(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160768
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】油性微生物からの脂肪酸アルキルエステル合成およびそれらの抽出のための方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/6436 20220101AFI20231026BHJP
【FI】
C12P7/6436
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066345
(22)【出願日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】202221023478
(32)【優先日】2022-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】518386656
【氏名又は名称】インディアン オイル コーポレイション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INDIAN OIL CORPORATION LIMITED
(71)【出願人】
【識別番号】598021878
【氏名又は名称】デパートメント、オブ、バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】DEPARTMENT OF BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】シン、ディリップ
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ、アジャイ クマール
(72)【発明者】
【氏名】マートゥル、アンシュ シャンカル
(72)【発明者】
【氏名】グプタ、ラヴィ プラカシュ
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD64
4B064AD85
4B064CA08
4B064CE02
4B064CE08
4B064CE20
4B064DA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】湿潤バイオマススラリーからのアルキルエステル合成およびそれらの直接抽出のための、迅速でエネルギー消費型でないダウンストリーム処理方法を提供する。
【解決手段】油性微生物からの脂肪酸アルキルエステルの合成および抽出のための迅速ダウンストリーム処理方法は、(i)湿潤バイオマススラリーを浸透処理および酸性処理すること、(ii)80%-90%の範囲の含水率を有する、ステップ(i)の処理済みバイオマススラリーを抽出混合物と混合すること、(iii)非極性溶媒をステップ(ii)の混合物に加えて抽出物を得ること、(iv)前記抽出物を蒸発させること、および極性溶媒で処理すること、(v)前記抽出物に吸湿剤を添加して、前記非極性溶媒とともにオメガ-3脂肪酸に富む脂肪酸アルキルエステル(FAAE)を得ること、を含み、ステップ(v)における吸湿剤の添加は、FAEEエステル交換率を最大で95%まで増加させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性微生物からの脂肪酸アルキルエステルの合成および抽出のための迅速ダウンストリーム処理方法であって、
(i)湿潤バイオマススラリーを浸透処理および酸性処理すること、
(ii)80%-90%の範囲の含水率を有する、ステップ(i)の処理済みバイオマススラリーを抽出混合物と混合すること、
(iii)非極性溶媒をステップ(ii)の混合物に加えて抽出物を得ること、
(iv)前記抽出物を蒸発させること、および極性溶媒で処理すること、
(v)前記抽出物に吸湿剤を添加して、前記非極性溶媒とともにオメガ-3脂肪酸に富む脂肪酸アルキルエステル(FAAE)を得ること、
を含み、
ステップ(v)における吸湿剤の添加は、FAEEエステル交換率を最大で95%まで増加させる、
方法。
【請求項2】
得られた前記脂肪酸アルキルエステルは、メチルエステル、エチルエステルおよびプロピルエステルから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(ii)において、前記処理済みバイオマススラリーは、抽出混合物と混合され、90℃の温度で1時間、100rpmで攪拌される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記油性微生物は、微細藻類である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記湿潤バイオマススラリーは、反応器から直接採取される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(i)における前記浸透処理は、前記湿潤バイオマススラリーを一回蒸留水、二回蒸留水、三回蒸留水、または超低TDSの水で処理することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(i)における前記酸性処理は、前記湿潤バイオマススラリーを有機または無機酸溶液で処理することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
抽出に使用される前記非極性溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルムおよびアセトンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記極性溶媒は、酸性エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミド(DMF)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記極性溶媒は、酸性エタノールである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
