(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160640
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】車速制御方法及び車速制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/045 20120101AFI20231026BHJP
B60W 40/114 20120101ALI20231026BHJP
B60W 40/105 20120101ALI20231026BHJP
B60W 40/072 20120101ALI20231026BHJP
B60W 30/14 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B60W30/045
B60W40/114
B60W40/105
B60W40/072
B60W30/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071127
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄哉
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA01
3D241BA10
3D241BA18
3D241BA51
3D241BB27
3D241BC01
3D241CE01
3D241CE02
3D241CE04
3D241CE05
3D241DB02Z
3D241DB12Z
3D241DC43Z
(57)【要約】
【課題】目標走行軌道上を走行する自車両の挙動がヨーレイトの周波数によって不安定になるのを抑制する。
【解決手段】車速制御方法では、自車両の目標走行軌道を設定し、自車両の運動特性値に基づいて自車両のヨーレイトの共振周波数を算出し、自車両が目標走行軌道上を走行する目標車速を、自車両が前記目標走行軌道上を走行中のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるように設定し(S2、S3、S17、S18)、目標車速に基づいて自車両の車速を制御する(S4)。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の目標走行軌道を設定し、
前記自車両の運動特性値に基づいて前記自車両のヨーレイトの共振周波数を算出し、
前記自車両が前記目標走行軌道上を走行する目標車速を、前記自車両が前記目標走行軌道上を走行中のヨーレイトの周波数が前記共振周波数未満となるように設定し、
前記目標車速に基づいて前記自車両の車速を制御する、
ことを特徴とする車速制御方法。
【請求項2】
前記自車両の目標車速のプロファイルである第1車速プロファイルを、前記目標走行軌道上の各地点において前記自車両の重心の横加速度が所定値以下となり、且つ前記目標走行軌道上の各地点において前記自車両のヨーレイトが所定値以下となるように設定し、
前記各地点において、前記自車両のヨーレイトの周波数が前記共振周波数未満となるように加速度又は減速度のいずれか一方を制限したときの最大速度を、第1最大速度として算出し、
前記各地点の前記第1最大速度で前記第1車速プロファイルを制限することにより第2車速プロファイルを設定し、
前記各地点において、前記自車両のヨーレイトの周波数が前記共振周波数未満となるように加速度又は減速度のいずれか他方を制限したときの最大速度を、第2最大速度として算出し、
前記各地点の前記第2最大速度で前記第2車速プロファイルを制限することにより第3車速プロファイルを設定し、
前記第3車速プロファイルに基づいて前記自車両の車速を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車速制御方法。
【請求項3】
前記目標走行軌道上の前記各地点のうち前記自車両前方の前記自車両により近い地点とより遠い地点の何れか一方を第1地点、他方を第2地点として、前記第1地点における曲率と、前記第1地点における前記自車両の目標速度と、所定の最大許容ヨーレイトと、前記共振周波数と、に基づいて前記第1地点において前記自車両に許容される最大ヨーレイト変化量を算出し、
前記自車両のヨーレイト変化量が前記最大ヨーレイト変化量以下となる最大加減速度を算出し、
前記最大加減速度に基づいて前記第2地点における前記目標車速を設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の車速制御方法。
【請求項4】
前記最大ヨーレイト変化量と、前記第1地点における曲率及び曲率変化と、前記第1地点における前記自車両の目標速度とに基づいて、前記最大加減速度を算出することを特徴とする請求項3に記載の車速制御方法。
【請求項5】
前記第1地点における曲率と、前記第1地点における前記自車両の目標速度と、前記最大許容ヨーレイトと、前記共振周波数と1未満のゲインとの積と、に基づいて前記最大ヨーレイト変化量を算出することを特徴とする請求項3又は4に記載の車速制御方法。
【請求項6】
前記目標走行軌道上の前記各地点のうち前記自車両前方の前記自車両により近い地点とより遠い地点の何れか一方を第1地点、他方を第2地点として、前記第1地点における曲率と、前記第1地点における前記自車両の目標速度と、所定の最大許容横加速度と、前記共振周波数と、に基づいて前記第1地点において前記自車両に許容される最大横加加速度を算出し、
前記自車両の横加加速度が前記最大横加加速度以下となる最大加減速度を算出し、
前記最大加減速度に基づいて前記第2地点における前記目標車速を設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の車速制御方法。
【請求項7】
前記最大横加加速度と、前記第1地点における曲率及び曲率変化と、前記第1地点における前記自車両の目標速度とに基づいて、前記最大加減速度を算出することを特徴とする請求項6に記載の車速制御方法。
【請求項8】
前記第1地点における曲率と、前記第1地点における前記自車両の目標速度と、前記最大許容横加速度と、前記共振周波数と1未満のゲインとの積と、に基づいて前記最大横加加速度を算出することを特徴とする請求項6又は7に記載の車速制御方法。
【請求項9】
自車両の駆動力を発生させる駆動装置と、
前記自車両の制動力を発生させる制動装置と、
