(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161551
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】鋼部材の断面評価装置及び断面評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/08 20060101AFI20231030BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20231030BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20231030BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
G01N19/08 Z
G01N17/00
G01M99/00 Z
E01D22/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208595
(22)【出願日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2022071933
(32)【優先日】2022-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宗
(72)【発明者】
【氏名】久積 和正
(72)【発明者】
【氏名】冨永 知徳
(72)【発明者】
【氏名】長山 智則
(72)【発明者】
【氏名】小川 大智
(72)【発明者】
【氏名】楊 曜華
【テーマコード(参考)】
2D059
2G024
2G050
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059AA05
2D059AA15
2D059AA16
2D059AA22
2D059AA27
2D059BB00
2D059GG39
2G024AD06
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G050AA01
2G050BA12
2G050EA04
2G050EB01
(57)【要約】
【課題】鋼部材の断面諸元を定量的かつ効率的に評価する。
【解決手段】鋼部材の断面評価装置は、鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求め、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを教師データとして複数生成する教師データ生成部と、教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するモデル構築部と、断面評価モデルを用いて、評価対象の鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を取得する断面評価部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求め、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを教師データとして複数生成する教師データ生成部と、
前記教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するモデル構築部と、
前記断面評価モデルを用いて、評価対象の鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を取得する断面評価部と、
を備える、鋼部材の断面評価装置。
【請求項2】
前記教師データにおいて、
前記断面諸元は、鋼部材に設定された複数の区画それぞれの減肉量を示し、
前記振動モード諸元は、
固有振動数、
もしくは、
固有振動数と、モード振幅またはモード位相のうち少なくとも一方と、
を含む、請求項1に記載の鋼部材の断面評価装置。
【請求項3】
前記教師データ生成部は、
前記解析モデルの部材軸方向におけるモード振幅波形の極値の個数に基づき、モード次数を判定し、
前記モード次数に基づいて、前記断面変化への感度が高い振動モード諸元を抽出する、請求項2に記載の鋼部材の断面評価装置。
【請求項4】
前記教師データ生成部は、
同一のモード次数と判定した振動モード諸元が複数ある場合に、断面振動に関する特徴を表す判別指標が最大である振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、前記教師データとして用いる、請求項3に記載の鋼部材の断面評価装置。
【請求項5】
前記教師データ生成部は、
前記断面変化への感度が高い振動モード諸元を抽出した後に、
前記鋼部材の断面諸元として設定された各区画の減肉量の対称度を判定し、
前記対称度に応じて、振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを複製し、前記教師データとする、請求項2~4のいずれか1項に記載の鋼部材の断面評価装置。
【請求項6】
前記断面評価部は、
前記断面評価モデルを用いて、前記鋼部材に設定された複数の区画それぞれの減肉量を取得し、
鋼部材の各区画の減肉量に基づいて、前記鋼部材の指定された断面における断面積を算出する、請求項2~4のいずれか1項に記載の鋼部材の断面評価装置。
【請求項7】
前記教師データにおいて、前記振動モード諸元には、前記解析モデルを用いて算出されることによる誤差影響が付加されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼部材の断面評価装置。
【請求項8】
前記誤差影響には、前記振動モード諸元の計測誤差または前記解析モデルのモデル化誤差のうち少なくともいずれか一方を含む、請求項7に記載の鋼部材の断面評価装置。
【請求項9】
前記モデル構築部は、ニューラルネットワークにより前記断面評価モデルを構築する、請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼部材の断面評価装置。
【請求項10】
鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求め、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを教師データとして複数生成する教師データ生成ステップと、
前記教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するモデル構築ステップと、
前記断面評価モデルを用いて、評価対象の鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を取得する断面評価ステップと、
を含む、鋼部材の断面評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部材の断面状況を評価する断面評価装置及び断面評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物を構成する鋼部材は、時間とともに劣化、損傷し、腐食減肉が生じる場合がある。腐食減肉が進行すると、鋼部材が破損したり落下したりすることもあり得る。このため、構造物の鋼部材の減肉状況を確認し、鋼部材の断面における板厚分布や断面積等の断面諸元を把握することにより、構造物の健全性が保持されていることの確認が行われている。
【0003】
構造物の鋼部材の減肉状況は、目視または板厚計測によって直接確認するのが一般的である。しかしながら、目視による確認では減肉状況の定性的な評価にとどまり、鋼部材に粉塵が堆積、固着していると正確な減肉状況を把握しにくい。また、安全上の観点から高所、稼働物への近接は困難であり、そのような場所での鋼部材の確認作業は難しく、確認作業の実施の機会は限定的である。このため、目視等の直接確認に代わって鋼部材の減肉状況を把握するための技術が求められている。
【0004】
