(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160726
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】二輪自動車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20231026BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231026BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20231026BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231026BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231026BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231026BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 C
B60C1/00 A
B60C11/00 F
C08L21/00
C08K3/04
C08L101/00
C08K3/013
C08L9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012050
(22)【出願日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022070816
(32)【優先日】2022-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 拓真
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA03
3D131BA05
3D131BA20
3D131BB06
3D131BC36
3D131EA04V
3D131EA04X
3D131EA10V
3D131EA10X
3D131LA28
4J002AC031
4J002AC051
4J002AC081
4J002AC111
4J002AF022
4J002BA012
4J002BK002
4J002CE002
4J002DA036
4J002DE146
4J002DE236
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002FD016
4J002GN01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】トレッド部のセンター部とショルダー部との間の界面の耐剥離性能を向上させた二輪自動車用タイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部2がセンター部8Aとトレッド接地端2eを含む一対のショルダー部8Bとを有し、前記センター部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(c)、0℃における複素弾性率を0℃E
*(c)とし、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(s)、0℃における複素弾性率を0℃E
*(s)とするとき、70℃tanδ(c)と70℃tanδ(s)とが下記式(1)を満たし、0℃E
*(c)と0℃E
*(s)とが下記式(2)を満たす二輪自動車用タイヤ。
(1)1.30<70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)
(2)0℃E
*(s)/0℃E
*(c)<1.50
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を備えた二輪自動車用タイヤであって、
前記トレッド部が、タイヤ赤道を含むセンター部と、トレッド接地端を含む一対のショルダー部とを有し、
前記センター部を構成するゴム組成物が充填剤(C)を含み、前記充填剤(C)がシリカを含み、前記充填剤(C)中のシリカの比率が50質量%超であり、
前記ショルダー部を構成するゴム組成物が充填剤(S)を含み、前記充填剤(S)がカーボンブラックを含み、前記充填剤(S)中のカーボンブラックの比率が50質量%超であり、
前記センター部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(c)、0℃における複素弾性率を0℃E*(c)とし、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(s)、0℃における複素弾性率を0℃E*(s)とするとき、70℃tanδ(c)と70℃tanδ(s)とが下記式(1)を満たし、0℃E*(c)と0℃E*(s)とが下記式(2)を満たす二輪自動車用タイヤ。
(1) 1.30<70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)
(2) 0℃E*(s)/0℃E*(c)<1.50
【請求項2】
前記式(1)の左辺が1.35である請求項1記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項3】
前記式(2)の右辺が1.40である請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項4】
タイヤ子午線断面における前記センター部と前記ショルダー部の界面部の厚みDが4.0mm超かつ10.0mm未満である請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項5】
前記ショルダー部を構成するゴム組成物におけるゴム成分が、70質量%超のスチレンブタジエンゴムを含有する請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項6】
前記ショルダー部を構成するゴム組成物における充填剤(S)の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、50質量部超である請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項7】
前記ショルダー部を構成するゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、50質量部超である請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項8】
前記ショルダー部を構成するゴム組成物が、ゴム成分100質量に対して、5質量部超かつ40質量部未満の樹脂を含有する請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項9】
前記樹脂が、芳香族系樹脂を含む請求項8記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項10】
前記センター部を構成するゴム組成物における充填剤(C)の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、60質量部超である請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項11】
前記センター部を構成するゴム組成物におけるシリカの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、60質量部超である請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項12】
タイヤ子午線断面における前記センター部と前記ショルダー部の界面部の厚み(mm)をDとするとき、Dと前記70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)とが以下の関係を満たす請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
(3) 70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)/D≧0.18
【請求項13】
タイヤ子午線断面において、前記センター部と前記ショルダー部の界面の接合線と、該接合線と接地表面とが交わる交点に引いた接線とのなす角のうち、ショルダー部側の角の角度αが90°超である請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項14】
前記センター部を構成するゴム組成物のtanδピーク温度(℃)をT(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物のtanδピーク温度(℃)をT(s)とするとき、T(c)とT(s)とが以下の関係を満たす請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
(4) T(c)-T(s)>0
【請求項15】
前記センター部を構成するゴム組成物の硬度をH(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の硬度をH(s)とするとき、H(c)とH(s)とが以下の関係を満たす請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
(5) H(s)/H(c)<1.00
【請求項16】
前記センター部を構成するゴム組成物の300%伸長時応力(MPa)をM300(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の300%伸長時応力(MPa)をM300(s)とするとき、M300(c)とM300(s)とが以下の関係を満たす請求項1または2記載の二輪自動車用タイヤ。
(6) M300(s)/M300(c)<1.00
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪自動車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
二輪自動車用タイヤにおいて、そのトレッドゴムは、直線走行時は主にセンター部が路面と接し、旋回時は主にショルダー部が路面と接するため、それぞれの部分で、状況に応じた性能が必要となる。このため、二輪自動車用タイヤのトレッドゴムは、センター部とショルダー部で、これらを構成するゴム組成物の性質を変えることが多い(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、センター部とショルダー部でゴム組成物の性質を変えると、それらの界面に応力が集中し、剥離が生じやすくなる。本発明は、トレッド部がセンター部と一対のショルダー部とを有する場合において、該センター部と該ショルダー部との間の界面の耐剥離性能を向上させた二輪自動車用タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
トレッド部を備えた二輪自動車用タイヤであって、
前記トレッド部が、タイヤ赤道を含むセンター部と、トレッド接地端を含む一対のショルダー部とを有し、
前記センター部を構成するゴム組成物が充填剤(C)を含み、前記充填剤(C)がシリカを含み、前記充填剤(C)中のシリカの比率が50質量%超であり、
前記ショルダー部を構成するゴム組成物が充填剤(S)を含み、前記充填剤(S)がカーボンブラックを含み、前記充填剤(S)中のカーボンブラックの比率が50質量%超であり、
