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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160532
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】研磨パッド用洗浄具
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/017 20120101AFI20231026BHJP
   B24B 53/12 20060101ALI20231026BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B24B53/017 Z
B24B53/12 Z
H01L21/304 622M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070950
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000119438
【氏名又は名称】井和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100226713
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤森 和美
【テーマコード(参考)】
3C047
5F057
【Fターム(参考)】
3C047AA12
3C047AA15
3C047AA21
3C047AA34
3C047EE11
3C047EE18
5F057AA37
5F057BA15
5F057CA12
5F057DA03
5F057DA38
5F057EB26
5F057FA36
5F057FA39
(57)【要約】      (修正有)
【課題】CMPの研磨装置に取り付けられて、溝または孔のうち少なくとも一方が形成されている、スラリー凝集物や研磨屑等の残滓が付着した研磨パッドを効率的で確実に且つ残滓を飛散させずに洗浄可能な洗浄具を提供する。
【解決手段】研磨パッド用洗浄具1は、表面11に複数の植毛穴が形成された基台10と、前記各植毛穴に植設された複数種類の毛束20と、からなり、前記毛束20の種類が、毛丈が長い長毛束21と、毛丈が前記長毛束21よりも短い短毛束22を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨装置に取り付けられた研磨パッドの、溝または孔のうち少なくとも一方が形成された表面を洗浄する研磨パッド用洗浄具であって、
表面に複数の植毛穴が形成された基台と、
前記基台の表面から毛先を突出させて前記各植毛穴に植設された複数種類の毛束と、からなり、
前記毛束の種類が、毛丈が長い長毛束と、毛丈が前記長毛束よりも短い短毛束を含むことを特徴とする研磨パッド用洗浄具。
【請求項2】
前記長毛束は、前記短毛束よりも直径が小さいことを特徴とする請求項1記載の研磨パッド用洗浄具。
【請求項3】
前記長毛束と前記短毛束の毛丈の差が、前記研磨パッドの表面に形成された溝または孔の深さ以上であることを特徴とする請求項1または2記載の研磨パッド用洗浄具。
【請求項4】
前記長毛束の直径が、前記研磨パッドの表面に形成された溝または孔の幅以下であることを特徴とする請求項1または2記載の研磨パッド用洗浄具。
【請求項5】
前記毛束のうち一部または全部は、1つの前記植毛穴に植設された1つの毛束において毛丈が異なることを特徴とする請求項1または2記載の研磨パッド用洗浄具。
【請求項6】
前記植毛穴のうち一部または全部は、前記基台の中心を通る直線上に互いに所定の間隔を有して複数が配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の研磨パッド用洗浄具。
【請求項7】
前記毛束を構成する毛材は、ポリアミドにより形成されており、線径が0.3mm~0.5mmであることを特徴とする請求項1または2記載の研磨パッド用洗浄具。
【請求項8】
