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特開2023-161253内燃機関の排気浄化システムおよび内燃機関の排気浄化方法
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  • 特開-内燃機関の排気浄化システムおよび内燃機関の排気浄化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161253
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化システムおよび内燃機関の排気浄化方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/36 20060101AFI20231030BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20231030BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231030BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
F01N3/36 R
F01N3/08 A
F02D45/00 368F
F02D43/00 301K
F02D43/00 301H
F02D43/00 301J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071511
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永森 敬士
【テーマコード(参考)】
3G091
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA18
3G091AB06
3G091AB13
3G091BA01
3G091BA14
3G091CA17
3G091CA18
3G091EA01
3G091EA05
3G091EA07
3G091EA18
3G091EA39
3G091HA08
3G091HA15
3G091HA16
3G384AA03
3G384BA05
3G384BA09
3G384BA13
3G384BA18
3G384DA14
3G384EB05
3G384EB10
3G384EE31
3G384FA14Z
3G384FA30Z
3G384FA37Z
3G384FA44Z
3G384FA46Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】NSR触媒に吸蔵されているNOxを放出還元するためのリッチパージによって燃焼室から排出されるメタンを、適正な量に制御する。
【解決手段】メタン排出許容値ΣAMeは、車両の走行距離の増加に伴い、増加する。NSR触媒のNOx吸蔵量ΣNOxがパージ要求閾値Dc以上になると、リッチパージを実行する(フラグFr=1)。リッチパージが開始されると、メタン排出量ΣMeを算出する。メタン排出量ΣMeがメタン排出許容値ΣMeを超えたとき、フラグFmが1に設定され、リッチパージが禁止される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの空燃比がリーンのときNOxを吸蔵し、前記排気ガスの空燃比がリッチのとき吸蔵していたNOxを放出し還元する、NOx吸蔵還元触媒と、
内燃機関の燃焼室内へ燃料を噴射する燃料噴射弁と、
制御装置と、を備えた内燃機関の排気浄化システムであって、
前記制御装置は、
前記NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxがパージ要求閾値以上になったとき、前記燃料噴射弁から前記燃焼室へ噴射される燃料によって前記排気ガスの空燃比をリッチとし、前記NOx吸蔵還元触媒に吸蔵したNOxを放出し還元するリッチパージを実行し、
前記リッチパージの実行時、前記燃焼室から排出されるメタンの量であるメタン排出量を算出し、前記メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、前記リッチパージを禁止する、内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
前記内燃機関は、車両に搭載されており、
前記制御装置は、
前記車両の走行距離に基づいて、前記メタン排出許容値を算出する、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記メタン排出量が前記メタン排出許容値を超えたとき、前記メタン排出量および前記メタン排出許容値を初期値に設定する、請求項2に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
前記NOx吸蔵還元触媒の下流の排気通路に、選択還元型NOx触媒が設けられており、
前記制御装置は、
前記リッチパージの実行時に、前記メタン排出量が前記メタン排出許容値を超えて前記リッチパージを禁止した場合、前記NOx吸蔵還元触媒の温度を上昇させて、前記NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxを放出する昇温パージを実行する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxがパージ終了閾値以下になったとき、前記リッチパージおよび前記昇温パージの実行を終了する、請求項4に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項6】
排気ガスの空燃比がリーンのときNOxを吸蔵し、前記排気ガスの空燃比がリッチのとき、吸蔵していたNOxを放出し還元する、NOx吸蔵還元触媒と、
内燃機関の燃焼室内へ燃料を噴射する燃料噴射弁と、を備えた内燃機関の排気浄化方法であって、
前記NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxがパージ要求閾値以上になったとき、前記燃料噴射弁から前記燃焼室へ噴射される燃料によって前記排気ガスの空燃比をリッチとし、NOxを放出し還元するリッチパージを実行するステップと、
前記リッチパージの実行時、前記燃焼室から排出されるメタンの量であるメタン排出量を算出するとともに、前記メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、前記リッチパージを禁止するステップと、を含む、内燃機関の排気浄化方法。
