(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161118
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス、その製造方法、及び熱蛍光線量計
(51)【国際特許分類】
C09K 11/78 20060101AFI20231030BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20231030BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20231030BHJP
C03C 3/15 20060101ALI20231030BHJP
G01T 1/11 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
C09K11/78
C09K11/08 B
C09K11/00 D
C03C3/15
G01T1/11 A
G01T1/11 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071281
(22)【出願日】2022-04-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼14th Pacific Rim Conference on Ceramic and Glass Technology(PACRIM 14)のウェブサイトで公開された講演予稿集において発表 ▲2▼14th Pacific Rim Conference on Ceramic and Glass Technology(PACRIM 14)において発表 ▲3▼46th International Conference and Expo on Advanced Ceramics and Composites(ICACC2022)のウェブサイトで公開された講演予稿集において発表 ▲4▼46th International Conference and Expo on Advanced Ceramics and Composites(ICACC2022)において発表 ▲5▼Applied Physics Expressのウェブサイトで公開された受理原稿(Accepted Manuscript)において発表 ▲6▼Applied Physics Express 15,022010(2022)において発表 ▲7▼Journal of Materials Chemistry Cのウェブサイトで公開された受理原稿(Accepted Manuscript)において発表 ▲8▼Journal of Materials Chemistry C,2022,10,3567-3575において発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼14th Pacific Rim Conference on Ceramic and Glass Technology(PACRIM 14)のウェブサイトで公開された講演予稿集において発表 ▲2▼14th Pacific Rim Conference on Ceramic and Glass Technology(PACRIM 14)において発表 ▲3▼46th International Conference and Expo on Advanced Ceramics and Composites(ICACC2022)のウェブサイトで公開された講演予稿集において発表 ▲4▼46th International Conference and Expo on Advanced Ceramics and Composites(ICACC2022)において発表 ▲5▼Applied Physics Expressのウェブサイトで公開された受理原稿(Accepted Manuscript)において発表 ▲6▼Applied Physics Express 15,022010(2022)において発表 ▲7▼Journal of Materials Chemistry Cのウェブサイトで公開された受理原稿(Accepted Manuscript)において発表 ▲8▼Journal of Materials Chemistry C,2022,10,3567-3575において発表
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】原 東升
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ビジョラ エンカルナシオン アントニア
(72)【発明者】
【氏名】島村 清史
(72)【発明者】
【氏名】柳田 健之
(72)【発明者】
【氏名】河口 範明
(72)【発明者】
【氏名】中内 大介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 匠
【テーマコード(参考)】
4G062
4H001
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062BB08
4G062CC10
4G062DA01
4G062DB01
4G062DC07
4G062DD01
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4G062EA01
4G062EA10
4G062EB01
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4G062MM22
4G062NN19
4G062NN21
4G062NN35
4H001CA02
4H001CF02
4H001XA05
4H001XA08
4H001XA57
4H001YA58
(57)【要約】
【課題】成分にリチウムを含まず、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質としての性能に優れる熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス、その製造方法、及びそれを用いた熱蛍光線量計を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスは、ガラス成分としてLa2O3とB2O3を含むホウ酸ランタン系ガラスにおいて、ドーパントとしてセリウムハロゲン化物を含有し、一般式La1-xCexB3O6で表されるガラス組成において、パラメータxは0<x≦0.005であり、全光線透過率スペクトルにおいて、波長200nm~300nmの範囲にCe3+に由来する特性吸収帯を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成分としてLa2O3とB2O3を含むホウ酸ランタン系ガラスにおいて、ドーパントとしてセリウムハロゲン化物を含有し、
