IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コベルコROBOTiX株式会社の特許一覧

特開2023-160638積層設計方法、溶接条件設定方法、溶接制御方法、溶接制御装置、および溶接システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160638
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】積層設計方法、溶接条件設定方法、溶接制御方法、溶接制御装置、および溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20231026BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B23K9/095 501G
B23K9/095 505C
B23K9/095 510E
B23K9/12 331K
B23K9/12 350D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071123
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】518112321
【氏名又は名称】コベルコROBOTiX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 太
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 博文
(72)【発明者】
【氏名】戸田 忍
(72)【発明者】
【氏名】児玉 克
(57)【要約】
【課題】溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定を可能とする
【解決手段】開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための積層設計方法において、前記開先形状を複数検出し、検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出し、前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出し、前記基準開先形状データ、各検出位置の開先形状データ、および基準積層情報に基づいて、各検出位置の積層情報である積層数および各層の層厚を算出する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための積層設計方法であって、
前記開先形状を複数検出し、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出し、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出し、
前記基準開先形状データ、各検出位置の開先形状データ、および基準積層情報に基づいて、各検出位置の積層情報である積層数および各層の層厚を算出すること、
を特徴とする、積層設計方法。
【請求項2】
前記基準積層情報における積層数および各層の層厚は、
少なくとも、
前記基準開先形状データに基づいて得られる全層厚と、
積層数を所定の分類条件に基づいて複数の層区分に分類し、前記層区分ごとに予め定められた層厚情報とに、
基づいて算出すること
を特徴とする、請求項1に記載の積層設計方法。
【請求項3】
前記層厚情報には、前記層区分ごとの層厚の許容範囲が設けられており、
予め定められた前記層区分ごとの優先度と、前記許容範囲とに基づいて、
前記基準積層情報である積層数と各層の層厚とを算出すること、
を特徴とする、請求項2に記載の積層設計方法。
【請求項4】
前記許容範囲が上限値と下限値とを含み、
前記層区分ごとの優先度が高い順に前記層厚の上限値を加算していき、
前記加算によって得られる累積加算値がはじめて前記全層厚以上となった際の積層数を、前記基準積層情報である積層数として決定すること
を特徴とする、請求項3に記載の積層設計方法。
【請求項5】
前記複数の層区分は、少なくとも、それぞれ一つの層からなる初層、第2層および表層と、一以上の層からなる中間層との4つの層区分を含み、
前記層区分の優先度は、優先度の高い順から、前記初層、前記表層、前記第2層、前記中間層であること
を特徴とする、請求項2から請求項4のうちいずれか一項に記載の積層設計方法。
【請求項6】
前記層区分ごとに、ウィービングの最大振幅量である振分閾値が予め定められており、
前記基準積層情報としての積層数に基づいて、各層の開先両端面間の距離である層幅を算出し、
前記層区分ごとの振分閾値と、前記各層の層幅とに基づいて、各層のパス数とパス断面積とを算出すること、
を特徴とする、請求項2から請求項4のうちいずれか一項に記載の積層設計方法。
【請求項7】
前記各層の層幅と前記各層の振分閾値とを比較し、
前記層幅が前記振分閾値より大きい層について、前記層幅と前記振分閾値との比に基づいて、前記各層のパス数およびパス断面積の算出を行うこと
を特徴とする、請求項6に記載の積層設計方法。
【請求項8】
前記層区分ごとの層厚情報または振分閾値が、溶接モード毎に定められており、
前記溶接モードは、少なくとも、シールドガス種、溶接材料の組成、溶接材料の線径、母材の組成、溶接姿勢、および開先タイプのうち一つまたは複数の組み合わせによって規定されること
を特徴とする、請求項2から請求項4のうちいずれか一項に記載の積層設計方法。
【請求項9】
溶接条件を決定する溶接条件設定方法であって、
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の積層設計方法において算出した基準積層情報または各検出位置の積層情報に基づいて、溶接電流、送給速度、アーク電圧、溶接速度、ウィービング幅、およびワイヤの狙い位置のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定すること
を特徴とする、溶接条件設定方法。
【請求項10】
前記溶接条件を、積層数を所定の分類条件に基づいて分類した層区分ごとに、その層のパス数およびパス位置のうち少なくとも一つに応じて設定することを特徴とする、請求項9に記載の溶接条件設定方法。
【請求項11】
前記層区分ごとに、パス位置に応じた溶接条件を示す情報を記憶装置に記憶しておき、
前記パス位置に応じた溶接条件を示す情報と、層ごとのパス数とに基づいて、パス位置に応じた溶接条件を設定すること、
を特徴とする、請求項10に記載の溶接条件設定方法。
【請求項12】
前記パス位置に応じた溶接条件を示す情報は、溶接電流を示す情報を含み、
前記溶接電流を示す情報に基づいて、溶着量およびアーク電圧を算出し、
算出された前記溶着量と、前記層区分ごとのウィービングの最大振幅量である振分閾値と各層の層幅とに応じて算出されたパス断面積とに基づいて、溶接速度を算出すること
を特徴とする、請求項11に記載の溶接条件設定方法。
【請求項13】
各層区分に応じた、ウィービング幅に係る複数のパラメータを記憶装置に記憶しておき、
前記溶接条件のうち、ウィービング幅、またはワイヤの狙い位置を、
少なくとも、前記パラメータと、各層の層幅と、各層のパス数とに基づいて算出すること
を特徴とする、請求項9に記載の溶接条件設定方法。
【請求項14】
前記ウィービング幅に係る複数のパラメータは、
少なくとも、
一方の開先面と溶接ワイヤが近接する適正位置の間隔である第1パラメータと、
もう一方の開先面と溶接ワイヤが近接する適正位置の間隔である第2パラメータと、
層のパス数が複数の場合における、隣接ビード同士のラップ幅である第3パラメータとを含むこと
を特徴とする、請求項13に記載の溶接条件設定方法。
【請求項15】
開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接制御方法であって、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出ステップと、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出ステップと、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出ステップと 、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定ステップと、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出ステップと、
を有すること
を特徴とする溶接制御方法。
【請求項16】
前記基準開先形状データおよび各検出位置の開先形状データは、板厚、全層厚、および、層幅のうち、少なくとも一つの項目を含み、
前記検出位置算出ステップにおいては、
前記基準開先形状データに含まれる項目と、各検出位置の開先形状データに含まれる対応する項目との間の比と、前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、に基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出すること
を特徴とする、請求項15に記載の溶接制御方法。
【請求項17】
開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接制御装置であって、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出機能と、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出機能と、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出機能と、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定機能と、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出機能と、
を有すること
を特徴とする、溶接制御装置。
【請求項18】
開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接システムであって、
制御装置と溶接電源とを少なくとも含み、
