(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160591
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】変性アルミノシリケートの製造方法、変性アルミノシリケート及びそれを用いた芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/48 20060101AFI20231026BHJP
C01B 39/06 20060101ALI20231026BHJP
B01J 29/89 20060101ALI20231026BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231026BHJP
C07C 39/08 20060101ALI20231026BHJP
C07C 39/10 20060101ALI20231026BHJP
C07C 37/60 20060101ALI20231026BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C01B39/48
C01B39/06
B01J29/89 Z
B01J37/08
C07C39/08
C07C39/10
C07C37/60
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071047
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井本 樹
(72)【発明者】
【氏名】堀内 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 聰
(72)【発明者】
【氏名】中西 契太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 奨
(72)【発明者】
【氏名】窪田 好浩
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 怜史
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA20
4G073BA75
4G073BB03
4G073BB05
4G073BB48
4G073BD06
4G073CZ03
4G073CZ41
4G073CZ50
4G073CZ52
4G073FB30
4G073FC12
4G073FC13
4G073FD09
4G073FD23
4G073FE01
4G073GA03
4G073UA03
4G073UB29
4G073UB30
4G073UB35
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BB12C
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BE01C
4G169BE17C
4G169CB25
4G169CB70
4G169DA08
4G169FA01
4G169FB30
4G169FB78
4G169FC07
4G169ZA33A
4G169ZA33B
4G169ZB08
4G169ZC02
4G169ZD02
4G169ZD04
4H006AA02
4H006AC42
4H006BA71
4H006BA81
4H006BB14
4H006BB31
4H006BE32
4H006DA15
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA60
4H039CC30
(57)【要約】
【課題】工業的に有利な条件で、フェノール類と過酸化水素等との反応によりハイドロキノン類を高選択的に製造する、変性アルミノシリケートの製造方法、変性アルミノシリケート及びこれを用いた芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の変性アルミノシリケートの製造方法は、特定の水/シリカ比のゲル状シリカと、ゼオライトとを、好ましくは特定のアルミノシリケート結晶の存在下に接触させる第1工程、前記第1工程で得られる接触物を酸で処理する第2工程と、前記第2工程で得られた処理物を一次焼成する第3工程と、前記第3工程で得られた一次焼成物と、周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む液体とを接触させた後、乾燥及び二次焼成を行う第4工程とを含む。前記特定のアルミノシリケート結晶とは、一般的に種晶と言われる成分である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含むゲル状のシリカと、ゼオライトとを接触させてアルミノシリケートを得る第1工程と、
前記第1工程で得られたアルミノシリケートを酸で処理する第2工程と、
前記第2工程で得られた処理物を550℃~850℃で一次焼成する第3工程と、
前記第3工程で得られた焼成物と、周期表の4族元素及び5族元素かなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む液体とを接触させた後、乾燥及び二次焼成を行う第4工程とを含み、
前記第1工程での、水を含むゲル状シリカの、水とシリカとのモル比(H2O/SiO2:HMR)が、3.6~10.0の範囲である、変性アルミノシリケートの製造方法。
【請求項2】
前記HMRが、3.8~5.0の範囲である、請求項1に記載の変性アルミノシリケートの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の変性アルミノシリケートを含む芳香族ポリヒドロキシド化合物製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の触媒の存在下に芳香族ヒドロキシドとハイドロパーオキシドとを反応させる工程を含む、芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性アルミノシリケートの製造方法、変性アルミノシリケート及びそれを用いた芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジヒドロキシド化合物は、種々の有機合成中間体または原料物質として重要であり、還元剤、ゴム薬、染料、医薬、農薬、重合禁止剤、酸化抑制剤等の分野に利用される。
【0003】
フェノール類を過酸化水素と反応させて得られる芳香族ジヒドロキシド化合物は、例えばハイドロキノンやカテコールなどであり、製造方法によりハイドロキノンとカテコールの生成比が異なる。近年、ハイドロキノンとカテコールの需要バランスから、特にハイドロキノンを高選択的に製造する方法が切望されている。
【0004】
フェノール類を過酸化水素と反応させて芳香族ジヒドロキシド化合物を製造するために、結晶性多孔質シリケートの一つであるチタノシリケートを触媒として使用する方法が開示されている(例えば特許文献1、特許文献2)。また、特許文献3は、酸処理したアルミノシリケートを気相の塩化チタンやチタンアルコキシドで処理して得られるチタノシリケートを開示している。
【0005】
また、特許文献4は、アルミノシリケートの鋳型原料、アルミニウム源、チタン源、ケイ素源、ヨウ化物、水とともに混合してゲルを調製し、これを加熱して結晶化させた後、焼成して得られるチタノシリケートの製造方法を開示している。
【0006】
本発明者らは、アルミノシリケート化合物と液状のハロゲン化チタン化合物とを接触させてアルミノチタノシリケートを製造する方法を開示している(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4254009号公報
【特許文献2】国際特許公開2015/041137号
【特許文献3】特開2008-050186号公報
