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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161422
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】二本鎖領域を有する抗ウイルス核酸
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20231030BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20231030BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231030BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231030BHJP
【FI】
C12N15/113 100Z
C12N15/63 Z ZNA
A61K31/713
A61P31/14
A61K48/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071807
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 光洋
(72)【発明者】
【氏名】樋本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】神谷 亘
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C087AA01
4C087BC83
4C087NA14
4C087ZB33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】SARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVに対する抗ウイルス効果を有する新たな治療剤等を提供する。
【解決手段】第1の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び第3の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第3のオリゴヌクレオチドユニットを含む第1のオリゴヌクレオチド鎖、及び第1のオリゴヌクレオチド鎖の塩基配列と相補的な塩基配列を含む第2のオリゴヌクレオチド鎖を含む、二本鎖領域を有する抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び第3の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第3のオリゴヌクレオチドユニットを含む第1のオリゴヌクレオチド鎖、及び
第1のオリゴヌクレオチド鎖の塩基配列と相補的な塩基配列を含む第2のオリゴヌクレオチド鎖
を含む、二本鎖領域を有する抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物であって、
前記第1の標的領域、前記第2の標的領域、及び前記第3の標的領域が、それぞれSARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域、5'UTR領域、N領域、及びRNA-dependent RNA polymerase領域からなる群から選択される領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
ウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVである、抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項2】
(i)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
(ii)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
(iii)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるRNA-dependent RNA polymerase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含むか、又は
(iv)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるRNA-dependent RNA polymerase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含む、
請求項1に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項3】
(i)前記第1の標的領域が、配列番号1の17083位~17103位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の50位~70位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
(ii)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の17083位~17103位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の48位~68位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
(iii)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の16065位~16085位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の48位~68位の塩基配列又はその相補的配列を含むか、又は
(iv)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の16065位~16085位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の17081位~17101位の塩基配列又はその相補的配列を含む、
請求項2に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項4】
(i)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a1)配列番号11の塩基配列、(b1)配列番号11の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c1)配列番号11の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a2)配列番号12の塩基配列、(b2)配列番号12の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c2)配列番号12の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a3)配列番号13の塩基配列、(b3)配列番号13の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c3)配列番号13の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むか、
(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a4)配列番号14の塩基配列、(b4)配列番号14の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c4)配列番号14の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a5)配列番号15の塩基配列、(b5)配列番号15の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c5)配列番号15の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a6)配列番号16の塩基配列、(b6)配列番号16の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c6)配列番号16の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むか、
(iii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a7)配列番号17の塩基配列、(b7)配列番号17の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c7)配列番号17の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a8)配列番号18の塩基配列、(b8)配列番号18の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c8)配列番号18の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、又は前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a9)配列番号19の塩基配列、(b9)配列番号19の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c9)配列番号19の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むか、又は
(iv)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a10)配列番号20の塩基配列、(b10)配列番号20の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c10)配列番号20の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a11)配列番号21の塩基配列、(b11)配列番号21の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c11)配列番号21の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、又は前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a12)配列番号22の塩基配列、(b12)配列番号22の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c12)配列番号22の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む、
