(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016064
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】グラフェン電極、その製造方法およびそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01G 11/36 20130101AFI20230126BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230126BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20230126BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230126BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20230126BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20230126BHJP
C01B 32/19 20170101ALI20230126BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20230126BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20230126BHJP
【FI】
H01G11/36
H01M4/133
H01M4/1393
H01M4/587
C01B32/198
C01B32/194
C01B32/19
H01G11/24
H01G11/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120096
(22)【出願日】2021-07-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業/新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業(燃料電池・蓄電池)/グラフェンスーパーキャパシタの工業生産技術開発」の委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】521322812
【氏名又は名称】株式会社マテリアルイノベーションつくば
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】唐 捷
(72)【発明者】
【氏名】張 万里
(72)【発明者】
【氏名】林 師齊
(72)【発明者】
【氏名】張 坤
【テーマコード(参考)】
4G146
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AB08
4G146AC04B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC08A
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AC19B
4G146AC21B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AD22
4G146AD23
4G146AD26
4G146BA02
4G146BB02
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB19
4G146CB35
5E078AA01
5E078AB02
5E078BA18
5E078BA67
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB07
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA15
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】導電材料やバインダを含まず、フレキシブル性および自己支持性を有する、蓄電デバイス用の(特に、電気二重層キャパシタ用の)電極として優れた性質を有するグラフェン電極を提供すること。
【解決手段】本発明のグラフェン電極は、導電材料およびバインダを含まず、実質的にグラフェンのみからなり、密度が0.2mg/cm3~0.7mg/cm3の範囲であり、フレキシブル性および自己支持性を有する。好ましくは、グラフェンは、熱還元グラフェン酸化物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料およびバインダを含まず、実質的にグラフェンのみからなり、密度が0.2mg/cm3~0.7mg/cm3の範囲であり、フレキシブル性および自己支持性を有する、グラフェン電極。
【請求項2】
BET法による比表面積が200m2/g以上1000m2/g以下の範囲である、請求項1に記載のグラフェン電極。
【請求項3】
前記グラフェンは熱還元グラフェン酸化物である、請求項1または2に記載のグラフェン電極。
【請求項4】
厚さが50μm~80μmの範囲である膜状の試験片を用いるフレキシブル性および機械的強度の試験において、試験片の対向する端部が接触するように湾曲させ、その状態を一定時間保持した際に、試験片の全体の様子の目視観察および試験片の略中央部のSEM観察において試験片の構造的な損傷や破壊が見られず、かつ、前記略中央部が所定の曲率半径を有する滑らかなアーチ状を有してなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のグラフェン電極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のグラフェン電極を製造する方法であって、
グラフェン酸化物分散液および熱還元グラフェン酸化物分散液を調製するステップと、
前記グラフェン酸化物分散液と前記熱還元グラフェン酸化物分散液を混合し、グラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物が分散した混合分散液を調製するステップと、
前記混合分散液を基材上で真空濾過し、グラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物からなる中間構造体を作製するステップと、
前記中間構造体を乾燥し、前記基材から剥がして自己支持性構造体を得るステップと、
前記自己支持性構造体を熱処理し、前記自己支持性構造体中のグラフェン酸化物を還元するステップと
を包含することを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記グラフェン酸化物分散液および熱還元グラフェン酸化物分散液を調製するステップは、
所定量のグラフェン酸化物を水に分散したグラフェン酸化物水分散液を凍結乾燥させるステップと、
得られたグラフェン酸化物の固体をマッフル炉中300℃~700℃で1分以内加熱するステップと
をさらに包含する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記自己支持性構造体を熱処理するステップは、前記自己支持性構造体をマッフル炉中300℃~700℃で1分以内加熱し、前記自己支持性構造体中のグラフェン酸化物を還元する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記混合分散液を調製するステップにおいて、前記グラフェン酸化物分散液と前記熱還元グラフェン酸化物分散液は、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合が質量比で3:1~1:3の範囲を満たすように混合される、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
電極と、電解質とを備えた蓄電デバイスであって、
前記電極は、請求項1~4のいずれか一項に記載のグラフェン電極からなる、蓄電デバイス。
【請求項10】
前記蓄電デバイスは電気二重層キャパシタである、請求項9に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン電極、その製造方法およびそれを用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(スーパーキャパシタ)やリチウムイオン電池といった蓄電デバイスは、容量が大きく、注目を集めている。また、近年、可搬型(portable)電子機器の開発が急速に進む中、フレキシブル性を有する蓄電システムに対する要求が高まっている。
【0003】
電気二重層キャパシタの電極材料としてグラフェンを使用することが知られている。これまでに、グラフェンを、カーボンナノチューブやポリマー等と複合化し、フレキシブル性を有する電極を作製する試みがなされている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、活性炭(AC)とカーボンナノチューブ(CNT)と還元型グラフェン酸化物(rGO)とを複合化した、フレキシブル性を有する自己支持性フィルム(AC/CNT/rGO film)を、電気二重層キャパシタの電極として使用することが提案されている。また、非特許文献2には、グラフェン酸化物(GO)の分散液と、グラフェンヒドロゲル(GH)とポリアニリン(PANI)の分散液を用いてインクジェットプリント法で合成した自立性のグラフェンペーパー(GP)が、多孔性のGH-PANIナノコンポジットで支持された構造を有し、電気二重層キャパシタの電極として使用できることが記載されている。
【0005】
しかしながら、非特許文献1および非特許文献2に記載されるような物質(ナノ構造体)や金属酸化物等をグラフェンと組み合わせた材料に関し、これを電極に用いた電気二重層キャパシタの性能においては、しばしば、サイクル寿命の短縮、周波数特性の低下、レート特性の劣化などの問題が生じ得ることが報告されている(例えば、非特許文献3を参照)。また、一般的に複合材料の作製はプロセスが複雑であり、原料の価格が高い場合もあるため、大量生産には不向きであることが多いという問題もある。
【0006】
加えて、従来の電極材料は、実際に電気二重層キャパシタを構築する際に、導電材料やバインダ(結着剤)と混合され、膜状に加工され得る。このような導電材料やバインダと混合した際に、これらがグラフェンの表面に吸着し、電解質イオンの浸潤や拡散に影響を与え、電気二重層キャパシタのエネルギー特性を低下させる可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】X. Li et al., Carbon. 129 (2018) 236-244.
【非特許文献2】K. Chi et al., ACS Appl. Mater. Interfaces. 6 (2014) 16312-16319.