【特許文献4】特開2017-057126号公報
【特許文献5】国際特許公開2019/225549号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の特許文献5で得られるアルミノチタノシリケートは、芳香族ジヒドロキシド化合物製造用の優れた触媒となり得ることが示唆されている。中でも四塩化チタンを用いてチタン源を導入したアルミノチタノシリケートが、特に高い選択率で芳香族ジヒドロキシド化合物を与えることが開示されている。また本発明者のX線結晶構造解析(X線回折(XRD)測定)によれば、前記のアルミノチタノシリケートは、23~24°に最大ピークを示す化合物であった。
【0009】
一方で、よりマイルドなチタン源の導入方法である三塩化チタン水溶液などを用いた方法でも芳香族ジヒドロ化合物の高い選択率での製造が可能であることが開示されているが、前記の四塩化チタンを用いる方法には及ばない様である。
【0010】
本発明者らの検討によれば、中間原料として使用するゲル状のシリカ中に塊状の固形物発生する場合がある事が分かってきた。この様な固形物の存在は、工業的な観点では、次工程の水熱合成用の反応装置(例えば.オートクレーブ)に移送する際に、安定的、定量的な内容物の移送に支障が生じたり、固体故の後工程での反応性の低下等が発生する可能性がある。この為、安定生産の観点では不利となる場合がある。上記の固形物を粉砕すれば、実質的に上記の問題は解決するが、前記粉砕を行うには、特殊な装置を必要とする等の固定費増や、製造速度の低下を招き、工業的に生産するには、製造工程が煩雑になる場合がある。
【0011】
本発明は、従来よりも工業的に有利な条件で、例えばフェノール類と過酸化水素等との反応によりハイドロキノン類を好ましくはより高選択的、高収率で製造できる、アルミノチタノシリケート等の変性アルミノシリケートの製造方法を提供することを課題としている。また、より工業的に有利な条件で、例えば、チタン源として三塩化チタン水溶液などの比較的マイルドな成分を用いても、安定的に、例えばフェノール類と過酸化水素等との反応によりハイドロキノン類を高選択的に製造できる触媒及び同触媒を用いた芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対し検討を行った結果、前記アルミノシリケートを製造する工程で、原料となるゲル状シリカの、水のシリカに対するモル比(H2O/SiO2)(以下、「HMR」と称することがある)が、前記固体状物の性能に大きく影響することを見出した。すなわち、前記HMR値を特定の範囲に制御することによって、途中、固体状物となる態様となっても、粉砕などの追加工程無しでゼオライトとの反応が進行し、その結果、ハイドロキノン類を極めて高い選択率で製造できるアルミノチタノシリケートの様な変性アルミノシリケートをより効率よく得ることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の[1]~[4]に記載の事項を含む。
[1] 水を含むゲル状のシリカと、ゼオライトとを接触させてアルミノシリケートを得る第1工程と、
前記第1工程で得られたアルミノシリケートを酸で処理する第2工程と、
前記第2工程で得られた処理物を550℃~850℃で一次焼成する第3工程と、
前記第3工程で得られた焼成物と、周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む液体とを接触させた後、乾燥及び二次焼成を行う第4工程とを含み、
前記第1工程での、水を含むゲル状シリカの、水とシリカとのモル比(H2O/SiO2:HMR)が、3.6~10.0の範囲である、
変性アルミノシリケートの製造方法。
[2] 前記HMRが、3.8~5.0の範囲である前記[1]に記載の変性アルミノシリケートの製造方法。
[3] 前記[1]に記載の変性アルミノシリケートを含む芳香族ポリヒドロキシド化合物製造用触媒の製造方法。
[4] 前記[3]に記載の触媒の存在下に芳香族ヒドロキシドとハイドロパーオキシドとを反応させる工程を含む芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
前記変性アルミノシリケートの製造方法によれば、特定のHMR値を有するゲル状シリカを原料とすることで、工業的に有用なアルミノシリケートを効率的に得ることが一つの特徴である。この様に、原料の一部であるゲル状シリカの水とシリカとの比率を特定の範囲に制御して製造すれば、例えば芳香族ポリヒドロキシド化合物製造用触媒として有用なアルミノシリケートを効率的に製造することが出来る。また、前記のアルミノシリケートは、X線で決定される特定の構造を有するアルミノシリケートであることが好ましい。また前記アルミノシリケートは、周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む液体、例えばチタン源の水溶液とマイルドな条件で接触させても、芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造に適した触媒に用いるアルミノチタノシリケートを得ることが出来る。この為、本発明は工業的に重要な意味を持つ。また、上記製造方法で製造された変性アルミノシリケートを用いることで、例えばフェノール類と過酸化水素を反応させて芳香族ジヒドロキシド化合物、例えばハイドロキノンを高選択的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例、比較例で得られたアルミノシリケートのX線回折測定結果を示したチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。
<アルミノシリケートの製造方法>
本発明の変性アルミノシリケートの製造方法は、
特定の要件を満たすゲル状のシリカと、ゼオライトとを接触させてアルミノシリケートを得る第1工程と、
前記第1工程で得られたアルミノシリケートを酸と接触させる第2工程と、
前記第2工程で得られたアルミノシリケートを500℃~850℃で一次焼成する第3工程と、
前記第3工程で得られた焼成物と、周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む液体とを接触させた後、乾燥及び二次焼成を行う第4工程とを含む。
【0017】
本発明においては、第1工程終了段階で得られるアルミノシリケートを本アルミノシリケートと言うことがある。
【0018】
〔ゲル状のシリカ〕
本発明に用いられる水を含むゲル状のシリカ(以下、水を含むゲル状のシリカを、単に「ゲル状のシリカ」と略す)は、公知のものを制限なく使用することが出来る。前記ゲル状のシリカは、好ましくはジメチルジプロピルアンモニウムヒドロキシドの様な有機構造規定剤や公知のアルカリ源と、市販のコロイダルシリカなどのシリカ源とを接触させ、適宜加熱や攪拌を併用することで得ることができる。
【0019】
前記の水は、例えば市販のコロイダルシリカに含まれる水、後述する有機構造規定剤やアルカリ源に含まれる水、追加添加するなどの方法で併用する純水などを好ましい例として挙げることが出来る。勿論、水であれば前記以外の態様であってもよい。
【0020】
また、前記ゲル状のシリカ製造時の温度は、比較的高い温度の段階を含むことが好ましい。この様な温度としては、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、更には57℃以上である。一方、好ましい上限の温度としては100℃、より好ましくは95℃、さらに好ましくは92℃、特に好ましくは90℃である。
【0021】
ここで、前記第1工程で、ゲル状のシリカの水とシリカとのモル比(H2O/SiO2:HMR)を3.6~10.0の範囲に制御することが必要である。
【0022】
