(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160552
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】連続鋳造鋳片の加熱方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20231026BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20231026BHJP
B22D 11/12 20060101ALI20231026BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231026BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20231026BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C21D9/00 101A
B22D11/00 A
B22D11/12 D
C21D9/00 101N
C22C38/00 301Z
C22C38/06
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070986
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】山下 悠衣
(72)【発明者】
【氏名】山田 健二
(57)【要約】
【課題】加熱炉での加熱過程における鋳片の割れを抑制する。
【解決手段】連続鋳造方法により鋳造された鋳片を、加熱炉に装入する前に加熱する方法であって、前記鋳片が、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有し、前記鋳片の表面の少なくとも一部が急速加熱され、前記急速加熱により、前記鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、150℃/min以上の昇温速度にて、Ae1点未満の温度まで、150℃以上加熱され、前記急速加熱の後、前記鋳片が前記加熱炉に装入される、連続鋳造鋳片の加熱方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造方法により鋳造された鋳片を、加熱炉に装入する前に加熱する方法であって、
前記鋳片が、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有し、
前記鋳片の表面の少なくとも一部が急速加熱され、
前記急速加熱により、前記鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、150℃/min以上の昇温速度、且つ、150℃以上の温度上昇量で、Ae1点未満の温度まで加熱され、
前記急速加熱の後、前記鋳片が前記加熱炉に装入される、
連続鋳造鋳片の加熱方法。
【請求項2】
前記鋳片の幅方向に沿った表面の少なくとも一部が急速加熱される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋳片の幅方向に沿った両面の各々の少なくとも一部が急速加熱される、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記鋳片の幅方向に沿った表面の一部が急速加熱され、且つ、急速加熱される前記表面の幅WHが鋳片の全幅Wの1/8以上3/4以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は連続鋳造鋳片の加熱方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な技術分野において高張力鋼が使用されている。例えば、自動車の分野においては、燃費改善を実現するために、高張力鋼の適用による自動車車体の軽量化が進められている。また、搭乗者の安全性確保のためにも、自動車車体に高張力鋼が多く使用されるようになってきている。
【0003】
高張力鋼は、強度の向上を狙って、C、Si及びMnが多量に添加されてなる。ここで、C、Si及びMnの多量の添加は鋼材を脆化させることが知られている。そのため、C、Si及びMnが多量に添加された鋼を連続鋳造して鋳片を得た後に、当該鋳片を加熱炉にて加熱すると、鋳片の表面と内部との温度差に起因する熱ひずみや、変態に伴う変態ひずみによって、鋳片に割れが発生し易い。
【0004】
従来技術においては、連続鋳造後の鋳片を加熱炉にて加熱する際、脆化域における加熱速度を制御し、緩やかな加熱(スローヒート)を行って鋳片表面と内部との温度偏差を低減することにより、応力やひずみを抑制する対策がとられてきた(特許文献1~3)。また、鋳片を加熱炉に装入する前に、所定の温度域で鋳片を加熱及び圧下して鋳片中心のポロシティを圧着することで、加熱炉にて加熱した際の鋳片割れを抑制する技術も開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-265534号公報