【非特許文献3】X. Xiao et al., Energy Storage Mater. 1 (2015) 1-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上から、本発明の課題は、導電材料やバインダを含まず、フレキシブル性および自己支持性を有する、電極として優れた性質を有するグラフェン電極を提供することである。
また、本発明は、そのようなグラフェン電極を、効率的かつ環境への負荷が少ない手法で製造する方法、および、当該グラフェン電極を用いた蓄電デバイスを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるグラフェン電極は、導電材料およびバインダを含まず、実質的にグラフェンのみからなり、密度が0.2mg/cm3~0.7mg/cm3の範囲であり、フレキシブル性および自己支持性を有し、これにより上記課題を解決する。
前記グラフェン電極は、BET法による比表面積が200m2/g以上1000m2/g以下の範囲であってもよい。
前記グラフェンは熱還元グラフェン酸化物であってもよい。
前記グラフェン電極は、厚さが50μm~80μmの範囲である膜状の試験片を用いるフレキシブル性および機械的強度の試験において、試験片の対向する端部が接触するように湾曲させ、その状態を一定時間保持した際に、試験片の全体の様子の目視観察および試験片の略中央部のSEM観察において試験片の構造的な損傷や破壊が見られず、かつ、前記略中央部が所定の曲率半径を有する滑らかなアーチ状を有してもよい。
【0010】
本発明による上述のグラフェン電極の製造方法は、グラフェン酸化物分散液および熱還元グラフェン酸化物分散液を調製するステップと、前記グラフェン酸化物分散液と前記熱還元グラフェン酸化物分散液を混合し、グラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物が分散した混合分散液を調製するステップと、前記混合分散液を基材上で真空濾過し、グラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物からなる中間構造体を作製するステップと、前記中間構造体を乾燥し、前記基材から剥がして自己支持性構造体を得るステップと、前記自己支持性構造体を熱処理し、前記自己支持性構造体中のグラフェン酸化物を還元するステップとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記グラフェン酸化物分散液および熱還元グラフェン酸化物分散液を調製するステップは、所定量のグラフェン酸化物を水に分散したグラフェン酸化物水分散液を凍結乾燥させるステップと、得られたグラフェン酸化物の固体をマッフル炉中300℃~700℃で1分以内加熱するステップとをさらに包含してもよい。
前記自己支持性構造体を熱処理するステップは、前記自己支持性構造体をマッフル炉中300℃~700℃で1分以内加熱し、前記自己支持性構造体中のグラフェン酸化物を還元してもよい。
前記混合分散液を調製するステップにおいて、前記グラフェン酸化物分散液と前記熱還元グラフェン酸化物分散液は、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合が質量比で3:1~1:3の範囲を満たすように混合されてもよい。
【0011】
本発明による蓄電デバイスは、電極と、電解質とを備え、前記電極は、上述のグラフェン電極からなり、これにより上記課題を解決する。
前記蓄電デバイスは電気二重層キャパシタであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグラフェン電極は、導電材料およびバインダを含まず、グラフェン以外の物質と組み合わされた複合体ではない、実質的にグラフェンのみからなる電極であり、所定の密度を有し、フレキシブル性および自己支持性を有する。このため、本発明のグラフェン電極は、グラフェンが本来有する電気的特性を効果的に発揮させることができ、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池等の蓄電デバイス用の電極として優れた性質を有する。本発明のグラフェン電極を用いることにより、静電容量およびエネルギー密度等の性能に優れる電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池等の蓄電デバイスを提供することができる。
【0013】
本発明のグラフェン電極の製造方法は、グラフェン酸化物分散液と熱還元グラフェン酸化物分散液を用いて、これらの混合分散液から簡便な手法で膜状の成形体を製造することができる。電極の製造に際し、グラフェン以外の物質との複合化は行わず、導電材料およびバインダは使用しない。また、グラフェン酸化物の還元は、熱還元により、短時間で行うことができる。このような方法は、熟練の技術や高価な装置を不要とし、安価かつ効率的であり、また、環境への負荷が少ないため、大量生産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のグラフェン電極の製造工程を示すフローチャート
【
図3】(a)~(c)例1の膜B、例5の膜Bおよび例3の膜BのSEM像を示す図
【
図4】例1の膜B、例3の膜Bおよび例3の膜の、(a)X線回折パターン、(b)ラマンスペクトル、(c)XPSによるC1sスペクトル、および、(d)FTIRスペクトルを示す図
【
図5】(a)~(e)例1の膜B、例2の膜B、例3の膜B、例4の膜B、および、例5の膜Bの、断面のSEM像を示す図。(f)例1~例5の膜Bと、例1~例5の膜の、密度を比較したグラフ
【
図6】(a)例1~例5の膜Bの窒素吸脱着等温線を示す図、(b)例1~例5の膜Bの細孔分布を示す図、(c)例1~例5の膜の窒素吸脱着等温線を示す図、(d)例1~例5の膜の細孔分布を示す図
【
図7】(a)~(c)例3の膜のフレキシブル性および機械的強度の試験結果を示す図
【
図8】例3の膜および例5の膜を用い、電解質が水系電解液(硫酸水溶液)である場合の、(a)比容量-電圧曲線(CV曲線)、(b)定電流充放電曲線(GCD曲線)、(c)電気化学インピーダンススペクトル(EIS)、および、(d)レート特性を示す図
【
図9】例3の膜および例5の膜を用い、電解質がイオン液体(EMI-BF
4)である場合の、(a)比容量-電圧曲線(CV曲線)、(b)定電流充放電曲線(GCD曲線)、(c)電気化学インピーダンススペクトル(EIS)、および、(d)レート特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のグラフェン電極およびその製造方法について説明する。
【0017】
本発明のグラフェン電極は、導電材料およびバインダを含まず、実質的にグラフェンのみからなる。
【0018】