前記HMRの好ましい下限値は3.7であり、より好ましくは3.8であり、さらに好ましくは3.9である。一方、好ましいHMRの上限値は9.0であり、より好ましくは8.0であり、さらに好ましくは7.0であり、特に好ましくは6.0であり、殊に好ましくは5.0である。前記HMRが3.6よりも低い場合、粉砕などの煩雑な工程を併用しないと、後述するゼオライトとの反応により本アルミノシリケートを得られない場合がある。前記HMRが10.0を超えると、前記のシリカは室温等に冷却した場合、ゲルではなく、実質的にゾル状となることがある。
【0023】
本発明にかかる後述するような特定の構造を有する本アルミノシリケートを得る為の製造方法においては、前記のゲル状シリカの前記のHMR値を制御することによって、粉砕が必要となる様な固形状物の発生を抑制できる。次のゼオライトや所謂種晶などと効率的に反応を進行させる観点で、粉砕などの別工程を必要としない本発明の方法は有利である。また、例えば製造条件変更などの際に反応容器の変更が必要となる場合に、内容物の移送などの観点でも相対的に有利である。この為、前記のHMRの数値範囲は、工業的な方法でハイドロキノンなどの芳香族ポリヒドロキシド化合物製造触媒の原料に適したアルミノシリケートを効率よく製造するために有用な要件となる。また、後述する実施例と比較例から分かるように、本発明の方法を用いれば、反応転化率に優れた触媒を得られる場合がある。これは、本発明の製造方法が、シリカと併存する水が比較的多く、その水が後述するゼオライトなどの成分との反応を促進させる効果を有する可能性も考えられる。この点でも前記のHMR値に制御することは有用である。
【0024】
本発明の前記ゲル状のシリカを前記のHMRの範囲に制御する方法は、前記のシリカ、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度によって調整する方法や、前記HMRの範囲から外れるシリカから加温や減圧などの項の方法による水の除去や、水添加などの水の導入等によって調整する方法などを挙げることが出来る。
【0025】
尚、HMR値の特定は、公知のあらゆる含水率測定法を用いて特定することが出来る他、反応工程時のマテリアルバランス関連データから算出することも出来る。
【0026】
上記のようにHMRを制御する効果は前記した通りであり、また、第2工程、第3工程に大きく影響することもある。
【0027】
〔第1工程〕
第1工程は、前記ゲル状のシリカとゼオライトとを接触させて本アルミノシリケートを製造する工程である。好ましい態様としては、MSE型構造等のアルミノシリケートをケイ素源であるゲル状のシリカと接触させた後、さらにアルミニウム源であるゼオライトと接触させてアルミノシリケートを製造する工程である。上記ゼオライトとしては、FAU型ゼオライトおよびMSE型ゼオライトが好ましく、FAU型ゼオライトがより好ましい。
【0028】
前記のアルミノシリケートは、多孔質であることが好ましい。以下、結晶性かつ多孔質であるアルミノシリケートを単に結晶性多孔質アルミノシリケートと称する。
【0029】
前記のMSE型アルミノシリケートは、後述する本アルミノシリケートを製造する際の所謂「種晶」と呼ばれる結晶と考えて差し支えない。上記のような構造を有する結晶を用いることで、後述する芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造に好適な触媒の原料となる変性アルミノシリケートを得る上で有利である。
【0030】
本発明に好ましく用いられる所謂種晶物質は、前記の通り国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)の構造コードにおいて、MSE型の構造(以下、「MSE骨格」と称す)を有する結晶性多孔質アルミノシリケートが好ましく、UZM-35、MCM-68、YNU-3等が特に好ましい。
【0031】
上記MSE骨格を有する結晶性多孔質アルミノシリケートは、上記四面体のユニットが10個からなる10員環構造、及び上記四面体のユニットが12個からなる12員環構造を有する3次元細孔構造を有する。
【0032】
本アルミノシリケートの製造方法は、前記の様な種晶と、前記のような特定のゲル状シリカと、ゼオライト(好ましくはFAU型ゼオライト)の様なアルミニウム源とを接触させ、撹拌して加熱する方法がより好ましい。更にジメチルジプロピルアンモニウムヒドロキシドの様な有機構造規定剤や公知のアルカリ源等を併用してもよい。この際、前記加熱処理時の温度範囲は155~175℃で、この温度を10~68時間保持することが好ましい。前記温度のより好ましい下限値は157℃であり、さらに好ましくは158℃である。一方、より好ましい上限値は170℃であり、さらに好ましくは168℃である。
【0033】
また前記加熱処理の好ましい時間の下限値は10時間であり、より好ましくは20時間である。一方、好ましい上限値は100時間でありより好ましくは90時間である。
【0034】
前記の所謂種晶を用いることで、本アルミノシリケート合成時の結晶成長が促進される。種晶の使用量は、ケイ素源であるシリカの1~40重量%が好ましく、2~30重量%が好ましい。また、アルミニウム源であるゼオライトはケイ素源としても機能し、その使用量はシリカの5~50重量%が好ましく、8~40重量%がより好ましい。
【0035】
この様にして得られる本アルミノシリケートは、好ましくはXRD測定で17.5~35°領域で、20°以上22.5°未満の領域に最も高いピーク(β)を有し、且つ、該ピーク(β)の、25~27°の領域の最も高いピーク(γ)に対するピーク強度比が1.7~5.0の範囲であることが好ましい。前記ピーク強度比の好ましい下限値は1.8であり、より好ましくは1.9である。一方、好ましい上限値は4.5であり、より好ましくは4.0であり、さらに好ましくは3.8であり、特に好ましくは3.7である。
【0036】
この様なアルミノシリケートを用いると、現段階で理由は不明であるが、後述する様なチタン源等を導入する方法を用いて、例えば、好適な芳香族ポリヒドロキシド化合物用触媒を得ることが出来る。よって、上記の様なXRD測定での回折パターンを有する構造のアルミノシリケートも本発明の一部である。
【0037】
前記の本発明に係るアルミノシリケートは結晶構造を示すが、その結晶形態は、恐らく従来のアルミノシリケートとは異なり、やや不安定な構造なのではないかと推測される。このような不安定さが、後述する変性アルミノシリケートとなった場合に、優れた芳香族ポリヒドロキシド化合物製造用触媒としての性能を示すのではないかとも推測される。
【0038】
尚、本発明の後述する周期表の4族、5族からなる群より選ばれる元素を、後述する第2工程および第3工程を経て得られたアルミノシリケートの焼成物に導入する際、前記の元素の導入箇所は、主としてアルミノシリケートの焼成物の固体の表面と考えることができるので、前記の元素を導入前後で、その結晶構造は、ほぼ同じであると考えてよい。
【0039】
上記ゲル状のシリカの原料としては、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、湿式シリカ、乾式シリカなどが挙げられる。これらのケイ素源は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
上記アルミニウム源としては、前記のゲル状シリカとの反応性等を考慮すると、ゼオライトが必須であるが、それ以外の成分を併用しても良い。例えば、水溶性のアルミニウム化合物を用いることができる。水溶性のアルミニウム化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。これらのアルミニウム源は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0041】
