(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161337
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】金属有機構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/16 20060101AFI20231030BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20231030BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20231030BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20231030BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20231030BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20231030BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20231030BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231030BHJP
B01J 13/04 20060101ALI20231030BHJP
C08L 5/16 20060101ALI20231030BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231030BHJP
C07F 1/06 20060101ALN20231030BHJP
【FI】
C08B37/16
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/22 B
A61K47/40
A61K9/72
A61K47/02
A61K9/14
B01J13/04
C08L5/16
C08K3/22
C07F1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071673
(22)【出願日】2022-04-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2021年4月26日 ウェブサイトのアドレス http://www.sptj.jp/ http://www.sptj.jp/event/index.html http://www.sptj.jp/event/haru2021/ http://www.sptj.jp/event/doc/haru2021sanka_20210518.pdf (その2) ウェブサイトの掲載日 2021年6月2日 ウェブサイトのアドレス http://www.sptj.jp/event/haru2021/ (その3) 開催日 2021年6月2日(開催期間:2021年6月2日~2021年6月3日) 集会名、開催場所 一般社団法人粉体工学会2021年度春期研究発表会(ZOOMによるオンライン開催) (その4) ウェブサイトの掲載日 2021年12月27日 ウェブサイトのアドレス https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.cgd.1c01091
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 稔生
(72)【発明者】
【氏名】藤田 脩平
(72)【発明者】
【氏名】門田 和紀
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 裕一
(72)【発明者】
【氏名】内山 博雅
【テーマコード(参考)】
4C076
4C090
4G005
4G066
4H048
4J002
【Fターム(参考)】
4C076AA26
4C076AA32
4C076AA93
4C076BB27
4C076DD21
4C076EE39
4C076FF03
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4C090DA22
4G005AA01
4G005BA14
4G005DB12Z
4G005DB21X
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4G066BA36
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4J002AB051
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4J002FA101
4J002FD146
4J002GB04
4J002GE00
4J002HA04
(57)【要約】
【課題】製造に、長時間及び多量の有機溶媒を必要とせず、かつ薬理活性物質の内包量が向上された、シクロデキストリン金属有機構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シクロデキストリン及びアルカリ金属を含み、球状かつ中空微粒子の形態である、シクロデキストリン金属有機構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリン及びアルカリ金属を含むシクロデキストリン金属有機構造体であって、形状が球状の中空微粒子である、シクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項2】
メディアン径D50が0.001~10μmである、請求項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項3】
空気動力学径が0.001~10μmである、請求項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項4】
微粒子画分(FPF)が10%以上である、請求項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項5】
ミクロ孔容積が0.00001~0.30cm3/gである、請求項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項6】
比表面積が0.01~1000m2/gである、請求項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項7】
形態が結晶質である、請求項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項8】
形態が非晶質である、請求項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項9】
薬理活性物質を内包する、請求項1~8のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項10】
経肺投与に用いられる、請求項9に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【請求項11】
請求項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法であって、
(A)シクロデキストリン及びアルカリ金属化合物を所定の組成となるように混合して前駆体水溶液又は懸濁液を得る工程、及び
(B)前記前駆体水溶液又は懸濁液を噴霧乾燥して、金属有機構造体を含む乾燥粉末を得る工程
を備える、シクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【請求項12】
(C)前記乾燥粉末を有機溶媒に再分散して、前記金属有機構造体の結晶化度を向上させる工程
をさらに備える、請求項11に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【請求項13】
前記前駆体水溶液又は懸濁液が有機溶媒を含む、請求項11に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【請求項14】
前記有機溶媒がエタノールである、請求項12又は13に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属有機構造体(Metal Organic Framework:MOF)は、従来の多孔質材料と比較して、比表面積が大きく、熱的安定性及び化学的安定性が高いことが知られている、また、目的に応じて、金属の種類と、有機化合物との組合せを選択することによって多様な構造体を形成できるため、特に気体の貯蔵及び分離並びに触媒を中心に、様々な分野での応用が期待されている。
【0003】
なかでも、シクロデキストリン(Cyclodextrin:CD)を有機分子として調製したMOF(CD-MOF)は、安価で、高い生体分解性を示し、安全性が高いことから、製剤分野において注目されており、多量の薬理活性物質又は分子量の大きい薬理活性物質を内包できるシクロデキストリン金属有機構造体(CD-MOF)及びその簡便な製造方法が望まれている。
【0004】
シクロデキストリン金属有機構造体の製造方法としては、例えば、蒸気拡散法、貧溶媒結晶法等が知られている(例えば、非特許文献1及び2)。しかしながら、これらの方法には、その製造に長い時間を要すること、収率が低いこと、多量の薬理活性物質又は高分子量の薬理活性物質を担持できないこと、環境負荷のかかる有機溶媒を多量に使用すること等の問題点が存在する。よって、これらの方法は、簡便で効率的な製造方法とは言えない。
【0005】
さらに、従来の製造方法により得られるシクロデキストリン金属有機構造体は、密度が高く、結晶質構造に由来する多面体である形状を有し、且つ粒子径が数十ミクロン程度と大きく、経肺製剤として用いるのに適切ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Ind. Eng. Chem. 2019, 72, 50-66.
