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特開2023-16086レーダ装置およびコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016086
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】レーダ装置およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
G01S7/292
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120150
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】安達 正一郎
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB08
5J070AC02
5J070AC13
5J070AD10
5J070AE02
5J070AE04
5J070AE05
5J070AE12
5J070AF01
5J070AH04
5J070AH12
5J070AH14
5J070AH25
5J070AH35
5J070AK14
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】捜索覆域に回転構造物が存在する場合でも、捜索覆域の範囲を制限することなく、目標を探知することが可能なレーダ装置およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】実施形態のレーダ装置は、インパルス信号検出部、抑圧処理部、目標検出部を備える。インパルス信号検出部は、受信信号に含まれるインパルス状の信号を検出し、抑圧処理部は、受信信号に対して、インパルス信号検出部が検出したインパルス状の信号を抑圧する処理を施し、目標検出部は、抑圧処理部で処理が施された受信信号に基づいて、目標を検出する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捜索覆域に向けて送信したパルス信号の反射エコーに基づいて、目標を探知するレーダ装置において、
受信信号に含まれるインパルス状の信号を検出するインパルス信号検出部と、
前記受信信号に対して、前記インパルス信号検出部が検出したインパルス状の信号を抑圧する処理を施す抑圧処理部と、
前記抑圧処理部で前記処理が施された受信信号に基づいて、目標を検出する目標検出部と
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
前記インパルス信号検出部は、受信信号に対して回転構造物の回転諸元に基づく相関係数を用いた相関処理を施して、受信信号に含まれるインパルス状の信号を検出する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記インパルス信号検出部は、受信信号に対して前記相関処理を施した後、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理を施して、受信信号に含まれるインパルス状の信号のセルを検出し、
前記抑圧処理部は、前記受信信号のうち、前記インパルス信号検出部が検出したセルに対して、インパルス状の信号を抑圧する処理を施す、
請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記インパルス信号検出部は、前記CFAR処理を施した後の受信信号の信号強度が閾値を超えるセルをインパルス状の信号のセルとして検出する、
請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記抑圧処理部は、前記受信信号のうち、前記インパルス信号検出部が検出したセルとこのセルに連続する所定数のセルに対して、インパルス状の信号を抑圧する処理を施す、
請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記インパルス信号検出部は、受信信号に対してSTFT(Short Time Fourier Transform)を施して、受信信号に含まれるインパルス状の信号を検出する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記抑圧処理部は、受信信号に含まれる、前記インパルス信号検出部が検出したインパルス状の信号を他の情報に置き換えて、受信信号を再構築することで、前記インパルス状の信号を抑圧する、
