(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160759
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】バイオセンサ及びバイオセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20231026BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G01N27/327 353Z
G01N27/327 353R
G01N27/416 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064395
(22)【出願日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2022070371
(32)【優先日】2022-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】眞下 太郎
(72)【発明者】
【氏名】関本 慎二郎
(57)【要約】
【課題】一態様において、再現性の高い測定が可能なバイオセンサ及び当該バイオセンサを製造可能な方法の提供。
【解決手段】本開示は、一態様として、基材と、前記基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層とを有するバイオセンサであって、前記試薬層は、前記導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層であるバイオセンサに関する。また、本開示は、その他の態様として、基材と、前記基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層とを有するバイオセンサの製造方法であって、前記導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層を形成することを含む製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、
前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層と、を有するバイオセンサであって、
前記試薬層は、前記導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層である、バイオセンサ。
【請求項2】
基材と、
前記基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、
前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層と、を有するバイオセンサの製造方法であって、
前記導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層を形成することを含む、製造方法。
【請求項3】
前記液滴ドットを乾燥させることを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
第N層目の試薬の液滴ドットを所定の間隔で形成すること、及び
乾燥後の第N層目の液滴ドットの上に、第N+1層の試薬の液滴ドットを形成することを含む(但し、Nは1以上の自然数である)、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第N+1層目における試薬の液滴ドットの形成は、該液滴ドットの中心が、第N層目の隣り合う液滴ドットの中心を結ぶ線の交点に位置するように行われる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
第N+1層目における試薬の液滴ドットの形成は、乾燥した第N層目の液滴ドットの少なくとも一部を覆うように行われる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
第1層目における試薬の液滴ドットの形成は、隣接する液滴ドット同士が重ならないように行われる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
第2層目以降における試薬の液滴ドットの形成は、隣接する液滴ドット同士が互いに接するように行われる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
試薬の液滴ドットの形成は、少なくとも第4層目の液滴ドットが形成されるまで繰り返し行う、請求項4に記載の製造方法。
【請求項10】
吐出する液滴の量は、10ng~30ngである、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項11】
前記試薬層の平均厚みは、5μm~10μmである、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項12】
前記試薬層の中央部の平均厚みに対する周辺部の平均厚みの差([周辺部の平均厚み]-[中央部の平均厚み])は、-6μm~+5μmである、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項13】
前記試薬は、酸化還元酵素及び電子伝達物質を含む、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項2又は3に記載の製造方法により製造されたバイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオセンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、酵素等の生体物質が配置された検出部の分子認識素子と、電極といったトランスデューサ(信号変換デバイス)とを用いた分子計測装置であって、グルコースをはじめとする様々な生体内の分析対象物の測定に用いられる。
【0003】
バイオセンサは、一般に、電極と、その電極上に載置された試薬層とを有する。試薬層を形成する方法としては、酸化還元酵素及び電子伝達物質等を含む試薬液を電極上に塗布して乾燥させることにより、形成される。試薬液の塗布方法としては、例えば、ディッピング法、ディスペンサー法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、及びインクジェット印刷法等がある(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-99693号公報
【特許文献2】特開平6-3317号公報
【特許文献3】特開2017-520773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオセンサを用いた、グルコースをはじめとする様々な生体物質の測定において、より高い精度(再現性)での測定が求められている。
本発明者らは、試薬層における試薬の濃度や量のムラが、試薬の溶解ムラが生じる原因となり、ひいては再現性の低下をもたらすという知見を得た。試薬層は、通常、試薬液を塗布して乾燥させることによって形成される。この乾燥過程で生じる濃度勾配によって周辺部から試薬が析出し、周辺部の結晶から成長する。この試薬層形成(特に乾燥時)に生じる成分の析出のタイミングのズレが乾燥ムラをもたらし、その結果、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラの原因となるということを本発明者らは見出した。また、1回の試薬液の滴下のみによって試薬層を形成する方法も知られている。しかしこの場合、周辺部の試薬量が多く、中心部の試薬量が少なくなることから、試薬層において酸化還元酵素等の成分の濃度や量のムラの原因となることも、本発明者らは見出している。
【0006】
そこで、本開示は、再現性の高い測定が可能なバイオセンサ、及び再現性の高い測定が可能なバイオセンサの製造可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様として、基材と、前記基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層とを有するバイオセンサに関し、前記試薬層は、前記導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層である。
【0008】
本開示は、その他の態様として、基材と、前記基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層と、を有するバイオセンサの製造方法に関し、該方法は、前記導電部上に試薬の液滴を吐出して前記試薬を含むドットを形成し、このドットの形成を繰り返し行うことにより、前記試薬が積層された試薬層を形成することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、再現性の高い測定が可能なバイオセンサ、及び再現性の高い測定が可能なバイオセンサを製造可能な方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態におけるバイオセンサ、及び該バイオセンサが使用される測定装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態におけるバイオセンサの概略構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施例における試薬層の形成方法を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、実施例における試薬層の形成方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、実施例で形成した試薬層の写真の一例である。
