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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016138
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】プロセスチーズ
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/08 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
A23C19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021120243
(22)【出願日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】尼岡 大輝
(72)【発明者】
【氏名】千葉 啓
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC07
4B001AC20
4B001AC44
4B001AC45
4B001BC01
4B001BC07
4B001BC08
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】優れた曳糸性を有するプロセスチーズを提供すること。
【解決手段】原料チーズと、前記原料チーズに由来するカゼインタンパク質とは別のカゼインタンパク質である別カゼインタンパク質と、加工デンプンと、を含む、プロセスチーズ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料チーズと、
前記原料チーズに由来するカゼインタンパク質とは別のカゼインタンパク質である別カゼインタンパク質と、
加工デンプンと、を含む、
プロセスチーズ。
【請求項2】
前記別カゼインタンパク質が、レンネットカゼインである、請求項1に記載のプロセスチーズ。
【請求項3】
プロセスチーズ全量に対し別カゼインタンパク質の含有量が1~10質量%である、請求項1又は2に記載のプロセスチーズ。
【請求項4】
プロセスチーズ全量に対し、加工デンプンの含有量が、0.1~10質量%である、請求項1~3の何れか一項に記載のプロセスチーズ。
【請求項5】
前記原料チーズとして、半硬質チーズ及び硬質チーズから選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項1~4の何れか一項に記載のプロセスチーズ。
【請求項6】
前記原料チーズとして、クリームチーズをさらに含む、請求項5に記載のプロセスチーズ。
【請求項7】
プロセスチーズ全量に対する脂質の含有量が、21質量%以上である、請求項1~6の何れか一項に記載のプロセスチーズ。
【請求項8】
前記原料チーズ全量に対して、モッツァレラチーズの含有量が10質量%以下である、請求項1~7の何れか一項に記載のプロセスチーズ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスチーズに関する。
【背景技術】
【0002】
プロセスチーズは、ナチュラルチーズを加熱溶融し、乳化したものである。プロセスチーズは、一般的には原料として用いられるナチュラルチーズに、必要に応じて溶融塩、乳化剤、水等を加え、乳化機等で加熱乳化して乳化物を得、該乳化物を冷却するとともに成形することにより製造される。
【0003】
近年、例えばピザ、グラタン、トーストのトッピング等の加熱調理に用いられるチーズの商品価値を高める要素として、加熱によりチーズが溶融する熱溶融性を有するだけでなく、加熱溶融したときにチーズが糸を曳く曳糸性が良好であることが求められている。
【0004】
特許文献1には、少なくとも75質量%のナチュラルチーズと、溶融塩と、下記1)~3)の特徴を有する乳濃縮物とを含む原料を加熱乳化する工程と、前記加熱乳化を終了した後、1~10℃の冷水に浸漬させて急冷する工程を有することを特徴とする曳糸性プロセスチーズの製造方法が記載されている。
1)乳濃縮物に含まれるタンパク質が少なくとも40質量%であること、
2)乳濃縮物に含まれるタンパク質の50~95質量%がカゼインであること、
3)乳濃縮物が酵素処理する工程を経ずに得られるものであること。
