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特開2023-161190吸振体の設置位置決定方法、吸振体、及び吸振体の設計方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161190
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】吸振体の設置位置決定方法、吸振体、及び吸振体の設計方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/172 20060101AFI20231030BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20231030BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
G10K11/172
E04B1/82 M
E04B1/86 G
E04B1/86 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071386
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 ひかり
(72)【発明者】
【氏名】増田 潔
【テーマコード(参考)】
2E001
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DF04
2E001FA11
2E001GA02
2E001GA03
5D061CC04
5D061DD06
(57)【要約】
【課題】より効果的に重量床衝撃音を低減する。
【解決手段】吸振体の設置位置決定方法は、床の条件を特定する床条件特定工程S11と、床の条件に基づき、床の共振周波数を算出する共振周波数算出工程S12と、共振周波数と、床の振動モードを表現するモード関数を用いて、床の、共振のしやすさを示す指標値が閾値よりも大きくなる範囲である共振範囲を算出する共振範囲算出工程S13と、共振周波数に基づいて吸振体の特性を決定する吸振体特性決定工程S14と、共振範囲Akに基づいて吸振体の設置位置を決定する吸振体設置位置決定工程S15と、を有する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量床衝撃音を低減するために、質量体と、当該質量体の下に設けられるバネ体を備える吸振体を、床の上に複数設置するに際し、前記吸振体の各々の設置位置を決定する、吸振体の設置位置決定方法であって、
前記床の条件を特定する床条件特定工程と、
前記床の前記条件に基づき、床の共振周波数を算出する共振周波数算出工程と、
前記共振周波数と、前記床の振動モードを表現するモード関数を用いて、前記床の、共振のしやすさを示す指標値が閾値よりも大きくなる範囲である共振範囲を算出する共振範囲算出工程と、
前記共振周波数に基づいて前記吸振体の特性を決定する吸振体特性決定工程と、
前記共振範囲に基づいて前記吸振体の設置位置を決定する吸振体設置位置決定工程と、
を有することを特徴とする吸振体の設置位置決定方法。
【請求項2】
前記モード関数の変数は、前記共振範囲の数に関する値である次数を含み、
前記共振周波数算出工程においては、前記次数の複数の値の各々に対応して、前記共振周波数を算出し、
前記共振範囲算出工程においては、複数の前記値の中から、対応する前記共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれる値を選択し、前記モード関数の前記変数である前記次数に当該値を代入し、これを前記閾値と比較して、前記共振範囲を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の吸振体の設置位置決定方法。
【請求項3】
前記床が、梁または根太と、当該梁または根太の上に設けられた板材とを備えている場合に、
前記共振周波数算出工程では、前記梁または根太の長さl、前記梁または根太が延びる軸線方向におけるヤング率E、前記軸線方向における断面二次モーメントI、前記軸線方向に直交する方向で前記床を断面視したときの、ひとつの前記梁または根太と、当該梁または根太に対応して当該梁または根太に支持される前記板材の総断面積S、前記床の密度ρ、前記次数n及び前記梁または根太の長さlに応じて決定される係数αで表される、次の共振周波数式(1)
【数1】
により、前記次数nの複数の値の各々に対応する前記共振周波数ffix(n)を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の吸振体の設置位置決定方法。
【請求項4】
前記共振範囲算出工程では、前記次数nの選択された前記値を基に、前記モード関数として、次式(2)
【数2】
を用いて、平面視したときの前記梁または根太の端部を原点とした各位置xの共振のしやすさを示す指標値を算出し、前記指標値が前記閾値よりも大きな範囲を、前記共振範囲として決定する
ことを特徴とする請求項3に記載の吸振体の設置位置決定方法。
【請求項5】
前記床が、板状をなし、断面が均一である場合に、
前記共振周波数算出工程では、前記床の長辺方向の長さa、前記床の短辺方向の長さb、ポアソン比ν、ヤング率E、断面二次モーメントI、前記長辺方向の前記次数m、前記短辺方向の前記次数nで表される、次の共振周波数式(3)
【数3】
により、前記長辺方向の次数mの値と前記短辺方向の次数nの値の複数の組み合わせの各々に対応する前記共振周波数ffix(m、n)を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の吸振体の設置位置決定方法。
【請求項6】
前記共振範囲算出工程では、前記長辺方向の次数mの値と前記短辺方向の次数nの値の複数の前記組み合わせの中から、対応する前記共振周波数が低減対象となる周波数の前記範囲に含まれる前記組み合わせを選択し、選択された前記組み合わせを基に、前記モード関数として、次式(4)
【数4】
を用いて、平面視したときの前記床の角部を原点とした各位置(x、y)の共振のしやすさを示す指標値を算出し、前記指標値が前記閾値よりも大きな範囲を、前記共振範囲として決定する
ことを特徴とする請求項5に記載の吸振体の設置位置決定方法。
【請求項7】
前記質量体は、袋に包まれた粒状体であり、
前記バネ体は、複数のシート材を上下に積層して連結してユニット化した積層体を、1以上備えたものであり、
前記吸振体は、
前記質量体、及び前記バネ体を一体に包む外側シート材を更に備える
ことを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の吸振体の設置位置決定方法。
【請求項8】
質量体と、
前記質量体の下に設けられるバネ体と、
前記質量体、及び前記バネ体を一体に包む外側シート材と、を備え、
前記質量体は、袋に包まれた粒状体であり、
前記バネ体は、複数のシート材を上下に積層して連結してユニット化した積層体を、1以上備えたものである
ことを特徴とする吸振体。
【請求項9】
請求項8に記載の吸振体の設計方法であって、
前記吸振体が設置される床の共振周波数を特定する工程と、
前記床の共振周波数に基づいて、前記床上に設置する前記積層体の数を決定する工程と、を備える
ことを特徴とする吸振体の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸振体の設置位置決定方法、吸振体、及び吸振体の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅等の建物においては、上階の床に物が落下したり、人が飛び跳ねたりした際に、下階に伝わる床衝撃音が生じる。床衝撃音は、軽量床衝撃音と重量床衝撃音に分類できる。軽量床衝撃音としては、例えば、スプーン等の軽い物を落とした時の音、スリッパによる足音等がある。重量床衝撃音としては、例えば、人が跳びはねたり走りまわったり、重い物を落とした時などに生じる音がある。軽量床衝撃音は、床上にカーペットを敷くこと等により簡易に低減できるが、重量床衝撃音を低減するためには、基本的には、床を厚くする必要がある。このため、重量床衝撃音を対策するのは、容易ではない。