【特許文献2】特開平6-328214号公報
【特許文献3】特開2013-011007号公報
【特許文献4】特開2020-066007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に開示されているように加熱炉における鋳片の加熱速度を細かく制御することや、特許文献4に開示されているように加熱炉において鋳片を加熱する前に鋳片に対して圧下を加えることは、設備や物流の制約上、難しい場合がある。この点、加熱炉における加熱の際に鋳片の割れを抑制可能な新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
連続鋳造方法により鋳造された鋳片を、加熱炉に装入する前に加熱する方法であって、
前記鋳片が、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有し、
前記鋳片の表面の少なくとも一部が急速加熱され、
前記急速加熱により、前記鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、150℃/min以上の昇温速度、且つ、150℃以上の温度上昇量で、Ae1点未満の温度まで加熱され、
前記急速加熱の後、前記鋳片が前記加熱炉に装入される、
連続鋳造鋳片の加熱方法
を開示する。
【0008】
本開示の方法においては、前記鋳片の幅方向に沿った表面の少なくとも一部が急速加熱されてもよい。
【0009】
本開示の方法においては、前記鋳片の幅方向に沿った両面の各々の少なくとも一部が急速加熱されてもよい。
【0010】
本開示の方法においては、前記鋳片の幅方向に沿った表面の一部が急速加熱され、且つ、急速加熱される前記表面の幅WHが鋳片の全幅Wの1/8以上3/4以下であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の方法によれば、加熱炉において鋳片を加熱した際、鋳片の割れが発生し難い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】鋳片の表面のうち急速加熱が施される部分の一例を概略的に示している。
【
図2】
図1のII-II矢視断面において、急速加熱が施される領域の一例を概略的に示している。
【
図3】鋳片表面の加熱時間と加熱前後の温度差とを各々変化させた場合における熱応力解析結果を示すもので、鋳片中心の引張応力が20%以上低下したものを「●」、低下しなかったものを「×」としてプロットしたものである。
【
図4】鋳片を急速加熱した直後における熱応力解析結果の一例であり、(a)鋳片の温度、(b)鋳片に生じる応力、(c)鋳片に生じる塑性歪みの状態を示している。
【
図5】鋳片を急速加熱した後、さらに放冷した後における熱応力解析結果の一例であり、(a)鋳片の温度、(b)鋳片に生じる応力、(c)鋳片に生じる塑性歪みの状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
従来技術においては、加熱炉における加熱速度を制御して、鋳片を緩やかに加熱して、鋳片の表面と内部との間にできるだけ温度差を設けないようにすることで、加熱炉での加熱過程における鋳片の割れを抑制している。しかしながら、設備や物流の制約上、このような温度制御が難しい場合がある。本発明者は、加熱炉での加熱過程において鋳片の割れを抑制できる方法を、熱応力解析を活用して探索した。その結果、加熱炉における加熱の前に、鋳片表面の少なくとも一部を急速加熱して熱履歴を付与することにより、加熱炉での加熱過程において鋳片中心部に発生する応力を低減でき、鋳片の割れを顕著に抑制できることを見出した。以下、本開示の連続鋳造鋳片の加熱方法について詳細に説明する。
【0014】
本開示の方法は、連続鋳造方法により鋳造された鋳片を、加熱炉に装入する前に加熱する方法である。前記鋳片は、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有する。本開示の方法においては、前記鋳片の表面の少なくとも一部が急速加熱される。前記急速加熱により、前記鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、150℃/min以上の昇温速度、且つ、150℃以上の温度上昇量にて、Ae1点未満の温度まで加熱される。本開示の方法においては、前記急速加熱の後、前記鋳片が前記加熱炉に装入される。
【0015】
1.連続鋳造鋳片
本開示の方法においては、まず、連続鋳造方法により鋳片を得る。連続鋳造条件は特に限定されるものではなく、従来と同様の条件であってよい。
【0016】
1.1 鋳片の形状