請求項3に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項5】
(i)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a1)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a2)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a3)の塩基配列を含むか、
(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a4)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a5)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a6)の塩基配列を含むか、
(iii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a7)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a8)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a9)の塩基配列を含むか、又は
(iv)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a10)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a11)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a12)の塩基配列を含む、請求項4に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項6】
前記(ii)又は(iii)の塩基配列を含む、請求項2~5のいずれか一項に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項7】
前記第1のオリゴヌクレオチドユニット、前記第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び前記第3のオリゴヌクレオチドユニットを5’末端からこの順番で含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項8】
前記第1のオリゴヌクレオチドユニット、前記第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、それぞれ15~30塩基長を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項9】
前記抗ウイルス核酸を構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分及び/又はリン酸結合部分が修飾されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項10】
前記抗ウイルス核酸を構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分のリボースの2'位の-OH基が、F又はOCH3で置換されている、及び/又は
前記抗ウイルス核酸がオーバーハングを含み、オーバーハング部分のヌクレオチドの糖部分がデオキシリボースを含み、前記デオキシリボースの2'位の-H基がF又はOCH3で置換されていてもよい、請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の核酸、又は当該核酸をコードするDNAを含むベクター。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物、又は請求項11に記載のベクターを含む、医薬組成物。
【請求項13】
ウイルス感染症を治療及び/又は予防するための、請求項12に記載の医薬組成物であって、ウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVである、医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物、請求項11に記載のベクター、又は請求項12~13のいずれか一項に記載の医薬組成物の有効量を、対象に投与する工程を含む、ウイルス感染症の治療及び/又は予防方法であって、ウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVに対する抗ウイルス効果を有する二本鎖領域を有する抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物(以下、「前記抗ウイルス核酸等」とも記載する);前記抗ウイルス核酸等を含む医薬組成物;又は前記抗ウイルス核酸等又は前記医薬組成物を対象に投与する工程を含む、ウイルス感染症の治療及び/又は予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19(Coronavirus disease-2019)は、2019年11月に始めて中国湖北省武漢で確認された後、2020年3月にWHOがパンデミック宣言するに至った肺炎を特徴とする新規感染症である(非特許文献1)。このCOVID-19の病因は新規のウイルスであり、その原因ウイルスは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2, SARS-CoV-2)として2020年1月に同定された。SARS-CoV-2は、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスであるSARS-CoVと進化的に近縁であり、SARS-CoVと同様にコロナウイルス科のベータコロナウイルス属に属する(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】World Health Organization (WHO) (Press release). 11 March 2020
【非特許文献2】Nat Microbiol. 2020 Apr;5(4):536-544
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SARS-CoV-2に対しては、既存の抗ウイルス剤の使用等が提唱されているが、SARS-CoV-2に最適化されたものではないため、その効果は限定的である。また、SARS-CoV-2と同様にベ-タコロナウイルス属に属し、ウイルス感染症をもたらすSARS-CoV-1及びMERS-CoVについても確立された治療法は存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況において、SARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVに対する抗ウイルス効果を有する新たな治療剤等を提供することが望まれている。
【0006】
本発明は、以下に記載するSARS-CoV-2のゲノムRNAの特定の領域を標的とする二本鎖領域を有する抗ウイルス核酸又はその医薬的に許容可能な塩もしくはそれらの水和物、当該抗ウイルス核酸又はその医薬的に許容可能な塩もしくはそれらの水和物を含む医薬組成物等を提供する。
(1)第1の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び第3の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第3のオリゴヌクレオチドユニットを含む第1のオリゴヌクレオチド鎖、及び
第1のオリゴヌクレオチド鎖の塩基配列と相補的な塩基配列を含む第2のオリゴヌクレオチド鎖
を含む、二本鎖領域を有する抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物であって、
前記第1の標的領域、前記第2の標的領域、及び前記第3の標的領域が、それぞれSARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域、5'UTR領域、N領域、及びRNA-dependent RNA polymerase領域からなる群から選択される領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
ウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVである、抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(2)(i)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
(ii)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
(iii)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるRNA-dependent RNA polymerase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含むか、又は
(iv)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるRNA-dependent RNA polymerase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含む、
(1)に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(3)(i)前記第1の標的領域が、配列番号1の17083位~17103位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の50位~70位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
(ii)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の17083位~17103位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の48位~68位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