前記センター部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(c)、0℃における複素弾性率を0℃E*(c)とし、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(s)、0℃における複素弾性率を0℃E*(s)とするとき、70℃tanδ(c)と70℃tanδ(s)とが下記式(1)を満たし、0℃E*(c)と0℃E*(s)とが下記式(2)を満たす二輪自動車用タイヤ。
(1) 1.30<70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)
(2) 0℃E*(s)/0℃E*(c)<1.50
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、トレッド部がセンター部と一対のショルダー部とを有する場合において、該センター部と該ショルダー部との間の界面の耐剥離性能を向上させた二輪自動車用タイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】二輪自動車用タイヤのタイヤ子午線断面を模式的に表した図面の一例である。
【
図2】二輪自動車用タイヤが路面に接した状態のタイヤ子午線断面を模式的に表した図面の一例である(センター部が接地面内に収まる場合)。
【
図3】二輪自動車用タイヤが路面に接した状態のタイヤ子午線断面を模式的に表した図面の一例である(センター部が接地面外まで及ぶ場合)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の二輪自動車用タイヤは、トレッド部を備えた二輪自動車用タイヤであって、前記トレッド部がタイヤ赤道を含むセンター部とトレッド接地端を含む一対のショルダー部とを有し、前記センター部を構成するゴム組成物が充填剤(C)を含み、前記充填剤(C)がシリカを含み、前記充填剤(C)中のシリカの比率が50質量%超であり、前記ショルダー部を構成するゴム組成物が充填剤(S)を含み、前記充填剤(S)がカーボンブラックを含み、前記充填剤(S)中のカーボンブラックの比率が50質量%超であり、前記センター部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(c)、0℃における複素弾性率を0℃E*(c)とし、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(s)、0℃における複素弾性率を0℃E*(s)とするとき、70℃tanδ(c)と70℃tanδ(s)とが下記式(1)を満たし、0℃E*(c)と0℃E*(s)とが下記式(2)を満たす二輪自動車用タイヤである。
(1) 1.30<70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)
(2) 0℃E*(s)/0℃E*(c)<1.50
【0009】
理論に拘束されることは意図しないが、本開示において、センター部とショルダー部との間の界面の剥離が抑制されるメカニズムとしては、以下が考えられる。
【0010】
本開示において、センター部はシリカの比率が50質量%超である充填剤(C)を含み、ショルダー部はカーボンブラックの比率が50質量%超である充填剤(S)を含む。センター部は転動時の変形により温度が高くなりやすく、タイヤを傾けた際にゴム表面の変形量が大きくなりやすいと考えられる。シリカは他の充填剤に比べ、ゴム組成物の破断伸びを高く維持しやすい傾向にあるため、大きな変形が加わった際にセンター部が路面との間で摩耗することを抑制することができると考えられる。また、カーボンブラックはゴムに対する補強性が高いため、直線走行時に冷やされた状態のショルダー部が旋回時に接地する際、早期に摩耗することを抑制すると考えられる。これにより界面付近でのセンター部、ショルダー部の摩耗が抑制されるため、界面が路面にひっかかりにくくすることができると考えられる。
【0011】
一方、充填剤の主成分が異なるセンター部とショルダー部との境界では一般にその界面の剥離が懸念されるが、本開示においては、上記式(1)のとおりショルダー部の発熱をセンター部に対して一定の比率以上と高くしているので、直線走行時に冷やされたショルダー部が旋回時に温められる際、温まる速度が速くなり、界面剥離の抑制に優位に働くものと考えらえる。また、本開示においては、上記式(2)のとおりショルダー部の高周波数に相当する低温のE*をセンター部に対して一定の比率以下と低くしているので、高速でショルダー部が接地する瞬間、ショルダー部は冷えている状態でかつすべりの影響もある中で界面での応力集中が減るので、界面剥離の抑制に優位に働くものと考えられる。そして、これらが協働することで、接地直後のショルダー部が冷えた状態から、その後ショルダー部が発熱により温まる状態まで、界面が剥離しにくい状態を保つことができ、したがって、旋回時の界面の剥離、特に高速走行での旋回時の界面の剥離が抑制されるものと考えられる。
【0012】
タイヤ子午線断面における前記センター部と前記ショルダー部の界面部の厚みDは4.0mm超かつ10.0mm未満であることが好ましい。
【0013】
界面部が一定以上の厚みを有することで十分な発熱が得られ、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。一方、界面部の厚みを一定以下に抑えることでトレッド部全体の剛性を高め、センター部とショルダー部の界面での変形量を抑えることができ、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。
【0014】
前記ショルダー部を構成するゴム組成物におけるゴム成分は、70質量%超のスチレンブタジエンゴムを含有することが好ましい。
【0015】
スチレンブタジエンゴムを一定量以上とすることでショルダー部に十分な発熱が得られ、界面部が温まりやすく、柔軟になるので、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。
【0016】
前記スチレンブタジエンゴムは溶液重合スチレンブタジエンゴムおよび乳化重合スチレンブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0017】
溶液重合スチレンブタジエンゴムは、均一な重量平均分子量が得られやすく、ゴム成分全体の破壊強度を向上させやすい。一方で、乳化重合スチレンブタジエンゴムは溶液重合スチレンブタジエンゴムよりも高分子量のポリマー成分が含まれるため、局所的な大変形に対しての強度に優れると考えられる。その為、これらのスチレンブタジエンゴムを併用することが好ましい。
【0018】
前記ショルダー部を構成するゴム組成物における充填剤(S)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部超であることが好ましい。
【0019】
充填剤の含有量を一定量以上とすることでショルダー部に十分な発熱が得られ、界面部が温まりやすく、柔軟になるので、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。
【0020】
前記ショルダー部を構成するゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部超であることが好ましい。
【0021】
カーボンブラックの含有量を一定量以上とすることでショルダー部に十分な発熱が得られ、界面部が温まりやすく、柔軟になるので、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。
【0022】
前記ショルダー部を構成するゴム組成物は、ゴム成分100質量に対して、5質量部超かつ40質量部未満の樹脂を含有することが好ましい。
【0023】
樹脂の含有量を一定の範囲内とすることでショルダー部に十分な発熱が得られ、界面部が温まりやすく、柔軟になるので、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。また、樹脂成分の粘着性により、路面との間のすべりも抑制されやすいと考えられる。
【0024】
前記樹脂は、芳香族系樹脂を含むことが好ましい。
【0025】
芳香族系樹脂の含有量を一定の範囲内とすることでショルダー部に十分な発熱が得られ、界面部が温まりやすく、柔軟になるので、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。
【0026】
前記センター部を構成するゴム組成物における充填剤(C)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、60質量部超であることが好ましい。
【0027】
前記センター部内の充填剤含有量を一定以上とすることにより、ゴム成分が充填剤により補強され、破断伸びが向上し、タイヤを傾けた際に界面近傍でゴムが摩耗することを抑制しやすくなると考えられる。
【0028】
前記センター部を構成するゴム組成物におけるシリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、60質量部超であることが好ましい。
【0029】
前記センター部内のシリカ含有量を一定以上とすることにより、ゴム成分が充填剤により補強され、破断伸びが向上し、タイヤを傾けた際に界面近傍でゴムが摩耗することを抑制しやすくなると考えられる。
【0030】
タイヤ子午線断面における前記センター部と前記ショルダー部の界面部の厚み(mm)をDとするとき、Dと前記70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)とは以下の関係を満たすことが好ましい。
(3) 70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)/D≧0.18
【0031】
ショルダー部の発熱を高めつつ、界面部の厚みを抑えるようにすることで十分な発熱が得られ、界面部が温まりやすく、柔軟になるので、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。
【0032】
タイヤ子午線断面において、前記センター部と前記ショルダー部の界面の接合線と、該接合線と接地表面とが交わる交点に引いた接線とのなす角のうち、ショルダー部側の角の角度αは90°超であることが好ましい。
【0033】
αを上記のような範囲とすることで、旋回時にセンター部のゴムがショルダー部のゴムに覆い被さるので、旋回時に受ける反力との関係から界面部がささくれ立ちにくくなり、界面剥離の抑制に有利であると考えられる。
【0034】
前記センター部を構成するゴム組成物のtanδピーク温度(℃)をT(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物のtanδピーク温度(℃)をT(s)とするとき、T(c)とT(s)とは以下の関係を満たすことが好ましい。
(4) T(c)-T(s)>0
【0035】
ショルダー部のピークtanδ温度をセンター部よりも低くすることで、冷やされたショルダー部が接地する際に、発熱を生じ、界面部を温めやすくすることができると考えられる。
【0036】
前記センター部を構成するゴム組成物の硬度をH(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の硬度をH(s)とするとき、H(c)とH(s)とは以下の関係を満たすことが好ましい。
(5) H(s)/H(c)<1.0
【0037】
旋回時のショルダー部でのグリップ性の向上が期待できるからである。
【0038】
