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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161189
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20231030BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
H01L23/30 B
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071385
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草刈 伸治
【テーマコード(参考)】
4M109
【Fターム(参考)】
4M109AA02
4M109DB09
4M109EA01
4M109EA02
4M109EA10
(57)【要約】
【課題】異常状態において過電流を遮断する機能を内蔵した半導体モジュールを提供する。
【解決手段】半導体モジュール100は、実装基板12と、実装基板12に設置されたトランジスタ21と、半導体素子を収容する筐体30と、筐体30の内側の空間に充填されてトランジスタ21を封止する第1封止層41と、第1封止層41よりも柔軟な樹脂材料により形成されて第1封止層41に積層された第2封止層42と、トランジスタ21に電気的に接続されたワイヤWaとを具備し、ワイヤWaは、第1封止層41に被覆された第1部分P1aと、第2封止層42に被覆された第2部分P2aとを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実装基板と、
前記実装基板に設置された半導体素子と、
前記半導体素子を収容する筐体と、
前記筐体の内側の空間に充填されて前記半導体素子を封止する第1封止層と、
前記第1封止層よりも柔軟な樹脂材料により形成されて前記第1封止層に積層された第2封止層と、
前記半導体素子に電気的に接続された配線部材とを具備し、
前記配線部材は、
前記第1封止層に被覆された第1部分と、
前記第2封止層に被覆された第2部分とを含む
半導体モジュール。
【請求項2】
前記筐体に設置された接続端子をさらに具備し、
前記配線部材は、前記半導体素子と前記接続端子とを電気的に接続する第1配線部材を含む
請求項1の半導体モジュール。
【請求項3】
前記半導体素子は、第1半導体素子と第2半導体素子とを含み、
前記配線部材は、前記第1半導体素子と前記第2半導体素子とを電気的に接続する第2配線部材を含む
請求項1の半導体モジュール。
【請求項4】
前記配線部材は、
前記第1部分および前記第2部分と、
第3部分とを含み、
前記第1部分は、前記配線部材の第1端を含み、
前記第3部分は、前記配線部材における前記第1端とは反対側の第2端を含み、
前記第2部分は、前記第1部分と第3部分との間の部分であり、
前記第1部分および前記第3部分は、前記第1封止層により被覆され、
前記第2部分は、前記第2封止層により被覆される
請求項1の半導体モジュール。
【請求項5】
前記第1封止層の厚さは、前記第2封止層の厚さを上回る
請求項1の半導体モジュール。
【請求項6】
前記第1封止層の厚さは、前記第2封止層の厚さを下回る
請求項1の半導体モジュール。
【請求項7】
前記第2封止層を被覆する絶縁性の保護部材
をさらに具備する請求項1の半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)またはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のパワー半導体素子を利用した半導体モジュールが従来から提案されている。例えば特許文献1および特許文献2には、回路基板に設置された半導体素子と、半導体素子を収容するケースと、を含む半導体装置が開示されている。半導体素子は、ボンディングワイヤにより外部接続端子に接続される。半導体素子およびボンディングワイヤは、ケースの内側の空間に充填された封止樹脂により封止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022- 53848号公報
