(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160545
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】骨折内固定具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/72 20060101AFI20231026BHJP
A61B 17/76 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
A61B17/72
A61B17/76
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070978
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】518176079
【氏名又は名称】メディカルサン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518176080
【氏名又は名称】MIKE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 謙
(72)【発明者】
【氏名】宇野 正憲
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL26
4C160LL27
4C160LL43
4C160LL44
4C160LL54
4C160LL55
(57)【要約】
【課題】転子下等の髄内釘の軸線方向の途中部位に生じた骨折の治癒を促進することができる骨折内固定具を提供すること。
【解決手段】基端部に設けられた径方向貫通孔22及び基端側から軸線方向に延在して径方向貫通孔22と交差する軸線方向孔24を有する髄内釘20と、径方向貫通孔22を、髄内釘20の軸線方向に所定のストロークをもって変位可能に貫通する内固定部材50と、軸線方向孔24内に設けられ、内固定部材50を髄内釘20の先端部側に向けて押し込み可能に内固定部材50に軸線方向に摺動可能に係合するスライド部材32と、スライド部材を髄内釘20に対して髄内釘20の先端部側に向けて軸線方向に押し込む方向に駆動する作動部材38とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿骨骨折の治療用の骨折内固定具であって、
大腿骨転子部から大腿骨骨幹部の髄腔内に向けて挿入されるべき先端部及び基端部を含み、前記基端部に設けられた径方向貫通孔及び基端側から軸線方向に延在して前記径方向貫通孔と交差する軸線方向孔を有する髄内釘と、
前記大腿骨転子部を通過して大腿骨頭部に挿入されるべく、前記径方向貫通孔を、前記髄内釘の前記軸線方向に所定のストロークをもって変位可能に貫通する内固定部材と、
前記軸線方向孔内に設けられ、前記内固定部材を前記髄内釘の前記先端部側に向けて押し込むべく、前記髄内釘に前記軸線方向に移動可能に係合するスライド部材と、
前記スライド部材を前記髄内釘に対して前記髄内釘の前記先端部側に向けて前記軸線方向に押し込む方向に駆動する作動部材とを有する骨折内固定具。
【請求項2】
前記スライド部材は、前記内固定部材を押し込み可能に且つ引き抜き可能に係合するべく、径方向に貫通して前記内固定部材を受容する係合孔を有する請求項1に記載の骨折内固定具。
【請求項3】
前記髄内釘は前記軸線方向孔に内ねじを備え、
前記作動部材は前記髄内釘の内ねじに螺合する外ねじを有する請求項1又は2に記載の骨折内固定具。
【請求項4】
前記スライド部材は、前記基端側に向けて開口し、内ねじを備えた中心孔を有し、
前記スライド部材の内ねじに螺合する外ねじを備え、前記内固定部材に当接可能な先端を有する回り止め部材を更に有する請求項1又は2に記載の骨折内固定具。
【請求項5】
前記内固定部材は外周に係合部を備え、
前記回り止め部材は、先端に、前記係合部に係合する被係合部を有する請求項4に記載の骨折内固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折内固定具に関し、特に、大腿骨骨折の治療用の骨折内固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
