(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160838
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】新規VEGFR-2ターゲット免疫療法アプローチ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231026BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231026BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20231026BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231026BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20231026BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20231026BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231026BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231026BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N1/21 ZNA
C12N1/20 E
C12N15/63 Z
A61K35/74 Z
A61K38/16
A61K39/00 H
A61K48/00
A61P35/00
A61K9/10
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023133276
(22)【出願日】2023-08-18
(62)【分割の表示】P 2019544614の分割
【原出願日】2018-02-16
(31)【優先権主張番号】17156718.3
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】514158040
【氏名又は名称】バクシム アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ リュベナウ
(57)【要約】
【課題】癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株提供。
【解決手段】癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株であって、前記癌がVEGF受容体タンパク質を発現する癌細胞から選択される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラ(Salmonella)の弱毒化株であって、前記癌が、VEGF受容体タンパク質を発現する癌細胞により特徴づけられる、サルモネラの弱毒化株。
【請求項2】
前記癌が、膠芽腫、カルチノイド腫瘍(carcinoid cancer)、腎臓癌、特に腎細胞癌、甲状腺癌、肺癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、消化管癌、特に大腸癌(colorectal cancer)、より具体的には結腸癌、及び皮膚癌、特に黒色腫から成る群より選択される、請求項1に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項3】
少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質を発現する癌細胞を含む患者への癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株。
【請求項4】
前記サルモネラの弱毒化株がサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)種のものであり、特に前記サルモネラの弱毒化株がチフス菌(Salmonella typhi)Ty21aである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項5】
前記発現カセットが真核細胞発現カセットであり、特に前記発現カセットがCMVプロモーターを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項6】
前記VEGF受容体タンパク質がVEGFR-2であり、特に前記VEGF受容体タンパク質が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するVEGFR-2及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質から成る群より選択され、特に前記VEGF受容体タンパク質が配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項7】
前記DNA分子が、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori及びCMVプロモーターを含み、特に前記DNA分子が、配列番号2に示されるDNA配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項8】
前記癌免疫療法が、化学療法、放射線療法又は生物学的癌療法と併用され、特に前記サルモネラの弱毒化株が、化学療法又は放射線療法又は生物学的癌療法の前、期間中もしくは後に投与されるか、あるいは化学療法又は放射線療法又は生物学的癌療法の前及び期間中に投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項9】
前記生物学的癌療法が、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする少なくとも1つの追加のDNAワクチンの投与を含み、特に前記追加のDNAワクチンが、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする追加の発現カセットを含む追加のDNA分子の少なくとも1コピーを含む少なくとも1つの追加のサルモネラの弱毒化株から選択され、特に前記少なくとも1つの追加のサルモネラの弱毒化株が、追加の真核細胞発現カセットを含むチフス菌(Salmonella typhi)Ty21aである、請求項8に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項10】
前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンによりコードされる前記腫瘍抗原が、ヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、ヒトメソテリン(MSLN)、ヒトCEA及びCMV pp65から成る群より選択される、請求項9に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項11】
前記腫瘍抗原が、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)及びそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するヒトメソテリン(MSLN)及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するヒトCEA及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、並びに配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質から成る群より選択される、請求項10に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項12】
前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンによりコードされる前記腫瘍間質抗原が、ヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)である、請求項9に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項13】
前記サルモネラの弱毒化株が経口投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項14】