前記自車両の目標走行軌道を設定し、前記自車両の運動特性値に基づいて前記自車両のヨーレイトの共振周波数を算出し、前記自車両が前記目標走行軌道上を走行する目標車速を、前記自車両が前記目標走行軌道上を走行中のヨーレイトの周波数が前記共振周波数未満となるように設定し、前記目標車速に基づいて前記駆動装置又は前記制動装置の少なくとも一方を制御するコントローラと
を備えることを特徴とする車速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速制御方法及び車速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動運転車両が目標走行軌道を自動走行中に、旋回加速度が路面摩擦係数を超えないように目標速度を設定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両のヨー運動には共振周波数があるため、車両のヨーレイトの周波数が共振周波数に近づくと車両挙動が不安定になる虞がある。
本発明は、目標走行軌道上を走行する自車両の挙動がヨーレイトの周波数によって不安定になるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による車速制御方法では、自車両の目標走行軌道を設定し、自車両の運動特性値に基づいて自車両のヨーレイトの共振周波数を算出し、自車両が目標走行軌道上を走行する目標車速を、自車両が目標走行軌道上を走行中のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるように設定し、目標車速に基づいて自車両の車速を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、目標走行軌道上を走行する自車両の挙動がヨーレイトの周波数によって不安定になるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の走行支援装置の概略構成図である。
【
図2】実施形態の走行支援装置による自動運転制御のアーキテクチャの一例の説明図である。
【
図3】実施形態の走行支援装置の自動運転制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図1に示す車両制御部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図5】(a)は第1車速プロファイルの一例の説明図であり、(b)は第2車速プロファイルの一例の説明図であり、(c)は第3車速プロファイルの一例の説明図である。
【
図6】
図4に示すバックワード演算部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図7】
図4に示すフォワード演算部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図8】実施形態の車速制御方法の一例のフローチャートである。
【
図9】
図8のステップS2の処理の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
図1を参照する。自車両1は、右前輪2FR及び左前輪2FLを転舵可能な前輪操舵車両であるか、右前輪2FR、左前輪2FL、右後輪2RR及び左後輪2RLを転舵可能な四輪操舵車両である。以下、右前輪2FR及び左前輪2FLを総称して「前輪2F」と表記し、右後輪2RR及び左後輪2RLを総称して「後輪2R」と表記し、前輪2F及び後輪2Rを総称して「車輪2」と表記することがある。
自車両1は、自車両1の走行支援を行う走行支援装置10を備える。走行支援装置10による走行支援には、自車両1の周辺の走行環境に基づいて、運転者が関与せずに自車両1を自動で運転する自動運転制御や、運転者による自車両1の運転を支援する運転支援制御を含んでよい。
運転支援制御には、自動操舵、自動ブレーキ、定速走行制御、車線維持制御、合流支援制御など、自車両1の転舵装置、駆動装置、制動装置の少なくとも一つを制御する走行制御を含んでよい。
【0010】
走行支援装置10は、物体センサ11と、車両センサ12と、測位装置13と、地図データベース(地
図DB)14と、ナビゲーション装置15と、コントローラ17と、アクチュエータ18とを備える。
物体センサ11は、自車両の周囲の物体を検出する。物体センサ11は、自車両1に搭載されたレーザレーダやミリ波レーダ、カメラ、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)など、自車両1の周辺の物体を検出する複数の異なる種類の物体検出センサを備える。
【0011】
車両センサ12は、自車両1に搭載され、自車両1から得られる様々な情報(車両信号)を検出する。車両センサ12には、例えば、自車両1の車速(走行速度)Vを検出する車速センサ、車輪2の回転速度や回転量を検出する車輪センサ、自車両1の3軸方向の加速度(減速度を含む)を検出する3軸加速度センサ(Gセンサ)、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ、転舵輪の転舵角を検出する転舵角センサ、自車両1に生じる角速度を検出するジャイロセンサ、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ、自車両1のアクセル開度を検出するアクセルセンサと、運転者によるブレーキ操作量を検出するブレーキセンサが含まれる。
【0012】
測位装置13は、全地球型測位システム(GNSS)受信機を備え、複数の航法衛星から電波を受信して自車両1の現在位置を測定する。GNSS受信機は、例えば地球測位システム(GPS)受信機等であってよい。測位装置13は、例えば慣性航法装置であってもよい。
地図データベース14は、自動運転用の地図として好適な高精度地図データ(以下、単に「高精度地図」という。)を記憶してよい。高精度地図は、ナビゲーション用の地図データ(以下、単に「ナビ地図」という。)よりも高精度の地図データであり、道路単位の情報よりも詳細な車線単位の情報を含む。
ナビゲーション装置15は、測位装置13等により自車両1の現在位置を認識する。ナビゲーション装置15は、認識した現在位置に基づいて、自車両1の周囲の道路情報や交通情報を取得し、コントローラ17に出力する。また、ナビゲーション装置15は、乗員に対して経路案内を行い、また道路情報、交通情報を提供する。