【特許文献2】特開2013-258321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、半導体素子に短絡等の異常が発生した場合、配線部材に継続的に過電流が供給される状態(以下「異常状態」という)となる。異常状態における過電流を遮断するためには半導体モジュールにヒューズを外部接続する必要がある。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、異常状態において過電流を遮断する機能を内蔵した半導体モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示に係る半導体モジュールは、実装基板と、前記実装基板に設置された半導体素子と、前記半導体素子を収容する筐体と、前記筐体の内側の空間に充填されて前記半導体素子を封止する第1封止層と、前記第1封止層よりも柔軟な樹脂材料により形成されて前記第1封止層に積層された第2封止層と、前記半導体素子に電気的に接続された配線部材とを具備し、前記配線部材は、前記第1封止層に被覆された第1部分と、前記第2封止層に被覆された第2部分とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態に係る半導体モジュールの構成を例示する平面図である。
図2図1におけるII-II線の断面図である。
図3】ワイヤの近傍を拡大した断面図である。
図4】半導体モジュールの製造工程を例示する工程図である。
図5】製造の過程にある半導体モジュールの断面図である。
図6】第2実施形態における半導体モジュールの断面図である。
図7】変形例におけるワイヤ近傍の断面図である。
図8】変形例におけるワイヤ近傍の断面図である。
図9】変形例におけるワイヤ近傍の断面図である。
図10】変形例における半導体モジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、各要素の寸法および縮尺が実際の製品とは相違する場合がある。また、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0008】
A:第1実施形態
図1は、半導体モジュール100の構成を例示する平面図である。図2は、図1におけるII-II線の断面図である。第1実施形態の半導体モジュール100は、例えば3相モータ等の電動機を駆動するインバータ回路を構成するパワー半導体装置である。
【0009】
なお、以下の説明においては、図2に例示される通り、Z軸を想定する。Z軸に沿う一方向をZ1方向と表記し、Z1方向の反対の方向をZ2方向と表記する。なお、実際に使用される状態では、半導体モジュール100は任意の方向に設置され得るが、以下の説明においては便宜的に、Z1方向を下方と仮定し、Z2方向を上方と仮定する。したがって、半導体モジュール100の任意の要素のうちZ1方向を向く表面が「下面」と表記され、当該要素のうちZ2方向を向く表面が「上面」と表記される場合がある。
【0010】
図1および図2に例示される通り、半導体モジュール100は、半導体ユニット10と筐体30と封止部材40とを具備する。なお、図1においては封止部材40の図示が便宜的に省略されている。
【0011】
筐体30は、半導体ユニット10と封止部材40とを収容および支持するケースである。第1実施形態の筐体30は、矩形枠状の側壁部31と、側壁部31の内壁面から突出する張出部32とを具備する。筐体30は、例えばPPS(polyphenylene sulfide)樹脂、PBT(polybutylene terephthalate)樹脂、PBS(poly butylene succinate)樹脂、PA(polyamide)樹脂、またはABS(acrylonitrile-butadiene-styrene)樹脂等の各種の絶縁樹脂により形成される。
【0012】
筐体30には、複数の接続端子33(33n,33p,33g)が設置される。各接続端子33は、例えばインサート成形により筐体30と一体に形成される。各接続端子33は、側壁部31を貫通するように、Z軸に交差する方向に延在する。各接続端子33のうち側壁部31の内側に位置する部分は、張出部32の上面に位置する。
【0013】
複数の接続端子33は、接続端子33nと接続端子33pと接続端子33gとを含む。接続端子33nには外部電源から低位側の電源電圧が供給され、接続端子33pには外部電源から高位側の電源電圧が供給される。また、接続端子33gには、半導体モジュール100を制御するための制御電圧が外部の制御装置から供給される。
【0014】
半導体ユニット10は、実装基板12とトランジスタ21とダイオード22とを具備する。実装基板12は、トランジスタ21とダイオード22とを支持する矩形状の板状部材である。例えばDCB(Direct Copper Bonding)基板、AMB(Active Metal Brazing)基板、またはIMS(Insulated Metal Substrate)等の基板が、実装基板12として利用される。
【0015】