前記のアルカリ源としては、例えば、アルカリ金属を含む水酸化物を用いることができる。アルカリ金属を含む水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。これらのアルカリ源は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0042】
前記の有機構造規定剤としては、N,N,N’,N’-テトラエチルビシクロ[2,2,2]オクタ-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムジイオダイドや、N,N,N’,N’-テトラエチルビシクロ[2,2,2]オクタ-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムジイオダイド等の公知の化合物を用いることが出来る。
【0043】
上記の本アルミノシリケートは、後述する第2工程の前に焼成することが好ましい。前記の焼成する方法としては、特に制限はなく、例えば、電気炉、ガス炉等を使用して焼成する方法が挙げられる。焼成条件としては、大気雰囲気中で、0.1時間~20時間加熱することが好ましい。焼成温度は500℃~850℃であることが好ましく、550℃~800℃がより好ましい。
【0044】
〔第2工程〕
前記、第1工程で得られたアルミノシリケートを酸で処理する工程、換言するとアルミノシリケートを酸と接触させる工程が第2工程である。
【0045】
この工程で使用する酸としては、例えば、無機酸、有機酸及びこれらの混合物が挙げられ、これらの具体例としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、クエン酸、シュウ酸及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、周期表の15族、16族元素から選ばれる元素を含む酸が好ましく、特には硝酸が好ましい。酸の濃度は特に制限されないが、5重量%~80重量%が好ましく、40重量%~80重量%がより好ましい。この酸を水溶液として用いる場合、その使用量は、アルミノシリケート1重量部に対して、1~100重量部であることが好ましい。より好ましい下限値は2重量部、さらに好ましくは3重量部、特に好ましくは5重量部である。一方、より好ましい上限値は80重量部、さらに好ましくは70重量部、特に好ましくは60重量部、殊に好ましくは50重量部である。
【0046】
前記のアルミノシリケートと酸とを接触させる温度条件は、50℃~170℃が好ましく、130℃~170℃がより好ましい。また、酸で処理する時間は、5時間~48時間が好ましく、12時間~36時間がより好ましい。さらに好ましい時間の下限は、18時間である。この酸との接触により、アルミノシリケートからアルミニウムの一部が除去されると考えられる。主に、アルミノシリケートの表面のアルミニウムが除去されると推測される。前記の様な比較的高温で長時間の条件を選択することにより、後述する第3工程での焼成処理で、前記の4族元素、5族元素の導入に有利な構造を形成し易くなると推測される。
【0047】
〔第3工程〕
第3工程では、上記第2工程で得られた処理物、即ち酸と接触させたアルミノシリケートの一次焼成を行う。焼成する方法としては、特に制限はなく、例えば、電気炉、ガス炉等を使用して焼成する方法が挙げられる。焼成条件としては、大気雰囲気中で、0.1時間~20時間加熱することが好ましい。焼成温度は550℃~850℃であり、600℃~800℃がより好ましい。この比較的高温環境下での一次焼成によって、活性の高い状態で、チタン種を代表例とする周期表の4族元素、5族元素が含まれる、第4工程で得られる所謂変性アルミノシリケート形成に有利な環境が得られるものと推測される。
【0048】
上記酸と接触させたアルミノシリケートを焼成する前に、ヌッチェ等を用いて処理物を濾過して、用いた酸(水溶液)などを分離し、次いで固体部(濾物)を水洗して乾燥させることが好ましい。前記洗浄工程は、洗浄前に乾燥させることなくウェットな状態を保ったまま行うことが好ましい。水洗後の乾燥の方法としては、特に制限されないが、均一かつ迅速に乾燥することが好ましく、例えば、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式や、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式を用いることができる。
【0049】
〔第4工程〕
第4工程では、上記第3工程で得られた焼成物(以下、「一次焼成物」とも称す)と、周期表の4族元素及び5族元素から選ばれる1つ以上の元素を含む液体を、元素源として液相状態で接触させ、その後に乾燥及び二次焼成を行う。前記の周期表の4族元素及び5族元素としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム等を挙げることが出来る。好ましい元素は、チタン、ジルコニウム、バナジウムであり、特にチタンが好ましい。これらの元素を含む化合物としては、各元素のハロゲン化物、アルコキシドや無機酸の塩を好適な化合物として挙げることが出来る。より好ましくはハロゲン化物としては塩化物、アルコキシドとしては、炭素数1~6のアルコキシ基を含む態様である。さらに好ましいアルコキシドとしては、エトキシド、ブトキシド(n-ブトキシド、i-ブトキシド、s-ブトキシド、t-ブトキシド)、硫酸塩等を挙げることが出来る。これらの化合物は、2種以上を併用してももちろん構わない。
【0050】
以下、周期表の4族元素及び5族元素のうち最も好ましい態様であるチタンを含む液体(液相のチタン源)として用いた態様を代表例として説明する。
【0051】
液相のチタン源はチタンを含有する液体である。チタンを含有する液体としては、例えば、液体状のチタン化合物そのものであるか、チタン化合物の水溶液などが挙げられる。中でも液状状態で実質的に酸性を示すようなチタン化合物であることが好ましい態様である。
【0052】
液体状のチタン化合物としては、例えば、四塩化チタン(TiCl4)、テドラブトキシチタンなどが挙げられ、中でも、四塩化チタンが好ましい。チタン化合物の水溶液としては、例えば、四塩化チタン水溶液、三塩化チタン(TiCl3)水溶液、硫酸チタン(Ti(SO4)2)水溶液、ヘキサフルオロチタン酸カリウム水溶液などが挙げられ、中でも、四塩化チタン水溶液、三塩化チタン水溶液、硫酸チタン水溶液が好ましい。本発明では、四塩化チタン以外に、三塩化チタンや硫酸チタンなどの四塩化チタンよりも反応性の低いチタン源を用いた場合でも、後述する触媒活性を発現させることができる。特に、芳香族ポリヒドロキシド化合物を高い選択性で得られる触媒活性を実現することが出来る傾向がある。
【0053】
前記のチタンを含有する液体は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。上記チタンを含有する液体は、市販品を使用することもできるし、固体のチタン化合物を水で所望の濃度に希釈して適宜調製したものを使用することもできる。気相のチタン源に比べて、液相のチタン源(チタンを含有する液体)は漏洩しにくく、製造機械や分析機器等への腐食の問題も改善されるため、工業的な製造が実施しやすくなる。
【0054】
上記一次焼成物とチタン源とを接触させる条件は特に制限は無いが、この接触により、前記アルミノシリケートの一次焼成物にチタンが導入される、このチタンの導入は、前記第2工程で除去されたと考えられるアルミニウムの位置にチタンが導入されたり、アルミノシリケートのアルミニウムの一部がチタンに置き換えられるような反応が起きていることが考えられる。この工程の具体的な条件としては、例えば、液体状のチタン化合物そのものを使用する場合、一次焼成物1重量部当たり、液体状のチタン化合物を5~300重量部添加することが好ましく、20~250重量部添加することがより好ましい。チタン化合物の水溶液を用いる場合は、一次焼成物1重量部当たり、チタン化合物の水溶液を1~10重量部添加することが好ましく、1~7重量部添加することがより好ましい。前記の水溶液の濃度は、用いる化合物によっても異なるが、例えば10~70重量%、好ましくは15~60重量%である。
