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特開2023-160580計測装置、計測方法およびコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160580
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】計測装置、計測方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20231026BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20231026BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/21 A
B23K31/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071023
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】荒木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】椎原 克典
(72)【発明者】
【氏名】星 岳志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 栞太
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA00
4E168CA00
4E168CA06
4E168CA13
4E168CB03
4E168CB07
4E168CB22
4E168EA17
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】本発明の実施形態は、溶接箇所の移動の影響を補正した溶け込み深さを算出可能にする計測装置、計測方法およびコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】本実施形態に係る計測装置は、レーザ溶接中に溶接箇所から発生する弾性波を検出するセンサを備える。前記装置はさらに、レーザ溶接中のセンサの位置の経時的な変動を示すセンサ位置情報とレーザ溶接中の溶接位置の経時的な変動を示す溶接位置情報とを取得する位置情報取得部を備える。前記装置はさらに、センサ位置情報および溶接位置情報に基づいてレーザ溶接中のセンサと溶接箇所との間の距離の経時的な変動を示す距離情報を算出し、距離情報に基づいてレーザ溶接中にセンサにより検出された弾性波の経時的な変動を示す弾性波データを補正し、補正された弾性波データに基づいてレーザ溶接の溶け込み深さの経時的な変動を示す溶け込み深さ情報を算出する演算処理装置を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶接中において、溶接箇所から発生する弾性波を検出するセンサと、
前記レーザ溶接中における前記センサの位置の経時的な変動を示すセンサ位置情報と、前記レーザ溶接中における前記溶接箇所の位置の経時的な変動を示す溶接位置情報と、を取得する位置情報取得部と、
前記レーザ溶接についての演算を行う演算処理装置であって、
前記センサ位置情報および前記溶接位置情報に基づいて、前記レーザ溶接中における前記センサと前記溶接箇所との間の距離の経時的な変動を示す距離情報を算出し、
前記距離情報に基づいて、前記レーザ溶接中に前記センサにより検出された弾性波の経時的な変動を示す弾性波データを補正し、
前記補正された弾性波データに基づいて、前記レーザ溶接の溶け込み深さの経時的な変動を示す溶け込み深さ情報を算出する
演算処理装置と、
を備える計測装置。
【請求項2】
前記位置情報取得部は、
前記レーザ溶接に用いられるレーザ光を前記レーザ溶接の対象物に照射する溶接ヘッドまたは前記溶接箇所と、前記センサとを観測するカメラを備える
請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記演算処理装置は、前記レーザ溶接と同時進行で、前記溶け込み深さ情報を算出し出力する
請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記演算処理装置は、前記溶け込み深さ情報または前記溶け込み深さ情報から得られた情報をユーザインタフェースに出力する、または、前記溶け込み深さ情報に基づいて前記レーザ溶接を制御する、請求項1に記載の計測装置。