前記基台は、前記研磨パッドの表面をドレッシングするためのドレッシング装置に取付可能な取付部を有することを特徴とする請求項1または2記載の研磨パッド用洗浄具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing(以下「CMP」と言う))用の研磨装置に取り付けて用いる研磨パッドからスラリーや研磨屑などの残滓を除去するために用いられる洗浄具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の高度化に伴い、より高度な半導体等の生産を効率よく行うことが求められており、その原料となるシリコンウェーハ等の表面を高度に平坦化する技術が求められており、高度の表面平坦性を求められる被研磨物の研磨方法として一般的にCMPが使用されている。
【0003】
このCMPは、回転可能な定盤に固定した研磨パッドに、研磨パッドに対して水平方向に移動可能且つ研磨パッドに対して水平方向に回転可能なキャリアに取り付けた被研磨物を押し当て、被研磨物と研磨パッドの間に化学溶液に微細な砥粒を分散させたスラリー(研磨液)を供給し、被研磨物を研磨パッドに押し当てながら被研磨物と研磨パッドを相対的に摺動させることで研磨を行う方法であり、これにより、スラリーに含まれる化学溶液の化学成分による化学的な作用に加えて、スラリーに含まれる砥粒による機械的な作用を利用して研磨加工を行うものである。
【0004】
研磨パッドを形成する素材は発泡ポリウレタン、不織布、スエードなどが代表的なものとして知られており、更にその表面には、スラリーを均等に行きわたらせること、スラリーを保持すること、研磨屑を排出することなどを目的として、例えば、特開平11-333699号公報(特許文献1)、特開平11-285962号公報(特許文献2)により提示されたように、溝や孔を形成することが一般的に行われており、例えば、溝の幅は1~2mm程度で深さが0.5~1mm程度、孔の直径は1~2mm程度に形成される。
【0005】
研磨パッドは一度のみ使用するものではなく、研磨性能が低下するまで、コンディショニング工程および洗浄工程を経て数回~十数回程度繰り返し使用するものであり、研磨パッドが再度使用可能となるまでの代表的な工程は図21の通りである。
【0006】
ここで、溝や孔を形成した研磨パッドにおいては、コンディショニング工程が終了した後にスラリー凝集物や研磨屑等の残滓が溝や孔に残存するため、表面に比べて洗浄することが困難であるという難点があった。
【0007】
具体的には、コンディショニング工程終了後の溝および孔が形成された研磨パッド(直径600mm)の洗浄を出願人において試みたところ、洗浄液を掛け流しながら手持ち式の洗浄ブラシ(例えば、特開2001-144054号公報(特許文献3)参照)を用いてスラリー凝集物や研磨屑等の残滓を取り除いて研磨パッドを十分に洗浄するには6~8時間程度を要することが分かった。
【0008】
このように、手持ち式の洗浄ブラシを用いての洗浄は多大な時間と労力を必要とすることから、省力化および省時間化が可能となる洗浄方法が強く求められているところ、例えば特開2010-188452号公報(特許文献4)に提示されたような高圧水流による洗浄方法が知られている。
【0009】
しかしながら、高圧水流による洗浄方法はスラリー凝集物や研磨屑等の残滓が空中に飛散するため、雰囲気に漂った残滓がパーティクルとしてCMP装置や被研磨物、その他の周囲にある物に付着してしまうおそれがあった。
【0010】
これに対し、例えば特開2001-237204号公報(特許文献5)に提示されたような超高圧水流と真空吸引とを合わせて残滓の飛散を抑える発明が知られているが、このように超高圧水発生装置と真空発生装置という専用の設備を2種類も研磨パッド洗浄のために備えることは費用的・空間的な負担が大きかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11-333699号公報
【特許文献2】特開平11-285962号公報
【特許文献3】特開2001-144054号公報
【特許文献4】特開2010-188452号公報
【特許文献5】特開2001-237204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、CMPの研磨装置に取り付けられて、溝または孔のうち少なくとも一方が形成されている、スラリー凝集物や研磨屑等の残滓が付着した研磨パッドを効率的で確実に且つ残滓を飛散させずに洗浄可能な洗浄具が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた本発明である研磨パッド用洗浄具は、研磨装置に取り付けられた研磨パッドの、溝または孔のうち少なくとも一方が形成された表面を洗浄する研磨パッド用洗浄具であって、表面に複数の植毛穴が形成された基台と、前記基台の表面から毛先を突出させて前記各植毛穴に植設された複数種類の毛束と、からなり、前記毛束の種類が、毛丈が長い長毛束と、毛丈が前記長毛束よりも短い短毛束を含むことを特徴とする。
