(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160613
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】電流センサ及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20231026BHJP
H01F 38/30 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G01R15/18 B
H01F38/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071080
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中根 嵩幸
【テーマコード(参考)】
2G025
5E081
【Fターム(参考)】
2G025AA00
2G025AB14
2G025AC01
5E081AA05
5E081AA16
5E081BB03
5E081CC05
5E081DD23
5E081EE03
(57)【要約】
【課題】電流の検出可能な周波数の上限を高める。
【解決手段】電流センサ10は、電流が流れる測定対象Lmを囲む磁気コア11と、磁気コア11のポロイダル方向Yに巻き回される巻線12と、磁気コア11と巻線12との間にポロイダル方向Yに沿って配置される導電層14と、導電層14による磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路を遮る遮断部16と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の磁気コアと、
前記磁気コアのポロイダル方向に巻き回される巻線と、
前記磁気コアと前記巻線との間に前記ポロイダル方向に沿って配置される導電層と、
前記導電層による前記磁気コアを前記ポロイダル方向に周回する導通路を遮る遮断部と、
を備える電流センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記導電層は、前記磁気コアが前記巻線に覆われる領域の一部に配置される、
電流センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の電流センサであって、
前記導電層は、前記巻線の幅に対する前記導電層の幅の比率が前記巻線に生じる電磁波を抑制する所定の値以上となるように配置される、
電流センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記導電層は、前記磁気コアが前記巻線に覆われる領域の全部に配置される、
電流センサ。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電流センサであって、
前記遮断部は、前記導電層の両端間における前記ポロイダル方向の間隙である、
電流センサ。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電流センサであって、
前記導電層は、前記磁気コアを前記ポロイダル方向に周回するように配置され、
前記遮断部は、絶縁層であり、
前記導電層同士が重なる部分は、前記絶縁層を挟んで重ねられる、
電流センサ。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電流センサであって、
前記導電層は、導電性を有する膜である、
電流センサ。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電流センサと、
前記電流センサにより検出される検出量に基づいて測定対象についての測定量を演算する測定部と、
を含む測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサ及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、測定対象が挿通される磁気コアにコイルを巻回した電流センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の電流センサにおいては、インダクタ素子の接続により、検出電流の振幅-周波数特性の上限周波数が高周波側に伸びてはいるものの、さらに高い周波数の電流を検出できる電流センサが望まれている。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、電流の検出可能な周波数の上限を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、電流センサは、環状の磁気コアと、前記磁気コアのポロイダル方向に巻き回される巻線と、前記磁気コアと前記巻線との間に前記ポロイダル方向に沿って配置される導電層と、前記導電層による前記磁気コアを前記ポロイダル方向に周回する導通路を遮る遮断部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