特許文献1に記載の製造方法によれば、優れた曳糸性を有する曳糸性プロセスチーズが得られることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、原料チーズ類の含有量が60質量%以下であるチーズ様食品であって、アセチル化酸変性澱粉、乳タンパク質、油脂、および溶融塩を含み、溶融塩が80質量%以上のクエン酸塩を含み、溶融塩が前記チーズ様食品の全質量に対して1質量%以上3質量%以下である、チーズ様食品が記載されている。また、乳タンパク質としてレンネットカゼインを含むことが好ましいことが記載されている。
特許文献2に記載のチーズ様食品は、原料チーズの含有量が少ないか、または原料チーズ類を含まないチーズ様食品として、加熱溶融した際の伸びが良いチーズ様食品であることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、チーズ様食品用アセチル化澱粉であって、馬鈴薯澱粉を原料とし、アセチル化度が1.0%以上2.5%以下であり、上記アセチル化澱粉をラピッドビスコアナライザーにて昇温速度1.5℃/minで測定したときの糊化ピーク温度が80℃以下であるアセチル化澱粉を含む、チーズ様食品が記載されている。さらに、レンネットカゼインを含むチーズ様食品は優れた食感を発現することに加えて、優れた糸曳性も発揮することができることが記載されている。
特許文献3に記載のチーズ様食品は、製造効率が高いことが記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、原料チーズ類を含まないチーズ様食品であって、アセチル化澱粉、油脂、オクテニルコハク酸α化澱粉、および水分を含み、前記オクテニルコハク酸α化澱粉の含有量がチーズ様食品の全質量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下である、チーズ様食品が記載されている。
特許文献4に記載のチーズ様食品は、原料チーズ類を含まないチーズ様食品として本来のチーズと同様の加熱溶融性を有するチーズ様食品であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2013/031959号公報
【特許文献2】特開2020-120664号公報
【特許文献3】特開2020-120663号公報
【特許文献4】特開2020-108401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた曳糸性を有するプロセスチーズを提供することを課題とする。
また、好ましくは焼成時の膜張り、焦げが抑制されたプロセスチーズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、プロセスチーズの製造方法について研究を重ねた結果、原料チーズと、前記原料チーズ由来のカゼインタンパク質とは別のカゼインタンパク質(本発明において、「別カゼインタンパク質」という。)と、加工デンプンと、を含む、プロセスチーズは、焼成時に優れた曳糸性を有することを見出した。
また、本発明者らは、上記プロセスチーズは焼成時に膜張り、焦げが発生しやすいという課題を発見した。そこで、原料チーズとして、半硬質チーズや硬質チーズに加えて、クリームチーズを含むことで、焼成時のチーズ表面の膜張り、焦げを抑制することができることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、原料チーズと、前記原料チーズに由来するカゼインタンパク質とは別のカゼインタンパク質である別カゼインタンパク質と、加工デンプンと、を含む、プロセスチーズである。
上記プロセスチーズは、焼成時に優れた曳糸性が得られる。
【0012】
また、前記別カゼインタンパク質が、レンネットカゼインであることが好ましい。
【0013】
また、プロセスチーズ全量に対し、別カゼインタンパク質の含有量が1~10質量%であることが好ましい。
【0014】
また、プロセスチーズ全量に対し、加工デンプンの含有量が、0.1~10質量%であることが好ましい。
【0015】
また、前記原料チーズとして、半硬質チーズ及び硬質チーズから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0016】
また、前記原料チーズとして、半硬質チーズ及び硬質チーズから選ばれる1種又は2種以上を含む形態において、クリームチーズをさらに含むことが好ましい。
原料チーズとしてクリームチーズを含むことにより、焼成時のチーズ表面の膜張り、焦げを低減することができる。
【0017】
また、プロセスチーズ全量に対する脂質の含有量が、21質量%以上であることが好ましい。
プロセスチーズ全量に対する脂質の含有量を上記範囲内とすることで、焼成時のチーズの膜張り、焦げを低減することができる。
【0018】
