(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160753
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】歯止めフリーホイール
(51)【国際特許分類】
F16D 41/12 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
F16D41/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023062436
(22)【出願日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】10 2022 001 398.3
(32)【優先日】2022-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】500124378
【氏名又は名称】ボーグワーナー インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】ブレツガー、フリードリッヒ フィリップ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】取り扱いが容易でコンパクト、また耐用性、機能性に優れた低コストフリーホイールを提供する。
【解決手段】第1、第2の軌道輪16、18と、前記軌道輪の間に配置された爪22、24とを備えた歯止めフリーホイール2であって、第1の軌道輪が第2の軌道輪に対し第1の回転方向26に第1の爪22を介して第2の軌道輪に動力伝達可能とする閉位置と、第1の軌道輪が第2の軌道輪に対し第1の回転方向において回転可能な開位置との間で枢動可能な少なくとも1つの第1の爪を含み、作動装置42は、第1の爪と作用し、軸方向4において第1の爪に対し、第1の爪が閉位置に枢動される第1の作動位置から、第1の爪が前記開位置に枢動される第2の作動位置まで変位可能な作動ピン46を備える。作動ピンは、半径方向平面に対して傾斜し、第1の爪が枢動されたときに第1の爪上に支持可能になるまたは直接支持される衝合面を有する面48を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軌道輪(16)と、第2の軌道輪(18)と、前記第1の軌道輪(16)と前記第2の軌道輪(18)との間に配置された爪(22、24)とを備えた歯止めフリーホイール(2)であって、前記第1の軌道輪(16)が前記第2の軌道輪(18)に対して第1の回転方向(26)において前記第1の爪(22)を介して前記第2の軌道輪(18)に動力伝達可能に連結される閉位置と、前記第1の軌道輪(16)が前記第2の軌道輪(18)に対して前記第1の回転方向(26)において回転可能な開位置との間で枢動可能な少なくとも1つの第1の爪(22)を含み、作動装置(42)は、前記第1の爪(22)と相互作用し、かつ軸方向(4)において前記第1の爪(22)に対して、前記第1の爪(22)が前記閉位置に枢動される第1の作動位置から、前記第1の爪(22)が前記開位置に枢動される第2の作動位置まで変位可能な作動ピン(46)を備え、前記作動ピン(46)は、半径方向平面に対して傾斜するとともに、前記第1の爪(22)が枢動されたときに前記第1の爪(22)上に支持可能になるまたは直接支持される衝合面(52)を有する、軸方向(4)を向く面(48)を備えることを特徴とする歯止めフリーホイール(2)。
【請求項2】
前記面(48)は、前記衝突面(52)が任意に直接当接する、半径方向平面内に延在する半径方向表面(50)を有し、軸方向(6)に沿って前記面(48)を見たとき、前記衝突面(52)は、好ましくは前記半径方向表面(50)よりも周方向(12、14)および半径方向(8、10)において大きい表面積および/または大きい範囲を有し、軸方向(4、6)において延びる前記作動ピン(46)の中心軸(54)が前記衝突面(52)を貫通することが特に好ましいことを特徴とする請求項1に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【請求項3】
前記衝突面(52)は、前記半径方向平面に対して、25°~55°、好ましくは30°~50°、特に好ましくは35°~45°の角度(α)で傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【請求項4】