前記サルモネラの弱毒化株の単回投与量が、約105~約1011、特に約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約106~約108、より具体的には約106~約107コロニー形成単位(CFU)を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【請求項15】
患者における少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2の発現パターン及び/又はそれに対する免疫前応答を評価する工程を含む、個別化癌免疫療法に使用するための、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のためのサルモネラの弱毒化株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラ(Salmonella)の弱毒化株であって、前記癌がVEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞により特徴づけられる、サルモネラの弱毒化株に関する。本発明は更に、癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株であって、前記癌がVEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞により特徴づけられ、そして前記癌が膠芽腫、カルチノイド腫瘍(carcinoid cancer)、腎臓癌、特に腎細胞癌、甲状腺癌、肺癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、消化管癌、特に大腸癌(colorectal cancer)、より具体的には結腸癌、及び皮膚癌、特に黒色腫から成る群より選択されるサルモネラの弱毒化株に関する。本発明は更に、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞を有する患者における癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、固形腫瘍の増殖と転移の一因となる重要な要素である。血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)2(KDR又はFlk-1としても知られる)は、血管内皮増殖因子(VEGF)に対して高親和性を有する受容体であり、それが増殖、遊走及び血管形成といったあらゆる重要な内皮機能に関与しているため、固形腫瘍における血管新生の主要メディエーターであると考えられている。腫瘍の新血管形成は、VEGFR-2を過剰発現しており、血流を介して容易にアクセス可能である内皮細胞で囲まれている。それらの細胞の遺伝的安定性と、内皮細胞あたり何百という腫瘍細胞を支持できる能力のため、それらの細胞が抗体、チロシンキナーゼ阻害剤又はワクチンを介して行われる抗癌療法のための主要な標的となっている(Augustin, Trends Pharmacol Sci 1998, 19:216-222)。今日まで、VEGF/VEGFR2シグナル伝達経路が多数の抗血管新生療法アプローチにおいてターゲットとされてきた。ベバシズマブ他のような化合物、例えば腫瘍の新血管形成を特異的にターゲティングするスニチニブやアキシチニブのような小分子が、ある範囲の腫瘍徴候において有効性を示している(Powles他、Br J Cancer 2011, 104(5): 741-5); Rini他、Lancet 2011, 378:1931-1939)。
【0003】
WO 2014/005683は、癌免疫療法用の、特に膵臓癌の治療用の、VEGF受容体タンパク質をコードする組換えDNA分子を含む、サルモネラ弱毒変異株を開示している。
【0004】
WO 2016/202459は、癌治療用の、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株を開示しており、ここで該治療は少なくとも1つの追加の抗癌剤の投与を更に含む。
【0005】
WO 2013/09189は、ガラクトースエピメラーゼ活性を欠きかつ組換えDNA分子を所有する弱毒化変異チフス菌(Salmonella typhi)株の増殖方法を開示している。
【0006】
VEGF受容体は、長きに渡り悪性の血管系、すなわち腫瘍間質に制限されると思われてきた。しかしながら、最近の発現解析により、腫瘍細胞それ自体の上での血管内皮増殖因子受容体、特にVEGFR-2の発現が明らかになった。様々な起源の癌細胞において腫瘍特異的VEGF受容体発現が観察された。このことは、VEGFが新血管形成を促進するだけでなく腫瘍形成においても付加的作用を持つ可能性があることを示唆している。
【0007】
〔発明の目的〕
本発明の目的は、VEGF受容体をターゲットとする、安全でかつ効率的な新規癌免疫療法アプローチを提供することである。そのような新規癌療法アプローチは、癌患者の治療法の選択肢を改善するのに有益な利点を提供するだろう。
【発明の概要】
【0008】
〔発明の要約〕
最近の発現解析は、様々な起源の癌細胞における血管内皮増殖因子受容体、特にVEGFR-2の腫瘍特異的発現を明らかにした。しかしながら、腫瘍特異的VEGF受容体発現の生物学的役割は不明なままである。膠芽腫に対する腫瘍特異性VEGFR-2発現の効果に関する入手可能なデータが大きな物議を醸している。Kessler他(Oncotarget, 2015)は、グリオーマ細胞におけるVEGFR-2発現がグリオーマ細胞の増殖を促進しかつ様々な化学療法薬に対するグリオーマ細胞の耐性を増加させることを報告している一方、Lu他(Cancer Cell, 2012)は、VEGFがVEGFR-2を介して腫瘍細胞の浸潤を直接かつ負に制御することを発見した。
【0009】
本発明は、VEGF受容体をターゲットとするサルモネラ菌ベースのDNAワクチンが、腫瘍の血管系のみでVEGF受容体発現を示している腫瘍に比較して、(任意に腫瘍血管系でのVEGF受容体発現に加えて)腫瘍特異的VEGF受容体発現を示している腫瘍に対して特に有効であるという驚くべき発見に基づく。本発明の範囲内で、「腫瘍特異的VEGF受容体発現」という用語は、腫瘍血管系に対立するものとして、腫瘍細胞それ自体におけるVEGF受容体の発現を指す。
【0010】
よって、第一の態様では、本発明は、癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株に関し、ここで前記癌はVEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞により特徴づけられる。
【0011】
第二の態様では、本発明は、癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含む、サルモネラの弱毒化株に関し、ここで前記癌はVEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞により特徴づけられ、そして前記癌が膠芽腫、カルチノイド腫瘍、腎臓癌、特に腎細胞癌、甲状腺癌、肺癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、消化管癌、特に大腸癌、より具体的には結腸癌、及び皮膚癌、特に黒色腫から成る群より選択される。
【0012】
第三の態様では、本発明は、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞を含む患者における癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株に関する。
【0013】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒株は、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)種の菌株である。特に、サルモネラの弱毒化株は、チフス菌(Salmonella typhi)Ty21aの弱毒株である。
【0014】
特定の実施形態では、発現カセットは真核生物発現カセットである。特に、発現カセットはCMVプロモーターを含む。
【0015】
特定の実施形態では、VEGF受容体タンパク質は、特にヒトVEGFR-2である。特に、VEGF受容体タンパク質は、配列番号1中に示されるアミノ酸配列を有するVEGFR-2、及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質から成る群より選択される。特に、VEGF受容体タンパク質は配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する。
【0016】
特定の実施形態では、DNA分子は、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori及びCMVプロモーターを含む。特に、そのような実施形態では、DNA分子は配列番号2に示されるようなDNA配列を含む。
