(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160889
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】マスクブランク、転写用マスク、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/32 20120101AFI20231026BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20231026BHJP
G03F 1/80 20120101ALI20231026BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/54
G03F1/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023140978
(22)【出願日】2023-08-31
(62)【分割の表示】P 2021190973の分割
【原出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】浅川 敬司
(72)【発明者】
【氏名】田辺 勝
(72)【発明者】
【氏名】安森 順一
(57)【要約】
【課題】パターン形成用の薄膜または転写パターンを有する薄膜を剥離した後の透光性基板における主表面の形状の悪化を抑制することができ、リサイクル時の製造歩留まりの向上に寄与することができるマスクブランクを提供する。
【解決手段】透光性基板と、透光性基板の主表面上に設けられたパターン形成用の薄膜とを備えるマスクブランクであって、薄膜は、金属、ケイ素および窒素を含有し、薄膜の外周部における膜厚は、薄膜の前記外周部以外の部分における膜厚よりも小さく、薄膜の前記外周部におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率は、薄膜の外周部以外の部分におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板と、前記透光性基板の主表面上に設けられたパターン形成用の薄膜とを備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は、金属、ケイ素および窒素を含有し、
前記薄膜の外周部以外の部分における膜厚に対する前記薄膜の前記外周部における膜厚の比率は、0.7以下であり、
前記薄膜の前記外周部におけるケイ素と金属の合計含有量に対する窒素の含有量の比率を、前記薄膜の前記外周部以外の部分におけるケイ素と金属の合計含有量に対する窒素の含有量の比率で除して算出される比率は、0.84以下であることを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
前記薄膜の酸素の含有量は、10原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記薄膜の金属、ケイ素、及び窒素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記薄膜は、少なくともモリブデンを含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記薄膜は、位相シフト膜であり、
前記位相シフト膜の前記外周部以外の部分は、波長365nmの光に対する透過率が3%以上であり、かつ波長365nmの光に対する位相差が、150度以上210度以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
透光性基板と、前記透光性基板の主表面上に設けられ、転写パターンを有する薄膜とを備える転写用マスクであって、
前記薄膜は、金属、ケイ素および窒素を含有する材料からなり、
前記薄膜の外周部以外の部分における膜厚に対する前記薄膜の前記外周部における膜厚の比率は、0.7以下であり、
前記薄膜の前記外周部におけるケイ素と金属の合計含有量に対する窒素の含有量の比率を、前記薄膜の前記外周部以外の部分におけるケイ素と金属の合計含有量に対する窒素の含有量の比率で除して算出される比率は、0.84以下であることを特徴とする転写用マスク。
【請求項7】
前記薄膜の酸素の含有量は、10原子%以下であることを特徴とする請求項6に記載の転写用マスク。
【請求項8】
前記薄膜の金属、ケイ素、及び窒素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする請求項6または7に記載の転写用マスク。
【請求項9】
前記薄膜は、少なくともモリブデンを含有することを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の転写用マスク。
【請求項10】
前記薄膜は、位相シフト膜であり、
前記位相シフト膜の前記外周部以外の部分は、波長365nmの光に対する透過率が3%以上であり、かつ波長365nmの光に対する位相差が、150度以上210度以下であることを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の転写用マスク。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク、または請求項6から10のいずれかに記載の転写用マスクの前記薄膜を、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素を含有するエッチング液を用いて剥離し、前記薄膜が除去された透光性基板を取得する工程と、
前記薄膜が除去された透光性基板の主表面上に、新たにパターン形成用の薄膜を形成する工程と、
を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載のマスクブランクの製造方法によって製造されたマスクブランクの前記パターン形成用の薄膜に対し、ウェットエッチングでパターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項13】
請求項6から10のいずれかに記載の転写用マスクを露光装置のマスクステージに載置する工程と、
前記転写用マスクに露光光を照射して、表示装置用の基板上に設けられたレジスト膜に転写パターンを転写する工程と、
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク、転写用マスク、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LCD(Liquid Crystal Display)を代表とするFPD(Flat Panel Display)等の表示装置では、大画面化、広視野角化とともに、高精細化、高速表示化が急速に進んでいる。この高精細化、高速表示化のために必要な要素の1つが、微細で寸法精度の高い素子や配線等の電子回路パターンの作製である。この表示装置用電子回路のパターニングにはフォトリソグラフィが用いられることが多い。このため、微細で高精度なパターンが形成された表示装置製造用の位相シフトマスクが必要になっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、透光性基板と、透光性基板の主表面上に形成された、金属シリサイド系材料から構成される光半透過膜と、この光半透過膜上に形成された、クロム系材料から構成されるエッチングマスク膜とを備え、光半透過膜とエッチングマスク膜との界面に組成傾斜領域Pが形成され、この組成傾斜領域Pでは、光半透過膜のウェットエッチング速度を遅くする成分の割合が、深さ方向に向かって段階的および/または連続的に増加している位相シフトマスクブランク、およびこの位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクが開示されている。
【0004】
これらの位相シフトマスクは、使用を繰り返すことで汚れたり、傷が生じたりして使用不可能になることがある。又、仕様変更に伴って不要になることがある。一方、マスクブランクを製造するプロセスにおいて、製品としての仕様を満たせていないマスクブランクがある程度の比率で発生する。さらに、製品としての仕様を満たしているマスクブランクから作製した位相シフトマスクにおいても、位相シフトマスクとしての仕様を満たせない場合がある。これらの位相シフトマスクやマスクブランクを廃棄するよりも、再利用してマスクブランクを製造(リサイクル)する方が、製造コストの低減や資源活用の観点から有効である。又、大きなサイズのマスクブランクや位相シフトマスクは、大型で高価な透光性基板(ガラス基板)が用いられているが、このような透光性基板を再利用することができれば、特に大きな効果が得られる。
【0005】
このようなことから、使用済みの位相シフトマスクや、製品としての仕様を満たしていないマスクブランクおよび位相シフトマスクを用いて新たにマスクブランクを製造(リサイクル)する試みがなされている。例えば、特許文献2には、ガラス基板上に主として金属とシリコンと窒素とを含む薄膜が形成されたマスクブランクス用ガラス基板の上記薄膜の剥離を、弗化水素酸、珪弗化水素酸、弗化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つの弗素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含み、前記弗素化合物を0.1~0.8wt%含む水溶液に接触させて行って再生する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許6101646公報