【
図6】
図6は、実施例における試薬層の厚みの測定を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、実施例で得られた結果の一例であって、得られた試薬層における平均厚みと、周辺部と中央部との平均厚みの差との関係を示す。
【
図8】
図8は、実施例で得られた結果の一例であって、グルコース電流値の変動係数(%)(グルコース応答電流値再現性)と、試薬層の周辺部と中央部との平均厚みの差との関係を示す。
【
図9】
図9は、実施例で形成した試薬層の写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、試薬層における試薬の濃度や量のムラが、試薬の溶解ムラが生じる原因となり、ひいては再現性の低下をもたらすという知見を得た。本発明者らは、このムラの発生を低減すべく研究を重ねた過程で、導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層を形成することで、試薬層形成時に生じうる試薬の析出のタイミングのズレによる乾燥ムラを抑制し、試薬層内の試薬成分の濃度や量のムラを低減することができるということを見出した。当該方法によれば、さらには、生体物質の測定に必要とされる十分量の試薬をバイオセンサに載置することができうる。
特許文献1は、試薬の液滴同士の合体による酵素量の偏りの発生を避けるために、液滴を離間するように電極表面に吹き付けることにより試薬層を形成する方法を開示する。しかし、このように液滴を離間して配置する特許文献1の方法では、限られた範囲に十分量の試薬を載置する必要があるバイオセンサでは、十分量の試薬を載置できないという問題がある。
これに対し、本発明者らが新たに見出した方法によれば、試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層することから、生体物質の測定に必要とされる十分量の試薬をバイオセンサに載置することができうる。
【0012】
[バイオセンサの製造方法]
本開示は、一態様として、基材と、基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層とを有するバイオセンサの製造方法に関する。本開示の製造方法は、導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層を形成することを含む。
本開示の製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、再現性の高い測定が実現できるバイオセンサを製造することができる。本開示の製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、ロット間差やロット内差が低減され、正しい応答測定値を出力し、正確な値を提供可能なバイオセンサを製造することができうる。
【0013】
本開示における「試薬の液滴ドット」とは、試薬液で構成されたドット状の液滴であって、乾燥前の状態(液体の状態)をいう。試薬の液滴ドットは、一又は複数の実施形態において、印刷装置の吐出ヘッドから吐出された試薬の液滴が対象(導電部等)に付着した、乾燥前の状態をいう。試薬の液滴ドットは、一又は複数の実施形態において、同一の試薬を用いて形成された液滴ドット、及び異なる試薬を用いて形成された液滴ドットを含みうる。本開示において「異なる試薬」としては、一又は複数の実施形態において、組成が異なる試薬、組成は同一であるが配合比が異なる試薬、並びに組成及び配合比は同一であるが濃度が異なる試薬を含みうる。
【0014】
本開示における「三次元積層された試薬層」とは、試薬成分が集積して厚みを持った立体形状であることをいう。三次元積層された試薬層としては、一又は複数の実施形態において、試薬の液滴ドットが積み重ねられた後に、導電部上で乾燥した試薬層をいう。三次元積層された試薬層としては、一又は複数の実施形態において、試薬の液滴ドットを乾燥させて形成した試薬の層の上に、試薬の液滴ドットを滴下して乾燥させることを繰り返し行うことによって、乾燥した試薬が積み重ねられた試薬層が挙げられる。試薬層の平均厚みは、一又は複数の実施形態において、5μm~10μmである。試薬層の平均厚みは、より高い再現性を得られる点から、5μmを超え、6μm以上、6.5μm以上又は7μm以上が好ましい。試薬層の平均厚みは、同様の観点から、9.5μm以下、9μm以下又は8.5μm以下が好ましい。試薬層の平均厚みは、実施例に記載の方法により測定し、算出することができる。試薬層の厚みの測定は、例えば、実施例に記載のように、試薬層の短手方向に延びる短手方向中心線(
図6の矢印の位置)に沿って厚みを測定することにより行うことができる。
図6は、試薬層の平均厚みの測定方法を説明するための模式図であって、試薬層のみを抜き出して記載している。なお、本開示における試薬層とは、分析対象物の測定に実質的に関与する領域に載置される試薬の層のことである。分析対象物の測定に実質的に関与する領域としては、一又は複数の実施形態において、検体が流れる流路内が挙げられる。
【0015】
本開示の製造方法は、導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層を導電部上に形成することを含む。試薬は、一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素及び電子伝達物質以外のその他の試薬成分を含んでいてもよい。その他の試薬成分としては、一又は複数の実施形態において、緩衝剤、アミノ酸、界面活性剤、及びバインダー等が挙げられる。
【0016】
液滴ドットの形成は、一又は複数の実施形態において、試薬成分を含む試薬液を吐出することにより行うことができる。液滴の吐出量は、一又は複数の実施形態において、液滴ドットを形成する位置(液滴を吐出する位置)の間隔、及び形成する液滴ドットの大きさ等に応じて適宜決定することができる。液滴の吐出量は、一又は複数の実施形態において、10ng~30ngであり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、12ng~25ng又は12ng~15ngである。
液滴の吐出量は、一又は複数の実施形態において、第1層目とそれ以降とで変化させてもよい。試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、第2層目以降の液滴の吐出量を、第1層目の液滴の吐出量よりも多くすることが好ましい。特に限定されない一又は複数の実施形態において、第1層目の液滴の吐出量を20ng未満とし、第2層目の液滴の吐出量を20ng以上とすることが挙げられる。第1層目の液滴の吐出量は、一又は複数の実施形態において、10ng~18ngであり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、11ng以上が好ましい。同様の点から、17ng以下、15ng以下、14ng以下又は13ng以下が好ましい。第2層目以降の液滴の吐出量は、一又は複数の実施形態において、20ng~28ngであり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、21ng以上が好ましい。同様の点から、26ng以下、25ng以下又は24ng以下が好ましい。第2層目以降の液滴の吐出量は、一又は複数の実施形態において、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0017】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、液滴ドットを乾燥させることを含む。乾燥方法としては、一又は複数の実施形態において、特に限定されることなく、室温放置、温風等乾燥、及び高温条件放置等が挙げられ、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、室温乾燥が好ましい。乾燥時間としては、液滴の吐出量及び乾燥条件等に応じて適宜決定でき、試薬ムラのさらなる低減の点からは長ければ長いほどが好ましい。乾燥時間としては、一又は複数の実施形態において、10秒以上又は15秒以上であり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、20秒以上、25秒以上又は30秒以上である。乾燥時間の上限は特に限定されず、一又は複数の実施形態において、120秒以下又は90秒以下である。乾燥条件としては、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、湿度50%以下が挙げられる。