例えば特許文献1には、梁構造の劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、梁構造の平面形状、及び、梁構造に与えられる外力を入力データ、構造解析結果から得られる損傷状態を出力データとする教師データを与えて機械学習をさせた学習済モデルを用いて、構造物の形状、諸元及び想定外力に対して予測される損傷状態を出力する、損傷度予測装置が開示されている。また、非特許文献1には、遠隔非接触での鋼部材の振動計測から得られた部材のある断面中の3点のモード振幅を利用することでモード諸元(固有振動数、モード形状)を特定し、損傷部材と諸元とを比較することで鋼部材の損傷状態を評価する、損傷評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2021-500450号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の技術において、構造物に外力が与えられたときの損傷状態を予測するための学習済モデルは、有限要素解析(FEA;Finite Element Analysis)による構造解析(順問題)を簡略化し、短時間で損傷状態を予測できることを目的として構築されたものである。かかる学習済モデルを構築するためには、教師データとして、梁構造の劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、梁構造の平面形状、及び、梁構造に与えられる外力と、構造解析結果から得られる損傷状態とのデータセットを用意する必要があるが、膨大な数の教師データを用意するには多大な労力がかかる。
【0008】
また、上記非特許文献1に記載の技術では、鋼部材の固有振動数が健全状態と損傷状態とで異なることに基づき、同一の振動モード次数における固有振動数の差を比較することで鋼部材の損傷状態を評価する。しかし、かかる技術では、損傷の有無を評価することはできるものの、鋼部材のどの位置にどの程度の減肉が生じているか定量的に判定することはできず、鋼部材の断面における板厚分布や断面積等の断面諸元を求めることもできなかった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、鋼部材の断面諸元を定量的かつ効率的に評価することが可能な、鋼部材の断面評価装置及び断面評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求め、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを教師データとして複数生成する教師データ生成部と、教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するモデル構築部と、断面評価モデルを用いて、評価対象の鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を取得する断面評価部と、を備える、鋼部材の断面評価装置が提供される。
【0011】
教師データにおいて、断面諸元は、鋼部材に設定された複数の区画それぞれの減肉量を示し、振動モード諸元は、固有振動数、もしくは、固有振動数と、モード振幅またはモード位相のうち少なくとも一方と、を含んでもよい。
【0012】
教師データ生成部は、解析モデルの部材軸方向におけるモード振幅波形の極値の個数に基づき、モード次数を判定し、モード次数に基づいて、断面変化への感度が高い振動モード諸元を抽出してもよい。
【0013】
教師データ生成部は、同一のモード次数と判定した振動モード諸元が複数ある場合に、断面振動に関する特徴を表す判別指標が最大である振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、教師データとして用いてもよい。
【0014】
教師データ生成部は、断面変化への感度が高い振動モード諸元を抽出した後に、鋼部材の断面諸元として設定された各区画の減肉量の対称度を判定し、対称度に応じて、振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを複製し、教師データとしてもよい。
【0015】
断面評価部は、断面評価モデルを用いて、鋼部材に設定された複数の区画それぞれの減肉量を取得し、鋼部材の各区画の減肉量に基づいて、鋼部材の指定された断面における断面積を算出してもよい。
【0016】
教師データにおいて、振動モード諸元には、解析モデルを用いて算出されることによる誤差影響が付加されてもよい。
【0017】
誤差影響には、振動モード諸元の計測誤差または解析モデルのモデル化誤差のうち少なくともいずれか一方を含まれていてもよい。
【0018】
モデル構築部は、ニューラルネットワークにより断面評価モデルを構築してもよい。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求め、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを教師データとして複数生成する教師データ生成ステップと、教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するモデル構築ステップと、断面評価モデルを用いて、評価対象の鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を取得する断面評価ステップと、を含む、鋼部材の断面評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、鋼部材の断面諸元を定量的かつ効率的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】鋼構造物の一例であるベルトコンベアの架台の模式図と、架台の主部材の断面振動モード(CSM)の一形状例を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態における断面評価モデル構築処理を説明する説明図である。
【
図3】同実施形態における断面評価モデルを用いた断面評価処理を説明する説明図である。
【
図4】同実施形態に係る鋼部材の断面評価装置を示すブロック図である。
【
図5】同実施形態に係る鋼部材の断面評価方法を示すフローチャートである。
【
図6】山形鋼の解析モデルの一例を示す模式図である。
【
図7】
図6の山形鋼の解析モデルにおける3次振動モードを示す模式図である。
【
図8】
図6の山形鋼の解析モデルの一断面を表す模式図である。
【
図9】断面評価モデルを線形回帰により表す場合の各モード次元の特徴量を示す説明図である。
【
図10】減肉量の対称度に応じた教師データの複製を説明する説明図である。
【
図11】教師データの振動モード諸元への誤差影響付加処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】振動モード諸元の計測誤差の誤差影響を説明する説明図である。
【
図13】境界条件の誤差による誤差影響を説明する説明図である。
【
図14】減肉状態の誤差による誤差影響を説明する説明図である。
【
図15】誤差影響付加処理における総誤差影響の算出を説明する説明図である。
【
図16】誤差影響付加処理における総誤差影響の付加を説明する説明図である。
【
図17】教師データの振動モード諸元に対する誤差影響の付加有無による断面評価モデルの精度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
[1.概要]
本発明の一実施形態に係る鋼部材の断面評価装置は、構造物を構成する鋼部材の断面諸元を評価する装置である。例えば、製鉄所において原料を運搬するベルトコンベアは生産に関わる重要設備であるが、
図1に示すようなベルトコンベアの架台10となる鋼構造物には時間の経過に伴い腐食減肉が生じる。安定生産に向けては、減肉時の各鋼部材の健全性評価が必要となる。一般的には、減肉時の健全性評価は目視により行われている。しかし、鋼部材に対する粉塵の堆積、固着により正確な減肉状況を把握できない場合がある。さらに、安全上の観点から高所、稼働物への近接は困難であり、鋼部材の板厚を計測するといった詳細点検を実施する機会は限定的である。そこで、目視等の直接確認に代わって鋼部材の減肉状況として、減肉の位置及び程度(すなわち減肉量)、さらには鋼部材の断面における板厚分布や断面積等の断面諸元を把握するための技術として、本実施形態に係る鋼部材の断面評価装置を用いることができる。
