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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160737
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】標識化合物、及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/12 20060101AFI20231026BHJP
   C07D 207/16 20060101ALI20231026BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20231026BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20231026BHJP
   G01T 1/161 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C07C229/12
C07D207/16 CSP
A61K51/04
A61P35/00
G01T1/161 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041381
(22)【出願日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2022070283
(32)【優先日】2022-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出」研究開発領域「代謝産物解析拠点の創成とがんの代謝に立脚した医療基盤技術開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】辻 厚至
(72)【発明者】
【氏名】山崎 香奈
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千恵
(72)【発明者】
【氏名】曽我 朋義
【テーマコード(参考)】
4C085
4C188
4H006
【Fターム(参考)】
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB02
4C085KB45
4C085KB56
4C085LL18
4C188EE02
4C188FF07
4H006AA01
4H006AB20
4H006AB92
4H006AC84
4H006BU32
4H006NB24
(57)【要約】
【課題】膵癌等をより特異的に検出することが可能な、PET用の標識化合物等を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は11C標識メチルロイシン又は11C標識メチルプロリン、及び、11C標識メチルロイシン又は11C標識メチルプロリンを含むPET用プローブである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)又は式(3)で表される化合物又はその塩。
【化1】
【化2】
(式中の*で示すメチル基は、[11C]メチル基である。)
【請求項2】
式(1)又は式(3)で表される化合物又はその塩を含む、PET用プローブ。
【化3】
【化4】
(式中の*で示すメチル基は、[11C]メチル基である。)
【請求項3】
膵癌のイメージング用である、請求項2に記載のプローブ。
【請求項4】
式(2)又は式(4)で表される化合物又はその塩を備える、PET用プローブ調製用のキット。
【化5】
【化6】
(式中のRは、アルキル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識化合物、及び当該化合物のPET用プローブとしての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
膵癌の予後は非常に悪く、様々な治療法が試されているが、何十年もの間、生存率はほとんど伸びていない。ただし膵癌は、早期発見がなされれば完全寛解も可能とされており、その発見法の開発が鋭意進められている。
【0003】
膵癌の発見法の一つに、EUS-FNA(超音波内視鏡ガイド下穿刺)と称される膵癌イメージガイド生検がある。ただし、EUS-FNAは、膵癌発見の精度が高いが侵襲性が高いために、膵癌の早期発見を目的として手軽に受けられる検査とは言い難い。
【0004】
一般に、侵襲性が低く、かつ病気発見の精度が高い検査法としてはPET(positron emission tomography)がある。[18F]FDG(フルオロデオキシグルコース)と称するPETプローブは、膵癌を含む癌の予後確認等の用途でも利用されている。[18F]FDGはグルコースの誘導体であって、グルコーストランスポータを高発現する細胞に選択的に取り込まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】膵癌診療ガイドライン2019年版(http://suizou.org/gaiyo/guide.htm)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[18F]FDGをPETプローブとして膵癌の検出に適用する場合は、例えば、次のような問題点がある。
・このプローブは炎症(グルコーストランスポータを高発現する)にも集積するため、膵炎と膵癌とを区別できない。膵癌の患者は膵炎を併発することも多く、PETによる癌占居部位の特定もできない(偽陽性の問題)。
・血糖値が高い状態でPETを行えば、癌の検出が困難になる(偽陰性の問題)。
【0007】