図2に例示される通り、実装基板12は筐体30に設置される。具体的には、実装基板12は、例えば接着剤等の接合材を利用して張出部32に固定される。実装基板12は、絶縁板121と金属板122と導体パターン123との積層で構成される積層基板である。絶縁板121は、絶縁材料で形成された矩形状の板状部材である。絶縁基板は、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウムまたは窒化ケイ素等のセラミックス材料、またはエポキシ樹脂等の樹脂材料で形成される。金属板122は、絶縁板121のうちZ1方向を向く下面に接合された矩形状の板状部材である。金属板122は、例えば銅またはアルミニウム等の高熱伝導性の金属材料で形成され、半導体モジュール100に発生した熱を外部に伝達する放熱板として機能する。導体パターン123は、絶縁板121のうちZ2方向を向く上面に形成された導電膜である。例えば銅または銅合金等の低抵抗な導電材料により導体パターン123が形成される。
【0016】
トランジスタ21およびダイオード22は、実装基板12に設置された半導体素子である。図2に例示される通り、トランジスタ21およびダイオード22は、筐体30の内側の空間に収容される。具体的には、トランジスタ21およびダイオード22は、張出部32により包囲される。トランジスタ21の上面およびダイオード22の上面は、張出部32の上面よりも低い位置(すなわちZ1方向)にある。なお、第1実施形態においてはトランジスタ21およびダイオード22の1組のみを便宜的に図示するが、トランジスタ21およびダイオード22の複数組が実装基板12に実装されてもよい。なお、以下の説明においては、トランジスタ21およびダイオード22を「半導体素子20」として包括的に表現する場合がある。トランジスタ21およびダイオード22の一方は「第1半導体素子」の一例であり、トランジスタ21およびダイオード22の他方は「第2半導体素子」の一例である。
【0017】
トランジスタ21は、電流の導通/遮断を切替え可能なパワー半導体素子である。第1実施形態のトランジスタ21はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。図1に例示される通り、トランジスタ21は、電極21eと電極21cと制御電極21gとを含む半導体チップで構成される。電極21eおよび電極21cは、制御対象となる電流が入力または出力される主電極である。具体的には、電極21eは、トランジスタ21の上面に形成されたエミッタ電極であり、電極21cは、トランジスタ21の下面に形成されたコレクタ電極である。他方、制御電極21gは、トランジスタ21のオン/オフを制御するための制御電圧が印加されるゲート電極であり、電極21eとともにトランジスタ21の上面に形成される。
【0018】
ダイオード22は、電流を整流するパワー半導体素子である。ダイオード22は、陽極22aと陰極22kとを含む半導体チップで構成される。陽極22aはダイオード22の上面に形成され、陰極22kはダイオード22の下面に形成される。
【0019】
図2に例示される通り、各半導体素子20は、例えば半田等の接合材14を介して実装基板12に接合される。具体的には、トランジスタ21の電極21cとダイオード22の陰極22kとが、接合材14により導体パターン123に接合される。すなわち、各半導体素子20と導体パターン123との間に接合材14が介在する。
【0020】
半導体ユニット10には、複数のワイヤW(Wa,Wb,Wc,Wd)が接続される。各ワイヤWは、各半導体素子20に電気的に接続された配線部材である。具体的には、各ワイヤWは、例えば銅またはアルミニウム等の低抵抗な導電材料により形成された線状のボンディングワイヤである。複数のワイヤWは、複数のワイヤWaと複数のワイヤWbと1本のワイヤWcと複数のワイヤWdとを含む。
【0021】
各ワイヤWaは、接続端子33nとダイオード22(さらにはトランジスタ21)とを電気的に接続する配線部材である。各ワイヤWaは、相互に反対側に位置する第1端E1aと第2端E2aとを含む。第1端E1aがダイオード22の陽極22aに接合され、第2端E2aが接続端子33nに接合される。図2に例示される通り、各ワイヤWaは、ダイオード22と接続端子33nとの間においてZ2方向に凸の円弧状または折線状に湾曲する。なお、ワイヤWaの本数は任意である。例えば1本のワイヤWaのみが接続端子33nとダイオード22との間に設置されてもよい。
【0022】
各ワイヤWbは、トランジスタ21とダイオード22とを電気的に接続する配線部材である。各ワイヤWbは、相互に反対側に位置する第1端E1bと第2端E2bとを含む。第1端E1bがトランジスタ21の電極21eに接合され、第2端E2bがダイオード22の陽極22aに接合される。図2に例示される通り、各ワイヤWbは、トランジスタ21とダイオード22との間においてZ2方向に凸の円弧状または折線状に湾曲する。なお、ワイヤWbの本数は任意である。例えば1本のワイヤWbのみがトランジスタ21とダイオード22との間に設置されてもよい。ワイヤWbは「第2配線部材」の一例である。
