(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161235
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】航続可能距離算出装置及び航続可能距離算出方法
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20231030BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20231030BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20231030BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20231030BHJP
【FI】
B60L3/00 S
B60L7/14
B60L50/60
B60L58/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071469
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 怜
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BC18
5H125CB02
5H125CD02
5H125EE01
5H125EE27
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】移動体の走行状態に追従した航続可能距離を算出すること。
【解決手段】本開示の一態様に係る航続可能距離算出装置は、動力源である電動機13、及び、電動機13に電力を供給する蓄電装置11を備える移動体1の航続可能距離を算出する。航続可能距離算出装置は、蓄電装置11の残容量を算出する残容量算出部152と、移動体1の走行距離及び蓄電装置11の電力消費量に基づいて、電費を算出する電費算出部153と、電動機13の状態に基づいて、電費を増減させる度合いを示すレート係数を設定する設定部155と、レート係数を用いて、電費を補正するレート処理を実行するレート処理部156と、レート処理が実行された電費及び蓄電装置11の残容量に基づいて、移動体1の航続可能距離を算出する距離算出部157と、移動体1の航続可能距離をメータに表示させる表示制御部158と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源である電動機、及び、前記電動機に電力を供給する蓄電装置を備える移動体の航続可能距離を算出する航続可能距離算出装置であって、
前記蓄電装置の残容量を算出する残容量算出部と、
前記移動体の走行距離及び前記蓄電装置の電力消費量に基づいて、電費を算出する電費算出部と、
前記電動機の状態に基づいて、前記電費を増減させる度合いを示すレート係数を設定する設定部と、
前記レート係数を用いて、前記電費を補正するレート処理を実行するレート処理部と、
レート処理が実行された前記電費及び前記蓄電装置の残容量に基づいて、前記移動体の航続可能距離を算出する距離算出部と、
前記移動体の航続可能距離をメータに表示させる表示制御部と、を備える、
航続可能距離算出装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記電動機の状態が力行に対応する状態である場合に、電費を減少させるための係数を前記レート係数として設定する、請求項1記載の航続可能距離算出装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記電動機の状態が回生に対応する状態である場合に、電費を増加させるための係数を前記レート係数として設定する、請求項1記載の航続可能距離算出装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記電動機の状態が力行又は回生のいずれにも対応しない状態である場合に、電費を増減させないための係数を前記レート係数として設定する、請求項1記載の航続可能距離算出装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記蓄電装置の残容量が第1範囲である場合に、前記レート係数として設定する値を第1の値に決定し、前記蓄電装置の残容量が前記第1範囲よりも小さい第2範囲である場合に、前記レート係数として設定する値を前記第1の値よりも大きい第2の値に決定する、請求項1~4のいずれか一項記載の航続可能距離算出装置。
【請求項6】
動力源である電動機、及び、前記電動機に電力を供給する蓄電装置を備える移動体の航続可能距離を算出する航続可能距離算出方法であって、
前記蓄電装置の残容量を算出するステップと、
前記移動体の走行距離及び前記蓄電装置の電力消費量に基づいて、電費を算出するステップと、