前記センター部を構成するゴム組成物の300%伸長時応力(MPa)をM300(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の300%伸長時応力(MPa)をM300(s)とするとき、M300(c)とM300(s)とは以下の関係を満たすことが好ましい。
(6) M300(s)/M300(c)<1.0
【0039】
直進時の高速耐久性と高速旋回時のグリップ性とを両立させることが期待できるからである。
【0040】
<定義>
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤの各部の寸法等は、正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の正規状態において特定される値とする。但し、タイヤ子午線断面に現れる寸法、例えば、「界面部の厚みD」や、「角度α」等は、タイヤ子午線で切断したタイヤを正規リムに載せた状態で特定される値とする。
【0041】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMA(日本自動車タイヤ協会)であれば「JATMA YEAR BOOK」に記載されている適用サイズにおける標準リム、ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)であれば「STANDARDS MANUAL」に記載されている「Measuring Rim」、TRA(The Tire and Rim Association, Inc.)であれば「YEAR BOOK」に記載されている「Design Rim」を指す。そして、規格に定められていないタイヤの場合には、リム組み可能であって、内圧が保持できるリム、即ちリム/タイヤ間からエア漏れを生じさせないリムの内、最もリム径が小さく、次いでリム幅が最も狭いものを指す。
【0042】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば「最高空気圧」、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”とする。
【0043】
「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0044】
「界面」とは、互いに接するトレッドのセンター部とトレッドのショルダー部との境界面である。
【0045】
「タイヤ子午線断面」とは、タイヤ子午線を通る面でタイヤを切断したときの断面である。
【0046】
「接合線」とは、タイヤ子午線断面において、界面のタイヤ径方向外側の端点(
図1のP1)と同内側の端点(
図1のP2)とを結ぶ線分である。
【0047】
「界面部の厚み」とは、タイヤ子午線断面において、接合線の中点(
図1のP3)からトレッド面に対し垂直な方向でのトレッド部の厚み(
図1のD)である。
【0048】
「充填剤(C)」とは、センター部を構成するゴム組成物に含まれる充填剤である。
【0049】
「充填剤(S)」とは、ショルダー部を構成するゴム組成物に含まれる充填剤である。
【0050】
<測定方法>
「70℃tanδ」は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪み10%、および、動歪み1%、伸長モードの条件下で測定する損失正接である。測定用サンプルは、タイヤのトレッド部からタイヤの周方向を長さ方向として切り出した長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物を用いる。
【0051】
「0℃E*」は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度0℃、周波数10Hz、初期歪み5%、および、動歪み1%、伸長モードの条件下で測定する複素弾性率である。測定用サンプルは、タイヤのトレッド部からタイヤの周方向を長さ方向として切り出した長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物を用いる。
【0052】
「ゴム組成物のtanδピーク温度」は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用い、周波数10Hz、初期歪10%、動歪み±0.5%および昇温速度2℃/minの条件下で、tanδの温度分布曲線を測定し、得られた温度分布曲線における最も大きいtanδ値に対応する温度(tanδピーク温度)として決定する。測定用サンプルは、タイヤのトレッド部からタイヤの周方向を長さ方向として切り出した長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物を用いる。
【0053】
「ゴム組成物の硬度」は、試験タイヤの接地面を形成するトレッド部からタイヤ半径方向が厚さ方向となる様にトレッド部を切りだし、硬度測定サンプルを作成し、JIS K 6253に準拠して23℃でタイプAデュロメータを接地面側からサンプルに押し付けて硬度を測定する。
【0054】
「M300」は、各試験用タイヤのトレッド部のゴム層内部からタイヤ周方向が引張方向となる様に切り出した厚さ1mmの7号ダンベル形状の試験片を作製し、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張試験特性の求め方」に準じて、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で引張試験を実施し、300%伸張時応力(M300)(MPa)を求める。
【0055】
「スチレン含量」は、1H-NMR測定により算出される。例えば、SBR等のスチレン含有ゴムに適用される。
【0056】
「ビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)」は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。例えば、SBR、BR等に適用される。
【0057】
「ゴム成分のガラス転移温度」は、JIS K 7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定される値である。例えば、SBR、BR等に適用される。
【0058】
「シス1,4-結合含有率(シス含量)」は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。例えば、BR等に適用される。
【0059】
「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。例えば、SBR、BR、樹脂、液状ポリマー等に適用される。
【0060】
「カーボンブラックのN2SA」は、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定される。
【0061】
「カーボンブラックのDBP吸油量」は、JIS K 6217-4:2001に準拠して測定される。
【0062】
「シリカのN2SA」は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される。
【0063】
「軟化点」は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。例えば、樹脂等に適用される。
【0064】
「SP値」は、化合物の構造に基づいてHoy法によって算出された溶解度パラメーター(Solubility Parameter)を意味する。Hoy法は、K.L.Hoy“Table of Solubility Parameters”, Solvent and Coatings Materials Research and Development Department, Union Carbites Corp.(1985)に記載された計算方法である。SP値は、例えば、樹脂等に適用される。
【0065】
<二輪自動車用タイヤ>
本開示の二輪自動車用タイヤについて、以下説明する。
【0066】
[トレッド部の構成]
以下、本開示の一実施形態として、適宜、図面を参照して説明する。
図1は、二輪自動車用タイヤのタイヤ子午線断面を模式的に表した図面の一例である(但し、トレッド面に備えられた溝の表示は省略している。
図2および
図3において同様。)。二輪自動車用タイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されたベルト層7とを備える。上記断面において、トレッド部2の路面と接地するトレッド面2Aは、タイヤ半径方向外側に凸で円弧状に湾曲してのびている。また、トレッド面2Aのタイヤ軸方向の外端がトレッド接地端2eである。
【0067】
前記二輪自動車用タイヤは、トレッド部が、タイヤ赤道を含むセンター部と、トレッド接地端を含む一対のショルダー部とを有している。したがって、当該トレッド部は少なくとも3分割されており、好ましい形態として、このように3分割されたものが挙げられる。なお、前記センター部は、上記所定の要件を満たすゴム組成物で構成されている限り、さらに分割されたものであってもよい。同様に、一対のショルダー部も、上記所定の要件を満たすゴム組成物で構成されている限り、さらに分割されたものであってもよい。したがって、トレッド部は、4分割されたもの、5分割されたもの、または、それ以上に分割されたものを含む。トレッド部が4分割以上かつ偶数に分割された場合には、中央部の界面以外の何れかの界面を境にして本開示のセンター部とショルダー部との関係を満たしていれば良く、奇数である場合は何れかの界面を境にして本開示のセンター部とショルダー部との関係を満たしていれば良いが、トレッド接地端2eに最も近い界面を境にして本開示のセンター部とショルダー部との関係を満たしていることが好ましい。
【0068】
図1において、トレッド部2には、ベルト層7の半径方向外側にトレッドゴム8が配される。該トレッドゴム8は、本実施形態では、ベルト層7の外面からトレッド面2Aまでを構成している。トレッドゴム8は、タイヤ赤道Cを中心とするセンター部8Aと、センター部8Aに隣接し、トレッド接地端2eまで延びる一対のショルダー部8Bとから構成されている。すなわち、タイヤ赤道C付近からタイヤ軸方向両側に向かって、センター部8A、ショルダー部8Bの2種類の部材が並んで配されている。
【0069】
図1において、センター部8Aとショルダー部8Bとの界面は接合線L1と一致している。なお、当該界面は必ずしも直線状である必要はない。界面が直線状でない場合であっても、接合線L1は、当該界面のタイヤ径方向外側の端点P1と同内側の端点P2とを結ぶ線分として定義される。前記接合線と接地表面との交点P1に引いた接線L2とのなす角のうち、ショルダー部8B側の角がαであり、該αは鈍角(>90°)となっている。ここで、αは90°超が好ましく、100°以上がより好ましく、110°超がさらに好ましく、120°以上がさらに好ましい。一方、αの上限は、本開示の効果の観点からは特に限定されないが、通常150°程度である。界面部の厚みとは、前記接合線の中点からトレッド面に対し垂直な方向でのトレッド部の厚みであり、
図1において、Dで表されている。Dは、4.0mm超であることが好ましく、より好ましくは5.0mm以上、さらに好ましくは6.0mm超である。一方、Dは、10.0mm未満であることが好ましく、より好ましくは9.0mm以下、さらに好ましくは8.0mm未満である。
【0070】
センター部8Aとショルダー部8Bとの界面は、
図2に示すように、接地面(正規内圧が充填されるとともに、正規荷重が負荷された状態でトレッドゴム8が路面100に接する部分)の幅Xの内側であっても良いし、あるいは、外側(
図3参照)であっても良い。
図2に示した状態を「接地面内」にある状態、
図3に示した状態を「接地面外」にある状態という。トレッド配合の耐摩耗性の差から生じる段差摩耗を防ぐ観点からは、分割位置は、幅Xの外側であることが好ましい。