一般式La1-xCexB3O6で表されるガラス組成において、パラメータxは0<x≦0.005であり、
全光線透過率スペクトルにおいて、波長200nm~300nmの範囲にCe3+に由来する特性吸収帯を有する、熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス。
【請求項2】
前記セリウムハロゲン化物は、フッ化セリウム(CeF3)、塩化セリウム(CeCl3)、臭化セリウム(CeBr3)、ヨウ化セリウム(CeI3)、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス。
【請求項3】
前記パラメータxは0.0001≦x≦0.005である、請求項1に記載の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスの製造方法であって、
La成分供給源としてLa2O3、B成分供給源としてB2O3またはH3BO3、及び、ドーパントとしてセリウムハロゲン化物を、目的の化学量論比を満たすように秤量し、原料を準備する工程、
準備した原料を混合し、原料混合物を得る工程、
得られた原料混合物を成形して、原料混合物の成形体を得る工程、
得られた成形体を不活性雰囲気で焼結し、成形体の焼結体を得る工程、及び
得られた焼結体を還元雰囲気で溶融し、融液を、予熱した鋳型上に流し出して急冷し、目的のガラスサンプルを得る工程
を包含し、
前記原料は、前記原料混合物中のセリウム濃度が化学量論比で0%超0.5%以下を満たすように準備される、方法。
【請求項5】
前記焼結する工程は、850℃~950℃の温度範囲で、5時間以上15時間以下の時間行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶融する工程は、1100℃~1200℃の温度範囲で、0.5時間以上1時間以下の時間行う、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
得られたガラスサンプルを還元雰囲気でアニーリングする工程をさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記アニーリングする工程は、580℃~620℃の温度範囲で、5時間以上20時間以下の時間行う、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスからなる素子と、前記素子を保持するホルダとを備える熱蛍光線量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス、その製造方法、及び熱蛍光線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
熱蛍光物質は、放射線検出素子に広く使用されている。例えば、熱蛍光物質を用いた放射線検出素子は、原子力発電所などにおいて放射線作業に従事する作業者の個人被曝量の測定、特定区域の環境放射線量の測定、X線診断時の被曝線量の測定など、放射線防護、環境、医療などの幅広い分野で使用される。従来、熱蛍光線量計(熱ルミネッセンス線量計、TLD、ドシメータとも呼ばれる。)に用いられる熱蛍光物質としては、フッ化リチウム(LiF)単結晶に、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、銅(Cu)、リン(P)、ナトリウム(Na)、ケイ素(Si)などを単独もしくは複数組み合わせてドープしたもの(例えば、特許文献1参照)や、ホウ酸リチウム蛍光体(Li2B4O7、LiB3O5など)が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
一方、近年主に電気自動車の分野などにおいて充電式リチウムイオン電池のためにリチウムが用いられているという事情を背景にリチウムの需要が大幅に増加しており、リチウムの価格高騰や、需給バランスの不安定化などに対する懸念がある。また、特許文献1に記載されるような複数の元素をドープしたフッ化物の生産には高いコストがかかる。
【0004】
熱蛍光線量計用の熱蛍光物質の母体(ホスト)として、酸化物ガラスが注目されている。酸化物ガラスの製法として用いられる溶融急冷法は、比較的低コストであり、再現性も高い。加えて、酸化物ガラスが有するアモルファス構造は、それ固有の欠陥が、比較的浅いエネルギー準位に電荷を捕獲することに寄与することができれば、結晶性材料と比べて有利である。例えば、これまでに、遷移金属元素や希土類元素をドープしたホウ酸塩ガラスとして、CeO2をドープした30CaO-20Al2O3-50B2O3ガラスや、CeO2をドープしたLi3PO4-B2O3ガラスが、熱蛍光(TL)特性を示すことが報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、これまでに提案された熱蛍光性蛍光体は、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質としての性能が十分とは言えず、上述したような従来のリチウムを含有する結晶性材料の代替に対するニーズが依然としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/056359号
【特許文献2】特開2002-285150号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y. Fujimoto et al., Thermoluminescence properties of Ce-doped CaOAl2O3-B2O3 glasses, 2013 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference (2013 NSS/MIC), 2013, pp. 1-3. Doi: 10.1109/NSSMIC.2013.6829628.