前記電動機の状態に基づいて、前記電費を増減させる度合いを示すレート係数を設定するステップと、
前記レート係数を用いて、前記電費を補正するレート処理を実行するレート処理部と、
レート処理が実行された前記電費及び前記蓄電装置の残容量に基づいて、前記移動体の航続可能距離を算出するステップと、
前記移動体の航続可能距離をメータに表示させるステップと、を備える、
航続可能距離算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一態様は、航続可能距離算出装置及び航続可能距離算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等の移動体の航続可能距離を算出する技術が知られている(例えば特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-162618号公報
【特許文献2】特許第5905801号公報
【特許文献3】特開2020-072581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航続可能距離は、バッテリの残容量、及び過去の電費に基づいて算出される。従来の算出手法では、航続可能距離が現在の移動体の走行状態に追従しない場合がある。この場合、メータに表示された航続可能距離は、ドライバの操作感覚と異なり得る。
【0005】
本開示は、移動体の走行状態に追従した航続可能距離を算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る航続可能距離算出装置は、動力源である電動機、及び、電動機に電力を供給する蓄電装置を備える移動体の航続可能距離を算出する。航続可能距離算出装置は、蓄電装置の残容量を算出する残容量算出部と、移動体の走行距離及び蓄電装置の電力消費量に基づいて、電費を算出する電費算出部と、電動機の状態に基づいて、電費を増減させる度合いを示すレート係数を設定する設定部と、レート係数を用いて、電費を補正するレート処理を実行するレート処理部と、レート処理が実行された電費及び蓄電装置の残容量に基づいて、移動体の航続可能距離を算出する距離算出部と、移動体の航続可能距離をメータに表示させる表示制御部と、を備える。
【0007】
本開示の一態様に係る航続可能距離算出方法は、動力源である電動機、及び、電動機に電力を供給する蓄電装置を備える移動体の航続可能距離を算出する。航続可能距離算出方法は、蓄電装置の残容量を算出するステップと、移動体の走行距離及び蓄電装置の電力消費量に基づいて、電費を算出するステップと、電動機の状態に基づいて、電費を増減させる度合いを示すレート係数を設定するステップと、レート係数を用いて、電費を補正するレート処理を実行するレート処理部と、レート処理が実行された電費及び蓄電装置の残容量に基づいて、移動体の航続可能距離を算出するステップと、移動体の航続可能距離をメータに表示させるステップと、を備える。
【0008】
本開示の一態様に係る航続可能距離算出装置及び航続可能距離算出方法では、移動体が備える蓄電装置の残容量、及び電費がそれぞれ算出される。移動体が備える電動機の状態に基づいてレート係数が設定される。ここで、電動機の状態は移動体の走行状態を示すため、レート係数には、移動体の走行状態が反映される。そして、レート係数を用いてレート処理が実行された電費及び蓄電装置の残容量に基づいて、移動体の航続可能距離が算出され、該航続可能距離がメータに表示される。これにより、移動体の走行状態が航続可能距離に反映される。その結果、移動体の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【0009】
航続可能距離算出装置において、設定部は、電動機の状態が力行に対応する状態である場合に、電費を減少させるための係数をレート係数として設定してもよい。レート係数によって電費が減少すると、航続可能距離も減少する。これにより、ドライバの操作感覚により近くなるように、移動体の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【0010】
航続可能距離算出装置において、設定部は、電動機の状態が回生に対応する状態である場合に、電費を増加させるための係数をレート係数として設定してもよい。レート係数によって電費が増加すると、航続可能距離も増加する。これにより、ドライバの操作感覚により近くなるように、移動体の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【0011】
航続可能距離算出装置において、設定部は、電動機の状態が力行又は回生のいずれにも対応しない状態である場合に、電費を増減させないための係数をレート係数として設定してもよい。レート係数によって電費の増減が抑制されると、航続可能距離の増減も抑制される。これにより、ドライバの操作感覚により近くなるように、移動体の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【0012】