大腿骨骨折の治療のための骨折内固定具として、径方向貫通孔を備え、大腿骨骨幹部に挿入されるネイル(髄内釘)と、前記径方向貫通孔を貫通して前記ネイルに固定され、大腿骨頭部に挿入されるインプラントシャフト(内固定部材)と、インプラントシャフトの軸線に対して傾斜した方向に前記径方向貫通孔を貫通し、大腿骨頭部に対するインプラントシャフトの回転を防止する回転防止ねじとを有するものや(例えば、特許文献1の
図53)、ネイルに対するインプラントシャフトの取付角度を調節することができるもの(例えば、特許文献2)が知られている。
【0003】
また、大腿骨骨折の治療のための骨折内固定具として、ラグスクリュがネイルに固定されたスリーブの軸線(大腿骨頚部軸)方向に変位可能に嵌合し、ラグスクリュにねじ係合した軸状部材によってラグスクリュを軸線方向に引き寄せる方向に駆動する圧迫機構を備えた骨折内固定具が知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-13772号公報
【特許文献2】特開2021-112648号公報
【特許文献3】特開2012-71009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に示されている骨折内固定具は、大腿骨頭部に挿入されるラグスクリュの軸線方向の途中に生じた骨折部を圧迫することができるが、転子下等、ネイルの軸線(大腿骨骨幹部軸)方向の途中部位に生じた骨折部を圧迫することはできない。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、転子下等の髄内釘の軸線方向の途中部位に生じた骨折の治癒を促進することができる骨折内固定具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、大腿骨骨折の治療用の骨折内固定具(10)であって、大腿骨転子部(106)から大腿骨骨幹部(102)の髄腔(104)内に向けて挿入されるべき先端部(20A)及び基端部(20B)を含み、前記基端部に設けられた径方向貫通孔(22)及び基端側から軸線方向に延在して前記径方向貫通孔と交差する軸線方向孔(24)を有する髄内釘(20)と、前記大腿骨転子部を通過して大腿骨頭部(110)に挿入されるべく、前記径方向貫通孔を、前記髄内釘の前記軸線方向に所定のストロークをもって変位可能に貫通する内固定部材(50)と、前記軸線方向孔内に設けられ、前記内固定部材を前記髄内釘の前記先端部側に向けて押し込むべく、前記髄内釘に前記軸線方向に摺動可能に係合するスライド部材(32)と、前記スライド部材を前記髄内釘に対して前記髄内釘の前記先端部側に向けて前記軸線方向に押し込む方向に駆動する作動部材(38)とを有する。
【0008】
この態様によれば、転子下等の髄内釘の軸線方向の途中部位に生じた骨折部の骨同士を接触させることができ、髄内釘の軸線方向の途中部位に生じた骨折の治癒を促進することができる。
【0009】
上記の態様において、前記スライド部材は、前記内固定部材を押し込み可能に且つ引き抜き可能に係合するべく、径方向に貫通して前記内固定部材を受容する係合孔(34)を有してもよい。
【0010】
この態様によれば、髄内釘に対して内固定部材が押し込み方向及び引き抜き方向の双方に変位可能で、骨折部の圧迫加減を調節することができる。
【0011】
上記の態様において、前記髄内釘は前記軸線方向孔に内ねじ(24A)を備え、前記作動部材は前記髄内釘の内ねじに螺合する外ねじ(38A)を有していてもよい。
【0012】
この態様によれば、作動部材は螺進によってスライド部材を確実に駆動する。
【0013】
上記の態様において、前記スライド部材は、前記基端側に向けて開口し、内ねじ(40A)を備えた中心孔(40)を有し、前記スライド部材の内ねじに螺合する外ねじ(42D)を備え、前記内固定部材に当接可能な先端を有する回り止め部材(42)を更に有していてもよい。
【0014】
この態様によれば、髄内釘に対する内固定部材の回り止めが行われる。
【0015】
上記の態様において、前記内固定部材は外周に係合部(52)を備え、前記回り止め部材は、先端に、前記係合部に係合する被係合部(42C)を有していてもよい。