【0018】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、第N層目(但し、Nは1以上の自然数である)の試薬の液滴ドットを所定の間隔で形成すること、及び乾燥後の第N層目の液滴ドットの上に、第N+1層の試薬の液滴ドットを形成することを含む。Nは、一又は複数の実施形態において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の自然数である。
本開示の製造方法は、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、試薬の液滴ドットの形成を、少なくとも第4層目の液滴ドットが形成されるまで繰り返し行うことを含む。
液滴ドットは、一又は複数の実施形態において、同一の試薬を使用して形成してもよいし、組成が異なる2以上の複数種類の異なる試薬を使用して形成してもよい。本開示の製造方法は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、第1層目の試薬の液滴ドットと第2層目の試薬の液滴ドットとを、異なる試薬を使用して形成することを含みうる。また、本開示の製造方法は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、奇数層と偶数層とで異なる試薬を使用して液滴ドットを形成することを含みうる。
【0019】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、第N層目の液滴ドットの形成と、第N+1層目の液滴ドットの形成との間に、液滴ドットを乾燥するための工程を含んでいてもよい。第N層目の液滴ドットの形成と第N+1層目の液滴ドットの形成とを異なる吐出装置によって行う場合、基材の搬送時間を液滴ドットを乾燥させるための時間としてもよい。
【0020】
液滴ドットを形成する間隔(隣接する液滴ドットの中心間距離)は、一又は複数の実施形態において、50μm~150μmであり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、60μm~80μmが好ましく、より好ましくは65μm~75μmである。本開示における「液滴ドットの中心」は、一又は複数の実施形態において、液滴ドットを導電部上で形成し、当該液滴ドットが乾燥した後の、当該液滴ドットの外周に外接する円の中心をいう。
液滴ドットを形成する間隔は、一又は複数の実施形態において、等間隔であってもよいし、変動させてもよいが、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、等間隔であることが好ましい。
液滴ドットを形成する間隔は、一又は複数の実施形態において、各層において異なっていてもよいし、同じであってもよく、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、すべての層で同じであることが好ましい。
【0021】
第1層目における試薬の液滴ドットの形成は、基材又は導電部上で、隣接する液滴ドット同士が一つの大きな液滴となることを抑制し、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、隣接する液滴ドット同士が重ならないように行うことが好ましい。本開示において「隣接する液滴ドット同士が重ならない」とは、一又は複数の実施形態において、隣り合う液滴ドット同士が一体化して1つの液滴ドットを形成しないこと、又は、吐出した液滴が1つの独立した液滴ドットとなることが挙げられる。
【0022】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、第1層目における試薬の液滴ドットの形成において、試薬の液滴ドットを形成するために吐出する液滴の量を制御することを含んでいてもよい。第1層目の液滴の吐出量は、液滴ドットを形成する間隔(隣接する液滴ドットの中心間距離)及び形成する液滴ドットの大きさ等に応じて適宜決定でき、一又は複数の実施形態において、10ng~18ngであり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、11ng~15ngが好ましく、より好ましくは11ng~13ngである。
第1層目の乾燥後の液滴ドットの大きさは、一又は複数の実施形態において、30μm~90μmであり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、40μm~80μmが好ましく、より好ましくは50μm~70μmである。本開示において「乾燥後の液滴ドットの大きさ」は、乾燥後の液滴ドットの直径において最も長いものをいう。乾燥後の液滴ドットの大きさは、実施例に記載の方法により測定できる。
第1層目の乾燥後の液滴ドットの密度は、一又は複数の実施形態において、0.86μg/μm2~1.7μg/μm2である。乾燥後の液滴ドットの密度は、液滴中の固形分量と乾燥後に形成されるドット面積を算出することにより決定できる。
【0023】
第2層目以降における試薬の液滴ドットの形成は、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、隣接する液滴ドット同士が互いに接するように行うことが好ましい。本開示において「隣接する液滴ドット同士が互いに接する」としては、一又は複数の実施形態において、隣り合う液滴ドット同士が一体化して1つの液滴ドットを形成しうること、及び、乾燥後の隣り合う液滴ドット同士が重なっていること若しくは連続していること等が挙げられる。
【0024】
第2層目の試薬の液滴ドットの形成は、一又は複数の実施形態において、試薬層を形成する領域全体が試薬(試薬の液滴ドット)で覆われるように行うことが挙げられる。
【0025】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、第2層(第N+1層)目以降における試薬の液滴ドットの形成において、試薬の液滴ドットを形成するために吐出する液滴の量を制御することを含んでいてもよい。
第N+1層目の液滴の吐出量は、液滴ドットを形成する間隔(隣接する液滴ドットの中心間距離)及び形成する液滴ドットの大きさ等に応じて適宜決定でき、一又は複数の実施形態において、20ng~28ngであり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、21ng~25ngが好ましく、より好ましくは21ng~24ngである。第2層(第N+1層)目以降の液滴の吐出量は、一又は複数の実施形態において、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
第2層(第N+1層)目以降の乾燥後の液滴ドットの大きさは、一又は複数の実施形態において、80μm~120μmであり、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、85μm~110μmが好ましく、より好ましくは90μm~100μmである。第2層(第N+1層)目以降の乾燥後の液滴ドットの大きさは、一又は複数の実施形態において、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0026】
本開示における特に限定されない一実施形態において、第N+1層目における試薬の液滴ドットの形成は、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、該液滴ドットの中心が、第N層目の隣り合う液滴ドットの中心を結ぶ線の交点に位置するように行うことができる。本開示における「第N層目の隣り合う液滴ドットの中心を結ぶ交点」としては、一又は複数の実施形態において、隣り合う液滴ドットの4つの中心を頂点とする四角形の対角線の交点が挙げられる。特に限定されない一又は複数の実施形態において、
図4におけるcN+1(液滴ドットの4つの中心(cNA、cNB、cNC及びcND)と頂点とする四角形の対角線の交点)が挙げられる。
【0027】
第N+1層目における試薬の液滴ドットの形成は、試薬層における試薬成分の濃度や量のムラをさらに低減し、得られるバイオセンサの測定精度の再現性をさらに向上させる点から、第N+1層目で形成する試薬の液滴ドットが、第N層目の液滴ドットの少なくとも一部を覆うように行うことが好ましい。
【0028】
試薬層の形成は、一又は複数の実施形態において、インクジェット法を用いて行うことが好ましい。液滴ドットの形成は、一又は複数の実施形態において、インクジェットプリンタ等の微量の液滴を吐出可能なノズルを備える装置を用いて行うことができる。
【0029】
