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特開2023-16134フグの加工方法及び冷凍身欠きフグの解凍方法
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  • 特開-フグの加工方法及び冷凍身欠きフグの解凍方法 図1
  • 特開-フグの加工方法及び冷凍身欠きフグの解凍方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016134
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】フグの加工方法及び冷凍身欠きフグの解凍方法
(51)【国際特許分類】
   A22B 3/08 20060101AFI20230126BHJP
   A23B 4/07 20060101ALI20230126BHJP
   A23B 4/06 20060101ALI20230126BHJP
   A22C 25/14 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A22B3/08
A23B4/07 B
A23B4/06 501G
A23B4/06 501C
A22C25/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120235
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】521246459
【氏名又は名称】株式会社ヨシマサ
(74)【代理人】
【識別番号】100182877
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 抄太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】松石 和博
【テーマコード(参考)】
4B011
【Fターム(参考)】
4B011KA01
4B011KE23
(57)【要約】
【課題】 冷凍状態で提供される身欠きフグの鮮度、解凍後の食感、味等を高く保つことができるフグの加工方法を提供する。
【解決手段】 本発明のフグの加工方法によれば、動脈の切断後、生きた状態で水中でえら呼吸をさせて泳がせながら血抜きする。フグが泳いでいる間、えら呼吸と共に血液が流出する。フグ自体が泳ぐことで血抜きが行われるため、人手を煩わせることなく十分な血抜きを行うことができる。その結果、冷凍され、解凍された身の鮮度、食感、味等も高いレベルのものを提供できる。
【選択図】 図1






【特許請求の範囲】
【請求項1】
身欠き処理を行った後冷凍し、保管・輸送の用に供するフグの加工方法において、
前記身欠き処理の前処理として、
動脈を切断した後、魚体の重量の10~100倍の量の水が貯留された水槽中でフグを泳がせ、えら呼吸をさせながら血抜きする処理を実施することを特徴とするフグの加工方法。
【請求項2】
前記身欠き処理を行った後冷凍する工程においては、前記身欠き処理を行った身欠きフグを真空パックして、-30℃以下で急速冷凍する請求項1記載のフグの加工方法。
【請求項3】
冷凍ストッカーに所定量のエタノールを入れ、前記エタノールを-30℃以下に至るまで予め冷却し、冷却した前記エタノール中に前記真空パックを浸漬して急速冷凍する請求項2記載のフグの加工方法。
【請求項4】
-30℃以下で冷凍された冷凍身欠きフグを、前記冷凍身欠きフグの重量の5~20倍の重さに相当する量のぬるま湯に所定時間浸漬して解凍することを特徴とする冷凍身欠きフグの解凍方法。
【請求項5】
解凍開始時の前記ぬるま湯の温度が30~50℃の範囲である請求項4記載の冷凍身欠きフグの解凍方法。
【請求項6】
前記冷凍身欠きフグが、請求項1~3のいずれか1に記載のフグの加工方法により加工されて冷凍されたものである請求項4又は5記載の冷凍身欠きフグの解凍方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保管や輸送の用に供するために実施されるフグの加工方法、並びに、冷凍身欠きフグの解凍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、水槽から採り上げた養殖トラフグを締め、5~10℃の海水に浸漬し、血抜きを行った後、腹を裂き、内臓を摘出し、腎臓を除去し、塩水で洗浄し、水分を除去した後真空パックし、魚体の中心温度を-30℃以下となるように急速凍結し、-30℃以下で輸送・保管した後、真空パックされた魚体を解凍し、該魚体の温度が氷結点を超えたことを確認した後、真空パックより魚体を取り出して解体し、丸太と呼ばれる身及びアラを塩水で洗浄し、丸太を氷温で保って、その後、テッサを引いてそれを氷温で保管する養殖トラフグの加工及び保管に関する技術が開示されている。
