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特開2023-161204電気分解用の陽極電極及び電気分解用の陽極電極の製造方法
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  • 特開-電気分解用の陽極電極及び電気分解用の陽極電極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161204
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】電気分解用の陽極電極及び電気分解用の陽極電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/077 20210101AFI20231030BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20231030BHJP
   C25B 11/063 20210101ALI20231030BHJP
【FI】
C25B11/077
C25B11/052
C25B11/063
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071411
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】文 亮太
(72)【発明者】
【氏名】那須 勇作
(72)【発明者】
【氏名】兼田 慎平
【テーマコード(参考)】
4K011
【Fターム(参考)】
4K011AA21
4K011AA29
4K011DA03
(57)【要約】
【課題】電流効率の向上が可能な電気分解用の陽極電極及び電気分解用の陽極電極の製造方法を提供する。
【解決手段】電気分解用の陽極電極は、基体と、基体上に形成されたチタニア触媒層とを備え、チタニア触媒層には、ホウ素、窒素、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも1つであるドーピング元素が0.5~20mol%の濃度でドープされている。この陽極電極の製造方法は、基体を準備する準備ステップと、基体上にチタニア触媒層を形成する形成ステップと、ドーピング元素をチタニア触媒層にドープするドーピングステップとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成されたチタニア触媒層と
を備え、
前記チタニア触媒層には、ホウ素、窒素、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも1つであるドーピング元素が0.5~20mol%の濃度でドープされている、電気分解用の陽極電極。
【請求項2】
基体を準備する準備ステップと、
前記基体上にチタニア触媒層を形成する形成ステップと、
ホウ素、窒素、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも1つであるドーピング元素を前記チタニア触媒層にドープするドーピングステップと
を含み、
前記ドーピング元素の濃度は0.5~20mol%である、電気分解用の陽極電極の製造方法。
【請求項3】
前記形成ステップは、
チタニア触媒の粉末を製造するステップと、
前記チタニア触媒の粉末を前記基体上に塗布するステップと
を含む、請求項2に記載の電気分解用の陽極電極の製造方法。
【請求項4】
前記ドーピングステップは、前記チタニア触媒の粉末を製造する間に前記ドーピング元素を前記チタニア触媒の粉末にドープさせることによって行われる、請求項3に記載の電気分解用の陽極電極の製造方法。
【請求項5】
前記準備ステップでは、チタン製の前記基体を準備し、
前記形成ステップは前記基体を焼成することにより行われ、
前記ドーピングステップは、前記基体上に形成された前記チタニア触媒層に前記ドーピング元素をドープさせることによって行われる、請求項2に記載の電気分解用の陽極電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気分解用の陽極電極及び電気分解用の陽極電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属をドープしたチタニア薄膜を基板上に塗布した積層体が記載されている。特許文献2には、炭素原子と窒素原子と金属イオンとを含有する酸化チタンを含む可視光応答型光触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-39270号公報
