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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160688
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】穿刺補助具
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/42 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
A61M5/42
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071214
(22)【出願日】2022-04-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】522165706
【氏名又は名称】林口 登
(74)【代理人】
【識別番号】100095452
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 博樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130535
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 明
(74)【代理人】
【識別番号】100183025
【弁理士】
【氏名又は名称】大角 孝一
(72)【発明者】
【氏名】林口 登
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066LL13
(57)【要約】
【課題】構造が簡単で、使い易く安価な穿刺補助具を提供する。
【解決手段】本発明の穿刺補助具1は、手Hの動脈Aの穿刺を補助する穿刺補助具であって、親指Tが上で小指Sが下となる状態の手Hで握られる状態で基台3に立てられる握り部5と、基台3に設けられ、握り部5を握る状態の手Hの手首Wを下から指示して、手Hを尺屈させる尺屈作用部7と、を備え、尺屈作用部7は、手Hの遠位橈骨動脈A1を穿刺部位Bとするように手Hを尺屈させるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手の動脈の穿刺を補助する穿刺補助具であって、
親指が上で小指が下となる状態の手で握られる状態で基台に立てられる握り部と、
前記基台に設けられ、前記握り部を握る状態の手の手首を下から支持して手を尺屈させる尺屈作用部と、を備え、
前記尺屈作用部は、手の遠位橈骨動脈を穿刺部位とするように手を尺屈させる、
ことを特徴とする穿刺補助具。
【請求項2】
請求項1に記載の穿刺補助具において、
前記握り部は、前記尺屈作用部により尺屈された姿勢の手で握れる角度に傾斜して立てられている、
ことを特徴とする穿刺補助具。
【請求項3】
請求項2に記載の穿刺補助具において、
前記握り部を握る状態の手の手首に接して手を背屈させる背屈作用部を備える、
ことを特徴とする穿刺補助具。
【請求項4】
請求項3に記載の穿刺補助具において、
前記背屈作用部は、手が前記握り部を握った状態で手の甲が下になるように手首を回転することで、手の橈骨動脈を穿刺部位とするように手を背屈させる、
ことを特徴とする穿刺補助具。
【請求項5】
請求項4に記載の穿刺補助具において、
前記尺屈作用部は、前記手首を支持する部分は凸曲面形状に形成され、
前記背屈作用部は、前記手首を背屈させる部分は凸曲面形状に形成されている、
ことを特徴とする穿刺補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管に穿刺する際に使われる穿刺補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の腕の血管を穿刺して形成した腕の穿刺部位を介して各種の医療用長尺体を血管内に導入し、病変部位に対する処置や治療を行うカテーテル手術がある。穿刺補助具は、穿刺の際に穿刺対象部位を穿刺に適した状態にするために使われる。