本発明の一態様は、上記課題を解決するためになされたものであり、例えば膵癌をより特異的に検出することが可能な、PET用の標識化合物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためのものであって、以下のものが含まれる。
1) 後述する式(1)又は式(3)で表される化合物又はその塩。
2) 後述する式(1)又は式(3)で表される化合物又はその塩を含む、PET用プローブ。
3) 後述する式(2)又は式(4)で表される化合物又はその塩を備える、PET用プローブ調製用のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、例えば膵癌をより特異的に検出することが可能な、PET用の標識化合物等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施例において得られた[11C]D-MeLeuの精製前後のHPLCチャートを比較する図である。
図2図2は、一実施例において得られた[11C]D-MeLeuの、膵癌細胞移植モデルマウスを用いたPET実験の結果を示す図である。
図3図3は、一実施例において得られた[11C]D-MeLeuの、健常人の全身スタティックスキャンを行った結果を示す図である。
図4図4は、一実施例において得られた[11C]L-MeProの精製後のHPLCチャートを比較する図である。
図5図5は、一実施例において得られた[11C]L-MeProの精製後のHPLCチャートを比較する図である。
図6図6は、一実施例において得られた[11C]L-MeProの血漿中安定性の評価試験の結果を示す図である。
図7図7は、一実施例において得られた[11C]L-MeProの代謝物分析
図8図8は、一実施例において得られた[11C]L-MeProの、膵癌細胞移植モデルマウスを用いたPET実験の結果を示す図である。
図9図9は、一実施例において得られた[11C]L-MeProの、膵癌細胞移植モデルマウスを用いた体内動態実験の結果を示す図である。
図10図10は、一実施例において得られた[11C]L-MeProの、健常人の全身スタティックスキャンを行った結果を示す図である。
図11図11は、一実施例において得られた[11C]L-MeProを投与してから20分後の全身スタティックスキャンの上腹部の横断画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔1.標識化合物〕
本発明の一実施形態に係る標識化合物は、式(1)又は式(3)で表される化合物又はその塩である。式中の*で示すメチル基は、[11C]メチル基である。
【化1】
【化2】
【0012】
すなわち、標識化合物は、アミノ基の水素原子のうち一つが[11C]メチル基で置換されてなるロイシン([11C]メチルロイシン)又はアミノ基の水素原子のうち一つが[11C]メチル基で置換されてなるプロリン([11C]メチルプロリン)である。標識化合物は、D体であってもL体であってもよい。[11C]メチルロイシンはD体が好ましく、[11C]メチルプロリンはL体が好ましい。
【0013】
標識化合物の塩は、その用途を鑑みると、「薬学的に許容される塩」であることが好ましい。標識化合物の塩は、具体的には、例えば、塩酸塩やナトリウム塩等の無機塩や、有機塩等であってもよい。
【0014】
標識化合物又はその塩は、後述する式(2)で表される化合物(前駆体(H-Leu-OR))若しくは式(4)で表される化合物(前駆体(H-Pro-OR))又はその塩が持つアミノ基を11C核種によってメチル化する工程と、次いで、エステル加水分解工程とを行うことによって製造することができる。メチル化する工程では使用する11C核種としては、[11C]CHOTfや[11C]CHI等を用いることができる。エステル加水分解工程では、塩酸等の強酸又は水酸化ナトリウム等の強塩基を用いればよい。標識化合物又はその塩の製造方法については、実施例の記載も参照できる。
【0015】
〔2.PET用プローブ〕
本発明の一実施形態に係るPET用プローブは、上記の式(1)又は式(3)で表される化合物又はその塩を含んでなる。PET用プローブは、例えば、静脈内投与用の注射剤等の適切な剤形に製剤することができる。静脈内投与用の注射剤の製剤は、媒体、pH調整剤、緩衝剤、懸濁化剤、可溶化剤、酸化防止剤、保存剤、張性調節剤等を、式(1)又は式(3)で表される化合物又はその塩に必要に応じて加えることによって製造することができる。媒体の例は、生理的食塩水である。pH調整剤及び緩衝剤の例は、注射剤に用いられる有機酸又は無機酸である。
【0016】
なお、PET用プローブの生体への投与は、静脈内投与等の種々の経路による注入により行うことができる。また、投与量も、必要に応じて当業者によって適宜設計され得る。
【0017】
投与対象の生体は、ヒトを含む動物であり、好ましくはヒトを含む哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。哺乳動物の種類は特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトを除く霊長類等の実験動物;イヌおよびネコ等の愛玩動物;ウシ、およびウマ等の家畜;ヒト;が挙げられる。
【0018】
PET(positron emission tomography)の方法や装置は公知のものを用いることができる。PETは、PET単独での実施でもよく、PET/CT又はPET/MRI等の画像診断の組合せでの実施でもよい。
【0019】