【請求項7】
前記内燃機関は、車両に搭載されており、
前記排気浄化方法は、
前記車両の走行距離に基づいて前記メタン排出許容値を算出するステップを、さらに含む、請求項6に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【請求項8】
前記内燃機関は、前記NOx吸蔵還元触媒の下流の排気通路に選択還元型NOx触媒をさらに備え、
前記排気浄化方法は、
前記リッチパージを禁止するステップで前記リッチパージを禁止したとき、前記NOx吸蔵還元触媒の温度を上昇させてNOxを放出する昇温パージを実行するステップを、さらに含む、請求項6または請求項7に記載の内燃機関の排気浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の排気浄化システムおよび内燃機関の排気浄化方法に関し、特に、NOx吸蔵還元触媒を備えた内燃機関の排気浄化システムおよび排気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガス中に含まれるNOx(窒素酸化物)を浄化するために、NOx吸蔵還元触媒(NOx storage reduction catalyst)を備えた内燃機関が知られている。NOx吸蔵還元触媒(以下、NSR触媒とも称する)は、NSR触媒に流入する排気ガスの空燃比がリーンのときNOxを吸蔵し、排気ガスの空燃比がリッチになると吸蔵していたNOxを放出し還元する。
【0003】
NSR触媒に吸蔵されているNOxを還元するため、排気ガスの空燃比をリッチにする際、内燃機関の膨張行程時にメイン噴射とは別に燃焼室内へ燃料を噴射する、所謂、ポスト噴射を行うことが知られている。たとえば、特開2004-132262号公報(特許文献1)では、ポスト噴射を行うことにより、燃焼室内に噴射された燃料が改質され、排気ガス中のCO濃度(一酸化炭素濃度)が高まり、NSR触媒から放出されるNOxを効率よく還元することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-132262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NSR触媒に吸蔵されたNOxを放出還元するため、ポスト噴射を行い排気ガスの空燃比をリッチにすると、燃料の改質時にメタン(CH4)が生成され、燃焼室からメタンが排出される。メタンは、NOxの還元力が弱く、また、触媒によって浄化され難い。このため、ポスト噴射により排気ガスの空燃比をリッチにして、NSR触媒に吸蔵されたNOxを放出還元する際、メタンが大気に放出される。
【0006】
メタンは、有害性はないものの温室効果ガスであるため、その排出量を制御することが望ましい。
【0007】
本開示の目的は、NSR触媒に吸蔵されているNOxを放出還元するため、燃料噴射により排気ガスの空燃比をリッチにする際に排出されるメタンを、適正な量に制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の内燃機関の排気浄化システムは、排気ガスの空燃比がリーンのときNOxを吸蔵し、排気ガスの空燃比がリッチのとき吸蔵していたNOxを放出し還元するNOx吸蔵還元触媒と、内燃機関の燃焼室内へ燃料を噴射する燃料噴射弁と、制御装置と、を備えた内燃機関の排気浄化システムである。制御装置は、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxがパージ要求閾値以上になったとき、燃料噴射弁から燃焼室へ噴射される燃料によって排気ガスの空燃比をリッチとし、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵したNOxを放出し還元するリッチパージを実行し、リッチパージの実行時、燃焼室から排出されるメタンの量であるメタン排出量を算出し、メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、リッチパージを禁止するよう構成されている。
【0009】
この構成によれば、内燃機関の排気浄化システムの制御装置は、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxがパージ要求閾値以上になったとき、燃料噴射弁から燃焼室へ噴射される燃料によって排気ガスの空燃比をリッチとしてリッチパージを実行し、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵したNOxを放出し還元する。制御装置は、リッチパージの実行時、燃焼室から排出されるメタンの量であるメタン排出量を算出し、メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、リッチパージを禁止する。メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、リッチパージが禁止されるので、リッチパージの実行時に大気に排出されるメタンを、適正な量に制御することができる。
【0010】
好ましくは、内燃機関は、車両に搭載されており、制御装置は、車両の走行距離に基づいてメタン排出許容値を算出するようにしてもよい。また、メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、メタン排出量およびメタン排出許容値を初期値に設定するようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、車両の走行距離に基づいてメタン排出許容値を算出するので、大気へのメタン排出量を、排気ガス中の二酸化炭素(CO2)の排出量規制と同様に適切に管理することが可能になる。また、メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、メタン排出量およびメタン排出許容値を初期値(たとえば「0」であってよい)に設定するので、算出したメタン排出量およびメタン排出許容値を保持するレジスタのオーバフローを抑止できる。
【0012】