【特許文献2】特開2010-20339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、薄膜が金属、ケイ素および窒素を含有する薄膜を剥離する場合には、弗素化合物と酸化剤を含む水溶液を接触させる方法が好適である。しかしながら、薄膜の周辺側と中心側とで薄膜の剥離状況に差異が生じてしまい、薄膜全体の剥離が完了するまで上記の水溶液に接触させることで、薄膜剥離後の基板の平坦度が想定よりも悪化してしまう事態が生じていた。薄膜剥離後の基板に対しては、所定の研磨工程を行うこと等によって、基板に要求される平坦度と表面粗さを満たすようにしている。しかしながら、想定よりも形状が悪化した基板においては、所定の研磨工程を行っても十分に主表面の形状を改善することができないか、改善できた場合であっても基板における所望の板厚を確保できないという事態が生じていた。特に、表示装置用の大型の基板において、その傾向が顕著であった。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、パターン形成用の薄膜または転写パターンを有する薄膜を剥離した後の透光性基板における主表面の形状の悪化を抑制することができ、リサイクル時の製造歩留まりの向上に寄与することができるマスクブランク、転写用マスク、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
【0010】
(構成1)透光性基板と、前記透光性基板の主表面上に設けられたパターン形成用の薄膜とを備えるマスクブランクであって、
前記薄膜は、金属、ケイ素および窒素を含有し、
前記薄膜の外周部における膜厚は、前記薄膜の前記外周部以外の部分における膜厚よりも小さく、
前記薄膜の前記外周部におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率は、前記薄膜の前記外周部以外の部分におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率よりも小さい
ことを特徴とするマスクブランク。
【0011】
(構成2)前記薄膜の前記外周部以外の部分における膜厚に対する前記薄膜の前記外周部における膜厚の比率は、0.7以下であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
【0012】
(構成3)前記薄膜の前記外周部におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率を、前記薄膜の前記外周部以外の部分におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率で除して算出される比率は、0.84以下であることを特徴とする構成2記載のマスクブランク。
【0013】
(構成4)前記薄膜の酸素の含有量は、10原子%以下であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成5)前記薄膜の金属、ケイ素、及び窒素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成6)前記薄膜は、少なくともモリブデンを含有することを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【0016】
(構成7)前記薄膜は、位相シフト膜であり、
前記位相シフト膜の前記外周部以外の部分は、波長365nmの光に対する透過率が3%以上であり、かつ波長365nmの光に対する位相差が、150度以上210度以下であることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0017】
(構成8)透光性基板と、前記透光性基板の主表面上に設けられ、転写パターンを有する薄膜とを備える転写用マスクであって、
前記薄膜は、金属、ケイ素および窒素を含有する材料からなり、
前記薄膜の外周部における膜厚は、前記薄膜の前記外周部以外の部分における膜厚よりも小さく、
前記薄膜の前記外周部におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率は、前記薄膜の前記外周部以外の部分におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率よりも小さい
ことを特徴とする転写用マスク。
【0018】
(構成9)前記薄膜の前記外周部以外の部分における膜厚に対する前記薄膜の前記外周部における膜厚の比率は、0.7以下であることを特徴とする構成8記載の転写用マスク。
【0019】
(構成10)前記薄膜の前記外周部におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率を、前記薄膜の前記外周部以外の部分におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率で除して算出される比率は、0.84以下であることを特徴とする構成9記載の転写用マスク。
【0020】
(構成11)前記薄膜の酸素の含有量は、10原子%以下であることを特徴とする構成8から10のいずれかに記載の転写用マスク。
【0021】
(構成12)前記薄膜の金属、ケイ素、及び窒素の合計含有量は、90原子%以上であることを特徴とする構成8から11のいずれかに記載の転写用マスク。
【0022】
(構成13)前記薄膜は、少なくともモリブデンを含有することを特徴とする構成8から12のいずれかに記載の転写用マスク。
【0023】
(構成14)前記薄膜は、位相シフト膜であり、
前記位相シフト膜の前記外周部以外の部分は、波長365nmの光に対する透過率が3%以上であり、かつ波長365nmの光に対する位相差が、150度以上210度以下であることを特徴とする構成8から13のいずれかに記載の転写用マスク。
【0024】
(構成15)構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク、または構成8から14のいずれかに記載の転写用マスクの前記薄膜を、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素を含有するエッチング液を用いて剥離し、前記薄膜が除去された透光性基板を取得する工程と、
前記薄膜が除去された透光性基板の主表面上に、新たにパターン形成用の薄膜を形成する工程と、
を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0025】
(構成16)構成15に記載のマスクブランクの製造方法によって製造されたマスクブランクの前記パターン形成用の薄膜に対し、ウェットエッチングでパターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【0026】
(構成17)構成8から14のいずれかに記載の転写用マスクを露光装置のマスクステージに載置する工程と、
前記転写用マスクに露光光を照射して、表示装置用の基板上に設けられたレジスト膜に転写パターンを転写する工程と、
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、パターン形成用の薄膜または転写パターンを有する薄膜を剥離した後の透光性基板における主表面の形状の悪化を抑制することができ、リサイクル後の製造歩留まりの向上に寄与することができるマスクブランク、転写用マスク、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び表示装置の製造方法を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態におけるマスクブランクにおける要部を示す断面図である。
【
図2】実施例1の位相シフトマスクブランクの中央側部分(外周部以外の部分)に対する深さ方向の組成分析結果を示す図である。
【
図3】実施例1の位相シフトマスクブランクの外周部に対する深さ方向の組成分析結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態における位相シフトマスクブランク(マスクブランク)の膜構成を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態における位相シフトマスク(転写用マスク)の製造工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
まず、本発明に至った経緯について説明する。本願発明者らは、パターン形成用の薄膜(以下、単に「薄膜」という場合がある。)または転写パターンを有する薄膜を剥離した後の透光性基板における主表面の形状の悪化を抑制することができ、リサイクル後の製造歩留まりの向上に寄与することができる構成について、鋭意研究を行った。本発明者らは、複数枚の透光性基板を用意し、それぞれの透光性基板の主表面上にパターン形成用の薄膜をスパッタリング法によって成膜し、これらの断面形状の観察を行った。その結果、いずれの薄膜においても、外周部における膜厚は、外周部以外の部分(以下、「中央側部分」という場合がある)における膜厚よりも小さくなっていた。
【0030】
より具体的には、パターン形成用の薄膜の中央側部分ではほぼ均一な膜厚を有していたが、外周部では周縁側(透光性基板の側面側)に向かうにつれて膜厚が減少していた。通常、薄膜の中央側部分にパターンが形成され、外周部にはパターンは形成されないため、転写性能の観点では外周部における膜厚が減少していても問題はない。しかしながら、外周部と中央側部分とで膜厚に差異があることで、剥離状況に差異が生じていることが判明した。中央側部分と外周部との膜厚を揃えることができれば、剥離状況を改善することはできると考えられる。しかしながら、そのためには、スパッタリングを行う成膜装置の大幅な設計変更が必要となり、現実的ではない。
【0031】