【特許文献2】特許第4142092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の積層体は光学フィルムや太陽電池用材料としての用途を想定し、チタニア薄膜の電気抵抗率が1×10Ωcm以下であることを特徴としている。特許文献2は、可視光から近赤外領域までの広い吸収範囲を有するという定性的に優れた可視光応答型光触媒を記載している。しかしながら、これらの技術を工業電解用の電極に適用したとしても、技術分野が異なることから、必ずしも優れた性能を得られるものではない。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、電流効率の向上が可能な電気分解用の陽極電極及び電気分解用の陽極電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る電気分解用の陽極電極は、基体と、前記基体上に形成されたチタニア触媒層とを備え、前記チタニア触媒層には、ホウ素、窒素、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも1つであるドーピング元素が0.5~20mol%の濃度でドープされている。
【0007】
また、本開示に係る電気分解用の陽極電極の製造方法は、基体を準備する準備ステップと、前記基体上にチタニア触媒層を形成する形成ステップと、ホウ素、窒素、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも1つであるドーピング元素を前記チタニア触媒層にドープするドーピングステップとを含み、前記ドーピング元素の濃度は0.5~20mol%である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電気分解用の陽極電極及び電気分解用の陽極電極の製造方法によれば、電気分解に適した量のドーピング元素がチタニア触媒層にドープされているので、電気分解の電流効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る電気分解用の陽極電極の構成を示す模式図である。
図2】本開示の一実施形態に係る電気分解用の陽極電極の製造方法を示すフローチャートである。
図3】本開示の一実施形態に係る電気分解用の陽極電極の製造方法において、ドーピング元素をドープしたチタニア触媒の粉末を製造する方法の一例を示す工程図である。
図4】本開示の一実施形態に係る電気分解用の陽極電極の製造方法において、ドーピング元素をドープしたチタニア触媒の粉末を製造する方法の別の例を示す工程図である。
図5】本開示の一実施形態に係る電気分解用の陽極電極の製造方法において、ドーピング元素をドープしたチタニア触媒の粉末を製造する方法のさらに別の例を示す工程図である。
図6図3~5のいずれかの方法で製造したチタニア触媒の粉末を基体に塗布する方法の一例を示す工程図である。
図7】本開示の一実施形態に係る電気分解用の陽極電極の製造方法を示す工程図である。
図8】実施例1~4及び比較例1のそれぞれの方法で作成した陽極電極を用いて電気分解実験を行った場合の電流効率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態による電気分解用の陽極電極及び電気分解用の陽極電極の製造方法について、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
<本開示の電気分解用の陽極電極の構成>
図1に模式的に示される本開示の陽極電極1は、ソーダ電解や海水電解、有機電解合成等の電気分解に用いられるものである。陽極電極1は、チタンやカーボン等で製造された基体2の表面上にチタニア触媒層3が形成された構成を有している。チタニア触媒層3にはチタニア触媒が含まれており、さらに、ホウ素、窒素、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも1つであるドーピング元素が0.5~20mol%の濃度でドープされている。
【0012】
<本開示の電気分解用の陽極電極の製造方法>
本開示の電気分解用の陽極電極1の製造方法の一実施形態は、図2のフローチャートに示されるように、基体2を準備する準備ステップS1と、基体2の表面上にチタニア触媒層3を形成する形成ステップS2と、ドーピング元素をチタニア触媒層3にドープするドーピングステップS3とを含んでいる。図2のフローチャートでは、形成ステップS2の後にドーピングステップS3を行っているが、この形態に限定するものではない。形成ステップS2を行っている間にドーピングステップS3を行ってもよい。後者の形態の詳細については後述する。
【0013】
準備ステップS1では、例えば、陽極電極1に適した大きさ及び材料の基体2を購入することや、基体2の材料(チタンやカーボン等)から、陽極電極1に適した大きさの基体2を加工すること等を行う。
【0014】
形成ステップS2及びドーピングステップS3については、形成ステップS2を行っている間にドーピングステップS3を行う形態(以下、「第1形態」という)と、形成ステップS2を行った後にドーピングステップS3を行う形態(以下、「第2形態」という)とが存在する。以下では、それぞれの形態について詳述する。
【0015】
第1形態では、形成ステップS2は、チタニア触媒の粉末を製造するステップと、チタニア触媒の粉末を基体2上に塗布するステップとを含み、チタニア触媒の粉末を製造する間に、ドーピングステップS3を行う、すなわち、ドーピング元素をチタニア触媒の粉末にドープさせる。このため、ドーピング元素をドープしたチタニア触媒の粉末が基体2上に塗布されることによって陽極電極1が形成される。