好ましくは、NOx吸蔵還元触媒の下流の排気通路に、選択還元型NOx触媒が設けられており、制御装置は、リッチパージの実行時に、メタン排出量がメタン排出許容値を超えてリッチパージを禁止した場合、NOx吸蔵還元触媒の温度を上昇させて、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxを放出する昇温パージを実行するようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、NOx吸蔵還元触媒の下流の排気通路に、選択還元型NOx触媒が設けられる。制御装置は、リッチパージを禁止した場合、昇温パージを実行し、NOx吸蔵還元触媒の温度を上昇させてNOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxを放出する。昇温パージによってNOx吸蔵還元触媒から放出されたNOxを、選択還元型NOx触媒で還元することができ、NOxの大気への放出を抑制することができる。
【0014】
好ましくは、制御装置は、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxがパージ終了閾値以下になったとき、リッチパージおよび昇温パージの実行を終了するようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、NOx触媒に吸蔵されたNOxがパージ終了閾値以下になるまで、リッチパージあるいは昇温パージが実行されるので、NOx吸蔵還元触媒からNOxを十分に放出でき、NOx吸蔵還元触媒のNOx吸蔵能力の回復が良好に行われる。
【0016】
本開示の内燃機関の排気浄化方法は、排気ガスの空燃比がリーンのときNOxを吸蔵し、排気ガスの空燃比がリッチのとき、吸蔵していたNOxを放出し還元するNOx吸蔵還元触媒と、内燃機関の燃焼室内へ燃料を噴射する燃料噴射弁と、を備えた内燃機関の排気浄化方法である。内燃機関の排気浄化方法は、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxがパージ要求閾値以上になったとき、燃料噴射弁から燃焼室へ噴射される燃料によって排気ガスの空燃比をリッチとし、NOxを放出し還元するリッチパージを実行するステップと、リッチパージの実行時、燃焼室から排出されるメタンの量であるメタン排出量を算出するとともに、メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、リッチパージを禁止するステップと、を含む。
【0017】
この排気浄化方法によれば、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxがパージ要求閾値以上になったとき、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵したNOxを放出し還元するために、燃料噴射弁から燃焼室へ噴射される燃料によって排気ガスの空燃比をリッチとしてリッチパージを実行する。リッチパージの実行時、燃焼室から排出されるメタンの量であるメタン排出量を算出するとともに、メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、リッチパージが禁止される。したがって、メタン排出量がメタン排出許容値を超えたとき、リッチパージが禁止されるので、大気に排出されるメタンを、適正な量に制御することができる。
【0018】
好ましくは、内燃機関は、車両に搭載されており、排気浄化方法は、車両の走行距離に基づいてメタン排出許容値を算出するステップを、さらに含んでもよい。
【0019】
この排気浄化方法によれば、車両の走行距離に基づいてメタン排出許容値を算出するので、大気へのメタン排出量を、メタン排気ガス中の二酸化炭素(CO2)の排出量規制と同様に適切に管理することが可能になる。
【0020】
好ましくは、内燃機関は、NOx吸蔵還元触媒の下流の排気通路に選択還元型NOx触媒をさらに備え、排気浄化方法は、リッチパージを禁止するステップでリッチパージを禁止したとき、NOx吸蔵還元触媒の温度を上昇させてNOxを放出する昇温パージを実行するステップを、さらに含んでもよい。
【0021】
この排気浄化方法によれば、リッチパージを禁止した場合に昇温パージを実行し、NOx吸蔵還元触媒の温度を上昇させてNOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxを放出する。昇温パージによってNOx吸蔵還元触媒から放出されたNOxを、選択還元型NOx触媒で還元することができ、NOxの大気への放出を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、NSR触媒に吸蔵されているNOxを放出還元するため、燃焼室内への燃料噴射により排気ガスの空燃比をリッチにする際に排出されるメタンを、適正な量に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態に係る車両の全体構成を示す図である。
図2】エンジン1の概略構成図である。
図3】エンジンECU100で実行されるNOx放出制御の処理を示すフローチャートである。
図4】エンジンECU100で実行されるNOx吸蔵量算出処理の一例を示すフローチャートである。
図5】エンジンECU100で実行されるメタン排出許容値算出処理の一例を示すフローチャートである。
図6】(A)~(G)は、本実施の形態の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない場合がある。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る車両の全体構成を示す図である。車両Vは、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3とを備える。
【0026】
本実施の形態において、エンジン1は、排気浄化システムを備えた圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)であり、エンジン1の出力軸は、トルクコンバータ2の入力軸に接続される。トルクコンバータ2は、ロックアップクラッチ付トルクコンバータであり、図示しない、ポンプインペラ、タービンランナ、ステータ、およびロックアップクラッチを備える。トルクコンバータ2の出力軸は、自動変速機3の入力軸に接続される。自動変速機3は、遊星歯車式の多段自動変速機であり、複数の摩擦係合要素の係合および解放の組み合わせを制御することにより、各変速段を達成する。自動変速機3の出力軸は、プロペラシャフトを介してディファレンシャルギヤ4に接続されている。ディファレンシャルギヤ4は、ドライブシャフトを介して駆動輪である後輪5に接続されている。車両Vは後輪駆動車であるが、前輪駆動車であってよく、四輪駆動車であってもよい。
【0027】