【0024】
本実施形態に係る鋼部材の断面評価装置では、鋼部材毎の局部振動モードである断面振動モード(Cross Sectional Mode;以下、「CSM」と称する。)に基づき、遠隔非接触での断面諸元の評価を行う。CSMは、L型断面部材の2つの面が隅角部を中心として同一方向に回転するモードである。
【0025】
構造物の全体振動モードは局部的な損傷があっても応答が構造全体で平均化されてしまうため、損傷感度が極めて低く、損傷等を感度よく評価することができない。振動特性としては、高次になるにつれて局部化し、諸元変化に対して敏感になる。このような振動特性を利用すると、部材レベルの振動モードが、損傷による振動数変化を捉える対象として適している。
【0026】
例えば、
図1に示したベルトコンベアの架台10は、長手方向(Z方向)に延びる主部材11と、二次部材である斜材13と、束材15とにより構成されている。主部材11には、例えば山形鋼が用いられる。主部材11は、長手方向に束材15によって区分される区画Sが局所的に振動するという性質を有している。主部材11の1つの区画Sにおける局所的な振動は、例えば
図1に示すようなCSMのモード形状として表される。鋼部材が減肉している箇所では、初期板厚から板厚が小さくなっており、鋼部材の剛性が小さくなるため、CSMの固有振動数は小さくなる。したがって、CSMを同定できれば、減肉による固有振動数の変化をとらえることができる。
【0027】
上記非特許文献1では、レーザードップラー速度計を用いた非接触での計測により、構造物の鋼部材のCSMを検知し、検知したCSMの振動モード諸元(例えば、固有振動数、モード振幅、モード位相、等)を健全状態の振動モード諸元と比較することで、腐食減肉の有無を判定することができる。一方で、鋼部材の振動モード諸元からは減肉の位置及び程度を定量評価することができないため、劣化した鋼部材が複数発生した場合に、補修の優先付けを判断することができない。
【0028】
ここで、鋼部材の振動モード諸元と減肉量との関係は簡易な式により定式化することは困難であるが、解析モデルを用いて、例えば有限要素解析での固有値解析により、所与の減肉条件下での振動モード諸元は算出可能である。本願発明者は、このことに着目し、解析モデルに基づく複数ケースの解析結果(順問題)を教師データとして、振動モード諸元から断面諸元として減肉の位置及び程度を推定し、鋼部材の断面における板厚分布を推定する断面評価モデル(逆問題)を機械学習により構築することを想到した。
【0029】
すなわち、まず、断面諸元を推定する断面評価モデルを作成するため、
図2に示すように、複数ケースの断面諸元について、解析モデルを用いて、CSMの振動モード諸元を取得する。解析モデルの入力変数とする断面諸元は、例えば
図2に示すように、減肉の位置及び程度(減肉量)としてもよい。そして、各ケースの断面諸元と振動モード諸元とのデータセットを教師データとして、機械学習により、振動モード諸元から断面諸元を推定する断面評価モデルを生成する。
【0030】
断面評価モデルが得られれば、
図3に示すように、例えばレーザードップラー速度計を用いて計測された鋼部材のCSMの振動モード諸元を断面評価モデルに入力することにより、解析モデルの入力変数とした当該鋼部材の断面諸元を得ることができる。さらには、取得した鋼部材の断面諸元に基づき、別の断面諸元を取得することもできる。例えば、断面評価モデルにより、鋼部材の断面諸元として減肉の位置及び程度(減肉量)が取得される場合に、さらに別の断面諸元として、鋼部材の指定された断面における断面積を算出し得る。
【0031】
以下、本実施形態に係る鋼部材の断面評価装置及びこれを用いた断面評価方法について、詳細に説明する。
【0032】
[2.鋼部材の断面評価装置]
まず、
図4に基づいて、本実施形態に係る鋼部材の断面評価装置100について説明する。
図4は、本実施形態に係る鋼部材の断面評価装置100を示すブロック図である。本実施形態に係る鋼部材の断面評価装置100は、
図4に示すように、教師データ生成部110と、モデル構築部120と、断面評価部130とを有する。
【0033】
(教師データ生成部)
教師データ生成部110は、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するために用いる教師データを生成する。
【0034】
教師データでは、振動モード諸元には、少なくとも固有振動数、モード振幅及びモード位相が含まれる。また、断面諸元には、鋼部材の位置及び減肉量が含まれる。鋼部材の位置は、例えば鋼部材を区分して設定された複数の区画により表してもよい。例えば、鋼部材が山形鋼である場合、例えば
図2に示すように、2つの面をそれぞれ長手方向に5つに区分した10区画(s
1~s
10)により、鋼部材の位置を表してもよい。この場合、鋼部材の減肉量は、それぞれの区画の減肉量となる。
【0035】
教師データの生成には、鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルが用いられる。解析モデルは、例えば有限要素解析を行うための有限要素(FE)モデルであってもよい。教師データ生成部110は、解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求める。そして、教師データ生成部110は、複数の断面諸元について求めた振動モード諸元から、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、教師データとする。
【0036】
断面変化への感度が高い振動モード諸元は、減肉量や板厚の変化に感度が高い振動モード諸元であり、モード次数に基づき抽出することができる。モード次数は、例えば、解析モデルの部材軸方向におけるモード振幅波形の極値の個数より判定し得る。断面変化への感度が高い振動モード諸元のモード次数は、予め、鋼部材における減肉位置がCSMの固有振動数に及ぼす影響を、有限要素モデルを用いた有限要素解析等を実施して特定すればよい。例えば、山形鋼では、1~3次モードは断面変化に対し感度が高く、より詳細には、モード形状のせん断ひずみが大きい箇所(モードの節付近)では断面変化に対する感度が高く、せん断ひずみが小さい箇所(モードの腹付近)では断面変化に対する感度が低い傾向がある。したがって、鋼部材が山形鋼の場合には、モード次数が1~3次の振動モード諸元が、断面変化への感度が高い振動モード諸元として抽出される。
【0037】
教師データ生成部110は、鋼部材の板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求めた後、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを抽出する。教師データ生成部110は、抽出したデータセットを教師データとする。
【0038】
(モデル構築部)
モデル構築部120は、教師データ生成部110により生成された教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築する。機械学習手法としては、例えば、ニューラルネットワークや、ランダムフォレスト、LightGBM等を用いればよい。モデル構築部120により構築された断面評価モデルは、例えば、1~3次のCSMの固有振動数を入力すると、断面諸元として鋼部材の各区画における減肉量を出力する。
【0039】
なお、断面評価モデルの構築において用いる振動モード諸元には、少なくともCSMの固有振動数が含まれていればよい。振動モード諸元には、固有振動数に加えて、さらにモード振幅またはモード位相のうち少なくとも一方が含まれてもよい。すなわち、断面評価モデルの入力変数となる振動モード諸元に少なくとも含まれる情報として、(1)固有振動数、(2)固有振動数及びモード振幅、(3)固有振動数及びモード位相、(4)固有振動数、モード振幅及びモード位相、の4つがある。
【0040】
(断面評価部)