本発明の一実施形態に係るPET用プローブは、1)膵癌への集積が相対的に高い、2)膵臓及びその周辺臓器への集積が相対的に低い、3)炎症の影響を受けにくく、かつ早期癌でも高集積する(グルコーストランスポータ以外の、膵癌に高発現するトランスポータを利用する形)等の特性を有する。したがって、このPET用プローブは、例えば、膵癌のイメージング用に特に好適である。このPET用プローブは、例えば、膵癌の検出や癌占居部位の特定、膵癌の治療効果判定、膵癌の再発の検出、膵癌の治療効果予測等に利用することができる。このPET用プローブは、特に、膵癌の早期癌(例えば直径1cm未満)のステージでの早期発見に利用が可能であり、膵癌の完全寛解の可能性を高める画期的な技術である。
【0020】
〔3.PET用プローブ調製用のキット〕
本発明の一実施形態に係るPET用プローブ調製用のキットは、式(2)で表される化合物(前駆体(H-Leu-OR))若しくは式(4)で表される化合物(前駆体(H-Pro-OR))又はその塩を備えてなる。式(2)又は式(4)中のRはアルキル基を表し、好ましくは炭素数1~5のアルキル基であり、より好ましくはt-ブチル基である。なお、式(2)又は式(4)で表す化合物はD体であってもL体であってもよく、上記の〔1.標識化合物〕に応じて選択すればよい。
【化3】
【化4】
【0021】
上記キットとしては、式(2)又は式(4)で表される上記化合物又はその塩の他に、当該化合物が持つアミノ基を11C核種によってメチル化する工程やエステル加水分解工程で用いる、他の試薬、溶媒、触媒等を備えていてもよい。[11C]メチル化する工程で用いる試薬等としては、極性溶媒(例えばメタノール、アセトニトリル等)や塩基が挙げられる。エステル加水分解工程で用いる試薬等としては、塩酸等の強酸や水酸化ナトリウム等の強塩基等が挙げられる。
【0022】
なお、本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル等)を備えた包装が意図される。好ましくは各材料を使用するための指示書を備える。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備えた(備える)」は、キットを構成する個々の容器の何れかの中に内包されている状態が意図される。また、本実施の形態に係るキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装であり得る。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROM等のような電子媒体に付されてもよい。
【0023】
本実施の一実施形態に係るキットはまた、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、本実施の形態に係るキットは、用途に応じて必要な器具をあわせて備えていてもよい。
【0024】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0025】
〔1.標識化合物[11C]D-MeLeuの合成〕
以下の反応により、[11C]D-メチルロイシン([11C]D-MeLeu)を合成した。
【化5】
前駆体(H-D-Leu-OtBu-HCl)は、市販品を購入した。標識試薬[11C]CHOTfは定法により調製をし、これを用いて前駆体が有するアミノ基のメチル化(工程(a))を行った。工程(a)は、前駆体1mg、ペンタメチルピペリジン(PMP)1μL、MeOH/CHCN(2/1,v/v)180μLの存在下、反応温度60℃で1分間反応を行った。次いで、t-ブチルエステルの加水分解工程である工程(b)は、工程(a)の反応溶液に2NのHCl水溶液を加え、反応温度100℃で5分間反応を行い、反応後に精製した。
放射化学的収率:7.5±2.2%(n=7、減衰補正なし)
照射終了時から精製までの時間:35分間、であった。
なお、精製前後の[11C]D-MeLeuのHPLCチャートを取り、[11C]D-MeLeuの存在と放射化学的純度を確認した(図1)。
【0026】
〔2.膵癌細胞移植モデルマウスを用いたPET実験〕
AsPC-1(ヒト膵癌由来の腫瘍)をBALB/c-nu/nuマウス(日本SLCより入手)の両肩の皮下に移植した膵がん皮下腫瘍モデルマウスを用いて、PETイメージング及び体内動態実験を行った。10MBq(約300μCi)の[11C]D-MeLeuをモデルマウスの尾静脈から投与し、50分後から10分間PET撮像した。結果を図2に示す。[11C]D-MeLeuは、膵癌由来の腫瘍に高集積し、腫瘍を明瞭にイメージングすることに成功した。[11C]D-MeLeuは、膵臓への集積も相対的に少ないこともわかった。
【0027】
〔3.健常人を用いた、[11C]D-MeLeuによる臨床PET試験〕
6人の健常人(22才~55才の日本人男性(平均年齢34才±13才)に対して、[11C]D-MeLeu(平均:295±68MBq; 範囲:181-357MBq)を静脈注射した。[11C]D-MeLeuの安全性は、ベースライン及び注射90分後での、兆候の監視、バイタルサインの監視、並びに、ラボラトリ試験によって評価した。PET/CTカメラを用いて、心臓及び上腹部に対する4分間(投与後0分~4分)のダイナミックPET/CTスキャンを行い、さらに、4分間の全身スタティックスキャンを17回行った(図3)。PET/CTイメージデータの再構成後、放射性トレーサの生物学的分布を評価するための器官毎のTACs(time activity curves)を、ダイナミックスキャン及び全身スキャンからのVOI(volume of interest)データのフィッティングにより評価した。全身(whole-body)実効線量を決定するために、IDAC-Dose 2.1ソフトウェアを用いた。
【0028】