図1において、符号111は、車速センサであり、車両Vの車速SPDを検出する。エンジン1は、エンジンECU((Electronic Control Unit)100によって制御され、トルクコンバータ2および自動変速機3は、トランスミッションECU200によって制御される。
【0028】
図2は、エンジン1の概略構成図である。エンジン1は、排気浄化システムを備えた圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)であり、エンジン本体10のシリンダ(気筒)12に形成された燃焼室に、燃料噴射弁(インジェクター)14から燃料を噴射し、圧縮自着火を行う内燃機関である。本実施の形態において、エンジン1は4気筒である。エンジン1の吸気通路20には、エアクリーナ22、インタークーラ24、および絞り弁(ディーゼルスロットル弁)26が設けられており、エアクリーナ22で異物が除去された新気(空気)は、ターボ過給機30のコンプレッサ32で過給(圧縮)され、インタークーラ24で冷却されて、吸気マニホールド28に供給され、吸気ポートから各燃焼室に供給される。
【0029】
燃料タンク40には、燃料が貯留されている。燃料タンク40内の燃料は、フィードポンプ41によって高圧燃料ポンプ42へ供給され、高圧燃料ポンプ42から吐出された高圧の燃料が燃料通路43を介してコモンレール44に圧送される。コモンレール44に蓄えられた高圧の燃料が、インジェクター14から燃焼室(筒内)に噴射される。
【0030】
燃焼室から排出される排気(排気ガス)は、排気マニホールド50に集められ、排気通路52を介して、外気に放出される。また、排気の一部は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路60を介して、吸気マニホールド28に還流される。EGR通路60には、EGRクーラ62とEGR弁64が設けられる。
【0031】
排気通路52には、上流側から、ターボ過給機30のタービン34、NOx吸蔵還元触媒(NSR触媒)70、DPF(Diesel Particulate Filter)一体型選択還元触媒(以下、SCR(Selective Catalytic Reduction)DPFとも称する)72、選択還元触媒(以下、SCR触媒とも称する)74が設けられている。
【0032】
NSR触媒70は、排気ガスの空燃比がリーン(酸素過剰)であるとき、NOxを吸蔵し、排気ガスの空燃比がリッチ(還元雰囲気)になると、吸蔵していたNOxを放出し還元する触媒である。たとえば、コージェライトからなる担体に、NOx吸蔵成分としてバリウム(Ba)、触媒成分として白金族金属を担持したものであってよい。なお、NSR触媒70は、三元触媒にNOx吸蔵材としてアルカリ性の物質を加えた、NOx吸蔵還元型三元触媒であってもよい。
【0033】
SCRDPF72は、排気ガス中の微粒物質(PM:Particulate Matter)を捕集し、捕集したPMを適宜燃焼除去することにより浄化するフィルタ機能と、排気ガス中のNOxを還元浄化する機能を一体化した触媒である。たとえば、コージェライトあるいは炭化ケイ素からなハニカムフィルタに、銅(Cu)イオン交換ゼオライトを触媒として担持したものであってよい。SCR触媒74は、排気ガス中のNOxを還元浄化する触媒であり、たとえば、コージェライトからなる担体に、銅(Cu)イオン交換ゼオライトを触媒として担持したものであってよい。
【0034】
SCRDPF72およびSCR触媒74は、アンモニア(NH3)を還元剤として用いることにより、高いNOx浄化率を示すものである。還元剤として利用するアンモニアは、SCRDPF72の上流およびSCR触媒74の上流の排気通路52に供給した尿素水を加水分解することにより生成する。SCRDPF72の上流の排気通路52には、尿素添加弁(尿素水噴射インジェクター)82が設けられ、SCR触媒74の上流の排気通路52には、尿素添加弁83が設けられている。SCRDPF72およびSCR触媒74に流入するNOxを還元浄化するとき、尿素水タンク80から図示しないポンプによって圧送される尿素水を、尿素添加弁82および尿素添加弁83から排気通路52に噴射する。
【0035】
NSR触媒70の上流の排気通路52(本実施の形態では、タービン34の上流側の排気通路52)には、燃料添加弁90が設けられている。燃料添加弁90には、燃料タンク40内の燃料がフィードポンプ41により燃料通路45を介して供給されており、燃料添加弁90が開弁すると、排気通路52内へ燃料が添加(噴射)される。
【0036】
SCRDPF72に堆積したPM量が所定値以上になったとき、燃料添加弁90から排気通路52へ燃料を添加(噴射)し、SCRDPF72を昇温して、堆積したPMを燃焼除去する。燃料添加弁90から燃料が添加されると、NSR触媒70の触媒成分が酸化触媒として機能し、燃料が発熱(燃焼)して、SCRDPF72に流入する排気ガスの温度が上昇して、SCRDPF72が昇温する。
【0037】
エンジンECU100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)からなるメモリ102、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)等を含み、メモリ102に記憶された情報、各種センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行し、インジェクター14、絞り弁26、高圧燃料ポンプ42、尿素添加弁82,83、燃料添加弁90等を制御する。エンジンECU100が、本開示の「制御装置」に相当する。
【0038】
エンジンECU100に入力される各種センサとしては、たとえば、車速センサ111、エンジン回転速度センサ112、アクセルペダルセンサ113、エアフローメータ114、NSR触媒温度センサ115、SCRDPF温度センサ116、等である。エンジン回転速度センサ112は、エンジン1の回転速度NEを検出する。アクセルペダルセンサ113は、ユーザによるアクセルペダル操作量(以下「アクセル開度」ともいう)APを検出する。エアフローメータ114は、エンジン1の吸気量(吸入空気量)Gaを検出する。NSR触媒温度センサ115は、NSR触媒70の温度Tcを検出する。SCRDPF温度センサ116は、SCRDPF72の温度Tfを検出する。
【0039】