請求項1乃至6のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項8】
さらに、前記抑圧処理部で処理された受信信号のデータを記憶する記憶部を備え、
前記目標検出部は、前記記憶部が記憶するデータを読み出し、このデータに基づいて、目標を検出する、
請求項1乃至7のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項9】
コンピュータを、
捜索覆域に向けて送信したパルス信号の反射エコーを含む受信信号からインパルス状の信号を検出するインパルス信号検出部と、
前記受信信号に対して、前記インパルス信号検出部が検出したインパルス状の信号を抑圧する処理を施す抑圧処理部と、
前記抑圧処理部で前記処理が施された受信信号に基づいて、目標を検出する目標検出部と
して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、主に地上に設置したレーダ装置およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地上に設置されたレーダ装置は、動いている目標をドップラ情報に基づいて検出するが、地上や洋上に設置された風力発電設備が備えるロータブレードなどの回転構造物を目標として検出してしまい、誤警報を発して混乱が生じ得る。これに対して従来は、ご警報の原因となる構造物の方向に対して、送信ブランキングすることで影響を回避していた。
【0003】
しかしながら、送信ブランキングによる回避では、その方向についての情報が無くなってしまい、目標の探知が行えない方向ができてしまう。このため、捜索覆域に回転構造物が存在すると、その影響で目標を探知することができなくなるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4625720号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】STFT、ISTET:小野、‘短時間フーリエ変換の基礎と応用’、日本音響学会誌72巻12号、pp.764-769(19)
【非特許文献2】相関処理:日野、‘スペクトル解析’、朝倉書店、pp.25-49(1977)
【非特許文献3】CFAR:吉田、‘改定レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献4】MTI:吉田、‘改定レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.67-74(1996)
【非特許文献5】パルス圧縮:吉田、‘改定レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.275-278(1996)
【非特許文献6】パルスドップラ:吉田、‘改定レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.84-86(1996)
【非特許文献7】測距/測角:吉田、‘改定レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.260-264(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、捜索覆域に回転構造物が存在する場合でも、捜索覆域の範囲を制限することなく、目標を探知することが可能なレーダ装置およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のレーダ装置は、インパルス信号検出部、抑圧処理部、目標検出部を備える。インパルス信号検出部は、受信信号に含まれるインパルス状の信号を検出し、抑圧処理部は、受信信号に対して、インパルス信号検出部が検出したインパルス状の信号を抑圧する処理を施し、目標検出部は、抑圧処理部で処理が施された受信信号に基づいて、目標を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】この発明に係わるレーダ装置の構成例を示す図。
図2図1に示したレーダ装置の回転信号抑圧処理部の具体例を示す機能ブロック図。
図3図1に示したレーダ装置の回転信号抑圧処理部で扱う受信信号を説明するための図。
図4図2に示した相関係数の設定方法を説明するための図。
図5図2に示した回転信号抑圧処理部の動作を説明するための図。
図6図1に示したレーダ装置の回転信号抑圧処理部の変形例を示す機能ブロック図。
図7図6に示した回転信号抑圧処理部の動作を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、一実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係わるレーダ装置の構成を示すものである。