【0023】
ワイヤWcは、接続端子33gとトランジスタ21とを電気的に接続する配線部材である。ワイヤWcは、他のワイヤW(Wa,Wb,Wd)よりも細い導電体ある。ワイヤWcは、相互に反対側に位置する第1端E1cと第2端E2cとを含む。第1端E1cがトランジスタ21の制御電極21gに接合され、第2端E2cが接続端子33gに接合される。図2に例示される通り、ワイヤWcは、接続端子33gとトランジスタ21との間においてZ2方向に凸の円弧状または折線状に湾曲する。なお、ワイヤWcの本数は任意である。例えば複数のワイヤWcが接続端子33gとトランジスタ21との間に設置されてもよい。ワイヤWaおよびワイヤWcは、「第1配線部材」の一例である。
【0024】
図1に例示される通り、ワイヤWdは、接続端子33pと導体パターン123とを電気的に接続する配線部材である。ワイヤWdは、相互に反対側に位置する第1端E1dと第2端E2dとを含む。第1端E1dが導体パターン123に接合され、第2端E2dが接続端子33pに接合される。ワイヤWdは、接続端子33pと導体パターン123との間においてZ2方向に凸の円弧状または折線状に湾曲する。なお、ワイヤWdの本数は任意である。例えば1本のワイヤWdのみが接続端子33pと導体パターン123との間に設置されてもよい。
【0025】
図2の封止部材40は、筐体30の内側の空間に充填されることで半導体ユニット10を封止する絶縁体である。すなわち、実装基板12を底面として筐体30により包囲された空間に封止部材40が形成される。封止部材40は、第1封止層41と第2封止層42との積層で構成される。第1封止層41および第2封止層42が筐体30の内側の空間に充填される。第2封止層42は、第1封止層41に積層される。すなわち、実装基板12と第2封止層42との間に第1封止層41が介在する。第2封止層42が第1封止層41を被覆すると表現されてもよい。第1封止層41と第2封止層42との境界面は、Z軸に垂直な平坦面である。
【0026】
第1封止層41は、各半導体素子20を封止する。具体的には、第1封止層41は、トランジスタ21およびダイオード22の外面(上面および側面)と接合材14の表面と実装基板12の表面とに接触する。第2封止層42は、第1封止層41とともに各ワイヤWを封止する。第2封止層42の上面は、各ワイヤWの頂上点よりも高い位置(すなわちZ2方向)にある。すなわち、複数のワイヤWの全体が封止部材40により封止される。
【0027】
第1封止層41の厚さT1は、第2封止層42の厚さT2を上回る(T1>T2)。第1封止層41の厚さT1は、実装基板12(具体的には絶縁板121)の表面と第1封止層41の上面との距離である。他方、第2封止層42の厚さT2は、当該第2封止層42の下面と上面との距離である。第1封止層41の上面は、各接続端子33(33n,33p,33g)の上面よりも高い位置(すなわちZ2方向)にある。すなわち、各接続端子33の上面は第1封止層41により被覆され、第2封止層42には接触しない。
【0028】
第1封止層41と第2封止層42とは相異なる絶縁材料で形成される。第1封止層41は、例えばエポキシ樹脂またはアクリル樹脂等の比較的に硬質な樹脂材料により形成される。ただし、第1封止層41の材料は以上の例示に限定されない。なお、例えば酸化シリコンまたは酸化アルミニウム等の各種のフィラーが第1封止層41に含まれてもよい。
【0029】
他方、第2封止層42は、第1封止層41よりも柔軟な樹脂材料により形成される。第2封止層42の弾性率が第1封止層41の弾性率を下回ると表現してもよい。例えば、第2封止層42はシリコーンゲルにより形成される。ただし、第2封止層42の材料は以上の例示に限定されない。例えば第1封止層41よりも柔軟なゴム(例えばシリコーンゴム)等の樹脂材料により、第2封止層42が形成されてもよい。また、例えば酸化シリコンまたは酸化アルミニウム等の各種のフィラーが第2封止層42に含まれてもよい。
【0030】
図3は、封止部材40とワイヤWaとの関係に着目した断面図である。図3に例示される通り、ワイヤWaは、第1封止層41と第2封止層42との双方にわたり形成される。
【0031】
ワイヤWaは、第1部分P1aと第2部分P2aと第3部分P3aとを含む。第1部分P1aは、第1端E1aを含む部分である。第3部分P3aは、第2端E2aを含む部分である。第2部分P2aは、第1部分P1aと第3部分P3aとの間の部分である。第2部分P2aは、第1部分P1aおよび第3部分P3aと比較して高い位置(すなわちZ2方向)にある。
