、任意の(D)有機溶剤、及び水を、プロペラ式撹拌機やホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、及びディスパーミキサーなどの公知の混合調製方法によって混合することによって得られる。
【0053】
例えば(B)成分をディスパーミキサーで、100~1000rpmで撹拌しているところに、(A)成分、(C)成分の水分散液、及び任意の(D)成分を投入し、500~1500rpmで30分攪拌することで、水系のインク組成物が得られる。
【0054】
本発明のインク組成物には、性能に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、抗菌剤、防カビ剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、造膜助剤などの有機溶剤、他の樹脂等を添加してもよい。その他の成分の添加量は特に制限されるものでない。例えば、消泡剤や界面活性剤は、インク組成物の全質量に対して好ましくは0.01~5%、より好ましくは0.1~3%で配合するのがよい。
【0055】
本発明のインク組成物は、好ましくはインクジェット記録方法に用いる。被記録媒体は、特に限定されないが、インク低吸収性又はインク非吸収性記録媒体が好ましい。インク低吸収性又はインク非吸収性の被記録媒体とは、インクを全く吸収しない、又は、ほとんど吸収しない性質を有する被記録媒体を指す。より詳細には、本発明における、低吸収性又は非吸収性の被記録媒体とは、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m以下である被記録媒体を指す。ブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPANTAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPANTAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙- 液体吸収性試験方法- ブリストー法」に述べられている。
インク低吸収性又はインク非吸収性の性質を備える被記録媒体としては、インク吸収性を備えるインク受容層を記録面に備えない媒体や、インク吸収性の小さいコート層を記録面に備える媒体が挙げられる。
【0056】
インク非吸収性の被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インク吸収層を有していないプラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているシート、紙等の基材上にプラスチックフィルムが接着されているシート等の基材が挙げられる。プラスチックとしては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0057】
インク低吸収性の被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、表面に油性インクを受容するための塗工層が設けられた塗工紙等の基材が挙げられる。塗工紙としては、特に限定されないが、例えば、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。
【0058】
本発明のインク組成物を用いれば、このようなインク非吸収性又はインク低吸収性の記録媒体に対しても、定着性が良好で耐擦過性が良好な、所定の印刷物をより容易に形成することができる。
【0059】
本発明に係るインクジェット記録方法では、インクの付着対象である記録媒体が、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、およびポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とすることがより好ましい。このような記録媒体は、一般的にインクの定着が困難な記録媒体である。本発明のインク組成物は、このような基材に対して優れた定着性及び耐擦過性を有する印刷層を形成する点において、特に優れた効果を有する。従って、本発明のインク組成物は、特に好ましくは、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、およびポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とする記録媒体へのインクジェット記録に用いる。
【0060】
本発明のインクジェット記録方法によれば、例えば、被記録媒体上に、本発明のインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して印刷物層を形成する場合に、間欠吐出安定性を確保し、印刷物の定着性と耐擦過性が両立された印刷物を得ることができる。
【0061】
本発明のインクジェット記録方法は従来公知の方法に従えばよい。例えば、本発明のインク組成物を、インクジェット方式の記録ヘッドから吐出して、記録媒体に付着させ、印刷物を記録する方法である。インク組成物を吐出する方式としては、インク組成物に電歪素子による力学的エネルギーを付与する方式や、インク組成物に熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インク組成物に電歪素子による力学的エネルギーを付与する方式を用いることが特に好ましい。記録方法は、上記のインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置で行われる。
【実施例0062】
以下、製造例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。製造例及び比較製造例で得た各樹脂エマルジョンは下記のように測定した。
【0063】
<平均粒子径>
日本電子製JEM-2100TMを用いて測定した。
【0064】
<ガラス転移温度Tg>
ガラス転移温度Tgは、噴霧乾燥で粉体化したシリコーンアクリル共重合樹脂約1gについて、島津製作所製フローテスターを用い、5kgfの荷重をかけ毎分5℃上昇の昇温法によりTgを測定した。
【0065】
<固形分量(樹脂分量)>
各エマルジョン(試料)約1gをアルミ箔製の皿に正確に量り取り、105~110℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分(すなわち、固形分量)を算出した。
【数1】
R:蒸発残分(固形分量)(%)
W:乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L:アルミ箔皿の質量(g)
T:乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0066】
〈(A)シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンの製造例〉
[製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.48g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈した。圧力300kgf/cmで高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。該エマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った。その後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。
上記重合反応により得られるポリオルガノシロキサンの構造はH-NMR及び29Si―NMR(装置名:JNM-ECA600、測定溶媒:CDCl3、1H 周波数600MHz、室温、積算回数128回29Si 周波数600MHz、室温、積算回数5000回)によって確認したところ、下記式(1-1)で表され、Mw(重量平均分子量、測定方法は上記の通り)は250,000であった。
