(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161305
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】サンゴのポリプの単離方法、回収方法、培養方法およびこれらを実施する装置
(51)【国際特許分類】
A01K 61/00 20170101AFI20231030BHJP
【FI】
A01K61/00 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071613
(22)【出願日】2022-04-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jim2022spring/proceedings/list 掲載日 令和4年3月1日 ・ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jim2022spring/subject/8PS69-72-02/tables?cryptoId= 掲載日 令和4年3月22日 ・ウェブサイトのアドレス https://us06web.zoom.us/j/88049432914?pwd=bzl3N2xXbmM2QnVCeXVCWWtFcU5rZz09 掲載日 令和4年3月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業大学発新産業創出プログラム「ポリプを起点としたサンゴの高効率増殖による二酸化炭素の固定化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】上田 正人
(72)【発明者】
【氏名】上坂 菜々子
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 ちひろ
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA38
2B104BA01
2B104FA11
(57)【要約】
【課題】既存のサンゴ群体への損傷を最小限としたうえで、サンゴからポリプを効率よく単離し、培養する方法を実現する
【解決手段】塩分濃度が30~40pptである水溶液中にサンゴを投入し、当該塩分濃度を特定の速度で、特定の範囲まで増加させる工程、あるいは減少させる工程のいずれか一方を含む、サンゴのポリプの単離方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分濃度が30~40pptである水溶液中にサンゴを投入する工程と、当該塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで、45~70pptまで増加させる工程A、または当該塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで10~26pptまで減少させる工程Bのいずれか一方とを含む、サンゴのポリプの単離方法。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、前記塩分濃度を50~60pptまで増加させる、請求項1に記載のサンゴのポリプの単離方法。
【請求項3】
前記工程Aにおける前記塩分濃度の増加速度または前記工程Bにおける前記塩分濃度の減少速度が3~6ppt/hである、請求項1に記載のサンゴのポリプの単離方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のサンゴのポリプの単離方法によって単離したポリプを、チタンおよび/または酸化チタンを主成分とする基盤へ密着させる回収工程を含む、サンゴのポリプの回収方法。
【請求項5】
さらに水晶振動マイクロバランスを使用して、ポリプの基盤への密着状況をモニタリングし、プラトー密着時間の確認を行う工程を含む、請求項4に記載のサンゴのポリプの回収方法。
【請求項6】
請求項4に記載のサンゴのポリプの回収方法により回収したサンゴのポリプをさらに培養する培養工程を含む、サンゴのポリプの培養方法。
【請求項7】
塩分濃度が30~40pptである水溶液およびサンゴを収容する処理部と、
前記塩分濃度を1.5~13ppt/hで45~70pptまで増加させること、または前記塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで10~26pptまで減少させることができる塩分濃度調節部と、を備えるサンゴのポリプの単離装置。
【請求項8】
請求項7に記載のサンゴのポリプの単離装置により単離されたポリプを回収する回収部を備え、当該回収部はチタンおよび/または酸化チタンを主成分とする基盤を備える、サンゴのポリプの回収装置。
【請求項9】
請求項8に記載のサンゴのポリプの回収装置により回収されたポリプを培養する培養部を備える、サンゴのポリプの培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサンゴのポリプの単離方法、回収方法、培養方法およびこれらを実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
世界のサンゴ生態系は乱獲、汚染により衰退傾向にあり、近年は海水温度上昇による白化現象、オニヒトデによる食害、表土の流出等によりさらに衰退が進行している。サンゴの回復速度は遅いため、現状のままでは衰亡する可能性もある。そのため、人工的なサンゴ再生、保全の方法が検討されている。
【0003】
サンゴの再生方法としては例えば、サンゴ群体から採取したサンゴの断片を苗としてロープ等に結着させ、海面上の筏より垂下養殖し、十分に成長させてから海底の岩礁へ移植する方法がある(特許文献1)。また、前記サンゴの断片を海底の岩、またはコンクリート等の基盤に、水中ボンド等により固定する方法もある(特許文献2、非特許文献1)。さらに、サンゴの受精卵を回収して、サンゴの幼体を養殖する方法も存在する(特許文献3、4)。
【0004】
さらに、非特許文献2では、環境負荷によるサンゴの遺伝子の変化の例として、海水中の塩分濃度の上昇とサンゴの遺伝子の変化との関係について検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-39270号公報
【特許文献2】特開2003-61506号公報
【特許文献3】特開2003-219751号公報
【特許文献4】特開2002-272307号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】沖縄県サンゴ移植マニュアル 平成20年度版 沖縄文化環境部自然保護課
【非特許文献2】Po-Shun et al., Signaling pathways in the coral polyp bail-out response, Coral Reefs, Published online:31 July 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2、非特許文献1のようなサンゴの断片を使用するサンゴの再生方法は、移植を行う個体の数だけ断片を採取するため既存のサンゴ群体が大きく損傷することになる。また、特許文献3、4のようにサンゴの受精卵を使用する方法は、年に数回程度しかサンゴの受精卵を回収する機会が存在しないため、実施可能な時期が制限される。
【0008】