前記作動ピン(46)は、前記衝突面(52)が延在する前側軸部(56)と、前記前側軸部(56)に続く後側軸部(58)とを有し、前記衝突面(52)、任意選択で、前記面(48)全体は、好ましくは軸方向(4、6)において前記後側軸部(58)と完全に同一平面になるように配置され、前記後側軸部(58)は、特に好ましくは円形断面を有し、前記第1の爪(22)が、任意選択で、前記開位置において前記後側軸部(58)上に支持可能になるまたは支持されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【請求項5】
前記衝突面(52)は、平面から外れた形状を有し、好ましくは前記第1の爪(22)の方向において湾曲しており、特に好ましくは一定の曲率半径(r)を有し、および/または、円筒(68)のケーシング(66)の一部によって形成され、前記曲率半径(r)は、任意選択で、前記後側軸部(58)の半径の少なくとも2倍であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【請求項6】
前記作動装置(42)は、それぞれ前記第1の爪(22)に割り当てられた複数の作動ピン(46)を有し、前記作動ピン(46)の移動は、好ましくは互いに結合され、任意選択で、前記作動ピン(46)が配置され、任意選択で前記作動ピン(46)が周方向(12、14)において均一に分布している共通の支持部(44)を介して互いに結合され、前記支持部(44)は、環状であることが特に好ましいことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【請求項7】
前記衝突面(52)、好ましくは前記前側軸部(56)の表面、特に好ましくは前記後側軸部(58)の表面は、前記作動ピン(46)の他の部分の表面、好ましくは前記後側軸部(58)に続く前記作動ピン(46)の締結部(60)の表面よりも硬く形成され、前記締結部(60)は、前記作動ピン(46)を前記支持部(44)に締結するために用いられ、前記支持部(44)に締結するための締結リベット(64)を受けるように変形することが特に好ましいことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【請求項8】
前記爪(22、24)は、前記第1の軌道輪(16)が前記第2の軌道輪(18)に対して前記第1の回転方向(26)とは反対の第2の回転方向(30)において前記第2の爪(24)を介して前記第2の軌道輪(18)に動力伝達可能に連結される閉位置と、前記第1の軌道輪(16)が前記第2の軌道輪(18)に対して前記第2の回転方向(30)において回転可能な開位置との間で枢動可能な少なくとも1つの第2の爪(24)をさらに含み、第2の作動装置は、前記第2の爪(24)と相互作用し、かつ前記軸方向(4)において前記第2の爪(24)に対して、前記第2の爪(24)が前記閉位置に枢動される第1の作動位置から、前記第2の爪(24)が前記開位置に枢動される第2の作動位置まで変位可能な第2の作動ピン(74)を備え、該第2の作動ピン(74)は、半径方向平面に対して傾斜するとともに、前記第2の爪(24)が枢動されたときに前記第2の爪(24)上に支持可能になるまたは直接支持される衝突面(52)を備えた、前記軸方向(4)を向く面(48)を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【請求項9】
前記第1の爪(22)および/または前記第2の爪(24)は、前記閉位置に予め張力がかけられ、および/または互いに反対の枢動方向において前記開位置および前記閉位置に枢動可能であり、および/または枢動軸(28、32)の前方に前記閉位置における回転駆動係合を達成するための係合部(36)を備えたロッカー形状を有し、前記枢動軸(28、32)の後方に、前記作動ピン(46、74)と相互作用する後部(40)が形成されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【請求項10】
前記衝突面(52)は、前記第1の爪(22)および/または前記第2の爪(24)の端縁(72)上に支持可能になるまたは支持されてもよく、および/または前記閉位置において、前記軸方向(4、6)に前記端縁(72)と同一平面になるように配置されることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の歯止めフリーホイール(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の軌道輪と、第2の軌道輪と、前記第1の軌道輪と前記第2の軌道輪との間に配置された爪とを備えた歯止めフリーホイールであって、前記第1の軌道輪が前記第2の軌道輪に対して第1の回転方向において前記第1の爪を介して前記第2の軌道輪に動力伝達可能に連結される閉位置と、前記第1の軌道輪が前記第2の軌道輪に対して前記第1の回転方向において回転可能な開位置との間で枢動可能可能な少なくとも1つの第1の爪を含み、作動装置(42)は、前記第1の爪と相互作用し、かつ軸方向において前記第1の爪に対して、前記第1の爪が前記閉位置に枢動される第1の作動位置から、前記第1の爪が前記開位置に枢動される第2の作動位置まで変位可能な作動ピンを備える、歯止めフリーホイールに関する。