連続鋳造方法により鋳造される鋳片は、スラブであっても、ブルームであっても、ビレットであってもよい。特に、スラブ又はブルームであることが好ましく、スラブであることがより好ましい。鋳片は、連続鋳造方向と直交する断面形状において、幅及び厚みを有し、また、連続鋳造方向に長さを有するものであってよい。鋳片がスラブである場合、その幅は、連続鋳造方向と直交する断面形状における長辺(鋳型長辺と対応)に相当し、その厚みは、当該断面形状における短辺(鋳型短辺と対応)に相当する。また、鋳片がブルームまたはビレットである場合、一般に、スラブに比べてアスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が小さい。断面形状が円の場合、その厚みや幅とは、断面の直径をいうものとする。鋳片がスラブである場合、その幅は、例えば、800mm以上1500mm以下であってもよく、その厚みは、例えば、100mm以上300mm以下であってもよく、その長さは、例えば、5m以上9m以下であってもよい。
【0017】
1.2 鋳片の化学組成
鋳片は、C、Si、Mnを所定量以上含むもので、例えば、高張力鋼板の素材として用いられるものであってよい。本願において「高張力鋼板」とは、引張強さが500MPa以上の鋼板をいう。引張強さは780MPa以上、980MPa以上、1180MPa以上又は1470MPa以上であってよく、2100MPa以下、2000MPa以下又は1900MPa以下であってもよい。尚、鋼板の引張試験は、例えば、JIS Z 2241に準拠し、試験片の長手方向が鋼板の圧延直角方向と平行になる向きからJIS5号試験片を採取して行う。
【0018】
鋳片は、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有する。C、Si及びMnの含有量がこのような範囲である場合、鋳片の脆性が低下し易く、加熱炉での加熱過程における割れの問題が発生し易いところ、本開示の方法によって、当該割れを抑制できる。尚、本願において、数値範囲を示す「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0019】
(C:0.02~0.60%)
Cは鋼の静的強度だけでなく、疲労強度、靭性、延性に影響する最も基本的な元素である。Cが少な過ぎると鋼の静的強度及び疲労強度が不十分となる場合がある。この点、Cの含有量の下限は0.02質量%、0.05質量%、0.10質量%又は0.15質量%であってもよい。また、Cが多過ぎると鋼の靭性が過度に劣化し易い。この点、Cの含有量の上限は0.60質量%、0.50質量%、0.40質量%又は0.30質量%であってもよい。
【0020】
(Si:0.5~3.0%)
SiはCに次いで固溶強化能が大きい重要な元素である。高張力鋼を得る場合はSiの濃度を高濃度とする。具体的には、Siの含有量の下限は0.5質量%、0.8質量%又は1.0質量%であってもよい。一方で、Siの含有量が多過ぎると靭性や加工性を劣化させる虞がある。この点、Siの含有量の上限は3.0質量%、2.5質量%又は2.0質量%であってもよい。
【0021】
(Mn:1.0~3.0%)
Mnは焼入れ性を向上させ、冷却速度が不十分な場合でも鋼材の内部まで硬度を確保するのに重要な元素である。高張力鋼を得る場合はMnの濃度を高濃度とする。具体的には、Mnの含有量の下限は1.0質量%又は1.5質量%であってもよい。一方で、Mnが多過ぎると靭性や加工性を劣化させる虞がある。この点、Mnの含有量の上限は3.0質量%又は2.8質量%であってもよい。
【0022】
(P:0.100%以下)
Pは、溶鋼の凝固過程において未凝固部へのMn濃化を促進する元素であり、負偏析部のMn濃度を下げ、フェライトの面積率の増加を促す元素であり、少ないほど好ましい。また、Pを過度に含有すると鋼強度は増加する一方で鋼の脆性的な破壊を招く場合がある。この点、Pの含有量の上限は、0.100質量%、0.050質量%又は0.010質量%であってもよい。一方で、Pの含有量の下限は特に限定されるものではなく、0質量%であってもよいが、Pの含有量を0.001質量%未満に制御することは精錬時間の増大とともに、製造コストの増加を招く虞がある。製造コストの上昇を防ぐ狙いからは、Pの含有量は0.001質量%以上であってもよい。
【0023】
(S:0.010%以下)
Sは、鋼中でMnS等の非金属介在物を生成し、鋼の延性の低下を招く元素であり、少ないほど好ましい。この点、Sの含有量の上限は、0.010質量%、0.008質量%又は0.005質量%であってもよい。一方で、Sの含有量の下限は特に限定されるものではなく、0質量%であってもよく、0.001質量%であってもよい。
【0024】
(Al:0.005~1.000%)