また、前記原料チーズ全量に対して、モッツァレラチーズの含有量が10質量%以下であることが好ましい。
本発明によれば、モッツァレラチーズの含有量が上記範囲内であっても、良好な曳糸性を有するプロセスチーズを提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るプロセスチーズは、優れた曳糸性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[プロセスチーズ]
本発明のプロセスチーズは、乳等省令において定められる「プロセスチーズ」の範疇に含まれるものであり、ナチュラルチーズを加熱溶融し、乳化したものである。
また公正競争規約において、プロセスチーズは、乳固形分(乳脂肪と乳蛋白質の総量)を40質量%以上含み、ナチュラルチーズ以外の添加成分として、脂肪量調整のためのクリーム、バター、バターオイルを含有することができる。また、プロセスチーズは、水を含んでもよい。また、その他の添加成分として、味、香り、栄養成分、機能性または物性を付与する目的の食品を、製品の固形分重量の1/6以内で含有することができる。該その他の添加成分として前記クリーム、バター、バターオイル以外の乳等を添加する場合は、製品中における乳糖含量が5質量%を超えない範囲、かつ、製品の固形分重量の1/6以内と定められている。
【0021】
[原料チーズ]
本発明における原料チーズは、乳等省令(「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」、昭和26年12月27日厚生省令第52号)において定められる「ナチュラルチーズ」の少なくとも1種からなる。ただし、ナチュラルチーズの原料である乳は、乳等省令で定義される乳(生乳、牛乳、特別牛乳、生やぎ乳、生めん羊乳、殺菌やぎ乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳等)のほかに、水牛の乳、ラクダの乳など、チーズの原料として公知の動物一般の乳も含まれるものとする。
【0022】
ナチュラルチーズは、チーズから脂肪を除いた重量中の水分含量(MFFB)に基づいて、軟質チーズ、半硬質チーズ、硬質チーズ、および特別硬質チーズに分類される。原料チーズとしては、半硬質チーズ及び硬質チーズから選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
半硬質チーズ及び硬質チーズから選ばれる1種または2種以上の含有量の合計は、原料チーズ全量に対して、好ましくは85質量%以上100%以下である。
半硬質チーズの具体例としては、モッツァレラ、ストリング、エダム(ソフトエダム)、ステッペン、サムソー、マリボー、エグモント、チルジット、ダンボー、ロックフォール、ブルー、クリームハバティが挙げられる。
硬質チーズの具体例としては、エダム(ハードエダム)、ゴーダ、チェダー、エメンタール、グリィエール、プロボローネが挙げられる。
【0023】
また、原料チーズとして、半硬質チーズ及び硬質チーズから選ばれる1種又は2種以上に加えて、クリームチーズをさらに含むことが好ましい。クリームチーズを含むことにより、脂質の含有量を調整し、焼成時の膜張り、焦げを低減することができる。クリームチーズの含有量は、原料チーズ全量に対して、好ましくは3質量%以上15質量%以下、より好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0024】
従来、焼成時に曳糸性を有するプロセスチーズは、モッツァレラチーズを用いることが一般的である。しかし、本発明に係るプロセスチーズは、原料チーズとして含まれるモッツァレラチーズの含有量が少なくても、曳糸性を有する。モッツァレラチーズの含有量は、原料チーズ全量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは0質量%である。モッツァレラチーズの含有量を上記範囲内とすることで、原料チーズの選択の幅を拡げることができる。
【0025】
[別カゼインタンパク質]
本明細書において、原料チーズ由来のものを除いたカゼインタンパク質を「別カゼインタンパク質」と表記し、原料チーズ由来のカゼインタンパク質とは区別するものとする。
本発明のプロセスチーズは、別カゼインタンパク質を含む。別カゼインタンパク質の含有量は、プロセスチーズ全量に対して、好ましくは1質量%以上10質量%以下、より好ましくは2質量%以上6質量%以下である。
