(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160585
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】衝撃吸収構造体及び衝撃吸収構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20231026BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20231026BHJP
B60R 19/34 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
F16F7/12
F16F7/00 J
B60R19/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071035
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】福井 勇人
(72)【発明者】
【氏名】吉水 大介
【テーマコード(参考)】
3J066
【Fターム(参考)】
3J066AA02
3J066AA23
3J066BA03
3J066BC01
3J066BD05
3J066BF02
3J066BG10
(57)【要約】
【課題】衝撃エネルギーの吸収量を減少させることなく、衝撃荷重を安定的に受けることができる衝撃吸収構造体及び衝撃吸収構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】衝撃吸収構造体10は、所定の延設方向に延びている。衝撃吸収構造体10の延設方向における第1端部10aは、延設方向に垂直な平面Pに対して傾斜する傾斜面11を有している。平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、延設方向において変化している。衝撃吸収構造体10の厚さは、延設方向において一定である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の延設方向に延びる衝撃吸収構造体であって、
前記延設方向における端部は、前記延設方向に垂直な平面に対して傾斜する傾斜面を有し、
前記平面に対する前記傾斜面の傾斜角度は、前記延設方向において変化しており、
前記衝撃吸収構造体の厚さは、前記延設方向において一定であることを特徴とする衝撃吸収構造体。
【請求項2】
前記平面に対する前記傾斜面の傾斜角度は、前記延設方向において徐々に変化している請求項1に記載の衝撃吸収構造体。
【請求項3】
前記傾斜面は、第1面と、前記延設方向において前記第1面よりも先端側に位置する第2面とを有し、
前記平面に対する前記第2面の傾斜角度は、前記平面に対する前記第1面の傾斜角度よりも小さい請求項1に記載の衝撃吸収構造体。
【請求項4】
円筒形状であり、軸方向において拡径する衝撃吸収構造体の製造方法であって、
厚さが一定である織物を裁断する裁断工程と、前記裁断工程において裁断した前記織物を丸めることによって円筒形状に成形する成形工程とを有し、
前記裁断工程において、前記織物は、直線状に延びる第1辺と、前記第1辺よりも長い第2辺と、前記第1辺と前記第2辺とを接続する一対の第3辺とを有する形状に裁断され、
前記成形工程において、裁断された前記織物は、前記一対の第3辺同士が互いに対向するように丸められることを特徴とする衝撃吸収構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収構造体及び衝撃吸収構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等には、所定の延設方向に延びる衝撃吸収構造体が設けられている。車両が物体に衝突すると、衝撃吸収構造体には衝撃荷重が作用する。衝撃吸収構造体は、延設方向における衝撃荷重を受けると変形することによって衝撃エネルギーを吸収する。このとき、衝撃吸収構造体に変形の起点が設けられていないと、衝撃吸収構造体は、圧縮破壊されることによって衝撃荷重を安定的に受けることが困難になる。したがって、衝撃吸収構造体には、延設方向における端部から順に変形するように変形の起点が設けられていることが好ましい。例えば、特許文献1に記載された衝撃吸収構造体では、延設方向における端部の板厚を先端に向かうにつれて徐々に薄くすることにより、衝撃吸収構造体の端部に変形の起点を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許発明第102006058604号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、衝撃吸収構造体に変形の起点が設けられていない場合、衝突時に衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重は急激に増大する。