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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161200
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】速度検出器摩耗検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/46 20060101AFI20231030BHJP
   G01P 3/42 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
G01P3/46 E
G01P3/42 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071407
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】松屋 千春
(72)【発明者】
【氏名】藤村 祐司
(57)【要約】
【課題】接触タイプの速度検出器に関して、定期的なメンテナンス作業に依ることなく、駆動プレート等の摩耗状態を検知可能なシステムを提供する。
【解決手段】車軸Aの一端側に設けられた速度検出器(速度発電機)Gに適用される摩耗検知システムXであり、駆動ピンPの挿入を許容する溝L2を有し、当該溝L2に挿入されている駆動ピンPの回転移動に伴って回転することによって車軸Aの回転を速度検出器本体(速度発電機本体)Bに伝達する駆動プレートLの摩耗の有無を検知すべく、速度発電機本体Bの出力信号に基づく出力値を検出する出力値検出部1と、出力値検出部1で検出した出力値を予め設定した閾値と比較することによって摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLが摩耗しているか否かを推定する摩耗推定部2とを備え、摩耗推定部2による推定結果に基づいて摩耗判定対象パーツJの摩耗状態を検知するように構成にした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸の一端側に設けられ、当該車軸と共に一体回転可能な駆動ピン、当該駆動ピンに従動して回転する駆動プレート及び当該駆動プレートに連結した速度検出器本体を備えた接触式速度検出器の摩耗検知システムであり、
前記駆動プレートは、前記駆動ピンの挿入を許容する溝を有し、当該溝に挿入されている前記駆動ピンの回転移動に伴って回転することによって前記車軸の回転を前記速度検出器本体に伝達するものであり、
前記速度検出器本体の出力信号に基づく出力値を検出する出力値検出部と、
前記出力値検出部で検出した前記出力値を予め設定した閾値と比較することによって、少なくとも前記駆動ピンが接触するパーツであって且つ摩耗状態の判定対象となる摩耗判定対象パーツが摩耗しているか否かを推定する摩耗推定部とを備え、
前記摩耗推定部による推定結果に基づいて前記摩耗判定対象パーツの摩耗状態を検知することを特徴とする速度検出器摩耗検知システム。
【請求項2】
前記駆動ピンと前記駆動プレートの前記溝の間に介在する樹脂ブッシュを備え、
前記摩耗判定対象パーツが前記樹脂ブッシュである請求項1に記載の速度検出器摩耗検知システム。
【請求項3】
前記出力値検出部で検出した前記出力値を予め設定した第2閾値と比較することによって、前記樹脂ブッシュが前記駆動ピンと前記駆動プレートの前記溝の間に介在しているか否かを推定する装着推定部を備えている請求項2に記載の速度検出器摩耗検知システム。
【請求項4】
前記出力値検出部で検出した前記出力値に基づいて前記摩耗判定対象パーツの摩耗量を推定する摩耗量推定部を備えている請求項1乃至3の何れかに記載の速度検出器摩耗検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度を検出するために用いられる速度発電機または接触タイプの速度センサ(これらを総称して速度検出器)の部品の状態を検知するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道の分野では、速度を検出するために速度発電機が用いられている。速度発電機は、接触型タイプと非接触型タイプに大別することができ、接触型タイプの速度発電機としては、駆動円板(以下、駆動プレート)と駆動ピンを備え、これらを接触させることで速度を検出する態様が採用されている。
【0003】
接触型タイプの速度発電機は、列車の車軸の一端側に連結されるものであり、速度発電機の本体部と、車軸との間に駆動プレート及び駆動ピンが配置されている。具体的には、車軸の一端側において車軸の軸中心から偏心した位置に駆動ピンが車軸と一体回転可能に設けられ、駆動ピンが嵌挿可能な溝を駆動プレートに形成し、駆動プレートが連結軸によって速度発電機の本体部に連結されている。そして、駆動プレートの溝に駆動ピンを嵌挿した状態で車軸が回転すると、駆動ピンも一体に回転し、その結果、駆動プレートも駆動ピンに従動して回転することになり、車軸の回転が速度発電機の本体部(速度発電機側)に伝達される(例えば下記特許文献1)。
【0004】
このように、駆動ピンが駆動プレートに接触した状態が維持されることで、車軸の回転を、駆動ピン及び駆動プレートを介して速度発電機の本体部側に伝達することができ、速度発電機の本体部が回転して発電することによって、上位装置に列車の速度に応じた出力信号を提供することができる。また、速度発電機の本体部に代えて、発電機能を備えていない速度センサの本体部を適用し、駆動ピンが駆動プレートに接触した状態が維持されることで、車軸の回転を、駆動ピン及び駆動プレートを介して速度センサの本体部側に伝達する構成も知られており、このような構成であっても上位装置に列車の速度に応じた出力信号を提供することができる。以下では、このような速度発電機及び速度センサを総称して速度検出器という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4543508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、鉄道事業のメンテナンスにおいて、定期的に駆動プレート及び駆動ピンの摩耗量の確認作業を実施し、摩耗量が許容範囲を超えている場合には駆動プレート及び駆動ピンの交換を実施している。駆動プレート及び駆動ピンの摩耗は、列車の運行速度や運行距離等に応じて発生するものであり、これまではメンテナンス作業のタイミングでしか摩耗状態を確認することがなく、例えば、列車の運行中に摩耗量が許容範囲を超えても、次のメンテナンス作業時までは交換されることなくそのまま継続して使用されていたのが実状である。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、接触タイプの速度検出器に関して、定期的なメンテナンス作業に依ることなく、駆動プレート及び駆動ピンの摩耗状態を検知可能なシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る摩耗検知システムは、車軸の一端側に設けられた速度発電機に適用可能なものである。速度発電機は、車軸の一端側に設けられて車軸と共に一体回転可能な駆動ピンと、駆動ピンに従動して回転する駆動プレートと、駆動プレートに連結した速度検出器本体とを備えたものである。駆動プレートは、駆動ピンの挿入を許容する溝を有し、溝に挿入されている駆動ピンの回転移動に伴って回転することによって車軸の回転を速度検出器本体に伝達するものである。そして、本発明に係る摩耗検知システムは、速度検出器本体の出力信号に基づく出力値を検出する出力値検出部と、出力値検出部で検出した出力値と予め設定した閾値とを比較することによって少なくとも駆動ピンが接触するパーツであって且つ摩耗状態の判定対象となる摩耗判定対象パーツが摩耗しているか否かを推定する摩耗推定部とを備え、摩耗推定部による推定結果に基づいて摩耗判定対象パーツの摩耗状態を検知することを特徴としている。
【0009】
本発明における「出力値検出部が検出する出力値」としては、速度検出器本体が速度発電機本体であれば、速度発電機本体の出力信号そのものである電圧値、または速度発電機本体の出力信号をパルス状の信号に成形した信号の周波数を挙げることができ、速度検出器本体が速度センサ本体であれば、速度センサ本体の出力信号(センサ出力)であるパルス状の信号の周波数を挙げることができる。
【0010】
このような本発明に係る摩耗検知システムであれば、接触タイプの速度検出器において定期的なメンテナンス作業に依ることなく、摩耗判定対象パーツの摩耗状態や損壊の有無を車両の走行時に検知することができる。そして、駆動ピンが接触するパーツである駆動プレートを摩耗判定対象パーツとしてその摩耗状態について、交換を要する程度の摩耗が生じているとの推定結果が出力された場合には、駆動プレートの交換作業と一緒のタイミングで駆動プレートの周辺のパーツ、具体的には駆動ピン等のメンテナンスを行うことができ、必要であれば駆動ピンも交換することで、速度検出器の性能を所望の基準レベルに維持することができる。
【0011】
最近では金属製の駆動プレートと金属製の駆動ピンとの接触を避けるべく、駆動プレートと駆動ピンとの接触部分に樹脂ブッシュを介在させることで摩耗対策を講じた速度発電機も開発されている。しかし、近年のモーダルシフト等の流れにより鉄道事業で扱う貨物や荷物が増加傾向にあり、車両の運行頻度の増加が予想され、それに伴い、樹脂ブッシュの摩耗が大きくなると、樹脂ブッシュの摩耗量の確認作業や樹脂ブッシュの交換作業が増え、車両のメンテナンスについて見直しが迫られることが予想される。
【0012】
そこで、本発明では、樹脂ブッシュを摩耗判定パーツとして設定し、樹脂ブッシュの摩耗状態を摩耗推定部による推定結果に基づいて検知するように構成することができる。こにより、樹脂ブッシュの摩耗状態を車両の走行時に検知することができ、樹脂ブッシュの摩耗量の確認作業や樹脂ブッシュの交換作業が増える事態を回避することができ、樹脂ブッシュの交換作業を計画的に行うことができるようになる。
【0013】
また、車両の点検時等において樹脂ブッシュを再度取り付ける際に、樹脂ブッシュが重力の影響で滑り落ちて脱落することが想定される。樹脂ブッシュが脱落した状況でも走行が可能なため、走行時に駆動ピンが駆動プレートに直接接触して駆動プレートの摩耗を招来する。また、樹脂ブッシュが軸箱内部に脱落した場合は、樹脂ブッシュが軸箱内部でかき回されることになる。