本明細書において、電極が「実質的にグラフェンのみからなる」とは、電極を構成する物質としてグラフェン以外の物質を含まないことを意図する。そのため、本発明のグラフェン電極は、少なくとも、そのSEM像において、グラフェン以外の物質の存在は確認されない。ただし、その製造過程において不可避的に混入もしくは残留する物質の存在は許容され得る。一方、そのような混入物もしくは残留物は、蓄電デバイスのエネルギー特性を損なう要因となる可能性があるため、極力含まないことが望ましい。そのような観点から、本発明のグラフェン電極において、グラフェンは、熱還元グラフェン酸化物であることが好ましい。なお、電極の製造方法が既知である局面においては、そのプロセスにおいて、グラフェン(もしくはグラフェン酸化物)が、それ以外の物質(分散媒を除く)と混合もしくは複合化されず、かつ、導電材料、バインダ、およびその他の添加剤と混合されていなければ、当該電極は、「実質的にグラフェンのみからなる」ものとして取り扱うこととする。本発明のグラフェン電極の製造方法については後述する。
【0019】
本発明のグラフェン電極は、0.2g/cm3以上0.7g/cm3以下の範囲の密度を有する。これにより、本発明のグラフェン電極は、所望のフレキシブル性および自己支持性を有し、蓄電デバイス用の電極として使用するのに好適である。また、この範囲の密度であれば、電解質イオンが容易にグラフェン内に到達し、移動できる。本発明のグラフェン電極は、好ましくは、0.4g/cm3以上0.6g/cm3以下の範囲の密度を有する。
【0020】
本発明のグラフェン電極は、実質的にグラフェンのみからなり、上述した範囲の密度を有することにより、好ましくは、BET法による比表面積が、200m2/g以上1000m2/g以下の範囲を満たす。これにより、本発明のグラフェン電極は、所要のフレキシブル性および自己支持性を維持しつつ、高い導電性のみならず、電解質イオンの吸着を可能にする。より好ましくは、本発明のグラフェン電極は、BET法による比表面積が、240m2/g以上400m2/g以下の範囲を満たす。これにより、本発明のグラフェン電極は、さらに電解質イオンの吸着および移動を確実にする。さらに好ましくは、本発明のグラフェン電極は、BET法による比表面積が、240m2/g以上350m2/g以下の範囲を満たす。
【0021】
本発明のグラフェン電極は、膜状の形態として用いるのが一般的である。この場合、膜の厚さは、好ましくは、10μm以上100μm以下である。この範囲であれば、本発明のグラフェン電極は、取り扱い性に優れ、集電体への適用が容易であり、各種蓄電デバイスに適用される際に、高いエネルギー密度およびパワー密度を達成する。
【0022】
当該技術分野において、「フレキシブル性」および「自己支持性」との用語は、一般的に用いられるものであるが、本発明のグラフェン電極が有するフレキシブル性および自己支持性は、例えば、以下に示すようなフレキシブル性および機械的強度の試験によって確認することができる。
【0023】
〔フレキシブル性および機械的強度の試験方法〕
試験片としては、厚さが50μm~80μmの範囲である膜状の構造体を使用する。
試験片の対向する端部が接触するように湾曲させ、その状態を任意の固定手段を用いて一定時間保持する。ここで、試験片が、平面視で略矩形である場合には、長手方向の両端部が接触するように湾曲させる。固定手段としては制限されないが、例えば、ピンセット等を使用することができる。
次いで、湾曲状態を保持した試験片の全体の様子を目視観察する。本発明のグラフェン電極は、当該目視観察において、滑らかな曲線を有して湾曲した状態を保持し、試験片の構造的な損傷や破壊は見られない。
さらに、湾曲状態を保持した試験片の略中央部を走査型電子顕微鏡(SEM)観察する。ここで、試験片の略中央部とは、試験片の湾曲によって最も負荷がかかる部分を意図する。本発明のグラフェン電極は、当該SEM観察においても、試験片の構造的な損傷や破壊は見られず、試験片の略中央部が、所定の曲率半径を有する滑らかなアーチ状を有してなる様子が確認される。
【0024】
次に、本発明のグラフェン電極の製造方法について説明する。
図1は、本発明のグラフェン電極の製造工程を示すフローチャートである。
【0025】
ステップS110:グラフェン酸化物分散液および熱還元グラフェン酸化物分散液を調製する。
【0026】
グラフェン酸化物(graphene oxide:GO)および熱還元グラフェン酸化物(thermally-reduced graphene oxide:TRGO)は、一般に入手可能なものを用いてもよく、あるいは、ステップS110において、グラフェン酸化物および/または熱還元グラフェン酸化物を調製するステップをさらに含んでもよい。
【0027】
グラフェン酸化物は、公知の製造方法によって製造されたものであってよい。例えば、改良Hummers法を用いて天然グラファイトから調製されたものを使用することができる。
【0028】
熱還元グラフェン酸化物は、グラフェン酸化物を熱処理することによって製造されたものである。グラフェン酸化物を熱処理する条件は特に制限されないが、より短い時間である方が、製造効率および環境への負荷を低減する観点から、好ましい。具体的には、例えば、所定量のグラフェン酸化物を水に分散したグラフェン酸化物水分散液を、凍結乾燥機で数日間(2日間程度)凍結乾燥させ、次いで、得られたグラフェン酸化物の固体をマッフル炉中300℃~700℃で1分以内加熱し、素早く取り出すことで、所望の熱還元グラフェン酸化物を得ることができる。
【0029】
グラフェン酸化物分散液を調製するための分散媒としては特に制限されず、水、エタノール等が挙げられる。当該分散媒は、後述するステップS120において、熱還元グラフェン酸化物分散液との混合分散液を調製する観点から、熱還元グラフェン酸化物分散液の分散媒と同じもしくはそれとの混和性に優れる分散媒であることが好ましい。具体的には、例えば、所定量のグラフェン酸化物を水に分散したグラフェン酸化物水分散液から、分散媒をエタノールに置換し、グラフェン酸化物分散液を調製することができる。
【0030】
グラフェン酸化物分散液の濃度としては特に制限されず、分散媒中にグラフェン酸化物が良好に分散し得る濃度を適宜選択すればよい。具体的には、例えば、グラフェン酸化物分散液の濃度は、0.1mg/mL~1.0mg/mLの範囲であってよい。
【0031】
熱還元グラフェン酸化物を調製するための分散媒としては特に制限されず、水、エタノール等が挙げられる。当該分散媒は、後述するステップS120において、グラフェン酸化物分散液との混合分散液を調製する観点から、グラフェン酸化物分散液の分散媒と同じもしくはそれとの混和性に優れる分散媒であることが好ましい。
【0032】
熱還元グラフェン酸化物分散液の濃度としては特に制限されず、分散媒中に熱還元グラフェン酸化物が良好に分散し得る濃度を適宜選択すればよい。具体的には、例えば、熱還元グラフェン酸化物分散液の濃度は、0.1mg/mL~1.0mg/mLの範囲であってよい。
【0033】
ステップS120:グラフェン酸化物分散液と熱還元グラフェン酸化物分散液を混合し、グラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物が分散した混合分散液を調製する。
【0034】
グラフェン酸化物分散液と熱還元グラフェン酸化物分散液の混合割合は特に制限されず、ステップS110で調製されるグラフェン酸化物分散液の濃度と熱還元グラフェン酸化物分散液の濃度を考慮し、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合(質量比)が所望の値となるように調整すればよい。
【0035】