非特許文献2には、海水中の塩分濃度を上昇させるとサンゴからポリプが単離されることが記載されている。その条件は、海水中の塩分濃度を24時間かけて35pptから46pptに上昇させるというものである。しかし、非特許文献2には、サンゴおよび単離されたポリプに与えるストレスを最小化し、かつ、ポリプを効率よく単離するという技術思想は全く記載されていない。
【0009】
本発明の一態様は、既存のサンゴ群体への損傷を最小限とした上で、サンゴおよび単離されたポリプに与えるストレスを最小化し、かつ、時期によらず、サンゴからポリプを効率よく単離する方法を提供することを目的とする。また、本発明の一態様は、前記ポリプを回収する方法、培養する方法およびこれらの方法を実施するための装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、サンゴの飼育環境下において、塩分濃度を特定の速度で特定の範囲まで変化させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本願発明を完成させるに至った。すなわち、本願発明は以下の構成を含む。
<1>塩分濃度が30~40pptである水溶液中にサンゴを投入する工程と、当該塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで、45~70pptまで増加させる工程A、または当該塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで10~26pptまで減少させる工程Bのいずれか一方とを含む、サンゴのポリプの単離方法。
<2>前記工程Aにおいて、前記塩分濃度を50~60pptまで増加させる、<1>に記載のサンゴのポリプの単離方法。
<3>前記工程Aにおける前記塩分濃度の増加速度または前記工程Bにおける前記塩分濃度の減少速度が3~6ppt/hである、<1>または<2>に記載のサンゴのポリプの単離方法。
<4><1>~<3>のいずれかに記載のサンゴのポリプの単離方法によって単離したポリプを、チタンおよび/または酸化チタンを主成分とする基盤へ密着させる回収工程を含むサンゴのポリプの回収方法。
<5>さらに水晶振動マイクロバランスを使用して、ポリプの基盤への密着状況をモニタリングし、プラトー密着時間の確認を行う工程を含む、<4>に記載のサンゴのポリプの回収方法。
<6><4>または<5>に記載のサンゴのポリプの回収方法により回収したサンゴのポリプをさらに培養する培養工程を含む、サンゴのポリプの培養方法。
<7>塩分濃度が30~40pptである水溶液およびサンゴを収容する処理部と、前記塩分濃度を1.5~13ppt/hで45~70pptまで増加させること、または前記塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで10~26pptまで減少させることができる塩分濃度調節部と、を備えるサンゴのポリプの単離装置。
<8><7>に記載のサンゴのポリプの単離装置により単離されたポリプを回収する回収部を備え、当該回収部はチタンおよび/または酸化チタンを主成分とする基盤を備える、サンゴのポリプの回収装置。
<9><8>に記載のサンゴのポリプの回収装置により回収されたポリプを培養する培養部を備える、サンゴのポリプの培養装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、既存のサンゴ群体への損傷を最小限とした上で、サンゴおよび単離されたポリプに与えるストレスを最小化し、かつ、時期によらず、サンゴからポリプを効率よく単離し、培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るサンゴのポリプの単離・培養装置の一例を示した模式図である。
【
図2】実施例における、サンゴの断片からポリプが単離する様子の観察像である。
【
図3】実施例における、サンゴの断片からポリプが単離する様子の観察像である。
【
図4】実施例における、サンゴ断片のプレインキュベーションと、ポリプのベイルアウト開始時間との関係性を示すグラフである。
【
図5】実施例における、高濃度人工海水滴下終了後の塩分濃度と、サンゴの断片がベイルアウトに要する時間との関連性を示したグラフの、および、サンゴ断片を塩分濃度35pptの海水中で保持した時間と、前記時間との関連性を示したグラフである。
【
図6】実施例における、ポリプの基盤への密着性試験の結果を示す観察像である。
【
図7】実施例における酸化チタン基盤に密着させたポリプについて、水晶振動マイクロバランス法を用い、酸化チタン基盤においてポリプが密着したエリアを測定した結果を示すグラフである。
【
図8】実施例における、表面をサンドブラスト処理したチタン基盤へのポリプの密着性試験の測定結果を示す観察像である。
【
図9】実施例における、表面をサンドブラスト処理したチタン基盤へのポリプの密着性試験の結果を示すグラフである。
【
図10】実施例における、表面をサンドブラスト処理した酸化チタン基盤へのポリプの密着性試験の結果を示す観察像である。
【
図11】実施例における、表面をサンドブラスト処理した酸化チタン基盤へのポリプの密着性試験の結果を示すグラフである。
【
図12】実施例における、ストライプ状チタン基盤へのポリプの密着性試験の結果を示す観察像である。
【
図13】実施例における、ストライプ状チタン基盤へのポリプの密着性試験の結果を示すグラフである。
【
図14】実施例における、ポリプを播種する基盤を変更したポリプの密着性試験の結果を示す観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔1.サンゴのポリプの単離方法〕
本発明の一実施形態に係るサンゴのポリプの単離方法は、塩分濃度が30~40pptである水溶液中にサンゴを投入する工程と、当該塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで、45~70pptまで増加させる工程A、または当該塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで10~26pptまで減少させる工程Bのいずれか一方とを含む。
【0014】
本発明者らは、塩分濃度を上述した条件で変化させることにより、サンゴのストレス忌避反応が生じて、短時間で大量のサンゴのポリプが放出されることを見出した。以降、サンゴのストレス忌避反応によってポリプが放出されることを「ベイルアウト」とも記載する。これにより、少量のサンゴの断片から大量のサンゴのポリプを得ることが可能である。従来のサンゴの再生方法は、サンゴの断片をそのまま苗としていたため、1つのサンゴの断片から1株のサンゴしか得られなかった。したがって、大規模なサンゴの移植を行おうとすると、既存のサンゴ群体が破壊される可能性があった。しかしながら、本願発明の単離方法によれば、1つのサンゴの断片から多数のポリプを得ることができるため、既存のサンゴ群体を破壊することなく、多数のサンゴを生育させることができる。
【0015】
また、前記単離方法は、塩分濃度を特定の範囲に、特定の速度で変化させるのみで実施することができる。したがって、酵素等の薬品、および複雑な装置を使用しないため、環境への負荷が少なく、かつ実験者および場所を限定することなく実施することが可能である。
【0016】
このような構成によれば、二酸化炭素の固定化に有用なサンゴを環境への負荷が少なく、かつ高効率で増殖させることができる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の目標14「海の豊かさを守ろう」等の達成に貢献できる。
【0017】
