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特開2023-160777圧力センサおよび圧力センサ用起歪体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160777
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】圧力センサおよび圧力センサ用起歪体
(51)【国際特許分類】
   G01L 9/04 20060101AFI20231026BHJP
   G01L 19/06 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G01L9/04
G01L19/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067882
(22)【出願日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2022070076
(32)【優先日】2022-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(71)【出願人】
【識別番号】501415752
【氏名又は名称】日本ファインセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 英二
(72)【発明者】
【氏名】水尾 仙人
(72)【発明者】
【氏名】皆川 直祐
【テーマコード(参考)】
2F055
【Fターム(参考)】
2F055AA31
2F055BB01
2F055CC02
2F055DD09
2F055EE11
2F055FF38
2F055GG11
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来の圧力センサよりも向上した優れた圧力分解能かつ優れた測定精度を有するとともに、反応性の高い流体に対する安定度も備えた圧力センサおよび該圧力センサ用起歪体を提供する。
【解決手段】圧力センサは、外部空間に対して密閉された内部空間を有する基部と、基部の内部空間を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部の外部空間と接する方の面に取り付けられた導電性部材と、を備え、導電性部材が、導電性部材を取り付けた肉薄部の法線と直交する面方向について等方的ゲージ率を有する薄膜により構成されている。また、該圧力センサ用起歪体は外部空間に対して密閉された内部空間を有する基部と、基部の内部空間を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部を有するように構成される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部空間に対して密閉された内部空間を有する基部と、
前記基部の前記内部空間を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部の外部空間と接する方の面に取り付けられた導電性部材と、を備え、
前記導電性部材が、前記導電性部材を取り付けた肉薄部の法線と直交する面方向について等方的ゲージ率を有する薄膜により構成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力センサであって、前記基部がセラミックスまたはジルコニアにより構成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧力センサであって、前記導電性部材がCr薄膜またはCr-N薄膜により構成されていることを特徴とする圧力センサ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の圧力センサであって、前記肉薄部の厚さが0.03~0.1mmの範囲内であることを特徴とする圧力センサ。
【請求項5】
請求項3に記載の圧力センサであって、前記肉薄部の厚さが0.03~0.1mmの範囲内であることを特徴とする圧力センサ。
【請求項6】
外部空間に対して密閉された内部空間を有する基部と、
前記基部の前記内部空間を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部の外部空間と接する方の面に取り付けられた導電性部材と、を備え、
前記導電性部材が、前記導電性部材を取り付けた肉薄部の法線と直交する面方向について等方的ゲージ率を有する薄膜により構成されていることを特徴とする水素ガス用圧力センサ。
【請求項7】
外部空間に対して密閉された内部空間を有する基部と、
前記基部の前記内部空間を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部を有することを特徴とする圧力センサ用起歪体。
【請求項8】
請求項6に記載の圧力センサ用起歪体であって、前記基部がセラミックスまたはジルコニアにより構成されていることを特徴とする圧力センサ用起歪体。
【請求項9】