断面評価部130は、モデル構築部120により構築された断面評価モデルを用いて、評価対象の鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する。評価対象の鋼部材の振動モード諸元は、例えばレーザードップラー速度計により取得することができる。断面評価部130は、評価対象の鋼部材の振動モード諸元を断面評価モデルに入力し、出力として、評価対象の鋼部材の断面諸元(例えば、鋼部材の各区画における減肉量)を得る。
【0041】
断面評価部130は、断面評価モデルにより取得した鋼部材の断面諸元に基づき、別の断面諸元を取得してもよい。例えば、断面評価部130は、断面評価モデルにより鋼部材の断面諸元として部材の各区画における減肉量が取得される場合に、取得した評価対象の鋼部材の各区画における減肉量に基づき、断面諸元として、鋼部材の指定された断面における断面積をさらに算出してもよい。断面積に関する断面諸元としては、例えば
図3に示すように、鋼部材の長手方向に直交する断面における平均断面積や最小断面積等がある。断面評価部130は、断面評価モデルにより取得した鋼部材の断面諸元や、さらに算出した断面諸元を、ディスプレイ等の出力装置(図示せず。)へ出力してもよい。
【0042】
本実施形態に係る鋼部材の断面評価装置100は、CPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータ等の情報処理装置により構成され得る。また、断面評価装置100には、入力装置及び出力装置を接続し得る。入力装置は、鋼部材を評価する評価者が断面評価装置100に対して情報を入力するための装置であり、例えばキーボードやマウス等である。出力装置は、断面評価装置100が実施した処理の結果を評価者に提示するための装置であり、例えばディスプレイ等の表示装置である。
【0043】
[3.鋼部材の断面評価方法]
図5に基づいて、本実施形態に係る鋼部材の断面評価方法を説明する。
図5は、本実施形態に係る鋼部材の断面評価方法を示すフローチャートである。なお、以下では、断面評価方法として、断面評価モデルを、ニューラルネットワークにより構築する場合(評価手法例1)と、線形回帰により表す場合(評価手法例2)とについて説明する。
【0044】
[3-1.評価手法例1]
まず、断面評価モデルをニューラルネットワークにより構築する場合の断面評価方法について説明する。ここでは、断面評価モデルの構築に用いる教師データの振動モード諸元は、固有振動数、モード振幅及びモード位相を含むものとする。
【0045】
(教師データ生成)
まず、教師データ生成部110は、解析モデルを用いて、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するために用いる教師データを生成する(S10)。まず、教師データ生成部110は、板厚分布の異なる断面諸元を複数生成する。例えば、鋼部材が山形鋼であり、
図2に示したように山形鋼を10区画s
j(j=1、2、・・・、10)に区分し、各区画の減肉量を評価する場合を考える。このとき、教師データ生成部110は、板厚分布の異なる断面諸元として、区画s
jの減肉量d
jの異なる断面諸元を複数生成する。減肉量d
jは、鋼部材の初期板厚からの減少割合であり、例えば-10~80%の連続値(例えば1%刻み)としてもよく、離散値(例えば、0%、20%、40%、60%のいずれかの値を設定)としてもよい。教師データ生成部110は、各区画s
jに対して減肉量d
jの値をランダムに設定し、複数の断面諸元を生成する。
【0046】
教師データ生成部110は、複数の断面諸元を生成すると、解析モデルを用いて、振動モード諸元を求める。評価手法例1では、教師データ生成部110は、振動モード諸元として、固有振動数、モード振幅及びモード位相を求めるものとする。振動モード諸元は、実計測によって得られるものとする必要があるため、求める振動モードの次元数nは実計測可能な範囲内に設定される。
【0047】
例えば、1次~3次の振動モードについて振動モード諸元を求める場合、教師データ生成部110は、1~3次(すなわち、n=1、2、3)のCSMの固有振動数f1~f3を求め、さらにモード振幅Φ1~Φ3及びモード位相θ1~θ3を求める。モード振幅はモード形状の振幅の絶対値であり、モード位相はモード形状から位相のみを抽出したものである。なお、モード形状は、振動モードを符号付きの全体形状を表すものである。
【0048】
より詳細には、モード振幅Φ
1~Φ
3は、複数断面中の複数点のモード形状の振幅の絶対値によって表し得る。例えば山形鋼において、1~3次モードを同定するためには、
図6に示す山形鋼の解析モデルにおいて、2つの面の端部(点A、点C)及び隅角部(点B)におけるモード振幅を、長手方向(Z方向)の5箇所の断面で取得すればよい。すなわち、山形鋼の解析モデルの15点でのモード振幅を取得する。なお、モード振幅は、各次元の振動モードで得られた15点での値で正規化してもよい。
【0049】
モード位相θ1~θ3は、2つの面の端部(点A、点C)のモード振幅の位相を表す。モード位相θ1~θ3は、例えば、+1(同符号)または-1(異符号)の値を取り得る。モード位相θ1~θ3は、健全部材におけるCSMでは全断面で同符号となるが、減肉が生じた場合には異符号となる断面も発生する。
【0050】
そして、教師データ生成部110は、複数の断面諸元について求めた振動モード諸元から、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、教師データとする。断面変化への感度が高い振動モード諸元は、評価対象の鋼部材毎に予め特定されており、モード次数に基づき特定することができる。例えば山形鋼においては、モード次数が1~3次の振動モード諸元が、断面変化への感度が高い振動モード諸元となる。
【0051】
断面変化への感度が高い振動モード諸元は、例えばモード次数に基づき抽出することができる。ここで、解析モデルを用いて求めた振動モード諸元には、モード振幅が含まれている。教師データ生成部110は、モード振幅波形の部材軸方向における極値の個数からモード次数を特定する。例えば
図6に示した山形鋼の解析モデルにおいて、
図7に示すような振動モードが得られたとする。このとき、2つの面の端部(点A、点C)でのモード振幅の波形において、極値(●、○)の数はそれぞれ3つである。極値の数はモード次数と等しいことから、
図7は3次の振動モードであると特定することができる。このように、教師データ生成部110は、各振動モード諸元からモード次数を特定し、断面変化への感度が高い振動モード諸元のみを抽出する。
【0052】
なお、1つの断面諸元において、同一のモード次数と判定した振動モード諸元が複数ある場合には、教師データ生成部110は、断面振動に関する特徴を表す判別指標が最大である振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、教師データとして用いる。断面振動に関する特徴を表す判別指標(以下、「CSM判別指標(CSMI)」と称する。)は、
図6に示した解析モデルの一断面を模式化した
図8において、隅角部である点Bを固定し、端部の点A、点Cの断面回転を考えたとき、2つの補正関数G
1(f)、G
2(f)と回転成分を強調するスペクトルS(f)とにより下記式(1)で表される指標である。なお、V
A、V
B、V
Cは、点A、点B、点Cのモード振幅とする。
【0053】
【0054】
上記式(1)に示すCSM判別指標(CSMI)では、S(f)によって回転成分の励起されたモードが検出され、さらに補正関数G1(f)、G2(f)によってCSMでないモードが取り除かれる。CSM判別指標(CSMI)の値が大きい振動モード諸元であるほど、断面振動に関する特徴が強く表れているといえる。そこで、教師データ生成部110は、同一のモード次数と判定した振動モード諸元が複数ある場合には、上記式(1)に基づきCSM判別指標(CSMI)を算出し、CSM判別指標(CSMI)が最大の振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、教師データとして用いる。
【0055】
このように、教師データ生成部110は、鋼部材の板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求めた後、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを抽出する。教師データ生成部110は、抽出したデータセットを教師データとする。教師データ生成部110は、教師データとして、例えば10万~100万程のデータセットを生成する。