例えば、グラフェン酸化物分散液の濃度と熱還元グラフェン酸化物分散液の濃度が同一であると、各分散液の量(体積比)が、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合(質量比)と同じになる。そのため、各分散液の量(体積比)を変化させることで、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合(質量比)を簡便に調整することができる。一方、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合(質量比)が予め定まっている場合には、グラフェン酸化物分散液の濃度と熱還元グラフェン酸化物分散液の濃度を予め当該割合と同じになるように調整し、両分散液を体積比で同量混合するようにしてもよい。
【0036】
グラフェン酸化物分散液と熱還元グラフェン酸化物分散液の混合方法は特に制限されないが、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の分散状態を均一にする観点から、超音波ホモジナイザー等の混合・分散装置を用いることが好ましい。
【0037】
ステップS130:混合分散液を基材上で真空濾過し、グラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物からなる中間構造体を作製する。
【0038】
基材としては特に制限されず、各種の樹脂製の濾紙など、公知の基材を使用することができる。具体的には、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)製の濾紙が挙げられる。なお、後述するステップS140において、中間構造体は、基材から剥がされるため、この剥離操作の容易性も考慮して基材を選択することが好ましい。
【0039】
基材上で混合分散液を真空濾過する方法は特に制限されず、公知の手法を採用することができる。
【0040】
ステップS140:中間構造体を乾燥し、基材から剥がして自己支持性構造体を得る。
【0041】
基材上に形成された中間構造体を乾燥する方法は特に制限されず、大気雰囲気で乾燥してもよく、オーブン等の乾燥装置を用いて乾燥してもよい。
【0042】
乾燥した中間構造体を基材から剥がす方法は特に制限されず、基材の材質、中間構造体のサイズ(直径)等を考慮して、公知の手法を採用することができる。
【0043】
ステップS150:自己支持性構造体を熱処理し、自己支持性構造体中のグラフェン酸化物を還元する。
【0044】
ステップS140で得られた自己支持性構造体(基材から剥がされた中間構造体)中のグラフェン酸化物を還元する際の、熱処理する条件は特に制限されないが、より短い時間である方が、製造効率および環境への負荷を低減する観点から、好ましい。具体的には、例えば、自己支持性構造体をマッフル炉中300℃~700℃で1分以内加熱し、素早く取り出すことで、自己支持性構造体中のグラフェン酸化物が還元された、目的の熱還元されたグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物からなる膜(thermally reduced-GO/TRGO膜)を得ることができる。このようにして得られるthermally reduced-GO/TRGO膜は、全体が、グラフェン酸化物の熱還元体、すなわち、グラフェンからなる構造体であり、本発明のグラフェン電極である。
【0045】
従来、グラフェン酸化物を熱処理して還元もしくは層剥離することで、短時間のうちに(例えば秒単位で)、グラフェン酸化物中の酸素含有官能基を除去し得ることが知られている。しかしながら、急速な熱処理による還元を行って、直接的に自己支持性のグラフェン膜を作製することは困難である。なぜなら、グラフェン酸化物の膜に対して急速な加熱を行って還元処理すると、膜の構造が破壊される恐れがあるからである。実際に、多くの酸素含有官能基が分解すると、その過程で大量の二酸化炭素ガスが生成され、これが膜の内部に大きな圧力を生じさせることが報告されている。一方で、グラフェン酸化物の膜は、その層間において、酸素含有官能基に由来する水素結合によって非常にコンパクトな構造が形成されているため、上述したような大量のガスが膜内に発生した場合の圧力を膜外に放出することができない。このような問題から、これまでに、製造工程あるいは製造装置を改良することで、フレキシブル性を有するグラフェン電極を作製する試みが種々なされているが、いずれも、電気的特性の面で、あるいは、機械的強度の面で、実用に足り得る材料を得ることは困難であった。
【0046】
これに対して、上述したような本発明のグラフェン電極の製造方法では、グラフェン酸化物を出発原料として見た場合、熱還元処理を2度行うことで、目的のグラフェン電極を製造することができる。具体的に、後述する実施例で示す製造工程では、グラフェン酸化物を出発原料として、2回の熱還元処理の合計時間が2分以内である。
【0047】
また、このようにして得られる本発明のグラフェン電極は、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池等の蓄電デバイス用の電極として求められるフレキシブル性および自己支持性を有し、後述する実施例で説明するように、水系電解液および非水系電解液(イオン液体)の両方で、優れた電気的特性を発揮する。
【0048】
本発明のグラフェン電極の製造方法では、グラフェン酸化物分散液と熱還元グラフェン酸化物分散液の混合分散液を用いて作製される中間構造体において、グラフェン酸化物の層間に多孔性の熱還元グラフェン酸化物が導入された構造を有することにより、短時間での熱処理でグラフェン酸化物が確実に還元されると共に、多孔性の熱還元グラフェン酸化物が導入されていることにより、グラフェン酸化物が還元される際に発生するガスおよび圧力を膜外に放出するためのチャンネル(経路)が確保され、構造体の破壊が抑制される。そのような観点から、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合は、質量比で3:1~1:3の範囲であることが好ましく、2.5:1~1:2.5の範囲であることがより好ましく、2:1~1:2の範囲であることがさらに好ましく、1.5:1~1:1.5の範囲であることがよりさらに好ましい。
【0049】
さらに、本発明のグラフェン電極の製造方法では、グラフェン酸化物分散液および熱還元グラフェン酸化物分散液の濃度および混合割合(体積比)を種々調整することで、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合(質量比)を所望の範囲に調整することができ、これにより、蓄電デバイスの所望の用途により適した(最適化された)、フレキシブル性および自己支持性を有するグラフェン電極を簡便に製造することができる。
【0050】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明のグラフェン電極を用いた蓄電デバイスとして電気二重層キャパシタについて説明する。
図2は、本発明の電気二重層キャパシタを示す模式図である。
【0051】
本発明の電気二重層キャパシタは、少なくとも、電極および電解質を備える。
