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特開2023-160670バイオフィルム除去剤組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160670
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】バイオフィルム除去剤組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 3/48 20060101AFI20231026BHJP
   C11D 3/43 20060101ALI20231026BHJP
   C11D 1/02 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C11D3/48
C11D3/43
C11D1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071187
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】前田 美帆
(72)【発明者】
【氏名】森川 悟史
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AB17
4H003AB19
4H003AB27
4H003AB31
4H003BA12
4H003DA01
4H003DA05
4H003DA07
4H003DA08
4H003DA13
4H003DA17
4H003EB04
4H003EB06
4H003ED02
4H003ED28
4H003ED29
4H003FA34
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高いバイオフィルム除去効果を有するバイオフィルム除去剤組成物および除去方法を提供。
【解決手段】下記(A)成分を0.5質量%以上及び(B)成分を0.25%質量%以上含有するバイオフィルム除去剤組成物。
(A)成分:LogPが0.1以上である有機溶剤
(B)成分:アニオン界面活性剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分を0.5質量%以上及び(B)成分を0.25%質量%以上含有するバイオフィルム除去剤組成物。
(A)成分:LogPが0.1以上である有機溶剤
(B)成分:アニオン界面活性剤
【請求項2】
前記バイオフィルム除去剤組成物中の(B)成分の含有量と(A)成分の含有量との質量比である、(B)成分/(A)成分が1以上である、請求項1に記載のバイオフィルム除去剤組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、LogPが0.1以上であり、水酸基を有する有機溶剤である、請求項1又は2記載のバイオフィルム除去剤組成物。
【請求項4】
前記(A)成分のLogPが1以上である有機溶剤である、請求項1~3の何れかに記載のバイオフィルム除去剤組成物。
【請求項5】
前記(A)成分の有機溶剤が分子内に芳香族炭化水素基を有する有機溶剤である請求項1~4の何れかに記載のバイオフィルム除去剤組成物。
【請求項6】
対象物に付着したバイオフィルムに、下記(A)成分を0.5質量%以上及び(B)成分を0.25質量%以上含有するバイオフィルム除去剤組成物を接触させる、バイオフィルム除去方法。
(A)成分:LogPが0.1以上である有機溶剤
(B)成分:アニオン界面活性剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム除去剤組成物およびバイオフィルム除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ、一般に水系で微生物が物質の表面に付着・増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質、核酸などの高分子物質を産生して、微生物と微生物産生物質とが構造体を形成したものを指す。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して様々な産業分野で問題を引き起こす。
【0003】
医療分野において、人体の皮膚上、特に褥瘡などの創傷部位にバイオフィルムが形成されることが知られている。バイオフィルムが形成されると創傷の治癒遅延をはじめ、微生物が血液に侵入し、敗血症、肺炎を引き起こし、最悪の場合、死に至ることが知られており、これらの問題について長い間検討がなされている。そのため皮膚上に形成したバイオフィルムを除去する薬剤が望まれる。
【0004】
水冷式冷却塔を用いた工場設備やビルの冷却システムや、冷却プールなど、水媒体を利用したシステムが従来使用されている。このようなシステムにおいて、使用する水の微生物汚染は問題である。例えば、水冷式冷却塔を用いた冷却システムにおいて、冷却水に混入した微生物は、配管中、特に熱交換器においてバイオフィルムを形成する。熱交換器に形成されたバイオフィルムは、熱交換の効率を低下させ、冷却システムの電力使用量を増加させる。バイオフィルム形成防止のためには、定期的な水の入れ替えや清掃が必要であるが、これらはシステムのメンテナンスコストを上昇させる。これらにおいても、バイオフィルムを除去することが望ましい。
【0005】
また自動食器洗浄機や衣料用洗浄機等の水系洗浄機で洗浄する自動洗浄機内部においては、常にその内部に菌の栄養源となる汚れが豊富に存在する上、菌の繁殖に欠かせない水分、湿気に満たされている場面が多く、バイオフィルムの生成に好都合であることが容易に推測される。実際、洗浄機内部においてバイオフィルム生成により生じるヌメリ発生や菌の付着などが起こっており、それが被洗物に対する菌の付着や落下など、洗浄面、衛生面において問題が起こる可能性が高い。したがってこの場合にも、バイオフィルムの除去が望まれる。
【0006】
バイオフィルムを除去する技術としては、これまでに特許文献1~5に開示される技術が知られている。特許文献1には特定炭素数の内部オレフィンスルホン酸塩及び核酸分解酵素を含有するバイオフィルム除去剤組成物が開示されている。特許文献2では内部オレフィンスルホン酸塩を含有する人体用バイオフィルム除去剤が開示されている。特許文献3には特定炭素数を有する不飽和脂肪酸カリウム塩を含有するバイオフィルム除去剤が開示されている。また特許文献4にはα-オレフィンスルホン酸塩からなることを特徴とするバイオフィルム除去剤組成物が開示されている。特許文献5には芳香族モノオール及び又はアントラニル酸類及び微生物界面界面活性剤及び任意の合成界面活性剤を含有することを特徴とするバイオフィルム処理剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許公開2021-005897号公報
【特許文献2】特開2015-164904号公報
【特許文献3】特開2013-185036号公報
【特許文献4】特開2012-72265号公報