請求項6または7に記載の圧力センサ用起歪体であって、前記肉薄部の厚さが0.03~0.1mmの範囲内であることを特徴とする圧力センサ用起歪体。
【請求項10】
外部空間に対して密閉された内部空間を有する基部と、
前記基部の前記内部空間を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部を有することを特徴とする水素ガス用圧力センサ用起歪体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の圧力を高精度に測定する圧力センサに関し、反応性の高い流体、特に水素ガス雰囲気中の高感度圧力測定に好適な圧力センサに関する。反応性の高い流体の影響を受けないCrとNを主成分とする導電性部材およびジルコニアを主成分とするダイアフラム型の起歪体を用いた、高感度圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、家庭用燃料電池の普及、燃料電池自動車の出現、およびそれにともなう水素ステーションの建設等、水素エネルギー社会の実現に向けた動きが加速しつつある。これらの水素を貯蔵し輸送するにあたって用いられる水素吸蔵合金に吸蔵する水素の量は印加する水素の圧力を変数として単調増加する。したがって、印加した水素の圧力を正確に計測することで、水素吸蔵合金に吸蔵した水素の量を正確に計測できる。
【0003】
しかし、水素をはじめとする反応性の高い流体は化学的活性が高いため、圧力センサの受感部と反応し、センサの精度および感度を低下させる。このことから、反応性の高い流体に対して化学的に安定である圧力センサの開発が求められている。さらに、水素エネルギー社会の実現に向けて、利便性を高めるために、圧力センサを小型にすることも求められている。
【0004】
特許文献1では、水素気体用の圧力センサが開示され、該センサはSi半導体からなる凹部を有する第1の半導体基板とSi酸化物によって接合して形成した第2の半導体基板を備えている。また、該センサは第1の半導体基板と第2の半導体基板によって形成された、基準圧力室とダイアフラムによって、圧力を測定する。
【0005】
特許文献2では、圧力センサを取り付けた水素気体用の流体部品が開示されている。該流体部品によれば、透過してくる水素気体を系外に排出する通気孔を有するため、水素気体がダイアフラムを透過してセンサ素子に気泡を発生させることにより生じる圧力誤差を抑制する。係る構造によりセンサ素子の水素脆化ひいては変形が防止される。
【0006】
これに対して、特許文献3では、水素ガス環境下で水素の影響を受けることなく安定して計測できるCrとNを主成分とする薄膜を含む歪ゲージおよびセラミックス基板を用いた歪センサが提案されている。また、特許文献4では、CrとNを主成分とする薄膜からなる起歪体を用いない圧力センサが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6425794号公報
【特許文献2】特開2010-266425号公報
【特許文献3】特開2018-151204号公報
【特許文献4】特許第6850642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示される圧力センサは、ピエゾ抵抗およびSi酸化膜を水素脆化から抑制する観点から、Siなどの水素気体に対しての保護膜を必要とし、構造や製造方法が複雑となり、センサの自由度ひいては流体部品の自由度が低下する。
【0009】
また、特許文献2に開示される圧力センサは、水素気体の排気用の通気孔から水素気体が外部に漏洩するので、一定の危険性を有する。また、通気孔の存在は、水素の浸透を完全には抑制できず、歪ゲージおよびダイアフラムが水素脆化する可能性がある。
【0010】
特許文献3に開示されている歪センサは、水素脆化の影響を低減できる。該ひずみセンサに用いられる、CrとNを主成分とする薄膜からなる特許文献4のような起歪体を用いないタイプの圧力センサは、1MPa以上の圧力に対して圧力を安定的に測定できる一方、1MPa以下の低い圧力に対しては感度が低いため、細かい圧力の変動を計測できないという問題点がある。
【0011】
図17によると、水素ガスが0.1~1.0MPaの間で印加するときに、水素吸蔵量が大幅に変化するので、圧力センサを水素貯蔵合金の水素吸蔵量計測のために用いる場合、該区間の圧力を高精度かつ高感度で検出する必要がある。しかし、水素ガスのように活性がある物質に対して、従来のひずみセンサ用の合金や半導体を受感部に用いると、水素脆化により、センサの性能が著しく低下する。また、一般的な圧力センサと同様に、水素ガス容器壁等、水素と外部とを隔てる箇所に金属製ダイアフラム式圧力センサが設置される場合、ダイアフラムを成す薄い隔膜を通して水素が透過したり、隔膜が水素劣化して耐久性が低下したり、破裂したりする危険性があるという問題点がある。
【0012】
