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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160835
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】エタノール
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/08 20060101AFI20231026BHJP
   C07C 31/08 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C12P7/08
C07C31/08
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133156
(22)【出願日】2023-08-17
(62)【分割の表示】P 2019012564の分割
【原出願日】2019-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】濱地 心
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 宣利
(72)【発明者】
【氏名】西山 悠
(57)【要約】
【課題】一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする微生物発酵由来のエタノールを提供する。
【解決手段】ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により測定したガスクロマトグラフにおいて、リテンションタイムが5分25秒~5分35秒のピーク、およびリテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピークを有するエタノールとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物としてクロストリジウム属の発酵作用により、廃棄物由来の一酸化炭素および水素を含む合成ガスから得られた廃棄物由来のエタノールであって、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により、下記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、
リテンションタイムが5分25秒~5分35秒のピーク、および
リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピーク
を有する、廃棄物由来のエタノール。
<GC/MS法の分析条件>
カラム:キャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、1分間→5℃/分→100℃、10分間→10℃/分→250℃、4分間
サンプリング時間:5分
キャリアガス:He(3.0mL/分)
【請求項2】
前記ガスクロマトグラフにおいて、更にリテンションタイムが5分30秒~5分35秒のピークを有する、請求項1に記載の廃棄物由来のエタノール。
【請求項3】
廃棄物由来の炭素源を一酸化炭素および水素を含む合成ガスに変換する工程と、
前記一酸化炭素および水素を含む合成ガスを微生物としてクロストリジウム属を含む発酵槽に供給し、微生物発酵によりエタノール含有液を得る微生物発酵工程と、
前記エタノール含有液を、微生物を含む液体ないし固体成分とエタノールを含む気体成分とに分離する分離工程と、
前記気体成分を凝縮させて液化する液化工程と、
前記液化工程で得られた液体物からエタノールを精製する精製工程と、
を含み、
前記精製されたエタノールは、
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により、下記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、
リテンションタイムが5分25秒~5分35秒のピーク、および
リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピーク
を有する、廃棄物由来のエタノールの製造方法。
<GC/MS法の分析条件>
カラム:キャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、1分間→5℃/分→100℃、10分間→10℃/分→250℃、4分間
サンプリング時間:5分
キャリアガス:He(3.0mL/分)
【請求項4】
前記合成ガスを精製する工程を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
化成品用である、請求項1または2に記載の廃棄物由来のエタノール。
【請求項6】
ポリマー用である、請求項1または2に記載の廃棄物由来のエタノール。
【請求項7】
請求項1または2に記載の廃棄物由来のエタノールを原料とする化成品。
【請求項8】
請求項1または2に記載の廃棄物由来のエタノールを原料とするポリマー。
【請求項9】
請求項8に記載のポリマーからなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールに関し、より詳細には、従来の石油資源由来やバイオマス資源由来によらない、一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする循環型資源由来の新規なエタノールに関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活のさまざまなところに、石油化学製品が使われている。一方で、身近な製品であるが故、大量生産と大量消費により様々な環境問題を引き起こしていることが地球規模で大きな問題となっている。例えば、石油化学工業製品の代表であるポリエチレン、ポリ塩化ビニルは大量消費にて、使い捨てとされており、それら廃棄物が環境汚染の大きな一因となっている。加えて、石油化学工業製品を大量生産する上で、化石燃料資源の枯渇への危惧や、大気中の二酸化炭素増加という地球規模での環境問題も議論されている。
【0003】
そのような環境問題への地球規模での意識の高まりから、近年、石油化学工業製品の原料であるナフサ以外の原料で各種有機物質を製造する手法が検討されている。例えば、トウモロコシ等の可食原料から糖発酵法によってバイオエタノールを製造する方法が注目されている。しかし、このような可食原料を用いた糖発酵法は、限られた農地面積を食料以外の生産に用いることから、食料価格の高騰を招く等の問題が指摘されている。
【0004】
この問題点を解決するために、従来、廃棄されていたような非可食原料を用いることも検討されている。具体的には、非可食原料として廃材や古紙由来のセルロース等を使用して発酵法によりアルコール類を製造する方法や、上記のようなバイオマス原料をガス化し、合成ガスから触媒を用いてアルコール類を製造する方法等が提案されているが未だ実用化されていないのが現状である。また、これらの脱石化原料から種々の石油化学製品を製造できたとしても、最終的には自然には分解しない廃プラスチックとなるため、環境問題の抜本的な解決策としては有効ではないといえる。
【0005】
ところで、現在、日本国内で廃棄されている可燃性ごみは約6,000万トン/年にも及ぶ。そのエネルギー量は約200兆キロカロリーに相当し、日本国内のプラスチック原料用ナフサを大きく上回っており、これらのゴミも重量な資源であるといえる。これらごみ資源を石油化学製品に転換できれば、石油資源に依らない究極の資源循環社会を実現することが可能となる。上記観点から、特許文献1および2等には、廃棄物から合成ガス(CO及びHを主成分とするガス)を製造し、その合成ガスから発酵法によりエタノールを製造する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献3においても指摘されているように、廃棄物から製造した合成ガス中には、解明されていない多種多様な不純物が含まれており、そのなかには微生物にとって毒性をもつものも存在するため、合成ガスから微生物発酵によりアルコールを生産する上でその生産性が大きな課題となっていた。また、合成ガスを微生物発酵して得られたアルコールにも、合成ガス中の不純物に起因した種々の成分が含まれており、これらの成分は蒸留等の精製処理によっても完全には除去できない。そのため、合成ガスの微生物発酵により得られたアルコールからの誘導品開発が大きな技術課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-059296号公報
【特許文献2】国際公開2015-037710号公報
【特許文献3】特開2018-058042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らの検討によれば、例えば、従来のエタノールに代表されるC2原料は、種々の化学製品の出発原料と知られているが、上述したように、石油資源やバイオマス資源によらない資源(循環型資源)から製造されるアルコールは、ナフサ由来の化学原料とは異なり、様々な微量の未知の物質が含有されていることが分かった。しかしながら、従来技術では物質の特性も不明であり、全ての物質を取り除けばよいのか、特定の物質のみを除去すればよいのか、従来は十分な検討がなされてこなかった。そのため、上記特許文献において循環型資源から製造されたアルコールが提案されていても、当該アルコールを実用化するにはまだまだ技術改良の余地が残されているのが現状であった。
【0009】
一方、上記文献によれば一般的な発酵・蒸留方法や最適な合成ガスの組成等が開示されているものの、その工程等の詳細は記載されておらず、また得られたアルコール物質の特定すらもされていない。
【0010】
そこで、本発明は、かかる背景技術に鑑みなされたものであり、その課題は、既存の石化原料よりも産業的価値のある実用的な新規なアルコール及びその誘導品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、循環型資源から製造されるアルコールに含まれる多種多様な微量な物質を特定し、更に含有量を新規な製造方法により特定範囲に制御することが可能となり、加えてその種々の誘導品が、既存の石化由来アルコールに比べて優れた効果を発揮することがわかった。例えば、エタノールからブタジエンを合成する工程において、従来の石化由来エタノールを用いた場合よりもエタノール転化率が向上し、石化由来のアルコールと同等ないしそれ以上に実用的なレベルのアルコールが得られることを見出し、本発明に至った。
【0012】
より具体的には、廃棄物を炭素原とする一酸化炭素および水素を含むガス基質からエタノールを製造した場合、当該エタノールからブタジエンを合成するとエタノールの転化率が向上する事実を見出し、この理由を詳細に調べたところ、一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする循環型資源由来のエタノールには、ガスクロマトグラフ質量分析法によって測定されたガスクロマトグラフにおいて、化石燃料由来のエタノールには見られない特有のピークが存在することが判明した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0013】