【非特許文献2】Y. Isokawa et al., Dosimetric and scintillation properties of Ce-doped Li3PO4-B2O3 glasses, J. Non-Cryst. Solids., 487, 1-6, (2018). Doi: 10.1016/j.jnoncrysol.2018.02.015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、成分にリチウムを含まず、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質としての性能に優れる熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス、その製造方法、及びそれを用いた熱蛍光線量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、酸化物ガラスのうち、ガラス成分としてLa2O3とB2O3を含むホウ酸ランタン系ガラスに着目し、セリウムを付活剤としてドープした化合物(LaB3O6)が、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として優れた性能を有することを知見し、本発明を完成した。
【0010】
[1] ガラス成分としてLa2O3とB2O3を含むホウ酸ランタン系ガラスにおいて、ドーパントとしてセリウムハロゲン化物を含有し、一般式La1-xCexB3O6で表されるガラス組成において、パラメータxは0<x≦0.005であり、全光線透過率スペクトルにおいて、波長200nm~300nmの範囲にCe3+に由来する特性吸収帯を有する、熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス。
[2] 前記セリウムハロゲン化物は、フッ化セリウム(CeF3)、塩化セリウム(CeCl3)、臭化セリウム(CeBr3)、ヨウ化セリウム(CeI3)、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、[1]に記載の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス。
[3] 前記パラメータxは0.0001≦x≦0.005である、[1]または[2]に記載の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスの製造方法であって、La成分供給源としてLa2O3、B成分供給源としてB2O3またはH3BO3、及び、ドーパントとしてセリウムハロゲン化物を、目的の化学量論比を満たすように秤量し、原料を準備する工程、準備した原料を混合し、原料混合物を得る工程、得られた原料混合物を成形して、原料混合物の成形体を得る工程、得られた成形体を不活性雰囲気で焼結し、成形体の焼結体を得る工程、及び、得られた焼結体を還元雰囲気で溶融し、融液を、予熱した鋳型上に流し出して急冷し、目的のガラスサンプルを得る工程を包含し、前記原料は、前記原料混合物中のセリウム濃度が化学量論比で0%超0.5%以下を満たすように準備される、方法。
[5] 前記焼結する工程は、850℃~950℃の温度範囲で、5時間以上15時間以下の時間行う、[4]に記載の方法。
[6] 前記溶融する工程は、1100℃~1200℃の温度範囲で、0.5時間以上1時間以下の時間行う、[4]または[5]に記載の方法。
[7] 得られたガラスサンプルを還元雰囲気でアニーリングする工程をさらに包含する、[4]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記アニーリングする工程は、580℃~620℃の温度範囲で、5時間以上20時間以下の時間行う、[7]に記載の方法。
[9] [1]~[3]のいずれかに記載の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスからなる素子と、前記素子を保持するホルダとを備える熱蛍光線量計。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成分にリチウムを含まず、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質としての性能に優れる熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラス、その製造方法、及びそれを用いた熱蛍光線量計が提供される。本発明の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスは、簡便で安価にかつ再現性良く製造することができる。また、本発明の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスは、実用に耐え得る程度に、ガラスの変質を生じることなく、反復使用が可能であるので、従来のリチウムを含有する結晶性材料の代替として、熱蛍光線量計に用いるのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)~(c)実施例で作製した例13、例19、及び例21の試料の写真画像を示す図である。