【請求項5】
前記演算処理装置は、前記センサにより検出された弾性波が含む縦波成分および横波成分のうち少なくとも一方を、前記距離情報に基づいて補正する
請求項1に記載の計測装置。
【請求項6】
レーザ溶接中において、溶接箇所から発生する弾性波を、前記レーザ溶接の対象物に対して非接触状態で検出するセンサであって、前記レーザ溶接に用いられる溶接ヘッドに固定されているセンサと、
前記レーザ溶接についての演算を行う演算処理装置であって、
前記センサと前記溶接箇所との間の距離に基づいて、前記レーザ溶接中に前記センサにより検出された弾性波の経時的な変動を示す弾性波データを補正し、
前記補正された弾性波データに基づいて、前記レーザ溶接の溶け込み深さの経時的な変動を示す溶け込み深さ情報を算出する
演算処理装置と、
を備える計測装置。
【請求項7】
前記演算処理装置は、前記レーザ溶接と同時進行で、前記溶け込み深さ情報を算出し出力する
請求項6に記載の計測装置。
【請求項8】
前記演算処理装置は、前記センサにより検出された弾性波が含む縦波成分および横波成分のうち少なくとも一方を、前記センサと前記溶接箇所との間の距離に基づいて補正する
請求項6または7に記載の計測装置。
【請求項9】
レーザ溶接中において、溶接箇所から発生する弾性波をセンサにより検出し、
前記レーザ溶接中における前記センサの位置の経時的な変動を示すセンサ位置情報と、前記レーザ溶接中における前記溶接箇所の位置の経時的な変動を示す溶接位置情報とを取得し、
前記センサ位置情報および前記溶接位置情報に基づいて、前記レーザ溶接中における前記センサと前記溶接箇所との間の距離の経時的な変動を示す距離情報を算出し、
前記距離情報に基づいて、前記レーザ溶接中に前記センサにより検出された弾性波の経時的な変動を示す弾性波データを補正し、
前記補正された弾性波データに基づいて、前記レーザ溶接の溶け込み深さの経時的な変動を示す溶け込み深さ情報を算出する
ことを含む計測方法。
【請求項10】
レーザ溶接中において、溶接箇所から発生する弾性波を、前記レーザ溶接の対象物に対して非接触状態にあるセンサであって、前記レーザ溶接に用いられる溶接ヘッドに固定されているセンサにより検出し、
前記センサと前記溶接箇所との間の距離に基づいて、前記レーザ溶接中に前記センサにより検出された弾性波の経時的な変動を示す弾性波データを補正し、
前記補正された弾性波データに基づいて、前記レーザ溶接の溶け込み深さの経時的な変動を示す溶け込み深さ情報を算出する
ことを含む計測方法。
【請求項11】
レーザ溶接中において、溶接箇所から発生する弾性波がセンサにより検出される場合に、前記レーザ溶接中における前記センサの位置の経時的な変動を示すセンサ位置情報と、前記レーザ溶接中における前記溶接箇所の位置の経時的な変動を示す溶接位置情報と、を取得した位置情報取得部から、前記センサ位置情報と前記溶接位置情報とを取り込み、
前記センサ位置情報および前記溶接位置情報に基づいて、前記レーザ溶接中における前記センサと前記溶接箇所との間の距離の経時的な変動を示す距離情報を算出し、
前記距離情報に基づいて、前記レーザ溶接中に前記センサにより検出された弾性波の経時的な変動を示す弾性波データを補正し、
前記補正された弾性波データに基づいて、前記レーザ溶接の溶け込み深さの経時的な変動を示す溶け込み情報を算出する
ことを含む計測方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、計測装置、計測方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接において、溶接中の溶接箇所でアコースティックエミッション(AE:Acoustic Emission)によって発生するAE波をAEセンサにより検出し、AE波の検出により得られたAE信号を溶接箇所の異常判別や溶け込み深さの予測などの品質評価に用いることが知られている。溶接中に発生するAE波は、弾性波の一種である。しかしながら、レーザ溶接位置とAEセンサ設置位置との距離の変化によって、検出されるAE信号強度(AE信号レベル)が変動することから、溶接の進行に伴いレーザ溶接位置が移動すると、AE信号強度が常に変動する。また、意図せずAEセンサの設置位置がずれた等の原因でレーザ溶接位置とAEセンサ設置位置との距離が変化した場合も同様にAE信号強度が変動する。以上のようなAE信号強度の変動は、溶接箇所の品質評価に影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-266404号公報