この態様によれば、磁気コアと巻線との間に導電層を配置することにより、導電層が電磁シールドとなって巻線から巻線内側の磁気コアに向かう電磁波の発生を防ぐので、磁気コアが受ける磁気の影響を抑制することができる。これに加え、磁気コアをポロイダル方向に周回する導通路を有しないように導電層を構成することにより、導電層には誘導電流が発生しなくなるので、この誘導電流によって作られる磁束が、測定対象に流れる電流によって作られる磁束に与える影響を回避することができる。したがって、磁気コアが受ける電磁波の影響と導電層に生じる誘導電流とが抑制されるので、電流の検出可能な周波数の上限を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態における電流センサを備える測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、第一実施形態における電流センサの構造を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示したIII-III線に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、第一実施形態における電流センサの振幅周波数特性の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第二実施形態における電流センサの構造を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第二実施形態における電流センサの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。本明細書においては、全体を通じて、同一又は同等の要素には同一の符号を付する。
【0010】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態における測定装置の構成を示す図である。
【0011】
測定装置100は、測定対象Lmについての物理量を測定するための装置である。測定対象Lmは、例えば、直流又は交流の測定電流Imが流れる電路であり、この電路としては、例えば、単相又は三相の電源ケーブルなどが挙げられる。また、測定対象Lmについての物理量としては、電流値、磁束値又は電力値などが挙げられる。
【0012】
第一実施形態における測定装置100は、測定対象Lmに流れる測定電流Imの大きさを測定する。測定装置100は、電流センサ10及び測定部20を備える。
【0013】
電流センサ10は、測定電流Imにかかる検出量を検出するセンサであり、例えば、巻線方式(磁束を電流に変換するCT方式)又はゼロフラックス方式(磁気平衡方式)を採用する。
【0014】
電流センサ10は、交流の測定電流Imによって作られる磁束を検出して得られる電圧を検出量として出力する。電流センサ10は、測定対象Lmをクランプする開閉可能なクランプ型の構造でも、測定対象Lmを囲む貫通型の構造であってもよい。
【0015】
第一実施形態における電流センサ10は、測定電流Imによって作られる磁束を検出するセンサ部1と、その磁束の大きさに振幅が比例する電圧を生成する回路部2と、を備える。
【0016】
センサ部1は、例えば、一又は複数の巻線が設けられた磁気コアによって構成される。センサ部1は、フラックスゲート素子及びホール素子などの磁気検出素子を備えるものであってもよい。
【0017】
回路部2は、センサ部1に配置された巻線に流れる電流を電圧に変換するIV変換回路によって構成される。IV変換回路は、例えば、抵抗素子により実現される。
【0018】
測定部20は、電流センサ10により検出される検出量に基づいて、測定対象Lmについての測定量を演算する。
【0019】
第一実施形態における測定部20は、電流センサ10から出力される検出量として、測定対象Lmに流れる測定電流Imによって作られる磁束の大きさに振幅が比例する電圧を取得し、取得した電圧の大きさに基づいて測定電流Imの電流値を測定量として演算する。測定部20は、例えば、電力解析器、電流測定器、磁界測定器により実現される。
【0020】
続いて、電流センサ10の構成について
図2及び
図3を参照して説明する。
【0021】
図2は、第一実施形態における電流センサ10の構造を模式的に示す図であり、測定対象Lmの挿通方向に対して直交する方向に電流センサ10のセンサ部1を切断した断面図である。
図3は、
図2に示したIII-III線に沿った断面図である。
【0022】
電流センサ10は、磁気コア11と、巻線12と、ボビン13と、導電層14と、絶縁層15と、を備える。
【0023】
図2に示すように、磁気コア11は、測定対象Lmが挿通可能となるよう環状に形成される。ここにいう環状には、円形状、楕円形状、矩形状、及び多角形状などが含まれる。