そこで、本発明者らは発想を転換し、中央側部分と外周部との膜厚との膜厚の差異を許容しつつ、剥離状況を改善しうる薄膜の構成についてさらなる検討を行った。一般に、金属、ケイ素および窒素を含有する薄膜を成膜する場合、金属とケイ素を含有するスパッタリングターゲットを用い、窒素を含有するガス雰囲気で成膜処理を行う。このため、中央側部分と外周部とで、金属とケイ素の含有量に大きな差異は生じ難い。本発明者らは、外周部における窒素の含有量が中央側部分における窒素の含有量と異なるように、成膜室内における窒素の流量等の条件を調整し、それぞれ条件の調整された薄膜を複数枚用意した基板上に成膜した。次に、それぞれの薄膜に対して、弗素化合物と酸化剤を含む水溶液を接触させて剥離を行い、剥離した後の基板における主表面の形状を観察した。その結果、窒素の流量が、中央側部分よりも外周部において少なくなるように成膜した薄膜において、主表面の形状の悪化の度合いが低減されていることが判明した。
【0032】
そして、詳細は後述するが、主表面の形状の悪化が抑制された基板と同条件で、別の基板上に薄膜を成膜し、外周部と中央側部分における組成分析を行った。その結果、外周部におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率が、外周部以外の部分におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率よりも小さくなっていたことが判明した。
本発明者らは、さらに鋭意検討を行い、金属、ケイ素および窒素を含有する薄膜において、外周部における膜厚が外周部以外の部分における膜厚よりも小さく、外周部におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率が、外周部以外の部分におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率よりも小さい薄膜であれば、薄膜を剥離した後の透光性基板における主表面の形状の悪化を抑制でき、リサイクル後の製造歩留まりの向上に寄与することができる、ということを見出した。
本発明は、以上のような鋭意検討の結果なされたものである。
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。なお、図中、同一または相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。
【0034】
図1は、本発明の実施形態におけるマスクブランクにおける要部を示す断面図である。同図に示されるように、マスクブランク10は、透光性基板20と、透光性基板20の主表面21上に設けられたパターン形成用の薄膜30とを備えるものである。以下、それぞれの要素について説明する。
【0035】
<透光性基板20>
透光性基板20(又は、単に基板20と称す場合がある。)は、矩形状の板状体であり、2つの対向する主表面21、22と、側面23、面取り面(C面)24とを有する。2つの対向する主表面21、22は、この板状体の上面及び下面であり、互いに対向するように形成されている。また、2つの対向する主表面21、22の少なくとも一方は、転写パターンが形成されるべき主表面21(一方の主表面、という場合がある)である。また、転写パターンが形成されるべき主表面21とは反対側の主表面22を、裏面(または、他方の主表面)という場合がある。
【0036】
透光性基板20は、露光光に対して透明である。透光性基板20は、表面反射ロスが無いとしたときに、露光光に対して85%以上の透過率、好ましくは90%以上の透過率を有するものである。透光性基板20は、ケイ素と酸素を含有する材料からなり、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのガラス材料で構成することができる。透光性基板20が低熱膨張ガラスから構成される場合、透光性基板20の熱変形に起因する位相シフト膜パターンの位置変化を抑制することができる。また、表示装置用途で使用される位相シフトマスクブランク用透光性基板20は、一般に矩形状の基板であって、該透光性基板の短辺の長さは300mm以上であるものが使用される。本発明は、透光性基板20の短辺の長さが300mm以上の大きなサイズであっても、透光性基板20上に形成される例えば2.0μm未満の微細な位相シフト膜パターンを安定して転写することができる位相シフトマスクを提供可能な位相シフトマスクブランクである。
【0037】
<位相シフト膜(パターン形成用の薄膜)30>
透光性基板20の主表面21上には、位相シフト膜(パターン形成用の薄膜)30が設けられている。
位相シフト膜30は、外周部32と、外周部以外の部分(中央側部分)31とを有している。外周部32における膜厚d2は、中央側部分31における膜厚d1よりも小さくなっている。外周部32は、透光性基板20の主表面21の面取り面24との境界から10mm以内の領域であり、かつ、その膜厚d2が中央側部分31の膜厚d1よりも小さい領域Bとして規定することができる。また、外周部32は、透光性基板20の主表面21の側面23との境界から15mm以内の領域であり、かつ、その膜厚d2が中央側部分31の膜厚d1よりも小さい領域Bとして規定してもよい。
中央側部分31の膜厚d1は、中央側部分31の領域Aにおける膜厚の平均値として規定することができる。
位相シフト膜30は、金属、ケイ素および窒素を含有している。位相シフト膜30の外周部32におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C2(N)/C2(Si)は、位相シフト膜30の中央側部分31におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C1(N)/C1(Si)よりも小さくなっている。
このように構成された位相シフト膜30によれば、位相シフト膜30剥離後の透光性基板20における主表面21の形状の悪化を抑制することができる。
【0038】
位相シフト膜30の中央側部分31における膜厚d1に対する位相シフト膜30の外周部32における膜厚d2の比率d2/d1は、0.7以下であることが好ましい。さらに、膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32において、ケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C2(N)/C2(Si)を、位相シフト膜30の中央側部分31におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C1(N)/C1(Si)で除して算出される比率[C2(N)/C2(Si)]/[C1(N)/C1(Si)]は、0.84以下であることが好ましい。膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/C2(Si)]/[C1(N)/C1(Si)]を0.84以下にすることで、主表面21の形状の悪化をより低減することができる。
【0039】
また、膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/C2(Si)]/[C1(N)/C1(Si)]は、0.81以下であるとより好ましく、0.77以下であるとさらに好ましい。一方、膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/C2(Si)]/[C1(N)/C1(Si)]は、を0.06以上であると好ましく、0.12以上であるとより好ましい。
【0040】
また、その膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32において、ケイ素と金属の合計含有量に対する窒素の含有量の比率C2(N)/{C2(Si)+C2(M)}を、位相シフト膜30の中央側部分31におけるケイ素と金属の合計含有量に対する窒素の含有量の比率C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}で除して算出される比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}]は、0.84以下であることが好ましい。膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}]を0.84以下にすることで、主表面21の形状の悪化をより低減することができる。
【0041】
また、膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}]は、0.81以下であるとより好ましく、0.77以下であるとさらに好ましい。一方、膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}]は、0.06以上であると好ましく、0.12以上であるとより好ましい。
【0042】
また、その膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32において、ケイ素、金属および酸素の合計含有量に対する窒素の含有量の比率C2(N)/{C2(Si)+C2(M)+C2(O)}を、位相シフト膜30の中央側部分31におけるケイ素、金属および酸素の合計含有量に対する窒素の含有量の比率C1(N)/{C1(Si)+C1(M)+C2(O)}で除して算出される比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)+C2(O)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)+C2(O)}]は、0.84以下であることが好ましい。膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)+C2(O)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)+C2(O)}]を0.84以下にすることで、主表面21の形状の悪化をより低減することができる。
【0043】