【
図2】例5、例13、例17、例21、例19、及び例23の試料の全光線透過率スペクトルを示す図である。
【
図3】例1~例24の試料及び非ドープ試料のTL強度を示す図である。
【
図4】(a)例1~例4の試料及び非ドープ試料のグロー曲線を示す図であり、(b)例4~例8の試料のグロー曲線を示す図である。
【
図5】例4及び例12の試料について、X線照射線量とTL強度の関係を示す図である。
【
図6】例12の試料について、X線照射とグロー曲線の測定のサイクルを繰り返した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
[ホウ酸ランタン系ガラス]
本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、ガラス成分としてLa2O3とB2O3を含み、ドーパントとしてセリウムハロゲン化物を含有する。
【0015】
本発明で使用可能なハロゲン化物としては、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、アスタチン化物が含まれる。中でも、上記セリウムハロゲン化物としては、フッ化セリウム(CeF3)、塩化セリウム(CeCl3)、臭化セリウム(CeBr3)、ヨウ化セリウム(CeI3)、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。なお、後述する実施例では、セリウムハロゲン化物がCeF3である態様について説明する。
【0016】
本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、一般式La1-xCexB3O6で表されるガラス組成において、パラメータxは0<x≦0.005である。言い換えると、本発明のホウ酸ランタン系ガラスにおいて、ドーパント元素であるセリウムの濃度(化学式LaB3O6を満たすガラス中のランタンの含有率を100%とした場合のセリウムの含有率)は、0%超0.5%以下である。パラメータxがこの範囲を満たすことにより、本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として優れた性能を有する。好ましくは、パラメータxは0.0001≦x≦0.005(即ち、セリウム濃度が0.01%以上0.5以下)であり、より好ましくは、パラメータxは0.0003≦x≦0.005(即ち、セリウム濃度が0.03%以上0.5%以下)であり、さらに好ましくは、0.0003≦x≦0.003(即ち、セリウム濃度が0.03%以上0.3%以下)であり、よりさらに好ましくは、パラメータxは0.0005≦x≦0.003(即ち、セリウム濃度が0.05%以上0.3%以下)である。パラメータxがこれらの範囲を満たす場合には、本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質としてより優れた性能を有する。
【0017】
本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、全光線透過率スペクトルにおいて、波長200nm~300nmの範囲にCe3+に由来する特性吸収帯を有する。これにより、本発明のホウ酸ランタン系ガラスにおいて、ドーパント元素であるセリウムは、元々のセリウムの原子価であるCe3+を維持した状態で存在し、本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として優れた性能を有する。一方、全光線透過率スペクトルにおいて波長200nm~300nmの範囲にCe3+に由来する特性吸収帯を有さない場合(例えば、当該波長範囲における吸収帯がブロードな形である場合)、ドーパント元素であるセリウムは、Ce3+からCe4+に酸化された状態で存在すると考えられるため、そのようなガラス材料は、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として所望の性能を発揮することができない。
【0018】
[ホウ酸ランタン系ガラスの製造方法]
次に、本発明のホウ酸ランタン系ガラスの製造方法について説明する。
【0019】
本発明のホウ酸ランタン系ガラスの製造方法は、以下のステップS110~ステップS150を含む。
ステップS110:La成分供給源としてLa2O3、B成分供給源としてB2O3またはH3BO3、及び、ドーパントとしてセリウムハロゲン化物を、目的の化学量論比を満たすように秤量し、原料を準備する工程、
ステップS120:上記ステップS110で準備した原料を混合し、原料混合物を得る工程、
ステップS130:上記ステップS120で得られた原料混合物を成形して、原料混合物の成形体を得る工程、
ステップS140:上記ステップ130で得られた成形体を不活性雰囲気で焼結し、成形体の焼結体を得る工程、及び
ステップS150:上記ステップ140で得られた焼結体を還元雰囲気で溶融し、融液を、予熱した鋳型上に流し出して急冷し、目的のガラスサンプルを得る工程。
【0020】
また、本発明のホウ酸ランタン系ガラスの製造方法は、上記ステップS110~ステップS150に加えて、ステップS150で得られたガラスサンプルを還元雰囲気でアニーリングする工程(ステップS160)をさらに含んでもよい。