【0055】
前記水溶液のチタン化合物の量としては、一次焼成物1g当たりの好ましい下限値は0.1gであり、より好ましくは0.2g、さらに好ましくは0.3g、特に好ましくは0.5gである。一方、好ましい上限値は10gであり、より好ましくは5g、さらに好ましくは3gである。
【0056】
上記チタン源と一次焼成したアルミノシリケートとの接触は、使用する重量の比が上記添加量の範囲内であれば、一度だけ行っても良いし、各成分を複数回に分けて使用してもよい。例えば、一次焼成物にチタン源を添加して、後述する乾燥及び二次焼成を行って得られた焼成物に、再度チタン源を添加して乾燥及び二次焼成を行ってもよい。上記チタン源を添加する際は、空気中の水分とチタン化合物との反応によって塩化水素が発生するため、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0057】
より具体的な好ましい方法としては、一次焼成物とチタン源を接触させ、十分に混合したあと、当該混合物を加熱処理することや、上記第3工程で例示した乾燥方法と同様な方法で十分乾燥させた後、二次焼成を行う方法を挙げることが出来る。前記の加熱処理や乾燥処理での温度は特に制限はないが、例えば、チタンを効果的に一次焼成物に導入するためには、20~150℃の範囲が好ましい。より好ましい下限値は、30℃、さらに好ましくは40℃、特に好ましくは50℃である。一方、より好ましい上限値は、140℃、さらに好ましくは120℃、特に好ましくは100℃である。上記工程に必要な時間にも特に制限は無いが、好ましくは0.1~24時間である。より好ましい下限値は、0.3時間、さらに好ましくは0.4時間、特に好ましくは0.5時間である。一方、より好ましい上限値は、12時間、さらに好ましくは6時間である。二次焼成する方法としては、特に制限はなく、例えば、電気炉、ガス炉等を使用して焼成することができる。焼成条件としては、大気雰囲気中で、好ましくは400℃以上850℃以下で、0.1~20時間行う。より好ましい焼成温度の下限値は500℃であり、さらに好ましくは550℃、特に好ましくは600℃である。一方、より好ましい上限値は800℃であり、さらに好ましくは750℃であり、特に好ましくは700℃である。
【0058】
前記の一次焼成時と二次焼成時の温度は、独立して選択することが出来る。好ましくは一次焼成時の温度よりも二次焼成時の温度が高いことが好ましい場合がある。
【0059】
この第4工程により、例えば、結晶性多孔質アルミノシリケート中のアルミニウムの一部がチタンで置換されたと考えられる、本発明の変性アルミノシリケートの好適態様である結晶性多孔質アルミノチタノシリケートを得ることができる。
【0060】
上記乾燥処理を行う前に、チタン源と一次焼成物の混合物を加熱して予備的に水分を除き、混合物を濾過して夾雑物を除き、有機溶媒で洗浄操作を行う等した後に、乾燥、二次焼成を行ってもよい。
上記の製造条件は、チタン以外の元素を用いる場合についても準用することができる。
【0061】
前記のチタン源に代えて用いることができる周期表の4族元素を含む化合物の例としては、四塩化ジルコニウム、テトラアルコキシジルコニウム、四塩化ハフニウム、テトラアルコキシハフニウム、硫酸ジルコニウムなどを必要に応じて水、アルコール、エーテルなどを併用して液状化して用いることができる。例えばそれらの化合物の水溶液やアルコール、エーテル等の溶液などが挙げられる。また、前記のチタン源に代えて用いることができる周期表の5族元素としては五塩化バナジウム、硫酸バナジウム、三塩化バナジルやそのアルコキシ置換体等も、必要に応じて水、アルコール、エーテルなどを併用して液状化して用いることができる。例えばそれらの水溶液やアルコール、エーテル等の溶液を挙げることができる。
【0062】
〔変性アルミノシリケート〕
第4工程で得られる変性アルミノシリケートは、第1工程で得られる原料であるアルミノシリケートと同様、結晶性および多孔質性を有する結晶性多孔質アルミノシリケートことが好ましく、MSE骨格を有する結晶性多孔質アルミノシリケートがより好ましく、UZM-35、MCM-68、YNU-3構造を有する結晶性多孔質アルミノシリケートがさらに好ましく、結晶性多孔質アルミノチタノシリケートが特に好ましい。結晶性とは、原料であるアルミノシリケートの説明と同様の態様と考えて差し支えない。
【0063】
上記結晶性多孔質アルミノシリケートとは、ケイ素を中心に4つの頂点に酸素が配置したSiO4四面体と、中心のケイ素の代わりにアルミニウムが配置したAlO4の四面体とが規則的に三次元結合した部分を少なくとも一部に有する多孔質の結晶体であり、典型的にはアルミノシリケートを含むゼオライトの一種が好ましい態様と言える。結晶性及び多孔質を有する変性アルミノシリケートは、例えば上記結晶性多孔質アルミノシリケート骨格中にアルミニウムと、周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含み、好ましくは、結晶性多孔質アルミノシリケート骨格中のアルミニウムの一部を周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素に置き換える様な方法で得られるものである。より詳細な例としては、周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素がチタンである場合には、結晶性多孔質の変性アルミノシリケートは、結晶性多孔質アルミノチタノシリケートとなり、その結晶性多孔質アルミノチタノシリケートは、アルミノシリケート骨格中にアルミニウムとチタンを含み、好ましくはその骨格中のアルミニウムの一部をチタンに置き換える様な方法で得られるものである。
【0064】
上記MSE骨格を有する結晶性多孔質アルミノシリケートは、上記四面体のユニットが10個からなる10員環構造、及び上記四面体のユニットが12個からなる12員環構造を有する3次元細孔構造を有する。上記12員環構造の細孔を有するため、基質の細孔内部への拡散が容易になり、高い触媒活性が得られやすいと考えられている。また、細孔内部に大きな空洞が存在しないため、フェノールの酸化反応において、パラ位選択性を示しやすいと考えられている。
【0065】
多孔質性化合物が広い比表面積を持つことは周知である。本発明の変性アルミノシリケートは、その比表面積が、好ましくは50~1000m2/gである。その比表面積の下限値としては、より好ましくは100m2/g、さらに好ましくは150m2/gである。一方、その比表面積の上限値としては、より好ましくは800m2/g、さらに好ましくは600m2/gである。
【0066】
上記の比表面積の値は、公知の窒素吸脱着測定装置法(例えば、Microtrac BEL社製 BELSORP-maxなど)を用いた測定結果からBET plotを作成することにより、BET理論に基づく公知の計算方法によって決定することができる。
本発明の変性アルミノシリケートの好ましい細孔容積の範囲としては、0.1~0.5cm3/g、より好ましくは0.15~0.4cm3/gである。
【0067】
本発明の変性アルミノシリケートに含まれる4族元素、5族元素の含有量には特に制限はない。例えば、上記変性アルミノシリケートに含まれる4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素としてチタンが含まれる場合には、チタンに対するケイ素のモル比([Si]/[Ti])として0.1~400の範囲にあることが好ましく、50~30の範囲にあることがより好ましく、100~280の範囲にあることが更に好ましく、150~260の範囲にあることが最も好ましい。