【0071】
(通電ゴム)
本開示において、トレッドのセンター部を構成するゴム組成物は50質量%超のシリカを含む充填剤(C)を有するものであるため、タイヤの通電性が良好とはいえない。このため、トレッドのセンター部には、通電ゴム層(いわゆる、ベースペン)を配置してもよい。通電ゴム層としては、タイヤの走行時に発生した静電気を効果的に接地面に放出できるものであれば、特に限定されない。
図1では、通電ゴム層9がセンター部8Aに配置されている。通電ゴム層9の一端は接地面に露出し、他端はトレッド部を貫通して導電性ゴムと連結している(図において明示せず)。これにより、タイヤの走行時に発生した静電気を効果的に接地面に放出できる。
【0072】
[トレッド部を構成するゴム組成物(トレッドゴム)の物性]
本開示において、トレッド部は、所定のセンター部を構成するゴム組成物(センターゴム)および所定のショルダー部を構成するゴム組成物(ショルダーゴム)を有しており、各ゴム組成物は所定の物性を有する。
【0073】
(式(1)について)
本開示において、ショルダー部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接70℃tanδ(s)の、センター部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接70℃tanδ(c)に対する比(70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c))は1.30超である。該比は、好ましくは1.35超、より好ましくは1.40以上、さらに好ましくは1.45超、さらに好ましくは1.50以上である。一方、該比について特に上限は規定されないが、通常、2.00未満であり、または、1.95未満、または、1.90未満である。
【0074】
70℃tanδは、ゴム組成物に配合される成分の種類や量によって調節することが可能であり、例えば、充填剤(カーボンブラック、シリカ等)等を増量することで大きくなる傾向があり、充填剤(カーボンブラック、シリカ等)等を減らすことで小さくなる傾向がる。70℃tanδは前記方法により測定される。
【0075】
(式(2)について)
本開示において、ショルダー部を構成するゴム組成物の0℃における複素弾性率0℃E*(s)の、センター部を構成するゴム組成物の0℃における複素弾性率0℃E*(c)に対する比(0℃E*(s)/0℃E*(c))は、1.50未満である。該比は、好ましくは1.40未満、より好ましくは1.30未満、さらに好ましくは1.20未満、さらに好ましくは1.10未満、さらに好ましくは1.00未満、さらに好ましくは0.95未満、さらに好ましくは0.90未満、さらに好ましくは0.89以下である。一方、該比について特に下限は規定されないが、通常、0.70超や、0.80超である。
【0076】
0℃E*は、ゴム組成物に配合される成分の種類や量によって調節することが可能であり、例えば、充填剤(カーボンブラック、シリカ等)等を増量することで大きくなる傾向があり、充填剤(カーボンブラック、シリカ等)等を減らすことで小さくなる傾向がる。0℃E*は前記方法により測定される。
【0077】
(式(3)について)
本開示において、前記70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)の、タイヤ子午線断面における前記センター部と前記ショルダー部の界面部の厚み(mm)Dに対する比(70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)/D)は、0.18以上であることが好ましい。該比は、好ましくは0.19以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.21以上、さらに好ましくは0.22以上である。一方、該比について特に上限は規定されないが、通常、3.50以下、または、3.00以下、または、2.80以下である。
【0078】
該比は、70℃tanδの値を調節したり、界面の厚みDを調節することにより、調節することができる。
【0079】
(式(4)について)
本開示において、センター部を構成するゴム組成物のtanδピーク温度T(c)(℃)からショルダー部を構成するゴム組成物のtanδピーク温度T(s)(℃)を引いた差(T(c)-T(s))は、0より大きい値である。該差は、好ましくは5.0℃超、より好ましくは10.0℃超、さらに好ましくは15.0℃超、さらに好ましくは20.0℃超である。一方、該差について特に上限は規定されないが、通常、50℃程度であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは37℃以下、さらに好ましくは35℃以下である。
【0080】
ゴム組成物のtanδピーク温度(℃)は、ゴム組成物に配合される成分の種類や量によって調節することが可能であり、例えば、充填剤を増量したり、軟化剤を減量することで大きくなる傾向があり、充填剤を減量したり、軟化剤を増量することで小さくなる傾向がある。tanδピーク温度(℃)は前記方法により測定される。
【0081】
(式(5)について)
本開示において、ショルダー部を構成するゴム組成物の硬度H(s)の、センター部を構成するゴム組成物の硬度H(c)に対する比(H(s)/H(c))は、1.00未満である。該比は、好ましくは0.97未満、より好ましくは0.95未満、さらに好ましくは0.93未満である。一方、該比について特に下限は規定されないが、通常、0.75程度、または、0.80程度である。
【0082】
ゴム組成物の硬度は、ゴム組成物に配合される成分の種類や量によって調節することが可能であり、例えば、軟化剤の量を増量すると硬度は小さくなる傾向があり軟化剤の量を減量すると硬度は大きくなる傾向があり、充填材の量を増量すると硬度は大きくなる傾向があり、充填材の量を減量すると硬度は小さくなる傾向があり、硫黄や加硫促進剤の量を減らすと硬度は小さくなる傾向があり、硫黄や加硫促進剤の量を増やすと硬度は大きくなる傾向がある。硬度は前記方法により測定される。
【0083】
(式(6)について)
本開示において、ショルダー部を構成するゴム組成物の300%伸長時応力M300(s)(MPa)の、センター部を構成するゴム組成物の300%伸長時応力M300(c)(MPa)に対する比(M300(s)/M300(c))は、1.00未満である。該比は、好ましくは0.80未満、より好ましくは0.70未満、さらに好ましくは0.60未満である。一方、該比について特に下限は規定されないが、通常、0.30程度、または、0.40程度である。
【0084】
ゴム組成物のM300は、ゴム組成物に配合される成分の種類や量によって調節することが可能であり、充填剤を増量したり、軟化剤を減量することで大きくなる傾向があり、充填剤を減量したり、軟化剤を増量することで小さくなる傾向がある。M300は前記方法により測定される。
【0085】
<ゴム組成物>
本開示に係るトレッドゴムを構成するゴム組成物について以下説明する。ここで、トレッドゴムを構成するゴム組成物とは、トレッド部のセンター部を構成するゴム組成物、および、トレッド部のショルダー部を構成するゴム組成物のいずれをも含む。トレッド部のセンター部を構成するゴム組成物、および、トレッド部のショルダー部を構成するゴム組成物は、いずれも、それぞれの物性に応じて、以下に示す説明に基づき、成分の種類および配合量を適宜決定して、製造することができる。
【0086】
[ゴム成分]
本開示において、ゴム成分はジエン系ゴムを含むことが好ましい。本開示の好ましい一態様において、ゴム成分はジエン系ゴムを主たる成分とするものが好ましく、例えば、ゴム成分中、ジエン系ゴムの含有量が90質量%超であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0087】
(ジエン系ゴム)
ジエン系ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等が挙げられる。ジエン系ゴムは、SBRとBRを含むものであることが好ましく、SBRとBRのみからなるものであってもよい。なお、ジエン系ゴムがSBRとBRのみからなる場合には、いずれか一方の含有量(質量%)が下記説明に基づいて決定されれば、他方の含有量(質量%)は自ずと決定される。また、これらのゴム成分はオイル、樹脂、液状ポリマーなどの可塑剤成分により予め伸展された可塑剤伸展ゴムを用いても良い。
【0088】
≪SBR≫
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。SBRは1種または2種以上を用いることができる。E-SBRとS-SBRは好適に併用することができる。
【0089】
また、SBRとしては、非変性SBRを用いることもできるし、変性SBRを用いることもできる。変性SBRとしては、タイヤ工業において一般的なものをいずれも使用することができ、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を導入したものが挙げられる。そのようなSBRとしては、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を、下記官能基を有する化合物(変性剤)で変性した末端変性SBRや、主鎖に下記官能基を有する主鎖変性SBRや、主鎖および末端に下記官能基を有する主鎖末端変性SBR(例えば、主鎖に下記官能基を有し、少なくとも一方の末端を下記官能基を有する化合物(変性剤)で変性した主鎖末端変性SBR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性SBR等が挙げられる。
【0090】
上記官能基としては、例えば、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、水酸基等の官能基が導入されたものを挙げることができる。
【0091】
さらに、変性SBRとしては、上記の非変性SBRや変性SBRを、さらに水素添加したもの、エポキシ化したもの、スズ変性したもの等を挙げることができる。中でも、上記変性SBRをさらに水素添加したSBR(変性水添SBR)が好ましい。水添SBRは、二重結合を減らして単結合を増やすことで、分子鎖の運動性を向上せしめたものであり、ポリマー同士の絡み合い効果が向上し、補強性が増す傾向があるので、本開示の効果の観点から好ましい。
【0092】
SBRとしては、可塑剤伸展SBR(例えば、油展SBR)を用いることもできるし、非伸展SBRを用いることもできる。油展SBRを用いる場合、SBRの油展量、すなわち、SBRに含まれる油展オイルの含有量は、SBRのゴム固形分100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0093】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用することができる。
【0094】
SBRのスチレン含量は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、10質量%超が好ましく、20質量%超がより好ましく、24質量%以上がより好ましく、30質量%超がさらに好ましい。また、該スチレン含量は、60質量%未満が好ましく、50質量%未満がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。なお、スチレン含量は前記測定方法により算出される。
【0095】