試薬層の大きさは、基材、流路及び導電部の形状等に応じて適宜決定することができる。幅7mm、長さ30mmである矩形形状の基材で、幅1.8mm、長さ4mmである矩形形状の流路で、また、流路に露出した導電部のうち作用極の形状が幅1.8mm、長さ0.8mmの矩形形状の場合、試薬層の幅(バイオセンサの短手方向の長さ)は、一又は複数の実施形態において、1.5mm以上、2mm以上、2.5mm以上又は3mm以上である。試薬層の幅(バイオセンサの短手方向の長さ)は、一又は複数の実施形態において、5mm以下、4.5mm以下又は4mm以下である。試薬層の長さ(バイオセンサの長手方向の長さ)は、一又は複数の実施形態において、0.5mm以上、0.6mm以上、0.8mm以上又は0.9mm以上である。試薬層の長さ(バイオセンサの長手方向の長さ)は、一又は複数の実施形態において、2mm以下、1.6mm以下又は1.4mm以下である。
【0030】
[バイオセンサ]
本開示は、一態様として、基材と、基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層とを有するバイオセンサに関する。本開示のバイオセンサにおける試薬層は、前記導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層である。また、本開示のバイオセンサは、その他の態様として、本開示の製造方法により製造されたバイオセンサである。
本開示のバイオセンサによれば、一又は複数の実施形態において、再現性の高い測定が実現できる。本開示のバイオセンサによれば、一又は複数の実施形態において、ロット間差やロット内差が低減され、正しい応答測定値を出力し、正確な値を提供することができうる。
【0031】
試薬層の平均厚みは、一又は複数の実施形態において、5μm~10μmである。試薬層の平均厚みは、より高い再現性を得られる点から、5μmを超え、6μm以上、6.5μm以上、又は7μm以上が好ましい。試薬層の平均厚みは、同様の観点から、9.5μm以下、9μm以下又は8.5μm以下が好ましい。試薬層の平均厚みは、実施例に記載の方法により測定し、算出することができる。
【0032】
試薬層の中央部の平均厚みに対する周辺部の平均厚みの差(「周辺部と中央部との厚みの差」ともいう)は、一又は複数の実施形態において、-6μm~+5μmである。周辺部と中央部との厚みの差は、より高い再現性を得られる点から、-5μm~+5μm、-4μm~+4μm、-3μm~+3μm、-2μm~+2μm又は-1μm~+1μmが好ましい。また、同様の点から、-3.5μm~+2.5μm、-3μm~+2μm、又は-3μm~+1.5μmが好ましい。試薬層の中央部の平均厚みに対する周辺部の平均厚みの差は、実施例に記載の方法により算出できる。
【0033】
試薬層の中央部の平均厚み及び周辺部の平均厚みは、実施例に記載の方法のように、試薬層の平均厚みと同様の方法で測定した厚みを用いて算出することができる。
[試薬層の形状:角柱(直方体)]
試薬層の形状が角柱(直方体)又はそれに類する形状である場合、試薬層の中央部の平均厚みは、試薬層の短手方向中心線と長手方向の中心線との交点から、短手方向にそれぞれ0.1mmの幅(合計幅0.2mm、例えば、
図6のCE)における厚みの平均とすることができる。検体が流れる流路が基材上に形成されたバイオセンサにおいて、その流路内に試薬層が載置され、試薬層の短手方向が検体が流路を流れる流路方向であり、試薬層の長手方向が該流路方向と直交するバイオセンサの幅方向である場合には(例えば、
図2の態様)、試薬層の中央部の平均厚みは、試薬層の短手方向の中心線と長手方向の中心線との交点から向かって上流側及び下流側にそれぞれ0.1mmの幅(合計幅0.2mm)における厚みの平均と言い換えることができる。
試薬層の形状が角柱である場合、試薬層の周辺部の平均厚みは、試薬層の短手方向の両端部からそれぞれ0.1mmの幅(例えば、
図6のEN1及びEN2)の厚みの平均をいう。
[試薬層の形状:円柱]
試薬層の形状が円柱又はそれに類する形状である場合、試薬層の中央部の平均厚みは、バイオセンサの長手方向における、試薬層の中心から半径0.1mmの幅の厚みの平均をいう。周辺部の平均厚みは、円周部から0.1mmの幅の厚みの平均であって、バイオセンサの長手方向と平行な試薬層の中心線における試薬層の両端部(円周部)それぞれから0.1mmの幅(幅0.1mm×2)の厚みの平均をいう。
試薬層の中央部の平均厚み及び周辺部の平均厚みは、実施例に記載の方法により測定し、算出することができる。
【0034】
上面からみた試薬層の形状は、一又は複数の実施形態において、円形、楕円形、及び多角形等があげられる。多角形としては、一又は複数の実施形態において、三角形、四角形、矩形、五角形、六角形、七角形及び八角形等が挙げられる。試薬層は、一又は複数の実施形態において、柱状構造体ともいうことができる。試薬層は、一又は複数の実施形態において、角柱、円柱又は楕円柱であってもよい。試薬層は、一又は複数の実施形態において、四角柱であり、好ましくは略直方体である。略直方体である場合、試薬層は、一又は複数の実施形態において、その長手方向がバイオセンサの長手方向と直交するように、基材上に配置されている。
【0035】
本開示のバイオセンサにおける試薬層は、一又は複数の実施形態において、酸化還元酵素及び電子伝達物質を含む。
【0036】
[酸化還元酵素]
酸化還元酵素としては、一又は複数の実施形態において、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコースオキシダーゼ(GOD)、コレステロールオキシダーゼ、キノヘムエタノールデヒドロゲナーゼ(QHEDH(PQQ Ethanol dh))、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D-フルクトースデヒドロゲナーゼ、D-グルコシド-3-デヒドロゲナーゼ、セロビオースデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ(LOD)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)及び尿酸デヒドロゲナーゼ等が挙げられる。
酸化還元酵素は、一又は複数の実施形態において、補酵素(触媒サブユニット又は触媒ドメインともいう)として、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ピロロキノリンキノリン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を有していてもよい。補酵素を有する酸化還元酵素としては、一又は複数の実施形態において、FAD-GDH、PQQ-GDH、NAD-GDH及びNADP-GDH等が挙げられる。
酸化還元酵素としては、一又は複数の実施形態において、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)型FAD-GDH(フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ又はフラビンアデニンジヌクレオチド結合型グルコースデヒドロゲナーゼ)等が挙げられる。アスペルギルス・オリゼ型FAD-GDHとしては、一又は複数の実施形態において、特開2013-083634号に開示のものが使用できる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
【0037】
試薬層における酸化還元酵素の配合量は、一又は複数の実施形態において、1000KU/cm3以下であり、好ましくは500KU/cm3以下であり、より好ましくは300KU/cm3以下である。試薬層における酸化還元酵素の配合量の上限は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、1KU/cm3以上である。試薬層における酸化還元酵素の配合量は、一又は複数の実施形態において、200KU/cm3~300KU/cm3であり、好ましくは200KU/cm3~280KU/cm3であり、より好ましくは210KU/cm3~260KU/cm3である。本開示において、「U」は、酵素活性の単位であって、至適条件で1分間に1μmolの基質に作用する酵素量をいう。
【0038】
[電子伝達物質]
電子伝達物質は、一又は複数の実施形態において、ルテニウム化合物、1-Methoxy-PES(1-Methoxy-5-ethylphenazinium ethylsulfate、1-mPES)、1-Methoxy-PMS(1-Methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate、1-mPMS)、フェニレンジアミン化合物、キノン化合物、フェリシアン化合物、Coenzyme Q0(2,3-Dimethoxy-5-methyl-p-benzoquinone)、AZURE A Chloride(3-amino-7-(dimethylamino)phenothiazin-5-ium chloride、Phenosafranin、6-Aminoquinoxaline(3,7-Diamino-5-phenylphenanzinium chloride)、及びTetrathiafulvalene等が挙げられる。
ルテニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、酸化型のルテニウム錯体として反応系に存在し、電子伝達物質として機能するルテニウム化合物が使用できる。ルテニウム錯体の配位子の種類はとくに限定されない。ルテニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において下記化学式で示される酸化型ルテニウム錯体が挙げられる。
[Ru(NH3)5X]n+
Xとしては、NH3、ハロゲンイオン、CN、ピリジン、ニコチンアミド、またはH2Oが挙げられ、中でもNH3又はハロゲンイオンが好ましい。ハロゲンイオンとしては、一又は複数の実施形態において、Cl-、F-、Br-、及びI-が挙げられる。式におけるn+は、Xの種類により決定される酸化型ルテニウム(III)錯体の価数を表す。ルテニウム錯体としては、一又は複数の実施形態において、特開2018-013400号公報に開示のものが使用できる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。ルテニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、[Ru(NH3)6]2+または[Ru(NH3)6]3+などのルテニウムヘキサミン等が挙げられる。ルテニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、[Ru(NH3)6]Cl3等が挙げられる。
フェニレンジアミン化合物としては、一又は複数の実施形態において、N,N-Dimethyl-1,4-phenylenediamine、及びN,N,N',N'-tetramethyl-1,4-phenylenediaminedihydrochloride等が挙げられる。
キノン化合物としては、一又は複数の実施形態において、1,4-Naphthoquinone、2-Methyl-1,4-Naphthoquinone(VK3)、9,10-Phenanthrenequinone、1,2-Naphthoquinone、p-Xyloquinone、Methylbenzoquinone、2,6-Dimethylbenzoquinone、Sodium1,2-Naphthoquinone-4-sulfonate、1,4-Anthraquinone、Tetramethylbenzoquinone、及びThymoquinone等が挙げられる。
フェリシアン化合物としては、一又は複数の実施形態において、フェリシアン化カルシウム等が挙げられる。
【0039】
試薬層における電子伝達物質の配合量は、一又は複数の実施形態において、0.1mmol/cm3以上であり、好ましくは0.5mmol/cm3以上であり、より好ましくは1mmol/cm3以上である。試薬層における電子伝達物質の配合量の上限は、特に限定されるものではなく、一又は複数の実施形態において、50mmol/cm3以下又は10mmol/cm3以下である。
【0040】
試薬層は、酸化還元酵素及び電子伝達物質以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、一又は複数の実施形態において、緩衝剤、アミノ酸、界面活性剤、消泡剤、及びバインダー等が挙げられる。
【0041】
緩衝剤としては、一又は複数の実施形態において、リン酸緩衝剤、アミン系緩衝剤及びカルボキシル基を有する緩衝剤等が挙げられる。アミン系緩衝剤としては、一又は複数の実施形態において、Tris(tris(hydroxymethyl)aminomethane)、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)、CHES(N-Cyclohexyl-2-aminoethanesulfonic acid)、CAPSO(3-(Cyclohexylamino)-2-hydroxy-1-propanesulfonic acid)、TAPS(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid)、CAPS(N-Cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic acid)、Bis-Tris(Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane)、TAPSO(2-Hydroxy-N-tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid)、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)、Tricine(N-[Tris(hydroxymethyl)methyl]glycine)、及びADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)等が挙げられる。カルボキシル基を有する緩衝剤としては、一又は複数の実施形態において、クエン酸緩衝剤、リン酸クエン酸緩衝剤、酢酸-酢酸Na緩衝剤、リンゴ酸-酢酸Na緩衝剤、マロン酸-酢酸Na緩衝剤、及びコハク酸-酢酸Na緩衝剤等が挙げられる。緩衝剤は、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。緩衝剤のpHは、一又は複数の実施形態において、6.8~7.5であり、好ましくは6.9~7.0である。
【0042】
アミノ酸としては、一又は複数の実施形態において、グリシン、セリン、リシン、及びヒスチジン等が挙げられる。
【0043】
界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、TritonX-100((p-tert-Octylphenoxy)polyethoxyethanol)、Tween20(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate)、ドデシル硫酸ナトリウム、ペルフルオロオクタンスルホン酸、ステアリン酸ナトリウム、アルキルアミノカルボン酸(またはその塩)、カルボキシベタイン、スルホベタイン及びホスホベタイン等が挙げられる。界面活性剤は、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0044】
バインダーとしては、一又は複数の実施形態において、樹脂バインダー及び層状無機化合物等が挙げられる。樹脂バインダーとしては、一又は複数の実施形態において、ブチラール樹脂バインダー、及びポリエステル樹脂バインダー等が挙げられる。層状無機化合物としては、WO2005/043146に記載の層状無機化合物を使用できる。層状無機化合物としては、一又は複数の実施形態において、イオン交換能を有する膨潤性粘土鉱物等が挙げられる。層状無機化合物としては、一又は複数の実施形態において、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト及び合成フッ素雲母等が挙げられる。バインダーは、1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0045】
[基材]
基材としては、一又は複数の実施形態において、シート状の絶縁性基材が挙げられる。基材の材質としては、一又は複数の実施形態において、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス、セラミック及び紙等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、一又は複数の実施形態において、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリエチレン(PE)等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、一又は複数の実施形態において、ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0046】
[導電部]
導電部は、2以上の電極を含み、基材の表面に形成されている。電極は、一又は複数の実施形態において、作用極と対極とを含む電極対であってもよいし、作用極と対極と参照極とを含む3電極系の電極対であってもよい。導電部は、一又は複数の実施形態において、さらに検知極を有していてもよい。導電部が、少なくとも作用極及び対極を含む電極対を有する場合、試薬層は、一又は複数の実施形態において、少なくとも作用極上に載置されていることが好ましい。
【0047】
電極の材質としては、一又は複数の実施形態において、導電性のある材質が使用できる。導電性のある材質としては、一又は複数の実施形態において、金属材料及び炭素材料等が挙げられる。金属材料としては、一又は複数の実施形態において、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、及びニッケル(Ni)合金等が挙げられる。ニッケル合金としては、一又は複数の実施形態において、ニッケル-バナジム合金、ニッケル-タングステン合金、及びニッケル-ルテニウム合金等が挙げられる。炭素材料としては、一又は複数の実施形態において、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びメソポーラスカーボン等が挙げられる。