【0014】
このような事態を考慮し、本発明に係る摩耗検知システムにおいて、出力値検出部で検出した出力値と、予め設定した第2閾値とを比較することによって、樹脂ブッシュが駆動ピンと駆動プレートの溝の間に介在しているか否かを推定する装着推定部を備えた構成を採用すれば、樹脂ブッシュの摩耗状態を検知するのみならず、樹脂ブッシュの装着状態を推定することができ、推定結果に基づき樹脂ブッシュが脱落していることを検知できれば事業者には有益な情報となる。
【0015】
さらにまた、発明に係る摩耗検知システムが、出力値検出部で検出した出力値に基づいて前記摩耗判定対象パーツの摩耗量を推定する摩耗量推定部を備えている
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、接触タイプの速度発電機や速度センサといった速度検出器において定期的なメンテナンス作業に依ることなく、摩耗判定対象パーツの摩耗状態を車両の走行時に検知することができ、メンテナンスをより計画的に実施可能な速度検出器摩耗検知システム(速度発電機摩耗検知システム、速度センサ摩耗検知システム)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムを適用した列車の制御ブロック図。
図2】同実施形態における速度発電機の全体構成図。
図3図2のa-a線断面模式図及びその要部拡大図。
図4】摩耗判定対象パーツの摩耗有無及び未装着によって速度発電機の出力波形が異なることを示す模式図。
図5】同実施形態において駆動プレートの摩耗領域で移動する駆動ピンの状態を示す図。
図6】同実施形態における摩耗検知処理手順を示すフローチャート。
図7】本発明の第2実施形態において駆動ピンに装着した樹脂ブッシュを示す図。
図8】同実施形態に駆動プレートの溝に装着した樹脂ブッシュを示す図。
図9】同実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムを適用した列車の制御ブロック図。
図10】同実施形態において樹脂ブッシュの摩耗領域で移動する駆動ピンの状態及び樹脂ブッシュ未装着領域で移動する駆動ピンの状態を示す図。
図11】同実施形態における摩耗検知処理手順を示すフローチャート。
図12】本発明の第3実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムを適用した列車の制御ブロック図。
図13】同実施形態における摩耗検知処理手順を示すフローチャート。
図14】本発明の第5実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムを適用した列車の制御ブロック図。
図15】同実施形態における摩耗検知処理手順を示すフローチャート。
図16】本発明の第6実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムを適用した列車の制御ブロック図。
図17】同実施形態における摩耗検知処理手順を示すフローチャート。
図18】本発明の第7実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムを適用した列車の制御ブロック図。
図19】同実施形態における摩耗検知処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
〈第1実施形態〉
本実施形態に係る速度検出器摩耗検知システムXは、図1に示すように、例えば鉄道車両Tに設けられる速度発電機Gの構成部品の摩耗状態を検出する用途で利用可能なものである。なお、第1実施形態乃至第7実施形態に係る摩耗検知システムXでは、速度検出器として速度発電機Gを適用し、速度発電機本体Bが本発明の速度検出器本体に相当するものである。よって、以下では、速度検出器摩耗検知システムXを速度発電機摩耗検知システムXと称す。
【0019】
速度発電機Gは、図2に示すように、列車T(図1)の速度等を検出するために列車Tの車軸Aの一端側に連結されたものであり、車軸Aに一体回転可能に設けられた駆動ピンPと、駆動ピンPに従動して回転する駆動プレートLと、駆動プレートLに連結した速度発電機本体Bを備えている。
【0020】
駆動ピンPは、車軸Aの軸中心A1から偏心した位置に設けられ、図2(b)に示すように、基端部に車軸Aに取り付けるための取付部P1を備え、取付部P1から先端までの所定領域を円柱状のピン本体P2に設定したものである。
【0021】
駆動プレートLは、所定の厚みを有する板状をなし、中心部に設けた連結部L1によって速度発電機本体Bと連結されている。駆動プレートLは、図3に示すように、中心部(連結部L1)近傍から外周側に向けて開口された溝L2を有し、溝L2に駆動ピンPを挿入した状態で車軸Aと同軸状に設けられる。なお、図3(a)は図2のa-a断面模式図である。溝L2の開口幅は、駆動ピンPの径(ピン本体P2の直径)より僅かに大きいサイズに設定され、この溝L2に駆動ピンPが嵌挿されている。これにより、車軸Aの回転に伴って車軸Aと一体回転する駆動ピンPによって駆動プレートLが回転するようになっている。このように、駆動プレートLは、車軸Aと同軸状に設けられて車軸Aと同じ速度で回転する。
【0022】
速度発電機本体Bは、図2に示すように、連結部L1を介して駆動プレートLと一体回転し、駆動プレートLの回転速度を検出することにより列車Tの速度を検出するものである。速度発電機本体Bは、車軸Aと同軸状に配置された円筒状の筐体部B1を有しており、筐体部B1内部に発電機構等が配置されている。筐体部B1内部の発電機構は、既知のものであり、例えば、列車Tの車軸Aと同軸状で回転自在に設けられて駆動プレートLと一体に回転する誘導子と、誘導子の外周側に所定のギャップを隔てて設けた発電部とを備え、誘導子が回転した場合には、誘導子と発電部との間に発生する磁界により発電部に起電力が生じる(発電する)ように構成されたものである。誘導子の回転速度に応じた値となる起電力の量を検出することにより、誘導子の回転速度、つまり車軸Aの回転速度を検出することができる。発生した起電力は、適宜の電線等を介してブレーキ制御部C(BCU;Brake Control Unit)に供給されるようになっている。
【0023】
図1に本実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムXを適用した列車Tの制御構成を模式的に示すように、列車Tは、車輪の車軸Aに実装した速度発電機Gと、速度発電機Gの出力信号(車軸Aの回転に応じた信号であり、以下「速度発電機出力信号」と称す場合がある)を取り込むとともに、速度発電機Gに対してブレーキ信号を送るブレーキ制御部Cと、ブレーキ制御部Cの上位コントローラである車上制御部Y(列車制御部)とを備えている。
【0024】
ブレーキ制御部Cは、速度発電機Gの出力信号をパルス状の信号に成形する波形成形部C1と、波形成形部C1で成形したパルス状の信号に基づいて列車Tの走行速度を算出する速度検出部C2とを備えている。速度検出部C2で算出した速度信号(列車Tの走行速度)は車上制御部Yに送られる。なお、鉄道車両においては、車両または台車ごとに速度発電機G及びブレーキ制御部Cが設けられる。また、波形成形部C1や速度検出部C2は、ブレーキ制御部Cに直接組み込まれていてもよいし、ブレーキ制御部Cとは別構成としてもよく、速度発電機Gに内蔵してもよい。
【0025】
車上制御部Yは、速度検出部C2から送られてきた速度信号に基づいてブレーキ指令をブレーキ制御部Cに送る。これらの指令に基づいてブレーキ制御部Cがブレーキ信号を速度発電機Gに送ることで、車軸Aの走行速度を制御することができる。
【0026】
このような制御下にある速度発電機Gは、駆動プレートLの溝L2に駆動ピンPを挿入して嵌めた状態で連結していることにより、車軸Aの回転を速度発電機本体Bに伝達することになる。つまり、車軸Aの回転に応じた速度発電機Gの出力信号が鉄道車両の走行速度に係る情報として利用されている。
【0027】
そして、列車Tの車軸Aが高速で回転すると、駆動プレートLの溝L2と駆動ピンPとの接触部分に加わる力も大きくなり、接触による摩耗が生じると新たな部品に交換することが求められる。
【0028】
これまでは、摩耗の有無や摩耗量(摩耗の程度)を定期的なメンテナンス作業時にのみ確認して、必要であれば新たなパーツに交換するという作業手順になっていた。このような作業手順であれば、メンテナンス前に交換が必要な摩耗状態に至っていたとしてもメンテナンス作業のタイミングまではそのまま使用され続ける事態になっていた。
【0029】
そこで、本実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムXは、図1に示すように、速度発電機本体Bの出力信号(速度発電機出力信号)に基づく出力値を検出する出力値検出部1と、出力値検出部1で検出した出力値を予め設定した閾値と比較することによって、少なくとも駆動ピンPが接触するパーツであって且つ摩耗状態の判定対象となる摩耗判定対象パーツJが摩耗しているか否かを推定する摩耗推定部2と、摩耗推定部2で摩耗判定対象パーツJが摩耗していると推定した場合に、摩耗判定対象パーツJの摩耗量を出力値検出部1で検出した出力値に基づいて推定する摩耗量推定部10とを備えている。本実施形態における摩耗判定対象パーツJは駆動プレートLであり、より具体的な摩耗判定対象部分は駆動プレートLの溝L2である。ここで、図3(b)に摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLが摩耗していない状態を示し、同図(c)に摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLが摩耗している状態を示す。
【0030】
本実施形態の出力値検出部1は、ブレーキ制御部Cの波形成形部C1によって速度発電機本体Bの出力信号から成形したパルス状の信号の周波数を出力値として検出するものである。
【0031】
摩耗推定部2は、より細分化すると、出力値検出部1で検出した出力値が予め設定した閾値より小さいか否かを判定する摩耗判定部21と、摩耗判定部21による判定結果に基づいて推定した摩耗状態を出力する摩耗状態推定出力部22とに区別することができる。摩耗判定部21及び摩耗状態推定出力部22は、ブレーキ制御部Cに直接組み込まれていてもよいし、ブレーキ制御部Cとは別構成としてもよく、速度発電機Gに内蔵してもよい。
【0032】