即ち、本発明は以下の要旨を含む。
[1] 一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする微生物発酵由来のエタノールであって、
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により、下記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、
リテンションタイムが5分25秒~5分35秒のピーク、および
リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピーク
を有する、エタノール。
<GC/MS法の分析条件>
カラム:キャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、1分間→5℃/分→100℃、10分間→10℃/分→250℃、4分間
サンプリング時間:5分
キャリアガス:He(3.0mL/分)
[2] 前記ガスクロマトグラフにおいて、更にリテンションタイムが5分30秒~5分35秒のピークを有する、[1]のエタノール。
[3] 前記一酸化炭素および水素を含むガスが廃棄物由来である、[1]または[2]のエタノール。
[4] 炭素源を一酸化炭素および水素を含む合成ガスに変換する工程と、
前記一酸化炭素および水素を含む合成ガスを微生物発酵槽に供給し、微生物発酵によりエタノール含有液を得る微生物発酵工程と、
前記エタノール含有液を、微生物を含む液体ないし固体成分とエタノールを含む気体成分とに分離する分離工程と、
前記気体成分を凝縮させて液化する液化工程と、
前記液化工程で得られた液体物からエタノールを精製する精製工程と、
を含み、
前記精製されたエタノールは、
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により、下記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、
リテンションタイムが5分25秒~5分35秒のピーク、および
リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピーク
を有する、エタノールの製造方法。
<GC/MS法の分析条件>
カラム:キャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、1分間→5℃/分→100℃、10分間→10℃/分→250℃、4分間
サンプリング時間:5分
キャリアガス:He(3.0mL/分)
トランスファーライン温度:240℃
[5] 前記合成ガスを精製する工程を更に含む、[4]に記載の方法。
[6] 前記炭素源が廃棄物由来である、[4]または[5]に記載の方法。
[7] [1]~[3]のいずれかに記載のエタノールを原料とする化成品。
[8] [1]~[3]のいずれかに記載のエタノールを原料とするポリマー。
[9] [8]に記載のポリマーからなる成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により測定したガスクロマトグラフにおいて、リテンションタイムが5分25秒~5分35秒であるエタノール由来のピークに加えて、リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピークを有するようなエタノールとすることにより、市販の工業用エタノールに比べて種々の異質な効果を得ることができる。例えば、本発明によれば、エタノールを原料としてブタジエンを合成する際のエタノール転化率を向上させたり、カルボン酸にエタノールを加えてカルボン酸エステルを合成する際の反応率を向上させることができる。加えて、既存のアルコールであっても、特有のピークに由来する物質を特定量含有させることでも同様の効果が得られることが期待される。
【0015】
また、本発明によるエタノールは、例えば、ブタンジエン、エチレン、ポリエチレン、エチレングリコール、ポリエステル等の製造の原料として用いることで収率を向上させることができる。また、本発明によるエタノールは、化粧品、香水、燃料、不凍液、殺菌剤、消毒剤、清掃剤、カビ取り剤、洗剤、洗髪剤、石鹸、制汗剤、洗顔シート、溶剤、塗料、接着剤、希釈剤、食品添加物等の化成品の様々な用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で使用したエタノールのガスクロマトグラムである。
図2】比較例1で使用したエタノールのガスクロマトグラムである。
図3】比較例2で使用したエタノールのガスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0018】
<定義>
本発明において「エタノール」とは、化合物として純粋なエタノール(化学式:CHCHOHで表されるエタノール)を意味するものではなく、合成ないし精製を経て製造されたエタノールに不可避的に含まれる不純物(夾雑物成分)を含む組成物を意味するものとする。
【0019】
<エタノール>
本発明によるエタノールは、一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする微生物発酵由来のエタノールを含み、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)により、下記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、
リテンションタイムが5分25秒~5分35秒のピーク、および
リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピーク
を有するものである。
<GC/MS法の分析条件>
カラム:キャピラリーカラム(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、1分間→5℃/分→100℃、10分間→10℃/分→250℃、4分間
サンプリング時間:5分
キャリアガス:He(3.0mL/分)
【0020】
純度が100%、即ち不純物を全く含まないエタノールは、GC/MS法により上記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、エタノール由来のリテンションタイムが6分5秒~6分15秒のピークを有するが、リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピークは有なさい。また、市販されている化石燃料由来の工業用エタノールも、GC/MS法により上記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピークは有なさい。更に、セルロース等のバイオマス原料を用いて発酵法により製造したエタノールも、リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピークは有なさい。このように、リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピークは、一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする微生物発酵由来のエタノールに特有のものであると考えられる。
【0021】
理論に拘束されるわけではないが、一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする微生物発酵由来のエタノールは、その製造工程において、使用される合成ガスが、一酸化炭素および水素以外にも種々の微量成分を含んでいると考えられ、蒸留等の精製工程を経て得られたアルコールであってもアルデヒド化合物等のエタノールと沸点が極めて近い物質が含まれているものと考えられる。本発明においては、これらの不可避的物質がエタノール中に含まれることにより、エタノールを原料としてブタジエンを合成する際のエタノール転化率を向上させたり、カルボン酸にエタノールを加えてカルボン酸エステルを合成する際の反応率を向上させることができるものと考えられる。
【0022】
一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする微生物発酵由来のエタノールは、リテンションタイムが2分55秒~3分5秒のピーク以外にも、リテンションタイムが5分30秒~5分35秒のピークを有するものであることが好ましい。上記と同様の理由により、蒸留等の精製工程を経て得られたエタノールであってもアルデヒド化合物等のエタノールと沸点が極めて近い物質が含まれているものと考えられ、これら複数の不可避的物質が、エタノールを原料とした反応工程において何らかの作用を及ぼして、エタノール転化率や反応率を向上させているものと考えられる。
【0023】
本発明のエタノールは、後記するように微生物発酵槽から得られたエタノール含有液を抽出し、更に精製して得られるものであるが、上記した不可避的物質以外に他の成分が含まれていてもよい。例えば、微量の芳香族化合物が含まれていてもよい。芳香族化合物としては、トルエン、エチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、およびp-キシレンが挙げられ、これらの1種のみが含まれても良いし、2種以上が含まれても良い。芳香族化合物としては、エチルベンゼンが含まれることが好ましい。
【0024】
エタノール中に含まれる芳香族化合物の含有量(総和)は、エタノール全体に対して、0.001質量ppm以上であり、好ましくは0.005質量ppm以上、より好ましくは0.01質量ppm以上、さらに好ましくは0.1質量ppm以上であり、また、100質量ppm以下であり、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは5質量ppm以下である。
【0025】
エタノール中にエチルベンゼンが含まれる場合、エチルベンゼンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.1質量ppm以上であり、より好ましくは0.2質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.3質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.5質量ppm以上であり、また、好ましくは5質量ppm以下であり、より好ましくは3質量ppm以下であり、さらに好ましくは2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。
【0026】