これに対し、例えば特許文献1には、床がコンクリートのスラブである場合に、床上に吸振体を置くことで、固体伝搬音を低減する構成が開示されている。この構成において、吸振体は、床上に複数が均等に配置されている。
より効果的に重量床衝撃音を低減することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6478516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、より効果的に重量床衝撃音を低減することができる、吸振体の設置位置決定方法、吸振体、及び吸振体の設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の吸振体の設置位置決定方法は、重量床衝撃音を低減するために、質量体と、当該質量体の下に設けられるバネ体を備える吸振体を、床の上に複数設置するに際し、前記吸振体の各々の設置位置を決定する、吸振体の設置位置決定方法であって、前記床の条件を特定する床条件特定工程と、前記床の前記条件に基づき、床の共振周波数を算出する共振周波数算出工程と、前記共振周波数と、前記床の振動モードを表現するモード関数を用いて、前記床の、共振のしやすさを示す指標値が閾値よりも大きくなる範囲である共振範囲を算出する共振範囲算出工程と、前記共振周波数に基づいて前記吸振体の特性を決定する吸振体特性決定工程と、前記共振範囲に基づいて前記吸振体の設置位置を決定する吸振体設置位置決定工程と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、共振周波数算出工程では、床条件特定工程で特定された床の条件に基づいて、床の共振周波数を算出する。また、共振範囲算出工程では、床の共振周波数と、床の振動モードを表現するモード関数を用いて、床の共振のしやすさを示す指標値が閾値よりも大きくなる範囲である共振範囲を算出する。吸振体特性決定工程では、算出された共振周波数に基づいて、吸振体の特性を決定する。更に、吸振体設置位置決定工程では、決定した特性を有する吸振体の設置位置を、共振範囲に基づいて決定する。このようにして、共振の程度が閾値よりも大きくなる共振範囲に基づいて決定された設置位置に、床の共振周波数に応じた特性を有する吸振体を設置する。これにより、吸振体を効率的に配置して、効果的に、重量床衝撃音を低減することができる。
【0006】
本発明の一態様においては、前記モード関数の変数は、前記共振範囲の数に関する値である次数を含み、前記共振周波数算出工程においては、前記次数の複数の値の各々に対応して、前記共振周波数を算出し、前記共振範囲算出工程においては、複数の前記値の中から、対応する前記共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれる値を選択し、前記モード関数の前記変数である前記次数に当該値を代入し、これを前記閾値と比較して、前記共振範囲を算出する。
床は、様々な態様で振動する。例えば、床が、梁または根太と、当該梁または根太の上に設けられた板材とを備えているような場合においては、共振のしやすさを示す指標値が閾値よりも大きくなる範囲である共振範囲、すなわち振動しやすい部分が、梁または根太が延びる軸線方向にいくつ出現するか、その数は、例えば加振点等の、振動が生じた際の条件に応じて、変化する。同様に、床が、板状をなし、断面が均一である場合においても、床の長辺方向と短辺方向の各々で、共振範囲の数は、振動が生じた際の条件に応じて、変化する。このように、共振範囲の個数に関する値である次数は、複数の値をとり得る。したがって、床の振動モードを表現するモード関数は、変数として、次数を含む。
このように、次数は複数の値をとり得るため、上記のような構成においては、共振周波数算出工程で、次数の複数の値の各々に対応して、共振周波数を算出する。そして、共振範囲算出工程で、次数の複数の値の中から、対応する共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれる値を選択する。ここで、モード関数において、変数である次数に、上記のようにして選択された値を代入したものは、共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれるような場合の振動の振動モードを表すものとなっていると考えられる。共振範囲算出工程では、このように表されたモード関数を用いて、共振範囲を算出する。このようにして、低減対象となる周波数の範囲に含まれる共振周波数で床が振動する場合の共振範囲が、適切に算出され、当該共振範囲に基づいて吸振体の設置位置を決定するため、吸振体を、より適切な設置位置に設置し、重量床衝撃音を、より効果的に低減することができる。
【0007】
本発明の一態様においては、前記床が、梁または根太と、当該梁または根太の上に設けられた板材とを備えている場合に、前記共振周波数算出工程では、前記梁または根太の長さl、前記梁または根太が延びる軸線方向におけるヤング率E、前記軸線方向における断面二次モーメントI、前記軸線方向に直交する方向で前記床を断面視したときの、ひとつの前記梁または根太と、当該梁または根太に対応して当該梁または根太に支持される前記板材の総断面積S、前記床の密度ρ、前記次数n及び前記梁または根太の長さlに応じて決定される係数αで表される、次の共振周波数式(1)
【数1】
により、前記次数nの複数の値の各々に対応する前記共振周波数ffix(n)を算出する。
このような構成によれば、床が、梁または根太と、梁または根太の上に設けられた板材とを備えている場合において、共振周波数算出工程で、床の条件に基づいた、床の共振周波数を、適切に、算出することができる。このため、吸振体の特性と、共振範囲を、より適切に決定、算出し、かつ、吸振体の設置位置を、適切に、決定することが可能となる。したがって、より効果的に、重量床衝撃音を低減することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記共振範囲算出工程では、前記次数nの選択された前記値を基に、前記モード関数として、次式(2)
【数2】
を用いて、平面視したときの前記梁または根太の端部を原点とした各位置xの共振のしやすさを示す指標値を算出し、前記指標値が前記閾値よりも大きな範囲を、前記共振範囲として決定する。
このような構成によれば、床が、梁または根太と、梁または根太の上に設けられた板材とを備えている場合において、共振範囲を適切に決定することができる。
【0009】
本発明の一態様においては、床が、板状をなし、断面が均一である場合に、前記共振周波数算出工程では、前記床の長辺方向の長さa、前記床の短辺方向の長さb、ポアソン比ν、ヤング率E、断面二次モーメントI、前記長辺方向の前記次数m、前記短辺方向の前記次数nで表される、次の共振周波数式(3)
【数3】
により、前記長辺方向の次数mの値と前記短辺方向の次数nの値の複数の組み合わせの各々に対応する前記共振周波数ffix(m、n)を算出する。
このような構成によれば、床が、板状をなし、断面が均一である場合において、共振周波数算出工程で、床の条件に基づいた、床の共振周波数を、適切に、算出することができる。このため、吸振体の特性と、共振範囲を、より適切に決定、算出し、かつ、吸振体の設置位置を、適切に、決定することが可能となる。したがって、より効果的に、重量床衝撃音を低減することができる。
【0010】
本発明の一態様においては、前記共振範囲算出工程では、前記長辺方向の次数mの値と前記短辺方向の次数nの値の複数の前記組み合わせの中から、対応する前記共振周波数が低減対象となる周波数の前記範囲に含まれる前記組み合わせを選択し、選択された前記組み合わせを基に、前記モード関数として、次式(4)
【数4】
を用いて、平面視したときの前記床の角部を原点とした各位置(x、y)の共振のしやすさを示す指標値を算出し、前記指標値が前記閾値よりも大きな範囲を、前記共振範囲として決定する。
このような構成によれば、床が、板状をなし、断面が均一である場合において、共振範囲を適切に決定することができる。
【0011】
本発明の一態様においては、前記質量体は、袋に包まれた粒状体であり、前記バネ体は、複数のシート材を上下に積層して連結してユニット化した積層体を、1以上備えたものであり、前記吸振体は、前記質量体、及び前記バネ体を一体に包む外側シート材を更に備える。