【非特許文献2】Int. J. Chem. Eng. Appl. 2013, 4, 337-341.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、上記のような問題のないシクロデキストリン金属有機構造体及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、シクロデキストリン及びアルカリ金属化合物を含む溶液又は懸濁液を、噴霧乾燥法により乾燥させることによって、所望のシクロデキストリン金属有機構造体を得ることができることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.シクロデキストリン及びアルカリ金属を含むシクロデキストリン金属有機構造体であって、形状が球状の中空微粒子である、シクロデキストリン金属有機構造体。
【0010】
項2.メディアン径D50が0.001~10μmである、項1に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0011】
項3.空気動力学径が0.001~10μmである、項1又は2に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0012】
項4.微粒子画分(FPF)が10%以上である、項1~3のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0013】
項5.ミクロ孔容積が0.00001~0.30cm3/gである、項1~4のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0014】
項6.比表面積が0.01~1000m2/gである、項1~5のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0015】
項7.形態が結晶質である、項1~6のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0016】
項8.形態が非晶質である、項1~6のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0017】
項9.薬理活性物質を内包する、項1~8のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0018】
項10.前記薬理活性物質の内包量が、前記金属有機構造体中のシクロデキストリン及びアルカリ金属の質量の総和を100質量%として、0.01~50質量%である、項1~9のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0019】
項11.経肺投与に用いられる、項1~10のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体。
【0020】
項12.項1~11に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法であって、
(A)シクロデキストリン及びアルカリ金属化合物を所定の組成となるように混合して前駆体水溶液又は懸濁液を得る工程、及び
(B)前記前駆体水溶液又は懸濁液を噴霧乾燥して、金属有機構造体を含む乾燥粉末を得る工程
を備える、シクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【0021】
項13.前記工程(B)のおける噴霧乾燥の際の温度が100~200℃である、項12に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【0022】
項14.(C)前記乾燥粉末を有機溶媒に再分散して、前記金属有機構造体の結晶化度を向上させる工程
をさらに備える、項12又は13に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【0023】
項15.前記前駆体水溶液又は懸濁液が有機溶媒を含む、項12~14のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【0024】
項16.前記有機溶媒がエタノールである、項14又は15に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【0025】
項17.前記前駆体水溶液又は懸濁液が薬理活性物質をさらに含む、項12~16のいずれか1項に記載のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、低密度で、従来よりも1オーダー小さい粒子径を有し、多量の薬理活性物質又は高分子量の薬理活性物質を内包できる、シクロデキストリン金属有機構造体を提供することができる。
【0027】
本発明の製造方法によれば、従来の方法よりも、環境負荷のかかる有機溶媒の使用量を減らすことができ、目的とするシクロデキストリン金属有機構造体を短時間で、しかも高収率で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の金属有機構造体及びその製造方法を模式的に説明する図である。
【
図2】本発明で実施される噴霧乾燥法を模式的に説明する図である。
【
図3】(a)及び(b)はそれぞれ、実施例1及び2で得た金属有機構造体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。(c)は、γ-シクロデキストリン(γ-CD)及びレボフロキサシン(LVFX)を噴霧乾燥して得た微粒子のSEM画像である。
【
図4】(d)は、実施例1で得た金属有機構造体(Spray drying)、及び未処理のγ-CD(Untreated γ-CD)の粉末X線回折(PXRD)パターンである。(e)は、実施例2で得た金属有機構造体(Spray drying)、未処理のγ-CD(Untreated γ-CD)及び未処理のLVFX(Untreated LVFX)のPXRDパターンである。
【
図5】(a)~(f)はそれぞれ、比較例1、比較例3、実施例1、比較例2、比較例4、及び実施例2で得た金属有機構造体の吸脱着等温線及びBET比表面積である。
【
図6】(a)及び(b)はそれぞれ、比較例4及び実施例2で得た金属有機構造体についてのSEM画像、並びに、エネルギー分散型X線分析(EDX)により得た、酸素、フッ素、及びカリウム(O、F及びK元素)の元素マップである。
【
図7】比較例4及び実施例2で得た金属有機構造体のin vitro吸入特性を示す。
【