【0002】
第1の軌道輪(例えば、外輪または内輪)と、第2の軌道輪(例えば、内輪または外輪)とを有する歯止めフリーホイールは、従来技術から知られている。枢動可能な爪は、第1の軌道輪と第2の軌道輪との間に配置され、第1の軌道輪および第2の軌道輪の一方に動力伝達可能に接続される。例えば、爪は、第1の軌道輪に動力伝達可能に接続される場合、第1の軌道輪が第2の軌道輪に対して第1の回転方向において回転可能な開位置から、第1の軌道輪が第1の回転方向において爪を介して第2の軌道輪に動力伝達可能に連結される閉位置へと枢動可能である。
【0003】
また、爪を枢動させさせるための作動装置を備えた汎型の歯止めフリーホイールが知られている。例えば、複数の軌道輪の1つに配置された調整リングを有する作動装置が慣例公知であり、前記調整リングは、少なくとも1つの爪を閉位置と開位置との間で枢動させるように、円周方向においてそれぞれの軌道輪に対して回転可能である。
【0004】
上記のような回転可能な作動装置を有する公知の歯止めフリーホイールは、その価値が判明したが、取り扱いにくい場合があり、比較的複雑で多くのスペースを必要とする設計を有するため、製造コストが通常比較的高い。
【0005】
したがって、本発明は、取り扱いが容易であり、シンプルでコンパクトな設計を有し、作動装置や爪の摩耗が非常に少なく、耐用年数が延長され、機能性が永続的に確保される、少なくとも1つの爪を枢動させるための作動装置を有する歯止めフリーホイールを製造することを目的とする。
【0006】
この目的は、請求項1で特定された特徴によって達成される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の内容である。
【0007】
本発明に係る歯止めフリーホイールは、第1の軌道輪と第2の軌道輪とを有する。第1の軌道輪は、例えば、外輪または内輪であってもよく、第2の軌道輪は、例えば、内輪または外輪であってもよい。爪は、第1の軌道輪と第2の軌道輪との間に配置され、好ましくは第1の軌道輪と第2の軌道輪との間の半径方向に配置される。爪は、好ましくは第1の軌道輪に動力伝達可能に接続され、第1の軌道輪は、特に好ましくは外輪である。上記爪は、少なくとも1つの第1の爪を含み、以下にさらに詳述されるタイプの複数の第1の爪が配置されると好ましい。しかしながら、例えば、すべての爪はこれらの第1の爪で形成されてもよいし、1つの爪のみが第1の爪で形成されてもよい。少なくとも1つの第1の爪は、第1の軌道輪が第2の軌道輪に対して第1の回転方向において第1の爪を介して第2の軌道輪に動力伝達可能に連結される閉位置と、第1の軌道輪が第2の軌道輪に対して第1の回転方向において枢動可能な開位置との間で枢動可能である。枢動軸は、好ましくは歯止めフリーホイールの軸方向に延在する。これにより、少なくとも1つの第1の爪の閉位置において、第1の軌道輪が第1の回転方向において回転すると、第2の軌道輪も第1の回転方向において回転するようになる。また、歯止めフリーホイールは、少なくとも1つの第1の爪を作動または枢動させるための作動装置を有する。この作動装置は、第1の爪と相互作用し、好ましくは軸方向に延在する作動ピンを有する。作動ピンは、第1の爪に対して軸方向において、第1の爪が閉位置に枢動される第1の作動位置から、第1の爪が開位置に枢動される第2の作動位置まで変位可能である。この場合、第1の爪がその閉位置で予め張力がかけられることが好ましい。作動装置の作動ピンを軸方向に変位させることにより、関連する第1の爪を枢動させるために、作動ピンは、好ましくは端面として設計された軸方向を向く面を有し、この面は、半径方向平面に対して傾斜するとともに、第1の爪を枢動させることによって第1の爪の上に支持可能になるまたは直接支持される衝突面を有する。歯止めフリーホイールは、特に作動ピンを軸方向に変位させるだけでよいため、第1の爪を調節するときに特に取り扱いやすいことを特徴とする。また、作動ピンは、その面が半径方向平面に対して傾斜した衝突面を有するため、特にシンプルな構造を有する。これにより、特に製造しやすく、シンプルな構造、特にコンパクトな構造を有する歯止めフリーホイールが得られる。