この種の穿刺補助具の一例として、特許文献1に記載のものが挙げられる。特許文献1に記載されている穿刺補助具は、手の遠位橈骨動脈に穿刺する際に使われるもので、親指固定部と、親指以外の他の指によって握られる握り部とを備えている。親指固定部は、台座調整部によって握り部に対する固定位置を調整可能であり、更に台座傾斜部によって握り部に対して傾斜可能に構成されている。また、握り部は、前腕固定部に対してグリップ調整部によって傾斜可能に構成されている。
このような構造によって、遠位橈骨動脈に穿刺する際に穿刺部位を穿刺に適した状態にすることができる、言い換えると、手を穿刺し易い姿勢にすることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開 WO2019/240110 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、穿刺補助具は、遠位橈骨動脈に穿刺する際に穿刺部位を穿刺に適した状態にすることができると記載されている。しかし、その穿刺補助具は、前記親指固定部と握り部を備え、更に前記台座調整部、前記台座傾斜部、更に前記グリップ調整部によって血管の前記穿刺部位を穿刺に適した状態にする構造である。そのため、穿刺補助具の全体の構造が複雑であり、製造コストも低廉化が難しいものである。
また、前記台座調整部、前記台座傾斜部および前記グリップ調整部の三か所をその都度調整する必要があるので、使用に際して熟練を要し、使い勝手が良くない問題がある。
そこで、本発明の目的は、構造が簡単で、使い易い穿刺補助具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る穿刺補助具は、手の橈骨動脈の穿刺を補助する穿刺補助具であって、親指が上で小指が下となる状態の手で握られる状態で基台に立てられる握り部と、前記基台に設けられ、前記握り部を握る状態の手の手首を下から支持して手を尺屈させる尺屈作用部と、を備え、前記尺屈作用部は、手の遠位橈骨動脈を穿刺部位とするように手を尺屈させることを特徴とする。
ここで、「手の遠位橈骨動脈を穿刺部位とするように手を尺屈させる」とは、前記尺屈作用部が、手の遠位橈骨動脈に対応する甲部分を、凹んだ状態ではなく、凸曲面又は平坦面にして穿刺し易い状態を作るように手を尺屈させる構造であることを意味する。
【0006】
本態様によれば、前記握り部と、前記握り部を握る状態の手の手首を下から支持して手を尺屈させる尺屈作用部とを備える。そして、前記尺屈作用部は、手の遠位橈骨動脈を穿刺部位とするように手を尺屈させる。これにより、患者は手を本態様に係る穿刺補助具に置いて、手で握り部を握るだけで、前記尺屈作用部によって手の遠位橈骨動脈が穿刺し易い状態になるので、使い易い。また、構造も簡単であり、製造が容易である。
【0007】
本発明の第2の態様に係る穿刺補助具は、第1の態様において、前記握り部は、前記尺屈作用部により尺屈された姿勢の手で握れる角度に傾斜して立てられていることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、前記前記握り部は、前記尺屈作用部により尺屈された姿勢の手で握れる角度に傾斜して立てられている。これにより、患者は手を自然な力の状態で穿刺補助具に預けることができ、楽であると共に、手の遠位橈骨動脈が一層穿刺しやすい状態になる。
【0009】
本発明の第3の態様に係る穿刺補助具は、第2の態様において、前記握り部を握る状態の手の手首に接して手を背屈させる背屈作用部を備えることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、前記握り部を握る状態の手の手首に接して手を背屈させる背屈作用部を備える。これにより、患者の手は穿刺補助具に預けた状態で安定し、楽である。
【0011】