かかる問題に鑑みて、本発明は、従来の圧力センサよりも向上した優れた圧力分解能かつ優れた測定精度を有するとともに、反応性の高い流体を含めた、様々な流体に対する安定度も備えた小型化可能な圧力センサ及び該圧力センサ用起歪体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)
本発明の圧力センサは、外部空間に対して密閉された内部空間を有する基部と、前記基部の前記内部空間を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部の外部空間と接する方の面に取り付けられた導電性部材と、を備え、前記導電性部材が、前記導電性部材を取り付けた肉薄部の法線と直交する面方向について等方的ゲージ率を有する薄膜により構成されていることを特徴とする圧力センサに関し、特に水素ガス雰囲気中において用いられる圧力センサに関する。
【0014】
かかる構成によれば、基部が有する内部空間の圧力が任意に調整されるので、基部の外部空間と当該内部空間との圧力差の範囲が、起歪体として機能する当該基部の肉薄部に適当なひずみを生じさせる観点から適当に制御される。これにより、肉薄部のうち基部の外部空間に面した外側面に形成された導電性部材の、当該肉薄部のひずみに応じた信号の出力強度の向上が図られ、ひいては基部の外部空間の圧力の測定精度及び分解能の向上が図られる。さらに、導電性部材が等方的ゲージ率を有しているので、当該導電性部材が非等方的に形成されていたとしても、さまざまな形態の起歪体(肉薄部)のひずみに対して出力信号の強度が十分に確保される。よって、基部の肉薄部の外部空間と接する方の面に取り付けられる導電性部材の形成の自由度の向上が図られる。
【0015】
(2)
また、前記基部がセラミックスまたはジルコニアにより構成されていることが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、セラミックスまたはジルコニアからなる基部を用いるので、反応性の高い流体を測定する際、化学的に安定するため、反応性の高い流体の影響を受けることなく、内部空間の圧力が維持され、外部空間の圧力が高精度かつ高感度に測定される。
【0017】
(3)
また、前記導電性部材がCr薄膜またはCr-N薄膜により構成されていることが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、Cr薄膜またはCr-N薄膜からなる導電性部材が用いられるので、高感度であり、外部空間に存在する流体が水素ガスであり、圧力差が1MPaの圧力を外部空間の圧力として印加しても、水素の影響を受けることなく、水素ガス雰囲気中で圧力が測定される。したがって、反応性が高い流体の圧力センサとして好適である。
【0019】
(4)
また、前記肉薄部の厚さが0.03~0.1mmの範囲内であることが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、肉薄部が微小な圧力変化によって変化するので、外部空間の圧力が高感度に測定される。加えて、肉薄部の耐久性が維持されるので、測定範囲の向上が図られる。
【0021】
(5)
また、本発明の圧力センサ用起歪体は、外部空間に対して密閉された内部空間を有する基部と、前記基部の前記内部空間を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部を有することを特徴とする圧力センサ用起歪体に関し、特に水素ガス雰囲気中において用いられる圧力センサ用起歪体に関する。
【0022】
かかる構成によれば、基部が有する内部空間の圧力が任意に調整されるので、基部の外部空間と当該内部空間との圧力差の範囲が、起歪体として機能する当該基部の肉薄部に適当なひずみを生じさせる観点から適当に制御される。これにより、当該肉薄部のひずみに応じた変位の向上が図られ、圧力センサの受感部として用いた場合、基部の外部空間の圧力の測定精度及び分解能の向上が図られる。
【0023】
(6)
また、本発明の圧力センサ用起歪体において、前記基部がセラミックスまたはジルコニアにより構成されていることが好ましい。
【0024】
かかる構成によれば、セラミックスまたはジルコニアからなる基部を用いるので、反応性の高い流体を測定する際、化学的に安定するため、反応性の高い流体の影響を受けることなく、内部空間の圧力が維持され、外部空間の圧力が高精度かつ高感度に測定される。
【0025】
(7)
また、本発明の圧力センサ用起歪体において、前記肉薄部の厚さが0.03~0.1mmの範囲内であることが好ましい。
【0026】
かかる構成によれば、肉薄部が微小な圧力変化によって変化されるので、外部空間の圧力が高感度に測定される。加えて、肉薄部の耐久性が維持されるので、測定範囲の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1の実施形態に係る圧力センサの概略構成を示す上面図である。
図2図1に示した本発明の第1の実施形態に係る圧力センサのII-II線に沿った断面などを示す図である。
図3】圧力印加実験1の際の外部空間の圧力の時系列変動を示す図である。
図4】圧力印加実験1の際の外部空間の温度の時系列変動を示す図である。