【特許文献5】特開2021-127389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~5にはバイオフィルム除去剤組成物が開示されているが、より高いバイオフィルム除去効果が望まれている。本発明は、より高いバイオフィルム除去効果を有するバイオフィルム除去剤組成物、又はバイオフィルム除去方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討した結果、LogPが0.1以上の有機溶剤を0.5質量%以上及びアニオン界面活性剤を0.25質量%以上含有するバイオフィルム除去剤組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明においてバイオフィルム除去効果がより高まる理由は定かではなく、限定されるものではないが、本発明の(A)成分が対象物に付着したバイオフィルムに付着することで、バイオフィルムを改質し、本発明の(B)成分であるアニオン界面活性剤がバイオフィルムに作用しやすくなることで、バイオフィルムが対象物が離れやすくなっているものと推察される。
【0011】
本発明は、下記(A)成分を0.5質量%以上及び(B)成分を0.25質量%以上含有するバイオフィルム除去剤組成物に関する。
(A)成分:LogPが0.1以上である有機溶剤
(B)成分:アニオン界面活性剤
【0012】
また、本発明は 対象物に付着したバイオフィルムに、下記(A)成分を0.5質量%以上及び(B)成分を0.25質量%以上含有するバイオフィルム除去剤組成物を接触させる、バイオフィルム除去方法に関する。
(A)成分:LogPが0.1以上である有機溶剤
(B)成分:アニオン界面活性剤
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、対象物に付着したバイオフィルムを効果的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における、バイオフィルムの除去とは、対象物に既に形成され付着しているバイオフィルムの量を低減させる事を言う。
【0015】
[バイオフィルム除去剤組成物]
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、下記(A)成分を0.5質量%以上及び(B)成分を0.25質量%以上含有する。
(A)成分:LogPが0.1以上である有機溶剤
(B)成分:アニオン界面活性剤
【0016】
〔(A)成分〕
(A)成分は、LogPが0.1以上の有機溶剤である。従来、オレフィンスルホン酸塩や不飽和脂肪酸カリウム塩などの特定のアニオン界面活性剤にしかバイオフィルム除去効果は認められていない。しかし、本発明の(A)成分を併用することで、バイオフィルムを除去できるアニオン界面活性剤の種類が増えることが判明した。使用できるアニオン界面活性剤の種類が増えることは、技術分野に応じて適用できるアニオン界面活性剤を選択することができることで、適用できる技術分野が拡がる点で好ましい。また、本発明の(A)成分をアニオン界面活性剤と併用することで、アニオン界面活性剤のバイオフィルム除去効果をより高める点で好ましい。また(A)成分は、分子内に芳香族炭化水素基を有する有機溶剤が好ましい。
【0017】
(A)成分は、後述する(B)成分が有するバイオフィルムの除去効果をより高める観点から、LogPが0.1以上の水酸基を有する有機溶剤が好ましい。本発明においてLogPはPerkin Elmer社のChemBio Draw ver.20.1.1のChemPropertyを用いて算出した計算値を用いる。なお、LogPの値が大きい程、疎水性が高いことを表す。
【0018】
(A)成分は、バイオフィルム除去効果を有する(B)成分であるアニオン界面活性剤の種類を拡げる観点、又は(A)成分を(B)成分と併用することでバイオフィルム除去効果をより高める観点から、LogPが0.1以上であり、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.3以上であり、より更に好ましくは0.5以上であり、より更に好ましくは0.7以上であり、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.2以上、より更に好ましくは1.3以上、より更に好ましくは1.5以上、より更に好ましくは1.6以上、より更に好ましくは1.8以上、より更に好ましくは2.0以上、より更に好ましくは2.2以上、そして好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.0以下の有機溶剤、特に水酸基を有する有機溶剤が好ましい。
【0019】
(A)成分は、(B)成分と併用することで、バイオフィルムを除去する効果をより高める観点から、下記(A1)~(A4)成分から選ばれる1種以上の有機溶剤が好ましい。
(A1)成分:炭素数2以上10以下の1価のアルコール
(A2)成分:炭素数2以上12以下、且つ2価以上12価以下のアルコール
(A3)成分:炭素数1以上8以下の炭化水素基、エーテル基及び水酸基を有する有機溶剤(但し、炭化水素基は芳香族基を除く。)
(A4)成分:部分的に置換していても良い芳香族基、エーテル基及び水酸基を有する有機溶剤
【0020】
以下に(A1)成分~(A4)成分の具体例を示す。尚( )内の数字は、Perkin Elmer社のChemBio Draw Ver20.1.1のChemPropertyを用いて算出した各成分の計算値(LogP)である。
【0021】
(A1)成分である、炭素数2以上10以下の1価のアルコールとしては、(A1-1)成分として、炭素数2以上10以下の1価の脂肪族アルコールであって、LogPが0.1以上の化合物、例えば、1-プロパノール(0.55)、2-プロパノール(0.38)、ペンタノール(1.39)、ヘキサノール(1.80)、オクタノール(2.64)から選ばれる1種以上のアルコールが挙げられる。
【0022】
また、(A1-2)成分として例えば、芳香族基を有する1価のアルコールである、ベンジルアルコール(1.46)及びフェニルエタノール(1.74)から選ばれる1種以上の芳香族アルコールであって、LogPが0.6以上の化合物が挙げられる。
【0023】
(A2)成分である、炭素数2以上12以下、且つ2価以上12価以下のアルコールとして例えば、ヘキシレングリコール(0.17)が挙げられる。
【0024】
(A3)成分である、炭素数1以上8以下の炭化水素基、エーテル基及び水酸基を有する有機溶剤として例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル(0.45)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(0.66)が挙げられる。
【0025】