エンジン1は、ディーゼルエンジンであり、全負荷時においても、空気過剰率は1.5~2で運転され、排気ガスの空燃比はリーンである。そこで、本実施の形態では、排気通路52にNSR触媒70を設け、排気ガスの空燃比がリーンであるとき、NSR触媒70でNOxを吸蔵し、NOxが大気へ排出されることを抑制している。NSR触媒70のNOx吸蔵量には限りがあるので、NSR触媒70に吸蔵されたNOx量が、NOx吸蔵量の許容値(吸蔵容量)を超えると、排気ガス中のNOxは、NSR触媒70で吸蔵されることなく、NSR触媒70の下流に流出する。このため、吸蔵されたNOx量が許容値を超える前に、排気ガスの空燃比をリッチ(還元雰囲気)にして、NSR触媒70に吸蔵されているNOxを放出し還元して、NSR触媒70のNOx吸蔵能力を回復する。なお、排気ガスの空燃比をリッチにして、NSR触媒70に吸蔵されているNOxを放出し還元することを、リッチパージとも称する。
【0040】
また、NSR触媒70では、NSR触媒70の温度Tcが高くなると、NOxの吸蔵能力が低下し、NOx吸蔵量の許容値が低下する。このため、(排気ガスの空燃比をリッチにすることなく、)NSR触媒70の温度Tcを昇温し、NOx吸蔵量の許容値を低下させて、NSR触媒70に吸蔵されているNOxを放出することができる。以下、NSR触媒70の温度Tcを昇温し、NSR触媒70に吸蔵されているNOxを放出すことを、昇温パージとも称する。
【0041】
SCRDPF72は、昇温パージによってNSR触媒70から放出されたNOxを還元浄化する。SCRDPF72の入口側(上流側)の排気通路52には、NOxセンサ117が設けられている。NOxセンサ117は、SCRDPF72に流入する排気ガスのNOx濃度を検出する。エンジンECU100は、SCRDPF72に流入する排気ガスのNOx濃度と排気ガス量(吸入空気量Ga)に基づいて、尿素添加弁82から添加する尿素水の添加量を算出し、尿素添加弁82から尿素を添加することにより、SCRDPF72に流入したNOxを還元浄化する。このように、(昇温パージによってNSR触媒70から放出されたNOxにかかわらず)NSR触媒70からSCRDPF72に流入するNOxは、尿素添加弁82から添加される尿素水を用いて、SCRDPF72で還元浄化される。
【0042】
SCR触媒74の入口側(上流側)の排気通路52には、NOxセンサ118が設けられており、SCRDPF72からSCR触媒74に流入するNOxは、同様に、尿素添加弁83から添加される尿素水を用いて、SCR触媒74で還元浄化される。
【0043】
NSR触媒70に吸蔵されたNOxを放出還元するため、リッチパージを行う。リッチパージの実行時、排気ガスの空燃比をリッチ(還元雰囲気)にするため、本実施の形態では、絞り弁26を制御して吸入空気量Gaを減少するとともに、インジェクター14から噴射される燃料のメイン噴射の後にポスト噴射を行う。ポスト噴射を行うことにより、出力トルクの増大を招くことなく、排気ガスの空燃比をリッチにする。
【0044】
エンジンECU100は、アクセル開度AP、エンジン回転速度NEに基づいて、燃料噴射量Qfおよび燃料噴射時期を算出する。燃料噴射量Qfは、アクセル開度APとエンジン回転速度NEをパラメータとしたマップとして予め設定されている。本実施の形態では、「パイロット噴射」、「プレ噴射」および「メイン噴射」が行われ、各噴射の燃料噴射時期が、アクセル開度APとエンジン回転速度NEをパラメータとしたマップとして予め設定されている。アクセル開度APとエンジン回転速度NEに基づいて、各マップから、燃料噴射量Qfと各燃料噴射時期を算出する。算出した燃料噴射量Qfは、予め設定された比率に基づいて、「パイロット噴射」、「プレ噴射」および「メイン噴射」に分配され、インジェクター14から燃焼室へ噴射される。
【0045】
リッチパージの実行時には、絞り弁26を制御して吸入空気量Gaを減少させ、吸入空気量Gaと燃料噴射量Qfに基づいて、ポスト噴射量Qpを算出する。ポスト噴射は、排気ガスの空燃比をリッチ(還元雰囲気)にするために、メイン噴射の後、エンジン1の膨張行程に行われる燃料噴射である。たとえば、燃料噴射量Qfとポスト噴射量Qpを合算した総燃料噴射量(Qf+Qp)を燃焼するのに必要な最小吸入空気量をG0としたとき、λ=Ga/G0で表される空気過剰率λを1より小さい所定値にするために必要なポスト噴射量Qpを算出する。燃料噴射量Qfに加えてポスト噴射量Qpをポスト噴射することにより、排気ガスの空燃比がリッチ(還元雰囲気)になり、NSR触媒70に吸蔵されたNOxが放出し還元される。NSR触媒70の上流側(入口側)の排気通路52には、排気ガスの空燃比を検出するA/Fセンサ119が設けられており、リッチパージの実行時、排気ガスの空燃比が目標空燃比になるよう、ポスト噴射量Qpがフィードバック制御される。A/Fセンサ119は、空燃比とNOx濃度を同時に検出可能なセンサであってもよい。
【0046】
燃料として軽油を用いているエンジン1では、通常運転時に燃焼室から排出されるメタンは、極めて少ないが、リッチパージの実行時、ポスト噴射を行い排気ガスの空燃比をリッチにすると、通常運転時に比較して多くのメタンが排出される。この理由は明らかでないが、ポスト噴射された燃料がリッチ雰囲気の燃焼室内で改質される際に、メタンが生成されていると推察される。メタンは、有害性はないものの温室効果ガスであるため、その排出量を制御することが望ましい。
【0047】
本実施の形態では、リッチパージの実行時、燃焼室から排出されるメタンの量が許容値を超えたとき、リッチパージを禁止(停止)することにより、リッチパージによって排出されるメタンを適正な量に制御する。
【0048】
図3は、エンジンECU100で実行されるNOx放出制御の処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の作動中(図示しない、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間)に、所定期間毎に繰り返し処理される。ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10では、フラグFpが1であるか否かを判定する。フラグFpは、NSR触媒70に吸蔵されているNOxを放出しNSR触媒70のNOx吸蔵能力を回復することが必要な場合に、1に設定されるフラグであり、図4に示す処置によって設定される。
【0049】
図4は、エンジンECU100で実行されるNOx吸蔵量算出処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の作動中に、所定期間毎に繰り返し処理される。S30では、フラグFpが1であるか否かを判定する。NSR触媒70に吸蔵されたNOx量が、NOx吸蔵量の許容値を超えていない場合、NSR触媒70からNOxを放出する必要がないので、フラグFpが0に設定されており、S30で否定判定されS31へ進む。