図8】実施例3及び4の製造方法を模式的に説明する図である。
【
図9】A及びBはそれぞれ、実施例3及び4で得た金属有機構造体のSEM画像である。C及びDはそれぞれ、実施例3及び4で得た金属有機構造体の(a)エタノール再分散後、(b)エタノール再分散前のPXRDパターンである。E及びFはそれぞれ、実施例3及び4で得た金属有機構造体の吸脱着等温線及びBET比表面積である。
【
図10】実施例5の製造方法を模式的に説明する図である。
【
図11】A及びBはそれぞれ、実施例5及び6で得た金属有機構造体のSEM画像である。C及びDはそれぞれ、実施例5及び6において、(a)改良後、(b)改良前の製造方法で得た金属有機構造体のPXRDパターンである。E及びFはそれぞれ、実施例5及び6で得た金属有機構造体の吸脱着等温線及びBET比表面積である。
【
図12】実施例2及び実施例6で得た金属有機構造体のin vitro吸入特性を示す。
【
図13】従来技術である蒸気拡散法による、比較例1及び2の製造方法を模式的に説明する図である。
【
図14】(a)及び(c)はそれぞれ、比較例1及び2で得た金属有機構造体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図15】従来技術である貧溶媒晶析法による、比較例3及び4の製造方法を模式的に説明する図である。
【
図16】(b)及び(d)はそれぞれ、比較例3及び4で得た金属有機構造体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図17】(e)は、比較例1で得た金属有機構造体(Vapour diffusion)、比較例3で得た金属有機構造体(Poor solvent crys.)、及び未処理のγ-CD(Untreated γ-CD)のPXRDパターンである。(f)は、比較例2で得た金属有機構造体(Vapour diffusion)、比較例4で得た金属有機構造体(Poor solvent crys.)、未処理のγ-CD(Untreated γ-CD)、及び未処理のLVFX(Untreated LVFX)のPXRDパターンである。
【
図18】(a)及び(b)はそれぞれ、比較例3及び実施例1で得た金属有機構造体を意図的に粉砕した後の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書において、「含む」は、「含有(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0030】
本明細書において、「A~B」との数値範囲の表記は、「A以上且つB以下」を意味する。
【0031】
本明細書において、「金属有機構造体」とは、金属と有機化合物とが、規則性をもって連続的に三次元構造を形成し、ナノレベルに制御された多孔性を有する物質の総称を意味するのであって、その物質の形態が結晶質であるか非晶質であるかを問わない。
【0032】
本明細書において、「球状」とは、電子顕微鏡による拡大観察像での外観が球状と認められる形状を意味する。
【0033】
本明細書において、「中空微粒子」とは、粒子内部に空洞を有する微粒子を意味する。
【0034】
1.シクロデキストリン金属有機構造体
本発明のシクロデキストリン金属有機構造体は、シクロデキストリン及びアルカリ金属を含む。また、本発明のシクロデキストリン金属有機構造体は、その形状が球状の中空微粒子である。
【0035】
上記金属有機構造体は、シクロデキストリン及びアルカリ金属を特定の組成比で含む。上記組成比としては、物質量(モル)比で1:40~40:1程度が好ましく、1:16~16:1程度がより好ましく、1:8~8:1程度がさらに好ましい。
【0036】
上記シクロデキストリンとしては、この分野で広く知られているシクロデキストリン又はその誘導体を、いずれも使用することができる。
【0037】
上記シクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン(α-CD)、β-シクロデキストリン(β-CD)、γ-シクロデキストリン(γ-CD)いずれも採用することができる。なかでも、薬理活性物質を内包できる細孔が大きいことから、β-CD、γ-CDが好ましく、γ-CDがより好ましい。
【0038】
上記シクロデキストリン誘導体としては、当該シクロデキストリンを構成するグルコース上の水酸基に置換基を有するものが挙げられる。上記置換基としては、例えば、ヒドロキシ基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、スルホニル基等が挙げられる。上記ヒドロキシ基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、2-ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
【0039】
上記シクロデキストリン又はその誘導体(以下、これらを総称して「シクロデキストリン」ということもある)は、ゲスト分子とともに包接錯体を形成していてもよい。上記ゲスト分子としては、使用するシクロデキストリンの種類に応じて、ゲスト分子として公知の化合物を広く採用することができる。この場合に、上記金属有機構造体は、任意で後述する薬理活性物質とともに、上記ゲスト分子をその内部に内包することができるし、上記金属有機構造体の分解とともに放出することができる。
【0040】
本発明で使用できるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられ、人体に対する安全性の観点から、カリウム、ナトリウムが好ましく、カリウムがより好ましい。
【0041】
本発明のシクロデキストリン金属有機構造体は、以下の特性を備える。
【0042】
上記金属有機構造体は、その形状が多面体ではなく、球状である。具体的には、上記金属有機構造体について、電子顕微鏡観察像から求まる定方向接線径と投影面積円相当径の比は、通常0.83~1.2である。
【0043】
上記金属有機構造体のメディアン径D50は、通常50μm以下であり、0.1~10μmが好ましく、0.3~7μmがより好ましく、0.5~6μmがさらに好ましい。上記金属有機構造体のメディアン径D50は、レーザー回折/散乱法により測定した値である。
【0044】
上記金属有機構造体の空気動力学径(aerodynamic diameter)は、通常50μm以下であり、0.1~10μmが好ましく、0.3~7μmがより好ましく、0.5~6μmがさらに好ましい。上記金属有機構造体の空気動力学的径は、次の式(1)により算出した値である。
【0045】
【0046】