【0003】
また、解凍する工程では、真空パックされた-30℃以下の養殖トラフグの魚体を、温度が18℃~25℃である0.5重量%~3.0重量%の天日塩水中に浸漬し、その温度を維持した状態で45分~75分間保持した後、天日塩水の温度を12℃~18℃に下げ、25~40分間維持し、養殖トラフグの魚体の温度が氷結点を超えたことを確認した後、真空パックより魚体を取り出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-295928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般の消費者に提供されるフグは、保管、輸送前に身欠き処理し、その後冷凍状態で提供される。よって、消費者が食する場合には、解凍後に食することになり、冷凍方法、解凍方法によって新鮮度、味等が左右される。特に、冷凍前に血抜きを十分に行っていることは、解凍後の味への影響も大きい。特許文献1では、トラフグを締めた後、魚体を10分間海水に浸漬し、10分間血抜きを行うということが記載されている。通常、これでも一般的に必要な血抜きを行うことができるが、魚を締める工程、すなわち即死させる工程を経た後、血抜き作業を行わなければならず手間がかかる。また、血抜きの程度も作業者の熟練次第では、不十分となる場合もある。
また、特許文献1の上記の解凍方法は、それにより、鮮度、味等を保つことができるとされているが、解凍工程が複雑である。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、冷凍状態で提供される身欠きフグの鮮度、解凍後の食感、味等を高く保つことができるフグの加工方法を提供することを課題とする。また、本発明は、鮮度、食感、味等を落とすことなく容易に解凍できる冷凍身欠きフグの解凍方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のフグの加工方法は、
身欠き処理を行った後冷凍し、保管・輸送の用に供するフグの加工方法において、
前記身欠き処理の前処理として、
動脈を切断した後、魚体の重量の10~100倍の量の水が貯留された水槽中でフグを泳がせ、えら呼吸をさせながら血抜きする処理を実施することを特徴とする。
【0008】
前記身欠き処理を行った後冷凍する工程においては、前記身欠き処理を行った身欠きフグを真空パックして、-30℃以下で急速冷凍することが好ましい。
冷凍ストッカーに所定量のエタノールを入れ、前記エタノールを-30℃以下に至るまで予め冷却し、冷却した前記エタノール中に前記真空パックを浸漬して急速冷凍することがより好ましい。
【0009】
また、本発明の冷凍身欠きフグの解凍方法は、-30℃以下で冷凍された冷凍身欠きフグを、前記冷凍身欠きフグの重量の5~20倍の重さに相当する量のぬるま湯に所定時間浸漬して解凍することを特徴とする。
解凍開始時の前記ぬるま湯の温度が30~50℃の範囲であることが好ましい。
また、この解凍方法は、本発明に係る前記フグの加工方法により加工されて冷凍されたものに適用すると好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフグの加工方法によれば、フグを即死させるのではなく、動脈の切断後、生きた状態で水中でのえら呼吸をさせて泳がせながら血抜きする方法を採用している。そのため、フグが泳いでいる間、えら呼吸と共に血液が流出する。従来の締めた後に行う血抜き作業は、人手によることになるため、作業者の熟練度によって血抜きの程度に差がでる場合がある。しかし、本発明によれば、フグ自体が泳ぐことで血抜きが行われるため、人手を煩わせることなく十分な血抜きを行うことができる。その結果、冷凍され、解凍された身の鮮度、食感、味等も高いレベルのものを提供できる。
【0011】