【0017】
特定の実施形態では、癌免疫療法は、化学療法、放射線療法又は生物学的癌療法と併用される。特にそのような実施形態では、サルモネラの弱毒化株が、化学療法又は放射線療法処置又は生物学的癌療法の前、期間中もしくは後に投与され、あるいは化学療法又は放射線療法処置又は生物学的癌療法の前及び期間中に投与される。
【0018】
特定の実施形態では、生物学的癌療法は、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする少なくとも1つの追加のDNAワクチンの投与を含む。特に、そのような実施形態では、前記腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする少なくとも1つの追加のDNAワクチンが、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする追加の発現カセットを含む追加のDNA分子の少なくとも1コピーを含む、少なくとも1種の追加のサルモネラの弱毒化株から選択される。特に、前記少なくとも1種の追加のサルモネラの弱毒化株は、追加の真核生物発現カセットを含むチフス菌(Salmonella typhi)Ty21aである。
【0019】
特定の実施形態では、前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンによりコードされる前記腫瘍抗原が、ヒトウィルムス腫瘍(Wilms’Tumor)タンパク質(WT1)、ヒトメソテリン(MSLN)、CEA及びCMV pp65から成る群より選択される。特に、前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンによりコードされる前記腫瘍抗原は、配列番号3に示されるようなアミノ酸配列を有するヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)及びそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号4に示されるようなアミノ酸配列を有するヒトメソテリン(MSLN)及びそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するヒトCEA及びそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号6に示されるようなアミノ酸配列を有するCMV pp65及びそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号7に示されるようなアミノ酸を有するCMV pp65及びそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、並びに、配列番号8に示されるようなアミノ酸配列を有するCMV pp65及びそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質から成る群より選択される。特に、ヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)は配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し、ヒトメソテリン(MSLN)は配列番号4に示されるアミノ酸配列を有し、ヒトCEAは配列番号5に示されるアミノ酸配列を有し、そしてCMV pp65は配列番号6、配列番号7又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンによりコードされる前記腫瘍間質抗原は、ヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)から成る群より選択される。
【0020】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は経口投与される。
【0021】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株の単回投与量(single dose)は、約105~約1011、特に約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約106~約108、更により具体的には約106~約107コロニー形成単位(CFU)を含む。
【0022】
特定の態様では、サルモネラの弱毒化株は、患者において少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2の発現パターン及び/又は該タンパク質に対する免疫前応答を評価する工程を含む個別化免疫療法において用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】プラスミドpVAX10.VR2-1中に含まれるVEGFR-2 cDNAによりコードされる、ヒトVEGFR-2のアミノ酸配列(配列番号1)。
【
図2】空の発現ベクターpVAX10中に含まれる核酸配列(制限部位NheIとXhoIの間に位置する多重クローニング部位の部分を含まない発現ベクターpVAX10の配列)(配列番号2)。
【
図3】プラスミドpVAX10.hWT1中に含まれるWT-1 cDNAによりコードされる、切断型(亜鉛フィンガードメインが削除された)ヒトWT-1のアミノ酸配列(配列番号3)。
【
図4】プラスミドpVAX10.hMSLN中に含まれるMSLN cDNAによりコードされるヒトMSLNのアミノ酸配列(配列番号4)。
【
図5】プラスミドpVAX10.hCEA中に含まれるCEA cDNAによりコードされるヒトCEAのアミノ酸配列(配列番号5)。
【
図6】プラスミドpVAX10.CMVpp65_1中に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされるCMV pp65のアミノ酸配列(配列番号6)。
【
図7】プラスミドpVAX10.CMVpp65_2中に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされるCMV pp65のアミノ酸配列(配列番号7)。
【
図8】プラスミドpVAX10.CMVpp65_3中に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされるCMV pp65のアミノ酸配列(配列番号8)。
【
図9】pVAX10.VR2-1のプラスミド地図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔発明の詳細な説明〕
第一の態様では、本発明は、癌免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株に関し、ここで前記癌は、VEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2を発現している癌細胞により特徴づけられる。
【0025】
本発明の状況下では、「VEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞により特徴づけられる癌」という用語は、mRNAレベルで及び/又はタンパク質レベルで、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2を発現する癌細胞の存在により特徴づけられる癌症状を言う。特定の実施形態では、mRNAレベル及び/又はタンパク質レベルでの、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2の発現が、同じ組織型の非癌細胞に比較して増加されている。例えば、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2の発現が、同患者の同組織型の非癌細胞と比較して増加されていてよい。別の実施形態では、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2の発現が、代表的な健常な対象者集団における同組織の非癌性細胞における平均発現に比較して増加されていてよい。VEGF受容体タンパク質発現により特徴づけられる癌症状としては、特に、膠芽腫、カルチノイド腫瘍、腎臓癌、特に腎細胞癌、甲状腺癌、肺癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、消化管癌、特に大腸癌、より具体的には結腸癌、及び皮膚癌、特に黒色腫が挙げられる。
【0026】
