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特開2023-160602構内交換機設定値補正システムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160602
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】構内交換機設定値補正システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H04M 3/00 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
H04M3/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071062
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000233295
【氏名又は名称】株式会社日立情報通信エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 拓真
【テーマコード(参考)】
5K201
【Fターム(参考)】
5K201AA04
5K201CB16
5K201CD09
5K201DC02
5K201DC04
5K201EC03
5K201EE08
5K201FA03
5K201FB03
(57)【要約】
【課題】顧客環境において構内交換機(PBX)を構築や運用する際の、顧客環境に応じた運用設定を含む設定に関して、効率化や最適化を実現できる技術を提供する。
【解決手段】実施の形態のPBX設定値補正方法は、PBXに係わる設定値を補正する方法であって、計算機により実行されるステップとして、計算機が、顧客環境のPBXの運用シーケンスを監視し、運用シーケンスの監視情報を取得するステップ(S103)と、計算機が、監視情報に基づいた運用シーケンスと、予め規定されたモデルシーケンスとの比較(S104)に基づいて、顧客環境のPBXの設定情報のうちの運用値を補正するステップ(S105,S106)と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構内交換機(PBX)に係わる設定値を補正する構内交換機設定値補正方法であって、
計算機により実行されるステップとして、
前記計算機が、顧客環境の前記PBXの運用シーケンスを監視し、前記運用シーケンスの監視情報を取得するステップと、
前記計算機が、前記監視情報に基づいた前記運用シーケンスと、予め規定されたモデルシーケンスとの比較に基づいて、前記顧客環境の前記PBXの設定情報のうちの運用値を補正するステップと、
を有する、構内交換機設定値補正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の構内交換機設定値補正方法において、
前記計算機が、前記顧客環境に応じた前記PBXの運用情報の取得のためのパラメータシートを、設定者に対し提供するステップと、
前記計算機が、前記パラメータシートに前記設定者によって入力された前記運用情報を取得するステップと、
を有し、
前記運用値を補正するステップは、前記計算機が、前記運用シーケンスと前記モデルシーケンスとの比較の結果と、前記運用情報とに基づいて、前記顧客環境の前記PBXの前記運用値を補正するステップである、
構内交換機設定値補正方法。
【請求項3】
請求項2に記載の構内交換機設定値補正方法において、
前記運用値を補正するステップは、予め規定された対応表を参照し、前記対応表から、前記比較の結果で不一致の部分である、運用シーケンスのステップのステータスと、前記運用情報との組み合わせに応じて、前記運用値の補正値を抽出し、前記運用値を前記補正値によって補正するステップである、
構内交換機設定値補正方法。
【請求項4】
請求項1に記載の構内交換機設定値補正方法において、
前記計算機が、複数の顧客環境における、前記顧客環境ごとの前記運用値を収集し、収集された情報に基づいて統計情報を生成するステップと、
前記計算機が、前記統計情報を用いて、前記顧客環境の前記PBXの設定情報のうちの前記運用値を生成するステップと、
を有する、構内交換機設定値補正方法。
【請求項5】
請求項4に記載の構内交換機設定値補正方法において、
前記計算機が、新規の顧客環境の前記PBXの構築時に、前記顧客環境の運用情報を取得するステップを有し、
前記運用値を生成するステップは、前記計算機が、前記統計情報と前記運用情報とを用いて、前記顧客環境の前記PBXの初期設定のための前記運用値を生成するステップである、
構内交換機設定値補正方法。
【請求項6】
構内交換機(PBX)に係わる設定値を補正する計算機を備える構内交換機設定値補正システムであって、
前記計算機は、
顧客環境の前記PBXの運用シーケンスを監視し、前記運用シーケンスの監視情報を取得し、
前記監視情報に基づいた前記運用シーケンスと、予め規定されたモデルシーケンスとの比較に基づいて、前記顧客環境の前記PBXの設定情報のうちの運用値を補正する、
構内交換機設定値補正システム。
【請求項7】
請求項6に記載の構内交換機設定値補正システムにおいて、
前記計算機は、
前記顧客環境に応じた前記PBXの運用情報の取得のためのパラメータシートを、設定者に対し提供し、
前記パラメータシートに前記設定者によって入力された前記運用情報を取得し、
前記運用値を補正する際に、前記運用シーケンスと前記モデルシーケンスとの比較の結果と、前記運用情報とに基づいて、前記顧客環境の前記PBXの前記運用値を補正する、
構内交換機設定値補正システム。
【請求項8】
請求項7に記載の構内交換機設定値補正システムにおいて、
前記計算機は、前記運用値を補正する際に、予め規定された対応表を参照し、前記対応表から、前記比較の結果で不一致の部分である、運用シーケンスのステップのステータスと、前記運用情報との組み合わせに応じて、前記運用値の補正値を抽出し、前記運用値を前記補正値によって補正する、
構内交換機設定値補正システム。
【請求項9】
請求項6に記載の構内交換機設定値補正システムにおいて、
前記計算機は、
複数の顧客環境における、前記顧客環境ごとの前記運用値を収集し、収集された情報に基づいて統計情報を生成し、
前記統計情報を用いて、前記顧客環境の前記PBXの設定情報のうちの前記運用値を生成する、
構内交換機設定値補正システム。
【請求項10】
請求項9に記載の構内交換機設定値補正システムにおいて、
前記計算機は、
新規の顧客環境の前記PBXの構築時に、前記顧客環境の運用情報を取得し、
前記運用値を生成する際に、前記統計情報と前記運用情報とを用いて、前記顧客環境の前記PBXの初期設定のための前記運用値を生成する、
構内交換機設定値補正システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構内交換機(PBX:Private Branch eXchange)に係わる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PBXを含むシステム(PBXシステムと記載する場合がある)は、IP(Internet Protocol)ネットワークを用いたタイプのPBX(IP-PBXと記載する場合がある)の導入が進み、さらに、クラウドコンピューティングシステムを用いたタイプのPBX(クラウドPBXと記載する場合がある)の導入が進んでいる。IP-PBXは、顧客環境内に構築されたIPネットワークを使用してPBXが構成されている。クラウドPBXは、クラウドコンピューティングシステム上にPBXが構成されている。
【0003】
先行技術例としては、特開2019-16923号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1には、IP-PBXシステム、IP-PBX設定自動化方法などとして、「設置工事時において、SIP(Session Initiation Protocol)-GW(ゲートウェイ)のコンフィグレーション情報の設定登録を自動化する」旨や、「SIPサーバに対して送信した認証情報無しのREGISTERリクエストメッセージに対する応答として返送されてきたエラー応答メッセージを解析して、エラー応答メッセージに付加されているパラメータ情報に基づいて、SIPサーバの通信サービス事業者を特定し、特定した通信サービス事業者の仕様に合致する認証用のコンフィグレーション情報を生成」する旨などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-16923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術例のPBXシステムは、顧客環境、例えば会社のLANやゲートウェイや電話端末などを含むシステムにおいてPBXを構築や運用する際の広義の設定に関して、効率化や最適化を図る機能や、設定作業を支援する機能などを有していない。あるいは、従来技術例のPBXシステムは、そのような機能を有しているとしても、不十分である。なお、広義の設定は、構築時の初期設定の他に、顧客環境に応じた運用に係わる設定を含む。運用に係わる設定を、説明上、運用設定と記載する場合がある。また、運用設定のパラメータ値を、運用値または運用設定値と記載する場合がある。
【0006】
あるPBXの仕様を基準とした場合でも、顧客環境ごとに運用値が異なる場合や、顧客環境内で運用値が変動する場合がある。例えば、顧客環境ごとに、PBXへの接続形態として、LANを使用する場合やWANを使用する場合などの違いがある。また、顧客環境ごとに、SIP等のプロトコルに基づいた通信における遅延時間が異なる場合がある。従来技術例のPBXシステムでは、それらの場合の運用設定に関して効率的に対応できる仕組みを有していない。従来技術例のPBXシステムは、顧客環境ごとのPBX利用システムの構築時に、初期設定として効率的で好適な運用設定を行う機能を有していない。また、従来技術例のPBXシステムは、構築後に運用を開始した後に顧客環境に合わせて運用設定を調整するような機能も有していない。
【0007】
そのため、従来技術例のPBXシステムは、結果として、人による設定作業の手間、時間、コスト等が大きく、効率的で好適な設定作業や運用の実現のためには改善余地がある。
【0008】
本開示の目的は、上記PBXに係わる技術に関して、顧客環境においてPBXを構築や運用する際の、顧客環境に応じた運用設定を含む設定に関して、効率化や最適化を実現でき、結果として、人による設定作業の手間、時間、コスト等を低減でき、効率的で好適な設定作業や運用を実現できる技術を提供することである。
【0009】
なお、特許文献1の技術は、SIPゲートウェイを公衆網と接続する際に、SIPのメッセージの内容から、自動的にキャリアを選択し、そのキャリアに沿ったデータ設定を行うことで、外線接続が可能になる。この技術は、REGISTERリクエストメッセージに含まれる、キャリア毎の異なる仕様を読み取って、SIP-GWの自動設定を行う。しかしながら、このように応答メッセージから判断する方法では、端末のエンド間のインタフェースの異常の判断のみであり、ネットワーク遅延等の、エンド間以外の設定値の補正はできない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のうち代表的な実施の形態は以下に示す構成を有する。実施の形態の構内交換機設定値補正方法は、構内交換機(PBX)に係わる設定値を補正する構内交換機設定値補正方法であって、計算機により実行されるステップとして、前記計算機が、顧客環境の前記PBXの運用シーケンスを監視し、前記運用シーケンスの監視情報を取得するステップと、前記計算機が、前記監視情報に基づいた前記運用シーケンスと、予め規定されたモデルシーケンスとの比較に基づいて、前記顧客環境の前記PBXの設定情報のうちの運用値を補正するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示のうち代表的な実施の形態によれば、上記PBXに係わる技術に関して、顧客環境においてPBXを構築や運用する際の、顧客環境に応じた運用設定を含む設定に関して、効率化や最適化を実現でき、設定作業を支援でき、結果として、設定作業の手間、時間、コスト等を低減でき、効率的で好適な設定作業や運用を実現できる。上記した以外の課題、構成および効果等については、発明を実施するための形態において示される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1のPBX設定値補正システムを含む、システム全体の構成例を示す。
図2】実施の形態1のPBX設定値補正システムでのPBXシステムの機能ブロック構成例を示す。
図3】実施の形態1で、PBXシステムのサーバのコンピュータシステムとしての構成例を示す。
図4】実施の形態1で、PBXシステムの処理フローを示す。
図5】実施の形態1で、ステップS102の運用情報の設定に関する説明図を示す。
図6】実施の形態1で、ステップS103のデータ収集、およびステップS104の運用シーケンスチェックに関する説明図を示す。
図7】実施の形態1で、モデルシーケンスと運用シーケンスとの比較に関する説明図を示す。
図8】実施の形態1で、ステップS105の補正値決定、およびステップS106の補正アクションに関する説明図を示す。
図9】実施の形態1で、ステップS105の補正値決定に関する詳しい処理フロー例を示す。
図10】実施の形態1で、ステップS107のDB更新に関する説明図を示す。
図11】実施の形態1で、パラメータシートの構成例を示す。
図12】実施の形態1で、運用情報DBの構成例を示す。
図13】実施の形態1で、運用シーケンスログDBの構成例を示す。