前記制御装置は、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出機能と、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出機能と、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出機能と、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定機能と、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出機能と、
を有することを特徴とする、溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層設計方法、溶接条件設定方法、溶接制御方法、溶接制御装置、および溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
造船、鉄骨、橋梁等における溶接構造物の製造において、溶接作業は、作業効率を重視し、ロボットを適用した自動溶接システムが多用されている。この自動溶接システムは、熟練していない作業者でも容易に扱えるほど良く、特に、熟練作業者でも経験に頼りながら、人手では時間を要する溶接条件の設定が、自動で生成されることが望ましい。
【0003】
この溶接条件の設定に関し、例えば特許文献1がある。特許文献1には、開先形状に基づいて溶接パス数および各パス溶接条件を自動生成し、生成した各パス溶接条件で自動的に各パスの溶接を行う自動溶接において、開先断面積を埋める所要パス数を算出し、算出したパス数を、その小数値の切り上げによって整数値としてこれを溶接パス数に決定し、小数値の切り上げによる溶着量増加量を相殺する溶接速度に溶接速度を補正し、決定した溶接パス数および補正した溶接速度の自動溶接を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-126819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際の溶接は、対象となる溶接構造物の溶接箇所によって、溶接長が短い溶接の場合もあれば、溶接長が長い溶接である長尺溶接の場合もある。対象とする溶接構造物が大型になるほど、長尺溶接の割合は大きくなる。ここで、多層盛溶接の場合は一般的に、被溶接材(以降、母材ともいう)に開先加工を行い、被溶接材の組立て、仮付け溶接を行い、その後、開先形状に基づいて溶接を行うところ、開先加工の精度や被溶接材の組立て精度は、対象とする溶接構造物が大型になるほど悪くなる。つまり、より長尺溶接であるほど、開先加工の精度や被溶接材の組立て精度の悪影響を受けやすくなるため、開先位置によって、開先形状のデータにバラツキが生じたり、溶接開先の曲がりが生じたりする。なお、開先形状のデータには、ルートギャップ(以降、ギャップともいう)、開先角度、段違い量等が挙げられる。
【0006】
特許文献1では、長尺溶接がある場合における、開先形状データのバラツキや溶接開先の曲がりの課題に対し、何ら考慮されておらず、溶接線全長に渡ってアンダーカット、オーバーラップなどの欠陥が生じる虞や、設計どおりの溶接ビード幅、溶接余盛高さを確保することが困難になる虞がある。なお、従来では、開先形状を検知する箇所を増やす作業や、検知する位置をずらしたりするなどの作業が必要であり、溶接するごとにプログラムを変更せねばならなくなり、作業効率が落ちるとともに、作業難易度としても容易ではない。
【0007】
そのため、対象とする溶接構造物の溶接施工において、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易に、溶接条件の設定が可能になることが求められるが、これを実現するためには、溶接条件の設定を行うための大元となる積層設計について考慮する必要が生じる。
【0008】
よって、本発明の1以上の実施形態においては、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定を可能とする積層設計方法、溶接条件設定方法、溶接制御方法、溶接制御装置、および溶接システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の上記目的は、下記[1]の構成により達成される。
[1] 開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための積層設計方法であって、
前記開先形状を複数検出し、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出し、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出し、
前記基準開先形状データ、各検出位置の開先形状データ、および基準積層情報に基づいて、各検出位置の積層情報である積層数および各層の層厚を算出すること、
を特徴とする、積層設計方法。
【0010】
また本発明の上記目的は、下記[2]の構成により達成される。
[2] 溶接条件を決定する溶接条件設定方法であって、
上記[1]に記載の積層設計方法において算出した基準積層情報または各検出位置の積層情報に基づいて、溶接電流、送給速度、アーク電圧、溶接速度、ウィービング幅、およびワイヤの狙い位置のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定することを特徴とする、溶接条件設定方法。
【0011】
また本発明の上記目的は、下記[3]の構成により達成される。
[3] 開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接制御方法であって、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出ステップと、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出ステップと、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出ステップと 、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定ステップと、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出ステップと 、
を有すること
を特徴とする溶接制御方法。
【0012】
また本発明の上記目的は、下記[4]の構成により達成される。
[4] 開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接制御装置であって、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出機能と、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出機能と、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出機能と 、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定機能と、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出機能と 、
を有すること
を特徴とする、溶接制御装置。
【0013】
また本発明の上記目的は、下記[5]の構成により達成される。
[5] 開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接システムであって、
制御装置と溶接電源とを少なくとも含み、
前記制御装置は、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出機能と、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出機能と、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出機能と 、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定機能と、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出機能と、
を有することを特徴とする、溶接システム。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定を可能とする積層設計方法、溶接条件設定方法、溶接制御方法、溶接制御装置、および溶接システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の実施形態に係る溶接システムの構成を示す概略図
図2】本開示の実施形態に係る可搬型溶接ロボットの構成を示す概略図
図3】本開示の実施形態に係る可搬型溶接ロボットの構成を示す斜視図
図4】本開示の実施形態に係る近似直線移動機構を示す概念図
図5】本開示の実施形態に係る、曲線も含んだ開先に対し、直線のガイドレールに可搬型溶接ロボットを設置したときを示す模式的な斜視図
図6】本開示の実施形態に係る複数の検出位置を例示する斜視図
図7】本開示の実施形態に係るタッチセンシングを示す概略図
図8】本開示の実施形態に係る積層設計を例示する概念図
図9】本開示の実施形態に係る溶接継手の断面模式図
図10】本開示の実施形態に係る層厚情報を例示する図
図11】本開示の実施形態に係る積層数および層厚の決定処理を例示するフローチャート
図12】優先順位4である中間層について層厚を下限値に設定した状況を示す概念図
図13】優先順位3である第2層について層厚を上限値から適切な値まで減じた状況を示す概念図
図14】優先順位2である表層について層厚を適切な値まで減じた状況を示す概念図
図15】本開示の実施形態に係る層幅を例示する概念図
図16】本開示の実施形態に係る振分閾値情報を例示する図
図17】本開示の実施形態に係る、層ごとの振り分けパスと、パスごとの断面積を例示する概念図
図18】本開示の実施形態に係るパスの分類を例示する概念図
図19】本開示の実施形態に係る、開先中パスが複数ある場合を例示する概念図
図20】本開示の実施形態に係る溶接電流情報を例示する図
図21】本開示の実施形態に係る、ワイヤの適正な狙い位置を決定するためのパラメータを例示する概念図