航続可能距離算出装置において、設定部は、蓄電装置の残容量が第1範囲である場合に、レート係数として設定する値を第1の値に決定し、蓄電装置の残容量が第1範囲よりも小さい第2範囲である場合に、レート係数として設定する値を第1の値よりも大きい第2の値に決定してもよい。蓄電装置の残容量が第1範囲の(大きい)場合には、第1の(小さい)値のレート係数が設定され、蓄電装置の残容量が第2範囲の(小さい)場合には、第2の(大きい)値のレート係数が設定される。算出される航続可能距離は、レート係数の値が小さい場合には移動体の走行状態に対する追従性が高くなり、レート係数の値が大きい場合には実際の航続可能距離に対する追従性が高くなる。したがって、蓄電装置の残容量が大きい場合には、移動体の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。蓄電装置の残容量が小さい場合には、実際の航続可能距離に追従した航続可能距離が算出されるため、充電設備との距離関係を意識した運航計画を立てやすくなる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、移動体の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本実施形態に係るECUに関連する機能構成の一例を示す図である。
【
図3】レート処理前後における電費の一例を示す図である。
【
図4】レート処理の一例を示す図である。
図4の(a)は、平均電費の増加に係るレート処理の一例を示す図である。
図4の(b)は、平均電費の減少に係るレート処理の一例を示す図である。
【
図5】ECUの処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付すこととし、同一又は相当の部分に対する重複した説明は省略する。
【0016】
本実施形態に係る航続可能距離算出装置は、移動体に搭載される。移動体は、例えば走行用の駆動力を出力するモータを備える電気自動車である。航続可能距離算出装置は、移動体のエネルギーを用いて、移動体の走行が可能な距離の予測値である航続可能距離を算出する。
【0017】
図1は、移動体1の基本構成を示した図である。なお、
図1においては、移動体1の基本構成の一部(駆動輪、デファレンシャル装置、ギヤ機構等)が省略されている。移動体1は、例えば荷物を輸送する商用車である。
【0018】
図1に示されるように、移動体1は、蓄電装置11と、インバータ12と、電動機13と、燃料電池14と、ECU15(Electronic Control Unit)と、メータ16と、を備えている。
【0019】
蓄電装置11は、電動機13を駆動する電力を供給する駆動エネルギー源(バッテリ)である。蓄電装置11は、ECU15へ温度や出力制限値を含む蓄電装置11の状態を通知してもよい。
【0020】
インバータ12は、例えばIGBT及びダイオードを有する三相ブリッジ回路である。インバータ12は、ECU15からの制御信号に応じてIGBTのオン/オフ状態を切り替え、力行制御又は回生制御を行う。
【0021】
電動機13は、走行用の駆動力を出力する動力源(駆動モータ)である。電動機13は、例えば交流同期型であり、電動機として機能すると共に発電機として機能する。電動機13は、永久磁石からなるロータと、3相巻線が巻回されたステータと、を有する。ロータには、ギヤ機構(不図示)及びデファレンシャル装置(不図示)を介して駆動輪(不図示)が連結されている。
【0022】
燃料電池14は、ECU15からの制御信号に応じて電動機13を駆動する電力を供給する。移動体1は、燃料電池14を備えていなくてもよい。なお、移動体1は、電動機13を駆動する電力を供給する電力供給部として、エンジン及び発電機を含んでいてもよい。
【0023】
ECU15は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、バックアップRAMと、入出力インターフェースと、通信インターフェースとを含んでいる。ECU15は、各構成を制御する制御部である。本実施形態において、ECU15は、航続可能距離算出装置として機能する。
【0024】
メータ16は、移動体1の各種情報を表示する。例えば、メータ16は、移動体1の走行距離を計測し、液晶パネル等の表示装置上に走行距離を表示する。メータ16は、例えば航続可能距離、電費、蓄電装置11の残容量、シフトポジション、及び走行速度等も表示するが、表示する内容はこれらに限られない。
【0025】
移動体1では、電動機13からの回生電力が、インバータ12を介して蓄電装置11に供給可能とされている。
【0026】
