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特開2023-160765軸受ユニットのための軸受要素及び寿命が向上された軸受ユニット
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  • 特開-軸受ユニットのための軸受要素及び寿命が向上された軸受ユニット 図1
  • 特開-軸受ユニットのための軸受要素及び寿命が向上された軸受ユニット 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160765
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】軸受ユニットのための軸受要素及び寿命が向上された軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20231026BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20231026BHJP
   F16C 33/30 20060101ALI20231026BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C23C26/00 A
F16C19/06
F16C33/30
F16C33/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023065746
(22)【出願日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】2203737
(32)【優先日】2022-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】508282993
【氏名又は名称】アクティエボラゲット・エスコーエッフ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パウル・ディートル
(72)【発明者】
【氏名】シャオボ・ジョウ
【テーマコード(参考)】
3J701
4K044
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA13
3J701AA15
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA09
3J701BA10
3J701BA49
3J701BA50
3J701BA69
3J701BA70
3J701CA15
3J701CA33
3J701DA20
3J701EA03
3J701EA36
3J701EA37
3J701EA44
3J701EA55
3J701EA78
3J701FA32
3J701GA60
3J701XB03
3J701XB26
3J701XB33
3J701XE03
3J701XE50
4K044AA02
4K044AA13
4K044AA16
4K044AB10
4K044BA02
4K044BA18
4K044BA19
4K044BB03
4K044BB04
4K044BB11
4K044BB13
4K044BC01
4K044BC06
4K044CA13
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性の向上と、軸受要素と他の軸受要素との間の接触面を潤滑する能力の向上と、の組み合わせにより、より長く使用できる軸受ユニットの軸受要素を提供する。
【解決手段】軸受ユニット(1)の軸受要素(10)は、別の軸受要素と接触するための表面(11)と、基材(6)と、基材の摩耗耐性を向上させるための第1コーティング(8)であって、第1コーティングは、基材上に塗布され、固体潤滑剤を含む、第1コーティング(8)と、を備え、軸受要素は、第1コーティングよりも軟らかい第2コーティング(9)を備え、第2コーティングは、第1コーティング上に塗布され、固体潤滑剤を含むことを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受ユニット(1)の軸受要素(10)であって、
-別の軸受要素と接触するための表面(11)と、
-基材(6)と、
-前記基材の摩耗耐性を向上させるための第1コーティング(8)であって、前記第1コーティングは、前記基材上に塗布され、固体潤滑剤を含む、第1コーティング(8)と、
を備える、軸受要素において、
前記軸受要素は、前記第1コーティングよりも軟らかい第2コーティング(9)を備え、前記第2コーティングは、前記第1コーティング上に塗布され、固体潤滑剤を含むことを特徴とする、軸受要素。
【請求項2】
前記第1コーティング及び前記第2コーティングの前記固体潤滑剤は、MoSであることを特徴とする、請求項1に記載の軸受要素。
【請求項3】
前記第1コーティングは、Tiを含み、Tiの含有量は3%at~30%atの間であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の軸受要素。
【請求項4】
前記第1コーティングは、700HV~2500HVの間の硬度を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の軸受要素。
【請求項5】
前記第1コーティングは、0.2ミクロン~4ミクロンの間の厚さを有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の軸受要素。
【請求項6】
前記第2コーティングの前記固体潤滑剤は、20%at~60%atの間の含有量を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の軸受要素。
【請求項7】
前記第2コーティングは、接着剤又はエポキシ等の接合材をさらに含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の軸受要素。
【請求項8】
前記第2コーティングの硬度は、150HV以下であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の軸受要素。