【0056】
(断面評価モデル構築)
図5の説明に戻り、次いで、モデル構築部120は、教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を取得する断面評価モデルを構築する(S20)。本説明では、モデル構築部120は、機械学習手法としてニューラルネットワークを用いる。例えば、
図2及び
図3に示した山形鋼の断面評価モデルを構築する場合では、モデル構築部120は、教師データのデータセットを用いて、1~3次の振動モードそれぞれについて、CSMの固有振動数、モード振幅及びモード位相の振動モード諸元を入力し、そのときの鋼部材の各区画s
jにおける減肉量d
jを、断面諸元として取得する断面評価モデルを構築する。
【0057】
(断面諸元取得)
断面評価モデルを構築すると、評価対象の鋼部材の断面評価を行う。まず、評価対象の鋼部材について、例えばレーザードップラー速度計を用いて、振動モード諸元を計測する(S30)。そして、断面評価部130は、計測された振動モード諸元が鋼部材の断面評価装置100に入力されると、計測された振動モード諸元を断面評価モデルに入力し、断面諸元を得る(S40)。例えば、
図2及び
図3に示した山形鋼の断面評価モデルを構築する場合では、計測された振動モード諸元のCSMの固有振動数、モード振幅及びモード位相の振動モード諸元が断面評価モデルに入力されると、推定される鋼部材の各区画s
jにおける減肉量d
jが、断面諸元として取得される。断面評価部130は、算出した断面諸元を、ディスプレイ等の出力装置(図示せず。)へ出力してもよい。
【0058】
さらに、断面評価部130は、断面評価モデルにより取得した評価対象の鋼部材の断面諸元に基づき、別の断面諸元を取得してもよい。例えば、断面評価部130は、断面評価モデルにより鋼部材の断面諸元として部材の各区画における減肉量が取得される場合に、取得した評価対象の鋼部材の各区画における減肉量に基づき、断面諸元として、鋼部材の指定された断面における断面積をさらに算出してもよい。断面評価部130は、断面諸元として、例えば、鋼部材の長手方向に直交する断面における平均断面積や最小断面積を算出してもよい。
【0059】
例えば、
図3に示した10区画s
j(j=1、2、・・・、10)に区分した鋼部材において、鋼部材の長手方向(Z方向)に直交する断面(XY平面)の断面諸元を求めるとする。この場合、平均断面積A
k(k=1、2、・・・、5)は、同一断面にある区画s
kの断面積と区画s
k+5の断面積との平均値としてもよい。区画s
kの断面積は、区画s
kの減肉量d
kから得られる区画s
kの板厚t
kと、その延設方向(X方向またはY方向)長さとの積により求めることができる。また、最小断面積A
mk(k=1、2、・・・、5)は、同一断面にある区画s
kの断面積、区画s
k+5の断面積、及び、実腐食部材の板厚分布の統計的特性に基づいて、例えば、平均断面積A
kと最小断面積A
mkとの関係を回帰分析により求めることができる。
【0060】
断面評価部130は、断面評価モデルにより取得した鋼部材の断面諸元や、さらに算出した評価対象の鋼部材の長手方向の各区画(s
k+s
k+5)における平均断面積A
kまたは最小断面積A
mkを、断面諸元として、ディスプレイ等の出力装置(図示せず。)へ出力してもよい。出力装置は、断面評価部130から入力された断面諸元を、例えば
図3に示すように、鋼部材のモデルの長手方向の各区画(s
k+s
k+5)に断面積(例えば平均断面積A
k)を表示することにより提示してもよい。
【0061】
[3-2.評価手法例2]
次に、断面評価モデルを線形回帰により表す場合の断面評価方法について説明する。ここでは、断面評価モデルの構築に用いる教師データの振動モード諸元は、固有振動数のみを含むものとする。評価手法例2の説明では、上述の評価手法例1と同様の処理については詳細な説明を省略する。
【0062】
(教師データ生成)
まず、教師データ生成部110は、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するために用いる教師データを生成する(S10)。教師データ生成処理は、評価手法例1と同様に行えばよい。なお、振動モード諸元も評価手法例1と同様、固有振動数、モード振幅及びモード位相を求める。
【0063】
(断面評価モデル構築)
次いで、モデル構築部120は、教師データを用いて、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築する(S20)。評価手法例2では、断面評価モデルの構築に用いる教師データの振動モード諸元は、固有振動数のみとする。
【0064】
ここで、振動モード諸元の変化への感度の高いモード形状の節付近での局所的な減肉状態を表す特徴量d
1、d
2、d
3を、
図9に示すハッチング領域における平均減肉量として定義する。特徴量d
1、d
2、d
3は、1~3次の振動モードのモード形状のうち少なくとも1つの振動モードにおいて節となるという特徴がある。これにより、n次数の固有振動数Freq
nを、下記式(2)に示す回帰式により近似して表すことができる。ここで、α
n1、α
n2、α
n3は、回帰係数である。
【0065】
【0066】
上記式(2)の回帰式から、減肉量dを固有振動数から逆推定する下記式(3)が導出される。
【0067】
【0068】
なお、式(3)において、αは「特徴量の数(Nf)×振動モード諸元の次元数(Nm)」の行列であり、Nf≦Nmの場合に逆行列をもつ。1~3次の固有振動数から減肉量を逆推定するためには、特徴量の次数は3以下とする必要がある。
【0069】
モデル構築部120は、教師データを用いて上記式(2)の回帰式を求め、上記式(2)から導出される上記式(3)を断面評価モデルとして求める。
【0070】
(断面評価処理)
断面評価モデルを構築すると、評価対象の鋼部材の断面評価を行う。断面評価処理は、評価手法例1と同様に、まず、評価対象の鋼部材について、例えばレーザードップラー速度計を用いて、振動モード諸元を計測する(S30)。そして、断面評価部130は、計測された振動モード諸元が鋼部材の断面評価装置100に入力されると、計測された振動モード諸元を断面評価モデルに入力し、断面諸元を得る(S40)。すなわち、上記式(3)に振動モード諸元を入力することで、断面諸元を得ることができる。このとき断面評価モデルに入力される振動モード諸元は、固有振動数のみである。
【0071】
さらに、断面評価部130は、断面評価モデルにより取得した評価対象の鋼部材の断面諸元に基づき、別の断面諸元を取得してもよい。例えば、断面評価部130は、断面評価モデルにより鋼部材の断面諸元として部材の各区画における減肉量が取得される場合に、取得した評価対象の鋼部材の各区画における減肉量に基づき、断面諸元として、鋼部材の指定された断面における断面積をさらに算出してもよい。断面評価部130は、断面諸元として、例えば、鋼部材の長手方向に直交する断面における平均断面積や最小断面積を算出してもよい。断面評価部130は、断面評価モデルにより取得した鋼部材の断面諸元や、さらに算出した鋼部材の断面諸元を、ディスプレイ等の出力装置(図示せず。)へ出力してもよい。
【0072】
以上、本実施形態に係る鋼部材の断面評価方法について説明した。本実施形態によれば、鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルを用いて、断面評価モデルを構築するための教師データを効率的に生成し、生成した教師データを用いて、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築する。これにより、当該鋼部材の断面諸元を得ることができる。このように、本実施形態によれば、鋼部材の減肉状況を定量的かつ効率的に評価することが可能となる。
【0073】
[4.教師データ生成処理の効率化]