摩耗判定部21は、出力値検出部1で検出した出力値(周波数)が、予め設定した閾値より小さいか否かを判定するものである。閾値としては、例えば、駆動プレートL及び駆動ピンPに摩耗が生じていない時の列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の周波数の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値、或いは速度発電機Gを搭載した際の列車Tの走行時の測定値等)を挙げることができる。ここで、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLの溝L2に摩耗が生じていない場合の速度発電機Gの出力信号の周波数は、列車Tの走行速度が速くなるほど徐々に大きくなる関係にある。すなわち、図4の上から1段目(摩耗判定対象パーツ摩耗無し)に示すように、列車Tの走行速度が速くなるほど周波数が、A0…A5…A10のように徐々に大きくなる。
【0033】
一方、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLの溝L2に摩耗が生じている場合は、例えば駆動ピンPが溝L2のうち摩耗した部分の何れか一方の端に近寄って接触している状態(図5(a),(c)参照)と、摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態(同図(b)参照)が交互に生じる。すなわち、列車Tの走行時に、摩耗した部分において駆動ピンPが往復移動するような挙動(同図(a)→(b)→(c)→(b)→(a)の順に移動する往復動作)になり、摩耗部分の両端を折り返し点として摩耗部分の一端から他端に亘って交互に移動する。そして、図4の上から2段目(摩耗判定対象パーツ摩耗有り)に示すように、駆動ピンPが溝L2のうち摩耗した部分の何れか一方の端に近寄って接触している状態(同図中A領域)における周波数は、摩耗が生じていない場合の周波数と同じまたは略同じ周波数になり、その値(周波数)は列車Tの走行速度に応じて変化する。一方、駆動ピンPが摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態(同図中B領域)における周波数は、駆動ピンPの溝L2に摩耗が生じていない場合の周波数よりも小さな周波数になり、その値(周波数)は列車Tの走行速度に応じて変化する。
【0034】
摩耗判定部21では、このような事象に基づいて予め決定した閾値と出力値検出部1で実際に検出した出力値(周波数)とを比較して出力値が閾値より小さいか否かを判定するものである。
【0035】
摩耗状態推定出力部22は、摩耗判定部21による判定結果がYesである場合、つまり出力値が閾値より小さい場合に少なくとも駆動プレートLが摩耗していると推定し、当該推定結果を出力するものである。また、摩耗状態推定出力部22は、摩耗判定部21による判定結果がNoである場合、つまり出力値が閾値より小さくない場合に少なくとも駆動プレートLが摩耗していないと推定し、当該推定結果を出力するものである。
【0036】
摩耗量推定部10は、より細分化すると、摩耗判定部21による判定結果に基づいて、少なくとも駆動プレートLの摩耗量が予め設定した閾値より小さいか否かを判定する摩耗量判定部101と、摩耗量判定部101による判定結果に基づいて推定した摩耗状態を出力する摩耗量推定出力部102とに区別することができる。摩耗量判定部101及び摩耗量推定出力部102は、ブレーキ制御部Cに直接組み込まれていてもよいし、ブレーキ制御部Cとは別構成としてもよく、速度発電機Gに内蔵してもよい。
【0037】
摩耗量判定部101は、摩耗判定部21による判定結果がYesである場合、つまり出力値が閾値より小さい場合に、駆動プレートLの摩耗量を推定するものである。具体的には、摩耗判定部21において予め設定した閾値よりも小さくて所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)に対応する閾値(摩耗量判定用閾値)を設定して、その閾値(摩耗量判定用閾値)以下である否かを判定するものである。閾値(摩耗量判定用閾値)としては、例えば、駆動プレートLに所定の摩耗量が生じており駆動ピンPに摩耗が生じていない状態で、駆動ピンPが駆動プレートLの摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態における列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の周波数の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値、或いは速度発電機Gを搭載した際の列車Tの走行時の測定値など)を挙げることができる。
【0038】
摩耗量推定出力部102は、摩耗量判定部101による判定結果がYesである場合、つまり出力値が閾値(摩耗量判定用閾値)以下である場合に少なくとも駆動プレートLの摩耗量が所定の摩耗量に至ったと推定し、当該推定結果を出力するものである。摩耗量推定出力部102は、摩耗量判定部101による判定結果がNoである場合、つまり出力値が閾値(摩耗量判定用閾値)以下でない場合に少なくとも駆動プレートLの摩耗量が所定の摩耗量に達していないと推定し、当該推定結果を出力するものである。
【0039】
また、摩耗量推定部10として、上記の閾値(摩耗量判定用閾値)を基準にする構成に代えて、以下のような構成を採用することもできる。具体的には、駆動プレートLが摩耗した状態で、速度発電機Gの出力信号に、駆動ピンPが溝L2のうち摩耗した部分の何れか一方の端に近寄って接触している状態と、摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態の信号が交互に生じている時に、駆動ピンPが摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態の出力信号の周波数とその状態が生じている時間に基づいて、列車Tの所定の速度における駆動ピンの移動量を算出し、その算出した駆動ピンの移動量が、予め設定した所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)と同じまたは略同じになった場合に、駆動プレートLの摩耗量が所定の摩耗量に至ったと推定し、当該推定結果を出力する構成を採用してもよい。
【0040】
ここで、本実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムXが備える出力値検出部1、摩耗推定部2及び摩耗量推定部10は、図1に示すようにブレーキ制御部Cに組み込む回路等によって構成することができる。また、出力値検出部1、摩耗推定部2及び摩耗量推定部10は、ブレーキ制御部Cに直接組み込まれていてもよいし、ブレーキ制御部Cとは別構成としてもよく、速度発電機Gに内蔵してもよい。
【0041】
次に、本実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムXによる摩耗検知の処理手順(速度発電機摩耗検知方法)について図6を参照しながら説明する。
【0042】
先ず、制御部(本システム専用のコントローラであってもよいが、本実施形態ではブレーキ制御部Cそのものである)が、走行している列車Tの速度発電機Gからの出力信号(生信号)を出力値検出部1によって取り込み(出力信号取込処理S1)、取り込んだ出力信号からパルス状の信号を成形し(信号成形処理S2)、成形した信号の周波数を検出する(周波数検出処理S3)。これら3つのステップ(出力信号取込処理S1、信号成形処理S2、周波数検出処理S3)をまとめて、出力値検出処理SAと捉えることができる。
【0043】
次いで、制御部Cが、出力値検出処理SAで検出した出力値(成形した信号の周波数)が、閾値より小さいか否かを判定し(摩耗判定処理S4)、出力値(成形した信号の周波数)が閾値より小さい場合(摩耗判定処理S4;Yes)には、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLに摩耗が生じているとの摩耗状態推定結果(摩耗信号)を出力する(摩耗信号出力処理S5A)。一方、出力値(成形した信号の周波数)が閾値より小さくない場合(摩耗判定処理S4;No)には、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLに摩耗が生じていないとの摩耗状態推定結果(摩耗信号)を出力する(摩耗信号出力処理S5B)。摩耗判定処理S4、摩耗信号出力処理S5A,S5Bをまとめて、摩耗状態推定処理SBと捉えることができる。
【0044】
さらに、出力値(成形した信号の周波数)が閾値より小さい場合(摩耗判定処理S4;Yes)の場合には、制御部Cが、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLの摩耗量が所定量に至っているか否か判定し(摩耗量判定処理S10)、摩耗量が所定量に至っている場合(摩耗量判定処理S10;Yes)には、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLに摩耗量が所定量に至っているとの摩耗量推定結果(摩耗量信号)を出力する(摩耗量信号出力処理S10A)。一方、摩耗量が所定量に至っていない場合(摩耗量判定処理S10;No)には、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLに摩耗量が所定量に至っていないとの摩耗量推定結果(摩耗量信号)を出力する(摩耗量信号出力処理S10B)。摩耗量判定処理S10、摩耗量信号出力処理S10A,S10Bをまとめて、摩耗量推定処理SB’と捉えることができる。
【0045】
このような処理手順を経ることで、列車Tの運行管理側(オペレータ)は、摩耗状態推定処理SBによる出力結果から摩耗しているか否か、さらには摩耗量推定処理SB’による出力結果から交換が必要な摩耗量に至っているか否かを(あるいは損壊しているか否かも)リアルタイミングで把握することができ、できるだけ早いタイミング(例えば、列車Tの日常点検のタイミング等)で駆動プレートLの交換作業をすることが可能になる。
【0046】