図14】実施の形態1で、運用設定値DBの構成例を示す。
図15】実施の形態1で、設定値補正DBの構成例を示す。
図16】実施の形態1で、モデルシーケンスDBの構成例を示す。
図17】実施の形態1で、統計情報DBの構成例を示す。
図18】実施の形態1で、運用情報の入力の画面例を示す。
図19】実施の形態1で、運用値の初期設定の際のデータ等の具体例を示す。
図20】実施の形態1で、運用値の調整の際のデータ等の具体例を示す。
図21】実施の形態1で、運用値の確認の画面例を示す。
図22】実施の形態1で、運用値の補正前後の運用シーケンス、更新前後の統計情報の例を示す。
図23】実施の形態1の変形例1におけるシステム全体の構成例を示す。
図24】変形例1で、PBXシステムの機能ブロック構成例を示す。
図25】変形例1で、運用値決定DBの構成例を示す。
図26】変形例1で、ステップS102の運用情報の設定に関する説明図を示す。
図27】実施の形態1の変形例2におけるシステム全体の構成例を示す。
図28】実施の形態1の変形例3における機能の概要を示す。
図29】実施の形態1に対する、比較例のシステムの構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本開示の実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明を省略する。説明上、プログラムによる処理について説明する場合に、プログラムや機能や処理部等を主体として説明する場合があるが、それらについてのハードウェアとしての主体は、プロセッサ、あるいはそのプロセッサ等で構成されるコントローラ、装置、計算機、システム等である。計算機は、プロセッサによって、適宜にメモリや通信インタフェース等の資源を用いながら、メモリ上に読み出されたプログラムに従った処理を実行する。これにより、所定の機能や処理部等が実現される。プロセッサは、例えばCPU/MPUやGPU等の半導体デバイス等で構成される。処理は、ソフトウェアプログラム処理に限らず、専用回路でも実装可能である。専用回路は、FPGA、ASIC、CPLD等が適用可能である。
【0014】
プログラムは、対象計算機に予めデータとしてインストールされていてもよいし、プログラムソースから対象計算機にデータとして配布されてもよい。プログラムソースは、通信網上のプログラム配布サーバでもよいし、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばメモリカードやディスクでもよい。プログラムは、複数のモジュールから構成されてもよい。プログラムを含むソフトウェアは、予め設計されたデータセット(例えばデータベース)を伴ってもよい。コンピュータシステムは、複数台の装置によって構成されてもよい。コンピュータシステムは、クライアントサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム、IoTシステム等で構成されてもよい。各種のデータや情報は、例えばテーブルやリスト等の構造で構成されるが、これに限定されない。識別情報、識別子、ID、名前、番号等の表現は互いに置換可能である。
【0015】
<課題等>
課題等について補足説明する。従来、PBXシステムの構築は、専門知識を持った販売店の工事業者が実施している。PBXシステムの運用に係わる動作等の条件は、顧客環境ごとに多岐にわたっている。PBXシステムの運用設定値(言い換えると設定データやパラメータ値)は、顧客環境のユーザ要件ごとに異なる。例えば、接続形態の違いとしては、顧客環境の自社LAN内だけでPBXを使用する場合や、WANを介してPBXを使用する場合や、インターネットを介してPBXを利用する場合などがある。それらのユーザ要件、言い換えると顧客環境に応じた所望の運用を表す要件や運用情報に応じて、必要な運用設定値が変わる。そのため、工事業者の人による、顧客環境に応じた運用設定値の設定や調整の作業には、多くの手間、時間、コスト等を要している。
【0016】
ユーザ要件に合わせた運用設定は、顧客環境のシステム構成や運用構成の変動や、要望の変動に応じて、変わり得る。そのため、現状のPBXシステムでは、各工事業者の個人の知識・経験・技術に任せて、運用設定を実施している。例えば知識や経験の浅い人が運用設定を行った場合、運用設定の不備が生じる場合がある。この場合、カスタマーサポートへの問い合わせが発生することで、人手による原因解析や設定変更を行うことになる。結果、PBXシステムの構築および安定運用には、多くの時間や手間等を要している。
【0017】
上記顧客環境に応じたPBXシステムの構築および運用の際には、工事業者の設定者である個人の経験値などに依存して、PBXの運用設定のパラメータ値が設定される。構築時には、運用設定を含む初期設定が行われる。しかしながら、顧客環境でのPBXシステムの構築後に運用を開始してから、顧客環境での実際の運用状況と当初の運用設定パラメータ値とが一致・整合していない場合が生じ得る。そのような場合には、都度、工事業者の人が、顧客環境の場所まで行って、運用設定値を人手で調整する必要があった。
【0018】
また、PBXシステムの構築および運用の設定のノウハウは、設定を実施した工事業者の個人には蓄積されるが、業者間・個人間でのノウハウの共有はされておらず困難であった。
【0019】
<解決手段等>
上記課題等を踏まえ、実施の形態のPBX設定値補正システムおよび方法は、従来人手で行われていた、PBXシステムの運用設定を含む設定(Configuration/Setting)に関して、設定支援や自動調整などを行う機能を提供する。実施の形態のシステムおよび方法は、この機能として、顧客環境ごとのユーザ要件および実際の運用状況を考慮しながら、運用設定パラメータ値である運用値を補正する機能を有する。この補正機能ないし調整機能は、顧客環境ごとのユーザ要件および運用状況に対応した、運用情報および運用シーケンスに対し、一致・整合させるように、自動的に好適な運用値ないし補正値を決定して、顧客環境の運用設定を更新する機能である。
【0020】
実施の形態のPBX設定値補正システムおよび方法は、詳細を後述するが、PBX機能を有するサーバ等のPBXシステムと、PBXシステムに対し接続される顧客環境内の電話端末等の外部装置との間の通信を含む運用シーケンスを監視し、監視情報として運用シーケンスログを取得・記憶する。
【0021】
実施の形態のPBX設定値補正システムおよび方法は、上記監視した運用シーケンスと、予めPBXの仕様に基づいて正常または基準となる運用シーケンスのモデルとして規定したモデルシーケンスとを比較・照合してチェックする。実施の形態のシステムおよび方法は、それらの間での齟齬や差異などを解析・判断する。実施の形態のシステムおよび方法は、その比較等の結果に基づいて、例えばモデルと運用との不一致が解消されるように、または差異が低減されるように、顧客環境のPBX利用に係わる運用設定パラメータ値を補正する。
【0022】
上記のように、実施の形態のPBX設定値補正システムおよび方法は、PBXシステムと外部装置との間の運用シーケンスを確認・チェックし、顧客環境ごとの運用状況に合わせるように運用値の補正を行う。これにより、顧客環境ごとの運用に合わせた運用値の設定が、従来よりも高い精度で、自動調整として実現される。結果、工事業者の設定者である人による対応作業の手間や時間を短縮できる。
【0023】
さらに、実施の形態のPBX設定値補正システムおよび方法は、複数の顧客環境を対象にして、顧客環境ごとの運用の要件(それに対応する運用情報)や実際の運用状況(それに対応する運用シーケンスログ)や運用設定パラメータ値を集約し、それらに関する統計情報を生成して保持する。実施の形態のシステムおよび方法は、新規の顧客の顧客環境でのPBXシステムの構築時に、初期設定として、上記統計情報を用いて、好適な運用値を作成して設定することができる。これにより、構築時の運用設定の精度を向上させることができ、運用開始後のトラブルを削減できる。
【0024】
実施の形態のPBX設定値補正方法およびシステムは、例えばPBXシステムの内部のプログラム等のソフトウェアによって実装可能であり、それに対応する実施例を説明するが、これに限定されない。実施の形態の方法およびシステムは、後述の変形例で示すように、PBXシステムの外部のプログラム等のソフトウェアや外部システムによっても実装可能である。
【0025】
実施の形態のPBX設定値補正方法およびシステムは、特に、クラウドPBXに実装される実施例を説明するが、これに限定されない。後述の変形例で示すように、IP-PBXに実装される形態も可能である。実施の形態のPBX設定値補正方法およびシステムは、クラウドPBXをベースとすることで、複数の顧客環境に対し、PBX設定値補正機能を提供できる。また、実施の形態のPBX設定値補正方法およびシステムは、クラウドPBXをベースとすることで、複数の顧客環境から運用情報や運用シーケンス監視情報や運用設定値などのデータを収集・集約し、それらに関する統計情報を生成することも容易となる。これにより、実施の形態の方法およびシステムは、その統計情報を利用して、各顧客環境に対し、運用設定値の提案が可能である。すなわち、実施の形態の方法およびシステムは、例えば新規の顧客環境のPBX利用システムの構築時に、運用値の初期設定として、統計情報を用いた好適な運用値を生成できる。これにより、最初から好適な運用が期待でき、自動調整の精度を高めることができ、運用開始後のトラブルを削減できる。
【0026】
<比較例>
図29は、実施の形態に対する、比較例のPBXシステム291を含む、システム全体の構成例を示す。このPBXシステム291は、事業者のデータセンター等によるクラウドコンピューティングシステム上に構成されているクラウドPBXの場合である。PBXシステム291は、サーバ、ルータ、データベース(DB)等を有して構成されており、少なくともPBX機能を有する。
【0027】
図29では、顧客環境の例として、顧客環境A,Bを示す。各顧客環境は、1つ以上の拠点を有し、拠点ごとに、PBXを利用する外部装置292を有する。顧客環境は、例えば会社などの組織およびそれを構成するコンピュータシステム等である。拠点は、例えば東京・大阪といった場所ごとの拠点である。外部装置292は、電話端末(例えばIP電話機)、ルータ、ゲートウェイ等の装置が挙げられる。なお、外部装置292の外部とは、PBXに対する外部である。外部装置292は、PBX利用デバイスなどと言い換えてもよい。外部装置292は、PBXシステム291のPBXに対する発信や着信を行う。PBXを介して、発信元の外部装置292と、着信先の外部装置292とが接続されて通話が行われる。
【0028】
拠点は、拠点ごとに異なるコンピュータシステムを有する場合があり、拠点ごとに異なる外部装置292の構成を有する場合がある。拠点は、拠点ごとに異なるPBX運用を有する場合がある。例えば、顧客環境Aにおいて、拠点A1の外部装置292は、LANを利用してPBXに接続し、拠点A2の外部装置292は、WANを利用してPBXに接続する。通信QA1,QA2,QB1,QB2は、それぞれの拠点の外部装置292と、PBXシステム291のPBXとの通信、言い換えると運用シーケンスを示す。
【0029】
工事業者における設定者であるユーザU1は、担当する顧客環境について、PBXシステム1の利用、構築および運用に係わる設定作業を行う。例えば、工事業者Aの設定者Aは、顧客環境Aの設定作業を行う。ユーザU1は、PBXシステム1に対し、顧客環境のPBXの運用設定を含む設定に係わるデータ・情報の設定を行う。例えば、設定CA,CBは、それぞれのユーザU1の端末30から、PBXシステム291に対する、顧客環境ごとのPBXシステムの運用設定を含む設定2901を示す。設定2901の際、ユーザU1は、顧客環境の構成から考えられる運用設定パラメータ値を設定する。顧客環境の要件に応じて、必要な設定は異なる。例えば、拠点ごとに接続形態などの運用構成が異なる場合がある。
【0030】
例えば、一方で、拠点A1の外部装置292とPBXシステム291のPBX(例えばSIPサーバ)との間でのPBX利用に係わる通信の際には、拠点A1内のLANを介する通信となる。他方で、拠点A2の外部装置292とPBXシステム1のPBXとの間でのPBX利用に係わる通信の際には、WANを介する通信となる。拠点A1のPBX利用に対し、拠点A2のPBX利用は、通信遅延が相対的に大きい。拠点A1と拠点A2とで、同じPBXの仕様に基づいて、それぞれPBX利用システムの構築および運用の設定がされているとする。例えば、それらの運用設定において、SIPの通信シーケンスにおける、要求に対して応答を待つためのタイマの時間の設定値が、運用値として同じであるとする。この場合、顧客環境の拠点ごとに異なる運用状況、例えば通信遅延の特性に対し、少なくとも一方に齟齬が生じる場合があり、運用値として好ましくない。そこで、例えば、拠点A1のタイマの運用値に対し、拠点A2のタイマの運用値を相対的に大きくするといった運用設定にすることが、より好ましい。
【0031】
設定者であるユーザU1による運用設定には、設定不備が生じる場合がある。例えば、顧客環境の実際の運用構成や要望に対し、運用設定の内容が一致・整合していない場合が生じ得る。また、運用設定が一旦なされた後に、顧客環境の実際の運用構成や要望が変化し、その変化に運用設定が対応できていない場合が生じ得る。設定者であるユーザU1の知識・経験などの個人差に依存して、設定不備や設定不十分が生じ得る。また、従来では、運用構成などの変化に対し、迅速な対応ができない場合がある。
【0032】