これに対し、衝撃吸収構造体の端部の板厚を薄くすることによって変形の起点を設ける場合、衝撃吸収構造体の端部では、延設方向に対して垂直な断面、すなわち衝撃荷重を受ける面の面積が小さくなる。このため、衝突時に衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重は、変形の起点が設けられていない場合と比較して緩やかに増大する。その結果、衝撃エネルギーの吸収量が減少する。すると、吸収したい衝撃エネルギー量によっては、衝撃吸収構造体の長さを長くする必要がある。衝撃吸収構造体の長さが長くなると、衝撃吸収構造体の重量は増大する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するための衝撃吸収構造体は、所定の延設方向に延びる衝撃吸収構造体であって、前記延設方向における端部は、前記延設方向に垂直な平面に対して傾斜する傾斜面を有し、前記平面に対する前記傾斜面の傾斜角度は、前記延設方向において変化しており、前記衝撃吸収構造体の厚さは、前記延設方向において一定であることを要旨とする。
【0006】
衝撃吸収構造体の延設方向における端部は傾斜面を有している。このため、傾斜面を有する端部が変形の起点となることによって、衝撃吸収構造体は端部から順に変形することができる。また、衝撃吸収構造体の厚さは、延設方向において一定である。つまり、衝撃吸収構造体の厚さを薄くすることなく、衝撃吸収構造体に変形の起点を設けている。このため、従来技術のように衝撃吸収構造体の延設方向に対して垂直な断面、すなわち衝撃荷重を受ける面の面積が小さくなることが抑制される。したがって、衝突時に衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重は急激に増大する。よって、衝撃エネルギーの吸収量を減少させることなく、衝撃吸収構造体は衝撃荷重を安定的に受けることができる。
【0007】
さらに、延設方向に垂直な平面に対する傾斜面の傾斜角度は、延設方向において変化している。これにより、延設方向に垂直な平面に対する傾斜面の傾斜角度が変化しない場合と比較して、変形の初期に衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重の最大値は、その後の変形過程において衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重の平均値に近づく。よって、衝撃吸収構造体が車両に設けられている場合には、衝突時の車両の急減速が抑制される。その結果、衝突時に車両の搭乗者が受ける衝撃を低減できる。
【0008】
上記衝撃吸収構造体において、前記平面に対する前記傾斜面の傾斜角度は、前記延設方向において徐々に変化していてもよい。
この構成では、衝突時に車両の搭乗者が受ける衝撃をより低減できる。
【0009】
上記衝撃吸収構造体において、前記傾斜面は、第1面と、前記延設方向において前記第1面よりも先端側に位置する第2面とを有し、前記平面に対する前記第2面の傾斜角度は、前記平面に対する前記第1面の傾斜角度よりも小さくてもよい。
【0010】
この構成では、平面に対する第2面の傾斜角度が平面に対する第1面の傾斜角度よりも大きい場合と比較して、第2面における延設方向に対して垂直な断面の面積を大きくすることができる。よって、衝撃エネルギーの吸収量を増大させることができる。
【0011】
上記問題点を解決するための衝撃吸収構造体の製造方法は、円筒形状であり、軸方向において拡径する衝撃吸収構造体の製造方法であって、厚さが一定である織物を裁断する裁断工程と、前記裁断工程において裁断した前記織物を丸めることによって円筒形状に成形する成形工程とを有し、前記裁断工程において、前記織物は、直線状に延びる第1辺と、前記第1辺よりも長い第2辺と、前記第1辺と前記第2辺とを接続する一対の第3辺とを有する形状に裁断され、前記成形工程において、裁断された前記織物は、前記一対の第3辺同士が互いに対向するように丸められることを要旨とする。
【0012】
裁断工程において、織物の第1辺は直線状に延びるように裁断されるとともに、成形工程において、裁断された織物は、一対の第3辺同士が対向するように円筒形状に成形される。このため、第1辺は、衝撃吸収構造体の軸方向の端部において、軸方向に垂直な平面に対して傾斜するとともに、平面に対する傾斜角度が軸方向において徐々に変化する傾斜面となる。また、織物の厚さは、衝撃吸収構造体の厚さとなる。織物の厚さは一定であるため、衝撃吸収構造体の厚さは軸方向において一定になる。
【0013】