【0024】
磁気コア11は、例えば、パーマロイのような鉄材によって形成される。磁気コア11は、フラックスゲート素子を収容するものであってもよい。
【0025】
図3に示すように、巻線12は、磁気コア11のポロイダル方向Yに巻き回される。巻線12を構成する導線は、導線同士が導通しないよう絶縁性を有する絶縁膜によって被覆されている。
【0026】
図2に示すように、第一実施形態における巻線12は、測定対象Lmの挿通方向を軸としたトロイダル方向Xに沿って磁気コア11の一部に巻き回されている。これに代えて巻線12は、磁気コア11のトロイダル方向Xの全部に巻き回されてもよい。
【0027】
ボビン13は、巻線12を巻き回すための筒であり、樹脂などの絶縁性を有する材料によって形成される。ボビン13に巻線12を巻き回すことにより、例えば巻線12の巻き崩れ及び巻きズレなどが抑制される。
【0028】
導電層14は、導電性を有する層であり、巻線12自身又は巻線12の外部から巻線12内側の磁気コア11に向かう電磁波の侵入を抑制する電磁シールドとして機能する。導電層14は、磁気コア11と巻線12との間に配置される。
【0029】
測定電流Imによって巻線12に鎖交する測定磁束が発生している状況では、導電層14の表面において、巻線12から巻線12内側の磁気コア11に向かう電磁波が反射損失及び吸収損失により抑制される。これに加え、外部から混入する電磁波も抑制される。そのため、電磁波により磁気コア11が受ける磁気の影響が抑制される。
【0030】
また、
図3に示すように、導電層14は、磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路を有しないように磁気コア11のポロイダル方向Yの全周(外周全体)に形成される。このため、導電層14の一端部14A及び他端部14Bは互いに離間している。言い換えると、導電層14の一端部14A及び他端部14Bの間には両者が非接触となるよう導電層14の導通路を遮る遮断部16が介在する。このように、導電層14は、磁気コア11に対してターンしない構造を有する。
【0031】
導電層14を磁気コア11のポロイダル方向Yに周回する導通路を有しないように構成する理由は、導電層14の一端部14A及び他端部14Bが接触して導通してしまうと、測定電流Imによって作られる測定磁束により導電層14に誘導電流が発生するからである。この誘電電流により、巻線12には測定磁束を打ち消す方向に磁束が発生し、この磁束によって巻線12に鎖交する測定磁束が減少してしまう。
【0032】
この導電層14の誘導電流に基づく磁束の発生に伴って、測定磁束に基づき巻線12に流れる電流の値が変動するため、測定電流Imを精度よく検出することが困難となる。この対策として、導電層14の一端部14A及び他端部14Bが互いに非接触となるよう一端部14A及び他端部14Bが離間するように設計される。
【0033】
第一実施形態においては、導電層14が磁気コア11をポロイダル方向Yに周回するように配置され、導電層14同士が重なる部分である導電層14の一端部14A及び他端部14Bが間を空けて重ねられる。それゆえ、導電層14の一端部14A及び他端部14Bの間には、測定対象Lmを軸とする径方向Zに対して磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路を遮る間隙が介在する。
【0034】
このようにポロイダル方向Yにおいて一端部14A及び他端部14Bが重ねられることにより、導電層14が巻線12の内周全部に配置されることになるので、導電層14が巻線12の内周の一部に配置される構成に比べて磁気コア11が受ける磁気の影響が抑えられる。
【0035】
また、第一実施形態における導電層14は、磁気コア11が巻線12に覆われる領域の全部に配置される。これにより、磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に配置される構成に比べて磁気コア11が受ける磁気の影響が抑えられる。
【0036】
また、導電層14を形成する手法としては、例えば、金属を薄く延ばして形成したり、蒸着又はメッキ処理などの表面処理を施して磁気コア11及びボビン13の少なくとも一方の面に形成したり、金属箔のテープを貼り付けて形成したりする手法が用いられる。
【0037】
金属箔のテープに用いられる金属としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、又は銅などが挙げられる。第一実施形態における導電層14は、アルミ箔テープによって形成される。このアルミ箔テープは、アルミ製の箔からなる金属層と、この金属層の裏面に積層された接着層と、によって構成され、金属層が導電層14としての役割を果たす。
【0038】
また、導電層14の厚み寸法は、任意に設定することが可能である。第一実施形態におけるアルミ箔テープの金属層からなる導電層14の厚みは、数十[μm]から数百[μm]程度である。導電層14の厚みが厚くなるにつれて、巻線12の径が大きくなり、これに伴って巻線12の寄生容量が大きくなる。