【0068】
TiCl3の様に、それ自身が結晶化し易い化合物を用いる場合、アルミノシリケート表面に当該元素がクラスター形態や結晶形態で導入される可能性がある。この場合、見かけの元素含有量が増えることがあるので、[Si]/[Ti]比は小さな値になる傾向がある。このような場合の[Si]/[Ti]比の範囲は、好ましくは0.5~30である。より好ましい下限値は1であり、さらに好ましくは1.2である。一方、より好ましい上限値は、20であり、さらに好ましくは15である。
【0069】
本発明の変性アルミノシリケートのアルミニウム含有量には特に制限は無いが、アルミニウムに対するケイ素のモル比([Si]/[Al])として5~100000の範囲にあることが好ましく、10~10000の範囲にあることが更に好ましく、15~1000の範囲にあることが最も好ましい。
【0070】
本発明の変性アルミノシリケートは、紫外可視吸収スペクトル測定において、特定の波長領域の吸収に特徴を有するものであることが好ましい。
【0071】
本発明に係る変性アルミノシリケートは、周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる元素を含み、紫外可視スペクトルの300nmの吸光度(A[300])が、通常1.0以上を示すことが好ましい。本発明の変性アルミノシリケートに含まれる4族及び5族元素から選ばれる元素の具体例及び好適例等は、上記「第4工程」の項の内容と同様である。
【0072】
また、前記周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる元素が、4価あるいは5価の態様で前記変性アルミノシリケートに含まれる場合、あるいは、前記周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる元素の4価あるいは5価の化合物が、前記第4工程で使用される場合、前記A[300]は、0.20超の値であることが好ましい。
【0073】
前記A[300]が1.0未満、あるいは前記特定の場合に0.20未満の場合には、フェノール類と過酸化水素との反応により芳香族ジヒドロキシド化合物を製造する際に、芳香族ジヒドロキシド化合物の選択性が相対的に低い傾向がある。なお、吸光度の測定法には特に制限は無く、透過法、反射法いずれの方法で測定した結果でもよい。反射法で測定する場合には、反射光には正反射光以外に拡散反射光等も含まれる場合があるが、便宜上全てが正反射光であると仮定して算出する。
【0074】
その詳細なメカニズムは不明であるが、本発明者らは以下の様に推測している(以下、変性アルミノシリケートとして、前記、4族及び5族から選ばれる元素がチタンである結晶性多孔質アルミノチタノシリケートを例として説明する)。
【0075】
結晶性多孔質アルミノチタノシリケートの骨格表面部にアルミニウムとチタンが存在すると推測される。また、これらは、好ましくは、結晶性多孔質アルミノチタノシリケートの細孔等の凹部の内部を中心に存在すると考えられる。ここで、例えば、特許文献3に記載されたような高温の気体状の四塩化チタンを用いた方法で製造され、結晶構造の骨格として欠陥無く完全に組み込まれたチタンのみを含むと考えられるような態様の場合には、紫外可視スペクトルの300nm付近の吸光度は1.0以上、あるいは前記の特定の場合では0.2超にはなり難いと推測される。換言すると、本発明の要件を満たすような結晶性多孔質アルミノチタノシリケートは、その基本骨格構造に不完全に組み込まれて不安定な構造となっているチタンが多く存在すると推測される。この様なチタン種が芳香族ジヒドロキシド化合物形成反応に大きく寄与し、フェノール類の過酸化水素による酸化反応が進行する際に、その不安定さゆえに、立体構造的に不利と考えられる1,2ヒドロキシド化合物(例:カテコール)の生成や、さらに反応が進行した形態であるベンゾキノンの生成が抑制され、1,4型の芳香族ジヒドロキシド化合物が選択性高く製造できると推定される。
【0076】
芳香族ジヒドロキシド化合物の選択性をより高める点からは、変性アルミノシリケートのA[300]の好ましい下限値は1.5であり、より好ましくは1.8である。また、前記の周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる元素が4価または5価の場合の前記A[300]のより好ましい下限値は0.25であり、さらに好ましくは0.30である。一方、A[300]の上限値の設定に本質的な意味はないが、好ましい上限値は15であり、より好ましくは10である。また、A[300]は、通常の結晶性多孔質アルミノチタノシリケートでは0.20以下である。
【0077】
また、変性アルミノシリケートの紫外可視スペクトルの210nmの吸光度(A[210])に対するA[300]の比(A[300]/A[210])は0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることが更に好ましく、0.8以上であることが特に好ましい。また、前記の周期表の4族元素及び5族元素からなる群より選ばれる元素が4価または5価でアルミノシリケートに含まれる場合や、4価または5価化合物が前記第4工程で使用される場合の前記「A[300]/A[210」は、0.10を超える値であることが好ましい。より好ましい下限値は0.11である。例えば結晶構造の骨格に欠陥無く組み込まれたチタンを含む場合にはA[210]がA[300]に対し相対的に高くなるため、通常の結晶性多孔質アルミノチタノシリケートでは通常A[300]/A[210]は0.1以下になる。前記のA[300]/A[210]の上限値に特に意味はないが、より好ましくは1.5でありさらに好ましくは1.0である。
【0078】
尚、前記の紫外可視スペクトルは、常法によって測定することが出来る。例えば以下の様な方法を挙げることが出来る。『0.1gの固体状アルミノシリケートサンプルを光路長10ミリメートルのセルに入れ、島津製作所製UV-2550型紫外可視分析装置を用いて、波長が200~800nmの範囲を測定する方法。』 尚、前記の固体状アルミノシリケートサンプルは、十分に乾燥して使用することが好ましいことは言うまでもない。
【0079】
本発明の製造方法で得られる変性アルミノシリケートは、本発明の一実施形態である、芳香族ポリヒドロキシド化合物製造用の触媒として使用することができる。
【0080】
<芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造方法>
本発明の一実施形態は、上記変性アルミノシリケートを含む芳香族ポリヒドロキシド化合物製造用触媒の存在下、芳香族ヒドロキシドとハイドロパーオキシドとを反応させる工程を含む芳香族ポリヒドロキシド化合物の製造方法である。
【0081】
芳香族ヒドロキシドとしては、例えば、後述するフェノール類の他、ヒドロキシナフタレンおよびその誘導体、ヒドロキシアントラセンおよびその誘導体、ヒドロキシフルオレンおよびその誘導体等、主としてフェニル骨格部分にヒドロキシ基が1個結合した構造の化合物を挙げることが出来る。好ましくはフェノール類である。
【0082】
ハイドロパーオキシドとしては、例えば、過酸化水素および過酸化水素の一つの水素が脂肪族や芳香族の炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基等に置換された化合物、例えば、ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等を挙げることが出来る。好ましくは過酸化水素であり、より詳細には過酸化水素水が好ましい態様である。
【0083】
以下、芳香族ポリヒドロキシドの製造方法について、芳香族ジヒドロ化合物を製造する方法を例として説明する。本発明の変性アルミノシリケートの存在下、例えば、フェノール類と過酸化水素とを反応させると、芳香族ジヒドロキシド化合物を高い選択率で製造することが出来る。