【0008】
特に小型で省スペースの作動ピンを使用するには、本発明に係る歯止めフリーホイールの好ましい実施形態では、作動ピンの面は、衝突面が直接当接し得る、半径方向平面内に延在する半径方向平面をさらに有する。半径方向平面により、傾斜した衝突面が短くなるが、作動ピンは、その退避位置で第1の爪の方向に不必要に突出することなく、作動ピンの短い変位経路を確保することができる。
【0009】
作動ピンの面において半径方向平面が存在するにもかかわらず、作動ピンを小さく移動してもより強力な枢動運動を達成できるように、本発明に係る歯止めフリーホイールの特に好ましい実施形態では、軸方向に沿って面を見たときに、衝突面は、この面の半径方向表面よりも周方向および半径方向において大きい表面積および/または大きい範囲を有する。
【0010】
本発明に係る歯止めフリーホイールの別の有利な実施形態によれば、軸方向において広がるかまたは延びる作動ピンの中心軸は衝突面を貫通する。作動ピンの中心軸は、以下にさらに詳述する作動ピンの第2の軸部の中心軸であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る歯止めフリーホイールのさらに好ましい実施形態によれば、衝突面は、半径方向平面(任意選択で、面の半径方向表面)に対して25°~55°、好ましくは30°~50°、特に好ましくは35°~45°の角度で傾斜している場合、第1の爪が迅速に作動し迅速に枢動するという意味で有利であることが判明した。半径方向平面に対する衝突面の傾斜角度が約40°である場合には、最高の結果が得られる。
【0012】
特に省スペースの作動ピンを使用するには、本発明に係る歯止めフリーホイールの別の特に有利な実施形態における作動ピンは、衝突面が延在する前側軸部(任意選択で、端部)と、前側軸部に続く後側軸部とを有する。この場合、特に薄型かつ省スペースのピンを製造するために、衝突面(任意選択で、作動ピンの面全体)は、軸方向において後側軸部と完全に同一平面になるように配置されることが好ましい。前側軸部と後側軸部は、互いに直接続くことが好ましく、後側軸部が段差なしに前側軸部に移行することも好ましく、傾斜した衝突面への移行は、任意選択で、唯一の例外であり、当然ながら不連続コースを有してもよい。また、本実施形態では、後側軸部は、断面形状が円形であることが好ましいため、円筒形状であることが好ましい。後側軸部は、作動ピンが第2の作動位置にあるときに、第1の爪が開位置において作動ピンの後側軸部上に支持可能になるまたは支持されるような寸法を有することも好ましい。これにより、開位置へと枢動される爪を確実に支持することができる。ここでいう支持は、歯止めフリーホイールの半径方向における支持であることが好ましい。
【0013】
第1の爪および作動ピンの磨耗や損傷を最小限に抑えるために、本発明に係る歯止めフリーホイールの別の特に好ましい実施形態では、傾斜した衝突面は、平面から外れた形状を有する。ここで、第1の爪の方向において湾曲した衝突面が特に有利であることが判明した。歯止めフリーホイールは、摩耗や損傷のレベルが特に最小限に抑えられるため、機能性が向上し、耐用年数が延長される。その結果、衝突面が一定の曲率半径を有し、および/または円筒の一部によって形成される好ましい変形実施形態をもたらす。この文脈では、特に大きい曲率半径が有利であることが判明しており、この曲率半径は、前述した後側軸部の断面半径の少なくとも2倍である。特に、絶対10mm以上の曲率半径を有することで、耐久性が向上し、信頼性の高い機能性が得られる。
【0014】
本発明に係る歯止めフリーホイールの別の有利な実施形態では、作動装置は、それぞれ第1の爪に割り当てられた複数の作動ピンを有する。ここで、2つ以上の第1の爪をほぼ同時に枢動させるために、第1の作動位置から第2の作動位置への作動ピンの移動、およびその逆の移動が互いに結合されることが好ましい。作動ピンの移動の結合は、好ましくは作動ピンが配置された(任意選択で、円周方向において均一に分布している)共通の支持部によって達成される。この文脈では、作動ピンを軸方向に変位させるために軸方向において変位可能な環状の支持部が特に有利であることが判明した。
【0015】