式中、D50はメディアン径、ρPは粒子密度、ρ*は真密度を示す。
【0047】
上記金属有機構造体の放出画分(EF;Emitted Fraction)は、通常70%以上であり、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。上記金属有機構造体の放出画分(EF)は、アンダーセンカスケードインパクター(ACI)を使用して、次の式(2)により算出した値である。
【0048】
【0049】
式中、total recovered drugは、回収された薬物総量を示し、emitted doseは、薬理活性物質送達量であり、カプセルから放出された薬物の質量を示す。
【0050】
上記金属有機構造体の微粒子画分(FPF;Fine Particle Fraction)は、通常5%以上であり、10%以上が好ましく、20%以上であることがより好ましく、25%以上がさらに好ましい。上記金属有機構造体の微粒子画分(FPF)は、アンダーセンカスケードインパクター(ACI)を使用して、次の式(3)により算出した値である。
【0051】
【0052】
式中、emitted doseは、薬理活性物質送達量であり、カプセルから放出された薬物の質量を示し、fine particle doseは、微粒子含量であり、ステージ2以降のステージに到達した薬物の質量を示す。
【0053】
上記金属有機構造体のミクロ孔容積は、通常1.0cm3/g以下であり、0.00001~0.30cm3/gが好ましく、0.0001~0.20cm3/gがより好ましく、0.001~0.13cm3/gがさらに好ましい。本明細書において、「ミクロ孔」とは、金属有機構造体中の直径2nm以下の細孔を意味し、「ミクロ孔容積」とは、金属有機構造体中のミクロ孔の容積の総和を意味する。
【0054】
上記金属有機構造体の全細孔容積は、通常1.0cm3/g以下であり、0.00001~0.5cm3/gが好ましく、0.0001~0.40cm3/gがより好ましく、0.001~0.20cm3/gがさらに好ましい。本明細書において、「全細孔」とは、金属有機構造体中のミクロ孔、メソ孔及びマクロ孔の全てを意味し、「全細孔容積」とは、金属有機構造体中の全細孔の容積の総和を意味する。
【0055】
上記金属有機構造体の比表面積は、通常1000m2/g以下であり、0.01~750m2/gが好ましく、0.1~500m2/gがより好ましく、1~300m2/gがさらに好ましい。上記金属有機構造体の比表面積は、BET法により測定された値である。
【0056】
上記金属有機構造体のかさ密度は、通常1000mg/cm3以下であり、1~500mg/cm3が好ましく、10~300mg/cm3がより好ましく、100~250mg/cm3がさらに好ましい。
【0057】
上記金属有機構造体のタップ密度は、通常1000mg/cm3以下であり、1~500mg/cm3が好ましく、10~350mg/cm3がより好ましく、100~300mg/cm3がさらに好ましい。
【0058】
上記金属有機構造体の真密度は、通常2000mg/cm3以下であり、10~1500mg/cm3が好ましく、100~1450mg/cm3がより好ましく、1000~1410mg/cm3がさらに好ましい。
【0059】
上記金属有機構造体は、形態が結晶質であることもできるし、非晶質であることもできる。薬理活性物質の担持量及び経肺製剤としての吸入特性の観点から、結晶質であることが好ましい。
【0060】
上記金属有機構造体の形態が結晶質である場合、粉末X線回折パターンにおいて、2θ=4°,7°及び17°の少なくとも1つにピークを有する。あるいは、上記金属有機構造体の形態が結晶質である場合、上記金属有機構造体の結晶化度が、70%以上であることが好ましく、80~100%がより好ましく、90~100%がさらに好ましい。ここで「結晶化度」は、粉末X線回折パターンから、結晶化度=結晶ピーク面積/(結晶ピーク面積+非晶質ピーク面積)×100%により求められる。
【0061】
上記金属有機構造体の形態が非晶質である場合、粉末X線回折パターンにおいて、2θ=4°,7°及び17°のいずれにおいてもピークを有していない。あるいは、上記金属有機構造体の形態が非晶質である場合、上記金属有機構造体の結晶化度が、30%未満であることが好ましく、0~20%がより好ましく、0~10%がさらに好ましい。ここで「結晶化度」は、上記のように求められる。
【0062】
上記金属有機構造体は、薬理活性物質(薬物)を内包(担持)することができる。上記薬理活性物質としては、例えば、抗真菌薬、抗炎症薬、高脂血症治療薬、高血圧治療薬、狭心症治療薬として使用される薬理活性物質等が挙げられる。また、本発明の金属有機構造体は、上記薬理活性物質の他にも、化粧品分野又は食品分野で広く用いられている有効成分(活性成分)を含むことができる。
【0063】
上記金属有機構造体は、CD-MOFが親水性孔及び疎水性孔を有することから、親水性薬理活性物質及び疎水性薬理活性物質のいずれも内包(担持)することができる。このため、上記薬理活性物質としては、例えば、レボホロキサシン、オフロサキシン、メチル酸ガレノサキシン、シタフロサキシン、フルシトシン、アセトアミノフェン等の親水性薬理活性物質、イブプロフェン、ケトプロフェン、ランソプラゾール、ケトコナゾール、セレコキシブ、フェノフィブラート、カルベジロール、インドメタシン、リファンピシン、ブテソニド等の疎水性薬理活性物質等が挙げられる。
【0064】
上記金属有機構造体は、粒子内に空洞を有する微粒子であることから、通常の金属有機構造体よりも、比較的分子量の大きい薬理活性物質を内包(担持)することができる。このため、上記薬理活性物質の分子量は、通常2~20000程度であり、50~5000程度が好ましく、100~1000程度がより好ましく、300~500程度がさらに好ましい。
【0065】
このように、本発明の金属有機構造体は、例えば、経肺製剤、経口製剤、経皮製剤、経鼻製剤等の各種製剤として用いることができる。なかでも、低密度で、球状微粒子である等の観点から、経肺製剤として用いることが好ましい。
【0066】
本発明の金属有機構造体は、生体イメージング用プローブとして用いることもできる。この場合、上記金属有機構造体は、公知のイメージングプローブを広く内包(担持)することができる。上記イメージングプローブとしては、例えば、光イメージングのための蛍光有機分子、金属ナノ粒子、量子ドット、陽電子放出断層画像法(PET)のための陽電子放射核種、核磁気共鳴画像法(MRI)のための造影剤等が挙げられる。
【0067】
上記金属有機構造体の薬理活性物質含有量は、上記金属有機構造体の質量を100質量%として、0.01~70質量%であることが好ましく、0.1~60質量%がより好ましく、1~50質量%がさらに好ましい。
