(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016125
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】電磁弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20230126BHJP
F16K 11/07 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
F16K11/07 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120211
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】松井 健志
(72)【発明者】
【氏名】河原 寛之
【テーマコード(参考)】
3H067
3H106
【Fターム(参考)】
3H067AA17
3H067AA31
3H067BB08
3H067CC10
3H067DD05
3H067DD12
3H067DD32
3H067EB12
3H067FF11
3H067GG22
3H106DA03
3H106DA13
3H106DC09
3H106DC19
3H106DD05
3H106GB08
3H106HH07
3H106KK17
(57)【要約】
【課題】油圧特性を2段階特性とした上で、安定した油圧を出力することができる電磁弁を提供する。
【解決手段】本発明にかかる電磁弁100は、少なくとも入力ポート118と出力ポート120とフィードバックポート121を有するスリーブ102と、スリーブ内に摺動可能に支持されたスプール104と、スプールを駆動する電磁部106と、スプールと独立して軸方向に移動可能な可動シート126と、可動シートのスプールとは反対側に配置された第1バネ128と、可動シートとスプールとの間に配置され、スプールを電磁部に向かって付勢する第2バネ130と、を備え、可動シートは、出力ポートから分岐して作動油の一部が戻されるフィードバックポートに印加されるフィードバック圧を受けて、電磁部から遠ざかる側に移動することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも入力ポートと出力ポートとフィードバックポートを有するスリーブと、
前記スリーブ内に摺動可能に支持されたスプールと、
前記スプールを駆動する電磁部と、
前記スプールと独立して軸方向に移動可能な可動シートと、
前記可動シートの前記スプールとは反対側に配置された第1バネと、
前記可動シートと前記スプールとの間に配置され、該スプールを前記電磁部に向かって付勢する第2バネと、を備え、
前記可動シートは、前記出力ポートから分岐して作動油の一部が戻される前記フィードバックポートに印加されるフィードバック圧を受けて、前記電磁部から遠ざかる側に移動することを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
当該電磁弁はさらに、前記スプールの前記電磁部側に配置され、該スプールを前記第2バネに向かって付勢する第3バネを備えることを特徴とする請求項1に記載の電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバックポートが設けられたスリーブを有する電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
一例として電磁弁は、自動変速機のクラッチ圧の制御に用いられる。電磁弁は、スリーブと、スリーブの内側に摺動可能に支持されたスプールとを備え、スリーブの一端に取り付けられた電磁部のソレノイドコイルが励磁されることで生じる吸引力によって、スプールを変位させ、自動変速機のクラッチの圧力を制御している。
【0003】
ATクラッチやCVTプーリなどの比例弁の制御対象は、低燃費や軽量化によって小型化が進められている。これらが従来同等の締結力を確保したうえで小型化するには、圧力の高圧化が求められる。しかし、比例弁の電流はそのままで、比例弁を高圧領域まで対応させると、単位電流当たりの油圧変動が大きくなり、クラッチ締結時の制御性が悪くなってしまう。
【0004】
特許文献1には、スリーブ、スプールおよび付勢部材を備えた電磁弁装置が記載されている。このスリーブは、作動油が供給される供給ポートと、作動油が排出される排出ポートと、出力ポートとを有する。出力ポートは、供給ポートと排出ポートの間に位置し、スプールの変位によって制御される制御圧を出力する。