【化5】
式(1-1)において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはエトキシ基である。a、b、dの比率は表1に示す。
上記中和後の反応液(上記で得たポリオルガノシロキサン534g含む)に、メタクリル酸メチル(MMA)232gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで、上記ポリオルガノシロキサンとアクリル共重合させ、不揮発分45.2%のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを得た。シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンの平均粒径及び固形分量を表2に示す。
【0067】
[製造例2]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.60g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cmで高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。該エマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、5℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。
上記重合反応により得られるポリオルガノシロキサンの構造はNMR(装置名:JNM-ECA600、測定溶媒:CDCl3、測定条件は製造例1と同じ)によって確認したところ、上記式(1-1)で表され、Mw(重量平均分子量、測定方法は上記の通り)は400,000であった。上記式(1-1)において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはエトキシ基である。a、b、dの比率は表1に示す。
上記中和後の反応液(上記で得たポリオルガノシロキサン534g含む)に、メタクリル酸メチル(MMA)61gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで上記ポリオルガノシロキサンとアクリル共重合させ、不揮発分44.8%のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを得た。シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンの平均粒径及び固形分量を表2に示す。
【0068】
[製造例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン300g、ジフェニルジメチルシロキサン300g(信越化学工業社製KF-54)、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.96g、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム24g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水490gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cmで高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。該エマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で10~20時間重合反応を行った後、10℃で10~20時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpHを中性付近に中和した。
上記重合反応により得られるポリオルガノシロキサンの構造はNMR(装置名:JNM-ECA600、測定溶媒:CDCl3、測定条件は製造例1と同じ)によって確認したところ、下記式(1-2)で表され、Mw(重量平均分子量、測定方法は上記の通り)は8,000であった。
【化6】
上記式(1-2)において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、R’及びR’’はフェニル基又はメチル基であり、R’及びR’’のうち少なくとも1はフェニル基であり、Xはヒドロキシル基またはエトキシ基である。a、b、c、dの比率は表1に示す。
上記中和後に得たエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が47.5%であった。上記中和後の反応液(上記で得たポリオルガノシロキサン534g含む)に、メタクリル酸メチル(MMA)242gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで上記ポリオルガノシロキサンとアクリル共重合させ、不揮発分45.5%のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを得た。シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンの平均粒径及び固形分量を表2に示す。
【0069】
[製造例4]
上記製造例1を繰り返して均一な白色エマルジョンを得た。製造例1と同じく、該エマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った。その後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたポリオルガノシロキサンは、上記式(1-1)で表され、Mw(重量平均分子量、測定方法は上記の通り)250,000を有する。上記中和後の反応液(上記で得たポリオルガノシロキサン534g含む)に、メタクリル酸メチル(MMA)162g、アクリル酸ブチル(BA)80gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことでシリコーンへアクリル共重合させ、不揮発分44.9%のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを得た。シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンの平均粒径及び固形分量を表2に示す。
【0070】
[比較製造例1]
上記製造例1を繰り返して均一な白色エマルジョンを得た。製造例1と同じく、エマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたポリオルガノシロキサンは、上記式(1-1)で表され、Mw(重量平均分子量、測定方法は上記の通り)250,000を有する。
上記中和後の反応液(上記で得たポリオルガノシロキサン534g含む)に、メタクリル酸メチル(MMA)541gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで上記ポリオルガノシロキサンとアクリル共重合させ、不揮発分45.5%のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを得た。シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンの平均粒径及び固形分量を表2に示す。
【0071】
[比較製造例2]
上記製造例1を繰り返して均一な白色エマルジョンを得た。製造例1と同じく、エマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたポリオルガノシロキサンは上記式(1-1)で表され、Mw(重量平均分子量、測定方法は上記の通り)250,000を有する。アクリルを重合せず、このまま終了した。不揮発分44.8%のシリコーン樹脂エマルジョンを得た。