この場合、傾斜面を有する端部が変形の起点となることによって、衝撃吸収構造体は端部から順に変形することができる。また、衝撃吸収構造体の厚さを薄くすることなく、衝撃吸収構造体に変形の起点を設けることができる。このため、従来技術のように衝撃吸収構造体の軸方向に対して垂直な断面、すなわち衝撃荷重を受ける面の面積が小さくなることが抑制される。したがって、衝突時に衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重は急激に増大する。よって、衝撃エネルギーの吸収量を減少させることなく、衝撃吸収構造体は衝撃荷重を安定的に受けることができる。さらに、軸方向に垂直な平面に対する傾斜面の傾斜角度が変化しない場合と比較して、変形の初期に衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重の最大値は、その後の変形過程において衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重の平均値に近づく。よって、衝撃吸収構造体が車両に設けられている場合には、衝突時の車両の急減速が抑制される。その結果、衝突時に車両の搭乗者が受ける衝撃を低減できる。
【0014】
上記衝撃吸収構造体の製造方法では、織物の裁断形状を工夫することによって、裁断された織物を丸めて円筒形状に成形するだけで、衝撃吸収構造体の軸方向の端部に傾斜面を設けることができる。この場合、衝撃吸収構造体の端部に変形の起点を設けるために端部を切断するといった加工が不要である。よって、衝撃吸収構造体の生産性が向上するとともに、衝撃吸収構造体の材料の歩留まりが向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、衝撃エネルギーの吸収量を減少させることなく、衝撃荷重を安定的に受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】実施形態における衝撃吸収構造体を示す斜視図である。
【
図3】実施形態における衝撃吸収構造体の第1端部を示す側面図である。
【
図4】実施形態における衝撃吸収構造体を示す正面図である。
【
図5】実施形態における織物の裁断形状を示す平面図である。
【
図6】試験例1の衝撃吸収構造体を示す平面図である。
【
図7】試験例1の衝撃吸収構造体を示す側面図である。
【
図8】試験例2の衝撃吸収構造体を示す平面図である。
【
図9】試験例2の衝撃吸収構造体を示す側面図である。
【
図10】試験例3の衝撃吸収構造体を示す平面図である。
【
図11】試験例3の衝撃吸収構造体を示す側面図である。
【
図12】試験例1の衝撃吸収構造体の試験結果を示すグラフである。
【
図13】試験例2の衝撃吸収構造体の試験結果を示すグラフである。
【
図14】試験例3の衝撃吸収構造体の試験結果を示すグラフである。
【
図15】変更例における衝撃吸収構造体の第1端部を示す側面図である。
【
図16】変更例における衝撃吸収構造体の第1端部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、衝撃吸収構造体及び衝撃吸収構造体の製造方法を具体化した一実施形態を
図1~
図5にしたがって説明する。本実施形態の衝撃吸収構造体は、車両の前方に設けられている。なお、以下の説明において、前、後、左、右とは、車両の運転者が前方(前進方向)を向いた状態を基準とした場合の、前、後、左、右のことをいう。
【0018】
図1に示すように、車両において、左右方向の両側に設けられた一対のフロントサイドメンバ110の間には、フロントクロスメンバ120が設けられている。フロントクロスメンバ120は、一対のフロントサイドメンバ110を連結している。一対のフロントサイドメンバ110の前端部にはそれぞれ、衝撃吸収構造体10がフロントバンパ130を支持するように設けられている。
【0019】
衝撃吸収構造体10は、後述する繊維強化複合材によって形成されている。衝撃吸収構造体10は、所定の延設方向に延びている。本実施形態の衝撃吸収構造体10は、前後方向に沿って延びている。したがって、本実施形態における所定の延設方向とは前後方向である。車両が物体に衝突する、より詳しくはフロントバンパ130が物体に衝突すると、フロントバンパ130を介して衝撃吸収構造体10には後方に向かう衝撃荷重が作用する。衝撃吸収構造体10は、衝撃荷重を受けると変形することによって衝撃エネルギーを吸収する。
【0020】
<衝撃吸収構造体の構成>
図2に示すように、本実施形態の衝撃吸収構造体10は、円筒形状である。衝撃吸収構造体10が円筒形状である場合、衝撃吸収構造体10の軸方向は、延設方向と一致している。つまり、本実施形態の衝撃吸収構造体10の軸方向は、前後方向と一致している。衝撃吸収構造体10の軸方向に対して垂直な断面形状は、円形状である。
【0021】