【0032】
図3に例示される通り、第1部分P1aおよび第3部分P3aは、第1封止層41により被覆される。具体的には、第1部分P1aおよび第3部分P3aは、全周にわたり第1封止層41に接触する。他方、第2部分P2aは、第2封止層42により被覆される。具体的には、第2部分P2aは、全周にわたり第2封止層42に接触する。以上の説明から理解される通り、ワイヤWaの第1部分P1aおよび第3部分P3aは第1封止層41により封止され、ワイヤWaの第2部分P2aは第1封止層41から露出する。
【0033】
封止部材40と他のワイヤW(Wb,Wc,Wd)との関係も同様である。例えば、図2に例示される通り、ワイヤWbは、第1端E1bを含む第1部分P1bと、第2端E2bを含む第3部分P3bと、第1部分P1bと第3部分P3bとの間の第2部分P2bとを含む。第1部分P1bおよび第3部分P3bは第1封止層41により被覆され、第2部分P2bは第2封止層42により被覆される。
【0034】
また、ワイヤWcは、第1端E1cを含む第1部分P1cと、第2端E2cを含む第3部分P3cと、第1部分P1cと第3部分P3cとの間の第2部分P2cとを含む。第1部分P1cおよび第3部分P3cは第1封止層41により被覆され、第2部分P2cは第2封止層42により被覆される。
【0035】
図1に例示される通り、ワイヤWdも同様に、第1端E1dを含む第1部分P1dと、第2端E2dを含む第3部分P3dと、第1部分P1dと第3部分P3dとの間の第2部分P2dとを含む。第1部分P1dおよび第3部分P3dは第1封止層41により被覆され、第2部分P2dは第2封止層42により被覆される。
【0036】
以上の説明から理解される通り、ワイヤW(Wa,Wb,Wc,Wd)は、
(1)第1封止層41により被覆された第1部分P1(P1a,P1b,P1c,P1d)と、
(2)第2封止層42により被覆された第2部分P2(P2a,P2b,P2c,P2d)と、
(3)第1封止層41により被覆された第3部分P3(P3a,P3b,P3c,P3d)と
を含む。なお、第2部分P2(P2a,P2b,P2c,P2d)は、ワイヤWのうち第1封止層41から露出した部分とも表現される。
【0037】
以上に説明した第1実施形態との対比のために、硬質な第1封止層41のみで封止部材40が構成された形態(以下「対比例1」という)を想定する。対比例1の封止部材40は、第2封止層42を含まない。対比例1においては、各ワイヤWの全体が第1封止層41のみにより被覆される。
【0038】
半導体モジュール100において各半導体素子20(トランジスタ21またはダイオード22)に例えば短絡等の異常が発生した場合、過電流が継続的にワイヤWに供給される異常状態が発生する可能性がある。対比例1においては、ワイヤWの全体が硬質な第1封止層41により強固に固定される。したがって、異常状態において温度が上昇した場合でもワイヤWは溶断せず、過電流が継続的に供給される結果となる。以上の問題を解決するために、対比例1においては、半導体モジュール100に対してヒューズを外部接続する必要がある。
【0039】
対比例1とは対照的に、第1実施形態においては、ワイヤWの第2部分P2が、第1封止層41よりも柔軟な第2封止層42により被覆される。したがって、異常状態における過電流の発生により温度が上昇すると、ワイヤWの第2部分P2が局所的に溶断する。第2部分P2の溶断により過電流が遮断される。すなわち、第1実施形態の第2部分P2は、過電流の発生時に溶断するヒューズとして機能する。以上の説明の通り、第1実施形態によれば、異常状態において過電流を遮断する機能(以下「電流遮断機能」という)を内蔵した半導体モジュール100を提供できる。
【0040】
なお、第1実施形態においては電流遮断機能が半導体モジュール100に内蔵されるから、半導体モジュール100にヒューズを外部接続する構成は、原理的には不要である。ただし、半導体モジュール100自体の電流遮断機能に加えて、当該半導体モジュール100にヒューズが外部接続されてもよい。
【0041】
次に、第1実施形態との対比のために、柔軟な第2封止層42のみで封止部材40が構成された形態(以下「対比例2」という)を想定する。対比例2の封止部材40は、第1封止層41を含まない。対比例2においては、各ワイヤWの全体が第2封止層42のみにより被覆される。
【0042】
半導体モジュール100が使用される環境の温度が高温から低温まで広範囲に変動すると、温度変化に起因した熱応力が半導体ユニット10に作用する場合がある。対比例2においては、封止部材40による半導体ユニット10の固定が充分ではないから、熱応力に起因して半導体ユニット10の各部が変形し、変形(歪み)に起因したクラック等の破損が発生する可能性がある。例えば、各半導体素子20を実装基板12に接合するための接合材14、または、各半導体素子20とワイヤWとが接合される部分に、熱応力に起因した破損が発生することが想定される。なお、以上においては熱応力に起因した各部の変形を想定したが、半導体モジュール100には、熱応力以外を原因とする変形も発生し得る。