【0050】
S31では、アクセル開度APとエンジン回転速度NEに基づいて、エンジン1のNOx排出量Ngを算出する。たとえば、単位時間当たりにエンジン1から排出されるNOx量が、予め実験等により、アクセル開度APとエンジン回転速度NEをパラメータとして求められており、マップ化され、メモリに格納されている。このマップから読み出した、単位時間当たりに排出されるNOx量に、前回の処理と今回の処理との時間間隔Δtを乗算することにより、NOx排出量Ngを算出する。なお、NOx排出量Ngは、燃料噴射量Qfとエンジン回転速度NEをパラメータとして算出するようにしてもよい。
【0051】
続くS32では、前回のNOx吸蔵量ΣNOxにNOx排出量Ngを加算して、(今回の)NOx吸蔵量ΣNOxを算出し、S33へ進む。
【0052】
S33において、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ要求閾値Dc以上か否かを判定する。パージ要求閾値Dcは、NOx吸蔵量ΣNOxがこの値を超えると、NSR触媒70でNOxが吸蔵されることなく、NSR触媒70の下流へ排出されるおそれのある値であり、実験等によって設定される。NOx吸蔵量ΣNOxがパージ要求閾値Dc以上であると、肯定判定されS34へ進み、フラグFpを1に設定し、今回のルーチンを終了する。NOx吸蔵量ΣNOxがパージ要求閾値Dcより小さい場合は、否定判定され、今回のルーチンを終了する。
【0053】
S30において、フラグFpが1であり肯定判定されると、S35へ進む。S35では、フラグFrが1であるか否かを判定する。フラグFrは、リッチパージの実行時、1に設定されるフラグである。フラグFrが1であるときは、S35で肯定判定されS36へ進む。
【0054】
S36では、ポスト噴射量Qpとエンジン回転速度NEに基づいて、NOx放出量Nr1を算出する。NOx放出量Nr1は、排気ガスの空燃比がリッチ(還元雰囲気)になり、NSR触媒70から放出され還元されたNOx量である。たとえば、単位時間当たりにNSR触媒70から放出還元されるNOx量が、予め実験等により、ポスト噴射量Qpとエンジン回転速度NEをパラメータとして求められており、マップ化され、メモリに格納されている。このマップから読み出した、単位時間当たりに放出還元されるNOx量に、前回の処理と今回の処理との時間間隔Δtを乗算することにより、NOx放出量Nr1を算出する。なお、単位時間当たりにNSR触媒70から放出還元されるNOx量は、エンジン回転速度NE等にかかわらず、一定値であってもよい。
【0055】
続くS37では、前回のNOx吸蔵量ΣNOxからNOx放出量Nr1を減算して、(今回の)NOx吸蔵量ΣNOxを算出し、S41へ進む。
【0056】
リッチパージが実行されておらず、フラグFrが0である場合には、S35において、否定判定されS38へ進む。S38では、フラグFtが1であるか否かを判定する。フラグFtは、昇温パージの実行時、1に設定されるフラグである。フラグFtが1であるときは、S38で肯定判定されS39へ進む。フラグFtが0であるときは、S38で否定判定され、今回のルーチンを終了する。
【0057】
S39では、NSR触媒70の温度Tcに基づいて、NOx放出量Nr2を算出する。NOx放出量Nr2は、NSR触媒72が昇温され、NSR触媒72から放出されたNOx量である。たとえば、温度Tcをパラメータとして、単位時間当たりにNSR触媒70から放出されるNOx量が、予め実験等により求められており、マップ化され、メモリに格納されている。このマップから読み出した、単位時間当たりに放出されるNOx量に、前回の処理と今回の処理との時間間隔Δtを乗算することにより、NOx放出量Nr2を算出する。
【0058】
続くS40では、前回のNOx吸蔵量ΣNOxからNOx放出量Nr2を減算して、(今回の)NOx吸蔵量ΣNOxを算出し、S41へ進む。
【0059】
S41では、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ終了閾値Df以下であるか否かを判定する。パージ終了閾値Dfは、NSR触媒70に吸蔵されていたNOxが放出され、NSR触媒70のNOx吸蔵能力が十分に回復したときのNOx吸蔵量ΣNOxの値であり、たとえば、0であってよい。NOx吸蔵量ΣNOxがパージ終了閾値Df以下になると、肯定判定されS42へ進み、フラグFpを0に設定し、今回のルーチンを終了する。NOx吸蔵量ΣNOxがパージ終了閾値Dfより大きい場合は、否定判定され、今回のルーチンを終了する。
【0060】
このように、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ要求閾値Dc以上になると、フラグFpが1に設定される。また、リッチパージあるいは昇温パージによって、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ終了閾値Df以下になると、フラグFpが0に設定される。
【0061】
図3を参照して、フラグFpが1に設定されており、リッチパージあるいは昇温パージによって、NSR触媒70に吸蔵されているNOxを放出し、NSR触媒70のNOx吸蔵能力を回復することが必要な場合、S10において肯定判定されS11へ進む。フラグFpが0に設定されている場合は、否定判定されS20へ進む。
【0062】
S11では、リッチパージを行うことが可能か否かを判定する。たとえば、エンジン回転速度NEと燃料噴射量Qfに基づいて、エンジン1の運転領域が、絞り弁26を制御して吸入空気量Gaを減少しポスト噴射を行うことにより、排気ガスの空燃比をリッチにできる運転領域か否かを判定する。そして、エンジン1の運転領域が、排気ガスの空燃比をリッチにできる運転領域であり、かつ、NSR触媒70の温度Tcが活性化温度以上であるときに、リッチパージを行うことが可能であると判定する。S11において、リッチパージを行うことが可能であると判定されると、S11へ進む。リッチパージを行うことができない場合は、S11で否定判定されS17へ進む。
【0063】
S12では、フラグFmが1であるか否かを判定する。フラグFmは、リッチパージを禁止するためのフラグであり、リッチパージの実行時に、燃焼室から排出されるメタンの量が許容値を超えたとき1に設定され、リッチパージが禁止される。なお、フラグFmの詳細については、後述する。フラグFmが0である場合、S12で否定判定されS13へ進む。
【0064】