図2は、実施形態に係るECU15に関連する機能構成の一例を示す図である。ECU15は、機能要素として取得部150と、記憶部151と、残容量算出部152と、電費算出部153と、状態判定部154と、設定部155と、レート処理部156と、距離算出部157と、表示制御部158と、を備えている。
【0027】
取得部150は、航続可能距離を算出するために必要な各種情報を取得する。取得部150は、例えば蓄電装置11から、蓄電装置11の満容量[kWh]及び満容量に対する比率である現在容量[%]を取得する。取得部150は、例えばインバータ12に取り付けられた電流センサから、検出された電流の情報等を取得する。取得部150は、例えばメータ16から、移動体1の走行距離を取得する。取得部150は、移動体1の走行距離、蓄電装置11の情報等を記憶部151に格納してもよい。
【0028】
記憶部151は、移動体1の走行距離、蓄電装置11の情報等を記憶する非一時的な記憶媒体又は記憶装置である。記憶部151は、各機能要素の処理における一時的な情報を記憶してもよい。
【0029】
残容量算出部152は、蓄電装置11の残容量を算出する。例えば、残容量算出部152は、満容量[kWh]に現在容量[%]を乗算することによって、蓄電装置11の残容量[kWh]を算出する。
【0030】
電費算出部153は、移動体1の走行距離及び蓄電装置11の電力消費量に基づいて、電費を算出する。例えば、電費算出部153は、走行距離を電力消費量で除算した値を電費[km/kWh]とする。したがって、電費の値が大きいほど電費が良い(高い)と言える。電費算出部153は、短距離の走行区間におけるそれぞれの電費に基づいて、走行区間ごとの電費を算出してもよい。電費算出部153は、このような短距離の走行区間における過去N回(N≧1)の電費を記憶部151に格納してもよい。電費算出部153は、過去N回の電費の平均値(以下、「平均電費」という。)を算出結果としてもよい。一例では、電費算出部153は、短距離の走行区間(10km)における10回分の平均電費を算出し、所定の走行区間(100km)における電費として算出してもよい。本実施形態において、電費算出部153は、平均電費を算出するものとして説明する。
【0031】
状態判定部154は、電動機13の状態が、力行に対応する状態であるか、回生に対応する状態であるか、或いは、力行又は回生のいずれにも対応しない状態であるかを判定する。力行又は回生のいずれにも対応しない状態とは、例えば移動体1が停止している状態である。例えば、状態判定部154は、電動機13の状態としてトルクの状態を検出する。一例では、状態判定部154は、インバータ12における電流、及び電動機13の定格回転速度等により、電動機13のトルクの状態を算出してもよい。トルクの状態は、トルクセンサ等により検出してもよい。そして、状態判定部154は、トルクの状態が正方向である場合、電動機13の状態が力行に対応する状態であると判定する。状態判定部154は、トルクの状態が負方向である場合、電動機13の状態が回生に対応する状態であると判定する。状態判定部154は、トルクの状態が正方向又は負方向のいずれでもない場合、または電動機の回転が停止している場合、電動機13の状態が力行又は回生のいずれにも対応しない状態(停止に対応する状態)であると判定する。
【0032】
設定部155は、電動機13の状態に基づいて、電費を増減させる度合いを示すレート係数を設定する。レート係数は可変な値であり、例えば電費の値[kWh]であるがこれに限られない。設定すべきレート係数の値は、蓄電装置11の残容量に応じて決定されてもよい。例えば、設定部155は、蓄電装置11の残容量が大きいか、又は小さいかを判定する。一例では、設定部155は、蓄電装置11の残容量が第1範囲(例えば50%以上)である状態を残容量が大きいと判定してもよく、蓄電装置11の残容量が第1範囲よりも小さい第2範囲(例えば50%未満)である状態を残容量が小さいと判定してもよい。設定部155は、蓄電装置11の残容量が大きい場合にレート係数の値を第1の値(例えば0.1[km/kWh])と決定し、蓄電装置11の残容量が小さい場合にレート係数の値を第1の値よりも大きい第2の値(例えば0.5[km/kWh])と決定してもよい。このように、設定部155は、蓄電装置11の残容量が第1範囲である場合に、レート係数として設定する値を第1の値に決定し、蓄電装置11の残容量が第1範囲よりも小さい第2範囲である場合に、レート係数として設定する値を第1の値よりも大きい第2の値に決定する。
【0033】
設定部155は、電動機13の状態が力行に対応する状態である場合に、電費を減少させるための係数をレート係数として設定する。例えば、設定部155は、電動機13の状態が力行に対応する状態である場合に、電費の減少方向のレート係数に値を設定し、電費の増加方向のレート係数に0を設定する。
【0034】
設定部155は、電動機13の状態が回生に対応する状態である場合に、電費を増加させるための係数をレート係数として設定する。例えば、設定部155は、電動機13の状態が回生に対応する状態である場合に、電費の増加方向のレート係数に値を設定し、電費の減少方向のレート係数に0を設定する。