【0014】
上記本発明によれば、毛丈の異なる長毛束と短毛束を備えたことによって、研磨パッドの表面は短毛束が、溝および孔の内部は長毛束がそれぞれ洗浄することを可能としており、高圧水流に頼ることなく1つの洗浄具で研磨パッドの表面,溝および孔を同時に洗浄可能であり効率よく確実に研磨パッドの洗浄を行うことができる。
【0015】
また、前記長毛束は、前記短毛束よりも直径が小さい場合、研磨パッドの溝および孔の内部に長毛束が入り込みやすくなる効果、あるいは、研磨パッドの表面を短毛束が効率的に洗浄しやすくなる効果が期待できる。
【0016】
更に、前記長毛束と前記短毛束の毛丈の差が、前記研磨パッドの表面に形成された溝または孔の深さ以上である場合、研磨パッドの溝や孔の隅まで長毛束が入り込み、より確実に洗浄を行うことができる。
【0017】
また、前記長毛束の直径が、前記研磨パッドの表面に形成された溝または孔の幅以下である場合、研磨パッドの溝や孔の内部に長毛束が入り込みやすくなり、より確実に洗浄を行うことができる。
【0018】
更に、前記毛束のうち一部または全部は、1つの前記植毛穴に植設された1つの毛束において毛丈が異なる場合、いわゆる片植え式の毛束やカットした毛束によって構成することで機械植えによる製造がしやすくなり、製造性を向上させることができる。
【0019】
また、前記植毛穴のうち一部または全部は、前記基台の中心を通る直線上に互いに所定の間隔を有して複数が配置されている場合、毛束が一列に並ぶことによってムラなく洗浄することが可能であるとともに洗浄液の流れもスムーズになる。
【0020】
更に、前記毛束を構成する毛材は、ポリアミドにより形成されており、線径が0.3mm~0.5mmである場合、毛の硬さ、弾力性の面で良好な洗浄効果が期待できる。
【0021】
また、前記基台は、前記研磨装置における前記研磨パッドの表面をドレッシングするためのドレッシング装置に取付可能な取付部を有する場合、ドレッシング装置への取付が容易であり、ドレッシング装置を用いた洗浄の自動化とドレッシング工程と洗浄工程を同時に行うことによる省時間化をともに達成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高圧水流に頼らずに1つの洗浄具でCMPにおける研磨工程後の研磨パッドの表面と溝や孔の内部とを同時に洗浄可能であるため効率的で確実に且つ残滓を飛散させずに洗浄可能とすることができる。
【0023】
更に、研磨パッド用洗浄具が前記研磨パッドの表面を平坦化するためのドレッシング装置に取り付けて使用可能な場合は、ドレッシング装置を用いた洗浄の自動化とドレッシング工程と洗浄工程を同時に行うことによる効率化をともに達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明である研磨パッド用洗浄具の好ましい実施の形態を示す斜視図。
図2図1に示した実施の形態の平面図。
図3図2のA-A線に沿う拡大断面図。
図4】本発明における毛材の植え方を示す説明図。
図5】研磨パッド用洗浄具の異なる実施の形態を示す斜視図。
図6】本発明において1つの毛束で毛丈が異なる状態の毛材の植え方を示す説明図。
図7】CMPにおける研磨装置を示す説明図。
図8】CMPにおけるドレッシング装置を示す説明図。
図9】本発明である研磨パッド用洗浄具による被洗浄物である研磨パッドの一例を示す斜視図。
図10図9に示した研磨パッドの部分拡大断面図。
図11】本発明である研磨パッド用洗浄具を用いて研磨パッドが再度使用可能となるまでの代表的な工程を示すフロー図。
図12図1に示した研磨パッド用洗浄具をドレッシング装置の回転盤に装着した状態を示す平面図。
図13図1に示した研磨パッド用洗浄具の使用前の状態を示す概略図。
図14図1に示した研磨パッド用洗浄具の使用中の状態を示す概略図。
図15図1に示した実施の形態における洗浄時における洗浄効果の評価を測定する洗浄効果の評価測定機の概略図。
図16図15に示した評価測定機により研磨パッドを洗浄した際の排出される洗浄液中のパーティクルの量を経時的に示した測定図。
図17図15に示した評価測定機により研磨パッドを洗浄した際の排出される洗浄液の比抵抗値(MΩ)を経時的に示した測定図。