バイオマス対酸性エタノールの比は、1:5-1:60の範囲である、請求項1-10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記吸湿剤は、活性アルミナ、硫酸ナトリウム、シリカゲルまたは塩化カルシウムから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記抽出混合物は、エタノールおよび塩酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
得られた前記FAAEは、パルミチン酸、オレイン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)またはエイコサペンタエン酸(EPA)から選択されるオメガ-3脂肪酸に富む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記FAEEは、4時間以内に得られる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性微生物からの脂肪酸のアルキルエステルのその場合成およびそれらの効率的な抽出のための方法に関する。特に、本発明は、脂肪酸のアルキルエステルのその場合成およびそれらの効率的な抽出のための油性バイオマスのダウンストリーム処理のための迅速な方法を提供する。本発明の方法は、湿潤バイオマスからのエステル交換率の増加(>95%)をもたらす一方、バイオマスの採取、乾燥、および大量の化学溶媒の必要性を排除する。
【背景技術】
【0002】
従来の化石燃料の長期的な供給は、化石燃料埋蔵量の急速な枯渇のために持続不可能であるため、様々な油性供給原料に由来する油は、原油由来のディーゼル燃料に対する需要の高まりを満たし、または緩和する可能性を有する。再生可能なエネルギー源であるバイオディーゼルは、CO2排出削減、持続可能性、ならびに地域社会への経済的および社会的利益の観点で、原油由来のディーゼルよりも多くの利点を有する。これらの供給原料からの油は、エステル交換反応によってバイオディーゼルに変換され、その後、直接またはディーゼル燃料と混合して使用されうる。バイオディーゼルは、原料源に基づいて、3世代、すなわち第1世代、第2世代、および第3世代に分類される。第一世代のバイオディーゼルは、食用油類(例えば大豆油、キャノーラ油、パーム油など)から製造されるが、商用需要を満たすバイオディーゼル生産のために大量の油を転用する必要があるため、食料供給との競合により長期的な商業的実行可能性には疑問がある。非食用作物(例えばカランジア油、ジャトロファなど)から生産される第2世代のバイオディーゼルは、潜在的な代替物として歓迎されたが、これらの作物は、商業規模のバイオディーゼル生産には適さなくなる程度に、低い油生産性、栽培のための水、肥料、および大規模な土地へのより高い投資の必要性に悩まされている。
【0003】
微細藻類、酵母などの油性微生物は、それらの高い増殖速度および油生産性により、第一および第二世代の供給原料に勝るいくつかの利点を有する。これらの微生物は、2-4日以内の発酵で乾燥バイオマスの20%から80%の油を蓄積することができ、したがって、油生産性は、パーム、大豆、ココナツなどの優れた油料穀物よりほぼ千倍上回った。これらの微生物は非常に高い油生産速度を有するため、商業的バイオディーゼル生産に必要な土地は、油料穀物よりもはるかに少ない(非特許文献1)。これらすべての特性は、油性微生物バイオマスをバイオディーゼル生産に適した原料にしている。
【0004】
微生物原料は、バイオエネルギー作物に対していくつかの利点を提供するが、第三世代バイオディーゼルの商業的成功は、原油由来ディーゼルに対するコスト競争力にかかっている。油性微生物は、培養のために低コストの栄養素を利用しながら、非常に高い増殖速度と油生産性を有する必要がある。これに伴い、油性バイオマスのダウンストリーム処理は、バイオディーゼルを生産するためのコストおよびエネルギー効率的である必要がある。いくつかの報告は、油性微生物がバイオディーゼル用の脂質とともに高価値の副産物を生産している場合には、バイオディーゼルの全体的な生産コストを大幅に削減できることを示している。これらの副産物は、ビタミン、抗酸化剤、色素、カロテノイド、オメガ-3脂肪酸などであり得る。
【0005】
さらに、オメガ-3脂肪酸と共にバイオディーゼルを同時に製造することは、コストを下げるのに役立ち、原油ディーゼルと競争するのに役立つであろう。したがって、効率的なダウンストリーム処理方法と併せて、脂質およびオメガ-3脂肪酸を産生する適切な微生物株の選択は、第3世代バイオディーゼル生産の商業化のための重要な要素の1つである。微生物バイオマスからのバイオディーゼル生産およびオメガ-3脂肪酸抽出のためのダウンストリーム方法は、オメガ-3脂肪酸が非常に不安定であり、複数の二重結合が存在するために酸化またはエポキシ化を非常に起こしやすいため、慎重に開発および最適化する必要がある。さらに、微細藻類または酵母または細菌バイオマスのダウンストリーム処理の従来の方法は、遠心分離、(自動または誘導)凝集、浮遊、濾過、および沈降などによる、発酵培養液の脱水を伴う。このバイオマスペーストはまだ80%を越える水分を含んでいるので、これをドラム乾燥器、スプレー乾燥器、真空オーブン乾燥器、熱風乾燥器、凍結乾燥器等で乾燥して、残りの水分を除去する。溶媒が脂質に効率的に接近して可溶性にするのを妨げる程に、細胞内の水分子が細胞および脂質体膜の周りに親水性層を形成するので、油抽出の前にバイオマスの乾燥が必要である。この結果、脂質抽出が不完全になることで、総脂質抽出収率に影響を与える。採取および乾燥は、微生物バイオマスからバイオディーゼルを得る際の全エネルギー消費の50%-70%超を占める、微生物脂質生産システムにおける主要なエネルギー消費型ステップの1つである。これは、第3世代バイオディーゼルの総コストおよびエネルギー経済を妨害する。したがって、微細藻類バイオマスおよび脂質の生産性比率の増加における顕著な進歩にもかかわらず、微細藻類からのバイオディーゼルは、部分的には採取および乾燥に関するより高い脱水コストのために、依然として経済的に実行不可能である。非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4は、それらの論文中で、遠心分離、凝集、浮遊、濾過、沈降などの様々な採取技術を適用するが、微細藻類の総生産コストの20%から30%の採取コストを報告した。非特許文献5は、様々な採取技術を再調査し、そのプロセス中の総エネルギー投入量が増加する一方、バイオマスの採取と乾燥に全バイオマス生産コストの最大90%のコストがかかる可能性があると結論付けた。非特許文献6は、バイオマスペーストの乾燥が総エネルギー投入量の60%超を消費し、藻類バイオディーゼルを生産するための否定的なエネルギー収支をもたらすことを明らかにした。