【特許文献2】特開2007-111745号公報
【特許文献3】特開2004-038448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、溶接箇所の移動の影響を補正した溶け込み深さを算出可能にする計測装置、計測方法およびコンピュータプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る計測装置は、レーザ溶接中において、溶接箇所から発生する弾性波を検出するセンサを備える。前記装置はさらに、前記レーザ溶接中における前記センサの位置の経時的な変動を示すセンサ位置情報と、前記レーザ溶接中における前記溶接箇所の位置の経時的な変動を示す溶接位置情報と、を取得する位置情報取得部を備える。前記装置はさらに、前記レーザ溶接についての演算を行う演算処理装置であって、前記センサ位置情報および前記溶接位置情報に基づいて、前記レーザ溶接中における前記センサと前記溶接箇所との間の距離の経時的な変動を示す距離情報を算出し、前記距離情報に基づいて、前記レーザ溶接中に前記センサにより検出された弾性波の経時的な変動を示す弾性波データを補正し、前記補正された弾性波データに基づいて、前記レーザ溶接の溶け込み深さの経時的な変動を示す溶け込み深さ情報を算出する演算処理装置を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態に係る計測システムのブロック図。
図2】第1実施形態のレーザ溶接の過程の一例を説明する上面図。
図3】第1実施形態のレーザ溶接の過程の別の例を説明する上面図。
図4】第1実施形態のレーザ溶接の過程の別の例を説明する上面図。
図5】検出されたAEデータを示す図。
図6】補正されたAEデータを示す図。
図7】溶け込み深さの計測結果を示す図。
図8】第1実施形態に係るCPUが行う処理の一例を示すフローチャート。
図9】第2実施形態に係る計測システムのブロック図。
図10】第3実施形態に係る計測システムのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る計測システム1のブロック図である。計測システム1は、レーザ溶接装置100と計測装置200とを備える。レーザ溶接装置100と計測装置200は一体となっていてもよいし、レーザ溶接装置100の外部に計測装置200が設置されていてもよい。以下、図1を参照して計測システム1について説明し、その説明の中で図2図7も参照する。
【0009】
レーザ溶接装置100は、レーザ制御装置10と、レーザ発振器11と、光ファイバ12と、溶接ヘッド13とを備える。
【0010】
レーザ制御装置10は、レーザ発振器11を制御する。例えば、レーザ発振器11が出力するレーザのパワーや、レーザ発振器11がレーザ照射を開始、中断または終了するタイミングを制御する。レーザ制御装置10は、レーザ出力を開始、中断または終了する際に、その旨を後述するCPU19に通知する。
【0011】
レーザ発振器11は、レーザ発振によって、レーザ溶接に用いるためのレーザ光Lを出力する。
【0012】
光ファイバ12は、レーザ発振器11により出力されたレーザ光Lを溶接ヘッド13へ伝送する。
【0013】
溶接ヘッド13は、伝送されたレーザ光Lを、レーザ溶接の対象物であるワークWの所定の溶接位置(溶接箇所)に照射する。これにより、ワークWが溶接される。溶接ヘッド13は、例えば、レーザ光Lを集光レンズによって集光してワークWに照射する。
【0014】
レーザ溶接は、ワークWの絶対的位置を固定して、溶接ヘッド13をワークW上の所定の溶接線に沿うように走査させて実行されてもよい。または、溶接ヘッド13の絶対的位置を固定して、ワークWを移動させてレーザ溶接が実行されてもよい。或いは、溶接ヘッド13およびワークWの両方を移動させてレーザ溶接が実行されてもよい。
【0015】
ワークWは、例えば金属などの熱可塑性材料からなる。ワークWは、治具などで絶対的位置が固定されていてもよいし、例えば多関節ロボットやNC加工機などのワーク操作装置(図示せず)に取り付けられていてもよい。ワーク操作装置は、ワークWを溶接するために、溶接ヘッド13がワークW上の所定の溶接線に沿うように、ワークWを移動させる装置である。
【0016】
溶接ヘッド13は、治具などで絶対的位置が固定されていてもよいし、例えば多関節ロボットやNC加工機などの溶接ヘッド操作装置(図示せず)に取り付けられていてもよい。溶接ヘッド操作装置は、ワークWを溶接するために、ワークW上の所定の溶接線に沿うように、溶接ヘッド13を走査させる装置である。