Alは、鋼の脱酸剤として作用しフェライトを安定化する元素である。Alの含有量が0.005質量%以上である場合に、このような効果が得られ易い。Alの含有量は0.010質量%以上であってもよい。一方、Alを過度に含有すると下工程における焼鈍時の冷却過程でのフェライト変態及びベイナイト変態が過度に促進されて鋼の強度が低下する場合がある。Alの含有量が1.000質量%以下である場合に、このような問題が回避され易い。Alの含有量は0.800質量%以下であってもよい。
【0025】
(N:0.0100%以下)
Nは、粗大な窒化物を形成し、鋼の加工性を低下させる元素であり、少ないほど好ましい。Nの含有量は0質量%であってもよく、0.0001質量%以上であってもよく、0.0010質量%以上であってもよく、また、0.0100質量%以下であってもよく、0.0050質量%以下であってもよい。
【0026】
鋳片は、上記の基本元素のほか、上記以外の任意元素を含んでいてもよい。任意元素は含まれなくてもよいため、その下限は0%である。鋳片は、例えば、質量%で、Ti:0~0.500%、Co:0~0.500%、Ni:0~0.500%、Mo:0~0.500%、Cr:0~2.000%、O:0~0.0100%、B:0~0.0100%、Nb:0~0.500%、V:0~0.500%、Cu:0~0.500%、W:0~0.1000%、Ta:0~0.1000%、Sn:0~0.0500%、Sb:0~0.0500%、As:0~0.0500%、Mg:0~0.0500%、Ca:0~0.0500%、Y:0~0.0500%、Zr:0~0.0500%、La:0~0.0500%、及び、Ce:0~0.0500%から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。尚、上記の任意元素の種類及び含有量は単なる例示であり、鋳片に含まれ得る任意元素の種類や量は、上記のもの限定されない。
【0027】
1.3 急速加熱前の鋳片の温度
鋳片の温度は、加熱炉への装入の前に後述する急速加熱を実施可能である限り、特に限定されるものではない。鋳片は放冷等を経て冷却されたものであってもよい。後述の急速加熱を行う前において、鋳片の表面温度は、Ae1から150℃超低い温度であってもよく、例えば、0℃以上600℃以下であってもよい。また、後述の急速加熱を行う前において、鋳片の中心温度は、Ae1から150℃超低い温度であってもよく、例えば、0℃以上600℃以下であってもよい。また、後述の急速加熱を行う前において、鋳片の表面温度と鋳片の中心温度との差の絶対値は、例えば、0℃以上600℃以下であってもよい。尚、後述する急速加熱による効果は、急速加熱の開始時点での鋳片温度に実質的に左右されない。すなわち、急速加熱前の鋳片がどのような温度であったとしても、急速加熱によって所望の効果が奏される。
【0028】
2.急速加熱
本開示の方法においては、鋳片を加熱炉に装入する前に、鋳片表面の少なくとも一部を急速加熱することで、鋳片表面の少なくとも一部に圧縮の塑性変形を生じさせ、これにより、加熱炉での加熱過程において鋳片内部に生じる引張応力を低減する。通常、加熱炉内での加熱過程においては、輻射熱により鋳片の表面から加熱される。そのため、鋳片表面が熱膨張し、これに伴い鋳片内部に引張応力が生じ、割れへと繋がる。これに対し、本開示の方法によって鋳片表面に予め圧縮の塑性変形を生じさせることで、加熱炉での加熱過程で鋳片表面が熱膨張したとしても、鋳片内部に生じる引張応力は大きくなり難く、結果として、鋳片の割れが抑制される。具体的には、本開示の方法においては、上述の鋳片が加熱炉に装入される前に、鋳片の表面の少なくとも一部が急速加熱され、当該急速加熱により、鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、150℃/min以上の昇温速度、且つ、150℃以上の温度上昇量にて、Ae1点未満の温度まで加熱される。
【0029】
2.1 鋳片表面において急速加熱される部分
本開示の方法においては、鋳片の表面のうち少なくとも一部が急速加熱されればよい。加熱炉での加熱過程において鋳片の割れの発生を抑制したい箇所に応じて、鋳片表面のうち急速加熱される部分が決定される。本開示の方法においては、鋳片表面の全体が急速加熱されてもよいし、鋳片表面の一部が急速加熱されてもよい。
【0030】
本開示の方法においては、
図1及び2に示されるように、鋳片の幅方向に沿った表面(鋳片の広い面)の少なくとも一部が急速加熱されることが好ましい。鋳片の幅方向に沿った面が急速加熱された場合、急速加熱された部分と鋳片中心との距離が近く、急速加熱によって生じる圧縮塑性変形による効果が、鋳片中心にまで及び易くなり、加熱炉での加熱過程において鋳片内部に生じる引張応力が一層低減され易い。
【0031】
また、本開示の方法においては、
図1及び2に示されるように、鋳片の幅方向に沿った両面の各々の少なくとも一部が急速加熱されることがより好ましい。特に、