【0035】
設定部155は、電動機13の状態が力行又は回生のいずれにも対応しない状態である場合に、電費を増減させないための係数をレート係数として設定する。例えば、設定部155は、電動機13の状態が力行又は回生のいずれにも対応しない状態である場合に、電費の増加方向及び減少方向のレート係数に0を設定する。
【0036】
レート処理部156は、レート係数を用いて、電費を補正するレート処理を実行する。例えば、レート処理部156は、電費[km/kWh]にレート係数[km/kWh]を加算又は減算することによって、電費を補正する。
【0037】
距離算出部157は、レート処理が実行された電費及び蓄電装置11の残容量に基づいて、移動体1の航続可能距離を算出する。例えば、距離算出部157は、レート処理部156によってレート処理が実行された電費[km/kWh]に、残容量算出部152によって算出された蓄電装置11の残容量[kWh]を乗算することによって、移動体1の航続可能距離[km]を算出する。
【0038】
表示制御部158は、距離算出部157によって算出された移動体1の航続可能距離をメータ16に表示させる。
【0039】
図3は、レート処理前後における電費の一例を示す図である。
図3において、縦軸は平均電費、横軸は時間を示す。
図3では、レート処理前の平均電費が棒グラフで示されており、レート処理後の平均電費が折れ線グラフで示されている。
【0040】
レート処理後の平均電費は、レート処理前の平均電費と比較して、変化が緩やかになっている。例えば、レート処理前の平均電費は、棒グラフの値が切り替わる箇所において平均電費が急激に増減する場合がある。一方、レート処理後の平均電費は、棒グラフの値が切り替わった後、レート処理前の平均電費に徐々に近付いて収束している。レート処理前の平均電費の増減が急激なほど、レート処理後の平均電費は、レート処理前の平均電費に収束するために要する時間が長くなる。
【0041】
図3に示される「エネルギー源残量「小」判定」とは、設定部155により、蓄電装置11の残容量が第2範囲の状態であると判定された時点を示す。当該時点以前では、設定部は、レート係数の値に第1の値を設定する。当該時点以降では、設定部155は、レート係数の値に第2の値を設定する。当該時点以前では、レート処理後の平均電費の変化が緩やかなのに対し、当該時点以降では、レート処理後の平均電費の変化が急になっている。このような平均電費を用いて算出される航続可能距離は、レート係数の値が小さい場合には移動体1の走行状態に対する追従性(又は応答性)が高くなり、レート係数の値が大きい場合には実際の航続可能距離に対する追従性が高くなる。
【0042】
図4は、レート処理の一例を示す図である。
図4の(a)は、平均電費の増加に係るレート処理の一例を示す図である。
図4の(b)は、平均電費の減少に係るレート処理の一例を示す図である。設定部155及びレート処理部156は、電動機13の状態に応じてレート係数を切り替えながら、レート処理を実行する。
【0043】
図4の(a)を参照して、
図3における範囲Aのレート処理の一例を説明する。範囲Aは、平均電費が低い状態から平均電費が高い状態に移行する時の一例である。例えば、設定部155は、電動機13の状態が回生に対応する状態である場合に、電費の増加方向のレート係数に値を設定し、電費の減少方向のレート係数に0を設定する。レート処理部156は、このような電費を増加させるためのレート係数を用いて、平均電費を補正するレート処理を実行する。レート処理後の平均電費は、電動機13の状態が回生に対応する状態である場合に増加し、電動機13の状態が力行又は停止に対応する状態である場合に増減しない。
【0044】
図4の(b)を参照して、
図3における範囲Bのレート処理の一例を説明する。範囲Bは、平均電費が高い状態から平均電費が低い状態に移行する時の一例である。例えば、設定部155は、電動機13の状態が力行に対応する状態である場合に、電費の減少方向のレート係数に値を設定し、電費の増加方向のレート係数に0を設定する。レート処理部156は、このような電費を減少させるためのレート係数を用いて、平均電費を補正するレート処理を実行する。レート処理後の平均電費は、電動機13の状態が力行に対応する状態である場合に減少し、電動機13の状態が回生又は停止に対応する状態である場合に増減しない。
【0045】
[航続可能距離算出装置の動作]
図5を参照して、航続可能距離算出装置による航続可能距離算出方法の一例を説明する。航続可能距離算出方法は、ECU15が各機能要素を制御することにより実行される。
図5は、ECU15の処理の一例を示すフローチャートである。
【0046】