また、膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)+C2(O)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}+C2(O)]は、0.81以下であるとより好ましく、0.77以下であるとさらに好ましい。一方、膜厚の比率d2/d1が0.7以下の範囲内の外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)+C2(O)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)+C2(O)}]は、0.06以上であると好ましく、0.12以上であるとより好ましい。
【0044】
一方、膜厚の比率d2/d1が0.7である外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)]/[C1(N)/{C1(Si)]は、0.56以上であると好ましく、0.59以下であるとより好ましく、0.63以下であるとさらに好ましい。主表面21の形状の悪化をより低減することができる。
【0045】
また、膜厚の比率d2/d1が0.7である外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}]は、0.56以上であると好ましく、0.59以下であるとより好ましく、0.63以下であるとさらに好ましい。主表面21の形状の悪化をより低減することができる。
【0046】
また、膜厚の比率d2/d1が0.7である外周部32における比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)+C2(O)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)+C2(O)}]は、0.56以上であると好ましく、0.59以下であるとより好ましく、0.63以下であるとさらに好ましい。主表面21の形状の悪化をより低減することができる。
【0047】
位相シフト膜30に含まれる金属として、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などの遷移金属が好適であり、少なくともモリブデンを含有することが好ましい。
位相シフト膜30に含まれる窒素の含有量は、10原子%よりも多く50原子%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、15原子%以上45原子%以下が望ましい。
位相シフト膜30の金属、ケイ素、及び窒素の合計含有量は、90原子%以上であることが好ましく、92原子%以上であるとより好ましい。
また、位相シフト膜30の金属とケイ素の合計含有量に対する金属の含有量の比率は、0.5以下であると好ましく、0.45以下であるとより好ましく、0.35以下であるとさらに好ましい。
位相シフト膜30は、酸素を含有してもよい。位相シフト膜30に含まれる酸素の含有量は、10原子%以下であることが好ましく、8原子%以下であることがより好ましい。
位相シフト膜30は、露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能を有する。位相シフト膜30は、さらに、透光性基板20側から入射する光に対する反射率(以下、裏面反射率と記載する場合がある)を調整する機能を有することが好ましい。
位相シフト膜30は、スパッタリング法により形成することができる。
【0048】
位相シフト膜30の外周部以外の部分における露光光に対する透過率は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の外周部以外の部分における透過率は、露光光に含まれる所定の波長の光(以下、代表波長という、例えば波長365nmの光)に対して、3%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。また、代表波長に対して、70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましい。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30の外周部以外の部分は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した透過率を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30の外周部以外の部分は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した透過率を有する。
透過率は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0049】
位相シフト膜30の外周部以外の部分における露光光に対する位相差は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の外周部以外の部分における位相差は、露光光に含まれる代表波長の光に対して、150度以上210度以下であることが好ましく、160度以上200度以下であることがより好ましく、170度以上190度以下であることがさらに好ましい。この性質により、露光光に含まれる代表波長の光の位相を所定の位相差の範囲で変えることができる。このため、位相シフト膜30の外周部以外の部分を透過した代表波長の光と透光性基板20のみを透過した代表波長の光との間に所定の位相差が生じる。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30の外周部以外の部分は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した位相差を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30の外周部以外の部分は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した位相差を有する。
位相差は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0050】
また、位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30は、耐薬性(洗浄耐性)の高いことが要求される。この位相シフト膜30の耐薬性(洗浄耐性)を高めるために、膜密度を高めると効果的である。位相シフト膜30の膜密度と膜応力は相関があり、耐薬性(洗浄耐性)を考慮すると、位相シフト膜30の膜応力は、高い方が好ましい。一方で、位相シフト膜30の膜応力は、位相シフト膜パターンを形成したときの位置ずれや、位相シフト膜パターンの喪失を考慮する必要がある。以上の観点から位相シフト膜30の膜応力は、0.4GPa以上0.8GPa以下であることが好ましい。
【0051】
<エッチングマスク膜40>
本実施形態における位相シフトマスクブランク10は、エッチングマスク膜40を有してもよい(
図4参照。なお、
図4において、簡略化のため、外周部等の図示を省略している。
図5も同様)。エッチングマスク膜40は、位相シフト膜30の上側に配置され、位相シフト膜30をエッチングするエッチング液に対してエッチング耐性を有する材料からなる。また、エッチングマスク膜40は、露光光の透過を遮る機能を有してもよいし、さらに、膜面反射率を低減する機能を有してもよい。エッチングマスク膜40は、例えばクロム系材料から構成される。クロム系材料として、より具体的には、クロム(Cr)、又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つを含有する材料が挙げられる。又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つとを含み、さらに、フッ素(F)を含む材料が挙げられる。例えば、エッチングマスク膜40を構成する材料として、Cr、CrO、CrN、CrF、CrCO、CrCN、CrON、CrCON、CrCONFが挙げられる。
エッチングマスク膜40は、スパッタリング法により形成することができる。
【0052】
エッチングマスク膜40が露光光の透過を遮る機能を有する場合、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40とが積層する部分において、露光光に対する光学濃度は、好ましくは3以上であり、より好ましくは、3.5以上、さらに好ましくは4以上である。
光学濃度は、分光光度計もしくはODメーターなどを用いて測定することができる。
【0053】
なお、
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備えているが、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備え、エッチングマスク膜40上にレジスト膜を備える位相シフトマスクブランクについても、本発明を適用することができる。
【0054】
〈位相シフトマスクブランク(マスクブランク)の製造方法〉
次に、この実施の形態の位相シフトマスクブランク(マスクブランク)10の製造方法について説明する。位相シフトマスクブランク10は、以下の位相シフト膜形成工程とエッチングマスク膜形成工程とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0055】
1.位相シフト膜形成工程
先ず、透光性基板20を準備する。透光性基板20は、露光光に対して透明であれば、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのいずれのガラス材料で構成されるものであってもよい。
【0056】
次に、透光性基板20上に、スパッタリング法により、位相シフト膜30を形成する。