エタノール中にトルエンが含まれる場合、トルエンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.02質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.03質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.05質量ppm以上であり、また、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0027】
エタノール中にo-キシレンが含まれる場合、o-キシレンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.1質量ppm以上であり、より好ましくは0.2質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.3質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.5質量ppm以上であり、また、好ましくは5質量ppm以下であり、より好ましくは3質量ppm以下であり、さらに好ましくは2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。
【0028】
エタノール中にm-キシレンおよび/またはp-キシレンが含まれる場合、m-キシレンおよび/またはp-キシレンの含有量(総和)は、エタノール全体に対して、好ましくは0.2質量ppm以上であり、より好ましくは0.3質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.4質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.5質量ppm以上であり、また、好ましくは5質量ppm以下であり、より好ましくは3質量ppm以下であり、さらに好ましくは2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。
【0029】
また、本発明によるエタノールは、微量の脂肪族炭化水素がさらに含まれていてもよい。脂肪族炭化水素としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、n-ドデカン、およびn-テトラデカン、ヘキサデカン等が挙げられ、これらの1種のみが含まれても良いし、2種以上が含まれても良い。芳香族化合物としては、n-ヘキサン、n-デカン、およびn-ドデカンの1種以上が含まれることが好ましい。
【0030】
エタノール中に含まれる脂肪族炭化水素の含有量(総和)は、エタノール全体に対して、好ましくは0.001質量ppm以上であり、好ましくは0.005質量ppm以上、より好ましくは0.01質量ppm以上、さらに好ましくは0.1質量ppm以上であり、また、100質量ppm以下であり、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは5質量ppm以下である。
【0031】
エタノール中にn-ヘキサンが含まれる場合、n-ヘキサンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.1質量ppm以上であり、より好ましくは0.2質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.3質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.5質量ppm以上であり、また、好ましくは5質量ppm以下であり、より好ましくは3質量ppm以下であり、さらに好ましくは2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。
【0032】
エタノール中にn-ヘプタンが含まれる場合、n-ヘプタンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.02質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.03質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.05質量ppm以上であり、また、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0033】
エタノール中にn-オクタンが含まれる場合、n-オクタンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.02質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.03質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.05質量ppm以上であり、また、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0034】
エタノール中にn-デカンが含まれる場合、n-デカンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.02質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.03質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.05質量ppm以上であり、また、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0035】
エタノール中にn-ドデカンが含まれる場合、n-ドデカンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.02質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.03質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.05質量ppm以上であり、また、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0036】
エタノール中にn-テトラデカンが含まれる場合、n-テトラデカンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.02質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.03質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.05質量ppm以上であり、また、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0037】
エタノール中にヘキサデカンが含まれる場合、ヘキサデカンの含有量は、エタノール全体に対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.02質量ppm以上であり、さらに好ましくは0.03質量ppm以上であり、さらにより好ましくは0.05質量ppm以上であり、また、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.2質量ppm以下であり、さらにより好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0038】
本発明によるエタノールは、GC/MS法により上記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、リテンションタイムが6分36秒~6分45秒のピークを有していてもよい。リテンションタイムが6分36秒~6分45秒のピークは、デカン由来と考えられる。また、GC/MS法により上記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、リテンションタイムが12分30秒~12分40秒のピークを有していてもよい。リテンションタイムが12分30秒~12分40秒のピークは、テトラデカン由来と考えられる。また、GC/MS法により上記条件において測定したガスクロマトグラフにおいて、リテンションタイムが15分00秒~15分15秒のピークを有していてもよい。リテンションタイムが15分00秒~15分15秒のピークは、ヘキサデカン由来と考えられる。
【0039】
また、本発明によるエタノールは、微量のジアルキルエーテルがさらに含まれていてもよい。ジアルキルエーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、およびジペンチルエーテルが挙げられ、これらの1種のみが含まれても良いし、2種以上が含まれても良い。芳香族化合物としては、ジブチルエーテルが含まれることが好ましい。
【0040】
エタノール中に含まれるジアルキルエーテルの含有量(総和)は、エタノール全体に対して、好ましくは0.001質量ppm以上であり、好ましくは0.01質量ppm以上、より好ましくは0.1質量ppm以上、さらに好ましくは1.0質量ppm以上であり、また、100質量ppm以下であり、好ましくは80質量ppm以下、より好ましくは50質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以下である。
【0041】
エタノール中にジブチルエーテルが含まれる場合、ジブチルエーテルの含有量は、エタノールに対して、好ましくは1質量ppm以上であり、より好ましくは2質量ppm以上であり、さらに好ましくは5質量ppm以上であり、さらにより好ましくは10質量ppm以上であり、また、好ましくは50質量ppm以下であり、より好ましくは40質量ppm以下であり、さらに好ましくは30質量ppm以下であり、さらにより好ましくは25質量ppm以下である。
【0042】
本発明のエタノールは、上記のような有機化合物を極微量含むものであるが、Si、K、Na、Fe、Cr等の元素を含む化合物を含んでいてもよい。これらの元素を含む化合物は、無機化合物の場合もあるが有機金属化合物の場合もある。例えば、Siを含む場合において、シリカやオルガノシロキサンが含まれていてもよい。
【0043】
エタノール中にシリカが含まれる場合、シリカの含有量は、エタノールに対して、好ましくは10質量ppm以上であり、より好ましくは20質量ppm以上であり、さらに好ましくは30質量ppm以上であり、また、好ましくは100質量ppm以下であり、より好ましくは90質量ppm以下であり、さらに好ましくは80質量ppm以下である。
【0044】
エタノール中にカリウムが含まれる場合、カリウムの含有量は、エタノールに対して、好ましくは0.5質量ppm以上であり、より好ましくは1質量ppm以上であり、また、好ましくは10質量ppm以下であり、より好ましくは5質量ppm以下である。カリウムの含有量とは、カリウム化合物のカリウム元素換算量である。
【0045】
エタノール中にナトリウムが含まれる場合、ナトリウムの含有量は、エタノールに対して、好ましくは100質量ppm以上であり、より好ましくは150質量ppm以上であり、また、好ましくは300質量ppm以下であり、より好ましくは200質量ppm以下である。ナトリウムの含有量とは、ナトリウム化合物のナトリウム元素換算量である。