図22】本開示の実施形態に係る狙い位置用パラメータを例示する図
図23】本開示の実施形態に係る狙い位置用パラメータを例示する概念図
図24】本開示の実施形態に係るワイヤの狙い位置を例示する概念図
図25】本開示の実施形態に係るワイヤの狙い位置を例示する概念図
図26】本開示の実施形態に係るワイヤの狙い位置を例示する概念図
図27】本開示の実施形態に係る、層数、パス数、ワイヤ狙い位置、およびウィービング幅の決定に関するパラメータを管理する管理テーブルを例示する図
図28】本開示の実施形態に係る、溶着量およびアーク電圧の決定に関するパラメータを管理する管理テーブルを例示する図
図29】本開示の実施形態に係る、溶接の選択項目を例示する図
図30】本開示の実施形態に係る、複数の検出位置における開先形状を例示する概念図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る溶接システムについて図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態は、可搬型溶接ロボットを用いた場合の一例である。本発明の溶接システムは、本実施形態の構成に限定されるものではない。
【0017】
なお、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。尚、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0018】
例えば、実施形態でいう「部」又は「装置」とは単にハードウェアによって機械的に実現される物理的構成に限らず、その構成が有する機能をプログラムなどのソフトウェアにより実現されるものも含む。また、1つの構成が有する機能が2つ以上の物理的構成により実現されても、又は2つ以上の構成の機能が例えば1つの物理的構成によって実現されていてもかまわない。
【0019】
<溶接システムの構成>
図1は、本開示の実施形態に係る溶接システムの構成を示す概略図である。溶接システム50は、図1に示すように、可搬型溶接ロボット100と、送給装置300と、溶接電源400と、シールドガス供給源500と、制御装置600とを備えている。
【0020】
[制御装置]
本開示の制御装置に該当する制御装置600は、ロボット用制御ケーブル610によって可搬型溶接ロボット100と接続され、電源用制御ケーブル620によって溶接電源400と接続されている。制御装置600は、あらかじめ可搬型溶接ロボット100の動作パターン、溶接開始位置、溶接終了位置、施工条件、溶接条件等を定めたティーチングデータを保持するデータ保持部601を有し、このティーチングデータに基づいて可搬型溶接ロボット100及び溶接電源400に対して指令を送り、可搬型溶接ロボット100の動作及び溶接条件を制御する。制御装置600はメモリを有していてよく、データ保持部601がメモリに含まれていてよい。なお、メモリは記憶装置に該当する。
【0021】
制御装置600は制御部604を有する。制御部604は、後述するセンシングにより得られる検知データから開先形状情報を算出する開先形状情報算出部602と、該開先形状情報をもとに上記ティーチングデータの溶接条件を補正して取得する溶接条件取得部603とを有する。制御部604は、これら以外の機能を実現する機能ブロックをさらに有していてもよい。制御部604はプロセッサを備えていてよく、制御装置600における各種の情報処理を行う。
【0022】
制御装置600は、可搬型溶接ロボット100を制御する制御プログラムを有する。制御プログラムは、制御装置600のメモリなどの記憶装置に記憶されている。制御装置600が備えるプロセッサが制御プログラムを読み込んで実行することにより、可搬型溶接ロボット100が制御される。制御プログラムは、可搬型溶接ロボット100の制御に係る各種の機能を有する。
【0023】
また、一般的な構成であるため図示は省略するが、制御装置600は、ティーチングや可搬型溶接ロボット100のマニュアル操作等を行うためのコントローラとその他の制御機能をもつコントローラが、一体となって形成されている。ただし、制御装置600は、これに限られるものではなく、ティーチングを行うためのコントローラ及びその他の制御機能をもつコントローラの2つに分ける等、役割によって複数に分割してもよいし、可搬型溶接ロボット100に制御装置600を含めてもよい。また、本実施形態においては、ロボット用制御ケーブル610及び電源用制御ケーブル620を用いて信号が送られているが、これに限られるものではなく、無線で送信してもよい。なお、溶接現場における使用性の観点から、ティーチングや可搬型溶接ロボット100のマニュアル操作等を行うためのコントローラと、その他の制御機能をもつコントローラの2つに分けるのが好ましい。
【0024】
[溶接電源]
溶接電源400は、制御装置600からの指令により、消耗電極である溶接ワイヤ211及びワークWoに電力を供給することで、溶接ワイヤ211とワークWoとの間にアークを発生させる。溶接電源400からの電力は、パワーケーブル410を介して送給装置300に送られ、送給装置300からコンジットチューブ420を介して溶接トーチ200に送られる。そして、本開示の実施形態に係る可搬型溶接ロボットの構成を示す概略図である図2に示すように、溶接電源400からの電力は、溶接トーチ200先端のコンタクトチップを介して、溶接ワイヤ211に供給される。なお、溶接作業時の電流は、直流又は交流であってもよく、また、その波形は特に問わない。よって、電流は、矩形波や三角波などのパルスであってもよい。
【0025】
また、溶接電源400は、例えば、パワーケーブル410がプラス電極として溶接トーチ200側に接続され、パワーケーブル430をマイナス電極としてワークWoに接続される。なお、これは逆極性で溶接を行う場合であり、正極性で溶接を行う場合はプラス電極のパワーケーブルがワークWo側に接続され、マイナス電極のパワーケーブルが、溶接トーチ200側と接続されていればよい。
【0026】
[シールドガス供給源]
シールドガス供給源500は、シールドガスが封入された容器、バルブ等の付帯部材から構成される。シールドガス供給源500から、シールドガスがガスチューブ510を介して送給装置300へ送られる。送給装置300に送られたシールドガスは、コンジットチューブ420を介して溶接トーチ200に送られる。溶接トーチ200に送られたシールドガスは、溶接トーチ200内を流れて、ノズル210にガイドされ、溶接トーチ200の先端側から噴出する。本実施形態で用いるシールドガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)や炭酸ガス(CO)又はこれらの混合ガスを用いることができるが、好ましくは、100%のCOガスで溶接することが好ましい。
【0027】
[送給装置]
送給装置300は、溶接ワイヤ211を繰り出して溶接トーチ200に送る。送給装置300により送られる溶接ワイヤ211は、特に限定されず、ワークWoの性質や溶接形態等によって選択され、例えば、ソリッドワイヤやフラックス入りワイヤが使用される。溶接ワイヤの線径は、特に問わないが、本実施形態において好ましい線径は、上限は1.6mmであり、下限は0.9mmである。
【0028】
本実施形態に係るコンジットチューブ420は、チューブの外皮側にパワーケーブルとして機能するための導電路が形成され、チューブの内部に溶接ワイヤ211を保護する保護管が配置され、シールドガスの流路が形成されている。ただし、コンジットチューブ420は、これに限られるものではなく、例えば、溶接トーチ200に溶接ワイヤ211を送給するための保護管を中心にして、電力供給用ケーブルやシールドガス供給用のホースを束ねたものを用いることもできる。また、例えば、溶接ワイヤ211及びシールドガスを送るチューブと、パワーケーブルとを個別に設置することもできる。
【0029】
[可搬型溶接ロボット]
可搬型溶接ロボット100は、図2及び図3に示すように、ガイドレール120と、ガイドレール120上に設置され、該ガイドレール120に沿って移動するロボット本体110と、ロボット本体110に載置されたトーチ接続部130と、を備える。なお、図3は、本開示の実施形態に係る可搬型溶接ロボットの構成を示す斜視図である。ロボット本体110は、主に、ガイドレール120上に設置される本体部112と、この本体部112に取り付けられた固定アーム部114と、この固定アーム部114に矢印R方向に回転可能な状態で取り付けられた溶接トーチ回転駆動部116と、から構成される。
【0030】
図4は、本開示の実施形態に係る近似直線移動機構を示す概念図である。トーチ接続部130は、図4に示すように、摺動テーブル169とクランク170を介して、溶接トーチ回転駆動部116に取り付けられている。トーチ接続部130は、溶接トーチ200を固定するトーチクランプ132及びトーチクランプ134を備えている。また、本体部112には、溶接トーチ200が装着される側とは反対側に、送給装置300と溶接トーチ200を繋ぐコンジットチューブ420を支えるケーブルクランプ150が設けられている。
【0031】
また、本実施形態においては、ワークWoと溶接ワイヤ211間に電圧を印加し、溶接ワイヤ211がワークWoに接触したときに生じる電圧降下現象を利用して、開先10の表面等をセンシングするタッチセンサを検知手段とする。検知手段は、本実施形態のタッチセンサに限られず、画像センサ、レーザセンサ等、又はこれら検知手段の組み合わせを用いてもよいが、装置構成の簡便性から本実施形態のタッチセンサを用いることが好ましい。
【0032】
ロボット本体110の本体部112は、図2の矢印Xで示すように、当該図2の面に対して垂直方向であって溶接線方向となるX軸方向に、ロボット本体110をガイドレール120に沿って移動させるX軸移動機構181を備える。また、本体部112は、固定アーム部114を本体部112に対して、スライド支持部113を介して、X軸方向及びZ軸方向に対して垂直となり、かつ、開先10の幅方向であるY軸方向へ移動させるY軸移動機構182を備える。さらに、本体部112は、X軸方向に対し垂直となる開先10の深さ方向にロボット本体110を移動させるZ軸移動機構183を備える。
【0033】
さらに、図4に示すように、トーチ接続部130が取り付けられた摺動テーブル169、クランク170及び溶接トーチ回転駆動部116は、溶接ワイヤ211の先端を後述の近似直線に沿って移動させる近似直線移動機構180を構成している。