SBRのビニル結合量は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、10モル%超が好ましく、15モル%超がより好ましく、17モル%以上がさらに好ましい。また、該ビニル結合量は、80モル%未満が好ましく、60モル%未満がより好ましく、50モル%未満がさらに好ましく、46モル%以下がさらに好ましい。なお、ビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)は前記方法で測定される。
【0096】
SBRのガラス転移温度(Tg)は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、好ましくは-90℃超、より好ましくは-70℃超、さらに好ましくは-60℃超、さらに好ましくは-53℃以上である。また、該Tgは、好ましくは0℃未満、より好ましくは-10℃未満、さらに好ましくは-15℃未満、さらに好ましくは-20℃未満、さらに好ましくは-25℃以下である。なお、ガラス転移温度は前記方法で測定される。
【0097】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、20万超が好ましく、30万超がより好ましい。また、該Mwは、200万未満が好ましく、150万未満がより好ましく、100万未満がより好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は前記方法より求めることができる。
【0098】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは50質量%超、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%超、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%超であり、100質量%であってもよい。SBRの含有量とは、可塑剤伸展SBRの場合には、伸展可塑剤を除いたSBR自体の含有量である。
【0099】
≪BR≫
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率(シス含量)が90モル%超のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。BRは1種または2種以上を用いることができる。このうち、ハイシスBRが好ましい。
【0100】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のもの、宇部興産(株)製のもの、JSR(株)製のもの等が挙げられる。ハイシスBRのシス含量は、好ましくは、95モル%超、より好ましくは96モル%超、さらに好ましくは97モル%以上、さらに好ましくは98モル%超である。希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル結合量(1,2結合ブタジエン単位量)が好ましくは1.8モル%未満、より好ましくは1.0モル%以下、さらに好ましくは0.8モル%未満であり、シス含量(シス-1,4結合含有率)が好ましくは95モル%超、より好ましくは96モル%超、より好ましくは97モル%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス社製のものなどを用いることができる。なお、シス1,4結合含有率、および、ビニル結合量は前記方法により測定される。
【0101】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のもの等を用いることができる。
【0102】
変性BRとしては、上記SBRで説明したのと同様の変性を受けたBRが挙げられる。また、変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られるもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、ZSエラストマー(株)製のもの等を用いることができる。
【0103】
BRのガラス転移温度(Tg)は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、好ましくは-130℃超、より好ましくは-120℃超、さらに好ましくは-110℃超である。また、該Tgは、好ましくは0℃未満、より好ましくは-10℃未満、さらに好ましくは-60℃未満、さらに好ましくは-70℃未満、さらに好ましくは-80℃未満である。なお、本明細書において、ガラス転移温度は前記方法で測定される。
【0104】
BRの重量平均分子量(Mw)は、本開示の効果がより好適に得られるという理由から、20万超が好ましく、30万超がより好ましい。また、該Mwは、200万未満が好ましく、150万未満がより好ましく、100万未満がより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は前記方法より求めることができる。
【0105】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、50質量%未満が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%未満がさらに好ましい。BRの含有量の下限について特に限定はなく、0質量%でもよいし、例えば、5質量%、10質量%、または、20質量%であってもよい。
【0106】
≪その他のジエン系ゴム≫
ゴム成分は、前記のSBRおよびBR以外のその他のジエン系ゴム成分を含有してもよい。その他のジエン系ゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリノルボルネンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
(ジエン系ゴム以外のゴム成分)
ゴム成分は非ジエン系ゴムを含むことができる。非ジエン系ゴムとしては、ブチルゴム(IIR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。非ジエン系ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0108】
[充填剤]
充填剤は、タイヤ工業で一般的に使用されるものを使用することができ、シリカ、カーボンブラックの他、さらに、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、クレー、炭酸カルシウム、マイカ、バイオ炭(BIO CHAR)等が挙げられる。充填剤は1種または2種以上を使用することができる。
【0109】
本開示において、センター部を構成するゴム組成物はシリカが50質量%超の充填剤(C)を含み、ショルダー部を構成するゴム組成物はカーボンブラックが50質量%超の充填剤(S)を含むものである。センター部を構成するゴム組成物の充填剤(C)は、シリカとカーボンブラックを含むものであってもよいし、シリカとカーボンブラックのみからなるものであってもよい。ショルダー部を構成するゴム組成物の充填剤(S)は、シリカとカーボンブラックを含むものであってもよいし、シリカとカーボンブラックのみからなるものであってもよい。センター部を構成するゴム組成物において、充填剤(C)中のシリカの含有量は、好ましくは60質量%超であり、より好ましくは70質量%超、さらに好ましくは80質量%以上である。ショルダー部を構成するゴム組成物において、充填剤(S)中のカーボンブラックの含有量は、好ましくは60質量%超であり、より好ましくは70質量%超、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0110】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。また、これらのシリカの他、もみ殻などのバイオマス材料を原料としたシリカも用いることができる。シリカは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、140m2/g超が好ましく、160m2/超がより好ましく、170m2/g超がさらに好ましく、175m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g未満が好ましく、300m2/g未満がより好ましく、250m2/g未満がさらに好ましい。なお、シリカのN2SAは前記方法で測定される。
【0112】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、本開示の効果の観点から10質量部超が好ましく、15質量部超がより好ましく、20質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、150質量部未満が好ましく、130質量部未満がより好ましく、110質量部未満がさらに好ましく、90質量部未満がさらに好ましい。
【0113】
とりわけ、トレッド部のセンター部を構成するゴム組成物では、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部超が好ましく、より好ましくは60質量部超、さらに好ましくは70質量部超であり、150質量部未満が好ましく、より好ましくは130質量部未満、さらに好ましくは110質量部未満、さらに好ましくは90質量部未満である。
【0114】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、タイヤ工業において一般的なものを適宜利用することができ、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等を挙げることができ、あるいは、N110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を挙げることができる。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、日鉄カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
また、カーボンブラックとしては、再生カーボンブラックを使用することもできる。「再生カーボンブラック」とは、カーボンブラックを含む使用済みのタイヤ等の製品を粉砕し、粉砕物を焼成して得られるカーボンブラックであって、JIS K 6226-2:2003に準拠した熱重量測定法で、空気中の加熱で酸化燃焼させたとき、燃焼しない成分である灰分の質量(灰分量)の割合が13質量%以上であるカーボンブラックをいう。すなわち、再生カーボンブラックの前記酸化燃焼による減量分の質量(カーボン量)の割合は、87質量%以下である。再生カーボンブラックは、rCBで表すこともある。
【0116】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐摩耗性能、グリップ性能等の観点から、40m2/g超が好ましく、80m2/g超がより好ましく、100m2/g超がさらに好ましく、120m2/g超がさらに好ましい。また、該N2SAは、良好な分散の観点から、300m2/g未満が好ましく、250m2/g未満がより好ましく、200m2/g未満がさらに好ましく、160m2/g未満がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは前記方法で測定される。
【0117】
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、十分な補強性の観点から、50ml/100g超が好ましく、100ml/100g超がより好ましい。また、カーボンブラックのDBP吸油量は、ウェットグリップ性能の観点から、200ml/100g未満が好ましく、150ml/100g未満がより好ましい。なお、カーボンブラックのDBP吸油量は前記方法で測定される。