【0006】
費用およびエネルギー効率のよい採取および乾燥方法を開発するための努力がなされてきた。ヒドロゲルなどの革新的な材料が、スラリーから水を吸収することによる微細藻類の採取において、試みられてきた。
【0007】
特許文献1には、刺激感受性ヒドロゲルがバイオマス採取のために使用されたヒドロゲルのそのような使用について記載されている。pHおよび温度などの様々な刺激が、ゲルの活性化のために使用された。しかしながら、この方法はバイオマススラリーからの水の除去において有意な改善を示したが、長い採取時間と共にヒドロゲル形成に関連するより高いコストが、その方法をこの分野に展開することを、商業的に不適切にする。
【0008】
特許文献2には、微細藻類の採取における磁性材料の革新的な使用が記載されている。微細藻類を吸着できる磁性体を培地に添加し、そして次に磁場を印加して微細藻類バイオマスを分離する。このプロセスは、細胞を採取するのに非常に迅速で、拡張性があり、そして無毒であったが、そのような磁性ナノ粒子合成のコストは依然として高い。
【0009】
特許文献3には、微細藻類バイオマス採取のための凝集および解膠の連続プロセスについて言及されている。プロセスは、藻類培養液への凝集塩の連続的添加、続く採取、そして次に微細藻類の培養用のクリーンな液体の再利用を含む。連続プロセスがバッチまたは半連続プロセスよりも本質的に速いので、このプロセスは、栄養素の再利用の観点からだけでなくプロセスの生産性の観点からも、著しいコスト上の利点を提供する。
【0010】
特許文献4には、微細藻類バイオマスの採取に電磁場が使用される方法およびシステムについて記載されている。このバイオマスは、次に乾燥され、そこから有用な脂質を抽出するために使用され、一方、脱油されたバイオマスは、バイオガス生産とともに栄養素およびCO2回収に使用された。さらに、この文献では、微細藻類の培養において養分をリサイクルするためにクリーンな水が使用された。
【0011】
特許文献5、特許文献6、特許文献7では、遠心分離、凝集、浮遊、濾過、および沈降などの様々な採取方法の組み合わせが使用された。これらの組み合わせはすべて、採取効率を上げるために試みられた。プロセスのエネルギー投入量を低減するために、採取と乾燥を同時に行う方法が開発されてきた。
【0012】
特許文献8は、大規模な微細藻類の分離、収集および乾燥のための実用モデルの図面を開示している。バイオマスは、採取タンクから連続的にホップされ、そして乾燥のために熱風にさらされる。
【0013】
さらに、従来のアプローチでは、採取されたバイオマスは、FAMEまたはFAEE合成のための脂質抽出およびエステル交換に進む前に、ドラム乾燥機、噴霧乾燥機、真空オーブン乾燥機、熱風乾燥機、凍結乾燥機などによる乾燥に供される。先に報告されたように、この全プロセスは、総投入エネルギーの60%超を消費し、総バイオマス生産コストの最大90%がかかる可能性がある。従来の抽出エステル交換プロセスを乾燥または湿潤バイオマスの直接エステル交換に置き換えることによって、プロセスのコストおよびエネルギー消費量を削減することが試みられてきた。
【0014】
特許文献9は、酸触媒反応を用いたFAEE生産のための藻類バイオマスの直接エステル交換について開示している。この文献では、既存のプロセスと比較して非常に少量の化学溶媒を使用するプロセスが開発されたが、この方法が発明者によって湿潤バイオマスに適用されたとき、FAEE収率は共溶媒を使用しても大幅に減少した。
【0015】
非特許文献7は、スラウストキトリドの湿潤バイオマスが、共溶媒シスステムにおいて酸触媒を使用する直接エステル交換に供されたとき、低バイオディーゼル収率の同様の傾向を報告した。これは、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10によって以前に報告されたように、直接エステル交換のためにバイオマスから完全に水を除去することの重要性を強調している。エステル交換反応に対する水の悪影響を克服するために、多量の溶媒が反応混合物に添加される。非特許文献11は、アルカリで触媒された直接エステル交換反応に、1:600のバイオマス対溶媒比を使用した。
【0016】
特許文献10には、共溶媒シスステムを加圧CO2と共に使用して、湿潤バイオマスから脂質を抽出するプロセスが記載されている。発明者らはプロセスの拡張性について述べたが、脂質抽出収率は、スラリーの含水量が40%を超えた場合に著しく低下する。
【0017】
非特許文献12は、湿潤微細藻類バイオマスをその場エステル交換によりバイオディーゼルに変換するために必要な最適条件を研究している。この文献は、100mg乾燥重量相当の湿潤微細藻類バイオマス、4mLのメタノール、8mLのn-ヘキサン、0.5M H2SO4、120℃、および180分間の反応時間という最適条件下で、バイオディーゼル収率が92.5%に達し、FAME含有量が93.2%であったことを報告している。しかしながら、この文献は、水分含有量が0%から90%に増加するにつれて、バイオディーゼル収率が91.4%から10.3%に減少したことを示し、より高い温度が悪影響を補うことができることを強調した。
【0018】