【0084】
上記のフェノール類とは、無置換のフェノール及び置換フェノールを意味する。ここで、置換フェノールとしては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭素数1から6の直鎖または分岐アルキル基、あるいはシクロアルキル基で置換されたアルキルフェノールなどが挙げられる。
【0085】
フェノール類として、例えば、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2-エチルフェノール、3-イソプロピルフェノール、2-ブチルフェノール、2-シクロヘキシルフェノールなどが挙げられ、中でも、フェノールが好ましい。なお、フェノール類の2位と6位の両方に置換基を有している場合には、生成物はハイドロキノン誘導体のみとなる。
【0086】
反応生成物である芳香族ジヒドロキシド化合物としては、例えば、ハイドロキノン類(置換または無置換のハイドロキノン)、カテコール類(置換または無置換のカテコール)などが挙げられ、これらの具体例としては、ハイドロキノン、カテコール、2-メチルハイドロキノン、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、3-メチルハイドロキノン、1,4-ジメチルハイドロキノン、1,4-ジメチルカテコール、3,5-ジメチルカテコール、2,3-ジメチルハイドロキノン、2,3-ジメチルカテコールなどが挙げられる。
【0087】
本発明で得られる変性アルミノシリケートは、芳香族ジヒドロキシド化合物を製造する際の触媒として使用する。触媒の充填方式としては、固定床、流動床、懸濁床、棚段固定床等種々の方式が採用され、いずれの方式で実施しても差し支えない。また、上記触媒はそのまま使用してもよいが、触媒の充填方式に合わせて成型して使用してもよい。触媒の成型方法としては、押し出し成型、打錠成型、転動造粒、噴霧造粒などが一般的である。固定床の方式で触媒を使用する場合は、押し出し成型や打錠成型が好ましい。懸濁床の方式の場合は、噴霧造粒が好ましい。噴霧造粒後に乾燥や焼成を行ってもよい。噴霧造粒した触媒の平均粒径は、好ましくは0.1μm~1000μm、より好ましくは5μm~100μmの範囲である。0.1μm以上であると、触媒の濾過などのハンドリングがしやすいため好ましく、1000μm以下であると触媒の性能が良く強度が強いため好ましい。
【0088】
上記触媒の使用量は、反応液の総質量(反応系内の液状成分の総質量であって、触媒等の固定成分の質量は含まない)に対して、外率で好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.4~20質量%の範囲である。0.1質量%以上であると、反応が短時間で完結し、生産性が向上するため好ましい。30質量%以下であると、触媒の分離回収量が少ない点で好ましい。
【0089】
本発明の変性アルミノシリケートを芳香族ジヒドロキシド化合物製造方法の触媒として用いる場合、他の成分と組み合わせることもできる。例えば、前記特許文献1に記載のシロキサン化合物や、前記特許文献2に記載の特定のアルコール化合物を挙げることができる。このような成分は、前記の反応液の質量5~90質量%となる様な割合で用いることが好ましい。より好ましくは8~90質量%である。
【0090】
また、過酸化水素は、フェノール類に対して、モル比で0.01以上1以下にすることが好ましい。また、用いる過酸化水素の濃度は特に限定しないが、通常の30%濃度の水溶液を用いてもよいし、さらに高濃度の過酸化水素水をそのまま、あるいは反応系において不活性な溶媒で希釈して用いてもよい。希釈に用いる溶媒としては、アルコール類、水などが挙げられる。過酸化水素は一度に加えてもよいし、時間をかけて徐々に加えてもよい。
【0091】
反応温度は、好ましくは30℃~130℃の範囲、より好ましくは40℃~100℃の範囲である。この範囲以外の温度でも反応は進行するが、生産性の向上の観点から上記範囲が好ましい。反応圧力は特に制限されない。
【0092】
上記反応の方式は特に制限はなく、回分式、半回分式、連続式のいずれの方式で反応を行ってもよい。連続式で行う場合は、懸濁床式の均一混合槽で行ってもよく、固定床流通式のプラグフロー形式で反応を行ってもよいし、また複数の反応器を直列及び/または並列に接続してもよい。反応器数は1~4器とするのが機器費の観点から好ましい。また複数の反応器を使用する場合は、それらに過酸化水素を分割して加えてもよい。
【0093】
反応液から芳香族ジヒドロキシド化合物を得るため、反応液または上記触媒を分離した後のジヒドロキシド化合物を含む分離液に対し、未反応成分や副生成物を除去するなどの精製処理を行ってもよい。精製処理は、触媒を分離した後の芳香族ジヒドロキシド化合物を含むこの分離液に対して行うことが好適である。
【0094】
精製処理の方法については、特に制限は無く、具体的には油水分離、抽出、蒸留、晶析、及びこれらの組み合わせ等の方法が挙げられる。精製処理の方法、手順等は特に限定しないが、例えば、以下のような方法により、反応液及び上記触媒を分離した後の芳香族ジヒドロキシド化合物を含む分離液の精製が可能である。
【0095】
反応液が油相と水相の2相に分離する場合、油水分離が可能である。油水分離により、ジヒドロキシド化合物含有量が低い水相を除去して、油相を回収する。この場合、分離した水相は抽出や蒸留により、芳香族ジヒドロキシド化合物を回収してもよいし、一部または全部を再度反応に用いてもよい。また分離した水相に上記触媒分離工程で分離した触媒や、乾燥処理した触媒を分散し、反応器に供給することもできる。一方、油相はさらに抽出、蒸留及び晶析等により精製処理を行うことが望ましい。
【0096】
抽出には、例えば、1-ブタノール、トルエン、イソプロピルエーテル、メチルイソブチルケトンなどの溶媒が使用される。抽出と油水分離とを組み合わせると、前記油水分離を効率よく実施できる。抽出溶媒は蒸留塔により分離回収しリサイクルして使用することが好ましい。
【0097】
蒸留は、触媒分離直後の反応液に対して実施してもよいし、前記油水分離後の油相及び水相に実施してもよい。さらに抽出液を蒸留してもよい。
触媒の分離直後の反応液を蒸留する場合、まず水やアルコール類などの軽沸成分を分離するのが好ましい。水とアルコール類は別々の蒸留塔で分離してもよいし、1つの蒸留塔で分離してもよい。
【0098】
前記した油水分離、抽出、蒸留操作等により、水やアルコール類を分離した後、次の蒸留操作でフェノール類を回収し、再度反応に用いてもよい。回収したフェノール類に分離しきれなかった水が含まれる場合は、イソプロピルエーテルまたはトルエンを加え共沸蒸留により除去できる。
【0099】
この共沸蒸留は、フェノール類回収前の水やアルコール類分離後の液に対して行うこともできる。分離した水は、再度反応に用いてもよいし、廃水としてもよい。回収したフェノール類に水以外の反応副生物などの不純物が含まれる場合は、さらに蒸留操作で分離することもできる。不純物が反応副生物のベンゾキノン類の場合、フェノール類と共に再度反応器に供給することができる。
【0100】
フェノール類の分離の後、芳香族ジヒドロキシド化合物よりも高沸の成分を蒸留によって除去し、次の蒸留操作によってハイドロキノン類とカテコール類を分離できる。また高沸成分とハイドロキノン類とカテコール類は、ハイドロキノン類を蒸留塔の中段から抜き出すことにより、1つの蒸留操作で分離することもできる。
得られたハイドロキノン類とカテコール類は、必要に応じて、蒸留や晶析により不純物を除去し純度を高めることができる。
【0101】
本発明にかかる変性アルミノシリケートの存在下に、例えばフェノールと過酸化水素とを反応させると、高い収率でハイドロキノンが生成する傾向がある。また、カテコールやベンゾキノンなどに比して、ハイドロキノンが高い選択率で生成する傾向がある。この為、本発明にかかる変性アルミノシリケートの産業的な価値が高いと言える。