前記単離方法において使用できるサンゴの種類は特に限定されない。当該サンゴとしては例えば、ハナヤサイサンゴ、アザミサンゴ、ショウガサンゴ、トゲサンゴ、ミドリイシ等が挙げられる。より効率的にポリプを単離可能である観点から、ハナヤサイサンゴが好ましい。前記単離方法においては、一種類のみのサンゴが使用されてもよいし、複数種類のサンゴが使用されてもよい。
【0018】
前記単離方法に用いられるサンゴは、例えば既存のサンゴ礁から折り取ったサンゴの断片であってもよいし、前記単離方法によって得られたポリプを養殖して得られたサンゴであってもよい。取り扱い性の観点から、サンゴの断片の大きさは、外径が1~5cm程度であることが好ましい。
【0019】
前記単離方法を開始する際の水溶液の塩分濃度は、30~40pptであり、好ましくは32~38ppt、より好ましくは34~36ppt、最も好ましくは標準海水と同じ35pptである。サンゴにとっては、海水の塩分濃度が最も好適である。よって、単離開始時の水溶液の塩分濃度が上記範囲であれば、サンゴへの負荷を小さくすることができる。
【0020】
前記単離方法に使用する水溶液は特に限定されないが、例えばろ過等を行った海水を用いてもよいし、NaCl等の塩類を溶解させた水等を用いてもよい。サンゴへの負荷を軽減する観点から、サンゴの断片を回収した地域の海水を用いてもよい。また、水溶液には必要に応じてアミノ酸、抗生剤、ストロンチウムイオン等の添加剤が添加されてもよい。また、市販の人工海水は塩化ナトリウムを主成分として、様々な無機塩類やpH調整剤などが含まれており、水道水や蒸留水で希釈することによって海水に近い成分となり、これを用いることもできる。
【0021】
前記塩類としては、塩化ナトリウム以外に、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等から選ばれる一以上の塩を含み得る。前記塩類は、塩化ナトリウムが、前記塩類の重量中、75重量%以上含まれていることが好ましい。
【0022】
塩分濃度が30~40pptである水溶液中にサンゴを投入する工程を実施する方法は、特に限定されない。例えば、前記水溶液を備えた処理部(例えば水槽)に、必要量のサンゴの断片等を投入する方法を挙げることができる。前記水溶液に投入するサンゴの量は、特に限定されないが、単離したポリプのハンドリングの観点から、前記水溶液1000~5000mlに対して、1~50gとすることが好ましく、5~30gとすることがより好ましい。前記サンゴの断片等は、前記水溶液中において浮遊していてもよく、基盤等に固着していてもよい。
【0023】
前記単離方法は、サンゴが投入されている水溶液の塩分濃度を増加させる前記工程A、または塩分濃度を減少させる前記工程Bのいずれか一方を含む。
【0024】
工程Aにおいて塩分濃度を増加させる方法は特に限定されず、例えば前記水溶液の水を自然蒸発させてもよいし、前記水溶液に高い塩分濃度を有する高濃度人工海水等を添加してもよい。塩分濃度の変化速度を調整しやすいため、高濃度人工海水等を前記水溶液に添加する方法が好ましい。また、工程Bにおいて塩分濃度を減少させる方法も特に限定されず、例えば、前記水溶液に真水を添加してもよいし、低濃度人工海水を添加してもよい。塩分濃度変化を制御しやすいという観点から、低濃度人工海水を前記水溶液に添加する方法が好ましい。
【0025】
工程Aまたは工程Bは、手動により行われてもよいし、装置を用いて自動で行われてもよい。塩分濃度を前記速度で増加または減少させるための装置としては、例えば、高濃度人工海水もしくは低濃度人工海水を定量的に処理部へ送液できる装置を用いることができる。塩分濃度の測定は、例えば電気伝導式塩分濃度測定機器、または屈折率式塩分濃度測定機器を用いて行うことができる。
【0026】
前記単離方法は、サンゴが投入されている水溶液の塩分濃度を増加させる工程、または塩分濃度を減少させる工程を行う前に、塩分濃度が30~40pptの水溶液中でサンゴを保持してもよい。保持する時間は特に限定されないが、例えば24~48時間であってもよい。塩分濃度が30~40pptの水溶液としては、例えば標準人工海水を用いることができる。
【0027】
水溶液の塩分濃度を変化させる前にあらかじめサンゴを標準海水に近い塩分濃度下に保持しておくことにより、当該保持を行わない場合よりも、前記塩分濃度が45~70pptに達してからベイルアウトが発生するまでの時間を短くすることができる。塩分濃度が高い状態、あるいは低い状態は、サンゴにとってストレスであるため、ベイルアウトが発生するまでの時間を短くすることにより、サンゴへのストレスを軽減しつつ、ポリプの生存率を高めることができる。
【0028】
前記保持する時間はサンゴのポリプの単離状況に基づいて決定してもよい。例えば、単離しているポリプが少ない場合はより長い時間保持してもよい。また、十分な数のポリプが単離している場合は、保持する時間を短くしてもよい。
【0029】
前記単離方法が工程Aを含む場合、水溶液の塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで増加させ、前記濃度の上限は45~70pptであり、好ましくは50~65ppt、より好ましくは50~60ppt、さらに好ましくは55~60ppt、最も好ましくは55pptである。
【0030】
サンゴは海水の塩分濃度の変化に敏感な生物である。本発明者は、急激に塩分濃度を変化させた場合、サンゴがポリプを放出しないことを見出した。例えば、サンゴを、海水から、塩分濃度が前記上限値の水溶液中に直接投入すると、該サンゴはポリプを放出せず、かつ、サンゴの生育状況は悪化する。
【0031】
非特許文献2には、サンゴを投入した水溶液中の塩分濃度を、35.0pptから46.0pptまで、24時間かけて増加させるという条件が記載されており、これによってベイルアウトが生じることが記載されている。
【0032】
しかし、前記条件の速度を維持して、前記塩分濃度を前記上限値(45~70ppt)に増加させたとすると、35.0pptから前記上限値まで増加させるのに要する時間は約22~77時間となる。このときサンゴには、塩分濃度の上昇というストレスが、長時間に渡って負荷されることになる。それゆえ、非特許文献2に記載された条件では、サンゴおよびポリプの生育状況を良好に保ちつつ、ポリプを効率的に単離することは困難である。
【0033】
このように、サンゴが環境の変化に敏感な生物であることを踏まえると、サンゴに与えるストレスを軽減し、かつ、ポリプを効率的に単離可能な条件を見出すことが必要であるが、それは非特許文献2の記載に基づいて容易に想到可能な条件ではないと言える。
【0034】
工程Aは、サンゴの性質を踏まえて、塩分濃度の適切な増加速度および最終濃度を検討し、本発明者が独自に見出した条件である。工程Aに示す条件は、サンゴに与えるストレスを軽減し、かつ、ポリプを効率的に単離する上で好適である。また、水溶液の塩分濃度の上限を70ppt以下とすることにより、サンゴおよび単離されたポリプの生存率を高く保持することができる。
【0035】
前記単離方法が工程Bを含む場合、水溶液の塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで低下させ、前記塩分濃度の下限は10~26pptであり、好ましくは15~24ppt、より好ましくは18~22pptである。
【0036】
工程Bは、サンゴの性質を踏まえて、塩分濃度の適切な減少速度および最終濃度を検討し、本発明者が独自に見出した条件である。工程Bに示す条件も、サンゴに与えるストレスを軽減し、かつ、ポリプを効率的に単離する上で好適である。