【0017】
計測装置200は、AEセンサ14と、プリアンプ15と、フィルタ16と、メインアンプ17と、A/D変換器18と、CPU(Central Processing Unit)19と、位置情報取得部20とを備える。
【0018】
AEセンサ14は、レーザ溶接中において、AEによって溶接箇所から発生する弾性波であるAE波を検出し、検出されたAE波の経時的な変動を示す電気信号(AE信号)を出力する。例えば、AE信号の電圧のレベルが、検出されたAE波のレベルに対応する。AE信号が表すデータを、AEデータと呼ぶ。AEデータは例えば、AEセンサ14により検出されたAE波の時系列データである。AEデータは、弾性波データの一例である。
【0019】
レーザ溶接において、溶け込み深さが大きいほど大きなAEが生じ、大きなAE波が発生する。そのため、溶け込み深さが大きいほど、検出されるAE波は大きくなり、出力されるAE信号も大きくなる。また、AE波はワークWの溶接箇所を起点としてワークWの内部および空気中を減衰しながら伝播する。そのため、AEセンサ14と溶接箇所との間の距離が大きくなるほど、検出されるAE波は小さくなり、出力されるAE信号も小さくなる。
【0020】
第1実施形態において、AEセンサ14は、例えば圧電素子(ピエゾ素子)を備える。AEセンサ14が圧電素子を備える場合は、AEセンサ14はワークWに接触固定される。ここで、AEセンサ14がワークWに固定されるとは、ワークWに対するAEセンサ14の相対的位置が一定であることを指す。このときAEセンサ14とワークWとの間の隙間(空気層)を無くすために、AEセンサ14に接触媒質が塗布され、ワークWと隙間なく密着されていてもよい。AEセンサ14に接触媒質が塗布され、ワークWと隙間なく密着されることで、より高感度にAE波が検出される。
【0021】
AEセンサ14は、後述する位置情報取得部20にAEセンサ14自身の位置情報を送信する。あるいは、位置情報取得部20がAEセンサ14の位置情報を取得する。
【0022】
プリアンプ15は、AEセンサ14から伝送されたAE信号が微弱である場合に、所定の増幅条件によってAE信号を増幅する。
【0023】
フィルタ16は、プリアンプ15から伝送されたAE信号のうち、レーザ溶接における溶け込み深さに関係した周波数帯域の信号を通し、当該周波数帯域を除く周波数帯域の信号は減衰させる。フィルタ16により、例えばレーザ光LがワークWに対して初期衝突する時、スパッタ発生時または異物付着時における、溶接箇所の品質評価に関係しないAE信号を除去することができる。
【0024】
メインアンプ17は、フィルタ16から伝送されたAE信号を所定の増幅条件において増幅する。
【0025】
A/D変換器18は、メインアンプ17から伝送されたAE信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0026】
要素15~18のうち少なくとも1つはAEセンサ14の外部に設置されていてもよいし、AEセンサ14に内蔵されていてもよい。特に、プリアンプ15がAEセンサ14に内蔵されている場合は、高感度で低雑音なAE信号が得られる。
【0027】
ここで、第1実施形態におけるレーザ溶接の過程の一例を説明する。
【0028】
図2図3および図4は、レーザ溶接の過程の一例を説明するための上面図である。ここでは、2つのワークW1,W2を突き合わせてレーザ溶接する場合を説明する。溶接線WLは、2つのワークW1,W2が接している線(面)を表している。溶接線WLに沿って溶接ヘッド13が移動しながら、溶接線WLにレーザ光Lが照射され、溶接が行われる。AEセンサ14は溶接に直接影響しないように溶接線WLから十分な間隔を空けて固定される。溶接線WLはレーザ溶接の用途に応じてあらゆる形状を取り得る。ここでは、溶接線WLは線分であり、AEセンサ14は溶接線WLの略中央に設置されるとする。
【0029】
図2は溶接開始直後を示す上面図である。図2に示すように、溶接開始直後は溶接ヘッド13(溶接箇所)が溶接線WLの一端にあり、溶接箇所とAEセンサ14との間の距離Dが大きい。そのため、AE波の減衰量が大きくなり、出力されるAE信号は小さくなる。
【0030】
図3は溶接ヘッドが溶接線WLの略中央に移動してきたときの上面図である。図3に示すように、溶接開始から時間が経ち、溶接ヘッド13が溶接線WLの中央付近に移動すると、溶接箇所とAEセンサ14との間の距離Dが小さくなる。そのため、AE波の減衰量は少なくなり、出力されるAE信号は大きくなる。