【0021】
以下、ステップS110~ステップS150、及びステップS160について説明する。
【0022】
(ステップS110)
ステップS110で準備するLa成分供給源としてのLa2O3、B成分供給源としてのB2O3またはH3BO3、及び、ドーパントとしてのセリウムハロゲン化物(以下、「ドーパント化合物」とも称する。)は、いずれも粉末状であってもよく、粉末以外の形状であってもよい。粉末状であると、ステップS120での混合が容易であるので好ましい。なお、本明細書では、便宜上、ステップS110で秤量した各化合物をまとめて「原料」と称し、これらの化合物が粉末状である場合には「原料粉末」とも称することとする。
【0023】
ここで、原料(原料粉末)は、後述するステップS120で得られる原料混合物中のセリウム濃度が化学量論比で0%超0.5%以下を満たすように準備される。好ましい一態様では、当該原料混合物中のセリウム濃度が化学量論比で0.01%以上0.5%以下を満たすように準備され、より好ましい一態様では、当該原料混合物中のセリウム濃度が化学量論比で0.03%以上0.5%以下を満たすように準備され、さらに好ましい一態様では、当該原料混合物中のセリウム濃度が化学量論比で0.03%以上0.3%以下を満たすように準備され、よりさらに好ましい一態様では、当該原料混合物中のセリウム濃度が化学量論比で0.05%以上0.3%以下を満たすように準備される。
【0024】
(ステップS120)
ステップS120では、ステップS110で準備した原料を混合し、原料混合物を得る。
【0025】
ここで、原料の種類に応じて、予備的な脱水処理及び/または焼成処理を行い、水(H2O)及び/または二酸化炭素(CO2)を放出することが好ましい。例えば、B成分供給源としてH3BO3を用いる場合には、まず、La2O3とH3BO3を混合し、所定の温度(例えば、300℃程度)で所定の時間(例えば、10時間程度)加熱して脱水処理を行うことが好ましい。また、この場合、脱水処理後の混合物を粉砕処理しておくと、ドーパント化合物(粉末状)との混合が容易である。
【0026】
(ステップS130)
ステップS130では、ステップS120で得られた原料混合物を成形して、原料混合物の成形体を得る。
【0027】
成形体は、例えば、機械プレス、水圧プレス、油圧プレス、冷間等方圧プレス(CIP)などにより、原料混合物をプレス成形(加圧成形)することによって得ることができる。但し、成形方法はプレス成形に限定されず、射出成形やテープ成形などの成形方法を用いてもよい。
【0028】
(ステップS140)
ステップS140では、ステップ130で得られた成形体を不活性雰囲気で焼結し、成形体の焼結体を得る。
【0029】
焼結方法としては特に制限されず、常圧焼結、加圧焼結、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧焼結、パルス通電加圧焼結など、任意の焼結方法であってよい。不活性ガスとしては、窒素ガス(N2)あるいは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)などの希ガスを用いることができる。
【0030】
焼結温度及び焼結時間としては特に制限されないが、例えば、850℃~950℃の温度範囲で、5時間以上15時間以下の時間行うことが好ましい。
【0031】
(ステップS150)
ステップS150では、ステップ140で得られた焼結体を還元雰囲気で溶融し、融液を、予熱した鋳型上に流し出して急冷し、目的のガラスサンプルを得る。
【0032】
ここで、ステップS150に関する還元雰囲気とは、ドーパント元素であるセリウムが、元々の原子価であるCe3+を維持することができる雰囲気を意図するものとする。言い換えると、ステップS150における溶融雰囲気が還元雰囲気であると、Ce3+からCe4+への酸化が生じにくい。そのため、得られるガラスサンプルは、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として所望の性能を発揮することができる。これに対して、後述する実施例で示されるように、ステップS150における溶融雰囲気が大気雰囲気であると、Ce3+からCe4+への酸化が生じやすいため、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として所望の性能を得ることができない。
【0033】
具体的には、ステップS150は、ステップS140に関して上述したのと同様の不活性ガスに数%程度の水素ガス(H2)を混合した還元雰囲気で行われてもよい。例示的な一態様では、ステップS150は、Arに対してH2を3%程度混合した還元雰囲気で行われる。あるいは、ステップ140で得られた焼結体を溶融しながら、その周囲で炭素を燃焼させることで、高温下で、拡散した酸素原子を炭素に捕捉させるようにしてもよい。
【0034】
溶融温度及び溶融時間としては特に制限されないが、例えば、1100℃~1200℃の温度範囲で、0.5時間以上1時間以下の時間行うことが好ましい。
【0035】
(ステップS160)