上記PBXの設定不備により、トラブルが起こりやすい。設定不備により、例えば工事業者から保守センターへの問い合わせ2902が発生する。ユーザU1の個人差に応じて、問い合わせの回数が増加し、問い合わせへのサポート対応のための作業時間などが増加する。設定不備の発生ごとに、都度、人手による原因確認・特定や設定修正などの作業が発生する。このように、顧客環境ごとのPBX利用システムの構築および運用に関して、好適な設定や安定した運用のためには、手間、時間、コスト等を要している。
【0033】
なお、顧客環境ごとに構築されるPBXシステムを、事業者のPBXシステムと区別する場合には、PBX利用システムと記載する場合がある。例えば、図29の拠点A1にとってのPBX利用システムは、拠点A1自体のLANや外部装置292を含むシステムと、事業者のPBXシステム291のPBX機能とを合わせたシステムである。また、例示のように、PBX利用システムおよび運用の違いは、異なる顧客間に限らず、同じ顧客内でも拠点間などの違いとしても生じ得る。
【0034】
実施の形態のPBX設定値補正方法およびシステムは、上記比較例で示したような課題に対し、対応できる機能を実現する。すなわち、実施の形態の方法やシステムは、顧客環境ごとのPBX利用システムおよび運用の違いに対応できるように、顧客環境ごとの運用設定を含む設定を支援する機能や、顧客環境ごとの運用値を補正する機能を有する。より具体的には、この方法およびシステムは、顧客環境ごとの運用シーケンスの監視に基づいて、モデルシーケンスとの比較で、不一致を検出した場合に、顧客環境の運用値を自動的に補正することで調整する機能などを有する。
【0035】
<実施の形態1>
図1図29を用いて、本開示の実施の形態1のPBX設定値補正方法およびシステム等について説明する。実施の形態1のPBX設定値補正システムは、図1のPBXシステム1によって構成されている。実施の形態1のPBX設定値補正方法は、実施の形態1のPBX設定値補正システムである図1のPBXシステム1によって実行されるステップを有する方法である。
【0036】
[システム全体]
図1は、実施の形態1のPBX設定値補正システムであるPBXシステム1を含む、システム全体の構成例を示す。図1のシステムは、実施の形態1のPBX設定値補正システムであるPBXシステム1や、顧客環境2ごとのPBX利用システムなどを含んでいるシステム全体を示している。図1のシステムは、図29の比較例のシステムと同様に、クラウドPBXをベースとしている。図1の顧客環境2の例や、工事業者3の例や、保守センター4についても、図29の例と同様である。
【0037】
実施の形態1のPBX設定値補正システムは、事業者によって管轄されるPBXシステム1を含むシステムである。実施の形態1のPBX設定値補正システムは、顧客環境2ごとのPBXの運用設定を含む設定を支援する機能や、顧客環境2ごとのPBXの運用設定値を補正・調整する機能を有している。
【0038】
事業者のデータセンター100によるクラウドコンピューティングシステム上に、PBXシステム1が構成されている。PBXシステム1は、例えばサーバ10、ルータ11、DB12等を有して構成されている。ルータ11は広域通信網に接続される。サーバ10は、PBX機能の他、PBX設定支援機能や運用値補正機能を有する。DB12には、各機能に係わる各種のデータ・情報が格納される。DB12は、言い換えると記憶部である。
【0039】
顧客環境2の例として、顧客環境A,Bを有し、顧客環境Aは拠点A1,A2を有し、顧客環境Bは拠点B1,B2を有する。各拠点は、外部装置20を含む、それぞれのコンピュータシステム等を有する。例えば、拠点A1(例えば東京)の外部装置20は、例えばLANを介してPBXシステム1に接続される。拠点A2(例えば大阪)の外部装置20は、例えばWANを介してPBXシステム1に接続される。通信QA1,QA2,QB1,QB2は、各拠点の外部装置20とPBXシステム1のPBXとの通信の例であり、言い換えると運用シーケンスの例を示す。
【0040】
各顧客環境2に対し、工事業者3の設定者や作業者であるユーザU1を有する。ユーザU1は、担当する顧客(例えば会社)の顧客環境2(例えば会社のコンピュータシステム)でのPBX利用システムの構築および運用に係わる設定作業を行う。ユーザU1は、顧客環境2の運用構成から考えられる運用設定パラメータ値を運用値として設定する。ユーザU1は、設定作業のため、例えば、端末30を使用する。端末30は、言い換えるとユーザ端末、設定用端末、情報処理装置であり、例えば一般的なノートPC等が挙げられる。設定CA,CBは、ユーザU1の端末30から、PBXシステム1に対する設定の例を示す。
【0041】
PBXシステム1は、設定のためのユーザ・インタフェースを有する。PBXシステム1は、設定のためのパラメータシート13を、ユーザU1に対し提供する。具体例としては、この設定のためのユーザ・インタフェースは、Webシステムとして実現される。すなわち、PBXシステム1は、データであるパラメータシート13を含む、設定のためのGUIを有するWebページ等を、ユーザU1の端末30に対し提供する。パラメータシート13は、言い換えると、運用情報入力表である。
【0042】
例えば、ユーザU1は、端末30から、PBXシステム1のWebサーバ機能にアクセスする。PBXシステム1のWebサーバ機能は、そのアクセス、要求に応じて、パラメータシート13を含むWebページを送信する。ユーザU1の端末30は、受信したWebページによる画面をディスプレイに表示する。その画面にパラメータシート13等が表示される。ユーザU1は、画面のパラメータシート13に対し、顧客環境2のPBX利用の設定に必要なデータ・情報として、顧客環境2に応じた運用情報などを入力する。端末30は、パラメータシート13に入力された運用情報等を、PBXシステム1のWebサーバ機能に送信する。PBXシステム1のWebサーバ機能は、端末30から受信した運用情報等を取得し、DB12に登録・保存する。
【0043】
パラメータシート13では、後述するが、予め、網羅的に、運用設定パラメータおよび入力候補となるパラメータ値などが規定されている。ユーザU1は、パラメータシート13のパラメータごとに、パラメータ値として運用情報を入力できる。なお、説明上、運用情報と運用値とは異なる。パラメータシート13に入力される運用情報は、PBXの運用に関して従来知られている情報要素であり、具体例は後述する。
【0044】
顧客環境2に関して、例えばPBX利用システムの構築時に、ユーザU1による運用設定を含む設定が初期設定として一旦行われ、DB12に設定値が登録される。その後、顧客環境2のPBX利用システムの運用が開始される。実施の形態1でのPBXシステム1は、運用設定に基づいた、顧客環境2のPBX利用システムの運用シーケンスを監視してチェックする。例えば、PBXシステム1のサーバ10は、通信QA1等の運用シーケンスを監視する。例えば、サーバ10は、PBX機能(例えばSIPサーバ)と、電話端末などの外部装置20との間での通信のパケットをキャプチャ・取得することで、運用シーケンスを監視でき、ログとしてデータを記録できる。監視によって得たデータ・情報を、運用シーケンス監視情報、キャプチャデータなどと記載する場合がある。
【0045】
PBXシステム1は、監視情報による顧客環境2の運用シーケンスを、予め規定されたモデルシーケンスと比較・照合して、解析し、チェックすることで、それらのシーケンス間の齟齬ないし不一致などを判断・検出する。PBXシステム1は、例えば、シーケンス間でステータス等が不一致となるステップの部分を判断・検出する。
【0046】
PBXシステム1は、予め、基準となるPBXの仕様に基づいた、正常または基準となる運用シーケンスのモデルを、モデルシーケンスとして規定して保持している。運用シーケンスおよびモデルシーケンスは、後述するが、時系列における順次の複数のステップにおいて、SIP等に係わるメッセージ等のステータスが生じるものである。
【0047】
PBXシステム1は、上記監視およびチェックによる齟齬等の判断の結果に基づいて、顧客環境2の運用値を、より好適な運用値となるように補正する。言い換えると、PBXシステム1は、顧客環境2のその時の運用構成に合わせるように、かつ、顧客環境2の運用シーケンスがモデルシーケンスに近付くように、運用値を加減する等して調整する。この際、PBXシステム1は、齟齬等があるステップ部分やそれに対応する運用設定パラメータに関して、運用値の補正のための補正値を算出・決定する。そして、PBXシステム1は、その補正値によって、DB12の運用値の補正を実行し、これにより、顧客環境2の運用設定値を更新する。
【0048】
なお、DB12内の顧客環境2ごとの運用設定値を含む設定情報が、上記補正によって更新された時には、即時反映によって、その時以降、更新後の運用設定値での運用が開始されることを意味する。
【0049】
実施の形態1のPBX設定値補正方法およびシステムは、上記のような顧客環境2ごとの運用監視に基づいた運用値の補正による自動調整を行う。この結果、工事業者3の設定者であるユーザU1による設定作業の手間、時間、コスト等を削減でき、設定不備によるトラブルを削減できる。この方法およびシステムは、顧客環境2の実際の運用構成に合わせるように、より好適な運用設定、最適化などを実現できる。この結果、顧客環境2ごとのPBX利用システムの構築や運用管理に要する時間などを短縮でき、顧客環境2の変化に対しても迅速に対応可能となる。
【0050】
[PBXシステム]
図2は、図1のPBXシステム1の機能ブロック構成例を示す。各機能ブロックは、所定のハードウェアおよびソフトウェアの協働で実現される。例えば、サーバ10のプロセッサがメモリ上でプログラム処理を行うことにより、各機能ブロックが実現される。あるいは、専用回路や別々の装置により各機能ブロックが実現されてもよい。
【0051】
PBXシステム1のサーバ10は、機能ブロックとして、PBX通信部101と、PBX設定支援部102とを有する。PBX通信部101は、基本的なPBX機能を実現する部分であり、ルータ11を介して顧客環境2の外部装置20との間でPBXに係わる通信を行う部分である。具体例では、PBX通信部101は、SIPに従った通信を行うSIPサーバないしUA(User Agent)としての機能を有する。なお、図2では、1つのサーバ10内にPBX通信部101とPBX設定支援部102との両方が実装される場合を示しているが、これに限らず、2つ以上のサーバ等に分かれて各機能ブロックが実装されてもよい。
【0052】
PBX設定支援部102は、PBX設定支援機能やPBX設定値補正機能を実現する部分である。PBX設定支援部102は、より詳しくは複数の機能ブロックを有している。PBX設定支援部102は、パラメータシート提供部103、顧客環境運用情報設定部104、データ収集部(言い換えると運用シーケンス監視部)105、運用シーケンスチェック部106、運用補正値決定部107、補正アクション部108、DB更新部(言い換えると統計部)109、および運用値生成部110等を有する。
【0053】
記憶部であるDB12、例えばDBサーバには、各種のデータ・情報として例えば以下が記憶される。DB12は、大別すると、顧客DB15と共通DB16とを有する。顧客DB15は、顧客環境2ごとのデータ・情報を分けて保持するDBであり、顧客環境2ごとのDBとして有し、セキュアに管理される。共通DB16は、特定の顧客環境2に依存しない、複数の顧客環境2で共通のデータを保持するDBである。
【0054】
顧客DB15は、運用情報DB(言い換えるとパラメータシートDB)151と、運用シーケンスログDB152と、PBX設定情報DB153とを有する。PBX設定情報DB153には、運用設定値DB154が含まれる。
【0055】
運用情報DB151は、パラメータシート13に従って入力された運用情報を登録・保持するDBである。パラメータシート13のデータも運用情報DB151に管理されている。運用シーケンスログDB152は、運用シーケンス監視によるデータ収集によって得られた運用シーケンスログを保存するDBである。運用シーケンスログは、例えばSIP等の通信のパケットの内容をキャプチャしたデータを含む。運用シーケンスログは、外部装置20等から収集・取得したデータを含んでもよい。PBX設定情報DB153は、顧客環境2のPBX利用システムの構築および運用に係わるすべての設定情報を保持するDBである。運用設定値DB154は、設定情報のうち、運用設定値を保持するDBである。
【0056】
なお、PBX設定情報DB153に登録されている設定情報、および運用設定値DB154の運用設定値は、そのまま、PBXシステム1および顧客環境2のPBX利用システムの設定情報である。前述のように、この設定情報に対する設定更新は、そのまま、システム更新や新運用開始を意味する。
【0057】
共通DB16は、設定値補正DB161と、モデルシーケンスDB162と、統計情報DB163とを有する。設定値補正DB161は、運用設定値の補正のためのデータ・情報を保持するDBである。設定値補正DB161には、補正用情報として、後述するが、予め、対応表が規定されている。この対応表には、運用シーケンスのステップステータスと、運用情報との組み合わせごとに、運用設定パラメータ値の補正値を決定するためのデータ・情報が設定されている。
【0058】
モデルシーケンスDB162は、予め規定されたモデルシーケンスのデータを保持するDBである。統計情報DB163は、複数の顧客環境2の運用情報や運用シーケンスや運用設定値に係わる統計情報を保持するDBである。PBXシステム1は、複数の顧客環境2の各顧客環境2から設定や収集された情報を統計処理することで、統計情報を得る。
【0059】