このような構成によれば、質量体が、バネ体によって下方から支持されることで、吸振体は、外部から入力される振動を減衰する、動吸振器として機能する。このような吸振体を、共振の程度が閾値よりも大きくなる共振範囲に基づいて決定された設置位置に設置することで、効果的に重量床衝撃音を低減することができる。
また、質量体及びバネ体が、外側シート材によって一体に包まれているので、施工の際には、質量体及びバネ体を別々に運ぶ必要が無く、吸振体の取り扱いを容易に行うことができる。
更に、積層体はユニット化されているため、取り扱いが容易であり、積層体の数を変更、調整して吸振体のバネ定数を変更する際の作業が容易である。
【0012】
また、本発明の吸振体は、質量体と、前記質量体の下に設けられるバネ体と、前記質量体、及び前記バネ体を一体に包む外側シート材と、を備え、前記質量体は、袋に包まれた粒状体であり、前記バネ体は、複数のシート材を上下に積層して連結してユニット化した積層体を、1以上備えたものであることを特徴とする。
このような構成によれば、質量体が、バネ体によって下方から支持されることで、吸振体は、外部から入力される振動を減衰する、動吸振器として機能する。このような吸振体を、床等に設置することで、効果的に重量床衝撃音を低減することができる。
また、質量体及びバネ体が、外側シート材によって一体に包まれているので、施工の際には、質量体及びバネ体を別々に運ぶ必要が無く、吸振体の取り扱いを容易に行うことができる。
更に、積層体はユニット化されているため、取り扱いが容易であり、積層体の数を変更、調整して吸振体のバネ定数を変更する際の作業が容易である。
【0013】
また、本発明の吸振体の設計方法は、上記したような吸振体の設計方法であって、前記吸振体が設置される床の共振周波数を特定する工程と、前記床の共振周波数に基づいて、前記床上に設置する前記積層体の数を決定する工程と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、吸振体が設置される床の共振周波数に基づいて、床上に設置する積層体の数を決定することで、床の条件に応じた吸振体を設計することができる。このような吸振体を床に設置することで、効果的に、重量床衝撃音を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より効果的に重量床衝撃音を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る吸振体の構成を示す断面図である。
図2】バネ体を構成する積層体を複数備えた吸振体の例を示す断面図である。
図3】吸振体を、保管、運搬するための容器を示す図である。
図4】吸振体を設置する床構成の一例を示す断面図である。
図5】複数の振動モードにおける、断面が均一な床に生じる振動の度合いの分布の一例を示す図である。
図6】複数の振動モードにおける、断面が均一な床に生じる振動の度合いの分布の他の一例を示す図である。
図7】複数の振動モードにおける、断面が均一な床に生じる振動の度合いの分布の他の一例を示す図である。
図8】複数の振動モードにおける、断面が均一な床に生じる振動の度合いの分布の更に他の一例を示す図である。
図9】本実施形態に係る吸振体の設置位置決定方法、吸振体の設計方法を実行する演算装置の機能構成を示すブロック図である。
図10】本実施形態に係る吸振体の設置位置決定方法の流れを示すフローチャートである。
図11】次数m=2、n=2の振動モードとした場合、床における振動の度合いの分布を示す図である。
図12】本実施形態に係る吸振体の設置位置決定方法に基づいて決定された、断面が均一な床における、吸振体の配置例を示す図である。
図13】本発明の実施形態の、梁または根太を備える床の場合における、吸振体を設置する床構成の一例を示す断面図である。
図14図13に示した構造の床において、次数n=2の振動モードとした場合の、床における振動の度合いの分布を示す図である。
図15】床において振動低減のターゲットとする周波数領域に、次数の値の複数の組み合わせの共振周波数が含まれる場合の、共振範囲の例を示す図である。
図16A】均一な断面の床についての検証例において、比較例における、吸振体の配置を示す図である。
図16B】均一な断面の床についての検証例において、実施例における、吸振体の配置を示す図である。
図17】実施例と比較例における、吸振体による振動の低減量の検証結果を示す図である。
図18】梁または根太を備える床についての検証に用いた、床を示す図である。
図19A】根太上の加振点を加振した場合の、共振周波数における振動分布を示す図である。
図19B】根太間の加振点を加振した場合の、共振周波数における振動分布を示す図である。
図20A】根太上の加振点を加振した場合の、ターゲットとする周波数範囲に含まれる、共振周波数とは異なる周波数における振動分布を示す図である。
図20B】根太間の加振点を加振した場合の、ターゲットとする周波数範囲に含まれる、共振周波数とは異なる周波数における振動分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明による吸振体の設置位置決定方法、吸振体、及び吸振体の設計方法を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る吸振体の設置位置決定方法では、重量床衝撃音を低減するため、吸振体を、床の上に複数設置するに際し、吸振体の各々の設置位置を決定する。本実施形態に係る吸振体の設置位置決定方法では、吸振体として、以下に示すようなものを用いる。
(吸振体)
本発明の実施形態に係る吸振体の構成を示す断面図を図1に示す。
図1に示されるように、吸振体100は、質量体110と、バネ体120と、外側シート材130と、を備えている。
本実施形態における吸振体100は、質量体110と、質量体110を支持するバネ体120と、により、いわゆる動吸振器(チューンドマスダンパ)として機能する。
質量体110は、袋111に包まれた粒状体112である。質量体110は、袋111に粒状体112が封入されることで、予め設定された所定の質量を有している。粒状体112としては、例えば、乾燥珪砂(粒径0.3~1.2mm、単位体積重量1.6kg/L)を使用する。なお、粒状体112は、前記のものに限定されるものではなく、砂、礫、石、砂利等の無機質材料の集合体により構成されていればよい。また、粒状体112の粒径も、前記のものに限定されるものではない。袋111は、例えば、ポリエチレン製のものが使用できるが、これに限定されるものではなく、適宜他のビニール系材料のものを用いてもよい。また、袋111は、不織布のように空気を通すものでもよい。また、袋111の大きさや袋111に封入された粒状体112の量は、限定されるものではなく適宜設定すればよい。
バネ体120は、質量体110の下に設けられる。バネ体120は、上下方向に弾性変形可能に構成されている。バネ体120は、質量体110を弾性的に支持する。バネ体120は、複数のシート材121を上下に積層して連結してユニット化した積層体122からなる。シート材121としては、例えば、土嚢袋等に使用されるポリエチレン製の織布を使用することができる。シート材121としては、これ以外にも、例えば、ガラスクロス等、不燃性、耐火性を有した材料を採用しても良い。シート材121の厚さ、シート材121を積層する枚数は、何ら限定するものではないが、バネ体120として機能するように、シート材121の厚さ、積層枚数を選定するのが好ましい。積層体122として積層される複数のシート材121は、例えばステープラー、ミシン縫い、溶着等により連結されてユニット化することができる。図2に示すように、複数のシート材121を上下に積層してユニット化した積層体122は、複数セットを積層して備えていてもよい。
【0017】
外側シート材130は、質量体110、及びバネ体120を一体に包む。外側シート材130は、例えば、シート材121と同じ素材であってもよいし、他の素材であってもよい。
また、外側シート材130は、通気性を有する素材であることが好ましい。次に説明するように、バネ体120における積層体122の数は、設置対象となる床の共振周波数に合わせて、床の振動を効率的に吸収し、抑制するように、調整され、決定される。ここで、外側シート材130に通気性を有さない素材を用いた場合においては、質量体110、及びバネ体120を一体に包む外側シート材130が密封されることにより、バネ体120に加えて、外側シート材130の内部の空気がバネとして作用する。このため、吸振体100全体としてのバネ定数が、床の共振周波数に合わせた調整時から変化して、吸振体100の共振周波数が床の共振周波数からずれてしまい、結果として、床の振動を効率的に吸収、抑制することができなくなる。