本発明のプロセスチーズに含む別カゼインタンパク質としては、レンネットカゼインを含むことが特に好ましい。レンネットカゼインは、脱脂乳等にレンネットを加えてカードを形成させた後、ホエイを除去して得られるものであり、一般的には乾燥して粉末化されたものである。本発明におけるレンネットカゼインとしては、市販品を使用することができる。
【0026】
[加工デンプン]
本発明のプロセスチーズは、加工デンプンを含む。加工デンプンは馬鈴薯デンプン由来であることが好ましい。加工デンプンの含有量は、プロセスチーズ全量に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは3質量%以上6質量%以下である。
加工デンプンの例としては、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、焙焼デキストリン、酸処理デンプン、アルカリ処理デンプン、漂白デンプン、酵素処理デンプン等が挙げられる。
加工デンプンは、2種以上を組み合わせてもよい。
上記加工デンプンの中でも、アセチルアジピン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを好ましく用いることができる。加工デンプンのうち、アセチルアジピン酸架橋デンプンを60質量%以上100質量%以下含むことが好ましく、70質量%以上90質量%以下含むことがより好ましい。また、加工デンプンのうち、オクテニルコハク酸架橋デンプンナトリウムを0質量%を超え40質量%以下含むことが好ましく、10質量%以上30質量%以下含むことがより好ましい。
【0027】
[その他の原料]
上記以外の添加成分として、公知の調味料、酸味料、増粘安定剤、日持ち向上剤、乳化剤、pH調整剤、保存料、または香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で、かつ公正競争規約に定められるプロセスチーズの範疇から逸脱しない範囲で添加してもよい。
調味料としては、食塩、グルタミン酸ナトリウム、糖質類、エキス類、果汁、香辛料等が挙げられる。
酸味料としては、クエン酸、乳酸等が挙げられる。
増粘安定剤としては、寒天、ローカストビーンガム、カラギーナン、グアガム、キサンタンガム等が挙げられる。
日持ち向上剤としては、グリシン、酢酸ナトリウム、リゾチーム、ローズマリー抽出物等が挙げられる。
乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、グリセライド類等が挙げられる。
pH調整剤としては、重曹、炭酸ナトリウム、クエン酸、乳酸等が挙げられる。
保存料としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ナイシン等が挙げられる。
【0028】
[製造方法]
本発明のプロセスチーズは、公知のプロセスチーズの製造方法を用いて製造することができる。製造条件等は好ましい品質が得られるように適宜変更してよい。
まず、原料を構成する各成分を乳化機に投入して加熱乳化する。加熱乳化は、原料を撹拌しながら、加熱処理を行う工程であり殺菌工程も兼ねている。加熱処理は、好ましくは直接蒸気または間接蒸気を用いて行われる。乳化機は、例えば、ケトル型、2軸スクリューをもつクッカー型、サーモシリンダー型等の乳化機を用いることができる。原料として用いられるナチュラルチーズは予め粉砕された粉砕物を用いることが好ましい。
加熱乳化の条件は特に限定されない。例えば、回転数100~1500rpmで撹拌しながら、加熱して乳化するとともに、所定の加熱殺菌条件を満したら、乳化を終了させる。得られた乳化物を容器に充填するなどして、所定の形状に成形し、冷却することにより、プロセスチーズが得られる。良好な曳糸性が得られやすい点で、急冷することが好ましい。例えば1~10℃の冷水に浸漬させて急冷する。
【0029】
プロセスチーズの最終製品の形状は特に限定されない。一般に曳糸性プロセスチーズで用いられている方法と同様の方法で、シュレッド状、スライス状(シート状)、ブロック状、ダイス状等、任意の形状に成形することが可能である。
例えば、シート状のスライスチーズは、加熱乳化工程で得られた乳化物を、例えば10cm×10cm×厚さ100cmのモールドに充填し、冷却後、モールドから取り出し、スライサーで厚さを2~5mm程度にスライスしてもよい。または、該乳化物をフィルムに挟んで所定の厚さのシート状に押圧した後にカットする方法でも、スライスチーズを製造することができる。
【0030】
[水分の含有量]
プロセスチーズの水分の含有量は、好ましくは40質量%以上60質量%以下、より好ましくは45質量%以上55質量%以下、さらに好ましくは47質量%以上53質量%以下である。
