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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160699
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】電流検出器
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20231026BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G01R15/20 C
G01R19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022082616
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】595176098
【氏名又は名称】甲神電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖高
(72)【発明者】
【氏名】久保 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 晋太郎
【テーマコード(参考)】
2G025
2G035
【Fターム(参考)】
2G025AA00
2G025AA04
2G025AB01
2G025AC01
2G035AA03
2G035AB01
2G035AB04
2G035AD66
(57)【要約】      (修正有)
【課題】短期的な温度変化や長期的な経年変化に伴う磁性体コアのギャップ寸法変動を抑制し、これに伴う出力特性の変化を抑制する電流検出器を提供する。
【解決手段】電流検出器は樹脂ケース220を備えており、樹脂ケース220にはギャップ112を有する磁性体コア110が収納され、ギャップ112内には被測定電流の検出に用いる磁気検出素子が配置されている。樹脂ケース220と磁性体コア110は夫々を接着固定するための規制部材260を備え、規制部材260はギャップ112に対して180度の位置かつ、コア直線部であるf寸法の範囲で樹脂ケース220と磁性体コア110の間に配置され、規制部材塗布位置227の左右には流動した規制部材260を貯留するための溝部226aと226bを有している。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定電流により生じる磁束を集磁する略環状または略矩形状の磁性体コアにギャップが形成されており、前記磁性体コアの前記ギャップ内に磁気検出素子が配置され、前記磁性体コアと前記磁気検出素子が樹脂ケースに収容される電流検出器であって、前記磁性体コアと前記樹脂ケースを接着するための規制部材を備えており、前記規制部材による前記磁性体コアと前記樹脂ケースの接着領域は、前記磁性体コアの中心での角度で、前記ギャップ中心を基準に周方向にそれぞれ90度の範囲内には存在せず、前記ギャップ中心を基準に周方向に180度の位置から所定の角度の範囲内に存在することを特徴とする電流検出器。
【請求項2】
前記磁性体コアは、前記ギャップ中心を基準に周方向に180度の位置から所定の角度の範囲の内周が略直線である内周直線部を有し、前記内周直線部に、前記規制部材による前記磁性体コアと前記樹脂ケースの接着領域が存在することを特徴とする請求項1に記載の電流検出器。
【請求項3】
前記樹脂ケースは、前記ギャップ中心を基準に周方向に180度の位置から所定の角度の範囲の両端に所定幅と所定深さを有する溝部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電流検出器。
【請求項4】