パラメータシート提供部103は、前述のように、設定者であるユーザU1の端末30に対し、パラメータシート13を含むデータを提供する。パラメータシート13は、PBX運用設定に係わるパラメータをリストとして列挙・整理して有している。設定者であるユーザU1は、パラメータシート13のパラメータ項目に対し、運用情報の値を入力できる。パラメータシート13の詳しい形式は限定されず、一例を後述する。パラメータシート13は、運用情報のみならず、顧客情報などの様々な情報を入力可能としてもよい。
【0060】
顧客環境運用情報設定部104は、パラメータシート13に入力された運用情報を取得して運用情報DB151に登録する。
【0061】
データ収集部105は、PBX通信部101と連携(例えば情報のやり取り)しながら、顧客環境2のPBX利用システムの実際の運用シーケンスを監視し、監視した運用シーケンスのデータをログとして収集し、運用シーケンスログDB152に格納する。
【0062】
運用シーケンスチェック部106は、データ収集部105による監視結果の運用シーケンスと、モデルシーケンスDB162のモデルシーケンスとを比較・照合してチェックし、それらのシーケンス間での齟齬や不一致等を判断・検出する。
【0063】
運用補正値決定部107は、運用シーケンスチェック部106によるチェック結果に基づいて、顧客環境2の運用値を補正するための補正値および補正アクションを決定する。その際、運用補正値決定部107は、運用情報DB151から参照された顧客環境2の運用情報と、設定値補正DB161から参照された補正用情報とに基づいて、その補正値を決定する。この補正値は、パラメータに応じて、置換するための補正後運用値そのものでもよいし、補正加減値、補正係数、補正候補値、補正計算式などでもよい。また、補正アクションは、補正対象パラメータに対する補正方法などを指す。補正対象パラメータは、例えば不一致が生じたステップ部分に対応したパラメータ、例えばタイマ時間などとして決定される。
【0064】
補正アクション部108は、運用補正値決定部107によって決定された補正値を、決定された補正アクションによって、運用設定値DB154の補正前の運用値に対し作用させる補正演算を行うことにより、顧客環境2の運用値を補正・調整する。言い換えると、この補正アクションにより、運用設定値DB154の運用値が更新される。この際の補正演算は、運用設定のパラメータに応じて様々であってもよく、例えば補正値によって置換するものでもよいし、補正前の運用値に補正値を加算、減算、乗算、除算などするものでもよい。
【0065】
DB更新部109は、複数の顧客環境2における各顧客環境2の運用情報、運用シーケンスログ、運用設定値などに基づいて、例えば平均や分散などの統計値を含む統計情報を生成し、統計情報DB163に格納する。DB更新部109は、新たな情報の発生に伴い、適宜に統計情報DB163の統計情報を更新する。
【0066】
運用値生成部110は、顧客環境運用情報設定部104によって運用情報DB151に登録された運用情報に基づいて、顧客環境2の好適な運用値を生成し、運用設定値DB154に登録する。例えば、顧客環境2へのPBX利用システムの導入・構築時に、最初に入力・設定された運用情報に基づいて、運用値生成部110は、初期設定の運用値を生成する。また、その際、運用値生成部110は、運用情報に関する統計情報がある場合には、その統計情報を用いて、より好適な運用値を生成する。なお、説明上分けているが、運用値生成部110を、顧客環境運用情報設定部104と一体としてもよいし、運用補正値決定部107と一体としてもよい。
【0067】
[コンピュータシステム]
図3は、図2のサーバ10のコンピュータシステムとしての構成例を示す。サーバ10である計算機は、プロセッサ301、メモリ302、通信インタフェース装置303、入出力インタフェース装置304等を備え、これらの構成要素はバス309等を通じて相互に接続されている。
【0068】
プロセッサ301は、例えばCPU、ROM、RAM等を備え、制御プログラム311に従った処理を実行する。これにより、所定の機能、少なくとも、図2の構成に対応したPBX機能321やPBX設定支援機能322などが実現される。
【0069】
メモリ302は、不揮発性記憶装置等を用いて構成される。メモリ302には、制御プログラム311、設定情報312、処理データ313などが記憶される。制御プログラム311は、サーバ10の機能を実現するための各種のプログラムである。設定情報312は、制御プログラム311に関するシステム設定情報やユーザ設定情報である。処理データ313は、サーバ10による処理過程で発生する各種のデータである。なお、図2のDB12がメモリ302上に構成されてもよい。メモリ302に限らず、他の記憶手段、例えば外部記憶装置、DBサーバなどを用いてもよい。
【0070】
通信インタフェース装置303は、通信インタフェースが実装された装置であり、ルータ11との通信インタフェース、DB12との通信インタフェース等に対応している。入出力インタフェース装置304は、入出力インタフェースが実装された装置であり、入力装置305や出力装置306が外部接続可能である。
【0071】
制御プログラム311、すなわち、実施の形態1の方法やシステムを実現するためのプログラムは、事業者のシステムやプログラム配布サーバ等から、ダウンロード、インストール、更新等がされてもよい。
【0072】
[処理フロー]
図4は、実施の形態1のPBX設定値補正方法およびシステムでの処理フローを示す。PBXシステム1は、図4のフローに従った処理を実行する。図4のフローは、ステップS101~S108を有する。
【0073】
ステップS101で、PBXシステム1は、顧客環境2のPBX利用システムの構築時には、運用値を含む設定情報の初期設定を行う。なお、この構築時の初期設定は、従来通りに手動で行われてもよいし、前述のように、図2の顧客環境運用情報設定部104および運用値生成部110を用いて、運用情報に応じた運用値の生成として行われてもよい。また、ステップS101を省略したフローとし、実施の形態1の方法およびシステムは、構築済みで運用開始後の顧客環境2を対象とする方法およびシステムとしてもよい。
【0074】
ステップS102で、PBXシステム1は、パラメータシート13を用いて、顧客環境2の運用情報を取得し、運用情報DB151に登録する。この際、前述のように、図2のパラメータシート提供部103は、ユーザU1の端末30にパラメータシート13を提供し、パラメータシート13に入力された運用情報を取得し、運用情報DB151に登録する。
【0075】
ステップS103で、PBXシステム1は、図2のデータ収集部105により、運用開始後の顧客環境2の運用シーケンスを監視し、監視情報である運用シーケンスログのデータを取得し、運用シーケンスログDB152に格納する。
【0076】
ステップS104で、PBXシステム1は、図2の運用シーケンスチェック部106により、運用シーケンスログDB152の運用シーケンスログと、モデルシーケンスDB162のモデルシーケンスとを比較・照合してチェックし、それらのシーケンス間の不一致等を判断・検出する。
【0077】
ステップS105で、PBXシステム1は、ステップS104のチェック結果に基づいて、補正の必要がある場合に、図2の運用補正値決定部107により、顧客環境2の運用値の補正のための補正値を決定する。その際、運用補正値決定部107は、顧客環境2の運用情報と、設定値補正DB161の設定用情報とを参照して、補正値を決定する。
【0078】
ステップS106で、PBXシステム1は、ステップS105の結果得られた補正値を用いて、図2の補正アクション部108により、顧客環境2の運用値を補正する。補正アクション部108は、運用設定値DB154の運用値を、補正値によって補正することで、更新する。
【0079】
ステップS107で、PBXシステム1は、図2のDB更新部109により、更新された運用情報、運用シーケンスログ、および運用値を用いて、統計情報DB163の統計情報を更新する。
【0080】
ステップS108は、顧客環境2ごとの処理がすべて終了したかの確認であり、終了した場合(Y)には図4のフローの終了となり、終了しない場合(N)にはステップS101に戻って、顧客環境2ごとの処理が同様に繰り返される。
【0081】
[運用情報の設定]
図5は、図4のステップS101およびS102に関する、パラメータシート13を用いた顧客環境2の運用情報の登録に係わる構成例を示す説明図である。図5の例は、ステップS101とS102をまとめて実現する例である。図5では、設定者であるユーザU1とPBXシステム1との間での機能ブロック間の処理例などを示している。図5等では、サーバ10やPBX設定支援部102等の機能ブロックについては図示を省略している。機能ブロック間の処理シーケンス例は以下のようになる。
【0082】
ステップS201で、PBXシステム1のパラメータシート提供部103は、Webシステムを通じて、パラメータシート13を含むデータを、ユーザU1の端末30に送信する。ステップS202で、ユーザU1は、端末30の画面に表示されたパラメータシート13における各パラメータ項目に対し、顧客環境2の運用構成に合わせた運用情報を入力する。顧客環境2の運用構成は、例えば顧客からのヒヤリングなどで把握される。ステップS203で、ユーザU1の端末30は、少なくとも、パラメータシート13に入力された運用情報を、PBXシステム1に送信する。ここでは、運用情報とともにパラメータシート13が送信されてもよい。ステップS204で、顧客環境運用情報設定部104は、端末30から受信して取得した運用情報を、運用情報DB151に登録する。
【0083】
さらに、ステップS205では、PBXシステム1の運用値生成部110(前述のように代わりに顧客環境運用情報設定部103や運用補正値決定部107としてもよい)は、上記登録された運用情報に対し該当する統計情報を、統計情報DB163から抽出する。
【0084】
ステップS206で、運用値生成部110は、抽出した統計情報を用いて、運用値を生成する。この生成は、抽出した統計情報における例えば平均値を用いて運用値を決定することが挙げられる。
【0085】
ステップS207で、運用値生成部110は、生成・決定した運用値を、運用設定値DB154に登録する。ここまでで、構築時にパラメータシート13を用いた運用情報の登録、および統計情報を用いた運用値の初期設定が可能である。
【0086】
なお、上記処理例において、適用できる統計情報が無い場合には、PBXシステム1は、統計情報を用いずに、従来のように運用値を初期設定してもよい。例えばユーザU1が手動で運用値を設定する。上記処理例では、適用できる統計情報が有る場合に、初期設定としての好適な運用値を自動的に生成して設定することができる。
【0087】
[データ収集(運用シーケンス監視)]
図6は、図4のステップS103,S104に関する、図2のデータ収集部105によるデータ収集、運用シーケンスチェック部106によるチェックなどについての説明図である。
【0088】
ステップS301で、データ収集部105は、PBX通信部101による外部装置20との間の通信のシーケンスである運用シーケンスを監視し、PBX通信部101を通じて運用シーケンスに係わるデータを取得する。例えば、PBX通信部101は、外部装置20との間で、SIPに基づいた通信のパケットを授受している。データ収集部105は、例えば、PBX通信部101から、その通信のパケットの内容をキャプチャデータとして取得する。データ収集部105は、時系列上の各タイミングで、各パケットの内容のキャプチャデータを取得する。運用シーケンスログは、このような時系列上で順序を持った各時点のキャプチャデータの集まりを含む。ステップS302で、データ収集部105は、上記監視によって得たキャプチャデータを、運用シーケンスログDB152内に運用シーケンスログとして格納する。
【0089】
[運用シーケンスチェック]
同じく図6で、ステップS303では、運用シーケンスチェック部106は、運用シーケンスログDB152内に格納された最新の運用シーケンスログを抽出する。ステップS304で、運用シーケンスチェック部106は、共通DB16のモデルシーケンスDB162から、モデルシーケンスのデータを参照する。ステップS305で、運用シーケンスチェック部106は、上記抽出された運用シーケンスと、上記モデルシーケンスとを比較・照合し、齟齬や差分等を判断・検出する。この結果、シーケンス中で不一致となるステップ等の部分がある場合にその部分が検出される。
【0090】
[運用シーケンス]
図7は、PBX利用に係わる運用シーケンスの例を示す。運用シーケンスは、あるPBXの仕様、例えばSIPというプロトコルに従った通信のシーケンスである。図7での横方向では、通信の主体として、PBXシステム1のPBX通信部101によるUAである「PBX」と、外部装置20によるUAである「SIP1」とを示している。縦方向では、時系列、時間軸を示している。時系列上、説明用に、順序を持ったステップを有し、ステップS1,S2等で示す。これらのステップは、実施の形態1での機能を制御するためのステップである。各ステップは、様々なステータスをとり得る。運用シーケンスは、これらの一連のステップのステータスの集まりを有する。
【0091】
図7での左側の(A)には、モデルシーケンスの例を示し、対比して、右側の(B)には、ある顧客環境2での運用シーケンスの例として異常シーケンスの例を示している。顧客環境2の運用シーケンスは、その顧客環境2の運用値の設定に応じた通信のシーケンスである。異常シーケンスとは、モデルシーケンスを正常と仮定した場合に、その正常のモデルに対する齟齬があることや差異が大きいことに相当する。異常シーケンスであるからといってPBX利用ができないわけではない。
【0092】
図7の(A)のモデルシーケンスでは、例えばPBXが発信側であり、時点701で、SIP1に対し、INVITEメッセージを送信している。メッセージは、パケット内に記述されている。INVITEメッセージの送受信を起点(時点701)として、タイマAのカウントが開始されている。タイマAは、INVITEメッセージの再送の間隔を規定するためのタイマ(後述の図14のタイマA)である。