外側シート材130は、通気性を有さない素材を用いることも可能ではあるが、この場合には、複数の貫通孔を形成することで、通気性を確保するのが好ましい。
【0018】
吸振体100は、吸振体100を設置する床等の対象部位の条件に応じ、吸振体100の共振周波数が設置対象となる床の共振周波数に一致、もしくは近い値となるようにして、床の振動を効率的に吸収し、抑制するように、質量体110の質量、バネ体120のバネ定数(すなわち積層体122の数)等を調整したものを、予め製作する。
吸振体100は、施工現場で製作してもよいが、環境が整った工場で、吸振体100の製作に慣れた作業員が製作するのが好ましい。これにより、動吸振器としての性能のばらつきを抑えつつ、吸振体100を効率良く製作することが可能となる。
また、工場から施工現場に吸振体100を運搬する際、吸振体100を一時保管する際等の、吸振体100を製作した後に実際に施工現場に設置するまでの間に、吸振体100を複数積み重ねると、過剰な負荷により、バネ体120のバネとしての特性が変化してしまうことがある。そこで、吸振体100は、バネ特性に影響が生じない程度の荷重となるよう、例えば、積み重ねる数を2つ以下に抑えるのが好ましい。このため、例えば、図3に示すように、所定数以下の吸振体100を積み重ねて収容できる区画205を有した箱状の容器200を用いるのが好ましい。容器200は、底板201と、天板202との間に、横方向に間隔をあけて複数枚の区画壁203が設けられることで、1以上の区画205を有している。本実施形態では、容器200は、横方向に2つの区画205を有しているが、横方向における区画205の数は、2つに限らず、1つ、あるいは3つ以上であってもよい。また、本実施形態では、容器200は、上下方向に1つの区画205を有しているが、上下方向に2つ以上の区画205を有していてもよい。このような容器200は、上下に複数個を積み重ねることも可能である。
【0019】
上記したような吸振体100は、設置する床の条件に合わせて、吸振体100の共振周波数を事前に調整(チューニング)するのが好ましい。例えば、重量床衝撃音の低減を目的として吸振体100を施工する場合には、吸振体100の周波数を、重量床衝撃音で大きな影響を有する、約45Hz~約90Hzの周波数帯域である63Hz帯域に調整するのが好ましい。また、床1の条件によっては、63Hz帯域の下限よりもやや低い周波数で鋭い共振が生じ、それが63Hz帯域に影響を及ぼすこともある。このため、吸振体100の周波数は、条件によっては、約45Hzよりも低い周波数に調整する必要もある。
ここで、吸振体100の周波数調整は、例えば、質量体110の質量を固定とした場合、バネ体120を構成する、シート材121を複数枚重ねた積層体122の積層セット数を調整することで、容易かつ効率的に行える。質量体110と、1セットの積層体122とを一体化させた吸振体100における周波数がf(Hz)であるとすると、積層体122を2セット積み重ねた吸振体100では、半オクターブ低い周波数(fの0.7倍)となる。積層体122を4セット積み重ねた吸振体100は、1オクターブ低い周波数(fの0.5倍)となる。
したがって、例えば積層体122を1つ設けた場合の共振周波数が63Hzとなっている場合において、共振周波数を63Hz×0.7=45Hzに調整しようとすると、積層体122を2セット積み重ねればよい。同様に、共振周波数を63Hz×0.5=31Hzに調整しようとすると、積層体122を4セット積み重ねればよい。
【0020】
吸振体100は、質量体110の質量を調整することでも、吸振体100の共振周波数を調整することは可能である。例えば、質量体110の質量を大きくすれば、吸振体100の共振周波数は低下する。しかし、質量体110の質量を調整するために、袋111に充填する粒状体112の量を調整するには手間が掛かるため、上記したように積層体122の積層セット数を調整する方が、作業が容易に行える。
また、図4に示すように、吸振体100を設置する床1が、建物の躯体を構成する構造床2と、構造床2上に支柱3を介して設置された床材4と、を有する乾式二重床である場合、吸振体100は、いわゆる床下区間である、床材4の下方の構造床2上に設置される。構造床2と床材4との間隔は、住宅の場合、100~200mm程度であることが多い。このため、吸振体100の高さは、床下空間に収まるように設定する必要がある。また、質量体110の質量を過度に減少させると、吸振体100の共振周波数が、重量床衝撃音で重要となる周波数帯域(63Hz帯域)よりも高くなる可能性がある。更には、吸振体100を設置する際の作業者への負荷も考慮する必要がある。これらのことから、質量体110の質量は、例えば3kg~15kg程度とするのが好ましい。本実施形態では、質量体110は、例えば3.75kg程度としている。
また、1セットの積層体122のバネ定数は、積層体122を1以上4以下の数だけセットした場合に、吸振体100の共振周波数が63Hz帯域に含まれるように、調整するのが望ましい。積層体122のセット数が5以上となると、床1の振動を吸収する際に、鉛直方向以外の方向への積層体122の運動量が増えるため、積層体122がバネとして安定的に作用しなくなる。本実施形態において、1セットの積層体122は、バネ定数が、例えば8.5×105N/m程度となるように設定されている。
【0021】
実際には、工場においては、互いに異なる質量を有する質量体110と、互いに異なるバネ定数を有する積層体122とが、それぞれ、複数種類、予め用意されているのが望ましい。このようにすることにより、床1の共振周波数がどのようなものであっても、適切な質量の質量体110と、適切なバネ定数の積層体122を組み合わせ、かつ積層体122のセット数を適宜決定することで、床1の共振周波数に吸振体100の共振周波数を合わせるように調整することができる。
【0022】
床1に設置する複数の吸振体100の総質量は、床1の質量の3~15%であれば、建物の構造的負担を増加させることなく、効果的に、床衝撃音などの固体伝搬音を低減させることができる。特に5dB以上の低減を目的とする場合、床1に設置する複数の吸振体100の総質量は、床1の質量の10%以上とすることが好ましい。吸振体100は、総質量が前記した範囲内となるように、床1に複数設置される。
【0023】
本実施形態においては、板状をなし、断面が均一であり、例えばコンクリートスラブや、CLT(Cross Laminated Timber)等により形成されている床1Aか、板材と、板材を支持する梁または根太と、を備えた、断面が不均一な床1B(図13参照)を対象とする。床1(1A、1B)が振動するに際し、床1のどの部分が振動しやすく、また床1のどの部分が振動しにくいか、その振動のしやすさの分布は、このような床1の態様によって異なる。
ここでは、まず、床1(1A)が、板状をなし、断面が均一である場合について説明する。床1(1B)が、板材と、板材を支持する梁または根太と、を備えた、断面が不均一な場合については、後に説明する。
【0024】
複数の吸振体100は、床1上に均等に配置させるよりも、床1が共振により振動しやすい範囲に設置するのが好ましい。一般に、振動のしやすさの分布は、床1の態様以外に、振動の態様である振動モードによっても異なる。
例えば、図5図8は、複数の振動モードにおける、板状をなし、断面が均一な床1Aに生じる振動の度合いの分布の例を示す図である。これらの図5図8において、白い部分は、振動の度合いが最も大きく、ハッチングの密度が濃くなるほど、振動の度合いが小さい。図5に示すように、平面視長方形状の床1Aが、x方向を長辺方向とし、y方向を短辺方向としている場合において、振動の度合いが大きく振動しやすい範囲が、長辺方向と短辺方向の各々で、いくつあるか、その個数を、次数と呼称する。例えば図5においては、床1Aの中央部に、振動の度合いが最も大きい範囲Aが形成されているため、長辺方向(x方向)に次数が1(1次)、短辺方向(y方向)に次数が1(1次)の振動モードとなっている。