図5】圧力印加実験1の際の実施例1で構成された圧力センサの導電性部材(Cr-N薄膜)の抵抗値の時系列変動を示す図である。
図6】圧力印加実験1における外部空間の圧力と実施例1で構成された圧力センサの導電性部材の抵抗値との関係を示す図である。
図7】実施例1の圧力センサの圧力とひずみの関係を大変形を導入した構造解析の計算値と実測値で表した図である。
図8】圧力印加実験1の際の実施例2で構成された圧力センサの導電性部材(Cr-N薄膜)の抵抗値の時系列変動を示す図である。
図9】圧力印加実験1における外部空間の圧力と実施例2で構成された圧力センサの導電性部材の抵抗値との関係を示す図である。
図10】実施例2の圧力センサの圧力とひずみの関係を大変形を導入した構造解析の計算値と実測値で表した図である。
図11】各肉薄部の厚さに応じた、圧力とひずみ量の関係を示す図である。
図12】圧力印加実験2の際の外部空間の圧力の時系列変動を示す図である。
図13】圧力印加実験2の際の外部空間の圧力と実施例2で構成された圧力センサの導電性部材の抵抗値との関係を示す図である。
図14】圧力印加実験3の際の外部空間(圧力容器内)の圧力の時系列変動及び実施例3で構成された圧力センサの導電性部材の抵抗値との関係を示す図である。
図15】PCT装置および実施例3を用いた際の、水素印加圧力と水素貯蔵量の関係を表す図である。
図16図15の実施例2を用いた際の、水素印加圧力と水素貯蔵量の関係に補正を施した図である。
図17】標準的な水素貯蔵合金を用いた際の、水素印加圧力と水素貯蔵量の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態は下記の説明及び図において説明される。図1は本発明の第1の実施形態としての圧力センサの上面図を示す図である。また、図2は本発明の第1の実施形態に係る圧力センサの断面図を示す図である。本発明の圧力センサは内部空間11を有した基部10と、基部10の肉薄部12の外部空間側の面に取り付けられた導電性部材20を備えている。圧力センサの構成要素の位置および姿勢の説明のため、肉薄部12の幾何重心を極点とする3次元円筒座標系(r、θ、Z)を用いる。
【0029】
基部10は外部空間に対して密閉された内部空間11を有するように構成されている。基部10の外郭形状は四角柱として構成されるが、これに限られない。基部10の外郭形状は円柱、三角柱、その他の多角形柱及び測定装置に対して最適な形状となる任意の形状であってもよい。また、圧力測定装置として様々な回路に適用するために、それぞれの回路及び測定装置に倣った最適な形状を有してもよい。内部空間11の形状は円柱として、構成されるが、これに限られない。内部空間11の形状は円柱、円錐台、角錐台、円錐、角錐、四角柱、その他の多角柱及び測定装置に対して最適な形状となる任意の形状であってもよい。また、内部空間11及び基部10の外郭形状が異なっていても同じであってもよい。その他、基部10の厚さ、構造、および設置方法は、変形を誘起させず、内部空間11の圧力を保持できるように選択されてもよい。
【0030】
基部10は内部空間11を画定する壁部のうち一の壁部が相対的に肉薄になる肉薄部12を備えるように構成されている。肉薄部12は基部10と一体に構成されているが、これに限られず、肉薄部12は基部10に対して着脱可能に取り付けられてもよい。この場合、肉薄部12は内部空間11を外部空間に対して密閉させるように取り付けられる。肉薄部12を基部10に取り付ける方法として、接着剤を用いた接着、ネジを用いた螺着、および吸引器を用いた吸着など内部空間11を外部空間に対して密閉させることができる取り付け機構により取り付けられる。
【0031】
内部空間11は内部空間の圧力を一定の圧力に保つように構成されている。内部空間11には予め既知の圧力を有する流体が導入される。内部空間の圧力は、肉薄部12が取り付けられる前に、変圧可能なグローブボックス内にて調整された圧力下で任意の圧力に選択される。また、この時、グローブボックス内の流体も任意に選択されることで、内部空間の流体が任意に選択される。流体の例として、空気や窒素などが用いられるが、気体にかかわらず、オイルなどの液体も用いられる。また、内部空間11は外部空間に対して密閉されることで該圧力を保持するが、これに限られない。内部空間11の圧力を一定に保つために、外部空間に配置される圧力調整機構30を基部10の内部空間11に連通させてもよい。圧力調整機構30として、真空吸引装置または高圧ガス供給装置、高圧流体供給装置などが用いられる。
【0032】