(A4)成分である、部分的に置換していても良い芳香族基、エーテル基及び水酸基を有する有機溶剤として例えば、2-フェノキシエタノール(1.39)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(1.23)、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル(1.08)、2-ベンジルオキシエタノール(1.3)、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル(1.15)が挙げられる。
【0026】
(A)成分は、後述する(B)成分のバイオフィルム除去効果をより高める観点、又はバイオフィルム除去効果を有するアニオン界面活性剤の種類をより拡げる観点から、前記の(A1)成分、前記の(A2)成分及び(A3)成分から選ばれる水酸基を有する有機溶剤であって、前記のLogPが0.2以上3.0以下の有機溶剤が好ましい。同じ観点から、前記の(A1)成分、前記の(A2)成分及び(A3)成分から選ばれる水酸基を有する有機溶剤のLogPは、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.2以上、より更に好ましくは1.3以上、より更に好ましくは1.5以上、より更に好ましくは1.6以上、より更に好ましくは1.8以上、より更に好ましくは2.0以上、より更に好ましくは2.2以上、そして好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.0以下である。
【0027】
本発明において、複数種の(A)成分を使用することができる。後述する(B)成分のバイオフィルム除去効果をより高める観点、又はバイオフィルム除去効果を有するアニオン界面活性剤の種類をより拡げる観点から、LogPが0.8以上の(A)成分を全(A)成分中に20質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは30質量%以上であり、より更に好ましくは40質量%以上であり、より更に好ましくは50質量%以上であり、より更に好ましくは60質量%以上であり、より更に好ましくは70質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上であり、より更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは100質量%以下であり、100質量%であっても良い。
【0028】
〔(B)成分〕
(B)成分はアニオン界面活性剤である。(B)成分であるアニオン界面活性剤は対象物に付着したバイオフィルムを除去する作用を有する。
【0029】
(B)成分としては、対象物に付着したバイオフィルムを効果的に除去する観点から、下記(B1)~(B4)成分から選ばれる1種以上のアニオン界面活性剤が好ましい。
【0030】
(B1)成分:アルキル又はアルケニル硫酸エステル塩
(B2)成分:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩又はポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩
(B3)成分:スルホン酸塩基を有するアニオン界面活性剤(但し、(A)成分を除く)
(B4)成分:脂肪酸又はその塩
【0031】
(B1)成分として例えば、前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、アルキル基の炭素数が10以上18以下のアルキル硫酸エステル塩、及びアルケニル基の炭素数が10以上18以下のアルケニル硫酸エステル塩から選ばれる1種以上のアニオン界面活性剤が挙げられる。前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、(B1)成分は、アルキル基の炭素数が12以上16以下のアルキル硫酸エステル塩から選ばれる1種以上のアニオン界面活性剤が好ましく、アルキル基の炭素数が12以上14以下のアルキル硫酸エステルナトリウムから選ばれる1種以上のアニオン界面活性剤がより好ましい。
【0032】
(B2)成分として例えば、前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、下記一般式(B2-1)で表される硫酸エステル又はその塩が好ましい。
【0033】
R1-O-[(PO)/(EO)]-SOM (B2-1)
〔式(B2-1)中、R1は炭素数8以上22以下のアルキル基又はアルケニル基を示し、酸素原子と結合する炭素原子が第1炭素原子であって、POはプロピレンオキシ基、EOはエチレンオキシ基を示し、EOとPOはブロック又はランダム結合であってもよく、/はPOとEOの結合順序を問わないことを示す記号であり、m及びnは平均付加モル数であって、mは0以上5以下、かつnは0以上16以下であり、mとnは同時に0ではない。そしてMは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。〕
【0034】
前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、前記R1は、炭素数10以上が好ましく、炭素数12以上がより好ましく、そして同じ観点から、16以下が好ましく、14以下がより好ましい。前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、本発明のバイオフィルム除去剤組成物中に含まれる全(B2)成分中に、R1が炭素数12以上14以下のアルキル基又はアルケニル基である(B2)成分が40質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは50質量%以上であり、より更に好ましくは60質量%以上であり、より更に好ましくは80質量%以上であり、100質量%であっても良い。
【0035】
前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、前記mとnの比である、m/nは0.1以上10以下が好ましい。前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、m/nは、より好ましくは0.2以上であり、より更に好ましくは0.4以上であり、より更に好ましくは0.6以上であり、そして同じ観点から、より好ましくは8以下であり、より更に好ましくは6以下であり、より更に好ましくは4以下である。
【0036】
(B3)成分であるスルホン酸塩基を有するアニオン界面活性剤とは、親水基としてスルホン酸塩を有するアニオン界面活性剤を表す。
【0037】
(B3)成分として、より具体的には、アルキル基の炭素数が10以上18以下のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルケニル基の炭素数が10以上18以下のアルケニルベンゼンスルホン酸塩、アルキル基の炭素数が10以上18以下のアルカンスルホン酸塩、α-オレフィン部分の炭素数が10以上18以下のα-オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸部分の炭素数が10以上18以下のα-スルホ脂肪酸塩、及び脂肪酸部分の炭素数が10以上18以下であり、エステル部分の炭素数が1以上5以下であるα-スルホ脂肪酸低級アルキルエステル塩、炭素数が12以上18以下の内部オレフィンスルホン酸塩から選ばれる1種以上のアニオン界面活性剤が挙げられる。