前記磁性体コアは、前記ギャップ中心を基準に周方向に180度の位置から所定の角度の範囲の外周が略直線である外周直線部を有し、前記外周直線部に凸または凹形状が設けられており、前記樹脂ケースは前記凸または凹形状と嵌め合うように成形された形状を有しており、前記外周直線部に、前記規制部材による前記磁性体コアと前記樹脂ケースの接着領域が存在することを特徴とする請求項1に記載の電流検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性体コアのギャップ内にホール素子等の磁気検出素子を配置して電流の検出を行う電流検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電流検出器(電流センサ)では、大きな温度変化を生じる環境下での使用において、磁性体コアやホール素子を封入する充填剤の温度変化に起因する膨張もしくは収縮により、磁性体コアのギャップ幅が変動しホール素子の検出出力が変動する対策として、環状の磁性体コアのギャップから90度までの範囲内の位置で接着剤を用いて樹脂ケース(温度変化に起因する寸法変化が小さい樹脂ケース)と磁性体コアを固定することで磁性体コアのギャップ変動を抑制している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6731093
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特許文献1では樹脂ケースは温度変化により変形しにくいとしているが、一般的に用いられる結晶性樹脂、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)を使用した樹脂ケースにおいては、樹脂ケース成形時の金型温度よりも、その樹脂ケースを用いた電流検出器の使用環境温度の方が高い場合、PBTの結晶化が促進されることにより寸法変化するという問題がある。温度変化による寸法変化を小さくするためには、ガラス転移温度以上、かつ、電流検出器の使用環境温度まで、昇温する必要があるが、この昇温工程の追加による作業時間の増加(例えばPBTを使用した樹脂ケースで100℃、1.5時間が必要)、コストが増加するなどの問題がある。さらに、前述の対策を施したとしても樹脂ケースの温度変化による変形を完全に抑制することはできない。
【0005】
コスト低減や作業時間を短縮させるために、結晶化が不十分な状態や残留応力を取り除いていない樹脂ケースを用いた場合は、樹脂ケースの温度変化による膨張もしくは収縮が大きく、樹脂ケースにギャップから90度までの範囲(磁性体コアギャップに近い所)で接着剤により接着されている磁性体コアも同様に変動し、磁性体コアギャップ寸法に変化が生じることになる。この場合、ギャップ寸法の変化に伴ってギャップ内の磁束密度に変化が生じ、ホール素子等の出力特性が影響を受けることになる。これは、短期的な温度変化による樹脂ケースの膨張収縮だけでなく、経年変化によって樹脂ケースに寸法変化が生じた場合も同様である。
【0006】
本発明は、ガラス転移温度以上、かつ、電流検出器の使用環境温度まで、昇温された樹脂ケースを使用することなく、短期的な温度変化や長期的な経年変化に伴う磁性体コアのギャップ寸法変動を抑制し、これに伴う出力特性の変化を抑制する電流検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電流検出器は、被測定電流により生じる磁束を集磁する略環状または略矩形状の磁性体コアにギャップが形成されており、磁性体コアのギャップ内に磁気検出素子が配置され、磁性体コアと磁気検出素子が樹脂ケースに収納されており、磁性体コアと樹脂ケースを接着するための規制部材を備え、規制部材による磁性体コアと樹脂ケースの接着領域は、磁性体コアの中心での角度で、ギャップ中心を基準に周方向にそれぞれ90度の範囲内には存在せず、ギャップ中心を基準に周方向に180度の位置から所定の角度の範囲内に存在するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ギャップ中心を基準に周方向に180度の位置から所定の角度の範囲で磁性体コアを樹脂ケースに接着することで、短期的または長期的な樹脂ケースの寸法変化による磁性体コアのギャップ寸法変動を抑制し、これに伴う電流検出器の出力特性の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1における電流検出器を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1における樹脂ケース内での磁性体コアの規制部材の位置を示す図である。
図3】本発明の実施の形態1における図2中のI-I線に沿う断面図である。
図4】本発明の実施の形態1における樹脂ケース内で規制部材によって磁性体コアが規制された状態を示す図である。