【0010】
このレーダ装置は、例えば、地上に設置され、飛翔体や海上の航行体の探知、あるいは気象の観測に用いられるものであって、少なくともレーダ空中線1とレーダ信号処理部2を備え、捜索覆域に向けてパルス信号を送信して、その反射エコーを受信して目標を観測する。
【0011】
レーダ空中線1は、例えばフェーズドアレイアンテナを備え、捜索覆域に向けてパルス信号を送信し、そのパルス信号の反射エコーを受信して、Σ(和ビーム)、ΔAz(方位差ビーム)、ΔEL(仰角差ビーム)の各I、Q信号を得て、これをレーダ信号処理部2に出力する。なお、上記パルス信号は、後述するパルス圧縮処理のために、尖頭電力は低いものの、パルス内にFM変調(Frequency Modulation)を施したパルス幅の広い送信信号である。
【0012】
レーダ信号処理部2は、上記Σ(和ビーム)、ΔAz(方位差ビーム)、ΔEL(仰角差ビーム)の各I、Q信号に対して各種信号処理を施して、目標情報を検出し、後段の指示器に出力する。
【0013】
具体的には、レーダ信号処理部2は、MTI(Moving Target Indicator)処理部21、回転信号抑圧処理部22、パルス圧縮処理部23、パルスドップラ処理部24、検波処理部25、ノイズスレッショルド処理部26、ノイズ計測処理部26a、CFAR(Constant False Alarm Rate)検出処理部27,クラッタマップ検出処理部28、測距/測角処理部29を備える。
【0014】
なお、これらの機能ブロックは、プロセッサ(コンピュータ)とソフトウェアによって実現することができる。すなわち、レーダ信号処理部2は、プロセッサと、ソフトウェア(プログラム)を記憶するメモリを備え、プロセッサがメモリに記憶されたソフトウェアを実行することで、レーダ信号処理部2は、MTI処理部21、回転信号抑圧処理部22、パルス圧縮処理部23、パルスドップラ処理部24、検波処理部25、ノイズスレッショルド処理部26、ノイズ計測処理部26a、CFAR検出処理部27、クラッタマップ検出処理部28、測距/測角処理部29として機能する。
【0015】
また、パルス圧縮処理部23、パルスドップラ処理部24、検波処理部25、ノイズスレッショルド処理部26、ノイズ計測処理部26a、CFAR検出処理部27クラッタマップ検出処理部28および測距/測角処理部29は、目標検出部の一例である。
【0016】
MTI処理部21は、レーダ空中線1から出力されたΣ、ΔAz、ΔELの各I、Q信号に対して、目標信号とクラッタ信号のドップラ周波数の差異に着目して反射波(グランドクラッタ)の成分を抑圧し、上記各信号を回転信号抑圧処理部22に出力する。
【0017】
回転信号抑圧処理部22は、MTI処理部21から出力されたΣ、ΔAz、ΔELの各I、Q信号に対して、風力発電設備などが備えるロータブレードなどの回転構造物によって生じる反射成分を抑圧し、上記各信号をパルス圧縮処理部23に出力する。なお、上記抑圧の処理の詳細について後述する。
【0018】
パルス圧縮処理部23は、回転信号抑圧処理部22から出力されたΣ、ΔAz、ΔELの各I、Q信号に対して、遠距離かつ高分解能で目標を観測するために、前述のパルス信号に施されたFM変調に対応する復調を施して、上記各信号をパルスドップラ処理部24に出力する。
【0019】
パルスドップラ処理部24は、パルス圧縮処理部23から出力されたΣ、ΔAz、ΔELの各I、Q信号に基づき、CPI(複数のPRI(パルス繰り返し周期)列)の同一レンジに対して、DFT(離散フーリエ変換)を実施することで、レンジ毎にドップラ成分の積分を行い、検波処理部25と測距/測角処理部29に出力する。同様にΔAzとΔELから得られたドップラ成分の積分結果についても、測距/測角処理部29に出力する。
【0020】
検波処理部25は、Σから得られたドップラ成分の積分結果(I,Q)に対して振幅検波を行う。この振幅検波の結果(以下、振幅検波値と称する)は、ノイズスレッショルド処理部26に出力される。
【0021】
ノイズ計測処理部26aは、回転信号抑圧処理部22から出力されたノイズ計測期間のΣのI、Q信号(例えば128レンジ分)に基づいて、DFT(離散フーリエ変換)を行い、各振幅検波値の標準偏差を求め、この標準偏差に基づくノイズ電力を算出する。
【0022】
ノイズスレッショルド処理部26は、検波処理部25で求めた振幅検波値と、ノイズ計測処理部26aで算出したノイズ電力を比較し、上記振幅検波値の方が大きいレンジとドップラを検出する。
【0023】