本発明の第4の態様に係る穿刺補助具は、第3の態様において、前記背屈作用部は、手が前記握り部を握った状態で手の甲が下になるように手首を回転することで、手の橈骨動脈を穿刺部位とするように手を背屈させることを特徴とする。
ここで、「手の橈骨動脈を穿刺部位とするように手を背屈させる」とは、前記背屈作用部が、手の橈骨動脈に対応する手首部分を、凹んだ状態ではなく、凸曲面又は平坦面にして穿刺し易い状態を作るように手を背屈させることを意味する。
【0012】
本態様によれば、前記背屈作用部は、手が前記握り部を握った状態で手の甲が下になるように手首を回転することで、手の橈骨動脈を穿刺部位とするように手を背屈させる。これにより、遠位橈骨動脈への穿刺が適切に行えない場合に、手首の橈骨動脈への穿刺に切り換えることを容易に行うことができる。
【0013】
本発明の第5の態様に係る穿刺補助具は、第4の態様において、前記尺屈作用部は、前記手首を支持する部分は凸曲面形状に形成され、前記背屈作用部は、前記手首を背屈させる部分は凸曲面形状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、前記尺屈作用部と前記背屈作用部は、いずれも凸曲面形状に形成されている。これにより、手首から腕の部分が無理なく自然の状態で保持され、患者は楽であると共に、穿刺部位に対する穿刺を一層行い易い状態になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の穿刺補助具を表す斜視図。
図2】本実施形態の穿刺補助具を使って遠位橈骨動脈に穿刺する場合を表す斜視図。
図3】本実施形態の穿刺補助具を表す側面図。
図4】本実施形態の穿刺補助具を表す平面図。
図5】本実施形態の穿刺補助具を使用して橈骨動脈に穿刺する場合を表す斜視図。
図6】本実施形態の穿刺補助具の使用状態を示す図で、遠位橈骨動脈穿刺時の正面図(a)と、橈骨動脈穿刺時の正面図(b)。
図7】本実施形態の穿刺補助具の尺屈作用部の効果を示す図で、尺屈作用部を設けた場合の側面図(a)と、尺屈作用部を設けない場合の側面図(b)。
図8】本実施形態の穿刺補助具の背屈作用部の効果を示す図で、背屈作用部を設けた場合の側面図(a)と、背屈作用部を設けない場合の側面図(b)。
図9】本実施形態の穿刺補助具における尺屈作用部の変形例を表す側面図。
図10】本実施形態の穿刺補助具における背屈作用部の変形例を表す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る穿刺補助具の実施形態について図1から図8に基づいて説明する。
以下の説明においては、互いに直交する3つの軸を、各図に示すように、それぞれX軸、Y軸、Z軸とする。Z軸方向は鉛直方向即ち重力が作用する方向に相当する。X軸方向及びY軸方向は、水平方向に相当する。各図において、3つの軸(X,Y,Z)の矢印の示す方向が各方向の+方向であり、その逆が-方向である。
【0017】
[実施形態1]
図1図2に示したように、本実施形態1の穿刺補助具1は、例えばカテーテル手術等を行う際に手Hの動脈Aに針18を穿刺する場合にその補助具として使用される。
具体的には、穿刺補助具1は、親指Tが上で、小指Sが下となる姿勢の手Hで握られる状態で基台3に立てられる握り部5と、同じく基台3に設けられ、握り部5を握る状態の手Hの手首Wを下から支持して手Hを尺屈させる尺屈作用部7とを備えている。
【0018】
尚、図1図2に示した穿刺補助具1は右手用である。左手用の穿刺補助具は右手用と対称構造である以外は同じになるので、その図示及び説明は省略する。
また、図2以降においては、手Hは二点鎖線で記載されている。図2から図5は穿刺補助具1が手Hによって隠れないように手Hは透視可能な状態で記載されている。
【0019】
<握り部>
握り部5は、本実施形態では、図6に示したように、手Hの5本の指で握り易い太さと長さの丸棒によって形成されている。尚、握り部5の形状は、前記丸棒は一例であり、六角形等の角棒等、握りやすいものであればよく、特定の形状に限定されない。