肉薄部12が着脱可能な場合、肉薄部12は、肉薄部12の幾何重心を極点Oとし、Z方向を厚さ方向とし、一対の主面としてr-θ平面に略平行な一対の主面として、外部空間と接する第1の面111および第1の面111の反対側で内部空間11と接する第2の面112を有するように形成されている。肉薄部12の形状は矩形又は円形、楕円形、三角形、その他の多角形及び測定装置に対して最適な形状となる任意の形状から選択され、内部空間11を外部空間から密閉するような構造を有するように形成される。この時、肉薄部12の極点O及び内部空間11のz軸射影の幾何重心がr-θ平面上で一致していてもよいし、一致しなくてもよい。第2の面112には、極点Oを中心に肉薄部12の全周を連続的に基部10に取り付ける取り付け機構が備えられている。第1の面111には、導電性部材20が肉薄部12の一部または全体を覆うように水平姿勢となるように取り付けられる。この時、導電性部材20のz軸射影の幾何重心が、r-θ平面上で極点Oと一致してもよいが、これに限られない。また、導電性部材20の形状は矩形によって構成される薄膜であるが、これに限られない。導電性部材20の形状は円形または楕円形、扇形、三角形、その他の多角形並びにこれら形状の輪郭線に沿った線状または帯状の形状及び測定装置に対して最適な形状となる任意の形状から選択され構成されてもよい。また、導電性部材20は特許第6874045号公報のような配置パターンをとっても良よい。
【0033】
また、内部空間の圧力と外部空間の圧力の差が大きいと肉薄部12に大変形に伴うせん断変形が生じる。該変形を抑制するために、肉薄部12の厚さを極点Oから径方向(r軸方向)に沿って単調減少させてもよい。本発明の肉薄部12の第2の面112を極点Oまわりの凸面として形成し、第1の面111を平面として形成してもよい。また、肉薄部12の第1の面111を極点Oまわりの凸面として形成し、第2の面112を平面として形成してもよい。単調減少の形態は線形的な減少であってもよいし、指数関数的な減少や高次関数的な減少であってもよい。また、極点から径方向に沿って肉薄部の厚さが単調減少する例に限られず、大変形を抑制する観点から、r-θ平面上の一部の領域の厚さが変更されてもよい。
【0034】
基部10は、反応性の高い流体中での使用を考慮すると、化学的に影響を受けないで、化学的に安定し、大圧力を印加しても変形せずに、内部空間11の圧力を一定に保持できるセラミックス、特にジルコニアにより構成されていることが好ましい。セラミックスの場合、導電性部材20に電気的な影響を与えないため、絶縁膜も不要となる。本実施形態では、基部10として、ジルコニアを用いているが、これに限らない。基部10として、絶縁層を形成した金属、ポリイミド等の樹脂、またはジルコニア以外のセラミックスなどその他測定装置に対して最適な部材を用いてもよい。
【0035】
導電性部材20は、ゲージ率(ゲージ率3以上)について、肉薄部12の法線と直交する面方向において、等方的ゲージ率を有しており、例えば、特許文献1に記載されているCrおよび不可避不純物からなるCr薄膜、または、Cr、Nおよび不可避不純物からなるCr-N薄膜により構成されている。Cr-N薄膜は、例えば、一般式Cr1 0 0-xxで表され、組成比xは原子%で0.0001≦x≦30である。
【0036】
また、導電性部材20は、一般式Cr1 0 0-xMnx(xは原子%であり、0.1≦x≦34である)または一般式Cr1 0 0-xAlx(xは原子%であり、4≦x≦25である)で表されるCr基薄膜により構成されていてもよい。導電性部材20は、一般式Cr1 0 0-x-yAlxy(x、yは原子%であり、4≦x≦25、0.1≦y≦20である。)で表されるCr基薄膜により構成されていてもよい。Cr-N薄膜は、抵抗温度係数(TCR)が極めて小さいため(<±50ppm/℃)、温度変化に対して安定であるため、圧力感度及び圧力測定精度は温度に依存しない。
【0037】
導電性部材20を構成する、Cr薄膜およびCr-N薄膜を含むCr基薄膜を成膜する手法は特に限定されないが、Cr基薄膜またはCr-N薄膜の形成が可能な合金を原料とした蒸着法、CrターゲットまたはCr-N薄膜の形成が可能な合金ターゲット、複合ターゲットまたは多元ターゲットを用いたスパッタリング法、Cr-N薄膜の場合は、窒素ガスを含む成膜雰囲気を用いた反応性スパッタリング法、上記薄膜の形成が可能な原料を用いた気相輸送法、もしくはめっきを含む液相法等により成膜してもよい。また、このような薄膜を形成する際に、マスク法などを用いて所望の形状の薄膜を形成してもよいし、薄膜を形成した後、ドライエッチング(プラズマエッチング、スパッタエッチング等)、化学エッチング(腐食法)、リフトオフ法、レーザトリミング法などのエッチングまたはトリミング加工などを施すことにより測定装置に対して最適な形状に加工してもよい。さらに、Cr薄膜およびCr-N薄膜を含むCr基薄膜は成膜したままで使用してもよいが、大気中、非酸化性ガス中、還元性ガス中または真空中で180℃以上1000℃以下の温度の加熱処理を行うことが好ましい。
【0038】
また、基部10のz軸射影、肉薄部12および導電性部材20の形状は、極点Oを通る第1の面111の垂線に平行な軸線(z軸)を基準とする回転対称性または極点Oを通る第1の面111に垂直な平面(例えば、r-z平面)を基準とする鏡像対称性を有してもよい。
【0039】
本発明の圧力センサを圧力測定装置として使用する場合には、本発明の圧力センサをハンダまたはワイヤーボンディングで配線接続し、4端子法で測定するがこれに限られない。測定装置の構成にとって最適な回路として構成される。
【0040】