非特許文献13には、藻類(N.salina)バイオマスのための、単ステップのマイクロ波媒介超臨界エタノール抽出およびエステル交換プロセスについて記載されている。さらに、プロセスは、高温でのマイクロ波媒介加熱プロセスを増補する炭化ケイ素(SiC)製の受動加熱要素の使用に基づいており、藻類抽出効率を改善することが見出され、抽出-エステル交換時間を短縮し、およびバイオディーゼル収率を増加させる。
【0019】
特許文献9には、生体物質を含む脂質中の脂質類を脂肪酸エチルエステル(FAEE)に変換する方法が記載されており、前記方法は、脂質およびバイオマスを含む生物材料を第1非極性溶媒と、バイオマス:第1非極性溶媒比1:1から1:10で混合して第1反応混合物を形成すること、前記第1反応混合物をエタノールおよび液体酸触媒と、バイオマス:触媒比1:0.1から1:2、およびバイオマス:エタノール比1:1から1:10で混合して第2反応混合物を生成すること、前記第2反応混合物を50-75℃の温度で4-8時間加熱してFAEE生成物に変換された脂質の少なくとも一部を含むエステル混合物を生成すること、を含む。
【0020】
非特許文献14は、酵素、均一系および不均一系触媒、超音波、マイクロ波、および超臨界プロセスを使用することによる直接エステル交換に使用される様々なアプローチを提供する。
【0021】
非特許文献15は、酸で触媒されたその場エステル交換プロセスを使用した、非食用微細藻類脂質からのバイオディーゼルの生産に対する様々な反応変数の影響を強調する概要を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0088811号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第2013102449307号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/0102055号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2012/0129244号明細書
【特許文献5】国際公開第2015/121618号
【特許文献6】中国特許出願公開第102696340号明細書
【特許文献7】国際公開第2013/055887号
【特許文献8】中国実用新案第203582856号明細書
【特許文献9】米国特許第9,416,336号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2015/0252285号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Chisti et al., 2007 Biotechnology Advances
【非特許文献2】Mata et al., 2010
【非特許文献3】Verma et al., 2010
【非特許文献4】Grima et al., 2003
【非特許文献5】Singh and Patidar et al., 2018
【非特許文献6】Sander and Murthy et al., 2010
【非特許文献7】Johnson et al., 2009
【非特許文献8】Laurens et al., 2020
【非特許文献9】Bart et al., 2010
【非特許文献10】Yoo et al., 2015
【非特許文献11】Harvey et. al. 2011
【非特許文献12】Hechun Cao et al., 2013
【非特許文献13】P.D. Patil et al., 2013
【非特許文献14】Ji-Yeon Park et al., 2014
【非特許文献15】E.A. Ehimen et al., 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
いくつかの報告および研究が利用可能であるが、湿潤バイオマススラリーからのアルキルエステル合成およびそれらの直接抽出のための、バイオマスの採取、乾燥、多数の化学溶媒または水分の完全な除去を必要としない、迅速でエネルギー消費型でないダウンストリーム処理方法を開発する必要性が当技術分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一態様では、油性微生物からの脂肪酸アルキルエステルの合成および抽出のための迅速ダウンストリーム処理方法が提供され、この方法は、
(i)湿潤バイオマススラリーを浸透処理および酸性処理すること、
(ii)80%-90%の範囲の含水率を有する、ステップ(i)の処理済みバイオマススラリーを抽出混合物と混合すること、
(iii)非極性溶媒をステップ(ii)の混合物に加えて抽出物を得ること、
(iv)前記抽出物を蒸発させること、および極性溶媒で処理すること、
(v)前記抽出物に吸湿剤を添加して、前記非極性溶媒とともにオメガ-3脂肪酸に富む脂肪酸アルキルエステル(FAAE)を得ること、
を含み、
ステップ(v)における吸湿剤の添加は、FAEEエステル交換率を最大で95%まで増加させる。
【0026】
本発明の一実施形態では、得られた前記脂肪酸アルキルエステルは、メチルエステル、エチルエステルおよびプロピルエステルから選択される、方法が提供される。
【0027】
本発明の別の実施形態では、ステップ(ii)において、前記処理済みバイオマススラリーは、抽出混合物と混合され、90℃の温度で1時間、100rpmで攪拌される、方法が提供される。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態では、前記油性微生物は、微細藻類である、方法が提供される。
【0029】
本発明のさらに別の実施形態では、前記湿潤バイオマススラリーは、反応器から直接採取される、方法が提供される。
【0030】
本発明の一実施形態では、ステップ(i)における前記浸透処理は、前記湿潤バイオマススラリーを一回蒸留水、二回蒸留水、三回蒸留水、または超低TDSの水で処理することを含む、方法が提供される。
【0031】