【0034】
具体的には、溶接トーチ回転駆動部116に固定された不図示のモータの回転軸168にクランク170が固定され、該クランク170の先端が、摺動テーブル169の一端に連結ピン171により連結されている。摺動テーブル169は中間部に長溝169aを備え、溶接トーチ回転駆動部116に固定された固定ピン172が長溝169aに摺動自在に嵌合する。
【0035】
これにより、不図示のモータによってクランク170が回転軸168を中心として回動すると、摺動テーブル169は、固定ピン172を支点として回動すると共に、嵌合する固定ピン172に案内されて長溝169aに沿って移動する。すなわち、溶接トーチ200が取りつけられたトーチ接続部130は、クランク170が図3及び図4に示す矢印Rに示すように回動することで、溶接トーチ200を傾けながら、X軸方向に対し溶接ワイヤ211の先端を図4に仮想線ILで示す近似直線に沿って駆動する。なお、本実施形態においてX軸方向へ移動する機構は、上述のX軸移動機構181と近似直線移動機構180があり、どちらの機構を使っても、単に「X軸方向」と記載して説明するものとする。
【0036】
また、溶接トーチ回転駆動部116は、図2に矢印Rで示すように、固定アーム部114に対して回転可能に取り付けられており、最適な角度に調整して固定することができる。
【0037】
以上のように、ロボット本体110は、その先端部である溶接トーチ200を、3つの方向、すなわちX軸方向、Y軸方向、Z軸方向に対し、4つの自由度、すなわち、近似直線移動機構180、X軸移動機構181、Y軸移動機構182、Z軸移動機構183により駆動可能である。ただし、ロボット本体110は、これに限られるものでなく、用途に応じて、任意の数の自由度で駆動可能としてもよい。
【0038】
以上のように構成されることで、トーチ接続部130に取り付けられた溶接トーチ200の溶接ワイヤ211の先端部は、任意の方向に向けることができる。すなわち、ロボット本体110は、ガイドレール120上をX軸方向に駆動可能である。また、溶接トーチ200は、開先10の幅方向であるY軸方向又は開先10の深さ方向であるZ軸方向に駆動可能である。また、クランク170による駆動により、例えば、前進角又は後退角を設ける等の施工状況に応じて、溶接トーチ200を傾けることができる。
【0039】
ガイドレール120の下方には、例えば磁石などの取付け部材140が設けられており、ガイドレール120は、取付け部材140によってワークWoに対して着脱が容易となるように構成されている。可搬型溶接ロボット100をワークWoにセットする場合、オペレータは可搬型溶接ロボット100の両側把手160を掴むことにより、可搬型溶接ロボット100をワークWo上に容易にセットすることができる。
【0040】
図5は、本開示の実施形態に係る、曲線も含んだ開先10に対し、直線のガイドレール120に可搬型溶接ロボット100を設置したときを示す模式的な斜視図である。図6は、本開示の実施形態に係る複数の検出位置を例示する斜視図である。
【0041】
溶接継手が比較的長くなると、図5に示したように溶接の開先10が曲線を含むことがある。また、センシングするデータ(ルートギャップ、開先角度、段違い量)はセンシングを行う場所によってばらつきが生じ得る。図6の例では、溶接開始点T0と溶接終点T4に加えて、その間の3点(T1、T2、T3)の合計5つの検出位置でセンシングを行っている。溶接開始点T0と溶接終点T4の間に加えるセンシング回数は、予め、等間隔の距離でセンシングするように設定して、自動で溶接ロボット本体を動かしながらセンシングすることもできるし、溶接線が大きく曲がっているようなところは、手動で細かい間隔でセンシングすることもできる。このとき、複数の検出位置T0~T4における開先形状は、図30に示されているように、それぞれ異なるものとなり得る。なお、図30は、本開示の実施形態に係る、複数の検出位置における開先形状を例示する概念図である。
【0042】
<溶接条件情報の取得>
溶接前に施工情報および溶接条件情報を取得するまでの簡略的なプロセスとして、例えば、以下の(A)から(C)が挙げられる。
【0043】
(A)制御装置600において、施工情報のうち、溶接ワイヤの種類、シールドガスの種類や溶接姿勢などの項目に応じた溶接モードを決定し、溶接モードごとの条件取得・補正用データベース(以降、「条件取得・補正用DB」とも称する。)を決定しておく。条件取得・補正用DBは例えば制御装置600のメモリに保存されていてよく、制御装置600と通信可能な他の装置が備える記憶装置に保存されていてもよい。
【0044】
(B)制御装置600の動作信号に基づいてロボット本体110を駆動し、タッチセンサを用いて開先形状の自動センシングを開始する。
【0045】
(C)上記自動センシングにより開先形状情報を算出し、該開先形状情報と上述の条件取得・補正用DBとに基づいて、施工条件、溶接条件等を取得するか、又はあらかじめ設定している溶接条件等の補正を行う。
【0046】
溶接条件の例として、溶接電流、送給速度、アーク電圧、溶接速度、ウィービング幅、およびワイヤの狙い位置などがある。ただしこれらには限られない。
【0047】
[溶接前のセンシングステップ]
溶接開始前のセンシングステップは、上述したタッチセンサによって、開先形状、板厚、始終端等をタッチセンシングして行う。図7は、本開示の実施形態に係るタッチセンシングを示す概略図である。溶接ワイヤ211の先端を、図7のA0からA14のそれぞれの位置になるように動かし、ワークの形状をセンシングする。溶接ワイヤ211の先端がワークにタッチした時の位置、例えばA1、A3、A5、A6などを特定することにより、上述の開先形状、板厚、始終端等を特定することができる。
【0048】
センシングステップの後、センシングステップで得た各開先形状検出位置における開先断面形状の検知データから、開先形状情報を算出する開先形状情報算出ステップを行う。ここで、開先形状情報の例として、例えば、開先形状の開先角度、板厚、開先深さ、推定溶接金属高さ、ギャップ、ワーク端部間の距離などが挙げられる。この開先形状情報算出ステップの後、算出されたデータは、データ保持部601へ設定値として入力されるステップを行う。本実施形態では、開先形状情報算出ステップにおいて、板厚、開先深さ、および推定溶接金属高さのうち少なくとも一つとギャップとを開先形状情報として算出し、データ保持部601へ、設定値として入力する。なお、開先形状情報算出ステップにおいて、ギャップが溶接ワイヤの線径より小さい場合、ギャップ量は0として算出してもよい。
【0049】
次に、データ保持部601へ設定値として入力されたデータと条件取得補正用DBとに基づいて、ティーチングプログラムデータにおける設定条件の補正又は設定がなされる。本実施形態では、例えば、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、ウィービング条件を設定または補正する。なお、設定または補正とは、設定値がまだ設定されていない場合には設定を行い、既に設定値が設定済みである場合には設定値の補正を行うことを意味する。
【0050】
<積層設計>
図8は、本開示の実施形態に係る積層設計を例示する概念図である。積層設計とは、与えられた開先に対して、適正な層数とパス数とを決定することを言う。層とは、板厚方向に溶接ビードを重ねた回数を意味する。図8の例において、溶接ビードが7層重ねられている。参照符号1-1が第1層に相当する。参照符号2-2が第2層に相当する。参照符号3-3が第3層に相当する。参照符号4-4が第4層に相当する。参照符号5-5および5-6が第5層に相当する。参照符号6-7および6-8が第6層に相当する。参照符号7-9、7-10および7-11が第7層に相当する。図8の例における積層数は7層である。パスとは、溶接ビードの本数、すなわち溶接した回数を意味する。図8の例におけるパス数は11である。例えば、第7層は3パスで構成されている。
【0051】
図9は、本開示の実施形態に係る溶接継手の断面模式図である。図10は、本開示の実施形態に係る層厚情報を例示する図である。
【0052】
溶接継手の複数の検出位置において、上述のタッチセンシングなどによって開先形状を検出する。開先形状のデータには、開先角度θ1およびθ2、ルートギャップG、板厚T、全層厚TH、および段違いDが含まれる。なお、全層厚THは、板厚Tと余盛aの和に相当し、余盛aは予め任意の値を入力しておくとよい。
【0053】
制御装置600は、複数の位置における開先形状の検出データに基づいて、基準開先形状を算出する。
【0054】
基準開先形状は、例えば、複数の位置における開先形状の検出データの平均値に基づく形状であってよい。図6を併せて参照すると、T0からT4の5つの検出位置で得られた検出データの平均を取ることにより、板厚Tの平均値、段違いDの平均値、開先角度θ1およびθ2それぞれの平均値、ならびにルートギャップGの平均値などをそれぞれ算出し、これらの値によって規定される開先形状を、基準開先形状とする。
【0055】
ただし、基準開先形状は、平均値以外の方法で算出されてもよい。例えば制御装置600は、複数の検出データの最小値、最大値または中央値などに基づいて、基準開先形状を算出してもよい。
【0056】
次に、制御装置600は、算出された基準開先形状に基づいて、溶接継手を完成させるのに必要な積層数と層厚とを算出する。層厚とは、溶接1パスにおける板厚方向のビード厚さを意味する。積層数と層厚の算出方法の例については後述する。
【0057】
なお、積層数と層厚は積層情報に含まれる。基準開先形状についての積層数と層厚は、基準積層情報に含まれる。積層情報および基準積層情報は、積層数や層厚以外の情報、例えばパス数などを含んでいてよい。
【0058】
[積層数および層厚の決定]
制御装置600は、層厚情報に基づいて積層数と各層の層厚とを決定する。層厚情報は、制御装置600のメモリに保存されていてよく、制御装置600と通信可能な他の装置が備える記憶装置に保存されていてもよい。層厚情報は、その層の層厚の許容範囲を示す情報である。層厚情報は固定値であってもよく、上限値および下限値によって規定される範囲情報であってもよい。なお、以下において、層厚情報は上限値および下限値によって規定される範囲情報であるとして説明する。
【0059】