本発明に係る歯止めフリーホイールのさらなる有利な実施形態では、衝突面、好ましくは前側軸部の表面、特に好ましくは後側軸部の表面は、作動ピンの少なくとも1つの他の部分(任意選択で、他のすべての部分)の表面よりも硬い。爪との摩耗のない相互作用を可能にする一方、作動ピンの取り扱い、特に作動装置への取り付けを簡略化するために、衝突面(前側軸部の表面および/または後側軸部の表面)は、好ましくは後側軸部に続く締結ピンの締結部の表面よりも硬く設計され、この締結部は、締結ピンを上記支持部に締結するためのものであり、支持部に締結するための締結リベットおよび/または締結フランジを受けるように変形することが特に好ましい。軸方向から見たとき、締結部は、特に作動装置または作動装置の支持部に締結するためにのみ使用され、爪と直接相互作用しないため、後側軸部よりも大きい寸法を有してもよい。
【0016】
本発明に係る歯止めフリーホイールのさらなる有利な実施形態によれば、爪は、第1の軌道輪が第2の軌道輪に対して第1の回転方向とは反対の第2の回転方向において第2の爪を介して第2の軌道輪に動力伝達可能に連結される閉位置と、第1の軌道輪が第2の軌道輪に対して第2の回転方向において回転可能な開位置との間で枢動可能な少なくとも1つの第2の爪をさらに含む。第2の爪と相互作用する第2の作動ピンを備え、第2の爪に対して軸方向において、第2の爪が閉位置に枢動される第1の作動位置から、第2の爪が開位置に枢動される第2の作動位置まで変位可能な第2の作動装置が配置される。この場合も同様に、第2の作動ピンは、半径方向平面に対して傾斜するとともに、第2の爪を枢動させることによって第2の爪の上に支持可能になるまたは直接支持される衝突面を備えた、軸方向を向く面を有する。第2の爪および第2の爪に割り当てられた第2の作動ピンの別の構造に関しては、関連する第1の爪を有する作動装置の前述の説明および変形実施形態を参照されたい。それらの内容は同様に第2の作動装置および第2の爪にも適用される。第2の作動装置により、少なくとも3つのシフト位置に移行可能な歯止めフリーホイールを好ましく製造することが可能となる。上記少なくとも3つのシフト位置のうちの1つは、第1の軌道輪が第2の軌道輪に対して第1の回転方向または第2の回転方向のいずれにおいても回転できないという効果を有する。これは、特に第1の爪および第2の爪の両方が閉位置にあるためである。2つの作動装置が、作動ピンおよび第2の作動ピンの両方が配置される共通の支持部を有する場合も有利であり得る。このように、作動ピンは支持部と同時に変位することができる。第1の爪と第2の爪を連続的に枢動させるために、作動ピンおよび第2の作動ピンは異なる長さを有するように設計されてもよい。
【0017】
本発明に係る歯止めフリーホイールの別の有利な実施形態では、第1の爪および/または第2の爪は、その閉位置で予め張力がかけられる。
【0018】
本発明に係る歯止めフリーホイールの別の有利な実施形態によれば、第1の爪および第2の爪は、互いに反対の枢動方向において開位置に枢動可能であり、互いに反対の枢動方向において閉位置にも枢動可能である。
【0019】
本発明に係る歯止めフリーホイールの別の特に好ましい実施形態によれば、第1の爪および/または第2の爪は、枢動軸の前方に、閉位置における回転駆動係合を達成するための係合部を備え、枢動軸の後方に、関連する作動ピンと相互作用する後部を備えるロッカー形状である。
【0020】
本発明に係る歯止めフリーホイールの別の有利な実施形態では、衝突面は、第1の爪および/または第2の爪の端縁上に支持可能になるまたは支持される。端縁は、軸方向を向く爪の側面を画定する側端縁であることが好ましい。
【0021】
本発明に係る歯止めフリーホイールの別の有利な実施形態によれば、閉位置にある衝突面は、作動ピンが変位したときに、衝突面を介して端縁に最も迅速に衝突するために、軸方向において第1の爪および/または第2の爪の端縁と同一平面になるように配置される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、例示的な実施形態を用いて本発明についてより詳細に説明する。以下では、
【
図1】第1の爪が閉位置にある歯止めフリーホイールの部分透視図である。
【
図3】第1の爪が開位置にある、
図1における歯止めフリーホイールを示す。
【0023】
図1~
図4は、それぞれ歯止めフリーホイール2の詳細を示す。これらの図において、歯止めフリーホイール2の互いに反対の軸方向4および6、互いに反対の半径方向8および10、互いに反対の周方向12および14は、対応する矢印で示される。
【0024】