【0037】
前記工程Aまたは工程Bにおいて、水溶液の塩分濃度を増加または減少させる速度は、1.5~13ppt/hであり、好ましくは2~12ppt/hであり、より好ましくは3~7ppt/hであり、さらに好ましくは3~5ppt/h、特に好ましくは4ppt/hである。
【0038】
前記工程AまたはBにおいて、前記塩分濃度を45~70pptまで増加させる時間、または10~26pptまで減少させる時間は、サンゴへのストレスを軽減する観点から20時間以下が好ましく、14時間以下がより好ましく、10時間以下がさらに好ましい。水溶液の塩分濃度を増加または減少させる時間の下限値は特に限定されないが、サンゴに対するストレスを軽減する観点から、例えば1時間以上、または2時間以上であってもよい。
【0039】
前述したように、前記水溶液中の塩分濃度の急激な増加または減少は、サンゴに対して大きなストレスとなり、ポリプの単離効率の悪化を招く。また、塩分濃度を変化させる環境下に長時間さらされることも、サンゴに対して大きなストレスとなる。塩分濃度の増減速度が上記範囲内であれば、前記水溶液中の塩分濃度を緩やかに、かつ短時間で変化させることができるため、サンゴおよびポリプに与えるストレスを少なくすることができる。その結果、サンゴからポリプを効率よく単離し、かつ、サンゴおよびポリプの生存率を高く保つことができる。
【0040】
水溶液中の塩分濃度の増減速度を調節する方法は特に限定されないが、例えば後述する装置に備えられた塩分濃度調節部を使用して調節してもよい。また、塩分濃度の増減速度は前記範囲内であれば一定であってもよいし、途中で速度を変化させてもよい。
【0041】
前記単離方法においては、水温、照射光、水溶液に含まれる塩分以外の成分の濃度、溶存酸素量、水位等の、前記水溶液中の塩分濃度以外の条件を、できる限り一定に保つことが好ましい。
【0042】
〔2.サンゴのポリプの回収方法〕
本発明の一実施形態に係るサンゴのポリプの回収方法は、前記単離方法により単離したポリプを、チタンおよび/または酸化チタンを主成分とする基盤へ密着させる回収工程を含む。なお、本項では、〔1.サンゴのポリプの単離方法〕で説明した事項については記載を省略する。
【0043】
本明細書において「ポリプが基盤に密着する」とは、例えば、水中で基盤をタッピングしても、基盤からポリプが離れないことを意味する。ポリプは、サンゴから単離された直後は遊泳しており、一定時間経過後、基盤方向へ沈降し、基盤上に静止する。前記基盤をタッピングすることにより、基盤に密着していないポリプは揺動し、基盤に密着したポリプは揺動しないため、ポリプが基盤に密着したか否かを判断することができる。
【0044】
前記タッピングを行う方法としては、例えば、ポリプが基盤上に静止した後、手などで基盤に振動を与える方法を挙げることができる。
【0045】
前記単離工程で得られたポリプを、回収工程において基盤に密着させることにより、ポリプを容易に回収し、後述する培養工程においてポリプを培養することができる。また、ポリプ自体が基盤に密着するため、サンゴ断片等をワイヤー等でひとつひとつ固定する必要がなく、コストを低減することができる。
【0046】
ポリプを密着させる基盤は、コンクリート、樹脂等でも構わないが、チタンおよび/または酸化チタンを主成分とすることが好ましい。本明細書において「チタンおよび/または酸化チタンを主成分とする」とは、前記基盤に含まれるチタンおよび/または酸化チタンの重量の割合が50重量%超であることを意味する。また、前記基盤がチタンおよび/または酸化チタンにより被覆されている場合は、前記基盤の表面積の50%以上が被覆されていることを意味する。チタンおよび酸化チタンはポリプに対する親和性が高いため、前記構成によれば、ポリプが安定して成長することができる。特に、基盤がチタンを主成分とする場合、ポリプの基盤に対する密着力が強くなる。また、基盤が酸化チタンを主成分とする場合、ポリプが基盤に対して密着するまでの時間が短くなる。
【0047】
前記基盤は、ポリプの密着性を向上させる観点から、チタンもしくは酸化チタンから形成されている基盤、または、前記チタンの表面に酸化チタンの被膜が形成されている基盤であることが好ましい。前記チタンの表面に酸化チタンの被膜が形成されている基盤としては、チタンの表面に自然酸化により酸化チタンの被膜が形成されているもの、陽極酸化によってチタンの表面に酸化チタンの被膜を形成したもの等が挙げられる。
【0048】
前記基盤は、表面に対して凹凸をつけることが好ましい。前記基盤が凹凸を有することにより、ポリプの基盤に対する密着力がより強くなり、かつより短時間で基盤に対して密着することが可能となる。前記基盤に対して凹凸をつける方法としては例えば、研削剤等を使用してサンドブラスト処理を行う方法、前記基盤そのものの形状を変更する方法、研磨紙等で表面に傷をつける方法、切削加工等が挙げられる。
【0049】
前記サンドブラスト処理を行う場合、例えば粒径が300~850μm程度の研削剤を用いてもよい。前記基盤そのものの形状を変更する場合、前記基盤の形状は、凹凸のある板状、メッシュ状、ワイヤー状等が挙げられる。ポリプの密着しやすさの観点から、前記基盤の形状はワイヤー状であることが好ましい。例えば、ワイヤー状の基盤を任意の形状に曲折させ、絡み合わせた状態とすることにより、ポリプが仮足によって接触可能な足場を多く設けることができる。
【0050】
前記回収工程は、例えば、チタンおよび/または酸化チタンを主成分とする基盤を備える回収部に、前記単離工程によって単離されたポリプを含有した水溶液を移し、前記ポリプを前記基盤に密着させることにより、行うことができる。前記回収部としては、例えば、後述するサンゴのポリプの回収装置を構成するポリプ回収部を挙げることができる。
【0051】
前記回収工程を実施する際の水温は、好ましくは20~30℃であり、より好ましくは23~28℃であり、さらに好ましくは24~26℃である。前記回収工程時の水温が前記範囲であれば、ポリプが基盤に密着しやすくなる。
【0052】
前記回収工程を実施する際の水溶液の塩分濃度は、30~40pptであることが好ましく、より好ましくは32~38ppt、さらに好ましくは34~36ppt、最も好ましくは標準海水と同じ35pptである。回収工程における水溶液の塩分濃度が上記範囲であれば、サンゴへの負荷が小さい。
【0053】
前記工程Aを経た水溶液中の塩分濃度は45~70pptとなっており、工程Bを経た水溶液中の塩分濃度は10~26pptとなっている。これらの水溶液の塩分濃度を急激に30~40pptとすることは、ポリプに与えるストレスが大きいため、好ましくない。そこで、工程AまたはBを経た水溶液に対しては、例えば前記回収部とは別に設けたタンクに標準人工海水を入れ、当該タンクから標準人工海水を前記回収部に徐々に添加することにより、前記回収部中の水溶液の塩分濃度を30~40pptとすることが好ましい。
【0054】
前記回収方法は、水晶振動マイクロバランス(QCM)を使用して、ポリプの基盤への密着状況をモニタリングし、さらにプラトー密着時間の確認を行う工程を含むことが好ましい。本明細書中「プラトー密着時間」とは、QCMにより測定される基盤に対するポリプの密着率が大きく変化せず、ほぼ一定となる時間を意味する。すなわち、基盤に対するポリプの密着がプラトーとなる時間を「プラトー密着時間」と記載する。
【0055】