図1及び2に示されるように、鋳片の鋳造方向に対して直交する断面において、鋳片の幅方向に沿った両面の各々の少なくとも一部が急速加熱され、且つ、一方の面の急速加熱される部分A1と、多方の面の急速加熱される部分A2とが、鋳片中心Oを挟んで互いに対向することが好ましい。このように、鋳片の両面を急速加熱することで、鋳片の反りや変形が抑えられるとともに、急速加熱によって生じる圧縮塑性変形による効果が、鋳片中心にまで一層及び易くなり、加熱炉での加熱過程において鋳片内部に生じる引張応力が特に顕著に低減され易い。
【0032】
また、本開示の方法においては、
図1及び2に示されるように、鋳片の厚み方向に沿った表面(鋳片の狭い面)ではなく、鋳片の幅方向に沿った表面のみが急速加熱されることが好ましい。鋳片の厚み方向に沿った表面については、急速加熱を施しても、圧縮塑性変形による効果が鋳片の中心にまで届き難い。本開示の方法においては、鋳片の幅方向に沿った表面のみが急速加熱されることで充分な効果が得られる。
【0033】
また、本開示の方法においては、
図1及び2に示されるように、鋳片の幅方向に沿った表面の一部が急速加熱され、且つ、急速加熱される表面の幅W
Hが鋳片の全幅Wの1/8以上3/4以下であることが好ましい。特に、
図2に示されるように、幅W
Hが幅Wの1/8以上3/4以下で、且つ、急速加熱される部分が鋳片の幅方向中央を含んでいることが好ましく、急速加熱される部分の幅方向中央が、鋳片の幅方向中央と実質的に一致していることがより好ましい。本発明者の知見によれば、鋳片の幅全体ではなく一部のみを加熱することで、エネルギーコストを抑えることができるほか、幅方向の圧縮応力を抑えることができ、すなわち、圧縮応力を鋳片の長手方向に生じさせ易くなり、鋳片の長手方向に圧縮塑性ひずみを発生させ易くなり、加熱炉での加熱過程における鋳片割れの発生を一層効果的に抑制することができる。また、加熱炉での加熱過程における鋳片割れは、鋳片の中心Oの近傍(すなわち、幅方向中央近傍)において特に生じ易いところ、鋳片の幅方向中央近傍のみが急速加熱されることで、急速加熱による圧縮塑性変形の効果が鋳片の中心へと一層及び易くなり、加熱炉での加熱過程において鋳片中心に生じる引張応力が一層低減され易くなる。
【0034】
また、本開示の方法においては、
図1に示されるように、鋳片の幅方向に沿った表面の少なくとも一部が、鋳片の長手方向(長さ方向)の全長に亘って急速加熱されることが好ましい。これにより、急速加熱部において長手方向の圧縮応力を強く発生させることができ、長手方向の圧縮塑性ひずみを発生させることができ、加熱炉での加熱過程における鋳片割れの発生を一層効果的に抑制することができる。
【0035】
2.2 鋳片断面において急速加熱される領域
急速加熱による鋳片表層の圧縮応力は、鋳片内部の引張応力とバランスする。仮に、鋳片断面(長さ方向と直交する断面)において急速加熱により加熱される領域(
図2の領域A1、A2)が厚過ぎると、それとバランスするための引張応力が生じる領域(
図2の領域B)が相対的に小さくなり過ぎることから、急速加熱による圧縮塑性変形によって、むしろ、鋳片中心に大きな引張応力が生じ易くなる。すなわち、加熱炉に装入する前から鋳片の中心に大きな引張応力が生じてしまい、鋳片の割れがむしろ生じ易くなる。例えば、本発明者が確認した限りでは、鋳片の表面から鋳片厚みの10%を急速加熱した場合は、鋳片内部には降伏応力の25%の引張応力が生じ、鋳片厚みの17%を急速加熱した場合は、鋳片内部には降伏応力の50%の引張応力が生じる。この点、本開示の方法においては、急速加熱により、鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が加熱されることが重要である。言い換えれば、本開示の方法においては、
図2に示されるように、急速加熱される領域A1、A2の各々の厚みT
Hと鋳片の厚みTとの比T
H/Tが0.1以下である。このように、鋳片のごく表層のみが急速加熱され、それよりも深部においては急速加熱による圧縮変形ができるだけ生じないようにすることで、結果として、鋳片の中心における引張応力が抑制される。急速加熱される領域を鋳片厚みの10%以内とするためには、例えば、後述するように、加熱時間を1分以内としたり、或いは、加熱手段として鋳片のごく表層のみを加熱可能な手段を使用したりすればよい。
【0036】
2.3 急速加熱による昇温速度
急速加熱による昇温速度が小さ過ぎる場合、鋳片を所望の温度にまで昇温させるために長時間を要し、鋳片断面において急速加熱される領域が過度に厚くなり易い。その結果、上述の通り、鋳片中心に大きな引張応力が生じてしまい、鋳片が割れ易くなる。急速加熱による昇温速度が高速であるほど、鋳片のごく表層のみに大きな圧縮塑性変形を生じさせることができ、高い効果が確保され易くなる。この点、本開示の方法においては、急速加熱による昇温速度が150℃/min以上であることが重要である。昇温速度の上限は特に限定されるものではない。昇温速度は、150℃/min以上、155℃/min以上、160℃/min以上、165℃/min以上、又は、170℃/min以上であってもよく、600℃/min以下、550℃/min以下、500℃/min以下、又は、450℃/min以下であってもよい。