また、一般的に、駆動ピンPは、表面処理やコーティング等により硬化されている場合が多く、駆動プレートLよりも摩耗が少なく、駆動プレートLよりも交換の頻度が少なくて済む。よって、駆動プレートLを交換した後のタイミングで、本実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムXを適用して摩耗を検知した場合、駆動ピンPの摩耗を検知したことになる。よって、駆動プレートLの摩耗検知と同様に、摩耗推定部2で駆動ピンPの摩耗を検知したり、駆動ピンPの所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)やそれに対応する閾値(摩耗量判定用閾値)を予め設定して、摩耗量判定部101で、駆動ピンPが所定の摩耗量に至ったかどうか判定してもよい。
【0047】
このように、本実施形態に係る摩耗検知システムXによれば、接触タイプの速度発電機Gにおいて定期的なメンテナンス作業に依ることなく、少なくとも駆動プレートLの摩耗状態を車両Tの走行時に検知することができる。そして、摩耗検知システムXによって摩耗しているとの推定結果が出力された場合、駆動プレートLの交換作業時に周辺のパーツ、具体的には駆動ピンP等のメンテナンスを行うことができ、必要であれば駆動ピンPも交換することで、速度発電機Gの性能を所望の基準レベルに維持することができる。
【0048】
さらにまた、摩耗検知システムXの導入にあたっては、専用のハードウェアを列車Tに実装する必要がなく、上述の実施形態で述べたように例えば既設のブレーキ制御部Cを一部利用・改良することで運用することが可能であるため、本システムXの導入時のコストを抑えることができる。
【0049】
〈第2実施形態〉
第2実施形態に係る摩耗検知システムXは、第1実施形態に係る摩耗検知システムXと比較して、図7及び図8に示すように、駆動プレートLの溝L2と駆動ピンPとがダイレクトに接触することを回避するために溝L2と駆動ピンPの間に樹脂ブッシュRを介在させた速度発電機Gに適用される点、及び摩耗判定対象パーツJが樹脂ブッシュRである点、また図9に示すように、装着推定部3を備えている点で相違する。すなわち、上述の第1実施形態では、駆動プレートLの溝L2に駆動ピンPを直接挿入する態様を採用し、第2実施形態では、駆動プレートLの溝L2に駆動ピンPを直接ではなく樹脂ブッシュRを介して間接的に挿入する態様を採用している。
【0050】
ここで、樹脂ブッシュRは、図7に示すように、駆動ピンPに装着したものであってもよいし、図8に示すように駆動プレートLの溝L2に装着したものであってもよい。
【0051】
駆動ピンPに装着する樹脂ブッシュRは、駆動プレートLの溝L2の開口幅より僅かに小さい外形状をなし、中央部に駆動ピンPのピン本体P2が挿入可能な挿入孔R1を有する樹脂製の一体成型品である。駆動ピンPの軸方向に沿った樹脂ブッシュRの全長は、駆動ピンPのピン本体P2の全体を被覆可能なサイズであってもよいが、ピン本体P2の先端部近傍であって溝L2に嵌まる部分を被覆可能なサイズであってもよい。このような樹脂ブッシュRは、挿入孔R1に駆動ピンPを挿入することで駆動ピンPに装着することができ、樹脂ブッシュRを装着した状態にある駆動ピンPを駆動プレートLの溝L2に嵌めることで、溝L2と駆動ピンPの間に樹脂ブッシュRを介在させた速度発電機Gになる。図7(a)(b)には樹脂ブッシュRの全体図を示し、同図(b)では駆動ピンPに樹脂ブッシュRを装着した状態を示している。また、同図(c)は、駆動ピンPに装着した樹脂ブッシュRを駆動プレートLの溝L2に嵌めた状態の模式図である。
【0052】
なお、駆動プレートLの溝L2に装着する樹脂ブッシュRは、図8に示すように、駆動プレートLの溝L2に嵌入した状態で駆動プレートLを厚み方向に挟み込む一対の挟持部R2と、駆動ピンPのピン本体P2が挿入可能な挿入孔R1とを有する樹脂製の一体成型品である。同図(a)は図7(c)に対応する箇所の図であり、図8(b)は同図(a)のb-b線断面図である。
【0053】
以下の説明では、駆動ピンPに装着した樹脂ブッシュRを駆動プレートLの溝L2に挿嵌した構成を例にしている。
【0054】
溝L2と駆動ピンPの間に樹脂ブッシュRを介在させた速度発電機Gを使用する場合、列車Tの走行中において駆動ピンPが駆動プレートLの溝L2の開口方向への偏心が少ない場合、列車Tの車軸Aが高速で回転することで、駆動プレートLの溝L2に対する樹脂ブッシュRの挿嵌状態は維持されて、樹脂ブッシュRのうち溝L2に対向する面R3(以下、対向面R3)の摩耗は少ない一方で、樹脂ブッシュRの挿入孔R1に駆動ピンPが偏心の影響により挿入孔R1に摩耗が大きく生じて、挿入孔R1が当初よりも横長に広がった形状になる傾向がある。つまり、車軸Aの高速回転に伴って駆動ピンPが挿入孔R1内で移動することで、対向面R3よりも挿入孔R1が所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)に、早く達しやすい。ここで、図7(c)に摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRが摩耗していない状態を示し、同図(d)に摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRが摩耗している状態を示す。
【0055】
一方、列車Tの走行中において駆動ピンPが駆動プレートLの溝L2の開口方向への偏心が大きい場合、列車Tの車軸Aが高速で回転することで、駆動プレートLの溝L2に対する樹脂ブッシュRの挿嵌状態は偏心の影響により維持されず、樹脂ブッシュRの対向面R3の摩耗は大きく生じる一方で、樹脂ブッシュRの挿入孔R1の摩耗が小さくなる傾向がある。つまり、挿入孔R1よりも対向面R3が、所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)に早く達しやすい。
【0056】
樹脂ブッシュRが摩耗している場合、図10に示すように、列車Tの走行時に、摩耗した部分において駆動ピンPが往復移動するような挙動(同図(a)→(b)→(c)→(b)→(a)の順に移動する往復動作)になり、摩耗部分の両端を折り返し点として摩耗部分の一端から他端に亘って交互に移動する。その結果、速度発電機Gの出力信号は、図4に一例を示すように、駆動ピンPが摩耗部分の何れか一方の端に接触している時の状態と、駆動ピンPが摩耗部分の両端に接触せずに浮遊している非接触時の状態が交互に混在する。
【0057】
したがって、非接触時の信号を検出することにより、摩耗の有無を検知することが可能である。また、接触時の波形から摩耗量を推定することも可能である。
【0058】
そこで、第2実施形態に係る摩耗検知システムXは、第1実施形態と略同様の摩耗判定部21及び摩耗状態推定出力部22を有する摩耗推定部2によって、樹脂ブッシュRの摩耗状態を推定するように構成されている。
【0059】
摩耗判定部21は、第1実施形態と同様に、出力値検出部1で検出した出力値(周波数)が、予め設定した閾値より小さいか否かを判定するものである。第1閾値としては、例えば、樹脂ブッシュR、駆動プレートL、駆動ピンPに摩耗が生じていない時の列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の周波数の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値、 速度発電機Gを搭載した際の列車Tの走行時の測定値など)を挙げることができる。ここで、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRの挿入孔R1や対向面R3に摩耗が生じていない場合の速度発電機Gの出力信号の周波数は、列車Tの走行速度が速くなるほど徐々に大きくなる関係にある。すなわち、図4の上から1段目(摩耗判定対象パーツ摩耗無し)に示すように、列車Tの走行速度が速くなるほど周波数が、A0…A5…A10のように大きくなる。
【0060】
摩耗量判定部101は、摩耗判定部21による判定結果がYesである場合、つまり出力値が閾値より小さい場合に、樹脂ブッシュRの摩耗量を推定するものである。具体的には、摩耗判定部21において予め設定した閾値よりも小さくて所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)に対応する閾値(摩耗量判定用閾値)を設定して、その閾値(摩耗量判定用閾値)以下である否かを判定するものである。閾値(摩耗量判定用閾値)としては、例えば、樹脂ブッシュRに所定の摩耗量が生じており駆動プレートLや駆動ピンPに摩耗が生じていない状態で、駆動プレートLが樹脂ブッシュRの摩耗した部分の端に接触していない状態や駆動ピンPが樹脂ブッシュRの摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態における列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の周波数の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値、速度発電機Gを搭載した際の列車Tの走行時の測定値など)を挙げることができる。
【0061】
摩耗量推定出力部102は、摩耗量判定部101による判定結果がYesである場合、つまり出力値が閾値(摩耗量判定用閾値)以下である場合に少なくとも樹脂ブッシュRの摩耗量が所定の摩耗量に至ったと推定し、当該推定結果を出力するものである。摩耗量推定出力部102は、摩耗量判定部101による判定結果がNoである場合、つまり出力値が閾値(摩耗量判定用閾値)以下でない場合に少なくとも樹脂ブッシュRの摩耗量が所定の摩耗量に達していないと推定し、当該推定結果を出力するものである。
【0062】
また、列車Tの走行中において駆動ピンPが駆動プレートLの溝L2の開口方向への偏心の影響によって樹脂ブッシュRの摩耗状態が異なる傾向にあるので、上記の閾値(摩耗量判定用閾値)を偏心の影響を考慮して設定してもよい。例えば、列車Tの走行中において駆動ピンPが駆動プレートLの溝L2の開口方向への偏心が少ない場合、樹脂ブッシュRの対向面R3よりも挿入孔R1の方が、挿入孔R1における所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)に早く達しやすく、一方で、偏心が大きい場合は、樹脂ブッシュRの挿入孔R1よりも対向面R3の方が、対向面R3における所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)に早く達しやすい。よって、上記の閾値(摩耗量判定用閾値)を、挿入孔R1における所定の摩耗量と対向面R3における所定の摩耗量に分けて、各々で設定してもよい。