S13では、リッチパージを実行し、フラグFrを1に設定するとともにフラグFtを0に設定する。リッチパージは、前述の通り、絞り弁26を制御して吸入空気量Gaを減少するとともにポスト噴射を実行して、排気ガスの空燃比をリッチにする。なお、前回の処理時に昇温パージが実行されている場合、昇温パージは終了される。
【0065】
続くS14では、燃焼室から排出されるメタンの量であるメタン排出量ΣMe[mg]を算出する。たとえば、エンジン1の各気筒における1サイクル当たりの吸入空気量Gn、燃焼室内温度(筒内温度)、ポスト噴射量Qp、等をパラメータとしたメタン生成モデルから、単位時間当たりに排出されるメタン量m[mg/s]を算出する。そして、単位時間当たりに排出されるメタン量mに、前回の処理と今回の処理との時間間隔Δt[s]を乗算することにより、メタン量Me[mg]を算出する(Me=m×Δt)。そして、前回のメタン排出量ΣMeにメタン量Meを加算して、(今回の)メタン排出量ΣMe[mg]を求める(ΣMe=ΣMe(前回値)+Me)。なお、単位時間当たりに排出されるメタン量mを、吸入空気量Gaと総燃料噴射量(Qf+Qp)とエンジン回転速度NEとをパラメータとして、予め実験等により求めマップ化しておき、このマップを用いて、単位時間当たりに排出されるメタン量mを算出するようにしてもよい。
【0066】
S15では、フラグFpが0であるか否かを判定する。NSR触媒70のNOx吸蔵能力が十分に回復していない場合は、フラグFpは1であり否定判定され、NSR触媒70に吸蔵されているNOxの放出を継続するためにS11に戻る。
【0067】
図5は、エンジンECU100で実行されるメタン排出許容値算出処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の作動中(図示しない、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間)に、所定期間毎に繰り返し処理される。まず、S50において、今回許容値AMeを算出する。今回許容値AMeは、本ルーチンの前回の処理から今回の処理までの間に許容されるメタン排出量の許容値であり、車両Vの走行距離当たりのメタン排出目標値Tme[mg/km]に、本ルーチンの前回の処理から今回の処理までの間の車両Vの走行距離[km]を乗算したものである。本実施の形態では、メタン排出目標値Tme[mg/km]に車速SPD[km/h]と前回の処理と今回の処理との時間間隔Δt[h]を乗算することにより、今回許容値AMe[mg]を算出する(AMe=Tme×SPD×Δt)。
【0068】
続くS51では、前回のメタン排出許容値ΣAMeに今回許容値AMeを加算して(今回の)メタン排出許容値ΣAMe[mg]を算出し、S52へ進む。
【0069】
S52では、フラグFmが1であるか否かを判定する。フラグFmが1のとき、肯定判定され今回のルーチンを終了する。フラグFmが0のとき、否定判定されS53へ進む。
【0070】
S53では、メタン排出量ΣMeが、メタン排出許容値ΣAMe以下であるか否かを判定する。メタン排出量ΣMeがメタン排出許容値ΣAMe以下の場合(ΣMe≦ΣAMe)、肯定判定され、今回のルーチンを終了する。メタン排出量ΣMeがメタン排出許容値ΣAMeを超えている場合(ΣMe>ΣAMe)、否定判定されS54へ進む。
【0071】
S54では、フラグFmを1に設定したあと、S55へ進んで、メタン排出許容値ΣAMeを0[mg]にリセットし、今回のルーチンを終了する。このように、リッチパージの実行時にS14(図3)で算出したメタン排出量ΣMeが、メタン排出許容値ΣAMeを超えたとき、フラグFmが1に設定される。
【0072】
図3を参照して、フラグFmが1に設定されると、S12で否定判定されて、リッチパージが禁止され、S16へ進む。S16では、メタン排出量ΣMeを0[mg]にリセットしたあと、S17へ進む。
【0073】
S17では、昇温パージを行うことが可能か否かを判定する。たとえば、SCRDPF70の温度Tfが触媒の活性化温度以上の場合、昇温パージを行うことが可能であると判定する。S17において、昇温パージを行うことが可能であると判定されると、S18へ進む。昇温パージを行うことが可能でない場合は、S17で否定判定されS20へ進む。
【0074】
S18では、昇温パージを実行し、フラグFrを0に設定するとともにフラグFtを1に設定する。なお、前回の処理時にリッチパージが実行されている場合、リッチパージは終了される。昇温パージは、絞り弁26を制御して吸入空気量Gaを減少するとともにメイン噴射時期を遅角して、排気ガスの温度を上昇させ、NSR触媒70を昇温するようにしてよい。また、吸入空気量Gaの減少およびメイン噴射時期の遅角に加えて、排気ガスの空燃比がリッチにならない程度のポスト噴射を、リッチパージの実行時よりも遅角した噴射時期に行ってもよい。また、これらに加えて、あるいは、代えて、燃料添加弁90から燃料を添加することにより、排気ガスの温度を上昇させ、NSR触媒70を昇温するようにしてもよい。S18の処理のあと、S15へ進む。
【0075】
NSR触媒70のNOx吸蔵能力が十分に回復し、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ終了閾値Df以下になり、S42(図4)において、フラグFpが0に設定されると、S15で肯定判定されS19へ進む。
【0076】
S19では、フラグFmを0に設定したあと、S20に進む。S20では、リッチパージを実行している場合は、リッチパージを終了する。また、昇温パージを実行している場合は、昇温パージを終了する。さらに、フラグFrを0に設定するとともにフラグFtを0に設定したあと、今回のルーチンを終了する。
【0077】
図6は、本実施の形態の作用を説明する図である。図6において横軸は時間であり、(A)は走行距離の推移、(B)はNOx吸蔵量ΣNOxの推移、(C)はフラグFpの推移、(D)はフラグFrの推移、(E)はフラグFtの推移、(F)はメタン排出許容値ΣAMeおよびメタン排出量ΣMeの推移、(G)はフラグFmの推移を表している。
【0078】
図6を参照して、時刻t0で車両Vのトリップが開始されると、図6(A)に示すように、時間の経過とともに走行距離が増加する。走行距離の増加および時間の経過に伴い、図6(B)に示すよう、NOx吸蔵量ΣNOxが増加する。また、走行距離の増加に伴い、図6(F)に示すよう、メタン排出許容値ΣAMeが増加する。
【0079】