ステップS1において、取得部150は、航続可能距離を算出するために必要な各種情報を取得する。取得部150は、例えば蓄電装置11から、蓄電装置11の満容量[kWh]及び現在容量[%]を取得する。取得部150は、例えばインバータ12に取り付けられた電流センサから、検出された電流の情報等を取得する。取得部150は、例えばメータ16から、移動体1の走行距離を取得する。
【0047】
ステップS2において、残容量算出部152は、蓄電装置11の満容量[kWh]及び現在容量[%]に基づいて、蓄電装置11の残容量[kWh]を算出する。
【0048】
ステップS3において、電費算出部153は、移動体1の走行距離[km]及び蓄電装置11の電力消費量[kWh]に基づいて、平均電費[km/kWh]を算出する。
【0049】
ステップS4において、状態判定部154は、電動機13の状態が、力行に対応する状態であるか、回生に対応する状態であるか、或いは、力行又は回生のいずれにも対応しない状態であるかを判定する。例えば、状態判定部154は、インバータ12における電流、及び電動機13の定格回転速度等により、電動機13のトルクの状態を算出する。状態判定部154は、トルクの状態に基づいて電動機13の状態を判定する。
【0050】
ステップS5において、電動機13の状態が力行に対応する状態である場合(ステップS5においてYES)、処理はステップS6に進む。ステップS5において、電動機13の状態が力行に対応する状態でない場合(ステップS5においてNO)、処理はステップS7に進む。
【0051】
ステップS6において、設定部155は、電費を減少させるための係数をレート係数として設定する。例えば、設定部155は、電費の減少方向のレート係数に値を設定し、電費の増加方向のレート係数に0を設定する。
【0052】
ステップS7において、電動機13の状態が回生に対応する状態である場合(ステップS7においてYES)、処理はステップS8に進む。ステップS7において、電動機13の状態が回生に対応する状態でない場合(ステップS7においてNO)、処理はステップS9に進む。
【0053】
ステップS8において、設定部155は、電費を増加させるための係数をレート係数として設定する。例えば、設定部155は、電費の増加方向のレート係数に値を設定し、電費の減少方向のレート係数に0を設定する。
【0054】
ステップS9において、設定部155は、電費を増減させないための係数をレート係数として設定する。例えば、設定部155は、電費の増加方向及び減少方向のレート係数に0を設定する。
【0055】
ステップS6、S8及びS9に関連して、設定部155は、蓄電装置11の残容量に基づいて、設定すべきレート係数の値を決定する。例えば、設定部155は、蓄電装置11の残容量が第1範囲である場合に、レート係数として設定する値を第1の値に決定し、蓄電装置11の残容量が第1範囲よりも小さい第2範囲である場合に、レート係数として設定する値を第1の値よりも大きい第2の値に決定する。
【0056】
ステップS10において、レート処理部156は、レート係数を用いて、平均電費を補正するレート処理を実行する。例えば、レート処理部156は、平均電費[km/kWh]にレート係数[km/kWh]を加算又は減算することによって、平均電費を補正する。
【0057】
ステップS11において、距離算出部157は、レート処理が実行された平均電費[km/kWh]及び蓄電装置11の残容量[kWh]に基づいて、移動体1の航続可能距離[km]を算出する。
【0058】
ステップS12において、表示制御部158は、移動体1の航続可能距離をメータ16に表示させる。ECU15は、ステップS1~S12に示される処理の全部又は一部を所定時間ごとに繰り返し実行してよい。
【0059】
[効果]
以上説明したように、本開示の一態様に係る航続可能距離算出装置は、動力源である電動機13、及び、電動機13に電力を供給する蓄電装置11を備える移動体1の航続可能距離を算出する。航続可能距離算出装置は、蓄電装置11の残容量を算出する残容量算出部152と、移動体1の走行距離及び蓄電装置11の電力消費量に基づいて、電費を算出する電費算出部153と、電動機13の状態に基づいて、電費を増減させる度合いを示すレート係数を設定する設定部155と、レート係数を用いて、電費を補正するレート処理を実行するレート処理部156と、レート処理が実行された電費及び蓄電装置11の残容量に基づいて、移動体1の航続可能距離を算出する距離算出部157と、移動体1の航続可能距離をメータ16に表示させる表示制御部158と、を備える。
【0060】
本開示の一態様に係る航続可能距離算出方法は、動力源である電動機13、及び、電動機13に電力を供給する蓄電装置11を備える移動体1の航続可能距離を算出する。航続可能距離算出方法は、蓄電装置11の残容量を算出するステップと、移動体1の走行距離及び蓄電装置11の電力消費量に基づいて、電費を算出するステップと、電動機13の状態に基づいて、電費を増減させる度合いを示すレート係数を設定するステップと、レート係数を用いて、電費を補正するレート処理を実行するレート処理部156と、レート処理が実行された電費及び蓄電装置11の残容量に基づいて、移動体1の航続可能距離を算出するステップと、移動体1の航続可能距離をメータ16に表示させるステップと、を備える。