【0013】
コントローラ17は、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含み、自車両1の走行支援制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置や、磁気記憶装置、光学記憶装置等を備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
コントローラ17のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより、コントローラ17は、自動運転制御部20、入力仲裁部21及び車両制御部22として機能する。これらの機能については後述する。
【0014】
なお、コントローラ17を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラは、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラはフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0015】
アクチュエータ18は、コントローラ17からの制御信号に応じて、自車両1の転舵装置と、駆動装置と制動装置を操作して、自車両1の車両挙動を発生させる。アクチュエータ18は、転舵アクチュエータと、アクセル開度アクチュエータと、ブレーキ制御アクチュエータを備える。
自車両1が前輪操舵車両である場合、転舵アクチュエータは、前輪2Fの転舵角である前輪転舵角δFを制御する。自車両1が四輪操舵車両である場合、転舵アクチュエータは、前輪転舵角δFに加えて後輪2Rの転舵角である後輪転舵角δRを制御する。
【0016】
転舵アクチュエータは、例えば、電動パワーステアリングシステムにおいて操舵補助力を付与する操舵補助モータであってもよく、ステアリングホイールと車輪2とが機械的に分離されたステアリングバイワイヤシステムにおいて車輪2を転舵する転舵モータであってもよい。
アクセル開度アクチュエータは、自車両1の駆動力を発生させる動力源である駆動装置(例えばエンジン、電動機)のアクセル開度を制御する。ブレーキ制御アクチュエータは、自車両1の制動装置の制動動作を制御する。
駆動装置、制動装置、コントローラ17及びアクチュエータ18の組合せは、特許請求の範囲に記載の「速度制御装置」の一例である。
【0017】
次に、実施形態の走行支援装置10による走行支援制御の一例を説明する。
図2は、走行支援装置による自動運転制御のアーキテクチャの一例を示す。自動運転制御は、自動運転レイヤ(AD Layer)30と、仲裁部(Arbitration)31と、規範モデル部(Reference Model)32と、車体挙動制御部(Body Motion Control)33と、車輪挙動制御部(Wheel Motion Control)34と、上述のアクチュエータ18によって実行される。
自動運転レイヤ30は、自車両1の目的地を設定し、自車両1の現在位置から目的地までの走行経路を設定する。なお、目的地とは運転者によって設定される最終目的地であってもよいし、自車両1の現在位置に対して予め定められた所定距離前方の地点(例えば自車両が走行中の車線上で、所定距離前方の車線中央位置等)であってもよい。
自動運転レイヤ30は、走行経路を走行する自車両1の目標走行軌道、すなわち自車両1の現在位置から目的地までの道路上の走行軌道を、自動運転レイヤ30からの指示入力である自動運転入力(AD入力)として生成する。
【0018】
仲裁部31は、運転者によるステアリングホイール、アクセル及びブレーキの操作入力である手動運転入力(MD入力)と、自動運転レイヤ30からの自動運転入力とを仲裁し、自車両1が行うべき車両運動を設定する。
規範モデル部32は、仲裁部31が設定した車両運動を自車両1が実現するための自車両1の車体挙動を計算するために用いる車両運動モデルのパラメータ(例えばヨー慣性モーメント、車輪2のコーナリングスティフネス等)を設定する。
車体挙動制御部33は、規範モデル部32によって設定された車両運動モデルに基づいて、仲裁部31が設定した車両運動を実現するための車体挙動(例えば、車速、加減速、ヨーレイト、ヨー角加速度、ヨーモーメント等)を算出する。
【0019】
車輪挙動制御部34は、車体挙動制御部33が算出した車体挙動を自車両1に発生させるための車輪2の制御量(転舵角、制動量、駆動量等)を算出し、アクチュエータ18により車輪挙動を制御する。
例えば、自動運転レイヤ30の機能は、
図1に示す自動運転制御部20が担い、仲裁部31の機能は入力仲裁部21が担い、規範モデル部32、車体挙動制御部33及び車輪挙動制御部34の機能は、車両制御部22が担ってよい。
【0020】
次に、
図3を参照して自動運転制御部20の機能構成の一例を説明する。自動運転制御部20は、定位部(Localization)40と、目的地設定部41(Destination Setting)と、経路計画部(Route Planning)42と、行動決定部(Decision Making)43と、運転ゾーン計画部(Drive Zone Planning)44と、軌道生成部(Trajectory)45を備える。
【0021】
定位部40は、物体センサ11の検出信号に基づいて自車両1の周囲環境を認識する。定位部40は、認識結果と地図データベース14の高精度地図との間のマップマッチングにより、高精度地図上の自車両1の現在位置を判断する。
また、周囲環境の認識結果に基づいて、自車両1の周囲環境のモデルであるローカルモデル(Local Model)47が生成される。さらに、ローカルモデル47と、高精度地図と、ナビゲーション装置15の道路情報や交通情報とを融合することによって、ワールドモデル(World Model)46が生成される。
【0022】
目的地設定部41は、ナビゲーション装置15を介した運転者の操作入力に基づいて自車両1の目的地を設定する。
経路計画部42は、ナビゲーション装置15の道路情報に基づいて、現在位置から目的地までの予定走行経路を演算する。なお、予定走行経路はこれに限らず、例えば現在位置から自車両所定距離前方までの予定経路であってもよい。あるいは、ナビゲーション装置15の道路情報を用いずに、自車両前方をカメラ等で撮像し、撮像した画像から検出した自車両所定距離前方までの予定経路であってもよい。