【0038】
前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、(B3)成分は、アルキル基の炭素数が10以上18以下のアルカンスルホン酸塩、α-オレフィン部分の炭素数が10以上18以下のα-オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸部分の炭素数が10以上18以下のα-スルホ脂肪酸塩、及び脂肪酸部分の炭素数が10以上18以下であり、エステル部分の炭素数が1以上5以下であるα-スルホ脂肪酸低級アルキルエステル塩、炭素数が12以上20以下の内部オレフィンスルホン酸塩から選ばれる1種以上のアニオン界面活性剤が好ましく、脂肪酸部分の炭素数が10以上18以下であり、エステル部分の炭素数が1以上5以下であるα-スルホ脂肪酸低級アルキルエステル塩及び炭素数が14以上20以下の内部オレフィンスルホン酸塩から選ばれる1種以上のアニオン界面活性剤がより好ましく、炭素数が14以上18以下の内部オレフィンスルホン酸塩がより更に好ましい。
【0039】
本発明において、内部オレフィンスルホン酸塩とは、原料である内部オレフィンをスルホン化、中和、及び加水分解することによって得られるスルホン酸塩である。また、内部オレフィンとは、炭素-炭素二重結合(以下、二重結合という場合もある)を炭素鎖の内部に有するオレフィンである。内部オレフィンは、炭素数が14以上、20以下である高級アルコールを、酸触媒存在下、約3~24時間程度加熱撹拌することで得ることができる。なお、α-オレフィンは、二重結合が1位にある、つまり末端にある点で、内部オレフィンとは異なるものである。
【0040】
内部オレフィンをスルホン化すると、定量的にβサルトンが生成し、βサルトンの一部は、γサルトン、オレフィンスルホン酸へと変化し、更にこれらは中和、加水分解工程において、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩と、オレフィンスルホン酸塩へと転換する(例J.Am.Oil Chem.Soc.69,39(1992))。ここで得られるヒドロキシアルカンスルホン酸塩のヒドロキシ基は、炭素鎖の内部にあり、オレフィンスルホン酸塩の二重結合はオレフィン鎖の内部にある。本発明の(B3)成分の例(B3a)は、これらのヒドロキシアルカンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、及びこれらを含む混合物であり、それらの炭素数が16以上、22以下であり、かつスルホン酸基が炭素鎖の1位以外の位置に存在するものである。
【0041】
内部オレフィンをスルホン化して得られる生成物は、炭素鎖の末端にスルホン酸塩を有するヒドロキシアルカンスルホン酸塩や炭素鎖の末端にスルホン酸塩を有するオレフィンスルホン酸塩のような、スルホン酸基が炭素鎖の1位に存在するオレフィンスルホン酸塩を微量含む場合もある。
【0042】
本発明では、オレフィンスルホン酸塩のうち、スルホン酸基が炭素鎖の1位に存在するオレフィンスルホン酸塩〔以下、成分B3bという〕の量が制限される。本発明では、前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、組成物中の成分B3bの含有量が、成分B3aと成分B3bの合計に対して、20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。また、組成物中の成分B3bの含有量は、成分B3aと成分B3bの合計に対して、0質量%以上とすることができ、0質量%であってもよい。
【0043】
上記の通り、通常、オレフィンのスルホン化で得られる反応生成物は、二重結合を持たないヒドロキシアルカンスルホン酸塩と、二重結合を持つオレフィンスルホン酸塩とを含んでいる。本発明では、オレフィンスルホン酸塩という場合、二重結合を持たないヒドロキシアルカンスルホン酸塩を含むものとする。従って、本発明でいう、全オレフィンスルホン酸塩とは、二重結合を持つオレフィンスルホン酸塩(以下、オレフィン体という場合もある)と二重結合を持たないヒドロキシアルカンスルホン酸塩(以下、ヒドロキシ体という場合もある)の両方を指す。
【0044】
また、オレフィンスルホン酸塩(オレフィン体及びヒドロキシ体)には、スルホン酸基が炭素鎖の1位以外の位置に存在するオレフィンスルホン酸塩と、スルホン酸基が炭素鎖の1位に存在するオレフィンスルホン酸塩(成分B3b)とがある。
【0045】
なお、本発明で含有量が制限される成分B3bの、スルホン酸基が炭素鎖の1位に存在するオレフィンスルホン酸塩は、以下の式で概略的に表される化合物である。成分B3aは、以下の式では、スルホン酸基が炭素鎖の1位以外の炭素原子に結合した化合物として表現できる。
【0046】
【化1】

(式中、Rはアルキル基、nは0以上、好ましくは1以上の整数、Mは対イオンである。)
【0047】
成分Aは、前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、炭素数14以上20以下であり、炭素数16以上18以下が好ましい。
【0048】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、成分B3aとして、スルホン酸基が炭素鎖の1位以外に存在する炭素数が16の内部オレフィンスルホン酸塩(以下、C16内部オレフィンスルホン酸塩という)、及びスルホン酸基が炭素鎖の1位以外に存在する炭素数が18の内部オレフィンスルホン酸塩(以下、C18内部オレフィンスルホン酸塩という)から選ばれる内部オレフィンスルホン酸塩を含有することが好ましく、C16内部オレフィンスルホン酸塩を含有することがより好ましい。なお、成分B3aとして、C16内部オレフィンスルホン酸塩とC18内部オレフィンスルホン酸塩の両方を含有する場合、起泡性の観点から、C16内部オレフィンスルホン酸塩/C18内部オレフィンスルホン酸塩の質量比は、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上、より好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは100以下、より好ましくは10以下である。
【0049】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物では、バイオフィルム除去性の観点から、全オレフィンスルホン酸塩中、炭素数が16であるオレフィンスルホン酸塩の割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%であってもよい。ここでの全オレフィンスルホン酸塩は、炭素数が12以上、22以下のものを指すことができる。
【0050】