プロセスチーズの水分の含有量は、乾燥減量法による水分分析計(CEM Japan社 製品名:SMART6)を用いて測定することができる。
【0031】
[脂質の含有量]
プロセスチーズの脂質の含有量は、好ましくは21質量%以上25質量%以下、より好ましくは22質量%以上24質量%以下である。
プロセスチーズの脂質の含有量は、酸アンモニア分解法によって測定することができる。
【0032】
[タンパク質の含有量]
プロセスチーズのタンパク質の含有量は、好ましくは15質量%以上25質量%以下、より好ましくは18質量%以上22質量%以下である。
プロセスチーズのタンパク質の含有量は、デュマ法により測定することができる。
【0033】
[脂質/タンパク質の質量比]
プロセスチーズに含まれる脂質/タンパク質の質量比は、好ましくは1.0以上1.4以下、より好ましくは1.15以上1.4以下である。
プロセスチーズに含まれる脂質/タンパク質の質量比は、上記の方法で測定した脂質、及びタンパク質の含有量から算出することができる。
【0034】
[粘度]
プロセスチーズの製造工程中の加熱乳化によって得られた乳化物(75~85℃)の粘度は、好ましくは3000cP以上15000cP以下、より好ましくは4000cP以上12000cP以下である。
プロセスチーズの製造工程中の加熱乳化によって得られた乳化物の粘度は、加熱乳化によって得られた乳化物を80℃に保温した容器に移し、B型粘度計(リオン社製品名:ビスコテスター)を用いて測定することができる。
【0035】
[曳糸性]
本明細書において、「曳糸性」とは、プロセスチーズを加熱溶融して引き延ばした際に、糸を曳く性質である。
プロセスチーズの曳糸性は下記の方法で評価することができる。
まず、プロセスチーズを一辺が85mmの正方形で厚さが2mmのシート状に成形した試料を断面正方形にスライスされた食パン上の中央に載せる。食パンの面積はプロセスチーズの面積より大きく、プロセスチーズの周囲の辺と食パンの周囲の辺とが平行になるように載せる。食パンは、チーズ(試料)を載せる面が、面積が等しい2つ長方形に分かれるように予めカットし、カット面どうしを当接させた状態で試料を載せる。これをオーブントースターで試料が溶融するまで焼成して取り出す。試料の溶融は、表面全体にわたって気泡が生じることで確認できる。取り出した直後の試料の表面温度が90~100℃の範囲内となるように焼成条件を設定する。
オーブントースターから取り出した後、表面温度が80℃になるまで放冷する。取り出してから80℃になるまでの時間が25~40秒の範囲内となるように放冷条件を設定する。
試料の表面温度が80℃まで下がったら、糸曳き測定器を用いて、食パンをカット面に対して垂直な方向に沿って、該カット面が互いに離れる向きに引っ張る。引っ張る速度は1000mm/分とし、カット面間の距離が5cmとなった時点で、カット面の間に生じた糸の本数と、試料を載せた面を上方から見たときの糸の幅を測定する。糸の本数は、一方のカット面から他方のカット面まで連続してつながっている糸の本数を数える。糸の幅は、試料を載せた面を上方から見たときに、一方のカット面から他方のカット面までの間で、カット面に対して平行な方向の幅が最も太い部分の、該幅を測定する。
曳糸性の評価においては、上記の方法で測定した糸の本数を糸曳き本数X(本)、各糸の幅のうち、最も大きい値を糸曳き幅Y(mm)とし、下記数式(I)により糸曳き特性値を求める。該糸曳き特性値が高いほど糸の伸びが良く、曳糸性が良好であることを意味する。
糸曳き特性値=X1.2×Y0.5・・・(I)
【0036】
本方法では、例えば糸曳き本数が同じである場合には糸曳き幅が大きい方が曳糸性がより良好と評価し、糸曳き幅が同じである場合には糸曳き本数が多い方が曳糸性がより良好と評価する。また曳糸性の評価において、糸曳き幅が増加するよりも糸曳き本数が増加する方が、糸曳き感がより向上するため、上記糸曳き特性値に対する寄与は、糸曳き幅よりも糸曳き本数の方が大きい。
【実施例0037】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
表1に示す配合でプロセスチーズを製造した。
原料チーズとして、チェダーチーズ(森永乳業株式会社製)、ゴーダチーズ(森永乳業株式会社製)、クリームチーズ(森永乳業株式会社製)を用いた。
別カゼインタンパク質として、レンネットカゼイン(フォンテラ社製)を用いた。
加工デンプンとして、アセチルアジピン酸架橋デンプンとオクテニルコハク酸架橋デンプンナトリウムとを混合して(質量比8:2)用いた。
乳化剤は市販のものを用いた。
増粘多糖類は市販のものを用いた。
【0039】