【0016】
この態様によれば、髄内釘に対する内固定部材の回り止めが確実に行われる。
【発明の効果】
【0017】
以上の態様によれば、転子下等の髄内釘の軸線方向の途中部位に生じた骨折の治癒を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明による骨折内固定具の大腿骨に対する装着状態(転子下骨折の非圧迫状態)の一つの実施形態を示す断面図
【
図2】同実施形態の骨折内固定具の大腿骨に対する装着状態(転子下骨折の圧迫状態)を示す断面図
【
図4】同実施形態の骨折内固定具の要部の拡大断面図
【
図5】同実施形態の骨折内固定具のスリーブ部材及び作動部材の分解斜視図
【
図6】本発明による骨折内固定具の大腿骨に対する装着状態(転子部骨折の非圧迫状態)の一つの実施形態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る骨折内固定具の実施形態について説明する。
【0020】
本実施形態の骨折内固定具10は、
図1及び
図2に示されているように、大腿骨100の骨折、特に髄内釘の軸線方向の途中部位である転子下の骨折部120の治療に用いられる。
【0021】
骨折内固定具10は、
図1~
図3に示されているように、髄内釘(ネイル)20と、丸棒状の内固定部材(ラグスクリュ)50とを有する。
【0022】
髄内釘20は、大腿骨骨幹部102の髄腔104内に配置されるべき軸状の部材であり、大腿骨転子部106の上部から髄腔104に挿入されるべく、先細形状の先端部(遠位端)20Aを備えている。
【0023】
髄内釘20は、軸線方向で見て先端部20Aとは反対側、つまり、基端部(近位端)20Bの近傍に、髄内釘20の中心軸線に対して傾斜して径方向に貫通する径方向貫通孔22を有する。
【0024】
髄内釘20は、基端部20Bから軸線方向に延在して径方向貫通孔22と交差する軸線方向孔24及び軸線方向孔24の底部(下部終端)から先端部20Aに至る延長孔26を有する。軸線方向孔24は、延長孔26より大きい内径を有し、髄内釘20の上端に開口している。髄内釘20は、更に、径方向貫通孔22よりも基端部20B側において髄内釘20の中心軸線に対して傾斜して径方向に貫通する仮止め用貫通孔28及び先端部20Aの近傍を径方向に貫通する固定ねじ用孔30を有する。
【0025】
径方向貫通孔22は、横幅を内固定部材50の外径に等しいか、或いはそれより少し大きい寸法に設定され、軸線方向長を内固定部材50の外径よりも大きい寸法に設定され、正面視で、軸線方向に長い長孔として形成されている。
【0026】
軸線方向孔24は、
図4に示されているように、延長孔26より大きい内径を有し、髄内釘20の上端に開口している。軸線方向孔24は、上端の開口側から所定のストローク(軸長)に亘る区間において内ねじ(雌ねじ)24Aを形成されており、内ねじ24Aから下部終端に至る区間において、楕円形等の非円形の横断面形状を有する非円形孔24Bを形成している。
【0027】
軸線方向孔24内にはスリーブ形状のスライド部材32が軸線方向に摺動可能に設けられている。スライド部材32は、内固定部材50を髄内釘20の先端部20A側に向けて押し込むべく、髄内釘20に軸線方向に摺動可能に係合している。換言すると、スライド部材32は、内固定部材50に対して髄内釘20を引き上げる方向及びその反対方向である押し下げる方向に、髄内釘20に軸線方向に摺動可能に係合している。
【0028】
スライド部材32は、
図4及び
図5に示されているように、非円形孔24Bに回り止め係合するべく、楕円形等の非円形の横断面形状を有する非円形筒部32Aを有する。スライド部材32は非円形筒部32Aの上端に設けられた円形筒部32Bを有する。円形筒部32Bの外周には円環溝32Cが形成されている。
【0029】
スライド部材32の非円形筒部32Aには径方向貫通孔22と同じ傾斜角をもって径方向に貫通した係合孔34が形成されている。係合孔34は、内固定部材50を受容するべく内固定部材50の外径に等しいか、それよりも少し大きい内径の円形孔であり、スライド部材32が上限位置にあるときに(
図1及び
