IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特開2023-161056光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズ
<>
  • 特開-光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズ 図1
  • 特開-光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズ 図2
  • 特開-光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズ 図3
  • 特開-光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズ 図4
  • 特開-光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズ 図5
  • 特開-光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズ 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161056
(43)【公開日】2023-11-06
(54)【発明の名称】光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/23 20060101AFI20231027BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20231027BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
G02B5/23
G02B1/04
G02C7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020145860
(22)【出願日】2020-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】門脇 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】河戸 伸雄
【テーマコード(参考)】
2H006
2H148
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BE02
2H148DA04
2H148DA24
(57)【要約】
【課題】複数のフォトクロミック化合物を組み合わせて用いたとしても、発色および消色過程で色調が変化することがなく、色ズレが抑制されたフォトクロミックレンズを得ることができる光学材料用重合性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の光学材料用重合性組成物は、同一の発色団を構造中に有する少なくとも2種のフォトクロミック化合物と、重合性化合物と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の発色団を構造中に有する少なくとも2種のフォトクロミック化合物を含む、フォトクロミック色素と、
重合性化合物と、
を含む、光学材料用重合性組成物。
【請求項2】
前記フォトクロミック化合物は、下記一般式(a)で表される化合物から選択される少なくとも2種の化合物である、請求項1に記載の光学材料用重合性組成物。
(Chain)a-[(L)b-(PC1)]c (a)
(一般式(a)中、aおよびbは何れも0であるか1である。cはChainが有する結合手の数に等しい。
PC1は一般式(c)~(f)のいずれかの化合物から誘導される発色団を示す。
【化1】
一般式(c)~(f)中、R~R18は、水素、ハロゲン原子、カルボキシル基、アセチル基、ホルミル基、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基、置換されてもよいC3~C20の脂環族基、または置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。これら脂肪族基、脂環族基または芳香族有機基は、酸素原子、窒素原子を含んでもよい。一般式(c)~(f)で表される化合物に含まれる、いずれか1つの基は、2価の有機基であるLと結合する。Lは、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選択される1種以上を含む2価の有機基を示す。Chainは、ポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖から選択される1種以上を含む1価または2価の有機基を示す。)
【請求項3】
同一の発色団を構造中に有する1種または2種以上のフォトクロミック化合物からなる群と、前記発色団とは異なる少なくとも1種の発色団毎に、同一の発色団を構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる少なくとも1つの群と、を含むフォトクロミック色素と、
重合性化合物と、
を含み、
前記フォトクロミック色素を構成する全ての群毎に算出される退色半減期が略同一である、光学材料用重合性組成物。
【請求項4】
前記フォトクロミック色素は、
同一の発色団aを構造中に有する1種または2種以上のフォトクロミック化合物からなる群aと、
発色団aとは異なる同一の発色団bを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群bと、を含み、
群aおよび群bにおいて算出される退色半減期が略同一である、請求項3に記載の光学材料用重合性組成物。
【請求項5】
群aは一般式(a)または(b)で表さる化合物から選択される1種または2種以上のフォトクロミック化合物であり、
群bは他方の一般式で表される化合物から選択される2種以上のフォトクロミック化合物である、請求項4に記載の光学材料用重合性組成物。
(Chain)a-[(L)b-(PC1)]c (a)
(Chain)a-[(L)b-(PC2)]c (b)
(一般式(a)または(b)中、aおよびbは何れも0であるか1である。cはChainが有する結合手の数に等しい。
PC1およびPC2は一般式(c)~(f)のいずれかの化合物から誘導される発色団を示す。PC1とPC2は異なる。)
【化2】
(一般式(c)~(f)中、R~R18は、水素、ハロゲン原子、カルボキシル基、アセチル基、ホルミル基、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基、置換されてもよいC3~C20の脂環族基、または置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。これら脂肪族基、脂環族基または芳香族有機基は、酸素原子、窒素原子を含んでもよい。一般式(c)~(f)で表される化合物に含まれる、いずれか1つの基は、2価の有機基であるLと結合する。Lは、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選択される1種以上を含む2価の有機基を示す。Chainは、ポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖から選択される1種以上を含む1価または2価の有機基を示す。)
【請求項6】
前記重合性化合物は、二官能以上のイソ(チオ)シアネート化合物と、二官能以上の活性水素化合物とを含む、請求項1~5のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物。
【請求項7】
前記イソ(チオ)シアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトシクロへキシル)メタン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、および4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項6に記載の光学材料用重合性組成物。
【請求項8】
前記活性水素化合物が、二官能以上のポリチオール化合物および/または二官能以上のポリオール化合物である、請求項6または7に記載の光学材料用重合性組成物。
【請求項9】
前記ポリチオール化合物が、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の光学材料用重合性組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物を硬化した成形体。
【請求項11】
請求項10に記載の成形体からなる光学材料。
【請求項12】
請求項10に記載の成形体からなるフォトクロミックレンズ。
【請求項13】
同一の発色団を構造中に有するフォトクロミック化合物を複数選択する工程と、
選択された複数の前記フォトクロミック化合物から、所望の色調となるように2種以上のフォトクロミック化合物を選択する工程と、
2種以上の前記フォトクロミック化合物を所定の比となるように重合性化合物と混合する工程と、
を含む、光学材料用重合性組成物の製造方法。
【請求項14】
フォトクロミック化合物を選択する前記工程の後に、