衝撃吸収構造体10は、第1端部10a及び第2端部10bを有している。第1端部10a及び第2端部10bは、衝撃吸収構造体10の軸方向の端部である。第2端部10bは、衝撃吸収構造体10の軸方向において第1端部10aの反対に位置する端部である。本実施形態では、第1端部10aは、衝撃吸収構造体10の前端部である。また、第2端部10bは、衝撃吸収構造体10の後端部である。本実施形態の衝撃吸収構造体10の径は、軸方向において第1端部10aから第2端部10bに向かうにつれて徐々に拡径している。
【0022】
第1端部10aには、金属製の第1ブラケット21が取り付けられている。第1ブラケット21は、第1端部10aの内側に挿入された状態で衝撃吸収構造体10に固定されている。本実施形態では、フロントバンパ130を貫通する図示しないボルトが第1ブラケット21の雌ねじ孔21aに螺合される。これにより、衝撃吸収構造体10は、第1ブラケット21を介してフロントバンパ130に取り付けられている。
【0023】
第2端部10bには、金属製の第2ブラケット22が取り付けられている。第2ブラケット22は、衝撃吸収構造体10の外周面に固定されている。本実施形態では、第2ブラケット22の貫通孔22aに挿通された図示しないボルトがフロントサイドメンバ110に形成された図示しない雌ねじ孔に螺合される。これにより、衝撃吸収構造体10は、第2ブラケット22を介してフロントサイドメンバ110に取り付けられている。
【0024】
図3に示すように、衝撃吸収構造体10の第1端部10aは、傾斜面11を有している。傾斜面11は、延設方向に垂直な平面Pに対して傾斜する面である。平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、延設方向において変化している。
【0025】
傾斜面11は、第1端11a及び第2端11bを有している。第1端11a及び第2端11bは、延設方向における傾斜面11の端である。第2端11bは、第1端11aよりも先端側に位置している。本実施形態の傾斜面11は、延設方向と直交する方向から見た側面視において、第1端11aと第2端11bとを繋ぐ仮想直線Lよりも先端側に膨らむように湾曲している。したがって、平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、徐々に変化している。具体的には、平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、第1端11aから第2端11bに向かうにつれて徐々に小さくなっている。
【0026】
図4に示すように、衝撃吸収構造体10の厚さT10は、軸方向及び周方向において一定である。本実施形態の「衝撃吸収構造体10の厚さT10」とは、衝撃吸収構造体10の外径ではなく、衝撃吸収構造体10の内周面から外周面までの径方向における寸法を指している。なお、「衝撃吸収構造体10の厚さT10は、軸方向において一定である」には、衝撃吸収構造体10の厚さT10が製造公差の範囲内で軸方向において若干異なっている場合を含んでいる。また、「衝撃吸収構造体10の厚さT10は、周方向において一定である」には、衝撃吸収構造体10の厚さT10が製造公差の範囲内で周方向において若干異なっている場合を含んでいる。なお、
図4では、第2ブラケット22の図示を省略している。
【0027】
<衝撃吸収構造体の製造方法>
次に、本実施形態の衝撃吸収構造体の製造方法について説明する。
衝撃吸収構造体の製造方法は、織物を裁断する裁断工程と、裁断された織物にマトリックス材料を複合化する複合化工程とを有している。
【0028】
織物は、例えば、複数の経糸と複数の緯糸とを有するとともに、経糸と緯糸とが互いに交絡したものである。経糸及び緯糸は、炭素繊維などの強化繊維からなる。なお、織物は、複数の経糸が配列された経糸層と複数の緯糸が配列された緯糸層とが積層されるとともに、経糸層と緯糸層とが結合糸によって互いに結合されたものであってもよい。
【0029】
織物の厚さは一定である。厳密には、織物の厚さは、糸が重なっている部分では厚く、糸が重なっていない部分では薄くなっている。したがって、織物の厚さが一定であるとは、糸が重なっている部分の厚さが許容される厚さの上限値よりも薄く、かつ糸が重なっていない部分の厚さが許容される厚さの下限値よりも厚いことを指す。
【0030】
マトリックス材料は、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂である。
図5に示すように、裁断工程では、織物30を所望の裁断形状に裁断する。織物30の裁断形状は、所望の形状の衝撃吸収構造体10を展開した形状に設定される。本実施形態では、織物30は、