更に、本発明のバイオフィルム除去剤組成物では、バイオフィルム除去性の観点から、全オレフィンスルホン酸塩中、C16内部オレフィンスルホン酸塩の割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%であってもよい。ここでの全オレフィンスルホン酸塩は、炭素数が12以上、22以下のものを指すことができる。
【0051】
(B4)成分である脂肪酸又はその塩としては、前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、炭素数10以上20以下の脂肪酸又はその塩が好ましい。前記の(A)成分と併用することで、対象物に付着したバイオフィルムを除去する効果がより高まる観点から、(B4)成分は、炭素数12以上18以下の脂肪酸又はその塩がより好ましい。
【0052】
(B1)成分~(B4)成分であるアニオン界面活性剤の塩としては、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩又はカリウム塩がより好ましく、ナトリウム塩が更に好ましい
本発明において、(B)成分の量は、対イオンがナトリウム塩に換算した量を用いる。
【0053】
なお、本発明では、成分B3aと成分B3bの要件を満たせば、これら以外のオレフィンスルホン酸塩が含まれていてもよい。ただし、全オレフィンスルホン酸塩中、成分B3aの割合は、好ましくは85質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%であってもよい。
【0054】
成分B3aの内部オレフィンスルホン酸塩、また、その他のオレフィンスルホン酸塩の対イオンとして、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩などが挙げられるが、バイオフィルム除去性の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、更にそのなかでも、ナトリウム塩及び/又はカリウム塩が好ましい。
【0055】
〔バイオフィルム除去剤組成物〕
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、(A)成分及び(B)成分を含有する。本発明のバイオフィルム除去剤組成物における(A)成分の含有量は、バイオフィルム除去効果の観点から、0.5質量%以上である。
【0056】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、バイオフィルム除去効果をより高める観点から、(A)成分を、好ましくは0.6質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、より更に好ましくは0.8質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは1.2質量%以上、より更に好ましくは1.4質量%以上含有する。より更に好ましくは1.6質量%以上、より更に好ましくは1.8質量%以上含有する。そして、同じ観点から、(A)成分を、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下含有する
【0057】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物における(B)成分の含有量は、バイオフィルム除去効果の観点から、0.25質量%以上である。本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、バイオフィルム除去効果をより高める観点から、(B)成分を、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、より更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上、より更に好ましくは5質量%以上含有する。そして、同じ観点から、(B)成分を、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下含有する
【0058】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、(A)成分と(B)成分が協働してバイオフィルムに作用する事でバイオフィルム除去効果をより高める観点から、(B)成分の含有量と(A)成分の含有量の比である、(B)成分/(A)成分が質量比で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、より更に好ましくは0.3以上、より更に好ましくは0.5以上、より更に好ましくは1以上、より更に好ましくは2以上、より更に好ましくは2.1以上、より更に好ましくは2.5以上、そして、同じ観点から、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下、より更に好ましくは7以下、より更に好ましくは6以下である。より更に好ましくは5以下である。
【0059】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、水を含有することが好ましい。本発明のバイオフィルム除去剤組成物における水の含有量は、(A)成分と(B)成分が協働してバイオフィルムに作用する事でバイオフィルム除去効果をより高める観点から、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、そして99.25質量%以下であり、好ましくは90質量%以下であり、より更に好ましくは80質量%以下である。
【0060】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物のpH(25℃)は、バイオフィルム除去効果の点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、より好ましくは4以上、より好ましくは5以上、より好ましくは6以上であり、同じ観点から、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、より更に好ましくは8.5以下、より更に好ましくは8.0以下である。pHは以下記載の方法で測定することができる。
【0061】
〔pH(25℃)の測定方法〕
pHメーター(HORIBA製 pH/イオンメーターF-23)にpH測定用複合電極(HORIBA製 ガラス摺り合わせスリーブ型)を接続し、電源を投入する。pH電極内部液としては、飽和塩化カリウム水溶液(3.33モル/L)を使用する。次に、pH4.01標準液(フタル酸塩標準液)、pH6.86(中性リン酸塩標準液)、pH9.18標準液(ホウ酸塩標準液)をそれぞれ100mLビーカーに充填し、25℃の恒温槽に30分間浸漬する。恒温に調整された標準液にpH測定用電極を3分間浸し、pH6.86→pH9.18→pH4.01の順に校正操作を行う。測定対象となるサンプル(処理媒体)を25℃に調整し、前記のpHメーターの電極をサンプルに浸漬し、1分後のpHを測定する。