ステップS160では、ステップS150で得られたガラスサンプルを還元雰囲気でアニーリングする。このステップS160は、任意的工程である。なお、本明細書では、ステップS160で行われる、ガラスサンプルに対するアニーリングを、「ポストアニーリング」とも称することとする。このポストアニーリングを行うことにより、本発明のホウ酸ランタン系ガラスの品質を向上させることができる。
【0036】
ステップS160に関する還元雰囲気は、ステップS150に関して上述したのと同様に、ドーパント元素であるセリウムが、元々の原子価であるCe3+を維持することができる雰囲気を意図するものとする。具体的には、ポストアニーリングは、ステップS140に関して上述したのと同様の不活性ガスに数%程度の水素ガス(H2)を混合した還元雰囲気で行われる。例示的な一態様では、ポストアニーリングは、Arに対してH2を3%程度混合した還元雰囲気で行われる。
【0037】
ポストアニーリング温度及びポストアニーリング時間としては特に制限されないが、例えば、580℃~620℃の温度範囲で、5時間以上20時間以下の時間行うことが好ましい。
【0038】
[ホウ酸ランタン系ガラスの用途]
次に、本発明のホウ酸ランタン系ガラスの用途について説明する。
【0039】
本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、照射された放射線量に応じて熱蛍光線量が変化するため、熱蛍光線量を測定することにより、照射された放射線量を求めることができる。
【0040】
本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、熱蛍光線量計用素子として有用である。具体的には、本発明のホウ酸ランタン系ガラスを所定の寸法に切り出して作製される熱蛍光線量計用素子は、所定のホルダに保持した状態で、熱蛍光線量計として使用され、例えば、X線、γ線、中性子線などの放射線を吸収して蓄積し、後にリーダにより加熱時に発生する熱蛍光線量を測定することにより、照射された放射線量を求めることができる。
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例0042】
<例1~例8>
[ホウ酸ランタン系ガラスの製造]
La成分供給源及びB成分供給源として、La2O3及びH3BO3(いずれも純度99.99%、粉末状、フルウチ化学(株)製)を用意した。
ドーパントとして、CeF3(純度99.99%、粉末状、フルウチ化学(株)製))を用意した。
【0043】
各原料粉末を、表1に示す化学量論比を満たすように秤量した(ステップS110)。なお、表1には、この化学量論比から得られる、原料の混合組成(mol%)、及び、原料混合物(試料)中のCe濃度(%)を示した。
【0044】
準備した原料粉末のうち、まず、La2O3粉末とH3BO3粉末を混合し、300℃で10時間加熱して脱水処理を行った後、粉砕した。
次に、CeF3粉末を添加し、十分に混合して、粉末状の混合物(原料混合物)を得た(ステップS120)。
【0045】
得られた原料混合物を、CIP成形機により冷間等方圧プレスし、ペレットを得た(ステップS130)。
【0046】
次いで、このペレットを9000℃で10時間、Ar雰囲気下で焼結した(ステップS140)。
【0047】
得られた焼結体ペレット(多結晶体)を、Ptるつぼに入れ、還元雰囲気で溶融し、融液を、予熱したガラス製カーボン板上に流し出して急冷し、例1~例8のガラスサンプルを得た(ステップS150)。ここで、焼結体ペレットの溶融の際には、その周囲で炭素を燃焼させることで還元雰囲気とした。
【0048】
<例9~例16>
例1~例8と同様の原料粉末を用意し、表1に示す化学量論比を満たすように秤量した(ステップS110)。
例1~例8と同様の条件でステップS120~ステップS150の工程を経た後、得られたガラスサンプルを、600℃で18時間、Ar雰囲気(3%H2)下でアニーリングし、例9~例16のガラスサンプルを得た(ステップS160)。
【0049】
<例17~例20>
例1~例8と同様の原料粉末を用意し、表1に示す化学量論比を満たすように秤量した(ステップS110)。
ステップS150における溶融雰囲気を大気雰囲気としたこと以外は例1~例8と同様の条件でステップS120~ステップS150の工程を経てガラスサンプルを作製し、例17~例20のガラスサンプルを得た。
【0050】
<例21~例24>
例1~例8と同様の原料粉末を用意し、表1に示す化学量論比を満たすように秤量した(ステップS110)。
例17~例20と同様の条件でステップS120~ステップS150の工程を経た後、得られたガラスサンプルを、600℃で18時間、Ar雰囲気(3%H2)下でアニーリングし、例21~例24のガラスサンプルを得た(ステップS160)。
【0051】
【0052】
[ホウ酸ランタン系ガラスの性状の分析]
例1~例24のホウ酸ランタン系ガラスについて、その性状を分析した。
【0053】
(外観観察)
例1~例24の試料を、背景が薄青色の方眼紙の上に載せ、目視による外観観察を行い、色及び透明性を評価した。結果を表2に示す。
図1(a)~
図1(c)には、代表的な例として、例13、例19、及び例21の試料の写真画像を示した。
【0054】
(透過率の測定)
例1~例24の試料の全光線透過率を測定した。表2には、波長500nmでの透過率(%)の値、及び、全光線透過率スペクトルの特性吸収帯から特定したCeの価数を示した。