行動決定部43は、周囲環境の認識結果と、自車両1の現在位置と、ワールドモデル46と、予定走行経路とに基づいて、走行支援装置10により実行する自車両1の運転行動計画を決定する。
【0023】
運転行動には、例えば、自車両1の停止、一時停止、走行速度、減速、加速、進路変更、右折、左折、直進、合流区間や複数車線における車線変更、車線維持、追越、障害物への対応などの行動が含まれる。
行動決定部43は、自車両1の現在位置及び姿勢と、自車両1の周囲環境と、ワールドモデル46とに基づいて、自車両1の運転行動計画を生成する。
【0024】
運転ゾーン計画部44は、生成した運転行動計画と、自車両1の運動特性、ローカルモデル47に基づいて、自車両1を走行させることができる領域である運転ゾーンを算出する。
軌道生成部45は、運転ゾーン計画部44が算出した運転ゾーン内を自車両1が走行するように、自車両1の目標走行軌道を生成する。
【0025】
図1を参照する。入力仲裁部21は、自動運転制御部20が設定した目標走行軌道の自動運転入力と運転者による手動運転入力とを仲裁して、自車両1が行うべき車両運動を設定する。
車両制御部22は、入力仲裁部21により設定された車両運動を実現するように自車両1の挙動を制御する。
【0026】
次に、車両制御部22による車速制御について説明する。自車両1が目標走行軌道に追従して走行するには、自車両1の重心位置における横加速度によって、車輪2の摩擦力が摩擦限界を超えないように目標車速を設定する必要がある。
さらに、前輪2Fの摩擦限界と後輪2Rの摩擦限界の大きさは、自車両1の加減速に伴う荷重変動によって変化するため、前輪2F及び後輪2Rに発生する摩擦力が、前輪2F及び後輪2Rの摩擦限界をそれぞれ超えないよう目標車速を設定する必要がある。
例えば、減速しながら旋回する走行シーンの場合には、前輪2Fに大きな制動力が発生するとともに、前輪2Fに大きな横力を発生させて車両を旋回させる。このため前輪2Fの摩擦力が飽和し易くなり、目標走行軌道への追従性の低下を招く虞がある。
【0027】
そこで、車両制御部22は、前輪2F及び後輪2Rの各々の制動力と横力との合力と、前輪2F及び後輪2Rの各々の駆動力と横力との合力と、が摩擦限界を超えないように目標車速を制限する。
これにより、前輪2Fの摩擦力と後輪2Rの摩擦力とが摩擦限界を超えないように目標車速を設定でき、目標走行軌道への追従性が向上する。
【0028】
また、上記のとおり車両のヨー運動には共振周波数があるため、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数に近づくと車両挙動が不安定になる虞がある。
ここで、目標走行軌道上のある地点において旋回するときのヨーレイトγは、自車両1の車速をV、旋回曲率をρとするとγ=ρVで表すことができる。したがってヨーレイトγの時間変化量γ’=(dρ/dt)V+ρ(dV/dt)は、自車両1の進行方向(すなわち縦方向)の加減速度をAx、旋回曲率の単位距離当たりの曲率変化をρ’とするとγ’=ρ’V2+ρAxと表現できる。
すなわちヨーレイトの周波数は、曲率の変化量だけでなく進行方向の加減速度Axによっても変化する。したがって、カーブ路の入口やS字カーブのような曲率変化が大きい走行シーンだけでなく、曲率変化が小さくても旋回中に強い加速度又は減速度が発生するシーンにおいて車両挙動が不安定になる虞がある。
そこで車両制御部22は、摩擦限界に基づく上記制限に加えて、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるように目標車速を制限する。
【0029】
図4は、
図1に示す車両制御部22の機能構成の一例のブロック図である。車両制御部22は、幾何学演算部50と、バックワード演算部51と、フォワード演算部52を備える。
幾何学演算部50は、
図3の軌道生成部45が生成した目標走行軌道の旋回曲率ρと、最大許容横加速度として予め設定された最大横加速度設定値A
yMaxと、最大許容ヨーレイトとして予め設定された最大ヨーレイト設定値γ
Maxとに基づいて、自車両1の重心の横加速度が最大横加速度設定値A
yMaxを超えず、且つ自車両1のヨーレイトが最大ヨーレイト設定値γ
Maxを超えないように、自車両の目標車速のプロファイルである第1車速プロファイルV
inを算出する。
例えば、目標走行軌道上の地点iにおける旋回曲率をρ
iとすると、幾何学演算部50は、次式(1)に基づいて地点iにおける目標車速V
iを設定してよい。
【数1】
【0030】
図5(a)に、第1車速プロファイルV
inの一例を示す。図において、横軸は自車両1の現在位置から目標走行軌道上の自車両前方の各地点までの走行距離を示し、縦軸は各地点における目標車速を示している。
なお、
図5(a)の横軸の紙面上最も左側の地点は、自車両1の現在位置であり、最も右側の地点は、第1車速プロファイルV
inが生成された目標走行軌道上の地点のうち自車両1から最も遠い地点(以下「最遠点」と表記する)である。
図5(b)及び
図5(c)でも同様である。
【0031】
図4を参照する。バックワード演算部51は、目標走行軌道上の各地点において、自車両1の減速度に応じて前輪2F及び後輪2Rにかかる各々の荷重に基づいて、前輪2F及び後輪2Rの各々の制動力と横力との合力が摩擦限界を超えないようにバックワード最大速度を算出する。さらにバックワード演算部51は、車速と旋回曲率とその曲率変化に基づいて、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるようにバックワード最大速度を算出する。
バックワード演算部51は、第1車速プロファイルV
inをバックワード最大速度で制限することにより、第2車速プロファイルV
Bを設定する。
図5(b)に、第2車速プロファイルV
Bの一例を示す。
【0032】
ここで、摩擦限界による制限によって地点iにおける第1車速プロファイルVinの目標車速Vin(i)から、前方の地点(i+1)における目標車速Vin(i+1)まで減速できないと、車速が第1車速プロファイルVinを超えてしまい目標走行軌道に沿って走行できなくなる。
そこでバックワード演算部51は、注目地点iより前方の地点(i+1)における目標車速Vin(i+1)に基づいて、注目地点iの目標車速Vin(i)を制限する。