【0005】
スプールは、出力ポートから出力される制御圧が作用する面積差を有する第1および第2の2つのフィードバック部と、第1および第2のフィードバック部に制御圧を導入する第1および第2フィードバックポートとを有する。付勢部材は、ソレノイドコイルの吸引力に抗し、かつフィードバック部に作用するフィードバック力と同方向にスプールを付勢する。
【0006】
この電磁弁装置では、スプールに、制御圧が作用する面積差を有する第1および第2のフィードバック部を設け、スプールがソレノイドコイルの吸引力によって、付勢部材の付勢力に抗して所定量摺動された際、第2のフィードバックポートを閉じた後、第2のフィードバック部を、ドレンポートに連通するように構成している。このため、特許文献1では、油圧特性を2段階特性とすることができ、クラッチを所定圧力で締結保持した後に、ソレノイドコイルに供給する電流を低減できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の電磁弁装置は、2つのフィードバックポートを有し、これらのフィードバックポートのうち両方または一方でフィードバックを行うように切替えられる。しかし、フィードバックの切替えは、スプールの位置で決まるため、油圧の供給圧に依存することになる。したがって供給圧が上下した場合に切替位置が変動してしまい、意図した圧力での制御が困難となる。
【0009】
またフィードバックの切替えは、ソレノイドコイルに供給する電流で制御すべきであるものの、スプール位置で切り替え特性が決まるため、電流上昇時と電流下降時とで切替時の電流が異なってしまう。すると電流上昇時と電流下降時の電流の間で大きな油圧ヒステリシスを生み、同一電流値で2つの油圧バランス点が存在してしまい、油圧振動の発生を招くなど非常に不安定な状態となる。
【0010】
すなわち特許文献1の電磁弁装置では、油圧特性を2段階特性にすることでソレノイドコイルに供給する電流を低減しているに過ぎず、安定して油圧を出力する点において改善の余地がある。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、油圧特性を2段階特性とした上で、安定した油圧を出力することができる電磁弁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる電磁弁の代表的な構成は、少なくとも入力ポートと出力ポートとフィードバックポートを有するスリーブと、スリーブ内に摺動可能に支持されたスプールと、スプールを駆動する電磁部と、スプールと独立して軸方向に移動可能な可動シートと、可動シートのスプールとは反対側に配置された第1バネと、可動シートとスプールとの間に配置され、スプールを電磁部に向かって付勢する第2バネと、を備え、可動シートは、出力ポートから分岐して作動油の一部が戻されるフィードバックポートに印加されるフィードバック圧を受けて、電磁部から遠ざかる側に移動することを特徴とする。
【0013】
上記構成では、スプールと独立して軸方向に移動可能な可動シートを有し、さらに電磁部のソレノイドコイルに供給する電流に対する油圧の応答(IP特性)を、可動シートが移動しない低圧域と可動シートが移動する高圧域とを含む2段階特性としている。低圧域では、可動シートは、第1バネによって電磁部に向かって付勢されスリーブに対して位置が固定されている。またスプールは、電磁部のソレノイドコイルが励磁されることで生じる吸引力と、吸引力に抗する第2バネの付勢力およびフィードバック力とがバランスして移動する。
【0014】
ここで出力ポートから出力される油圧をP、低圧域と高圧域の切替え時の油圧値をPc、可動シートの受圧面積をA1、第1バネの付勢力をF1とする。なお第1バネの付勢力F1は、可動シートがスリーブに当接し位置が固定されているときの付勢力である。この場合、高圧域では、フィードバックポートに印加されるフィードバック圧(油圧P)に可動シートの受圧面積A1を乗じたフィードバック力が、第1バネの付勢力F1よりも大きくなると(すなわち油圧Pが油圧値Pc以上になると)、可動シートは、電磁部から遠ざかる側に移動する。この可動シートの移動に伴い、第2バネは伸びて付勢力が弱くなる。このため、スプールを移動させるための吸引力が小さくて済むため、高い油圧を出力する時の電流を低減することができる。つまり、高圧域では、低圧域に比べて電流の変化に対する油圧の変化が大きくなる。