図2の電気二重層キャパシタ200は、電極として正極電極210および負極電極220が電解質230に浸漬している。これら正極電極210および負極電極220は、実施の形態1で説明したグラフェン電極からなる。電解質230は、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI-TFSI)、ホウフッ化1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI-BF
4)および1-メチル-1-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(MPPp-TFSI)からなる群から選択されるイオン液体またはM’OH(M’はアルカリ金属)である。
【0052】
電気二重層キャパシタ200は、さらに、正極電極210と負極電極220との間にセパレータ240を有し、これら正極電極210および負極電極220を隔離している。
【0053】
セパレータ240の材料は、例えば、フッ素系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン系高分子およびこれらの誘導体、セルロース、紙、および、不織布から選ばれる材料である。
【0054】
電気二重層キャパシタ200では、上述の正極電極210、負極電極220、電解質230およびセパレータ240がセル250に収容されている。また、正極電極210および負極電極220は、それぞれ、既存の集電体を有する。
【0055】
このような電気二重層キャパシタ200は、チップ型、コイン型、モールド型、パウチ型、ラミネート型、円筒型、角型等のキャパシタであってもよく、さらに、これらを複数接続したモジュールで使用されてもよい。
【0056】
次に、
図2の電気二重層キャパシタ200の動作を説明する。
【0057】
電気二重層キャパシタ200に電圧を印加すると、正極電極210には、電解質230の電解質イオン(アニオン)が、負極電極220には、電解質230の電解質イオン(カチオン)が、それぞれ、吸着する。その結果、正極電極210および負極電極220のそれぞれに電気二重層が形成され、充電される。ここで、正極電極210および負極電極220は、実施の形態1で説明したグラフェン電極から形成され、実質的にグラフェンのみからなる電極であるので、グラフェンによるカチオンおよびアニオンの吸着・拡散が容易となり、高いレート特性を達成できる。また、正極電極210および負極電極220は、実施の形態1で説明したグラフェン電極から形成され、実質的にグラフェンのみからなる電極であるので、グラフェンの表面のみならず内部にて多くの電解質イオンが吸着し、電気二重層が形成される。その結果、グラフェンと電解質イオンとの電子のやりとりが増大し、高いエネルギー密度を達成できる。
【0058】
充電した電気二重層キャパシタ200を抵抗等の回路に接続すると、正極電極210および負極電極220にそれぞれ吸着していたアニオンおよびカチオンが脱着し、放電する。ここでもやはり、正極電極210および負極電極220は、実施の形態1で説明したグラフェン電極から形成されるので、電解質イオンの脱着・拡散が容易となり、高いレート特性およびエネルギー密度を達成できる。また、導電性に優れるので、脱着・拡散の容易性に伴い、パワー密度も向上し得る。
【0059】
このように本発明の電気二重層キャパシタ200は、電極におけるグラフェンの特性を十分に発揮できるので、素早い充電を可能にし、高エネルギー密度および高パワー密度を達成できる。また、充放電には電気二重層の形成を利用しているので、繰り返し使用に優れている。本発明の電気二重層キャパシタ200は、風力発電、電気自動車等に利用され得る。
【0060】
なお、ここでは電気二重層キャパシタに限定して説明したが、本発明のグラフェン電極を電気二重層キャパシタ以外にも、リチウムイオン電池などの蓄電デバイスにも適用できることは言うまでもない。
【0061】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0062】
[グラフェン電極の作製]
(例1~例5)
グラフェン酸化物(GO)は、改良Hummers法を用いて天然グラファイトから調製した。
【0063】
グラフェン酸化物を水に分散したグラフェン酸化物水分散液から、分散媒をエタノールに置換し、グラフェン酸化物分散液(0.5mg/mL)を調製した。
【0064】
熱還元グラフェン酸化物分散液は、以下のようにして調製した。
まず、グラフェン酸化物水分散液を、凍結乾燥機で2日間凍結乾燥させ、次いで、得られたスポンジ状の(sponge-like)グラフェン酸化物の固体をマッフル炉中500℃で1分以内加熱し、素早く取り出した。このようにして、綿状の(cotton-like)黒色固体として熱還元グラフェン酸化物(TRGO)を得た。
得られた熱還元グラフェン酸化物をエタノールに分散させて熱還元グラフェン酸化物分散液(0.5mg/mL)を調製した。(以上、
図1のステップS110)
【0065】
グラフェン酸化物分散液と熱還元グラフェン酸化物分散液の混合割合(体積比)を3:1~1:3に変化させ、超音波ホモジナイザーで混合し、グラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物が質量比で3:1~1:3の割合で分散した混合分散液を調製した(
図1のステップS120)。
【0066】
次いで、得られた混合分散液を、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)製の濾紙上で真空濾過し、グラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物からなる中間構造体である膜(GO/TRGO膜)を作製した(
図1のステップS130)。
【0067】
次いで、PTFE濾紙上に形成されたGO/TRGO膜を、オーブンで乾燥し、濾紙から剥がして自己支持性構造体である自立膜を得た(
図1のステップS140)。
【0068】
次いで、この自立膜(GO/TRGO膜)をマッフル炉中500℃で1分以内加熱(熱処理)し、素早く取り出した。このようにして、GO/TRGO膜中のグラフェン酸化物を熱還元し、熱還元されたグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物からなる膜(thermally reduced-GO/TRGO膜)を得た(
図1のステップS150)。なお、得られた膜の厚さは、約60μm~約70μmの範囲であった。
【0069】
また、比較のために、グラフェン酸化物分散液(0.5mg/mL)のみをPTFE濾紙上で真空濾過し、グラフェン酸化物のみからなる中間構造体である膜(GO膜)を作製し、このGO膜をオーブンで乾燥し、濾紙から剥がして自己支持性構造体である自立膜を得、上述した熱処理を行って熱還元されたグラフェン酸化物のみからなる膜(thermally reduced-GO膜)を得た。
加えて、熱還元グラフェン酸化物分散液(0.5mg/mL)のみをPTFE濾紙上で真空濾過し、中間構造体である膜を作製し、PTFE濾紙上に形成された膜をオーブンで乾燥し、熱還元グラフェン酸化物のみからなる膜(TRGO膜)を得た。
【0070】
以下の表1には、上記混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合(質量比)をまとめて示した。
【0071】