また、本発明の冷凍身欠きフグの解凍方法は、冷凍身欠きフグの5~20倍の重さに相当する量の30~50℃のぬるま湯を用いている。このため、所定時間浸漬するだけで、熱交換が速やかになされ、鮮度、食感、味等を落とすことなく、容易に解凍できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一の実施形態にかかるフグの加工方法を説明するための工程図である。
図2図2は、実施例で用いた冷凍ストッカーの概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係るフグの加工方法を説明するための工程図である。この図に示したように、加工対象のフグは、まず、身欠き処理前の前処理として血抜き処理が行われる。
【0014】
本実施形態では、この血抜き処理を、加工対象のフグの動脈を切断して水槽中でフグを泳がせ、えら呼吸をさせることにより行っている。すなわち、従来のように締めた後に人手により血抜きを行うのではなく、動脈を切断して泳がせることで、フグ自身の運動によって血抜きする。切断する動脈は特に限定されるものではなく、水中でフグが所定時間生きることができる一方で、血液が速やかに排出される部位の動脈を切断する。いずれの動脈を切断するかの選択は、加工者の熟練や経験によっても左右される。すなわち、本実施形態では、動脈の切断後もフグを泳がせながら血抜きを行うため、動脈の切断により即死したり、切断後、短い游泳時間で死亡したりしては満足な血抜きができない。他の種類の魚の場合、動脈切断後の生存時間が短く十分な游泳ができない場合が多いが、フグ(中でもトラフグ)は、その多くが血液の流出量95%でも泳ぎ続ける。よって、その間のえら呼吸により効率よく血抜きを行うことができる。
【0015】
水槽中に入れる水は、海水、真水いずれでもよいが低過ぎても高過ぎても動きが鈍くなる。また、高過ぎる場合には、腐敗の進行が早まる。そこで、水温は3~20℃の範囲で管理することが好ましい。
【0016】
水の貯留量は魚体の重量の10~100倍程度が好ましい。味が良いとされる体重約3~4kgのトラフグの場合で約30~300リットルである。この範囲を下回ると血液による水の汚れ具合が高く、上回る場合には捕まえにくくなる。より好ましい貯留量は魚体の20~60倍程度である。
【0017】
上記のようにフグ(中でもトラフグ)は、血液の流出量が95%でも泳ぐものの、流出量95%以上となると多くの場合鮮血を放出しなくなる。水槽における游泳時間はこの鮮血放出が止むまでとし、鮮血放出が止んだ時点で速やかに回収する。
【0018】
次に、回収したフグを身欠き処理する。この身欠き処理は通常の手順と同様に実施され、内臓を除去し、水洗いして除毒し、水気を拭き取る。
【0019】
次に、身欠き処理を行った身欠きフグを冷凍する。本実施形態では、まず、身欠きフグを真空袋に入れ、真空パック機にかけて脱気し、真空パックする。次に、これを急速冷凍する。急速冷凍は、最大氷結晶生成温度帯を30分以内に通過する冷凍方法を言うが、低温の冷気を吹き付けるエアブラスト方式、低温の液体(冷凍液)を利用する液体凍結のいずれでも適用可能である。いずれの場合も、冷気や冷凍液を-30℃以下、好ましくは、-30℃~-60℃として急速冷凍する。液体は気体よりも熱伝導率が高く、また、身欠きフグは上記のように真空パックしているため、冷凍液中に浸漬することで、冷気を吹き付ける方式のように特定の方向からではなく、全方位、全面から凍結が進行する。よって、より氷結晶が小さく、細胞の破壊を抑制でき、解凍時のドリップの流出をより抑制できることから液体凍結を用いることが好ましい。
【0020】
次に、本発明の冷凍身欠きフグの解凍方法の実施形態を説明する。
上記のように急速冷凍された冷凍身欠きフグは、-30℃以下の一般の冷凍庫を用いて保管され、また、同様の冷凍庫を搭載した輸送機器によって運搬されて流通するが、食する際には、解凍する必要がある。上記のように高い鮮度を保つことができる方法により加工されたものであっても、解凍方法によってはその鮮度、味を損なう可能性がある。
【0021】