[11C]D-MeLeu注射後に、血球数、肝機能、腎機能を含むバイタルサイン、及びラボラトリデータに有意な変化はなかった。PETイメージングに関して、血液の取り込み量(heart contents)はSUVmean;35.8±18.5までに達した後、双指数関数的に減少した。腎臓への急速な蓄積とそれに続く膀胱への放射能の流入は、相対的に取り込みが低い器官としての膵臓(肺、脳、頭部及び首部の領域、腹部、筋肉並びに他の軟組織もまた同様)とは対照的に、腎臓がこの放射性トレーサの主要な排出器官であることを示す。線量分析において、より高い吸収線量は、腎臓及び膀胱で計測され、その平均吸収線量はそれぞれ12.2±1.11μGy/MBq、及び9.65±2.28μGy/MBqであった。放射線吸収線量は、肺(4.74±0.76μGy/MBq)、膵臓(6.26±0.43μGy/MBq)、及び肝臓(6.56±0.82μGy/MBq)で相対的に低かった。MIRD法に基づく平均総(total-body)実効線量は4.17±0.21μSv/MBqと計算され、これは185-370MBqの[11C]D-MeLeuが投与された成人では0.77-1.54mSvと見積もられる。[11C]D-MeLeuは、マウスと人とで同様の体内動態を示し、適切な吸収放射線量を示し、急性の毒性もなく、優れた全身PETイメージを提供する。
【0029】
〔4.標識化合物[11C]L-MeProの合成〕
以下の反応により、N-[11C]メチル-L-プロリン([11C]L-MePro)を合成した。
【化6】
【0030】
前駆体は市販品を購入した。標識試薬[11C]CHOTfは定法により調製をし、これを用いて前駆体が有するアミノ基のメチル化工程を行った。アミノ基のメチル化工程は、前駆体1mg、PMP1μL、CHOH/CHCN(2/1,v/v)180μLの存在下、反応温度60℃で3分間反応を行った。次いで、t-ブチルエステルの加水分解工程では、アミノ基のメチル化工程の反応溶液に2NのHCl水溶液を加え、反応温度100℃で5分間反応を行い、反応後に精製した。
【0031】
11C]L-MeProの合成は2回行った。合成後にHPLCによって、[11C]L-MeProの存在と放射化学的純度を確認した。各合成の確認結果を図4および5ならびに表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
〔5.[11C]L-MeProの血漿中安定性〕
次に、[11C]L-MeProの血漿中安定性を評価した。30μLの[11C]L-MePro及び270μLのマウス血漿を混合したサンプルを、37℃において0、30および60分間インキュベーションした。インキュベーション後のサンプルをTLC(Thin layer Chromatography)に供した。測定結果を図6に示す。
【0034】
図6に示すように、[11C]L-MeProは血漿中において安定であることがわかった。
【0035】
また、[11C]L-MeProの血漿タンパク結合率を測定したところ、2.38±5.24%であり、[11C]L-MeProの血漿タンパクへの結合性が低いことが分かった。
【0036】
〔6.[11C]L-MeProの代謝物分析〕
次に、[11C]L-MeProの代謝物分析を行った。AsPC-1をBALB/c-nu/nuマウスの両肩の皮下に移植した膵がん皮下腫瘍モデルマウスを用い、約185KBqの[11C]L-MeProをモデルマウスの尾静脈から投与した。投与してから30分後にマウスを犠牲にし、血液、尿、肝臓、腎臓、膵臓およびAsPC-1腫瘍を回収した。各臓器をホモジナイズ処理後、TLCに供した。測定結果を図7に示す。図7中、「S」は標準物質、「B」は血液、「U」は尿、「L」は肝臓、「K」は腎臓、「P」は膵臓、「T」は、AsPC-1腫瘍を示す。
【0037】
図7に示すように、[11C]L-MeProの代謝物が、肝臓、腎臓及び膵臓で観察された。
【0038】
〔7.膵癌細胞移植モデルマウスを用いた[11C]L-MeProのPET実験〕
AsPC-をBALB/c-nu/nuマウス(日本SLCより入手)の両肩の皮下に移植した膵がん皮下腫瘍モデルマウスを用いて、PETイメージング及び体内動態実験を行った。10MBqの[11C]L-MeProをモデルマウスの尾静脈から投与し、50分後から10分間PET撮像した。また、投与してから1、20及び60分後にマウスを犠牲にし、各臓器の放射線を測定して体内動態実験を行った。PETイメージングの結果を図8、体内動態試験の結果を図9に示す。
【0039】
図8に示すように[11C]L-MeProは、膵癌由来の腫瘍に高集積し、腫瘍を明瞭にイメージングすることに成功した。
【0040】
〔8.健常人を用いた、[11C]L-MeProによる臨床PET試験〕
11C]L-MeProに変更した以外は、[11C]D-MeLeuによる臨床PET試験〕と同様の手順で、[11C]L-MeProの臨床PET試験を実施した。PET/CTカメラを用いて、[11C]L-MeProを投与してから90分間、5分おきに全身スタティックスキャンを行った。[11C]L-MeProを投与してから10、20及び40分後の全身スタティックスキャンの画像を図10に示す。また、[11C]L-MeProを投与してから20分後の上腹部の横断像を図11に示す。
【0041】
図10及び11に示すように、マウスと異なる集積は観察されなかった(n=6)。撮像後の生理学的検査、自覚及び他覚所見に異常が見られず、膵臓の集積はバックグラウンドであった。以上より、[11C]L-MeProは、マウスと人とで同様の体内動態を示し、適切な吸収放射線量を示し、急性の毒性もなく、優れた全身PETイメージを提供する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、医療分野(特に膵癌の発見)に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11