【0037】
2.4 急速加熱による温度上昇量
急速加熱による温度上昇量が小さ過ぎると、上述した圧縮塑性変形を生じさせることができず、十分な効果が得られなくなる。急速加熱による温度上昇量が大きいほど、鋳片のごく表層において大きな圧縮塑性変形を生じさせることができ、高い効果が確保され易くなる。この点、本開示の方法においては、急速加熱により、鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、150℃/min以上の昇温速度、且つ、150℃以上の温度上昇量にて加熱されることが重要である。すなわち、鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域において、急速加熱前後の温度差が150℃以上となる。温度上昇量は、150℃以上、155℃以上、160℃以上、165℃以上又は170℃以上であってもよく、600℃以下、550℃以下、500℃以下、450℃以下、400℃以下、350℃以下又は300℃以下であってもよい。
【0038】
2.5 急速加熱による加熱温度
加熱炉での加熱過程における鋳片割れを抑制する観点のみからは、上記の加熱領域、昇温速度及び温度上昇量が満たされる限り、急速加熱による加熱温度に特に制限はない。ただし、加熱温度がAe1点以上となると、急速加熱された部分が変態し易く、鋳片の機械特性に過度のバラつきが生じる虞がある。この点、本開示の方法においては、急速加熱により、鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、150℃/min以上の昇温速度、且つ、150℃以上の温度上昇量にて、Ae1点未満の温度まで加熱されることが重要である。急速加熱による加熱温度は、Ae1点未満の温度であり、700℃以下、680℃以下又は650℃以下の温度であってもよい。
【0039】
尚、任意の組成を有する鋼のAe1点を特定する方法は公知である。例えば、K.W. Andrews: JISI, vol. 203, 1965, p.721に記載された以下の式に基づいて、Ae1点が特定され得る。
【0040】
Ae1(℃)=727-10.7[Mn]-16.9[Ni]+29.1[Si]+16.9[Cr]+6.38[W]+290[As]
(ここで、[Mn]、[Ni]、[Si]、[Cr]、[W]、[As]は、鋳片における各々の元素の含有量(質量%)である。)
【0041】
2.6 急速加熱による加熱時間
急速加熱による加熱時間は、鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、上記条件にて急速加熱される限り、特に限定されるものではない。本発明者が確認した限りでは、加熱時間が長過ぎると、急速加熱される領域を鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内とすることが難しくなる。この点、加熱時間は、例えば、1分以下であることが好ましい。加熱時間の下限は特に限定されず、0秒超、1秒以上、3秒以上、5秒以上又は10秒以上であってもよい。
【0042】
2.7 急速加熱手段
急速加熱の手段は、上記の加熱条件が実現されるものであればよい。本開示の方法においては、例えば、高周波誘導加熱、レーザー加熱、及び、プラズマ加熱のうちの少なくとも1つによって急速加熱が行われることが好ましい。尚、本開示の方法において、鋳片の全長を急速加熱する場合、鋳片の全長を同時に急速加熱する必要はなく、例えば、鋳片搬送路の上方及び/又は下方にバーヒータを設置しておき、バーヒータ出力や鋳片の搬送速度を調整しつつ、バーヒータを鋳片の長手方向へと相対的に移動させることで、鋳片の全長が急速加熱されるようにしてもよい。或いは、鋳片の長さと同程度以上の長さを有するバーヒータを、鋳片の幅方向へと相対的に移動させること等によって、鋳片表面の全長を急速加熱してもよい。
【0043】
3.加熱炉への装入及び加熱炉での加熱
上述の通り、急速加熱された鋳片は、上記の圧縮塑性変形を有した状態で、加熱炉へ挿入される。加熱炉は一般的な加熱炉であればよい。鋳片を加熱炉へと挿入する方法も一般的な方法によればよい。加熱炉に装入された鋳片は、加熱炉において所定の温度にまで加熱される。例えば、加熱炉において、鋳片は、熱間圧延に適した温度にまで加熱されてもよい。加熱炉における加熱温度は、例えば、1000℃以上1300℃以下であってもよい。加熱炉における加熱時間は、例えば、30分以上240分以下であってもよい。
【0044】