具体的には、地点(i+1)における目標車速Vin(i+1)と旋回曲率ρ(i+1)とに基づいて、地点(i+1)において自車両1に許容される最大減速度Ax(i+1)を算出する。
そして、地点(i+1)における最大減速度Ax(i+1)に応じて前輪2F及び後輪2Rにかかる各々の荷重に基づいて、注目地点iにおいて前輪2F及び後輪2Rの制動力と横力との合力が摩擦限界を超えないとして最大速度をバックワード最大速度として算出する。このとき、地点(i+1)における目標車速Vin(i+1)と、旋回曲率ρ(i+1)と、曲率変化ρ’(i+1)とに基づいて、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるようにバックワード最大速度を算出する。そして、注目地点iにおける第1車速プロファイルVinの目標車速をバックワード最大速度で制限する。この演算を、最遠点から自車両1の現在位置に向かって注目地点iを後方に1つずつ移動させながら反復する。
【0033】
図4を参照する。フォワード演算部52は、目標走行軌道上の各地点において、自車両1の加速度に応じて前輪2F及び後輪2Rにかかる各々の荷重に基づいて、前輪2F及び後輪2Rの各々の駆動力と横力との合力が摩擦限界を超えないようにフォワード最大速度を算出する。フォワード演算部52は、車速と旋回曲率とその曲率変化に基づいて、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるようにフォワード最大速度を算出する。
フォワード演算部52は、第2車速プロファイルV
Bをフォワード最大速度で制限することにより、第3車速プロファイルV
outを設定する。
車両制御部22は、第3車速プロファイルV
outに基づいてアクチュエータ18のアクセル開度アクチュエータと、ブレーキ制御アクチュエータとを駆動することにより、自車両1の速度を制御する。
【0034】
フォワード演算部52は、バックワード演算部51とは反対に自車両1の現在位置から最遠点に向かって、注目地点iを前方に1つずつ移動させながら演算する。すなわち、注目地点iより1つ後方の地点(i-1)における目標車速Vin(i-1)と旋回曲率ρ(i-1)とに基づいて、地点(i-1)において自車両1に許容される最大加速度Ax(i-1)を算出する。
そして、地点(i-1)における最大加速度Ax(i-1)に応じて前輪2F及び後輪2Rにかかる各々の荷重に基づいて、注目地点iにおいて前輪2F及び後輪2Rの駆動力と横力との合力が摩擦限界を超えない最大速度をフォワード最大速度として算出する。このとき、地点(i-1)における目標車速Vin(i-1)と、旋回曲率ρ(i-1)と、曲率変化ρ’(i-1)とに基づいて、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるようにフォワード最大速度を算出する。そして、注目地点iにおける第2車速プロファイルVBの目標車速をフォワード最大速度で制限する。この演算を、自車両1の現在位置から最遠点に向かって注目地点iを前方に1つずつ移動させながら反復する。
【0035】
なお、
図4及び
図5(a)~
図5(c)の例では、バックワード演算部51が、第1車速プロファイルV
inを制限することにより第2車速プロファイルV
Bを設定し、フォワード演算部52が、第2車速プロファイルV
Bを制限することにより第3車速プロファイルV
outを設定したが、これに代えて、フォワード演算部52が第1車速プロファイルV
inを制限して第2車速プロファイルV
Bを設定し、バックワード演算部51が第2車速プロファイルV
Bを制限して第3車速プロファイルV
outを設定してもよい。
【0036】
次に、バックワード演算部51及びフォワード演算部52の詳細を説明する。
図6は、バックワード演算部51の機能構成の一例のブロック図である。
バックワード演算部51は、最初の注目地点iとして、最遠点より一つ後方の地点を設定し、注目地点iを自車両1の現在位置まで後方に1つずつ順次移動させながら、注目地点iにおける最大減速度A
x(i)と目標車速V
Tar(i)を各々算出する。
バックワード演算部51は、最大速度演算部51aと、セレクタ51b、51k及び51nと、荷重演算部51cと、目標横力演算部51dと、最大横力演算部51eと、目標縦力演算部51hと、最大縦力演算部51iと、第1最大加減速度演算部51jと、第2最大加減速度演算部51mとを備える。
【0037】
最大速度演算部51aは、最初の注目地点iにおける演算では、注目地点iよりも一つ前方の地点(i+1)の目標車速V
Tar(i+1)として、最遠点の第1車速プロファイルV
inの目標車速を設定し、地点(i+1)の最大減速度A
x(i+1)として、最大許容減速度として予め設定された最大減速度設定値A
xMaxを設定する。
2個目以降の注目地点iにおける演算では、前回の注目地点(すなわち地点(i+1))で演算された、目標車速V
Tar(i+1)及び最大減速度A
x(i+1)を入力する。
最大速度演算部51aは、前回の地点(i+1)の目標車速V
Tar(i+1)と最大減速度A
x(i+1)に応じて、次式(2)の速度制限値を設定する。
【数2】
式(2)のΔs(i)は、注目地点iと地点(i+1)との間の距離である。
【0038】
セレクタ51bは、注目地点iにおける第1車速プロファイルV
inの目標車速V
in(i)を、次式(3)に従って制限することにより、注目地点iにおける目標車速V
Tar(i)を設定する。
【数3】
バックワード演算部51は、目標車速V
Tar(i)を注目地点iにおける第2車速プロファイルV
Bの目標車速V
B(i)として出力する。
【0039】
荷重演算部51cは、次式(4)及び(5)に基づいて、一つ前方の地点(i+1)の最大減速度A
x(i+1)に応じて、自車両1の車体のピッチ運動に基づく前輪2Fの荷重である前輪荷重Fz
F(i)と、後輪2Rの荷重である後輪荷重Fz
R(i)を算出する。
【数4】
上式(4)及び(5)におけるmは自車両1の質量であり、gは重力加速度であり、lはホイールベース長であり、l
Fは車両重心から前輪軸までの長さであり、l
Rは車両重心から後輪軸までの長さあり、κ
pは、車両諸元に応じて定まる荷重パラメータであり、左辺第1項及び第2項は、それぞれ静荷重と動荷重を表す。
【0040】
目標横力演算部51dは、次式(6)及び(7)に基づいて、注目地点iにおける目標車速V
Tar(i)と目標走行軌道の旋回曲率ρ(i)とに応じて、前輪2Fに発生させるべき目標横力である前輪目標横力Fy