【0063】
さらに、摩耗量推定部10として、上記の閾値(摩耗量判定用閾値)ではなく、例えば、樹脂ブッシュRが摩耗した状態で、速度発電機Gの出力信号に、駆動プレートL及び駆動ピンPが樹脂ブッシュRの摩耗した部分の何れか一方の端に近寄って接触している状態と、摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態の信号が交互に生じている時に、樹脂ブッシュRが摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態の出力信号の周波数とその状態が生じている時間に基づいて、列車Tの所定の速度における駆動プレート及び駆動ピンの移動量を算出し、駆動ピンの移動量と、予め設定した所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)が同じまたは略同じになった場合、樹脂ブッシュRの摩耗量が所定の摩耗量に至ったと推定し、当該推定結果を出力する構成を採用してもよい。また、所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)は、また、列車Tの走行中において駆動ピンPが駆動プレートLの溝L2の開口方向への偏心の影響によって、挿入孔R1における所定の摩耗量と対向面R3における所定の摩耗量に分けて、各々で設定してもよい。
【0064】
図11に示すように、制御部Cが、出力信号検出処理SAで検出した出力信号が閾値(後述する第2閾値と区別するため同図中では第1閾値と記載)より小さいか否かを判定し(摩耗判定処理S4)、出力値(成形した信号の周波数)が閾値より小さい場合(摩耗判定処理S4;Yes)には、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRに摩耗が生じているとの摩耗状態推定結果(摩耗信号)を出力する(摩耗信号出力処理S5A)。一方、出力値(成形した信号の周波数)が閾値より小さくない場合(摩耗判定処理S4;No)には、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRに摩耗が生じていないとの摩耗状態推定結果(摩耗量信号)を出力する(摩耗信号出力処理S5B)。さらに、出力値(成形した信号の周波数)が閾値より小さい場合(摩耗判定処理S4;Yes)の場合には、制御部Cが、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRの摩耗量が所定量に至っているか否か判定し(摩耗量判定処理S10)、摩耗量が所定量に至っている場合(摩耗量判定処理S10;Yes)には、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRに摩耗量が所定量に至っているとの摩耗量推定結果(摩耗量信号)を出力する(摩耗量信号出力処理S10A)。一方、摩耗量が所定量に至っていない場合(摩耗量判定処理S10;No)には、樹脂ブッシュRの摩耗量が所定量に至っていないとの摩耗量推定結果(摩耗量信号)を出力する(摩耗量信号出力処理S10B)。このような処理(摩耗判定処理S4及び摩耗信号出力処理S5A,S5Bを経る摩耗状態推定処理SBと、摩耗量判定処理S10及び摩耗量信号出力処理S10A,S10Bを経る摩耗量推定処理SB’)によって、列車Tの運行管理側(オペレータ)は、樹脂ブッシュRが摩耗した状態にあるか否か、さらには交換が必要な摩耗量に至ったか否かをリアルタイミングで検知することができ、摩耗状態にあることを検知した場合には、できるだけ早いタイミングで樹脂ブッシュRを交換することが可能になる。
【0065】
また、駆動プレートLや駆動ピンPは、樹脂ブッシュRより硬いため、樹脂ブッシュRよりも摩耗が少なく、交換の頻度が少なくて済む。よって、樹脂ブッシュRを交換した後のタイミングで、本実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムXを適用して摩耗を検知した場合、駆動プレートLや駆動ピンPの摩耗を検知したことになる。よって、樹脂ブッシュRの摩耗検知と同様に、摩耗推定部2で駆動プレートLや駆動ピンPの摩耗を検知したり、駆動プレートLや駆動ピンPの所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)やそれに対応する閾値を予め設定して、摩耗量判定部101で、駆動プレートLや駆動ピンPが所定の摩耗量に至ったかどうか判定してもよい。
【0066】
また、第2実施形態に係る摩耗検知システムXは、樹脂ブッシュRが装着されているか否かを推定する装着推定部3を備えている。
【0067】
樹脂ブッシュRがメンテナンス時や交換処理直後等のタイミングで脱落したり、損傷等に起因して走行中に落下した場合、図10(d),(e),(f)のように、駆動ピンPが駆動プレートLの溝L2の開口側縁の一端から他端に亘る方向に交互に移動(同図(d)→(e)→(f)→(e)→(d)の順に移動する往復動作)して、速度発電機Gの出力信号は、図4の上から3段目(装着判定対象パーツ未装着)に示すように、駆動ピンPが駆動プレートの溝L2の何れか一方の側縁に接触する状態(同図中A領域)と、駆動ピンPが駆動プレートの溝L2に接触せずに浮遊する非接触時の状態(接触時と周波数が異なる信号、同図中C領域)が交互に混在する。この時の非接触時の信号は、樹脂ブッシュRが摩耗している時の波形(B領域)よりも大きく乱れる。よって、このような信号を検出する処理により、樹脂ブッシュRが装着されていること又は装着されていない(脱落、落下)ことを検知することができる。
【0068】
装着推定部3は、より細分化すると、出力値検出部1で検出した出力値が予め設定した第2閾値以下であるか否かを判定する装着判定部31と、装着判定部31による判定結果に基づいて推定した装着状態を出力する装着状態推定出力部32とに区別することができる(図9参照)。
【0069】
装着判定部31は、出力値検出部1で検出した出力値(周波数)が、予め設定した第2閾値以下であるか否かを判定するものである。第2閾値としては、例えば、樹脂ブッシュR、駆動プレートL及び駆動ピンPに摩耗が生じておらず、樹脂ブッシュRの脱落が生じている時(樹脂ブッシュRが駆動ピンPと駆動プレートLの溝L2の間に介在していない時)の上記非接触時の状態における列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の周波数の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、樹脂ブッシュRを装着していない状態において、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値等)を挙げることができる。ここで、樹脂ブッシュRが装着されている場合(樹脂ブッシュRが駆動ピンPと駆動プレートLの溝L2の間に介在している場合)の速度発電機Gの出力信号の周波数は、第1実施形態で述べた駆動プレートLの溝L2に摩耗が生じていない場合の速度発電機Gの信号の周波数や樹脂ブッシュR、駆動プレートL、駆動ピンPに摩耗が生じていない時の列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の周波数すなわち第1閾値の設定における周波数と同じまたは略同等であり、列車Tの走行速度が速くなるほど徐々に大きくなる関係にある。すなわち、図4に示すように、列車Tの走行速度が速くなるほど周波数が、A0、A1、A2…A10のように徐々に大きくなる。
【0070】
一方、樹脂ブッシュRが未装着である場合は、速度発電機Gの出力信号は、駆動ピンPが溝L2の開口縁に接触している状態と、溝L2の開口縁に接触せずに浮遊している状態が交互に生じる。そして、駆動ピンPが溝L2の開口縁に接触している状態における出力信号の周波数は、上記の樹脂ブッシュRが装着されている場合の周波数と同じまたは略同じ周波数になり、その値(周波数)は列車Tの走行速度に応じて変化する。駆動ピンPが溝L2の開口縁に接触せずに浮遊している状態における出力信号の周波数は、駆動ピンPが溝L2の開口縁に接触している状態の出力信号の周波数よりも小さく、且つ上述の駆動ピンPが、樹脂ブッシュRが装着され摩耗している状態時よりも大きく移動するため、樹脂ブッシュRの摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態における出力信号の周波数よりも小さな周波数になり、その値(周波数)は列車Tの走行速度に応じて変化する。すなわち、第2閾値は、列車Tの走行速度が同じ場合において、第1閾値より小さくなる。
【0071】
装着判定部31では、このような事象に基づいて予め決定した第2閾値と出力値検出部1で実際に検出した出力値(周波数)とを比較して出力値が第2閾値以下であるか否かを判定するものである。
【0072】
装着状態推定出力部32は、装着判定部31による判定結果がYesである場合、つまり出力値が第2閾値以下である場合に樹脂ブッシュRが未装着(脱落)であると推定し、当該推定結果を出力するものである。また、装着状態推定出力部32は、装着判定部31による判定結果がNoである場合、つまり出力値が第2閾値以下でない場合に樹脂ブッシュRが装着されている(脱落していない)と推定し、当該推定結果を出力するものである。
【0073】
本実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムXが備える装着推定部3は、図9に示すように、出力値検出部1及び摩耗推定部2と同様にブレーキ制御部Cに組み込む回路等によって構成することができる。
【0074】
このような装着推定部3を備えた本実施形態に係る速度発電機摩耗検知システムXによる摩耗検知及び装着(脱落)検知の処理手順(速度発電機摩耗・脱落検知方法)を図11に基づいて説明する。
【0075】