【0061】
本開示の一態様に係る航続可能距離算出装置及び航続可能距離算出方法では、移動体1が備える蓄電装置11の残容量、及び電費がそれぞれ算出される。移動体1が備える電動機13の状態に基づいてレート係数が設定される。ここで、電動機13の状態は移動体1の走行状態を示すため、レート係数には、移動体1の走行状態が反映される。そして、レート係数を用いてレート処理が実行された電費及び蓄電装置11の残容量に基づいて、移動体1の航続可能距離が算出され、該航続可能距離がメータ16に表示される。これにより、移動体1の走行状態が航続可能距離に反映される。その結果、移動体1の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【0062】
航続可能距離算出装置において、設定部155は、電動機13の状態が力行に対応する状態である場合に、電費を減少させるための係数をレート係数として設定してもよい。レート係数によって電費が減少すると、航続可能距離も減少する。これにより、ドライバの操作感覚により近くなるように、移動体1の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【0063】
航続可能距離算出装置において、設定部155は、電動機13の状態が回生に対応する状態である場合に、電費を増加させるための係数をレート係数として設定してもよい。レート係数によって電費が増加すると、航続可能距離も増加する。これにより、ドライバの操作感覚により近くなるように、移動体1の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【0064】
航続可能距離算出装置において、設定部155は、電動機13の状態が力行又は回生のいずれにも対応しない状態である場合に、電費を増減させないための係数をレート係数として設定してもよい。レート係数によって電費の増減が抑制されると、航続可能距離の増減も抑制される。これにより、ドライバの操作感覚により近くなるように、移動体1の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。
【0065】
航続可能距離算出装置において、設定部155は、蓄電装置11の残容量が第1範囲である場合に、レート係数として設定する値を第1の値に決定し、蓄電装置11の残容量が第1範囲よりも小さい第2範囲である場合に、レート係数として設定する値を第1の値よりも大きい第2の値に決定してもよい。蓄電装置11の残容量が第1範囲の(大きい)場合には、第1の(小さい)値のレート係数が設定され、蓄電装置11の残容量が第2範囲の(小さい)場合には、第2の(大きい)値のレート係数が設定される。算出される航続可能距離は、レート係数の値が小さい場合には移動体1の走行状態に対する追従性が高くなり、レート係数の値が大きい場合には実際の航続可能距離に対する追従性が高くなる。したがって、蓄電装置11の残容量が大きい場合には、移動体1の走行状態に追従した航続可能距離を算出することができる。蓄電装置11の残容量が小さい場合には、実際の航続可能距離に追従した航続可能距離が算出されるため、充電設備との距離関係を意識した運航計画を立てやすくなる。
【0066】
[変形例]
以上、本開示の実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0067】
上記実施形態では、レート係数が電費の値[km/kWh]である例を説明したが、レート係数が割合[%]であってもよい。レート処理部156は、電費[km/kWh]にレート係数[%]を乗算することによって、電費の値を補正してもよい。
【0068】
航続可能距離算出方法の処理手順は上記実施形態での例に限定されない。例えば、上述したステップ(処理)の一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正または削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0069】
ECU15内で二つの数値の大小関係を比較する際には、「以上」および「よりも大きい」という二つの基準のどちらを用いてもよく、「以下」および「未満」の二つの基準のうちのどちらを用いてもよい。このような基準の選択は、二つの数値の大小関係を比較する処理についての技術的意義を変更するものではない。
【符号の説明】
【0070】
1…移動体、11…蓄電装置、12…インバータ、13…電動機、14…燃料電池、15…ECU、16…メータ、150…取得部、151…記憶部、152…残容量算出部、153…電費算出部、154…状態判定部、155…設定部、156…レート処理部、157…距離算出部、158…表示制御部。