【0046】
エタノール中にFeが含まれる場合、Feの含有量は、エタノールに対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.1質量ppm以上であり、また、好ましくは2質量ppm以下であり、より好ましくは1質量ppm以下である。Feの含有量とは、Fe化合物のFe元素換算量である。
【0047】
エタノール中にCrが含まれる場合、Crの含有量は、エタノールに対して、好ましくは0.01質量ppm以上であり、より好ましくは0.1質量ppm以上であり、また、好ましくは1質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下である。Crの含有量とは、Cr化合物のCr元素換算量である。
【0048】
本発明のエタノールは、上記したような成分、即ちGC/MS法により測定されたガスクロマトグラフから特定される特有の不可避的物質、および所望により微量の芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素等が含まれるものであるが、エタノール中の主成分であるエタノール(化合物として純粋なメタノール)の濃度は、エタノール全体に対して、75質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、さらにより好ましくは98質量%以上であり、また、好ましくは99.999質量%以下、より好ましくは99.99質量%以下、さらに好ましくは99.9質量%以下、さらにより好ましくは99.5質量%以下である。
【0049】
本発明のエタノール中のエタノール濃度は目的とする用途に応じて設定すればよく、例えば、化粧品等であれば90質量%以上のものを、消毒剤用エタノールであれば75質量%以上のものが好ましく用いられ、上限も同様に用途に応じて便宜設定することができる。輸送コスト等から製品としてはエタノールの濃度が高い程好ましい。
【0050】
<エタノールの製造方法>
上記したような特有のガスクロマトグラフピークを有するエタノールを製造する方法としては、例えば、廃棄物や排ガス由来の一酸化炭素を含む合成ガスを微生物発酵によってエタノールを製造することができる。このような方法においては、廃棄物や排ガス由来の原料ガス中の芳香族化合物等の含有量および精製条件を制御し、最終製品に含まれる芳香族化合物量等を制御してもよい。以下、一例として、廃棄物や排ガス由来の一酸化炭素を含む合成ガスを微生物発酵によってエタノールを製造する方法について説明する。
【0051】
エタノールの製造方法は、炭素源を一酸化炭素および水素を含む合成ガスに変換する工程と、前記一酸化炭素および水素を含む合成ガスを微生物発酵槽に供給し微生物発酵によりエタノール含有液を得る微生物発酵工程と、前記エタノール含有液を、微生物を含む液体ないし固体成分とエタノールを含む気体成分とに分離する分離工程と、前記気体成分を凝縮させて液化する液化工程と、液化工程で得られた液体物からエタノールを精製する精製工程と、を工程として含むが、必要に応じて、原料ガス生成工程、合成ガス調製工程、排水処理工程等を含んでもよい。以下、各工程について説明する。
【0052】
<原料ガス生成工程>
原料ガス生成工程は、ガス化部において、炭素源をガス化させることによって原料ガスを生成する工程である。原料ガス生成工程では、ガス化炉を用いてもよい。ガス化炉は、炭素源を燃焼(不完全燃焼)させる炉であり、例えば、シャフト炉、キルン炉、流動床炉、ガス化改質炉等が挙げられる。ガス化炉は、廃棄物を部分燃焼させることにより、高い炉床負荷、優れた運転操作性が可能となるため、流動床炉式であることが好ましい。廃棄物を低温(約450~600℃)かつ低酸素雰囲気の流動床炉中でガス化することで、ガス(一酸化炭素、二酸化炭素、水素、メタン等)および炭素分を多く含むチャーに分解する。さらに廃棄物に含まれる不燃物が炉底から、衛生的でかつ酸化度の低い状態で分離されるため、不燃物中の鉄やアルミニウム等といった有価物を選択回収することが可能である。従って、このような廃棄物のガス化は、効率の良い資源リサイクルが可能である。
【0053】
原料ガス生成工程における上記ガス化の温度は、特に制限されるものではないが、通常100~2500℃であり、好ましくは200~2100℃である。
【0054】
原料ガス生成工程におけるガス化の反応時間は、通常2秒以上、好ましくは5秒以上である。
【0055】
原料ガス生成工程において使用される炭素源は、特に限定されず、例えば、製鉄所のコークス炉、高炉(高炉ガス)、転炉や石炭火力発電所に用いる石炭、焼却炉(特にガス化炉)に導入される一般廃棄物および産業廃棄物、各種産業によって副生した二酸化炭素等、リサイクルを目的として種々の炭素含有材料も好適に利用することができる。
【0056】
より詳しくは、炭素源には、廃棄物であることが好ましく、具体的には、プラスチック廃棄物、生ゴミ、都市固形廃棄物(MSW)、産業固形廃棄物、廃棄タイヤ、バイオマス廃棄物、布団や紙等の家庭ごみ、建築部材等の廃棄物や、石炭、石油、石油由来化合物、天然ガス、シェールガス等が挙げられ、その中でも各種廃棄物が好ましく、分別コストの観点から、未分別の都市固形廃棄物がより好ましい。
【0057】
炭素源をガス化して得られる原料ガスは、一酸化炭素および水素を必須成分として含むが、二酸化炭素、酸素、窒素をさらに含んでもよい。その他の成分として、原料ガスは、スス、タール、窒素化合物、硫黄化合物、リン系化合物、芳香族系化合物等の成分をさらに含んでもよい。
【0058】
原料ガスは、上記原料ガス生成工程において、炭素源を燃焼(不完全燃焼)させる熱処理(通称:ガス化)を行うことにより、即ち、炭素源を部分酸化させることにより、一酸化炭素を、特に制限はないが、0.1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上含むガスとして生成してもよい。
【0059】
<合成ガス精製工程>
合成ガス精製工程は、原料ガスから、様々な汚染物質、ばいじん粒子、不純物、好ましくない量の化合物等の特定の物質を除去ないし低減する工程である。原料ガスが廃棄物由来である場合には、通常、原料ガスは、一酸化炭素を0.1体積%以上80体積%以下、二酸化炭素を0.1体積%以上40体積%以下、水素を0.1体積%以上80体積%以下含み、さらに窒素化合物を1ppm以上、硫黄化合物を1ppm以上、リン化合物を0.1ppm以上、および/または芳香族系化合物を10ppm以上含む傾向にある。また、その他の環境汚染物質、ばいじん粒子、不純物等の物質が含まれる場合もある。そのため、微生物発酵槽へ合成ガスを供給するにあたっては、原料ガスから、微生物の安定培養に好ましくない物質や、好ましくない量の化合物等を低減ないし除去し、原料ガスに含まれる各成分の含有量が微生物の安定培養に好適な範囲となるようにしておくことが好ましい。
【0060】
特に、合成ガス精製工程では、上記の再生吸着材を充填した圧力スイング吸着装置を用いて、合成ガス中の二酸化炭素ガスを再生吸着材(ゼオライト)に吸着させ、合成ガス中の二酸化炭素ガス濃度を低減する。さらに、合成ガスには、従来公知の他の処理工程を行って、不純物の除去やガス組成の調整を行ってもよい。他の処理工程としては、例えば、ガスチラー(水分分離装置)、低温分離方式(深冷方式)の分離装置、サイクロン、バグフィルターのような微粒子(スス)分離装置、スクラバー(水溶性不純物分離装置)、脱硫装置(硫化物分離装置)、膜分離方式の分離装置、脱酸素装置、圧力スイング吸着方式の分離装置(PSA)、温度スイング吸着方式の分離装置(TSA)、圧力温度スイング吸着方式の分離装置(PTSA)、活性炭を用いた分離装置、銅触媒またはパラジウム触媒を用いた分離装置等のうちの1種または2種以上を用いて処理することができる。
【0061】
本発明のエタノールの製造方法において使用する合成ガスは、少なくとも一酸化炭素を必須成分として含み、水素、二酸化炭素、窒素をさらに含んでもよい。
【0062】
本発明において使用する合成ガスは、炭素源をガス化させることによって原料ガスを生成し(原料ガス生成工程)、次いで、原料ガスから一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の各成分の濃度調整とともに、上記したような物質や化合物を低減ないし除去する工程を経ることで得られたガスを、合成ガスとして用いてもよい。
【0063】
合成ガス中の一酸化炭素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常20体積%以上80体積%以下であり、好ましくは25体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは35体積%以上45体積%以下である。
【0064】
合成ガス中の水素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常10体積%以上80体積%以下であり、好ましくは30体積%以上55体積%以下であり、より好ましくは40体積%以上50体積%以下である。
【0065】
合成ガス中の二酸化炭素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常0.1体積%以上40体積%以下、好ましくは0.3体積%以上30体積%以下であり、より好ましくは0.5体積%以上10体積%以下、特に好ましくは1体積%以上6体積%以下である。
【0066】
合成ガス中の窒素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常40体積%以下であり、好ましくは1体積%以上20体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上15体積%以下である。
【0067】
一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の濃度は、原料ガス生成工程において炭素源のC-H-N元素組成を変更することや、燃焼温度や燃焼時供給ガスの酸素濃度等の燃焼条件を適宜変更することで、所定の範囲とすることができる。例えば、一酸化炭素や水素濃度を変更したい場合は、廃プラ等のC-H比率が高い炭素源に変更し、窒素濃度を低下させたい場合は原料ガス生成工程において酸素濃度の高いガスを供給する方法等がある。
【0068】
本発明において使用される合成ガスは、上記した成分以外にも、特に制限はないが、硫黄化合物、リン化合物、窒素化合物等を含んでいてもよい。これらの化合物のそれぞれの含有量は、好ましくは0.05ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは0.5ppm以上であり、また、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは80ppm以下、さらにより好ましくは60ppm以下、特に好ましくは40ppm以下である。硫黄化合物、リン化合物、窒素化合物等を下限値以上の含有量とすることにより、微生物が好適に培養できるという利点があり、また上限値以下の含有量とすることにより、微生物が消費しなかった各種栄養源によって培地が汚染されないという利点がある。