図2には、代表的な例として、例5、例13、例17、例21、例19、及び例23の試料の全光線透過率スペクトルを示した。
【0055】
(熱蛍光特性の分析)
【0056】
例1~例24の試料の熱蛍光(TL)特性として、TLグロー曲線、及びTLスペクトルの測定を行った。グロー曲線の測定には、熱蛍光測定装置(TL-200、ナノグレイ社製)を使用した。具体的には、測定対象の試料にX線を1Gy、室温条件で照射した後、50℃~350℃の温度範囲を3℃/secの昇温速度で測定した。なお、X線の照射線量は、TN30013型のファーマー形電離箱を用いて測定し、試料の加熱には、温度調節器(SCR-SHQ-A、坂口電熱社製)を用いた。TLスペクトルの測定には、CCD分光器(QE Pro、オーシャンオプティクス社製)を使用した。例1~例24の試料のTLスペクトルでは、波長350nm~375nmにピークを持つ発光帯が確認され、フォトルミネッセンス(PL)スペクトルと一致していたことから、Ce
3+の発光であると言える。表2には、例1~例24の試料のTL強度(任意単位)を示した。
図3には、試料中のCe濃度(%)に対するTL強度(任意単位)の値をプロットした結果を示した。また、
図3には、比較のために作製したLB
3O
6ガラス試料(以下、「非ドープ試料」とも称する。)についての測定結果も示した。
図4(a)には、例1~例4の試料及び非ドープ試料のグロー曲線を示し、
図4(b)には、例4~例8の試料のグロー曲線を示した。
【0057】
(発光量子効率の測定)
例1~例24の試料の発光量子効率(QE)を測定した。結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
以下、これらの分析結果について説明する。
【0060】
図1(a)~
図1(c)は、それぞれ、例13、例19、及び例21の試料の写真画像を示す図である。
【0061】
図1(a)及び
図1(c)によれば、背景の方眼紙の色及び罫線が、試料の有無によらずはっきりと確認できており、例13及び例21の試料は、無色透明であることが分かった。一方、
図1(b)によれば、例19の試料を載せた部分において、背景の方眼紙の罫線ははっきりと確認できているため透明であると言えるが、当該部分の色はその周囲の色よりも幾分濃く、特に試料の外縁部は黄色味がかっていることが分かった。
【0062】
ここで、表1に示したように、例19の試料と例21の試料は、製造時の溶融条件が大気条件である点で共通し、例21の試料はポストアニーリング処理を行った点で異なる。そのため、
図1(b)と
図1(c)の結果から、ポストアニーリング処理は、試料(ガラスサンプル)の透明性を高め、これにより、本発明のホウ酸ランタン系ガラスの品質を向上させることができると言える。
【0063】
図2は、例5、例13、例17、例21、例19、及び例23の試料の全光線透過率スペクトルを示す図である。
なお、
図2の図中には、各スペクトルと試料を対応付ける表示と共に、各試料中のCe濃度(%)を示した。
【0064】
図2によれば、例5及び例13の試料では、波長200nm~300nmの範囲において、Ce
3+の4f→5d
j(j=1~4)遷移に伴う特性吸収帯が確認された。一方、例17、例21、例19、及び例23の試料では、吸収帯はブロードな形であることから、Ce
4+の存在が示唆された。
【0065】
これらの結果から、ドーパント元素がセリウムである場合、溶融雰囲気が大気雰囲気であると、Ce3+からCe4+への酸化が生じやすく、これに対して、還元雰囲気であると、得られるガラスサンプルにおいて、元々のセリウムの原子価であるCe3+を維持することができることが分かった。
【0066】
図3は、例1~例24の試料及び非ドープ試料のTL強度を示す図である。
図3において、四角形のプロットは例1~例8の試料を示し、丸形のプロットは例9~例16の試料を示し、下向き三角形のプロットは例17~例20の試料を示し、上向き三角形のプロットは例21~例24の試料を示す。
【0067】
図3によれば、非ドープ試料(LB
3O
6ガラス)は、それ固有の発光特性はほとんど有していないことが分かる。
例1~例8の試料及び例9~例16の試料は、いずれもセリウムのドープによって一定のTL強度を示したが、Ce濃度が1.5%である例7、例15、及びCe濃度が3.0%である例8、例16では、相対的に低いTL強度であった。このことから、Ce濃度が0.01%~0.5%である例1~例6の試料及び例9~例14の試料は、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として優れた性能を有することが示唆された。
一方、例17~例20の試料及び例21~例24の試料について見ると、Ce濃度が0.2%である例17及び例21では、上述した例7、例15の試料よりも高いTL強度を示したが、例18~例20及び例22~例24では、いずれも上述した例8、例16よりも低いTL強度であった。このことから、例1~例6の試料及び例9~例14の試料では、製造時の溶融雰囲気が還元雰囲気であることにより元々のセリウムの原子価であるCe
3+が維持される結果、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として優れた性能を有することが示唆された。