【0072】
なお、以下では、最終生成物である膜と、中間構造体である膜を区別するために、前者は単に「膜」と称し、後者は「膜B」と称する場合がある。例えば、例3の場合、「例3の膜」という場合には、上記熱処理を経て得られた「thermally reduced-GO/TRGO膜」を意味し、「例3の膜B」という場合には、上記熱処理を行う前の「GO/TRGO膜」を意味する。ただし、例5については、他の例との比較のために、便宜上、「例5の膜」もしくは「例5の膜B」と称する場合があるが、膜中のGOの含有量がゼロであり、GOの還元を目的とする熱処理は行っていないため、いずれも「TRGO膜」を意味する点に留意されたい。
【0073】
[微細構造の分析]
図3(a)~(c)は、それぞれ、例1の膜B、例5の膜Bおよび例3の膜Bの表面モルフォロジを、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製JSM-6500F)で観察した結果を示す図である。各図中のスケールバーは、10μmである。
【0074】
図3(a)によれば、例1の膜B(GO膜)は、細孔が少なく、表面が密になっていることがわかる。
一方、
図3(b)によれば、例5の膜B(TRGO膜)は、フレーク状の構造体がランダムに分布しており、高い多孔性を有することがわかる。
また、
図3(c)によれば、例3の膜B(GO/TRGO膜)は、多孔性の表面モルフォロジを示しており、自己支持性を有する電極用の膜としての有用性が示唆された。
【0075】
なお、
図3(a)~(c)のSEM像から各膜の密度を算出した結果、例1の膜Bは0.95g/cm
3、例5の膜Bは0.05g/cm
3、例3の膜Bは0.76g/cm
3であった。
【0076】
図4(a)~(d)は、それぞれ、例1の膜B、例3の膜Bおよび例3の膜の、X線回折パターン、ラマンスペクトル、XPSによるC1sスペクトル、および、FTIRスペクトルを示す図である。
各図中、「GO film」、「GO/TRGO film」、「reduced-GO/TRGO film」とあるのは、それぞれ、例1の膜B、例3の膜B、例3の膜を意味する。
【0077】
なお、各々の分析に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
・X線回折装置(XRD):リガク社製SmartLab、X線源:Cu-Kα線(λ=1.5418Å)、走査範囲:2θ=5~60°
・ラマン分光装置:ナノフォトン社製Raman plus、励起波長:λ=532nm
・X線光電子分光分析装置(XPS):アルバック・ファイ社製PHI Quantera SXM、X線源:Al Kα、分析器:半球型アナライザ(エネルギー値は、284.5eVにおける脂肪族炭素のC1sピークに対して補正した。)
・フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR):JASCO社製FT/IR―6100
【0078】
図4(a)に示すX線回折パターンによれば、例1の膜B(GO膜)では、ブラッグの法則に従って2θ=10.6°を中心に鋭いピーク(グラフェン酸化物の(001)面からの回折ピーク)が見られており、これは、GOシートのスタッキング間隔が0.84nmであることを示している(
図4(a)下段)。
例3の膜B(GO/TRGO膜)では、2θ=10°付近のピークは、2θ=11°を頂点としてブロードになっており、これは、GOフレークのスタッキングの規則性が低下していることを示している。一方、2θ=24.8°付近に見られるなだらかなピークは、熱還元グラフェン酸化物の(002)面からの回折ピークと同定され、TRGOシートの存在を示唆している(
図4(a)中段)。
これに対して、例3の膜(thermally reduced-GO/TRGO膜)では、GOの還元によって2θ=10°付近のピークは消失し、2θ=24.3°付近に明確なピークが現れ、これは、熱処理に伴うGOの還元プロセスに起因するグラファイト様のドメインが形成されていること、また、当該プロセスにおけるガスの放出がTRGO膜の不規則性を高めていることを示唆している(
図4(a)上段)。
【0079】
図4(b)に示すラマンスペクトルよれば、例1の膜B(GO膜)、例3の膜B(GO/TRGO膜)、および、例3の膜(thermally reduced-GO/TRGO膜)はいずれも、1360cm
-1付近および1580cm
-1付近に、それぞれ、典型的なDバンドおよびGバンドが見られる。
【0080】
ここで、炭素質材料のラマンスペクトルにおけるDバンドから、結晶構造的な欠陥(defect)の有無やsp3炭素の規則性(不規則性)に関する情報を得ることができ、ID/IGの、ガウスフィッティングによる面積比(Area Ratio)、または、強度比(Central Peak Ratio)から、分析対象の炭素質材料における格子欠陥を評価することできる。
【0081】
以下の表2に示すように、例3の膜では、熱処理に伴うGOの還元プロセスの過程で、GOの剥離が生じ、CO2とH2Oの生成におけるC-OおよびC=Oの切断が起こり、これに起因して、より多くの格子欠陥を有する構造であることがわかる。
なお、表2には、ピークの帰属(Peak Index)およびラマンシフト値(cm-1)も示した。
【0082】
【0083】
上述したプロセスにおける炭素質材料中の酸素含有官能基の変化(evolution)は、XPSによる測定結果(
図4(c))から、定量的に評価することができる。
以下の表3は、
図4(c)に示すXPSによるC1sスペクトルを用いて算出された、各試料中の炭素含有量(C%)、酸素含有量(O%)および炭素と酸素の比(C/O)をまとめたものである。
【0084】
【0085】
表3によれば、例1の膜B(GO膜)では、C/Oの値が小さく(C/O=2.4)、これは、グラファイトが完全に酸化されており、その酸素含有量が非常に高いこと(29.3%)に起因している(
図4(c)下段参照)。
例3の膜B(GO/TRGO膜)では、TRGOが幾らかの官能基が除去された状態であるので、例1の膜Bと比べて酸素含有量は低く(22.0%)なっている(
図4(c)中段参照)。
そして、熱処理を経て得られた例3の膜(thermally reduced-GO/TRGO膜)では、C/Oの値が有意に増加(C/O=5.8)している(
図4(c)上段参照)。
【0086】
このように、
図4(c)に示す3つのC1sスペクトルでは、下段、中段および上段の順に、C=Cドメインに対するC=OおよびC-Oの相対強度が明らかに低下していることがわかる。
【0087】
さらに、
図4(d)に示すFTIRスペクトルによれば、例1の膜B(GO膜)では、-OH基、C=O基、C=C基およびC-O基の振動に対応する特性吸収が検出され、酸素由来の官能基が多く含まれていることがわかる(
図4(d)下段)。
これに対して、例3の膜B(GO/TRGO膜)および例3の膜(thermally reduced-GO/TRGO膜)では、GOの還元に伴って-OH基の特性吸収が減少しており、特に、例3の膜では、-OH基の特性吸収が顕著に減少している(
図4(d)中段および上段)。このことは、本願発明に係る製造方法によってグラフェン電極(膜)を作製することが、当該グラフェン電極の構造的安定性を改善するのに有効であることを示している。