【0069】
硫黄化合物としては、通常、二酸化硫黄、CS,COS、HSが挙げられ、中でもHSと二酸化硫黄が微生物の栄養源として消費しやすい点で好ましい。そのため、合成ガス中にHSと二酸化硫黄の和が上記範囲で含まれていることがより好ましい。
リン化合物としては、リン酸が微生物の栄養源として消費しやすい点が好ましい。そのため、合成ガス中にリン酸が上記範囲で含まれていることがより好ましい。
窒素化合物としては、一酸化窒素、二酸化窒素、アクリルニトリル、アセトニトリル、HCN等が挙げられ、HCNが微生物の栄養源として消費しやすい点で好ましい。そのため合成ガス中に、HCNが上記範囲で含まれていることがより好ましい。
【0070】
また、合成ガスは、芳香族化合物を0.01ppm以上90ppm以下含んでもよく、好ましくは0.03ppm以上、より好ましくは0.05ppm以上、さらに好ましくは0.1ppm以上であり、かつ、好ましくは70ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。下限値以上の含有量とすることにより、微生物が好適に培養できる傾向にあり、又、上限値以下の含有量とすることにより、微生物が消費しなかった各種栄養源によって培地が汚染されにくい傾向にある。
【0071】
<微生物発酵工程>
微生物発酵工程は、微生物発酵槽において、上記した合成ガスを微生物発酵させて、エタノールを製造する工程である。微生物発酵槽は、連続発酵装置とすることが好ましい。一般に、微生物発酵槽は任意の形状のものを用いることができ、撹拌型、エアリフト型、気泡塔型、ループ型、オープンボンド型、フォトバイオ型が挙げられるが、本発明においては、微生物発酵槽が、主槽部と還流部とを有する公知のループリアクターを好適に用いることができる。この場合、前記の液状の培地を、主槽部と還流部の間で循環させる循環工程をさらに備えるのが好ましい。
【0072】
微生物発酵槽に供給する合成ガスは、上記した合成ガスの成分条件を充足する限り、原料ガス生成工程を経て得られたガスをそのまま合成ガスとして用いてもよいし、原料ガスから不純物等を低減ないし除去したガスに、別の所定のガスを追加してから合成ガスを用いてもよい。別の所定ガスとして、例えば二酸化硫黄等の硫黄化合物、リン化合物、および窒素化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を加えて合成ガスとしてもよい。
【0073】
微生物発酵槽には、合成ガスと微生物培養液とが連続的に供給されてもよいが、合成ガスと微生物培養液とを同時に供給する必要はなく、予め微生物培養液を供給した微生物発酵槽に合成ガスを供給してもよい。ある種の嫌気性微生物は、発酵作用によって、合成ガス等の基質ガスから、エタノール等を生成することが知られており、この種のガス資化性微生物は、液状の培地で培養される。例えば、液状の培地とガス資化性細菌とを供給して収容しておき、この状態で液状の培地を撹拌しつつ、微生物発酵槽内に合成ガスを供給してもよい。これにより、液状の培地中でガス資化性細菌を培養して、その発酵作用により合成ガスからエタノールを生成することができる。
【0074】
微生物発酵槽において、培地等の温度(培養温度)は、任意の温度を採用してよいが、好ましくは30~45℃程度、より好ましくは33~42℃程度、さらに好ましくは36.5~37.5℃程度とすることができる。また、培養時間は、好ましくは連続培養で12時間以上、より好ましくは7日以上、特に好ましくは30日以上、最も好ましくは60日以上であり、上限は特に設定されないが設備の定修等の観点から720日以下が好ましく、より好ましくは365日以下である。なお、培養時間とは、種菌を培養槽に添加してから、培養槽内の培養液を全量排出するまでの時間を意味するものとする。
【0075】
微生物培養液に含まれる微生物(種)は、一酸化炭素を主たる原料として合成ガスを微生物発酵させることによってエタノールを製造できるものであれば、特に限定されない。例えば、微生物(種)は、ガス資化性細菌の発酵作用によって、合成ガスからエタノールを生成するものであること、特にアセチルCOAの代謝経路を有する微生物であることが好ましい。ガス資化性細菌のなかでも、クロストリジウム(Clostridium)属がより好ましく、クロストリジウム・オートエタノゲナムが特に好ましいが、これに限定されるものではない。以下、さらに例示する。
【0076】
ガス資化性細菌は、真性細菌および古細菌の双方を含む。真性細菌としては、例えば、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、ムーレラ(Moorella)属細菌、アセトバクテリウム(Acetobacterium)属細菌、カルボキシドセラ(Carboxydocella)属細菌、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属細菌、ユーバクテリウム(Eubacterium)属細菌、ブチリバクテリウム(Butyribacterium)属細菌、オリゴトロファ(Oligotropha)属細菌、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)属細菌、好気性水素酸化細菌であるラルソトニア(Ralsotonia)属細菌等が挙げられる。
【0077】
一方、古細菌としては、例えば、Methanobacterium属細菌、Methanobrevibacter属細菌、Methanocalculus属、Methanococcus属細菌、Methanosarcina属細菌、Methanosphaera属細菌、Methanothermobacter属細菌、Methanothrix属細菌、Methanoculleus属細菌、Methanofollis属細菌、Methanogenium属細菌、Methanospirillium属細菌、Methanosaeta属細菌、Thermococcus属細菌、Thermofilum属細菌、Arcaheoglobus属細菌等が挙げられる。これらの中でも、古細菌としては、Methanosarcina属細菌、Methanococcus属細菌、Methanothermobacter属細菌、Methanothrix属細菌、Thermococcus属細菌、Thermofilum属細菌、Archaeoglobus属細菌が好ましい。
【0078】
さらに、一酸化炭素および二酸化炭素の資化性に優れることから、古細菌としては、Methanosarcina属細菌、Methanothermobactor属細菌、またはMethanococcus属細菌が好ましく、Methanosarcina属細菌、またはMethanococcus属細菌が特に好ましい。なお、Methanosarcina属細菌の具体例として、例えば、Methanosarcina barkeri、Methanosarcina mazei、Methanosarcina acetivorans等が挙げられる。
【0079】
以上のようなガス資化性細菌の中から、目的とするエタノールの生成能の高い細菌が選択されて用いられる。例えば、エタノール生成能の高いガス資化性細菌としては、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxidivorans)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、アセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)等が挙げられ、これらのなかでもクロストリジウム・オートエタノゲナムが特に好ましい。
【0080】
上記した微生物(種)を培養する際に用いる培地は、菌に応じた適切な組成であれば特に限定されないが、主成分の水と、この水に溶解または分散された栄養分(例えば、ビタミン、リン酸等)とを含有する液体である。このような培地の組成は、ガス資化性細菌が良好に成育し得るように調製される。例えば、微生物にクロストリジウム属を用いる場合の培地は、米国特許出願公開2017/260552号の「0097」~「0099」等を参考にすることができる。
【0081】
微生物発酵工程により得られたエタノール含有液は、微生物やその死骸、微生物由来のタンパク質等を含む懸濁液として得ることができる。懸濁液中のタンパク質濃度は、微生物の種類により異なるが、通常は30~1000mg/Lである。なお、エタノール含有液中のタンパク質濃度は、ケルダール法により測定することができる。
【0082】
<分離工程>
微生物発酵工程により得られたエタノール含有液は、次いで分離工程に付される。本発明においては、エタノール含有液を、0.01~1000kPa(絶対圧)の条件下、室温~500℃に加熱して、微生物を含む液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに分離する。従来の方法では、微生物発酵工程により得られたエタノール含有液を蒸留し、所望とするエタノールを分離精製していたが、エタノール含有液には微生物や微生物由来のタンパク質等が含まれるため、エタノール含有液をそのまま蒸留すると蒸留装置内で発泡が生じ連続的な運転が妨げられる場合があった。また、発泡性液体の精製方法として膜式エバポレーターを使用することが知られているが、膜式エバポレーターは濃縮効率が低く、固体成分を含む液体の精製には適していない。本発明においては、微生物発酵工程により得られたエタノール含有液から蒸留操作等により所望のエタノールを分離精製する前に、エタノール含有液を加熱し、微生物を含む液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに分離し、分離されたエタノールを含む気体成分のみから、所望とするエタノールを分離精製するものである。分離工程を実施することにより、エタノールの分離精製時の蒸留操作において、蒸留装置内で発泡が生じなくなるため、連続的に蒸留操作を行うことができる。また、エタノール含有液中のエタノール濃度よりも、エタノールを含む気体成分中に含まれるエタノール濃度の方が高くなるため、後述する精製工程において、効率的にエタノールの分離精製を行うことができる。
【0083】
本発明においては、微生物やその死骸、微生物由来のタンパク質等が含まれる液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに効率的に分離する観点から、好ましくは10~200kPaの条件下、より好ましくは50~150kPaの条件下、さらに好ましくは常圧下で、好ましくは50~200℃の温度、より好ましくは80℃~180℃の温度、さらに好ましくは100~150℃の温度でエタノール含有液の加熱を行う。
【0084】
分離工程における加熱時間は、気体成分を得ることができる時間であれば特に制限はないが、効率性または経済性の観点から、通常は5秒~2時間、好ましくは5秒~1時間、より好ましくは5秒~30分である。
【0085】