上記の様な芳香族ジヒドロキシド化合物の製造方法と同様の条件で、芳香族ポリヒドロキシド化合物を製造することも可能である。
【実施例0102】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0103】
[XRD測定方法]
下記の条件以外は常法により、試料である結晶のX線回折現象を測定した。
・X線回折測定装置:株式会社リガク製、型式:MultiFlexを使用。
・X線源:CuKα
・出力:40kV/40mA
・発散スリット:1°
・散乱スリット:1°
・受光スリット0.30mm
・2θ:3~50°
【0104】
[実施例1]
〔種晶の調製〕
以下の方法により、上記種晶として用いるMSE骨格を有する結晶を調製した。
まず、7.81gの8mol/LのNaOH水溶液と、8.11gの8mol/LのKOH水溶液と、20.30gの40重量%ジメチルジプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液と、32.68gのコロイダルシリカ(製品名:LUDOX(登録商標)AS-40、シグマアルドリッチ社製)とを容器に入れ、80℃で撹拌してゲル状物質を得た。
【0105】
次いで、得られたゲル状物質に、6.78gのFAU型ゼオライト(製品名:HSZ-HUA350、東ソー(株)製)を加えて混合した後、当該混合物をオートクレーブに入れて160℃で60時間加熱した。冷却した混合物を濾過及び水洗し70℃、2時間真空乾燥し、結晶(A1)を得た。XRDで測定される最も高い回折ビークは、21.58°に観測された。
【0106】
〔第1工程:本アルミノシリケートの調製〕
次いで、7.81gの8mol/LのNaOH水溶液と、8.11gの8mol/LのKOH水溶液と、24.36gの40重量%ジメチルジプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液と、36.08gのコロイダルシリカ(製品名:LUDOX(登録商標)AS-40、シグマアルドリッチ社製)とを容器に入れ、60℃で撹拌してHMR=4.0まで脱水した。得られたシリカ化合物は、膨潤した様な固形物を含むゲル状態であり、これをそのまま次工程で使用可能と判断した。
【0107】
前記固化した原料混合物に、0.79gの前記結晶(A1)と、6.78gのFAU型ゼオライト(製品名:HSZ-HUA350、東ソー(株)製)とを加えた。当該混合物をオートクレーブに入れて165℃で40時間加熱した。冷却した混合物を濾過及び水洗し70℃、2時間真空乾燥して結晶(1-0)を得た。
【0108】
上記結晶(1-0)のXRDで測定される17.5~35°領域での最も高いピークは21.68°に観測され、25.0~27.0°領域で最も高いピークである26.18°に観測されたピークとの強度比は、3.56であった。(
図1参照)
上記結晶(1-0)を550℃、10時間焼成を行い、結晶(1-1)を得た。
【0109】
〔第2工程:酸との接触、第3工程:一次焼成〕
容器に上記で調製した2gの結晶1-1と80gの65%硝酸を入れて混合した後、混合物をオートクレーブに入れて148℃で24時間加熱した。冷却した混合物を濾過及び水洗し1日風乾させた後、600℃で2時間一次焼成を行い、結晶(1-2)を得た。
【0110】
〔第4工程:チタン化合物との接触、二次焼成〕
上記で調製した0.5gの結晶(1-2)を容器に入れ、エバポレーターを使用して60℃で1時間真空脱気した。これに2.5gの20%三塩化チタン水溶液を加え、70℃で6時間脱気乾燥させた。乾燥物を600℃で2時間二次焼成を行い、結晶性多孔質アルミノチタノシリケート(結晶(1-3))を得た。
【0111】
[比較例1]
〔結晶(A-c1)の調製〕
以下の方法により、MSE骨格を有する結晶(A-c1)の調製を試みた。
(アルミノシリケートの調製)
7.83gの8mol/LのNaOH水溶液と、8.13gの8mol/LのKOH水溶液と、20.33gの40重量%ジメチルジプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液と、33.60gのコロイダルシリカ(製品名:LUDOX(登録商標)AS-40、シグマアルドリッチ社製)とを容器に入れ、60℃で撹拌を実施例1よりも長時間続けることでHMR=3.50まで脱水した。この時点で混合物が固化した塊状状態であり、次工程でゼオライトなどと反応させるには粉砕が必要と判断された。
【0112】
この為、上記の固形状物を含むシリカに、0.79gの前記結晶(A1)と6.78gのFAU型ゼオライト(製品名:HSZ-HUA350、東ソー(株)製)を加えて乳鉢で粉砕し、十分に混合した後、当該混合物をオートクレーブに入れて160℃で55時間加熱した。冷却した混合物を濾過及び水洗し70℃、2時間真空乾燥してMSE骨格を有する結晶(C1-0)を得た。上記結晶(C1-0)を550℃、10時間焼成を行い、結晶(C1-1)を得た。
【0113】
結晶(C1-0)のXRDで測定される17.5~35°領域での最も高いピークは21.58°に観測され、25.72°に観測されたピークとの強度比は、1.54であった(
図1参照)。
【0114】
〔酸との接触、一次焼成〕
結晶(1-1)の代わりに結晶(C1-1)を用いた以外は実施例1と同様にして結晶(C1-2)を得た。
【0115】
〔チタン化合物との接触、二次焼成)
結晶(1-2)の代わりに結晶(C1-2)を用いた以外は[実施例1]と同様にして結晶(C1-3)を得た。
【0116】
[触媒としての性能評価]
以下、上記実施例1、参考例1の結晶性多孔質アルミノチタノシリケートのハイドロキノン製造触媒としての性能を評価した。結果を表1にまとめた。表中、HQはハイドロキノンを、CLはカテコールを示す。測定方法および各値の算出式を以下に示した。
【0117】
〔測定方法〕
冷却器、温度計、フィードポンプ、及びマグネチックスターラーチップを備えた内容積50mlのフラスコに、0.2gの各触媒、4.2gのフェノール、3.0gのt-ブチルアルコール、6.0gの水を仕込み、スターラーで撹拌しながら湯浴中で70℃に加熱した。ここに、0.5gの34%過酸化水素をフィードポンプから60分間かけて滴下した。反応液を冷却後、触媒を濾別し、反応液の一部を取り、生成物をガスクロマトグラフィーで定量した。
【0118】
ガスクロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
・検出器;水素炎イオン検出器
・カラム;DB-5(Agilent J&W)、内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm
・カラム温度;50℃10分間保持、昇温温度10℃/分、280℃まで昇温
・注入口;280℃
・検出器温度;280℃
・キャリア-ガス;ヘリウム
・流速;80ml/分
【0119】
(算出式)
ハイドロキノン収率(%)=(生成したハイドロキノンのモル数)/(過酸化水素のモル数)×100
【0120】
上記式を用いると、ハイドロキノン収率は、以下の式で表すことも出来る。
ハイドロキノン収率(%)=(過酸化水素利用効率)×(生成したハイドロキノンのモル数)/〔(生成したハイドロキノンのモル数)+(生成したカテコールのモル数)〕×100
【0121】
ハイドロキノン/カテコール比=(生成したハイドロキノンのモル数)/(生成したカテコールのモル数)
【0122】
【0123】
表1から、本発明の請求項1の規定を満たす変性アルミノシリケートの製造方法で調製したアルミノチタノシリケートは高いハイドロキノンの収率と、高いハイドロキノン選択性を示すことが分かる。また、途中、粉砕などの工程を必要としない工業的に有利な方法で、前記、変性アルミノシリケートを製造することが出来る。