図18】実験1の検証結果を示す図。
図19】実験2の実験装置を示す図。
図20】実験2の検証結果を示す図。
図21】従来例における研磨パッドが再度使用可能となるまでの代表的な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0026】
図1乃至図3は、研磨装置に取り付けられた研磨パッドを洗浄するための本発明である研磨パッド用洗浄具1についての好ましい実施の形態を示すものであり、この研磨パッド用洗浄具1は、表面11に複数の植毛穴が形成された基台10と、前記基台10の表面11から毛先を突出させて前記各植毛穴に植設された複数種類の毛束20とからなる、回転ブラシ式の洗浄具である。
【0027】
そして、前記毛束20の種類が、前記基台10の表面11から毛先までの長さである毛丈L1が長い長毛束21と、前記基台10の表面11から毛先までの長さである毛丈L2が前記長毛束21よりも短い短毛束22を含むことを本発明の特徴とする。
【0028】
前記基台10は、本実施の形態において直径20mm、厚み3.5mmの円盤型の硬質合成樹脂によって形成されており、例えばポリ塩化ビニルやポリアミドなどが使用可能であって、特にエンジニアリングプラスチックであるモノマーキャストナイロンは発塵防止性能に優れており好適である。
【0029】
前記基台10の表面11には、複数の植毛穴が設けられており、本実施の形態においてこの植毛穴は直径1.0mmの小径植毛穴12と直径1.8mmの大径植毛穴13の2種類からなり、前記小径植毛穴12には前記長毛束21が、前記大径植毛穴13には前記短毛束22がそれぞれ植設されている。
【0030】
また、前記植毛穴のうち一部は、前記基台10の中心を通る直線上に互いに所定の間隔を有して複数が配置されており、毛束が一列に並ぶことによってムラなく洗浄することが可能であるとともに洗浄液の流れもスムーズになる。
【0031】
前記基台10には、厚み方向に貫通形成された貫通孔14に固定されたインサートナットによる取付部15が形成されており、前記取付部15は後述するドレッシング装置に装着するためのものである。尚、取付部は内ねじを有するものに限られず、例えば単なる貫通孔のみであってもよい。
【0032】
前記長毛束21および前記短毛束22は、前記小径植毛穴12および前記大径植毛穴13にそれぞれ植え込まれたポリアミド製の毛材により構成されており、特にPA66が好適である。前記毛材の線径は0.3mm~0.5mmが好適であり、本実施の形態においては線径0.3mmとした。
【0033】
前記長毛束21の直径W1は前記小径植毛穴12の直径と等しい1.0mmであり、前記短毛束22の直径W2は前記大径植毛穴13の直径と等しい1.8mmである。
【0034】
本実施の形態における前記長毛束21の前記基台10の表面11から毛先までの長さである毛丈L1は4.5mmであり、前記短毛束22の前記基台10の表面11から毛先までの長さである毛丈L2は3.7mmである。従って、前記長毛束21と前記短毛束22の毛丈の差は0.8mmとなる。
【0035】
このように、前記毛束の種類を、毛丈の異なる前記長毛束21と前記短毛束22の2種類備えたことによって、研磨パッドの表面は主に短毛束22が、溝および孔の内部は長毛束21がそれぞれ洗浄することを可能としており、高圧水流に頼ることなく1つの洗浄具で研磨パッドの表面,溝および孔を同時に洗浄可能であり短時間で確実に研磨パッドの洗浄を行うことができる。
【0036】
尚、前記毛束の種類は長毛束と短毛束の2種類に限られるものではなく、例えば中間の毛丈を有する中毛束を加えた3種類としてもよく、更に細分化して4種類以上としてもよい(図示せず)。
【0037】
前記毛束の植設手段は、図4(a)に示したように毛材の一端を接着剤31により接着して植えることや、図4(b)に示したように折り曲げた毛材を糸32で固定して植えることや、図4(c)に示したように折り曲げた毛材を丸線(金属製線材)33を打ち込んで固定して植えることや、図4(d)に示したように折り曲げた毛材を平線(金属製板材)34を打ち込んで固定して植えることなどが可能であり、その方法は問わない。
【0038】
尚、これらの毛束の植設手段は一例であってこれらに限るものではなく、前記毛材が脱落することなく前記植毛穴に固定されていればよい。
【0039】