以上のような構成の圧力センサによれば、導電性部材20を構成するCr薄膜またはCr-N薄膜の電気抵抗値がダイアフラム方式で測定されるので、圧力に対する感度が大きく、流体の圧力を高感度に検出することができる。また、Cr薄膜およびCr-N薄膜を含むCr基薄膜の横感度を利用した導電性部材の周方向配置や局部配置によってダイアフラムの隔膜の幅(面積)を小さくすることができ、構造が極めて簡易的であるため、圧力センサを小型化でき、小型容器内に内蔵可能で、その容器内の圧力の微変動を測定する。このため、従来に無い簡便な構造からなる、高感度、高精度かつ小型化可能な圧力センサを実現する。さらに、圧力センサを構成する部材が反応性の高い流体の影響を受けずに圧力測定することができるので、反応性の高い流体、特に水素ガス雰囲気中における圧力センサとして好適である。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限らず、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有する者によってその変形や改良が可能である。例えば、上記実施形態では、活性ガス雰囲気、特に水素ガス雰囲気の圧力測定に本発明を用いた場合を示したが、これに限らず、酸素やフッ素ガス、青酸ガス、などの活性ガスに用いてもよい。また、圧力センサの化学的安定度に優れることから、腐食にも強く、大気圧測定や水中圧力測定用の長期間の間利用される圧力センサにも用いることができる。
【実施例0042】
(実施例1)
以下、本発明の実施例について説明する。実施例は第1の実施形態に則された形で構成される。ここでは、5mm厚のセラミックス(10mm角)より構成された基部10に直径6mm、深さ1mmの凹部を形成し、基部の上に、0.1mm厚の平板状のジルコニア(10mm角)より構成された肉薄部12を接着剤にて接着する。この時、凹部は肉薄部12によって外部空間に対して覆われて、内部空間11を形成し、内部空間11に0.1MPaの空気が導入され、内部空間11の圧力を0.1MPaに保持する。肉薄部12の外部空間と接する方の面の中央に、厚さ0.1μm、ミアンダ形状のCr-N薄膜より構成された導電性部材20を1つ配置し、その電極部分に0.5μm厚のNi薄膜を重ねて形成した後、そこを介して該導電性部材をハンダにて配線接続し、4端子法の回路を形成し、外部空間の圧力を信号として取り出した。
【0043】
(実施例2)
実施例2では、基部10の上に、0.03mm厚のジルコニア(10mm角)より構成された肉薄部12を接着剤にて接着する圧力センサに関する。当該構成以外の構成については、実施例1に述べた構成と本質的に同じであるため、重複の観点から記載を省略する。
【0044】
(実施例3)
実施例3では、基部10の上に、0.07mm厚のジルコニア(5mm角)より構成された肉薄部12を接着剤にて接着する圧力センサに関する。当該構成以外の構成については、実施例1に述べた構成と本質的に同じであるため、重複の観点から記載を省略する。
【0045】
(圧力印加実験1)
各実施例の構成で形成された圧力センサの肉薄部12が取り外され、凹部に窒素ガス(実験室内の空気)を導入し、内部空間11の圧力を0.1MPa(実験室内の大気圧)に保持し、肉薄部12が凹部を外部空間に対して密閉するように、接着剤を用いて基部に接着された。以上のような、内部空間11の圧力を調整した圧力センサが圧力容器内に装入されて、容器内に不可避物質を含む窒素ガスを導入した。図3に示されているように、圧力容器内の圧力(外部空間の圧力)を0.1MPaから0.1MPaごとに上昇させて0.5Mpaまで加圧させたのち、0.1MPaごとに減少させて0.1MPaまで減圧し、0.01、0.02、0.03、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9MPaと印加して、外部空間の圧力に対する圧力センサの出力信号を取り出した。その際に導電性部材20の温度の変化を図4に示す。この時、圧力容器内の圧力(外部空間の圧力)は一般的な容器壁固定型の圧力計で測定された。また、導電性部材20の温度は圧力センサの基部上に接するように配置された、熱電対を用いた温度計で測定された。
【0046】
(結果1)
図5は圧力印加実験1の際の実施例1で構成された時の導電性部材(Cr-N薄膜)の抵抗値の時系列変動を示す図であり、図6は圧力印加実験1における外部空間の圧力と実施例1で構成された時の導電性部材の抵抗値との関係を示す図であり、図8は圧力印加実験1の際の実施例2で構成された時の導電性部材(Cr-N薄膜)の抵抗値の時系列変動を示す図であり、図9は圧力印加実験1における外部空間の圧力と実施例2で構成された時の導電性部材の抵抗値との関係を示す図である。
【0047】
図5図6図8及び図9に示すように、圧力印加実験1において、実施例1及び実施例2は特許文献4に対して、外部空間の圧力の変動に関連して、抵抗値が優れた感度を有することが確認された。実施例1において、外部空間の圧力が0.87MPaまで印加されても、素子の断線や導電性部材20の抵抗値の急激な変化は認めらなかった。また、0.5MPaまでの加減圧を施した際に、導電性部材20の抵抗値の初期値と加減圧後の抵抗値が変化しないので、圧力に対するヒステリシスも確認されない。さらに、図4に示すように、温度が圧力印加実験1の際に最大3℃の変化がみられたが、導電性部材20の抵抗値の顕著な変化が認められないことから、導電性部材20の温度依存性も確認されなかった。