所望の樹脂における2種以上の前記フォトクロミック化合物の退色半減期を取得する工程と、
2種以上の前記フォトクロミック化合物の混合状態における退色半減期を調整するために、2種以上の前記フォトクロミック化合物の比を調整する工程と、
を含む、請求項13に記載の光学材料用重合性組成物の製造方法。
【請求項15】
異なる発色団を構造中に有するフォトクロミック化合物を複数選択する工程と、
選択された複数の前記フォトクロミック化合物から、所望の色調となるように3種以上のフォトクロミック化合物を選択する工程と、
所望の樹脂における3種以上の前記フォトクロミック化合物の退色半減期を取得する工程と、
3種以上の前記フォトクロミック化合物を、同一の発色団を構造中に有する1種または2種以上のフォトクロミック化合物からなる群、および前記発色団とは異なる少なくとも1種の発色団毎に、同一の発色団を構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる少なくとも1つの群に分類する工程と、
全ての前記群毎に算出される退色半減期が略同一となるように調整する工程と、
前記フォトクロミック化合物群を全て混合した状態における色調を調整するために、前記フォトクロミック化合物群の比を調整する工程と、
前記フォトクロミック化合物群を前記比となるように重合性化合物と混合する工程と、
を含む、光学材料用重合性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック色素を含む光学材料用重合性組成物およびフォトクロミックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、無機レンズに比べ軽量で割れ難く、染色が可能なため眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学材料として急速に普及してきている。これまでに様々なレンズ用成形体が開発され使用されている。
その中でも代表的な例として、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートやジアリルイソフタレートから得られるアリル樹脂や、(メタ)アクリレートから得られる(メタ)アクリル樹脂、ポリイソシアネートとポリチオールから得られるポリチオウレタン樹脂が挙げられる。
【0003】
また近年、様々な機能が付与されたプラスチックレンズが開発されてきている。
例えば、フォトクロミック性能を有する眼鏡用プラスチックレンズの開発が進められている。フォトクロミック性能を有する眼鏡とは、屋内では無色透明の眼鏡として機能し、屋外では太陽光(紫外線)に反応してレンズがグレー、ブラウン等に色づき、まぶしさから目を守る機能を発揮する眼鏡である。屋内・屋外の両方での使用に対応する高機能な眼鏡であり、近年、その需要が拡大している。
フォトクロミックレンズ材料として、例えば、特許文献1~6に記載の技術を挙げることができる。
【0004】
特許文献1には、特定の構造の(メタ)アクリル酸エステルおよびジビニルベンゼンを含むモノマー混合物にフォトクロミック化合物を溶解した重合性組成物を注型重合法でラジカル重合させることにより、屈折率が高く、フォトクロミック特性に優れた眼鏡用フォトクロミックレンズを提供できることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、フォトクロミック化合物とジ(メタ)アクリル基を有する重合性単量体を含む組成物を注型重合法でラジカル重合させることにより、光応答性の速いフォトクロミック性を有するとともに、低比重、耐衝撃性等の諸物性を有するフォトクロミック光学材料を提供できることが開示されている。また、フォトクロミック化合物とポリオールまたはポリチオールとポリイソシアネートおよびジ(メタ)アクリル基を有する重合性単量体を含む組成物を硬化させることにより、高屈折率のフォトクロミック光学材料を提供できることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、フォトクロミック化合物とフルオレンアクリレート化合物を含む光学材料用重合性組成物を注型重合法でラジカル重合させることにより、高屈折ながらも光変色性能と光学特性が優れたフルオレンアクリル系のフォトクロミック光学材料を提供できることが開示されている。
特許文献4には、所定のフォトクロミック化合物と、ジ(メタ)アクリレート化合物とを含む組成物からなる、レンズが記載されている。
【0007】
特許文献5には、クロメン骨格を有するフォトクロミック化合物とフェノール化合物を含む組成物からなるコーティング層を、チオウレタン系プラスチックレンズの表面に設けたレンズが開示されている。
【0008】
特許文献6には、チオウレタン樹脂からなるレンズ基材と、該基材上に、フォトクロミック化合物とラジカル重合性単量体とを含む溶液を塗布することで形成されたフォトクロミック膜とを有するフォトクロミックレンズが開示されている。
【0009】
特許文献7には、フォトクロミックレンズをあらかじめ着色することにより色素混合系での発色および消色過程の色ズレを目立たなくする方法が開示されている。
特許文献8には、発色速度および消色速度の速い色素に遅い色素を加えることで発色および消色過程の色ズレを目立たなくする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2012/141306号
【特許文献2】特開2004-78052号公報
【特許文献3】国際公開第2014/208994号
【特許文献4】特開平8-272036号公報
【特許文献5】特開2005-23238号公報
【特許文献6】特開2008-30439号公報
【特許文献7】特開平7-43525号公報
【特許文献8】特開2002-6272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
多種類のフォトクロミック色素を含む光学材料を想定した場合、各色素の発色速度および消色速度(以下、発色および消色速度)が同一であれば、発色過程や消色過程(以下、発色および消色過程)において呈するレンズの色調は常に目的とするグレーやブラウンを保って変化する。しかし、色素の発色および消色速度はそれらの分子構造にも大きく依存するため、分子構造の異なる多種色素を混合すれば各色素の発色および消色速度は同じものにはならないのが常である。
【0012】
各色素の発色および消色速度が異なると、発色および消色過程の色調は一定のものとはならず、色座標上を特定のカーブを描いて時間とともに変化するものとなり、通常、発色過程と消色過程のカーブが一致することもない。発色過程では発色速度の速い色素の発色がまず表れ、そして発色速度の遅い色素の発色が徐々に追いついてくるため、発色速度の速い色素の色調を経由してから混合色調に変化する。一方、消色過程では逆に消色速度の速い色素が先に消色し、そして消色速度の遅い色素の影響が強く残るため、消色速度の遅い色素の色調を経由して消色してゆく。
【0013】
このように、発色速度または消色速度の速い色素と、これらの速度が遅い色素との混合系では、発色過程と消色過程の色調変化は色座標上にループを描いて変化するのが一般的である。また、この色調変化は光学材料を発色させる光線の状況や環境温度によって強い影響を受けることも知られている。従って、例えばこのようなフォトクロミック性を有する光学材料を多種多様な環境下で用いられる眼鏡用レンズに応用しようとする場合、発色および消色過程で一時的にグレーやブラウンから大きく外れた装用者の意図しない色調に変化し、色ズレを起こすことが想定され、この点の改善が望まれていた。特許文献7、8はこのような課題を解決するための1つの試みではあるが、色ズレを起こさないようにするためにはなお十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、このような従来技術に鑑み鋭意検討した結果、特定の構造を有するフォトクロミック化合物を組み合わせて用いれば、発色過程や消色過程において呈する色調を常に目的とする色調に保って変化させることができることを見出し、これにより色ズレの問題を解消して発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下に示すことができる。
[1] 同一の発色団を構造中に有する少なくとも2種のフォトクロミック化合物を含む、フォトクロミック色素と、
重合性化合物と、
を含む、光学材料用重合性組成物。
[2] 前記フォトクロミック化合物は、下記一般式(a)で表される化合物から選択される少なくとも2種の化合物である、[1]に記載の光学材料用重合性組成物。
(Chain)a-[(L)b-(PC1)]c (a)
(一般式(a)中、aおよびbは何れも0であるか1である。cはChainが有する結合手の数に等しい。
PC1は一般式(c)~(f)のいずれかの化合物から誘導される発色団を示す。
【化1】