図5において二点鎖線で示す裁断形状に裁断される。裁断された織物30は、第1辺31と、第2辺32と、一対の第3辺33とを有している。第1辺31、第2辺32、及び一対の第3辺33はそれぞれ、織物30の厚さ方向に沿う面である。第1辺31は、直線状に延びている。第2辺32の長さは、第1辺31の長さよりも長い。第2辺32は、両端部から中間部に向かうにつれて第1辺31からの距離が徐々に長くなるように弧状に延びている。一対の第3辺33は、第1辺31と第2辺32とを接続している。第3辺33は、直線状に延びている。一対の第3辺33間の距離は、第1辺31から第2辺32に向かうにつれて徐々に長くなっている。
【0031】
本実施形態の複合化工程は、RTM(Resin Transfer Molding)工法を用いて行われる。詳しくは、複合化工程は、成形工程と、充填工程と、硬化工程と、取出工程とを有している。
【0032】
成形工程は、図示しない成形型によって、裁断された織物30を所望の形状に成形する工程である。本実施形態の成形型は、円錐形状の中型と、中型を挟む上型及び下型とを有している。裁断された織物30は、一対の第3辺33同士が対向するように中型に巻き付けられる。すなわち、裁断された織物30は、一対の第3辺33同士が対向するように丸められることによって円筒形状に成形される。上型及び下型は、裁断された織物30が巻き付けられた中型を挟む。充填工程は、織物30が入った成形型内に熱硬化性樹脂を充填することによって、熱硬化性樹脂を織物30に含浸させる工程である。硬化工程は、成形型内で熱硬化性樹脂を硬化させる工程である。これにより、織物30と熱硬化性樹脂とが複合化されることによって、繊維強化複合材が形成される。取出工程は、成形型から繊維強化複合材を取り出す工程である。取り出された繊維強化複合材は、衝撃吸収構造体10である。
【0033】
成形工程において、裁断された織物30は、一対の第3辺33同士が対向するように丸められることにより円筒形状に成形されている。したがって、製造された衝撃吸収構造体10では、第1辺31は、衝撃吸収構造体10の第1端部10aに位置している。第2辺32は、衝撃吸収構造体10の第2端部10bに位置している。また、裁断工程において、織物30の第1辺31は、直線状に延びるように裁断されている。したがって、第1辺31は、第1端部10aにおいて、軸方向に垂直な平面Pに対して傾斜するとともに、平面Pに対する傾斜角度θが軸方向において徐々に変化する傾斜面11となる。さらに、織物30の厚さは、衝撃吸収構造体10の厚さT10となる。織物30の厚さは一定であるため、衝撃吸収構造体10の厚さT10は軸方向において一定になる。
【0034】
<衝撃吸収構造体の試験>
発明者は、衝撃吸収構造体の形状と衝撃吸収構造体が受ける衝撃荷重との関係について試験を行った。発明者は、試験例1,2,3の衝撃吸収構造体を用意した。試験例1,2,3の衝撃吸収構造体は、板状の衝撃吸収構造体である。試験例1,2,3の衝撃吸収構造体では、延設方向における端部の形状だけが異なっている。以下、試験例1,2,3の衝撃吸収構造体の端部の形状について詳述する。
【0035】
図6及び
図7は、試験例1の衝撃吸収構造体40を示す。
図6に示すように、衝撃吸収構造体40の端部40aは、延設方向に垂直な平面Pに対して傾斜する一対の傾斜面41を有している。一対の傾斜面41は、衝撃吸収構造体40の幅方向における端部40aの両端面でもある。一対の傾斜面41は、先端に向かうにつれて互いに近付くように傾斜している。平面Pに対する傾斜面41の傾斜角度θ41は、延設方向において一定である。言い換えると、平面Pに対する傾斜面41の傾斜角度θ41は、延設方向において変化しない。
【0036】
図7に示すように、衝撃吸収構造体40の厚さT40は、延設方向において一定である。なお、衝撃吸収構造体40の厚さT40とは、衝撃吸収構造体40の板厚のことである。
【0037】
図8及び
図9は、試験例2の衝撃吸収構造体50を示す。
図8に示すように、衝撃吸収構造体50の端部50aは、延設方向に垂直な平面Pに対して傾斜する一対の傾斜面51を有している。一対の傾斜面51は、衝撃吸収構造体50の幅方向における端部50aの両端面でもある。一対の傾斜面51は、先端に向かうにつれて互いに近付くように傾斜している。平面Pに対する傾斜面51の傾斜角度θ51は、延設方向において一定である。言い換えると、平面Pに対する傾斜面51の傾斜角度θ51は、延設方向において変化しない。平面Pに対する傾斜面51の傾斜角度θ51は、平面Pに対する傾斜面41の傾斜角度θ41と同じである。
【0038】
図9に示すように、衝撃吸収構造体50の厚さT50は、延設方向において変化している。なお、衝撃吸収構造体50の厚さT50とは、衝撃吸収構造体50の板厚のことである。詳しくは、衝撃吸収構造体50の端部50aは、第1部位52と、第1部位52よりも先端側に位置する第2部位53とを有している。第1部位52の板厚は、第2部位53の板厚よりも厚い。第2部位53の板厚は、第1部位52から先端に向かうにつれて徐々に薄くなっている。したがって、衝撃吸収構造体50の厚さT50は、第1部位52では一定であるが、第2部位53では先端に向かうにつれて徐々に薄くなっている。