【0043】
対比例2とは対照的に、第1実施形態において、半導体ユニット10とワイヤWの第1部分P1および第3部分P3とは、硬質な第1樹脂材料により被覆されることで強固に固定される。すなわち、熱応力に起因した半導体ユニット10の各部の変形が抑制される。したがって、第1実施形態によれば、対比例2と比較して、熱応力に起因した各部の破損を抑制できる。以上に説明した通り、第1実施形態によれば、半導体モジュール100の各部の破損を抑制しながら電流遮断機能を内蔵した半導体モジュール100を提供できる。
【0044】
第1実施形態においては、第1封止層41の厚さT1が第2封止層42の厚さT2を上回る(T1>T2)。したがって、第1封止層41の厚さT1が第2封止層42の厚さT2を下回る構成と比較して、第1封止層41により半導体モジュール100の各部の破損を抑制する効果を有効に確保できる。
【0045】
図4は、半導体モジュール100の製造工程を例示する工程図である。まず、複数の接続端子33が固定された筐体30が用意され、半導体ユニット10が当該筐体30に設置される(工程Q1)。工程Q1の実行後の工程Q2において、公知のボンディング処理によりワイヤW(Wa,Wb,Wc)が形成される。
【0046】
工程Q2の実行後の工程Q3において、図5に例示される通り、筐体30の内側の空間に液状の第1樹脂材料が注型され、第1樹脂材料の硬化により第1封止層41が形成される。第1樹脂材料は、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂等の樹脂材料である。工程Q3においては、各ワイヤWの第1部分P1および第3部分P3が第1封止層41により被覆され、かつ、各ワイヤWの第2部分P2が第1封止層41の表面から露出するように、第1樹脂材料の注型量が調整される。
【0047】
工程Q3の実行後の工程Q4において、筐体30の内側の空間に液状の第2樹脂材料が注型され、第2樹脂材料の硬化により第2封止層42が形成される。第2樹脂材料は、例えばシリコーンゲルである。工程Q3においては、各ワイヤWの第2部分P2が第2封止層42により被覆されるように、第2樹脂材料の注型量が調整される。半導体モジュール100の製造方法は以上の通りである。
【0048】
B:第2実施形態
本開示の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各態様において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明と同様の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0049】
図6は、第2実施形態における半導体モジュール100の断面図である。図6に例示される通り、第2実施形態の半導体モジュール100は、第1実施形態と同様の要素(半導体ユニット10,筐体30および封止部材40)に加えて保護部材43を具備する。
【0050】
保護部材43は、封止部材40(第2封止層42)を被覆する絶縁性の板状部材である。すなわち、第1封止層41と保護部材43との間に第2封止層42が介在する。具体的には、保護部材43は、第2封止層42の全面を被覆する。すなわち、保護部材43は、Z軸の方向からの平面視で第2封止層42の全体に重複する。なお、保護部材43は、封止部材40の要素として把握されてもよい。すなわち、封止部材40は、第1封止層41と第2封止層42と保護部材43との積層で構成されると換言してもよい。
【0051】
保護部材43は、例えば、第2封止層42を接着剤として封止部材40に接合される。すなわち、第2封止層42は、ワイヤWの封止と保護部材43の接着とに兼用される。以上の構成によれば、保護部材43を筐体30に固定するための特別な構成が不要である。ただし、保護部材43の固定の方法は以上の例示に限定されない。例えば、接着剤等の接合材により保護部材43が筐体30または封止部材40に接着されてもよい。
【0052】
保護部材43は、第2封止層42と比較して硬質である。例えばマイカ等の絶縁材料により保護部材43が形成される。ただし、保護部材43の材料は任意である。例えばエポキシ樹脂またはアクリル樹脂等の樹脂材料により保護部材43が形成されてもよい。また、保護部材43の厚さは、第2封止層42の厚さT2を下回る。ただし、保護部材43の厚さが第2封止層42の厚さT2を上回る構成も想定される。