図4参照)、髄内釘20の径方向貫通孔22に整合、より詳細には、径方向貫通孔22の上側のストロークエンド部に整合する。
【0030】
スライド部材32の上限位置とは、
図1及び
図4に示されているように、内固定部材50が径方向貫通孔22及び係合孔34を貫通した取付状態において、軸線方向孔24内のスライド部材32が最も上方に配置される位置である。
【0031】
非円形筒部32Aには仮止め用貫通孔28と同じ傾斜角をもって径方向に貫通した仮止め用貫通孔36が形成されている。仮止め用貫通孔36は、スライド部材32が上限位置にあるときに(
図1及び
図4参照)、髄内釘20の径方向貫通孔22の上側のストロークエンド部に整合する。
【0032】
髄内釘20の内ねじ24Aには作動部材38の外ねじ(雄ねじ)38Aが螺進可能に螺合している。作動部材38は下端に半円筒形状部38Bを有する。半円筒形状部38Bには円環溝32Cに回転変位可能に且つ軸線方向に係合するフランジ部38Cが形成されている。円環溝32Cとフランジ部38Cとによる相対回転可能なスライド部材32と作動部材38との係合は、
図5に示されているように、スライド部材32及び作動部材38が軸線方向孔24に組み込まれる以前の状態下で、スライド部材32に対して作動部材38を径方向外方から径方向内方に移動させることにより行われる。作動部材38の上端部には作動部材38を回転させるための工具が係合する六角孔による工具係合孔39が形成されている。工具係合孔39は髄内釘20の基端側(上端)に向けて開口している。
【0033】
スライド部材32は作動部材38の螺進によって髄内釘20に対して軸線方向に移動する。換言すると、作動部材38は、スライド部材32を髄内釘20に対して髄内釘20の先端部20A側に向けて軸線方向に押し込む方向及び軸線方向で見て押し込む方向とは反対の引き抜く方向に駆動する。更に換言すると、作動部材38は、スライド部材32を、内固定部材50に対して髄内釘20を引き上げる方向及びその反対方向である押し下げる方向に駆動する。
【0034】
スライド部材32は軸線方向に貫通した髄内釘20の基端側(上端)に向けて開口した中心孔40を有する。中心孔40は上端側に内ねじ40Aを備えている。中心孔40には回り止め部材42が設けられている。回り止め部材42は、内固定部材50の外周面に当接可能な先端を有し、中心孔40に回り止め状態で軸線方向に摺動可能に係合した係合部材42A及び係合部材42Aに対して回転変位可能に且つ軸線方向に係合したねじ部材42Bを有する。係合部材42Aは、先端に、後述する内固定部材50の凹部(係合部)52に係合する二叉形状の突部(被係合部)42Cを有する。ねじ部材42Bは内ねじ40Aに螺進可能に螺合する外ねじ42Dを備えている。
【0035】
ねじ部材42Bの上端部には、回り止め部材42を回転させるための工具が係合する六角孔による工具係合孔41が形成されている。工具係合孔41は髄内釘20の基端側(上端)に向けて開口している。
【0036】
作動部材38は工具係合孔39に連通するねじ孔38Dを備えている。ねじ孔38Dにはキャップ44(
図2及び
図3参照)がねじ係合している。
【0037】
内固定部材50は、大腿骨転子部106及び大腿骨頸部108を通過して大腿骨頭部110に挿入されるべき円柱状の部材であり、髄内釘20の径方向貫通孔22を貫通すると共にスライド部材32の係合孔34に軸線方向に摺動可能に且つ中心軸線周りに回転可能に嵌合している。つまり、係合孔34は、内固定部材50を押し込み可能に且つ引き抜き可能に係合するべく、内固定部材50を受容している。このようにして、スライド部材32と内固定部材50とは軸線方向には実質的に相対変位不能に互い連結される。
【0038】
内固定部材50は、回り止め部材42によってスライド部材32に固定されている。内固定部材50は大腿骨頭部110に位置する先端部(他端部)50B側の外周にねじ部54を有する。内固定部材50は、基端部50Aを近位端、先端部50Bを遠位端と呼ばれることがある。
【0039】
内固定部材50は、基端部50A側、より詳細には径方向貫通孔22及び係合孔34を貫通する部位の外周面に、回り止め部材42との係合部として、周方向に互いに間隔をおいて複数の凹部52を備えている。凹部52は、内固定部材50の外周周りに45度の回転角の回転位相差をもって4個設けられており、各凹部52は内固定部材50の軸線方向に延在する長溝である。