【0048】
図6によると、実施例1の圧力センサは0.87MPa以下の領域で導電性部材20の抵抗値と外部空間の圧力は非線形的な変化を示した。この変化に際して、S/N(Signal/Noise)は良好である。また、大変形を導入した構造解析の計算結果と測定結果は図7の通り一致している。図6の結果及び図7の結果から実施例1の圧力センサは適切に圧力を測定できる。さらに、大変形を導入した構造解析の計算結果を基準にして、実施例1の圧力センサを適切に校正できる。このことから実施例1は圧力を適切に測定する圧力センサとして利用できる。実施例1の圧力センサを含んだ測定回路に電流を0.1mAとして入力すると、その圧力感度は6.95mV/MPaと見積もられ、電圧分解能が0.1mVの測定装置を用いると、該圧力センサの分解能は0.014MPaとなる。さらに、電圧分解能が0.1mVよりも優れた測定装置を用いた場合(良好なS/Nの範囲でアンプを用いて信号を増幅した場合)、0.01MPaより小さい圧力分解能が実現される。
【0049】
実施例2においても実施例1同様に、外部空間の圧力が0.87MPaまで印加されても、素子の断線や導電性部材20の抵抗値の急激な変化は認めらなかった。また、0.5MPaまでの加減圧を施した際に、導電性部材20の抵抗値の初期値と加減圧後の抵抗値が変化しないので、圧力に対するヒステリシスも確認されない。さらに、図4に示すように、温度が圧力印加実験1の際に最大3℃の変化がみられたが、導電性部材20の抵抗値の顕著な変化が認められないことから、導電性部材20の温度依存性も確認されなかった。
【0050】
図9によると、実施例2の圧力センサは0.87MPa以下の領域で導電性部材20の抵抗値と外部空間の圧力は単調増加的な変化を示した。この変化に際して、S/N(Signal/Noise)は良好である。図10(大変形を考慮した構造解析結果)によると、印加圧力に対するひずみの測定結果が大変形を導入した構造解析の計算結果と一致する。図9及び図10の結果から、実施例2の圧力センサは実施例1同様に圧力を適切に評価できる。大変形を導入した計算結果を用いることで、実施例2の圧力センサを適切に校正できる。この結果と大変形を導入した構造解析結果を用いた校正により、圧力センサとして、実施例1同様に利用できる。また、図11の肉薄部の各厚さの例の大変形を導入していない構造解析結果によると、実施例2の圧力センサは0.01~0.9MPaの領域で実施例1に比べて、10倍の感度を有することが計算結果から予想される。肉薄部の圧力の応答に対して大変形が及ばない区間であれば、実施例2の圧力センサを含んだ測定回路に電流を0.1mAとして入力すると、その圧力感度は70mV/MPaと見積もられ、さらなる大変形を適切に調整することで感度向上が期待される。
【0051】
(圧力印加実験2)
ここでは、実施例の圧力センサの分解能を推定するために、外部空間の圧力が微小変動するように外部空間の圧力が印加された。各実施例の構成で形成された圧力センサの肉薄部12が取り外され、凹部に大気(実験室内の空気)を導入し、内部空間11の圧力を0.1MPa(実験室内の大気圧)に保持し、肉薄部12が凹部を外部空間に対して密閉するように、接着剤を用いて基部に接着された。以上のような、内部空間11の圧力を調整した圧力センサが圧力容器内に装入されて、手動の圧力印加装置を用いて大気(実験室内の空気)を容器内(外部空間)に導入した。大気圧(0.1MPa、印加圧力0MPa)から22回の加圧を施し、印加圧力を0.3MPaまで加圧し、容器内の圧力(外部空間の圧力)に応じた、導電性部材20の抵抗値が信号として、取り出された。
【0052】
(結果2)
図12は圧力印加実験2の際の導電性部材20の抵抗値の圧力の時系列変動を示す図であり、図13は圧力印加実験2における外部空間の圧力と実施例1で構成された時の導電性部材20の抵抗値との関係を示す図である。
【0053】
図13に示すように、印加圧力0~0.3MPaの間で導電性部材20の抵抗値は外部空間の圧力に対して、線形的な関係を示した。また、0.3MPaから容器内の空気が解放され、外部空間の圧力が初期値に降圧した場合において、導電性部材の抵抗値が初期値と一致したため、圧力に対するヒステリシスが確認されなかった。図13に示す線形関係の傾きが63.53Ω/MPaであるので、0.1mAの電流が印加されると、6.35mV/MPaとなり、電圧分解能が0.1mVの測定装置を用いると、該圧力センサの分解能は0.016MPaとなる。また、電圧分解能が0.1mVよりも優れた測定装置を用いた場合(良好なS/Nの範囲でアンプを用いて信号を増幅した場合)、0.01MPaより小さい圧力分解能が実現される。したがって、分解能が0.01MPaを超す分解能を有する特許文献2に記載の圧力センサに比べて優れた分解能を有する圧力センサが実現される。