上記した分離工程は、熱エネルギーにより、エタノール含有液を液体ないし固体成分(微生物やその死骸、微生物由来のタンパク質等)と気体成分(エタノール)とに効率的に分離できる装置であれば特に制限なく使用することができ、例えば、回転乾燥機、流動層乾燥機、真空型乾燥機、伝導加熱型乾燥機等の乾燥装置を用いることができるが、特に固体成分濃度が低いエタノール含有液から液体ないし固体成分と気体成分とに分離する際の効率の観点からは伝導加熱型乾燥機を用いることが好ましい。伝導加熱型乾燥機の例としては、ドラム型乾燥機やディスク型乾燥機等が挙げられる。
【0086】
<液化工程>
液化工程は、上記分離工程で得られたエタノールを含む気体成分を、凝縮により液化する工程である。液化工程で用いられる装置は、特に限定されないが、熱交換器、特にコンデンサー(凝縮器)を用いることが好ましい。凝縮器の例としては、水冷式、空冷式、蒸発式等が挙げられ、それらのなかでも水冷式が好ましい。凝縮器は一段でもよいし、複数段からなるものでもよい。
【0087】
液化工程により得られた液化物には、微生物やその死骸、微生物由来のタンパク質等のエタノール含有液に含まれていた成分が含まれていないことが好ましいといえるが、本発明においては、液化物中にタンパク質が含まれていることを排除するものではない。液化物中にタンパク質が含まれる場合であっても、その濃度は、40mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは20mg/L以下、さらに好ましくは15mg/L以下である。
【0088】
凝縮器によって得られた気体成分の凝縮熱は、後述する精製工程において熱源として再利用してもよい。凝縮熱を再利用することで、効率的かつ経済的にエタノールを製造することができる。
【0089】
<精製工程>
次に、液化工程で得られた液化物から、エタノールを精製する。微生物発酵工程で得られたエタノール含有液は、微生物等の成分が既に除去されている場合に、上記した分離工程を経ないで精製工程に供給することができる。精製工程は、液化工程において得られたエタノール含有液を、目的のエタノールの濃度を高めた留出液と、目的のエタノールの濃度を低下させた缶出液とに分離する工程である。精製工程に用いられる装置は、例えば、蒸留装置、浸透気化膜を含む処理装置、ゼオライト脱水膜を含む処理装置、エタノールより沸点の低い低沸点物質を除去する処理装置、エタノールより沸点の高い高沸点物質を除去する処理装置、イオン交換膜を含む処理装置等が挙げられる。これらの装置は単独でまたは2種以上を組み合わせてもよい。単位操作としては、加熱蒸留や膜分離を好適に用いてもよい。
【0090】
加熱蒸留では、蒸留装置を用いて、所望のエタノールを留出液として、高純度で得ることができる。エタノールの蒸留時における蒸留器内の温度は、特に限定されないが、100℃以下であることが好ましく、70~95℃程度であることがより好ましい。蒸留器内の温度を前記範囲に設定することにより、エタノールとその他の成分との分離、即ち、エタノールの蒸留をより確実に行うことができる。特に、液化工程において得られたエタノール含有液を、100℃以上のスチームを用いた加熱器を備えた蒸留装置に導入し、蒸留塔底部の温度を30分以内に90℃以上まで上昇させた後、上記エタノール含有液を蒸留塔中部から導入し、塔底部、塔中部、頭頂部の各部の温度差が、±15℃以内にて蒸留工程を行うことにより、高純度のエタノールを得ることができる。
【0091】
エタノールの蒸留時における蒸留装置内の圧力は、常圧であってもよいが、好ましくは大気圧未満、より好ましくは60~95kPa(絶対圧)程度である。蒸留装置内の圧力を前記範囲に設定することにより、エタノールの分離効率を向上させること、ひいてはエタノールの収率を向上させることができる。エタノールの収率(蒸留後に留出液に含まれるエタノールの濃度)は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。
【0092】
膜分離では、公知の分離膜を適宜用いることができ、例えばゼオライト膜を好適に用いることができる。
【0093】
精製工程において分離された留出液に含まれるエタノールの濃度は、20質量%~99.99質量%であることが好ましく、より好ましくは60質量%~99.9質量%である。
一方、缶出液に含まれるエタノールの濃度は、0.001質量%~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%~5質量%である。
【0094】
精製工程において分離された缶出液は、窒素化合物を実質的に含まない。なお、本発明において「実質的に含まない」とは、窒素化合物の濃度が0ppmであることを意味するものではなく、精製工程で得られる缶出液が排水処理工程を必要としない程度の窒素化合物濃度であることを意味する。分離工程においては、微生物発酵工程で得られたエタノール含有液から所望とするエタノールを精製するのではなく、上記のようにエタノール含有液を微生物を含む液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに分離する。その際に、窒素化合物は、微生物を含む液体ないし固体成分側に残るため、エタノールを含む気体成分中には窒素化合物がほとんど含まれていない。そのため、気体成分を液化した液化物からエタノールを精製する際に得られる缶出液には窒素化合物が実質的に含まれていないと考えられる。缶出液が窒素化合物に含まれる場合であっても、窒素化合物の濃度は、0.1~200ppm、好ましくは0.1~100ppm、より好ましくは0.1~50ppmである。
【0095】
また、上記と同様の理由により、精製工程において分離された缶出液はリン化合物を実質的に含まない。なお、「実質的に含まない」とは、リン化合物の濃度が0ppmであることを意味するものではなく、精製工程で得られる缶出液が排水処理工程を必要としない程度のリン化合物濃度であることを意味する。缶出液がリン化合物に含まれる場合であっても、リン化合物の濃度は、0.1~100ppm、好ましくは0.1~50ppm、より好ましくは0.1~25ppmである。このように、本発明の方法によれば、エタノールの精製工程において排出される缶出液には、窒素化合物やリン化合物が実質的に含まれておらず、他の有機物も殆ど含まれていないと考えられるため、従来必要とされていた排水処理工程を簡素化することができる。
【0096】
<排水処理工程>
精製工程において分離された缶出液は、排水処理工程に供給されてもよい。排水処理工程において、缶出液からさらに窒素化合物やリン化合物等の有機物を除去することができる。本工程では、缶出液を嫌気処理または好気処理することで有機物を除去してもよい。除去された有機物は、精製工程における燃料(熱源)として利用してもよい。
【0097】
排水処理工程における処理温度は、通常は0~90℃、好ましくは20~40℃、より好ましくは30~40℃である。
【0098】
分離工程を経て得られた缶出液は、微生物等を含む液体ないし固体成分が除去されているため、微生物発酵工程から直接精製工程に供給されて得られた缶出液よりも、排水処理などの負荷が軽減される。
【0099】
排水処理工程において、缶出液を処理して得られる処理液中の窒素化合物濃度は、好ましくは0.1~30ppm、より好ましくは0.1~20ppm、さらに好ましくは0.1~10ppmであり、窒素化合物が含まれないことが特に好ましい。また、処理液中のリン化合物濃度は、好ましくは0.1~10ppm、より好ましくは0.1~5ppm、さらに好ましくは0.1~1ppmであり、缶出液中にリン化合物が含まれないことが特に好ましい。
【0100】
<エタノールの用途>
本発明によるエタノールは、様々な有機化合物の製造原料として用いることができる。例えば、本発明によるエタノールは、ブタンジエン、エチレン、ポリエチレン、エチレングリコール、ポリエステル等の製造の原料として用いることができる。以下、本発明のエタノールを原料としてブタジエンを合成する方法、ならびにポリエチレンおよびポリエステルを製造する方法を一例として説明するが、他の化成品やポリマー原料にも使用できることはいうまでもない。
【0101】
<ブタジエンの合成方法>
ブタジエンは、主に石油からエチレンを合成(即ち、ナフサクラッキング)する際に副生するC4留分を精製することにより製造されており、合成ゴムの原料である。しかし、近年、石油から得られる化学工業原料に代えて、化石燃料由来ではないエタノール(微生物発酵由来のエタノール)を1,3-ブタジエンに変換する技術が切望されている。このような微生物発酵由来のエタノールを原料としてブタジエンを合成する方法としては、触媒としてMgOを使用する方法、AlとZnOの混合物を使用する方法、マグネシウムシリケート構造を有する触媒等が知られている。触媒としては、上記した以外にも、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ニオブ、銀、インジウム、セリウム等が使用される。
【0102】
本発明のエタノールと上記した触媒とを接触させ加熱することによりエタノール転化反応が生じて、1,3-ブタジエンを合成することができる。本発明のエタノールを原料としてブタジエンを合成することで、石油資源に依らない究極の資源循環社会を実現することが可能となる。
【0103】
当該転化反応を進行させるための加熱温度としては、反応系内の温度が、例えば300~450℃、好ましくは350~400℃となる程度である。反応系内の温度が上記範囲を下回ると、触媒活性が十分に得られなくなって反応速度が低下し製造効率が低下する傾向がある。一方、反応系内の温度が上記範囲を上回ると、触媒が劣化し易くなる恐れがある。
【0104】
反応は、回分式、半回分式、連続式等の慣用の方法により行うことができる。回分式または半回分式を採用した場合は、エタノールの転化率を高くすることができるが、本発明に係るエタノールであれば、連続式を採用しても、従来に比べて効率よくエタノールを転化することができる。この理由は明らかではないが、本発明のような一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする循環型資源由来のエタノールには、ガスクロマトグラフ質量分析法によって測定されたガスクロマトグラフにおいて、化石燃料由来のエタノールには見られない特有のピークが存在することによるものと考えられる。
【0105】
原料を上記触媒に接触させる方法としては、例えば、懸濁床方式、流動床方式、固定床方式等を挙げることができる。また、気相法、液相法のいずれであってもよい。触媒の回収や再生処理が簡便な点で、上記触媒を反応管に充填して触媒層を形成し、原料をガスとして流通させて気相にて反応させる固定床式気相連続流通反応装置を用いることが好ましい。 気相で反応を行う場合、本発明のエタノールをガス化して希釈することなく反応器に供給してもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガスにより適宜希釈して反応器に供給してもよい。
【0106】
エタノールの転化反応が終了した後、反応生成物(1,3-ブタジエン)は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製することができる。