(iii)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の16065位~16085位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の48位~68位の塩基配列又はその相補的配列を含むか、又は
(iv)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の16065位~16085位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の17081位~17101位の塩基配列又はその相補的配列を含む、
(2)に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(4)(i)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a1)配列番号11の塩基配列、(b1)配列番号11の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c1)配列番号11の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a2)配列番号12の塩基配列、(b2)配列番号12の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c2)配列番号12の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a3)配列番号13の塩基配列、(b3)配列番号13の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c3)配列番号13の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むか、
(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a4)配列番号14の塩基配列、(b4)配列番号14の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c4)配列番号14の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a5)配列番号15の塩基配列、(b5)配列番号15の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c5)配列番号15の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a6)配列番号16の塩基配列、(b6)配列番号16の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c6)配列番号16の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むか、
(iii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a7)配列番号17の塩基配列、(b7)配列番号17の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c7)配列番号17の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a8)配列番号18の塩基配列、(b8)配列番号18の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c8)配列番号18の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、又は前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a9)配列番号19の塩基配列、(b9)配列番号19の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c9)配列番号19の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むか、又は
(iv)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a10)配列番号20の塩基配列、(b10)配列番号20の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c10)配列番号20の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a11)配列番号21の塩基配列、(b11)配列番号21の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c11)配列番号21の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、又は前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a12)配列番号22の塩基配列、(b12)配列番号22の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c12)配列番号22の塩基配列に対して、80%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む、
(3)に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(5)(i)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a1)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a2)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a3)の塩基配列を含むか、
(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a4)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a5)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a6)の塩基配列を含むか、
(iii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a7)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a8)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a9)の塩基配列を含むか、又は
(iv)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a10)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a11)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a12)の塩基配列を含む、(4)に記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(6)前記(ii)又は(iii)の塩基配列を含む、(2)~(5)のいずれかに記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(7)前記第1のオリゴヌクレオチドユニット、前記第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び前記第3のオリゴヌクレオチドユニットを5’末端からこの順番で含む、(1)~(6)のいずれかに記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(8)前記第1のオリゴヌクレオチドユニット、前記第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、それぞれ15~30塩基長を有する、(1)~(7)のいずれかに記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(9)前記抗ウイルス核酸を構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分及び/又はリン酸結合部分が修飾されている、(1)~(8)のいずれかに記載の抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(10)前記抗ウイルス核酸を構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分のリボースの2'位の-OH基が、F又はOCH3で置換されている、及び/又は
前記抗ウイルス核酸がオーバーハングを含み、オーバーハング部分のヌクレオチドの糖部分がデオキシリボースを含み、前記デオキシリボースの2'位の-H基がF又はOCH3で置換されていてもよい、(1)~(9)のいずれかに記載の核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物。
(11)(1)~(10)のいずれかに記載の核酸、又は当該核酸をコードするDNAを含むベクター。
(12)(1)~(10)のいずれかに記載の核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物、又は(11)に記載のベクターを含む、医薬組成物。
(13)ウイルス感染症を治療及び/又は予防するための、(12)に記載の医薬組成物であって、ウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVである、医薬組成物。
(14)(1)~(10)のいずれかに記載の核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物、(11)に記載のベクター、又は(12)~(13)のいずれかに記載の医薬組成物の有効量を、対象に投与する工程を含む、ウイルス感染症の治療及び/又は予防方法であって、ウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVである、方法。