また、例えば図5に示した実施の形態のように、1つの前記植毛穴に植設された1つの毛束において毛丈が異なるものとすることも可能であり、図6(a)に示したように折り曲げた毛材の両端の毛丈をずらした状態で平線34を打ち込んで固定する、いわゆる片植え式の毛束や、図6(b)に示したように折り曲げた毛材の両端の毛丈を揃えた状態で平線34を打ち込んで固定した後にカットする方式の毛束によって構成することができる。そうすると、打ち込みによって植える方法の機械植えによる製造がしやすくなり、製造性を向上させることができる。
【0040】
次に、本発明である研磨パッド用洗浄具1の使用方法について詳細に説明する。
【0041】
前記研磨パッド用洗浄具1は、CMPにおける研磨装置において用いる、研磨工程終了後のスラリー凝集物や研磨屑等の残滓Rが付着した研磨パッドを洗浄するものであって、前記研磨パッドの表面をドレッシングするためのドレッシング装置に取り付けて使用される。
【0042】
図7は研磨装置を示す図であり、この図に示すように、研磨装置5は、研磨パッド6を固定して回転可能な定盤51と、前記定盤51に対して水平移動および上下移動可能なアーム52と、前記アーム52の先端に取り付けられて前記定盤51に対して回転可能なキャリア53と、スラリーを供給するノズル54と、を有する従来周知のCMP用の研磨装置であり、前記キャリア53に例えばシリコンウェーハなどの被研磨物7を装着し、スラリーを供給しながら、前記研磨パッド6に前記被研磨物7を押し当てつつ相対的に摺動させることによって研磨するものである。
【0043】
また、CMPの中で前記研磨装置5はドレッシング装置と合わせて使用される。図8はドレッシング装置を示す図であり、この図に示すように、ドレッシング装置8は、前記定盤51に対して上下移動および回転可能な回転盤81と、研磨面を前記定盤51に向けて前記回転盤81に装着されるコンディショナー82と、洗浄液を供給するノズル83と、を有する従来周知のCMP用のドレッシング装置であり、前記ドレッシング装置8によって前記研磨パッド6を前記定盤51に固定したまま前記研磨パッド6の表面61をドレッシングするものである。
【0044】
前記コンディショナー82は研磨面となる表面にダイヤモンド砥粒などの研磨材を固着したものであって、直径20mm、厚さ7.2mmのものを用いており、厚み方向に形成された内ねじによる取付部が形成されており、前記回転盤に複数個(例えば、36個)装着して使用される。
【0045】
図9および図10は研磨パッド6の一例を示すものであり、前記研磨パッド6は発泡ポリウレタン製で直径が600mm、厚さWが0.8mmの薄い円板状で、研磨面となる表面61に幅が2mmで深さが0.5mmの溝62と、直径2mmの孔63とが幾何学的模様のようにそれぞれ複数形成されていることによって、前記溝62や前記孔63の縁部が物理的な研磨効果を発揮するとともにスラリーを均等に行きわたらせること、スラリーを保持すること、研磨屑を排出することなどを可能としている。
【0046】
尚、研磨パッドが例えば不織布やスエードなどの発泡ポリウレタン以外の素材であったり、また、例えば硬度の高いポリウレタンと硬度の低いポリウレタンとを組み合わせた2層式の研磨パッドであったとしても本発明は問題なく実施可能である(図示せず)。
【0047】
図11は本発明である研磨パッド用洗浄具1を用いた場合の研磨パッド6が再度使用可能となるまでの代表的な工程を示す図である。この図に示すように、前記図21に示した従来の研磨パッドが再度使用可能となるまでの代表的な工程に比べて、ドレッシング工程と洗浄工程を同時に自動的に処理することが可能となり、且つ洗浄の度合いも従来より格段に向上させることができる。
【0048】
前記研磨装置5による研磨工程が終了したら、図12に示すように、通常のドレッシング工程用の前記コンディショナー82を32個、前記研磨パッド用洗浄具1を4個設置した状態の前記ドレッシング装置8の回転盤81を、溝62および孔63を含む表面61にスラリー凝集物や研磨屑等の残滓Rが付着した状態の研磨パッド6に向かい合わせる。
【0049】
このとき、前記研磨パッド用洗浄具1は前記コンディショナー82と、その直径および取付部の構造を共通化したことによって、前記コンディショナー82と置き換えて前記回転盤81に装着することが可能となっている。
【0050】