よって、第二の態様では、本発明は、癌免疫療法において用いられる、VEGF受容体タンパク質、特にVEFGR-2をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含む、サルモネラの弱毒化株であって、前記癌がVEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞、特にVEGFR-2を発現している癌細胞により特徴づけられ、前記癌が膠芽腫、カルチノイド腫瘍、腎臓癌、特に腎細胞癌、甲状腺癌、肺癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、消化管癌、特に大腸癌、より具体的には結腸癌、及び皮膚癌、特に黒色腫から成る群より選択される、サルモネラの弱毒化株に関する。
【0027】
VEGFR-2ターゲット免疫療法のための特に有望な適応症の1つは、膠芽腫である。膠芽腫は非常に高度な腫瘍血管形成を示す。更に、VEGFR-2は腫瘍の脈管構造と腫瘍細胞の両方に対してターゲット(標的)とすることができる。膠芽腫患者の約20%~50%が腫瘍特異的VEGFR-2発現を示し、これは特に浸潤前面のところで観察される。更に、VEGFR-2発現はグリオーマ様幹細胞で観察された。今まで、膠芽腫のための治療選択肢は不十分なままである。例えば、VEGFのみをターゲットとするモノクローナル抗体アバスチンは、無増悪生存において効用を示したが、全生存率においては効用が示されなかった。
【0028】
第三の態様では、本発明は、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質を発現する癌細胞、特に少なくとも1つのVEGFR-2を発現する癌細胞を有する癌患者における免疫療法に使用するための、VEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株に関する。
【0029】
本発明の特定の実施形態では、患者は、VEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞により特徴づけられる癌を有すること、又は少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質を発現している癌細胞を有することが決定されている。第一段階では、患者の腫瘍特異的VEGF受容体タンパク質発現、例えばVEGFR-2の腫瘍特異的発現が、mRNA又はタンパク質レベルで、好ましくはインビトロ(in vitro)で評価され得る。そのためには、腫瘍組織試料(例えば生検)が、例えば免疫組織化学染色により染色されるか、又はそれらをin situハイブリダイゼーション操作にかけることができる。組織特異的抗原発現の評価方法は当該技術分野で周知である。
【0030】
本発明によれば、弱毒化サルモネラ菌株は、標的細胞への組換えDNA分子の送達のためにVEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含む組換えDNA分子の細菌性キャリア(担体)として機能する。異種抗原(例えばVEGF受容体タンパク質)をコードするDNA分子を含む、そのような送達ベクターは、DNAワクチンと呼ばれる。よって、用語「~をコードするDNAワクチン」及び「~をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含むサルモネラの弱毒化株」は、本明細書中、互換的に用いられる。
【0031】
本発明の状況下では、「ワクチン」という用語は、投与すると対象に免疫応答を誘発することができる剤を指す。ワクチンは好ましくは疾患を予防する、軽減する又は治療することができる。
【0032】
本発明による生きた弱毒化サルモネラ菌株は、VEGF受容体タンパク質をコードする組換えDNA分子を安定的に担持している。それはこの組換えDNA分子の経口投与のためのビヒクルとして使用することができる。
【0033】
遺伝子による免疫処置は、従来の予防接種よりも有利であると思われる。標的DNAが相当な期間に渡って検出されるので、抗原のデポー剤として作用することができる。GpCアイランドのような幾つかのプラスミド中の配列モチーフは、免疫刺激性であり、LPSや他の細菌成分による免疫刺激により促進されるアジュバントとして機能することができる。
【0034】
生きた弱毒化サルモネラ菌ベクターは、リポ多糖(LPS)などの自身の免疫活性調節因子をインサイチュで産生し、それは微小胞などの他の投与形態を上回る利点を生じ得る。更に、本発明による粘膜ワクチンは、有益であると証明されているリンパ管内の作用形態を有する。本発明の弱毒化ワクチンの接種後、消化管のパイエル板中のマクロファージや他の細胞が、変異した細菌によって侵攻される。食細胞により細菌が取り込まれる。それらの弱毒突然変異のため、チフス菌(S. typhi)Ty21株の細菌はそれらの食細胞中で存続することができず、この時点で死滅する。組換えDNA分子が放出され、続いて特別な輸送系を介して又はエンドソーム溺出によって貧食免疫細胞のサイトゾルの中に移行する。最終的に、組換えDNA分子は核の中に入り、そこで転写を受けて、食細胞のサイトゾル中で大量のVEGF受容体タンパク質発現を引き起こす。感染した細胞はアポトーシスを受け、VEGF受容体タンパク質抗原上に担持され、消化管の免疫系により取り込まれてプロセシングを受ける。細菌感染の危険信号はこの過程において強力なアジュバントとして作用し、標的抗原特異的CD8+T細胞と、全身及び粘膜区画の両方のレベルで強力な抗体応答を誘導する。免疫応答は予防接種後10日目あたりにピークになる。抗キャリヤ応答がないことにより、何回もの同じワクチンでのブースト(boosting)が可能になる。
【0035】
本発明の文脈において、用語「弱毒化」とは、弱毒突然変異を持たない親の菌株に比較して、減少した病原性の菌株を指す。弱毒化菌株は、好ましくは病原性を失っているが防御免疫を誘導する能力は保持している。弱毒化は、病原性遺伝子、調節遺伝子及び代謝遺伝子といった様々な遺伝子の欠失により達成することができる。弱毒化菌は天然にも見出されるが、例えば新しい培地もしくは細胞培養への順応により、研究室で人工的に製造することができ、あるいは組換えDNAにより生産することができる。約1011 CFUの本発明の弱毒化サルモネラ株の投与が、被験者の5%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは1%未満にサルモネラ症を引き起こす。
【0036】
本発明の文脈において、用語「含む」又は「含んでいる」は、「含むがそれに限定されない」を意味する。この用語は非限定的(open-ended)であり、任意の言及された特徴、要素、整数、工程又は成分の存在を特定するが、1もしくは複数のその他の特徴、要素、整数、工程又は成分あるいはそれらの群を除外するものはない。従って、「含む」という用語は、より限定的な用語「から成る」や「本質的に~から成る」も包含する。一実施形態では、本明細書全体を通して及び特に特許請求の範囲の中で用いられる「含む」という用語は、用語「から成る」により置き換えることが可能である。
【0037】
VEGF受容体タンパク質をコードする発現カセットを含むDNA分子は、適切には、組換えDNA分子、すなわち遺伝子操作されたDNA構成物、好ましくは異なる起源のDNA断片から成るDNA構成物である。該DNA分子は直鎖状核酸、又は好ましくは発現ベクタープラスミド中にVEGF受容体タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを導入することにより作製された環状DNAプラスミドであることができる。
【0038】
本発明の文脈において、用語「発現カセット」は、その発現を制御する調節配列の支配下に少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸ユニットを指す。発現カセットは好ましくは、標的細胞において、抗原、例えばVEGF受容体タンパク質をコードする含まれたオープンリーディングフレームの転写を媒介することができる。発現カセットは、典型的にはプロモーター、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム及び転写終結シグナルを含む。
【0039】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)種のものである。S.エンテリカ株は潜在的に免疫処置の粘膜経路、すなわち経口又は経鼻によって送達でき、これは非経口投与に比較して単純さと安全性の利点を提供するため、サルモネラ菌の弱毒化誘導体は、哺乳動物免疫系に異種抗原を送達するための魅力的なビヒクルである。更に、サルモネラ株は、全身及び粘膜部分のレベルで強力な体液性及び細胞性免疫応答を惹起する。バッチ生産コストは低く、生細菌ワクチンの製剤は非常に安定である。弱毒化は、病原性遺伝子、調節遺伝子及び代謝遺伝子をはじめとする様々な遺伝子の欠失により達成することができる。
【0040】
aro突然変異により弱毒化された幾つかのサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)株が、動物モデルにおいて異種抗原の安全でかつ効率的な送達媒体であることが証明された。