(15)(1)~(10)のいずれかに記載の核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物、(11)に記載のベクター、又は(12)のいずれかに記載の医薬組成物の、ウイルス感染症の治療及び/又は予防のための医薬の製造における使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、SARS-CoV-2のゲノムRNAの特定の領域の塩基配列又はその相補的な塩基配列を標的とする二本鎖領域を有する抗ウイルス核酸又はその医薬的に許容可能な塩もしくはそれらの水和物、及び当該抗ウイルス核酸又はその医薬的に許容可能な塩もしくはそれらの水和物を含む組成物等が提供される。
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、本発明に係る核酸は、高いウイルス増殖阻害効果及び/又は副作用が少ないウイルス治療薬及び/又は予防薬を提供し得る。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明に係る核酸は、異なる標的配列を有する複数の核酸ユニットを有するため、SARS-CoV-2の変異株及び/又はSARS-CoV-1などの既知のSARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)及び/又は未知のSARS関連コロナウイルスにも効果を奏し得る。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明に係る核酸は、複数の核酸ユニットを含むため、これらの核酸ユニットを別々に製造して投与するよりも、製造プロセスが簡便であり、コストが安価になり得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一実施形態において、本発明は、第1の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び第3の標的領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む第3のオリゴヌクレオチドユニットを含む第1のオリゴヌクレオチド鎖、及び第1のオリゴヌクレオチド鎖の塩基配列と相補的な塩基配列を含む第2のオリゴヌクレオチド鎖を含む、二本鎖領域を有する抗ウイルス核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物(以下、「本発明に係る核酸」とも記載する)に関する。
【0010】
本明細書において、ある塩基に「相補的」な塩基とは、対象となる塩基と塩基対合を形成する塩基を意味し、ワトソン・クリック型塩基対を形成する塩基に限定されるものではなく、揺らぎ塩基対(Wobble base pair)又はフーグスティーン型塩基対を形成する塩基も含む。ここで、ワトソン・クリック型塩基対とは、アデニン-チミン、アデニン-ウラシル、及びグアニン-シトシン間の水素結合において、ピリミジン塩基のN3位から供与された水素の受容体が、プリン塩基のN1位となる塩基対を意味し、揺らぎ塩基対とは、グアニン-ウラシル、イノシン-ウラシル、イノシン-アデニン、及びイノシン-シトシン間に水素結合が形成される塩基対を意味する。フーグスティーン型塩基対とは、アデニン-チミン、アデニン-ウラシル、及びグアニン-シトシン間の水素結合において、ピリミジン塩基のN3位から供与された水素の受容体が、プリン塩基のN7位となる塩基対を意味する。
【0011】
また、「相補的配列」又は「相補的な塩基配列」とは、対象となる塩基配列と100%の相補性を有していなくてもよく、例えば、対象となる塩基配列に対して、1塩基、2塩基、3塩基、4塩基、又は5塩基の非相補的塩基が含まれていてもよく、また、対象となる塩基配列に対して、1塩基、2塩基、3塩基、4塩基、又は5塩基短い塩基配列であってもよい。一実施形態において、ある塩基配列に「相補的」な塩基配列は、その塩基配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の相補性を有する。相補性は当業者であれば容易に決定することができ、例えば2つの配列をアライメントし、配列間でワトソン・クリック型塩基対又は揺らぎ塩基対を形成する塩基の数をカウントし、塩基対を形成した塩基の数を配列中の塩基の総数により除し、これに100を乗じることにより算出することができる。
【0012】
ある塩基配列に「相補的」な塩基配列の例として、その塩基配列を含む核酸に、例えばストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なアンチセンスオリゴマーの塩基配列が挙げられる。本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件、及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃又は5×SSC、1%SDS、50mM Tris-HCl(pH7.5)、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃又は0.2×SSC、0.1%SDS、65℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い配列同一性を有する塩基配列が効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度等の複数の要素が考えられ、当業者であればこれらの要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0013】
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkPhos Direct Labelling and Detection System(GEヘルスケア社)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1%(w/v)SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイゼーションを検出することができる。あるいは、標的配列に基づいてプローブを作製する際に、市販の試薬(例えば、PCRラベリングミックス(ロシュ・ダイアグノスティックス社)等)を用いて該プローブをジゴキシゲニン(DIG)ラベルした場合には、DIG核酸検出キット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)等を用いてハイブリダイゼーションを検出することができる。
【0014】
なお、塩基配列の同一性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0015】
本発明に係る核酸における第1~第3の各オリゴヌクレオチドユニットの塩基長は限定しないが、例えば15塩基長以上、16塩基長以上、17塩基長以上、18塩基長以上、19塩基長以上、20塩基長以上、21塩基長以上、22塩基長以上、23塩基長以上、24塩基長以上、25塩基長以上、26塩基長以上、27塩基長以上、28塩基長以上、29塩基長以上、又は30塩基長であってよく、30塩基長以下、29塩基長以下、28塩基長以下、27塩基長以下、26塩基長以下、25塩基長以下、24塩基長以下、23塩基長以下、22塩基長以下、21塩基長以下、20塩基長以下、19塩基長以下、18塩基長以下、17塩基長以下、16塩基長以下、又は15塩基長であってよい。第1~第3の各オリゴヌクレオチドユニットは、例えば15~30塩基、15~25塩基、16~24塩基、17~23塩基、18~22塩基、19~21塩基、例えば20塩基からなってもよい。
【0016】
本発明に係る核酸の塩基長は限定しないが、例えば45bp以上、48bp以上、51bp以上、54bp以上、57bp以上、60bp以上、63bp以上、66bp以上、69bp以上、72bp以上、75bp以上、78bp以上、81bp以上、84bp以上、87bp以上、又は90bpであってよく、90bp以下、87bp以下、84bp以下、81bp以下、78bp以下、75bp以下、72bp以下、69bp以下、66bp以下、63bp以下、60bp以下、57bp以下、54bp以下、51bp以下、48bp以下、又は45bpであってよい。本発明に係る核酸は、例えば45~90bp、45~75bp、48~72bp、51~69bp、54~66bp、57~63bp、例えば60bpからなってもよい。
【0017】
本発明に係る核酸は、ヌクレオチドを構成単位とし、ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドのいずれであってもよい。
【0018】
修飾ヌクレオチドとは、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを構成する核酸塩基、糖部分、及びリン酸結合部分の全部又は一部が修飾されているものをいう。
【0019】
本明細書において、核酸塩基としては、例えば、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、シトシン、チミン、ウラシル又はそれらの修飾塩基を挙げることができる。かかる修飾塩基としては、例えば、シュードウラシル、3-メチルウラシル,ジヒドロウラシル、5-アルキルシトシン(例えば、5-メチルシトシン)、5-アルキルウラシル(例えば、5-エチルウラシル)、5-ハロウラシル(例えば、5-ブロモウラシル)、6-アザピリミジン、6-アルキルピリミジン(例えば、6-メチルウラシル)、2-チオウラシル、4-チオウラシル、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5'-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、1-メチルアデニン、1-メチルヒポキサンチン、2,2-ジメチルグアニン、3-メチルシトシン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メチルカルボニルメチルウラシル、5-メチルオキシウラシル、5-メチル-2-チオウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸、2-チオシトシン、プリン、2,6-ジアミノプリン、2-アミノプリン、イソグアニン、インドール、イミダゾール、キサンチン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
一実施形態において、本発明に係る核酸を構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分及び/又はリン酸結合部分が修飾されている。
【0021】