CFAR検出処理部27は、ノイズスレッショルド処理部26で求めたレンジ(被テストセル)の振幅検波値と、その前後のレンジ列(参照セル)の振幅検波値の統計量を比較し、被テストセルの振幅検波値が大きいレンジとドップラを検出する。
【0024】
クラッタマップ検出処理部28は、受信信号の振幅検波値(検波処理部25の出力)から時間方向の統計量として強度を検出する。そして、クラッタマップ検出処理部28は、この検出した強度を距離および方向毎に算出してクラッタマップ値を生成する。さらにクラッタマップ検出処理部28は、CFAR検出処理部27が検出したレンジの振幅検波値とクラッタマップ値を比較し、クラッタマップ値より大きい振幅検波値のレンジとドップラを検出する。
【0025】
測距/測角処理部29は、クラッタマップ検出処理部28で検出したレンジに対応する、パルスドップラ処理部24にて得られたΣ、ΔAz、ΔELの各I,Q信号から、AZ角とEL角を測角値として算出する。クラッタマップ検出処理部28で得られたレンジを距離情報として検出し、この距離情報(ドップラ情報含む)と上記測角値を併せて(以下、目標情報と称する)、後段の指示器などに出力する。
【0026】
次に、図2を参照して、回転信号抑圧処理部22について詳細に説明する。図2は、回転信号抑圧処理部22を機能ブロックで示したものであって、この図に示すように、回転信号抑圧処理部22は、相関処理部221、CFAR処理部222、最大値検出処理部223、遅延処理部224、ゼロ埋め処理部225を備える。
【0027】
なお、これらの機能ブロックは、プロセッサとソフトウェアによって実現することができる。すなわち、プロセッサがメモリに記憶されたソフトウェアを実行することで、回転信号抑圧処理部22は、相関処理部221、CFAR処理部222、最大値検出処理部223、遅延処理部224、ゼロ埋め処理部225として機能する。
【0028】
また、相関処理部221、CFAR処理部222および最大値検出処理部223は、インパルス信号検出部の一例であり、遅延処理部224およびゼロ埋め処理部225は、抑圧処理部の一例である。
【0029】
ここで、図3に、回転信号抑圧処理部22に入力される信号(データ)を示す。
図3(a)は、目標検知のために送信されたパルス信号毎に得られたPRI(Pulse Repetition Interval)データを、1からN番目まで示している。
回転信号抑圧処理部22では、図3(a)に示すデータ列を同一レンジ(距離)毎に例えばN番目まで切り出して、1つのCPI(Coherent Pulse Interval)データを作成して処理する。
【0030】
CPIデータのうち、回転構造物が存在するレンジのデータについては、図3(b)に示すように、回転構造物によって生じる反射成分が、ノイズ中にインパルス状にSinc信号として現れる。一方、回転構造物が存在しないレンジのデータについては、図3(c)に示すように、ノイズだけのデータとなる。
【0031】
回転構造物によって生じる反射成分は、時間軸上においては、図4(a)に示すように、インパルス状にSinc波形となって現れるが、存在/非存在を周期的に繰り返す非定常信号である。また周波数軸上においては、図4(b)に示すように、限られた周波数範囲(±f)に一様に広がる。
【0032】
相関処理部221は、Σ(和ビーム)のI、Q信号(PRIデータ)に対して、予め設定された相関係数221aに基づく相関処理を施す。すなわち、相関処理部221は、PRIデータに基づいて、レンジ毎のCPIデータを生成して、このCPIデータに上記相関処理を施す。
【0033】
ここで例えば、回転構造物が存在するレンジのCPIデータに、図5(a)に示すようなSinc信号が含まれていた場合、相関処理部221の相関処理によって、図5(b)に示すように、Sinc信号はスレッショルド係数を超えるレベルまで積み上がり、S/N比が向上して、Sinc信号の検出が容易になる。
【0034】
なお、上記相関係数221aは、回転構造物の回転諸元に基づいて求めることができる。すなわち、回転構造物の回転諸元が事前に判明している場合、上記Sinc信号の波形を予測計算することができる。
【0035】
回転構造物のロータブレードの長さ(回転構造物の半径)Rと、機械回転数(回転角速度)ωの間には、下式が成り立ち、相関係数221aを算出することができる。すなわち、図4(b)に示したように、周波数軸に一様に広がった信号を逆フーリエ変換することで、時間軸の相関係数を算出することができる。ここで、λは、パルス信号の波長である。
【0036】
ロータ先端速度:v=Rω
ロータ先端周波数:f=2v/λ