一般式(c)~(f)中、R~R18は、水素、ハロゲン原子、カルボキシル基、アセチル基、ホルミル基、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基、置換されてもよいC3~C20の脂環族基、または置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。これら脂肪族基、脂環族基または芳香族有機基は、酸素原子、窒素原子を含んでもよい。一般式(c)~(f)で表される化合物に含まれる、いずれか1つの基は、2価の有機基であるLと結合する。Lは、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選択される1種以上を含む2価の有機基を示す。Chainは、ポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖から選択される1種以上を含む1価または2価の有機基を示す。)
[3] 同一の発色団を構造中に有する1種または2種以上のフォトクロミック化合物からなる群と、前記発色団とは異なる少なくとも1種の発色団毎に、同一の発色団を構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる少なくとも1つの群と、を含むフォトクロミック色素と、
重合性化合物と、
を含み、
前記フォトクロミック色素を構成する全ての群毎に算出される退色半減期が略同一である、光学材料用重合性組成物。
[4] 前記フォトクロミック色素は、
同一の発色団aを構造中に有する1種または2種以上のフォトクロミック化合物からなる群aと、
発色団aとは異なる同一の発色団bを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群bと、を含み、
群aおよび群bにおいて算出される退色半減期が略同一である、[3]に記載の光学材料用重合性組成物。
[5] 群aは一般式(a)または(b)で表さる化合物から選択される1種または2種以上のフォトクロミック化合物であり、
群bは他方の一般式で表される化合物から選択される2種以上のフォトクロミック化合物である、[4]に記載の光学材料用重合性組成物。
(Chain)a-[(L)b-(PC1)]c (a)
(Chain)a-[(L)b-(PC2)]c (b)
(一般式(a)または(b)中、aおよびbは何れも0であるか1である。cはChainが有する結合手の数に等しい。
PC1およびPC2は一般式(c)~(f)のいずれかの化合物から誘導される発色団を示す。PC1とPC2は異なる。)
【化2】
(一般式(c)~(f)中、R~R18は、水素、ハロゲン原子、カルボキシル基、アセチル基、ホルミル基、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基、置換されてもよいC3~C20の脂環族基、または置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。これら脂肪族基、脂環族基または芳香族有機基は、酸素原子、窒素原子を含んでもよい。一般式(c)~(f)で表される化合物に含まれる、いずれか1つの基は、2価の有機基であるLと結合する。Lは、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選択される1種以上を含む2価の有機基を示す。Chainは、ポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖から選択される1種以上を含む1価または2価の有機基を示す。)
[6] 前記重合性化合物は、二官能以上のイソ(チオ)シアネート化合物と、二官能以上の活性水素化合物とを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物。
[7] 前記イソ(チオ)シアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトシクロへキシル)メタン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、および4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも一種である、[6]に記載の光学材料用重合性組成物。
[8] 前記活性水素化合物が、二官能以上のポリチオール化合物および/または二官能以上のポリオール化合物である、[6]または[7]に記載の光学材料用重合性組成物。
[9] 前記ポリチオール化合物が、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[8]に記載の光学材料用重合性組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の光学材料用重合性組成物を硬化した成形体。
[11] [10]に記載の成形体からなる光学材料。
[12] [10]に記載の成形体からなるフォトクロミックレンズ。
[13] 同一の発色団を構造中に有するフォトクロミック化合物を複数選択する工程と、
選択された複数の前記フォトクロミック化合物から、所望の色調となるように2種以上のフォトクロミック化合物を選択する工程と、
2種以上の前記フォトクロミック化合物を所定の比となるように重合性化合物と混合する工程と、
を含む、光学材料用重合性組成物の製造方法。
[14] フォトクロミック化合物を選択する前記工程の後に、
所望の樹脂における2種以上の前記フォトクロミック化合物の退色半減期を取得する工程と、
2種以上の前記フォトクロミック化合物の混合状態における退色半減期を調整するために、2種以上の前記フォトクロミック化合物の比を調整する工程と、
を含む、[13]に記載の光学材料用重合性組成物の製造方法。
[15] 異なる発色団を構造中に有するフォトクロミック化合物を複数選択する工程と、
選択された複数の前記フォトクロミック化合物から、所望の色調となるように3種以上のフォトクロミック化合物を選択する工程と、
所望の樹脂における3種以上の前記フォトクロミック化合物の退色半減期を取得する工程と、
3種以上の前記フォトクロミック化合物を、同一の発色団を構造中に有する1種または2種以上のフォトクロミック化合物からなる群、および前記発色団とは異なる少なくとも1種の発色団毎に、同一の発色団を構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる少なくとも1つの群に分類する工程と、
全ての前記群毎に算出される退色半減期が略同一となるように調整する工程と、
前記フォトクロミック化合物群を全て混合した状態における色調を調整するために、前記フォトクロミック化合物群の比を調整する工程と、
前記フォトクロミック化合物群を前記比となるように重合性化合物と混合する工程と、
を含む、光学材料用重合性組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数のフォトクロミック化合物を組み合わせて用いたとしても、発色および消色過程で色調が変化することがなく、色ズレが抑制されたフォトクロミックレンズを得ることができる光学材料用重合性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】Reversacol Wembley Greyを含むレンズ、およびReversacol 1920を含むレンズにおける発色時の光の波長と透過率との関係、消色時の光の波長と透過率との関係を示すスペクトル図である。
図2】Reversacol Wembley Greyを含むレンズ、およびReversacol 1920を含むレンズの発色速度および消色速度を示すグラフである。
図3】Reversacol Heath Greenを含むレンズ、およびReversacol Wembley Greyを含むレンズにおける発色時の光の波長と透過率との関係、消色時の光の波長と透過率との関係を示すスペクトル図である。
図4】Reversacol Heath Greenを含むレンズ、およびReversacol Wembley Greyを含むレンズの発色速度および消色速度を示すグラフである。
図5】Reversacol Wembley GreyとReversacol 1920の合計500ppmにおけるReversacol Wembley Greyの量と退色半減期(F1/2)との関係示すグラフである。
図6】発色団が異なるフォトクロミック色素の混合組成物における発色過程および消色過程の色座標を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のフォトクロミック色素、当該フォトクロミック色素を含む光学材料用重合性組成物、さらに当該重合性組成物から得られる成形体およびその用途について実施の形態に基づいて説明する。
<フォトクロミック色素>
[第1の実施形態]
本実施形態のフォトクロミック色素は、同一の発色団を構造中に有する少なくとも2種のフォトクロミック化合物を含む。
当該フォトクロミック色素は、同一の色調のフォトクロミック化合物からなるため、発色および消色過程において、特に消色過程において意図しない色調に変化することがなく、色ズレを抑制することができる。
【0018】
さらに、少なくとも2種のフォトクロミック化合物の混合比率を変化させることにより、発色および消色色調を維持したまま、発色および消色速度を調整することができる。
【0019】
本実施形態において、フォトクロミック化合物は発色団を備え、本発明の効果を奏することができれば特に限定されず用いることができる。本実施形態において、フォトクロミック化合物は一般式(a)で表される発色団を備える化合物から選択される少なくとも2種の化合物を好ましく用いることができる。