【0062】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、バイオフィルムへ作用させる場面においては、通常、水溶液、水分散剤液等の液体の形態で用いられる。その場合、本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、水などで希釈することなく、そのまま用いることができる。
【0063】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物は、前記(A)成分、前記(B)成分以外の任意成分((C成分))として、下記(c1)~(c9)成分などを含有することができる。
(c1)ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、カルボキシメチルセルロースなどの再汚染防止剤及び分散剤
(c2)過酸化水素、過炭酸ナトリウム又は過硼酸ナトリウム等の漂白剤
(c3)テトラアセチルエチレンジアミン、特開平6-316700号の一般式(I-2)~(I-7)で表される漂白活性化剤等の漂白活性化剤
(c4)セルラーゼ、アミラーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼ及びリパーゼから選ばれる1種以上の酵素
(c5)蛍光染料、例えばチノパールCBS(商品名、チバスペシャリティケミカルズ製)やホワイテックスSA(商品名、住友化学社製)として市販されている蛍光染料
(c6)ブチルヒドロキシトルエン、ジスチレン化クレゾール、亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤
(c7)色素、香料、シリコーン等の消泡剤
(c8)(B)成分成分以外の界面活性剤
(c9)芳香環を有する抗菌性化合物
【0064】
(c9)成分は、例えば、芳香環を有する非イオン性の抗菌性化合物であってよい。(c9)成分について、抗菌性化合物とは、例えば、木綿金巾#2003に該当化合物1質量%を均一に付着させた布を用いJIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験法」の方法で抗菌性試験を行い発育阻止帯が見られる化合物であってよい。
【0065】
(c9)成分としては、ジフェニルエーテル骨格を有する抗菌性化合物、フェノール誘導体から選択される抗菌性化合物、安息香酸誘導体から選択される抗菌性化合物等が挙げられる。バイオフィルムの除去効果をより高める観点から、ジフェニルエーテル骨格を有する抗菌性化合物、例えば、ハロゲン原子を含みジフェニルエーテル骨格を有する抗菌性化合物が好ましい。具体的な化合物としては、ダイクロサン、トリクロサン、安息香酸、パラベン等が挙げられ、バイオフィルムの除去効果をより高める観点から、ダイクロサン、トリクロサンが好ましく、更にバイオフィルムの除去効果をより高める観点から、ダイクロサンがより好ましい。
【0066】
本発明のバイオフィルム除去剤組成物が(c9)成分を含有する場合、バイオフィルム除去剤組成物は、バイオフィルムの除去効果をより高める観点から、(c9)成分を、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下含有する。
【0067】
[バイオフィルムの除去方法]
本発明のバイオフィルム除去方法は、対象物に付着したバイオフィルムに、(A)成分を0.5質量%以上及び(B)成分を0.25%質量%以上含有するバイオフィルム除去剤組成物を接触させる、バイオフィルム除去方法であり、対象物に付着しているバイオフィルムを除去することができる。バイオフィルムを除去する方法としては、下記工程1が挙げられる。
【0068】
[工程1]
本発明のバイオフィルム除去剤組成物を、対象物に付着したバイオフィルムに接触させる工程。
【0069】
前記、工程1において、対象物に付着したバイオフォルムに、前記バイオフィルム除去剤組成物を接触させる方法として、例えば、浸漬、塗布あるいは散布等により、接触させる方法が挙げられる。バイオフィルム除去剤組成物とバイオフィルムを接触させておく時間は、付着しているバイオフィルムの量、バイオフィルム除去剤組成物の濃度、接触時の温度、物理力の有無により異なるが、通常は数秒から数時間の範囲である。(A)成分と(B)成分が協働してバイオフィルムに作用する事でバイオフィルム除去効果をより高める観点から、好ましくは10秒以上であり、より好ましくは1分以上、より更に好ましくは5分以上であり、そして、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下、より好ましくは10分以下である。
【0070】
バイオフィルムに接触させるバイオフィルム除去剤組成物の温度は、厳密に制御する必要はないが、(A)成分と(B)成分が協働してバイオフィルムに作用する事でバイオフィルム除去効果をより高める観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下である。
【0071】
本発明のバイオフィルム除去方法は、前記工程1の後に、下記工程2を行うことが、(A)成分と(B)成分が協働してバイオフィルムに作用する事でバイオフィルム除去効果をより高める観点から好ましい。
【0072】
[工程2]
前記工程1の後、バイオフィルムとバイオフィルム除去剤組成物が付着した対象物に水を接触させる工程。
【0073】
工程2を行うことで、(A)成分と(B)成分が協働してバイオフィルムに作用したバイオフィルムを対象物からより除去することが出来る点で好ましい。工程2で用いる水は、特に制限されないが、イオン交換水、水道水、蒸留水、井戸水などを用いることができる。
【0074】
工程2で用いる水の温度は、厳密に制御する必要はないが、(A)成分と(B)成分が協働して作用したバイオフィルムを対象物からより除去しやすくする観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下である。
【0075】
工程2で用いる水の量は、特に制限されないが、(A)成分と(B)成分が協働して作用したバイオフィルムを対象物からより除去しやすくする観点から、前記工程1で用いたバイオフィルム除去剤の質量に対して、好ましくは0.5倍以上、より好ましくは1倍以上、より更に好ましくは2倍以上、より更に好ましくは3倍以上、より更に好ましくは4倍以上が好ましい。また、省資源の観点から、工程2で用いる水の量は、前記工程1で用いたバイオフィルム除去剤の質量に対して、好ましくは10000倍以下、より好ましくは8000倍以下、より更に好ましくは6000倍以下、より更に好ましくは3000倍以下である。
【0076】
工程2における、バイオフィルムとバイオフィルム除去剤組成物が付着した対象物に水を接触させる工程は1回以上5回以下が好ましい。(A)成分と(B)成分が協働して作用したバイオフィルムを対象物からより除去しやすくする観点から、1回以上が好ましく、より好ましくは2回以上、そして4回以下が好ましく、3回以下がより好ましい。