【0041】
特定の実施形態では、サルモネラ弱毒化株及びサルモネラの少なくとも1つの追加の弱毒化株は、チフス菌(サルモネラ・チフィ Salmonella typhi)Ty21aである。生きた弱毒化チフス菌Ty21a株は、Typhoral L(登録商標)(これはViotif(登録商標)としても知られている)(Berna Biotech Ltd., Crucell Company, スイス,により製造)の活性成分である。それは腸チフスに対する現在唯一の認可されている経口生ワクチンである。このワクチンは広範囲で試験されており、患者への毒性と第三者への伝染に関して安全であると証明されている(Wahdan他、J. Infectious Diseases 1982, 145:292-295)。該ワクチンは40か国以上で承認され、何千という児童を含む数百万人の個体において腸チフスの予防に使用されている。それは比類なき安全性実績を有する。チフス菌Ty21aが全身的に血流に入ることができることを示す利用可能なデータは存在しない。弱毒化されたチフス菌Ty21a生ワクチン株は、よって、安全でかつ十分に忍容されつつ、消化管での免疫系の特異的ターゲティングを可能にする。Typhoral L(登録商標)の製造承認番号は、1996年12月16日付のPL 1574/0001である。単回投与量のワクチンは少なくとも2×109の生存可能チフス菌Ty21aコロニー形成単位及び少なくとも5×109の非生存性チフス菌Ty21a細胞を含有する。
【0042】
この腸チフスに対する十分に忍容された経口生ワクチンは、野生型病原性細菌単離株S.チフィTy2の化学的突然変異誘発により誘導され、該ワクチンはガラクトースを代謝する能力の欠損を引き起こすgalE遺伝子中に機能消失型変異を有する。この弱毒化菌株は、スルフェート(sulfate)をスルフィド(sulfide)に還元することができず、この性質はそれを野生型サルモネラ・チフィTy2株から区別する。その血清学的特徴に関して、チフス菌Ty21a株は、細菌の外膜を構成する多糖であるO9抗原を含み、かつチフス菌の特徴的成分であるO5抗原を欠いている。この血清学的性質は、バッチ放出の同一性試験のパネルにおいて各試験を含めるための論拠である。
【0043】
特定の実施形態では、発現カセットは真核細胞発現カセットである。特に、発現カセットはCMVプロモーターを含む。本発明上、用語「真核細胞発現カセット」は、真核細胞におけるオープンリーディングフレームの発現を可能にする発現カセットを指す。適当な免疫応答を誘導するのに必要とされる異種抗原の量が、該細菌にとって毒性であり、そして細胞死、過剰な弱毒化、及び異種抗原の発現の喪失にいたるであろうことが証明されている。細菌ベクター中で発現されず標的細胞中でのみ発現される真核細胞発現カセットを用いて、この毒性問題を克服することが可能であり、発現されたタンパク質は、典型的には真核性グリコシル化パターンを示す。
【0044】
真核細胞発現カセットは、真核細胞中でのオープンリーディングフレームの発現を制御することができる調節配列、好ましくはプロモーターとポリアデニル化シグナルを含む。本発明のサルモネラの弱毒化株に含まれる組換えDNA分子中に挿入されるプロモーターとポリアデニル化シグナルは、好ましくは、免疫処置すべき対象者の細胞中で機能的であるように選択される。特にヒト用のDNAワクチンの生産のための、適当なプロモーターの例は、限定されないが、サイトメガロウイルス(CMV)、例えば強力なCMV最初期プロモーター(CMV immediate early promoter)、シミアンウイルス40(SV40)、マウス哺乳類腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、例えばHIV長い末端反復(Long Terminal Repeat)(LTR)プロモーター、モロニーウイルス、エプスタイン・バーウイルス(EBV)及びラウス肉腫ウイルス(RSV)からのプロモーター、CMV初期エンハンサー要素から成る合成CAGプロモーター、ニワトリβ-アクチン遺伝子、第一エクソン及び第一イントロン、ウサギβグロビン遺伝子のスプライスアクセプター、並びにヒト遺伝子、例えばヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン及びヒトメタロチオネインからのプロモーターが挙げられる。特定の実施形態では、真核細胞発現カセットはCMVプロモーターを含む。本発明においては、「CMVプロモーター」という用語は強力な最初期サイトメガロウイルスプロモーターを指す。
【0045】
特にヒトのDNAワクチン生産のための、適当なポリアデニル化シグナルの例としては、限定されないが、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位、SV40ポリアデニル化シグナル、及びLTRポリアデニル化シグナルが挙げられる。特定の実施形態では、本発明のサルモネラの弱毒化株による組換えDNA分子中に含まれる真核細胞発現カセットは、BGHポリアデニル化部位を含む。
【0046】
プロモーターやポリアデニル化シグナルのようなVEGF受容体タンパク質の発現に必要である調節要素に加えて、他の要素も組換えDNA分子中に含めることができる。そのような追加の要素としては、エンハンサーが挙げられる。エンハンサーは例えば、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋クレアチンのエンハンサー、並びにウイルスエンハンサー、例えばCMV、RSV及びEBVからのものである。
【0047】
調節配列及びコドンは、一般に、タンパク質生産を最大にするために種依存性であり、該調節配列とコドンは好ましくは免疫処置すべき種において効率的であるように選択される。当業者は、特定の対象者の種において機能的である組換えDNA分子を生産することができる。
【0048】
特定の実施形態では、VEGF受容体タンパク質がVEGFR-2、特にヒトVEGFR-2である。特に、VEGF受容体タンパク質が、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するVEGFR-2、及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質から成る群より選択される。特に、VEGF受容体タンパク質は配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する。
【0049】
これに関連して、用語「約」又は「およそ」は、与えられた数値又は範囲の80%~120%以内、あるいは90%~110%以内、特に95%~105%以内を意味する。
【0050】
本発明の範囲では、「所定のタンパク質、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するVEGFR-2と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質」という用語は、前記参照タンパク質、例えば配列番号1のアミノ酸配列を有するVEGFR-2、のアミノ酸配列をコードするアミノ酸配列とは異なりうるタンパク質を指す。そのようなタンパク質は天然源のもの、例えば野生型タンパク質の変異型、例えば野生型VEGFR-2の変異型、又は異なる種の相同体、又は操作されたタンパク質、例えば操作されたVEGFR-2であることができる。コドンの使用は種間で異なることが知られている。よって、標的細胞中の異種タンパク質を発現させる時、標的細胞のコドン使用に該核酸配列を合わせることが必要であり、又は少なくとも有用であるかもしれない。所定のタンパク質の誘導体を設計し構築する方法は、当業者に周知である。
【0051】