【0118】
カーボンブラックの含有量は、良好な紫外線クラック性能、良好な耐摩耗性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部超、より好ましくは5質量部超、さらに好ましくは10質量部超、さらに好ましくは15質量部超、さらに好ましくは20質量部超である。また、該含有量は、加工性や発熱性の観点から、好ましくは200質量部未満、より好ましくは150質量部未満、さらに好ましくは120質量部未満、さらに好ましくは110質量部未満、さらに好ましくは100質量部未満である。
【0119】
とりわけ、トレッド部のショルダー部を構成するゴム組成物では、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部超が好ましく、より好ましくは60質量部以上、さらに好ましくは70質量部超であり、200質量部未満が好ましく、より好ましくは150質量部未満、さらに好ましくは120質量部未満、さらに好ましくは110質量部未満、さらに好ましくは100質量部未満である。
【0120】
充填剤の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、充分な補強性の観点から、好ましくは50質量部超、より好ましくは70質量部超である。一方、該含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、好ましくは250質量部未満、より好ましくは180質量部未満、さらに好ましくは150質量部未満である。
【0121】
(シランカップリング剤)
ゴム組成物は、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来から使用される任意のシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体例としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のメルカプト系シランカップリング剤などのメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、およびチオエステル基を有するシランカップリング剤が好ましく、スルフィド基を有するシランカップリング剤がより好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
シランカップリング剤の含有量は、充分な耐チッピング性能の観点から、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部超、より好ましくは2質量部超、さらに好ましくは5質量部超である。また、シランカップリング剤の含有量は、含有量に見合った配合効果の観点から、シリカ100質量部に対し、好ましくは20質量部未満、より好ましくは15質量部未満、さらに好ましくは12質量部未満である。
【0123】
[可塑剤]
ゴム成分は、可塑剤を含有することができる。可塑剤としては、例えば、オイル、樹脂、液状ポリマー等が挙げられる。可塑剤は、1種または2種以上を使用することができる。
【0124】
(オイル)
オイルとしては、特に限定されず、例えば、プロセスオイル、植物油脂、およびそれらの混合物などを用いることができる。プロセスオイルとしては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどを挙げることができる。また、植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、サフラワー油、桐油などを挙げることができる。このうち、芳香族系プロセスオイルが好ましい。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合機やエンジンからの廃油や、飲食店での調理からの廃油を精製したものを用いてもよい。オイルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0125】
オイルの含有量は、本開示の効果の観点から、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、15質量部超がより好ましく、20質量部超がさらに好ましい。該含有量は、操縦安定性の観点から、80質量部未満が好ましく、70質量部未満がより好ましく、60質量部未満がさらに好ましく、50質量部未満がより好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0126】
(樹脂)
樹脂は、タイヤ工業で慣用されるものを用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、芳香族系樹脂、脂肪族系石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本開示の効果の観点から、芳香族系樹脂が好ましい。
【0127】
≪芳香族系樹脂≫
芳香族系樹脂としては、芳香族系石油樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペンスチレン樹脂、クマロン系樹脂の他、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。芳香族系樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0128】
芳香族系石油樹脂としては、炭素数8~10個相当の石油留分(C9留分)であるビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンなどのモノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂(C9系石油樹脂とも称される。)、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーとC9留分とを共重合することにより得られる樹脂(C5C9系石油樹脂とも称される。)が用いられる。また、これらを水素添加したものを使用してもよい。より具体的には、例えば、α-メチルスチレン系樹脂が挙げられる。α-メチルスチレン系樹脂としては、α-メチルスチレンのホモポリマー(ポリ-α-メチルスチレン)、α-メチルスチレンと芳香族化合物やフェノール系化合物を含む他の化合物とのコポリマーが挙げられる。このコポリマーを構成し得る他の化合物としては、スチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。特に、α-メチルスチレンとスチレンとのコポリマーが好ましい。α-メチルスチレン系樹脂としては、クレイトンコーポレーション製のものなどが好適に用いられる。
【0129】
テルペンフェノール樹脂は、テルペン化合物およびフェノール系化合物を原料とする樹脂である。ここで、テルペン化合物とは、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等をいう。テルペンスチレン樹脂は、テルペン化合物およびスチレンを原料とする樹脂である。テルペンフェノール樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、水素添加処理を行った樹脂(水添テルペンフェノール樹脂、水添テルペンスチレン樹脂)であってもよい。水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また市販の水添樹脂を使用することもできる。
【0130】
クマロン系樹脂は、クマロンを主成分する樹脂であり、例えば、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、クマロンとインデンとスチレンを主成分とする共重合樹脂等が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0131】
≪脂肪族系石油樹脂≫
脂肪族系石油樹脂としては、特に限定されないが、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂(C5系石油樹脂とも称される。)を用いることができる。脂肪族系石油樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0132】
≪ポリテルペン系樹脂≫
ポリテルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種を原料とする樹脂が挙げられる。ポリテルペン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0133】
≪ロジン系樹脂≫
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0134】
≪樹脂の含有量≫
樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は、接着性能およびグリップ性能の観点から、1質量部超が好ましく、2質量部超がより好ましく、3質量部超がさらに好ましく、5質量部超が特に好ましい。また、耐摩耗性能およびグリップ性能の観点からは、50質量部未満が好ましく、40質量部未満がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、樹脂の含有量には、樹脂によって伸展されたゴムに含まれる樹脂の量も含まれる。
【0135】
≪樹脂の軟化点≫
樹脂の軟化点は、グリップ性能の観点から、160℃未満が好ましく、145℃未満がより好ましく、130℃未満がさらに好ましい。また、軟化点は、グリップ性能の観点から、20℃超が好ましく、35℃超がより好ましく、50℃超がさらに好ましく、80℃超がさらに好ましい。なお、軟化点は前記方法で測定される。
【0136】
≪樹脂の重量平均分子量≫
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、揮発しにくく、グリップ性能が良好である点から、300超が好ましく、400超がより好ましく、500超がさらに好ましい。また、該Mwは、15000未満が好ましく、10000未満がより好ましく、8000未満がさらに好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は前記方法より求めることができる。
【0137】
≪樹脂のSP値≫
樹脂のSP値は、ゴム成分(特にSBR)との相溶性が優れる点から、8.0以上が好ましく、より好ましくは8.0超、さらに好ましくは8.3超であり、11.0以下が好ましく、11.0未満の範囲がより好ましく、より好ましくは9.5未満である。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することでSBRおよびBRとの相溶性が向上し、耐摩耗性能および破断伸びを改善できる傾向がある。なお、SP値は前記方法により計算方法される。
【0138】
(液状ポリマー)
液状ポリマーは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、ミルセン、ファルネセン等の液状ジエン系重合体が挙げられる。液状ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、グリップ性能の観点から、液状SBRが好ましい。液状ポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103~2.0×105であることが好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は前記方法より求めることができる。