そして、次に図13および図14に示すように、前記回転盤81を降下させて、前記ノズル83から洗浄液を供給しながら、前記研磨パッド6に押し当てつつ前記定盤51および前記回転81を相対的に回転させることによって、前記研磨パッド6の表面61を前記コンディショナー82によってドレッシングしながら、前記研磨パッド用洗浄具1の前記毛束20によって前記研磨パッド6の表面61、溝62、孔63をくまなく洗浄するものである。尚、符号16は前記取付部15と前記回転盤81とを固定する固定具である。
【0051】
また、前記研磨パッド用洗浄具1は、前記長毛束21の毛丈L1が、前記短毛束22の毛丈L2よりも0.8mm長く形成されていることで、前記研磨パッド6に形成された溝の深さD1(0.5mm)および孔の深さD2(0.8mm)以上であるため、前記研磨パッド6の溝62および孔63の隅まで前記長毛束21が入り込み、より確実に洗浄を行うことができる。
【0052】
殊に、前記研磨パッド用洗浄具1は、前記長毛束21の直径W1(1.0mm)が、前記研磨パッド6に形成された溝の幅W3(2.0mm)および孔の幅W4(2.0mm)以下であるため、前記研磨パッド6の溝62および孔63の内部に前記長毛束21が入り込みやすくなり、より確実に洗浄を行うことができる。
【0053】
そして、前記長毛束21および前記短毛束22を形成する毛材は、線径0.3mmの比較的硬質なポリアミドにより形成されているので剛性および弾力性に優れており洗浄効果が高く、微細な太さの毛先が前記溝62や前記孔63内に入り込んで洗浄可能であり、前記回転盤81を前記研磨パッド6へ押し当てる際の10kg/m2の圧力を十分に前記研磨パッド6へ伝えて洗浄可能である。
【0054】
尚、前記図11に示した研磨工程と、ドレッシング工程と、洗浄工程(およびリンス工程)を全て同時に行うものであってもよい。すなわち、研磨装置5とドレッシング装置8を同時に配置して、研磨しながらドレッシングと洗浄(およびリンス)を行うものであっても本発明は実施可能である(図示せず)。
【0055】
また、本発明の実施の形態において示した寸法は一例を示すものであって、この数値範囲に限定されるものではなく、本発明を実施可能であればその形状を問わない。
【0056】
図15は、本発明である研磨パッド用洗浄具1の洗浄評価装置9を示すものであり、前記図14に示した使用状態において、研磨パッド6を設置した定盤51の下部に樋のように洗浄液受91を配置して、その底部に形成した排水管92の途中にトラップ93を設け、洗浄中に前記トラップ93を通過するパーティクル量の経時的変化および洗浄液の比抵抗の経時的変化を測定することにより洗浄効果を測定するものである。
【0057】
図16は本実施の形態について前記洗浄評価装置9によりパーティクル量の経時的変化を測定した結果を示した関係図であり、また、図17は前記洗浄評価装置9により比抵抗値の経時的変化を測定した結果を示した関係図である。
【0058】
これら図に示すように、前記図16では洗浄の開始とともに金属イオンを含むパーティクル量が増加して洗浄が進むと次第に減少していく様子が、前記図17では洗浄の開始とともに比抵抗(電流の流れ難さ)が一旦減少して洗浄が進むと次第に増加していく様子がそれぞれ確認でき、前記研磨パッド6に付着したスラリー凝集物や研磨屑等の残滓Rが経時的に洗浄されていく様子が分かり、本発明である研磨パッド洗浄具1が有効であることが確認できた。
【0059】
次に、本発明における毛材の適切な太さの検証結果について説明する。
【0060】
前記研磨パッド用洗浄具1において、基台10の構成は同一として、長毛束21および短毛束22を構成する毛材の直径および毛材の植え方を変化させた、下記表1に示した各実施例について、感圧フィルムを用いた実験によって洗浄の効果を確認した。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1,2は前記基台10の植毛穴に毛材を接着する方法(前記図4(a)参照)の手植えによって植設したものであり、実施例3~6は前記基台10の植毛穴に折り曲げた毛材の両端の毛丈をずらした状態で挿入して平線34を打ち込んで固定する、いわゆる片植え式の方法(前記図6(a)参照)の機械植えによって植設したものである。いずれの実施例も、1種類の毛材を用いて長毛束と短毛束を構成している。
【0063】
<実験1:手動操作による実験>