先ず、出力値検出処理SA(出力値取込処理S1、信号成形処理S2、周波数検出処理S3)を行う手順は上述の第1実施形態と同様である。そして、出力値検出処理SAに続いて、制御部Cが、出力値検出処理SAで検出した出力値(成形した信号の周波数)が第2閾値以下であるか否かを判定し(装着判定処理S6)、出力値(成形した信号の周波数)が第2閾値以下である場合(装着判定処理S6;Yes)には、樹脂ブッシュRが未装着(脱落)であるとの装着状態推定結果(装着信号)を出力する(装着信号出力処理S7)。本実施形態では、図11に示すように、出力値(成形した信号の周波数)が第2閾値以下である場合(装着判定処理S6;Yes)に、樹脂ブッシュRが未装着(脱落)であるとの装着状態推定結果(装着信号)を出力する(装着信号出力処理S7)。これにより、樹脂ブッシュRが装着されていない旨の装着信号と、樹脂ブッシュRに摩耗が生じていない旨の摩耗信号が出力されるが、列車Tの運行管理側(オペレータ)においては、樹脂ブッシュRが装着されていない情報を特定した場合、樹脂ブッシュRの摩耗の有無は不問であるため、以上の処理による出力結果で十分である。
【0076】
一方、装着判定処理S6において出力値(成形した信号の周波数)が第2閾値以下ではない場合(装着判定処理S6;No)には、上記の摩耗状態推定処理SB及び摩耗量推定処理SB’に進む。なお、出力値(成形した信号の周波数)が第2閾値以下ではない場合(装着判定処理S6;No)に、樹脂ブッシュRが装着されている(脱落していない)との装着状態推定結果(装着信号)を出力する(装着信号出力処理、図示省略)ように構成してもよい。装着判定処理S6及び装着信号出力処理S7をまとめて装着状態推定処理SCと捉えることができる。
【0077】
このような処理手順を経ることで、列車Tの運行管理側(オペレータ)は、装着状態推定処理SCによる出力結果(装着信号)に基づいて樹脂ブッシュRが未装着(脱落)であるか否かをリアルタイミングで検知することができ、樹脂ブッシュRが未装着(脱落)であることを検知した場合にはできるだけ早いタイミングで作業者による樹脂ブッシュRの装着処理を実施することが可能になる。また、本実施形態に係る摩耗検知システムXによれば、装着状態推定処理SCによって樹脂ブッシュRが装着されている(脱落していない)と推定した場合には、装着状態推定処理SCに続いて摩耗状態推定処理SBを実行する構成であるため、摩耗状態推定処理SBによる出力結果(摩耗信号)から、樹脂ブッシュRが摩耗状態にあるか否かをリアルタイミングで検知することができ、摩耗状態であるとの推定結果を出力することで作業者による樹脂ブッシュRの交換作業を促すことができる。
【0078】
さらにまた、このような樹脂ブッシュRの装着状態及び摩耗状態を検知可能な本システムXの導入にあたっては、専用のハードウェアを列車Tに実装する必要がなく、上述の実施形態で述べたように例えば既設のブレーキ制御部Cを一部利用・改良することで運用することができる。
【0079】
〈第3実施形態〉
第3実施形態に係る摩耗検知システムXは、第2実施形態に係る摩耗検知システムXの一変形例として捉えることができ、図12に示すように、上述の摩耗推定部2とは別に第2摩耗推定部4を備え、摩耗判定対象パーツである樹脂ブッシュRの摩耗状態を2段階の判定基準によって、より一層正確に検知できるように構成している点に特徴がある。
【0080】
すなわち、本実施形態に係る摩耗検知システムXは、摩耗判定部21によって、出力値検出部1で検出した出力値(周波数)が予め設定した閾値(第2実施形態と同様に以下「第1閾値」と称す)より小さいと判定した場合に、さらに速度発電機Gの出力信号に以下の異なる2つの周波数の信号が周期的に混在するか否かを判定する第2摩耗判定部41を備えた第2摩耗推定部4を有する構成である。異なる2つの周波数の具体例として、1つ目が「第1閾値と同じまたは略同じ値の周波数」であり、2つ目が「第1閾値より小さく第2閾値より大きい周波数」である。
【0081】
本発明者は、上述の摩耗判定部21によって出力値(周波数)が予め設定した第1閾値より小さいと判定した場合であっても、実際には樹脂ブッシュRに摩耗が想定する程度ほど生じていないケースが稀に発生している事象を考慮し、そのような事象の発生を防止すべく、鋭意研究の末、上述のような2つの異なる周波数の信号が周期的に混在するか否かを判定することで、樹脂ブッシュRの摩耗状態をより一層的確に特定することができることを見出した。
【0082】
ここで、「第1閾値と同じまたは略同じ値の周波数」は、第2実施形態と同様に、駆動プレートLや駆動ピンPが樹脂ブッシュRの摩耗部分の端(樹脂ブッシュRの挿入孔R1の縁や対向面3)に近寄って接触している状態の信号の周波数を意味し、「第1閾値より小さく第2閾値より大きい周波数」は、駆動ピンPが摩耗部分の端(樹脂ブッシュRの挿入孔R1の縁)に接触せずに浮遊している状態の信号の周波数を意味する。そして、このような2つの異なる周波数の信号が周期的に混在するということは、摩耗した樹脂ブッシュRが移動していることを裏付けることになるため、第2摩耗判定部41を備えた本実施形態に係る摩耗検知システムXによれば、樹脂ブッシュRが摩耗状態にあるか否かをより一層的確に特定することができる。
【0083】
第2摩耗判定部41を有する第2摩耗推定部4は、第2摩耗判定部41による判定結果がYesである場合、つまり上述の2つの異なる周波数の信号が周期的に混在する場合に、樹脂ブッシュRが摩耗していると推定し、当該推定結果(摩耗信号)を出力する第2摩耗状態推定出力部42を備えている。また、第2摩耗状態推定出力部42は、第2摩耗判定部41による判定結果がNoである場合、つまり上述の2つの異なる周波数の信号が周期的に混在しない場合に樹脂ブッシュRが摩耗していないと推定し、当該推定結果(摩耗信号)を出力するものである。
【0084】
第2摩耗判定部41及び第2摩耗状態推定出力部42を備えた第2摩耗推定部4は、図12に示すようにブレーキ制御部Cに組み込む回路等によって構成することができる。
【0085】
本実施形態に係る摩耗検知システムXによる摩耗状態検知処理手順は、図13に示すように、制御部Cが、出力値検出処理SAで検出した出力値(成形した信号の周波数)が、第2閾値より大きく且つ第1閾値より小さいか否かを判定し(摩耗判定処理S4)、出力値(成形した信号の周波数)が第2閾値より大きく且つ第1閾値より小さい場合(摩耗判定処理S4;Yes)には、第2摩耗判定部41による第2摩耗判定処理S8を行う。第2摩耗判定処理S8は、「第1閾値と同じまたは略同じ値の周波数」と「第1閾値より小さく第2閾値より大きい周波数」の2つの異なる周波数の信号が周期的に混在するか否かを判定する処理である。第2摩耗判定処理S8において、上記2つの周波数の信号が周期的に混在する場合(第2摩耗判定処理S8;Yes)には、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRに摩耗が生じているとの摩耗状態推定結果(摩耗信号)を出力する(第2摩耗信号出力処理S9A)。一方、第2摩耗判定処理S8において、上記2つの周波数が周期的に混在しない場合(第2摩耗判定処理S8;No)には、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRに摩耗が生じていないとの摩耗状態推定結果(摩耗信号)を出力する(第2摩耗信号出力処理S9B)。
【0086】
このような第2摩耗判定処理S8、第2摩耗信号出力処理S9A,S9Bを経る第2摩耗状態推定処理SDを経ることで、列車Tの運行管理側(オペレータ)は、摩耗状態推定処理SBによる出力結果に加えて、第2摩耗状態推定処理SDによる出力結果にも基づいた推定結果を得ることで、樹脂ブッシュRが摩耗しているか否かの情報をより一層正確にリアルタイミングで把握することが可能になり、例えば、列車Tが低速度運行により摩耗の進み具合が比較的遅い場合でも、早いタイミングで真に交換を要する樹脂ブッシュRの交換作業を行うことが可能になる。また、摩耗の誤検知を防止・抑制することで、無駄な作業時間及び作業工程(摩耗しているとの誤検知情報に基づいて交換をしようとした作業準備時間及びその作業)の発生を回避することができ、作業効率性の向上に寄与する。
【0087】
〈第4実施形態〉
第4実施形態に係る摩耗検知システムXは、第2実施形態及び第3実施形態に係る摩耗検知システムXの一変形例として捉えることができ、装着推定部3における判定基準に新たな要件を加えている点が特徴である。
【0088】
すなわち、摩耗推定部2における判定基準値である閾値(第2閾値とは異なる閾値であり、以下では第1閾値と称す)は、列車の走行速度とその走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の周波数が比例する関係に着目して設定することが可能である一方、装着推定部3における判定基準値である第2閾値は、列車Tの走行時における樹脂ブッシュRに作用する力の関係によっては、駆動プレートLが樹脂ブッシュRに接触しない状態や、駆動ピンPが樹脂ブッシュRに接触せずに浮遊する状態が生じず、列車Tの走行速度とその走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の周波数が必ずしも比例しない可能性があり、特に列車Tの低速度領域において、第2実施形態に基づいた設定ができない可能性がある。よって、上記の事象が起こり得る速度領域では第2閾値と第1閾値との判別がつかず、摩耗検知等が正確にできない可能性がある。そこで、本実施形態では、第2閾値のうち低速度領域の第2閾値を、他の速度領域とは異なる設定方法によって設定している。具体的には、低速度領域で上記の事象が起こっている速度領域における第2閾値を第1閾値との判別ができるようにゼロまたはゼロに近い値に設定し、それ以外の速度領域における第2閾値を、第2実施形態に基づいて設定している。
【0089】
第2閾値をこのような値に設定することで、第2実施形態に基づいた設定ができない速度領域において、第2閾値と第1閾値との判別がつかずに装着状態推定処理・摩耗状態推定処理を適切に行うことができないという不具合を解消することができる。
【0090】
〈第5乃至第7実施形態〉
第5乃至第7実施形態に係る摩耗検知システムXは、それぞれ図14図16図18に示すように、上述の第1乃至第3実施形態に係る摩耗検知システムXにそれぞれ準じた制御ブロック構成を備えたものであり、第1乃至第3実施形態に係る摩耗検知システムXと比較して、出力値検出部1が、速度発電機Gの出力信号を取り込み、当該出力信号の電圧(電圧値)を出力値として検出するものであり、出力信号から成形したパルス状の周波数を出力値として利用しない点で決定的な相違点を有する。
【0091】
そして、速度発電機Gの出力信号の電圧を出力値として検出することに伴って、摩耗判定部21、装着判定部31、第2摩耗判定部41、摩耗量判定部101における判定条件も異なる。
【0092】