所定のタンパク質、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するVEFGR-2と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質は、参照タンパク質、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するVEFGR-2に比較して、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換を含む1つ以上の変異を含むことができる。本発明の教示によれば、前記欠失、付加及び/又は置換されるアミノ酸は、連続アミノ酸であってもよく、あるいは参照タンパク質、例えば配列番号1に示されたアミノ酸配列を有するVEGFR-2と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質のアミノ酸配列の長さ全体に渡って散在してもよい。本発明の教示によれば、参照タンパク質とのアミノ酸配列同一性が少なくとも80%であり、かつ変異タンパク質が免疫原性である限り、任意の数のアミノ酸を付加、欠失及び/又は置換することができる。好ましくは、所定の参照タンパク質、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するVEGFR-2と少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質の免疫原性は、ELISAにより測定した時に、前記参照タンパク質(例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するVEGFR-2)に比較して50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満又は1%未満だけ減少する。タンパク質相同体を設計し構築する方法並びにそのような相同体をそれらの免疫原性について試験する方法は、当業者に周知である。特定の実施形態では、参照タンパク質(例えば配列番号1のアミノ酸配列を有するVEGFR-2)とのアミノ酸配列同一性は、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、又は最も好ましくは少なくとも約95%である。親タンパク質と、親タンパク質に関して欠失、付加及び/又は置換を有するその誘導体との比較を含む、配列同一性の決定方法及びアルゴリズムは、当技術分野の当業者に周知である。DNAレベルでは、所定の参照タンパク質、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するVEGFR-2と少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列は、遺伝暗号の縮重のために更に大きい程度に異なってもよい。
【0052】
特定の実施形態では、DNA分子はカナマイシン抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori及びCMVプロモーターを含む。特定の実施形態では、組換えDNA分子は市販のpVAX1(商標)発現プラスミド(Invitrogen, サンディエゴ, カリフォルニア)に由来する。この発現ベクターは、高コピーpUC複製開始点をpBR322の低コピーpMB1複製開始点により置き換えることにより改変された。低コピー改変は、代謝負担を減少させかつその構成物をより安定にするために行われた。作製された発現ベクター骨格をpVAX10と命名した。
【0053】
特定の実施形態では、DNA分子は配列番号2に示されるDNA配列を含む(ベクター骨格pVAX10)。
【0054】
配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトVEGFR-2をコードするORFを、NheI/XhoIを介して発現ベクター骨格中に挿入することで、発現プラスミドpVAX10.VR2-1を作製した(WO 2013/091898)。発現プラスミドpVAX10.VR2-1は
図9に図式的に描写される。発現プラスミドpVAX10.VR2-1を含む弱毒化サルモネラ株Ty21aを含むDNAワクチンは、VXM01と称する(WO 2013/091898)。
【0055】
特定の実施形態では、癌免疫療法は、化学療法、放射線療法又は生物学的癌療法と併用される。特に、そのような実施形態では、サルモネラの弱毒化株が化学療法又は放射線療法又は生物学的癌療法の前、期間中もしくは後に投与されるか、又は化学療法又は放射線療法又は生物学的癌療法の前及び期間中に投与される。癌の治癒には、癌幹細胞の完全な根絶が不可欠である。最大の効能を得るには、異なる治療アプローチを組み合わせることが有益であるだろう。
【0056】
本発明の関連では、用語「生物学的癌療法」は、ウイルス、生物体から得られる物質又はそのような物質の実験室で生産された変種をはじめとする生物体の使用を伴う癌療法を指す。幾つかの生物学的癌療法は、体の免疫系を刺激して癌細胞に対抗することを狙う(いわゆる生物学的癌免疫療法)。生物学的癌療法アプローチとしては、例えばサルモネラ菌ベースのDNAワクチン、特にチフス菌Ty21aベースのDNAワクチンによる腫瘍抗原と腫瘍間質抗原の送達、薬剤としての治療用抗体の送達、免疫刺激性サイトカインの投与、及び操作されたT細胞を含む免疫細胞の投与が挙げられる。治療用抗体には、腫瘍抗原又は腫瘍間質抗原をターゲティングする抗体が含まれる。
【0057】
特定の実施形態では、生物学的癌療法は、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする少なくとも1つの追加のDNAワクチン(前記抗原をコードする発現カセットを含むDNA分子の少なくとも1コピーを含む、少なくとも1つの追加のサルモネラ弱毒化株)の投与を含む。特定のそのような実施形態では、前記腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンは、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする追加の発現カセットを含む追加のDNA分子の少なくとも1コピーを含む少なくとも1種の追加のサルモネラの弱毒化株から選択される。特に、前記少なくとも1種の追加のサルモネラの弱毒化株は、追加の真核細胞発現カセットを含むチフス菌Salmonella typhi Ty21aである。
【0058】
特定の実施形態では、前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンによりコードされる前記腫瘍抗原は、ヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、ヒトメソテリン(MSLN)、ヒトCEA及びCMV pp65から成る群より選択される。特に、前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンによりコードされる前記腫瘍抗原は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有するヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)及びそれと少なくとも約80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するヒトメソテリン(MSLN)及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号5に示されるアミノ酸配列を有するヒトCEA及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質、並びに配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するCMV pp65及びそれと少なくとも80%の配列同一性を有するタンパク質から成る群より選択される。特に、ヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)は配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し、ヒトCEAは配列番号5に示されるアミノ酸配列を有し、そしてCMV pp65は配列番号6、配列番号7又は配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、前記少なくとも1つの追加のDNAワクチンによりコードされる前記腫瘍間質抗原は、ヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)から成る群より選択される。
【0059】
特定の実施形態では、VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株は、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする少なくとも1つの追加のDNAワクチンの前に又は同時に投与される。
【0060】
本発明との関連では、用語「~と同時に」は、VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株と、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする少なくとも1つの追加のDNAワクチンとの同日の投与、より具体的には12時間以内、より具体的には2時間以内の投与を意味する。
【0061】