本発明の別の実施形態では、ステップ(i)における前記酸性処理は、前記湿潤バイオマススラリーを有機または無機酸溶液で処理することを含む、方法が提供される。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態では、抽出に使用される前記非極性溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルムおよびアセトンから選択される、方法が提供される。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態では、前記極性溶媒は、酸性エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミド(DMF)から選択される、方法が提供される。
【0034】
本発明の一実施形態では、前記極性溶媒は、酸性エタノールである、方法が提供される。
【0035】
本発明の別の実施形態では、バイオマス対酸性エタノールの比は、1:5-1:60の範囲である、方法が提供される。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態では、前記吸湿剤は、活性アルミナ、硫酸ナトリウム、シリカゲルまたは塩化カルシウムから選択される、方法が提供される。
【0037】
本発明のさらに別の実施形態では、前記抽出混合物は、エタノールおよび塩酸を含む、方法が提供される。
【0038】
本発明の一実施形態では、得られた前記FAAEは、パルミチン酸、オレイン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)またはエイコサペンタエン酸(EPA)から選択されるオメガ-3脂肪酸に富む、方法が提供される。
【0039】
本発明の別の実施形態では、前記FAEEは、4時間以内に得られる、方法が提供される。
【0040】
本主題の、これらおよび他の特徴、側面、および利点は、以下の説明を参照してよりよく理解されるであろう。この要約は、概念の選択を簡略化された形で紹介するために提供される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図面全体で同様の文字は同様の部分を表している、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むと、本発明のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、よりよく理解されるであろう。
【0042】
【
図1】Folch法および直接エステル交換によって処理された脂肪酸組成の比較。
【
図2】乾燥バイオマスからの抽出収率へのバイオマス対溶媒比の影響。
【発明を実施するための形態】
【0043】
便宜上、本開示のさらなる説明の前に、本明細書で使用される特定の用語、および例をここに集める。これらの定義は、開示の残りの部分に照らして読まれるべきであり、当業者のように理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、当業者に認識され知られている意味を有するが、便宜上および完全を期すために、特定の用語およびそれらの意味を以下に記載する。
【0044】
定義:
本発明の目的のために、以下の用語は、これらで規定されたとする意味を有するであろう。
【0045】
冠詞「a」、「an」および「the」は、冠詞の文法的目的語の1つまたは1より多く(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。
【0046】
用語「含む(comprise)」および「含んでいる(comprising)」は、包括的で、オープンな意味で使用され、追加の要素を含めることができることを意味する。「のみからなる」と解釈されることは意図されていない。
【0047】
本明細書全体を通して、文脈が別段の要求をしない限り、単語「含む(comprise)」、および「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」などの変形は、述べられた要素もしくはステップ、または要素もしくはステップのグループを含むことを意味すると理解されるが、他の要素もしくはステップ、または要素もしくはステップのグループを除外するものではない。
【0048】
用語「含む(including)」は、「含むがこれに限定されない(including but not limited to)」を意味するために使用され、「含んでいる(including)」および「含んでいるがこれに限定されない(including but not limited to)」は交換可能に使用される。
【0049】
本発明は、湿潤バイオマススラリーからの脂肪酸のアルキルエステルのその場合成およびそれらの効率的な抽出のためのダウンストリーム処理のための迅速な方法に関する。特に、本発明は、油性バイオマスからのFAAE合成および抽出の前に、バイオマスを採取および乾燥することにより、バイオマススラリーの脱水の必要性を排除する方法に関する。本発明で開示される方法は、反応における水の存在の悪影響を克服するためにエタノールまたはメタノールなどの大量の溶媒を添加することなく、湿潤バイオマスからのFAAE生成のエステル交換率(>95%)を増加させる。この方法は、2段階のその場エステル交換反応を経由して、処理済み油性バイオマススラリーから95%を超えるFAAEエステル交換率をもたらす。湿潤油性バイオマススラリーから得られたFAAEは、バイオディーゼルとして、またはディーゼル燃料と混合して直接使用することができる。脂肪酸のこれらのアルキルエステルはまた、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、エイコサペンタエン酸(EPA)のようなオメガ-3脂肪酸の量がより多いため、栄養補助食品産業と同様に製薬産業においてより広い用途を有する。したがって、本発明は、脂肪酸アルキルエステル合成およびそれらの抽出のための湿潤油性バイオマススラリーのダウンストリーム処理の手段を提供する一方で、バイオマスの採取、乾燥、および大量の化学溶媒の必要性を排除する。
【0050】