【0015】
また、作動油の供給圧にかかわらず、低圧域と高圧域の切替え時の油圧値が常にPcであるため、電流上昇時と電流下降時とで油圧値の不一致が生じないため、安定した油圧を出力することができる。
【0016】
上記の電磁弁はさらに、スプールの電磁部側に配置され、スプールを第2バネに向かって付勢する第3バネを備えるとよい。
【0017】
これにより、第3バネは、電磁部のソレノイドコイルが励磁されることで生じる吸引力と同じ方向にスプールを付勢する。このため、第3バネの付勢力は、第2バネの付勢力を相殺することになる。そして、電磁弁として本来必要なバネ力は変わらないため、第2バネのセット荷重(圧縮)を大きくすることができ、可動シートの移動を、第2バネの自然長の範囲内に維持することができる。これにより、可動シートがフィードバック圧を受けて電磁部から遠ざかる側に移動しスプールから離れたときに、第2バネが自然長よりも長くなることがない。したがって上記構成では、第2バネの両端を固定する必要がないため、構造と組立を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、油圧特性を2段階特性とした上で、安定した油圧を出力することができる電磁弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態における電磁弁の全体構成図である。
【
図2】
図1の電磁弁が開であるときの動作を説明する図である。
【
図4】本発明の他の実施形態における電磁弁の全体構成図である。
【
図5】
図4の電磁弁でのIP特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態における電磁弁100の全体構成図である。電磁弁100は、弁の開度に応じて油の流量を調整できる比例弁であって、通常時には弁が閉じていて駆動時に開くノーマルクローズ型である。なお
図1は、弁が開の状態(励磁の状態)を示している。
【0022】
電磁弁100は、ほぼ筒状のスリーブ102と、スリーブ102の内側に摺動可能に支持されたスプール104と、スプール104を駆動する電磁部106とを備える。電磁部106は、スリーブ102の一端部107に取り付けられていて、コイル108と、プランジャ110と、プッシャ112とを有する。また、スプール104の電磁部106側には、電磁部106のプッシャ112に押される小径軸114が設けられている。
【0023】
電磁部106は、コイル108が励磁されることで生じる吸引力によって、図示のようにプランジャ110を移動させ、プッシャ112を介しスプール104をスリーブ102の他端部115(図中右側)に向かって移動させる。また電磁部106のスプール104側には、ストッパ116が備えられていて、スリーブ102の一端部107に突き当てられている。
【0024】
スリーブ102は、作動油が供給される入力ポート118と、電磁弁100が開の時に作動油を出力する出力ポート120と、フィードバックポート121と、ドレンポート122と排出ポート123とを有する。フィードバックポート121は、図示のように出力ポート120から分岐して作動油の一部が戻される。また、フィードバックポート121の周囲は内径が広くなっていて、これをフィードバック室124という。
【0025】
電磁弁100はさらに、可動シート126と、第1バネ128と、第2バネ130とを備える。可動シート126は、スリーブ102の内側に位置し、スプール104のうち電磁部106側とは反対側の端部132およびその周囲を外側から囲むように配置されていて、スプール104と独立して軸方向に移動可能となっている。
【0026】
可動シート126は、フィードバック室124に面する受圧部134を有する。受圧部134は、フィードバックポート121に印加される圧力(以下、「フィードバック圧」という)を受ける。
【0027】
スプール104は、フィードバック室124に面する受圧部136を有する。受圧部136は、可動シート126の受圧部134に対向していて、フィードバック室124のフィードバック圧を受ける。
【0028】
第1バネ128は、可動シート126のスプール104とは反対側に配置され、さらにアジャスタ138の内壁140に当接した状態で、アジャスタ138内に収容されている。これにより、第1バネ128は、可動シート126を電磁部106に向かって付勢する。アジャスタ138は、例えばスリーブ102の他端部115と螺合していて回転させることで第1バネ128の荷重(セット荷重)を調整することができる。