本開示の方法においては、上述の通り、急速加熱によって鋳片の表層に予め圧縮塑性変形が付与されており、加熱炉での加熱過程で鋳片の表層が加熱されて熱膨張したとしても、鋳片の中心に生じる引張応力が大きくなり難い。その結果、加熱過程における鋳片割れを抑制することができる。よって、本開示の方法においては、加熱炉での加熱過程において、従来のスローヒートのように鋳片の加熱温度を細かく制御する必要がなく、加熱炉における加熱条件の自由度が高い。上述したようにC、Si及びMnを多量に含む鋳片は、本来、加熱炉での加熱過程において割れ易いところ、本開示の方法によれば、例えば、加熱炉における平均昇温速度が10℃/min以上と高速であったとしても、鋳片割れが発生し難い。加熱炉における平均昇温速度は、13℃/min以上又は16℃/min以上であってもよい。
【0045】
4.補足
尚、急速加熱で生じた圧縮側の応力及び塑性ひずみは、その後の放冷過程で生じる引張側の応力及び塑性ひずみよりも大きいため、仮に急速加熱後に鋳片が放冷されたとしても、本開示の方法による効果を得ることができる。すなわち、本開示の方法においては、急速加熱後、且つ、加熱炉への装入前において、鋳片の温度が低下してもよい。ただし、より高い効果が確保される観点から、本開示の方法においては、鋳片を急速加熱後、加熱炉に装入するまでの鋳片の温度変化量が、300℃以内、250℃以内、200℃以内又は150℃以内であることが好ましい。また、急速加熱後、且つ、加熱炉への装入前における鋳片の冷却速度(降温速度)は、放冷速度以下であることが好ましく、例えば、150℃/min未満、100℃/min以下、又は、50℃/min以下であることが好ましい。
【0046】
以上の通り、本開示の方法によれば、加熱炉での加熱過程において、鋳片に割れが生じ難い。また、本開示の方法においては、従来技術のように鋳片の加熱速度を細かく制御する必要がない。また、加熱炉における昇温速度を高速とした場合でも、鋳片の割れが生じ難い。
【実施例0047】
以下に本発明に係る実施例を示すが、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明においては、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいて、種々の条件が採用され得る。
【0048】
1.熱応力解析
連続鋳造後の鋳片に対して急速加熱を実施することなく150℃で加熱炉に装入したことを想定して熱応力解析を行い、これを評価基準とした。また、連続鋳造後の鋳片に対して加熱炉への装入前に急速加熱を実施した後に150℃で加熱炉に装入したことを想定して同様に熱応力解析を行った。急速加熱の条件を種々変化させて、鋳片中心の引張応力が評価基準に対して20%以上低下したものを「●」、低下しなかったものを「×」と判定した。
図3に、鋳片表面の加熱時間と加熱前後の温度差とを各々変化させた場合の熱応力解析結果を示す。
図3に示されるように、引張応力低減効果を発現させるためには、鋳片のごく表層(厚みの10%程度まで、例えば、加熱時間を1分以内とすることで達成)のみを急速加熱して、当該表層の温度を加熱開始時の温度から150℃以上上昇させることが有効であるといえる。
【0049】
図4に、鋳片の幅方向に沿った表面の一部を、長手方向の全長に亘って急速に加熱した場合における熱応力解析結果の一例を示す(長手・幅方向対称モデルで計算)。
図4(a)が鋳片の温度、(b)が鋳片に生じる応力、(c)が鋳片に生じる塑性ひずみの状態を示している。
図4(a)~(c)に示されるように、急速加熱部には圧縮応力とこれに伴う圧縮側の塑性ひずみが生じる。これは加熱された表層が温度上昇に伴い熱膨張するものの、低温の非加熱領域に拘束されることに起因するものと考えられる。
【0050】
図5に、
図4に示される条件にて急速加熱を行った後、鋳片を放冷して温度を低下させた場合における熱応力解析結果を示す。
図5(a)が鋳片の温度、(b)が鋳片に生じる応力、(c)が鋳片に生じる塑性歪みの状態を示している。
図5(c)に示されるように、急速加熱によって生じた圧縮の塑性ひずみは、鋳片の温度が低下しても残ることが分かる。
【0051】
通常、加熱炉内では鋳片表層から加熱され、鋳片表層が熱膨張することに伴い鋳片内部に引張応力が生じ、これにより鋳片割れが生じる。これに対し、上記の熱応力解析結果から、加熱炉に装入する前に鋳片のごく表層に対して急速加熱を行い、鋳片のごく表層に圧縮塑性変形を付与しておくことにより、加熱炉での加熱過程において鋳片表面が熱膨張して伸びが生じたとしても、鋳片中心に生じる引張応力を低く抑えることができるものといえる。
【0052】
2.実機試験
熱応力解析による結果が妥当であることを実機試験で確かめた。まず、所定の成分からなる溶鋼を連続鋳造しスラブを製造した。下記表1に連続鋳造により製造したスラブの化学組成を示す。連続鋳造は、鋳造速度0.7~1.5m/minで、厚み240~280mm、幅1100mmのスラブ鋳造用の鋳型を用いて行った。その後、スラブを所定の長さに切断し、冷却を行った。
【0053】
【0054】