【0068】
上記金属有機構造体は、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜添加剤を含むことができる。上記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、高分子等が挙げられる。
【0069】
2.シクロデキストリン金属有機構造体の製造方法
本発明のシクロデキストリン金属有機構造体の製造方法は、噴霧乾燥法により実施される。
【0070】
具体的には、本発明の製造方法は、
(A)シクロデキストリン及びアルカリ金属化合物を所定の組成となるように混合して前駆体水溶液又は懸濁液を得る工程、及び
(B)前記前駆体水溶液又は懸濁液を噴霧乾燥して、金属有機構造体を含む乾燥粉末を得る工程
を備える。
(2-1)工程(A)
工程(A)では、シクロデキストリン、アルカリ金属化合物、及び水を公知の方法により混合して前駆体水溶液又は懸濁液を得る。
【0071】
上記前駆体水溶液又は懸濁液は、シクロデキストリン及びアルカリ金属化合物を特定の含有量比で混合して得られる。上記含有量比としては、シクロデキストリン、及びアルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属を基準にして、物質量(モル)比で1:40~40:1程度が好ましく、1:16~16:1程度がより好ましく、1:8~8:1程度がさらに好ましい。この場合に、本発明の金属有機構造体は、上記特定の組成比でシクロデキストリン及びアルカリ金属を含むことができる。
【0072】
上記シクロデキストリンとしては、この分野で広く知られているシクロデキストリン又はその誘導体を、いずれも使用することができる。
【0073】
上記シクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン(α-CD)、β-シクロデキストリン(β-CD)、γ-シクロデキストリン(γ-CD)いずれも採用することができる。なかでも、薬理活性物質を担持できる細孔が大きいことから、β-CD、γ-CDが好ましく、γ-CDがより好ましい。
【0074】
上記シクロデキストリン誘導体としては、当該シクロデキストリンを構成するグルコース上の水酸基に置換基を有する者が挙げられる。上記置換基としては、例えば、ヒドロキシ基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、スルホニル基等が挙げられる。上記ヒドロキシ基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、2-ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
【0075】
上記シクロデキストリン又はその誘導体(以下、これらを総称して「シクロデキストリン」ということもある)は、ゲスト分子とともに包接錯体を形成していてもよい。上記ゲスト分子としては、使用するシクロデキストリンの種類に応じて、ゲスト分子として公知の化合物を広く採用することができる。
【0076】
上記前駆体水溶液又は懸濁液中の、上記シクロデキストリンの含有量は、前駆体水溶液又は懸濁液の質量を100質量%として、粒子径の観点から、0.01~50質量%が好ましく、0.1~30質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0077】
上記アルカリ金属化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩が挙げられ、人体に対する安全性の観点から、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。
【0078】
上記前駆体水溶液又は懸濁液中の、上記シクロデキストリンの含有量は、前駆体水溶液又は懸濁液の質量を100質量%として、粒子径の観点からは、0.01~50質量%が好ましく、0.1~30質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
【0079】
上記前駆体水溶液又は懸濁液は、有機溶媒をさらに含むことができる。この場合、CD-MOFの結晶化度が向上し、経肺製剤としての吸入特性が向上し、また、薬理活性物質の内包量が向上する。
【0080】
上記前駆体水溶液又は懸濁液中の、上記有機溶媒の含有量は、前駆体水溶液又は懸濁液の質量を100質量%として、0.01~100質量%が好ましく、0.1~70質量%がより好ましく、1~40質量%がさらに好ましい。
【0081】
本発明で用いることのできる有機溶媒としては、シクロデキストリン金属有機構造体に悪影響を及ぼさない限りにおいて、公知の極性溶媒を広く採用することができる。なかでも、上記金属有機構造体の結晶性等の観点から、アルコール、エーテル等が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~10のアルコールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。
【0082】
上記前駆体水溶液又は懸濁液は、上記薬理活性物質を含むことができる。この場合、本発明の製造方法により得られるシクロデキストリン金属有機構造体に薬理活性物質を内包することができる。上記前駆体水溶液又は懸濁液は、薬理活性物質が水溶性薬理活性物質の場合には前駆体水溶液となり、薬理活性物質が難水溶性薬理活性物質である場合には前駆体懸濁液となる。
【0083】
上記薬理活性物質は、当該薬理活性物質が難水溶性薬理活性物質である場合に、エマルジョン化、非晶質ナノ粒子化、両親媒性高分子化合物の添加等の広く知られている方法により適宜可溶化することができる。このため、本発明の金属有機構造体は、広範な難水溶性薬理活性物質を内包することもできる。
【0084】
上記前駆体水溶液又は懸濁液の薬理活性物質含有量は、シクロデキストリン及びアルカリ金属の質量の総和を100質量%として、0.01~200質量%であることが好ましく、0.1~100質量%がより好ましく、1~50質量%がさらに好ましい。この場合に本発明の金属有機構造体は、上記含有量で薬理活性物質を担持することができる。
【0085】
上記前駆体水溶液又は懸濁液には、シクロデキストリン及びアルカリ金属化合物以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜添加剤を添加することができる。上記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、高分子等が挙げられる。