【0039】
図10及び
図11は、試験例3の衝撃吸収構造体60を示す。
図10に示すように、衝撃吸収構造体60の端部60aは、延設方向に垂直な平面Pに対して傾斜する一対の傾斜面61を有している。一対の傾斜面61は、衝撃吸収構造体60の幅方向における端部60aの両端面でもある。一対の傾斜面61は、先端に向かうにつれて互いに近付くように傾斜している。平面Pに対する傾斜面61の傾斜角度は、延設方向において変化している。詳しくは、一対の傾斜面61はそれぞれ、第1面61aと、第1面61aよりも先端側に位置する第2面61bとを有している。平面Pに対する第1面61aの傾斜角度θ61aは、平面Pに対する傾斜面41の傾斜角度θ41、及び平面Pに対する傾斜面51の傾斜角度θ51のそれぞれと同じである。平面Pに対する第2面61bの傾斜角度θ61bは、平面Pに対する第1面61aの傾斜角度θ61aよりも小さい。
【0040】
図10に示すように、衝撃吸収構造体60の厚さT60は、延設方向において一定である。なお、衝撃吸収構造体60の厚さT60とは、衝撃吸収構造体60の板厚のことである。
【0041】
このように試験例2の衝撃吸収構造体50は、試験例1の衝撃吸収構造体40に対し、衝撃吸収構造体の端部の厚さを薄くすることによって変形の起点を設けたものである。試験例3の衝撃吸収構造体60は、試験例1の衝撃吸収構造体40に対し、平面Pに対する傾斜面の傾斜角度を変化させることによって変形の起点を設けたものである。そして、発明者は、衝撃吸収構造体40,50,60の延設方向の長さが所定の長さに変形するまで、衝撃吸収構造体40,50,60に対して衝撃を与えた。
【0042】
図12は、試験例1の試験結果を示すグラフである。
図13は、試験例2の試験結果を示すグラフである。
図14は、試験例3の試験結果を示すグラフである。
図12、
図13、及び
図14における縦軸の荷重とは、衝撃吸収構造体40,50,60が受けた衝撃荷重である。横軸のストローク量とは、衝撃吸収構造体40,50,60の延設方向における長さの変化量である。縦軸の衝撃エネルギーの吸収量とは、衝撃吸収構造体40,50,60が吸収した衝撃エネルギーの量である。衝撃エネルギーの吸収量は、荷重及びストローク量の積分値に相当する。なお、グラフにおける各目盛り線は、
図12、
図13、及び
図14で同じ値を示している。
【0043】
図12に示すように、試験例1では、荷重は、変形の初期において急激に増大した後、急激に減少する。その後の変形過程では、荷重は、減少した値の付近を推移している。また、変形の初期における荷重の最大値は、その後の変形過程における荷重の平均値よりも大きくなっている。つまり、試験例1では、荷重の変動幅が大きい。したがって、試験例1の衝撃吸収構造体40は、衝撃荷重を安定的に受けていないといえる。特に、変形の初期における荷重の最大値がその後の変形過程における荷重の平均値よりも大きい場合、衝突時に車両は急激に減速することになるため、車両の搭乗者は衝撃を受けやすい。
【0044】
図13に示すように、試験例2では、荷重は、変形の初期において増大した後、急激に減少することなく、増大した値の付近を推移している。つまり、試験例2では、試験例1と比較して荷重の変動幅が小さい。したがって、試験例2の衝撃吸収構造体50は、試験例1の衝撃吸収構造体40と比較して、衝撃荷重を安定的に受けているといえる。これは、試験例2では、衝撃吸収構造体50の厚さT50を薄くすることによって、衝撃吸収構造体50の端部50aに変形の起点を設けたためである。
【0045】
その一方で、試験例2での変形の初期における荷重の傾きは、試験例1での変形の初期における荷重の傾きよりも小さい。すなわち、試験例2では、試験例1と比較して、荷重は変形の初期において緩やかに増大している。その結果、試験例2の衝撃吸収構造体50が所定の長さまで変形したときの衝撃エネルギーの吸収量は、試験例1の衝撃吸収構造体40が所定の長さまで変形したときの衝撃エネルギーの吸収量よりも小さくなっている。これは、試験例2では、衝撃吸収構造体50の厚さT50を薄くしたことによって、延設方向に対して垂直な断面、すなわち衝撃荷重を受ける面の面積が小さくなっているためである。
【0046】
図14に示すように、試験例3では、試験例1と同様、荷重は、変形の初期において急激に増大した後、減少する。その後の変形過程では、荷重は、変形の初期において増大したときの値の付近を推移している。試験例3での変形の初期における荷重の最大値とその後の変形過程における荷重の平均値との差は、試験例1での変形初期における荷重の最大値とその後の変形過程における荷重の平均値との差よりも小さい。つまり、試験例3では、試験例1と比較して荷重の変動幅が小さい。したがって、試験例3の衝撃吸収構造体60は、試験例1の衝撃吸収構造体40と比較して、衝撃荷重を安定的に受けているといえる。これは、試験例3では、平面Pに対する傾斜面61の傾斜角度を延設方向において変化させることによって、衝撃吸収構造体60の端部60aに変形の起点を設けたためである。