位相シフト膜30の成膜は、位相シフト膜30を構成する材料の主成分となる遷移金属とケイ素を含むスパッタターゲット、又は遷移金属とケイ素と酸素及び/又は窒素を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、上記不活性ガスと、酸素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。位相シフト膜30の外周部32における膜厚d2は、位相シフト膜30の中央側部分31における膜厚d1よりも小さくなるように成膜される。このときに、窒素の流量が、位相シフト膜30の中央側部分31よりも外周部32において少なくなるように、成膜室内における窒素の流量等の条件を調整しておく。これにより、位相シフト膜30の外周部32における膜厚d2は、位相シフト膜30の中央側部分31における膜厚d1よりも小さくなり、外周部32におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C2(N)/C2(Si)が中央側部分31におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C1(N)/C1(Si)よりも小さくなる。
【0057】
位相シフト膜30の組成及び厚さは、外周部以外の部分における位相シフト膜30が上記の位相差及び透過率となるように調整される。位相シフト膜30の組成は、スパッタターゲットを構成する元素の含有比率(例えば、遷移金属の含有量とケイ素の含有量との比)、スパッタガスの組成及び流量などにより制御することができる。位相シフト膜30の厚さは、スパッタパワー、スパッタリング時間などにより制御することができる。また、スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、基板の搬送速度によっても、位相シフト膜30の厚さを制御することができる。このように、位相シフト膜30の金属、ケイ素、及び窒素の合計含有量や、酸素の含有量が所望の範囲となるように制御を行う。
【0058】
3.エッチングマスク膜形成工程
位相シフト膜30の表面の表面酸化の状態を調整する表面処理を行った後、スパッタリング法により、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を形成する。
このようにして、位相シフトマスクブランク10が得られる。
【0059】
エッチングマスク膜40の成膜は、クロム又はクロム化合物(酸化クロム、窒化クロム、炭化クロム、酸化窒化クロム、酸化窒化炭化クロム等)を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。
【0060】
〈位相シフトマスク(転写用マスク)およびその製造方法〉
図5は本発明の実施形態における位相シフトマスク(転写用マスク)の製造工程を示す模式図である。
図5に示す位相シフトマスクの製造方法は、
図4に示す位相シフトマスクブランク10を用いて位相シフトマスクを製造する方法である。
図5(e)に示されているように、位相シフトマスク100は、マスクブランク10の位相シフト膜30に転写パターンである位相シフト膜パターン30aが形成され、エッチングマスク膜40に遮光パターンとして機能する第2のエッチングマスク膜パターン40bが形成されていることを特徴としている。この位相シフトマスク100は、マスクブランク10と同様の技術的特徴を有している。位相シフトマスク100における透光性基板20、位相シフト膜30の中央側部分31、外周部32、エッチングマスク膜40に関する事項については、マスクブランク10と同様である。位相シフトマスクの製造方法は、位相シフトマスクブランク10の上にレジスト膜を形成する工程と、レジスト膜に所望のパターンを描画・現像を行うことにより、レジスト膜パターン50を形成し(第1のレジスト膜パターン形成工程)、該レジスト膜パターン50をマスクとして、ウェットエッチングによりエッチングマスク膜40をパターニングして、エッチングマスク膜パターン40aを形成する工程(第1のエッチングマスク膜パターン形成工程)と、エッチングマスク膜パターン40aをマスクとして、位相シフト膜30をウェットエッチングにより透光性基板20上に位相シフト膜パターン30aを形成する工程(位相シフト膜パターン形成工程)と、を含む。そして、第2のレジスト膜パターン形成工程と、第2のエッチングマスク膜パターン形成工程とをさらに含む。
以下、各工程を説明する。
【0061】
1.第1のレジスト膜パターン形成工程
第1のレジスト膜パターン形成工程では、先ず、位相シフトマスクブランク10のエッチングマスク膜40上に、レジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、特に制限されない。例えば、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光に対して感光するものであればよい。また、レジスト膜は、ポジ型、ネガ型のいずれであっても構わない。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所望のパターンを描画する。レジスト膜に描画するパターンは、位相シフト膜30に形成するパターンである。レジスト膜に描画するパターンとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図5(a)に示されるように、エッチングマスク膜40上に第1のレジスト膜パターン50を形成する。
【0062】
2.第1のエッチングマスク膜パターン形成工程
第1のエッチングマスク膜パターン形成工程では、先ず、第1のレジスト膜パターン50をマスクにしてエッチングマスク膜40をエッチングして、第1のエッチングマスク膜パターン40aを形成する。エッチングマスク膜40は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。エッチングマスク膜40をエッチングするエッチング液は、エッチングマスク膜40を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。具体的には、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液が挙げられる。
その後、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、
図5(b)に示されるように、第1のレジスト膜パターン50を剥離する。場合によっては、第1のレジスト膜パターン50を剥離せずに、次の位相シフト膜パターン形成工程を行ってもよい。
【0063】
3.位相シフト膜パターン形成工程
第1の位相シフト膜パターン形成工程では、第1のエッチングマスク膜パターン40aをマスクにして位相シフト膜30をエッチングして、
図5(c)に示されるように、位相シフト膜パターン30aを形成する。位相シフト膜パターン30aとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。位相シフト膜30をエッチングするエッチング液は、位相シフト膜30を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。例えば、フッ化アンモニウムとリン酸と過酸化水素とを含むエッチング液、フッ化水素アンモニウムと塩化水素とを含むエッチング液が挙げられる。
【0064】
4.第2のレジスト膜パターン形成工程
第2のレジスト膜パターン形成工程では、先ず、第1のエッチングマスク膜パターン40aを覆うレジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、第1のレジスト膜パターン形成工程におけるレジスト膜材料と同様に、特に制限されない。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所望のパターンを描画する。レジスト膜に描画するパターンは、位相シフト膜30にパターンが形成されている領域の外周領域を遮光する遮光パターン、及び位相シフト膜パターンの中央部を遮光する遮光パターンである。なお、レジスト膜に描画するパターンは、露光光に対する位相シフト膜30の透過率によっては、位相シフト膜パターン30aの中央部を遮光する遮光パターンがないパターンの場合もある。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図5(d)に示されるように、第1のエッチングマスク膜パターン40a上に第2のレジスト膜パターン60を形成する。
【0065】
5.第2のエッチングマスク膜パターン形成工程
第2のエッチングマスク膜パターン形成工程では、第2のレジスト膜パターン60をマスクにして第1のエッチングマスク膜パターン40aをエッチングして、
図5(e)に示されるように、第2のエッチングマスク膜パターン40bを形成する。第1のエッチングマスク膜パターン40aは、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。第1のエッチングマスク膜パターン40aをエッチングするエッチング液は、第1のエッチングマスク膜パターン40aを選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。例えば、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液が挙げられる。
その後、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、第2のレジスト膜パターン60を剥離する。
このようにして、位相シフトマスク100が得られる。
なお、上記説明ではエッチングマスク膜40が、露光光の透過を遮る機能を有する場合について説明したが、エッチングマスク膜40が単に、位相シフト膜30をエッチングする際のハードマスクの機能のみを有する場合においては、上記説明において、第2のレジスト膜パターン形成工程と、第2のエッチングマスク膜パターン形成工程は行われず、位相シフト膜パターン形成工程の後、第1のエッチングマスク膜パターンを剥離して、位相シフトマスク100を作製する。
【0066】