前記回収方法において、プラトー密着時間に到達した時点でポリプの密着は進行しなくなるため、QCMによりプラトー密着時間を確認することにより、効率的に後述する培養工程へと移行することが可能となる。QCMを実施する装置としては、例えばセイコー・イージーアンドジー株式会社のQCM922A等を用いることができる。
【0056】
〔3.サンゴのポリプの培養方法〕
本発明の一実施形態に係るポリプの培養方法は、前記ポリプの回収方法により回収したポリプを培養する培養工程を含む。前記培養工程の方法は特に限定されず、サンゴのポリプを培養するために行われる公知の方法によって行われてもよい。
【0057】
前記培養工程は例えば、基盤に密着したポリプを塩分濃度が30~40pptの水溶液に浸し、温度23~28℃で、24~200時間保持することによって行われる。また前記培養工程は、特に限定されるものではないが、例えばLED照明(例えば、Blue Harbor社製 SPECTRA SP200等)による光照射条件下、エアポンプ等によるエアーレーション条件下で行われてもよい。
【0058】
前記培養工程は前記回収工程と同時に行われてもよいし、前記回収工程が終了してから行われてもよい。例えば、前記回収工程において使用する基盤を培養槽内に投入することにより、回収工程と培養工程を同時に進行させることができる。
【0059】
〔4.装置〕
(4-1.ポリプの単離装置)
本発明の一実施形態に係るサンゴのポリプの単離装置は、塩分濃度が30~40pptである水溶液およびサンゴを収容する処理部と、前記塩分濃度を1.5~13ppt/hで45~70pptまで増加させること、または前記塩分濃度を速度1.5~13ppt/hで10~26pptまで減少させることができる塩分濃度調節部とを備える。〔1.サンゴのポリプの単離方法〕において既に説明した事項については記載を省略する。
【0060】
前記処理部では、サンゴのポリプの単離が行われる。処理部には塩分濃度が30~40pptの水溶液が存在しており、サンゴが投入される。前記処理部は、サンゴを設置可能なサンゴ設置部を備えていてもよい。サンゴ設置部は例えば、ポリプが通過可能でサンゴは通過できないネット、メッシュ等であってもよい。処理部に投入されたサンゴは、処理部に収容される水溶液の塩分濃度が変化することにより、ポリプを放出する。処理部としては、前記水溶液を収容可能な水槽等を用いることができる。処理部の素材としては例えば、アクリル、ガラス等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
前記ポリプの単離装置において、前記処理部は1つ以上が備えられていればよく、必要に応じて2つ、3つ、またはそれ以上とすることもできる。前記処理部の数が多いほど、複数のサンゴを投入することが可能であるため、より多くのポリプを得ることができる。前記処理部が複数である場合、それぞれの処理部は直列に接続されていてもよいし、並列に接続されていてもよい。
【0062】
前記処理部はさらに塩分濃度、溶存酸素、水温、水位等を測定するためのセンサ類を備えていてもよい。前記処理部がセンサ類を備えることにより、処理部内の水溶液の塩分濃度などをより正確に調節でき、ポリプへのダメージを最小にして効率的にポリプを単離することが可能となる。
【0063】
前記塩分濃度調節部は、前記ポリプの単離装置が有するタンク内に存在する高濃度人工海水、あるいは低濃度人工海水等の前記処理部への添加量を変更して、前記処理部内の水溶液の塩分濃度の増減を調節する。これにより、前記処理部内の塩分濃度の増加速度または減少速度を1.5~13ppt/hに調節し、かつ、前記塩分濃度を45~70pptまたは10~26pptとする。
【0064】
前記塩分濃度調節部は、バルブ等の、手動によって前記高濃度人工海水等の添加量を調節する装置であってもよいし、当該添加量を自動で調節可能な装置であってもよい。
【0065】
前記タンクは1つ以上が備えられていればよく、必要に応じて2つ、3つ、またはそれ以上とすることもできる。高濃度人工海水、あるいは低濃度人工海水以外にタンクに格納され得る液体としては、例えば標準人工海水、アミノ酸等の添加剤を含む水溶液、真水等が挙げられる。また、前記塩分濃度調節部と同様の構造を有する、NaCl水溶液、添加剤等の濃度調節部を、それぞれのタンクが備えていてもよい。
【0066】
前記ポリプの単離装置はさらに、廃液処理部を備えていてもよい。廃液処理部は、前記処理部内からの廃液を格納、あるいは処理可能であれば特に限定されない。廃液処理部を備えることにより、前記処理部内の水質を保つことが可能になる。
(4-2.ポリプの回収装置)
本発明の一実施形態に係るサンゴのポリプの回収装置は、前記単離装置により単離されたポリプを回収するポリプ回収部を備え、当該ポリプ回収部はチタンおよび/または酸化チタンを主成分とする基盤を備える。〔2.サンゴのポリプの回収方法〕において既に説明した事項については記載を省略する。
【0067】
前記回収部としては、例えば水槽等を用いることができる。前記ポリプ回収部では、単離されたポリプの回収が行われる。前記回収部には、前記処理部と同様に、塩分濃度が30~40pptの水溶液を収容しておくことが好ましい。前記単離装置により単離されたポリプは、塩分濃度が工程Aもしくは工程Bにおける終濃度である水溶液と共に、前記処理部から前記回収部に送られる。前記回収部では、前記ポリプがチタンおよび/または酸化チタンを主成分とする基盤に密着することにより回収される。前記基盤は、例えば前記回収部の底部に載置しておけばよい。
【0068】
前記回収部は、前記処理部とパイプ等によって接続されていることが好ましい。前記構成であれば、前記ポリプの単離装置によって単離したポリプを直接回収部へ送ることができる。また、前記処理部と前記回収部とを接続するパイプには、必要に応じてバルブが備えられていてもよい。また、前記回収部は、前記回収部が接続される先を、前記処理部および後述するタンクのいずれかに切り替えられるような切り替えバルブをさらに備えていてもよい。
【0069】
前記単離装置により単離されたポリプを前記回収部に送る場合、前記処理部内に含まれる塩分濃度が高い、あるいは低い水溶液もポリプと併せて不可避的に回収部へと送られる。前記回収部内の水溶液中の塩分濃度は、前記ポリプに与えるストレスを小さくするため、30~40pptであることが好ましい。しかし、前記塩分濃度が高い、あるいは低い水溶液の塩分濃度を急激に変化させて30~40pptとすることは、前記ポリプへのストレスとなるため好ましくない。
【0070】
そのため、前記ポリプの回収装置は、前記回収部内の水溶液の塩分濃度を調整するための塩分濃度調節部およびタンクをさらに備えることが好ましい。塩分濃度調節部、およびタンクについては上述した通りである。例えば、前記タンクに収容した標準人工海水(塩分濃度30~40ppt)を、前記塩分濃度調節部を介して前記回収部へ導入する。次に、導入した標準人工海水と同量の前記水溶液を前記回収部から抜き出す。このような工程を繰り返すことにより、前記回収部内の水溶液中の塩分濃度を30~40pptにすることができる。
【0071】
前記回収部は、上述した処理部が備え得るセンサ類、ならびに廃液処理部を備えていてもよい。前記回収部がセンサ類を備えることにより、回収部に収容されている水溶液の塩分濃度などの範囲をより正確に適切な範囲に保つことができる。前記回収部が廃液処理部を備えることにより、前記回収部内の水質を保つことが可能になる。
(4-3.ポリプの培養装置)
本発明の一実施形態に係るサンゴのポリプの培養装置は、前記ポリプの回収装置により回収されたポリプを培養する培養部を備える。前記ポリプの培養装置は、前記ポリプの回収装置とは別の装置であってもよいし、前記ポリプの回収装置を兼ねていてもよい。すなわち、前記培養部は、上述した回収部と一体となっていてもよい。