また、本実施形態では、図3に示したように、握り部5は、患者が手首Wを尺屈作用部7に置いて手Hで握り部5を握ったとき、尺屈作用部7により尺屈された姿勢の手Hで握れる角度に傾斜して基台3に立てられている。具体的には、握り部5は、その上端が幾分斜め前方(+Y方向)に鉛直方向に対して約10度傾斜した角度で設けられている。握り部5の前記角度は、10度に限定されないことは勿論である。握り部5の前記角度は、尺屈作用部7の後述する高さ部分Pとの関係で適宜設定されることが望ましい。
【0020】
<尺屈作用部>
尺屈作用部7は、手Hの遠位橈骨動脈A1を穿刺部位Bとするように手Hを尺屈させる目的で設けられている。ここで、手Hの遠位橈骨動脈A1を穿刺部位Bとするように手を尺屈させるとは、図3に示したように、尺屈作用部7が、手Hの遠位橈骨動脈A1に対応する甲部分を、凹んだ状態ではなく、凸曲面又は平坦面にして穿刺し易い状態を作るように手を尺屈させる構造であることを意味する。
本実施形態では、尺屈作用部7は、図1から図3に示したように、手首Wを支持する部分は凸曲面形状に形成されている。この点については後述する。
【0021】
基台3は、図2に示したように、握り部5が設けられる先端部から握り部5を握った患者の肘方向(-Y方向)に延設されている。基台3は下面4が平坦面に形成され、机等の平らな上面Uに下面4を接触させて置けるように形成されている。穿刺補助具1は、基台3の下面4が机等の上面Uに置かれている状態で、握り部5を握っている患者の手Hを支持するように構成されている。基台3は、ここでは平板状に形成されている。
尺屈作用部7は、基台3の延設方向である第1方向C(-Y方向)のほぼ中間部に位置し、該第1方向Cと交差する幅方向である第2方向D(-X方向)に向けて延びるように設けられている。具体的には、尺屈作用部7は、基台3の第1方向Cの中央部で高く、その先端側と後端側で低くなる、一例として図1に示した流線形状の滑らかな前記凸曲面形状に形成されている。そして、尺屈作用部7の前記中央部の高くなった部分Pが患者の手首Wに直接接触して患者の手Hを尺屈姿勢にするように構成されている。
【0022】
尺屈作用部7の第2方向Dの長さは、患者が握り部5を握って尺屈作用部7の上に手首Wを置いたとき、丁度手首Wが収まる程度の長さに設定されている。
また、図5に示したように、基台3から第2方向Dに向けて延びる尺屈作用部7の下面8は、基台3の下面4と一部が共通であり、基台3の下面4と面一に連なっている。従って、この下面8も机等の上面Uに置かれることで、握り部5を握った患者の手首Wを基台3の下面4と共に支持し、その手Hの姿勢を安定させるための設置面として機能するように構成されている。
【0023】
また、基台3の第1方向Cの後端部には、その上面の+X側の端部に、握り部5を握った患者の手首Wないし手首Wから肘にかけて延びる前腕の一部の一側面に接触してその姿勢を保持する保持部9が設けられている。保持部9は、ここでは上方に突出した凸曲面形状に形成されている。
また、図1に示したように、基台3と尺屈作用部7と保持部9における外方の一側面は、面一の垂直面11によって形成されている。
【0024】
<背屈作用部>
本実施形態では、図1図2に示したように、穿刺補助具1は、握り部5を握る状態の手Hの手首Wに接して手Hを背屈させる背屈作用部13を備えている。
背屈作用部13は、ここでは尺屈作用部7の第2方向Dの端部に設けられ、握り部5を握った患者の手首Wに接して手Hを背屈させるように構成されている。本実施形態では、背屈作用部13は、基台3の第1方向Cの中央部で厚く、その先端側と後端側で薄くなる平面視流線形状の滑らかな凸曲面形状に形成されている。背屈作用部13の前記中央部の厚くなった部分の頂点部分Qが、患者の手首Wに直接接触して患者の手Hを背屈姿勢にする。
【0025】
また、背屈作用部13の第2方向D側の端面は、垂直面15によって形成されている。この垂直面15により、握り部5を握った患者の手首Wを手Hの甲が下になる方向に回転させたとき、背屈作用部13の垂直面15が机等の上面Uに接触して設置面として機能するように構成されている。