【0039】
巻線12のインダクタンスLと寄生容量Cとで構成されるLC回路の共振周波数Frは、次式(1)により表される。
【0040】
【0041】
上式(1)のように、巻線12の寄生容量Cが大きくなると、共振周波数Frが低くなる。その結果、巻線12を備える電流センサ10の振幅周波数特性及び位相周波数特性においても、同様に振幅及び位相が変動し始める周波数が低くなる。以下では、振幅及び位相が変動し始める点を「電流センサ10で検出可能な周波数の上限」と称する。
【0042】
このため、導電層14の厚みが厚くなるにつれて巻線12の寄生容量Cが大きくなると、電流センサ10で検出可能な周波数の上限が低くなり、高周波数帯域において電流センサ10の振幅及び位相の周波数特性の平坦性が悪くなる。それゆえ、導電層14の厚みは、薄くすることが好ましい。
【0043】
一方、導電層14の厚みが薄くなるにつれて、低周波数帯域では導電層14の磁気抵抗が増大しにくくなるものの、高周波数帯域では導電層14の磁気抵抗が大きくなる。巻線12に生じる電磁波は、高周波数帯域で発生しやすくなるので、導電層14の厚みを薄くしても、巻線12における電磁波の発生を抑制することが可能となる。
【0044】
それゆえ、導電層14の厚みを薄くすることは、高周波数帯域で生じる磁気コア11が受ける磁気の影響を抑制しつつ、巻線12の径の増加に伴う周波数特性の悪化を低減する。
【0045】
絶縁層15は、絶縁性を有する層であり、導電層14による磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路を遮る遮断部16として機能する。
【0046】
図3に示すように、絶縁層15は、導電層14の一端部14Aと他端部14Bとの間を電気的に離すために形成される。それゆえ、絶縁層15は、導電層14同士が重ねられる一端部14Aと他端部14Bとの間にのみ形成されてもよい。これにより、導電層14による磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路が遮られる。
【0047】
第一実施形態では、絶縁層15としてアルミ箔テープの接着層が用いられ、導電層14の一端部14A及び他端部14B間の間隙がアルミ箔テープの接着層によって形成されている。すなわち、導電層14の一端部14A及び他端部14Bは、遮断部16としての絶縁層15を挟んで重ねられている。
【0048】
絶縁層15は、導電層14の一端部14A及び他端部14B同士が導通しないように設けられているが、磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導電層14において一端部14Aから他端部14Bまでの間を電気的に開放すように構成されていればよい。例えば、遮断部16として、絶縁層15を省略して間隙を形成する構造が用いられてもよい。
【0049】
また、第一実施形態では巻線12をボビン13に巻き回す構成であったが、電流センサ10においてボビン13を省略してもよい。ボビン13を省略した構成であっても、巻線12に関しては導線が絶縁膜で被覆されているため、仮に巻線12と導電層14とが接触したとしても、巻線12の絶縁膜によって巻線12と導電層14とは電気的に切り離される。このため、第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0050】
また、ボビン13を省略した構成では、巻線12内周へのメッキ又は蒸着などの表面処理により、一端部14A及び他端部14Bが離間するよう導電層14を形成してもよい。
【0051】
また、第一実施形態では磁気コア11が鉄材などで形成される例を示したが、中空構造を形成して空気を磁気コア11として用いてもよい。この場合も、メッキ又は蒸着などの表面処理により巻線12の内周、若しくは、中空構造を形成する筒の内周又は外周に導電層14を形成してもよい。
【0052】
続いて、第一実施形態における電流センサ10の動作について説明する。
【0053】
まず、測定対象Lmに流れる測定電流Imによって巻線12内の磁気コア11に測定磁束が発生する。この測定磁束の発生に伴って、電磁誘導の法則により、巻線12には測定磁束の大きさに比例する電流が流れる。
【0054】
このとき、磁気コア11と巻線12との間に配置された導電層14には、渦電流が発生し、この渦電流によって巻線12から磁気コア11に向かう電磁波の発生が抑制される。
【0055】
また、導電層14における一端部14Aと他端部14Bとが、絶縁層15として機能するアルミ箔テープの接着層によって互いに電気的に絶縁されていることから、導電層14には、測定磁束に基づく誘導電流が発生しない。それゆえ、誘導電流の発生に伴う測定磁束を打ち消す磁束が生じないので、巻線12には測定磁束の大きさに比例する電流が流れる。
【0056】