【0072】
例えば、前記ポリプの回収装置とは別の水槽を前記培養部として用意し、該水槽に塩分濃度が30~40pptの水溶液を収容する。そこにポリプを密着させた基盤を移し、水温等の条件をポリプの生育に好適な条件として培養し、サンゴへと生育させることができる。
【0073】
また、前述したように、前記回収部内の水溶液中の塩分濃度は、30~40pptであることが好ましい。当該塩分濃度は、ポリプの生育にとって好適な条件であるため、前記別の水槽を用意せず、前記回収部内の水温等の条件をポリプの生育に好適な条件として培養し、サンゴへと生育させることもできる。
【0074】
したがって、前記培養部は、上述した回収部が備え得るセンサ、廃液処理部等を備えていてもよい。
【0075】
また前記培養部は、特に限定されるものではないが、例えばLED照明装置(例えば、Blue Harbor社製 SPECTRA SP200等)、エアポンプ等のエアーレーション装置などを備えていてもよい。
【0076】
ここで、
図1を用いて前記ポリプの単離装置、回収装置および培養装置の一実施形態を説明する。なお、
図1に示されるのはあくまでも一例であり、本発明のポリプの単離装置、回収装置および培養装置は
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0077】
図1は本発明の一実施形態に係るポリプの単離装置、回収装置および培養装置の構成の概略を模式的に示す平面図である。便宜上、
図1に示す装置を単に「ポリプの単離・培養装置」とも称する。
図1に示されるように、ポリプの単離・培養装置は、処理部1と、塩分濃度調節部2と、回収部3と、タンク11とから構成される。
図1に示すポリプの単離・培養装置において、回収部3は培養部を兼ねる。また、処理部1はサンゴ設置部21を備え、回収部3は基盤22を備える。さらに、処理部1の内部には、塩分濃度が30~40pptである標準人工海水32が存在する。回収部3の内部には、急激な塩分濃度の変化を避けるため、処理部1においてポリプを単離したときの最終塩分濃度と同じ濃度(45~70ppt)に調節した、濃度調節人工海水33が存在している。
【0078】
サンゴ断片31が処理部1に投入された後、タンク11から、例えば高濃度人工海水が添加される。塩分濃度調節部2により高濃度人工海水の添加量を調整しながら、標準人工海水32の塩分濃度を、速度1.5~13ppt/hで45~70ppt(終濃度)まで増加させる。その後、前記塩分濃度を終濃度に保持することにより、サンゴからポリプの放出(すなわち、ベイルアウト)が発生する。
【0079】
前記ベイルアウトにより放出されたポリプは、切り替えバルブ23を処理部1側に切り替えることにより、回収部3へと送られる。全てのポリプが回収部3へ送られた後、再び切り替えバルブ23を切り替えて、タンク11から例えば標準人工海水を添加することにより、回収部3内の濃度調節人工海水33の塩分濃度を30~40pptに調整する。回収部3へ送られたポリプは、基盤22に密着した後、培養される。
【0080】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0081】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0082】
[サンゴ断片の取得]
有限会社ブルーハーバーより入手したハナヤサイサンゴ、トゲサンゴ、ショウガサンゴ、ミドリイシ、アザミサンゴの断片を大きさ約1~2cmの小片にニッパーを用いて切断し、実施例において使用するためのサンゴの断片とした。
【0083】
[標準人工海水の調製]
約3.5グラムの商品名:RED SEA SALT Ideal for SPS Dominant Systems粉末(Red Sea社製)を1Lの蒸留水に撹拌しながら徐々に溶かし、塩分濃度計(株式会社アタゴ製、手持屈折計MASTER)により塩分濃度を測定しながら、塩分濃度が35pptとなるように標準人工海水を調製した。NaCl以外の塩分としては、CaCl2(約440mg/L)、MgCl2(約1,300mg/L)、硝酸塩およびリン酸塩(合計約5mg/L以下)ずつ含有している。
【0084】
[高濃度人工海水の調製]
約8.0グラムの商品名:RED SEA SALT Ideal for SPS Dominant Systems 粉末(Red Sea社製)を1Lの蒸留水に撹拌しながら徐々に溶かし、塩分濃度計により塩分濃度を測定しながら、塩分濃度が80pptとなるように高濃度人工海水を調製した。NaCl以外の塩分としては、CaCl2(約1,006mg/L)、MgCl2(約2,971mg/L)、硝酸塩およびリン酸塩(合計約11.4mg/L以下)を含有している。
【0085】
[低濃度人工海水の調製]
約0.5グラムの商品名:RED SEA SALT Ideal for SPS Dominant Systems 粉末(Red Sea社製)を1Lの蒸留水に撹拌しながら徐々に溶かし、塩分濃度計により塩分濃度を測定しながら、塩分濃度が5pptとなるように低濃度人工海水を調製した。NaCl以外の塩分としては、CaCl2(約63mg/L)、MgCl2(約186mg/L)、硝酸塩およびリン酸塩(合計約0.7mg/L以下)を含有している。
【0086】
[活動性ポリプの観察]
単離したポリプを、約30分間タイムラプス撮影もしくは動画撮影し、水平方向に移動しているもの、その場で回転しているものを活動性のポリプとした。
【0087】
[QCMによるポリプの基盤への密着性の評価]
水晶振動子は、基本振動数が9MHz、電極がIOT社製のものを使用した。セル内に35pptの標準人工海水を入れ、共振周波数および共振抵抗が安定してから、その人工海水を少し抜き、水槽中の海水(人工海水ではない)に分散したポリプを入れた。セル底部からデジタル実体顕微鏡(THIRDWAVE社製 UM-12)でポリプを観察した。基盤への密着面積率は画像処理ソフトウェア(ImageJ)で算出した。
【0088】
〔試験1.塩分濃度増加によるサンゴのポリプ単離〕
塩分濃度35pptの標準人工海水3500mlに対し、ハナヤサイサンゴの断片5gを入れ、高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を滴下した。前記標準人工海水の塩分濃度は、5時間かけて55pptまで(すなわち、4.0ppt/hの速度で)増加させた。塩分濃度は、手持塩分濃度計によって測定することにより確認した。高濃度人工海水の滴下終了後、前記人工海水の塩分濃度を55pptに保持し、さらにサンゴの断片の観察を継続した。結果を
図2に示す。
【0089】
図2より、前記高濃度人工海水の滴下開始から6~7時間(すなわち、滴下終了から1~2時間)の間に、サンゴ断片からポリプが急激に単離(ベイルアウト)していることが観察された。単離されたポリプは全部で40個であり、そのうち活動性のポリプは37個で、得られたポリプのうち93%が活動性であった。したがって、塩分濃度を適切な速度で増加させ、かつ適切な終濃度とすることにより、サンゴの断片から活動性のポリプを多数得られることが分かった。
【0090】
〔試験2-1.ポリプを単離するための塩分濃度の検討1〕
塩分濃度35pptの標準人工海水3500mlにハナヤサイサンゴの断片5gを入れた4つの試験区を作成した。各試験区に、5時間かけて高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を滴下した。海水の塩分濃度は、それぞれ52、55、57、60pptまで増加させ、これらの濃度を保持した。