ReqF(i)と、後輪2Rに発生させるべき目標横力である後輪目標横力Fy
ReqR(i)をそれぞれ算出する。
【数5】
上式(6)及び(7)におけるIzは自車両1の慣性モーメントであり、γ'(i)は目標車速V
Tar(i)と旋回曲率ρ(i)とに応じたヨー角加速度である。
【0041】
最大横力演算部51eは、次式(8)及び(9)に基づいて、前輪荷重Fz
F(i)と、後輪荷重Fz
R(i)と、目標車速V
Tar(i)と、最大横加速度設定値A
yMaxと、最大許容ヨーレイトとして予め設定された最大ヨーレイト設定値γ
Maxと、に基づいて、前輪2Fに発生させてよい最大横力である前輪最大横力Fy
MaxF(i)と、後輪2Rに発生させてよい最大横力である後輪最大横力Fy
MaxR(i)をそれぞれ算出する。
【数6】
上式(8)及び(9)におけるμは路面の摩擦係数である。
【0042】
目標縦力演算部51hは、次式(10)に基づいて、最大減速度設定値Ax
Maxと、前輪目標横力Fy
ReqF(i)と、後輪目標横力Fy
ReqR(i)と、前輪最大横力Fy
MaxF(i)と、後輪最大横力Fy
MaxR(i)に応じて、自車両1に発生させるべき目標縦力Fx
Req(i)を算出する。
【数7】
上式(10)における目標横力Fy
Reqは、自車両1の車体の重心の目標横力であり、Fy
Req=Fy
ReqF(i)+Fy
ReqR(i)である。同様に、最大横力Fy
Maxは、自車両1の車体の重心に発生させてよい最大横力であり、Fy
Max=Fy
MaxF(i)+Fy
MaxR(i)である。
上式(8)及び(9)に示すように、Fy
MaxF(i)、Fy
MaxR(i)は、前輪2F及び後輪2Rの摩擦円の大きさμFx
F(i)、μFx
R(i)で制限される。
したがって上式(10)は、前輪荷重Fz
F(i)及び後輪荷重Fz
R(i)に応じた車体全体の摩擦円と、前輪目標横力Fy
ReqF(i)及び後輪目標横力Fy
ReqR(i)と、により最大減速度設定値A
xMaxに対応する縦力mA
xMaxを制限することによって目標縦力Fx
Req(i)を求めている。
【0043】
目標縦力演算部51hは、次式(11)及び(12)に基づいて、目標縦力Fx
Req(i)を前輪2F及び後輪2Rのブレーキ配分比κ
F:(1-κ
F)に基づいて配分することにより、前輪2Fに発生させるべき目標縦力である前輪目標縦力Fx
ReqF(i)と、後輪2Rに発生させるべき目標横力である後輪目標縦力Fx
ReqR(i)をそれぞれ算出する。
【数8】
【0044】
最大縦力演算部51iは、前輪荷重Fz
F(i)及び後輪荷重Fz
R(i)に応じた前輪2F及び後輪2Rのそれぞれの摩擦円と、前輪最大横力Fy
MaxF(i)と、後輪最大横力Fy
MaxR(i)に基づいて、前輪2Fに発生させてよい最大縦力である前輪最大縦力Fx
MaxF(i)と、後輪2Rに発生させてよい最大縦力である後輪最大縦力Fx
MaxR(i)とをそれぞれ算出する。
具体的には、最大縦力演算部51iは、次式(13)及び(14)に基づいて、前輪最大縦力Fx
MaxF(i)と後輪最大縦力Fx
MaxR(i)を算出する。
【数9】
【0045】
第1最大加減速度演算部51jは、前輪目標縦力Fx
ReqF(i)と前輪最大縦力Fx
MaxF(i)のうち小さい値min(Fx
ReqF(i),Fx
MaxF(i))と、後輪目標縦力Fx
ReqR(i)と後輪最大縦力Fx
MaxR(i)のうち小さい値min(Fx
ReqR(i),Fx
MaxR(i))と、を最大横力に対する目標横力の比Fy
ReqF(i)/Fy
MaxF(i)、Fy
ReqR(i)/Fy
MaxR(i)でそれぞれ制限し、これらの和を、前輪2F及び後輪2Rの摩擦力が摩擦限界を超えない最大縦力Fx
Max(i)として算出する(次式(15))。
【数10】
第1最大加減速度演算部51jは、最大縦力Fx
Max(i)により生じる減速度(Fx
Max(i)/m)を第1最大減速度Ax1(i)としてセレクタ51kに出力する。
セレクタ51kは、第1最大減速度Ax1(i)と最大減速度設定値A
xMaxのうちいずれか小さい方を、最大減速度候補Axcとしてセレクタ51nへ出力する。
【0046】
第2最大加減速度演算部51mは、注目地点iの目標車速V
Tar(i)と、旋回曲率ρ(i)と、曲率変化ρ’(i)とに基づいて、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数よりも低くなる最大の減速度を、第2最大減速度Ax2(i)として算出する。
具体的には、第2最大加減速度演算部51mは、自車両1の運動特性値を用いて、次式(16)に基づいて自車両1のヨーレイトの共振周波数ω
nを算出する。
【数11】
式(16)における自車両1の運動特性値である、C
F及びC
Rはそれぞれ前輪2F及び後輪2Rの車輪1輪当たりのコーナリングスティフネスであり、I
Zは車両のヨー慣性モーメントであり、Aはスタビリティファクターである。
【0047】
第2最大加減速度演算部51mは、目標車速V
Tar(i)と、旋回曲率ρ(i)と、最大ヨーレイト設定値γ
Maxとに基づいて、次式(17)にしたがって、自車両1に発生するヨーレイト変化量(すなわちヨー加速度)の上限値である最大ヨーレイト変化量γ’
Maxを算出する。
【数12】
上式(17)の最大ヨーレイト変化量γ’
Maxで自車両1のヨーレイト変化量を制限すると、自車両1に生じるヨーレイト周波数は、Kω
n以下に制限される。例えばゲインKは、整数nを分母とする分数(1/n)に設定してよい。この場合、自車両1に生じるヨーレイト周波数をω
n/n以下に制限できる。
第2最大加減速度演算部51mは、最大ヨーレイト変化量γ’
Maxと、旋回曲率ρ(i)と、曲率変化ρ’(i)と、目標車速V
Tar(i)とに基づいて、次式(18)に従って第2最大減速度Ax2(i)を算出する。
【数13】
【0048】
第2最大加減速度演算部51mは、自車両1に発生する横加加速度、すなわち横ジャーク(jerk)の上限値である最大横加加速度Jy
Maxに基づいて、第2最大減速度Ax2(i)を算出してもよい。この場合、第2最大加減速度演算部51mは、目標車速V
Tar(i)と、旋回曲率ρ(i)と、最大横加速度設定値A
yMaxとに基づいて、次式(19)にしたがって、最大横加加速度Jy
Maxを算出する。
【数14】