【0016】
図3には、第1形態の一例の工程図を示している。これは、ドーピング方法にゾル-ゲル法を用いる形態である。エタノール等の溶媒に、チタン源とドーピング元素源とを溶解させる。チタン源として、例えば、チタンアルコキシドを使用できる。ドーピング元素源については、ドーピング元素がホウ素の場合には、ホウ化アルコキシドや高級アルコールを溶質とした塩化ホウ素等を使用でき、ドーピング元素が窒素の場合には、試薬酢酸アンモニウムや炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩を使用でき、ドーピング元素がアルミニウムの場合には、試薬アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドを使用でき、ドーピング元素がケイ素の場合には、試薬ケイ酸エチル等のケイ素アルコキシドを使用でき、ドーピング元素がジルコニウムの場合には、試薬ジルコニウムテトラプロポキシド等のジルコニウムアルコキシドを使用できる。
【0017】
溶媒にチタン源とドーピング元素源とを溶解させた後、尿素、アンモニア、又は氷酢酸等の有機酸等であるpH調整溶剤を添加して、溶液のpHが3~9の範囲になるように調整し、ゾルを作製する。このゾルを乾燥させてゲルを作製する。このゲルを150~500℃の空気雰囲気下で30分以上焼成することにより、複合酸化物であるチタニア触媒の粉末が製造される。
【0018】
図4には、第1形態の別の例の工程図を示している。これは、ドーピング方法に固相法を用いる形態であり、ドーピング元素がホウ素、ケイ素、ジルコニウム、又はアルミニウムの場合である。チタンとドーピング元素源とを混合し、この混合物を150~500℃の空気雰囲気下で30分以上焼成することにより、複合酸化物であるチタニア触媒の粉末が製造される。
【0019】
図5には、図4に示される形態に対してドーピング元素を窒素とした場合の工程図を示している。酸化チタンと尿素とを混合し、この混合物を450℃のアンモニア気流中で2時間以上焼成することにより、複合酸化物であるチタニア触媒の粉末が製造される。
【0020】
図6には、図3~5の工程図で示される方法で得られたチタニア触媒の粉末を基体2上に塗布するステップの一例を示す工程図を示している。チタニア触媒の粉末を粉砕した後、水を加えてチタニア触媒のスラリーを調製する。このスラリーを基体2の表面に塗布することにより、陽極電極1が製造される。
【0021】
ドーピング方法としてゾル-ゲル法及び固相法の例を挙げたが、これらに限定するものではない。ゾル-ゲル法及び固相法以外の化学ドーピング法を用いることもできるし、イオンスパッタリング法等の物理的ドーピング法を用いることもできる。
【0022】
次に、第2形態による陽極電極1の製造方法の一例を、図7の工程図を参照して説明する。準備ステップS1では、チタン製の基体2を準備する。続く形成ステップS2では、基体2を150~500℃にて30分以上焼成する。これにより、基体2の表面にチタニア触媒層3が形成される。次のドーピングステップS3では、ドーピング元素源を含有する溶液に基体2を浸すことにより、又は、溶液を基体2の表面に塗布することにより、ドーピング元素源をチタニア触媒層3内に浸透させ、基体2を溶液から取り出して乾燥した後、基体2を150~500℃にて30分以上焼成する。これにより、チタニア触媒層3にドーピング元素がドープされる。必要に応じてチタニア触媒層3の表面を研磨し、陽極電極1が製造される。
【0023】
<本開示の電気分解用の陽極電極を用いた場合の作用効果>
例えばソーダ電解では、陽極の反応において湿潤塩素が発生するため、陽極電極は強腐食性酸性溶液における使用となる。例えば海水電解では、塩素が発生する他に、海水中に含まれる水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、二酸化マンガン等を成分とするスケールが発生する可能性があるので、これらの成分の除去のために、陽極電極を定期的に酸で洗浄する必要がある。このため、陽極電極には対酸性に優れた耐久性が要求される。例えば有機電解合成では、生成物として、一酸化炭素、亜硝酸イオン、アンモニアといった強力な配位子場を与えるCOD成分が発生する場合があり、このような場合には、陽極電極の触媒に含有される貴金属が錯化して失活・溶出等の劣化が生じる可能性がある。
【0024】
上述した理由で、ソーダ電解や海水電解では、酸化消耗を受けずに耐蝕性の優れたチタン製の基体に触媒を被覆した電極(例えば、寸法安定性電極(DSA(登録商標)))が主に使用される。触媒として、塩素等のハロゲン酸化活性種の共存下でも使用可能な白金、イリジウム、ルテニウムといった貴金属類を使用する必要があり、非常に高価なため、長期使用による溶出や劣化に伴う交換コストも高額となる。また、有機電解合成でも、貴金属類の劣化による早期の性能低下が大きな課題になると推測される。腐食性条件下でも十分な性能を得られるように触媒の電極への担持方法の工夫がこれまでにもなされてきているが、貴金属類を使用する限りは高価であるという課題は解決されない。貴金属の劣化に対する技術としては、ダイヤモンドにホウ素や窒素といった元素をドープして導電性を付与した電極を使用する方法がある。ダイヤモンドはチタン製の基体以上の耐腐食性及び耐摩耗性を有するだけではなく、電気分解可能な範囲が広く様々な物質に適用可能といった利点はあるものの、チタンを用いる場合よりも高価であること、実用化に対する課題が多いこと等が課題である。