【0029】
スプール104の端部132には、第2バネ130の一部を収容する収容部142が形成されている。第2バネ130は、スプール104の収容部142と可動シート126との間に配置されていて、固定ピン144によって収容部142に固定され、固定ピン146によって可動シート126に固定されている。これにより、第2バネ130は、スプール104を電磁部106に向かって付勢する。
【0030】
また可動シート126は、外側に張り出した張出部148を有する。スリーブ102には、当接部150が形成されている。当接部150は、可動シート126の張出部148よりも電磁部106に近い側に位置していて、張出部148に対向している。さらにアジャスタ138の端部152は、張出部148よりも電磁部106から遠い側に位置していて、張出部148に対向している。
【0031】
可動シート126は、第1バネ128によって電磁部106に向かって付勢されることにより、図示のように張出部148がスリーブ102の当接部150に当接している。これにより、可動シート126は、スリーブ102に対して位置が固定されている。また可動シート126の軸方向の移動範囲は、図示のように張出部148がスリーブ102の当接部150に当接した状態から、張出部148がアジャスタ138の端部152に突き当たる状態(
図2(b)参照)となるまでの範囲となる。
【0032】
またスプール104には、スリーブ102の各ポートを開閉するための複数の異径の段差が形成されている。なお大径部はランドという。第1ランド154は、ドレンポート122を開閉する。第2ランド156は、入力ポート118を開閉する。第3ランド158は、フィードバック室124に面している。
【0033】
なお図示は省略するが、電磁部106のコイル108が非励磁のとき、スプール104は、第1バネ128および第2バネ130に押されて、電磁部106側に寄って位置する。このとき、第1ランド154によってドレンポート122が開かれ、第2ランド156によって入力ポート118が閉鎖され、さらに第1ランド154と第2ランド156の間の小径部160によって出力ポート120と排出ポート123が連通する。このため、出力ポート120の圧力は、ドレンポート122と同じになり、常圧になるため、出力側には圧力は伝わらない。この状態を、電磁弁100が閉であるという。
【0034】
一方、電磁部106のコイル108が励磁されると、
図1に示すようにスプール104が電磁部106のプッシャ112に押されて移動した状態となることにより、スプール104の第1ランド154によってドレンポート122が閉鎖されるとともに、第2ランド156によって入力ポート118が開かれ、さらに小径部160によって、入力ポート118と出力ポート120が連通し、作動油が出力される。この状態を、電磁弁100が開であるという。
【0035】
図2は、
図1の電磁弁100が開であるときの動作を説明する図である。なお図中では
図1の電磁部106を省略している。
図2(a)は、
図1の電磁弁100の要部を示している。ここでは、可動シート126は、張出部148がスリーブ102の当接部150に当接し、スリーブ102に対して位置が固定されていて、移動していない状態である。
【0036】
電磁弁100が開であるため、フィードバックポート121に印加される圧力は、出力ポート120と同じになる。ここで、出力ポート120から出力される油圧をP、可動シート126の受圧部134のフィードバック圧(すなわち、油圧P)を受ける受圧面積をA1、スプール104の受圧部136のフィードバック圧を受ける受圧面積をA2とする。また、可動シート126がフィードバック圧を受けて移動を開始するときの油圧をPcとし、油圧Pcを境界として油圧Pが油圧Pcより小さい領域を低圧域、油圧Pc以上である領域を高圧域とする。なお可動シート126は、低圧域において、張出部148が
図2(a)に示すようにスリーブ102に押し付けられていることで、結果的に、作動油の漏れを低減している。
【0037】
さらに、電磁部106からの吸引力をF、第1バネ128の付勢力をF1、第2バネ130の付勢力をF2、可動シート126の受圧部134にかかるフィードバック力をFB1、スプール104の受圧部136かかるフィードバック力をFB2とする。フィードバック力FB1、FB2は、それぞれの受圧面積A1、A2に油圧Pを乗じたものとなる。なお第1バネ128の付勢力F1は、