【0093】
PBXからのINVITEメッセージに対し、SIP1は、応答として、「100 try」を送信している。ステップS1で、PBXは、SIP1からの「100 try」を受信している。すなわち、ステップS1は、ステータスが「100 try」である。ステップS2では、SIP1が「180 Ring」を送信し、PBXは、その「180 Ring」を受信している。すなわち、ステップS2は、ステータスが「180 Ring」である。
【0094】
タイマAのカウント時間は、そのタイマAの設定値(運用値の1つ)に応じた時間で終了する。例えば、タイマAの時間が時点702で終了する。その後、ステップS3では、SIP1がPBXへ「200 OK」を送信している。すなわち、ステップS3は、ステータスが「200 OK」である。PBXは、「200 OK」に対し、「ACK」を送信している。これにより、セッションが確立される。その後、PBXとSIP1との間では、RTP(Real-time Transport Protocol)による通信が行われる。
【0095】
一方、図7の(B)の異常シーケンスでは、PBXからSIP1へのINVITEメッセージに対し、PBXは、タイマAの時間内に、SIP1からの応答を受信していない。すなわち、ステップS1およびステップS2は、ステータスが「応答無し」である。PBXは、タイマAの時間内に応答が無かったため、ステップS3では、INVITEメッセージを再送している。すなわち、ステップS3は、ステータスがINVITEメッセージである。その後、タイマAの時間が終了した時点702以降での、例えば時点703に、PBXは、SIP1から送信された「100 try」を受信している。
【0096】
このように、例えばタイマAの時間(時点701~時点702)以内に「100 try」を受信するステータスである場合には、正常として、予め(A)のモデルシーケンスが規定されている。(A)のモデルシーケンスに対し、(B)の運用シーケンスの比較で、例えばタイマAの時間以内に「100 try」を受信しないステータスである場合には、異常シーケンスであるとして判断可能である。
【0097】
なお、上記例では、PBXからみたステップステータスとして記述しているが、これに限定されない。
【0098】
上記例のように、監視した運用シーケンスが、モデルシーケンスとの比較で、齟齬がある、あるいは、差異が大きい、等と判断される場合に、PBXシステム1は、運用値の補正を行う。特に、PBXシステム1は、運用シーケンスにおけるステップのステータスが不一致となる部分を検出できる。上記例では、モデルシーケンスの少なくともステップS1の「100 try」に関して不一致であるため、そのステップS1の部分に関する運用値の補正が必要であると判断できる。
【0099】
なお、SIPは、端末(User Agent:UAと呼ばれる)間でセッションの生成、変更、切断を行うプロトロコルである。PBXシステム1のサーバ10と顧客環境2の外部装置20(例えばIP電話機)は、それぞれ、SIPに対応したアプリケーションを備えるUAとなり、SIPによって制御されたセッション上で、音声などのデータを交換する。UAは、URIで識別される。SIPのメッセージ等の意味を簡単に説明すると以下である。「INVITE」メッセージは、セッション確立のための招待メッセージであり、自分(例えばPBX)のURIと、相手先(例えばSIP1)のURIとを伴う。「100 try」は、試行中の応答を表し、例えば「SIP1への招待を実行中であること」をPBXへ通知する暫定応答である。このうちの「100」はSIPで定められたステータスコードである。
【0100】
「180 Ring」は、呼び出し中の応答を表す。例えば、SIP1は、呼び出し処理を行い、PBXへ「180 Ring」を送信する。「200 OK」は、成功応答を表す。SIP1は、IP電話機のオフフック等に応じて、PBXへ「200 OK」を送信する。PBXは、「200 OK」を受信すると、セッション確立の了解を表す応答「ACK」をSIP1へ送信する。これにより、セッションが生成、確立される。その後、PBXとSIP1とのUA間で、RTPに従って、音声などのデータが交換される。なお、図7の例では、UAとしてPBXとSIP1(外部装置20)との2つのみ示しているが、これに限らず、3つ以上のUA間(例えばSIPゲートウェイを介在する場合)でも、同様にSIPの通信が可能である。
【0101】
[補正値決定]
図8は、図4のステップS105,S106に関する、図2の運用補正値決定部107による補正値の決定および補正アクション部108による補正アクションに係わる説明図である。
【0102】
ステップS401で、運用補正値決定部107は、運用シーケンスチェック部106からの判定結果情報を参照する。判定結果情報は、例えば運用シーケンスログ、正常/異常などの判定値、不一致のステップ部分などである。ステップS402で、運用補正値決定部107は、上記判定結果情報に基づいて、運用設定値DB154から、対象の顧客環境2の運用値を抽出する。ステップS403で、運用補正値決定部107は、設定値補正DB161から、補正用情報(後述の対応表)を参照する。ステップS404で、運用補正値決定部107は、判定値が異常である場合(言い換えると不一致であるステップ部分がある場合)に、補正用情報に基づいて、運用シーケンスのステップステータスと、運用情報との組み合わせに応じて、運用値に係わる補正値を決定する。
【0103】
その後、ステップS405で、補正アクション部108は、運用補正値決定部107で決定された補正値を参照する。ステップS406で、補正アクション部108は、運用設定値DB154から対象の運用値を参照する。ステップS407で、補正アクション部108は、対象の運用値を、補正値を用いて補正演算することで、補正後の運用値を得る。そして、ステップS408で、補正アクション部108は、補正後の運用値によって、運用設定値DB154の該当する運用値を更新する。
【0104】
図9は、図8に関する別の表現として、ステップS105の補正値決定に関する詳しい処理フロー例を示す。図9の処理フロー例は、基本処理の他に、追加処理も有している。
【0105】
ステップS901で、運用補正値決定部107は、運用シーケンスチェックの判定結果において、異常がある、言い換えると、齟齬がある、不一致がある、差分が大きい、または一致度合いが小さい、といった判定値であるかを確認する。ステップS901でYESである場合にはAで示すフローのステップS902に進み、NOである場合にはBで示すフローのステップS904に進む。Aのフローは、基本処理機能を示しており、PBXシステム1は、少なくともAのフローの基本処理を行う。
【0106】
ステップS902では、運用補正値決定部107は、運用情報DB151から、顧客環境2の運用情報を抽出する。
【0107】
ステップS903では、運用補正値決定部107は、運用シーケンスログのキャプチャによるステップステータスの値と、上記抽出された運用情報の値との組み合わせに基づいて、設定値補正DB161の対応表から、運用値に係わる補正値を抽出することにより、補正値を決定する。ステップS903の後、図9のフローが終了し、ステップS106の補正アクションへ続く。
【0108】
一方、Bのフローは、必須ではないが、追加処理機能を示している。実施の形態1では、PBXシステム1は、Aのフローの基本処理に加え、Bのフローの追加処理を行う。実施の形態1の変形例では、Bのフローの追加処理を省略してもよい。ステップS901でNOとなった場合とは、モデルシーケンスと運用シーケンスとの差異が小さく類似であり、一見すると問題が無い場合である。しかしながら、実施の形態1では、この場合にも、運用値の調整の余地があるとして、Bのフローの追加処理を行って、調整を試みる。
【0109】
ステップS904では、運用補正値決定部107は、運用情報DB151から、顧客環境2に応じた運用情報を参照する。また、運用補正値決定部107は、運用設定値DB154から、顧客環境2に応じた運用値を参照する。
【0110】
ステップS905では、運用補正値決定部107は、運用シーケンスログのキャプチャによるステップステータス値と、運用情報の値と、運用値とに基づいて、設定値補正DB161から、運用値に係わる補正値を抽出する。
【0111】
この際、Bのフローでは、運用補正値決定部107は、ステップステータス値と、運用値とを比較して、運用値が最適な運用値からかけ離れていないかどうかを確認する。PBXシステム1は、かけ離れている場合には、運用値の調整が必要であると判定し、補正値を抽出する。
【0112】
Aのフローにより、シーケンスの不一致時の運用値補正を何回も繰り返した場合、例えば図7のタイマAの時間の運用値が、顧客環境2の運用シーケンスに合わせて長くなりすぎてしまう可能性がある。その場合、タイマAの時間の運用値は、最適な運用値からかけ離れたものとなってしまう。そのため、Bのフローでは、シーケンスが一致の場合でも、ステップステータスをチェックし、モデルの運用値に対してその時の運用値がかけ離れていないかが判断される。例えばそれらの差異が閾値以上であるかどうか等が判断される。この判断の結果に応じて、運用値が最適な運用値に近付くように調整される。
【0113】
ステップS906は、ステップS905までの結果で補正値が得られたかどうかの分岐である。補正値が得られた場合(YES)には、図9のフローが終了し、補正アクションに続き、得られなかった場合(NO)には、図9のフローが終了し、例えば図4のステップS103のデータ収集へ戻る。
【0114】
[統計情報]
図10は、図4のステップS107に関する、図2のDB更新部109による、統計情報の生成などについての説明図である。ステップS1001で、DB更新部109は、運用情報DB151から顧客環境2の運用情報を参照し、ステップS1002で、運用設定値DB154から補正後の運用値を参照する。ステップS1003で、DB更新部109は、顧客環境2の補正後の運用値に関して、共有DB16の統計情報DB163を参照する。ステップS1004で、DB更新部109は、運用値のパラメータに関して、平均値などの統計情報を生成または更新する。ステップS1005で、DB更新部109は、運用値のパラメータに関して、生成または更新された統計情報によって、統計情報DB163の統計情報を更新する。
【0115】
[パラメータシート]
図11は、パラメータシート13の構成例を示す。このパラメータシート13は、表で構成されている。このパラメータシート13は、例えば表計算ソフトウェアのシートを用いて実装できるが、これに限定されない。図11のパラメータシート13の表は、列として、「項番」、「シート名」、「分類」、「項目」、および「備考」を有する。このパラメータシート13は、表ごとに、顧客環境2ごとの運用情報を入力可能な形式である。なお、図11では、パラメータシート13の構造を示しており、パラメータ入力値としての運用情報の値は示していない。
【0116】
「項番」は、行ごとの識別情報である。「シート名」は、シートごとの名前であり、値として例えば「内線(必須)」が設定されている。運用情報の一部として内線に関する運用設定は必須となっている。「分類」は、運用情報に関する分類であり、値として例えば「内線」が設定されている。「項目」は、運用情報に関する項目であり、値として例えば「内線番号」、「電話機種類」、「接続形態」、「場所」などを有する。「備考」は、「項目」に関する備考である。例えば、項目「内線番号」は、内線の番号を指定する項目である。項目「電話機種類」は、電話機の種類を指定する項目である。電話機とは、前述の外部装置20の一種である。項目「接続形態」は、PBX利用に係わるネットワークの接続の形態を指定する項目であり、接続形態の値の候補として例えばLAN/WAN/インターネットなどがある。項目「場所」は、拠点の場所を指定する項目であり、場所の値の候補として例えば東京/大阪/札幌などがある。
【0117】
[運用情報DB]
図12は、運用情報DB151の構成例を示し、パラメータシート13を通じて入力された運用情報の例も示している。運用情報DB151は、パラメータシート13に入力された運用情報を保持する。図12の運用情報DB151は、表を有する。この表は、図11のパラメータシート13の「分類」および「項目」の入力値を有する。この表は、列として、「分類」、「内線番号」、「電話機種類」、「接続形態」、「場所」等を有し、行毎に入力値を有する。「分類」は、パラメータシート13の「分類」と同じ値(例えば「内線」)を有する。「内線番号」は、値として、例えば、「1000」「1001」「2000」「3000」が入力されている。「電話機種類」は、値として、例えば、「SIP電話機」または「IP電話機」が入力されている。「接続形態」は、値として、例えば、「LAN」「WAN」または「インターネット」が入力されている。「場所」は、値として、例えば、「東京」「大阪」または「札幌」が入力されている。
【0118】
[運用シーケンスログDB]
図13は、運用シーケンスログDB152の構成例を示す。図13の運用シーケンスログDB152は、運用シーケンスログの表を有する。この表は、列として、「呼番号」、「送信元」、「送信先」、「時間」、「シーケンス内容」等を有する。この表は、行毎に時間毎の情報(前述のキャプチャデータ)を保持しており、時系列での運用シーケンスログは複数の行で表現されている。「呼番号」には、PBXでの呼番号の値が格納されている。「送信元」には、送信元のアドレスが格納されている。「送信先」には、送信先のアドレスが格納されている。「時間」には、時点、例えば年月日時分秒の情報が格納されている。「シーケンス内容」には、図7に例示したような運用シーケンスを構成するステップごとのステータスとして、プロトコル上のメッセージなどの情報が格納されている。