【0139】
液状ポリマーを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、グリップ性能の観点から、1質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、40質量部未満が好ましく、30質量部未満がより好ましく、20質量部未満がさらに好ましく、10質量部未満が特に好ましい。なお、本明細書において、液状ポリマーの含有量には、液状ポリマーによって伸展されたゴムに含まれる液状ポリマーの量も含まれる。
【0140】
(可塑剤の含有量)
可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、15質量部超が好ましく、20質量部超がより好ましく、25質量部超がさらに好ましい。一方、該可塑剤の含有量は、85質量部未満が好ましく、80質量部未満がより好ましく、70質量部未満がさらに好ましく、60質量部未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、可塑剤の含有量には、可塑剤によって伸展されたゴムに含まれる可塑剤の量も含まれる。
【0141】
[その他配合剤]
ゴム組成物は、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤を含有することができる。そのような配合剤としては、例えば、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、無機カリウム塩、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等が挙げられる。さらに、ゴム組成物は、熱可塑性エラストマーを含んでいてもよく、含んでいなくともよい。
【0142】
(ワックス)
ワックスは、従来タイヤ工業で一般的に使用されるもの使用することができ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化の抑制の観点からは、10質量部未満が好ましく、5質量部未満がより好ましい。
【0143】
(加工助剤)
加工助剤は、従来タイヤ工業で一般的に使用されるもの使用することができ、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部超がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部未満が好ましく、8質量部未満がより好ましい。
【0144】
(老化防止剤)
老化防止剤は、従来タイヤ工業で一般的に使用されるもの使用することができる。具体的には、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系、フェニレンジアミン系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられる。このうち、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0145】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部超が好ましく、あるいは、1質量部以上であっても好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部未満が好ましく、5質量部未満がより好ましい。
【0146】
(ステアリン酸)
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部超がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部未満が好ましく、5質量部未満がより好ましい。
【0147】
(酸化亜鉛)
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部超がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部未満が好ましく、5質量部未満がより好ましい。
【0148】
(無機カリウム塩)
無機カリウム塩は、従来タイヤ工業で一般的に使用されるもの使用することができ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機カリウム塩としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムおよび四ホウ酸カリウムからなる群から選ばれる1種以上のカリウム塩等が挙げられ、これらのうち、四ホウ酸カリウムが好ましい。
【0149】
無機カリウム塩の含有量は、押出し加工性の観点から、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.3質量部超、より好ましくは0.4質量部超である。また、耐摩耗性の観点からは、シリカ100質量部に対して、好ましくは3質量部未満、より好ましくは2.5質量部未満、より好ましくは2質量部未満、さらに好ましくは1.45質量部未満である。
【0150】
(加硫剤)
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができ、それぞれ、単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0151】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。硫黄以外の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のもの、フレクシス社製のもの、ランクセス社製のものなどを用いることができる。
【0152】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.5質量部超が好ましく、0.7質量部超がより好ましい。また、劣化の抑制の観点からは、5.0質量部未満が好ましく、4.0質量部未満がより好ましく、3.0質量部未満がさらに好ましい。
【0153】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系の少なくとも一つが好ましく、スルフェンアミド系およびグアニジン系を併用することがより好ましい。
【0154】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)が好ましい。
【0155】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0156】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0157】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部超が好ましく、2質量部超がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部未満が好ましく、7質量部未満がより好ましく、6質量部未満がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0158】
<製造方法>
[ゴム組成物の製造]
本開示のゴム組成物の製造方法としては、適宜、公知の方法を適用することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150℃以上170℃以下で3分以上10分以下の間混練りし、ファイナル練り工程では、50℃以上110℃以下で1分以上5分以下の間混練りする方法が挙げられる。
【0159】
[タイヤの製造]
上記で得たゴム組成物は、未加硫の段階で所望のトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤとすることができる。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧(加硫)することにより、本開示の二輪自動車用タイヤを得ることができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150℃以上200℃以下で5分以上30分以下の間加硫する方法が挙げられる。
【0160】
<用途>
本開示の二輪自動車用タイヤは、その形式は特に限定されず、空気入りタイヤ、ソリッドタイヤのいずれであってもよいが、空気入りタイヤとして用いることが好ましい。また、オンロードタイヤ、オフロードタイヤ、競技用タイヤ等種々のいずれの用途にも使用することができる。
【実施例0161】
以下、実施例に基づいて、本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらのみに限定されるものではない。
【0162】
<各種薬品>
SBR1:タフデン(TUFDENE)4850(旭化成(株)の未変性S-SBR、スチレン含量:40質量%、ビニル結合量:46%、Tg:-25℃、ゴム固形分100質量部に対して油展オイル分50質量部含有)
SBR2:JSR1723(JSR(株)製の未変性E-SBR、スチレン含量:24質量%、ビニル結合量:17%、Tg:-53℃、ゴム固形分100質量部に対して油展オイル分37.5質量部含有)
BR:ウベポールBR150B(宇部興産(株)の未変性BR、シス含量:97%、ビニル結合量:1%、Tg:-107℃)
カーボンブラック:ショウブラックN110(キャボットジャパン(株)から入手可能、N2SA:142m2/g(BET値)、DBP吸油量:115mL/100g)
シリカ:ウルトラシル(ULTRASIL)VN3(エボニックデグサ社から入手可能、N2SA:175m2/g(BET値))
シランカップリング剤:Si69(エボニックデグサ社製、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド)
オイル:ダイアナプロセスNH-70S(出光興産(株)の芳香族系プロセスオイル)
樹脂:Sylvatraxx 4401(クレイトンコーポレーションの芳香族系石油樹脂(α-メチルスチレン樹脂:α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体)、軟化点85℃、SP値:9.1)
ワックス:オゾエース(Ozoace)0355(日本精蝋(株)から入手可能)
老化防止剤:アンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、住友化学(株)から入手可能)
ステアリン酸:ステアリン酸「つばき」(日油(株)から入手可能)
酸化亜鉛:銀嶺R(東邦亜鉛(株)から入手可能)
硫黄:HK-200-5(細井化学工業(株)の5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:ノクセラーNS-P(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、大内新興化学工業(株)から入手可能)
加硫促進剤2:ノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、大内新興化学工業(株)から入手可能)
【0163】
<試験用タイヤ>
表1に示すセンター部用ゴム組成物についての配合処方(C1、C2)にしたがい、(株)神戸製鋼所製1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を、排出温度150℃で5分間混練りする。次に、得られる混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールで4分間、105℃になるまで練り込み、センター部用の未加硫ゴム組成物を得る。