【0048】
電極は、一又は複数の実施形態において、基材上に金属材料等の上記の材質を成膜することによって形成された薄膜電極等が挙げられる。成膜方法としては、一又は複数の実施形態において、スクリーン印刷、物理蒸着(PVD、例えばスパッタリング)又は化学蒸着(CVD)等が挙げられる。
【0049】
本開示のバイオセンサにおける試料としては、一又は複数の実施形態において、生体試料等が挙げられる。生体試料としては、一又は複数の実施形態において、血液及び尿並びにこれら由来の試料、細胞抽出試料、及び細胞培養液等が挙げられる。
本開示のバイオセンサにおける測定対象物としては、一又は複数の実施形態において、グルコース、コレステロール、エタノール、ソルビトール、フルクトース、セロビオース、乳酸及び尿素等が挙げられる。
【0050】
[測定方法]
本開示は、その他の態様として、本開示のバイオセンサを用いて試料中の測定対象物を電気化学的に測定する方法であって、前記バイオセンサの試薬層に試料を接触させること、前記バイオセンサの電極の間に電圧を印加すること、及び前記電圧の印加により発生した電気的信号を測定することを含む方法に関する。
【0051】
本開示において「電気化学的に測定する」とは、電気化学的な測定手法を適用して測定することをいい、一又は複数の実施形態において、電流測定法、電位差測定法、電量分析法等が挙げられる。電流測定法としては、一又は複数の実施形態において、還元された電子伝達物質を電圧の印加により酸化される際に生ずる電流値を測定する方法が挙げられる。
【0052】
印加する電圧としては特に制限されるものではないが、一又は複数の実施形態において、10以上又は50mV以上であり、好ましくは100mV以上である。また、印加電圧は、一又は複数の実施形態において、1000mV以下又は700mV以下であり、好ましくは600mV以下、500mV以下、400mV以下又は300mV以下である。
【0053】
<実施形態>
以下に、図面を参照して本開示のバイオセンサの製造方法の一例を説明する。以下に説明する実施形態の構成は一例であって、本開示は実施形態の構成に限定されない。本実施形態では、インクジェットプリンタを用いて試薬層の形成を行う場合を例にとり説明する。
【0054】
まず、
図2に示すように、基材上に、第1電極対10、第2電極対20及び血液検知極30からなる電極系(導電部)をスパッタリングによって形成する。第1電極対10は第1作用極11及び第1対極12を有し、第2電極対20は第2作用極21及び第2対極22を有し、当該電極系は、5つの電極によって形成されている。これらの電極は、基材(バイオセンサ2)の長手方向及び幅方向にそれぞれが平行して矩形状に露出するように形成する。
【0055】
つぎに、第1電極対10(第1作用極11及び第1対極12)上に試薬層40を形成する。試薬層40の形成は、インクジェットプリンタを用いて試薬の液滴を吐出することにより行うことができる。インクジェットプリンタでは、操作方向に移動するインクジェットヘッドのノズルから、試薬液を吐出させる吐出処理と、導電部が形成された基材を所定の距離だけ搬送させる搬送処理とを交互に繰り返すことにより、導電部上への試薬層の形成が行われる。また、インクジェットプリンタでは、走査方向(左右方向)のどちらの方向に移動させる場合も、ノズルから試薬液を吐出することができる。搬送処理に要する時間を乾燥時間としてもよいし、搬送処理とは別に乾燥処理のための時間を設けてもよい。
【0056】
試薬層40の形成は、複数のインクジェットプリンタによって行ってもよい。第1層目のドット形成を第1のインクジェットプリンタで行った後、基材を第2のインクジェットプリンタに搬送させてそこで第2層目のドット形成を行うといったように、ドットの形成後、次のインクジェットプリンタに基材を搬送することによって、必要な層(数)のドットを積層することにより試薬層を形成することができる。この態様によれば、インクジェットプリンタ間の搬送に要する時間を乾燥処理に使用することができうる。
【0057】
本実施形態における試薬層40の大きさは、縦(バイオセンサ2の長手方向)が1000μm、横(バイオセンサ2の短手方向)が2700μmとする。液滴を吐出する間隔(ドットの中心間距離)は、70μmとし、縦14回(箇所)×横39回(箇所)の吐出を行う。
【0058】
吐出する液滴(試薬液)の組成は、形成する試薬層及び作成するバイオセンサの種類に応じて適宜決定することができる。
試薬液における酸化還元酵素の配合量は、一又は複数の実施形態において、1KU/mL~200KU/mLである。試薬液における酸化還元酵素の配合量は、一又は複数の実施形態において、5KU/mL以上、10KU/mL以上、15KU/mL以上、20KU/mL以上、25KU/mL以上又は30KU/mL以上である。試薬液における酸化還元酵素の配合量は、一又は複数の実施形態において、100KU/mL以下、90KU/mL以下、80KU/mL以下、70KU/mL以下、60KU/mL以下又は55KU/mL以下である。
試薬液における電子伝達物質の配合量は、一又は複数の実施形態において、1mM~1000mMである。試薬液における電子伝達物質の配合量は、一又は複数の実施形態において、2mM以上、5mM以上、10mM以上、50mM以上、100mM以上、200mM以上又は500mM以上である。試薬液における電子伝達物質の配合量は、一又は複数の実施形態において、900mM以下、800mM以下又は700mM以下である。 試薬液における緩衝剤の配合量は、一又は複数の実施形態において、10mM~1000mMである。試薬液における緩衝剤の配合量、一又は複数の実施形態において、20mM以上、50mM以上、100mM以上、150mM以上又は200mM以上である。試薬液における緩衝剤の配合量は、一又は複数の実施形態において、900mM以下、800mM以下、700mM以下、600mM以下又は500mM以下である。
試薬液におけるアミノ酸の配合量は、一又は複数の実施形態において、0.1質量%~20質量%又は0.5質量%~10質量%である。試薬液における界面活性剤の配合量は、一又は複数の実施形態において、0.1質量%~20質量%又は0.5質量%~10質量%である。
【0059】
第1層目のドット形成では、隣接する液滴ドット同士が重ならないような大きさの液滴ドットが形成されるように、インクジェットヘッドのノズルより試薬の液滴を吐出する。第1層目の液滴の吐出量は、例えば、10ng~18ng(例えば12ng)とすることができる。この量であれば、導電部に吐出された液滴ドット同士が互いに結合することなく独立に維持することができ、つまり隣り合う液滴ドット同士が結合して一つの液滴を形成することを抑制することができうる。
液滴を吐出して液滴ドットを形成した後、液滴ドットを乾燥させる。液滴ドットの乾燥は、室温(湿度50%以下)で20秒以上行うことができる。これにより、試薬ムラをより低減でき、再現性をさらに向上できる。乾燥後の液滴ドットの大きさ(長径)は、50μm~70μmとすることができる
【0060】
つぎに、乾燥した第1層目の液滴ドットの上に、第2層目の液滴ドットを形成する。 第2層目のドットの形成では、液滴を吐出する位置(液滴ドットの中心)を、第1層目の液滴ドットが形成されていない箇所、例えば、第1層目の隣り合う液滴ドットの中心(例えば、
図3のc1A、c1B、c1C、c1D))を結ぶ交点(これらを頂点とする四角形の対角線の交点)(
図3のc2)の位置とすることが好ましい。この位置とすることにより、試薬ムラをより低減でき、再現性をさらに向上できる。また、乾燥した第1層目の液滴ドットの上に、液滴を吐出することで、第1層目の液滴ドット(試薬)の一部を溶解しつつ、溶解した一部の液滴ドットと共に吐出した液滴ドットを乾燥させる。これにより、試薬ムラをより低減でき、再現性をさらに向上できる。
第2層目の液滴ドットの形成では、隣接する液滴ドット同士が重なるように、試薬の液滴を吐出することが好ましい。液滴の吐出量は、例えば、20~28ng(例えば23ng)とすることができる。この量であれば、乾燥後の液滴ドットの大きさは、(長径)は、90~100μmとなり、
図3に示すように、乾燥後の液滴ドット同士(隣接する液滴ドット同士)が重なり合うことができる。
【0061】
つぎに、乾燥した第2層目の液滴ドットの上に、第3層目の液滴ドットを形成する。第3層目の液滴ドットの形成では、液滴を吐出する位置(液滴ドットの中心)を、第1層目において液滴を吐出した位置(第1層目の液滴ドットの中心)とする以外は、第2層目のドットの形成と同様に行うことができる。第3層目の液滴ドットの形成においても同様に、乾燥した試薬の上に液滴を吐出することで、試薬の一部を溶解しつつ溶解した一部の試薬と共に吐出した液滴ドット(試薬液)を乾燥させる。これにより、試薬ムラをさらに低減することができ、再現性をさらに向上できる。
【0062】
つぎに、乾燥した第3層目の液滴ドットの上に、第4層目の液滴ドットを形成する。第4層目の液滴ドットの形成では、液滴を吐出する位置(液滴ドットの中心)を、第2層目において液滴を吐出した位置(第2層目の液滴ドットの中心)とする以外は、第2又は3層目のドットの形成と同様に行うができる。
【0063】