この位相シフトマスクの製造方法によれば、実施の形態1の位相シフトマスクブランクを用いるため、断面形状が良好であり、CDバラツキが小さい位相シフト膜パターンを形成することができる。従って、高精細な位相シフト膜パターンを精度よく転写することができる位相シフトマスクを製造することができる。このように製造された位相シフトマスクは、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0067】
〈新たなマスクブランクの製造方法〉
次に、上述した位相シフトマスクブランク10または位相シフトマスク100をリサイクルし、新たなマスクブランク10および転写用マスク100を製造する方法について説明する。
まず、リサイクル対象となる位相シフトマスクブランク10または位相シフトマスク100を用意する。リサイクル対象となる位相シフトマスクブランク10または位相シフトマスク100の各構成は、上述した通りである。
次に、位相シフトマスクブランク10におけるエッチングマスク膜40または位相シフトマスク100におけるエッチングマスク膜パターン40bを、剥離液を用いて除去する工程を実施する。エッチングマスク膜40またはエッチングマスク膜パターン40bの除去は、クロム系材料から構成されている場合には、硝酸第2セリウムアンモニウム((NH4)2Ce(NO3)6)及び過塩素酸(HClO4)を含む純水からなるクロム用エッチング液をエッチングマスク膜40またはエッチングマスク膜パターン40bに供給してエッチングすることで行うことが出来る。
【0068】
そして、位相シフトマスクブランク10における位相シフト膜(薄膜)30または位相シフトマスク100における位相シフト膜パターン(転写パターンを有する薄膜)30aを、剥離液を用いて除去する工程を実施する。位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aの除去は、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素を含有するエッチング液を用いて行うことができる。このエッチング液は、弗化水素酸、珪弗化水素酸、弗化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つの弗素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含み、弗素化合物を0.1~0.8wt%含むと共に酸化剤を0.5~4.0wt%含む水溶液に接触させて行うことが好ましい。
【0069】
上述のように、位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aの外周部32における膜厚d2は、位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aの中央側部分31における膜厚d1よりも小さくなり、外周部32におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C2(N)/C2(Si)が中央側部分31におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C1(N)/C1(Si)よりも小さくなっている。これにより、上述したエッチング液を用いて位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aを行う際に、外周部32におけるエッチングレートを、中央側部分31におけるエッチングレートよりも抑制でき、これにより、中央側部分31に比べて膜厚の小さい外周部32の除去に要する時間と、中央側部分31の除去に要する時間との差異を大幅に短縮することができる。よって、位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aを剥離した後の透光性基板20における主表面21の面内均一性を改善することが可能となる。このようにして、位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aが除去された透光性基板を取得する。
【0070】
位相シフト膜30または位相シフト膜パターン30aを剥離した後の透光性基板20の主表面21、22に対して、検査装置を用いて表面形状の測定(平坦度の測定)を行う。そして、検査結果に応じて、所定の研磨工程、洗浄工程を適宜行う。その後、透光性基板20に対して、リサイクル基板としての品質を満たしているか(主表面21の平坦度と透光性基板20の厚さが基準を満たしているか否かなど。)についての評価工程を行い、満たしていると判定を受けた透光性基板20に対して、新たにパターン形成用の薄膜を形成する工程を行う。このようにして、新たなマスクブランクを製造することができる。新たなマスクブランクを位相シフトマスクブランク10とする場合には、新たにパターン形成用の薄膜を形成する工程は、上述した〈位相シフトマスクブランク(マスクブランク)の製造方法〉と同様にして行う。なお、この新たなマスクブランクは、必ずしも位相シフトマスクブランク10でなくてもよく、例えばバイナリ用途のマスクブランクであってもよい。
【0071】
〈新たな転写用マスクの製造方法〉
上述した新たなマスクブランクの製造方法によって製造されたマスクブランクを用いて新たな転写用マスクを製造する方法について説明する。この新たな転写用マスクを製造する方法は、新たに製造されたマスクブランクのパターン形成用の薄膜に対し、ウェットエッチングでパターンを形成する工程を有するものである。新たに製造されたマスクブランクが位相シフトマスクブランク10である場合には、このマスクブランク10のパターン形成用の薄膜(位相シフト膜)30に対し、上述した〈位相シフトマスク(転写用マスク)およびその製造方法〉において述べたように、ウェットエッチングで位相シフト膜パターン30aを形成することができる。なお、この新たなマスクブランクが例えばバイナリ用途のマスクブランクであった場合においても、透光性基板20上に形成されたパターン形成用の薄膜(例えば、遮光性を有するクロム系材料のエッチングマスク膜)に対し、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液を用いたウェットエッチングを行うことで、パターンを形成することができる。
【0072】
〈表示装置の製造方法〉
表示装置は、上述した転写用マスクを用いる工程(マスク載置工程)と、表示装置上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程(パターン転写工程)とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0073】
1.載置工程
載置工程では、転写用マスクを露光装置のマスクステージに載置する。ここで、転写用マスクは、位相シフトマスクブランク10を用いて製造された位相シフトマスク(転写用マスク)100、上述した新たな転写用マスクの製造方法によって製造された新たな転写用マスクのいずれであってもよい。転写用マスクは、露光装置の投影光学系を介して表示装置基板上に形成されたレジスト膜に対向するように配置される。
【0074】
2.パターン転写工程
パターン転写工程では、転写用マスクに露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に位相シフト膜パターンを転写する。露光光は、365nm~436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光や、365nm~436nmの波長域からある波長域をフィルターなどでカットし選択された単色光である。例えば、露光光は、i線、h線およびg線を含む複合光や、i線の単色光である。露光光として複合光を用いると、露光光強度を高くしてスループットを上げることができるため、表示装置の製造コストを下げることができる。
【0075】
この表示装置の製造方法によれば、CDエラーを抑制でき、高解像度、微細なラインアンドスペースパターンやコンタクトホールを有する、高精細の表示装置を製造することができる。
【実施例0076】
実施例1.
A.位相シフトマスクブランクおよびその製造方法
実施例1の位相シフトマスクブランクを製造するため、先ず、透光性基板20として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。
【0077】
その後、合成石英ガラス基板を、主表面を下側に向けてトレイ(図示せず)に搭載し、インライン型スパッタリング装置のチャンバー内に搬入した。
透光性基板20の主表面21上に位相シフト膜30を形成するため、まず、第1チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスと、酸素ガス(O2)、窒素(N2)ガスとの混合ガスを導入し、モリブデンとケイ素を含む第1スパッタターゲット(モリブデン:ケイ素=1:4)を用いた反応性スパッタリングにより、透光性基板20の主表面上にモリブデンとケイ素と酸素と窒素を含有するモリブデンシリサイドの酸化窒化物を堆積させた。このとき、チャンバー内の窒素ガスの量が、位相シフト膜30の中央側部分31よりも外周部32において少なくなるように、成膜室内における窒素の流量の条件の調整や、ガスの導入口および排出口の配置の調整などを行った。そして、位相シフト膜30の中央側部分31において、膜厚d1が110nmの位相シフト膜30を成膜した。膜厚d1は、中央側部分31において、30mmの矩形領域内に垂直方向5個、水平方向5個の25個の測定点を設定し、各測定点における膜厚の平均値として算出したものである。また、外周部32の領域Bにおいて、膜厚d2はいずれも膜厚d1よりも小さくなっていた。
外周部32の領域Bは、透光性基板20の主表面21において面取り面24の境界から4mm~7mmの範囲にわたって形成されており、主表面21の面取り面24の境界から10mm以内の領域であった。
【0078】