【0047】
また、試験例3での変形の初期における荷重の傾きは、試験例1での変形の初期における荷重の傾きとほぼ同じである。その結果、試験例3の衝撃吸収構造体60が所定の長さまで変形したときの衝撃エネルギーの吸収量は、試験例1の衝撃吸収構造体40が所定の長さまで変形したときの衝撃エネルギーの吸収量とほぼ同じである。これは、試験例3の衝撃吸収構造体60の厚さT60が延設方向において一定であるためである。これにより、試験例2のように、延設方向に対して垂直な断面、すなわち衝撃荷重を受ける面の面積が小さくなることが抑制されている。
【0048】
なお、上記試験では、衝撃吸収構造体40,50,60の形状を板状にしていたが、本実施形態のように衝撃吸収構造体10の形状を円筒形状にしたとしても試験結果の傾向は変わらないことが確認されている。すなわち、延設方向に対して垂直な平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θを延設方向において変化させることによって、衝撃吸収構造体10に変形の起点を設ける場合、衝撃吸収構造体10は、衝撃荷重を安定的に受けることができる。また、衝撃吸収構造体10の厚さT10が延設方向において一定である場合、衝撃吸収構造体10による衝撃エネルギーの吸収量が減少することを回避できる。
【0049】
[本実施形態の作用及び効果]
本実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)衝撃吸収構造体10の第1端部10aは、延設方向に垂直な平面Pに対して傾斜する傾斜面11を有している。このため、衝撃吸収構造体10は、第1端部10aが変形の起点となることによって、第1端部10aから順に変形することができる。また、衝撃吸収構造体10の厚さT10は、延設方向において一定である。つまり、衝撃吸収構造体10の厚さT10を薄くすることなく、衝撃吸収構造体10に変形の起点を設けている。このため、従来技術のように衝撃吸収構造体10の延設方向に対して垂直な断面、すなわち衝撃荷重を受ける面の面積が小さくなることが抑制される。したがって、衝突時に衝撃吸収構造体10が受ける衝撃荷重は急激に増大する。よって、衝撃エネルギーの吸収量を減少させることなく、衝撃吸収構造体10は、衝撃荷重を安定的に受けることができる。
【0050】
さらに、延設方向に垂直な平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、延設方向において変化している。これにより、延設方向に垂直な平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θが変化しない場合と比較して、変形の初期において衝撃吸収構造体10が受ける衝撃荷重の最大値は、その後の変形過程において衝撃吸収構造体10が受ける衝撃荷重の平均値に近づく。よって、衝突時の車両の急減速が抑制される。その結果、衝突時に車両の搭乗者が受ける衝撃を低減できる。
【0051】
(2)延設方向に垂直な平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、延設方向において徐々に変化している。これにより、衝突時に車両の搭乗者が受ける衝撃をより低減できる。
【0052】
(3)衝撃吸収構造体10の製造方法は、厚さが一定である織物30を裁断する裁断工程と、裁断工程において裁断した織物30を丸めることによって円筒形状に成形する成形工程とを有している。裁断工程において、織物30は、直線状に延びる第1辺31と、第1辺31よりも長い第2辺32と、第1辺31と第2辺32とを接続する一対の第3辺33とを有する形状に裁断される。成形工程において、裁断された織物30は、一対の第3辺33同士が互いに対向するように丸められる。
【0053】
裁断工程において、織物30の第1辺31は直線状に延びるように裁断されるとともに、成形工程において、裁断された織物30は、一対の第3辺33同士が対向するように円筒形状に成形される。このため、第1辺31は、衝撃吸収構造体10の第1端部10aにおいて、軸方向に垂直な平面Pに対して傾斜するとともに、平面Pに対する傾斜角度θが軸方向において徐々に変化する傾斜面11となる。また、織物30の厚さは、衝撃吸収構造体10の厚さT10となる。織物30の厚さは一定であるため、衝撃吸収構造体10の厚さT10は軸方向において一定になる。
【0054】