本明細書において、糖部分の修飾としては、例えば、リボースの2'位の修飾及び糖のその他の部分の修飾を挙げることができる。リボースの2'位の修飾としては、例えば、リボースの2'位の-OH基をOR、R、R'OR、SH、SR、NH2、NHR、NR2、N3、CN、F、Cl、Br、Iに置換する修飾を挙げることができる。ここで、Rはアルキル又はアリールを表す。R'はアルキレンを表す。
【0022】
糖のその他の部分の修飾としては、例えば、リボース又はデオキシリボースの4'位のOをSに置換したもの、糖の2'位と4'位を架橋したもの、例えば、LNA(Locked Nucleic Acid)又はENA(2'-O,4'-C-Ethylene-bridged Nucleic Acids)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
一実施形態において、本発明に係る核酸を構成する少なくとも1つのヌクレオチドの糖部分がリボースであり、及び/又は前記リボースの2'位の-OH基が、F又はOCH3で置換されている。一実施形態において、本発明に係る核酸を構成する第1のオリゴヌクレオチド鎖及び第2のオリゴヌクレオチド鎖は、いずれもオーバーハング部分とヌクレオチドの糖部分がリボースであり互いに相補して二本鎖を形成する部分で構成され、任意にオーバーハング部分のヌクレオチドの糖部分がデオキシリボースを含んでよく、任意に前記デオキシリボースの2'位の-H基は、F又はOCH3で置換されていてもよい。
【0024】
リン酸結合部分の修飾としては、例えば、ホスホジエステル結合をホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、アルキルホスホネート結合、ホスホロアミデート結合、ボラノフォスフェート結合(Enya et al: Bioorganic & Medicinal Chemistry,2008, 18, 9154-9160)に置換する修飾を挙げることができる(例えば、特許再公表公報第2006/129594号及び第2006/038608号を参照)。
【0025】
本明細書において、アルキルとしては、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1~6のアルキルが好ましい。具体的には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシルが挙げられる。当該アルキルは置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、ハロゲン、アルコキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが1~3個置換されていてもよい。
【0026】
本明細書において、シクロアルキルとしては、炭素数5~12のシクロアルキルが好ましい。具体的には、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル、シクロドデシルが挙げられる。
【0027】
本明細書において、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。
【0028】
アルコキシとしては、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1~6のアルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ等を挙げることができる。とりわけ、炭素数1~3のアルコキシが好ましい。
【0029】
本明細書において、アリールとしては、炭素数6~10のアリールが好ましい。具体的には、例えば、フェニル、α-ナフチル、β-ナフチルを挙げることができる。とりわけフェニルが好ましい。当該アリールは置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、アルキル、ハロゲン、アルコキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが1~3個置換されていてもよい。
【0030】
本明細書において、アルキレンとしては、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1~6のアルキレンが好ましい。具体的には、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、2-(エチル)トリメチレン、1-(メチル)テトラメチレンを挙げることができる。
【0031】
本発明に係る核酸の医薬的に許容可能な塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩などの金属塩;アンモニウム塩;t-オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N-メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N-ベンジル-フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機アミン塩;弗化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、沃化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩;酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩などの有機酸塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩などが挙げられる。これらの塩は、公知の方法で製造することができる。あるいは、本発明に係る核酸は、その水和物の形態にあってもよい。
【0032】
本発明に係る核酸の第1のオリゴヌクレオチド鎖を構成する第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び第3のオリゴヌクレオチドユニットは、いずれもsiRNA又はshRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖であり得る。すなわち、本発明に係る核酸の第1のオリゴヌクレオチド鎖は3つのsiRNA又はshRNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖が連結されたものであり得る。本明細書において、siRNAとは、配列特異的にRNA干渉を誘導することができる、センス鎖及びアンチセンス鎖を含む二本鎖RNAを指す。
【0033】
本明細書において、RNA干渉とは、二本鎖RNAにより、配列特異的に標的配列を有する核酸が分解される現象を指す。shRNAは、センス鎖、アンチセンス鎖、及び前記センス鎖と前記アンチセンス鎖を共有結合によって結合する一本鎖ループ配列(ヘアピン配列)を含むヘアピン型のRNAである。shRNAが細胞内に導入されると、DicerによってプロセシングされてsiRNAが形成される。siRNAをコードするDNAの例として、2つのプロモーター(例えばU6プロモーター)、センス鎖をコードする塩基配列及びアンチセンスをコードする塩基配列を含むタンデム型DNAが挙げられる。
【0034】
本明細書において、「センス鎖」とは、対応するアンチセンス鎖の少なくとも一部に相補的なヌクレオチド鎖を指す。センス鎖は、標的配列と配列同一性を有する核酸配列を含むことができる。本明細書において、「アンチセンス鎖」とは、標的核酸配列の少なくとも一部に相補的なヌクレオチド鎖を指す。
【0035】
センスRNAとアンチセンスRNAの各3'末端は、2~5ヌクレオチド、例えば2ヌクレオチドのオーバーハングを有していてもよい。オーバーハングは、RISCと相互作用する可能性が指摘されており、またヌクレアーゼによる分解に対する安定性の向上に寄与するが、標的配列への特異性に影響しないため任意の配列(例えばポリT配列)を用いることができる。
【0036】
一実施形態において、本発明に係る核酸は、Dicerによって切断された後に作用する。切断の位置は限定しないが、例えば、オリゴヌクレオチドユニット単位で切断されてもよく、例えば切断後に第1のオリゴヌクレオチドユニット及びその相補鎖を含む二本鎖核酸、第2のオリゴヌクレオチドユニット及びその相補鎖を含む二本鎖核酸、並びに第3のオリゴヌクレオチドユニット及びその相補鎖を含む二本鎖核酸の一つ以上、例えば全てが生じ得る。
【0037】
siRNA又はshRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖は、標的配列に基づいて設計することができる。例えば、標的配列が標的領域中の連続するn塩基からなる配列である場合(n=15~30、例えば21)、アンチセンス鎖として、標的領域中の連続するn塩基からなる配列と相補的な配列を用いることができる(但し、3'末端側(例えば3'末端側のm塩基)がオーバーハングである場合、オーバーハング部分の塩基配列は、標的核酸配列中の配列に相補的な配列を用いてもよく、第2又は第1のオリゴヌクレオチド鎖の対応する部分と相補的な配列となるように任意の配列又は標的核酸配列中の配列に相補的な配列の一部を置換した配列を用いてもよい)。また、センス鎖として、当該配列の5'末端側のn-m塩基からなる配列、及びオーバーハングm塩基を含む核酸を用いることができる(n=15~30、例えば21、m=2~5、例えば2)。センス鎖のオーバーハング部分の塩基配列は、標的核酸配列中の配列を用いてもよく、第1又は第2のオリゴヌクレオチド鎖の対応する部分と相補的な配列となるように任意の配列又は標的核酸配列中の配列の一部を置換した配列を用いてもよい。
【0038】
第1の標的領域、前記第2の標的領域、及び前記第3の標的領域は、それぞれSARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域、5'UTR領域、N領域、及びRNA-dependent RNA polymerase領域からなる群から選択される領域中の少なくとも10、例えば少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、例えば20の連続する塩基配列又はその相補的配列を含む、又は当該塩基配列からなる。
【0039】
SARS-CoV-2のゲノムRNAの配列、及びゲノムRNA中における各領域の配列は、データベース(例えば、ncbi)を参照して容易に決定することができる。例えば、SARS-CoV-2のゲノムRNAの配列は、NC_045512.2の塩基配列(配列番号1)であってよい。また、配列番号1の塩基配列において、5'UTR領域は配列番号1の1位~265位の塩基配列、nsp1領域は配列番号1の266位~805位の塩基配列、nsp10領域は配列番号1の13025位~13441位の塩基配列、RNA-dependent RNA polymerase領域は配列番号1の13442位~16236位の塩基配列、ORF10領域は配列番号1の29558位~29674位の塩基配列、及び3'UTR領域は配列番号1の29675位~29903位の塩基配列であってよい。