【0026】
図5に示したように、背屈作用部13の垂直面15が机等の上面Uに接触した状態の姿勢では、背屈作用部13の頂点部分Qに患者の手首Wの甲側が接触して手首Wの関節部分を支点として前方の手H側が幾分下方に傾いた守勢になるように構成されている。これにより、手Hの橈骨動脈A2が穿刺部位Bとなるように上方に位置させて手Hを背屈姿勢に移行させる。
ここで、手Hの橈骨動脈A2を穿刺部位Bとするように手Hを背屈させるとは、背屈作用部13が、手Hの橈骨動脈A2に対応する手首部分を、凹んだ状態ではなく、凸曲面又は平坦面にして穿刺し易い状態を作るように手Hを背屈させる構造であることを意味する。
【0027】
また、図2に示したように、背屈作用部13の垂直面15が机等の天面Uと接触しない垂直な起立姿勢では、背屈作用部13の下面17が机等の天面Uに接触している。背屈作用部13の下面17は、平坦面に形成され、基台3の下面4及び尺屈作用部7の下面8と同様に、握り部5を握った患者の手首Wを支持し、当該手Hの姿勢を安定させるための設置面となるように構成されている。
【0028】
<穿刺補助具の材質、製造方法、複数組>
上記のように構成される穿刺補助具1の材質は、安定した保持性能が発揮できる材質が望ましい。具体的には、容易に変形しない硬質のプラスチックや金属、木材、セラミックス等の種々の材料が挙げられる。また、患者の肌に直接触れるものであるので、ウレタンやゴム素材等のソフトな材料で形成してもよい。或いは、前記ソフトな材料は、肌が触れる表面だけを覆うように設け、内部は前記硬質の材料で形成するようにしてもよい。
また、穿刺補助具1の製造方法は、射出成形や切削加工あるいは3Dプリンター等を使用して一体に成形する製造方法が挙げられる。他の製造方法として、各パーツを個別に制作した後、ボルト及びナット等の締付け具を使用して事後的に組み立てることも可能である。
また、上記のように構成される穿刺補助具1は、患者の性別、体格の違い、手の全体形状の違い等を想定して、握り部5、尺屈作用部7及び背屈作用部13の各サイズや各パーツの配置等を異ならせたものを予め複数組作成しておくことが好ましい。こうすることで、患者の手Hに合った穿刺補助具1を選択して使用するようにすることが可能になる。
【0029】
<穿刺補助具による穿刺>
次に、穿刺補助具1を使用して手Hの動脈Aに対して行う穿刺の施術を、(1)遠位橈骨動脈への穿刺と、(2)橈骨動脈への穿刺と、に分けて説明する。
(1)遠位橈骨動脈への穿刺(図2図4および図6(a)参照)
遠位橈骨動脈A1に針18を穿刺する場合には、穿刺補助具1を、基台3の下面4、尺屈作用部7の下面8及び背屈作用部13の下面17を机等の上面Uにすべて接触させた状態にする。
【0030】
患者は予め部分麻酔や消毒等の処置を施した後、穿刺を行う手Hで握り部5を握ると共に、その手首Wを尺屈作用部7上に置く。これにより、尺屈作用部7の中央部の高くなった部分Pが手首Wの一部に接触して、手首Wの関節部分を支点にして手首Wから前方の手Hが自然に下方を向くようになり、患者の手Hは遠位橈骨動脈A1に対する穿刺に適した尺屈姿勢になる。
この状態で穿刺を行う医師が針18を手に持ち、患者の穿刺部位Bとなる遠位橈骨動脈A1に針18を穿刺してカテーテル等を使用した所定の処置や治療を施術する。
【0031】
(2)橈骨動脈への穿刺(図5および図6(b)参照)
遠位橈骨動脈A1に対する穿刺が困難になった患者に対しては、橈骨動脈A2に対して穿刺を実施する。この場合には図6(b)に示すように、握り部5を握った手Hの姿勢のまま手Hを90°回転させて手Hの橈骨動脈A2が穿刺部位Bとなるように上方に位置させる。
この状態では、患者の手首Wは、背屈作用部13上に位置しており、背屈作用部13の頂点部分Qが手首Wの一部に下から接触する。これにより、手首Wの関節部分を支点として手首Wから前方の手Hが自然に下方を向くように傾斜して、橈骨動脈A2に対する穿刺に適した背屈姿勢となる。
この状態で穿刺を行う医師が針18を手に持ち、患者の穿刺部位Bとなる橈骨動脈A2に針18を穿刺してカテーテル等を使用した所定の処置や治療を施術する。