【0053】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態においては、第2封止層42が保護部材43により保護される。したがって、例えば水分または塵埃等の異物が第2封止層42に進入する可能性を低減できる。
【0054】
C:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0055】
(1)前述の各形態においては、図3の例示の通り、第2部分P2が全周にわたり第2封止層42により被覆される形態を例示した。しかし、筐体30の内側の空間に液状の第1樹脂材料を注型する工程Q3において、実際には、図7に例示される通り、第1樹脂材料の表面張力により第2部分P2の下面に第1樹脂材料が接触する場合がある。
【0056】
図7の構成においても、異常状態においては、第2部分P2のうち第2封止層42により被覆された部分(上面および側面)が溶断するから、電流遮断機能は実現される。すなわち、第2部分P2の全周が第2封止層42により被覆された図3の構成のほか、第2部分P2の周面の一部が第2封止層42により被覆された図7の構成も、本開示の範囲には包含される。
【0057】
(2)前述の各形態においては、各接続端子33が第1封止層41により被覆された形態を例示したが、各接続端子33が第1封止層41により被覆される構成は必須ではない。具体的には、図8に例示される通り、各接続端子33は第2封止層42により被覆されてよい。図8の構成において、第1封止層41の上面は、接続端子33よりも低い位置にある。
【0058】
前述の各形態における第3部分P3(P3a,P3b,P3c,P3d)は、第1封止層41により被覆される部分である。図8の構成においては、ワイヤWのうち第1部分P1(P1a,P1b,P1c,P1d)以外の部分は、第2封止層42により被覆される第2部分P2(P2a,P2b,P2c,P2d)である。すなわち、第3部分P3はワイヤWから省略されてよい。
【0059】
なお、前述の各形態においては、第1端E1を含む第1部分P1と第2端E2を含む第3部分P3とが、第1封止層41により被覆される。すなわち、ワイヤWの両端が第1封止層41により被覆される。したがって、図8の構成と比較して、ワイヤWの第1端E1および第2端E2の各々と他の要素との接合を強固に維持できるという利点がある。
【0060】
(3)前述の各形態においては各ワイヤWが相互に離間して形成された形態を例示したが、前述の各形態における複数のワイヤWは、例えばステッチボンディングにより相互に連続して形成されてもよい。例えば、図9に例示される通り、ワイヤWaとワイヤWbとは、一連の工程において連続的に形成されてもよい。ワイヤWaの第1端E1aとワイヤWbの第2端E2bとは、1個のステッチを構成する。以上の説明から理解される通り、本開示における「配線部材」は、相互に連続的に形成される導電体のうちの一部でもよい。
【0061】
(4)前述の各形態においては、封止部材40が第1封止層41と第2封止層42の2層で構成される形態を例示したが、第1封止層41と第2封止層42との間に他の1以上の絶縁層が介在してもよい。また、前述の各形態においては、第2封止層42が第1封止層41の全面を被覆する形態を例示したが、第2封止層42が第1封止層41の一部を被覆する形態も想定される。保護部材43についても同様に、第2封止層42の一部のみを被覆してもよい。
【0062】
(5)前述の各形態においては、第1封止層41の厚さT1が第2封止層42の厚さT2を上回る(T1>T2)構成を例示したが、第1封止層41の厚さT1と第2封止層42の厚さT2との関係は、以上の例示に限定されない。例えば、図10に例示される通り、第1封止層41の厚さT1が第2封止層42の厚さT2を下回る構成(T1<T2)も想定される。なお、第2実施形態の保護部材43が、図10の構成に追加されてもよい。また、第1封止層41の厚さT1と第2封止層42の厚さT2とが等しい構成(T1=T2)も想定される。
【0063】
前述の通り、封止部材40の第1封止層41は、例えば熱応力等に起因した半導体モジュール100の各部の変形を抑制する機能(以下「変形抑制機能」という)を実現する。他方、封止部材40の第2封止層42は、ワイヤWの第2部分P2が電流遮断機能(ヒューズ)を発揮するように作用する。第1封止層41の厚さT1と第2封止層42の厚さT2との関係は、半導体モジュール100において要求される変形抑制機能と電流遮断機能との関係に応じて設定される。
【0064】