まず、手動操作による実験を行った。テーブルの上に感圧フィルム(富士フイルム社製 プレシート 極超低圧用 LLLW-PS)を載せて固定し、その上に未使用の研磨パッドを載せて固定した状態で、研磨パッド用洗浄具を各実施例から1種類選んで手動操作によって前記研磨パッドに擦り当てて、感圧紙に現れた模様から、前記研磨パッドの表面、溝、孔の全てに圧力が掛かっていること、すなわち前記研磨パッド用洗浄具の毛束が前記研磨パッドをくまなく洗浄できているか否かを検証した。
【0064】
図18は上記実験1の検証結果であり、この図に示すように、実施例1,2,3については前記研磨パッドの表面にあたる箇所の感圧フィルムが線状に着色されているのみならず、前記研磨パッドの孔にあたる箇所の感圧フィルムが水玉状に着色されており、前記研磨パッド用洗浄具の長毛束が前記孔に入り込んで感圧紙に圧力を与えたことが検証された。
【0065】
反面、実施例4,5,6については前記研磨パッドの表面にあたる箇所の感圧フィルムが線状に着色されている一方、前記研磨パッドの孔にあたる箇所の感圧フィルムが白く抜けており、前記研磨パッド用洗浄具の長毛束は前記孔に入り込んで感圧フィルムに圧力を与えられていないことが検証された。
【0066】
このように実施例4,5,6について前記研磨パッド用洗浄具の長毛束が前記孔にあたる箇所の感圧フィルムに圧力を与えられていない理由は、線径が過度に細すぎることによって剛性および弾力性が不足していることが想定される。
【0067】
<実験2:実機による実験>
続いて、実機による実験を行った。図19に示すように、前記研磨装置5の定盤51の上に感圧フィルムF(富士フイルム社製 プレシート 極超低圧用 LLLW-PS)を載せて固定し、その上に未使用の前記研磨パッド6を載せて固定した状態で、前記ドレッシング装置8の回転盤81に研磨パッド用洗浄具を各実施例から1種類選んで取り付けた。
【0068】
そして、前記回転盤81を降下させて、10kg/m2の圧力で前記研磨パッド6に押し当てつつ前記回転盤81のみを回転させることによって、前記研磨パッド用洗浄具を決まった軌道上で移動させ、前記感圧フィルムFに現れた模様から、前記研磨パッド6の表面61、溝62、孔63の全てに圧力が掛かって変色していること、すなわち前記研磨パッド用洗浄具の毛束が前記研磨パッド6をくまなく洗浄できているか否かを検証した。
【0069】
実験2は、実施例1,2,3および6について実験した。図20は上記実験2の検証結果であり、この図に示すように、実施例2,3については特に良好な結果が得られ、前記研磨パッド用洗浄具の軌道上全体が着色されており、前記研磨パッド6の表面61、溝62、孔63の全域で感圧フィルムFに圧力を与えたことが検証された。
【0070】
また、実施例1についても同様に良好な結果が得られ、前記研磨パッド6の溝62にあたる箇所がやや白く抜けてしまっているものの、前記研磨パッド用洗浄具の軌道上のほぼ全体が着色されており、前記研磨パッド6の表面61、溝62、孔63の全域で感圧フィルムFに圧力を与えたことが検証された。
【0071】
反面、実施例6については前記研磨パッド6の表面61および溝62にあたる箇所の感圧フィルムFが線状に着色されている一方、前記研磨パッド6の孔63にあたる箇所の感圧フィルムFが白く抜けており、前記研磨パッド用洗浄具の長毛束が前記孔にあたる箇所の感圧フィルムに圧力を与えられていないことが検証された。
【0072】
上記実験1,実験2の結果をまとめると、前記表1のテスト結果欄に示すように、実施例1,2,3については良好な結果を得られたため、本発明における毛材の適切な太さは0.3mm~0.5mmであることが検証され、植え方については手植えと機械植えのどちらであっても問題がないことが検証された。
【符号の説明】
【0073】
1 研磨パッド用洗浄具、2 研磨パッド用洗浄具、3 、4 、5 研磨装置、6 研磨パッド、7 被研磨物、8 ドレッシング装置、9 洗浄評価装置、10 基台、11 表面、12 小径植毛穴、13 大径植毛穴、14 貫通孔、15 取付部、16 固定具、20 毛束、21 長毛束、22 短毛束、31 接着剤、32 糸、33 丸線、34 平線、51 定盤、52 アーム、53 キャリア、54 ノズル、61 表面、62 溝、63 孔、81 回転盤、82 コンディショナー、83 ノズル、R 残滓、F 感圧フィルム、D1 溝の深さ、D2 孔の深さ、L1 長毛束の毛丈、L2 短毛束の毛丈、W1 長毛束の直径、W2 短毛束の直径、W3 溝の幅、W4 孔の幅
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