【0031】
図4は溶接終了直前を示す上面図である。図4に示すように、溶接終了直前は溶接ヘッドが溶接線WLの一端にあり、溶接箇所とAEセンサ14との間の距離Dが再び大きくなる。そのため、出力されるAE信号は再び小さくなる。
【0032】
上記のように、レーザ溶接中に出力されるAE信号の経時的な変動には、距離Dの経時的な変動の影響が含まれることになる。すなわち、レーザ溶接中に得られるAEデータ(測定データ)は、距離Dの経時的な変動の影響を含むことになる。
【0033】
位置情報取得部20は、レーザ溶接中におけるAEセンサ14の位置の経時的な変動を示す情報(センサ位置情報)と、レーザ溶接中における溶接箇所の位置の経時的な変動を示す情報(溶接位置情報)とを取得する。溶接箇所の位置は、溶接箇所の位置を直接観測することで求められてもよいし、溶接ヘッド13の位置およびレーザ光Lの光路から算出されてもよい。センサ位置情報は例えば、AEセンサ14の位置の時系列データであり、溶接位置情報は例えば、溶接箇所の位置の時系列データである。
【0034】
位置情報取得部20は、例えば、ワークW上の溶接箇所および/または溶接ヘッド13と、AEセンサ14とを視野に収め、観測するカメラなどの装置であってもよい。または、位置情報取得部20は、溶接ヘッドが取り付けられている溶接ヘッド操作装置から溶接ヘッド13の機械座標を取得し、溶接位置情報を求めるコンピュータなどの装置であってもよい。この場合の位置情報取得部20(コンピュータ)の処理は、電気回路により行っても、プログラムにより行ってもよい。
【0035】
位置情報取得部20は、レーザ溶接中に溶接位置情報を取得してもよいし、レーザ溶接終了後に溶接位置情報を取得してもよい。
【0036】
例えば、位置情報取得部20は、レーザ溶接終了後に溶接ヘッド操作装置の軌道の履歴から溶接位置情報を取得してもよい。あるいは、位置情報取得部20がカメラを備える場合には、レーザ溶接終了後にワークWに残った溶接痕を観測し、溶接痕とレーザ溶接開始からレーザ溶接終了までの期間に基づいて溶接位置情報を逆算して求めてもよい。
【0037】
CPU19は、A/D変換器18から伝送された、デジタル信号化されたAE信号を取り込む。そして、CPU19は、デジタル信号化されたAE信号に対して波形処理および/または複合波除去を行い、レーザ溶接箇所の溶け込み深さ測定に必要なAEデータを抽出する。AEデータは、AE信号の取得時間や振幅値の経時的変動などを含む。波形処理は、例えばピーク分離や平滑化処理などの任意の処理である。
【0038】
一般的にAE波は縦波(粗密波)と横波の複合波である。ここでは、複合波除去は、取得されたAE信号の縦波成分および横波成分のうち少なくとも一方を除去することを指す。例えば、より強度が高いとされるAE信号の縦波の成分のみからAEデータが抽出されてもよい。
【0039】
CPU19により行われる情報処理は例えば、計測装置200内の記憶装置にインストールされたコンピュータプログラムを、CPU19に実行させることで実現される。計測装置200内の記憶装置は例えば、HDD(Hard Disc Drive)である。計測装置200の記憶装置へのコンピュータプログラムのインストールは、半導体メモリなどの記録媒体に記録されたコンピュータプログラムをこの記憶装置に格納することで行ってもよいし、ネットワークからこの記憶装置にコンピュータプログラムをダウンロードすることで行ってもよい。
【0040】
図5は、図2図4のレーザ溶接の過程を経て得られたAE信号の経時的変動データに、上記の波形処理および/または複合波除去が施されて得られたAEデータである。図5の左端がAE信号の取得開始時(レーザ溶接開始時)であり、右端がAE信号の取得終了時(レーザ溶接終了時)である。上述したように、AEデータは、レーザ溶接開始時とレーザ溶接終了時は小さく、それ以外は比較的大きくなる山なりの経時的変動データになる。
【0041】
そして、CPU19は、位置情報取得部20が取得したセンサ位置情報と溶接位置情報を取り込む。そして、レーザ溶接中におけるAEセンサ14と溶接箇所との間の距離Dの経時的な変動を示す情報(距離情報)を算出し、距離情報に基づきAEデータの補正を行う。距離情報は例えば、AEセンサ14と溶接箇所との間の距離Dの時系列データである。
【0042】