本実施形態に係る鋼部材の断面評価方法において、断面評価モデルによる断面諸元の推定精度を高めるには、膨大な教師データを用いて断面評価モデルを構築することが望ましい。そこで、教師データをより効率的に生成するため、断面変化への感度が高い振動モード諸元を抽出した後に、抽出された振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、減肉量の対称度に応じて複製してもよい。これにより、効率的に教師データとなる複数のデータセットを生成することができる。
【0074】
ここで、対称度とは、各区画に減肉量が与えられた断面諸元について、鋼部材の断面形状の対称軸C1、部材軸方向の対称軸C2それぞれに対する減肉量の分布の対称性を表す。非対称と判定される軸の数をNとしたとき、非対称軸数Nに応じてデータセットを複製する。
【0075】
例えば、
図10に示す、山形鋼の解析モデルにおいて、部材軸方向(長手方向)の両端部の4つの区画に減肉量が与えられていたとする。4つの区画の減肉量がD1、D2、D3、D4とすべて異なっている場合には、非対称軸数N=2となり、4倍に複製することができる。また、4つの区画のうち、2区画の減肉量がD1、他の2区画の減肉量がD2である場合には、非対称軸数N=1となり、2倍に複製することができる。なお、4つの区画の減肉量がすべて同一(例えばすべて減肉量がD1)である場合には、非対称軸数N=0となり、複製はできない。
【0076】
このように、減肉量の対称度に応じて教師データとして抽出されたデータセットを複製することで、効率よく教師データを生成することができる。なお、上記説明では減肉量の対称度を指標としてデータセットの複製を行ったが、本発明はかかる例に限定されず、例えば、鋼部材の板厚の対称度を指標としてデータセットの複製を行ってもよい。
【0077】
[5.教師データへの誤差影響の付加]
断面諸元を推定する断面評価モデルは、上述したように、解析モデルを用いて取得したCSMの振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを教師データとして生成される。ここで、教師データの振動モード諸元は、解析モデルを用いて取得されることから、実際の構造物の振動計測により得られる振動モード諸元に対して少なくとも乖離が生じる。ここで、振動計測により得られる振動モード諸元と解析モデルにより得られる振動モード諸元との乖離を、誤差影響と称することにする。誤差影響は、主として、振動モード諸元の計測誤差によるものと、解析モデルのモデル化誤差によるものとが考えられる。
【0078】
振動モード諸元の計測誤差は、計測により得られる振動モード諸元に生じ得る誤差である。振動モード諸元の計測誤差には、例えば、レーザードップラー速度計等の計測機器の誤差や、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform;FFT)等による解析処理上の誤差等がある。測定機器の誤差は、例えば、温度あるいは湿度等によって生じる計測誤差や、機械的誤差、サンプリング誤差等である。振動モード諸元の計測誤差によって、計測された振動モード諸元と解析モデルによる解析結果として得られた振動モード諸元とに乖離が生じ得る。
【0079】
一方、解析モデルのモデル化誤差は、評価対象の鋼部材をモデル化した際に、計算負荷低減のために簡略化した条件や、解析モデルでは完全な再現が困難な条件に起因した誤差であり、例えば、境界条件の誤差、減肉状態の誤差、ひずみ状態の誤差、等がある。
【0080】
境界条件の誤差は、解析モデルにおける鋼部材の支持状態が実際の鋼部材の支持状態とは異なることにより生じる。例えば、評価対象の鋼部材について、実際の鋼構造物ではその両端が二次部材により固定されているとき、解析モデルでは部材長を調整した上でその両端が完全に固定されているものとして取り扱うと、境界条件が異なり、当該解析モデルから算出される振動モード諸元に境界条件の相違による誤差が生じる。
【0081】
減肉状態の誤差は、解析モデルにおける鋼部材の減肉が実際に鋼部材に生じている減肉とは異なることにより生じる。例えば、評価対象の鋼部材について、実際の鋼構造物での腐食による減肉は空間的に板厚が連続的に変化するものであるが、解析モデルでは
図2に示したように鋼部材を複数の区画に区分して各区画中の板厚は一定であるとしている。このように、鋼部材の腐食による板厚は、実際には連続的に変化しているが、解析モデルでは不連続に板厚が変化しているものとして取り扱われる。このような減肉状態の誤差は、解析モデルから算出される振動モード諸元に誤差が生じる要因となる。
【0082】
ひずみ状態の誤差は、実際の鋼構造物に作用する外力に応じて部材に発生するひずみにより生じる。解析モデル上では作用する外力条件は考慮せずひずみが0として振動モード諸元が算出されるが、実際の構造物中では、ひずみが発生し、かつ外力に応じて変動する。ひずみに応じて部材の振動モード特性は変化するため、解析モデルから算出される振動モード諸元には誤差が含まれる。
【0083】
このように、教師データの振動モード諸元には、解析モデルを用いて算出されることによる誤差影響が含まれ得ることから、解析モデルにより算出される振動モード諸元に誤差影響を付加することで、より実際に近い振動モード諸元とすることができる。そして、誤差影響を付加した振動モード諸元を教師データとして用いることで、当該教師データから生成される断面評価モデルの精度を高めることができる。
【0084】
[5-1.誤差影響付加処理]
教師データの振動モード諸元への誤差影響の付加は、例えば、各誤差因子それぞれについて算出した振動モード諸元への誤差影響を、解析モデルの教師データに対して反映させることにより行ってもよい。以下、具体例を用いて、
図11に基づき、教師データの振動モード諸元へ誤差影響を付加する誤差影響付加処理の一例を説明する。
図11は、教師データの振動モード諸元への誤差影響付加処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図11に示す誤差影響付加処理は、例えば、断面評価装置100の教師データ生成部110により行えばよい。教師データ生成部110は、鋼部材の板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求めた後、誤差影響付加処理を実行する。あるいは、教師データ生成部110は、ある断面諸元に対して振動モード諸元を求めるたびに誤差影響付加処理を実行してもよい。
【0085】
(S51:各誤差因子による誤差影響の算出)
まず、
図11に示すように、教師データ生成部110は、解析モデルを用いて算出されることによる振動モード諸元への誤差影響について、各誤差因子による誤差影響をそれぞれ算出する(S51)。誤差因子は、振動モード諸元の計測誤差や解析モデルのモデル化誤差等である。
【0086】
(a.振動モード諸元の計測誤差による誤差影響)
振動モード諸元の計測誤差による誤差影響は、有限要素モデルを用いた解析結果(以下、「FEM解析結果」ともいう。)と計測試験結果とを比較することにより評価することができる。例えば、1次~3次の振動モードについて、振動モード諸元として固有振動数f1~f3及びモード振幅Φ1~Φ3を求めるとする。このとき、教師データ生成部110は、有限要素モデルを用いて1~3次のCSMの固有振動数f1~f3及びモード振幅Φ1~Φ3を求める。また、試験体を用いた計測試験により1~3次のCSMの固有振動数f1~f3及びモード振幅Φ1~Φ3を計測する。そして、教師データ生成部110は、FEM解析結果と計測試験結果との差分を、誤差影響としてそれぞれ算出する。
【0087】
具体例として、
図12に、ある試験体のFEM解析結果と計測試験結果とより得られた振動モード諸元の計測誤差の影響を示す。
図12に示すように、固有振動数f
1~f
3については、例えば、FEM解析結果の値と計測試験結果の値との差分を誤差影響とする。モード振幅Φ
1~Φ
3については、例えば、計測試験結果の最大振幅を1として、試験体の複数断面の複数点における計測試験結果の振幅とFEM解析結果の振幅とを換算した値から、下記式(4-1)、式(4-2)を用いて誤差影響(e
f、e
φ)を算出する。なお、式(4-2)において、nは、試験体において振幅を取得する点の数である。
【0088】
【0089】
例えば、試験体について、FEM解析結果と計測試験結果とより