その後、下記表2に示される条件にてスラブの幅方向に沿った両面の一部又は全部を急速加熱した。ここで、急速加熱には高周波誘導加熱装置を用い、周波数を1500Hzとし、出力を調整することにより表2に示される昇温速度となるようにした。また、急速加熱開始前と終了後のスラブ温度をサーモビューアで測温するとともに、測定された加熱温度と、金属の固有値(固有抵抗、比透磁率)と、周波数により算出される浸透深さとを用いて、3次元の伝熱解析より、加熱深さを算出するとともに、鋳片厚みの10%以内の領域の急速加熱開始時点の温度、及び、急速加熱終了時点の温度を算出した。
【0055】
急速加熱後、表2に示される温度となったスラブを、加熱炉に装入して、表2に示される平均昇温速度にて1210~1250℃まで加熱し、その後、熱間圧延における粗圧延までを実施して鋼板を得た。鋼板を冷却後、割れや筋状の異常がないか、目視で確認した。結果を下記表2に示す。
【0056】
【0057】
表2において、「T」は、スラブの厚みであり、
図2に示されるTと対応する。
「W
H」は、急速加熱領域の幅であり、
図2に示されるW
Hと対応する。
「W」は、スラブの全幅であり、
図2に示されるWと対応する。
尚、実施例8については、スラブの全周を急速加熱した例であり、スラブの幅方向に沿った表面及び厚み方向に沿った表面の双方を全面急速加熱したことで、W
H/Wが1/1となった例である。実施例1~7については、スラブの幅方向に沿った表面のみ急速加熱を行い、スラブの厚み方向に沿った表面については急速加熱を行わなかった。
「昇温速度」は、スラブの厚みの10%以内の領域における急速加熱時の昇温速度を意味する。
「急速加熱開始温度」は、スラブ厚みの10%以内の領域における急速加熱開始時点の温度を意味する。
「急速加熱終了温度」は、スラブ厚みの10%以内の領域における急速加熱終了直後の温度を意味する。
「温度上昇量」は、スラブ厚みの10%以内の領域における「急速加熱終了温度」と「急速加熱開始温度」との差である。
「加熱深さ」は、スラブ厚みTに占める急速加熱領域の厚みT
Hの割合((T
H/T)×100)を意味し、「T」及び「T
H」は、各々、
図2のT及びT
Hと対応する。
「装入温度」は、加熱炉に装入された時点におけるスラブ表面の温度(急速加熱された場合は、急速加熱された部分のスラブ厚みの10%以内の領域の温度)を意味する。
「平均昇温速度」は、加熱炉にて設定された平均昇温速度をいう。
【0058】
表2に示される結果から以下のことが分かる。
【0059】
比較例1については、粗圧延後の鋼板に割れや異常が確認された。比較例1については、加熱炉に装入する前にスラブの急速加熱を行わなかったため、加熱炉における加熱の際、スラブ表層が熱膨張することに伴いスラブ内部に引張応力が生じ、これが粗圧延後の割れや異常に繋がったものと考えられる。
【0060】
比較例2についても、粗圧延後の鋼板に割れや異常が確認された。比較例2については、加熱炉に装入する前にスラブの加熱を行ったものの、その加熱速度が小さく、加熱時間が長時間となった結果、加熱深さがスラブ厚みの15%と深くなり過ぎ、鋳片表面から深い部分にまで圧縮塑性変形が生じて、これとバランスするように鋳片中心に大きな引張応力が生じたものと考えられ、これが粗圧延後の割れや異常に繋がったものと考えられる。
【0061】
比較例3については、粗圧延後の鋼板に割れや異常は確認されなかったものの、鋼板の金属組織が所望のものとならず、所望の機械特性が確保できなかった。比較例3については、加熱炉に装入する前にスラブの急速加熱を行った際、スラブの表層の温度がAe1点を超えたことから、変態によりスラブの表層と内部とで金属組織にバラつきが生じるなどして、機械特性が低下したものと考えられる。
【0062】
比較例4及び5については、粗圧延後の鋼板に割れや異常が確認された。比較例4及び5については、加熱炉に装入する前にスラブの加熱を行ったものの、その加熱速度が小さく、温度上昇量も小さかったため、スラブの表層に圧縮の塑性変形を十分に生じさせることができなかったものと考えられ、加熱炉での加熱過程においてスラブの中心に大きな引張応力が生じ、これが粗圧延後の割れや異常に繋がったものと考えられる。
【0063】
これに対し、実施例1~8については、いずれも、粗圧延後の鋼板に割れや異常は生じなかった。比較例1~5及び実施例1~8の結果から、以下の条件を満たす場合に、加熱炉での加熱過程において鋳片の割れを抑制でき、その後に圧延を施した場合でも割れや異常を抑制できるものといえる。
【0064】
(1)鋳片が、質量%で、C:0.02~0.60%、Si:0.5~3.0%、Mn:1.0~3.0%、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.005~1.000%、及び、N:0.0100%以下を含有する。
(2)鋳片の表面の少なくとも一部が急速加熱され、当該急速加熱により、鋳片の表面から鋳片厚みの10%以内の領域が、150℃/min以上の昇温速度、且つ、150℃以上の温度上昇量で、Ae1点未満の温度まで加熱される。
(3)急速加熱の後、鋳片が加熱炉に装入される。