【0086】
上記前駆体水溶液又は懸濁液を調製する際の温度は、通常100℃以下であり、0~80℃が好ましく、10~60℃がより好ましく、20~40℃がさらに好ましい。当該温度は、使用する薬理活性物質に悪影響を及ぼさない限りにおいて、加熱又は冷却により適宜調節することができる。
【0087】
上記前駆体水溶液又は懸濁液の粘度は、通常1000mPa/s以下であり、0.1~500mPa/sが好ましく、1~100mPa/sがより好ましく、5~50mPa/sがさらに好ましい。
【0088】
上記前駆体水溶液又は懸濁液は、通常中性又はアルカリ性であって、上記前駆体水溶液又は懸濁液のpHは、通常5~14程度が好ましく、6~13がより好ましく、7~12がさらに好ましい。
(2-2)工程(B)
工程(B)では、上記前駆体水溶液又は懸濁液を噴霧乾燥して、金属有機構造体を含む乾燥粉末を得る。
【0089】
本発明の噴霧乾燥は、気体流路、ヒーター、送液ポンプ、噴霧器、乾燥チャンバー、サイクロン、ノズル、フィルター等を含む、公知の噴霧乾燥器により実施される。
【0090】
本発明の製造方法において、上記噴霧乾燥する際の入口温度は、通常100℃以上であり、100~220℃が好ましく、110~170℃がより好ましく、120~140℃がさらに好ましい。
【0091】
上記噴霧乾燥法において、上記前駆体水溶液又は懸濁液の送液流量は、通常0.1ml/h以上であり、1~10ml/hが好ましく、3~7ml/hがより好ましく、4~6ml/hがさらに好ましい。
【0092】
上記噴霧乾燥法において、ガス流量速度は、通常1L/h以上であり、10~3500L/hが好ましく、100~2000L/hがより好ましく、400~1000L/hがさらに好ましい。
【0093】
上記噴霧乾燥法で用いることのできるノズルは、2流体ノズル、3流体ノズル、超音波ノズルのいずれも採用することができる。なかでも、粒子径等の観点から、2流体ノズルが好ましい。
【0094】
上記ノズルの口径は、通常0.001mm以上であり、0.001~10mmであることが好ましく、0.01~5mmがより好ましく、0.1~1mmがさらに好ましい。
【0095】
本発明の製造方法において、上記金属有機構造体の製造時間は、通常1日未満であり、10分~12時間が好ましく、30分~6時間がより好ましく、1時間~3時間がさらに好ましい。ここで、「金属有機構造体の製造にかかる時間」とは、工程(A)を開始してから工程(B)が終了するまでの時間を意味する。
(2-3)工程(C)
本発明の製造方法では、上記工程(A)及び(B)を経た後に、
(C)任意で、前記乾燥粉末を有機溶媒に再分散して、金属有機構造体の結晶性を調節する工程
を備えることができる。この場合、シクロデキストリン金属有機構造体の結晶化度が向上し、経肺製剤としての吸入特性が向上し、また、薬理活性物質の内包量が向上する。
【0096】
工程(C)で用いることのできる有機溶媒としては、上記有機溶媒と同様に、シクロデキストリン金属有機構造体に悪影響を及ぼさない限りにおいて、公知の極性溶媒を広く採用することができる。なかでも、上記金属有機構造体の結晶性等の観点から、アルコール、エーテル等が好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~10のアルコールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。
【0097】
工程(C)で使用する有機溶媒の使用量は、前記乾燥粉末の質量を100質量%として、通常500質量%以下であり、0.01~200質量%であることが好ましく、0.1~100質量%がより好ましく、1~50質量%がさらに好ましい。
【0098】
工程(C)で使用する有機溶媒は、薬理活性物質を含んでいてもよい。この場合、本発明の金属有機構造体に薬理活性物質を内包させることができる。
【実施例0099】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
[実施例1]
噴霧乾燥法によるCD-MOFの製造
水酸化カリウム及びγ-CDを含む前駆体水溶液を、噴霧乾燥することにより、金属有機構造体微粒子を製造した(
図1)。上記前駆体水溶液は、200mMの水酸化カリウム及び25mMのγ-CDを100mLの水に溶解して調製した(
図2)。噴霧乾燥の入口温度、送液流量及びガス流量は、それぞれ130℃、5.5mL、及び473L/hであった。アスピレーターは約35m
3/hの最大ガス流量に設定した。直径0.7mmの2流体ノズルとミニスプレードライヤー(B-290、BuchiK.K.)を使用した。乾燥ガスには圧縮空気を使用した。調製後、分析のために噴霧乾燥粒子を回収した。収率は80%であった。
【0101】
[実施例2]
噴霧乾燥法による薬理活性物質担持CD-MOFの製造
レボフロキサシン(LVFX)を内包する金属有機構造体は、実施例1と同じ方法で、前駆体水溶液にLVFX(4.0mg/mL)を溶解することで製造した。収率は90%であった。
【0102】
[比較例1]
蒸気拡散法によるCD-MOFの製造
従来技術である蒸気拡散法により、CD-MOF結晶を製造した。
図13に示すような閉鎖系において、内瓶に入った8.0mMの水酸化カリウムと1.0mMのγ-CDを含む水溶液(15mL)に、外瓶に入った過剰のメタノールをゆっくりと拡散させた。7日後、内瓶の壁に付着した立方晶系結晶を回収した。濾過後、回収したCD-MOF立方晶系結晶を真空乾燥機に入れて6時間乾燥し、これを後述する分析に供した。収率は15%であった。
【0103】
[比較例2]
蒸気拡散法による薬理活性物質担持CD-MOFの製造
レボフロキサシン(LVFX)を内包するCD-MOF結晶は、上記水溶液にLVFX(4.0mg/mL)をさらに溶解すること以外は、比較例1と同様の方法で製造した。収率は20%であった。
【0104】
[比較例3]
貧溶媒晶析法によるCD-MOFの製造
従来技術である貧溶媒晶析法により、具体的には、基材成分を含む溶液に貧溶媒を加えることにより、CD-MOF結晶を製造した。200mMの水酸化カリウムと25mMのγ-CDを水(60mL)に完全に溶解して水溶液を得た。
図15に示すように、当該水溶液にエタノール(40mL)を加えた後、混合物を400rpmで20分間撹拌し、15℃の冷水浴に24時間放置すると、結晶成長が起こった。懸濁液の底にあるCD-MOF結晶をろ過後に回収した。回収したCD-MOF結晶を真空乾燥機に入れて6時間乾燥し、これを後述する分析に供した。収率は55%であった。
【0105】
[比較例4]