一方、
図4(d)に示すFTIRスペクトルにおいては、C=O基(カルボニル結合)の特性吸収が見られることから、熱処理の過程で除去されずに残存している官能基の存在が示唆された。酸素含有官能基は、特に水系電解液中におけるイオンの可逆的な吸着と脱着を容易にし得るが、サイクル性能を損なう可能性がある。
【0088】
図5(a)~(e)は、それぞれ、例1の膜B、例2の膜B、例3の膜B、例4の膜B、および、例5の膜Bの、断面のSEM像である。各図のスケールバーは、
図5(a)、(c)、(d)が5μmであり、
図5(b)が2μmであり、
図5(e)が20μmである。また、各図中の右上の数値は、密度(g/cm
3)である。
【0089】
図5(a)によれば、例1の膜B(GO膜)は、密に積層されたシートで構成されていることがわかる。
これに対して、所定の割合でTRGOを含む例3の膜B、例4の膜Bおよび例5の膜Bでは、TRGOが熱還元の過程で多孔質となっているため、TRGOの含有量が増すにつれて、膜全体としての多孔性が高まっていることがわかる。言い換えると、TRGOの含有量が増すにつれて、膜の密度は低くなり、膜中に存在する細孔が互いに連通することでGOの熱処理の際に発生するガスを膜外に放出するためのチャンネル(経路)として機能し得ると言える。また、膜中のTRGOの含有量が多ければ、相対的にGOの含有量が少ないため、GOの熱処理の際に発生するガスの量も少なくなる。
【0090】
上述したGOの熱処理前後の、膜の密度の変化を示したものが、
図5(f)である。すなわち、
図5(f)は、例1~例5の膜Bと、例1~例5の膜の、密度を比較したグラフである。
なお、
図5(f)の横軸に示す数値は、混合分散液中のGOとTRGOの割合(質量比)であり(表1参照)、各例について、左側が熱処理前(Before thermal treatment)の密度であり、右側が熱処理後(After thermal treatment)の密度を示している。矢印は、熱処理前後の密度の変化の度合いを視覚的により分かりやすくするためのものである。
【0091】
図5(f)によれば、例1の膜B(GO膜)は、最も高い密度(約1.0g/cm
3)を有し、密な(コンパクトな)構造体であることがわかる。
また、例2から例5の順に、膜中のTRGOの含有量が増すにつれて、膜の密度は低下し、例5の膜B(TRGO膜)では、0.1g/cm
3未満となっている(
図5(e)参照)。
ここで、例1の膜(thermally reduced-GO膜)においても、GOの熱処理によって密度の値としては大きく低下しているが、膜の構造が崩れ、自立膜としては機能し得ないものであった。
なお、上述したように、例5の膜B(TRGO膜)は、もともとGOの含有量がゼロであるので、熱処理は行っておらず、
図5(f)では、例5の膜の密度は例5の膜Bと同じであるものとして扱っている。ただし、例5の膜、すなわち、例5の膜Bをオーブンで乾燥して得たTRGO膜は、基材(PTFE濾紙)上では膜としての形状を保持できるが、自立膜として利用できるほどの強度は有していない。
【0092】
また、
図5(f)によれば、本実施例で作製した、GOとTRGOの割合(質量比)を3:1~1:3に変化させた膜の中では、例3の膜が、最も高い密度(約0.5g/cm
3)を有し、例2の膜が、最も低い密度(約0.05g/cm
3)を有した。
【0093】
図6(a)および(b)は、それぞれ、例1~例5の膜Bの、窒素吸脱着等温線、および、細孔分布を示す図である。
図6(a)および(b)において、「GO film」、「GO/TRGO=3:1 film」、「GO/TRGO=1:1 film」、「GO/TRGO=1:3 film」、「TRGO film」とあるのは、それぞれ、例1の膜B、例2の膜B、例3の膜B、例4の膜B、例5の膜Bを意味する。また、これらのプロット図形は、それぞれ、四角形、丸形、三角形、菱形、星形である。
図6(c)および(d)は、それぞれ、例1~例5の膜の、窒素吸脱着等温線、および、細孔分布を示す図である。
図6(c)および(d)において、「Reduced-GO/TRGO(1:0)film」、「Reduced-GO/TRGO(3:1)film」、「Reduced-GO/TRGO(1:1)film」、「Reduced-GO/TRGO(3:1)film」、「Reduced-GO/TRGO(0:1)film」とあるのは、それぞれ、例1の膜、例2の膜、例3の膜、例4の膜、例5の膜を意味する。また、これらのプロット図形は、それぞれ、四角形、丸形、三角形、菱形、星形である。
【0094】
また、以下の表4には、例1~例5の膜B、および、例1~例5の膜の、比表面積(m2/g)をまとめて示した。
【0095】
【0096】
図6(a)、(b)および表4によれば、例1の膜B(GO膜)では、孔径が2nm未満の細孔がいくつか存在し、比表面積は、10m
2/g未満であった。
このことは、
図5(a)のSEM像を参照して上述したように、層間および/または各層の面内の官能基同士が水素結合を形成することで、膜の密度が高くなっていることを反映した結果であると理解することができる。
また、例2~例5の膜Bでは、TRGOの含有量が増すにつれて、比表面積は、357m
2/gまで増加し、このことからも、GO/TRGO膜における細孔が、GOの熱処理の際に発生するガス、および、膜に加わる圧力を放出するチャンネル(経路)として機能し得ることがわかる。
【0097】
一方、
図6(c)、(d)および表4によれば、例1~例5の膜の比表面積は、熱処理前(膜B)と比べて増加し、260~360m
2/gの範囲となっている。
また、例1~例5の膜における細孔分布は、互いに概ね類似した傾向を示し、平均孔径としては4~5nmの範囲であった。
【0098】
これらの構造分析の結果を総合的に考えると、GOとTRGOが質量比で1:1の割合で分散した混合分散液を用いて作製した例3の膜が、よりコンパクトな構造体であるので、より電気的特性に優れるグラフェン電極として機能し得ることが期待された。
【0099】
ここで、例3の膜を用いて、フレキシブル性および機械的強度の試験を行った。
具体的には、例3の膜から、4cm×0.5cmの略矩形の試験片を切り出し、長手方向の両端部が接触するように湾曲させ、その状態をピンセットで一定時間保持し、試験片の全体の様子の目視観察、および、湾曲部の状態のSEM観察を行った。
結果を
図7(a)~(c)に示す。
【0100】
図7(a)は、試験片を湾曲させた状態で保持した状態を示す写真であり、
図7(b)は、
図7(a)の点線で囲んだ部分のSEM像であり、
図7(c)は、
図7(b)の点線で囲んだ部分を拡大したSEM像である。
図7(b)および(c)中のスケールバーは、それぞれ、500μmおよび1μmである。
【0101】
図7(a)によれば、試験片は、滑らかな曲線を有して湾曲した状態を保持していることがわかる。また、目視観察によれば、上記試験による試験片の構造的な損傷や破壊は見られなかった。
図7(b)に示すSEM像によれば、試験片の湾曲によって最も負荷がかかる部分(試験片の略中央部)においても、滑らかなアーチ状を有しており、その曲率半径Rは3mmであった。
さらに、
図7(c)に示すSEM像によれば、その微細構造においても、上記試験による試験片の構造的な損傷や破壊が生じていないことがわかる。