図5】本発明の実施の形態1における図4中のII-IIに沿う断面図である。
図6】本発明の実施の形態1における図4中のIII-IIIに沿う断面図である。
図7】従来例における樹脂ケース内で規制部材によって磁性体コアが規制された状態を示す図である。
図8】従来例における図7中のIV-IVに沿う断面図である。
図9】従来例における図7中のV-Vに沿う断面図である。
図10】従来例と実施の形態1における検出素子部の磁束の変化をシミュレーションした結果を示す表とグラフを示したものである。
図11】本発明の実施の形態1における規制部材の塗布位置の範囲を拡大させた状態を示す図である。
図12】本発明の実施の形態1における図11中のVI-VIに沿う断面図である。
図13】実施の形態1における規制部材の塗布位置の範囲を拡大させたときの検出素子部の磁束の変化をシミュレーションした結果を示す表である。
図14】本発明の実施の形態1における剥離応力をシミュレーションした結果を示す表である。
図15】実施の形態に1における規制部材の塗布位置の範囲を限定するための別形状を示す断面図である。
図16】本発明の実施の形態2における電流検出器を示す斜視図である。
図17】本発明の実施の形態2における樹脂ケース内で規制部材によって磁性体コアが規制された状態を示す図である。
図18】本発明の実施の形態2における図17中のVII-VII線に沿う断面図である。
図19】本発明の実施の形態2における磁性体コアと樹脂ケースの接着強度アップに関する構造例を示す断面図である。
図20】本発明の実施の形態2における磁性体コアと樹脂ケースの接着強度アップした構造の剥離応力シミュレーションに用いた断面図である。
図21】実施の形態2における剥離応力をシミュレーションした結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における電流検出器100を構成要素に分解して示した斜視図である。電流検出器100は例えばPBT樹脂から成る樹脂ケース120を備えており、前記樹脂ケース120のコア収納部121には円環または矩形状で角にRを有する磁性体コア110が収納される。この円環または矩形状で角にRを有する磁性体コア110は、周方向の1箇所にギャップ112を有しており、磁性体コア110は例えばプレス金型で電磁鋼板等の平板を打ち抜くことでギャップ112を有する外形が形成されたコア板を積層したもの、または電磁鋼板等を渦巻き状に巻いたものにギャップ112を設けたものであってもよい。磁性体コア110はコア収納部121に接着固定され、従来用いられていた充填剤等による充填固定は行わない。
【0011】
樹脂ケース120には被測定電流が流れる一次導体(図示せず)を貫通させるための挿入孔122を有し、コア収納部121は一次導体挿入方向のどちらか一面(図1矢印A側の面)が開口しており、他方面は閉塞された容器形状をなしている。さらに樹脂ケース120内には、回路基板収納部123が形成されており、回路基板収納部123には回路基板部130が収納されるものとなっている。また、樹脂ケース120の開口された一面に対して、樹脂カバー等(図示せず)をはめ込むことで、全方向を閉塞してもよい。さらに、樹脂ケース120は、一次導体を貫通させるための挿入孔122の周囲に内周壁124を有し、樹脂ケース120のコア収納部121に磁性体コア110を収納したとき、磁性体コア110の外周を囲うように外周壁125を有している。また、内周壁124および外周壁125は円環、矩形状で角にRを有する磁性体コア110の形状に沿った形状を成している。
【0012】
回路基板部130は例えばホール素子等の磁気検出素子140やその他の図示しない電子部品や外部へ出力を送るためのコネクタ端子等を実装しており、樹脂ケース120のコア収納部121に磁性体コア110が収納された状態で、磁気検出素子140が磁性体コア110のギャップ112内に配置されるように樹脂ケース120に組付けられる。また、組付け方法についてはネジ固定、圧入等方法は問わない。
【0013】
ここでは、磁性体コア110と樹脂ケース120の接着方法について説明する。図2は樹脂ケース120を図1矢印A方向から見た図で、樹脂ケース120のコア収納部121へ磁性体コア110を収納接着する前段階として、例えばシリコン系樹脂から成る接着剤である規制部材160を樹脂ケース120に塗布した状態を示すものである。図3図2中のI-Iに沿う断面図であり、図において、中央底面には所定面積を有する規制部材塗布位置127があり、規制部材塗布位置127の図示左右には所定深さと所定幅を有する溝部126aと溝部126bが内周壁124と外周壁125(図2参照)の間に有る。規制部材160は規制部材塗布位置127に塗布する。