第2最大加減速度演算部51mは、最大横加加速度Jy
Maxと、旋回曲率ρ(i)と、曲率変化ρ’(i)と、目標車速V
Tar(i)とに基づいて、次式(20)に従って第2最大減速度Ax2(i)を算出する。
【数15】
【0049】
セレクタ51nは、セレクタ51kから出力された最大減速度候補Axcと第2最大減速度Ax2(i)のうちいずれか小さい方を、注目地点iにおける最大減速度Ax(i)として、最大速度演算部51a及び荷重演算部51cへ出力する。以上により注目地点iについての演算が完了する。
その後、注目地点iを1つ後方に移動させて、次の注目地点iについての演算を開始すると、前回の注目地点(すなわち地点(i+1))において演算された最大減速度Ax(i+1)は、新しい注目地点iにおける目標車速VTar(i)と最大減速度Ax(i)の演算に使用される。
【0050】
図7は、フォワード演算部52の機能構成の一例のブロック図である。
フォワード演算部52は、最初の注目地点iとして、自車両1の現在位置より一つ前方の地点を設定し、注目地点iを最遠点まで前方に1つずつ順次移動させながら、注目地点iにおける最大加速度A
x(i)と目標車速V
Tar(i)を各々算出する。
フォワード演算部52は、最大速度演算部52aと、セレクタ52b、52k及び52nと、荷重演算部52cと、目標横力演算部52dと、最大横力演算部52eと、目標縦力演算部52hと、最大縦力演算部52iと、第1最大加減速度演算部52jと、第2最大加減速度演算部52mとを備える。
【0051】
最大速度演算部52aは、最初の注目地点iにおける演算では、注目地点iよりも一つ後方の地点(i-1)の目標車速V
Tar(i-1)として、自車両1の現在位置の第1車速プロファイルV
inの目標車速を設定し、地点(i-1)の最大加速度A
x(i-1)として、最大許容加速度として予め設定された最大加速度設定値A
xMaxを設定する。
2個目以降の注目地点iにおける演算では、前回の地点(すなわち地点(i-1))で演算された、目標車速V
Tar(i-1)及び最大加速度A
x(i-1)を入力する。
最大速度演算部52aは、前回の地点(i-1)の目標車速V
Tar(i-1)と最大加速度A
x(i-1)に応じて、次式(21)の速度制限値を設定する。
【数16】
式(21)のΔs(i)は、注目地点iと地点(i-1)との間の距離である。
【0052】
セレクタ52bは、注目地点iにおける第1車速プロファイルV
inの目標車速V
in(i)を、次式(22)に従って制限することにより、注目地点iにおける目標車速V
Tar(i)を設定する。
【数17】
フォワード演算部52は、目標車速V
Tar(i)を注目地点iにおける第3車速プロファイルV
outの目標車速V
out(i)として出力する。
【0053】
荷重演算部52cは、次式(23)及び(24)に基づいて、一つ前方の地点(i-1)の最大加速度A
x(i-1)に応じて、自車両1の車体のピッチ運動に基づく前輪2Fの荷重である前輪荷重Fz
F(i)と、後輪2Rの荷重である後輪荷重Fz
R(i)を算出する。
【数18】
【0054】
フォワード演算部52の目標横力演算部52d、最大横力演算部52e、目標縦力演算部52h、最大縦力演算部52i、第1最大加減速度演算部52j、セレクタ52k、第2最大加減速度演算部52m、セレクタ52nの機能は、バックワード演算部51の目標横力演算部51d、最大横力演算部51e、目標縦力演算部51h、最大縦力演算部51i、第1最大加減速度演算部51j、セレクタ51k、第2最大加減速度演算部51m、セレクタ51nの機能と同様である。但しバックワード演算部51の説明中の「最大減速度Ax」、「第1最大減速度Ax1」、「第2最大減速度Ax2」、「最大減速度候補Axc」、「最大減速度設定値AxMax」、「ブレーキ配分比」を、それぞれ「最大加速度Ax」、「第1最大加速度Ax1」、「第2最大加速度Ax2」、「最大加速度候補Axc」、「最大加速度設定値AxMax」、「駆動力配分比」、と読み替える。
【0055】
(動作)
図8は、実施形態の車速制御方法の一例の説明図である。ステップS1において幾何学演算部50は、自車両1の目標車速のプロファイルである第1車速プロファイルV
inを算出する。
ステップS2においてバックワード演算部51は、減速時に摩擦限界を超えず、かつ自車両1のヨーレイト周波数が共振周波数未満となるように第1車速プロファイルV
inを制限することにより、第2車速プロファイルV
Bを設定する。
図9は、
図8のステップS2の処理の一例のフローチャートである。ここでは、最遠点の1つ後方の地点から自車両1の現在位置に向かって、注目地点iを後方に1つずつ移動させながら、ステップS10~S18の処理を反復する。
【0056】
ステップS10において最大速度演算部51aとセレクタ51bは、注目地点iよりも一つ前方の地点(i+1)の最大減速度Ax(i+1)に基づいて注目地点iにおける第1車速プロファイルVinの目標車速Vin(i)を制限して、第2車速プロファイルVBの目標車速VB(i)を算出する。
ステップS11において目標横力演算部51dは、前輪目標横力FyReqF(i)と後輪目標横力FyReqR(i)を算出する。
【0057】
ステップS12において最大横力演算部51eは、前輪最大横力FyMaxF(i)と後輪最大横力FyMaxR(i)を算出する。
ステップS13において目標縦力演算部51hは、前輪目標縦力FxReqF(i)と後輪目標縦力FxReqR(i)を算出する。
ステップS14において最大縦力演算部51iは、前輪最大縦力FxMaxF(i)と後輪最大縦力FxMaxR(i)とをそれぞれ算出する。
【0058】
ステップS15において第1最大加減速度演算部51jは、前輪最大縦力Fx
MaxF(i)、後輪最大縦力Fx
MaxR(i)で前輪目標縦力Fx
ReqF(i)、後輪目標縦力Fx
ReqR(i)をそれぞれ制限して、前輪2F及び後輪2Rの摩擦力が摩擦限界を超えないで自車両1に発生できる最大縦力Fx
Max(i)を算出する。第1最大加減速度演算部51jは、最大縦力Fx
Max(i)により生じる第1最大減速度Ax1(i)=Fx
Max(i)/mを算出する。
ステップS16においてセレクタ51kは、第1最大減速度Ax1(i)と最大減速度設定値A
xMaxのうちいずれか小さい方を最大減速度候補Axcとして選択する。