本実施形態では、後述する積層位置の特性によって、初層、第2層、中間層、および表層の4つの層区分に分類する。そして、層厚の上限値および下限値が層区分ごとに決定された表データなどの層厚情報を、メモリが予め記憶している。余盛aと、図10に示す層厚MOの許容範囲すなわち上限値および下限値は、使用するシールドガス、ワイヤ材質、径、母材、溶接姿勢の組合せ毎に、予め溶接試験を重ねて適正範囲を選定しておく。本実施形態において、初層、第2層、および表層の各々の層区分は1つの層数からなり、中間層の層区分は1つまたは複数の層数となる。層数が初層、第2層、および表層の合計3層より多くなると、中間層が1層ずつ増えていく。
【0060】
制御装置600は、全層厚THの数値と層厚情報とに基づいて、初層、第2層、中間層、表層の各層が、層厚情報に規定されている許容範囲に収まるようにして、積層数を決定する。この積層数の決定アルゴリズムについて、詳しくは後述する。
【0061】
また、4種類の層区分には、優先順位を設ける。積層数と層厚を決める優先順位の考え方は次のとおりである。
【0062】
優先順位1は初層である。初層は最初の溶接であり、母材に最初に熱が入り、母材との溶込みを重視する溶接品質上最も重要な層である。
【0063】
優先順位2は表層である。表層は溶接継手の外観を左右するものであり、アンダーカットやオーバーラップなどの欠陥を誘発してはならないため、初層に次ぐ溶接品質上重要な層である。
【0064】
優先順位3は第2層である。第2層は、開先ギャップが狭く、入熱が母材にしっかり届くように配慮し、溶接品質に影響がないようにすべき層である。
【0065】
優先順位4は中間層である。中間層は、板厚が厚くなると最も厚い層となる部分であるため、溶接能率を重視しておく必要がある層である。
【0066】
なお上記の例においては、積層設計を行う上で、優先順位1が最も優先順位が高く、優先順位4が最も優先順位が低い。
【0067】
[積層数および層厚の決定アルゴリズム]
図11は、本開示の実施形態に係る積層数および層厚の決定処理を例示するフローチャートである。制御装置600は、各層の優先順位の高い層区分ほど、層厚が上限値となるように、積層数および層厚を決定する。これは、優先順位の高い層区分ほど、層厚が上限値となるように設定することで、必要十分な入熱を確保し安定した溶接を行えるようにするためである。そのための決定アルゴリズムは、例えば以下のとおりである。
【0068】
ステップS1において、制御装置600は積層数を決定する。より具体的には、制御装置600は、優先順位1から優先順位4まで、優先順位の高い層区分の層から低い層区分の層へと、順番に層を追加していく。この層追加に伴い、制御装置600は、追加された層に対応する層厚の上限値を累積加算値に順次加算していく。累積加算値の初期値は0であり、第1層を追加した段階で、累積加算値は、第1層に対応する層厚の上限値と等しくなる。
【0069】
追加された層の数が増えるに従って、累積加算値は単調増加する。すると、累積加算値が全層厚TH以上になるタイミングが訪れるので、このタイミングにおいて既に追加済みである層の数が、求める積層数であると制御装置600が決定する。
【0070】
上記の積層数の決定アルゴリズムについて、具体例を示す。例えば、優先順位の高い順に初層、表層、および第2層の合計3層を積層した時の、それぞれの上限値を加算した累積加算値は、図10の表記に基づくと、初MAX+表MAX+第2MAXとなる。しかし、累積加算値である初MAX+表MAX+第2MAXは、全層厚THより小さいとする。
【0071】
さらに、中間層を1層追加した時の累積加算値は、初MAX+表MAX+第2MAX+中MAXとなる。累積加算値である初MAX+表MAX+第2MAX+中MAXは、全層厚TH以上となったとする。つまり、中間層を1層追加したタイミングで、累積加算値が全層厚TH以上になったとする。このタイミングにおいて追加済みである層数、すなわち初層、表層、第2層、および1層の中間層で構成される全4層を、求める積層数であると、制御装置600が決定する。
【0072】
上記のステップS1が終了した段階で、積層数は決定済みである。続くステップS2では、制御装置600が、決定済の積層数における、各層のそれぞれの層厚を決定する。例えば、初層、表層、第2層、および中間層の層厚がそれぞれ上限値である場合、これら4つの上限値を加算した累積加算値は、全層厚THを超える場合があり得る。そのため、ステップS2では、累積加算値が全層厚THと等しくなるように、各層の層厚を調整する。
【0073】
層厚の調整の仕方としては、例えば優先順位の低い順、すなわち優先順位4、3、2、1の順番で、層厚を上限値から下限値へと向けて減じていく。より具体的には次のとおりである。
【0074】
ステップS2-1として、制御装置600は、各層の層厚を、各層の層区分に応じた上限値に設定する。
【0075】
ステップS2-2として、累積加算値が全層厚THと一致するのであれば、この時点の各層の層厚が適正値であるため、この時点で調整処理を終了する。
【0076】
ステップS2-3として、累積加算値が全層厚THと一致しない場合、最も優先順位の低い層区分の層厚を、その層区分に対応する下限値を下回らないように減じる。
【0077】
上述のステップS2-3を、調整対象となる層が中間層である場合を例示して、より具体的に説明する。差分S=累積加算値-全層厚THとする。もし、中MIN≦中MAX-差分Sであるならば、調整対象となる中間層の層厚=中MAX-差分Sであると制御装置600が決定して、調整処理を終了する。なお、調整対象ではない層の層厚は、上限値のままでよい。
【0078】
なお、上記の時点での差分S=初MAX+表MAX+第2MAX+中MAX-全層厚THである。そのため、以下の等式が成り立つ。
調整対象となる中間層の層厚=全層厚TH-(初MAX+表MAX+第2MAX)
【0079】
一方、中MIN>中MAX-差分Sである場合、調整対象となる中間層の層厚=中MAX-差分Sであると決定してしまうと、この中間層の層厚が下限値を下回ってしまい不適切である。つまりこの場合、1つの層の層厚を調整するだけでは、累積加算値と全層厚THとを適切に一致させることができないことになる。そのため、中MIN>中MAX-差分Sである場合には、ステップS2-4として、制御装置600は調整対象とした層の層厚を下限値に設定した上で、さらに別の層を次の調整対象とする。この時、新たな累積加算値は、既に調整対象とした層の層厚を下限値に設定した状態で算出する。上記の具体例においては、新たな累積加算値=初MAX+第2MAX+中MIN+表MAXとなる。
【0080】
次の調整対象とする層として、直近で調整対象とした層と優先順位が同じであるか、直近で調整対象とした層よりも優先順位の高い層を選択する。かつ、なるべく優先順位の低い層を選択する。例えば、初層、第2層、中間層A、中間層B、中間層C、表層の合計6つの層がある場合、優先順位に従って中間層A、中間層B、中間層C、第2層、表層、初層の順番で調整対象としていく。
【0081】
ステップS2-5として、新たな調整対象となる層と、新たな累積加算値とに基づいて、上記のステップS2-2以降の処理を繰り返す。
【0082】
図12は、優先順位4である中間層について、層厚を下限値に設定した状況を示す概念図である。図13は、優先順位3である第2層について、層厚を上限値から適切な値まで減じた状況を示す概念図である。図14は、優先順位2である表層について、層厚を適切な値まで減じた状況を示す概念図である。図12から図14に示したように、まずは中間層の層厚を調整し、次に第2層の層厚を調整し、次に表層の層厚を調整する。
【0083】
例えば上記のような調整処理を行うことにより、優先順位の高い、つまり、溶接品質上重要な層区分は十分な入熱を確保して溶接を安定させながら、積層数を維持し、各層の層厚を許容範囲に収めたまま、累積加算値を全層厚THと一致させることができる。
【0084】
累積加算値と全層厚THとが一致した時点で、積層数と各層の層厚とが決定済みとなる。
【0085】
[層ごとのパス数の決定]
積層数と各層の層厚とが決まったので、制御装置600は次に、各層のパス数を決める。制御装置600は、パス数を決めるためのパラメータとして振分閾値HSを設定し、各層ごとに、算出する層幅SWと比較してパス数を算出する。
【0086】
図15は、本開示の実施形態に係る層幅を例示する概念図である。第K層、すなわち開先底面側から数えてK番目の層の層幅をSW(K)とする。SW(K)は、第K層の層中央部の両開先壁間の直線距離である。なお、層中央部は、図15の一点鎖線で示した部分に相当する。第K層の層厚をTKM(K)とする。また、開先底面から第K層の層中央部までの距離をTK(K)とする。
【0087】
図16は、本開示の実施形態に係る振分閾値情報を例示する図である。振分閾値情報は、図16に示されているように、層区分ごとに設定される。振分閾値情報は、制御装置600のメモリに保存されていてよく、制御装置600と通信可能な他の装置が備える記憶装置に保存されていてもよい。制御装置600は、層幅SWが振分閾値HSを超えた場合、その層は振り分けすべき層であると判断する。振分閾値情報に含まれる設定値には、使用するシールドガス、ワイヤ材質、径、母材、溶接姿勢の組合せ毎に、予め溶接試験で適正値が設定される。
【0088】
図15を再び参照すると、距離TK(K)は、次式で表される。
【0089】
【数1】
【0090】
式(4‐1)に基づくと、第K層の層幅SW(K)は次式となる。
【0091】
【数2】
【0092】
パス数HPは、第K層の層幅SW(K)を振分閾値HSで割り、端数を切捨てた上で1を加算することで求められる。すなわち次式のとおりである。
【0093】
【数3】
【0094】
図17は、本開示の実施形態に係る、層ごとの振り分けパスと、パスごとの断面積を例示する概念図である。
【0095】
第K層のパス数HPが上述のように決まるので、第K層の断面積をパス数で割ることにより、第K層の1パス当たりの断面積SS(K)が次式で求まる。
【0096】
【数4】
【0097】
制御装置600は、以上のような計算式に基づいて、全層のパスの振り分けと、1パスごとの面積を算出する。図17に示すように、複数パスからなる層では、1パス毎の断面積は等しくなるように、設定される。
【0098】
[溶接条件の設定]
次に、溶接条件の設定について説明する。
【0099】