歯止めフリーホイール2は、ここで半径方向8において外側の軌道輪16として設計され、軸方向6において後部のみが示される第1の軌道輪16と、ここで半径方向10において内側の軌道輪18として形成され、半径方向8の外側で第1の軌道輪16によって取り囲まれた第2の軌道輪18とを有する。回転駆動輪郭20は、半径方向8において第2の軌道輪18の第1の軌道輪16に面する側に形成され、半径方向10内側に第1の軌道輪16の第2の軌道輪18に面する側には、以下にさらに詳述されるレセプタクル22が配置される。
【0025】
第1の軌道輪16と第2の軌道輪18との間の半径方向8、10において、爪はレセプタクル22内に配置されており、第1の爪22および第2の爪24は、円周方向12、14において連続して交互になっている軌道輪16と軌道輪18との間に配置される。第1の爪22は、
図1および
図2に示される、第1の軌道輪16が第2の軌道輪18に対して第1の回転方向26において第1の爪22を介して枢動軸28を中心として第2の軌道輪18に動力伝達可能に連結される閉位置と、
図3および
図4に示される、第1の軌道輪16が第2の軌道輪18に対して第1の回転方向26において回転可能な開位置との間で枢動可能であり、その逆の場合も同様である。
【0026】
図1および
図3において、開位置にある第2の爪24のみが示されるが、第1の爪22についての説明は、それにも適用される。つまり、第2の爪24は、第1の軌道輪16が第2の軌道輪18に対して第1の回転方向26とは反対の第2の回転方向30において第2の爪24を介して枢動軸32を中心として第2の軌道輪18に動力伝達可能に連結される閉位置(図示せず)と、第1の軌道輪16が第2の軌道輪18に対して第2の回転方向30において回転可能な開位置(
図1および
図3に示す)との間で枢動可能である。
【0027】
いずれの場合においても、第1の爪22と第2の爪24の両方は、対応する閉位置につくようにばね要素34によって予め張力がかけられる。さらに、第1の爪22および第2の爪24は、互いに反対の枢動方向において枢動軸28または32を中心として開位置に枢動可能であり、互いに反対の枢動方向において枢動軸28または32を中心として閉位置にも枢動可能である。また、第1の爪22および第2の爪24はロッカー形状である。このように、ロッカー形状の爪22、24の各々は、枢動軸部38の前方に、枢動軸28、32が形成される係合部36を有し、枢動軸部38の後方に、後部40を有する。係合部36は、爪22または24が閉位置にあるときに、第2の軌道輪18の回転駆動輪郭20における回転駆動係合を達成するために用いられ、ロッカー形状の爪22または24の後部40は、後述する作動装置の作動ピンと相互作用する。
【0028】
第1の爪22は、軸方向6において第1の軌道輪16の後方に配置されるとともに、特に
図5~7に示すように環状に形成された支持部44上に配置された複数の作動ピン46を有する作動装置42が割り当てられ、作動ピン46は軸方向4において第1の爪22の後部40まで延びる。このように、第1の爪22の各々は、作動ピン46が割り当てられ、軸方向4、6における作動ピン46の移動が共通の環状支持部44を介して互いに結合され、作動ピン46は、円周方向12、14において、円周方向12、14に沿って周方向に延びる環状支持部44上で均一に分布している。作動ピン46の機能をより詳細に説明する前に、
図5~
図9を参照して、最初にその構造についてより詳細に記述する。
【0029】
作動ピン46は、半径方向平面内に延在する半径方向平面50と、好ましくは半径方向平面50に直接隣接する衝突面52とを有する、軸方向4を向く面48を有する。衝突面52は、半径方向平面(ここで半径方向平面50)に対して傾斜している。特に
図6に示すように、軸方向6に沿って面48を見たとき、衝突面52は、半径方向平面50よりも周方向12、14および半径方向8、10の両方において大きい表面積および大きい範囲を有する。さらに、
図5~
図6に示すように、軸方向4、6に延びる作動ピン46の中心軸54は、面48の衝突面52を貫通する。中心軸54は、後述するように、作動ピン46の円筒状の後側軸部の中心軸であることが好ましい。
【0030】
衝突面52は、半径方向平面(ここでも半径方向平面50)に対して、25°~55°、好ましくは30°~50°、特に好ましくは35°~45°の角度αで傾斜しており、図示された実施形態では、40°の特に有利な角度αが示される。
【0031】
上述したように、作動ピン46は、衝突面52および半径方向表面50が延びる前側軸部56を有するため、前側軸部56は、軸方向4を向く作動ピン46の端部とも呼ばれてもよい。軸方向6において、前側軸部56と一体に形成された作動ピン46の後側軸部58の直後に前側軸部56が配置される。後側軸部58は、断面が円形であるため、円柱または円筒として形成される。衝撃面52、より正確には面48の全体は、軸方向4、6において後側軸部58と完全に同一平面になるように配置される。後側軸部58と前側軸部56との間には、衝突面52の起点におけるエッジ形状の移行部を除いて、切れ目や段差はない。