図6においては、床1Aの、長辺方向の2箇所に、振動の度合いが最も大きい範囲Aが形成されているため、長辺方向(x方向)に次数が2(2次)、短辺方向(y方向)に次数が1(1次)の振動モードとなっている。
図7においては、床1Aの、長辺方向の3箇所に、振動の度合いが最も大きい範囲Aが形成されているため、長辺方向(x方向)に次数が3(3次)、短辺方向(y方向)に次数が1(1次)の振動モードとなっている。
図8においては、床1Aの、長辺方向の2箇所、短辺方向に2箇所、計4箇所に、振動の度合いが最も大きい範囲Aが形成されているため、長辺方向(x方向)に次数が2(2次)、短辺方向(y方向)に次数が2(2次)の振動モードとなっている。
本実施形態においては、床1Aにおいて、振動の度合いが最も大きい範囲Aの少なくとも一部を含み、共振の程度が、予め設定した閾値よりも大きくなる範囲を、共振範囲として設定し、吸振体100を設置する。次数は、共振範囲の数に関する値となる。例えば、長辺方向の次数と短辺方向の次数の積は、共振範囲の数となり得る。共振範囲は、振動の度合いが最も大きい範囲Aの全体を含むように設けてもよい。
【0025】
(吸振体の設置位置決定方法、吸振体の設計方法)
以下、本実施形態の、床1Aが、板状をなし、断面が均一である場合における、吸振体の設置位置決定方法、吸振体の設計方法について説明する。図9は、本実施形態に係る吸振体の設置位置決定方法、吸振体の設計方法を実行する演算装置の機能構成を示すブロック図である。本実施形態に係る、吸振体の設置位置決定方法、吸振体の設計方法は、演算装置10により実行される。演算装置10は、CPU、メモリ、記憶装置等を備えたコンピュータ装置である。演算装置10は、予め導入されたプログラムに基づいた処理を実行することで、本実施形態に係る、吸振体の設置位置決定方法、吸振体の設計方法を実現する。
図9に示すように、演算装置10は、床条件特定部11と、共振周波数算出部12と、共振範囲算出部13と、吸振体特性決定部14と、吸振体設置位置決定部15と、を機能的に備えている。
床条件特定部11は、床1Aの条件を特定する。床条件特定部11で特定する床1Aの条件としては、床1Aの共振周波数の算出に用いる床1Aの各部寸法、床1Aを構成する材料の各種パラメータ値、係数等がある。床1Aの条件は、例えば、床1Aの設計情報(CAD情報)等から取得しても良いし、演算装置10のオペレータが外部から入力してもよい。
共振周波数算出部12は、床条件特定部11で特定した床1Aの条件に基づき、床1Aの共振周波数を算出する。共振周波数算出部12は、後に詳述するように、床1Aについて、様々な、複数の振動モードに対応する、次数の複数の値の各々について、共振周波数を算出する。
共振範囲算出部13は、共振周波数算出部12で算出した、次数の複数の値の各々に対応する共振周波数に基づき、対応する共振周波数が床1Aで振動低減のターゲットとする周波数帯域に含まれるような、次数の値を選択し、特定する。共振範囲算出部13は、特定した次数の値に対応する共振周波数と、床1Aの振動モードを表現するモード関数を用い、床1Aの各位置における、共振のしやすさを示す指標値を算出する。共振範囲算出部13は、算出した共振のしやすさを示す指標値が、予め設定した閾値よりも大きくなる床1Aの範囲を、共振範囲として算出する。
吸振体特性決定部14は、共振周波数算出部12で算出した、床1Aの共振周波数に基づいて、吸振体100の特性を決定する。吸振体特性決定部14は、吸振体100の特性として、床1Aの共振周波数に応じた、バネ体120を構成する積層体122のユニット数を決定する。
吸振体設置位置決定部15は、共振範囲算出部13で算出した共振範囲に基づいて吸振体100の設置位置を決定する。
【0026】
図10は、本実施形態に係る吸振体の設置位置決定方法の流れを示すフローチャートである。
図10に示すように、本実施形態に係る吸振体の設置位置決定方法は、床条件特定工程S11と、共振周波数算出工程S12と、共振範囲算出工程S13と、吸振体特性決定工程S14と、吸振体設置位置決定工程S15と、を有する。
吸振体100を設置する床1Aは、例えば鉄筋コンクリートやCLT等により、図4に示すように、均一な断面を有して板状となるように形成されている場合に、床条件特定工程S11では、床条件特定部11が、床1Aの条件として、床1Aのヤング率E、断面二次モーメントi、床1Aの長辺方向の長さa、床1Aの短辺方向の長さb、ポアソン比ν等を取得する。
【0027】
共振周波数算出工程S12では、共振周波数算出部12が、床1Aの共振周波数を算出する。均一な断面を有した板状の床1Aは、その外周部が完全に固定された平面視長方形の板と想定することができる。図5図8を用いて既に説明したように、均一な断面を有する床1Aは、振動の態様すなわち振動モードによって、長辺方向と短辺方向の各々で、次数として、互いに独立した値として有する。このため、共振周波数ffix(m、n)は、長辺方向の次数mと短辺方向の次数nを変数とする関数として、次式(11)によって計算される。
【数5】
ここで、Eはヤング率(N/m)、Iは断面二次モーメント(m)、aは床1Aの長辺方向の長さ(m)、bは、床1Aの短辺方向の長さ(m)、νはポアソン比である。
共振周波数算出工程S12においては、上式(11)により、次数の複数の値の各々に対応して、共振周波数を算出する。具体的には、長辺方向の次数mの値と短辺方向の次数nの値の複数の組み合わせ(m、n)、例えば、(1、1)、(2、1)、(1、2)、(2、2)、(3、1)の、各々について、上式(11)により共振周波数ffix(m、n)を求める。
【0028】
ただし、実際の建物の床1Aは、その外周部が完全に固定されているとは限らないため、上式(11)で算出される床1Aの各共振周波数よりも、やや低くなることがある。このため、実際には、共振周波数算出部12が、次式(12)のように上式(11)で算出される共振周波数ffix(m、n)に対し、予め設定した係数wを乗算した値f(m、n)を、ffix(m、n)として使用するのが好ましい。
【数6】
ここで、床1Aがコンクリート床である場合、係数wは、例えば、0.8と設定する。また、床1Aが、均一な断面を有した板状でありながら、CLT等の、断面がほぼ均一と見なせる木構造の床である場合、コンクリート床よりも床1Aの外周部の拘束度合いが小さいため、上記係数wは、例えば0.5~0.8とするとよい。
【0029】
共振範囲算出工程S13では、共振範囲算出部13が、共振周波数算出部12で算出した、次数の複数の値のそれぞれに対応して算出された共振周波数ffix(m、n)に基づき、床1Aで振動低減のターゲットとする周波数帯域に応じた次数の値を特定する。特に、床1Aが、板状をなし、断面が均一である場合においては、共振範囲算出工程S13では、共振周波数算出工程S12で共振周波数ffix(m、n)を算出した、長辺方向の次数mの値と短辺方向の次数nの値の複数の組み合わせ(m、n)の中から、対応する共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれる組み合わせ(m、n)を選択する。具体的には、吸振体100により振動を低減しようとするターゲットとする床1Aの周波数範囲に、共振周波数算出工程S12で算出した共振周波数ffix(m、n)が含まれるような、次数の値の組み合わせ(m、n)を特定する。
例えば、共振周波数算出工程S12で、共振周波数ffix(m、n)が、
fix(1、1)=15
fix(1、2)=28
fix(2、1)=35
fix(2、2)=60
fix(3、1)=95
と算出された場合、ターゲットとする床1Aの周波数範囲が、45~90Hzであれば、次数の複数の値(m、n)(=(1、1)、(1、2)、(2、1)、(2、2)、(3、1))の中から、共振周波数算出工程S12で算出した共振周波数ffix(m、n)が上記の周波数範囲に含まれるような次数の値である、(2、2)を選択し、特定する。
【0030】
共振範囲算出工程S13では、共振範囲算出部13は、選択した次数の値(上記例では、(m、n)=(2、2))を用い、モード関数を立式する。モード関数は、図11に示されるように、床1Aを平面視して、長辺方向をx軸方向に、及び短辺方向をy軸方向に、それぞれ沿うように設け、左下の角部を原点(0、0)とした2次元座標系として表現し、床1Aの各位置に相当する座標を(x、y)としたときに、これら座標値x、y、及び次数m、nを用いて、次式(13)で表される。