特定の実施形態では、VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株と腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原をコードする少なくとも1つの追加のDNAワクチンとの投与は、連続8週間、より好ましくは連続3~6週間の中で行われる。VEGF受容体タンパク質をコードする弱毒化サルモネラ株と腫瘍抗原又は腫瘍間質抗原をコードする少なくとも1つの追加のDNAワクチンは、同じ経路で又は異なる経路によって投与されてよい。例えば、特に、少なくとも1つの追加のDNAワクチンが追加の弱毒化サルモネラ株である場合、それは経口投与されうる。
【0062】
前記追加のサルモネラの弱毒化株の単回投与量は、約105~約1011、特に約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約106~約108、最も特別には約106~約107コロニー形成単位(CFU)を含むことができる。
【0063】
本発明のサルモネラの弱毒化株と併用することができる化学療法剤は、例えば、ゲムシタビン、アミフォスチン(エシオール)、カバジタキセル、カルボプラチン、オキサリプラチン、シスプラチン、カペシタビン、デカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、ドセタキセル、メクロレタミン、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、ニムスチン(ACNU)、カルヌスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ドキソルビシンリポ(ドキシル)、フォリン酸、ゲムシタビン(ゲムザール)、ダウノルビシン、ダウノルビシンリポ(ダウノキソム)、エピルビシン、プロカルバジン、ケトコナゾール、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキセート、5-フルオロウラシル(5-FU)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)、ペルメトレキセド、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クラドリビン、カムプトテシン、CPT-11、10-ヒドロキシ-7-エチルカンプトテシン(SN38)、ダカルバジン、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イフォスファミド、イダルビシン、メスナ、インターフェロンα、インターフェロンβ、イリノテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、オキサリプラチン、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパルガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル、テモゾロミド、及びそれらの組み合わせであることができる。
【0064】
本発明による最も好ましい化学療法剤は、カバジタキセル、カルボプラチン、オキサリプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ロムスチン、パクリタキセル(タキソール)、イリノテカン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、フォリン酸、5-フルオロウラシル、ブレオマイシン及びテモゾロミド、特にゲムシタビンである。
【0065】
特定の実施形態では、癌免疫療法は、化学療法と放射線療法の組み合わせと併用される。特にそのような実施形態では、化学療法がテモゾロミドの投与を含む。
【0066】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株が経口投与される。経口投与は、非経口投与よりも簡単で、安全で、かつ、より苦痛がない。しかしながら、VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株は他の任意の適当な経路により投与することも可能であることに注意すべきである。好ましくは、治療有効量が患者に投与され、そしてこの投与量は特定の用途、悪性のタイプ、患者の体重、年齢、性別及び健康状態、投与の形式及び処方等に依存し、投与は必要に応じて単回投与又は複数回投与であることができる。
【0067】
VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株は、溶液、懸濁液、凍結乾燥物、腸溶性コーティングカプセル剤又は他の任意の適当な剤形で提供することができる。典型的には、サルモネラの弱毒化株は飲用液剤として製剤化される。この実施形態は改善された患者コンプライアンスの利点を提供する。好ましくは、飲用液剤は、胃酸を少なくともある程度中和するための手段、すなわち胃液のpHをpH 7近辺に中和する手段を含む。好ましくは、飲用液剤は、VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株を含む緩衝化懸濁液である。特定の実施形態では、緩衝化懸濁液は、サルモネラの弱毒化株を適当な緩衝液、好ましくは2.6 gの炭酸水素ナトリウム、1.7 gのL-アスコルビン酸、0.2 gのラクトース一水和物及び100 mLの飲料水を含有する緩衝液中に懸濁することにより得られる。
【0068】
VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株は、比較的低用量で驚く程有効である。VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株の有効性は、癌特異的VEGF受容体タンパク質発現を有する癌において特に高い。低用量の生細菌ワクチンの投与は、排泄のリスクと第三者への伝播のリスクを最小限に抑える。
【0069】
特定の実施形態では、VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株、特にヒトVEGFR-2をコードするチフス菌(Salmonella typhi)Ty21aの単回投与量は、約105~約1011、特に約106~約1010、より具体的には約106~約109、特に約106~約108、最も特別には約106~約107コロニー形成単位(CFU)を含む。
【0070】
これに関して、用語「約」又は「およそ」は、与えられた数値又は範囲の3倍以内、あるいは2倍以内、例えば1.5倍以内を含むことを意味する。
【0071】
特定の実施形態では、サルモネラの弱毒化株は、患者において、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2の発現パターン及び/又はそれに対する免疫前応答を評価する工程を含む、個別化癌免疫療法に用いられる。あるいは、弱毒化サルモネラ株は、少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質、特にVEGFR-2の発現パターン及び/又はそれに対する免疫前応答を評価することにより、VEGF受容体タンパク質(例えばVEGFR-2)を発現する癌細胞により特徴づけられる癌を有すること、又は少なくとも1つのVEGF受容体タンパク質(例えばVEGFR-2)を発現する癌細胞を有することが決定付けられた患者における癌免疫療法に用いられる。患者のVEGF受容体タンパク質発現及び/又は患者のVEGF受容体タンパク質に対する免疫前応答は、例えばコンパニオン診断薬により、最初の工程で評価することができる。mRNAレベル又はタンパク質レベルのいずれかでの標的遺伝子、例えばVEGFR-2の発現を評価する方法は当業者に周知である。例えば、免疫組織化学染色、フローサイトメトリー法又はRNAシーケンシング、あるいは標識を使った代替法を、腫瘍の標的発現レベルを同定するために用いることができる。同様に、特定のタンパク質、例えばVEGFR-2に対する患者の免疫前応答を評価する方法は、当業者に周知である。患者の既存のVEGFR-2特異的T細胞プールを、例えばELISpot又はマルチマーFACS分析により検出することができる。高度の腫瘍特異的VEGFR-2発現及び/又はVEGFR-2に対する免疫前応答の発生は、VEGFR-2をコードするサルモネラの弱毒化株による処置に特に好ましく応答する患者の素質を知るための予後指標である。
【0072】
起こり得る副作用の発生に応じて、抗生物質又は抗炎症剤での治療を含めることが望ましいかもしれない。
【0073】
万が一ヒスタミン、ロイコトリエン又はサイトカインにより媒介される過敏症反応に似ている有害事象が起こるならば、熱、アナフィラキシー、血圧不安定、気管支痙攣及び呼吸困難のための治療選択肢が利用可能である。望ましくないT細胞由来自己攻撃の場合の治療選択肢は、幹細胞移植後に適用される急性及び慢性の移植片対宿主病の標準的な治療スキームから導き出される。シクロスポリンとグルココルチコイドが治療選択肢として提案される。
【0074】