特許文献1の解凍方法によれば、鮮度、味等を保つことができるとされているものの、上記のように解凍工程が複雑で一般の料理店で実施するのは困難である。そこで、本実施形態では、冷凍身欠きフグの重量の5~20倍、好ましくは8~20倍、より好ましくは10~20倍の重さに相当する量のぬるま湯を貯めた水槽を準備し、その中に、真空パックしたままの冷凍身欠きフグを投入することにより解凍する手段を採用する。ぬるま湯に投入後、30分から2時間程度浸漬すると解凍される。解凍は、冷凍身欠きフグの重量に対し、上記のような十分な量のぬるま湯を使用することが重要であり、ぬるま湯の厳密な温度制御は必要ない。但し、通常は、解凍開始時のぬるま湯の温度を30~50℃の範囲とすることが好ましい。その後、基本的には解凍終了時まで特別な操作は必要なく、放置するだけでよい。しかしながら、水槽設置場所の周辺環境条件によっては、放置することで、解凍終了前に0℃以下に至ってしまう可能性もある。このような場合には、0℃以下とならないよう、適宜の加温手段を用いて温度調整することももちろん可能である。
【0022】
(実施例1)
体長30~40cm、重さ1.0~1.5kgのトラフグ5尾を処理した。なお、急速冷凍用の装置として、容量200リットルの冷凍ストッカー(図2に示したように、略直方体状の上面開口の容器本体と、上面開口を開閉する蓋のついた箱形のもの)に濃度70~80%のエタノール150リットルを入れ、このエタノールを-30℃に至るまで冷却したものを準備した。
【0023】
まず、加工対象の各トラフグについて、動脈(例えば、背骨の内側の動脈)を切断し、そのトラフグを順次、200リットルの海水を貯留した水槽中に投入し游泳させた。約10~30分で鮮血放出が止んだため、鮮血放出が止んだ順に捕まえて水槽中から引き上げた。
【0024】
次にそれぞれ身欠き処理して、真空パックし、冷凍ストッカーに保持された-30℃のエタノール中に身欠きフグの真空パックを浸漬した。30分後、真空パックされた状態の、冷凍された身欠きフグ(冷凍身欠きフグ)を引き上げ、-30℃以下の冷却温度に調整された一般の冷凍庫に移して保管した。
【0025】
消費地への流通時間を考慮して48時間保管した後、真空パック詰めされた冷凍身欠きフグ700gを冷凍庫から一つ取り出し、その重さの約10倍である7リットルのぬるま湯が貯留された水槽中に浸漬した。なお、解凍開始時のぬるま湯の温度は40℃であった。浸漬してから1時間後、冷凍身欠きフグを引き上げ、真空パックから取り出した。取り出した身欠きフグは、十分解凍されていた。なお、解凍終了時までのぬるま湯の最低温度は12℃であり、加温のための特別な操作は行わなかった。この身欠きフグをさばいて刺身におろした。
【0026】
(比較例1)
体長30~40cm、重さ1.0~1.5kgのトラフグ5尾を脳と尾ヒレに包丁を入れて活き締めして血抜きを行った。
それ以外の身欠き処理、急速冷凍、解凍の各工程は実施例1と全く同様に行い、フグの刺身を得た。
【0027】
(比較例2)
体長30~40cm、重さ1.0~1.5kgのトラフグ5尾を従来の手法により処理した。
すなわち、まず上記のトラフグを生けすから引き上げた後、脳と尾ヒレに包丁をいれて活き締めして血抜きを行った。
次に、身欠き処理として、内臓の除去、水洗いによる除毒作業を行い、水気を拭き取り箱詰めした。
箱詰めした身欠きフグを―20℃の一般の冷凍庫により冷凍して保管した。
48時間後、冷凍した身欠きフグを解凍し、刺身におろした。なお、解凍は、真空パック詰めされたまま、流水解凍により行った。
【0028】
次に、実施例1、比較例1及び比較例2の各刺身について、モニター8名により味見を行った。モニターは、産地でフグ加工に携わっている専門業者3名、フグ料理人1名、フグ加工や料理に関与していない一般人4名である。
【0029】
その結果、全てのモニターが、比較例2よりも実施例1、比較例1の方が弾力性、歯ごたえがあるという感想であった。これは急速冷凍により、筋繊維等の劣化が抑制されたことによるものと考えられる。一方、比較例1及び比較例2は、人が一尾ずつ血抜きを行わなければならず、時間、手間がかかった。これに対し、実施例1は、水槽に放置するだけで血抜きが行われ、血抜き処理の労力が大幅に減った。水槽の大きさにもよるが、一度に多数の血抜きを行うことができるため、処理数が多くなるほどその効果は顕著となる。また、血抜き処理後、一尾ずつ目視により検査したところ、比較例1及び比較例2の2~4割に見られた血だまりが、実施例1には全く見受けられず、血液の残量は明らかに実施例1の方が少なかった。
【0030】
また、味の最大要素である甘みは、熟成と共に増す。実施例1及び比較例1の熟成期間は全く同じであったが、モニター全員が実施例1の方が甘みを強く感じたという感想であった。これは、上記のように実施例1よりも比較例1の方の血抜きが不十分であることから、残存する血液による臭みが甘みを帳消しにしたものと考えられる。



図1
図2