【0107】
<ポリエチレン>
本発明によるエタノールは、汎用プラスチックとして多岐に使用されているポリエチレンの原料としても好適に使用することができる。従来のポリエチレンは、石油からエチレンを合成し、エチレンモノマーを重合することにより製造されていた。本発明のエタノールを使用してポリエチレンを製造することにより、石油資源に依らない究極の資源循環社会を実現することが可能となる。
【0108】
先ず、本発明によるエタノールを原料として、ポリエチレンの原料であるエチレンを合成する。エチレンの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法により得ることができ、一例として、エタノールの脱水反応によりエチレンを得ることができる。エタノールの脱水反応によりエチレンを得る際には通常触媒が用いられるが、この触媒は、特に限定されず、従来公知の触媒を用いることができる。プロセス上有利なのは、触媒と生成物の分離が容易な固定床流通反応であり、例えば、γ―アルミナ等が好ましい。
【0109】
脱水反応は吸熱反応であるため、通常加熱条件で行う。商業的に有用な反応速度で反応が進行すれば、加熱温度は限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上の温度が適当である。上限も特に限定されないが、エネルギー収支および設備の観点から、好ましくは500℃以下、より好ましくは400℃以下である。
【0110】
反応圧力も特に限定されないが、後続の気液分離を容易にするため常圧以上の圧力が好ましい。工業的には触媒の分離の容易な固定床流通反応が好適であるが、液相懸濁床、流動床等でもよい。
【0111】
エタノールの脱水反応においては、原料として供給するエタノール中に含まれる水分量によって反応の収率が左右される。一般的に、脱水反応を行う場合には、水の除去効率を考えると水が無いほうが好ましい。しかしながら、固体触媒を用いたエタノールの脱水反応の場合、水が存在しないと他のオレフィン、特にブテンの生成量が増加する傾向にある。許容される水の含有量の下限は、0.1%以上、好ましくは0.5%以上必要である。上限は特に限定されないが、物質収支上および熱収支の観点から、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0112】
上記のようにしてエタノールの脱水反応を行うことにより、エチレン、水および少量の未反応エタノールの混合部が得られるが、常温において約5MPa以下ではエチレンは気体であるため、これら混合部から気液分離により水やエタノールを除きエチレンを得ることができる。この方法は公知の方法で行えばよい。続いて気液分離により得られたエチレンはさらに蒸留され、このときの操作圧力が常圧以上であること以外は、蒸留方法、操作温度、および滞留時間等は特に制約されない。
【0113】
本発明のような一酸化炭素および水素を含むガスを基質とする循環型資源由来のエタノールには、ガスクロマトグラフ質量分析法によって測定されたガスクロマトグラフにおいて、化石燃料由来のエタノールには見られない特有のピークが存在する。そのため、エタノールから得られたエチレンには、極微量の不純物が含まれていると考えられる。エチレンの用途によっては、これら極微量の不純物が問題となるおそれがあるので、精製により除去しても良い。精製方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。好適な精製操作としては、例えば、吸着精製法をあげることができる。用いる吸着剤は特に限定されず、従来公知の吸着剤を用いることができる。例えば、エチレン中の不純物の精製方法として苛性水処理を併用してもよい。苛性水処理をする場合は、吸着精製前に行うことが望ましい。その場合、苛性処理後、吸着精製前に水分除去処理を施す必要がある。
【0114】
エチレンを含むモノマーの重合方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。重合温度や重合圧力は、重合方法や重合装置に応じて、適宜調節するのがよい。重合装置についても特に限定されず、従来公知の装置を用いることができる。以下、エチレンを含むモノマーの重合方法の一例を説明する。
【0115】
ポリオレフィン、特に、エチレン重合体やエチレンとα-オレフィンの共重合体の重合方法は、目的とするポリエチレンの種類、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等の密度や分岐の違いにより、適宜選択することができる。例えば、重合触媒として、チーグラー・ナッタ触媒等のマルチサイト触媒や、メタロセン系触媒等のシングルサイト触媒を用いて、気相重合、スラリー重合、溶液重合、および高圧イオン重合のいずれかの方法により、1段または2段以上の多段で行うことが好ましい。
【0116】
上記のシングルサイト触媒とは、均一な活性種を形成しうる触媒であり、通常、メタロセン系遷移金属化合物や非メタロセン系遷移金属化合物と活性化用助触媒とを接触させることにより、調整される。シングルサイト触媒は、マルチサイト触媒に比べて、活性点構造が均一であるため、高分子量かつ均一度の高い構造の重合体を重合することができるため好ましい。シングルサイト触媒としては、特に、メタロセン系触媒を用いることが好ましい。メタロセン系触媒は、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期律表第IV族の遷移金属化合物と、助触媒と、必要により有機金属化合物と、担体の各触媒成分とを含む触媒である。
【0117】
シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期律表第IV族の遷移金属化合物において、そのシクロペンタジエニル骨格とは、シクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基等である。置換シクロペンタジエニル基としては、炭素数1~30の炭化水素基等の置換基を有するものである。遷移金属としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム等が挙げられ、特にジルコニウム、ハフニウムが好ましい。該遷移金属化合物は、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子としては通常2個を有し、各々のシクロペンタジエニル骨格を有する配位子は架橋基により互いに結合しているものが好ましい。上記した遷移金属化合物は、一種または二種以上の混合物を触媒成分とすることができる。
【0118】
助触媒としては、上記した遷移金属化合物を重合触媒として有効になしうる、または触媒的に活性化された状態のイオン性電荷を均衝させうるものをいう。助触媒としては、有機アルミニウムオキシ化合物のベンゼン可溶のアルミノキサンやベンゼン不溶の有機アルミニウムオキシ化合物、イオン交換性層状珪酸塩、ホウ素化合物、活性水素基含有あるいは非含有のカチオンと非配位性アニオンからなるイオン性化合物、酸化ランタン等のランタノイド塩、酸化スズ、フルオロ基を含有するフェノキシ化合物等が挙げられる。
【0119】
上記した遷移金属化合物は、無機または有機化合物の担体に担持して使用されてもよい。該担体としては無機または有機化合物の多孔質酸化物が好ましく、具体的には、モンモリロナイト等のイオン交換性層状珪酸塩、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO等またはこれらの混合物が挙げられる。
【0120】
更に必要により使用される有機金属化合物としては、有機アルミニウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物等が例示される。このうち有機アルミニウムが好適に使用される。
【0121】
また、ポリオレフィンとして、エチレンの重合体やエチレンとα-オレフィンの共重合体を、単独で用いてもよいし、二種以上混合して用いてもよい。
【0122】
<エステル>
エタノールを種々のカルボン酸と反応させることにより多種多様なエステルを合成することができる。例えば、エタノールと安息香酸とから安息香酸エチルが得られ、またエタノールからエチレンを経てポリエステルの原料であるジエチレングリコール等を得ることもできる。本発明のエタノールを使用してポリエチレンを製造することにより、石油資源に依らない究極の資源循環社会を実現することが可能となる。
【0123】
ポリエステルは、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなり、ジオール単位としてエチレングリコールを用い、ジカルボン酸単位としてテレフタル酸およびイソフタル酸等を用いて重縮合反応により得られるものである。エチレングリコールは、本発明のエタノールを原料としたものであり、例えば、エタノールを、従来公知の方法により、エチレンオキサイドを経由してエチレングリコールを生成する方法等によりエチレングリコールを得ることができる。
【0124】
ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、およびそれらの誘導体を制限なく使用することができる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸およびイソフタル酸等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル、具体的には、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルおよびブチルエステル等が挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、ジメチルテレフタレートが好ましい。また、脂肪族ジカルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸ならびにシクロヘキサンジカルボン酸等の通常炭素数が2以上40以下の鎖状或いは脂環式ジカルボン酸が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸の誘導体として、上記脂肪族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルおよびブチルエステル等の低級アルキルエステルや、例えば無水コハク酸等の上記脂肪族ジカルボン酸の環状酸無水物が挙げられる。これらのなかでも、アジピン酸、コハク酸、ダイマー酸またはこれらの混合物が好ましく、コハク酸を主成分とするものが特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、アジピン酸およびコハク酸のメチルエステル、またはこれらの混合物がより好ましい。
【0125】
ポリエステルは、上記したジオール単位とジカルボン酸単位とを重縮合させる従来公知の方法により得ることができる。具体的には、上記のジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によって製造することができる。