次に、位相シフト膜30付きの透光性基板20を第2チャンバー内に搬入し、第2チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガスを導入した。そして、クロムからなる第2スパッタターゲットを用いた反応性スパッタリングにより、位相シフト膜30上にクロムと窒素を含有するクロム窒化物(CrN)を形成した(膜厚15nm)。次に、第3チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4)ガスの混合ガスを導入し、クロムからなる第3スパッタターゲットを用いた、反応性スパッタリングによりCrN上にクロムと炭素を含有するクロム炭化物(CrC)を形成した(膜厚60nm)。最後に、第4チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4)ガスの混合ガスと窒素(N2)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガス(Ar+CH4)を導入し、クロムからなる第4スパッタターゲットを用いた、反応性スパッタリングによりCrC上にクロムと炭素と酸素と窒素を含有するクロム炭化酸化窒化物(CrCON)を形成した(膜厚30nm)。以上のように、位相シフト膜30上に、CrN層とCrC層とCrCON層の積層構造のエッチングマスク膜40を形成した。
このようにして、透光性基板20上に、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40とが形成された位相シフトマスクブランク10を得た。
【0079】
得られた位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30について、レーザーテック社製のMPM-100により中央側部分31の透過率、位相差を測定した。位相シフト膜30の透過率、位相差の測定には、同一のトレイにセットして作製された、合成石英ガラス基板の主表面上に位相シフト膜30が成膜された位相シフト膜付き基板(ダミー基板)を用いた。位相シフト膜30の透過率、位相差は、エッチングマスク膜40を形成する前に位相シフト膜付き基板(ダミー基板)をチャンバーから取り出し、測定した。その結果、透過率は5.2%(波長:365nm)位相差は176度(波長:365nm)であった。
【0080】
別の透光性基板に対して、上述した条件で、位相シフト膜、エッチングマスク膜を成膜した。そして、位相シフト膜の外周部と中央側部分に対して、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。
図2は、実施例1の位相シフトマスクブランクの中央側部分(外周部以外の部分)に対する深さ方向の組成分析結果を示す図である。また、
図3は、実施例1の位相シフトマスクブランクの外周部に対する深さ方向の組成分析結果を示す図である。ここで、
図2においては、中央側部分31において、測定された膜厚d
1が平均膜厚と略同一の厚さとなった地点の組成分析結果を示している。そのため、
図2に示された組成分析結果は、中央側部分31全体の平均特性を表しているといえる。また、
図3においては、外周部32において、測定された膜厚d
2が77nmの地点での組成分析結果を示している。すなわち、膜厚の比率d
2/d
1は0.7である。
図2、
図3の横軸はエッチングマスク膜40の最表面を基準とした位相シフトマスクブランク10に対するミリング時間(分)を示し、縦軸は含有量(原子%)を示している。
図3において、各曲線は、ケイ素(Si)、窒素(N)、酸素(O)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)の含有量の変化をそれぞれ示している。
【0081】
図2および
図3に示されるように、位相シフトマスクブランク10に対するXPSによる深さ方向の組成分析結果において、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40の界面(位相シフト膜30からエッチングマスク膜40に向かって遷移金属の割合が減少し、初めて遷移金属の含有量が0原子%となる位置)と、位相シフト膜30と透光性基板20の界面(位相シフト膜30から透光性基板20に向かって遷移金属の割合が減少し、初めて遷移金属の含有量が0原子%となる位置)との間の、位相シフト膜30の領域において、外周部32における窒素の含有量は、中央側部分(外周部以外の部分)31における窒素の含有量よりも小さくなっていることが分かった。また、外周部32および中央側部分31のいずれにおいても、酸素の含有量は、10原子%以下であり、金属、ケイ素、及び窒素の合計含有量は、90原子%以上であることが分かった。
【0082】
図2の結果から、位相シフト膜30の中央側部分31における各組成の平均値を算出したところ、ケイ素の含有量C
1(Si)が41.3原子%、モリブデンの含有量C
1(Mo)が16.3原子%、窒素の含有量C
1(N)が35.6原子%、酸素の含有量C
1(O)が5.4原子%、炭素の含有量C
1(C)が1.1原子%、クロムの含有量C
1(Cr)が0.3原子%であった。
また、
図3の結果から、位相シフト膜30の外周部32(膜厚の比率d
2/d
1が0.7の地点。)における各組成の平均値を算出したところ、ケイ素の含有量C
2(Si)が48.7原子%、モリブデンの含有量C
2(Mo)が20.1原子%、窒素の含有量C
2(N)が29.1原子%、酸素の含有量C
2(O)が1.0原子%、炭素の含有量C
2(C)が0.9原子%、クロムの含有量C
2(Cr)が0.2原子%であった。
【0083】
これらの結果から、中央側部分(外周部以外の部分)31における比率C1(N)/C1(Si)は0.862、比率C1(N)/{C1(Si)+C1(Mo)}は0.618、比率C1(N)/{C1(Si)+C1(Mo)+C1(O)}は0.565であることがわかった。また、外周部32における比率C2(N)/C2(Si)は0.598、比率C2(N)/{C2(Si)+C2(Mo)}は0.423、および比率C2(N)/{C2(Si)+C2(Mo)+C2(O)}は0.417であることがわかった。すなわち、上記の各比率ともに、外周部32の方が中央側部分31よりも下回っていた。
【0084】
さらに、比率[C2(N)/C2(Si)]/[C1(N)/C1(Si)]は0.694、比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}]は0.685、比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)+C2(O)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)+C2(O)}]は0.738であることもわかった。上記のいずれの比率も、0.84を下回っていた。
【0085】
B.位相シフトマスクおよびその製造方法
上述のようにして製造された位相シフトマスクブランク10について、
図5に示した手順で、透光性基板20上に、転写パターン形成領域に位相シフト膜パターン30aと、位相シフト膜パターン30aとエッチングマスク膜パターン40bの積層構造からなる遮光パターンが形成された位相シフトマスク100を得た。
【0086】
位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきを、セイコーインスツルメンツナノテクノロジー社製SIR8000により測定したところ、CDばらつきは良好であった。
C.表示装置の製造方法
このため、この実施例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、微細パターンを高精度に転写することができるといえる。
【0087】
D.新たなマスクブランクの製造方法
実施例1における位相シフトマスクブランク10または位相シフトマスク100をそれぞれ10枚用意して、それぞれのエッチングマスク膜40またはエッチングマスク膜パターン40bに対して、硝酸第2セリウムアンモニウム((NH4)2Ce(NO3)6)及び過塩素酸(HClO4)を含む純水からなるクロム用エッチング液をエッチングマスク膜40またはエッチングマスク膜パターン40bに供給して、除去する工程を実施した。
そして、位相シフトマスクブランク10における位相シフト膜(薄膜)30または位相シフトマスク100における位相シフト膜パターン(転写パターンを有する薄膜)30aを、剥離液を用いて除去する工程を実施した。この工程において、水溶液として、弗化水素アンモニウム(0.5wt%)+過酸化水素(2.0wt%)+純水(97.5wt%)の混合水溶液を用いた。
続いて、位相シフト膜(薄膜)30または位相シフト膜パターン(転写パターンを有する薄膜)30aが除去された基板20の主表面21、22に対して、検査装置を用いて表面形状や面内均一性等の検査を行った。いずれの基板20においても、許容範囲内の面内均一性を有しており、良好な結果が得られた。
その後、基板20の主表面21、22に対し、酸化セリウムやコロイダルシリカ等の公知の遊離砥粒を含有する研磨液と、研磨パッドとを用いて、所定の研磨工程、洗浄工程を適宜行った。
その後、透光性基板20に対して、リサイクル基板としての品質を満たしているかについての評価工程を行ったところ、いずれの基板20においても品質を満たしているとの結果が得られた。
そして、実施例1における<A.位相シフトマスクブランクおよびその製造方法>、<B.位相シフトマスクおよびその製造方法>、<C.表示装置の製造方法>において述べたように、新たな位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク、表示装置の製造を行ったところ、いずれも良好な結果が得られた。
以上のように、本実施形態によれば、パターン形成用の薄膜または転写パターンを有する薄膜を剥離した後の透光性基板における主表面の面内均一性を高めることができ、リサイクル後の製造歩留まりの向上に寄与することができるマスクブランク、転写用マスク、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び表示装置の製造方法を製造することができる。
【0088】
比較例1.