したがって、本発明によれば、油性微生物からの脂肪酸アルキルエステルの合成および抽出のための迅速ダウンストリーム処理方法が提供され、この方法は、
(i)湿潤バイオマススラリーを浸透処理および酸性処理すること、
(ii)80%-90%の範囲の含水率を有する、ステップ(i)の処理済みバイオマススラリーを抽出混合物と混合すること、
(iii)非極性溶媒をステップ(ii)の混合物に加えて抽出物を得ること、
(iv)前記抽出物を蒸発させること、および極性溶媒で処理すること、
(v)前記抽出物に吸湿剤を添加して、前記非極性溶媒とともにオメガ-3脂肪酸に富む脂肪酸アルキルエステル(FAAE)を得ること、
を含み、
ステップ(v)における吸湿剤の添加は、FAEEエステル交換率を最大で95%まで増加させる。
【0051】
本発明の一実施形態では、前記脂肪酸アルキルエステルは、メチルエステル、エチルエステルおよびプロピルエステルから選択される、方法が提供される。本発明の方法は、反応におけるアルキル基供与溶媒の添加に応じて、脂肪酸メチルエステル、脂肪酸エチルエステルおよび脂肪酸プロピルエステルなどを得るために使用することができる。
【0052】
本発明の別の実施形態では、前記油性微生物は、スラウストキトリド目に属する従属栄養微細藻類である、方法が提供される。本発明では、前記スラウストキトリドを、50mL、100mL、250mLフラスコを含むがこれらに限定されない培養フラスコ中、または2L発酵槽、10L発酵槽、60L発酵槽、100L発酵槽または500L発酵槽を含むがこれらに限定されない発酵槽中、様々な容量で培養した。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、前記油性微生物は、微細藻類である。特に、微細藻類はシゾキトリウム属DBT-IOC1(MTCC5890)である。本発明で使用される前記シゾキトリウムMTCC5980は、アラビア海近くのインドのゴア(S15°29’57.39”、E73°52’6.13”)のズアリマンドビ マングローブから単離された。
【0054】
本発明のさらに別の実施形態では、前記湿潤バイオマススラリーは、発酵槽から直接採取される、方法が提供される。
【0055】
本発明のさらに別の実施形態では、ステップ(i)における浸透処理は、前記湿潤バイオマススラリーを、1回蒸留水または2回蒸留水または3回蒸留水または超低TDSの水で処理することを含む、方法が提供される。
【0056】
本発明の一実施形態では、ステップ(i)における酸性処理は、前記湿潤バイオマススラリーを有機酸または無機酸溶液で処理することを含む、方法が提供される。
【0057】
本方法では、前記湿潤バイオマススラリーには、浸透処理および酸性処理の両方が行なわれる。スラリーの浸透および酸性処理は、相乗効果をもたらす。さらに、浸透および酸性の洗浄または処理は、バイオマススラリーの灰含有量の減少をもたらす。
【0058】
本発明の別の実施形態では、抽出に使用される前記非極性溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、およびアセトンから選択される、方法が提供される。好ましい実施形態では、抽出に使用される前記非極性溶媒は、ヘキサンである。
【0059】
本発明のさらに別の実施形態では、前記極性溶媒は、酸性エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミド(DMF)から選択される、方法が提供される。好ましい実施形態では、前記極性溶媒は、酸性エタノールである。
【0060】
本発明のさらに別の実施形態では、バイオマス対酸性エタノールの比は、1:5-1:60の範囲である、方法が提供される。本発明の好ましい実施形態では、バイオマス対酸性エタノールの比は、1:10である。
【0061】
本発明の一実施形態では、前記吸湿剤は、活性アルミナ、硫酸ナトリウム、シリカゲルまたは塩化カルシウムから選択される、方法が提供される。好ましい実施形態では、前記吸湿剤は、活性アルミナまたは硫酸ナトリウムである。
【0062】
本発明の別の実施形態では、前記抽出混合物は、エタノールおよび塩酸を含む、方法が提供される。
【0063】
本発明のさらに別の実施形態では、得られた前記FAAEは、パルミチン酸、オレイン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)またはエイコサペンタエン酸(EPA)から選択されるオメガ-3脂肪酸に富む、方法が提供される。さらに、オメガ-3脂肪酸の含有量は、全脂肪酸の15%-50%以上の範囲である。本方法はまた、オメガ-3脂肪酸の酸化またはエポキシ化の可能性を減少させる。
【0064】
本発明のさらに別の実施形態では、前記FAEEは、培養液採取時から4時間以内に得られる、方法が提供される。
【0065】
本発明の一実施形態では、FAAEを2%KHCO3で洗浄すること、および水分の除去のために無水Na2SO4を通過させること、をさらに含む、方法が提供される。
【0066】
本発明は、湿潤バイオマスを採取および乾燥することなく、湿潤油性バイオマススラリーから直接FAAEを得るための、迅速でエネルギー消費型でないダウンストリーム処理方法を開示し、この方法は、オメガ-3脂肪酸が複数の二重結合のために酸化/エポキシ化を非常に起こしやすいため、ダウンストリーム処理時間短縮とオメガ-3脂肪酸の酸化またはエポキシ化の可能性の低減に役立つ。さらに、本方法は、湿潤油性バイオマスから95%を超えるFAAE(バイオディーゼル)をもたらす。本方法は、採取および乾燥を含むバイオマスの脱水のコストおよびエネルギー消費型ステップの必要性を排除する。発酵槽からのスラリーまたは発酵培養液を、この方法で直接処理することができる。さらに、この方法は、湿潤油性バイオマスのダウンストリーム処理の連続方法として展開することもできるため、発酵槽を出た後の発酵培養液を連続的に処理してFAAEを得る連続発酵システムと統合することができる。したがって、本発明で開示される方法は、バイオマス採取方法を一切含まない湿潤油性バイオマススラリーからの脂肪酸のアルキルエステルのその場合成およびそれらの直接抽出のためのダウンストリーム処理方法を提供する。また、この方法は、湿潤油性バイオマススラリーからの脂肪酸アルキルエステル(FAAE)抽出収率を損なうことなく、脂質/油抽出およびエステル交換前のバイオマス乾燥の必要性を排除する。