【0077】
工程2において、バイオフィルムとバイオフィルム除去剤組成物が付着した対象物に水を接触させる時間は、(A)成分と(B)成分が協働してバイオフィルムに作用する事でバイオフィルム除去効果をより高める観点から、好ましくは10秒以上であり、より好ましくは1分以上、より更に好ましくは5分以上、そして、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下、より好ましくは10分以下である。
【0078】
[バイオフィルム]
バイオフィルムは、固体や液体の表面に付着した細菌やカビ等の微生物の群落が分泌物等と共に形成した構造体である。バイオフィルムは、細胞が互いに張り付くか、又は織物、食器類又は硬質の表面若しくは別の種類の表面などの表面に張り付くいずれかの微生物群によって産生される。これらの接着細胞は、細胞外ポリマー物質(EPS)の自己生成マトリクス内に包埋されていることが多い。
【0079】
洗濯物上において、バイオフィルム産生細菌は、以下の種に見出され得る:アシネトバクター属(Acinetobacter sp.)、アエロミクロビウム属(Aeromicrobium sp.)、ブレブンディモナス属(Brevundimonas sp.)、ミクロバクテリウム属(Microbacterium sp.)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、ステノトロホモナス属(Stenotrophomonas sp.)、緑膿菌(Pseudomonas属)、ロドトルラ菌(Rhodotorula属)、メチロバクテリウム菌(Methylobacterium属)、ロゼオモナス菌(Roseomonas属)、モラクセラ菌(Moraxella属)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus属)及びマイクロコッカス菌(Micrococcus属)。硬質表面上において、バイオフィルム産生細菌としては、以下の種に見出され得る:アシネトバクター属(Acinetobacter sp.)、アエロミクロビウム属(Aeromicrobium sp.)、ブレブンディモナス属(Brevundimonas sp.)、ミクロバクテリウム属(Microbacterium sp.)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)及びステノトロホモナス属(Stenotrophomonas sp.)。
【0080】
[対象物]
本発明において、バイオフィルムが付着した対象物は制限されないが、硬質表面、例えば、台所、浴室、トイレの床、シンク、厨房、浴室設備、トイレの排水溝、配水管、浴場施設、食品製造又は飲料製造プラント、産業用の冷却タワー当の冷却水系、内視鏡、カテーテル、人口透析等の医療機器等が挙げられる。また、他の対象物として、スポンジ、繊維、又は繊維製品等が挙げられる。
【0081】
硬質表面の素材の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチック、金属、木材、セラミック等が挙げられる。
【0082】
構造が複雑で、内部構造を有する対象物でバイオフィルムが発生すると、内部の方に付着しているバイオフィルムは除去しにくい。本発明のバイオフィルム除去剤組成物、又はバイオフィルム除去方法において、(A)成分と(B)成分が協働して作用することで、対象物の内部に付着したバイオフィルムを対象物からより除去できる観点から、対象物は繊維又は繊維製品が好ましい。
【0083】
繊維は、疎水性繊維、親水性繊維のいずれでも良い。疎水性繊維としては、例えば、タンパク質系繊維(牛乳タンパクガゼイン繊維、プロミックスなど)、ポリアミド系繊維(ナイロンなど)、ポリエステル系繊維(ポリエステルなど)、ポリアクリロニトリル系繊維(アクリルなど)、ポリビニルアルコール系繊維(ビニロンなど)、ポリ塩化ビニル系繊維(ポリ塩化ビニルなど)、ポリ塩化ビニリデン系繊維(ビニリデンなど)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン系繊維(ポリウレタンなど)、ポリ塩化ビニル/ポリビニルアルコール共重合系繊維(ポリクレラールなど)、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系繊維(ベンゾエートなど)、ポリフルオロエチレン系繊維(ポリテトラフルオロエチレンなど)、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリコーンカーバイト繊維、岩石繊維(ロックファイバー)、鉱滓繊維(スラッグファイバー)、金属繊維(金糸、銀糸、スチール繊維)等が例示される。親水性繊維としては、例えば、種子毛繊維(木綿、カポックなど)、靭皮繊維(麻、亜麻、苧麻、大麻、黄麻など)、葉脈繊維(マニラ麻、サイザル麻など)、やし繊維、いぐさ、わら、獣毛繊維(羊毛、モヘア、カシミヤ、らくだ毛、アルパカ、ビキュナ、アンゴラなど)、絹繊維(家蚕絹、野蚕絹)、羽毛、セルロース系繊維(レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテートなど)等が例示される。
【0084】
繊維製品としては、前記の疎水性繊維や親水性繊維を用いた織物、編物、不織布等の布帛及びそれを用いて得られたアンダーシャツ、Tシャツ、ワイシャツ、ブラウス、スラックス、帽子、ハンカチ、タオル、ニット、靴下、下着、タイツ、マスク等の製品が挙げられる。
【実施例0085】
<実施例及び比較例>
下記配合成分を用い、表1、表2に示すバイオフィルム除去剤組成物を調製し、対象物に付着したバイオフィルム除去の評価を行った。表中の成分の数値は質量%である。
(A)成分
(a-1):ベンジルアルコール、花王(株)製
(a-2):ジエチレングリコールモノブチルエーテル、花王(株)製
(a-3):フェノキシエタノール、花王(株)製
(a-4):2-フェニルエタノール:富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級
(a-5):1-ペンタノール:富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級
(a-6):ヘキサノール:富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級
(a-7):1-オクタノール:富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級
(a’-1):プロピレングリコール:富士フイルム和光純薬(株)製、試薬特級
【0086】
(B)成分
(b-1):C16IOS:下記の製造例で得られた炭素数16の内部オレフィンスルホン酸カリウム塩
【0087】
<C16IOSの製造例>