このように、液滴を吐出する位置(液滴ドットの中心)を、奇数層目の液滴ドットの形成では、第1層目において液滴を吐出した位置(第1層目の液滴ドットの中心)とし、偶数層目のドットの形成では、第2層目において液滴を吐出した位置(第2層目の液滴ドットの中心)として、液滴ドットの形成を繰り返し行うことにより、試薬層40を形成することができる。
試薬層の形成において、乾燥した試薬(基材上に配置された試薬)の一部の溶解と、溶解した一部の試薬及び吐出した液滴ドット(試薬液)の乾燥とを繰り返し行うことにより、試薬ムラをさらに低減でき、再現性をさらに向上できる。
【0064】
試薬層40を形成した基材上に、被覆領域2bとして矩形状の切抜部を有するスペーサ(図示せず)を配置し、その上に空気孔2eが形成された合成樹脂製のカバー(図示せず)をこの順で配置することによりバイオセンサを製造することができる。
【0065】
本開示のバイオセンサは、一又は複数の実施形態において、血糖値計といった測定装置に使用することができる。
図1に、測定装置の一例を示す。
図1の測定装置1は、携帯型の血糖測定器や血糖自己測定メータ等の血糖値計として使用することができる。
【0066】
図1に示すように、測定装置1は、本体1aを備える。本体1aは、短冊状のバイオセンサ2を挿入するための挿入口1bと、測定データを表示する表示画面1cと、外部機器とデータ通信するためのコネクタ1dとが設けられている。
【0067】
図1に示すように、バイオセンサ2は、試料供給口2dと、空気孔2eとが形成されている。試料供給口2dは後述する流路(
図2の2a)と連通しており、空気孔2eは、試料供給口2dから流路(
図2の2a)内に試料が供給されたことによる流路(
図2の2a)内の空気を排出するために設けられている。
【0068】
図2に、本開示のバイオセンサの一実施形態の模式図を示す。
図2において、上側が上流側であり、下側が下流側である。
【0069】
バイオセンサ2は、基材と、基材上に金属又は炭素材料を用いて形成された導電部と、導電部の上に形成された試薬層40とを備える。導電部及び試薬層40の上には、被覆領域2bとして矩形状の切抜部を有するスペーサ(図示せず)、さらにその上に空気孔2eが形成された合成樹脂製のカバー(図示せず)が積層される。基板、スペーサ及びカバーの積層により、スペーサの切抜部によって形成された試料供給口2dを有する空間が形成され、この空間が流路2aとなる。空気孔2eは流路2aの下流端付近に形成されている。
【0070】
本実施形態において、基材は、幅が7mmであり、長さが30mmであり、厚みが250μmである。流路2aは、幅が2mmであり、長さが4mmである。試薬層40は、幅(バイオセンサの短手方向)が2.7mmであり、長さ(バイオセンサの長手方向)が1mmである。
【0071】
導電部は、第1電極対10としての第1作用極11及び第1対極12、第2電極対20としての第2作用極21及び第2対極22、並びに血液検知極30の5つの電極が流路2a内においてバイオセンサ2の幅方向(短手方向)にそれぞれの電極が平行して矩形状に露出するように形成されている。流路2aに露出した第1電極対10、第2電極対20及び血液検知極30が、導入された血液(試料)と接触し、測定領域として機能する。隣接する各電極間は絶縁されている。導電部が物理蒸着によって形成された金属材料によって形成されている場合、各電極間は、レーザー光で所定の電極パターンを描くこと(トリミング)により絶縁されている。導電部が炭素材料を用いて形成された場合、所定の間隔を空けてそれぞれの電極が形成される。本実施形態の導電部(電極)は、ニッケルバナジウム合金を用いて形成されている。
【0072】
各電極は、バイオセンサ2の長手方向に沿って延設され、上流端側で幅方向に屈曲している。この屈曲部分は、上流側から、第2作用極21、第2対極22、第1作用極11、第1対極12及び血液検知極30の順に、幅方向に並行に位置している。各電極は、バイオセンサ2の上流端から下流端近傍までの被覆領域2bで前記のカバー(図示せず)で被覆されているが、下流端部分は被覆されずに露出し、この部分が本体1aの挿入口1bに挿入されるコネクタ領域2cとなっている。このコネクタ領域2cでは、第1作用極11のリード部11a、第1対極12のリード部12a、第2作用極21のリード部21a、第2対極22のリード部22a及び血液検知極30のリード部30aがそれぞれ露出した接点となっている。
【0073】
バイオセンサ2の上流部分の幅方向中央部分において、各電極とカバー(図示せず)との間に間隙が形成されている。この間隙は、上述のとおり測定対象物を含む血液が導入され流動するキャピラリ状の流路2aである。また、上流側から数えて2番目の電極である第2対極22と、3番目の電極である第1作用極11との間の間隙である非導電領域45は、他の電極間の間隙よりも広くなっている。この非導電領域45は、レーザー光で矩形状のパターンを電極層に描かれることによって他の電極と絶縁されて形成された領域である。
【0074】
試薬層40は、第1作用極11の上に載置されている。この試薬層40が載置されている領域は、下流側は第1対極12の半ばまでに至り、上流側は非導電領域45の半ばまでに至るが、第2対極22までには及んでいない。換言すると、第1作用極11と第2対極22との間が非導電領域45で隔てられているため、第1作用極11に載置されている試薬層40と第2対極22との接触が妨げられている。バイオセンサ2の試料供給口2dに血液(試料)が点着されると、流路2aの中を、毛細管力によって第2作用極21、第2対極22、第1作用極11、第1対極12及び血液検知極30の順に下流側に流動していく。このとき、血液(試料)が第1作用極11に至ると、第1作用極11に載置されている試薬層40の試薬成分が血液(試料)により溶解される。
【0075】
バイオセンサ2を用いて試料中の測定対象物を電気化学的に測定する方法の一例として、試料が全血、測定対象物がグルコースである場合を例にとり説明する。
【0076】
まず、全血試料をバイオセンサ2の試料供給口2dに接触させる。バイオセンサ2の試料供給口2dに全血試料が点着されると、流路2aの中を、毛細管力によって第2作用極21、第2対極22、第1作用極11、第1対極12及び血液検知極30の順に下流側に流動していく。このとき、全血試料が第1作用極11に至ると、第1作用極11に載置されている試薬層40に含まれる試薬成分(酸化還元酵素及び電子伝達物質等)が全血試料により溶解される。
【0077】
そして、電極に正の電位を印加すると、試薬層40内に存在する電子伝達物質と、試薬層40の下に位置する第1作用極11との間で電子の授受が行われ、酸化電流が流れる。これに基づいてグルコース濃度を測定することができる。印加する電圧としては、一又は複数の実施形態において、10mV~1000mVであり、好ましくは100mV~600mVである。
【0078】
上記実施形態は、試料が血液(例えば、全血)である場合のバイオセンサの形態及び測定方法を例にとり説明したが、本開示はこれに限定されるものではなく、血液以外の尿等の様々な生体試料であっても同様に測定することができる。
【0079】
本開示は以下の限定されない一又は複数の実施形態に関しうる。
[1] 基材と、
前記基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、
前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層と、を有するバイオセンサであって、
前記試薬層は、前記導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層である、バイオセンサ。
[2] 基材と、
前記基材の表面に形成された2以上の電極を含む導電部と、
前記導電部の少なくとも一部の上に載置された試薬層と、を有するバイオセンサの製造方法であって、
前記導電部上への試薬の液滴ドットの形成を繰り返して三次元積層された試薬層を形成することを含む、製造方法。
[3] 前記液滴ドットを乾燥させることを含む[2]に記載の製造方法。
[4] 第N層目の試薬の液滴ドットを所定の間隔で形成すること、及び
乾燥後の第N層目の液滴ドットの上に、第N+1層の試薬の液滴ドットを形成することを含む(但し、Nは1以上の自然数である)[2]又は[3]に記載の製造方法。
[5] 前記第N+1層目における試薬の液滴ドットの形成は、該液滴ドットの中心が、第N層目の隣り合う液滴ドットの中心を結ぶ線の交点に位置するように行われる[4]に記載の製造方法。