【0067】
実施例
ここで、実施例を用いて開示を説明するが、実施例は開示の実施を説明することを意図しており、本開示の範囲に対するいかなる限定を暗示するように限定的に解釈することを意図していない。別段の定義がない限り、ここで使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。ここに記載のものと同様または同等の方法および材料を、開示された方法の実施に使用することができるが、例示的な方法、装置、および材料を本明細書に記載する。本開示は、記載された方法および実験条件に限定されず、そのような方法および条件は変化し得ることが理解されるべきである。
【0068】
実施例1:油性(スラウストキトリド)バイオマスの培養
60Lのワーキング容量を有する100L発酵槽中に、連続スラウストキトリド発酵システムを設置した。60Lのアセテートに富む最小増殖培地を有する発酵槽に、48時間培養後のシゾキトリウム種DBTIOC-1(MTCC 5890)の3L培養物を接種した。微細藻類株シゾキトリウムMTCC5980は、アラビア海近くのインドのゴア(S15°29’57.39”、E73°52’6.13”)のズアリ-マンドビ マングローブから単離された。
【0069】
撹拌しながら発酵槽に空気と酸素を連続的に通気し、要求される溶解酸素レベルを維持した。発酵槽に培地を連続的に供給し、レベル制御により培養液を連続的に取り出した。培養液を200Lタンクに集めた。次に、この培養液を4000rpmで15分間遠心分離して、消耗した培地成分および水を除去した。ペレットを乾燥前に蒸留水で2回洗浄した。このバイオマススラリーはまだ75%超の水分を含んでいたので、バイオマススラリーを熱風オーブン中の大きなトレイの中で、80℃で4-5日間乾燥させた。次に、脂質抽出および脂肪酸エチルエステル合成のために、乾燥バイオマスフレークをミキサーグラインダーで粉末化した。後で湿潤藻類バイオマススラリーからの脂肪酸エチルエステルへの脂質のその場エステル交換を調査するために、発酵培養液の一部を-20℃で保存した。
【0070】
実施例2:Folch法と、直接エステル交換またはその場エチルエステル合成法との比較
バイオマスの総脂質含有量を、クロロホルムおよびエタノール(2:1)の溶媒混合物を1:60(乾燥バイオマス:溶媒混合物)の比率で使用する修正Folch法によって推定した。バイオマスの乾燥粉末(20g)を、1.2Lの溶媒混合物が入った3Lの丸底フラスコに加え、70℃で1時間、100rpmで攪拌した。固液分離のため、全混合物を4500rpmで15分間遠心分離した。上清を分液漏斗に移し、続いて相分離のためにヘキサン添加を行なった。脂質を含む上層を注意深く集め、続いてロータリーエバポレーターで溶媒蒸発を行なった。バイオマスから脂質を完全に抽出するために、全ステップを3回繰り返した。脂質を重量測定法で測定し、続いてFAEE合成およびGuptaら(2016)によって提供された手順に従って分析を行なった。全FAEE含有量を、GC-FIDデータを使用するだけでなく、重量測定法でも計算し、これらの値を、様々なサンプルのFAEE抽出収率を計算するための参照として採用した(
図1)。
【0071】
直接エステル交換法では、20gの乾燥バイオマス粉末を、1.18Lのエタノールおよび20mlのHClからなる1.2Lの抽出混合物と混合し(バイオマス対溶媒比1:60)、そして90℃で1時間、100rpmで撹拌した。混合物全体を分液漏斗に移し、続いて相分離のためにヘキサン添加を行なった。FAEEを含有する上層を注意深く集め、続いてロータリーエバポレーターでヘキサン蒸発を行なった。FAEEを、GC-FIDだけでなく重量測定法で計算して、FAEE抽出収率およびFAEEエステル交換率を定量化した。FAEE含有量(5.25g)は、Folch法のもの(5.4g)と同等であることがわかり、FAEEエステル交換率が97%を超える直接エステル交換におけるバイオマスからのFAEEの完全な抽出を示唆している(表1)。これは、バイオマス中に存在する脂質のほとんど全部が、脂肪酸組成の有意な変化なしに、脂肪酸のエチルエステルに変換されることを反映している(
図1)。バイオマス対エタノール比をさらに最適化して、反応に必要なエタノールの量を減らした。20gのバイオマスを、1.18Lまたは0.78Lまたは0.38Lまたは0.18Lまたは0.08Lのエタノールに添加し、酸触媒(すなわちHCl)の量(20ml)はすべての反応で同じにした。FAEE抽出収率は、バイオマス対溶媒比が1:10になるまではほぼ等しかったが、ここでは、バイオマス対溶媒比が1:5に減少するとFAEE抽出収率が大幅に低下し、バイオマス対溶媒比1:10を反応に適用すると、ほぼ完全なFAEE抽出であることを示唆している(
図2)。
【0072】
【0073】
実施例3:乾燥および湿潤バイオマスからの本方法(FAEEの直接エステル交換またはその場エチルエステル合成)によるFAEEの製造
含水量80%-90%の100gから110gの湿潤バイオマスペーストまたはスラリーを、FAEEのその場合成のために採取し、それらのFAEE抽出収率を、実施例2に示した直接エステル交換法による乾燥バイオマスと比較した。湿潤バイオマスからのFAEE抽出収率は、乾燥バイオマスよりもほぼ30%少ないことがわかり、不完全な抽出であることを示唆している(表2)。これは、細胞壁が、脂質の溶媒接近性における障壁として作用し、したがってより良好な抽出のために破壊される必要があるという事実を暗示する。不完全抽出の問題を克服するために、湿潤バイオマスペーストまたはスラリーまたは発酵培養液を、0.3N HCl(酸性処理用)または低TDS水(浸透圧ショック用)またはその両方で直接洗浄した。スラリーを酸または水のみで洗浄した場合、FAEE抽出収率はあまり改善されなかったが、両方を組み合わせると、FAEE抽出収率に顕著な改善があった(表3)。続いて、湿潤バイオマススラリーからのFAEE抽出に進む前に、このステップを追加した。FAEE抽出収率は、乾燥バイオマスからのものと等しかったが、FAEEエステル交換率はまだ全脂質の50%から60%と非常に低く、不完全なエステル交換反応を示唆し、それをバイオディーゼル用途に不適切にした(表4)。