【0102】
以上の試験結果から、例3の膜は、優れたフレキシブル性および機械的強度を有することがわかった。
【0103】
[電気的特性の分析]
次に、作製したグラフェン電極の電気的特性を評価するため、これらを電極に用いた電気二重層キャパシタ(CR2032型コインセル)を作製した。
【0104】
具体的には、例3の膜(thermally reduced-GO/TRGO膜)および例5の膜(TRGO膜)を直径15mmの円形にカットし、これを電極とした。次に、ステンレス製のセル内に、セパレータをこれら電極の間に配置し、電解質としてイオン液体(EMI-BF4)または水系電解液(硫酸水溶液)を充填し、コインセルを作製した。ここで、セパレータにはガラス繊維を用い、集電体(電流コレクタ)には導電物として炭素が塗布されたアルミ箔(ExopackTM 0.5mil 両面塗布)を用いた。なお、コインセルの組み立ては、Arガスで充填されたグローブボックス内で行った。
【0105】
コインセルの電気化学測定を、マルチ-チャンネルポテンショスタットガルバノスタット(Bio-Logic製、VMP-300)を用いて行った。比容量-電圧測定(CV測定)、ガルバノスタット充放電測定を、室温において、0V~3.7Vの電位範囲または0V~1.0Vの電位範囲で行った。また、電気化学インピーダンス測定を行った。
【0106】
比容量Cs(F/g)を、式Cs=4I/(mdV/dt)にしたがって算出した。ここで、I(A)は定電流であり、m(g)は2つの電極の合計質量であり、dV/dt(V/s)は、Vmax(放電開始時の電圧)と1/2Vmaxとの間の放電曲線を直線フィッティングによって得られる傾きである。エネルギー密度Ecell(Wh/kg)を、式Ecell=CsV2/8にしたがって算出した。
【0107】
図8(a)~(d)は、それぞれ、電解質が水系電解液(硫酸水溶液)である場合の、比容量-電圧曲線(CV曲線)、定電流充放電曲線(GCD曲線)、電気化学インピーダンススペクトル(EIS)、および、レート特性を示す図である。
図8(a)~(d)において、実線は例3の膜であり、破線は例5の膜である。
ここで、
図8(a)に示すCV曲線は、0V~1.0Vの電位範囲において、100mV/sの掃引速度で測定した。
図8(b)に示すGCD曲線は、0.2A/gの電流密度で測定した。
図8(c)に示すEISは、等価回路モデルを用いてフィッティングしたものであり、内側には、横軸の値が0Ω~1.5Ωの範囲を拡大したスペクトルを示した。
図8(d)に示すレート特性は、0.2A/g~5A/gの電流密度範囲において得られた結果である。
【0108】
図8(a)によれば、例3の膜は、理想的な電気二重層キャパシタを表す矩形のCV曲線を示した。また、例3の膜は、例5の膜よりも、CV曲線の面積が大きく、より大きい静電容量を有することがわかる。実際に、
図8(b)のGCD曲線から算出された0.2A/gの電流密度での比容量は185F/gであり、例5の膜での165F/gよりも有意に高かった。
【0109】
図8(c)によれば、例3の膜は、0.33Ω程度の低い等価抵抗を示した。また、電荷移動抵抗は0.2Ωと小さく、このことは高いレート特性を発揮することに寄与し得る。加えて、例3の膜は、より高い電流密度での充放電測定において、0.5A/gで171F/gの比容量を示し、さらに高い20A/gでも111F/gの比容量を保持していた(データは図示せず)。これらの結果は、例3の膜が、例5の膜と比べてコンパクトな構造体であることに起因するものであると考えられる。さらには、例3の膜は、10000サイクル後も99%を超える静電容量保持率を示し、長寿命性にも優れていることがわかった(データは図示せず)。
【0110】
図9(a)~(d)は、それぞれ、電解質がイオン液体(EMI-BF
4)である場合の、比容量-電圧曲線(CV曲線)、定電流充放電曲線(GCD曲線)、電気化学インピーダンススペクトル(EIS)、および、レート特性を示す図である。
図9(a)~(d)において、実線は例3の膜であり、破線は例5の膜である。
ここで、
図9(a)に示すCV曲線は、0V~3.7Vの電位範囲において、100mV/sの掃引速度で測定した。
図9(b)に示すGCD曲線は、0.2A/gの電流密度で測定した。
図9(c)に示すEISは、等価回路モデルを用いてフィッティングしたものである。
図9(d)に示すレート特性は、0.2A/g~5A/gの電流密度範囲において得られた結果である。
【0111】
図9(a)によれば、例3の膜は、理想的な電気二重層キャパシタを表す矩形のCV曲線を示した。また、電解質が非水系電解液であり、差動電圧を3.7Vまで広げたことに伴い、エネルギー密度は、0.1A/gの電流密度で92Wh/kgに達した。これは、上述した水系電解液を用いた場合の値(6.4Wh/kg)と比べて10倍を超えており、また、非特許文献1などの、従来のグラフェンを含有する複合材料を用いた電極と比べても、それらに匹敵するもしくは上回る性能であると言える。
【0112】
図9(c)によれば、例3の膜は、3.2Ωの等価抵抗を示した。
図8(c)を参照して説明した値(0.33Ω)と比べると高い値であるが、これは、EMI-BF
4等のイオン液体は、水系電解液よりも導電率が低いためである。なお、例5の膜では、等価抵抗の値は例3の膜よりも高い、5.1Ωであった。加えて、例3の膜は、10000サイクル後も80%以上の静電容量保持率を示し、実用に耐え得るものであることがわかった(データは図示せず)。
【0113】
なお、実用上、可搬型デバイスにおいては、重量比容量よりも体積比容量の値が重視される場合がある。そこで、例2~例5の膜を用い、上述したのと同様のコインセルを作製し、電気化学測定を行った。その結果、例3の膜が、最も高い体積比容量の値(101F/cm
3)を示し、エネルギー密度は45Wh/cm
3であり、レート特性も優れていた(データは図示せず)。これは、例3の膜が、0.5mg/cm
3の密度を有し、例2~例5の膜の中では最も大きい値であったことによるものであると考えられる。また、
図7を参照して説明したように、例3の膜はフレキシブル性および機械的強度にも優れているため、本実施例で作製した膜の中では、例3の膜が、より優れたグラフェン電極であることが示唆された。さらには、グラフェン電極の製造工程において、混合分散液中のグラフェン酸化物と熱還元グラフェン酸化物の割合を調整することで、目的物であるグラフェン電極の電気的特性および機械的特性を最適化することができ、所望の用途により適した、フレキシブル性および自己支持性を有するグラフェン電極が得られることが示唆された。
本発明のグラフェン電極は、実質的にグラフェンのみからなる、いわゆるバインダーフリーの電極であり、フレキシブル性および自己支持性を有し、電気二重層キャパシタやリチウムイオン電池等の蓄電デバイス用の電極に適用して好適である。本発明のグラフェン電極は、グラフェン酸化物を出発原料として見た場合、熱還元処理を2度行うことで製造することができ、大量生産のためのスケールアップが容易である。本発明のグラフェン電極は、グラフェンが本来有する電気的特性を効果的に発揮することができ、蓄電デバイス用の(特に、電気二重層キャパシタ用の)電極として有利であり、フレキシブル性を有する蓄電システムに対する要求に応える電極としての利用が期待される。