【0014】
図4図1矢印A方向から見た図で、規制部材160を塗布した樹脂ケース120のコア収納部121内に磁性体コア110を挿入し、規制部材160によって磁性体コア110が接着された状態を示す図である。
【0015】
図4に示されているように、規制部材160は磁性体コア110の中心での角度で、ギャップ112中心を基準に周方向に180度の位置から所定の角度の範囲内(ギャップ112から離れた位置)に配置している。
【0016】
図5は、図4中のII-II線に沿う断面図である。磁性体コア110を図示下方向に押え込むことで流動した規制部材160は溝部126aおよび溝部126bで貯留され、規制部材160は、磁性体コア110と樹脂ケース120を規制部材塗布位置127内で接着している。
【0017】
図6は、図4中のIII-III線に沿う断面図である。ここで図6に示す114aおよび114bは磁性体コア110と外周壁125との空間であり、図4に示す115aおよび115bは磁性体コア110と内周壁124との空間である。これらの空間は、樹脂ケース120および磁性体コア110の線膨張係数や寸法精度を考慮し、使用環境温度において両者が接触しないように設けたクリアランスとなる。図4、5、6に示すように規制部材塗布位置127以外の箇所はギャップ112の幅寸法が変化する方向Bにおいて、樹脂ケース120と磁性体コア110は接触しないことが望ましい。
【0018】
このように構成された電流検出器100においては一次導体へ被測定電流を導通させることにより発生した磁束を、磁性体コア110で集磁させ回路基板部130に搭載されギャップ112内に配置されている磁気検出素子140を用いて、ギャップ112内の磁束密度に応じた電圧を出力する。この出力は所定のレベルに増幅され回路基板部130の(図示しない)コネクタを介して電流検出器100外部に出力される。
【0019】
電流検出器100の使用環境においては、温度変化が生じることで樹脂ケース120は膨張および収縮を繰り返す。このとき、樹脂ケース120に規制部材160を介して接着された磁性体コア110は樹脂ケース120の膨張および収縮の方向へ変形する力が働く。
【0020】
本実施の形態では、規制部材160を図2の規制部材塗布位置127、つまりは磁性体コア110のギャップ112と180度の位置から所定の角度の範囲内に塗布すること、および磁性体コア110と樹脂ケース120の外周壁125との間に空間114aおよび114b(図6参照)、内周壁124との間に空間115aおよび115b(図4参照)を設けることで、ギャップ112は図6の矢印Bで示す樹脂ケース120の膨張および収縮によって伸び縮みする方向に拘束されない。これにより樹脂ケース120の膨張および収縮は、ギャップ112の幅寸法が変化する方向において規制部材塗布位置127のみにしか影響せず、つまりは磁性体コア110の線膨張係数の影響しか受けない。磁性体コア110の線膨張係数は極小(例えば電磁鋼板の場合1.2×10-5/Kであり、ギャップ112の寸法が2mmであるとき、100℃の温度変化で0.024μmの変化)であり、したがって磁性体コア110のギャップ112の幅寸法変化を抑制することができ、磁気検出素子140の出力変化を抑制することができる。
【0021】
ここでは、比較のために従来例、つまり規制部材160の塗布位置を磁性体コア110のギャップ112の近傍に設けた場合について述べる。図7は、磁性体コア110と樹脂ケース120を磁性体コア110の図示左側腕部113aと図示右側腕部113bの図示上半分の位置、つまりギャップ112から90度の範囲で規制部材160を用いて接着したものである。
【0022】
図8は、図7中のIV-IV線に沿う断面図である。また、図中に示される矢印Cはギャップ112の幅寸法が変化する方向を示しており、規制部材160により腕部113a、113bを含んだ範囲が樹脂ケース120に固定されるため、樹脂ケース120が矢印Cの方向に膨張および収縮をすることで、規制部材160を用いて接着されている磁性体コア110も樹脂ケース120と同様の寸法変化を発生させる。これにより、磁性体コア110のギャップ112にも幅寸法変化をもたらし磁気検出素子140も出力変化する。