【0040】
第1の標的領域、前記第2の標的領域、及び前記第3の標的領域は、SARS-CoV-2のゲノムRNAの(+)鎖中にあってもよく、(-)鎖中にあってもよい。標的領域が(+)鎖中にある場合、標的領域は、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域、5'UTR領域、N領域、及びRNA-dependent RNA polymerase領域からなる群から選択される領域中の塩基配列であってよく、標的領域が(-)鎖中にある場合、標的領域は、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域、5'UTR領域、N領域、及びRNA-dependent RNA polymerase領域からなる群から選択される領域中の塩基配列の相補的配列であってよい。
【0041】
一実施形態において、本発明に係る核酸における標的領域は、以下の(i)~(iv)からなる群から選択される:
(i)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含む、
(ii)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含む、
(iii)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるRNA-dependent RNA polymerase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおける5'UTR領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含む、及び
(iv)前記第1の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるN領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるRNA-dependent RNA polymerase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるhelicase領域中の少なくとも10の連続する塩基配列又はその相補的配列を含む。
【0042】
一実施形態において、本発明に係る核酸における標的領域は、以下の(i)~(iv)からなる群から選択される:
(i)前記第1の標的領域が、配列番号1の17083位~17103位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の50位~70位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含む、
(ii)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の17083位~17103位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の48位~68位の塩基配列又はその相補的配列を含む、
(iii)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の16065位~16085位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の48位~68位の塩基配列又はその相補的配列を含む、及び
(iv)前記第1の標的領域が、配列番号1の28751位~28771位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第2の標的領域が、配列番号1の16065位~16085位の塩基配列又はその相補的配列を含み、
前記第3の標的領域が、配列番号1の17081位~17101位の塩基配列又はその相補的配列を含む。
【0043】
一実施形態において、本発明の各オリゴヌクレオチドユニットの配列は、以下の(i)~(iv)からなる群から選択される:
(i)第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a1)配列番号11の塩基配列、(b1)配列番号11の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c1)配列番号11の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a2)配列番号12の塩基配列、(b2)配列番号12の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c2)配列番号12の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a3)配列番号13の塩基配列、(b3)配列番号13の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c3)配列番号13の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む、
(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a4)配列番号14の塩基配列、(b4)配列番号14の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c4)配列番号14の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a5)配列番号15の塩基配列、(b5)配列番号15の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c5)配列番号15の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a6)配列番号16の塩基配列、(b6)配列番号16の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c6)配列番号16の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む、
(iii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a7)配列番号17の塩基配列、(b7)配列番号17の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c7)配列番号17の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a8)配列番号18の塩基配列、(b8)配列番号18の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c8)配列番号18の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、又は前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a9)配列番号19の塩基配列、(b9)配列番号19の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c9)配列番号19の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む、及び
(iv)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、(a10)配列番号20の塩基配列、(b10)配列番号20の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c10)配列番号20の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、(a11)配列番号21の塩基配列、(b11)配列番号21の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c11)配列番号21の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、又は前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、(a12)配列番号22の塩基配列、(b12)配列番号22の塩基配列において1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列、又は(c12)配列番号22の塩基配列に対して、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む。
【0044】
本明細書において、1又は数個の塩基が付加、欠失、又は置換された塩基配列における数個は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個を意味する。
【0045】
一実施形態において、本発明の各オリゴヌクレオチドユニットの配列は、以下の(i)~(iv)からなる群から選択される:
(i)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a1)(配列番号11)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a2)(配列番号12)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a3)の塩基配列(配列番号13)を含む、
(ii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a4)(配列番号14)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a5)(配列番号15)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a6)(配列番号16)の塩基配列を含む、
(iii)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a7)の塩基配列(配列番号17)を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a8)(配列番号18)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a9)(配列番号19)の塩基配列を含む、及び