【0126】
重縮合反応は、重合触媒の存在下に行うのが好ましく、重合触媒としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物等が挙げられる。
【0127】
ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、通常、150~260℃の範囲であり、反応雰囲気は、通常窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。
【0128】
重縮合反応工程において、鎖延長剤(カップリング剤)を反応系に添加してもよい。鎖延長剤は、重縮合終了後、均一な溶融状態で、無溶媒で反応系に添加し、重縮合により得られたポリエステルと反応させる。
【0129】
得られたポリエステルは、固化させた後、さらに重合度を高めたり、環状三量体などのオリゴマーを除去するために、必要に応じて固相重合を行ってもよい。
【0130】
ポリエステルの製造工程において、その特性が損なわれない範囲において各種の添加剤を添加してもよく、例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、摩擦低減剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤、着色顔料等を添加することができる。
【0131】
本発明によるエタノールは、上記したポリマーに限られず、他の種々のポリマーの原料として使用することができ、得られたポリマーの成形品はカーボンニュートラルな材料であるため、石油資源に依らない究極の資源循環社会を実現することが可能となる。
【0132】
<エタノールを含む製品>
本発明によるエタノールは、上記したようなポリマー原料としてのみならず、様々な製品にも使用することができる。製品としては、例えば、化粧品、香水、燃料、不凍液、殺菌剤、消毒剤、清掃剤、カビ取り剤、洗剤、洗髪剤、石鹸、制汗剤、洗顔シート、溶剤、塗料、接着剤、希釈剤、食品添加物等の化成品が挙げられる。これらの用途に用いることで、用途に応じた適切な効果を発揮することができる。
【実施例0133】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0134】
<エタノール成分評価方法>
以下の実施例、比較例において、エタノールの成分評価を、におい嗅ぎガスクロマトグラフ質量分析装置(JMS-Q1050GC Ultra Quad GC/MS日本電子社製)を用いた解析により行った。測定条件は以下のとおりとした。
<GC/MS法の分析条件>
カラム:DB-WAX(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)
オーブン温度:40℃、1分間→5℃/分→100℃、10分間→10℃/分→250℃、4分間
サンプリング時間:5分
キャリアガス:He(3.0mL/分)
【0135】
<ブタジエン定量方法>
ブタジエンの定量評価を、ガスクロマトグラフィー装置(GC-2014、SHIMADZU社製)を用いた解析により行った。測定条件は以下のとおりとした。
<GC/MS法の分析条件>
カラム:Rt-Q-BOND(長さ30m、内径0.32mm、膜厚10μm)
オーブン温度:60℃、11.5分間→10℃/分→100℃、14.5分間→10℃/分→250℃
サンプリング時間:5分
キャリアガス:He(30cm/s)
スプリット比率:75
【0136】
<安息香酸エチル定量方法>
安息香酸エチルの定量評価を、ガスクロマトグラフィー装置を用いた解析により行った。測定条件は以下のとおりとした。
<GC/MS法の分析条件>
カラム:DB-1(長さ30.0m、内径0.254mm、膜厚0.25m)
昇温条件:30℃-300℃ 15℃/min
キャリアガス:He 100kPa
スプリット比:50
【0137】
<燃焼効率定量方法>
エタノールの燃焼効率の定量評価をFTT社製のコーンカロリーメータを用いた総発熱量解析により行った。
【0138】
[実施例1]
<エタノールの調製>
以下のようにして、エタノールを製造した。
(原料ガス生成工程)
ごみ焼却設備で一般廃棄物を燃焼した後に排出されるガスを用いた。原料ガスの成分は、一酸化炭素約30%、二酸化炭素約30%、水素約30%および窒素は約10%であった。
【0139】
(合成ガス精製工程)
上記にて製造された原料ガスを不純物除去装置であるPSA装置を用いて、ガス温度を80℃まで加温した条件にて、合成ガス中に含まれている二酸化炭素を、もとの含有量(約30%)の60~80%となるように除去した後、150℃のスチームを用いた二重管式熱交換器にて、ガスの昇温と25℃の冷却水を用いた二重管式熱交換器を用いて再冷却を行い、不純物を析出させ析出した不純物をフィルターで除去することにより、合成ガスを製造した。
【0140】
(微生物発酵工程)
主反応器、合成ガス供給孔、および排出孔を備えた、クロストリジウム・オートエタノゲナム(微生物)の種菌と、菌培養用の液状培地(リン化合物、窒素化合物および各種ミネラル等を適切量含む)を充填した連続発酵装置(微生物発酵槽)に、上記のようにして得られた合成ガスを連続的に供給し、培養(微生物発酵)を連続300時間行った。その後、排出孔からエタノールを含有する培養液を約8000L抜き出した。
【0141】
(分離工程)
上記発酵工程で得られた培養液を、固液分離フィルター装置を用いて培養液導入圧200kPa以上の条件にて、エタノール含有液を得た。
【0142】
(蒸留工程)
続いて、エタノール含有液を、170℃のスチームを用いた加熱器を備えた蒸留装置に導入した。蒸留塔底部の温度を8~15分以内に101℃まで上昇させた後、上記エタノール含有液を蒸留塔中部から導入し、連続運転時においては、塔底部を101℃、塔中部を99℃、頭頂部を91℃にて、15秒/Lの条件にて連続運転し、精製されたエタノールを得た。
【0143】
(エタノール成分評価)
上記のようにして得られたエタノールについて、ガスクロマトグラフ分析結果は図1に示すとおりであった。
【0144】
(ブタジエンの製造方法)
上記のようにして得られたエタノールを用いてブタジエンを製造した。先ず、得られたエタノールは、反応に供するガスとするため、90℃に熱した単管にエタノールを通して気化させ、気化したエタノールガスを窒素と合流させた。この際のエタノールガスの流量をSV360L/hr/L、窒素をSV840L/hr/Lとなるようにマスフローでコントロールすることでエタノール30体積%(気体換算)と窒素70体積%(気体換算)との混合ガスとした。続いて、Hf、ZnおよびCeを主成分とするブタジエン合成用触媒0.85gが充填された直径1/2インチ(1.27cm)、長さ15.7インチ(40cm)のステンレス製の円筒型の反応管を、温度350℃、圧力(反応床の圧力)0.1MPaに保持しながら上記混合ガスを連続的に供給することにより、ブタジエン含有ガスを得た。得られたブタジエン含有ガスをGC-2014(SHIMADZU社製)のガスクロマトグラフィー装置を用いてブタジエンの含有量を定量した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0145】
[比較例1]
化石燃料由来エタノールである99度エタノール(甘糟化学産業株式会社製)を用いて、実施例1と同様の方法によりブタジエンを製造し、実施例1と同様にしてブタジエンの含有量を定量した。結果は表1に示されるとおりであった。なお、使用したエタノールの成分評価を実施例1と同様にして行った。ガスクロマトグラフ分析結果は図2に示すとおりであった。
【0146】
[比較例2]
植物の糖化発酵由来である99度エタノール(甘糟化学産業株式会社製)を用いて、実施例1と同様の方法によりブタジエンを製造し、実施例1と同様にしてブタジエンの含有量を定量した。結果は表1に示されるとおりであった。なお、使用したエタノールの成分評価を実施例1と同様にして行った。ガスクロマトグラフ分析結果は図3に示すとおりであった。
【0147】
【表1】
【0148】
表1に示されるとおり、ごみ焼却設備で一般廃棄物を燃焼した後に排出されるガスを用いて製造されたエタノールは、従来の化石燃料由来のエタノールや植物からの糖化発酵由来のエタノールに比べて、ブタジエンへの変換効率が高いことが分かった。
【0149】
[実施例2]
(安息香酸エチルの製造)
実施例1で使用したエタノールと同じエタノールを用い、以下のようにして安息香酸エチルを製造した。先ず、アルゴン気流下において、安息香酸36.8gとエタノール200mlを混合させ、濃硫酸9mlを加えて還流させながら5時間攪拌した。その後、室温まで放冷し、減圧下で未反応エタノールを除去し、ジエチルエーテル100mlで合成した安息香酸エチルを回収した。回収した液を蒸留水で洗浄し、硫化マグネシウムを用いて乾燥させた後、ろ過濃縮した。
得られたろ液を、ガスクロマトグラフィー装置を用いて成分分析を行い、安息香酸エチル合成量を定量した。その際の分析条件を以下に示す。分析結果は表2に示されるとおりであった。
カラム:DB-1(長さ30.0m、内径0.254mm、膜厚0.25m)
昇温条件:30-300℃ 15℃/min
キャリアガス:He 100kPa
スプリット比:50
【0150】
[比較例3]
比較例1で使用した石油化学由来のエタノールを用いた以外は実施例2と同様にして安息香酸エチルを製造し、定量した。分析結果は表2に示されるとおりであった。
【0151】
[比較例4]
比較例2で使用した石油化学由来のエタノールを用いた以外は実施例2と同様にして安息香酸エチルを製造し、定量した。分析結果は表2に示されるとおりであった。
【0152】
【表2】
【0153】
表1に示されるとおり、ごみ焼却設備で一般廃棄物を燃焼した後に排出されるガスを用いて製造されたエタノールは、従来の化石燃料由来のエタノールや植物からの糖化発酵由来のエタノールに比べて、安息香酸エチルへの変換効率が高いことが分かった。
【0154】
[実施例3]
実施例1で使用したエタノールと同じエタノールを用いエタノールの燃焼効率を定量した。燃料効率は、無加熱条件下にて、長さ60mm×幅60mm×高さ30mmの耐熱容器にエタノール30gを加えたのち着火し、コーンカロリーメータ(FTT社製)内で完全に燃焼しきるまでの酸素減少量を測定し、酸素減少量に基づいて総発熱量を算出することにより定量した。定量結果は表3に示されるとおりであった。
【0155】
[比較例5]
比較例1で使用したエタノールを使用した以外は、実施例3と同様にしてエタノールの燃焼効率を定量した。定量結果は表3に示されるとおりであった。
【0156】
[比較例6]
比較例2で使用したエタノールを使用した以外は、実施例3と同様にしてエタノールの燃焼効率を定量した。定量結果は表3に示されるとおりであった。
【0157】
【表3】
【0158】
表1に示されるとおり、ごみ焼却設備で一般廃棄物を燃焼した後に排出されるガスを用いて製造されたエタノールは、従来の化石燃料由来のエタノールや植物からの糖化発酵由来のエタノールに比べて、燃焼効率が高いことが分かった。
図1
図2
図3