【0023】
図9は、図7中のV-V線に沿う断面図である。樹脂ケース120の膨張および収縮により、規制部材160で樹脂ケース120に接着されている磁性体コア110の腕部113aと腕部113bが矢印D方向に寸法変化し、それにともないギャップ112が矢印Dの方向に寸法変化し磁気検出素子140も出力変化する。
【0024】
ここで、従来例と本実施の形態1のギャップ112の寸法変化、つまりは磁気検出素子140の検出出力の変化についてシミュレーションで検証する。シミュレーションでは、静的構造解析により電流検出器の周囲温度を25℃から85℃、105℃、125℃と変化させたときのギャップ112の寸法変化からギャップ112内の磁束密度の変化率を確認する。
まず従来例のシミュレーション条件について図7および図8を用いて説明する。磁性体コア110の寸法は図7に示されているa=2mm、b=17mm、c=30mm、図8に示されているd=5mm、接着位置はギャップ112から90度までの範囲であり、各種材料の線膨張係数の代表値は以下のとおりである。
樹脂ケース120・・・PBT樹脂:6.15×10-5/K
規制部材160・・・・シリコン樹脂:12×10-5/K
磁性体コア110・・・電磁鋼板:1.2×10-5/K
【0025】
シミュレーションの結果を図10(a)に表で示す。図10(a)に示すように従来例の電流検出器の周囲温度を25℃から125℃へ変化させたときのギャップ112の寸法変化は46.2μmであり、これによって磁気検出素子140が検出するギャップ112内の磁束密度の変化は-2.31%となる。図10(c)の破線はそれをグラフ化したものである。樹脂ケース120が高温環境下でギャップ112の幅が変化する方向に膨張することにより磁性体コア110のギャップ112の幅寸法が増大変化し、磁気検出素子140の検出出力が減少変化するのがわかる。
【0026】
次に実施の形態1のシミュレーション条件について図4および図5を用いて説明する。磁性体コア110の寸法は従来例と同一で図4に示されているa=2mm、b=17mm、c=30mm、図5に示されているd=5mm、図4において接着位置は規制部材塗布位置127(e=5mm)であり、各種材料の線膨張係数の代表値は前述の従来例のシミュレーション条件と同様である。
シミュレーション結果を図10(b)に表で示す。図10(b)に示すように実施の形態1の電流検出器100の周囲温度を25℃から125℃へ変化させたときのギャップ112の寸法変化は1.8μmであり、これによって磁気検出素子140が検出するギャップ112内の磁束密度の変化は-0.09%となる。図10(c)の実線はそれをグラフ化したものである。樹脂ケース120が高温環境下でギャップ112の幅が変化する方向へ膨張することによる規制部材塗布位置127でのギャップ112の幅が変化する方向への影響は図10(c)に示すとおり極小であり、磁性体コア110のギャップ112の幅寸法変化が抑制され、磁気検出素子140の検出出力の変化が抑制されているのがわかる。以上よりギャップ112を基準に180度の位置から所定の角度の範囲内で、磁性体コア110を樹脂ケース120に規制部材160を用いて接着固定することで、樹脂ケース120が膨張および収縮により寸法変化しても磁気検出素子140の出力変化を抑制することができる。
【0027】
ここでは、本実施の形態1の規制部材塗布位置127面積を拡大した場合の、ギャップ112の寸法変化および磁気検出素子140の検出出力の変化についてシミュレーションで検証する。図11図12は、図4図5における規制部材塗布位置127面積を拡大したものを示しており、樹脂ケース220は溝部226a、溝部226b、規制部材塗布位置227が、図4図5における溝部126a、溝部126b、規制部材塗布位置127に相当し、溝部226aと溝部226bは図12に示すg寸法が図11に示すコア内周直線部(磁性体コア110の内周側の直線部分)であるf寸法の範囲に収まるように配置されている。