(iv)前記第1のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a10)(配列番号20)の塩基配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a11)(配列番号21)の塩基配列を含み、前記第3のオリゴヌクレオチドユニットが、前記(a12)(配列番号22)の塩基配列を含む。
【0046】
一実施形態において、本発明に係る核酸は、前記(ii)又は(iii)の塩基配列を含む。
【0047】
本発明に係る核酸における第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び第3のオリゴヌクレオチドユニットの順序は限定しない。例えば、本発明に係る核酸における5’末端から3’末端に向けての順番は、例えば第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び第3のオリゴヌクレオチドユニット;第1のオリゴヌクレオチドユニット、第3のオリゴヌクレオチドユニット、第2のオリゴヌクレオチドユニット;第2のオリゴヌクレオチドユニット、第1のオリゴヌクレオチドユニット、第3のオリゴヌクレオチドユニット;第2のオリゴヌクレオチドユニット、第3のオリゴヌクレオチドユニット、第1のオリゴヌクレオチドユニット;第3のオリゴヌクレオチドユニット、第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2のオリゴヌクレオチドユニット;及び第3のオリゴヌクレオチドユニット、第2のオリゴヌクレオチドユニット、第1のオリゴヌクレオチドユニットのいずれであってもよく、好ましくは本発明に係る核酸は第1のオリゴヌクレオチドユニット、第2のオリゴヌクレオチドユニット、及び第3のオリゴヌクレオチドユニットを5’末端からこの順番で含む。
【0048】
一実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド鎖は配列番号2の配列を含み、第2のオリゴヌクレオチド鎖は配列番号3又は4の配列を含む。一実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド鎖は配列番号5の配列を含み、第2のオリゴヌクレオチド鎖は配列番号6の配列を含む。一実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド鎖は配列番号7の配列を含み、第2のオリゴヌクレオチド鎖は配列番号8の配列を含む。。一実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド鎖は配列番号9の配列を含み、第2のオリゴヌクレオチド鎖は配列番号10の配列を含む。
【0049】
一実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド鎖と第2のオリゴヌクレオチド鎖は、例えばループ配列を介して、連結されている。
【0050】
本発明に係る核酸は、各種自動合成装置(例えば、AKTA oligopilot plus 10 / 100(GE Healthcare))を用いて容易に合成することが可能であり、あるいは、第三者機関(例えば、Promega社又はTakara社)等に委託して作製することもできる。また、本発明に係る核酸のうち、オリゴヌクレオチド鎖は、WO2006/022323、WO2008/016079等に記載の方法を参照して製造することができる。
【0051】
本発明に係る二本鎖領域を有する核酸は、第1のオリゴヌクレオチド鎖及び第2のオリゴヌクレオチド鎖をそれぞれ合成し、例えば、10~30℃(例えば室温)で、例えば1分~1時間混合することによって調製することができる。あるいは、合成した第1のオリゴヌクレオチド鎖及び第2のオリゴヌクレオチド鎖を混合して、例えば、60℃に加温した後、例えば10~30℃まで1分~1時間かけて冷却することによって調製することができる。また本発明に係る二本鎖領域を有する核酸は、第1のオリゴヌクレオチド鎖、ループ配列、及び第2のオリゴヌクレオチド鎖を含む、二本鎖領域部分を有する1本鎖のヌクレオチドとして合成することもできる。
【0052】
一実施形態において、本発明に係る核酸は、標的領域の機能を阻害する。本明細書において、「標的領域の機能を阻害する」とは、標的領域に結合して標的領域を含むゲノムRNA及び/又はサブゲノムRNAを切断すること、標的領域を含むゲノムRNA及び/又はサブゲノムRNAの複製を阻害すること、標的領域を含むゲノムRNA及び/又はサブゲノムRNAの転写を阻害すること、及び標的領域が翻訳される場合にはその翻訳を阻害することの一つ以上を含む。本明細書において、「サブゲノムRNA」とは、(+)鎖のゲノムRNAを鋳型としてRNA-dependent RNA polymeraseにより合成される(-)鎖のRNAの一部分を鋳型としてRNA-dependent RNA polymeraseにより合成されるゲノムRNAより短いRNAであって、ウイルスタンパク質合成(翻訳)のためのmRNAとして働くRNAを意味する。
【0053】
一実施形態において、本発明に係る核酸は、SARS-CoV-2、SARS-CoV-1又はMERS-CoV、例えばSARS-CoV-2又はSARS-CoV-1、例えばSARS-CoV-2に対する抗ウイルス効果を有する。本明細書において、SARS-CoV-2とは、NC_045512.2の塩基配列(配列番号1)からなるゲノムRNA配列を有するウイルス又はその変異株を包含する。SARS-CoV-1とは、NC_004718.3の塩基配列からなるゲノムRNA配列を有するウイルス又はその変異株を包含する。MERS-CoVとは、NC_019843.3の塩基配列からなるゲノムRNA配列を有するウイルスまたはその変異株を包含する。
【0054】
ここで変異株とは、ウイルス遺伝子の複製過程で一部読み間違えや組み換えが発生し、遺伝情報が一部変化する突然変異によってできる新しい性質を持った子孫を示す。変異株は、変化した遺伝情報の影響を受けた一部の性質が変化しているが、もともとのウイルスの種は変化していない。なお、コロナウイルス科では、保存されているレプリカーゼ領域のアミノ酸配列の90%以上が共有されていれば同一のウイルスの種に属するとされている(ICTV 9th report (2011)のnidovirales(ニドウイルス目)、Coronaviridae(コロナウイルス科)の項(https://talk.ictvonline.org/ictv-reports/ictv_9th_report/positive-sense-rna-viruses-2011/w/posrna_viruses/222/coronaviridae)を参照)。
【0055】
一実施形態において、抗ウイルス効果とは、ウイルスの増殖を抑制し、及び/又はウイルスの感染性を低減する効果を意味する。本発明に係る核酸が抗ウイルス効果を有するか否かは、本願明細書の実施例に記載のとおりに試験することができる。例えば、抗ウイルス効果の有無は、標的配列を含む核酸を発現するプラスミドを作製し、当該プラスミドと本発明に係る核酸を細胞に導入し、細胞から発現される標的配列を含む核酸の量が陰性対照の核酸を導入した場合と比べて(例えば、5%以上、10%以上、又は20%以上)減少するか否かを調べることによって測定することができる。あるいは、抗ウイルス効果の有無は、ウイルス及び本発明に係る核酸を細胞に導入し培養した後、細胞内又は細胞培養上清中のウイルスの量又はそれに由来する核酸が陰性対照の核酸を導入した場合と比べて(例えば、5%以上、10%以上、又は20%以上)減少するか否かを調べることによって測定することができる。
【0056】
本発明に係る核酸は、異なる標的配列を有する複数の核酸ユニットを有するため、SARS-CoV-2の変異株及び/又はSARS-CoV-1などの既知のSARS関連コロナウイルス(SARSr-CoV)及び/又は未知のSARS関連コロナウイルスにも効果を奏し得る。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明に係る核酸は、複数の核酸ユニットを含むため、これらの核酸ユニットを別々に製造して投与するよりも、製造プロセスが簡便であり、コストが安価になり得る。
【0057】
一実施形態において、本発明は、本発明に係る核酸、又は当該核酸をコードするDNAを含むベクターに関する。ベクターは常法により調製することができる。例えば、本発明に係る核酸をコードするタンデム型DNAを含むベクターは、PCRによってプライマーにより第1のオリゴヌクレオチド鎖、及び第2のオリゴヌクレオチド鎖を増幅し、増幅断片を制限酵素で切断後、ベクターのプロモーター(例えばU6プロモーター)の下流に挿入することにより調製できる。第1のオリゴヌクレオチド鎖と第2のオリゴヌクレオチドが連結された核酸を調製する場合、例えば第1のオリゴヌクレオチド鎖をコードする配列、ループ配列、及び第2のオリゴヌクレオチド鎖をコードする配列を含むDNAをベクターのプロモーター(例えばU6プロモーター)の下流に挿入して転写後アニールさせることにより調製できる。また、第1のオリゴヌクレオチド鎖と第2のオリゴヌクレオチドが連結されていない核酸を調製する場合は、例えば第1のオリゴヌクレオチド鎖をコードする配列を含むDNA及び第2のオリゴヌクレオチド鎖をコードする配列を含むDNAを、それぞれ別々のベクターのプロモーター(例えばU6プロモーター)の下流に挿入して転写後アニールさせることにより、あるいは転写後混合してアニールさせることにより調製してもよい。ベクターの例として、プラスミド、ウイルスベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、及びレンチウイルス)、及び人工染色体等が挙げられる。
【0058】
一実施形態において、本発明は、本発明に係る核酸又はベクターを含む、医薬組成物に関する。本発明に係る医薬組成物は、本発明に係る核酸又はベクターを複数含んでもよい。
【0059】
本発明に係る医薬組成物は、本発明に係る核酸又はベクターに加えて医薬的に許容し得る担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等)及び/又は公知の添加剤(緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等)を含んでもよい。
【0060】
本発明に係る医薬組成物は、本発明に係る核酸又はベクターをカチオニック脂質や中性脂質などの脂質によりリポソーム化したもの、あるいは本発明に係る核酸又はベクターにカチオニック脂質や中性脂質などの脂質を共有結合で結合したものを含んでもよい。