貧溶媒晶析法による薬理活性物質担持CD-MOFの製造
レボフロキサシン(LVFX)を内包するCD-MOF結晶は、エタノール添加前の上記水溶液にLVFX(4.0mg/mL)をさらに溶解すること以外は、比較例3と同様の方法で製造した。収率は60%であった。
【0106】
実施例1及び2、並びに比較例1~4で得られた試料を用いて、以下の項目を評価した。
【0107】
(粒子径分布測定)
粉末サイズは、Mastersizer粒子サイズアナライザー(スペクトリス株式会社Malvern Panalytical事業部)を使用し、レーザー回折法により決定した。0.3MPaの圧力下で、粉末サンプルをエアジェットにより射出した。D50は粒子のメディアン径を表す。粒子サイズの検出限界は100~2000nmの範囲であった。
【0108】
(走査型電子顕微鏡(SEM)観察)
乾燥粉末の画像は、走査型電子顕微鏡(SEM;MiniscopeTM3030、日立ハイテク)を使用してランダムに撮影した。粉末サンプルをカーボンテープで金属スタブに固定し、真空条件下で白金の薄層でコーティングした(E-1045、日立ハイテク)。分析時の加速電圧は15kVとした。
【0109】
(粉末X線回折(PXRD))
SmartLabX線回折計(リガク)を使用して、粒子の結晶化度を評価した。30kV及び15mAで、5~35°の2θ範囲で走査速度は4°/分であった。ガラス板のウェル内でサンプルを平らにした。
【0110】
(窒素ガス吸着法)
窒素の吸脱着等温線は、77Kで、BELSORP-max(MicrotracBel)を使用して評価した。脱気温度は、真空下で、50℃であった。Brunauer-Emmett-Teller(BET)表面積は、吸着等温線から計算した。表面積を推定するために、P/P0が0.05~0.3の範囲の吸着等温線をBET方程式に適用した。ミクロ孔容積は、αs-プロット法を使用して計算した。全細孔容積は、P/P0=0.99の窒素吸着量から計算した。
【0111】
(エネルギー分散型X線分析(EDX))
CD-MOF微粒子の元素マップは、EMAX Evolution EDX(Horiba)で撮影した。酸素(O)、フッ素(F)、及びカリウム(K)の3元素それぞれの相対量を評価するために、各粒子からのエネルギー分散型X線スペクトルをベクトルベースのアルゴリズムにより分析した。
【0112】
(粒子密度及び空気動力学径)
CD-MOF粉末試料(250mg)を5mLメスシリンダーに入れた。かさ密度は、この時の粉末試料の質量と容積の商から算出した。次に、CD-MOF粉末試料を充填したメスシリンダーを、粉末試料の容積が変わらなくなるまで100回軽くタップした。タップ密度は、この時の試料の重量とタップ容積の商から算出した。CD-MOF粉末試料の真密度は、ガスピクノメーター(AccuPyc1330;島津製作所)で決定した。CD-MOF粉末試料のかさ密度、真密度、およびD50から、理論的な空気動力学径を次の式により算出した。
【0113】
【0114】
式中、D50はメディアン径、ρPはかさ密度、ρ*は真密度を示す。
【0115】
(X線光電子分光法(XPS))
粉末試料の表面元素組成は、MgKα放射線励起源(10kV、10mA)を備えたJPS-9000MX分光計(JEOL)で測定した。チャンバー内の圧力は1×10-5Pa未満とした。フッ素、カリウム、酸素、及び炭素を検出した。データ取得中に放射線による損傷は観察されなかった。
【0116】
(高速液体クロマトグラフィー(HPLC))
レボフロキサシン(LVFX)濃度は、40℃で、COSMOSIL C18逆相カラム(NacalaiTesqueInc.)を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC;e2695及び2489;Waters、Milford)により決定した。検出波長は295nm、注入量は10μLとした。アセトニトリルと60mMリン酸二水素カリウム(15/85、v/v)とからなる移動相の流量は、0.7mL/minに維持した。吸光度のピークは、流し始めから約6分後に表れた。一定量の試料中の薬理活性物質含有量を評価した。
【0117】
(in vitro吸入特性)
CD-MOF粒子のin vitro吸入性能は、人間の肺を模倣するアンダーセンカスケードインパクター(ACI)(AN-200 system;Tokyo Dylec Corp.)で評価した。各試料製剤(10mg)を、サイズ2のヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセル(Qualicaps)に挿入した。試料製剤を充填したカプセルを経肺粉体吸入器に設置した。各ステージの捕集プレートをシリコンの2%(v/v)ヘキサン溶液に浸して、粒子の跳ね返りを低減するためのシリコン層を生成した。呼吸器疾患に苦しむ患者を想定して弱い吸入速度(28.3L/min)を設定し、合計4Lの気流となるように吸引時間を調節した。各ステージに捕集された薬理活性物質の割合は、HPLCにより評価した。各試料製剤についての吸入性能、すなわち放出画分(EF)および微粒子画分(FPF)は、次の式(2)及び(3)により算出した。
【0118】
【0119】
【0120】
式中、total recovered drugは、回収された薬物総量を示し、emitted doseは、薬理活性物質送達量であり、カプセルから放出された薬物の質量を示し、fine particle doseは、微粒子含量であり、ステージ2以降のステージに到達した薬物の質量を示す。
【0121】
以上の項目の評価について、結果を表1~3及び
図3~7に示す。
【0122】
図3に示されるように、実施例1及び2の金属有機構造体は、レボフロキサシンの有無にかかわらず、その形状が球状で、且つ、中空の微粒子であった(
図3(a)及び(b))。
図3(a)及び(b)の微粒子表面は粗い一方で、
図3(c)の微粒子表面が滑らかであった。
図3(a)及び(b)の微粒子のシェルがより剛直性を示したのは、本発明の金属有機構造体がカリウムイオンと水酸基の間の配位結合を有しているためである。
【0123】
また、
図4に示されるように、実施例1及び2の金属有機構造体は、その粉末X線回折(PXRD)パターンにおいて、鋭い回折ピークを示さず、ハローパターンを示した(
図4(d)及び(e))。このことから、本発明のシクロデキストリン金属有機構造体の形態は、非晶質であった。当該形態は、レボフロキサシンの有無に影響されなかった。
【0124】
これに対し、