なお、機械回転数には、別途、検出した(あるいは、予報された)風速の要素を考慮してもよい。その場合、風速の度合いに基づいて、3段階程度の固定した値を動的に選択して、相関係数221aとして用いるようにしてもよい。
【0037】
CFAR処理部222は、相関処理部221にて相関処理が施されたCPIデータに対してCFAR処理を施して、回転構造物が存在するセルの候補(以下、候補セルと称する)を検出する。
【0038】
具体的には、CFAR処理部222は、CFAR処理として、図5(c)に示すように、処理の対象となるセル(以下、被テストセルと称する)と、この被テストセルに時間的に連続する前後の参照セルを比較し、図5(d)に示すように、被テストセルの信号強度が大きいセルを候補セルとして検出する。
【0039】
このCFAR処理では、検証の処理対象となる被テストセルをセル単位で順次移動(スライディング)させる処理により、各セルについて連続的に候補セルとしての検証を行う。なお、参照セルは、連続する複数のセル(被テストセルより時間的に長い範囲のセル)であってもよい。
【0040】
最大値検出処理部223は、まず、CFAR処理で検出した候補セルのうち、スレッショルド値223aを超える信号強度のセルを、回転構造物が存在するセル、すなわち、信号抑圧の対象となるセル(以下、抑圧対象セルと称する)として検出するとともに、抑圧対象セルについて最大値判定を行う。
【0041】
これにより、図5(e)に示すように、回転構造物によって生じる反射成分が含まれる信号のセル(抑圧対象セル)と、それ以外のセルが判定されたことになる。そして、最大値検出処理部223は、図5(f)に示すように、抑圧対象セル、すなわち最大値が閾値を超えたセルと、その前後のM個のセルを識別する情報が、検出情報としてゼロ埋め処理部225に通知される。
【0042】
遅延処理部224は、MTI処理部21から出力されたΣ、ΔAz、ΔELの各I、Q信号(PRIデータ)に対して、遅延処理を行って、ゼロ埋め処理部225に出力する。この遅延処理では、入力されたデータに対して、相関処理部221、CFAR処理部222、最大値検出処理部223の各処理に要する時間だけ遅延を与えて、出力を行う。
【0043】
ゼロ埋め処理部225は、遅延処理部224から出力されたΣ、ΔAz、ΔELの各I、Q信号(PRIデータ)のうち、最大値検出処理部223から通知される検出情報で示される抑圧対象セルとその前後のM個のセルの受信データに対して、ゼロで埋める処理を施す。すなわち、図5(g)に示すように、抑圧対象セルとその前後のM個のセルの信号について、反射成分のない値に置き換える受信データの再構築を行う。
【0044】
このようにして、回転構造物によって生じる反射成分が抑制された受信データは、後段のパルス圧縮処理部23などに出力され、パルス圧縮処理部23、パルスドップラ処理部24、検波処理部25、ノイズスレッショルド処理部26、ノイズ計測処理部26a、CFAR検出処理部27,クラッタマップ検出処理部28、測距/測角処理部29の各処理を経て、目標検出が行われる。
【0045】
以上のように、上記構成のレーダ装置では、回転信号抑圧処理部22によって同一レンジ毎のCPIデータに基づいて、回転構造物によって生じる反射成分が含まれるセルのデータを特定して、そのデータを反射成分のない値に置き換えるようにしている。
したがって、上記構成のレーダ装置によれば、捜索覆域に回転構造物が存在する場合でも、目標検出処理の前段において回転構造物による反射成分が抑圧されるので、捜索覆域の範囲を制限することなく、目標を探知することができる。
【0046】
(実施形態の変形例)
上述した実施形態では、回転信号抑圧処理部22の例として、図2に示すような構成を挙げた。しかしながら、受信データから回転構造物によって生じる反射成分を抑圧する構成は、これに限定されるものではない。回転信号抑圧処理部22に代わって、例えば、図6に示すような回転信号抑圧処理部32を用いてもよい。
【0047】
以下、図6および図7を参照して、回転信号抑圧処理部32について説明する。
回転信号抑圧処理部32は、短時間フーリエ変換部(STFT:Short Time Fourier Transform)320a~320c、相関処理部321、CFAR処理部322、最大値検出処理部323、遅延処理部324b、324c、ゼロ埋め処理部325a~325c、逆短時間フーリエ変換部(ISTFT:Inverse Short Time Fourier Transform)327a~327cを備える。
【0048】