(Chain)a-[(L)b-(PC1)]c (a)
一般式(a)中、aおよびbは何れも0であるか1である。cはChainが有する結合手の数に等しい。Chainが有する結合手の数は1または2である。
PC1は一般式(c)~(f)のいずれかの化合物から誘導される発色団を示す。
なお、本実施形態において「同一の発色団」とは、下記一般式(c)~(f)のいずれかで表される構造において、置換基も同一である発色団を意味する。したがって、同じ一般式の化合物から誘導される発色団には、置換基毎に異なる発色団が含まれる。
「同一の発色団を構造中に有する少なくとも2種のフォトクロミック化合物」とは、一般式で表される発色団以外の構造が異なる少なくとも2種のフォトクロミック化合物を意味する。
【0020】
【化3】
【0021】
一般式(c)~(f)中、R~R18は、水素、ハロゲン原子、カルボキシル基、アセチル基、ホルミル基、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基、置換されてもよいC3~C20の脂環族基、または置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。これら脂肪族基、脂環族基または芳香族有機基は、酸素原子、窒素原子を含んでもよい。一般式(c)~(f)で表される化合物に含まれる、いずれか1つの基は、2価の有機基であるLと結合する。
【0022】
置換されてもよいC1~C20の脂肪族基としては、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルコキシ基、直鎖あるいは分枝鎖状のC2~C10アルケニル基、C1~C10ヒドロキシアルキル基、C1~C10ヒドロキシアルコキシ基、C1~C10アルコキシ基で置換されたC1~C10アルキル基、C1~C10アルコキシ基で置換されたC1~C10アルコキシ基、C1~C5ハロアルキル基、C1~C5ジハロアルキル基、C1~C5トリハロアルキル基、C1~C10アルキルアミノ基、C1~C10アミノアルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C20アルコキシカルボニル基等を挙げることができる。
置換されてもよいC3~C20の脂環族基として、C3~C20のシクロアルキル基、C6~C20のビシクロアルキル基等を挙げることができる。
【0023】
置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基としては、フェニル基、C7~C16アルコキシフェニル基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アリールC1~C5アルキルアミノ基、環状アミノ基、アリールカルボニル基、アロイル基等を挙げることができる。
【0024】
とRとして、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;
直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルコキシ基、C1~C10ヒドロキシアルコキシ基、C1~C10アルコキシ基で置換されたC1~C10アルコキシ基、C1~C5ハロアルキル基、C1~C5ジハロアルキル基、C1~C5トリハロアルキル基、C1~C5アルキルアミノ基等の、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基;
フェニル基、C7~C16アルコキシフェニル基、C1~C5ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アリールC1~C5アルキルアミノ基、環状アミノ基等の、置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基;等を挙げることができる。RとRは、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0025】
として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシル基;アセチル基;
直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC2~C10アルケ二ル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルコキシ基、C1~C10ヒドロキシアルキル基、C1~C10アルコキシ基で置換されたC1~C10アルキル基、C1~C10アミノアルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C20アルコキシカルボニル基等の、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基;
C3~C20のシクロアルキル基、C6~C20のビシクロアルキル基等の、置換されてもよいC3~C20の脂環族基;
アリールカルボニル基、ホルミル基、アロイル基等の、置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基;等を挙げることができる。
【0026】
として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシル基;アセチル基;ホルミル基;
直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC2~C10アルケ二ル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルコキシ基、C1~C10ヒドロキシアルキル基、C1~C10アルコキシ基で置換されたC1~C10アルキル基、C1~C10アミノアルキル基、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C20アルコキシカルボニル基等の、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基;
C3~C20のシクロアルキル基、C6~C20のビシクロアルキル基等の、置換されてもよいC3~C20の脂環族基;
アリールカルボニル基、アロイル基、フェニル基、C7~C16アルコキシフェニル基、C1~C10ジアルコキシフェニル基、C1~C10アルキルフェニル基、C1~C10ジアルキルフェニル基等の、置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基;等を挙げることができる。
【0027】
とRは互いに結合してもよい。RとRが互いに結合して環構造を形成する場合、一般式(g)または(h)が挙げられる。点線部分が、Rが結合している炭素原子とRが結合している炭素原子との間の結合を表す。
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
、R、R、R、R、R10、R14、R15、R16は、R、Rと同様な官能基を示す。複数存在するR~Rとは同一でも異なっていてもよい。
【0031】
11として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;
直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C20アルキル基、C1~C5ハロアルキル基、C1~C5ジハロアルキル基、C1~C5トリハロアルキル基等の、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基;
C3~C20のシクロアルキル基、C6~C20のビシクロアルキル基、C1~C5アルキル基で置換されたC3~C20シクロアルキル基、C1~C5アルキル基で置換されたC6~C20のビシクロアルキル基等の、置換されてもよいC3~C20の脂環族基;
C1~C5アルキル基で置換されたアリール基等の、置換されてもよいC6~C20の芳香族有機基;等を挙げることができる。
【0032】
12とR13として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;
C1~C10アルキル基、C1~C5アルキルアルコキシカルボニル基等の、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基;C5~C7のシクロアルキル基等の、置換されてもよいC3~C20の脂環族基;等を示す。
【0033】
17とR18として、好ましくは、水素原子;ハロゲン原子;
直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキル基、C1~C10ヒドロキシアルキル基等の、置換されてもよいC1~C20の脂肪族基;C5~C7のシクロアルキル基等の、置換されてもよいC3~C20の脂環族基;等を示す。
【0034】
一般式(a)のLは、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖、(チオ)エステル基、(チオ)アミド基から選択される少なくとも1種の基を含む2価の有機基を示す。
具体的には、Lは、一般式(i)~(o)で表される。