【0040】
内固定部材50は、回り止め部材42のねじ部材42Bの螺進によって二叉形状の突部42Cが、隣り合う2個の凹部52に嵌り込み係合し、凹部52に押し付けられることにより、髄内釘20に回り止め状態で固定される。凹部52が長溝であることにより、髄内釘20から大腿骨頭部110に向かう内固定部材50の長さが可変設定される。
【0041】
内固定部材50は、基端部50Aに内固定部材50を自身の中心軸線周りに回転させるためのスリットを有する工具係合部56を有する。内固定部材50が髄内釘20に対して初期回転位置(デフォルト位置)にある状態において、工具係合部56が下側に位置する部分は、大腿骨骨幹部102との干渉を避けるべく、切欠部56Aになっている。
【0042】
内固定部材50は傾斜内孔58(
図1参照)を備えている。傾斜内孔58は、内固定部材50の中心軸線に対して2~4度の傾斜角をもって傾斜して延在し、内固定部材50の基端部50Aにおいて外方に向けて開口し、且つ内固定部材50の軸線方向の中間部において外方に向けて開口している。
【0043】
傾斜内孔58には回転防止ピン60が嵌合している。回転防止ピン60は、半球状の先端部60Aを有し、大腿骨頭部110に対する内固定部材50の回転を防止すべく、大腿骨頭部110内に配置されるように内固定部材50の先端部50B側において内固定部材50から外方に延出した外部延出部を含む。回転防止ピン60は、傾斜内孔58に形成された内ねじ(不図示)にねじ係合し、内固定部材50に固定されている。
【0044】
次に、大腿骨転子下に骨折部120がある場合の、骨折内固定具10の取り付け手順について説明する。
【0045】
(1)先ず、
図1に示されているように、先端部20Aを先にして髄内釘20を、大腿骨転子部106の上部から骨折部120を通過するように大腿骨骨幹部102に向けて髄腔104内に突入させる。
【0046】
(2)次に、図示されてないが、仮止めピンを、仮止め用貫通孔28、36を貫通させて大腿骨転子部106内に挿入する。
【0047】
(3)次に、ねじ部54を先にして、工具係合部56に回転工具(不図示)を係合させて回転工具によって内固定部材50を回転させながら内固定部材50を大腿骨骨幹部102の外側から径方向貫通孔22及び係合孔34に挿入し、ねじ部46を、大腿骨転子部106及び大腿骨頸部108を通過させて大腿骨頭部110内に挿入する。
【0048】
内固定部材50の挿入完了状態では、固定ねじ用孔30を含む髄内釘20の先端部20Aの側は、骨折部120よりも大腿骨骨幹部102の側、つまり骨折部120の一方の側に位置する。これに対して、内固定部材50のねじ部54は、大腿骨頭部110、つまり骨折部120の他方の側に位置する。
【0049】
(4)内固定部材50の挿入完了段階で、傾斜内孔58が内固定部材50の真下、真上或いは左右真横の何れかの位置に位置するように、内固定部材50を自身の中心軸線周りに回転させる。これは、内固定部材50が径方向貫通孔22及び係合孔34に回転可能に嵌合している状態で、傾斜内孔58の、内固定部材50の中心軸線周りの位置が調整(変更)可能であることを意味する。
図1及び
図2は、傾斜内孔58が内固定部材50の真下位置に位置している例を示している。
【0050】
(5)傾斜内孔58の位置調整完了後に、回り止め部材42の工具係合孔41に工具を係合させてねじ部材42Bを螺進させ、係合部材42Aの突部42Cを対応する凹部52に係合させる。これにより、髄内釘20に対する内固定部材50の回り止め及び固定が行われる。
【0051】
(6)傾斜内孔58に回転防止ピン60を挿入する。
【0052】
(7)仮止めピン(不図示)を抜去する。
【0053】
(8)固定ねじ用孔30を貫通するべく固定ねじ部材48を大腿骨骨幹部102に挿入する。
【0054】
(9)この後に、作動部材38の工具係合孔39に工具を係合させて作動部材38を回転させ、外ねじ38Aと内ねじ24Aとのねじ係合のもとに作動部材38を螺進(正転方向の螺進)させる。これにより、