【0032】
軸方向6において、後側軸部58の後に、作動ピン46を作動装置42の支持部44に締結するための作動ピン46の締結部60が配置される。少なくとも衝突面52は、作動ピン46の他の部分の表面、特に締結部60の表面よりも硬く設計されている。また、前側軸部56の表面および/または後側軸部58の表面が、作動ピン46の他の部分、特に締結部60の表面よりも硬く設計されている場合にも有利である。締結部60は、例えばフランジ62および締結リベット64を受けるように変形させることによって作動装置42の支持部44に締結するために用いられる。
【0033】
図示された実施形態では、衝突面52は、特に有利に平面から外れた形状を有する。具体的には、衝突面52は、軸方向4において湾曲しているため、第1の爪22の方向に湾曲している。この場合、衝突面52は、後側軸部58の断面の半径の少なくとも2倍以上の一定の曲率半径rを有する。衝突面52のこの一定の半径rは、特に
図8および
図9から見ることができる。
図8は、断面A-Aに沿った断面図を示し、
図9は断面A-Aに平行な断面B-Bに沿った断面図を示す。図示された実施形態では、
図5において破線で示された円筒68のケーシング66の一部によって形成された衝突面52がより精度よく示されており、ケーシング66の対向する上面が曲率半径rを有する。円筒68は、作動ピン46の中心軸54と交差し、半径方向8において角度β=90°-αで傾斜して延びる長手軸70を有する。
【0034】
以下、最初に第1の爪22に接続される作動装置42の動作モードについて説明する。
図1および
図2において、作動ピン46は、軸方向6に戻される第1の作動位置にあり、この作動位置では、第1の爪22がばね要素34によって閉位置へと枢動される。特に
図2に示すように、面48の衝突面52は、軸方向4、6において、第1の爪22の端縁72、より正確には第1の爪22の後部40と同一平面になるように配置され、上記端縁72は第1の爪22の側面を画定する。
【0035】
作動ピン46が第1の爪22に対して軸方向4において
図3および
図4に示す第2の作動位置に変位する場合、端縁72において、第1の爪22を
図1および
図2に示す位置から
図3および
図4に示す開位置へと枢動させることにより、衝突面52はその移動範囲内で支持される。衝突面52は、第1の爪22の端縁72の上に、または該端縁72に沿って摺動自在に支持され得るかまたは支持される。その結果、第1の爪22の後部40が半径方向10に押し下げられ、第1の爪22が関連する枢動軸28を中心として図示された開位置へと枢動される。開位置において、第1の爪22は、好ましくは半径方向8においてばね要素34のプリテンション力に抗って後側軸部58のみの上に支持され、これによって、開位置において確実に保持される。
【0036】
上述したように、第2の爪24のための第2の作動装置の構造は、第1の爪22のための作動装置の構造に対応するため、作動ピン46についての前述の説明が同様に第2の作動ピン74にも適用される。したがって、第2の作動ピン74は、第2の爪24に相互作用する。
図1および
図3に示すように、第2の作動ピン74は、第2の爪24に対して軸方向4において、第2の爪24が閉位置に枢動される第1の作動位置から、第2の爪24が開位置に枢動される第2の作動位置まで変位する。第2の作動ピン74は、半径方向平面に対して傾斜するとともに、第2の爪24が枢動されたときに第2の爪24上に支持可能になるまたは直接支持される衝突面52を備えた、軸方向4を向く面48をさらに有する。
【符号の説明】
【0037】
2:歯止めフリーホイール
4:軸方向
6:軸方向
8:半径方向
10:半径方向
12:周方向
14:周方向
16:第1の軌道輪
18:第2の軌道輪
20:回転駆動輪郭
22:第1の爪
24:第2の爪
26:第1の回転方向
28:枢動軸
30:第2の回転方向
32:枢動軸
34:ばね要素
36:係合部
38:枢動軸部
40:後部
42:作動装置
44:支持部
46:作動ピン
48:面
50:半径方向表面
52:衝突面
54:中心軸
56:前側軸部
58:後側軸部
60:締結部
62:フランジ
64:締結リベット
66:ケーシング
68:円筒
70:長手軸
72:端縁
74:第2の作動ピン
α:角度
β:角度
r:曲率半径
【外国語明細書】