次に、電流センサ10の周波数特性について
図4を参照して説明する。
【0057】
図4は、第一実施形態における電流センサ10の振幅周波数特性の一例を示す図である。ここでは、縦軸が電流センサ10の振幅ゲインを示し、横軸が測定電流Imの周波数を示す。
【0058】
図4に示す例では、第一実施形態における導電層14がポロイダル方向Yの全周に配置された電流センサ10の実験結果が実線により示されている。これとともに、電流センサ10の比較例として磁気コア11と巻線12との間に導電層14を配置しない電流センサの実験結果が破線により示されている。また、導電層14がポロイダル方向Yに半周分だけ配置された電流センサの実験結果が点線により示されている。
【0059】
これに加え、導電層14がポロイダル方向Yの全周に配置された電流センサ10の振幅周波数特性には上限ポイントP1が示され、導電層14がポロイダル方向Yの半周分だけ配置された電流センサの振幅周波数特性には上限ポイントP2が示されている。そして比較例の振幅周波数特性には上限ポイントP3が示されている。上限ポイントP1乃至P3は、振幅周波数特性において振幅ゲインが下がり始めたときのポイントであり、例えば、電流センサで検出可能な周波数の上限として捉えることができる。
【0060】
図4に示すように、第一実施形態における上限ポイントP1の周波数は、比較例における上限ポイントP3の周波数よりも高くなっている。より詳細には、第一実施形態の振幅周波数特性における変動波形は、比較例の振幅周波数特性における変動波形に比べて1[MHz]程度高周波側にシフトしている。
【0061】
電流センサ10の振幅周波数特性における変動波形が高周波側にシフトする理由は、磁気コア11と巻線12との間に導電層14を配置したことに起因している。導電層14を配置することにより、上述の通り、巻線12から磁気コア11に向かう電磁波の発生が抑制されるので、巻線12における漏れインダクタンス成分が小さくなる。
【0062】
巻線12の漏れインダクタンス成分が小さくなると、上式(1)の関係から、巻線12の共振周波数Frが高くなる。それゆえ、電流センサ10の振幅周波数特性における変動波形が比較例の電流センサに比べて高周波側にシフトする。位相周波数特性についても同様である。
【0063】
このように、第一実施形態における電流センサ10で検出可能な周波数帯域の上限は、導電層14を配置しない一般的な電流センサで検出可能な周波数帯域の上限に比べて高くなる。すなわち、電流センサ10の周波数特性において振幅ゲイン及び位相の平坦性な領域が一般的な電流センサに比べて広くなる。したがって、磁気コア11と巻線12との間に導電層14を配置することは、電流センサ10の帯域拡張に寄与する。
【0064】
また、導電層14がポロイダル方向Yの半周分だけ配置された電流センサでも、電流センサ10と同じように、一部の導電層14によって巻線12から磁気コア11に向かう電磁波の発生が抑制される。それゆえ、検出可能な周波数帯域の上限ポイントP2は、導電層14を配置しない比較例の電流センサの上限ポイントP3よりも高周波数側にシフトする。
【0065】
次に、第一実施形態における作用効果について説明する。
【0066】
第一実施形態における電流センサ10は、測定電流Imが流れる測定対象Lmを取り囲む環状の磁気コア11と、磁気コア11のポロイダル方向Yに巻き回される巻線12と、磁気コア11と巻線12との間に磁気コア11のポロイダル方向Yに沿って配置される導電層14と、導電層14による磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路を遮る遮断部16と、を備える。
【0067】
この構成によれば、測定電流Imによって巻線12に測定磁束が発生した状態において、導電層14の表面には渦電流が発生し、この渦電流により巻線12から巻線12の内側の磁気コア11に向かう電磁波の発生を抑制することができる。
【0068】
これに加え、導電層14を非導通にする、すなわち磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路を有しないように導電層14を構成することにより、導電層14での誘導電流の発生を回避することができる。それゆえ、導電層14の誘導電流の発生に伴う測定磁束を打ち消す磁束の発生を防ぐことができる。
【0069】
このため、導電層14の配置に伴う巻線12に鎖交する磁束への影響を回避しつつ、巻線12での電磁波の発生を抑制することができる。したがって、電流の検出可能な周波数の上限を高めることができる。
【0070】
また、第一実施形態における導電層14は、磁気コア11が巻線12に覆われる領域の全部に配置される。
【0071】
この構成によれば、磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に配置される構成に比べて巻線12における電磁波の発生を低減することができる。
【0072】