なお、これらの機能ブロックは、プロセッサとソフトウェアによって実現することができる。すなわち、プロセッサがメモリに記憶されたソフトウェアを実行することで、短時間フーリエ変換部320a~320c、相関処理部321、CFAR処理部322、最大値検出処理部323、遅延処理部324b、324c、ゼロ埋め処理部325a~325c、逆短時間フーリエ変換部327a~327cとして機能する。
【0049】
また、短時間フーリエ変換部320a、相関処理部321、CFAR処理部322および最大値検出処理部323は、インパルス信号検出部の一例であり、遅延処理部324b、324cおよびゼロ埋め処理部325a~325cは、抑圧処理部の一例である。
【0050】
回転信号抑圧処理部32では、図7(a)に示すように、PRIデータのデータ列を同一レンジ(距離)毎に例えばN番目まで切り出して、1つのCPI(Coherent Pulse Interval)データを作成して処理する。
【0051】
まずΣ(和ビーム)の信号(データ)の処理について説明する。
Σ(和ビーム)のI、Q信号(PRIデータ)は、短時間フーリエ変換部320aによって、短時間フーリエ変換される。具体的には、図7(a)に示すように、距離毎のCPIデータに対して、複数のPRIがオーバーラップするように短時間フーリエ変換し、このようなオーバーラップさせた変換を各PRIについて実施する。
【0052】
上述のように短時間フーリエ変換されたデータは、相関処理部321によって、図7(b)に示すように、予め設定された相関係数(周波数)321aが重畳される償還処理が施され、反射成分のS/Nが高められる。なお、上記相関係数321aは、以下のように算出することができる。
【0053】
回転構造物のロータブレードの長さ(回転構造物の半径)Rと、機械回転数(回転角速度)ωの間には、下式が成り立ち、相関係数321aを算出することができる。ここで、λは、パルス信号の波長である。
ロータ先端速度:v=Rω
ロータ先端周波数:f=2v/λ
すなわち、図4(b)に示したように、周波数軸に一様に広がった信号を逆フーリエ変換することで、時間軸の相関係数を算出することができる。そして、時間軸の相関係数を短時間フーリエ変換し、複素共役を取ることで、上記相関係数321aとする。
【0054】
なお、機械回転数には、別途、検出した(あるいは、予報された)風速の要素を考慮してもよい。その場合、風速の度合いに基づいて、3段階程度の固定した値を動的に選択して、相関係数321aとして用いるようにしてもよい。
【0055】
相関処理が施された受信データは、CFAR処理部322によってCFAR処理が施される。そして、CFAR処理が施された受信データから、最大値となるバンクを最大値検出処理部323が検出し(図7(b)参照のこと)、このバンクを識別する情報を検出情報として出力する。
【0056】
ゼロ埋め処理部325aは、最大値検出処理部323が検出した検出情報に基づいて、短時間フーリエ変換部320aによって短時間フーリエ変換された受信データのうち、最大値が得られたバンクを抑圧対象バンクとし、抑圧対象バンクと、その前後のM個のバンクに対して、ゼロで埋める処理を施す。すなわち、図7(c)に示すように、抑圧対象バンクとその前後のM個のバンクの信号について、反射成分のない値に置き換えて、受信データの再構築を行う。なお、Mは、セル範囲指定326aで指定される。
【0057】
このようにしてゼロで埋める処理が施された受信データは、逆短時間フーリエ変換部327aによって逆短時間フーリエ変換が施され、時間軸上のPRIデータに変換される。
【0058】
次に、ΔAz(方位差ビーム)、ΔEL(仰角差ビーム)の信号(データ)の処理について説明する。
ΔAzの信号(データ)とΔEL(仰角差ビーム)は、それぞれ短時間フーリエ変換部320bと320cによって、短時間フーリエ変換される。具体的には、図7(a)に示すように、距離毎のCPIデータに対して、複数のPRIがオーバーラップするように短時間フーリエ変換し、このようなオーバーラップさせた変換を各PRIについて実施する。
【0059】
遅延処理部324bは、短時間フーリエ変換部320bから出力されたΔAzの受信データに対して、遅延処理を行って、ゼロ埋め処理部325bに出力する。この遅延処理では、Σ(和ビーム)の信号に対して、相関処理部321、CFAR処理部322、最大値検出処理部323の各処理に要する時間だけ遅延を与えて、出力を行う。
【0060】
同様に、遅延処理部324cは、短時間フーリエ変換部320cから出力されたΔELの受信データに対して、遅延処理を行って、ゼロ埋め処理部325cに出力する。この遅延処理では、遅延処理部324bと同様に遅延を与えて、出力を行う。
【0061】