図18は、本開示の実施形態に係るパスの分類を例示する概念図である。図19は、本開示の実施形態に係る、開先中パスが複数ある場合を例示する概念図である。本実施形態においては、初層、第2層、中間層、および表層の層区分ごとに、パスを3つのパス位置に分類する。3つのパス位置とは、開先前パスと、開先中パスと、開先後パスである。
【0100】
開先前パスは、前の開先壁(図18に対して左側の開先)に接するパスである。開先後パスは、後の開先壁(図18に対して右側の開先)に接するパスである。開先中パスは、開先前パスと開先後パスとの中間部分のパスである。1つの層におけるパス数が3以上になると、その層に開先中パスが含まれるようになる。また、図19に示すように、1つの層におけるパス数が4以上になると、その層に複数の開先中パスが含まれるようになる。
【0101】
図20は、本開示の実施形態に係る溶接電流情報を例示する図である。溶接電流情報は、層区分および上述の3つのパス位置ごとの溶接電流の値を含む。なお、パス位置ごとに設定する溶接条件は、溶接電流に限定されることはなく、例えば、アーク電圧や送給速度等であってもよいし、複数の溶接条件を組み合わせて設定してもよい。ただし、溶接品質を考える上で重要な条件であり、かつ各種溶接条件の中でも主要因子として見なされることから、本実施形態のように、溶接電流を用いることが好ましい。溶接電流情報は、制御装置600のメモリに保存されていてよく、制御装置600と通信可能な他の装置が備える記憶装置に保存されていてもよい。
【0102】
制御装置600は、各パスの溶接電流およびアーク電圧を決定する。溶接電流は母材への溶込みに最も影響する因子であり、溶接条件の中で重要な設定項目である。
【0103】
図20に示されているように、溶接電流情報として、各パスの溶接電流の値が各パス位置について次の観点で設定される。
【0104】
初層であるパス位置A1、A2、およびA3については、母材の溶込みを得るため高電流に設定する。
【0105】
第2層および中間層の開先前パスおよび開先後パスであるパス位置B1、C1、B3、C3については、母材の溶込みを得るため高電流に設定する。
【0106】
表層の開先前パスおよび開先後パスであるパス位置D1、D3については、表面のアンダーカットが出ないように中電流に設定する。
【0107】
第2層、中間層、および表層の開先中パスであるパス位置B2、C2、D2については、溶接金属を安定して形成するために中電流に設定する。
【0108】
また、全体として、初層から溶接が進むと余熱される状態を考慮し、初層、第2層、中間層と進むにつれて高電流から中電流になるように設定する。
【0109】
そして、各層ごとのパス数HPとの関係ルールを、次のように定める。
・パス数HPが1のときは、開先中パスの溶接電流を設定する。
・パス数HPが2のときは、開先前パスおよび開先後パスの溶接電流を設定する。
・パス数HPが3以上のときは、まず開先前パスと開先後パスとを選定し、残りを開先中パスとして、それぞれ溶接電流を設定する。
【0110】
各パスの溶接電流Iが決定された後、制御装置600は、溶接ワイヤの溶着量F(I)(mm/min)を次式から計算する。
【0111】
【数5】
【0112】
ここで、AA、BB、およびCCは、溶接ワイヤの種類および径に応じて定まる係数である。
【0113】
次に制御装置600は、溶接速度を計算する。図17を参照して上述したように、各パスの断面積SS(mm)は計算済みであるため、溶接速度V(mm/min)は次式から求められる。
【0114】
【数6】
【0115】
また、制御装置600は次式に基づいて、アーク電圧VOLを求める。
【0116】
【数7】
【0117】
ここで、DD、EE、およびFFは、溶接ワイヤの種類および径に応じて定まる係数である。
【0118】
以上のように、制御装置600は、各パスの主要な溶接条件である、溶接電流、アーク電圧、溶接速度などを計算する。
【0119】
[パス毎のウィービング幅およびワイヤの狙い位置の決定]
制御装置600は、パス毎のウィービング幅およびワイヤの狙い位置を決定する。ここで、ウィービング幅とは、開先幅方向に溶接トーチを揺動する時の往復する幅である。つまり、溶接トーチの先に位置する溶接ワイヤ211先端のウィービング幅でもある。また、ワイヤの狙い位置とは、溶接アークスタート時に、溶接ワイヤ211の先端を開先形状に対して、目的とする所定の位置に配置する必要があり、この時の配置する位置を示している。
【0120】
開先壁に十分な溶込みを得ようとして、アークを開先壁に近づけすぎると、アークによって一気に開先壁が溶け、溶けた母材金属が流れて掘り込んだ状態となる。その結果、溶接ビードを積層すること自体が出来なくなる可能性がある。一方、開先壁からアークを離しすぎると、開先壁の溶け込みが不十分となる。すなわち、適正な溶接品質を得るためには、アークを開先壁に近づける適正な距離があり、アークの狙い位置を適正に決める際には、溶接ワイヤ211の先端と開先壁との距離が適正となるようなワイヤ狙い位置を考慮する必要がある。
【0121】
また、パスの振り分けが生じる層では、溶接ビードが適切にラップしながら、その層を形成する必要がある。隣同士のビードが離れすぎず、かつ、近づきすぎずに、層として一定の層厚になるようにするには、隣同士のビードのラップ幅、すなわち重なり幅が適正になるように考慮しなければならない。
【0122】
さらに、1パスの溶接では、溶接トーチを開先幅方向に周期的に揺動して、均一なビード幅を得る方法があり、この揺動動作は、一般的にウィービング、又はオシレートと呼ばれ、溶接トーチが往復する幅を上述したように本開示の実施例では、ウィービング幅と呼んでいる。上述した開先壁への接近距離と、振り分けパスでは、さらにビードのラップ幅も考慮してウィービング幅を決める必要がある。
【0123】
そのため、制御装置600は、パス毎の適正なウィービング幅と、適正なワイヤの狙い位置とを決定する。
【0124】
図21は、本開示の実施形態に係る、ワイヤの適正な狙い位置を決定するためのパラメータを例示する概念図である。
【0125】
ワイヤの適正な狙い位置を決定するためのパラメータを、以下、狙い位置用パラメータと表記する。狙い位置用パラメータは、層区分ごとに設定される。狙い位置用パラメータとして、開先前残しMS、開先後残しUS、および振分ラップ幅SKの3種類がある。
【0126】
開先前残しMSは、溶接アークが前の開先壁(図21に対して左側の開先)を溶かし過ぎず、良好な溶け込みが得られるようになる開先壁と溶接ワイヤ211先端との距離を示す。
【0127】
開先後残しUSは、溶接アークが後の開先壁(図21に対して右側の開先)を溶かし過ぎず、良好な溶け込みが得られるようになる開先壁と溶接ワイヤ211先端との距離を示す。
【0128】
振分ラップ幅SKは、振分パスとなる層における、隣接ビード同士のラップ幅を意味する。
【0129】
図22は、本開示の実施形態に係る狙い位置用パラメータを例示する図である。狙い位置用パラメータは、制御装置600のメモリに保存されていてよく、制御装置600と通信可能な他の装置が備える記憶装置に保存されていてもよい。使用するシールドガス、ワイヤ材質、溶接ワイヤの径、裏板金の有無、開先形状、溶接姿勢の組合せ毎に、予め溶接試験を繰り返して、狙い位置用パラメータの適正値を選定しておく。
【0130】
制御装置600は、上記の狙い位置用パラメータに基づいて、溶接トーチを開先幅方向に揺動するウィービング幅Wを算出する。溶接ワイヤ211先端から発生するアークは指向性を持つため、磁気吹き等の外乱が生じない場合、溶接トーチのウィービングによってアークも同じように動作する。
【0131】
図23は、本開示の実施形態に係る狙い位置用パラメータを例示する概念図である。制御装置600は、第K層の1パスでのウィービング幅W(K)を、第K層の層幅SW(K)、第K層で設定した開先前残しMS(K)、開先後残しUS(K)、振分ラップ幅SK(K)、および第K層のパス数HP(K)に基づいて、次式により算出する。
【0132】
【数8】
【0133】
なお、SW(K)は上述の式(4‐2)から、HP(K)は上述の式(4‐3)から、それぞれ求めることができる。
【0134】
各パスにおけるワイヤの狙い位置は、ウィービング幅W(K)の始端とする。ウィービング幅W(K)の始端は、図23における参照符号PS1、PS2、PS3のそれぞれ上方にプロットされた丸点の位置に相当する。
【0135】
溶接トーチが所定の周期でWの距離を往復しながら振幅すると、アークは上述のように指向性があるため溶接トーチと同じように動作する。なお、TK(K)、MS(K)、W(K)およびSK(K)が分かっているため、例えば、開先底面のギャップ端を原点の位置、すなわち図23の座標(0,0)の位置とした場合、第K層のワイヤの狙い位置の座標を、制御装置600が幾何学的に求めることができる。
【0136】
[ウィービング幅が0の場合におけるワイヤの狙い位置]
なお、上記の式(5-4)において、W(K)<0となることがある。この場合には、W=0とする。すなわち、ワイヤはウィービングせずに、固定してまっすぐに溶接する、いわゆる、ストレートビードで溶接する。W=0の場合に、制御装置600がワイヤの狙い位置を決定する手順を次に説明する。
【0137】
図24は、本開示の実施形態に係る、W=0かつHP≧2である場合のワイヤの狙い位置を例示する概念図である。W=0かつHP≧2である場合には、上記の式(5-4)からSK(K)をSK’として求めると次式となる。
【0138】
【数9】
【0139】
制御装置600は、既に設定されていたSK(K)を上式から求められるSK’に変更してワイヤの狙い位置を決定する。図24で示すと、丸点をワイヤ狙い位置として、ストレートビードで溶接する。
【0140】
図25は、本開示の実施形態に係る、W=0かつHP=1である場合のワイヤの狙い位置を例示する概念図である。W=0かつHP=1である場合には、上記の式(5-4)から、
【0141】
【数10】
【0142】
となり、MSとUSの繋ぎ点がワイヤの狙い位置となる。図25の丸点がワイヤ狙い位置となり、ストレートビードで溶接する。
【0143】
図26は、本開示の実施形態に係る、W=0かつHP=1であり、さらにSW(K)<MS(K)+US(K)である場合のワイヤの狙い位置を例示する概念図である。この場合には、MSとUSの比が変わらないように、MSとUSを次の式で新たに求めたMS’とUS’とに置き換える。
【0144】
【数11】
【0145】
【数12】
【0146】