全身性チフス菌(Salmonella typhi)Ty21a型感染の稀な症例では、適当な抗生物質療法、例えばシプロフロキサシンやオフロキサシンといったフルオロキノロンを用いた療法が推奨される。消化管の細菌感染は、リファキシミンのような各剤で処置される。
【0075】
VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株は医薬組成物として提供することができる。医薬組成物は液剤、懸濁液剤、腸溶性コーティングカプセル剤、凍結乾燥散剤、又は意図する用途に適当な他の任意形態であることができる。
【0076】
医薬組成物は更に1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含んでもよい。
【0077】
本発明の状況下では、用語「賦形剤」は医薬の活性成分と共に処方される、天然の又は合成の物質を指す。適当な賦形剤としては、接着防止剤、結合剤、コーティング剤、崩壊剤、風味剤、着色剤、滑沢剤、流動促進剤、吸収剤、保存剤及び甘味剤が挙げられる。
【0078】
本発明の状況下では、用語「薬学的に許容される」は、生理学的に忍容されかつ哺乳動物(例えばヒト)に対して投与した時に通常は有害反応を引き起こさない分子実体及び医薬組成物の他の成分を指す。用語「薬学的に許容される」はまた、哺乳動物、特にヒトにおける使用のための連邦政府もしくは州政府の規制機関により承認されたもの又は米国薬局方もしくは別の一般的に承認される薬局方に列挙されたものも意味する。
【0079】
特定の実施形態では、医薬組成物は飲用液剤として提供される。この実施形態は、改善された患者コンプライアンスの利点を提供し、迅速で、実現可能でかつ安価な集団予防接種プログラムを可能にする。
【0080】
特に、適当な飲用溶液は、胃酸を少なくともある程度中和する手段、すなわち胃液のpHをpH 7付近にする手段を含む。特定の実施形態では、飲用液剤は、本発明にかかるサルモネラの弱毒化株を適当な緩衝液、好ましくは胃酸を少なくともある程度中和する緩衝液、好ましくは2.6 gの炭酸水素ナトリウム、1.7 gのL-アスコルビン酸、0.2 gのラクトース一水和物及び100 mLの飲料水を含有する緩衝液中に懸濁することにより得られる、緩衝化懸濁液である。
【0081】
特定の実施形態では、癌免疫療法は、VEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株又はそれを含む医薬組成物の単回投与又は複数回投与を含む。各投与の1回量は同一であっても異なってもよい。特に癌免疫療法はVEGF受容体タンパク質をコードするサルモネラの弱毒化株の1、2、3、4、5又は6回投与を含み、ここで好ましくは複数回投与は連続3~6カ月以内に行われる。
【0082】
実施例1.膠芽腫の手術可能再発を有する患者のVXM01処置
本試験の目的は、VEGFR-2をコードするDNAワクチンVXM01に対する安全性、忍容性、免疫及びバイオマーカー応答を調査することであった。
【0083】
本試験は、テモゾロミド(temozolomide)を用いる放射線化学療法を含めなければならない少なくとも1つの標準治療が上手くいかなかった膠芽腫の手術可能な再発を有する患者において実施した。全ての患者は、それらの標準治療に追加療法としてDNAワクチンVXM01を受けた。
【0084】
本試験は、スクリーニング期間、3カ月までの治療及び観察期間、3カ月目から12カ月目までの腫瘍経過観察期間、及び、前記腫瘍経過観察期間中の8週から48週目までの追加免疫(boosting)期間から成った。試験終了後、患者は2年間までの間、経過観察した。
【0085】
処置及び観察期間は、第1、3、5及び7日目の各々にVXM01の1回経口投与と、封入(inclusion)後5±1週目の再手術を含んだ。追加免疫処置期間において、VXM01を第8、12、16、20、24、28、32、36、40、44及び48週目に、4週おきの経口の単回追加免疫投与において投与した。
【0086】
VXM01は106及び107コロニー形成単位(CFU)/mLの単回投与量で経口投与した。
9名の膠芽腫患者のうち5名が好ましい病気経過を示した。
【0087】
患者2605:
患者2605は、再発性膠芽腫WHO悪性度IV期を有する55歳の女性患者である。以前の癌処置は、膠芽腫の第一回手術、及びGy 60でのファーストライン(first line)の放射線化学療法、続いて75 mg/m2のテモゾロミド(temozolomide)を含んだ。
【0088】
患者を106 CFUの用量のVXM01で処置した。VXM01処置は、第1、3、5及び7日の試験日の4回の初期投与で開始し、第35日に通常の手術を行った後、第8週目から始まる4週毎の追加免疫投与を続けた。第10週に、VXM01の上にロムスチン/エトポシド(lomustine/etoposide)化学療法を開始した。
【0089】
腫瘍の参照標的病変はスクリーニング時、25×10 mmであった。腫瘍サイズの成長を表1に要約する。
【0090】
【0091】
ベースライン並びに35日目、12週、20週及び76週目の各MRI画像が
図10に描写される。
【0092】
腫瘍サイズは、試験日第10日と定型手術日第35日の間に、28×13 mmから25×12 mmへと減少する傾向にあった。RANO基準に従って、これは安定(stable disease)(SD)と判定された。12週目、35日目に行った通常の再手術後7週目に、RANO基準に従った判定は、新たな標的病変の発生のため、進行(progressive disease)(PD)であった。手術後、12週目のMRIレポートには視覚できる「標的病変」は全く見られなかった。ロムスチン/エトポシド化学療法をVXM01の上に開始した。20週目に(すなわち再手術後15週目)、腫瘍はRANO基準に従って安定(SD)と判定された。36週目に、ロムスチン/エトポシド化学療法を止め、患者に4週毎のVXM01処置を続行し、そして本出願の出願日まで治療を中止することはなかった。
【0093】
カルノフスキー指数はスクリーニング時に100%であり、12週目には90%であった。
【0094】
試験前に収得した原発腫瘍検体の免疫組織化学染色は、この患者の腫瘍細胞がVEGFR-2を発現していることを明らかにした。35日目の再発腫瘍検体では、VXM01での処置後、腫瘍細胞はVEGFR-2を発現していないことがわかった。
【0095】
腫瘍組織免疫組織化学において、CD8+T細胞が、原発腫瘍に比較してVXM01処置後の再発腫瘍において、2.3倍増加した。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-09-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
【
図1】プラスミドpVAX10.VR2-1中に含まれるVEGFR-2 cDNAによりコードされる、ヒトVEGFR-2のアミノ酸配列(配列番号1)。
【
図1-2】プラスミドpVAX10.VR2-1中に含まれるVEGFR-2 cDNAによりコードされる、ヒトVEGFR-2のアミノ酸配列(配列番号1)。
【
図1-3】プラスミドpVAX10.VR2-1中に含まれるVEGFR-2 cDNAによりコードされる、ヒトVEGFR-2のアミノ酸配列(配列番号1)。
【
図2】空の発現ベクターpVAX10中に含まれる核酸配列(制限部位NheIとXhoIの間に位置する多重クローニング部位の部分を含まない発現ベクターpVAX10の配列)(配列番号2)。
【
図2-2】空の発現ベクターpVAX10中に含まれる核酸配列(制限部位NheIとXhoIの間に位置する多重クローニング部位の部分を含まない発現ベクターpVAX10の配列)(配列番号2)。
【
図3】プラスミドpVAX10.hWT1中に含まれるWT-1 cDNAによりコードされる、切断型(亜鉛フィンガードメインが削除された)ヒトWT-1のアミノ酸配列(配列番号3)。
【
図4】プラスミドpVAX10.hMSLN中に含まれるMSLN cDNAによりコードされるヒトMSLNのアミノ酸配列(配列番号4)。
【
図5】プラスミドpVAX10.hCEA中に含まれるCEA cDNAによりコードされるヒトCEAのアミノ酸配列(配列番号5)。
【
図6】プラスミドpVAX10.CMVpp65_1中に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされるCMV pp65のアミノ酸配列(配列番号6)。
【
図7】プラスミドpVAX10.CMVpp65_2中に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされるCMV pp65のアミノ酸配列(配列番号7)。
【
図8】プラスミドpVAX10.CMVpp65_3中に含まれるCMV pp65 cDNAによりコードされるCMV pp65のアミノ酸配列(配列番号8)。
【
図9】pVAX10.VR2-1のプラスミド地図。
【外国語明細書】