図3は、この場合のベイルアウトの様子を示す図である。
【0091】
最終塩分濃度と塩分濃度の増加速度との対応関係は以下の通りである。最終濃度52pptの場合:増加速度3.4ppt/h、最終濃度55pptの場合:増加速度4.0ppt/h、最終濃度57pptの場合:増加速度4.4ppt/h、最終濃度60pptの場合:増加速度5.0ppt/h。
【0092】
図3より、ベイルアウト開始時間は、最終塩分濃度57pptの場合が最も早く、以下、60ppt、55ppt、52pptの順に遅くなる傾向がみられた。単離されたポリプのうち、活動性のポリプの比率は、最終濃度52、55、57、60pptに対してそれぞれ、50%、87%、76%、20%であった。
【0093】
〔試験2-2.ポリプを単離するための塩分濃度の検討2〕
塩分濃度35pptの標準人工海水3500mlにハナヤサイサンゴの断片5gを入れた6つの試験区を作成した。各試験区に、滴下速度を変更して、高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を滴下した。
【0094】
3つの試験区に、高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を2時間かけて、最終濃度が52ppt、57ppt、60pptとなるように滴下した。最終塩分濃度と塩分濃度の増加速度との対応関係は以下の通りである。最終濃度52pptの場合:増加速度8.5ppt/h、最終濃度57pptの場合:増加速度11.0ppt/h、最終濃度60pptの場合:増加速度12.5ppt/h。単離された活動性のポリプの比率は、最終濃度52、57、60pptに対してそれぞれ43%、64%、11%であった。
【0095】
上記とは別の1つの試験区に、高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を7時間かけて、最終濃度が50pptとなるように滴下した。この場合、塩分濃度の増加速度は2.1ppt/hとなる。単離された活動性のポリプの比率は、40%であった。
【0096】
上記とはさらに別の2つの試験区に、高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を10時間かけて、最終濃度が52ppt、55pptとなるように滴下した。最終塩分濃度と塩分濃度の増加速度との対応関係は以下の通りである。最終濃度52pptの場合:増加速度1.7ppt/h、最終濃度57pptの場合:増加速度2.0ppt/h。単離された活動性のポリプの比率は、最終濃度52、57pptに対してそれぞれ42%、76%であった。
【0097】
〔比較例〕
対照区として、試験2-2と同じ条件の試験区を作成し、高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を5時間かけて、最終濃度が40pptとなるように滴下した。この場合、塩分濃度の増加速度は1.0ppt/hとなる。単離された活動性のポリプの比率は、0%であった。
【0098】
もう1つの対照区として、試験2-2と同じ条件の試験区を作成し、高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を2時間かけて、最終濃度が70pptとなるように滴下した。この場合、塩分濃度の増加速度は17.5ppt/hとなる。単離された活動性のポリプの比率は、0%であった。
【0099】
このように、本発明の一実施形態に係るサンゴのポリプの単離方法における工程Aまたは工程Bの要件を充足する場合、サンゴに与えるストレスを最小化した上で、活動性のポリプを単離することができた。一方、前記要件を充足しない比較例では、活動性のポリプを得ることができなかった。活動性のポリプを取得することができれば、これを培養することによりポリプを増殖させることができる。そのため、試験1、2-1、2-2の結果は、活動性のポリプの比率に関わらず、十分に有用であると言える。
【0100】
〔試験3.塩分濃度増加前のプレインキュベーションの効果検討〕
試験2で使用した断片とは別の切断直後のハナヤサイサンゴの断片3つ(各5g)を、濃度35pptの標準人工海水1000ml中にそれぞれ0時間、24時間、あるいは48時間保持してプレインキュベーションを行った。その後、前記高濃度人工海水を滴下し、5時間かけて塩分濃度を55pptまで増加させ、当該濃度に保持した。滴下終了後も各サンゴの断片について観察を継続した。
図4は、プレインキュベーションの時間とベイルアウトまでの時間の関係性を示したグラフである。
【0101】
図4から、切断直後の断片に対して、塩分濃度増加までのプレインキュベーション時間を24h、48hと長くするにつれて、ベイルアウト開始までの時間が短くなることが観察された。
【0102】
図5左のグラフは、高濃度人工海水滴下終了後の塩分濃度と、サンゴの断片がベイルアウトに要する時間との関連性を示したグラフである。当該グラフは、
図3に対応している。
図3および
図5左のグラフより、塩分濃度が高くなるほどベイルアウトが発生する時間は早くなったが、塩分濃度が57pptを超えるとベイルアウトが発生する時間は同程度となった。
【0103】
図5右のグラフは、切断直後のハナヤサイサンゴ断片を塩分濃度35pptの標準人工海水中で保持した時間と、ベイルアウトに要する時間との関連性を示したグラフである。当該グラフは、
図4に対応している。
図4および
図5右のグラフより、切断直後の断片に対してただちに塩分濃度を増加させずに、標準人工海水中で予め数日保持しておくことにより、最終塩分濃度が55pptの場合でも、5.5h、あるいは6.5h程度でベイルアウトが開始していることが分かる。つまり、サンゴを標準人工海水中であらかじめ数日保持しておくことにより、最終塩分濃度を57~60pptとした場合よりも短時間でベイルアウトを発生させられることが分かった。
【0104】
したがって、高濃度人工海水滴下終了時の塩分濃度、および濃度35pptの標準人工海水中での保持時間を最適化することにより、より効率的にポリプの放出を行えることが示された。
【0105】
〔試験4.塩分濃度減少によるサンゴのポリプの単離〕
塩分濃度35pptの標準人工海水3500mlに対し、サンゴの断片5gを入れ、低濃度人工海水(塩分濃度5ppt)を滴下した。前記人工海水の塩分濃度は、4時間かけて20pptまで(すなわち、3.8ppt/hの速度で)減少させた。塩分濃度は、手持塩分濃度計によって測定することにより確認した。低濃度人工海水の滴下終了後、前記人工海水の塩分濃度を20pptに保持し、さらにサンゴの断片の観察を継続した。
【0106】
単離されたポリプは全部で45個であり、そのうち活動性のポリプは41個で、得られたポリプのうち91%が活動性であった。したがって、塩分濃度を適切な速度で減少させ、かつ適切な終濃度とすることにより、サンゴの断片から活動性のポリプを多数得られることが分かった。
【0107】
〔試験5.サンゴのポリプの密着性の評価〕
別の容器中で、塩分濃度が35pptである標準人工海水1000mlにサンゴ1gを入れ、高濃度人工海水(塩分濃度80ppt)を滴下し、該人工海水の塩分濃度を速度4.4ppt/hで57pptまで増加させ、当該終濃度で2時間保持することによってポリプをベイルアウトさせた。その後、低塩濃度人工海水を徐々に加え、塩分濃度を35pptに戻した。次に単離したサンゴのポリプをピペットで吸引し、標準人工海水100ml中に投入したチタン基盤上または酸化チタン基盤上に播種した。チタン基盤は、チタンからなる基盤である。酸化チタン基盤は、前記チタン基盤の表面に対して陽極酸化を行うことによって得た。陽極酸化は、0.1Mクエン酸水溶液中で電圧を80Vとして行った。その後、経時的に素手によって基盤に振動を与えるタッピングを行い、揺動しなかったポリプの数を、基盤に密着したポリプ数として計測した。結果を