ステップS17において第2最大加減速度演算部51mは、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数よりも低くなる最大の減速度を、第2最大減速度Ax2(i)として算出する。
ステップS18においてセレクタ51nは、第2最大減速度Ax2(i)と最大減速度候補Axcのうちいずれか小さい方を最大減速度A
x(i)として選択する。
注目地点iが自車両1の現在位置に至るまで上記ステップS10~S18を繰り返すと、その後に処理は
図8のステップS3へ進む。
【0059】
図8を参照する。ステップS3においてフォワード演算部52は、加速時に摩擦限界を超えず、かつ自車両1のヨーレイト周波数が共振周波数未満となるように第2車速プロファイルV
Bを制限することにより、第3車速プロファイルV
outを設定する。
フォワード演算部52の処理は、ステップS2におけるバックワード演算部51の処理と、下記の点(1)、(2)を除いて同様である。
(1)注目地点iを自車両1の現在位置の1つ前方の地点から最遠点まで前方に1つずつ移動させる。
(2)「最大減速度A
x」、「第1最大減速度A
x1」、「第2最大減速度A
x2」、「最大減速度候補Axc」、「最大減速度設定値A
xMax」、「ブレーキ配分比」を、それぞれ「最大加速度A
x」、「第1最大加速度A
x1」、「第2最大加速度A
x2」、「最大加速度候補Axc」、「最大加速度設定値A
xMax」、「駆動力配分比」と読み替える。
ステップS4において車両制御部22は、第3車速プロファイルV
outに基づいてアクチュエータ18を駆動することにより、自車両1の速度を制御する。その後に処理は終了する。
【0060】
(実施形態の効果)
(1)コントローラ17は、自車両1の目標走行軌道を設定し、自車両1の運動特性値に基づいて自車両1のヨーレイトの共振周波数を算出し、自車両1が目標走行軌道上を走行する目標車速を、自車両1が目標走行軌道上を走行中のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるように設定し、目標車速に基づいて自車両1の車速を制御する。
これにより、目標走行軌道上を走行する自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数以上にならないように目標車速を設定できるので、ヨーレイトの周波数によって自車両1の挙動が不安定になるのを抑制できる。
【0061】
(2)コントローラ17は、自車両1の目標車速のプロファイルである第1車速プロファイルを、目標走行軌道上の各地点において自車両1の重心の横加速度が所定値以下となり、且つ目標走行軌道上の各地点において自車両1のヨーレイトが所定値以下となるように設定し、各地点において、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるように加速度又は減速度のいずれか一方を制限したときの最大速度を、第1最大速度として算出し、各地点の第1最大速度で第1車速プロファイルを制限することにより第2車速プロファイルを設定し、各地点において、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となるように加速度又は減速度のいずれか他方を制限したときの最大速度を、第2最大速度として算出し、各地点の第2最大速度で第2車速プロファイルを制限することにより第3車速プロファイルを設定し、第3車速プロファイルに基づいて自車両1の車速を制御してもよい。
これにより、自車両に許容される減速度及び加速度の両方を超えないように車速を制御できる。
【0062】
(3)コントローラ17は、目標走行軌道上の各地点のうち自車両1前方の自車両1により近い地点とより遠い地点の何れか一方を第1地点、他方を第2地点として、第1地点における曲率と、第1地点における自車両1の目標速度と、所定の最大許容ヨーレイトと、共振周波数と、に基づいて第1地点において自車両1に許容される最大ヨーレイト変化量を算出し、自車両1のヨーレイト変化量が最大ヨーレイト変化量以下となる最大加減速度を算出し、最大加減速度に基づいて第2地点における目標車速を設定してもよい。
この場合に、コントローラ17は第1地点における曲率と、第1地点における自車両1の目標速度と、最大許容ヨーレイトと、共振周波数と1未満のゲインとの積と、に基づいて最大ヨーレイト変化量を算出してもよい。
そして、最大ヨーレイト変化量と、第1地点における曲率及び曲率変化と、第1地点における自車両1の目標速度とに基づいて、最大加減速度を算出してもよい。
これにより、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となる最大ヨーレイト変化量を算出し、最大ヨーレイト変化量に基づいて最大加減速を制限して目標車速を設定できる。
【0063】
(4)コントローラ17は、目標走行軌道上の各地点のうち自車両1前方の自車両1により近い地点とより遠い地点の何れか一方を第1地点、他方を第2地点として、第1地点における曲率と、第1地点における自車両1の目標速度と、所定の最大許容横加速度と、共振周波数と、に基づいて第1地点において自車両1に許容される最大横加加速度を算出し、自車両1の横加加速度が最大横加加速度以下となる最大加減速度を算出し、最大加減速度に基づいて第2地点における目標車速を設定してもよい。
この場合に、コントローラ17は、第1地点における曲率と、第1地点における自車両1の目標速度と、最大許容横加速度と、共振周波数と1未満のゲインとの積と、に基づいて最大横加加速度を算出してもよい。
そして、最大横加加速度と、第1地点における曲率及び曲率変化と、第1地点における自車両1の目標速度とに基づいて、最大加減速度を算出してもよい。
これにより、自車両1のヨーレイトの周波数が共振周波数未満となる最大横加加速度を算出し、最大横加加速度に基づいて最大加減速を制限して目標車速を設定できる。
【符号の説明】
【0064】
22…車両制御部、50…幾何学演算部、51…バックワード演算部、51a、522a…最大速度演算部、51b、51k、51n、52b、52k、52n…セレクタ、51c、52c…荷重演算部、51d、52d…目標横力演算部、51e、52e…最大横力演算部、51f、52f…最大転舵角演算部、51g、52g…最大横力制限部、51h、52h…目標縦力演算部、51i、52i…最大縦力演算部、51j、52j…第1最大加減速度演算部、51m、52m…第2最大加減速度演算部