【請求項9】
前記第1コーティングは、前記基材上に最初に塗布される結合層(7)を備えることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の軸受要素。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の軸受要素を備える軸受ユニット(1)であって、前記軸受要素は、リング、転動要素、ケージ、セパレータ、又はスペーサであることを特徴とする、軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受ユニットの軸受要素に関する。
【0002】
本発明は、また、少なくとも1つの軸受要素を有する軸受ユニットにも関する。本発明は、特に、転動要素軸受に関する。
【背景技術】
【0003】
ある用途、例えば真空中では、軸受ユニットの接触領域、例えば転動要素と軌道輪又はケージとの接触を潤滑するためにグリース又はオイルを使用することは不可能であるか、望ましいことではない。
【0004】
接触領域を潤滑するために、黒鉛又は二硫化モリブデンMoS等の固体潤滑剤を用いることが知られている。
【0005】
接触領域の摩耗に対する抵抗を低減し、同時に接触領域に固体潤滑剤を供給するために、特許文献1から、軸受ユニットの要素を金属ドープMoSを含む硬質固体潤滑剤でコーティングすることが知られている。
【0006】
さらなる改良がまだ可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第1470343号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐摩耗性の向上と、軸受要素と他の軸受要素との間の接触面を潤滑する能力の向上と、の組み合わせにより、より長く使用できる軸受ユニットの軸受要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
軸受要素は、基材と、基材の耐摩耗性を向上させるための第1コーティングと、を備える。第1コーティングは、基材上に塗布され、固体潤滑剤を含む。
【0010】
軸受要素は、第1コーティングよりも軟らかい第2コーティングを備える。第2コーティングは、第1コーティング上に塗布され、固体潤滑剤を含む。
【0011】
有利ではあるが強制されない本発明のさらなる態様によれば、このような軸受要素は、以下の特徴のうちの1つ又はいくつかを組み込むことができる:
-第1コーティング及び第2コーティングの固体潤滑剤は、MoSである;
-第1コーティングはTiを含み、その含有量は3at%~30at%である;
-第1コーティングは、750HV~2500HVの間の硬度を有する;
-第1コーティングの厚さは、0.2μm~4μmの間である;
-第2コーティングの固体潤滑剤は、20at%~60at%の間の含有量を有する;
-第2コーティングは、接着剤又はエポキシ等の接合材をさらに含む;
-第2コーティングの硬度は、150HV以下である;
-第1コーティングは、基材上に最初に塗布される結合層(7)を備える。
【0012】
本発明の別の目的は、本発明による軸受要素を含む軸受ユニットである。軸受要素は、例えば、リング、転動要素、ケージ、セパレータ又はスペーサであり得る。
【0013】
本発明のおかげで、軸受ユニットの寿命は、特に、軸受ユニットが加速度、速度、荷重又は温度の点で厳しい又は極端な条件で動作する場合に、増加する。
【0014】
次に、本発明の目的を制限することのない例示的な例としての付属の図に対応して、本発明が説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による軸受ユニットの長手方向断面を示す。
図2】本発明による軸受ユニットの軸受要素の詳細を部分図で模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による軸受ユニットは、内輪と外輪とを備える。内輪及び外輪は、共通の回転軸に沿って互いに対して回転可能である。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、軸受ユニットは滑り軸受であり、内輪及び外輪は、一方が他方に対してそれぞれ回転しているときに一方が他方に対して直接摺動接触している。
【0018】
本発明の別の好ましい実施形態では、軸受ユニットは、内輪と外輪との間に転動要素をさらに備える。
【0019】
本発明の別の好ましい実施形態では、軸受ユニットは、(1つ又はいくつかの隣接する部分で)転動要素を互いに対して所定の相対位置に保持するためのケージをさらに備える。
【0020】
本発明の別の好ましい実施形態では、軸受ユニットは、複数のスペーサをさらに備え、各スペーサは、2つの隣接する転動要素を分離している。
【0021】
本発明の別の好ましい実施形態では、軸受ユニットは、内輪と外輪との間に転動要素を有するが、転動要素を分離するためのケージやスペーサを有しない総ころ軸受である。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、転動要素はボールである。
【0023】
代替的には、転動要素は、円筒ころ、テーパころ、トロイダルころ、又はバレルころなどのころである。
【0024】
図1は、内輪2と、外輪3と、内輪と外輪との間に位置するボール状の転動要素4と、ボールを円周方向に一定の距離で定位置に保持するケージ5と、を備える軸受ユニット1を示している。
【0025】
図2は、軸受要素10の部分図を示している。軸受要素10は、他の軸受要素と接触することが意図された表面11を有する。
【0026】
本発明による軸受要素は、基材6と、基材の耐摩耗性を向上させる第1コーティング8と、を備える。第1コーティングは、基材上に塗布され、固体潤滑剤を備える。
【0027】
第1コーティングが施された領域における軸受要素の耐摩耗性を高めるために、第1コーティングの硬度は、その領域における基材の硬度よりも大きい。
【0028】
本発明による軸受要素は、例えば、内輪又は外輪などのリング、又はブッシュである。