図2に示されているように、スライド部材32が、軸線方向孔24内を髄内釘20に対して下方、つまり、軸線方向に押し込む方向に変位する。換言すると、髄内釘20が、スライド部材32及び内固定部材50に対して上方、つまり、軸線方向に引き上げる方向に変位する。
【0055】
これにより、大腿骨骨幹部102が大腿骨転子部106に近付く方向に変位し、転子下の骨折部120の骨折面が接合するように、骨折部120が圧迫される。これにより、骨折部120の骨同士が接触し、骨折部120の治癒が促進される。
【0056】
(10)最後に、キャップ44を髄内釘20の基端部20Bに取り付ける。
【0057】
本実施形態では、作動部材38を逆転方向に螺進させることにより、スライド部材32が、軸線方向孔24内を髄内釘20に対して上方、つまり、軸線方向に引き抜く方向に変位する。これにより、髄内釘20が内固定部材50に対して軸線方向に押し下げられる方向に変位し、骨折部120の圧迫が弱められる。このようにして、髄内釘20に対するスライド部材32の軸線方向の変位により、骨折部120の圧迫の度合を治癒の進行等に応じて適したものに調節することができる。つまり、骨折部12の圧迫加減を調節することができる。
【0058】
内固定部材50が髄内釘20に対して軸線方向に押し込む方向及び引き抜く方向の変位のストローク(調節範囲)は、径方向貫通孔22の軸線方向の長さによって決まる。
【0059】
本実施形態の骨折内固定具10は、転子下の骨折以外に、
図6に示されているように、髄内釘20の軸線方向の途中部位である大腿骨転子部106に生じた骨折部130の治療にも有用である。
【0060】
大腿骨転子部106に生じた骨折部130の治療において、骨折部130を内固定部材50の軸線方向に沿った方向に圧迫すると、骨折部130の内固定部材50の軸線方向のずれ動きにより、骨折形状によっては骨折部130の一部が大腿骨転子部106の髄腔104に陥入する虞がある。
【0061】
骨折内固定具10は、スライド部材32及び内固定部材50が髄内釘20に対して髄内釘20の軸線方向に変位し、同変位により、大腿骨転子部106に生じた骨折部120の骨(遠位皮膚骨)同士を接触させるから、この接触過程で、骨折部130が内固定部材50の軸線方向のずれ動きをすることがない。
【0062】
これにより、骨折内固定具10を用いた骨折部130の治療では、骨折部130の一部が大腿骨転子部106の髄腔104に陥入する虞がない。
【0063】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【0064】
例えば、内固定部材50が髄内釘20に対して軸線方向に押し込む方向の変位だけでよい場合は、スライド部材32の係合孔34は省略され、スライド部材32の先端が内固定部材50の外面に当接する構造であればよい。
【0065】
回転防止ピン60は必須でなく、回転防止ピン60及び回転防止ピン60が挿入される傾斜内孔58は省略されてもよい。この場合には、手順(4)及び(6)は省略される。
【符号の説明】
【0066】
10 :骨折内固定具
12 :骨折部
20 :髄内釘
20A :先端部
20B :基端部
22 :径方向貫通孔
24 :軸線方向孔
24A :内ねじ
24B :非円形孔
26 :延長孔
28 :仮止め用貫通孔
30 :固定ねじ用孔
32 :スライド部材
32A :非円形筒部
32B :円形筒部
32C :円環溝
34 :係合孔
36 :仮止め用貫通孔
38 :作動部材
38A :外ねじ
38B :半円筒形状部
38C :フランジ部
38D :ねじ孔
39 :工具係合孔
40 :中心孔
40A :内ねじ
41 :工具係合孔
42 :回り止め部材
42A :係合部材
42B :ねじ部材
42C :突部
42D :外ねじ
44 :キャップ
46 :ねじ部
48 :固定ねじ部材
50 :内固定部材
50A :基端部
50B :先端部
52 :凹部
52A :基端部
54 :ねじ部
56 :工具係合部
56A :切欠部
58 :傾斜内孔
60 :回転防止ピン
60A :先端部
100 :大腿骨
102 :大腿骨骨幹部
104 :髄腔
106 :大腿骨転子部
108 :大腿骨頸部
110 :大腿骨頭部
120 :骨折部
130 :骨折部