図2(a)に示すように可動シート126がスリーブ102に対して位置が固定されているときの付勢力である。
【0038】
電磁弁100の第1バネ128は、アジャスタ138によって、以下の式(1)で示すセット荷重に調整されている。
F1=Pc×A1 …式(1)
【0039】
まず低圧域での電磁弁100の動作について説明する。低圧域では、油圧Pが油圧Pcより小さいため、以下の式(2)が成り立つ。
F1=Pc×A1>P×A1 …式(2)
【0040】
このため、
図2(a)に示すように、可動シート126が第1バネ128によってスリーブ102の当接部150に押し付けられて移動せず、スプール104では、以下の式(3)で示されるような力のバランスを保っている。
F=FB2+F2=P×A2+F2 …式(3)
【0041】
上記式(3)の左辺をPとすると、以下の式(4)が得られる。
P=(F-F2)/A2 …式(4)
【0042】
上記式(3)(4)により、低圧域での油圧Pは、第2バネ130の付勢力F2と、スプール104の受圧部136の受圧面積A2とに依存し、第1バネ128の付勢力F1および可動シート126の受圧部134にかかるフィードバック力FB1には依存しないことが分かる。そして上記式(4)は、吸引力Fを大きくすれば、制御圧である油圧Pを高めることができることを示している(
図3参照)。
【0043】
図3は、
図2の電磁弁100でのIP特性を示す図である。IP特性とは、電磁部106のコイル108(
図1参照)に供給する電流に対する油圧の応答を示すものである。図中、横軸を電流、縦軸を油圧とした。また供給圧は、入力ポート118に供給される圧力である。入力ポート118には、例えば圧油供給源より定圧に制御された作動油が供給されている。さらに図中では、油圧Pcを境界として、制御圧としての油圧Pが油圧Pcより小さい領域を低圧域、油圧Pc以上である領域を高圧域としている。
【0044】
低圧域での油圧Pは、上記式(4)に従うため、
図3に示すようにコイル108に供給する電流を高めると、それに応じて変化して高くなっている。
【0045】
つぎに高圧域での電磁弁100の動作について説明する。上記式(2)において、油圧Pが油圧Pc以上になると、以下の式(5)が成り立つ。
F1=Pc×A1≦P×A1 …式(5)
【0046】
このため、可動シート126は、第1バネ128の付勢力F1に抗して第1バネ128に向かって、すなわち電磁部106から遠ざかる側に移動する(
図2(b)参照)。このとき、可動シート126の移動量をΔxとすると、可動シート126およびスプール104に固定された第2バネ130は、移動量Δxだけ伸びるため、その分、付勢力F2が小さくなる。なお以下では、第2バネ130の小さくなった付勢力をF2αとする。
【0047】
さらに第2バネ130は、可動シート126およびスプール104に固定されているため、その長さが自然長未満であれば圧縮力をスプール104に伝え、その自然長を上回るほど移動量Δxが増加しても、引っ張り力をスプール104に伝える。そこで、第1バネ128のバネ定数をk1とすると、以下の式(6)が成り立つ。
F1+Δx×k1=P×A1 …式(6)
【0048】
上記式(6)の左辺をΔxとすると、以下の式(7)が得られる。
Δx=(P×A1-F1)/k1 …式(7)
【0049】
さらに第2バネ130のバネ定数をk2とすると、スプール104では、以下の式(8)で示されるような力のバランスを保っている。
F=FB2+F2α=P×A2+F2-Δx×k2 …式(8)
【0050】
そして式(7)において算出したΔxを、式(8)に代入することにより、以下の式(9)が得られる。
F=P×A2+F2-k2(P×A1-F1)/k1 …式(9)
【0051】
さらに上記式(9)の左辺をPとすると、以下の式(10)が得られる。
P=(F-F2-F1×k2/k1)/(A2-A1×k2/k1) …式(10)
【0052】
上記式(9)(10)により、高圧域での油圧Pは、第1バネ128の付勢力F1、第2バネ130の付勢力F2、第1バネ128、第2バネ130のバネ定数k1、k2、さらには、可動シート126の受圧部134の受圧面積A1およびスプール104の受圧部136の受圧面積A2に依存することが分かる。そして上記式(9)は、低圧域での吸引力Fを示す上記(3)に比べて、上記式(9)の項である「k2(P×A1-F1)/k1」の分だけ吸引力Fが小さくて済むことになる。
【0053】
このため、電磁弁100では、高圧域において、高い油圧Pを出力する時の電流を低減することができるため、