【0164】
また、表1に示すショルダー部用ゴム組成物についての配合処方(S1~S8)に従い、センター部の場合と同様に処理して、ショルダー部用の未加硫ゴム組成物を得る。
【0165】
表2の仕様に基づき試験用タイヤを作製する。すなわち、上記のセンター部用未加硫ゴム組成物およびショルダー部用未加硫ゴム組成物を、それぞれ、トレッドのセンター部の形状および1対のショルダー部の形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で12分間プレス加硫して、試験用タイヤを得る。試験用タイヤは、フロントタイヤのサイズが120/70ZR17、リアタイヤのサイズが180/55ZR17である。
【0166】
<測定・評価>
下記の測定方法および評価方法に基づいて算出した結果を表1および表2に示す。
【0167】
[70℃tanδ]
加硫ゴム組成物の70℃における損失正接70℃tanδは、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪み10%、および、動歪み1%、伸長モードの条件下で測定する。測定用サンプルは、タイヤのトレッド部からタイヤの周方向を長さ方向として切り出した長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物を用いる。
【0168】
[0℃E*]
加硫ゴム組成物の0℃における複素弾性率0℃E*(MPa)は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度0℃、周波数10Hz、初期歪み5%、および、動歪み1%、伸長モードの条件下で測定する。測定用サンプルは、上記tanδ測定用のサンプルと同様に調製する。
【0169】
[tanδピーク温度]
加硫ゴム組成物のtanδピーク温度(℃)は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用い、周波数10Hz、初期歪10%、動歪み±0.5%および昇温速度2℃/minの条件下で、tanδの温度分布曲線を測定し、得られた温度分布曲線における最も大きいtanδ値に対応する温度(tanδピーク温度)として決定する。測定用サンプルは、上記tanδ測定用のサンプルと同様に調製する。
【0170】
[硬度]
加硫ゴム組成物の硬度は、試験タイヤの接地面を形成するトレッド部からタイヤ半径方向が厚さ方向となるようにトレッド部を切り出して硬度測定サンプルを作成し、JIS K 6253に準拠して23℃でタイプAデュロメータを接地面側からサンプルに押し付けて測定する。
【0171】
[M300]
M300は、各試験用タイヤのトレッド部のゴム層内部からタイヤ周方向が引張方向となる様に切り出した厚さ1mmの7号ダンベル形状の試験片を作製し、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張試験特性の求め方」に準じて、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で引張試験を実施し、300%伸張時応力(M300)(MPa)を求める。
【0172】
[耐界面剥離性能]
各試験用タイヤを、正規リム(前輪:MT3.50x17、後輪:MT5.50x17)に組み込み、テスト車両(排気量750ccの二輪自動車(4サイクル))に装着する。空気内圧は、フロントタイヤ250kPaに、リアタイヤ290kPaに調節する。
【0173】
このテスト車両で、乾燥アスファルト路面のテストコースを5000km走行し、トレッドのセンター部とショルダー部の界面の剥離状況を、目視にて評価する。基準比較例のものを100として、指数表示する。数値が大きいほど優れていることを示す。
【0174】
【0175】
【0176】
<実施形態>
本開示の実施形態の例を以下に示す。
【0177】
[1]トレッド部を備えた二輪自動車用タイヤであって、
前記トレッド部が、タイヤ赤道を含むセンター部と、トレッド接地端を含む一対のショルダー部とを有し、
前記センター部を構成するゴム組成物が充填剤(C)を含み、前記充填剤(C)がシリカを含み、前記充填剤(C)中のシリカの比率が50質量%超であり、
前記ショルダー部を構成するゴム組成物が充填剤(S)を含み、前記充填剤(S)がカーボンブラックを含み、前記充填剤(S)中のカーボンブラックの比率が50質量%超であり、
前記センター部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(c)、0℃における複素弾性率を0℃E*(c)とし、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の70℃における損失正接を70℃tanδ(s)、0℃における複素弾性率を0℃E*(s)とするとき、70℃tanδ(c)と70℃tanδ(s)とが下記式(1)を満たし、0℃E*(c)と0℃E*(s)とが下記式(2)を満たす二輪自動車用タイヤ。
(1) 1.30<70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)
(2) 0℃E*(s)/0℃E*(c)<1.50
[2]前記式(1)の左辺が1.35、好ましくは1.45である上記[1]記載の二輪自動車用タイヤ。
[3]前記式(2)の右辺が1.40、好ましくは1.30、より好ましくは1.20、さらに好ましくは1.10、さらに好ましくは1.00、さらに好ましくは0.95、さらに好ましくは0.90である上記[1]または上記[2]記載の二輪自動車用タイヤ。
[4]タイヤ子午線断面における前記センター部と前記ショルダー部の界面部の厚みDが4.0mm超かつ10.0mm未満、好ましくは5.0mm以上9.0mm以下、より好ましくは6.0mm超8.0mm未満である上記[1]~上記[3]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
[5]前記ショルダー部を構成するゴム組成物におけるゴム成分が、70質量%超、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%超、または、100質量%のスチレンブタジエンゴムを含有する上記[1]~上記[4]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
[6]前記ショルダー部を構成するゴム組成物における充填剤(S)の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、50質量部超、好ましくは50質量部超250質量部未満、より好ましくは70質量部超180質量部未満、さらに好ましくは70質量部超150質量部未満である上記[1]~上記[5]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
[7]前記ショルダー部を構成するゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、50質量部超、好ましくは60質量部以上200質量部未満、より好ましくは70質量部超150質量部未満、さらに好ましくは70質量部超120質量部未満、さらに好ましくは70質量部超110質量部未満、さらに好ましくは70質量部超100質量部未満である上記[1]~上記[6]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
[8]前記ショルダー部を構成するゴム組成物が、ゴム成分100質量に対して、5質量部超かつ40質量部未満、このましくは5質量部超かつ35質量部以下の樹脂を含有する上記[1]~上記[7]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
[9]前記樹脂が、芳香族系樹脂を含む上記[8]記載の二輪自動車用タイヤ。
[10]前記センター部を構成するゴム組成物における充填剤(C)の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、60質量部超、好ましくは60質量部超250質量部未満、より好ましくは70質量部超180質量部未満、さらに好ましくは70質量部超150質量部未満である上記[1]~上記[9]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
[11]前記センター部を構成するゴム組成物におけるシリカの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、60質量部超、好ましくは60質量部超150質量部未満、さらに好ましくは70質量部超130質量部未満、さらに好ましくは70質量部超110質量部未満、さらに好ましくは70質量部超90質量部未満である上記[1]~上記[10]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
[12]タイヤ子午線断面における前記センター部と前記ショルダー部の界面部の厚み(mm)をDとするとき、Dと前記70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)とが以下の関係を満たす、または、式(3)の右辺の値が好ましくは0.19、より好ましくは0.20、さらに好ましくは0.21、さらに好ましくは0.22である上記[1]~上記[11]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
(3) 70℃tanδ(s)/70℃tanδ(c)/D≧0.18
[13]タイヤ子午線断面において、前記センター部と前記ショルダー部の界面の接合線と、該接合線と接地表面とが交わる交点に引いた接線とのなす角のうち、ショルダー部側の角の角度αが90°超、好ましくは100°以上、より好ましくは110°超、さらに好ましくは120°以上である上記[1]~上記[12]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
[14]前記センター部を構成するゴム組成物のtanδピーク温度(℃)をT(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物のtanδピーク温度(℃)をT(s)とするとき、T(c)とT(s)とが以下の関係を満たす、または、式(4)の右辺の値が好ましくは5.0、より好ましくは10.0、さらに好ましくは15.0、さらに好ましくは20.0である上記[1]~上記[13]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
(4) T(c)-T(s)>0
[15]前記センター部を構成するゴム組成物の硬度をH(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の硬度をH(s)とするとき、H(c)とH(s)とが以下の関係を満たす、または、式(5)の右辺の値が好ましくは0.97、より好ましくは0.95、さらに好ましくは0.93である上記[1]~上記[14]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
(5) H(s)/H(c)<1.00
[16]前記センター部を構成するゴム組成物の300%伸長時応力(MPa)をM300(c)、前記ショルダー部を構成するゴム組成物の300%伸長時応力(MPa)をM300(s)とするとき、M300(c)とM300(s)とが以下の関係を満たす、または、式(6)の右辺の値が好ましくは0.80、より好ましくは0.70、さらに好ましくは0.60である上記[1]~上記[15]のいずれか1項に記載の二輪自動車用タイヤ。
(6) M300(s)/M300(c)<1.00