[6] 第N+1層目における試薬の液滴ドットの形成は、乾燥した第N層目の液滴ドットの少なくとも一部を覆うように行われる[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7] 第1層目における試薬の液滴ドットの形成は、隣接する液滴ドット同士が重ならないように行われる[4]から[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 第2層目以降における試薬の液滴ドットの形成は、隣接する液滴ドット同士が互いに接するように行われる[4]から[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 試薬の液滴ドットの形成は、少なくとも第4層目の液滴ドットが形成されるまで繰り返し行う[4]から[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 吐出する液滴の量は、10ng~30ngである[2]から[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11] 前記試薬層の平均厚みは、5μm~10μmである[2]から[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12] 前記試薬層の中央部の平均厚みに対する周辺部の平均厚みの差([周辺部の平均厚み]-[中央部の平均厚み])は、-6μm~+5μmである[2]から[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 前記試薬は、酸化還元酵素及び電子伝達物質を含む[2]から[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14] [2]から[13]のいずれかに記載の製造方法により製造されたバイオセンサ。
【0080】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0081】
(実施例1)
電極を形成した基材(PET、厚み250μm、長さ30mm×幅7mm)の上に、下記の手順で、試薬をインクジェット装置でドット印刷することにより、試薬層を形成した。試薬層の形成は、室温、湿度50%以下の条件下で行った。
<手順>
1.インクジェット装置の貯蔵部に試薬液を充填し、電極を形成した基材(PET製)上に、試薬液(粘度:2~3mPa・s)の液滴を下記条件で吐出し、液滴ドット(斑点様)を形成した(第1層目)。液滴の吐出量を12ng(10pL)とした。液滴を吐出する間隔(ドットの中心間距離)は70μmとし格子状に吐出を行った。第1層の液滴ドットを全て形成した後、液滴ドットを乾燥させた(30秒)。乾燥後の液滴ドットの直径は、50~70μmであった。
2.つぎに、乾燥させた第1層目の液滴ドットの上に、試薬の液滴ドットを形成し、乾燥させた(第2層目)。第2層目の液滴ドットの形成は、液滴の吐出量を23ng(18pL)とし、液滴ドットの中心が、第1層目の隣接する液滴ドットの中心(
図3のc1A、c1B、c1C及びc1D)を頂点とする正方形の略中心(
図3のc2)に位置するように形成した。乾燥後の液滴ドットの直径は、90~100μmであった。液滴を吐出する間隔(ドットの中心間距離)は、第1層目と同様に70μmであった。
3.つぎに、乾燥させた第2層目の液滴ドットの上に、試薬の液滴ドットを形成し乾燥させた(第3層目)。第3層目の液滴ドットの形成は、液滴の吐出量を23ngとし、液滴ドットの中心が、第1層目の液滴ドットの中心と略同じ位置になるようにした。
4.つぎに、乾燥させた第3層目の液滴ドットの上に、第2層目と同様にして試薬の液滴ドットを形成し乾燥させた(第4層目)。
5.最後に、乾燥させた第4層目の液滴ドットの上に、第3層目と同様にして試薬の液滴ドットを形成し乾燥させた(第5層目)。これにより、三次元積層された試薬層(略直方体(四角柱)が得られた。得られた試薬層におけるFAD-dependet Glucose Dehydrogenaseの配合量は232KU/cm
3であり、電子伝達物質の配合量は3.56mmol/cm
3である。
<液滴ドット形成条件>
隣接するドット中心間距離(例えば、
図3のc1Aとc1Bとの距離(X)):70μm
吐出回数:試薬層形成領域(縦1000μm、横2700μm、直方体)に対して、縦14回×横39回
【0082】
試薬液の組成は、以下の通りである。
<試薬液の組成>
FAD-dependet Glucose Dehydrogenase(商品名:Glucose Dehydrogenase "Amano 8"、MW:18万、天野エンザイム株式会社製):48KU/mL
Ru錯体(Ru(NH3)6Cl3、LT Metal Co. Ltd社製):626mM
1-Methoxy PES(1-メトキシ-5-エチルフェナジニウムエチルサルフェート、株式会社同仁化学研究所社製):2.27mM
クエン酸リン酸バッファー(pH7.0):300mM
Glycine:2質量%
CHAPS:2質量%
消泡剤:0.04質量%
【0083】
[乾燥後の液滴ドットの大きさの測定]
乾燥後の液滴ドットの大きさは、デジタルマイクロスコープ(VHX-6000、キーエンス社製)により測定した。
【0084】
得られた試薬層の写真を
図5に示す。
図5における白線は、試薬層の下面に形成された導電部の各電極を区切るためのレーザー印字跡である。
図5に示すように、本開示の方法により形成した試薬層は、試薬のムラが抑制され均一であった。微小量の液滴の積層、乾燥を交互に繰り返すことで、再溶解に伴う試薬形成領域内の試薬の再移動を抑えていると考えられる。
【0085】
[試薬層の厚みの測定]
得られた試薬層の厚みは、卓上型触針式プロファイリングシステム(商品名:DektakXT、BRUKER製)を用いて測定した。測定は、上面からみた形状が長方形である試薬層の短手方向に沿った短手方向中心線(バイオセンサの長手方向に沿った長手方向中心線、左端から略1350μmの位置を通る中心線)に沿って行った(
図6の矢印方向)。
<平均厚み>
平均厚みは、試薬層の短手方向に沿った短手方向中心線(左端から略1350μmの位置)において、一方の試薬層端部から他方の試薬層端部まで(バイオセンサの上流側から下流側まで)の高さ(試薬層の厚み)を670nm刻みに測定し、その相加平均を算出することにより求めた。
<試薬層の中央部の平均厚みに対する周辺部の平均厚みの差>
上記のように測定した試薬層の厚みのうち、両端部(バイオセンサの上流側及び下流側)(
図6のEN
1及びEN
2、各幅0.1mm)の厚みを相加平均することにより、両端部の平均厚み(TH
EN)を算出した。また、試薬層の短手方向中心線と長手方向中心線との交点を中心とする幅0.2mmの厚み、すなわち試薬層の短手方向(バイオセンサの上流側及び下流側)にそれぞれ0.1mmの幅(
図6のCE、合計幅0.2mm)の厚みを相加平均することにより、中央部の平均厚み(TH
CE)を算出した。得られた両端部の平均厚み(周辺部の平均厚み、TH
EN)と中央部の平均厚み(TH
CE)とを用い、下記式より試薬層の周辺部と中央部との平均厚みの差を求めた。
[周辺部と中央部との平均厚みの差]=(TH
EN)-(TH
CE)
【0086】
[グルコース電流値再現性試験]
上記の方法で試薬層を形成したバイオセンサを用いて、グルコース電流値再現性試験を行った。グルコース電流値の再現性は、各検体濃度におけるグルコース電流値(Cyclic Voltammetry、C.V.)の平均と定義した。
ポテンショスタット(アークレイ株式会社製)を使用し、0.2Vで電圧を印加して電流値を測定した。得られた電流値から変動係数(Coefficient of variation、CV)(%)を得た。その結果を
図8に示す。
CV(%)は値が低いとグルコース電流値の再現性が高いことを意味し、CV(%)が1.4未満であることはバイオセンサの性能において好ましい再現性を有することを示す。
<評価条件>
使用検体:全血検体
Glu/Hct濃度:Glu45mg/dl/Hct42%、Glu130mg/dl/Hct42%、Glu330mg/dl/Hct42%
評価数:n=10(各Glu/Hct濃度での実施であるため、合計30評価実施した)
【0087】
図7が、得られた試薬層における平均厚みと、周辺部と中央部との平均厚みの差(高低差)との関係を示し、
図8が、グルコース応答電流のCV(%)(グルコース応答電流値再現性(Glu値再現性))と、周辺部と中央部との平均厚みの差(高低差)との関係を示す。
図7及び8のグラフ内に示す数値は、各試薬層の周辺部と中央部との平均厚みの差(高低差)である。
図7では、●プロットが試薬層の平均厚みが5μm~10μmの範囲内のデータを表し、×プロットが5μm~10μmの範囲外のデータを表す。
図8では、周辺部と中央部との平均厚みの差が-6μm~+5μmの範囲内に含まれるデータにおいて、Glu値再現性(%)が1.4%未満のデータを●プロットで表し、1.4%以上のデータを×プロットで表す。
図7及び8に示すように、試薬層の平均厚み(試薬の高さ)が5μm~10μmであり、周辺部と中央部との平均厚みの差(高低差)が-6μm~+5μmであれば、CV(%)が1.4%未満であり、ロット間やロット内差が低減され、高い再現性が得られた。
【0088】
(実施例2)
液滴ドットの形成を繰り返し行って第1層目から第15層目までの液滴ドットを形成した以外は、実施例1と同様にして試薬層を形成した。第1層目以外の奇数層目(第3、5、7、9、11、13及び15層目)の液滴ドットを形成は、実施例1の第3層目と同様に行った。偶数層目(第2、4、6、8、10、12及び14層目)の液滴ドットを形成は、実施例1の第2層目と同様に行った。得られた試薬層の写真を
図9に示す。
【0089】
図9に示すように、本開示の方法により形成した試薬層は、試薬のムラが抑制され均一であった。