シミュレーションでは、磁性体コア110の寸法は前述のシミュレーション(図4および図5に示されている寸法a=2mm、b=17mm、c=30mm、d=5mm)と同様であり、コア内周直線部f=20mmとし、図12に示すg寸法が10mm、15mm、20mm(コア内周直線部fの寸法)、30mm(コア外周壁225までの寸法)で、周囲温度を25℃から125℃へ変化させたときのギャップ112の寸法変化および磁気検出素子140の検出出力変化を検証した。
【0028】
シミュレーションの結果は図13に示すように、g寸法が10mmでのギャップ寸法変化0.2μm、磁束密度変化率-0.01%、g寸法が15mmでのギャップ寸法変化2μm、磁束密度変化率-0.1%、g寸法が20mmでのときギャップ寸法変化3.2μm、磁束密度変化率-0.16%、g寸法が30mmでのギャップ寸法変化20μm、磁束密度変化率-1%であった。すなわちg寸法が図11に示すコア内周直線部であるf=20mmの範囲内であれば規制部材260による接着範囲を拡大しても、磁性体コア110のギャップ112の寸法変化は小さく、磁束密度変化率も小さいことから磁気検出素子140の検出出力の変化は小さくなるが、f寸法を超えるとギャップ寸法変化が大きく磁束密度変化率も大きくなり、磁気検出素子140の検出出力の変化は大きくなる。よって接着位置を図11に示すコア内周直線部であるf寸法までの範囲内とすることで、ギャップ112の幅寸法変化を抑制することができ、磁気検出素子140の出力変化を抑制することができ、かつ、規制部材260の塗布面積を拡大することができ、磁性体コア110と樹脂ケース220の接着強度(剥離に対する強度)を強化することができる。
【0029】
ここでは磁性体コア110が引っ張られたときの剥離に対する強度についてシミュレーションで検証する。シミュレーションでは、磁性体コア110を樹脂ケース220に接着し、磁性体コア110を接着とは逆の引きはがす方向に引っ張ったときの規制部材260にかかる応力を、静的構造解析により確認する。
シミュレーション条件を図12に示し、その結果を図14に示す。図12において磁性体コア110の寸法は前述のシミュレーション(図4および図5に示されている寸法a=2mm、b=17mm、c=30mm、d=5mm)と同様であり、符号gは溝部226cと溝部226dの間隔を示している。例えば符号gを4.5mm、9mm、12mmとした場合に、それぞれ図12の図示上方向(矢印F方向)に磁性体コア110を100Nの力で引っ張った時の規制部材260にかかる発生応力の平均値とg=4.5mmを基準とした低減率を図14に示す。図に示すとおり、規制部材260にかかる応力はg=4.5mmのとき7.6MPa、g=9mmのとき3.3MPaであり、g寸法を4.5mmから9mmにすることで規制部材にかかる応力を約56.6%低下させることができ、g=12mmのときは2.8MPaであり、g寸法を4.5mmから12mmにすることで規制部材にかかる応力を63.2%低下させることができる。前記シミュレーション結果のとおり、樹脂ケース220と磁性体コア110を接着する規制部材260の接触面積を増やすことで、磁性体コア110を引きはがす方向に働く力に対して、規制部材260の引張許容強度以下となるようにすることができ、必要な剥離強度を確保することができる。
【0030】
本実施の形態では、コア内周直線部(図11の符号f)が相当量の長さ(例えば20mm)を有する矩形状の磁性体コアを例に説明したが、磁性体コアが円環状等のコア内周直線部の長さが短い場合も同様に、塗布面積を拡大するに従い、磁気検出素子の出力変化の原因となるギャップの幅寸法変化は大きくなり、磁性体コアと樹脂ケースの接着強度は強化される。よって許容できる磁気検出素子の出力変化となるギャップの幅寸法変化と、許容できる接着強度から、適正な規制部材の塗布面積を設定すればよい。
【0031】
本実施の形態では、前記形態に限らず、例えば磁性体コア110の形状は角にRのない正方形または長方形にギャップを有しているものであってもよいし、規制部材160を貯留するための溝部126a、126bは3個所以上であってもよいし、例えば図15に示すように溝部126a、126bの代わりに傾斜128a、128b(規制部材塗布位置127の図示左右端から、外周壁125に向かって図示下方向に傾斜)を設けた形状等でもよい。また、使用した樹脂ケース120や規制部材160などの各種材料の線膨張係数の値は一例であり、使用する材料に応じて適宜変更することが可能である。
【0032】
実施の形態2.