例えば、位置情報取得部20がカメラを備える場合、位置情報取得部20は、溶接ヘッド13(溶接箇所)と溶接箇所が一枚に収められた画像を取得し、CPU19は、カメラとワークWとの間の距離および画像上のAEセンサ14と溶接箇所との間の距離(例えば画素数)に基づいて、距離Dを算出する。
【0043】
溶接箇所の溶け込み深さの算出において用いられる、出力されたAE信号の強度と溶接箇所の溶け込み深さの関係(関係式)、およびAEセンサ14と溶接箇所との間の距離と検出されたAE信号の強度の関係(関係式)は、予めCPU19内のメモリ(図示せず)に格納されている。取り込まれたAE信号とセンサ/溶接位置情報はCPU19で処理され、溶け込み深さが計測される。CPU19は、補正されたAEデータに基づいて、溶接箇所の溶け込み深さの経時的な変動を示す情報(溶け込み深さ情報)を算出する。溶け込み深さ情報は例えば、溶接箇所の溶け込み深さの時系列データである。
【0044】
図6は、図5に示すAEデータが距離情報に基づいて補正された後のAEデータを示す。補正の結果、溶接開始時付近および溶接終了時付近のAE信号が強調され、溶接途中のAE信号は減衰される。よって、図5で見られた山なりの変化は、図6では緩和されている。
【0045】
図7は、図6に示す補正後のAEデータから算出された溶け込み深さ情報(溶け込み深さ測定結果)を示す。図7の場合、溶け込み深さはワークWの溶接施工部位全体にわたってほぼ一様である。これは、正常に溶接が行われたことを示す。
【0046】
CPU19は、得られた溶け込み深さ測定結果をレーザ溶接装置100のユーザに伝えるために、溶け込み深さ測定結果を出力する。例えば、CPU19は、図7に示す溶け込み深さ測定結果を、ディスプレイなどのユーザインタフェース(図示せず)に表示してもよい。溶け込み深さ測定結果は例えば、ディスプレイ上に数値やグラフで表示される。
【0047】
また、図7の横軸は、レーザ溶接開始時から終了時までの時間(測定時間)でもよいし、溶接ヘッド13および/またはワークWの移動速度に基づいて溶接長に変換されてもよい。
【0048】
CPU19は、溶け込み深さ測定結果から、異常を検出した際にはその旨をレーザ溶接装置100のユーザに通知してもよい。例えば、所定の上限閾値および/または下限閾値を設けておき、計測された溶け込み深さが、上限閾値を超えるおよび/または下限閾値を下回る場合、ユーザに異常を通知してもよい。これにより、ユーザは、異常があった場合に、異常があった旨と、正常に溶接されなかった箇所を知ることができる。ユーザへの通知は例えば、ディスプレイ上に通知情報が表示される形で行われてもよいし、警告ランプの点灯や警告音の出力の形で行われてもよいし、その他のユーザインタフェースへの出力の形で行われてもよい。
【0049】
また、CPU19は、上限閾値を超える深さの場合にレーザ制御装置10にレーザ出力を低下または停止させるように命令してもよいし、下限閾値を下回る深さの場合にレーザ制御装置10にレーザ出力を上昇または停止させるように命令してもよい。これにより、正常に溶接がなされないまま溶接が進行することを防ぎ、正常に溶接されない範囲を小さくすることができる。
【0050】
図8は、第1実施形態に係るCPU19が行う処理の一例を示すフローチャートである。以下、CPU19が行う一連の処理の一例を、このフローチャートを参照しながら説明する。
【0051】
まず、CPU19は、レーザ制御装置10から溶接開始の通知を受領する(ステップS101)。
【0052】
次に、CPU19は、A/D変換器18からデジタル信号化されたAE信号を取り込む(ステップS102)。
【0053】
次に、CPU19は、位置情報取得部20によって取得されたセンサ位置情報および溶接位置情報を取り込む(ステップS103)。なお、ステップS102およびステップS103は順不同でもよいし、同時に行われてもよい。
【0054】
次に、CPU19は、AE信号に対して波形処理および/または複合波除去を行い、レーザ溶接箇所の溶け込み深さ測定に必要なAEデータを抽出する(ステップS104)。
【0055】
次に、取り込まれたセンサ位置情報および溶接位置情報から距離情報を算出する(ステップS105)。なお、ステップS104およびステップS105は順不同でもよいし、同時に行われてもよい。
【0056】
次に、抽出されたAEデータを距離情報に基づいて補正する(ステップS106)。
【0057】
最後に、補正されたAEデータから溶け込み深さ情報を算出し、測定結果として出力する(ステップS107)。
【0058】