【0119】
[運用設定値DB]
図14は、運用設定値DB154の構成例を示す。運用設定値DB154には、現在のPBX利用システムの運用値が登録されている。この運用値は、PBXシステム1のサーバ10(特に図2のPBX通信部101)に設定されているデータと同じである。図14の運用設定値DB154は、表を有する。この表は、列として、「タイマ種別」、「名称」、「運用値」等を有する。本例では、運用設定のパラメータ値として、特に、SIPにおけるタイマ(図7のタイマA等)に関する運用値について説明するが、これに限定されない。「タイマ種別」は、タイマの種別を表す値として0~10等が設定されている。「名称」は、タイマ種別ごとの名称が設定されている。
【0120】
例えば、タイマ種別=0のタイマは、T1:リクエスト初回再送時間である。タイマ種別=1のタイマは、T2:リクエスト最大再送時間である。タイマ種別=2のタイマは、T4:最終レスポンス受信からのトランザクション終了タイムアウトである。タイマ種別=3のタイマは、INVITEリクエストExpireヘッダ設定値である。タイマ種別=4のタイマは、REGリクエストExpireヘッダ最小値である。タイマ種別=5のタイマは、REGリクエストExpireヘッダ最大値である。タイマ種別=6のタイマは、INVITE受信後の最終レスポンス受け付け待ち時間である。タイマ種別=7のタイマは、INVITEリクエストの初回再送間隔(前述のタイマA)である。タイマ種別=8のタイマは、INVITEリクエストの再送満了時間(タイマB)である。タイマ種別=9のタイマは、INVITEレスポンスの再送待ち時間(タイマD)である。タイマ種別=10のタイマは、INVITE以外のリクエストの初回再送間隔(タイマE)である。
【0121】
「運用値」には、タイマごとの運用値が設定されている。例えば、タイマ種別=1のタイマであるリクエスト最大再送時間T2というパラメータについては、値が「500ms」である。単位は例えばミリ秒(ms)である。
【0122】
顧客環境2ごとに、上記運用設定値として例えばタイマ値が適切に設定されていない場合には、PBX利用システムに係わる運用シーケンスが非効率的なものとなる。運用設定値が最適に設定された場合には、PBX利用システムに係わる運用シーケンスが効率的なものとなる。
【0123】
[設定値補正DB]
図15は、設定値補正DB161の構成例を示す。設定値補正DB161には、運用設定値の補正のための補正用情報として例えば図15の表のような対応表が予め規定されている。図15の対応表には、ステップステータスと運用情報との組み合わせに応じた補正値、もしくは補正値の算出・決定のための情報が登録されている。この表は、列として、「ステップ番号」、「受信データ」、「補正アクション」、「補正加減値」等を有する。「ステップ番号」には、図7のような運用シーケンスの各ステップを識別するための番号などの情報が設定されている。「受信データ」には、ステップごとのステータス値として、例えばPBXがSIP1(外部装置20)から受信するメッセージなどの値が設定されている。
【0124】
なお、運用シーケンス上のステップS1等は、説明のために定義したものであり、時系列上での順序に関する単位である。例えば、第1ステップであるステップS1では、候補のステータス(「受信データ」)として4通りの可能性があることを表している。実際に生じたメッセージ等のステータスに応じて、場合分けで考えればよい。ステップステータスに対する運用情報との組み合わせに応じて、補正アクションおよび補正加減値が、予め対応付けられて規定されている。この組み合わせに応じて補正値や補正内容を決定できる。
【0125】
例えば、ステップ番号=S1については、候補となるステータス値として、「100 try 受信(タイマA以内)」、「100 try 受信(タイマA以降)」と、「486 Busy 受信」と、「受信なし」とがある。例えば、ステップ番号=S2については、候補となるステータス値として、「180 受信(Expire以内)」、「180 受信(Expire以降)」がある。例えば、ステップ番号=S3については、候補となるステータス値として、「200 受信(Expire以内)」、「200 受信(Expire以降)」、「422 受信」がある。
【0126】
「補正アクション」には、抽出した補正値を用いて補正する際の補正アクションが設定されている。例えば、ステップS1に関して、受信データ値であるステップステータス値が、「100 try 受信(タイマA以内)」や「100 try 受信(タイマA以降)」の場合には、補正アクション値が「タイマA補正」である。「486 Busy 受信」である場合には、補正アクション値が「なし」である。「受信なし」である場合には、補正アクション値が「リトライ回数の補正(再送回数設定を倍にする)」である。例えば、ステップS2に関して、ステータス値が、「180 受信(Expire以内)」や「180 受信(Expire以降)」である場合には、補正アクション値が「Expire補正」である。例えば、ステップS3に関して、ステータス値が、「200 受信(Expire以内)」や「200 受信(Expire以降)」である場合には、補正アクション値が「Expire補正」であり、「422 受信」である場合には、補正アクション値が「セッションタイマ補正」である。
【0127】
「補正加減値」列は、運用値の補正値に関する加減値が設定されている。この補正加減値は、運用設定値について、加算により補正する場合の加算値や、減算により補正する場合の減算値などである。本例では、「補正加減値」列は、さらに、前述(図12)の接続形態の値ごとの列として、「LAN」「WAN」「インターネット」を有している。また、それらの接続形態の値の列ごとに、加算値に関する「加」列、減算値に関する「減」列を有する。
【0128】
ステップステータス値である「受信データ」値および「補正アクション」値の行と、「補正加減値」列とが交差するセルには、補正加減値が設定されている。例えば、ステップS1について、「100 try 受信(タイマA以内)」および「タイマA補正」の場合の行に対しては、接続形態が「LAN」の場合の減算値「5ms」、「WAN」の場合の減算値「15ms」、「インターネット」の場合の減算値「100ms」が設定されている。「100 try 受信(タイマA以降)」および「タイマA補正」の場合の行に対しては、接続形態が「LAN」の場合の加算値「10ms」、「WAN」の場合の加算値「30ms」、「インターネット」の場合の加算値「200ms」が設定されている。「受信なし」および「リトライ回数の補正(……)」の場合の行に対しては、接続形態が「LAN」の場合の加算値「6回」と減算値「1回」、「WAN」の場合の加算値「6回」と減算値「1回」、「インターネット」の場合の加算値「6回」と減算値「1回」が設定されている。
【0129】
すなわち、図15の対応表の例では、ステップステータス値と、運用情報の例として接続形態の値との組み合わせに応じた補正加減値が、網羅的に設定されている。この対応表には、運用情報として接続形態のみならず、他の運用情報に関しても、同様に補正加減値などが規定できる。
【0130】
「補正加減値」列のセルに設定された「5ms」等の値は、前述の補正値に相当する。PBXシステム1は、このような対応表から、運用シーケンス監視情報に基づいたステップステータス値と運用情報の値との組み合わせに応じて、「5ms」減算値等の補正値を抽出する。例えば、「100 try 受信(タイマA以内)」と「LAN」との組み合わせに応じて、「5ms」減算値が補正値として抽出される。この場合、この「5ms」減算値である補正値は、「補正アクション」で示す「タイマA補正」の補正値であり、補正前のその時のタイマAの運用値を、この「5ms」によって減算する補正とすればよいことを表している。
【0131】
本例では、補正値を「補正加減値」の形式としたが、これに限定されない。補正値の設定の他の例としては、乗算や除算などの補正の補正係数が規定されてもよい。例えば、組み合わせに応じて、乗算の係数が「1.5」と設定されている場合、運用値をその係数「1.5」で乗算する補正とすればよい。リトライ回数をn倍にするという補正であれば、そのn値を補正値とすればよい。
【0132】
補正値の設定の他の例としては、補正値または補正後の運用値に関する候補となる範囲(例えば上限値や下限値)、または選択肢となる候補値が規定されていてもよい。例えば、値の組み合わせに応じて、候補範囲や候補値から補正値が選択されてもよい。また、補正値の設定の他の例としては、補正値または補正後の運用値を算出するための計算式などが規定されていてもよい。例えば、値の組み合わせに応じて、該当する計算式を用いて、補正値または補正後の運用値が算出されてもよい。
【0133】
[モデルシーケンスDB]
図16は、モデルシーケンスDB162の構成例を示す。図16のモデルシーケンスDB162は、表を有する。この表は、列として、「メッセージ発行元」、「シーケンス内容」、「ステップ番号」等を有する。「メッセ ージ発行元」には、SIPなどのメッセージの発行元を特定する情報が設定されている。「シーケンス内容」には、図7のような運用シーケンスにおける各ステップでのSIPのメッセージなどの情報が設定されている。「ステップ番号」には、図15の対応表の「ステップ番号」と同じく、運用シーケンスの各ステップを識別するための情報が設定されている。
【0134】
図16の例では、表の複数の行において、あるモデルシーケンスが設定されている。第1行は、「メッセージ発行元」の値が「発信者」であり、「シーケンス内容」の値が「INVITE……」であり、ステップ番号はなし「-」である。同様に、第2行は、「着信者」、「100 try」、「S1」である。第3行は、「着信者」、「180 Ring」、「S2」である。第4行は、「発信者」、「200 OK」、「-」である。第5行は、「着信者」、「ACK」、「S3」である。すなわち、このモデルシーケンスは、図7の例のようなモデルシーケンスを表している。
【0135】
[統計情報DB]
図17は、統計情報DB163の構成例を示す。図17の統計情報DB163は、表を有する。この表は、列として、「外部装置種別」、「接続形態」、「場所」、「ステップ番号」、「設定項目」、「統計値」、「統計回数」等を有する。「外部装置種別」、「接続形態」、「場所」は、運用情報の項目の例である。「外部装置種別」は、外部装置20の種別を表す情報であり、図12での「電話機種類」と対応している。「接続形態」は、図12での「接続形態」と対応している。「場所」は、図12での「場所」と対応している。「ステップ番号」は、運用シーケンスのステップを表す情報であり、図15での「ステップ番号」と対応している。「設定項目」は、運用設定値に係わるパラメータであり、例えば、「タイマA」、「リトライ回数」、「Expire」、「セッションタイマ」などがある。「統計値」は、当該行における「外部装置種別」から「設定項目」までの組み合わせに対応した、「設定項目」のパラメータの運用値に関する統計値が格納される。統計値の例は平均値や分散値である。「統計回数」は、当該行の統計値に関して、統計情報の生成や更新が何回目かを表す情報が格納される。
【0136】
運用情報および運用値に関して、例えば、第1行に示すように、外部装置20がSIP電話機であり、接続形態がLANであり、拠点の場所が東京であるという条件に該当する顧客環境2が特定できる。その顧客環境2における、運用シーケンスのステップS1(「100 try」)に関するタイマAの運用設定値に関して、4回目の統計値が「1010ms」であり、リトライ回数に関する統計値が「12回」である。また、例えば、第7行に示すように、外部装置20がSIP電話機であり、接続形態がWANであり、拠点の場所が大阪であるという条件に該当する顧客環境2が特定できる。その顧客環境2における、運用シーケンスのステップS1(「100 try」)に関するタイマAの運用設定値に関して、6回目の統計値が「1030ms」であり、リトライ回数に関する統計値が「12回」である。
【0137】
このような運用情報および運用値に関する統計値を、前述の運用値の生成の際に利用できる。
【0138】
[具体例]
以下、図18図19等を用いて、顧客環境2の運用値を生成や補正する具体例を示す。図18は、設定者であるユーザU1の端末30の表示画面で、パラメータシート13に運用情報を入力するイメージを示す。図18では、データ・情報の具体例を示している。図19は、(A)運用情報の例、(B)統計情報の例、(C)運用設定値の補正値の例、(D)運用設定値の補正前後の例を示す。
【0139】
まず、構築時の初期設定の際に、運用情報に基づいて好適な運用値を生成する例については、以下の通りである。
【0140】
図18の画面内のパラメータシート13においては、「内線(必須)」等のタブ項目ごとにパラメータシート情報が表示でき、運用情報のパラメータ項目(例えば内線番号、電話機種類、接続形態、場所など)ごとに、パラメータ値を入力できる。項目ごとに、例えばリストで候補のパラメータ値が表示され、ユーザU1が候補から選択して入力できる。項目ごとに、例えばテキストで入力可能としてもよい。
【0141】
PBXシステム1の図2の顧客環境運用情報設定部104は、パラメータシート13に入力された運用情報を、運用情報DB151に登録する。顧客環境2に応じた運用情報の例として、拠点の場所が大阪、接続形態がWAN、電話機種類がSIP電話機であるとする(図18での番号4,5の行のデータ)。その運用情報を図19の(A)に示している。
【0142】