【0035】
【化6】
【0036】
一般式(i)~(o)中、Yは、酸素、硫黄を示す。
19は、水素、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキル基を示す。
20は、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキレン基を示す。
pは、0~15の整数を示し、rは、0~10の整数を示す。
【0037】
Qは、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキレン基、C1~C10アルケニレン基、1,2-、1,3-、1,4-位の置換アリール基から誘導される2価の基、置換ヘテロアリール基から誘導される2価の基等を示す。
*1、*2は結合手を表し、*1は「Chain」で表される1価または2価の有機基と結合し、*2はPCで表される1価の有機基と結合する。
【0038】
一般式(a)の「Chain」は、ポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖から選択される1種以上を含む1価または2価の有機基を示す。
ポリシロキサン鎖としては、ポリジメチルシロキサン鎖、ポリメチルフェニルシロキサン鎖、ポリメチルヒドロシロキサン鎖等が挙げられる。
ポリオキシアルキレン鎖としては、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシヘキサメチレン鎖等が挙げられる。
具体的には、
「Chain」は、一般式(p)または(q)の1価の有機基、または一般式(r)または(s)の2価の有機基を示す。
【0039】
【化7】
【0040】
【化8】
【0041】
一般式(p)~(s)中、
21は、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキル基を示す。
22は、直鎖あるいは分枝鎖状のC1~C10アルキル基を示す。
23は、水素、メチル基、エチル基を示す。
nは4~75の整数を示し、mは1~50の整数を示す。
qは1~3の整数を示す。
*3、*4は結合手を表す。
【0042】
本実施形態のフォトクロミック化合物は、WO2009/146509公報、WO2010/20770公報、WO2012/149599公報、WO2012/162725公報に記載の方法により得られる。
【0043】
本実施形態のフォトクロミック化合物としては、Vivimed社のReversacol Humber Blue(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式c))、Reversacol Calder Blue(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式c))、Reversacol Trent Blue(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式c))、Reversacol Pennine Green(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式c))、Reversacol Heath Green(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式c))、Reversacol Chilli Red(ポリジメチルシロキサン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式c))、Reversacol Wembley Grey(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式c))、Reversacol Cayenne Red(ポリオキシアルキレン鎖、ナフトピラン系発色団(一般式c))等が挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
また、本実施形態における発色および消色速度をコントロールするためのフォトクロミック色素の組み合わせの例としては、化合物中の発色団の構造が同じReversacol Wembley Greyと、Reversacol 1920(何れもナフトピラン系発色団(一般式c)で「Chain」あり、なしの組み合わせ)との組み合わせ、または
Reversacol Heath Greenと、Reversacol Botany Green(何れもナフトピラン系発色団(一般式c)で「Chain」あり、なしの組み合わせ)との組み合わせ等を挙げることができる。
【0045】
フォトクロミック化合物が同じ構造の発色団(PC)を有していれば、他の構造(例えば、Chain)等の付加により発色時の色調は略同色であるが、発色および消色速度が早くなる。そして、同じ発色団を有する構造の異なるフォトクロミック化合物同士を特定の割合で混合することで発色および消色速度をコントロールすることができる。
【0046】
本実施形態のフォトクロミック色素は以下のように製造することができる。
具体的には、本実施形態のフォトクロミック色素の製造方法は、
同一の発色団を構造中に有するフォトクロミック化合物を複数選択する工程と、
選択された複数の前記フォトクロミック化合物から、所望の色調となるように2種以上のフォトクロミック化合物を選択する工程と、
2種以上の前記フォトクロミック化合物を所定の比で混合してフォトクロミック色素を得る工程と、を含む。
【0047】
同じ構造の発色団(PC)を有するフォトクロミック化合物同士は、発色時の色調は略同色である。そのため、同一の発色団を構造中に有する2種以上フォトクロミック化合物を選択して、所望の色調となるように混合することで、色調が調整され、かつ色ズレが抑制されたフォトクロミック色素を得ることができる。
【0048】
本実施形態のフォトクロミック色素の製造方法は、フォトクロミック化合物を選択する前記工程の後に、
所望の樹脂における2種以上の前記フォトクロミック化合物の退色半減期を取得する工程と、
2種以上の前記フォトクロミック化合物の混合状態における退色半減期を調整するために、2種以上の前記フォトクロミック化合物の比を調整する工程と、
をさらに含むことができる。
【0049】
同一の発色団を構造中に有する少なくとも2種のフォトクロミック化合物は、目標とする発色および消色速度(具体的には、退色半減期)となるような混合比で混ぜ合わせ、退色半減期が調整されたフォトクロミック色素を得ることができる。例えば、2種のフォトクロミック化合物を所定の比で混合した場合の退色半減期を示す検量線を作成して、目標とする退色半減期から2種のフォトクロミック化合物の混合比を算出する。算出された混合比で混合することにより、退色半減期が調整されたフォトクロミック色素を得ることができる。
【0050】
本実施形態においては、少なくとも2種のフォトクロミック化合物を混合してフォトクロミック色素を得る例により説明したが、フォトクロミック化合物を混合することなく、少なくとも2種のフォトクロミック化合物を所定の比となるように組み合わせたフォトクロミック化合物のセット(集合体)であってもよい。
【0051】
[第2の実施形態]
本実施形態のフォトクロミック色素は、
同一の発色団を構造中に有する1種または2種以上のフォトクロミック化合物からなる群と、
前記発色団とは異なる少なくとも1種の発色団毎に、同一の発色団を構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる少なくとも1つの群と、を含み、
全ての群毎に算出される退色半減期が略同一である。
【0052】
なお、本実施形態において「異なる発色団」とは、前記一般式(c)~(f)から選択される異なる一般式で表される発色団、または前記一般式(c)~(f)のいずれかで表される構造において、置換基が異なる発色団を意味する。すなわち、同じ一般式で表される構造であっても、置換基が異なれば発色団は異なる。
【0053】
本実施形態において退色半減期が略同一とは、発色および消色過程での色調変化が目視では認められない程度に抑制された範囲で退色半減期のずれを許容するものであり、例えば、複数の退色半減期から算出される平均値に対する個々の退色半減期の差が±30%、好ましくは±20%、さらに好ましくは±10%の範囲とすることができる。この範囲内であれば、退色半減期の短いフォトクロミック化合物の添加量を多くして、発色および消色速度をより速めた設定にする等、目的に合わせて組成の調整をすることも可能である。
【0054】
同一の発色団を構造中に有するフォトクロミック化合物群毎の退色半減期が略同一であることから、これらのフォトクロミック化合物群からなる本実施形態のフォトクロミック色素は、発色および消色過程において、特に消色過程において意図しない色調に変化することがなく色調が一定となることから、色ズレを抑制することができる。
【0055】
本実施形態においては、具体的に以下の例を挙げることができる。
(1) 同一の発色団aを構造中に有する1種のフォトクロミック化合物からなる群aと、
発色団aとは異なる同一の発色団bを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群bと、