また、第一実施形態における導電層14は、磁気コア11のポロイダル方向Yの全周に周回するように配置され、導電層14同士が重なる部分である一端部14A及び他端部14Bは、遮断部16としての絶縁層15を挟んで重ねられる。
【0073】
この構成によれば、導電層14が磁気コア11のポロイダル方向Yの全周の一部に配置される構成に比べて巻線12における電磁波の発生を低減することができる。
【0074】
また、第一実施形態における導電層14は、導電性を有する膜である。
【0075】
この構成によれば、磁気コア11と巻線12との間に挿入される導電層14を膜状に薄く形成することにより、高周波数帯域において巻線12での電磁波の発生を抑制しつつ、巻線12の径の増大を低減することができる。
【0076】
また、巻線12の径の増大を低減することにより、巻線12の寄生容量の増加を抑制できるので、巻線12の共振周波数Frが低下するのを抑制することができる。さらに、導電層14を薄く形成することにより、導電層14の加工が容易となる。
【0077】
また、第一実施形態における測定装置100は、電流センサ10と、電流センサ10により検出される検出量に基づいて測定対象Lmについての測定量を演算する測定部20と、を含む。
【0078】
この構成によれば、電流センサ10において、磁気コア11と巻線12との間に導電層14を配置しない構成に比べて測定電流Imを検出可能な周波数の上限が高くなるため、測定部20で測定可能な周波数の上限を高めることができる。
【0079】
第一実施形態では巻線12に覆われる磁気コア11の領域の全部に導電層14が挿入される構成であったが、導電層14は、巻線12に覆われる磁気コア11の領域の一部に挿入される構成であってもよい。
【0080】
以下では巻線12に覆われる磁気コア11の領域の一部に導電層14が挿入される実施形態について
図5及び
図6を参照して説明する。
【0081】
(第二実施形態)
図5は、第二実施形態における電流センサ10Aの構造を示す断面図である。
【0082】
電流センサ10Aは、
図2及び
図3に示したセンサ部1に代えてセンサ部1Aを備えている。センサ部1Aにおいては、導電層14が磁気コア11におけるポロイダル方向Yの外周のうち一部を覆う点が、第一実施形態におけるセンサ部1の構成とは異なる。他の構成については、センサ部1と同じ構成であるため、ここでの説明を省略する。
【0083】
図5に示すように、導電層14の一端部14A及び他端部14Bは、互いに導通しないよう磁気コア11のポロイダル方向Yにおいて離間している。すなわち、磁気コア11のポロイダル方向Yにおいて導電層14の一端部14A及び他端部14Bの間に間隙17を有する。第二実施形態において、間隙17は、導電層14による磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路を遮る遮断部16として機能する。
【0084】
第二実施形態のように、磁気コア11と巻線12との間に配置される導電層14は、磁気コア11のポロイダル方向Yにおける外周の一部に配置する構成であっても、巻線12から巻線12の内側の磁気コア11に向かう電磁波の発生を抑制することができる。例えば、磁気コア11のポロイダル方向Yにおける磁気コア11の全周(外周全体)の長さに対する導電層14の長さの比率は半分以上が望ましい。
【0085】
続いて、第二実施形態における作用効果について説明する。
【0086】
第二実施形態における導電層14は、磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に配置される。より詳細には、導電層14は、磁気コア11のポロイダル方向Yにおいて磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に配置される。
【0087】
このような構成であっても、巻線12における電磁波の発生が抑制されるので、電流センサ10で検出可能な周波数の上限を高めることができる。
【0088】
また、第二実施形態における遮断部16は、導電層14の両端間における磁気コア11のポロイダル方向Yの間隙17である。
【0089】
この構成によれば、導電層14は、磁気コア11と巻線12との間において磁気コア11のポロイダル方向Yの一部に配置される。これにより、導電層14の両端間に間隙17が介在し、この間隙17によって磁気コア11をポロイダル方向Yに周回する導通路が遮られる。
【0090】
導電層14のポロイダル方向Yに間隙17を設けることにより、導電層14の一端部14A及び他端部14Bが導通することを確実に防ぐことができる。例えば、第一実施形態のように導電層14の一端部14A及び他端部14Bを、絶縁層15を挟んで重ねる構成に比べて、絶縁層15の経年劣化などに起因して導電層14の一端部14A及び他端部14Bが導通してしまうことがない。
【0091】