【0072】
[比較製造例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン552g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン48g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cmで高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。該エマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。
上記重合反応により得られるポリオルガノシロキサンの構造はNMR(装置名:JNM-ECA600、測定溶媒:CDC13、測定条件は製造例1と同じ)によって確認したところ、下記式(1-3)で表され、Mw(重量平均分子量:GPC測定値)は250,000であった。
【化7】
式(1-3)において、Rはγ-メタクリロキシプロピル基であり、Xはヒドロキシル基またはエトキシ基である。a、b、dの比率は表1に示す。
上記中和後の反応液(上記で得たポリオルガノシロキサン534g含む)に、メタクリル酸メチル(MMA)232gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤でレドックス反応を行うことで上記ポリオルガノシロキサンへアクリル共重合させ、不揮発分45.0%のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを得た。シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンの平均粒径及び固形分量を表2に示す。
【0073】
【表1】
D4:オクタメチルシクロテトラシロキサン
KF-54:ジフェニルジメチルシロキサン
ぺレックスSS-L:50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム
【0074】
【表2】
【0075】
[実施例1~8、比較例1~6]
下記表3及び5に示す処方量に従って(A)~(D)成分及び消泡剤を混合し、プロペラ式撹拌機で撹拌してインク組成物をそれぞれ得た。
[インクの調製]
例えば、実施例1では、シリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョン(固形分45%)1.5部、ウレタン系樹脂エマルジョンWLS-213(固形分35%)を13.5部、カーボンブラックMA100(三菱製紙社製)を5部、ノイゲンXL-400Dを1.5部、グリセリンを15部、1,3プロパンジオールを12部、ジエチレングリコールを10部、プロピレングリコールを5部を挿入し、500rpmで混合した後、水を36.5部混合し、ペイントシェーカー(浅田鉄工社製)にて60分間1000rpmで撹拌し、その後YTZボールを除去してインクを作製した。
【0076】
表4及び6に(A)成分及び(B)成分の固形分量及び(C)成分量の合計100質量部に対する、(A)成分の固形分量、(B)成分の固形分量、及び(C)成分量を示す。
【0077】
下記実施例及び比較例で用いた(B)ウレタン系樹脂エマルジョンは以下の通りである。
ハイドランWLS-213(DIC社製ポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョン) 固形分35%、粒子径20~30nm
ハイドランWLS-201(DIC社製ポリエーテル系ポリウレタンディスパージョン) 固形分35%、粒子径20~30nm
アデカボンタイターHUX-380(アデカ社製ポリエステル系ポリウレタンディスパージョン) 固形分40%、粒子径0.2μm
【0078】
(C)顔料
カーボンブラックMA100(三菱製紙社製、粒子径24nm)
【0079】
下記実施例及び比較例で用いた(D)成分は以下の通りである。
グリセリン(SP値:21.1)
1,3-プロパンジオール(SP値:13.5)
ジエチレングリコール(SP値:14.6)
プロピレングリコール(SP値:14.8)
【0080】
[成膜方法]
各インク組成物を、PETフィルムにバーコーターで乾燥膜厚26μmになる様に塗布した後、室温で2日間放置後測定した。
【0081】
<触感、静動摩擦係数測定及び触感>
HEIDON TYPE-38(新東科学社製)にて200gの金属圧子を上記塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から静摩擦係数、動摩擦係数を算出した。
触感の評価は、静摩擦係数が0.10未満、動摩擦係数は0.07未満であり、かつ静摩擦係数と動摩擦係数の差が0.05未満である場合に触感の評価を○とした。
【0082】
<分散性(経時安定性)>
各インク組成物を常温で1週間放置し、経時沈降を下記の基準で目視により判定した。
○:沈降無し
△:沈降するが再撹拌可能
×:沈降し復元せず
【0083】
<塗工性>
各インク組成物を、インク非吸収性である、軟質塩化ビニルフィルム・スーパーフィルムノンタックE(オカモト社製)にバーコーターNo.4にて厚さ9μm(乾燥重量固形分3.6g/m2)で塗工し、40℃で30秒乾燥してインク層を形成した。インク層の外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:塗工面に欠陥が無い
△:塗工面に少しのブツ等の外観欠陥がある
×:塗工面に多くのブツ等の外観欠陥がある
【0084】
<密着性>
上記塗工性試験で得た塗工品のインク層に、セロテープ(ニチバン社製、登録商標)を貼り付けた後、150Paで剥離し、下記の基準で評価した。
○:剥離無し
△:一部剥離有り
×:完全剥離
【0085】
<色調>
各インク組成物を、市販の紙にバーコーターNo.4にて厚さ9μm(乾燥重量固形分3.6g/m2)で塗工し、40℃で30秒乾燥してインク層(印刷層)を形成した。得られた塗工紙とインク層の外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:色調が同等
△:黒色濃度が不足する
×:色調が変化している
【0086】
<インク吸収性(耐水性)>
上記色調試験で得た紙(印刷物)を、学振形染色摩擦堅ろう度試験機(安田精機製作所製)にセットした。水で湿らせたガーゼを用いて印刷面を25回摩擦する試験を実施した。摩擦後の印刷面及びガーゼを目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:ガーゼへの色移り無し
△:色移りが見られる
×:完全に色移りし、印刷面の色が落ちる
【0087】
<インク吸収性(耐湿性)>
上記色調試験で得た紙(印刷物)を、50℃、湿度90%で1日静置した。静置後の印刷面を目視で観察し下記の基準で評価した。
○:印刷部位に滲みが無い
△:印刷部位から少し滲みが見られる
×:完全に滲む
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
上記表5に示す通り、本発明のシリコーンアクリル共重合樹脂エマルジョンを含まない比較例1、3,4のインク組成物から得られる印刷層は触感、耐擦過性、基材への密着性に劣る。また比較例2のインク組成物は分散性及び塗工性に劣り、得られる印刷膜は基材への密着性に劣る。比較例5、6のインク組成物は分散性に劣り、触感、耐擦過性、密着性及び発色性の全てが良好な印刷物は得らない。これに対し、上記表3に示す通り、本発明のインク組成物は、分散性、基材への塗工性及び密着性に優れ、得られる印刷膜は触感、耐擦過性、基材への密着性、及び耐久性に優れる。本発明のインク組成物はインクジェット印刷用の水系インク組成物として有用である。