発色団aおよびbとは異なる同一の発色団cを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群cと、
を含み、
全ての群a、bおよびc毎に算出される退色半減期が略同一である。
【0056】
(2) 同一の発色団aを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群aと、
発色団aとは異なる同一の発色団bを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群bと、
発色団aおよびbとは異なる同一の発色団cを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群cと、
を含み、
全ての群a、b、およびc毎に算出される退色半減期が略同一である。
【0057】
なお、本実施形態においては、例(1)および(2)において群の数を「3」とした例により説明したが、4以上に増やすこともできる。
【0058】
これらの例の中でも、発色および消色過程における色調の調整の容易さから以下の例が好ましい。
(a) 同一の発色団aを構造中に有する1種のフォトクロミック化合物からなる群aと、
発色団aとは異なる同一の発色団bを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群bと、を含み、
群aおよび群bにおいて算出される退色半減期が略同一である。
【0059】
(b) 同一の発色団aを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群aと、
発色団aとは異なる同一の発色団bを構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる群bと、を含み、
群aおよび群bにおいて算出される退色半減期が略同一である。
【0060】
本実施形態において、フォトクロミック化合物は発色団を備え、本発明の効果を奏することができれば特に限定されず用いることができる。本実施形態においては、本発明の効果の観点から、一般式(a)または(b)で表される発色団を備えるフォトクロミック化合物を用いることが好ましい。
【0061】
上記の例(a)および(b)において、群aは下記一般式(a)または(b)で表される化合物から選択される1種または2種以上のフォトクロミック化合物であり、
群bは他方の一般式で表される化合物から選択される2種以上のフォトクロミック化合物とすることができる。
(Chain)a-[(L)b-(PC1)]c (a)
(Chain)a-[(L)b-(PC2)]c (b)
【0062】
一般式(a)または(b)中、aおよびbは何れも0であるか1である。cはChainが有する結合手の数に等しい。
PC1およびPC2は上記の一般式(c)~(f)のいずれかの化合物から誘導される発色団を示す。PC1とPC2は異なる。
【0063】
第1の実施形態に記載のように、同じ発色団を有する構造の異なるフォトクロミック化合物同士を特定の割合で混合することで発色および消色速度をコントロールすることができる。本実施形態では、同じ発色団を構造中に有する色調が略同一のフォトクロミック化合物を群とし、当該化合物群相互の発色および消色速度を略同一となるように調整し、そして全ての化合物群を組み合わせることにより、発色団の違いに起因する発色および消色速度の違いをなくし、それにより発色および消色過程での色調を一定に保つことができる。
【0064】
例えば、発色団(PC)以外の他の構造(例えば、Chain)の付与されたフォトクロミック化合物の発色および消色速度が、別の発色団を有するフォトクロミック化合物の発色および消色速度よりも速い場合には、化合物群毎にフォトクロミック化合物を組み合わせて発色および消色速度(具体的には、退色半減期)を略同一に調整することができ、発色団(PC)以外の他の構造(例えば、Chain)の付与されていないフォトクロミック化合物の発色および消色速度が別の発色団を有するフォトクロミック化合物の発色および消色速度よりも遅い場合にも、化合物群毎にフォトクロミック化合物を組み合わせて発色および消色速度(具体的には、退色半減期)を略同一に調整することができる。
【0065】
本実施形態のフォトクロミック色素は以下のように製造することができる。具体的には、本実施形態のフォトクロミック色素の製造方法は、
異なる発色団を構造中に有するフォトクロミック化合物を複数選択する工程と、
選択された複数の前記フォトクロミック化合物から、所望の色調となるように3種以上のフォトクロミック化合物を選択する工程と、
所望の樹脂における3種以上の前記フォトクロミック化合物の退色半減期を取得する工程と、
3種以上の前記フォトクロミック化合物を、同一の発色団を構造中に有する1種または2種以上のフォトクロミック化合物からなる群、および前記発色団とは異なる少なくとも1種の発色団毎に、同一の発色団を構造中に有する2種以上のフォトクロミック化合物からなる少なくとも1つの群に分類する工程と、
全ての前記群毎に算出される退色半減期が略同一となるように調整する工程と、
前記フォトクロミック化合物群を全て混合した状態における色調を調整するために、前記フォトクロミック化合物群の比を調整する工程と、
退色半減期が略同一となるように調整されたフォトクロミック化合物群を前記比で混合して、退色半減期および色調が調整されたフォトクロミック色素を得る工程と、
を含む。
【0066】
本実施形態においては、例えば上述の例(1)または(2)、例(a)または(b)に記載のように複数のフォトクロミック化合物分類することができる。全ての群毎に算出される退色半減期を略同一に調整するには、全ての群において、目標とする退色半減期となるような混合比で混ぜ合わせ、退色半減期を調整する。1つの群が1つのフォトクロミック化合物のみからなる場合、目標とする退色半減期は、このフォトクロミック化合物が有する退色半減期となる。
【0067】
例えば、2種のフォトクロミック化合物を所定の比で混合した場合の退色半減期を示す検量線を作成して、目標とする退色半減期から2種のフォトクロミック化合物の混合比を算出する。この調整を全ての群において行う。そして、退色半減期が略同一となるように調整されたフォトクロミック化合物群の全てを混合して、退色半減期および色調が同一となるように調整されたフォトクロミック色素を得ることができる。
【0068】
本実施形態においては、全てのフォトクロミック化合物を混合してフォトクロミック色素を得る例により説明したが、フォトクロミック化合物を混合することなく、フォトクロミック化合物群毎に所定の比となるように組み合わせたフォトクロミック化合物のセット(集合体)であってもよい。
【0069】
<光学材料用重合性組成物>
本実施形態の光学材料用重合性組成物は、上述の本実施形態のフォトクロミック色素と、重合性化合物と、を含む。
【0070】
[重合性化合物]
重合性化合物としては、本発明の効果を発揮することができれば特に限定されないが、例えば、ポリ(チオ)ウレタンを得ることができる、二官能以上のイソ(チオ)シアネート化合物と、二官能以上の活性水素化合物とを含む重合性化合物を挙げることができる。
【0071】
二官能以上のイソ(チオ)シアネート化合物は、2以上のイソ(チオ)シアナト基を有する化合物であり、イソシアネート化合物およびイソチオシアネート化合物を含む。
【0072】
イソ(チオ)シアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物、複素環ポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソチオシアネート化合物、脂環族ポリイソチオシアネート化合物、芳香族ポリイソチオシアネート化合物、含硫複素環ポリイソチオシアネート化合物からなる群から選ばれる化合物を挙げることができる。イソシアネート化合物およびイソチオシアネート化合物としては、本発明の効果を得ることができれば特に限定されることなく用いることができ、例えばWO2018/079829に記載された化合物を挙げることができる。
【0073】
本実施形態においては、イソ(チオ)シアネート化合物として、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトシクロへキシル)メタン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、および4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートから選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0074】
二官能以上の活性水素化合物としては、二官能以上のポリオール化合物、二官能以上のポリチオール化合物などが挙げられ、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。ポリオール化合物は、1種以上の脂肪族または脂環族アルコールであり、具体的には、直鎖または分枝鎖の脂肪族アルコール、脂環族アルコール、これらアルコールとエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ε-カプロラクトンを付加させたアルコール等が挙げられる。二官能以上の活性水素化合物としては、本発明の効果を得ることができれば特に限定されることなく用いることができ、例えばWO2018/079829に記載された化合物を挙げることができる。