上記の一連の処理はレーザ溶接後に実行されてもよいし、レーザ溶接中にレーザ溶接と同時進行で実行されてもよい。上記の処理がレーザ溶接と同時進行で実行される場合は、ユーザは溶け込み深さをレーザ溶接中にリアルタイムで知ることができ、迅速に品質評価を下すことができる。
【0059】
以上、第1実施形態によれば、AEセンサ14と溶接箇所との間の距離の経時的変動を考慮したレーザ溶接溶け込み深さ測定ができる。また、第1実施形態によれば、意図せずAEセンサ14の位置が所定の位置からずれた場合でも、正常にレーザ溶接溶け込み深さ測定ができる。
【0060】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係る計測システム2のブロック図である。上述した第1実施形態における図1と同じ名称または機能の要素には同じ符号を付している。第1実施形態では、AE波を検出するAEセンサ14は接触式であったが、第2実施形態では、AEセンサ21は非接触式であるとする。以後、変更または追加された事項を除き説明を省略する。
【0061】
AEセンサ21は、図9に示すように非接触式のセンサであり、ワークWに接触していなくてもよい。AEセンサ21は、例えば光センサである。光センサはワークWにレーザ光を入射し、入射光と反射光の干渉によってレーザ溶接中にワークWに伝播したAE波を検出してAE信号を取得する。
【0062】
AEセンサ21はワークWに対する相対的位置が一定になるように固定されている。
【0063】
AEセンサ21が光センサのような非接触式のセンサから構成されている場合は、AEセンサ21がワークWに接している必要がなく、また接触媒質を用いる必要もない。そのため、AEセンサ21を固定する場所の自由度を高くすることができ、より簡易な計測が可能である。
【0064】
(第3実施形態)
第3実施形態では、上述したレーザ溶接箇所の溶け込み深さ計測装置の他の実施形態について説明する。
【0065】
図10は、第3実施形態に係る計測システム3のブロック図である。上述した第1実施形態における図1および/または第2実施形態における図9と同じ名称または機能の要素には同じ符号を付している。以後、変更または追加された事項を除き説明を省略する。
【0066】
第1実施形態におけるAEセンサ14および第2実施形態におけるAEセンサ21は、ワークWに対して固定されていたが、第3実施形態では、AEセンサ22が溶接ヘッド13に対して固定されている。またAEセンサ22は非接触式のセンサであり、AEセンサ22は例えば光センサである。
【0067】
そして、レーザ溶接中においては、溶接ヘッド13とワークWが常に一定の距離を保っているとする。溶接は、ワークWの絶対的位置を固定して、溶接ヘッド13をワークW上の所定の溶接線に沿うように走査させて実行されてもよい。または、溶接ヘッド13の絶対的位置を固定して、ワークWを移動させて溶接が実行されてもよい。或いは、溶接ヘッド13およびワークWの両方を移動させて溶接が実行されてもよい。
【0068】
ここで、AEセンサ22が溶接ヘッド13に対して固定されているとは、溶接ヘッド13に対するAEセンサ22の相対的な位置関係が一定であることを指す。例えば、図10ではAEセンサ22と溶接ヘッド13が一体となっているが、AEセンサ22と溶接ヘッド13が一体となっていなくともよい。
【0069】
これにより、AEセンサ22は溶接ヘッド13と同様の軌跡を辿り、AE信号を出力する。溶接ヘッド13とワークWとの間の距離が常に一定のため、溶接箇所とAEセンサ22との間の距離も常に一定になる。
【0070】
そして、一定距離で距離補正が行われ、溶け込み深さ換算式により溶け込み深さが算出される。
【0071】
以上、第3実施形態によれば、AEセンサ22と溶接箇所との間の距離が常に一定となるため、距離の経時的変動を考慮した補正を行う必要がなく、より簡易な測定が可能となる。
【0072】
なお、本発明は上記実施形態および各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:計測システム 2:計測システム 3:計測システム
10:レーザ制御装置 11:レーザ発振器 12:光ファイバ
13:溶接ヘッド 14,21,22:AEセンサ 15:プリアンプ
16:フィルタ 17:メインアンプ 18:A/D変換器
20:位置情報取得部 100:レーザ溶接装置 200:計測装置
D:距離 L:レーザ光 W,W1,W2:ワーク
WL:溶接線
図1
図2
図3
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図9
図10