【数7】
係数Cは、例えば、C=4.730、C=7.853、C=10.996の値となる。
【0031】
上記例では、共振周波数算出工程S12で選択された次数の値(m、n)が(2、2)であるので、上式(13)において、変数m、nの各々に、m=2、n=2として値を代入し、G(x、y、2、2)としてモード関数を立式する。そして、共振範囲算出部13は、床1A上の各位置(x、y)においてG(x、y、2、2)を計算し、得られた値をデシベルに換算して、共振のしやすさを示す指標値を計算する。具体的には、G(x、y、2、2)に対して座標(x、y)を代入して得られた値の各々に対し、常用対数の20倍の値、すなわち20×log10(G(x、y、2、2))を計算する。
図11は、G(x、y、2、2)をデシベル換算した値をプロットしたものである。
共振範囲算出工程S13では、共振範囲算出部13が、図11に示されるような、床1Aの、共振のしやすさを示す指標値が、予め設定した閾値よりも大きくなる範囲を、床1Aの振動しやすい範囲である、共振範囲Akとして算出する。例えば、図11の例では、床1Aにおける振動の度合いの指標値が、例えば-60以上10dB以下の値となるように、モード関数により求められた値がデシベル換算されている。この場合、例えば、閾値を、指標値が取り得る値の範囲の最大値である10dBから、15dB以上30dB以下の値だけ小さい値として設定するのが望ましい。より具体的には、閾値を、10から15を減算した値である-5dBとして設定した場合においては、共振範囲Akは、-5dB以上10dB以下の範囲となる。また、閾値を、10から30を減算した値である-20dBとして設定した場合においては、共振範囲Akは、-20dB以上10dB以下の範囲となる。
閾値は、例えば、図11のように指標値をプロットした場合において、閾値よりも指標値が上回る部分の面積が、床1Aの全範囲の面積の、例えば40%~60%程度となるように、設定してもよい。
本実施形態においては、共振範囲Akは、閾値よりも指標値が上回る部分を含む矩形となるように設定しているが、これに限られない。共振範囲Akは、例えば、図11のように指標値をプロットした場合において、閾値よりも指標値が上回る部分に一致するような形状となっていてもよい。
【0032】
吸振体特性決定工程S14では、吸振体特性決定部14が、床1Aの共振周波数に基づいて、吸振体100の特性を決定する。吸振体特性決定部14は、吸振体100により振動を低減しようとするターゲットとする床1Aの共振周波数に基づいて、吸振体100の特性として、床1Aの共振周波数に応じた、バネ体120を構成する積層体122のユニット数を決定する。
例えば、上記の例では、ターゲットとする床1Aの共振周波数が63Hz周辺であり、この場合、積層体122を1セットとしたものを、吸振体100として採用する。
吸振体設置位置決定工程S15では、吸振体設置位置決定部15が、共振範囲算出工程S13で共振範囲算出部13が算出した共振範囲Akに基づいて、吸振体100の設置位置を決定する。すなわち、図12に示すように、図11に対応して床1Aに設定された4つの共振範囲Akの内側に、吸振体特性決定工程S14で特性が決定された複数の吸振体100を設置する。
図12においては、共振範囲Akの内側に、部分的に吸振体100が設けられているが、共振範囲Akの内側の全域に、吸振体100を設けるようにしてもよい。
【0033】
次に、床1(1B)が、板材と、板材を支持する梁または根太と、を備えた、断面が不均一な場合について説明する。
例えば、図13に示すように、在来の軸組工法やツーバイフォー工法による木構造の床1Bの場合、床1Bは、板材5と、板材5を支持する梁または根太6と、を備えている。この場合、床1Bは梁または根太6の影響を大きく受ける。
このような場合には、梁または根太6の延びる方向である軸線方向に水平面内で直交する幅方向W、すなわち梁または根太6が間隔をあけて並ぶ方向においては、床1Bには梁または根太6が適切な間隔をあけて設けられているため、どの位置においても、振動のしやすさは、概ね変わらない。したがって、特にこのような場合においては、床1Bは、梁または根太6の軸線方向における曲げ振動の共振周波数で、振動する。
板材5が薄く剛性が小さい場合には、梁または根太6の曲げ振動に対する板材5の影響は小さい。しかし、例えば集合住宅等においては、重量床衝撃音を遮断する性能と、耐火性能とを向上させるために、板材5は積層されて厚いものとなりがちであり、梁または根太6の曲げ振動に対する板材5の影響は、無視できないこととなる場合が多い。このため、床1Bを、梁または根太6と板材5を合わせた、曲げ剛性を有するものとして考慮する必要がある。
したがって、床1Bが、板材と、板材を支持する梁または根太と、を備えた、断面が不均一な場合においては、梁または根太6の軸線方向から見た際に、梁または根太6を中心として両側に延びる板材5によって構成される範囲Dを、T形断面の梁として考える。
【0034】
このように床1BがT形断面を有する場合においては、図10に示した床条件特定工程S11では、床条件特定部11が、床1Bの条件として、梁または根太6の長さl、梁または根太6が延びる軸線方向におけるヤング率E、軸線方向における断面二次モーメントI、軸線方向に直交する方向で床1Bを断面視したときの、一つの梁または根太6と、梁または根太6に対応して梁または根太6に支持される板材5の総断面積S、床1Bの密度ρ、等を取得する。
【0035】
次に、共振周波数算出工程S12では、共振周波数算出部12が、床1Bの共振周波数を算出する式を立式する。
上記のように、床1Bは、幅方向Wではなく、軸線方向の曲げ振動の共振により振動するため、振動モードは、幅方向Wにおいては変化せず、軸線方向のみにおいて変化すると考えられる。このため、振動の度合いが大きく振動しやすい範囲が、軸線方向でいくつあるか、その個数を、次数とする。例えば、図14は、軸線方向に、振動しやすい範囲となる共振範囲Akが2つある、次数が2の場合の、振動モードを示す図である。
したがって、共振周波数ffix(n)は、軸線方向の次数nを変数とする関数として、次式(14)によって計算される。
【数8】
ここで、Eは軸線方向におけるヤング率(N/m)、Iは軸線方向における断面二次モーメント(m)、lは梁または根太6の長さ(m)、Sは一つの梁または根太6と、梁または根太6に対応して梁または根太6に支持される板材5の総断面積(m)、ρは床1Bの密度(kg/m)である。また、αは、次数nと、長さlの双方に応じて異なる値を有する係数であり、n=1の場合、αl=4.73、n=2の場合、αl=7.853、n=3の場合、αl=10.996とする。
【0036】
共振周波数算出工程S12においては、上式(14)により、次数の複数の値の各々に対応して、共振周波数を算出する。具体的には、軸線方向の次数nの複数の値、例えば、1、2、3の、各々について、上式(14)により共振周波数ffix(n)を求める。
【0037】
共振範囲算出工程S13では、共振範囲算出部13が、共振周波数算出部12で算出した、次数の複数の値のそれぞれに対応して算出された共振周波数ffix(n)に基づき、床1Bで振動低減のターゲットとする周波数帯域に応じた次数の値を特定する。特に、床1BがT形断面を有する場合においては、共振範囲算出工程S13では、共振周波数算出工程S12で共振周波数ffix(n)を算出した、軸線方向の次数nの複数の値の中から、対応する共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれる値を選択する。具体的には、吸振体100により振動を低減しようとするターゲットとする床1Bの周波数範囲に、共振周波数算出工程S12で算出した共振周波数ffix(n)が含まれるような、次数の値nを特定する。
例えば、共振周波数算出工程S12で、共振周波数ffix(n)が、
fix(1)=15
fix(2)=60
fix(3)=95
と算出された場合、ターゲットとする床1Bの周波数範囲が、45~90Hzであれば、次数の複数の値n(=1、2、3)の中から、共振周波数算出工程S12で算出した共振周波数ffix(n)が上記の周波数範囲に含まれるような次数の値である、2を選択し、特定する。
【0038】