図6および
図7に示す。
【0108】
図6の上段は、チタン基盤を用いた場合のポリプの基盤への密着性を示す。
図6の下段は、酸化チタン基盤を用いた場合のポリプの基盤への密着性を示す。時間は、ポリプをチタン基盤上または酸化チタン基盤上に播種したときを0hとした、播種後の経過時間である。
図6より、チタン基盤、酸化チタン基盤のいずれを用いた場合でも、ポリプは優れた密着数を示した。
図6の下段に示す結果より、特に酸化チタン基盤を用いた場合に、サンゴのポリプはより素早く基盤へ密着したことがわかる。
【0109】
また、
図7は、酸化チタン基盤に密着させたポリプについて、水晶振動マイクロバランス法を用い、酸化チタン基盤においてポリプが密着したエリアを測定した結果である。測定装置としてはセイコー・イージーアンドジー株式会社のQCM922Aを用いた。
図7より、密着開始から8時間経過すると、前記エリアはほぼ変化しなくなっていることが分かる。さらに、密着開始から16時間を過ぎると僅かに密着エリアが減少していることも分かる。したがって、サンゴのポリプの密着時間は、8~16時間が好ましいことが示された。
【0110】
以上の結果から、前記方法により得られたポリプはチタン基盤および酸化チタン基盤の両方に対して良好な密着率を示し、特に酸化チタン基盤の場合は密着に要する時間が短いことが示された。
【0111】
〔試験6.表面処理をしたチタン基盤への密着性の評価〕
研削剤を用いて、表面をサンドブラスト処理したチタン基盤を作製した。チタン基盤の表面粗さは、研削剤の平均粒径によって変化させた。研削剤の平均粒径はそれぞれ600~850μm(#24)、425~600μm(#36)、300~425μm(#46)とした。なお、研削剤の平均粒径が大きいほど、チタン基盤の表面は粗くなる。比較対象として、サンドブラスト処理を行わなかったチタン基盤を使用した。各チタン基盤に対して、試験4と同様の方法を用いて単離したサンゴのポリプを播種した。播種後は、15分ごとに基盤をタップしてポリプが基盤に密着しているか確認した。結果を
図8および9に示す。
【0112】
図8は、水槽外からデジタル実体顕微鏡を用いてポリプを播種した基盤を撮影した結果である。
図8に示すように、サンドブラスト処理を行っていないチタン基盤(図中、Ti)よりも、サンドブラスト処理を行ったチタン基盤の方が、初期密着までの時間が短かった。なお、ポリプの播種から4時間という比較的短時間におけるポリプの基盤への密着を観察したため、当該密着を「初期密着」と称している。
【0113】
図9のグラフは、播種からの経過時間と、各チタン基盤に対するポリプの密着率との関連性を示すグラフである。
図9より、チタン基盤の表面が粗いほどポリプが基盤へ密着するまでの時間が短いことが示された。
【0114】
〔試験7.表面処理をした酸化チタン基盤への密着性の評価〕
ポリプを密着させるチタン基盤に対して試験6と同様にサンドブラスト処理を行った後、さらに、0.1Mクエン酸水溶液中で電圧を80Vとして陽極酸化処理を行った。得られた酸化チタン(TiO2)基盤に、試験5および6と同様の方法で、単離したサンゴのポリプを播種した。播種後は、15分ごとに基盤を手でタップして、ポリプが基盤に密着しているか確認した。
【0115】
図10は、水槽外からデジタル実体顕微鏡を用いてポリプを播種した基盤を撮影した結果である。
図10に示すように、サンドブラスト処理を行っていない酸化チタン基盤(図中、TiO
2)よりも、サンドブラスト処理を行った酸化チタン基盤の方が、初期密着までの時間が短かった。
【0116】
図11のグラフは播種からの経過時間と、各酸化チタン基盤に対するポリプの密着率との関連性を示すグラフである。
図11より、酸化チタン基盤の表面が粗いほど、ポリプが密着するまでの時間が短いことが示された。なお、サンドブラスト処理を行っていない酸化チタン基盤が高い密着率を示しているが、これは偶発的なものであると考えられる。
【0117】
〔試験8.ストライプ状チタン基盤を用いたポリプの密着性評価〕
チタンおよび酸化チタンへのポリプの密着性を同時に試験することを目的として、ストライプ状チタン基盤を作製した。ストライプ状チタン基盤は、チタン基盤にセロハンテープを2mm間隔で貼り付けてマスキングした後、上述した陽極酸化処理を行うことにより作製した。また、#80エメリー紙で研磨することにより、表面に傷をつけたストライプ状チタン基盤も併せて作製した。試験5~7と同様にして、ポリプをストライプ状基盤に播種した。結果を
図12および13に示す。
【0118】
図12は、水槽外からデジタル実体顕微鏡を用いてポリプを播種した基盤を撮影した結果である。
図12に示すストライプ状基盤のうち、色の薄い部分はチタン部であり、色の濃い部分は酸化チタン部(陽極酸化部)である。
図12より、ポリプは酸化チタン部に多く密着していることが分かる。
【0119】
図13のグラフは播種からの経過時間と、各ストライプ状基盤に対するポリプの密着率との関連性を示すグラフである。
図13より、傷なしよりも傷ありのストライプ状基盤の方が、ポリプが密着するまでの時間が短いことが示された。また、陽極酸化処理を行った酸化チタン部の方が、チタン部よりもポリプが密着するまでの時間が短いことも示された。したがって、ポリプは傷ありの酸化チタン部に最も早く密着した。
【0120】
〔試験9.様々な基盤へのポリプの播種〕
基盤をメッシュ(チタン製)、不織布(チタン製または酸化チタン製)、ワイヤー(チタン製)としたこと以外は、試験5~8と同様にしてポリプを基盤に播種した。結果を
図14に示す。
【0121】
図14は、水槽外からデジタル実体顕微鏡を用いてポリプを播種した基盤を撮影した結果である。メッシュを基盤とした場合は、初期密着までに11時間を要した。また、不織布は12時間たっても密着しなかった。一方でワイヤーは、播種した時点でポリプがワイヤーに引っかかっていたため、播種した時点で既に密着していると言える。したがって、基盤の形状としてはワイヤーが最も好ましいことが示された。
【0122】
〔試験10.トゲサンゴからのポリプ単離〕
サンゴ断片としてトゲサンゴの断片を使用し、試験1と同じ条件でポリプを単離した。単離されたポリプは全部で38個であり、そのうち活動性のポリプは34個で、得られたポリプのうち90%が活動性であった。
【0123】
〔試験11.ショウガサンゴからのポリプ単離〕
サンゴ断片としてショウガサンゴの断片を使用し、試験1と同じ条件でポリプを単離した。単離されたポリプは全部で36個であり、そのうち活動性のポリプは30個で、得られたポリプのうち83%が活動性であった。
【0124】
〔試験12.ミドリイシからのポリプ単離〕
サンゴ断片としてミドリイシの断片を使用し、試験1と同じ条件でポリプを単離した。単離されたポリプは全部で26個であり、そのうち活動性のポリプは18個で、得られたポリプのうち70%が活動性であった。
【0125】
〔試験13.アザミサンゴからのポリプ単離〕
サンゴ断片としてアザミサンゴの断片を使用し、試験1と同じ条件でポリプを単離した。単離されたポリプは全部で18個であり、そのうち活動性のポリプは7個で、得られたポリプのうち40%が活動性であった。