すなわち制御装置600は、MSとUSの間隔比を維持した状態で、図25の場合と同ようにワイヤの狙い位置を決定する。
【0147】
[パラメータの管理]
制御装置600は、積層設計と溶接条件決定で使う必要なパラメータを、初層、第2層、中間層および表層の層区分に分けて管理する。なお、ここでいう積層設計は、層数とパス数の設定を指し、溶接条件決定は、各パスの溶接電流、アーク電圧、溶接速度、ワイヤ狙い位置、ウィービング幅の決定を指す。
【0148】
図27は、本開示の実施形態に係る、層数、パス数、ワイヤ狙い位置、およびウィービング幅の決定に関するパラメータを管理する管理テーブルを例示する図である。当該管理テーブルには、例えば層厚MO、溶接電流I、振分閾値HS、開先前残しMS、開先後残しUS、振分ラップ幅SKなどのパラメータの値が、層区分ごとに保存される。
【0149】
図28は、本開示の実施形態に係る、溶着量およびアーク電圧の決定に関するパラメータを管理する管理テーブルを例示する図である。溶接ワイヤ溶着量式係数であるAA、BB、およびCCは、上記の式(5-1)に対応する。アーク電圧式係数であるDD、EE、およびFFは、上記の式(5-3)に対応する。
【0150】
図29は、本開示の実施形態に係る、溶接の選択項目を例示する図である。図27および図28に示した各種のパラメータの値は、図29に示した複数の選択項目であるシールドガス、溶接ワイヤ材質、溶接ワイヤ径、母材、溶接姿勢、および開先形状の組合せごとに、予め、溶接試験で適正値を見出して事前設定される。各種のパラメータを選択項目の組み合わせに応じて事前に設定しておくことにより、複数の選択項目のどのような組み合わせであっても、既に説明した積層設計と溶接条件決定とを実行することができる。
【0151】
なお、管理対象となるパラメータや管理テーブルは、制御装置600のメモリに保存されていてよく、制御装置600と通信可能な他の装置が備える記憶装置に保存されていてもよい。管理対象となるパラメータは、データベース形式で保存されていてもよい。管理対象となるパラメータは、一つの表などの形式で一括管理されてよい。管理対象となるパラメータは、複数の表などの形式で分散して管理されてもよい。
【0152】
[センシング位置における開先形状についての積層設計および溶接条件]
上述の実施形態においては、図6に示す複数の検出位置すなわち複数のセンシング位置におけるセンシングデータに基づいて算出された基準開先形状に対して、積層設計を行い、各パスの溶接条件を決定した。ここで、図30に示すように、開先形状はセンシング位置により異なり得る。
【0153】
例えば図5等に示したような被溶接物では、溶接は可搬型溶接ロボット100をレールにより走行させて、溶接開始から終了まで連続して行われる。そのため、溶接開始から終了までの間の開先形状にばらつきがあったとしても、開先内の溶接ビードの層数およびパス数はすべて同じでなくてはならない。
【0154】
一方、溶接品質の観点からは、溶接後の溶接継手は、全線に渡ってアンダーカット、オーバーラップなどの欠陥もなく、設計どおりの溶接ビード幅、溶接余盛高さを満足する必要がある。つまり、センシング位置では、溶接ビードの層数およびパス数は全て同じとし、かつ各センシング位置の個々の開先形状に対しても適正な積層設計がなされ、適正な溶接条件が設定されなければならない。
【0155】
そのため、複数のセンシング位置における個々の開先形状に対する積層設計手法と溶接条件設定手法について、以下に説明する。
【0156】
センシング位置の開先形状に対する積層設計および溶接条件決定は、基準開先形状に対する積層設計と溶接条件を基にして行われる。
【0157】
1)制御装置600は、センシング位置の開先形状に対して積層数、層厚、パス数を決定する。センシング位置個々の開先形状に対する各層の層厚は、基準開先形状で求めた層厚に対して、基準開先形状の板厚と、センシング点個々の開先形状の板厚との比から求める。すなわち、次式のとおりである。
【0158】
【数13】
【0159】
センシング位置の開先形状に対する積層数は基準開先形状に対する積層数と同じとなり、また、上式により層厚は板厚比によって相対的に増減することになる。パス数は、センシング位置の開先形状でも基準開先形状と同じパス数とする。上述の式(4-3)で求めた各層のパス数がそのままセンシング位置の開先形状に対する各層のパス数として採用される。
【0160】
2)次に制御装置600は、センシング位置の開先形状に対するウィービング幅、ワイヤの狙い位置を求める。センシング位置の開先形状に対する各層のウィービング幅は、基準開先形状に対する各層のウィービング幅に対して、基準開先形状で求めた各層の層幅とセンシング位置の開先形状に対する各層の層幅との比から求める。すなわち、次式のとおりである。
【0161】
【数14】
【0162】
センシング位置開先形状に対する各層の層幅は、基準開先形状で層幅を求めた式(4-2)を使って、センシング位置の開先形状のデータと、上記1)で求めた積層数および層厚から算出できる。
【0163】
式(10-2)より、センシング位置の開先形状での各層のウィービング幅は、層幅の比によって、基準開先形状での各層のウィービング幅を増減して求められる。
【0164】
また、センシング位置の開先形状に対する各層のワイヤの狙い位置は、図23と同様の図をセンシング位置の開先形状でも描くことによって、同じように幾何学的に求められる。この際、ワイヤの狙い位置を求めるのに必要な開先前残しMS、開先後残しUS、および振分ラップ幅SKは、式(10-2)と同じ考え方で、層幅の比を使って、基準開先形状で使ったMS、US、SKからの相対値を算出して、これを採用する。
【0165】
3)制御装置600は、センシング位置の開先形状での溶接速度を求める。センシング位置の開先形状での各層の溶接速度は、基準開先形状での各層の溶接速度に対して、基準開先形状で使った式(4-4)から求められる1パスの断面積と、センシング位置の開先形状での1パスの断面積との比から求める。この両断面積の比は、つまり、式(10-1)で使った板厚比と、式(10-2)で使った層幅比との積となる。また、溶接速度は溶接電流を一定とした場合、溶接金属を堆積させる単位長さ当りの断面積の増減に逆比例するので、センシング位置の開先形状での各層の溶接速度は、次式で求められる。
【0166】
【数15】
【0167】
なお、センシング位置の開先形状での溶接電流およびアーク電圧は、基準開先形状で適用した溶接電流およびアーク電圧と同じとする。
【0168】
溶接電流およびアーク電圧は、溶接アーク現象に直接影響を与えるため、変化させずに一定とすることが、安定した溶接品質を得る前提となる。そのため、溶接電流およびアーク電圧は、溶接の開始から終了まで一定の設定とする。
【0169】
以上のように、基準開先形状に基づいて、すべてのセンシング位置の開先形状に対して同じ積層設計(層数、パス数)がなされ、各センシング位置の開先形状に応じて、溶接条件(溶接電流、アーク電圧、ウィービング幅、ワイヤ狙い位置)を設定することができる。
【0170】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0171】
(1) 開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための積層設計方法であって、
前記開先形状を複数検出し、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出し、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出し、
前記基準開先形状データ、各検出位置の開先形状データ、および基準積層情報に基づいて、各検出位置の積層情報である積層数および各層の層厚を算出すること、
を特徴とする、積層設計方法。
この構成によれば、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定をすることができる。
【0172】
(2) 前記基準積層情報における積層数および各層の層厚は、
少なくとも、
前記基準開先形状データに基づいて得られる全層厚と、
積層数を所定の分類条件に基づいて複数の層区分に分類し、前記層区分ごとに予め定められた層厚情報とに、
基づいて算出すること
を特徴とする、(1)に記載の積層設計方法。
この構成によれば、層区分に応じて各層の層厚を柔軟に決定することができる。
【0173】
(3) 前記層厚情報には、前記層区分ごとの層厚の許容範囲が設けられており、
予め定められた前記層区分ごとの優先度と、前記許容範囲とに基づいて、
前記基準積層情報である積層数と各層の層厚とを算出すること、
を特徴とする、(2)に記載の積層設計方法。
この構成によれば、各層の層厚を優先度に応じて適切に決定することができる。
【0174】
(4) 前記許容範囲が上限値と下限値とを含み、
前記層区分ごとの優先度が高い順に前記層厚の上限値を加算していき、
前記加算によって得られる累積加算値がはじめて前記全層厚以上となった際の積層数を、前記基準積層情報である積層数として決定すること
を特徴とする、(3)に記載の積層設計方法。
この構成によれば、可能な限り優先度の高い層を用いて適切な積層数を決定することができる。
【0175】
(5) 前記複数の層区分は、少なくとも、それぞれ一つの層からなる初層、第2層および表層と、一以上の層からなる中間層との4つの層区分を含み、
前記層区分の優先度は、優先度の高い順から、前記初層、前記表層、前記第2層、前記中間層であること
を特徴とする、(2)から(4)のうちいずれか一項に記載の積層設計方法。
この構成によれば、各層の重要さに応じた優先度を設けて、より品質の高い溶接となるような積層設計を行うことができる。
【0176】
(6) 前記層区分ごとに、ウィービングの最大振幅量である振分閾値が予め定められており、
前記基準積層情報としての積層数に基づいて、各層の開先両端面間の距離である層幅を算出し、
前記層区分ごとの振分閾値と、前記各層の層幅とに基づいて、各層のパス数とパス断面積とを算出すること、
を特徴とする、(2)から(5)のうちいずれか一項に記載の積層設計方法。
この構成によれば、層区分ごとの振分閾値と各層の層幅とに基づいて、適切なパス数およびパス断面積を算出することができる。
【0177】
(7) 前記各層の層幅と前記各層の振分閾値とを比較し、