本実施形態においては、活性水素化合物として、二以上の水酸基を有するポリチオール化合物を好ましく用いることができる。
【0075】
本実施形態においては、ポリチオール化合物として、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、2,5-ジメルカプトメチル-1,4-ジチアン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0076】
イソ(チオ)シアネート化合物に含まれるイソ(チオ)シアナト基に対する、活性水素化合物に含まれるメルカプト基および/または水酸基のモル比率は0.8~1.2の範囲内であり、好ましくは0.85~1.15の範囲内であり、さらに好ましくは0.9~1.1の範囲内である。
【0077】
本実施形態の重合性組成物は、内部離型剤、樹脂改質剤、光安定剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料等の添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0078】
すなわち、本実施形態の重合性組成物には、得られる成形体の光学物性、耐衝撃性、比重等の諸物性の調節及び、重合性組成物の各成分の取扱い性の調整を目的に、改質剤を本発明の効果を損なわない範囲で加えることができる。
【0079】
本実施形態の光学材料用重合性組成物は、上記の成分を公知の方法で混合することにより得ることができる。
本実施形態の光学材料用重合性組成物は、フォトクロミック化合物の混合物であるフォトクロミック色素と、重合性化合物と、必要に応じて上記添加剤とを公知の方法で混合して得ることができる。
本実施形態のフォトクロミック色素が、別途決定された混合比となるように組み合わせた複数のフォトクロミック化合物のセットである場合には、本実施形態の光学材料用重合性組成物は、それぞれのフォトクロミック化合物と、重合性化合物と、必要に応じて上記添加剤とを公知の方法で混合して得ることができる。
具体的には、別途決定された混合比となるように秤量された複数のフォトクロミック化合物と、重合性化合物と、必要に応じて上記添加剤とを公知の方法で混合して得ることができる。
より具体的には、まず、別途決定された混合比となるように複数のフォトクロミック化合物をそれぞれ秤量し、次いで、これに重合性化合物を順次秤量して添加し、重合性組成物を調製する。重合性化合物には、必要に応じて使用する上記添加剤をあらかじめ溶解させておいてもよい。
【0080】
フォトクロミック色素の使用量は、重合性化合物であるイソ(チオ)シアネート化合物および活性水素化合物の合計100重量部に対して、0.0005重量部以上5重量部以下の範囲であり、0.001重量部以上4重量部以下の範囲が好ましく、0.001重量部以上3重量部以下の範囲がより好ましい。これらの使用量は、フォトクロミック色素の種類、使用する重合性化合物の種類と使用量、成形物の形により適宜設定することができる。
【0081】
上記の成分を混合して重合性組成物を調製する場合の温度は通常25℃以下で行われる。重合性組成物のポットライフの観点から、さらに低温にすると好ましい場合がある。ただし、内部離型剤、添加剤等の上記の成分への溶解性が良好でない場合は、あらかじめ上記の成分を加温して、溶解させることも可能である。
【0082】
本実施形態の光学材料用重合性組成物を硬化することで成形体を得ることができる。本実施形態の光学材料は成形体からなり、光学材料としては建材用のガラス、車用ガラス、フォトクロミックレンズ、偏光レンズ等を挙げることができる。
【0083】
[フォトクロミックレンズ]
本実施形態において、フォトクロミックレンズは、特に限定されないが、好ましい製造方法として、下記工程を含む注型重合により得られる。
工程a:本実施形態の光学材料用重合性組成物を鋳型内に注型する。
工程b:前記重合性組成物を加熱し、該組成物を重合する。
【0084】
(工程a)
はじめに、ガスケットまたはテープ等で保持された成型モールド(鋳型)内に重合性組成物を注入する。この時、得られるプラスチックレンズに要求される物性によっては、必要に応じて、減圧下での脱泡処理や、加圧下、減圧下等での濾過処理等を行うことが好ましい場合が多い。
【0085】
(工程b)
重合条件については、重合性組成物の組成、触媒の種類と使用量、モールドの形状等によって大きく条件が異なるため限定されるものではないが、およそ、-50~150℃の温度で1~72時間かけて行われる。場合によっては、10~150℃の温度範囲で保持または徐々に昇温して、1~25時間で硬化させることが好ましい。
【0086】
本実施形態のプラスチックレンズは、必要に応じて、アニール等の処理を行ってもよい。処理温度は通常50~150℃の間で行われるが、90~140℃で行うことが好ましく、100~130℃で行うことがより好ましい。
【0087】
本実施形態において、(チオ)ウレタン樹脂からなる光学材料を成形する際には、上記「その他の成分」に加えて、目的に応じて公知の成形法と同様に、鎖延長剤、架橋剤、油溶染料、充填剤、密着性向上剤などの種々の添加剤を加えてもよい。
【0088】
本実施形態の重合性組成物は、注型重合時のモールドを変えることにより種々の形状の光学材料として得ることができる。本実施形態の光学材料は、所望の形状とし、必要に応じて形成されるコート層や他の部材等を備えることにより、様々な形状の光学材料とすることができる。
【0089】
本実施形態の重合性組成物を硬化させて得られるフォトクロミックレンズは、必要に応じて、片面または両面にコーティング層を施して用いてもよい。コーティング層としては、ハードコート層、反射防止層、防曇コート膜層、防汚染層、撥水層、プライマー層、フォトクロミック層等が挙げられる。これらのコーティング層はそれぞれ単独で用いることも複数のコーティング層を多層化して使用することもできる。両面にコーティング層を施す場合、それぞれの面に同様なコーティング層を施しても、異なるコーティング層を施してもよい。
【0090】
本実施形態の光学材料を眼鏡レンズに適用する場合、本実施形態の重合性組成物を硬化させて得られる光学材料(レンズ)の少なくとも一方の面上に形成されたハードコート層および/または反射防止コート層と、を備えることができる。さらに、上記の他の層を備えることもできる。このようにして得られる眼鏡レンズは、特定の重合性組成物からなるレンズを用いているため、これらのコート層を備えた場合においても耐衝撃性に優れる。
【0091】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0092】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、評価に用いた方法と使用した装置は以下のとおりである。
【0093】
(a)発色時の光線透過率(T%max)、色座標(a*,b*):
キセノンランプ光源装置を用いて、2.0mm厚の成形体サンプルを温度23℃、照度50000ルクスの条件で15分間照射発色させ、その間連続でスペクトルを測定した。照射15分後のスペクトルから、このときの極大吸収波長(λmax)での光線透過率(T%max)を求めた。この透過率が低いほど濃く発色していることを表している。
また、時間ごとのスペクトルデータから発色過程、消色過程の色座標を求め、色調の変化を評価した。発色過程、消色過程の色座標の変化が直線的で該直線からの変動が小さければ色調変化が小さく、色調が安定していることを表している。
【0094】
(b)退色半減期(F1/2):
前記15分間の発色後、光線照射を止めてからさらに15分間連続してスペクトルを測定した。スペクトルデータから成形体サンプルのλmaxにおける吸光度が発色前後の吸光度の中間値まで戻るのに要する時間を求め、これを退色半減期(F1/2)と定義する。この時間が短いほど退色速度が速いことを表している。
・光源装置:ウシオ電気(株)MS-35AAF/FB
・ランプ:ウシオ電気(株)キセノンランプUXL-300SX2
・分光測定装置:大塚電子(株)瞬間マルチ測光システムMSPD-7700
【0095】
Reversacol 1920(Vivimed社製、一般式(a)においてPC1(発色団):一般式cで表される構造1、Chain:なし)
Reversacol Wembley Grey(Vivimed社製、一般式(a)においてPC1(発色団):一般式cで表される構造1、Chain:ポリオキシアルキレン鎖)
Reversacol Heath Green(Vivimed社製、一般式(a)においてPC1(発色団):一般式cで表される構造2、Chain:ポリオキシアルキレン鎖)
【0096】
(フォトクロミック化合物の発色性能評価1)