例えば、変形抑制機能が重視される構成においては、第1実施形態または第2実施形態と同様に、第1封止層41の厚さT1が第2封止層42の厚さT2を上回る形態(T1>T2)が好適である。以上の形態によれば、厚さT1が厚さT2を下回る構成と比較して、熱応力等に起因した半導体モジュール100の変形を有効に抑制できる。他方、電流遮断機能が重視される構成では、図10の例示の通り、第1封止層41の厚さT1が第2封止層42の厚さT2を下回る形態(T1<T2)が好適である。以上の構成によれば、ワイヤWにおいて第2部分P2が充分に確保される。したがって、厚さT1が厚さT2を上回る構成と比較して、過電流の発生時に第2部分P2を溶断させ易いという利点がある。
【0065】
なお、変形抑制機能と電流遮断機能との関係は、例えば実装基板12の構造にも依存する。例えば、実装基板12がDCB基板で構成される形態(以下「態様A」という)においては、第1封止層41が薄い構成でも、熱応力等に起因した各部の変形が発生し難いという傾向がある。したがって、態様Aにおいては、第1封止層41の厚さT1が第2封止層42の厚さT2を上回る構成(T1>T2)のほか、厚さT1と厚さT2とが等しい構成(T1=T2)、または、厚さT1が厚さT2を下回る構成(T1<T2)が採用されてもよい。第2封止層42の厚さT2が大きいほど、過電流の発生時に第2部分P2が溶断し易い。
【0066】
他方、実装基板12が例えばAMB基板またはIMSで構成される形態(以下「態様B」という)において、変形抑制機能および電流遮断機能の双方を適切に確保するためには、第1封止層41が薄い構成が重要である。したがって、態様Bにおいては、図10の例示のように、第1封止層41の厚さT1が第2封止層42の厚さT2を下回る構成(T1<T2)が好適である。
【0067】
(6)前述の各形態におけるワイヤWは、可撓性のリボンケーブル(フラットケーブル)、または板状のリードフレームに置換されてもよい。すなわち、前述の各形態におけるワイヤWと、リボンケーブルおよびリードフレームとは、半導体素子20に電気的に接続された配線部材として包括的に表現される。
【0068】
なお、要素Aと要素Bとの「電気的な接続」は、要素Aと要素Bとが直接的に接続された状態のほか、要素Aと要素Bとが他の導電体を介して間接的に接続された状態も含む。例えば、前述の各形態におけるワイヤWdと各半導体素子20とは、導体パターン123を介して間接的に接続される。したがって、ワイヤWdは、各半導体素子20に電気的に接続されている。
【0069】
(7)半導体ユニット10におけるトランジスタ21は、前述の各形態に例示したIGBTに限定されない。例えば、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)がトランジスタ21として利用されてもよい。MOSFETを利用した形態において、電極21cはソース電極およびドレイン電極の一方であり、電極21eはソース電極およびドレイン電極の他方である。また、IGBTとFWD(Free Wheeling Diode)とを含むRC-IGBT(Reverse Conducting IGBT)が半導体素子20として利用されてもよい。すなわち、前述の各形態におけるダイオード22は省略されてよい。以上の説明から理解される通り、半導体ユニット10における半導体素子20の個数は任意である。
【0070】
(8)前述の各形態においては、実装基板12にトランジスタ21とダイオード22とが実装された形態を例示したが、実装基板12に実装される複数の半導体素子20は、同種および異種の何れでもよい。例えば、複数のトランジスタ21が実装基板12に実装される構成も想定される。
【0071】
(9)前述の各形態においては、外部の制御装置から制御電圧が接続端子33gに供給される半導体モジュール100を例示したが、トランジスタ21の制御電極21gに制御電圧を供給する制御装置が半導体モジュール100に内蔵されたインテリジェントパワーモジュール(IPM:Intelligent Power Module)にも、本開示は同様に適用される。
【0072】
(10)本願における「第n」(nは自然数)という記載は、各要素を表記上において区別するための形式的かつ便宜的な標識(ラベル)としてのみ使用され、如何なる実質的な意味も持たない。したがって、「第n」という表記を根拠として、各要素の位置または製造の順番等が限定的に解釈される余地はない。
【符号の説明】
【0073】
100…半導体モジュール、10…半導体ユニット、12…実装基板、121…絶縁板、122…金属板、123…導体パターン、20…半導体素子、21…トランジスタ、22…ダイオード、30…筐体、31…側壁部、32…張出部、33(33p,33n,33g)…接続端子、40…封止部材、41…第1封止層、42…第2封止層、43…保護部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10