【0068】
加えて、例1~例6の試料及び例9~例14の試料に関し、Ce濃度が同じ試料同士(例えば、例1の試料と例9の試料)を比較すると、ポストアニーリング処理を行った試料の方が、より高いTL強度を示す傾向が得られた。具体的には、ポストアニーリング処理を行った試料の方が1.1倍以上高いTL強度を示しており、特に、Ce濃度が0.06%である例3と例11では、ポストアニーリング処理を行うことにより、例11の試料では1.3倍を超えるTL強度が得られた。また、Ce濃度が0.5%である例6と例14、及び、Ce濃度が0.1%である例4と例12では、ポストアニーリング処理を行うことにより、例14、例12の試料では1.2倍を超えるTL強度が得られた。このことから、ポストアニーリング処理は、上述した試料(ガラスサンプル)の透明性(外観)を高めるだけでなく、TL特性を高める効果を有し、これにより、本発明のホウ酸ランタン系ガラスの品質を向上させることができると言える。
【0069】
図4(a)は、例1~例4の試料及び非ドープ試料のグロー曲線を示す図であり、
図4(b)は、例4~例8の試料のグロー曲線を示す図である。
なお、
図4(a)及び
図4(b)では、各試料中のCe濃度(%)を用いて、各々のグロー曲線と試料を対応付けた。
【0070】
図4(a)、(b)によれば、Ce濃度が0.01%~0.5%である例1~例6の試料では、約60℃~約300℃の範囲において発光強度が上昇し、一定のピーク値が存在することが確認された。一方、Ce濃度が1.5%、3%である例7、例8の試料では、約75℃~約250℃の範囲にわたって発光強度がやや増加する傾向が見られるが、明確なピーク値を特定することは困難である(
図4(b))。また、非ドープ試料(Ce濃度0%)では、測定した温度範囲において発光強度はほとんど変化しなかった(
図4(a))。
【0071】
なお、上掲の表2によれば、例1~例8の試料及び例9~例16の試料は、いずれも35%以上のQE値を示し、中でも、例1~例6の試料及び例9~例15の試料は、40%以上のQE値を示した。
また、
図3を参照して上述したTL強度と同様に、Ce濃度が同じ試料同士(例えば、例1の試料と例9の試料)を比較すると、ポストアニーリング処理を行った試料の方が、より高いQE値を示す傾向が得られた。
これに対して、例17~例20の試料及び例21~例24の試料は、いずれもQE値が10%未満であり、ポストアニーリング処理を行った場合でも、低いQE値を示した。
【0072】
(X線照射線量と熱蛍光強度の関係の分析)
次に、例4及び例12の試料について、X線の照射線量を1mGyから50Gyまで変化させて、上述したのと同様の装置及び条件でグロー曲線を測定した。
【0073】
図5には、X線の照射線量に対するTL強度(任意単位)の値をプロットした結果を示した。
図5において、四角形のプロット及び丸形のプロットは、それぞれ、例4及び例12の試料の測定結果である。また、図中には、各々の測定結果から最小二乗法により求めた回帰直線を示した。各回帰直線の回帰式及び決定係数(R
2)は、以下の通りであった。
例4の試料:y=0.94x+0.84 R
2>0.999
例12の試料:y=0.93x+0.58 R
2>0.999
【0074】
図5に示すように、例4及び例12の試料はいずれも、回帰直線が線形であるだけでなく、傾きが約1であることから、照射線量と同等の熱蛍光が測定されたことが分かる。
また、両試料は、1mGyから50Gyまでの5桁にわたる幅広い照射線量領域で直線性のTL強度が得られており、現在主流の熱蛍光線量計用の熱蛍光物質であるLiF:Mg,Ti単結晶に匹敵する測定レンジ能力を有することが分かった。
【0075】
加えて、例12の試料を用いて、X線照射(1Gy)とグロー曲線の測定のサイクルを24回繰り返したところ、
図6に示すように、TL強度(任意単位)の値は相対標準偏差(RSD)が2%の範囲内にほぼ収まっており、ガラスの変質を生じることなく、反復使用が可能であることが分かった。
【0076】
なお、本発明のホウ酸ランタン系ガラスのガラス転移点(Tg)は約660℃であり、上述したTL特性の分析条件及び結果から分かるように、本発明のホウ酸ランタン系ガラスは、当該ガラス転移点よりも低い、350℃の温度まで熱蛍光特性を示すことから、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質として有用であると言える。
本発明の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスは、成分にリチウムを含まないため、原材料の価格高騰や、需給バランスの不安定化などの影響を受けにくい。また、本発明の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスは、簡便で安価にかつ再現性良く製造することができるので、高い品質の製品を安定して生産・供給することができる。加えて、本発明の熱蛍光測定用ホウ酸ランタン系ガラスは、実用に耐え得る程度に、ガラスの変質を生じることなく、反復使用が可能であるので、従来のリチウムを含有する結晶性材料の代替として、熱蛍光線量計用の熱蛍光物質としての利用が期待される。