具体的には、摩耗判定部21が、出力値検出部1で検出した出力値(電圧)が予め設定した閾値(樹脂ブッシュRを介在させる構成(第6実施形態、第7実施形態)であれば第1閾値)より大きいか否かを判定するものである点(図15図17図19参照)、装着推定部3が、出力値検出部1で検出した出力値(電圧)が予め設定した第2閾値以上であるか否かを判定するものである点(図17図19参照)、第2摩耗判定部41が、「第1閾値と同じ値の電圧」と「第2閾値より小さく第1閾値より大きい電圧」が周期的に混在するか否かを判定するものである点(図19参照)、これらの点で上述の第1乃至第3実施形態と異なる。
【0093】
そして、第5乃至第7実施形態に係る摩耗検知システムXでは、このような相違点に基づき、図15図17図19の各フローチャートに示すように、スタートからエンドまでの処理数は対応する上述の第1乃至第3実施形態の処理数と略同じであるものの、出力値検出処理SAにおいて、出力値取込処理S1で取り込んだ出力信号からパルス状の周波数を成形する処理(信号成形処理S2)が不要であり、出力値取込処理S1で取り込んだ出力信号の電圧を検出する処理(電圧検出処理S3)を経ること(つまり、出力値検出処理SAが出力値取込処理S1及び電圧検出処理S3の2つの処理で済むこと)や、摩耗判定処理SB、装着判定処理SC、第2摩耗判定処理SDの具体的な判定処理内容が異なる。
【0094】
摩耗判定部21で用いる閾値としては、例えば、駆動プレートLと駆動ピンPとの間に樹脂ブッシュRを介在させない構成(第5実施形態)であれば、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートL及び駆動ピンPに摩耗が生じていない時の列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の電圧の関係に基づいて設定した値を挙げることができ、駆動プレートLと駆動ピンPとの間に樹脂ブッシュRを介在させる構成(第6実施形態、第7実施形態)であれば、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュR、駆動プレートL、駆動ピンPに摩耗が生じていない時の列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の電圧の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値、或いは速度発電機Gを搭載した際の列車Tの走行時の測定値等)を挙げることができる。ここで、摩耗判定対象パーツJに摩耗が生じていない場合の速度発電機Gの出力信号の電圧は、列車Tの走行速度が速くなるほど徐々に大きくなる関係にある。一方、摩耗判定対象パーツJに摩耗が生じている場合は、例えば、駆動プレートLと駆動ピンPとの間に樹脂ブッシュRを介在させてない構成(第5実施形態)であれば、駆動プレートLの摩耗した部分の何れか一方の端に駆動ピンPが近寄って接触している状態と、摩耗した部分の端に駆動ピンPが接触せずに浮遊している状態が交互に生じる。そして、これらの状態が交互に生じることに伴う速度発電機Gの誘起電圧の変動により、摩耗した部分の何れか一方の端に駆動ピンPが近寄って接触している状態における出力信号の電圧は、摩耗が生じていない場合の出力信号の電圧よりも大きい電圧になり、その値(電圧)は列車Tの走行速度に応じて変化する。上記の誘起電圧の変動により、摩耗した部分の端に駆動ピンPが接触せずに浮遊している状態における出力信号の電圧は、摩耗判定対象パーツJに摩耗が生じていない場合の出力信号の電圧よりも小さい電圧になり、その値(電圧)は列車Tの走行速度に応じて変化する。つまり、摩耗が生じている場合には、出力値(電圧)が、摩耗が生じていない場合の速度発電機Gの出力信号の電圧(閾値)に対して変動し、その変動幅は摩耗が大きいほど大きくなる。
【0095】
第5乃至第7実施形態の摩耗判定部21では、このような事象に基づいて予め設定した閾値(樹脂ブッシュRを介在させる構成(第6実施形態、第7実施形態)であれば第1閾値)と出力値検出部1で検出した出力値(電圧)とを比較して出力値が閾値(第1閾値)より大きいか否かを判定するものである。なお、閾値の設定で扱う電圧値は、速度発電機Gの出力信号の電圧ピーク値が最適であるが、実効値、平均値、絶対値などでもよい。
【0096】
そして、第5乃至第7実施形態の摩耗状態推定出力部22は、摩耗判定部21による判定結果がYesである場合、つまり出力値が閾値(駆動プレートLと駆動ピンPとの間に樹脂ブッシュRを介在させる構成(第6実施形態、第7実施形態)であれば第1閾値)より大きい場合に少なくとも摩耗判定対象パーツJが摩耗していると推定し、当該推定結果を出力するものである。また、第5乃至第7実施形態の摩耗状態推定出力部22は、摩耗判定部21による判定結果がNoである場合、つまり出力値が閾値(樹脂ブッシュRを介在させる構成(第6実施形態、第7実施形態)であれば第1閾値)と同じまたは略同じである場合に少なくとも摩耗判定対象パーツJが摩耗していないと推定し、当該推定結果を出力するものである。
【0097】
摩耗量推定部10は、駆動プレートLと駆動ピンPとの間に樹脂ブッシュRを介在させない構成(第5実施形態)であれば、摩耗判定部21による判定結果がYesである場合、つまり出力値が閾値より大きい場合に、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLの摩耗量を推定するものである。具体的には、摩耗判定部21において予め設定した閾値よりも大きくて所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)に対応する閾値(摩耗量判定用閾値)を設定して、その閾値以上であれば、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLの摩耗量が所定の摩耗量に至ったと推定し、当該推定結果を出力するものである。閾値(摩耗量判定用閾値)としては、例えば、駆動プレートLに所定の摩耗量が生じており駆動ピンPに摩耗が生じていない状態で、駆動ピンPが駆動プレートLの摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態における列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の電圧の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値、或いは速度発電機Gを搭載した際の列車Tの走行時の測定値など)を挙げることができる。
【0098】
また、摩耗量推定部10は、駆動プレートLと駆動ピンPとの間に樹脂ブッシュRを介在させる構成(第6実施形態、第7実施形態)であれば、摩耗判定部21による判定結果がYesである場合、つまり出力値が第1閾値より大きい場合に、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRの摩耗量を推定するものである。具体的には、摩耗判定部21において予め設定した第1閾値よりも大きくて所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)に対応する閾値(摩耗量判定用閾値)を設定して、その第1閾値以上であれば、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRの摩耗量が所定の摩耗量に至ったと推定し、当該推定結果を出力するものである。閾値(摩耗量判定用閾値)としては、例えば、樹脂ブッシュRに所定の摩耗量が生じており駆動プレートL及び駆動ピンPに摩耗が生じていない状態で、駆動プレートLや駆動ピンPが樹脂ブッシュRの摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態における列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の電圧の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値、或いは速度発電機Gを搭載した際の列車Tの走行時の測定値など)を挙げることができる。
【0099】
また、駆動プレートLと駆動ピンPとの間に樹脂ブッシュRを介在させる構成(第6実施形態、第7実施形態)であれば、第2実施形態と同様に、列車Tの走行中において駆動ピンPが駆動プレートLの溝L2の開口方向への偏心の影響によって樹脂ブッシュRの摩耗状態が異なる傾向にあるので、上記の閾値(摩耗量判定用閾値)を偏心の影響を考慮して、樹脂ブッシュRの挿入孔R1における所定の摩耗量と対向面R3における所定の摩耗量に分けて、各々で設定してもよい。
【0100】
また、摩耗量推定部10として、上記の閾値(摩耗量判定用閾値)を基準にする構成に代えて、以下のような構成を採用することもできる。具体的には、駆動プレートLや樹脂ブッシュRが摩耗した状態で、速度発電機Gの出力信号に、駆動ピンPが溝L2のうち摩耗した部分の何れか一方の端に近寄って接触している状態と、摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態の信号が交互に生じている時に、駆動ピンPが摩耗した部分の端に接触せずに浮遊している状態の出力信号の電圧に対応する周波数と、駆動ピンPが摩耗した部分の端に接触していない状態の前後に生じる駆動ピンPが摩耗した部分の端に接触している状態の出力信号のうち、電圧ピーク値が所定の電圧(上記の閾値や第1閾値)を超えていない場合に対応する信号の周波数と、その出力信号の前後において所定の電圧を検出した時間の差分に基づいて、列車Tの所定の速度における駆動ピンP及び駆動プレートRの移動量を算出し、その算出した移動量が、予め設定した所定の摩耗量(交換が必要な摩耗量)と同じまたは略同じになった場合に、駆動プレートLの摩耗量が所定の摩耗量に至ったと推定し、当該推定結果を出力する構成を採用してもよい。
【0101】
図15図17図19に示すように、摩耗判定処理S4では、出力値検出処理SAで検出した出力値(電圧)が閾値(第6実施形態、第7実施形態であれば第1閾値)より大きいか否かを判定し、出力値(電圧)が閾値(第6実施形態、第7実施形態であれば第1閾値)より大きい場合(摩耗判定処理S4;Yes)には、摩耗判定対象パーツJに摩耗が生じているとの摩耗状態推定結果を出力し(摩耗信号出力処理S5A)、出力値(電圧)が閾値(第6実施形態、第7実施形態であれば第1閾値)より大きくない場合、すなわち、閾値(第6実施形態、第7実施形態であれば第1閾値)と同じまたは略同じである場合(摩耗判定処理S4;No)には、摩耗判定対象パーツJに摩耗が生じていないとの摩耗状態推定結果を出力する(摩耗信号出力処理S5B)。