この運用情報に対し、実施の形態1の場合、PBXシステム1は、例えば図17の統計情報DB163の表から、その運用情報に該当するデータとして、破線枠で示す行のデータ部分を抽出する。抽出されたデータ部分は、値{SIP電話機,WAN,大阪,S1,タイマA,1030ms,6}を有する。このデータ値は、運用シーケンスのステップS1のタイマAの運用値の統計値「1030ms」を含んでいる。この統計情報を図19の(B)に示している。
【0143】
PBXシステム1は、顧客環境2の運用情報に対し、上記データ値から、運用シーケンスのステップS1のタイマAの運用値(言い換えると補正値)として、「1030ms」とすればよいと決定できる。PBXシステム1は、同じような顧客環境2の運用状況の統計値を考慮して、ある顧客環境2の運用値の初期設定値(もしくは調整の補正値)を「1030ms」として提案できる。この補正値を図19の(C)に示している。
【0144】
PBXシステム1は、上記決定した運用値「1030ms」を、図14の運用設定値DB154の該当する破線枠で示す部分に反映する。例えば、図19の(D)のように、補正前の運用値「1000ms」から補正後の運用値「1030ms」に更新される。
【0145】
次に、図20を用いて、運用シーケンス監視に基づいた運用値の自動調整の具体例について以下の通りである。図20は、(A)運用シーケンス監視情報の例、(B)モデルシーケンスのデータ例、(C)モデルシーケンスと(D)運用シーケンスとの比較、(E)対応表の例、(F)運用設定値の例を示す。
【0146】
図2のデータ収集部105によって、図20の(A)に示すような運用シーケンス監視情報(言い換えるとキャプチャデータ)が得られたとする。このデータからは以下のようなことがわかる。(A)の呼番号134の発信の運用シーケンスについて、図7図20の(C)と(D)のように、PBXからSIP1(外部装置20)へのINVITEメッセージ、およびタイマAのカウント開始(時点2001)に対し、SIP1からの「100 try」の応答(時点2003)までに、1050msが経過している。1050msは、10:50:24.856から10:50:25.906までの差である。タイマAの補正前の運用値は1030msであるとする。タイマAの時間1030msの終了時点が時点2002である。(D)のように、「100 try」の応答までの時間1050msは、タイマAの時間1030ms(時点2002)を超えている。そのため、「100 try」の応答よりも前に、(A)の第2行や(D)で示すように、INVITEメッセージの再送が発生している。タイマAの終了の時点2002から「100 try」の応答の時点2003までの遅延時間が20msである。
【0147】
図7の(A)や図20の(B)のモデルシーケンスで考えると、INVITEメッセージに対し、タイマAの時間以内に、ステップS1のステータスとして「100 try」が応答されることが、正常または好適である。それに対し、本例では、ステップS1で、タイマAの時間以内での「100 try」応答は無く、タイマAの終了の時点2002以降の時点2003に「100 try」の応答が生じている。そのため、監視した運用シーケンスは、モデルシーケンスに比べ、異常または不適であり、補正が必要であると判断できる。
【0148】
PBXシステム1の運用シーケンスチェック部106は、上記のように、図20の(A)や(D)のような運用シーケンスと、(B)や(C)のようなモデルシーケンスとを比較し、時系列での複数のステップのステータスの差異や変化を判断する。特に、タイマの運用値に関しては、ステップ間での要求や応答の時間などが判断される。運用シーケンスチェック部106は、比較の結果、(A)の運用シーケンスと、(B)のモデルシーケンスとで、(C)と(D)のように、例えばステップS1の部分について不一致と判断して検出できる。
【0149】
PBXシステム1は、上記チェックの結果である不一致に基づいて、ステップS1のタイマAに関する運用値の補正が必要であると判定する。運用補正値決定部107は、図9のように、運用情報DB151から、対象の顧客環境2の運用情報(相手端末情報や接続形態など)を参照する。運用補正値決定部107は、図15の設定値補正DB161の対応表における、不一致であるステップS1に該当する部分として破線枠で示す部分を参照する。特に、不一致の詳細に該当する部分は、一点鎖線で示すように2行目の「100 try 受信(タイマA以降)」の部分である。また、対象の顧客環境2の運用情報としては、図19の(A)のように接続形態がWANであるため、一点鎖線で示すように「WAN」列が該当する。それらの行列が交差するセル部分の補正加減値は、加算値「30ms」である。これにより、運用補正値決定部107は、補正値を加算値「30ms」(+30ms)として決定できる。図20の(E)には対応表から抽出された部分を示す。
【0150】
補正アクション部108は、決定された補正値(+30ms)を用いて、「補正アクション」列で示される「タイマA補正」を実行する。補正アクション部108は、図20の(F)のように、運用設定値DB154から抽出したタイマAの運用値(1030ms)を、補正値(+30ms)によって補正し、補正後の運用値(1060ms)を、運用設定値DB154に登録する。これにより、INVITEリクエストの初回再送間隔に係わるタイマAの運用設定値は、1030msから1060msに更新される。
【0151】
なお、以上では、図2の各処理部が各DBを都度に読み書きする処理例を説明したが、これに限定されない。ある処理部があるDBから必要な情報を読み出した後、その処理部が別の処理部にその情報を受け渡し、その別の処理部はそのDBにはアクセスしない、といった処理例も可能である。
【0152】
PBXシステム1は、運用設定値を更新した場合、設定者であるユーザU1に対し、通知してもよい。例えば、ユーザU1の端末30の表示画面において、GUIとともに、更新された運用設定値の状態を表示してもよい。これにより、ユーザU1は、その画面で、更新された運用設定値の状態を確認できる。
【0153】
図21は、ユーザU1の端末30の表示画面に、更新された運用設定値の状態を表示する画面例を示す。この画面での顧客環境2の運用情報や運用設定値などの表示は、各DBの表を用いた表示としてもよいし、各DBの情報に基づいて形式を変換した情報の表示としてもよい。
【0154】
図21の画面例では、顧客の情報および顧客環境2の情報が表示されており、ユーザU1が選択して表示できる。領域2101には、上記具体例で示した自動調整が行われた場合の現在の運用設定値の状態が表示されている。また、画面内には、顧客環境に合わせてタイマAの運用値が調整された旨の通知が表示されている。ユーザU1は、本画面で現在の運用値の状態および自動調整された旨を確認できる。
【0155】
なお、他の画面例としては、補正前の運用値と補正後の運用値とを並列で表示してもよいし、補正を適用するかどうかをユーザU1に確認してユーザU1が肯定の操作をした場合に補正を実行するようにしてもよい。ユーザU1は、補正を適用したくない場合には自分で手動設定を行ってもよい。
【0156】
上記運用値の補正による自動調整後、顧客環境2での運用シーケンスはより好適なものとなる。図22には、補正前後の運用シーケンスの例を示す。(A)の補正前の運用シーケンスでは、前述のように最初のINVITEメッセージ(時点2201)から、タイマAの時間1030ms(時点2202)を超えても「100 try」応答が無いことで、INVITEメッセージの再送が発生している。対して、(B)の補正後の運用シーケンスでは、例えば(A)と同じ時点2203で「100 try」応答が発生したとしても、調整後のタイマAの時間1060ms(時点2204)以内の応答となる。これにより、INVITEメッセージの再送が発生しない。よって、補正後では補正前よりも好適な運用となっている。
【0157】
なお、その後の運用でも同様の仕組みでの自動調整が可能である。そのため、例えば1回目の補正後の運用値でも異常と判定された場合には、さらに2回目の調整がされる。運用監視を継続することで、必要な回数で調整がされ、結果として、最適な運用値に近付けることができる。
【0158】
また、図22の(C)と(D)に示すように、各回の調整に伴い、統計情報DB163の統計情報も更新される。例えば、(C)は更新前の統計情報であり、(D)は更新後の統計情報である。更新前のタイマAの運用値の統計値1030msに対し、調整後のタイマAの運用値1060msを加味して統計値が再計算された結果、得られた統計値1034msが、更新後のタイマAの運用値の統計値1034msとして登録される。また、それに伴い、統計の回数が、6回から7回に更新されている。
【0159】
ただし、例えばステップS1のタイマAに関して調整した結果、タイマAの時間が長くなり過ぎた場合には、再送が生じないものの、最適な運用値ではない可能性がある。そのため、図9のBのフローのように、不一致が無い場合でも、運用値が適切かを確認し、例えば、図15の減算値によって運用値を補正することで、タイマAの時間を短くする方向にも調整できる。これにより、最適値に近付けることができる。
【0160】
[実施の形態1の効果など]
以上のように、実施の形態1のPBX設定値補正システムおよび方法等によれば、顧客環境においてPBXを構築や運用する際の、顧客環境に応じた運用設定を含む設定に関して、効率化や最適化を実現でき、結果として、人による設定作業の手間、時間、コスト等を低減でき、効率的で好適な設定作業や運用を実現できる。
【0161】
実施の形態1によれば、工事業者の設定者である人の知識や経験に依存する必要無く、より好適な運用値となるように運用設定を支援できる。構築時には、複数の顧客環境の運用に関する統計情報を用いて、好適な運用値の初期設定が可能となる。また、運用開始後、実際の運用状況と運用設定パラメータ値とに齟齬が生じた場合でも、運用シーケンス監視情報に基づいて、より好適な運用値になるように自動調整が可能である。そのため、都度、工事業者の人が顧客環境の場所まで行って運用値を調整するといった作業を削減できる。
【0162】
実施の形態1によれば、顧客環境の運用に関する統計情報を集積し、統計情報を用いた運用値の補正を実現するので、PBXの運用設定のノウハウを、個人に依存せずに、システムによって蓄積し、個人間で共有することができ、運用設定を効率化できる。
【0163】
[変形例について]
実施の形態1では、クラウドPBXとしてのPBXシステム1が運用値補正などの機能を実現する例を説明した。特に、前述の統計情報を用いた機能を実装する場合には、実施の形態1のようにクラウドPBXとすることが好適である。しかしながら、これに限定されない。後述のように、IP-PBXとする場合にも、実施の形態1での機能は、同様に適用可能である。IP-PBXによるPBXシステムとする場合、前述の統計情報を用いた機能を実装しない形態が挙げられるが、これに限定されず、後述のように、複数のIP-PBXによるPBXシステムの連携や上位システムを用いて、前述の統計情報を用いた機能を実装する形態も可能である。
【0164】
実施の形態1では、図2のように、PBX機能を実現するPBX通信部101に加えて、PBX設定支援部102を有するPBXシステム1としたが、これに限定されない。PBX通信部101を有さずにPBX設定支援部102のみを有するシステムとして実装してもよい。
【0165】
実施の形態1では、あるPBXの仕様を基準として、正常運用シーケンスとしてのモデルシーケンスを規定した場合に、顧客環境2に応じた運用の違いに対応できることを説明した。これに限定されず、公知の各種のPBXの仕様についても、実施の形態1での機能を同様に適用可能である。例えば、PBXの仕様のバリエーションごとに、モデルシーケンスが規定されてもよい。
【0166】
また、後述のように、顧客環境2内に設置された任意のコンピュータシステム、例えばサーバ等の専用の装置あるいは1つの外部装置20が、実施の形態1と同様の機能を実現する形態も可能である。その場合、顧客環境2内のコンピュータシステムは、運用シーケンス監視や運用値補正などの処理を行う。
【0167】
また、後述のように、顧客環境2外の例えば事業者のコンピュータシステムと、顧客環境2内のコンピュータシステムとの間で、例えばクライアント・サーバ方式で、実施の形態1と同様の機能を実現する形態も可能である。顧客環境2内に、設定者が操作できるクライアント端末またはサーバなどが設けられる。その場合、顧客環境2内のコンピュータシステムは、GUIを含む設定支援機能、例えばパラメータシート13の機能や設定値確認機能のみを担ってもよいし、運用シーケンス監視や運用値補正などの処理を担ってもよい。
【0168】
実施の形態1での機能は、コンピュータシステムを主体としてほぼ全自動で実現される機能として説明したが、これに限定されない。前述の機能の主要な処理は計算機などによって実行されるが、機能の一部について、人による作業を介在させてもよい。例えば、前述のパラメータシート13を用いた運用情報の入力・取得は、計算機がパラメータシート13を読み込んで解釈して運用情報を抽出する等、自動処理で実現できる。これに限らず、設定者や管理者などの人が、パラメートシート13に入力された運用情報の一部について、データ形式を整えたり、不足する情報を入力したりといった、補助的な作業を行ってもよい。また、例えば、本PBX設定値補正システム上での通信やユーザ・インタフェースを用いて、事業者の管理者や、工事業者の設定者や、あるいは顧客のユーザとの間で、一部、指示や回答などのコミュニケーションを行うようにしてもよい。
【0169】
[変形例1]