共振範囲算出工程S13では、共振範囲算出部13は、選択した次数の値(上記例では2)の振動モードを用い、モード関数を立式する。モード関数は、図14に示されるように、床1Bを平面視して、軸線方向をx軸方向に沿うように設け、左端を原点(0、0)とした1次元座標系として表現し、床1Bの軸線方向上での各位置に相当する座標をxとしたときに、この座標値x、及び次数nを用いて、次式(15)で表される。
【数9】
【0039】
上記例では、共振周波数算出工程S12で選択された次数の値nが2であるので、上式(15)において、変数nに、n=2として値を代入し、G(x、2)としてモード関数を立式する。そして、本実施形態においては、床1B上の各位置xにおいてG(x、2)を計算し、得られた値をデシベルに換算して、共振のしやすさを示す指標値を計算する。具体的には、G(x、2)に対して座標xを代入して得られた値の各々に対し、常用対数の20倍の値、すなわち20×log10(G(x、2))を計算する。
既に説明した図14は、G(x、2)をデシベル換算した値をプロットしたものである。
共振範囲算出工程S13では、共振範囲算出部13が、床1Bの、共振のしやすさを示す指標値が、予め設定した閾値よりも大きくなる範囲を、共振範囲Akとして算出する。閾値は、上記実施形態と同様に決定されてよい。
この場合においても、次数は、共振範囲の数に関する値となる。例えば、軸線方向の次数は、共振範囲の数となり得る。
【0040】
吸振体特性決定工程S14では、吸振体特性決定部14が、床1Bの共振周波数に基づいて、吸振体100の特性を決定する。吸振体特性決定部14は、吸振体100により振動を低減しようとするターゲットとする床1Bの共振周波数に基づいて、吸振体100の特性として、床1Bの共振周波数に応じた、バネ体120を構成する積層体122のユニット数を決定する。
吸振体設置位置決定工程S15では、吸振体設置位置決定部15が、共振範囲算出工程S13で共振範囲算出部13が算出した共振範囲Akに基づいて、吸振体100の設置位置を決定する。すなわち、図14に示すように、床1Bに設定された2つの共振範囲Akに、吸振体特性決定工程S14で特性が決定された複数の吸振体100を設置する。
【0041】
上述したような吸振体100の設置位置決定方法は、重量床衝撃音を低減するために、質量体110と、質量体110の下に設けられるバネ体120を備える吸振体100を、床1の上に複数設置するに際し、吸振体100の各々の設置位置を決定する、吸振体100の設置位置決定方法であって、床1の条件を特定する床条件特定工程S11と、床1の条件に基づき、床1の共振周波数を算出する共振周波数算出工程S12と、共振周波数と、床1の振動モードを表現するモード関数を用いて、床1の、共振のしやすさを示す指標値が閾値よりも大きくなる範囲である共振範囲Akを算出する共振範囲算出工程S13と、共振周波数に基づいて吸振体100の特性を決定する吸振体特性決定工程S14と、共振範囲Akに基づいて吸振体100の設置位置を決定する吸振体設置位置決定工程S15と、を有する。
このような構成によれば、共振周波数算出工程S12では、床条件特定工程S11で特定された床1の条件に基づいて、床1の共振周波数を算出する。また、共振範囲算出工程S13では、床1の共振周波数と、床1の振動モードを表現するモード関数を用いて、床1の共振のしやすさを示す指標値が閾値よりも大きくなる範囲である共振範囲Akを算出する。吸振体特性決定工程S14では、算出された共振周波数に基づいて、吸振体100の特性を決定する。更に、吸振体設置位置決定工程S15では、決定した特性を有する吸振体100の設置位置を、共振範囲Akに基づいて決定する。このようにして、共振の程度が閾値よりも大きくなる共振範囲Akに基づいて決定された設置位置に、床1の共振周波数に応じた特性を有する吸振体100を設置する。これにより、吸振体100を効率的に配置して、効果的に、重量床衝撃音を低減することができる。
【0042】
また、モード関数の変数は、共振範囲Akの数に関する値である次数を含み、共振周波数算出工程S12においては、次数の複数の値の各々に対応して、共振周波数を算出し、共振範囲算出工程S13においては、複数の値の中から、対応する共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれる値を選択し、モード関数の変数である次数に当該値を代入し、これを閾値と比較して、共振範囲Akを算出する。
床1は、様々な態様で振動する。例えば、床1Bが、梁または根太6と、当該梁または根太6の上に設けられた板材5とを備えているような場合においては、共振のしやすさを示す指標値が閾値よりも大きくなる範囲である共振範囲Ak、すなわち振動しやすい部分が、梁または根太6が延びる軸線方向にいくつ出現するか、その数は、例えば加振点等の、振動が生じた際の条件に応じて、変化する。同様に、床1Aが、板状をなし、断面が均一である場合においても、床1Aの長辺方向と短辺方向の各々で、共振範囲Akの数は、振動が生じた際の条件に応じて、変化する。このように、共振範囲Akの個数に関する値である次数は、複数の値をとり得る。したがって、床の振動モードを表現するモード関数は、変数として、次数を含む。
このように、次数は複数の値をとり得るため、上記のような構成においては、共振周波数算出工程S12で、次数の複数の値の各々に対応して、共振周波数を算出する。そして、共振範囲算出工程S13で、次数の複数の値の中から、対応する共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれる値を選択する。ここで、モード関数において、変数である次数に、上記のようにして選択された値を代入したものは、共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれるような場合の振動の振動モードを表すものとなっていると考えられる。共振範囲算出工程S13では、このように表されたモード関数を用いて、共振範囲Akを算出する。このようにして、低減対象となる周波数の範囲に含まれる共振周波数で床1が振動する場合の共振範囲Akが、適切に算出され、当該共振範囲Akに基づいて吸振体100の設置位置を決定するため、吸振体100を、より適切な設置位置に設置し、重量床衝撃音を、より効果的に低減することができる。
【0043】
また、床1Aが、板状をなし、断面が均一である場合に、共振周波数算出工程S12では、上記の共振周波数式(11)により、長辺方向の次数mの値と短辺方向の次数nの値の複数の組み合わせの各々に対応する共振周波数ffix(m、n)を算出する。
このような構成によれば、床1Aが、板状をなし、断面が均一である場合において、共振周波数算出工程S12で、床1Aの条件に基づいた、床1Aの共振周波数を、適切に、算出することができる。このため、吸振体の特性と、共振範囲Akを、より適切に決定、算出し、かつ、吸振体100の設置位置を、適切に、決定することが可能となる。したがって、より効果的に、重量床衝撃音を低減することができる。
【0044】
また、床1Aが、板状をなし、断面が均一である場合に、共振範囲算出工程S13では、長辺方向の次数mの値と短辺方向の次数nの値の複数の組み合わせ(m、n)の中から、対応する共振周波数が低減対象となる周波数の範囲に含まれる組み合わせ(m、n)を選択し、選択された組み合わせを基に、モード関数として、上記の式(13)を用いて、平面視したときの床1Aの角部を原点とした各位置(x、y)の共振のしやすさを示す指標値を算出し、指標値が閾値よりも大きな範囲を、共振範囲Akとして決定する。
このような構成によれば、床1Aが、板状をなし、断面が均一である場合において、共振範囲Akを適切に決定することができる。
【0045】
また、床1Bが、梁または根太6と、梁または根太6の上に設けられた板材5とを備えている場合に、共振周波数算出工程S12では、上記の共振周波数式(14)により、次数nの複数の値の各々に対応する共振周波数ffix(n)を算出する。
このような構成によれば、床1Bが、梁または根太6と、梁または根太6の上に設けられた板材5とを備えている場合において、共振周波数算出工程S12で、床1Bの条件に基づいた、床1Bの共振周波数を、適切に、算出することができる。このため、吸振体の特性と、共振範囲Akを、より適切に決定、算出し、かつ、吸振体100の設置位置を決定することが可能となる。したがって、より効果的に、重量床衝撃音を低減することができる。