【0074】
【0075】
【0076】
実施例4:湿潤スラウストキトリドバイオマススラリーからの脂肪酸のその場エチルエステル合成のためのエステル交換率の増加
湿潤バイオマススラリーまたは培養液からの低エステル交換率が、反応中の水の存在によるものであると報告された。したがって、FAEEエステル交換率に対する水の影響をなくすために、直接エステル交換の方法をさらに修正した。特に、活性アルミナまたは硫酸ナトリウムなどの水分吸着剤を反応に添加し、第2のエステル交換ステップを手順に追加した。多段階エステル交換反応における一連の吸湿剤添加は、FAEEエステル交換率に影響を与えることが報告された。ヘキサン画分を、実施例3に示した直接エステル交換法とそれに続くロータリーエバポレーター下での溶媒蒸発によって集めた。FAEE抽出物を酸性エタノールとの第2のエステル交換反応に供し、続いてFAEEをヘキサンで抽出した。FAEEエステル交換率は52.5%から72.9%に増加したが(反応条件1)、これはバイオディーゼル用途に必要な95%を超える効率にはまだ足りない(表4)。別の実験では、様々な量のアルミナまたは硫酸ナトリウム、すなわち5gまたは10gまたは20gを、実施例3に示したように反応混合物(エタノール180mLに加えてHCl20mL)に添加し、続いてヘキサン抽出を行なった。続いて、ヘキサンを蒸発させ、FAEEを第2のエステル交換反応に供した。水分吸着剤の添加により、FAEEエステル交換率が52.5%から87.8%に増加した(反応条件2)。第1のエステル交換反応の代わりに第2のエステル交換反応で水分吸着剤を添加すると、FAEEエステル交換率は55%から96.5%に顕著に増加した(反応条件3)。
【0077】
【0078】
実施例5:GC-FIDによるFAEEの分析
FAEEを2%KHCO3で洗浄し、水分が存在する場合はそれを除去するために無水Na2SO4に通した。FAEEを、窒素下またはロータリーエバポレーターで濃縮し、高速GCキャピラリーカラム(寸法15m×0.1mm、厚さ0.1μmのOmegawax 100カラム)を備えたGC-FIDシステム(Perkin Elmer Clarus 680、米国)で分析した。インジェクター温度を250℃に維持しながら、FAEEのサンプル(1μl)を注入した。オーブン温度を140℃から最終280℃まで40℃/秒の速度で上昇させ、2分間保持した。検出器を260℃に設定した。水素を50cm/秒の速度でキャリアガスとして使用した。脂肪酸ピークは、トータル クロム クロマトグラフィ ソフトウエア(パーキン エルマ-、米国)を用いて同定および定量化した。
【0079】
(付記)
(付記1)
油性微生物からの脂肪酸アルキルエステルの合成および抽出のための迅速ダウンストリーム処理方法であって、
(i)湿潤バイオマススラリーを浸透処理および酸性処理すること、
(ii)80%-90%の範囲の含水率を有する、ステップ(i)の処理済みバイオマススラリーを抽出混合物と混合すること、
(iii)非極性溶媒をステップ(ii)の混合物に加えて抽出物を得ること、
(iv)前記抽出物を蒸発させること、および極性溶媒で処理すること、
(v)前記抽出物に吸湿剤を添加して、前記非極性溶媒とともにオメガ-3脂肪酸に富む脂肪酸アルキルエステル(FAAE)を得ること、
を含み、
ステップ(v)における吸湿剤の添加は、FAEEエステル交換率を最大で95%まで増加させる、
方法。
【0080】
(付記2)
得られた前記脂肪酸アルキルエステルは、メチルエステル、エチルエステルおよびプロピルエステルから選択される、付記1に記載の方法。
【0081】
(付記3)
ステップ(ii)において、前記処理済みバイオマススラリーは、抽出混合物と混合され、90℃の温度で1時間、100rpmで攪拌される、付記1に記載の方法。
【0082】
(付記4)
前記油性微生物は、微細藻類である、付記1に記載の方法。
【0083】
(付記5)
前記湿潤バイオマススラリーは、反応器から直接採取される、付記1に記載の方法。
【0084】
(付記6)
ステップ(i)における前記浸透処理は、前記湿潤バイオマススラリーを一回蒸留水、二回蒸留水、三回蒸留水、または超低TDSの水で処理することを含む、付記1に記載の方法。
【0085】
(付記7)
ステップ(i)における前記酸性処理は、前記湿潤バイオマススラリーを有機または無機酸溶液で処理することを含む、付記1に記載の方法。
【0086】
(付記8)
抽出に使用される前記非極性溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルムおよびアセトンから選択される、付記1に記載の方法。
【0087】
(付記9)
前記極性溶媒は、酸性エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミド(DMF)から選択される、付記1に記載の方法。
【0088】
(付記10)
前記極性溶媒は、酸性エタノールである、付記9に記載の方法。
【0089】
(付記11)
バイオマス対酸性エタノールの比は、1:5-1:60の範囲である、付記1-10のいずれか1つに記載の方法。
【0090】
(付記12)
前記吸湿剤は、活性アルミナ、硫酸ナトリウム、シリカゲルまたは塩化カルシウムから選択される、付記1に記載の方法。
【0091】
(付記13)
前記抽出混合物は、エタノールおよび塩酸を含む、付記1に記載の方法。
【0092】
(付記14)
得られた前記FAAEは、パルミチン酸、オレイン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)またはエイコサペンタエン酸(EPA)から選択されるオメガ-3脂肪酸に富む、付記1に記載の方法。
【0093】
(付記15)
前記FAEEは、4時間以内に得られる、付記1に記載の方法。