【0025】
これに対し、上述した本開示の電気分解用の陽極電極1では、高価な貴金属触媒を使用する代わりに、腐食に強く安価なチタニア触媒を使用しているため、コストを低下することができる。また、通常のチタニア触媒は、TiOの形態であるため電気的に絶縁体であるが、チタニアと異なる原子価を有するドーピング元素を用途に応じて選定してチタニア触媒にドープすることにより、複合酸化物を生成させる。これにより、Ti2+やTi3+のような複数の異なる原子価のチタンを共存させることによりチタニア触媒が導電性を獲得するとともに、電子吸引性を変化させることにより、反応選択性の向上効果、すなわち電流効率の向上効果が得られる。
【0026】
このように電流効率が向上する原理としては、次のように推測できる。チタニア触媒にドーピング元素をドープすることによってチタニアとドーピング元素との複合酸化物を生成させることで、チタニアの表面のルイス酸点が増大し、ハロゲン化物イオンに代表される求核性配位子の吸着及び酸化反応の選択性が高まるので、反応時の電流効率が向上する。例えばソーダ電解を例にすると、ルイス酸点の増大で塩化物イオンから電子対をはぎ取る活性点が増えるため、塩素発生反応の選択性が向上する、すなわち電流効率が向上すると推測される。
【実施例0027】
<実施例1>
実施例1の陽極電極は、ゾル-ゲル法でホウ素をドープしたチタニア触媒をカーボン製の基体に塗布することによって得られた電極である。その製造方法は次の通りである。300ccビーカーに、50mLのエタノールと0.95gのホウ酸とを入れ、ホウ酸が溶解するまで攪拌した。この溶液に、20.9gのチタンノルマルブトキシドを添加した。この溶液を氷酢酸でpHが3~4の範囲になるように調整して、30分間攪拌した。この溶液に100mLのエタノールを添加し、2時間攪拌した。この溶液にアンモニア水を添加することでpHが9となるように調整した。この溶液に、50mLのエタノールを添加し、30分間攪拌した。この溶液を吸引濾過し、濾上物を50ccの特級エタノールで洗浄することを3回繰り返した。濾上物を60℃の温度下で一晩かけて乾燥した。この乾燥物を、通風式のオーブン(UTO-21C、光洋サーモシステム株式会社)内で500℃の温度で30分間焼成した。この焼成物を、遊星ボールミル(PULVERISETTE 6、フリッチュ・ジャパン株式会社)を用いて、350rpmで10分間粉砕した。この粉砕物に水を入れ、スラリー濃度が30質量%のスラリーを調製した。25×25×1mmtのガラス状カーボンプレート(P-1、ビー・エー・エス株式会社)の表面をサンドペーパーで傷つけ、傷つけた表面に上述のスラリーを刷毛で塗布した。ガラス状カーボンプレートへの触媒コート量が20g/mとなるようにスラリーを塗布した。これにより、チタニア触媒層にホウ素を3質量%ドープした陽極電極が得られた。
【0028】
<実施例2>
実施例2の陽極電極は、300ccビーカーに、50mLのエタノールと3.80gのホウ酸とを入れた以外の条件は実施例1と同じにして作成したものである。これにより、チタニア触媒層にホウ素を12質量%ドープした陽極電極が得られた。
【0029】
<実施例3>
実施例3の陽極電極は、固相法でホウ素をドープしたチタニア触媒をカーボン製の基体に塗布することによって得られた電極である。その製造方法は次の通りである。10gの二ホウ化チタン(620-78655、キシダ化学株式会社)を、実施例1で使用したオーブン内で500℃の温度で10時間焼成した。この焼成物を、実施例1で使用した遊星ボールミルを用いて、350rpmで10分間粉砕した。この粉砕物に水を入れ、スラリー濃度が30質量%のスラリーを調製した。実施例1と同じようにして表面を傷つけたガラス状カーボンプレートの表面に、上述のスラリーを刷毛で塗布した。ガラス状カーボンプレートへの触媒コート量が20g/mとなるようにスラリーを塗布した。これにより、チタニア触媒層にホウ素を0.5mol%ドープした陽極電極が得られた。
【0030】
<実施例4>
実施例4の陽極電極は、固相法で窒素をドープしたチタニア触媒をカーボン製の基体に塗布することによって得られた電極である。その製造方法は次の通りである。10gの酸化チタン(ST01、石原産業株式会社)を乳鉢に入れ、酸化チタンと尿素との質量比が1:3、1:1、3:1となるように尿素を乳鉢に段階的に添加しながら、酸化チタンと尿素とを混合した。尿素の添加を終えて混合物を十分混合した後、少量の純水を乳鉢に添加し、混合物を練り上げた。この混合物を、実施例1で使用したオーブン内でアンモニアガスを通風させた条件下で、450℃の温度で2時間焼成した。この焼成物を、実施例1で使用した遊星ボールミルを用いて、350rpmで10分間粉砕した。この粉砕物に水を入れ、スラリー濃度が30質量%のスラリーを調製した。実施例1と同じようにして表面を傷つけたガラス状カーボンプレートの表面に、上述のスラリーを刷毛で塗布した。ガラス状カーボンプレートへの触媒コート量が20g/mとなるようにスラリーを塗布した。これにより、チタニア触媒層に窒素を0.1質量%(0.6mol%)ドープした陽極電極が得られた。