【0046】
また、床1Bが、梁または根太6と、梁または根太6の上に設けられた板材5とを備えている場合に、共振範囲算出工程S13では、次数nの選択された値を基に、モード関数として、上記の式(15)を用いて、平面視したときの梁または根太6の端部を原点とした各位置xの共振のしやすさを示す指標値を算出し、指標値が閾値よりも大きな範囲を、共振範囲Akとして決定する。
このような構成によれば、床1Bが、梁または根太6と、梁または根太6の上に設けられた板材5とを備えている場合において、共振範囲Akを適切に決定することができる。
【0047】
また、上述したような吸振体100は、質量体110と、質量体110の下に設けられるバネ体120と、質量体110、及びバネ体120を一体に包む外側シート材130と、を備え、質量体110は、袋111に包まれた粒状体112であり、バネ体120は、複数のシート材121を上下に積層して連結してユニット化した積層体122を、1以上備えたものである。
このような構成によれば、質量体110が、バネ体120によって下方から支持されることで、吸振体100は、外部から入力される振動を減衰する、動吸振器として機能する。このような吸振体100を、床1等の、例えば共振の程度が閾値よりも大きくなる共振範囲Akに基づいて決定された設置位置に設置することで、効果的に重量床衝撃音を低減することができる。
また、質量体110及びバネ体120が、外側シート材130によって一体に包まれているので、施工の際には、質量体110及びバネ体120を別々に運ぶ必要が無く、吸振体100の取り扱いを容易に行うことができる。
更に、積層体122はユニット化されているため、取り扱いが容易であり、積層体122の数を変更、調整して吸振体のバネ定数を変更する際の作業が容易である。
【0048】
本発明の吸振体100の設計方法は、上記したような吸振体100の設計方法であって、吸振体100が設置される床1の共振周波数を特定する工程(共振周波数算出工程S12)と、床1の共振周波数に基づいて、床1上に設置する積層体122の数を決定する工程(吸振体特性決定工程S14)と、を備える。
このような構成によれば、吸振体100が設置される床1の共振周波数に基づいて、床1上に設置する積層体122の数を決定することで、床1の条件に応じた吸振体100を設計することができる。このような吸振体100を床1に設置することで、効果的に、重量床衝撃音を低減することができる。
【0049】
(実施形態の変形例)
本発明の吸振体の設置位置決定方法、吸振体、及び吸振体の設計方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態の共振範囲算出工程S13において、次数の複数の値の中で、対応する共振周波数が、低減対象となる周波数の範囲に含まれるような値が、複数ある場合には、これら複数の値の各々に基づいて、共振範囲Akを設定してもよい。
例えば、図15に示すように、床1Aが、板状をなし、断面が均一である場合に、長辺方向における次数mが2であり短辺方向における次数nが1である、組み合わせが(2、1)の場合の振動モードと、長辺方向における次数mが1であり短辺方向における次数nが2である、組み合わせが(1、2)の場合の振動モードの2種類において、対応する共振周波数ffix(2、1)、共振周波数ffix(1、2)が、低減対象となる周波数の範囲に含まれる場合には、組み合わせが(2、1)の場合の共振範囲Ak1と、組み合わせが(1、2)の場合の共振範囲Ak2との、少なくとも一方が含まれる範囲(図15において着色されている範囲)を対象として、吸振体100を設置するようにしてもよい。床が、梁または根太6と、梁または根太6の上に設けられた板材5とを備えている場合においても、同様に考えることが可能である。
このようにすれば、床1が、複数の種類のいずれの振動モードで振動した場合においても、重量床衝撃音を、効果的に低減することができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0050】
(実施例)
上記実施形態で示した吸振体100の設置位置決定方法によって決定される、吸振体100設置位置について、検証を行った。検証方法として、有限要素解析を用いた。
床1の例として、鉄筋コンクリート造のスラブを用いた。実施例として、図16Bに示すように、床1Aの共振範囲付近に、複数の吸振体100を配置した。比較例として、図16Aに示すように、スラブの全体に均等に吸振体100を設置した。
スラブの寸法は平面が6m×6m、厚さが200mmとした。この寸法では重量床衝撃音で重要となる63Hz帯域においては、56Hzに2次の共振が生じる。実施例、比較例のそれぞれにおいて、吸振体100は、スラブの質量のおおよそ10%となるように、1体あたり3.75kgの質量体110を備えたものを、484個設置した。
実施例、比較例のそれぞれについて、有限要素解析により、吸振体100を設けない場合との振動の差を計算することで、振動の低減量(吸振体100を設置したことによる振動の低減効果)を算出した。
その結果、図17に示すように、低減を狙った63Hz帯域において、比較例では、振動の低減量が8.1dBであったのに対し、実施例では、振動の低減量が11.6dBであり、実施例のほうが、3.5dBも低減効果が大きかった。
ちなみに、床1Aを厚くすることで重量床衝撃音の低減を行う対策が一般的に行われるが、これらの効果をスラブ厚に単純換算すると、8.1dBは200mmのスラブを320mmにするのと同等の効果、11.6dBは390mmにするのと同等の効果であるので、両者の効果の差は70mmものスラブ厚の差に相当する。
【0051】
また、板材5と、梁または根太6とを備える床1Bにおいても、有限要素解析による検証を行った。
実際の木構造の床1を想定し、図18に示すような寸法の床1を対象とした。根太6は38mm×235mm、板材5は、木製板9mm、石膏ボード42mm、木製板24mmの複合板である。計算では木材のヤング率6E+09N/m、密度600kg/m、石膏ボードのヤング率1.8E+09N/m、密度750kg/mを用いた。
図18における加振点P1、加振点P2をそれぞれ加振し、線LA上、線LB上の振動速度レベルを求めた。加振点P1および線LAは根太6上、加振点P2および線LBは根太6と根太6の間に位置している。
このような床1Bでは、周波数65Hzにおいて共振が生じる。図19Aは、根太6上の加振点P1を加振した場合の、65Hzの共振周波数における、線LA、LBの位置での振動分布を示す図である。図19Bは、根太6間の加振点P2を加振した場合の、共振周波数における、線LA、LBの位置での振動分布を示す図である。図19に示すように、加振点が根太6上、根太6間に関わらず、根太6の曲げの2次の振動モードを基本として振動している。
また、図20Aは、根太上の加振点を加振した場合の、共振周波数である65Hzとは異なる、50Hzの周波数における振動分布を示す図である。図20Bは、根太間の加振点を加振した場合の、同じく50Hzの周波数における振動分布を示す図である。図20A図20Bからは、50Hzの周波数でも、根太6の曲げの2次に近い振動モードを基本として振動する様子が観察される。特に根太6上ではない個所(加振点P2)を加振した場合も根太6の方が大きく振動しており、根太6の曲げの2次に近い振動モードを基本として振動していることから、このような床構造では63Hz帯域付近に着目するならば、根太6の曲げ振動が支配的であることがわかる。
このため、木構造の床1Bに吸振体100を設置する場合は、前述のように板材5と、梁または根太6とによるT形断面の梁における曲げ振動を考え、その振動モードの共振範囲に相当する個所に吸振体100を設置すれば、効率よく振動が抑制でき、重量床衝撃音が低減される。
【符号の説明】
【0052】
1、1A、1B 床 122 積層体
5 板材 130 外側シート材
6 梁または根太 Ak、Ak1、Ak2 共振範囲
100 吸振体 S11 床条件特定工程
110 質量体 S12 共振周波数算出工程
111 袋 S13 共振範囲算出工程
112 粒状体 S14 吸振体特性決定工程
120 バネ体 S15 吸振体設置位置決定工程
121 シート材
図1
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図19A
図19B
図20A
図20B