【0102】
さらに、出力値(電圧)が閾値より大きい場合(摩耗判定処理S4;Yes)の場合には、摩耗判定対象パーツJである駆動プレートLや樹脂ブッシュRの摩耗量が所定量に至っているか否か判定し(摩耗量判定処理S10)、摩耗量が所定量に至っている場合(摩耗量判定処理S10;Yes)には、摩耗判定対象パーツJの摩耗量が所定量に至っているとの摩耗量推定結果を出力する(摩耗量信号出力処理S10A)。一方、摩耗量が所定量に至っていない場合(摩耗量判定処理S10;No)には、摩耗判定対象パーツJの摩耗量が所定量に至っていないとの摩耗量推定結果を出力する(摩耗量信号出力処理S10B)。
【0103】
また、第6及び第7実施形態の装着判定部31は、出力値検出部1で検出した出力値(電圧)が予め設定した第2閾値以上であるか否かを判定するものである。第2閾値としては、例えば、樹脂ブッシュR、駆動プレートL及び駆動ピンPに摩耗が生じておらず、樹脂ブッシュRの脱落が生じている時(樹脂ブッシュRが駆動ピンPと駆動プレートLの溝L2の間に介在していない時)の駆動ピンPが駆動プレートLの溝L2の何れか一方の側縁に接触する状態における列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の電圧の関係に基づいて設定した値であって、理論値または実測値(例えば、樹脂ブッシュRを未装着していない状態において、速度発電機Gを列車Tの走行速度に対応させて回転させた時の測定値等)を挙げることができる。ここで、樹脂ブッシュRが装着されている場合(樹脂ブッシュRが駆動ピンPと駆動プレートLの溝L2の間に介在している場合)の速度発電機Gの出力信号の電圧は、第5実施形態で述べた駆動プレートLの溝L2に摩耗が生じていない場合の速度発電機Gの信号の電圧や樹脂ブッシュR、駆動プレートL、駆動ピンPに摩耗が生じていない時の列車Tの走行速度と走行速度に対応する速度発電機Gの出力信号の電圧、すなわち第1閾値の設定における電圧と同じまたは略同等であり、列車Tの走行速度が速くなるほど徐々に大きくなる関係にある。
【0104】
樹脂ブッシュRが未装着(脱落)である場合は、速度発電機Gの出力信号は、例えば駆動ピンPが溝L2の開口縁に接触している状態と、溝L2の開口縁に接触せずに浮遊している状態が交互に生じる。そして、駆動ピンPが溝L2の開口縁に接触している状態における出力信号の電圧は、これらの状態が交互に生じることに伴う速度発電機Gの誘起電圧の変動により、摩耗が生じていない場合や上記の樹脂ブッシュRが装着されている(脱落していない)場合の出力信号の電圧よりも更に大きい電圧になり、その値(電圧)は列車Tの走行速度に応じて変化する。一方、駆動ピンPが溝L2の開口縁に接触せずに浮遊している状態における出力信号の電圧は、速度発電機Gの誘起電圧の変動により、摩耗が生じていない場合や上記の樹脂ブッシュRが装着されている(脱落していない)場合の出力信号の電圧よりも更に小さい電圧になり、その値(電圧)は列車Tの走行速度に応じて変化する。つまり、樹脂ブッシュRが未装着である場合には、出力値(電圧)が、摩耗が生じていない場合や上記の樹脂ブッシュRが装着されている(脱落していない)場合の速度発電機Gの出力信号の電圧に対して変動する。その変動幅は、駆動ピンPが、樹脂ブッシュRが装着され摩耗している状態時より大きく移動することで上記誘起電圧の変動が大きくなるため、樹脂ブッシュRを装着時よりも大きくなる。すなわち、第2閾値は、列車Tの走行速度が同じ場合において、第1閾値より大きくなる。
【0105】
装着判定部31では、このような事象に基づいて予め決定した第2閾値と出力値検出部1で実際に検出した出力値(電圧)とを比較して出力値が第2閾値以上であるか否かを判定するものである。
【0106】
装着状態推定出力部32は、装着判定部31による判定結果がYesである場合、つまり出力値が第2閾値以上である場合に樹脂ブッシュRが未装着(脱落)であると推定し、当該推定結果を出力するものである。また、装着状態推定出力部32は、装着判定部31による判定結果がNoである場合、つまり出力値が第2閾値以上でない場合に樹脂ブッシュRが装着されている(脱落していない)と推定し、当該推定結果を出力するものである。
【0107】
したがって、図17図19に示すように、装着判定処理S6では、出力値検出処理SAで検出した出力値(電圧)が第2閾値以上であるか否かを判定し、出力値(電圧)が第2閾値以上である場合(装着判定処理S6;Yes)には、樹脂ブッシュRが未装着(脱落)であるとの装着状態推定結果を出力し(装着信号出力処理S7)、出力値(電圧)が第2閾値以上ではない場合(装着判定処理S6;No)には、摩耗状態推定処理SBに進む。
【0108】
また、第7実施形態の第2摩耗判定部41は、速度発電機Gの出力信号に、「第1閾値と同じ値の電圧」と「第2閾値より小さく第1閾値より大きい電圧間で変動する電圧」が周期的に混在するか否かを判定するものである。「第1閾値と同じ値の電圧」は、駆動ピンPや駆動プレートLが摩耗部分の端(樹脂ブッシュRの挿入孔R1の縁や対向面R3)に近寄って接触している状態の電圧を意味し、「第2閾値より小さく第1閾値より大きい電圧間で変動する電圧」は、駆動ピンPや駆動プレートLが摩耗部分の端に接触せずに浮遊している状態の電圧を意味する。そして、このような2つの異なる電圧が周期的に混在するということは、摩耗した樹脂ブッシュRの挿入孔R1対向面R3で駆動ピンPや駆動プレートLが移動していることを裏付けることになるため、第2摩耗判定部41を備えた摩耗検知システムXによれば、樹脂ブッシュRが摩耗状態にあるか否かをより一層的確に特定することができる。
【0109】
第2摩耗判定部41を備えた第7実施形態の摩耗検知システムXは、第2摩耗判定部41による判定結果がYesである場合、つまり上述の2つの異なる電圧が周期的に混在する場合に樹脂ブッシュRが摩耗していると推定し、当該推定結果(摩耗信号)を出力する第2摩耗状態推定出力部42を備えている。第2摩耗状態推定出力部42は、第2摩耗判定部41による判定結果がNoである場合、つまり上述の2つの異なる電圧が周期的に混在しない場合に樹脂ブッシュRが摩耗していないと推定し、当該推定結果(摩耗信号)を出力するものである。
【0110】
したがって、図19に示すように、摩耗判定処理S4において第2閾値より小さく且つ第1閾値より大きい場合(摩耗判定処理S4;Yes)には、「第1閾値と同じ値の電圧」と「第2閾値より小さく第1閾値より大きい電圧」が周期的に混在するか否かを判定する第2摩耗判定処理S8を行う。そして、第2摩耗判定処理S8において、上記2つの周波数が周期的に混在する場合(第2摩耗判定処理S8;Yes)には、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRに摩耗が生じているとの摩耗状態推定結果(摩耗信号)を出力し(第2摩耗信号出力処理S9A)、第2摩耗判定処理S8において、上記2つの周波数が周期的に混在しない場合(第2摩耗判定処理S8;No)には、摩耗判定対象パーツJである樹脂ブッシュRに摩耗が生じていないとの摩耗状態推定結果(摩耗信号)を出力する(第2摩耗信号出力処理S9B)。
【0111】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。例えば、閾値(第1閾値、摩耗量判定用閾値、第2閾値も含む)ついては、上述の各実施形態で明示した「以上」を「より大きい」に変更したり、「より小さい」を「以下」に設定する等、状況に応じて適宜定義した値に設定することができ、出力信号の検出誤差やノイズ等を考慮して、例えば、「第1閾値以上」を「第1閾値±5%以上」とする等、幅を持たせた値に設定することもできる。
【0112】
また、摩耗判定対象パーツに関して、摩耗の有無を検知せずに(摩耗状態推定処理を実施せずに)、摩耗量の推定を行う構成にすることも可能である。さらには、上述の各実施形態では、摩耗判定部による判定結果を経て摩耗量推定部よる摩耗量推定処理を行う態様を例示したが、第2摩耗判定部による判定結果を経て、具体的には、第2摩耗推定部で、2つの周波数の信号が周期的に混在するか否かを判定し、混在するとの判定結果を出力する場合に、摩耗量推定処理を行う態様を採用することもできる。
また、摩耗の有無検知及び摩耗量の推定を行うことなく、樹脂ブッシュが駆動ピンと駆動プレートの溝の間に介在しているか否かを推定する装着推定処理を行う構成にすることもできる。
【0113】
本発明に係るシステムを運用する上で扱う情報(周波数、電圧、信号、閾値等)を運行管理システムやクラウド等、列車の外部において収集するようにしてもよい。
【0114】
また、本発明に係る摩耗検知システムは、速度発電機のみならず、接触式の速度センサにも適用することもできる。速度センサが備える速度センサ本体は、例えば、列車の車軸と同軸状に配置された円筒状の筐体部を有しており、筐体部の内部にホール素子や永久磁石が組み込まれている。筐体部内のセンシング機構は、既知のものであり、例えば、列車の車軸と同軸状で回転自在に設けられて駆動プレートLと一体に回転する磁性体の歯車と、歯車の外周側に設けたホール素子及び永久磁石とを備え、歯車が回転した場合に、歯車の周囲の磁場の変化を電気信号に変換することで、歯車の回転速度、つまり車軸の回転速度を検出するように構成されたものである。速度検出器としてこのような速度センサを適用した本発明の摩耗検知システム(速度センサ摩耗検知システム)を構成した場合、センサ出力がパルス状であるため、周波数を入力情報として扱う上述の第1乃至第4実施形態に準じた運用になり、図1における速度発電機Gを接触式の速度センサに代えた構成になる。
【0115】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0116】
1…出力値検出部
2…摩耗推定部
3…装着推定部
10…摩耗量推定部
A…車軸
B…速度検出器本体(速度発電機本体)
G…速度検出器(速度発電機)
J…摩耗判定対象パーツ
L…駆動プレート
L2…溝
P…駆動ピン
R…樹脂ブッシュ
X…速度検出器摩耗検知システム(速度発電機摩耗検知システム)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図19