【0031】
<比較例1>
比較例1の陽極電極は、ドーピング元素をドープしないチタニア触媒をカーボン製の基体に塗布することによって得られた電極である。その製造方法は、実施例1の方法においてホウ酸の添加を省いた以外は実施例1の方法と同じである。
【0032】
<電気分解実験の方法>
実施例1~4及び比較例1のそれぞれの方法で得られた各陽極電極と、チタン板である陰極電極とを、塩酸でpHを3に調整した飽和食塩水である電解液40mLに浸し、0.9Aの電流(電流密度100mA/cm)を90秒間通電させることにより電気分解実験を行った。通電終了後、10mLの電解液を分取し、速やかにヨウ化カリウムを加えて酸化還元滴定(ヨードメトリ)を行い、JIS-K0102によって塩素濃度を定量した。定量した塩素濃度が、電流値及び電解時間から求められる電流濃度に対して何%相当であるかを計算した。これを電流効率とした。実施例1~4及び比較例1のそれぞれの方法で得られた各陽極電極を用いて電気分解実験を行ったときの電流効率の結果を図8に示す。
【0033】
ホウ素又は窒素をチタニア触媒層にドープした実施例1~4はいずれも、ドーピング元素をチタニア触媒層にドープしていない比較例1よりも電流効率が高いことがわかった。これにより、本開示の電気分解用の陽極電極を用いて電気分解を行うと、電気分解の電流効率を向上することができることが分かる。
【0034】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0035】
[1]一の態様に係る電気分解用の陽極電極は、
基体(2)と、
前記基体(2)上に形成されたチタニア触媒層(3)と
を備え、
前記チタニア触媒層(3)には、ホウ素、窒素、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも1つであるドーピング元素が0.5~20mol%の濃度でドープされている。
【0036】
本開示の電気分解用の陽極電極によれば、電気分解に適した量のドーピング元素がチタニア触媒層にドープされているので、電気分解の電流効率を向上することができる。
【0037】
[2]一の態様に係る電気分解用の陽極電極の製造方法は、
基体(2)を準備する準備ステップと、
前記基体(2)上にチタニア触媒層(3)を形成する形成ステップと、
ホウ素、窒素、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも1つであるドーピング元素を前記チタニア触媒層(3)にドープするドーピングステップと
を含み、
前記ドーピング元素の濃度は0.5~20mol%である。
【0038】
このような方法によれば、電気分解に適した量のドーピング元素をチタニア触媒層にドープするので、電気分解の電流効率を向上することができる。
【0039】
[3]別の態様に係る電気分解用の陽極電極の製造方法は、[2]の電気分解用の陽極電極の製造方法であって、
前記形成ステップは、
チタニア触媒の粉末を製造するステップと、
前記チタニア触媒の粉末を前記基体(2)上に塗布するステップと
を含む。
【0040】
このような方法によれば、基体上に確実にチタニア触媒層を形成することができる。
【0041】
[4]さらに別の態様に係る電気分解用の陽極電極の製造方法は、[3]の電気分解用の陽極電極の製造方法であって、
前記ドーピングステップは、前記チタニア触媒の粉末を製造する間に前記ドーピング元素を前記チタニア触媒の粉末にドープさせることによって行われる。
【0042】
このような方法によれば、ドーピング元素をドープしたチタニア触媒の粉末を基体上に塗布するによりチタニア触媒層を形成するので、チタニア触媒層に確実にドーピング元素をドープすることができる。
【0043】
[5]さらに別の態様に係る電気分解用の陽極電極の製造方法は、[2]の電気分解用の陽極電極の製造方法であって、
前記準備ステップでは、チタン製の前記基体(2)を準備し、
前記形成ステップは前記基体(2)を焼成することにより行われ、
前記ドーピングステップは、前記基体(2)上に形成された前記チタニア触媒層(3)に前記ドーピング元素をドープさせることによって行われる。
【0044】
このような方法によれば、チタニア触媒の粉末を製造して基体に塗布する場合に比べて、これらの工程を省略できるので、製造工程を簡略化することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 陽極電極
2 基体
3 チタニア触媒層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8