まず、表に示す原料の全部を、試験用の溶融乳化機(ステファン社製、万能高速カッター・ミキサーUMM/SK5型、ミキシングアタッチメント使用)に投入した。なお該溶融乳化機ではスチームを吹き込んで加熱するため、該スチームによって添加される水分に相当する水量を添加水量から予め差し引いておく。表に示す水の配合量は、スチームによって添加される水分も含んでいる。
次いで、溶融乳化機において、回転数600rpmで撹拌しながら、約2分間で87℃に達するように加熱して加熱乳化を行った。87℃に達したら、スチームの吹き込みを停止し、60秒間撹拌することにより加熱殺菌して、撹拌を停止し、乳化物を得た。
得られた乳化物を、該乳化物の品温が70℃以上である状態で、一辺が85mmの正方形で厚さが2mmのシート状に包装し、水温5℃の水槽内に浸漬して、品温が5℃に達するまで急冷した。
【0040】
製造したプロセスチーズについて、プロセスチーズ全体中の水分の含有量、脂質の含有量、タンパク質の含有量、脂質/タンパク質の質量比、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
[水分の含有量]
プロセスチーズ(10℃)について、乾燥減量法による水分分析計(CEM Japan社 製品名:SMART6)を用いて、水分含有量を測定した。
【0042】
[脂質の含有量]
脂質の含有量は、酸アンモニア分解法により測定した。
【0043】
[タンパク質の含有量]
タンパク質の含有量は、デュマ法により測定した。
【0044】
[粘度]
加熱乳化によって得られた乳化物を80℃に保温した容器に移し、B型粘度計(リオン社製品名:ビスコテスター)を用いて粘度を測定した。測定時の温度は表1に示すとおりである。
【0045】
また、製造したプロセスチーズについて、剥離性、カット適性、均一性、硬さ、焼成時の膜張り、焦げ、オイルオフ、曳糸性について評価した。
【0046】
[剥離性]
シート状のプロセスチーズを包装するフィルムからプロセスチーズを剥離する際の剥離性を評価した。(温度:10℃)
〇・・・プロセスチーズがフィルムに付着することなく、容易に剥離することができた
△・・・プロセスチーズの一部がフィルムに付着した
×・・・フィルムのほぼ全面に付着した
【0047】
[カット適性]
製造したプロセスチーズをナイフでカットし、カット適性を評価した。(温度:10℃)
〇・・・ナイフにプロセスチーズが付着せず、容易にカットすることができた
△・・・ナイフにプロセスチーズが少し付着した
×・・・ナイフにプロセスチーズが付着して容易に分離せず、カットが難しかった
【0048】
[均一性]
プロセスチーズをカットして断面を目視で確認し、以下の基準で組織の均一性を評価した。
〇…組織が均一であった
×…組織が不均一であった。
【0049】
[硬さ]
プロセスチーズをカットして断面の触感により、以下の基準で硬さを評価した。
1…硬すぎた
2…適切な硬さであった
3…柔らかすぎた
【0050】
[焼成時の膜張り、焦げ]
焼成時の膜張り、焦げの評価を以下の手順で行った。
まず、プロセスチーズを一辺が85mmの正方形で厚さが2mmのシート状に成形した試料を断面正方形にスライスされた食パン上の中央に載せ、オーブントースターで試料が溶融するまで焼成して取り出した。試料の溶融は、表面全体にわたって気泡が生じることで確認した。取り出した直後の試料の表面温度が90~100℃の範囲内となるように焼成条件を設定した。オーブントースターから取り出した後、表面温度が80℃になるまで放冷した。取り出してから80℃になるまでの時間が25~40秒の範囲内となるように放冷条件を設定した。
その状態で、プロセスチーズ表面に膜張り、及び焦げがあるかどうかを目視により確認した。
【0051】
[オイルオフ]
焼成時の膜張り、焦げの評価と同様にプロセスチーズを加熱し、オイルオフ(油分の分離)が生じているかどうかを、目視により確認した。
【0052】
[曳糸性]
製造したプロセスチーズを試料とし、上記の方法で曳糸性を評価し、糸曳き本数X(本)、糸曳き幅Y(mm)、および糸曳き特性値(X1.2×Y0.5)を測定した。糸曳き特性値が大きいほど糸の伸びが良く、曳糸性に優れることを示す。

【0053】
【表1】
【0054】
[結果]
原料チーズと、レンネットカゼインと、加工デンプンとを含む、実施例1~3のプロセスチーズは、いずれも曳糸性に優れるものであった。また、焼成時の膜張り、焦げはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によって、曳糸性を有するプロセスチーズを提供することができる。