したがって、巻線12から巻線12内側の磁気コア11に向かう電磁波の発生を抑制しつつ、導電層14の一端部14A及び他端部14Bが導通するリスクを低減することができる。それゆえ、電流センサ10の検出精度を確保しつつ、検出可能な周波数を高めることができる。
【0092】
(第三実施形態)
図6は、第三実施形態における電流センサ10Bの構造を示す断面図である。
【0093】
電流センサ10Bは、
図2に示したセンサ部1に代えてセンサ部1Bを備えている。センサ部1Bでは、磁気コア11のトロイダル方向Xにおいて磁気コア11と巻線12との間に導電層14が配置される領域が第一実施形態のセンサ部1とは異なる。他の構成についてはセンサ部1と同じ構成であるため、ここでの説明を省略する。
【0094】
図6に示すように、導電層14は、トロイダル方向Xにおいて磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に配置される。導電層14は、巻線12の幅W1に対する導電層14の幅W2の比率(W2/W1)が所定の値以上となるように配置される。
【0095】
上述した所定の値は、巻線12から巻線12内側の磁気コア11に向かう電磁波の発生を抑制するように定められた比率(W2/W1)であり、四分の一以上の値に設定されるのが望ましい。すなわち、導電層14の幅W2は、巻線12の幅W1に対して少なくとも四分の一となるように設計するのが望ましい。
【0096】
続いて、第三実施形態における作用効果について説明する。
【0097】
第三実施形態における導電層14は、磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に配置される。より詳細には、導電層14は、磁気コア11のトロイダル方向Xにおいて磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に配置される。
【0098】
このような構成であっても、巻線12における電磁波の発生が抑制されるので、電流センサ10で検出可能な周波数の上限を高めることができる。
【0099】
また、第三実施形態における導電層14は、巻線12の幅W1に対する導電層14の幅W2の比率(W2/W1)が巻線12に生じる電磁波を抑制する所定の値以上となるように配置される。
【0100】
この構成によれば、第一実施形態のようにトロイダル方向Xにおいて磁気コア11が巻線12に覆われる領域の全部に導電層14が配置される構成に比べて、導電層14の量を削減するとともに、これに要する作業を軽減することができる。それゆえ、巻線12から磁気コア11へ向かう電磁波の発生を抑制しつつ、電流センサ10Bの製造に要する時間及びコストを低減することができる。
【0101】
第三実施形態では
図3に示したように導電層14の一端部14A及び他端部14Bが重ねられた状態において磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に導電層14が配置されたが、これに限られるものではない。
【0102】
例えば、
図5に示したようにポロイダル方向Yにおいて導電層14の一端部14A及び他端部14Bの間に間隙17を有する状態において磁気コア11が巻線12に覆われる領域の一部に導電層14が配置される構成であってもよい。このような構成であっても、磁気コア11と巻線12との間に配置された導電層14によって巻線12から磁気コア11へ向かう電磁波の発生が抑制されるので、電流センサ10で検出可能な周波数帯域の上限を高めることができる、
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0104】
例えば、上記の第一乃至第三実施形態の電流センサ10、10A及び10Bは、それぞれセンサ部1、1A及び1Bに加えて
図1に示した回路部2を備えた構成であったが、回路部2を省略してもよい。また、導電層14及び絶縁層15は、短冊状のアルミ箔テープを用いて形成してもよい。
【0105】
また、導電層14は、高透磁率材によって磁束の制御を行うためのものではないため、磁性を有しなくとも上記実施形態の作用効果は得られる。
【0106】
また、第一実施形態の測定装置100は、測定部20に電流センサ10を外付けする構成であったが、電流センサ10を測定部20に内蔵し、又は、電流センサ10を測定部20に着脱可能とする測定ユニットによって構成されてもよい。
【0107】
なお、第二実施形態の電流センサ10Aでは磁気コア11と巻線12との間においてポロイダル方向Yの一部に一つの導電層14が配置されたが、複数の導電層14が部分的に配置される構成であってもよい。この場合であっても、第二実施形態と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0108】
10、10A、10B 電流センサ
11 磁気コア
12 巻線
14 導電層
14A 一端部
14B 他端部
15 絶縁層
16 遮断部
17 間隙
20 測定部
100 測定装置
Lm 測定対象
Im 測定電流