ゼロ埋め処理部325bは、ΔAzについて、最大値検出処理部323が検出した検出情報に基づき、短時間フーリエ変換部320bによって短時間フーリエ変換された受信データのうち、最大値が得られたバンクを抑圧対象バンクとし、抑圧対象バンクと、その前後のM個のバンクに対して、ゼロで埋める処理を施す。すなわち、図7(c)に示すように、抑圧対象バンクとその前後のM個のバンクの信号について、反射成分のない値に置き換える。なお、Mは、セル範囲指定326bで指定される。
【0062】
同様に、ゼロ埋め処理部325cは、ΔELについて、最大値検出処理部323が検出した検出情報に基づき、短時間フーリエ変換部320cによって短時間フーリエ変換された受信データのうち、最大値が得られたバンクを抑圧対象バンクとし、抑圧対象バンクと、その前後のM個のバンクに対して、ゼロで埋める処理を施す。すなわち、図7(c)に示すように、抑圧対象バンクとその前後のM個のバンクの信号について、反射成分のない値に置き換える。なお、Mは、セル範囲指定326cで指定される。
【0063】
このようにして、回転構造物によって生じる反射成分が抑制された受信データは、後段のパルス圧縮処理部23などに出力され、パルス圧縮処理部23、パルスドップラ処理部24、検波処理部25、ノイズスレッショルド処理部26、ノイズ計測処理部26a、CFAR検出処理部27,クラッタマップ検出処理部28、測距/測角処理部29の各処理を経て、目標検出が行われる。
【0064】
以上のように、図1に示した回転信号抑圧処理部22を図6に示した回転信号抑圧処理部32のように構成したレーダ装置では、回転信号抑圧処理部32によって、受信信号を短時間フーリエ変換したのち、同一レンジ毎のCPIデータに基づいて、回転構造物によって生じる反射成分が含まれるバンクのデータを特定して、そのデータを反射成分のない値に置き換え、その後、逆短時間フーリエ変換するようにしている。
したがって、上記構成のレーダ装置によれば、捜索覆域に回転構造物が存在する場合でも、目標検出処理の前段において回転構造物による反射成分が抑圧されるので、捜索覆域の範囲を制限することなく、目標を探知することができる。
【0065】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0066】
例えば、上記実施形態では、風力発電設備など、存在が既知の回転構造物を例に挙げて説明したが、未知の回転構造物による影響を抑制する場合に適用することも可能である。この場合、特許4625720号公報などの周知技術を用いて、受信信号中の回転構造物による反射成分を特定し、上記実施例で説明した技術により、その反射成分をゼロ埋めすることで、捜索覆域の範囲を制限することなく、目標を探知することができる。
【0067】
また、図3に示したように、回転構造物による反射エコーは、受信信号に周期的に現れる。このため、回転信号抑圧処理部22(あるいは32)が、受信信号に現れるインパルス状の信号の周期性を確認(検出)した場合に、その信号に対して、上述した抑圧処理(ゼロ埋め処理)を行うようにしてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、受信信号(受信データ)を順次処理して目標検出を行うリアルタイム処理を例に挙げて説明したが、受信信号(受信データ)もしくは回転信号抑圧処理部22によって処理された受信信号(受信データ)をいったん記憶部(図示しない)に記憶しておき、その後、任意のタイミングで、記憶部に記憶して置いたデータを読み出して処理し目標検出を行うようにしてもよい。
その他、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を施しても同様に実施可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0069】
1…レーダ空中線、2…レーダ信号処理部、21…MTI処理部、22…回転信号抑圧処理部、23…パルス圧縮処理部、24…パルスドップラ処理部、25…検波処理部、26…ノイズスレッショルド処理部、26a…ノイズ計測処理部、27…CFAR検出処理部、28…クラッタマップ検出処理部、29…測距/測角処理部、32…回転信号抑圧処理部、221…相関処理部、222…CFAR処理部、223…最大値検出処理部、223a…スレッショルド値、224…遅延処理部、225…ゼロ埋め処理部、320a~320c…短時間フーリエ変換部、321…相関処理部、322…CFAR処理部、323…最大値検出処理部、324b…遅延処理部、324c…遅延処理部、325a~325c…ゼロ埋め処理部、327a~327c…逆短時間フーリエ変換部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7