図12に示すような1次のモード形状が取得されたとき、モード振幅の誤差影響は上記式(4)より0.05となる。2次のモード形状及び3次のモード形状についても同様にモード振幅の誤差影響を算出すればよい。このようにして求めた固有振動数の誤差影響とモード振幅の誤差影響とを、振動モード諸元の計測誤差による誤差影響としてもよい。
【0090】
なお、振動モード諸元の計測誤差による誤差影響は、1つの試験体についてのFEM解析結果と計測試験結果とから求めてもよいが、複数の試験体についてFEM解析結果と計測試験結果とより求めた誤差影響の標準偏差等を、振動モード諸元の計測誤差による誤差影響として決定してもよい。
【0091】
(b.解析モデルのモデル化誤差による誤差影響)
次に、解析モデルのモデル化誤差による誤差影響は、有限要素モデルを用いた解析結果(FEM解析結果)に基づき評価することができる。
【0092】
(b-1.境界条件の誤差による誤差影響)
例えば、解析モデルのモデル化誤差の1つである境界条件の誤差については、解析モデルとして使用する単部材モデルを用いた場合の解析結果と、実際の鋼構造物に基づく構造モデルを用いた場合の解析結果とを比較する。具体例として、
図13に示すような、単部材モデルと構造モデルとを考える。単部材モデルは、評価対象の実際の鋼部材から部材長Lが調整されたモデルであって、その両端が完全に固定されているとの境界条件が設定されている。一方、構造モデルは、実際の鋼構造物に基づくものであり、その両端が二次部材により固定されているとの境界条件が設定されている。構造モデルには評価対象の鋼部材だけでなく二次部材も含まれており、全体として解析が行われる。
【0093】
このような単部材モデル及び構造モデルについて、例えば、1次~3次の振動モードについて、振動モード諸元として固有振動数f
1~f
3及びモード振幅Φ
1~Φ
3を求めると、
図13に示すようなモード形状がそれぞれ得られる。教師データ生成部110は、単部材モデルの固有振動数f
1~f
3及びモード振幅Φ
1~Φ
3と、構造モデルの固有振動数f
1~f
3及びモード振幅Φ
1~Φ
3との差分を、境界条件の誤差による誤差影響として算出する。なお、固有振動数f
1~f
3の誤差影響、及び、モード振幅Φ
1~Φ
3の誤差影響は、上述した振動モード諸元の計測誤差による誤差影響と同様に求めればよい。その結果、例えば
図13に示すような固有振動数の誤差影響とモード振幅の誤差影響とが、境界条件の誤差による誤差影響として得られる。
【0094】
なお、境界条件の誤差による誤差影響も、1つの単部材モデル及び構造モデルのケースについてFEM解析結果から求めてもよいが、複数のケースについてFEM解析結果より求めた誤差影響の標準偏差等を、境界条件の誤差による誤差影響として決定してもよい。
【0095】
(b-2.減肉状態の誤差による誤差影響)
また、例えば、解析モデルのモデル化誤差の1つである減肉状態の誤差については、解析モデルとして使用する単部材モデルを用いた場合の解析結果と、実際の鋼部材の腐食に基づく実腐食モデルを用いた場合の解析結果とを比較する。
【0096】
具体例として、
図14に示すような、鋼部材を複数の区画に区分して各区画中の板厚は一定であるとした解析モデルと、板厚が連続的に変化する実際の鋼部材の腐食を表した実腐食モデルとを考える。解析モデルは、例えば
図2に示したように鋼部材を10区画に区分して、区画ごとに同一の板厚を設定する。実腐食モデルは、実腐食状態を概ね表現可能な細かいメッシュピッチ(例えば1mmピッチ)に対応した計測板厚情報を入力したモデルである。
【0097】
教師データ生成部110は、解析モデルの固有振動数f
1~f
3及びモード振幅Φ
1~Φ
3と、実腐食モデルの固有振動数f
1~f
3及びモード振幅Φ
1~Φ
3との差分を、減肉状態の誤差による誤差影響として算出する。なお、固有振動数f
1~f
3の誤差影響、及び、モード振幅Φ
1~Φ
3の誤差影響は、上述した振動モード諸元の計測誤差による誤差影響と同様に求めればよい。その結果、例えば
図14に示すような固有振動数の誤差影響とモード振幅の誤差影響とが、減肉状態の誤差による誤差影響として得られる。
【0098】
なお、減肉状態の誤差による誤差影響も、1つの解析モデル及び実腐食モデルのケースについてFEM解析結果から求めてもよいが、複数のケースについてFEM解析結果より求めた誤差影響の標準偏差等を、減肉状態の誤差による誤差影響として決定してもよい。
【0099】
(S53:総誤差影響の算出)
図11の説明に戻り、教師データ生成部110は、ステップS51にて各誤差因子による誤差影響をそれぞれ算出すると、各誤差因子による誤差影響から総誤差影響を算出する(S53)。解析モデルを用いて算出されることによる総誤差影響は、各誤差因子による誤差影響がそれぞれ独立であるとき、各誤差因子それぞれによる誤差影響の分布の和として表すことができる。すなわち、総誤差影響の平均μ
allは各誤差因子の誤差影響の平均μ
kにより下記式(5-1)で表すことができ、総誤差影響の標準偏差e
allは各誤差因子の誤差影響の標準偏差e
kにより下記式(5-2)で表すことができる。なお、kは、誤差因子の種別を表すインデックスである。
【0100】
【0101】
例えば、
図12~
図14に示した振動モード諸元の計測誤差や解析モデルのモデル化誤差等の各誤差因子の平均μ
kをすべて0と仮定して標準偏差e
kのみに着目すると、
図15に示すような総誤差影響e
allが得られる。なお、上記例では、モード振幅の各出力点を式(4-1)、式(4-2)によりひとまとめにした値として、モード振幅について1~3次の値Φ
1~Φ
3を示しているが、各モード次数において、モード振幅の出力点の数(例えば、
図6のように3点×5断面の計15点)に応じた誤差影響を算出してもよい。
【0102】
(S55:総誤差影響の付加)
ステップS55にて総影誤差影響を算出すると、教師データ生成部110は、教師データの振動モード諸元に総誤差影響を算出する(S53)。総誤差影響を付加する前の教師データ(以下、「元の教師データ」ともいう。)が平均μ、標準偏差σの分布である場合、総誤差影響(平均μall、標準偏差eall)を付加した教師データ(以下、「誤差影響付加済教師データ」ともいう。)の平均μc、標準偏差ecは、下記式(6-1)、(6-2)で表される。
【0103】
【0104】
例えば、1サンプルの教師データについて、元の教師データに対する誤差影響付加の様子を
図16に示す。付加する誤差影響は、例えば、N(μ
all,e
all)の正規分布に従うランダムな値を生成させたものとしてもよい。なお、
図16に示すように、機械学習モデルの出力となる減肉量についても誤差影響は考えられるものの、解析モデルの入力となるモード諸元に考慮される誤差影響により表現されているとして、振動モード諸元に対してのみ誤差影響を付加する。教師データ生成部110は、元の教師データのすべてのサンプルに対して、上述のように誤差影響を付加する。
【0105】
以上、教師データの振動モード諸元への誤差影響付加処理について説明した。教師データ生成部110は、解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求めた後、
図11に示した誤差影響付加処理を行い、誤差影響付加済教師データを生成する。そして、教師データ生成部110は、誤差影響付加済教師データのうち、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、断面評価モデルを生成するための教師データとする。これにより、教師データの振動モード諸元をより実際に近い振動モード諸元とすることができ、このような誤差影響を付加した振動モード諸元を教師データとして用いることで、当該教師データから生成される断面評価モデルの精度を高めることができる。
【0106】
[5-2.検証]
教師データの振動モード諸元に対する誤差影響の付加有無による断面評価モデルの精度を検証した。本検証では、
図2に示した山形鋼を10区画s
j(j=1、2、・・・、10)に区分し、各区画の減肉量を評価する場合を考えた。
【0107】