【0061】
本発明に係る組成物の投与形態は、医薬的に許容可能な投与形態であれば特に制限されず、治療方法に応じて選択することができるが、気管内投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経口投与、組織内投与、経皮投与等が挙げられる。また、本発明の組成物が取り得る剤型としては、特に制限されないが、例えば、吸入剤、各種の注射剤、経口剤、点滴剤、軟膏剤、ローション剤等を挙げることができる。
【0062】
本発明に係る医薬組成物の投与形態は、好ましくは気管内投与であり、本発明の組成物が取り得る剤形としては、好ましくは吸入剤であり、具体的には、例えば吸入液剤(例えばネブライザで投与)、粉末吸入剤(例えばDPI(ドライパウダー吸入器)で投与)、エアゾール剤であり、好ましくは吸入液剤である。
【0063】
本発明に係る組成物を投与する際の用量としては、含有される本発明に係る核酸の種類、組成物の剤形、年齢や体重等の患者の状態、投与経路、疾患の性質と症状を考慮した上で調整され得るが、本発明に係る核酸の量として、例えば1日当たり0.1mg~10g/ヒトの範囲内、例えば1mg~1g/ヒトの範囲内、例えば10mg~100mg/ヒトの範囲内とすることができる。投与回数及び投与頻度は限定しないが、例えば1日1回から2、3回の投与回数で、1日から2、3日間の間隔をあけて投与することができる。また、例えば1回のみで投与することもでき、その数日後にもう一回投与して合計2回投与することもできる。
【0064】
一実施形態において、本発明は、本発明に係る核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物、ベクター又は医薬組成物の有効量を、対象に投与する工程を含む、ウイルス感染症の治療及び/又は予防方法であって、ウイルスがSARS-CoV-2、SARS-CoV-1、又はMERS-CoVである、方法に関する。ウイルスは、例えばSARS-CoV-2又はSARS-CoV-1、好ましくはSARS-CoV-2である。
【0065】
本発明に係る核酸、ベクター又は医薬組成物の投与対象は、例えば哺乳動物、例えばヒト等の霊長類、ラット、マウス、及びドブネズミ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、及びヒツジ等の家畜動物等が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0066】
本明細書において、ウイルス感染症の治療とは、上記ウイルスによって生じる疾患又はその症状(例えば、呼吸困難、発熱、乾性咳、頭痛、悪寒、及び筋肉痛の一以上)の緩和、改善、及び寛解の一つ以上を包含する。本明細書において、ウイルス感染症の予防とは、上記ウイルスによって生じる疾患又はその症状が生ずるリスクの低減を包含する。
【0067】
一実施形態において、本発明は、本発明に係る核酸もしくはその医薬的に許容可能な塩又はそれらの水和物、ベクター、又は医薬組成物の、ウイルス感染症の治療及び/又は予防のための医薬の製造における使用に関する。
【実施例0068】
<実施例1:配列の設計>
SARS-CoV-2(リファレンス配列; NC_045512.2)(配列番号1)のゲノムRNAとSARS-CoV-1(リファレンス配列; NC_004718.3)のゲノムRNAの配列を比較し、2種間で保存されている領域より被験物質長鎖RNAとしてCRN-73、CRN-74、CRN-112~CRN-118を設計した。被験物質長鎖RNAの配列及びその標的配列等を以下の表1に示す。各配列は天然のRNAから構成される。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、配列番号2の配列は、配列番号11、12、及び13の配列を5’末端から順番に含み、配列番号5の配列は、配列番号14、15、及び16の配列を5’末端から順番に含み、配列番号7の配列は、配列番号17、18、及び19の配列を5’末端から順番に含み、配列番号9の配列は、配列番号20、21、及び22の配列を5’末端から順番に含む。
【0071】
<実施例2 長鎖RNAの合成>
CRN-73(配列:5’-CCACCUGGUACUGGUAAGAGUCUUGUAGAUCUGUUCUCUAAACAACUUCCUCAAGGAACAACA―3’、配列番号2)は次のように合成した。市販のN-ベンゾイル―5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-O-tert-ブチルジメチルシリルアデノシンを担持したCPG担体(62mg、0.8μmol)をフィルター付きカラムに入れ、核酸自動合成機(NTS-M8:日本テクノサービス社)を使用した。核酸モノマー化合物として、5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-O-(2-シアノエトキシメチル)ウリジン 3’-O-(2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイト)、N-アセチル-5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-O-(2-シアノエトキシメチル)シチジン 3’-O-(2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイト)、N-アセチル-5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-O-(2-シアノエトキシメチル)アデノシン 3’-O-(2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイト)、N-フェノキシアセチル-5’-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-2’-O-(2-シアノエトキシメチル)グアノシン 3’-O-(2-シアノエチル N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイト)を、縮合剤として5-ベンジルチオテトラゾールを、酸化剤としてヨウ素溶液を、キャッピング溶液としてフェノキシ酢酸無水物とN-メチルイミダゾールのテトラヒドロフラン溶液を使用した。CRN-73の配列に応じた核酸モノマー化合物を62回縮合させた後、固相上で、5’末端の水酸基の保護基の除去を行った後、切り出し剤として、濃アンモニア水-エタノール混合液(3:1)を用いて、40℃、4時間かけてCPG固相担体からの切り出し及び各リン酸部位の保護基の脱離反応及び塩基の保護基の除去を行った。反応混合物を減圧下、濃縮後、1%ニトロメタンを含む1MのテトラブチルアンモニウムフルオリドのDMSO溶液を用いて30℃、4時間反応し、2’位の水酸基の保護基を脱離した。反応溶液に1MのTris-HClバッファーを加えた。エタノールを加えて、沈殿化を行い、上澄みを除去した。固体を乾燥後、C18逆相カラム(XTerra MSC18 10mmx50mm)にて精製し、陰イオン交換カラム(SOURCE15Q)で塩交換した。C18逆相カラム(XTerra MSC18 10mmx50mm)にて脱塩し、高純度の目的物を得た。質量分析の測定条件は以下のとおりである。
【0072】
使用機器 高速流体クロマトグラフACQUITY UPLC I-Class(waters)
四重極飛行時間型質量分析計Xevo G2―XS QTof(waters)
温度:50℃
流速:0.1mL/min
移動相:50mMアンモニア水
移動相:MeCN
グラジェント:50%isoB(1min)
検出器:四重極飛行時間型質量分析計
イオン化法:ESI-
測定範囲:100-2000m/z
【0073】
CRN-74、CRN-112~CRN-118についても上記と同様に合成した。各配列の分子量実測値を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
<実施例3:SARS-CoV-2ウイルスを用いた長鎖dsRNAのノックダウン活性測定>
表1に記載した配列から互いに相補する2配列を混合し、長鎖dsRNAを5組(CRN-73+CRN-74、CRN-73+CRN-112、CRN-113+CRN-114、CRN-115+CRN-116、CRN-117+CRN-118)調製した。終濃度1、3又は10 nMの被験物質長鎖dsRNA又は30 nMの陰性対照dsRNAと、Lipofectamine 3000 Transfection Reagent (Thermo Fisher Scientific, 0.1 μL/well)との混合物を96-wellプレートに添加し、そこへ293T細胞にヒトACE2発現レンチウイルスベクターを感染させて作製したヒトACE2安定発現細胞(293T-ACE2)を3.0×104 cells/wellで播種した。陰性対照dsRNAにはMISSION siRNA Universal Negative Control (Sigma-Aldrich)を用いた。翌日、SARS-CoV-2ウイルス液をMOI=0.01で添加し、細胞にウイルスを感染させた。SARS-CoV-2ウイルスは国立感染症研究所から入手したWK521株を元に、文献(Terada et al. 2019. J Virol 93:e01208-19. https://doi.org/10.1128/JVI.01208-19.)に記載の手法と同様の手法を用いてアクセサリータンパク質ORF8のコード領域にNano-luciferase遺伝子を組込んだ、recombinant SARS-CoV-2ウイルス(rSARS-CoV-2-ORF8-Nluc)を用いた。ウイルス液添加から1h後に培地交換により培地中のウイルスを除去した。ウイルス感染から24h後に、培養上清を回収し、細胞はPassive Lysis Buffer (Promega)を用いて細胞溶解液を調製した。Luciferase Assay System (Promega)を用いて添付のプロトコルにしたがって細胞溶解液中のluciferase活性を測定し、細胞内のSARS-CoV-2ウイルス量を評価した。また、回収した培養上清5μLを別途3.0×104 cells/wellで293T-ACE2細胞を播種した96-wellプレートに添加し、培養上清中のウイルスを細胞に感染させた。培養上清による感染から24h後に、最初のウイルス感染と同様の方法で細胞内のSARS-CoV-2ウイルス量を評価し、培養上清中の感染性ウイルス粒子量を評価した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【配列表】
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