前記層幅が前記振分閾値より大きい層について、前記層幅と前記振分閾値との比に基づいて、前記各層のパス数およびパス断面積の算出を行うこと
を特徴とする、(6)に記載の積層設計方法。
この構成によれば、層幅が前記振分閾値より大きい層についての振分を適切に行うことができる。
【0178】
(8) 前記層区分ごとの層厚情報または振分閾値が、溶接モード毎に定められており、
前記溶接モードは、少なくとも、シールドガス種、溶接材料の組成、溶接材料の線径、母材の組成、溶接姿勢、および開先タイプのうち一つまたは複数の組み合わせによって規定されること
を特徴とする、(2)から(7)のうちいずれか一項に記載の積層設計方法。
この構成によれば、制御装置が溶接モードに応じて適切な層厚情報または振分閾値を取得することができる。
【0179】
(9) 溶接条件を決定する溶接条件設定方法であって、
(1)から(8)のうちいずれか一項に記載の積層設計方法において算出した基準積層情報または各検出位置の積層情報に基づいて、溶接電流、送給速度、アーク電圧、溶接速度、ウィービング幅、およびワイヤの狙い位置のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定すること
を特徴とする、溶接条件設定方法。
この構成によれば、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定をすることができる。
【0180】
(10) 前記溶接条件を、積層数を所定の分類条件に基づいて分類した層区分ごとに、その層のパス数およびパス位置のうち少なくとも一つに応じて設定することを特徴とする、(9)に記載の溶接条件設定方法。
この構成によれば、複数のパスで構成される層についても、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定をすることができる。
【0181】
(11) 前記層区分ごとに、パス位置に応じた溶接条件を示す情報を記憶装置に記憶しておき、
前記パス位置に応じた溶接条件を示す情報と、層ごとのパス数とに基づいて、パス位置に応じた溶接条件を設定すること、
を特徴とする、(10)に記載の溶接条件設定方法。
この構成によれば、溶接試験を行って予め得ておいた適切な溶接条件を、パス位置に応じて設定することができる。
【0182】
(12) 前記パス位置に応じた溶接条件を示す情報は、溶接電流を示す情報を含み、
前記溶接電流を示す情報に基づいて、溶着量およびアーク電圧を算出し、
算出された前記溶着量と、前記層区分ごとのウィービングの最大振幅量である振分閾値と各層の層幅とに応じて算出されたパス断面積とに基づいて、溶接速度を算出すること
を特徴とする、(11)に記載の溶接条件設定方法。
この構成によれば、パス位置に応じた溶接電流等から、適切な溶接速度を算出することができる。
【0183】
(13) 各層区分に応じた、ウィービング幅に係る複数のパラメータを記憶装置に記憶しておき、
前記溶接条件のうち、ウィービング幅、またはワイヤの狙い位置を、
少なくとも、前記パラメータと、各層の層幅と、各層のパス数とに基づいて算出すること
を特徴とする(9)から(12)のうちいずれか一項に記載の溶接条件設定方法。
この構成によれば、層区分に応じて、ウィービング幅またはワイヤの狙い位置を適切に算出することができる。
【0184】
(14) 前記ウィービング幅に係る複数のパラメータは、
少なくとも、
一方の開先面と溶接ワイヤが近接する適正位置の間隔である第1パラメータと、
もう一方の開先面と溶接ワイヤが近接する適正位置の間隔である第2パラメータと、
層のパス数が複数の場合における、隣接ビード同士のラップ幅である第3パラメータとを含むこと
を特徴とする、(13)に記載の溶接条件設定方法。
この構成によれば、3つのパラメータに基づいて、ウィービング幅またはワイヤの狙い位置を適切に算出することができる。
【0185】
(15) 開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接制御方法であって、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出ステップと、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出ステップと、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出ステップと 、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定ステップと、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出ステップと 、
を有すること
を特徴とする溶接制御方法。
この構成によれば、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定し、設定された溶接条件に従って溶接を制御することができる。
【0186】
(16) 前記基準開先形状データおよび各検出位置の開先形状データは、板厚、全層厚、および、層幅のうち、少なくとも一つの項目を含み、
前記検出位置算出ステップにおいては、
前記基準開先形状データに含まれる項目と、各検出位置の開先形状データに含まれる対応する項目との間の比と、前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、に基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出すること
を特徴とする、(15)に記載の溶接制御方法。
この構成によれば、基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとの間の比に基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出することができる。
【0187】
(17) 開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接制御装置であって、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出機能と、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出機能と、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出機能と 、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定機能と、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出機能と 、
を有すること
を特徴とする、溶接制御装置。
この構成によれば、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定をすることができる。
【0188】
(18) 開先形状を設けた被溶接材に対し、溶接ロボットを用いて多層盛溶接するための溶接システムであって、
制御装置と溶接電源とを少なくとも含み、
前記制御装置は、
前記開先形状を複数検出する開先形状検出機能と、
検出した複数の開先形状データに基づいて基準開先形状データを算出する基準開先形状算出機能と、
前記基準開先形状データに基づいて、基準積層情報として、少なくとも積層数および各層の層厚を算出する基準積層情報算出機能と 、
前記基準積層情報に基づいて、溶接電流、アーク電圧、溶接速度、およびウィービング幅のうち少なくとも一つの溶接条件を決定し、設定する溶接条件設定機能と、
前記基準積層情報および前記溶接条件のうち少なくとも一つと、前記基準開先形状データと、各検出位置の開先形状データとに基づいて、各検出位置の積層情報または各検出位置の溶接条件を算出する検出位置算出機能と 、
を有することを特徴とする、溶接システム。
この構成によれば、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定をすることができる。
【0189】
上記においては、可搬型溶接ロボット100による溶接についての実施形態について説明した。本発明は、現場溶接において用いることが効果的であり、現場溶接および可搬型溶接ロボットシステムについて適用するのが効果的である。すなわち、上述のように制御装置が積層設計や溶接条件の決定を行い、得られた情報に基づいて現場溶接または可搬型溶接ロボットシステムによる溶接を行うことができる。
【0190】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0191】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現可能である。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「先ず、」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本開示は、溶接品質を確保しつつ、長尺溶接の有無を問わずに汎用的かつ容易的に溶接条件の設定を可能とする積層設計方法、溶接条件設定方法、溶接制御方法、溶接制御装置、および溶接システムに有用である。
【符号の説明】
【0193】
10 開先
50 溶接システム
100 可搬型溶接ロボット
110 ロボット本体
112 本体部
113 スライド支持部
114 固定アーム部
116 溶接トーチ回転駆動部
120 ガイドレール
130 トーチ接続部
132 トーチクランプ
134 トーチクランプ
140 部材
150 ケーブルクランプ
160 両側把手
168 回転軸
169 摺動テーブル
169a 長溝
170 クランク
171 連結ピン
172 固定ピン
180 近似直線移動機構
181 X軸移動機構
182 Y軸移動機構
183 Z軸移動機構
200 溶接トーチ
210 ノズル
211 溶接ワイヤ
300 送給装置
400 溶接電源
410 パワーケーブル
420 コンジットチューブ
430 パワーケーブル
500 シールドガス供給源
510 ガスチューブ
600 制御装置
601 データ保持部
602 開先形状情報算出部
603 溶接条件取得部
604 制御部
610 ロボット用制御ケーブル
620 電源用制御ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30