図14及び16に示されるように、従来技術により得られたCD-MOF結晶(比較例1~4)は、立方体又は多面体の形状を有し、球状の微粒子とは顕著に異なる形状を有する。蒸気拡散法、貧溶媒晶析法いずれの方法においても、長時間の結晶成長によって、規則的に集積した立方晶が生成したと考えられる。当該形状は、レボフロキサシンの有無に影響されなかった。後述する元素分析の結果から、レボフロキサシンは結晶内部に取り込まれていることがわかった。
【0125】
また、
図17に示されるように、比較例1~4のCD-MOF結晶は、その粉末X線回折(PXRD)パターンにおいて、2θ=4°,7°又は17°に鋭いピークを有する。これらのピークは、未処理のγ-CDには見られないものであって、CD-MOF結晶に特有のピークであることが知られているから、比較例1~4のCD-MOF結晶の形態は、明らかに結晶質であった。
【0126】
さらに、
図18に示されるように、実施例1の金属有機構造体微粒子は中空であるのに対し(
図18(b))、比較例3のCD-MOF結晶は内部に空洞を有しておらず、中実であった(
図18(a))。
【0127】
次に、各試料の特性を表1に示す。実施例1及び2の比表面積は、比較例1~4と比して著しく小さく、これに関連して、実施例1及び2の細孔容積についても、従来技術により得られたものと比較して格別に小さい。
【0128】
また、他の物性についても、実施例1及び2のシクロデキストリン金属有機構造体は、比較例1~4と比較して、密度が小さく、粒子径が小さく、且つ薬物内包量が多い。これらの結果から、本発明の金属有機構造体が経肺製剤として優れていることがわかる。
【0129】
【0130】
続いて、X線光電子分光法(XPS)による表面元素分析の結果を表2に示す。
図6のエネルギー分散型X線分析(EDX)の結果も考慮すると、いずれの試料についても、酸素原子及びカリウム原子それぞれの均一な分布が確認されたといえる。表2及び
図6のフッ素原子は、モデル薬物であるレボフロキサシンに由来する。表2の実施例2、
図6(b)からは、微粒子表面に多くのフッ素原子が存在することがわかる。実施例2の金属有機構造体は、CD-MOF結晶の細孔以外の部位で薬理活性物質を担持することができるために、薬物内包量を大幅に向上させることができる。
【0131】
【0132】
さらに、比較例4及び実施例2で得た金属有機構造体のin vitro吸入特性として、アンダーセンカスケードインパクター(ACI)を使用した結果を
図7及び表3に示す。比較例4のCD-MOF結晶はその多くがステージ0(>11μm)で捕集されたのに対し、実施例2の金属有機構造体微粒子はステージ2以降の深部まで薬剤を送達することができた。実施例2の金属有機構造体は、その微粒子画分(FPF)が27.04%であって、市販の粉末製剤と同等若しくはそれ以上の数値を示した。
【0133】
【0134】
次に示す実施例3及び4の通り、実施例1及び2で得られた各試料の結晶化度を向上させた(
図8)。
【0135】
[実施例3]
エタノールを用いた再分散によるCD-MOFの再構成
実施例1で得た金属有機構造体微粒子0.5gを、エタノール40mLに再分散した。24時間後に取り出し、40℃で24時間乾燥した。乾燥後、分析のために金属有機構造体微粒子を回収した。
【0136】
[実施例4]
エタノールを用いた再分散による薬理活性物質担持CD-MOFの再構成
実施例2で得た金属有機構造体微粒子0.5gを、エタノール40mLに再分散した。24時間後に取り出し、40℃で24時間乾燥した。乾燥後、分析のために金属有機構造体微粒子を回収した。
【0137】
実施例3及び4で得られた試料について、SEM画像観察、粉末X線回折(PXRD)、窒素ガス吸着法による分析を行った(
図9)。実施例3及び4いずれの金属有機構造体微粒子も、実施例1及び2と同様に、形状が球状の中空微粒子であった(
図9A及びB)。しかしながら、当該微粒子表面は、実施例1及び2とは異なり、粗い表面を有していた(
図9A及びB)。さらに、実施例3及び4についてのPXRDパターンはCD-MOF結晶特有の鋭いピークを示しており(
図9C及びD)、BET表面積は4倍近く大きいものとなっていた(
図9E及びF)。以上の変化から、実施例3及び4の金属有機構造体微粒子は、エタノール再分散によって、その内部でγ-CD及びカリウムイオンの結合及び構造が再構成されており、非晶質部分が、細孔を有する(γ-CD)
6ユニットへと結晶化しているものと判断できる。
【0138】
実施例3及び4の結果をうけて、次に示す実施例5及び6の通り、実施例1及び2の製造方法の改良を行った(
図10)。
【0139】
[実施例5]
改良された噴霧乾燥法によるCD-MOFの製造
吸入性能を向上させるために、実施例1と同様の方法において、前駆体水溶媒の組成を変更することで噴霧乾燥法を改良した。前駆体水溶液は、水に加えて、35v/v%のエタノールを含んでいた。前記エタノールは、噴霧乾燥の直前に、200mMの水酸化カリウムと25mMのγ-CDを含む前駆体水溶液に注いだ。噴霧乾燥後のCD-MOF微粒子は、分析のために回収された。
【0140】
[実施例6]
改良された噴霧乾燥法による薬理活性物質担持CD-MOFの製造
レボフロキサシン(LVFX)を内包する金属有機構造体は、前駆体水溶液にLVFX(4.0mg/mL)を溶解すること以外は、実施例5と同様の方法で製造した。
【0141】
実施例5及び6で得られた試料について、SEM画像観察、粉末X線回折(PXRD)、窒素ガス吸着法による分析を行った(
図11)。実施例5及び6いずれの金属有機構造体微粒子も、実施例1~4と同様に、形状が球状の中空微粒子であった(
図11A及びB)。しかしながら、当該微粒子表面は、実施例1及び2とは異なり、粗い表面を有していた(
図11A及びB)。さらに、実施例5及び6についてのPXRDパターンはCD-MOF結晶特有の鋭いピークを示しており(
図11C及びD)、BET表面積は数倍大きいものとなっていた(
図11E及びF)。以上の変化から、実施例5及び6の金属有機構造体微粒子は、乾燥噴霧前のエタノール添加によって、その内部でγ-CD及びカリウムイオンが局所的に結晶を形成しており、細孔を有する(γ-CD)
6ユニットを一定の割合で構成しているものと判断できる。
【0142】
また、実施例5及び6で得られた試料について、各種特性を評価した結果を表4に示す。表1の実施例1及び2と比較して、実施例5及び6の金属有機構造体微粒子は、比表面積及び細孔容積が増大し、密度が減少し、これに伴ってメディアン径D
50及び空気動力学径が減少し、in vitro吸入特性が向上している(
図12)。また、薬物内包量も向上していることから、いずれのパラメータについても、経肺製剤としてより一層優れたものとなったことがわかる。
【0143】