比較例1の位相シフトマスクブランク10を製造するため、実施例1と同様に、透光性基板20として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。
合成石英ガラス基板を、インライン型のスパッタリング装置のチャンバーに搬入した。比較例1においては、実施例1とは異なり、成膜室内における窒素の流量等の条件をせずに、位相シフト膜30を成膜した。そして、第1スパッタターゲット、第2スパッタターゲット、第3スパッタターゲット、第4スパッタターゲットとして、実施例1と同じスパッタターゲット材料を用いた。
そして、実施例1と同じ方法により、エッチングマスク膜40を成膜した。
このようにして、透光性基板20上に、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40とが形成された位相シフトマスクブランク10を得た。
【0089】
得られた位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜(位相シフト膜の表面を純水洗浄した位相シフト膜)30について、レーザーテック社製のMPM-100により中央側部分31の透過率、位相差を測定した。位相シフト膜の透過率、位相差の測定には、同一のトレイにセットして作製された、合成石英ガラス基板の主表面上に位相シフト膜30が成膜された位相シフト膜付き基板(ダミー基板)を用いた。位相シフト膜30の透過率、位相差は、エッチングマスク膜を形成する前に位相シフト膜付き基板(ダミー基板)をチャンバーから取り出し、測定した。その結果、透過率は5.2%(波長:365nm)位相差は176度(波長:365nm)であった。
【0090】
また、別の透光性基板に対して、比較例1と同一の条件で、位相シフト膜、エッチングマスク膜を成膜した。そして、位相シフト膜の外周部と中央側部分に対して、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。位相シフト膜の中央側部分における組成分析結果は、
図2に示した実施例1のものと同等であった。一方、位相シフト膜の外周部における組成分析結果は、位相シフト膜の中央側部分における組成分析結果と同等であった。すなわち、中央側部分(外周部以外の部分)におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C
1(N)/C
1(Si)、外周部におけるケイ素の含有量に対する窒素の含有量の比率C
2(N)/C
2(Si)とは同等の値を有していた。
【0091】
同様に、比率C1(N)/{C1(Si)+C1(Mo)}と比率C2(N)/{C2(Si)+C2(Mo)}とは同等の値を有しており、比率C1(N)/{C1(Si)+C1(Mo)+C1(O)}とC2(N)/{C2(Si)+C2(Mo)+C2(O)}とは同等の値を有していた。よって、比率[C2(N)/C2(Si)]/[C1(N)/C1(Si)]、比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)}]、比率[C2(N)/{C2(Si)+C2(M)+C2(O)}]/[C1(N)/{C1(Si)+C1(M)+C2(O)}]は、いずれも1弱であり、0.84を大幅に上回っていた。
【0092】
また、位相シフト膜につき、UltraFLAT 200M(Corning TROPEL社製)を用いて平坦度変化を測定し、膜応力を算出したところ、0.46GPaであった。この位相シフト膜30は、位相シフトマスクの洗浄で使用される薬液(硫酸過水、アンモニア過水、オゾン水)に対する、透過率変化量、位相差変化量ともに小さく、高い耐薬性、耐洗浄性を有していた。
【0093】
B.位相シフトマスクおよびその製造方法
上述のようにして製造された位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同じ方法により、位相シフトマスクを製造した。
位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきを、セイコーインスツルメンツナノテクノロジー社製SIR8000により測定したところ、CDばらつきは良好であった。
【0094】
C.表示装置の製造方法
このため、この比較例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、微細パターンを高精度に転写することができるといえる。
【0095】
D.新たなマスクブランクの製造方法
比較例1における位相シフトマスクブランク10または位相シフトマスク100をそれぞれ10枚用意して、それぞれのエッチングマスク膜40またはエッチングマスク膜パターン40bに対して、硝酸第2セリウムアンモニウム((NH4)2Ce(NO3)6)及び過塩素酸(HClO4)を含む純水からなるクロム用エッチング液をエッチングマスク膜40またはエッチングマスク膜パターン40bに供給して、除去する工程を実施した。
【0096】
そして、位相シフトマスクブランク10における位相シフト膜(薄膜)30または位相シフトマスク100における位相シフト膜パターン(転写パターンを有する薄膜)30aを、剥離液を用いて除去する工程を実施した。この工程において、水溶液として、弗化水素アンモニウム(0.5wt%)+過酸化水素(2.0wt%)+純水(97.5wt%)の混合水溶液を用いた。
【0097】
続いて、位相シフト膜(薄膜)30または位相シフト膜パターン(転写パターンを有する薄膜)30aが除去された基板20の主表面21、22に対し、酸化セリウムやコロイダルシリカ等の公知の遊離砥粒を含有する研磨液と、研磨パッドとを用いて、所定の研磨工程、洗浄工程を適宜行った。いずれの基板20においても、実施例1における研磨工程よりも多くの研磨工程が必要となり、研磨量も増大した。
【0098】
その後、透光性基板20に対して、検査装置を用いて表面形状の測定(平坦度等の測定)と基板の厚さの測定を行った。それら結果から、リサイクル基板としての品質を満たしているかについての評価工程を行ったところ、5枚の基板20が必要な板厚基準を満たさず、品質を満たしていないとの評価となった。すなわち、当初用意した10枚の基板20のうち、品質を満たしていると判定された基板は、5枚のみであった。
【0099】
そして、比較例1における<A.位相シフトマスクブランクおよびその製造方法>、<B.位相シフトマスクおよびその製造方法>、<C.表示装置の製造方法>において述べたように、新たな位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク、表示装置の製造を行ったところ、リサイクル前の比較例1の位相シフトマスクよりも性能は同等か前よりも低下していた。そして、その後のリサイクルを行うことはできないものであった。
【0100】
以上のように、本発明によれば、パターン形成用の薄膜または転写パターンを有する薄膜を剥離した後の透光性基板における主表面の面内均一性を高めることができ、リサイクル後の製造歩留まりの向上に寄与することができるマスクブランク、転写用マスク、マスクブランクの製造方法、転写用マスクの製造方法、及び表示装置の製造方法を製造することができる。
【0101】
なお、上述の実施例では、遷移金属としてモリブデンを用いた場合を説明したが、他の遷移金属の場合でも上述と同等の効果が得られる。
また、上述の実施例では、表示装置製造用の位相シフトマスクブランクや、表示装置製造用の位相シフトマスクの例を説明したが、これに限られない。本発明の位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクは、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用等にも適用できる。また、本発明の適用対象は、位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクに限られるものではなく、透過率調整膜として機能する金属、ケイ素および窒素を含有する薄膜を有するマスクブランクや転写用マスク等にも適用することができる。
また、上述の実施例では、透光性基板のサイズが、8092サイズ(800mm×920mm×10mm)の例を説明したが、これに限られない。表示装置製造用の位相シフトマスクブランクの場合、大型(Large Size)の透光性基板が使用され、該透光性基板のサイズは、一辺の長さが、300mm以上である。表示装置製造用の位相シフトマスクブランクに使用する透光性基板のサイズは、例えば、330mm×450mm以上2280mm×3130mm以下である。
また、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用の位相シフトマスクブランクの場合、小型(Small Size)の透光性基板が使用され、該透光性基板のサイズは、一辺の長さが9インチ以下である。上記用途の位相シフトマスクブランクに使用する透光性基板のサイズは、例えば、63.1mm×63.1mm以上228.6mm×228.6mm以下である。通常、半導体製造用、MEMS製造用は、6025サイズ(152mm×152mm)や5009サイズ(126.6mm×126.6mm)が使用され、プリント基板用は、7012サイズ(177.4mm×177.4mm)や、9012サイズ(228.6mm×228.6mm)が使用される。