実施の形態1では、樹脂ケース120の挿入孔122に一次導体を挿通する方向に磁性体コア110を収納する構造としていたが、ここでは一次導体挿通方向と90度の方向に磁性体コアを収納する形態について説明する。
【0033】
図16は本発明の実施の形態2における電流検出器300を構成要素に分解して示した斜視図である。電流検出器300は例えばPBT樹脂から成る樹脂ケース320を備えており、樹脂ケース320のコア収納部321にはU字状または矩形状で角にRを有する磁性体コア310が収納される。磁性体コア310は、周方向の1箇所にギャップ312を有しており、磁性体コア310は例えばプレス金型で電磁鋼板等の平板を打ち抜くことでギャップ312を有する外形が形成されたコア板を積層したもの、または電磁鋼板等を渦巻き状に巻いたものにギャップ312を設けたものであってもよい。磁性体コア310はコア収納部321に接着固定され、従来用いられていた充填剤等による充填固定は行わない。
【0034】
樹脂ケース320には被測定電流が流れる一次導体(図示せず)を貫通させるための挿入部322を有し、コア収納部321は一次導体挿入方向に対して垂直方向のどちらか一面(図16矢印E側の面)が開口しており、他方面は閉塞された容器形状をなしている。さらに樹脂ケース320内には、回路基板収納部323が形成されており、回路基板収納部323には回路基板部330が収納されるものとなっている。また、樹脂ケース320の開口された一面に対して、樹脂カバー等(図示せず)をはめ込むことで、閉塞してもよい。さらに、樹脂ケース320のコア収納部321に磁性体コア310を収納したとき、磁性体コア310の外周を囲うように外周壁325を有している。
【0035】
回路基板部330は例えばホール素子等の磁気検出素子340やその他の図示しない電子部品や外部へ出力を送るためのコネクタ端子等を実装しており、樹脂ケース320のコア収納部321に磁性体コア310が収納された状態で、磁気検出素子340が磁性体コア310のギャップ312内に配置されるように樹脂ケース320に組付けられる。また、組付け方法についてはネジ固定、圧入等方法は問わない。
【0036】
ここでは、磁性体コア310と樹脂ケース320の接着方法について説明する。図17図16矢印E方向から見た図で、例えばシリコン系樹脂から成る接着剤である規制部材360を塗布した樹脂ケース320内に磁性体コア310を挿入し、規制部材360によって磁性体コア310が接着された状態を示す図である。
【0037】
図18図17中のVII-VII線に沿う断面図である。磁性体コア310を樹脂ケース320のコア収納部321へ収納する際、磁性体コア310の中心での角度で、ギャップ312の中心を基準に180度の位置から所定の角度の範囲にあるコア底面部(図18の符号hで示す、磁性体コアの底面側左右の角R端点間の外周直線部を、以降コア底面部と称す)と樹脂ケース320が接する箇所に規制部材360が塗布され、磁性体コア310を押し付けることではみ出した規制部材360が磁性体コア310の左側腕部313aと磁性体コア310の右側腕部313bの側面部(図18の符号mで示す、磁性体コア310の図示上端と腕部の角R終端点間)と樹脂ケース320が接着されないよう塗布量を限定する。この時磁性体コア310の左側腕部313a及び磁性体コア310の右側腕部313bと樹脂ケース320の外周壁325との間に空間314aおよび314bを設けることで、磁性体コアの左側腕部313a、磁性体コア右側腕部313bが図の矢印Fで示す樹脂ケース320の膨張および収縮によって伸び縮みする方向に拘束されず、磁性体コア310のギャップ312の寸法変化を抑制することができ、磁気検出素子340の出力変化を抑制する効果を得ることができる。
【0038】