フォトクロミック化合物としてReversacol 1920、Reversacol Wembley Grey、およびReversacol Heath Greenを適当な容器にそれぞれ0.0500重量部ずつ計り取った。これらに2,5-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンと2,6-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタンの混合物49.8重量部を加え、撹拌して溶解した。さらに、これらの溶液にそれぞれ酸性リン酸エステルとして城北化学工業社製JP-506Hを0.30重量部、アデカ社製アデカプルロニックL-64を2.4重量部、紫外線吸収剤としてHOSTAVIN PR-25を0.075重量部加え、撹拌して溶解した。この混合液にペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)23.3重量部、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン24.9重量部を添加して撹拌した後、ジメチルチンジクロリド0.040重量部を加え、均一に溶解した。これらを5mmHg下60分間脱気して1μmPTFE製フィルターにてろ過を行い、それぞれの溶液を個別にガラスモールドとテープからなるモールド型へ注入した。これらのモールド型をオーブンへ投入後、30℃~120℃まで23時間かけて徐々に昇温して重合した。重合終了後、オーブンからモールド型を取り出し、離型して各染料を500ppm含む2mm厚の樹脂平板を得た。得られたこれらの樹脂平板をさらに120℃で1時間アニール化を行った
こうして得られた樹脂平板の発色および消色過程のスペクトルを測定することにより各フォトクロミック化合物の発色時の光線透過率(T%max)と退色半減期(F1/2)を求めた。これらの評価結果を表-1にまとめた。
【0097】
【表1】
【0098】
表-1に記載のように、Reversacol Wembley Greyと,
Reversacol Heath GreenのT%maxは、それぞれ21.1%、14.1%であり、Reversacol 1920のT%maxはやや大きく48.0%であったが、それぞれが光線照射によって有効な発色を示した。また、図1に示すように、発色団が同じ化合物(Reversacol Wembley GreyとReversacol 1920)は発色時の光線透過率T%は異なっているもののスペクトル形状は一致しており、同じ色調に発色した。表-1に示すように、同じ発色団を有し同じ色調に発色する化合物同士でも、チェーンを有する化合物(Reversacol Wembley Grey)はチェーンを有しない化合物(Reversacol 1920)よりも退色半減期(F1/2)が小さく、発色および消色速度が速かった。図2に、これらのフォトクロミック色素の発色および消色速度を示す。これらのことから、同じ発色団を有し同じ色調に発色する化合物同士を混合した場合、混合比率を変えることで、発色色調を保ったまま発色および消色速度を調整できることが分かった。
一方、図3に示すように、発色団が異なる化合物(Reversacol Heath GreenとWembley Grey)は発色時のスペクトルが相違し、異なる色調に発色した。表-1に示すように、異なる発色団を有するこれらの化合物同士では、発色および消色速度も異なっていた。図4に、これらのフォトクロミック色素の発色および消色速度を示す。これらのことから、異なる色調に発色するフォトクロミック色素であっても、同一の発色団を有する化合物群(同じ色調に発色するフォトクロミック色素群)の退色半減期(F1/2)を調整し、化合物群相互間の退色半減期を略同一にすれば、発色および消色速度が略一定となり色のズレが抑制されることから、発色および消色過程の色調を一定にできることが分かった。
【0099】
[実験例1]
(同じ発色団を含むフォトクロミック化合物を混合した組成物(色素)における発色および消色速度調整)
同じ発色団を含むフォトクロミック化合物である、チェーンを有するReversacol Wembley Greyと、チェーンを有しないReversacol 1920とを、合計量が0.0500重量部となるように表-2の比で混合した組成物(色素)を用い、「フォトクロミック化合物の発色性能評価1」と同様にして樹脂平板を作製した。
得られた樹脂平板の発色および消色過程のスペクトルを測定することによりフォトクロミック化合物混合組成の発色時の光線透過率(T%max)と退色半減期(F1/2)を求めた。これらの結果を表-2に示し、合計500ppmにおけるReversacol Wembley Greyの量と退色半減期(F1/2)との関係を図5のグラフに示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表-1に示すように、同じ発色団を有するフォトクロミック化合物において、チェーンを有するフォトクロミック化合物(Reversacol Wembley Grey)の退色半減期(F1/2)は、チェーンを有しないフォトクロミック化合物(Reversacol 1920)の退色半減期よりも短い。表-2と図5の結果から、両者の混合した組成物ではReversacol Wembley Greyの組成比が大きくなるに伴い退色半減期が短くなることが分かった。従って、両者の混合比率を調整すれば退色半減期を双方の値の範囲内で任意に設定できると推察された。
【0102】
[実験例2]
(異なる発色団を含むフォトクロミック化合物を混合した組成物(色素)における発色および消色速度調整)
異なる発色団を含むフォトクロミック化合物として、
(1)Reversacol Heath GreenとReversacol Wembley Greyの混合組成物、
(2)Reversacol Heath GreenとReversacol 1920の混合組成物、および
(3)Reversacol Heath Greenと、Reversacol Wembley Greyと、Reversacol 1920との混合組成物、
を用い、表-3の混合比率とした以外は「フォトクロミック化合物の発色性能評価1」と同様にして樹脂平板を作製した。
【0103】
【表3】
【0104】
表-1の結果から、Reversacol Heath Greenの退色半減期(F1/2)は56秒であり、Reversacol Wembley Greyの退色半減期(F1/2)は38秒であり、Reversacol 1920の退色半減期(F1/2)は73秒である。
表-3に記載の混合組成物(1)および混合組成物(2)のように、発色団の異なる1種のフォトクロミック化合物同士を混合しても、退色半減期(F1/2)を一致させることができないため色ズレが発生した。
なお、表-2、及び図5より、同じ発色団を含むフォトクロミック化合物であるReversacol Wembley GreyとReversacol 1920との重量比を1:4(210ppm:840ppm)付近とすることにより、この化合物群の退色半減期(F1/2)を57秒に設定できることから、Reversacol Heath Greenの退色半減期(F1/2)の56秒に概略一致させることができる。そこで、混合組成物(1)における「Reversacol Wembley Grey 610ppm」を、「Reversacol Wembley Grey 210ppmと、Reversacol 1920 840ppmとの組み合わせ(色素群)(合計1050ppm)」に置き換えた組成を設定し(混合組成物3)、発色過程、消色過程の色座標を求めて色調の変化を評価した。図6はこのときの3種の混合組成物の色座標変化を表している。
Reversacol Heath GreenとReversacol Wembley Greyの2種混合組成(混合組成物(1))では発消色過程で色座標上を左回転のループを描いて変化していることが分かる。この例では目視上グレーに発色後、消色過程で速度の遅いReversacol Heath Greenの発色が残るため、淡い緑味の色調が残ってしまうものであった。
一方、Reversacol Heath GreenとReversacol 1920の2種混合組成(混合組成物(2))では発消色過程での色座標上の変化はループを描いている訳ではないものの発色過程では座標上の上側(黄色方向)への色ズレを起こしてから戻っており、消色過程では反対に座標上の下側(青色方向)に色ズレを起こしてから戻っていることが分かる。この例では発色後、消色過程で速度の遅いReversacol 1920の発色が残るため、青味の色調が残ってしまうものであった。
これらに対し、Reversacol Wembley GreyとReversacol 1920を特定の組成比として発消色速度を調整し、これにReversacol Heath Greenを合わせた組成(混合組成物(3))では、発消色過程の座標変化が混合組成(1)、(2)よりも明らかに小さくなっている。これは発消色過程で色調を維持しながら変化していることを表しており、目視上も色ズレを全く感じない物であった。
このように、異なる発色団を含み、退色半減期(F1/2)が異なるフォトクロミック化合物の混合組成であっても、一方の発色団と同じ発色団を有し退色半減期(F1/2)が異なるフォトクロミック化合物を加えて混合物(化合物群)とし、当該混合物の退色半減期を調整して、他方の発色団を有するフォトクロミック化合物(または混合物)の退色半減期に一致させることにより発色および消色過程の色ズレを最小化することが可能となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6