時刻t1において、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ要求閾値Dc以上になると(図4:S33で肯定判定)、図6(C)に示すよう、フラグFpが1に設定される(図4:S34)。時刻t1で、フラグFpが1に設定されたとき、リッチパージが可能な運転状態であると(図3:S11で肯定判定)、リッチパージが開始され、図6(D)に示すように、フラグFrが1に設定される(図3:S13)。
【0080】
フラグFrが1に設定されると、NOx放出量Nr1が算出され、図6(B)に示すよう、NOx吸蔵量ΣNOxが減少する(図4:S36、S37)。また、時刻t1でリッチパージが開始されると、メタン量Meが算出され、図6(F)に示すように、メタン排出量ΣMeが増加する(図3:S14)。
【0081】
メタン排出量ΣMeが増加し、時刻t2において、メタン排出量ΣMeがメタン排出許容値ΣAMeを超えると(図5:S53で否定判定)、図6(G)に示すように、フラグFmが1に設定される(図5:S54)。
【0082】
時刻t2で、メタン排出量ΣMeがメタン排出許容値ΣAMeを超えると(図5:S53で否定判定)、図6(F)に示すように、メタン排出許容値ΣAMeが、一旦、0[mg]にリセットされ(図5:S55)、その後、走行距離の増加に伴いメタン排出許容値ΣAMeが増加する。
【0083】
フラグFmが1に設定されているとき、メタン排出量ΣMeは0[mg]にリセットされる(図3:S16)ので、図6(F)に示すよう、時刻t2において、メタン排出量ΣMeが0[mg]になり、その後、リッチパージが開始されるまで(フラグFrが1に設定されるまで)、メタン排出量ΣMeは0[mg]に維持される。
【0084】
フラグFmが1に設定されると、リッチパージが禁止され(図3:S12で肯定判定)、昇温パージが可能な運転状態であると(図3:S17で肯定判定)、昇温パージが開始され、図6(E)に示すよう、フラグFtが1に設定される(図3:S18)。また、図6(D)に示すように、フラグFrが0に設定される(図3:S18)。
【0085】
フラグFrが0に設定され、フラグFtが1に設定されると、NOx放出量Nr2が算出され、図6(B)に示すよう、NOx吸蔵量ΣNOxが減少する(図4:S39、S40)。NOx吸蔵量ΣNOxが減少し、時刻t3において、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ終了閾値Df以下になると(図4:S41で肯定判定)、図6(C)に示すよう、フラグFpが0に設定される(図3:S42)。
【0086】
フラグFpが0に設定されると、S15(図3)で肯定判定されるので、フラグFmが0に設定され(図3:S19)、リッチパージおよび昇温パージを終了するとともに、フラグFr、フラグFtが0に設定される(図3:S20)。
【0087】
時刻t3で、フラグFpが0に設定されると、S30(図4)で否定判定されるので、NOx排出量Ngが算出され、図6(B)に示すように、走行距離の増加とともにNOx吸蔵量ΣNOxが増加する。NOx吸蔵量ΣNOxが増加し、時刻t4において、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ要求閾値Dc以上になると、フラグFpが1に設定される。時刻t4~時刻t6は、時刻t1~時刻t3の処理と同様の処理が行われる。
【0088】
本実施の形態によれば、NSR触媒70のNOx吸蔵量ΣNOxがパージ要求閾値Dc以上になったとき、インジェクター14から燃焼室へ噴射される燃料によって排気ガスの空燃比をリッチとしてリッチパージを実行し、NSR触媒70に吸蔵したNOxを放出し還元する。エンジンECU100は、は、リッチパージの実行時、燃焼室から排出されるメタンの量であるメタン排出量ΣMeを算出し、メタン排出量ΣMeがメタン排出許容値ΣAMeを超えたとき、フラグFmを1に設定し、リッチパージを禁止する。メタン排出量ΣMeがメタン排出許容値ΣAMeを超えたとき、リッチパージを禁止するので、リッチパージの実行時に大気に排出されるメタンを、適正な量に制御することができる。
【0089】
本実施の形態では、車両Vの走行距離に基づいてメタン排出許容値ΣAMeを算出しているので、大気へのメタン排出量を、排気ガス中の二酸化炭素(CO2)の排出量規制と同様に適切に管理することが可能になる。また、メタン排出量ΣMeがメタン排出許容値ΣAMeを超えたとき、メタン排出量ΣMeとメタン排出許容値ΣAMeを、0にリセットしているので、算出したメタン排出量ΣMeおよびメタン排出許容値ΣAMeの値を保持するレジスタのオーバフローを抑止することができる。
【0090】
本実施の形態では、フラグFmが1に設定され、リッチパージが禁止されたとき、NOx吸蔵量ΣNOxがパージ終了閾値Df以下になるまで昇温パージを実行し、NSR触媒70の温度を上昇させて、NSR触媒70からNOxを放出して、NSR触媒70のNOx吸蔵能力を回復させる。昇温パージによって放出されたNOxは、NSR触媒70の下流に設けたSCRDPF72によって還元浄化されるので、NSR触媒70から放出されたNOxが大気に放出されることを抑制できる。
【0091】
上記実施の形態では、NSR触媒70の下流の排気通路52に、SCRDPF72およびSCR触媒74を設けている。しかし、NSR触媒70の下流にSCR触媒74のみを設けてもよい。また、NSR触媒70の下流にDPFを設け、DPFの流にSCR触媒を設けた構成であってもよい。
【0092】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0093】
1 エンジン、2 トルクコンバータ、3 自動変速機、4 ディファレンシャルギヤ、 5 後輪、10 エンジン本体、12 シリンダ、14 インジェクター、20 吸気通路、22 エアクリーナ、24 インタークーラ、26 絞り弁、28 吸気マニホールド、30 ターボ過給器、32 コンプレッサ、34 タービン、40 燃料タンク、41 フィードポンプ、 42 高圧燃料ポンプ、43 燃料通路、44 コモンレール、45 燃料通路、50 排気マニホールド、52 排気通路、60 EGR通路、62 EGRクーラ、64 EGR弁、70 SCR触媒、72 SCRDPF、74 SCR触媒、80 尿素水タンク、82,83 尿素添加弁、90 燃料添加弁、100 エンジンECU、101 CPU、102 メモリ、111 車速センサ、112 エンジン回転速度センサ、113 アクセルペダルセンサ、114 エアフローメータ、115 NSR触媒温度センサ、116 SCRDPF温度センサ、117,118 NOxセンサ、119 A/Fセンサ、200 トランスミッションECU。
図1
図2
図3
図4
図5
図6