図19は、実施の形態2の磁性体コア310と樹脂ケース320の接着強度アップに関する構造例を示した図である。樹脂ケース420は、実施の形態2の樹脂ケース320のコア収納部321の底面に規制部材460を塗布するための規制構造415を設けたもので、規制構造415とは磁性体コア410のギャップ412から180度の位置から所定の角度の範囲にあるコア底面部(磁性体コア410の底面側左右の角R端点間の外周直線部)と接する樹脂ケース420の底面部の一部に溝部426a、溝部426bを設けたものである。磁性体コア410は、実施の形態2の磁性体コア310のギャップ312から180度の位置から所定の角度の範囲にあるコア底面部にコア突起形状416を設けたもので、コア突起形状416a、416bは樹脂ケース420の溝部426a、溝部426bと嵌め合うように形成されたものである。突起形状416a、416bを含むコア底面部のみを規制部材460で接着させ、磁性体コア410と樹脂ケース420の外周壁425との間に空間314aおよび314bに相当する空間414a、414bを設けることで、磁性体コアの左側腕部413a、磁性体コア右側腕部413bが樹脂ケース420の温度変化による膨張及び収縮によって伸び縮する方向に拘束されず、ギャップ412の寸法変化を小さくしつつ、磁性体コア410のコア突起形状416の全周が規制部材460で覆われることになるため、接着面積が増え磁性体コア410と樹脂ケース420の剥離に対する強度をアップすることができる。
【0039】
ここでは、接着強度をアップさせるための規制構造415を設けたときの剥離に対する強度についてシミュレーションで検証する。シミュレーションでは磁性体コア310、410を樹脂ケース320、420に接着し、磁性体コア310、410を接着とは逆の引き剥がす方向(図示上方向)に引っ張ったときの規制部材360、460にかかる応力を、静的構造解析により確認する。
シミュレーション条件を図18図20に示し、その結果を図21に示す。
図18の磁性体コア310のコア底面部(符号h)はコア突起形状416を設けない平坦な面でありh=15mmとしその全面を接着範囲とする。
図20は磁性体コア410のコア底面部(符号k)にコア突起形状416を設けた場合であり、図20における磁性体コア410に示す符号i、jはコア突起形状416a、416bの寸法でありi=3mm、j=1.5mmとし、接着範囲はコア底面部全面としk=15mmとする。
奥行方向(矢印Z方向)の寸法は、磁性体コア310、410は10mm、樹脂ケース320、420のコア収納部は12mm、接着範囲は10mmとする。図21は磁性体コア310、410を、それぞれ図18図20の図示上方向(矢印Y方向)に100Nの力で引っ張った時の規制部材360、460にかかる発生応力の平均値と、規制部材360の発生応力の平均値を基準とした、規制部材460の発生応力の平均値の低減率を示す。図21に示すとおり、規制構造415及びコア突起形状416を設けることで接着面積が増え、規制部材460にかかる発生応力を28%ほど低下させることができる。前記寸法i、j、kはこれに限らず、コア突起形状416の突起形状の数をNとすると
h<k+j×2×N
の関係式が成り立つような形状であればよい。
【0040】
本実施の形態では、前記形態に限らず、接着強度アップを目的としたコア突起形状416a、416bは凸形状に限定せず、磁性体コア410と樹脂ケース420の規制部材460の接着面積を増やせる形状であれば任意の形状とすることができ、突起形状の数も2個に限るものではない。
【符号の説明】
100、300 電流検出器
110、310、410 磁性体コア
112、312、412 ギャップ
113a、313a、413a 左側腕部
113a、313b、413b 右側腕部
114a、314a、414a 空間(左側)
114b、314b、414b 空間(右側)
115a 空間(左側)
115b 空間(右側)
415 規制構造
416 突起形状
120、220、320、420 樹脂ケース
121、321 収納部
122、322、422 挿入孔(挿入部)
123、323 回路基板収納部
124、224 内周壁
125、225、325、425 外周壁
126a、226a、426a 溝部(左側)
126b、226b、426b 溝部(右側)
127、227 規制部材塗布位置
128a 傾斜(左側)
128b 傾斜(右側)
130、330 回路基板部
140、340 磁気検出素子
160、260、360、460 規制部材
図1
図2
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