本実施形態の衝撃吸収構造体の製造方法では、織物30の裁断形状を工夫することによって、裁断された織物30を丸めて円筒形状に成形するだけで、衝撃吸収構造体10の第1端部10aに傾斜面11を設けることができる。この場合、衝撃吸収構造体10の第1端部10aに変形の起点を設けるために第1端部10aを切断するといった加工が不要である。よって、衝撃吸収構造体10の生産性が向上するとともに、衝撃吸収構造体10の材料の歩留まりが向上する。
【0055】
(4)衝撃吸収構造体10の径は、延設方向において第1端部10aから第2端部10bに向かうにつれて拡径している。このため、衝撃吸収構造体10の延設方向に対して垂直な断面の面積は、第1端部10aから第2端部10bに向かうにつれて大きくなる。よって、衝撃吸収構造体10は、衝撃荷重をより安定的に受けることができる。
【0056】
[変更例]
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0057】
○ 衝撃吸収構造体10は、円筒形状でなくてもよい。衝撃吸収構造体10は、例えば、多角筒状であってもよいし、試験例3の衝撃吸収構造体60のような板状であってもよい。
【0058】
○ 衝撃吸収構造体10の断面形状は、上記実施形態の円形状のような閉じた断面形状でなくてもよい。衝撃吸収構造体10の断面形状は、例えば、C字状やハット状などの開いた断面形状であってもよい。
【0059】
○ 延設方向に垂直な平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、延設方向において変化していれば、徐々に変化していなくてもよい。
例えば、
図15に示すように、傾斜面11は、平面Pに対する傾斜角度が異なる第1面11c及び第2面11dによって構成されていてもよい。第2面11dは、延設方向において第1面11cよりも先端側に位置している。平面Pに対する第2面11dの傾斜角度θdは、平面Pに対する第1面11cの傾斜角度θcよりも小さい。つまり、延設方向に垂直な平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、延設方向において2段階に変化している。この場合、平面Pに対する第2面11dの傾斜角度θdが平面Pに対する第1面11cの傾斜角度θcよりも大きい場合と比較して、第2面11dにおける延設方向に対して垂直な断面の面積を大きくすることができる。よって、衝撃エネルギーの吸収量を増大させることができる。
【0060】
例えば、
図16に示すように、傾斜面11は、平面Pに対する傾斜角度が異なる第1面11e及び第2面11fによって構成されていてもよい。第2面11fは、延設方向において第1面11eよりも先端側に位置している。平面Pに対する第2面11fの傾斜角度θfは、平面Pに対する第1面11eの傾斜角度θeよりも大きい。つまり、延設方向に垂直な平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、延設方向において2段階に変化している。
【0061】
なお、傾斜面11は、平面Pに対する傾斜角度が異なる3つ以上の面によって構成されていてもよい。つまり、延設方向に垂直な平面Pに対する傾斜面11の傾斜角度θは、延設方向において3段階以上の多段階に変化していてもよい。
【0062】
○ 衝撃吸収構造体10の径は、延設方向において一定であってもよい。なお、「衝撃吸収構造体10の径が延設方向において一定である」には、衝撃吸収構造体10の径が延設方向において製造公差の範囲内で若干異なっている場合を含んでいる。
【0063】
○ 衝撃吸収構造体の製造方法は、上記実施形態の方法に限定されない。例えば、衝撃吸収構造体10は、射出成形によって製造されてもよい。具体的には、強化繊維を含む熱硬化性樹脂を溶融した後、所望の形状のキャビティを有する型に流し込む。そして、型内において熱硬化性樹脂を硬化させる。これにより、繊維強化複合材からなる衝撃吸収構造体10が形成される。
【0064】
○ 衝撃吸収構造体10は、車両の後方や側方に設けられていてもよい。
衝撃吸収構造体10が車両の後方に設けられる場合、衝撃吸収構造体10は、リアサイドメンバの後端部に対して、リアバンパを支持するように設けられていてもよい。この場合も、衝撃吸収構造体10の延設方向は前後方向である。
【0065】
衝撃吸収構造体10が車両の側方に設けられる場合、衝撃吸収構造体10の延設方向は左右方向であるのが好ましい。
つまり、衝撃吸収構造体10の延設方向は、車両に設ける位置から想定される衝撃荷重の方向に基づいて設定される。
【0066】
○ 衝撃吸収構造体10は、車両以外に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…衝撃吸収構造体、10a…端部としての第1端部、11…傾斜面、11c…第1面、11d…第2面、30…織物、31…第1辺、32…第2辺、33…第3辺、P…平面。