図23は、実施の形態1の変形例1のPBX設定値補正システムを含んだシステム全体の構成例を示す。変形例1では、実施の形態1のようなクラウドPBXのタイプではなく、IP-PBXのタイプである場合の実施例を示す。変形例1では、PBXシステム1は、顧客環境2ごとに、IP-PBXシステムとして構成される。図23の例では、顧客環境AにはPBXシステム1Aを有し、顧客環境BにはPBXシステム1Bを有する。同様に、顧客環境2ごとに、IP-PBXシステムとしてのPBXシステム1が設けられる。PBXシステム1は事業者が管轄する。
【0170】
顧客環境2ごとのPBXシステム1は、例えば顧客環境2の拠点等のコンピュータシステム内のサーバ等によって構成されるが、これに限らず可能である。顧客環境2外の事業者のサーバ等の計算機により、PBXシステム1としての機能が構成されてもよい。その場合、顧客環境2外のサーバ等が、顧客環境2内の外部装置20等と通信する。また、顧客環境2外の事業者のサーバ計算機と、顧客環境2内のクライアント計算機とが、クライアント・サーバ方式で通信することで、PBXシステム1としての機能が実現されてもよい。
【0171】
変形例1では、顧客環境2ごとのPBXシステム1が、その顧客環境2の運用値を補正する機能を有し、この機能の詳細は実施の形態1と同様である。変形例1では、実施の形態1に対し主に異なる構成点としては、前述の統計情報を用いた機能を有さない。
【0172】
顧客環境Aを担当する、工事業者Aの設定者AであるユーザU1は、端末30から、PBXシステム1Aに対し、顧客環境Aに関する設定CAを行う。顧客環境Bを担当する、工事業者Bの設定者BであるユーザU1は、端末30から、PBXシステム1Bに対し、顧客環境Bに関する設定CBを行う。PBXシステム1Aは、PBX機能を有するサーバ10と顧客環境A内の外部装置20との間での通信QA1,QA2による運用シーケンスを監視する。同様に、PBXシステム1Bは、PBX機能を有するサーバ10と顧客環境B内の外部装置20との間での通信QB1,QB2による運用シーケンスを監視する。PBXシステム1Aは、監視情報に基づいて、顧客環境Aの運用値を補正し、DB12を更新する。PBXシステム1Bは、監視情報に基づいて、顧客環境Bの運用値を補正し、DB12を更新する。
【0173】
図24は、変形例1でのPBXシステム1の機能ブロック構成例を示す。変形例1の構成は、図2の構成に対し、異なる点として、サーバ10は、DB更新部109を有さず、共通DB16には統計情報DB163を有さない。他方、変形例1では、顧客環境2ごとの顧客DB15に、運用値決定DB155を追加で有する。
【0174】
運用値決定DB155は、顧客環境2ごとの運用情報に対する運用値(例えば構築時の初期設定値)を、統計情報を用いずに決定するための情報が設定されているDBである。
【0175】
図25は、変形例1での運用値決定DB155の構成例を示す。図25の運用値決定DB155は、表を有する。この表は、列として、「外部装置種別」、「接続形態」、「場所」、「ステップ番号」、「設定項目」、「運用値」等を有する。「外部装置種別」から「設定項目」までの列は、図17の統計情報DB163の表の列と同様の情報項目である。この運用値決定DB155の表は、統計情報DB161の表の「統計値」等を有さずに、「運用値」の列を有する。この表では、顧客環境2の運用情報として、「外部装置種別」「接続形態」「場所」の値に応じて、運用シーケンスのステップごとの「設定項目」についての「運用値」が予め固定的に設定されている。PBXシステム1は、顧客環境2の運用情報の値が与えられた場合、この表から、その値に該当する行を参照し、「運用値」を決定することができる。
【0176】
変形例1での処理フローは、実施の形態1の図4のフローと概略同様であるが、主に異なる点としては、ステップS107のDB更新の処理が無い。顧客環境2のPBXシステム1ごとに、図4のようなフロー(ステップS107を除く)に従って処理を行う。また、変形例1では、PBXシステム1は、ステップS101の構築時の初期設定の際には、統計情報を用いずに、運用値決定DB155を用いて、初期設定の運用値を生成する。もしくは、運用値決定DB155が無い形態の場合、PBXシステム1は、従来通りの初期設定としてもよい。変形例1でも、少なくとも、運用シーケンス監視に基づいた運用値補正を、実施の形態1と同様に実現できる。
【0177】
図26は、変形例1での図4のステップS102の運用情報の設定に関する説明図を示す。例えば、図23の顧客環境AのPBXシステム1Aは、図26中のステップS201~S204で、設定者であるユーザU1によってパラメータシート13に入力された運用情報を取得し、顧客DB15の運用情報DB151に登録する。ここまでは実施の形態1と同様である。
【0178】
次に、ステップS211で、PBXシステム1Aの運用値生成部110は、上記顧客環境2の運用情報に該当する運用値を、運用値決定DB155から抽出する。例えば、運用情報の値が図19の(A)と同様に{SIP電話機,WAN,大阪}である場合に、図25の運用値決定DB155の表から、破線枠で示すように該当する行のデータ部分が抽出される。抽出されたデータ部分は、値{SIP電話機,WAN,大阪,S1,タイマA補正,1000ms}を有する。このデータ値は、運用シーケンスのステップS1のタイマAの運用値の補正値「1000ms」を含んでいる。PBXシステム1は、顧客環境Aの運用情報に対し、上記データ値から、運用シーケンスのステップS1のタイマAの運用値として「1000ms」とすればよいと決定できる。
【0179】
次に、ステップS212で、PBXシステム1Aの運用値生成部110は、上記抽出された運用値を、図14の運用設定値DB154へ登録する。すなわち、構築時の初期設定の場合、運用設定値DB154において、タイマAの運用値として1000msが登録される。運用設定値DB154に既に運用値が設定されていた場合、その運用値は1000msに更新される。
【0180】
上記のように、変形例1によれば、IP-PBXの場合でも、実施の形態1と同様に、運用シーケンス監視に基づいた運用値の調整が可能であり、複数の顧客環境に関する統計情報を用いずに、対象の顧客環境2内で閉じた形での運用値の調整が可能である。
【0181】
なお、図23で、顧客環境2ごとにPBXシステム1が閉じていてもよいが、さらなる変形例としては、顧客環境2ごとのPBXシステム1が、広域通信を介して連携してもよい。例えば、顧客環境2外に、事業者の上位システムを設け、顧客環境2ごとのPBXシステム1が、上位システムと通信してもよい。あるいは、複数のPBXシステム1のうち、1つ以上のPBXシステムに、上位システムとしての機能を追加で実装してもよい。上位システムは、例えば、各顧客環境2のPBXシステム1から情報を収集して蓄積してもよい。また、上位システムが、前述の統計情報に係わる機能を担ってもよい。その場合、上位システムが、各顧客環境2のPBXシステム1から収集・蓄積した情報に基づいて統計情報を生成し、各顧客環境2のPBXシステム1に統計情報を提供してもよい。各顧客環境2のPBXシステム1は、提供された統計情報を用いて、運用値の生成や補正をしてもよい。
【0182】
[変形例2]
図27は、実施の形態1に関する他の変形例として変形例2のPBX設定値補正システムを含んだシステム全体の構成例を示す。変形例2は、実施の形態1と同様に、例えばクラウドPBXを前提とする。例えば図27のようにデータセンター100にPBXシステム1の構成要素としてのコンピュータシステム1aを有する。その上で、変形例2では、顧客環境2内の例えば拠点のシステム内にも、PBXシステム1の構成要素となるコンピュータシステム1bを設ける。顧客環境2内に設けられたコンピュータシステム1bと、データセンター100のコンピュータシステム1aとの間で、通信で連携する。その連携は、例えばクライアント・サーバ方式の通信でもよい。この連携により、PBXシステム1が構成されている。
【0183】
データセンター100のコンピュータシステム1aは、例えば実施の形態1と同様に、サーバ10やDB12を有して構成される。顧客環境2内のコンピュータシステム1bは、例えばサーバ21やDB22を有して構成される。例えば、顧客環境Aの拠点A1のシステムにおいて、LANに対し、コンピュータシステム1bが接続されている。サーバ21は、サーバ10と通信することで連携する。
【0184】
顧客環境2内のコンピュータシステム1bは、前述のPBXシステム1の一部の機能を担う。本例では、顧客環境2内のコンピュータシステム1bは、顧客環境2の運用シーケンスの監視や、顧客環境2の運用設定の管理、言い換えるとGUI提供を担う。
【0185】
顧客環境Aの設定者AであるユーザU1は、端末30から、クラウド上のサーバ10、または顧客環境A内のサーバ21に対し、設定作業を行う。本例では、ユーザU1は、端末30から、顧客環境A内のサーバ21に対し、設定CAを行う。サーバ21は、設定支援のためのパラメータシート13などを端末30に提供する。サーバ21は、パラメータシート13に入力された運用情報を取得し、顧客環境2内のDB22に登録する。
【0186】
また、サーバ21は、サーバ10と通信してDB22の情報をサーバ10に送信してもよく、その場合、サーバ10は、サーバ21から取得した情報をDB12に登録する。
【0187】
サーバ10は、実施の形態1と同様に、クラウドPBXとしての機能を提供する。顧客環境2の外部装置20がPBXを利用する場合、外部装置20とサーバ10のPBX機能との間で通信が行われる。例えば通信QA1は、拠点A1内の外部装置20と、サーバ10のPBX機能との間での通信であり、対応する運用シーケンスを有する。
【0188】
サーバ10またはサーバ21は、顧客環境2内の外部装置20と、サーバ10のPBX機能との間の通信の運用シーケンスを監視する。本例では、顧客環境Aの拠点A1内のサーバ21が、その運用シーケンスを監視する。サーバ21は、監視した情報である運用シーケンスログをDB22に保存するとともに、適宜のタイミングでサーバ10に送信する。サーバ10は、サーバ21から取得した監視情報である運用シーケンスログをDB12に保存する。
【0189】
サーバ10は、運用シーケンスの監視情報に基づいて、実施の形態1と同様に、顧客環境2の運用値を補正し、補正後の運用値をDB12に登録する。サーバ10は、補正後の運用値を、サーバ21に送信する。サーバ21は、補正後の運用値を、DB22に登録する。これにより、拠点A1でのPBXの運用が更新される。
【0190】
上記例では、顧客環境2の拠点内に外部装置20とは別のサーバ20等のコンピュータシステム1bを設けたが、これに限定されない。他の実施例では、顧客環境2内の例えば特定の1つの外部装置20(例えばSIPゲートウェイ)に、サーバ20等に相当する機能を実装してもよい。その特定の外部装置20は、事業者のシステムから、その機能を実現するためのアプリケーションプログラムやデータセット等をダウンロードしてインストールしてもよい。
【0191】
[変形例3]
図28は、実施の形態1に関する他の変形例として変形例3のPBX設定値補正システムの概要を示す説明図である。変形例3のPBX設定値補正システムにおけるPBXシステム1は、PBX利用システムの構築時に統計情報を用いて運用値を生成する機能のみならず、運用開始後にも統計情報を用いて運用値を補正する機能を有する。図28では、縦軸に、複数の顧客環境2として前述の図1のような顧客環境A(A1,A2)や顧客環境B(B1,B2)等がある場合に、横軸を時系列として、運用値の生成や補正のタイミングの例を示している。それぞれの顧客環境2のPBX利用システムの構築時(例えば時点t11,t21,t31,t41)には、前述の、統計情報を用いて運用値を生成する機能を用いることで、好適な初期設定が可能である。なお、十分なデータが集まっていない場合には、統計情報を用いた設定ではなく、手動設定としてもよい。
【0192】
さらに、変形例3では、PBXシステム1は、運用開始後にも、統計情報を用いて運用値を補正する機能を有する。PBXシステム1は、例えば、顧客環境Aの拠点A1については、時点t11の初期設定の運用値を、時点t12で、その時の統計情報を用いて補正することで調整している。同様に、PBXシステム1は、時点t12の運用値を、時点t13で、その時の統計情報を用いて補正することで調整している。同様に、顧客環境Bの拠点B1や拠点B2等についても、適宜のタイミング(時点t32,t33,t42,t43)で運用値が補正されている。
【0193】
統計情報を用いて運用値を補正するタイミングは、前述の運用シーケンス監視の結果、不一致が生じたタイミングとしてもよいし、統計情報が更新されたタイミングとしてもよい。例えば、統計収集範囲内の顧客環境2の運用構成の変動が生じたタイミングとしてもよい。また、前述の実施の形態1の運用シーケンス監視は、常時監視(例えば毎日の業務時間)としたが、これに限定されず、ユーザ設定などに応じて、定期監視(例えば1日1回、1週1回など)としてもよい。
【0194】
以上、本開示の実施の形態を具体的に説明したが、前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。各実施の形態は、必須構成要素を除き、構成要素の追加・削除・置換などが可能である。特に限定しない場合、各構成要素は、単数でも複数でもよい。各実施の形態や変形例を組み合わせた形態も可能である。
【符号の説明】
【0195】
1…PBXシステム、2…顧客環境、3…工事業者、4…保守センター、10…サーバ、11…ルータ、12…DB、13…パラメータシート、20…外部装置、30…端末、U1…ユーザ、100…データセンター、CA…設定、QA1…通信(運用シーケンス)、1001…運用値の補正。
図1
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