【0032】
<実施形態の効果の説明>(図6図7および図8参照)
ここでは、最初に、図7を使用して尺屈作用部7を設けた場合と、設けない場合と、のそれぞれの手Hの状態を説明し、その後、図8を使用して背屈作用部13を設けた場合と、設けない場合と、のそれぞれの手Hの状態について説明する。
次に、上述した手Hの状態を踏まえて、本実施形態に係る穿刺補助具1の効果について説明する。
【0033】
(1)先ず、本実施形態では、7(a)に示すように、尺屈作用部7が設けられているから、握り部5を握った患者の手首Hを尺屈作用部7上に置くだけで、手首Wから前方の手Hは、手首Wの関節部分を支点として下方に傾いた姿勢に自然に移行する。そして、この姿勢に移行することによって穿刺部位Bとなる遠位橈骨動脈A1が穿刺に適した状態に何らの調整を行うことなく、移行することができる。
一方、図7(b)に示すように尺屈作用部7が設けられていない場合には、手首Wから前方の手Hは、手Hの小指S側の腹と手首Wの腹が基台3の上面に接地した状態になっている。即ち、穿刺部位Bとなる遠位橈骨動脈A1は幾分谷折れ状態に屈曲した穿刺に適さない状態になってしまう。
【0034】
(2)また、本実施形態では図8(a)に示すように、背屈作用部13が設けられているから、前記図6(a)の状態から図6(b)に示すように患者の手Hを外側に90°回転させるだけで、手首Wから前方の手Hは、手首Wの関節部分を支点として下方に傾いた姿勢に自然に移行する。そして、この姿勢に移行することによって穿刺部位Bとなる橈骨動脈A2が穿刺に適した状態に何らの調整を行うことなく、移行することができる。
一方、図8(b)に示すように、背骨作用部13が設けられていない場合には、手Hの甲、手首Wの上面、前腕の上面の一部のすべてが、机等の上面U上に接地した状態になる。
そのため、穿刺部位Bとなる橈骨動脈A2が幾分谷折れ状態に屈曲した穿刺に適さない状態になってしまう。
【0035】
(3)従って、本実施形態に係る穿刺補助具1によれば、患者は手Hで握り部5を握って、手首Wを尺屈作用部7上に置くだけで、手Hの遠位橈骨動脈A1を穿刺に適した状態に自然に移行できて、使い易いという効果が得られる。
また、穿刺補助具1の構造はシンプルであるから、製造が容易で生産性に優れ、穿刺補助具の低コスト化にも寄与することができる。
【0036】
(4)また、本実施形態によれば、握り部5が尺屈作用部7により尺屈された姿勢の手Hで握れる角度に傾斜して立てられている。これにより、患者は自然な力で手Hを穿刺補助具1に預けることができ、非常に楽であると共に、手Hの遠位橈骨動脈A1を一層穿刺し易い状態に移行させることが可能になる。
【0037】
(5)また、本実施形態によれば、握り部5を握る状態の手首Wに接して手Hを背屈させる背屈作用部13が備えられている。これにより、患者は手Hと手首Wと前腕の一部を穿刺補助具1に預けた状態で姿勢が安定し、楽な姿勢で穿刺を受けることが可能になる。
また、本実施形態では更に、背屈作用部13と対向する離間した側方位置に保持部9が設けられているので、背屈作用部13と保持部9の挟持作用によって、前記手Hと手首Wと前腕の姿勢は更に安定するようになる。
【0038】
(6)また、本実施形態によれば、患者は握り部5を握った状態で手Hの甲が下になるように手首Wを回転させるだけで、遠位橈骨動脈A1に対する穿刺姿勢から橈骨動脈A2に対する穿刺姿勢に容易に切り換えることが可能である。
即ち、患者は握り部5を握った状態で上記のように手首Wを回転させるだけで、手首Wから前方の手Hが幾分下方に傾いた橈骨動脈A2の穿刺に適した状態に移行させることができる。
【0039】
(7)また、本実施形態によれば、尺屈作用部7と背屈作用部13のいずれもが凸曲面形状に形成されているから、患者は手首Wから前腕にかけての部分が無理なく自然に保持され、楽な姿勢で痛みもなく、遠位橈骨動脈A1又は橈骨動脈A2に対する穿刺を一層容易に行うことが可能になる。