【0054】
(圧力印加実験3)
実施例3の構成で形成された圧力センサの肉薄部12が取り外され、凹部に窒素ガス(実験室内の空気)を導入し、内部空間11の圧力を0.1MPa(実験室内の大気圧)に保持し、肉薄部12が凹部を外部空間に対して密閉するように、接着剤を用いて基部に接着された。以上のような、内部空間11の圧力を調整した圧力センサが圧力容器内に装入されて、容器内に水素ガスを導入した。また、圧力容器内には、水素貯蔵合金(LaNi合金)が含まれている。
【0055】
図14には、圧力容器に印加した圧力と、圧力センサの抵抗値の時系列変動を示している。なお、当該圧力印加実験3においては、圧力容器を40℃のウォーターバスに漬けて、圧力容器内の温度を40℃に保った。本実験では、図14に示されているように、圧力容器内の圧力(外部空間の圧力)を0MPaから1MPaまで段階的に加圧させ、その後段階的に減圧させた。それぞれの加圧または減圧動作に移行する前に、約10分間の間隔をあけた。このとき、圧力および水素貯蔵合金の水素吸蔵量を計測しているが、計測にあたり、圧力および水素貯蔵合金の水素貯蔵量を一般的なPCT(P:圧力、C:吸蔵量、T:温度)特性評価装置を用いることで計測を行っている。
【0056】
(結果3)
図14を参照するに、水素ガスをある一定量入れると圧力センサの抵抗値が圧力上昇と共に変化することが分かった。また、それぞれの加圧後、約10分間放置することで水素貯蔵合金が水素を吸蔵し、容器内印加圧力を低下させるが、当該圧力低下分の変動も抵抗値に変化を及ぼしていることが分かった。反対に、水素ガスの印加圧力を1MPaから段階的に減少させると当該圧力の減少に伴った、抵抗値の変動も観測された。また、それぞれの減圧後、約10分間放置することで水素貯蔵合金が水素を放出し、容器内印加圧力を上昇させるが、当該圧力上昇分の変動も抵抗値に変化を及ぼしていることが明らかとなった。また、当該実験中に、抵抗値の変動が圧力の変動と連動し、その連動が著しく逸脱していないことから、本発明における圧力センサは、水素ガス雰囲気中に好適に利用できる。
【0057】
したがって、本発明の圧力センサは水素ガスの圧力の変動を細かい範囲で取得することが明らかとなった。また、水素貯蔵合金が含まれた圧力容器内における水素ガスの圧力の変動についても取得できるので、状態方程式等を用いることで、水素貯蔵合金の貯蔵量などを計測できることが明らかとなった。
【0058】
図15は、本発明の圧力センサによって測定された圧力変動に基づいて計測された水素貯蔵合金の水素貯蔵量と水素ガスの圧力変動との関係を示している。なお、圧力センサにおける圧力は、前述した、圧力と抵抗値との関係に関する結果に基づいて算出されている。図15には、本発明の圧力センサで求めた結果とともに、PCT装置を用いて得られた結果が同時に示されている。図15を参照するに、本発明の圧力センサは、既存のPCT装置と同様に水素貯蔵合金の水素貯蔵量およびその放出量を測定できることが明らかとなった。なお、本発明の圧力センサで得られた結果は、PCT装置で得られた結果に対して、同様の挙動を示していることから明らかなように、水素ガス雰囲気下においても、正確に水素ガスの増減をとらえることができる。PCT装置で測定された圧力に対して、本発明の圧力センサで測定された圧力は若干のずれがあるものの、これはPCT装置で測定された圧力と本発明の圧力センサで測定された圧力の測定位置および本発明の圧力センサの測定系における抵抗値の変動によるものである。PCT装置では、圧力容器外の圧力を測定していることから明らかなように、圧力容器内の圧力を測定している本発明の圧力センサに対して、若干の誤差が生じている。また、本発明の圧力センサの抵抗値と圧力との校正時には4端子測定で測定しているところ、圧力印加実験3においては、測定の関係上2端子法で測定している。このとき、測定系の抵抗値の変化により若干の誤差が生じている。
【0059】
図16は、図15の圧力センサの圧力の時系列変動の結果に測定系の変化により生じた抵抗値変動分を加味したものである。図16を参照するに本発明の圧力センサの結果は、PCT装置の結果と略同一の結果を示すことが明らかとなった。したがって、本発明の圧力センサは、PCT装置のように大型の装置を要することなく水素ガスの圧力を直接的に計測できるとともに容易に計測できるので、水素ガスの印加圧力の測定精度及び分解能の向上が図られ、水素貯蔵合金における水素貯蔵量の測定などを含む幅広い分野で適用できる。
【符号の説明】
【0060】
10;基部、11;内部空間、12;肉薄部、111;第1の面、112;第2の面、20;導電性部材(Cr薄膜またはCr―N薄膜)、30;圧力調整機構、O;極点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
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図15
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図17