【0029】
また、軸受要素は、ボール又はころ等の転動要素であってもよい。
【0030】
また、軸受要素は、複数の転動要素を互いに所定の距離に維持するためのケージ、又は連続する2つの転動要素の間に配置されるスペーサとすることもできる。
【0031】
軸受ユニットの好ましい実施形態では、軸受ユニットは本発明による複数の軸受要素を備える。
【0032】
軸受ユニットの好ましい実施形態では、軸受ユニットはセラミック材料から作られた内輪、外輪及び転動要素を備え、本発明による軸受要素は内輪であり、転動要素が走行可能な内輪の軌道上に二重コーティングが施される。
【0033】
軸受ユニットの別の好ましい実施形態では、軸受ユニットは金属材料から作られた内輪、外輪及び転動要素を備え、二重コーティングは、内輪の軌道上及び転動要素上に塗布される。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、基材は軸受鋼から作られる。
【0035】
代替的には、基材は、Si等のセラミック材料、或いはPEEK又はPA6.6等のプラスチック材料から作られる。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、第1コーティングの潤滑剤は、MoSを含む。
【0037】
有利には、第1コーティングの潤滑剤は、MoSのみを含む。その場合、MoSは、好ましくはアンチモンフリーである。
【0038】
代替的には、又は補完的に、第1コーティングの潤滑剤は、WS又はDLCを含む、又はWS又はDLCのみから作られる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、第1コーティングは、Ti又はMo等のドーピング金属を含む。
【0040】
有利には、ドーピング金属はTiのみである。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、第1コーティングは、MoS及びTiからなり、Tiの含有量は3%at~30%atの間、好ましくは5%at~15%atの間である。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、第1コーティングの厚さは、0.2μm~4μmの間、好ましくは0.5μm~2μmの間である。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、第1コーティングの硬度は、700HV~2500HVの間であり、好ましくは、1000HV~1500HVの間である。
【0044】
有利には、第1層は、プラズマ蒸着、好ましくはPVD(物理蒸着)により付与される。このような堆積は、完成した軸受要素上で実現され、研削又はホーニング等の更なる機械加工、及び熱処理は、堆積の後に軸受要素上で行われない。
【0045】
最初のコーティングがドーピング金属を含む場合、コーティングはいくつかの層で実現される。ある層は主にドーピング金属(例えばTi)を含み、他の層は主に固体潤滑剤(例えばMoS)を含む。有利には、最後の層は純粋な固体潤滑剤から作られる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、第1コーティングは、基材上に最初に塗布された結合層7をさらに含む。結合層は、基材に対する第1コーティングの固定を強化する。
【0047】
有利には、結合層は、純粋なTiから作られる。
【0048】
軸受要素10は、第2コーティング9をさらに備える。第2コーティングは、第1コーティング上に塗布される。第2コーティングは、第1コーティングよりも軟らかく、すなわち第2コーティングの硬度は、第1コーティングの硬度よりも小さい。第2コーティングは、固体潤滑剤を含む。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、第2コーティングの潤滑剤は、MoSを含む。
【0050】
有利には、第2コーティングの潤滑剤は、MoSのみである。
【0051】
代替的には、第2コーティングの潤滑剤は、WS又はDLCである。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、第2コーティングは、固体潤滑剤のみからなる。
【0053】
本発明の別の好ましい実施形態では、第2コーティングは、接着剤又はエポキシ等の接合材も含んでなる。
【0054】
有利には、第2コーティングは、150HV以下の硬度を有する。
【0055】
第2コーティングは第1コーティングよりもはるかに軟らかいので、運転中(回転中)に塑性変形によってしみ戻る。この現象は、軸受要素に受動的自己修復特性を与える。
【0056】
有利なことに、第1コーティングの最上層は多孔質であり、これにより第2コーティングの第1コーティングへの固定が増加する。数ミクロンの空洞があれば、効率的な把持が可能である。
【0057】
好ましくは、第2層は、固体潤滑剤の粉末と、最終的に純粋な固体潤滑剤を残すように蒸発する液体溶媒とを混合することによって得られる混合物を塗装によって適用することによって得られる。有利には、この混合物は、第1コーティングに対する第2コーティングの固定を改善するエポキシ等の接着剤又は接合材をさらに含む。
【0058】
代替的には、第2コーティングは、固体潤滑剤の粉末、液体溶媒、及び任意で接着剤又は接合材を含むエアロゾルを噴霧することによって得られる。
【0059】
本発明のおかげで、軸受要素及び軸受ユニットの耐摩耗性が改善され、同時に潤滑条件も改善される。
【0060】
また、本発明のおかげで、軸受要素又は軸受ユニットが極限状態で使用される場合、例えば、非常に高い回転加速度及び/又は速度、又は非常に高い又は急激な荷重にさらされる場合、従来の軸受と比較して、軸受の寿命が向上する。
【0061】
従って、本発明は、磁気軸受システムのランディング軸受として使用される玉軸受によく適合している。
【符号の説明】
【0062】
1…軸受ユニット
2…内輪
3…外輪
4…転動要素
5…ケージ
6…基材
7…結合層
8…第1コーティング
9…第2コーティング
10…軸受要素
11…表面
図1
図2
【外国語明細書】