更に、本実施形態によれば、各パーツが一体成形されたシンプルな構造の穿刺補助具1が採用されているから、穿刺の際に流出した血液等によって患者の穿刺部位Bに加えて穿刺補助具1が汚れた場合でも容易に洗浄して次の使用に備えることができる。
【0040】
[実施形態1の変形例1]
以上の説明では、尺屈作用部7の形状は凸曲面形状であるが、同様の尺屈作用を行うことができるものであれば、前述した実施形態の形状に限定されない。
例えば、図9(a)に示すような断面台形状等の直線的な形状の尺屈作用部7Aであってもよい。或いは、図9(b)に示すように、複数枚の板状部材によって構成される尺屈作用部7Bとしてもよい。更に図9(c)に示すように、軸体と受け手を組み合わせた茸様の尺屈作用部7Cとすることも可能である。
【0041】
[実施形態1の変形例2]
同様に、背屈作用部13の形状は、同様の背屈作用を行うことができるものであれば、前述した実施形態の突曲面形状に限定されない。
例えば、図10(a)に示すような断面台形状等の直線的な形状の背屈作用部13Aであってもよい。或いは、図10(b)に示すように、複数枚の板状部材によって構成される背屈作用部13Bとしてもよい。更に図10(c)に示すように、軸体と受け手を組み合わせた茸様の背屈作用部13Cとすることも可能である。
【0042】
〔他の実施形態〕
本発明に係る穿刺補助具1は、以上述べた実施形態の構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内での部分的構成の変更や省略等を行うことは勿論可能である。
背屈作用部13は、実施形態1のように尺屈作用部7と一体に形成されている構造であるのが好ましいが、同様の背屈作用をするものであれば尺屈作用部7と別体に形成されている構造でもよい。
【0043】
また、握り部5は、丸棒の他、楕円形断面、卵形断面、多角形断面等、円形断面以外の断面を有する棒状部材によって構成することが可能である。また、直線的に延びる形状の握り部5に限らず、湾曲して延びる形状や途中で屈曲した形状の握り部5とすることも可能である。また、握り部5の表面に滑り止め用の凹凸を形成することも可能である。
【0044】
また、基台3は、握り部5、尺屈作用部7及び背屈作用部13の全体を下から支持するベースプレートとしてもよい。この他、保持部9が無くても患者の手首Wと前腕を安定して保持できるときには、保持部9を省略することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…穿刺補助具、 3…基台、 4…下面、5…握り部、 7…尺屈作用部、
8…下面、 9…保持部、 11…垂直面、 13…背屈作用部、 15…垂直面、
17…下面、 18…針、 H…手、 A…動脈、 A1…遠位橈骨動脈、
A2…橈骨動脈、 T…親指、 S…小指、 W…手首、 B…穿刺部位、
P…中央部の高くなった部分、 C…第1方向(延設方向)、
D…第2方向(幅方向)、 Q…頂点部分、 U…上面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手の動脈の穿刺を補助する穿刺補助具であって、
親指が上で小指が下となる状態の手で握られる状態で基台に立てられる握り部と、
前記基台に設けられ、前記握り部を握る状態の手の手首を下から支持して手を尺屈させる尺屈作用部と、を備え、
前記尺屈作用部は、手の遠位橈骨動脈を穿刺部位とするように手を尺屈させ、
前記握り部は、前記尺屈作用部により尺屈された姿勢の手で握れる角度に傾斜して立てられており、
前記握り部を握る状態の手の手首に接して手を背屈させる背屈作用部を備え
前記背屈作用部は、手が前記握り部を握った状態で手の甲が下になるように手首を回転することで、手の橈骨動脈を穿刺部位とするように手を背屈させる、
ことを特徴とする穿刺補助具。
【請求項2】
請求項に記載の穿刺補助具において、
前記尺屈作用部は、前記手首を支持する部分は凸曲面形状に形成され、
前記背屈作用部は、前記手首を背屈させる部分は凸曲面形状に形成されている、
ことを特徴とする穿刺補助具。