図3に示すように低圧域に比べて電流の変化に対する油圧の変化が大きくなる(グラフの傾斜が急峻になる)。
【0054】
図3に示すように電磁弁100では、入力ポート118の供給圧にかかわらず、低圧域と高圧域の切替え時の油圧値が常にPcであるため、電流上昇時と電流下降時とで油圧値の不一致が生じない。したがって電磁弁100によれば、油圧特性を2段階特性とした上で、安定した油圧を出力することができる。
【0055】
図4は、本発明の他の実施形態における電磁弁100Aの全体構成図である。
図5は、
図4の電磁弁100AでのIP特性を説明する図である。なお
図4は、電磁弁100Aの高圧域において、可動シート126Aの張出部148がアジャスタ138の端部152に突き当たっている状態を示している。
【0056】
電磁弁100Aはさらに、第3バネ162を備える点で上記の電磁弁100と主に異なっている。第3バネ162は、スプール104Aの電磁部106側に配置され、スプール104Aを第2バネ130Aに向かって付勢力F3で付勢する。
【0057】
つまり第3バネ162は、電磁部106のコイル108が励磁されることで生じる吸引力Fと同じ方向にスプール104Aを付勢する。このため、第3バネ162の付勢力F3は、第2バネ130Aの付勢力を相殺することになる。
【0058】
ここで上記の電磁弁100においては、本来必要なバネ力以上に第2バネ130のセット荷重を大きくできず、可動シート126が第2バネ130の自然長を超えて移動するときは第2バネ130を固定ピン144、146によって固定せざるを得なかった。仮に第2バネ130を固定しなかったとすると、
図5(a)に示すように、第2バネ130が自然長を超えた後の範囲A1は、第2バネ130がない場合と同様の、ただの比例弁動作となってしまう。
【0059】
これに対して電磁弁100Aでは、第3バネ162の付勢力F3を追加している。
図5(b)に示すように、破線で示す比例弁動作に対して、第2バネ130の付勢力F2の荷重分は、電磁部106からの吸引力Fを減ずる方向に作用する(吸引力Fが大きく必要になる方向にIP特性がシフトする)。一方、第3バネ162の付勢力F3の荷重分は吸引力Fに加算される。
【0060】
第2バネ130Aのバネ定数は
図1の電磁弁100と同様にするため、第2バネ130Aの付勢力(セット荷重)をF2βとすると、F2=F2β-F3と表せる。すなわちF2βはF2よりも大きくなる。第2バネ130Aの付勢力F2β(セット荷重)を大きくするために、第2バネ130Aの自然長を長くする。これにより、可動シート126Aの移動を、第2バネ130Aの自然長の範囲内に維持することができる。なお、高圧域の切替え時の油圧値Pcが
図1の電磁弁100と同じになるように、アジャスタ138を動かして第1バネ128を圧縮し、第1バネ128の付勢力F1β=F2β+FB1となるように調整する。
【0061】
これにより、第2バネ130Aの両端を固定する必要がないため、第2バネ130Aをスプール104の収容部142Aと可動シート126Aとの間に単に配置すればよく、上記の電磁弁100での固定ピン144、146が不要となる。したがって電磁弁100Aでは、構造と組立を簡略化することができる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、フィードバックポートが設けられたスリーブを有する電磁弁として利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
100、100A…電磁弁、102…スリーブ、104、104A…スプール、106…電磁部、107…スリーブの一端部、108…コイル、110…プランジャ、112…プッシャ、114…スプールの小径軸、115…スリーブの他端部、116…ストッパ、118…入力ポート、120…出力ポート、121…フィードバックポート、122…ドレンポート、123…排出ポート、124…フィードバック室、126、126A…可動シート、128…第1バネ、130、130A…第2バネ、132…スプールの端部、134…可動シートの受圧室、136…スプールの受圧室、138…アジャスタ、140…アジャスタの内壁、142、142A…スプールの収容部、144、146…固定ピン、148…可動シートの張出部、150…スリーブの当接部、152…アジャスタの端部、154…第1ランド、156…第2ランド、158…第3ランド、160…スプールの小径部、162…第3バネ