C16IOSは、炭素数16の内部オレフィンを用いて、特開2014-76988号の製造例に記載の方法を参考にして得た。得られたC16IOSの内部オレフィンスルホン酸カリウム塩中のオレフィン体(オレフィンスルホン酸カリウム)/ヒドロキシ体(ヒドロキシアルカンスルホン酸カリウム)の質量比は17/83である。C16IOS中のヒドロキシ体のスルホン酸基の位置分布の質量割合は、1位/2位/3位/4位/5位/6~9位=2.3%/23.6%/18.9%/17.5%/13.7%/11.2%/6.4%/6.4%/0%(合計100質量%)であった。また、(IO-1S)/(IO-2S)≒1.6(質量比)である。ここで、(IO-1S)/(IO-2S)は、スルホン酸基が2位以上4位以下に存在する内部オレフィンスルホン酸塩(IO-1S)の含有量と、スルホン酸基が5位以上に存在する内部オレフィンスルホン酸塩(IO-2S)の含有量との質量比である。
【0088】
(b-2):ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ネオペレックス G-25、花王(株)製
【0089】
(b-3):ドデシル硫酸ナトリウム、富士フイルム和光純薬(株)製、試薬一級
【0090】
(b-4):ポリオキシエチレンアルキル(炭素数10~16)エーテル硫酸ナトリウム塩、一般式(B2-1)で表される化合物であり、プロピレンオキシ基(PO)の平均付加モル数が0モル、エチレンオキシ基(EO)の平均付加モル数は2モルの化合物
【0091】
(b-5):ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数12~14)エーテル硫酸モノエタノールアミン塩、一般式(B2-1)で表される化合物であり、アルキレンオキシ基は、プロピレンオキシ基(PO)の平均付加モル数が2モル、エチレンオキシ基(EO)の平均付加モル数が2モルであり、一般式(B2-1)中のR1-O-にPO、EOがこの順でブロック結合した化合物
【0092】
水:イオン交換水
<バイオフィルム除去効果の評価方法>
<使用試薬>
ポテトデキストロース寒天培地「ニッスイ」(日本製薬株式会社)
R2A培地「ダイゴ」(日本製薬株式会社)
【0093】
<使用菌株>
Methylobacterium variabile(衣類分離株)
Rhodotorula mucilaginosa(衣類分離株)
Roseomonas mucosa(衣類分離株)
【0094】
<使用器具>
マイクロプレート(IWAKI製)
バイオシェイカー(TAITEC製 BioShaker BR-23UM)
分光光度計(株式会社アペレ製PD-303S)
アルミブロックヒーター(SONICS製ALB-221)
1.5mLマイクロチューブ(Eppendorf製)
高速遠心機(Eppendorf製 Centrifuge 5424 R)
ガラス試験管(Corning PYREX製)
ボルテックスミキサー(LMS製 VTX-3000L)
マイクロプレートリーダー(TECAN製Infinite(R)200PRO)
【0095】
<実験方法>
〔使用菌株の前培養〕
-80℃で保管している上記菌株の10%グリセロール懸濁液0.1mLをポテトデキストロース寒天培地に塗抹し、コンラージ棒で塗り広げ、30℃、72時間静置培養した。
【0096】
〔液体培地の準備〕
イオン交換水1Lに対してR2A液体培地を3.2g溶解し、121℃、15分間オートクレーブ処理を行った。
【0097】
〔モデルバイオフィルムの作成〕
R2A液体培地に、塩化カルシウムと塩化マグネシウムを質量比で8:2の割合で混合し、硬度を4°dHに調整した。さらに炭酸水素ナトリウムと塩酸を添加し、アルカリ度を調整した。前培養したコロニーをかきとり、このR2A液体培地に懸濁し、分光光度計を用いて波長600nmにおいて濁度が0.1となるよう調製した。Methylobacterium、Rhodotorula、Roseomonasについて同様の操作によりそれぞれ菌液を調製し、3種の菌液を体積比1:1:1となるよう混合した。混合した菌液を24wellマイクロプレートに300μL/well分注し、30℃で24時間静置培養した。
【0098】
培養後にマイクロプレートの各wellよりR2A液体培地を抜去し、イオン交換水を500μL/well加え、抜去することで洗浄した。さらに安全キャビネット内で1時間静置し乾燥させることでバイオフィルムをマイクロプレートの底面に固着させた。
【0099】
〔バイオフィルム除去方法〕
[工程1]
モデルバイオフィルムを形成させたマイクロプレートに表1、表2に記載のバイオフィルム除去剤組成物を500μL/well添加し、バイオシェイカーにより180rpmで30分間振盪した。バイオフィルム除去剤組成物を抜去した。
【0100】
[工程2]
工程1の後のマイクロプレートにイオン交換水を1000μL/well添加し、バイオシェイカーにより180rpmで5分間振盪する操作を3回繰り返した。
【0101】
〔全糖量の定量〕
バイオフィルム除去方法を行った後のマイクロプレートに0.1M NaoH水溶液を500μL/well添加し、プレート上に残ったバイオフィルムを懸濁させた。懸濁液を1.5mLマイクロチューブに移し、100℃のアルミブロックヒーターで60分間加熱し、除熱後に高速遠心機にて12,000rpm、10min、25℃で遠心分離した上清をサンプルとして用いた。フェノール硫酸法によりサンプル中のバイオフィルム成分である全糖量を定量した。
【0102】
サンプル100μLと5%フェノール水溶液100μLをガラス試験管に入れボルテックスミキサーで混合し、濃硫酸500μLを加えてさらに混合したのち、反応液を室温まで冷却した。反応液を96wellマイクロプレートに200μL/well移し、マイクロプレートリーダーを用いて励起光波長490nmにおける吸光度を測定した。グルコース標準希釈液についても同様の操作を行い、検量線を作成した。検量線と反応液の吸光度より、残バイオフィルムの全糖量をグルコース換算値で算出した。
【0103】
〔バイオフィルム除去向上率の計算〕
[(イオン交換水処理後の全糖量)-(バイオフィルム除去剤組成物で処理した後の全糖量)]/ (イオン交換水処理後の全糖量) ×100(%)として各試験液によるバイオフィルム除去率を算出した。
【0104】
表1は比較例1のバイオフィルム除去率を1とした時の、各組成物のバイオフィルム除去率の向上率を下記算出方法で算出した。
(各バイオフィルム除去剤組成物によるバイオフィルム除去率)/ (表1の比較例1に記載のバイオフィルム除去剤組成物)
【0105】
バイオフィルム除去向上率が1.0以上を合格とした。数値が高い方がより好ましい。
【0106】
表2において、は、表1の比較例1に記載のバイオフィルム除去剤組成物に替えて、比較例6のバイオフィルム除去率を1とした時の、実施例13のバイオフィルム除去率の向上率を測定した。同様に、比較例7を基準として実施例14、比較例8を基準として実施例15、比較例9を基準として実施例16のバイオフィルム除去向上率を算出した。1.0以上を合格とした。数値が高い方がより好ましい。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】