断面評価モデルの学習用データには、鋼部材の初期板厚からの減少割合を表す減肉量djについて、-10~90%の連続値(1%刻み)で設定したもの(パターン1)と、離散値(0%、20%、40%、60%のいずれかの値を設定)としたもの(パターン2)とを同数(75万個)ずつ用意した。かかる学習用データについて、振動モード諸元については誤差影響付加がない場合(誤差影響付加0%)と、誤差影響付加がある場合(誤差影響付加10%)との2つのセットを用意した。
【0108】
断面評価モデルの評価用データには、減肉量について、連続値を設定したパターン1と離散値を設定したパターン2のテストデータを同数ずつ用意した。テストデータでは、すべての区画において減肉量djが0~80%のいずれかの値を取るものとした。また、かかる評価用データについて、振動モード諸元については誤差影響付加がない場合(誤差影響付加0%)と、誤差影響付加がある場合(誤差影響付加2%、5%、10%、15%、20%)との6つのセットを用意した。
【0109】
断面評価モデルを構築するための機械学習手法としては、LightGBMと、ニューラルネットワークとを用いた。
図17に、教師データへの誤差影響付加がない場合(誤差影響付加0%)に生成された断面評価モデルの平均RMSEと、教師データへの誤差影響付加がある場合(誤差影響付加10%)に生成された断面評価モデルの平均RMSEとを示す。
【0110】
まず、教師データへの誤差影響付加がない場合(誤差影響付加0%)について、LightGBMを用いて生成された断面評価モデルと、ニューラルネットワークを用いて生成された断面評価モデルとを比較すると、誤差影響付加のないテストデータに対してはニューラルネットワークを用いた断面評価モデルの方が高い精度を示した。しかし、誤差影響を一定以上含むテストデータに対しては、LightGBMを用いた断面評価モデルの方が安定していた。これはニューラルネットワークの過学習によるものと考えられる。
【0111】
次に、教師データへの誤差影響付加がある場合(誤差影響付加10%)について、LightGBMを用いて生成された断面評価モデルと、ニューラルネットワークを用いて生成された断面評価モデルとをみると、教師データへの誤差影響付加がない場合と比較して、いずれのモデルにおいても安定性は向上し、テストデータの誤差影響の大きさに寄らず、いずれのモデルの精度も同等となった。また、LightGBMを用いた断面評価モデルの方が、ニューラルネットワークを用いた断面評価モデルに比べて、少ない教師データ数で収束する傾向があることがわかる。
【0112】
このように、教師データへの誤差影響を付加することにより、実計測から得られるモード諸元に対する解析モデルのモード諸元の誤差影響をテストデータに考慮した場合において、生成される断面評価モデルが向上されることがわかる。
【0113】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0114】
例えば、上記実施形態では、鋼部材として山形鋼を取り上げ説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、鋼部材は、H形鋼、溝形鋼、I形鋼等であってもよい。
【0115】
また、上記実施形態では、断面諸元において、減肉量は、山形鋼の例では10区画についてそれぞれ表示したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、鋼部材をより多くの区画に区分して、より細かに減肉量を示してもよい。同様に、断面諸元において、断面積は、山形鋼の例では5区画についてそれぞれ表示したが、減肉量を表示する区画数に応じて、より多くの区画で断面積を表してもよい。
【0116】
さらに上記実施形態では、断面評価モデルは、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元として減肉の位置及び減肉量を出力するモデルであったが、本発明はかかる例に限定されず、教師データとして用いる断面諸元の入力変数に応じて、出力する断面諸元は異なる。例えば、教師データとして、鋼部材の振動モード諸元と鋼部材の断面積(例えば平均断面積Ak)とのデータセットを用い、断面評価モデルを構築することにより、断面評価モデルを用いて、鋼部材の振動モード諸元から鋼部材の断面積(例えば平均断面積Ak)を取得することも可能である。
【0117】
なお、以下の構成も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求め、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを教師データとして複数生成する教師データ生成部と、
前記教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するモデル構築部と、
前記断面評価モデルを用いて、評価対象の鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を取得する断面評価部と、
を備える、鋼部材の断面評価装置。
(2)前記教師データにおいて、
前記断面諸元は、鋼部材に設定された複数の区画それぞれの減肉量を示し、
前記振動モード諸元は、
固有振動数、
もしくは、
固有振動数と、モード振幅またはモード位相のうち少なくとも一方と、
を含む、上記(1)に記載の鋼部材の断面評価装置。
(3)前記教師データ生成部は、
前記解析モデルの部材軸方向におけるモード振幅波形の極値の個数に基づき、モード次数を判定し、
前記モード次数に基づいて、前記断面変化への感度が高い振動モード諸元を抽出する、上記(1)または(2)に記載の鋼部材の断面評価装置。
(4)前記教師データ生成部は、
同一のモード次数と判定した振動モード諸元が複数ある場合に、断面振動に関する特徴を表す判別指標が最大である振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを、前記教師データとして用いる、上記(3)に記載の鋼部材の断面評価装置。
(5)前記教師データ生成部は、
前記断面変化への感度が高い振動モード諸元を抽出した後に、
前記鋼部材の断面諸元として設定された各区画の減肉量の対称度を判定し、
前記対称度に応じて、振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを複製し、前記教師データとする、上記(2)~(4)のいずれか1項に記載の鋼部材の断面評価装置。
(6)前記断面評価部は、
前記断面評価モデルを用いて、前記鋼部材に設定された複数の区画それぞれの減肉量を取得し、
鋼部材の各区画の減肉量に基づいて、前記鋼部材の指定された断面における断面積を算出する、上記(2)~(5)のいずれか1項に記載の鋼部材の断面評価装置。
(7)
前記教師データにおいて、前記振動モード諸元には、前記解析モデルを用いて算出されることによる誤差影響が付加されている、上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の鋼部材の断面評価装置。
(8)
前記誤差影響には、前記振動モード諸元の計測誤差または前記解析モデルのモデル化誤差のうち少なくともいずれか一方を含む、上記(7)に記載の鋼部材の断面評価装置。
(9)前記モデル構築部は、ニューラルネットワークにより前記断面評価モデルを構築する、上記(1)~(8)のいずれか1項に記載の鋼部材の断面評価装置。
(10)鋼部材の断面諸元から振動モード諸元を出力する解析モデルを用いて、板厚分布の異なる複数の断面諸元についてそれぞれ振動モード諸元を求め、断面変化への感度が高い振動モード諸元と断面諸元とのデータセットを教師データとして複数生成する教師データ生成ステップと、
前記教師データを用いて、機械学習により、鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を出力する断面評価モデルを構築するモデル構築ステップと、
前記断面評価モデルを用いて、評価対象の鋼部材の振動モード諸元から断面諸元を取得する断面評価ステップと、
を含む、鋼部材の断面評価方法。
【符号の説明】
【0118】
10 架台
11 主部材
13 斜材
15 束材
100 断面評価装置
110 教師データ生成部
120 モデル構築部
130 断面評価部
S 区画