(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161595
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】アスファルト乳剤の分解剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
E01C 7/24 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
E01C7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071998
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】雑賀 正隆
(72)【発明者】
【氏名】川久保 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】北口 英利
【テーマコード(参考)】
2D051
【Fターム(参考)】
2D051AE01
2D051AF17
2D051AH03
2D051EB06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冬場や夜間といった低温での施工でも分解性に優れるカチオン系アスファルト乳剤の分解剤を提供する。
【解決手段】含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)と、硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩及びチオ硫酸塩から選ばれる少なくとも1種の含硫黄型無機塩(B)と、特定の一般式(1)で示される化合物(C)とを含み、20℃における比重が1.03~1.30である、カチオン系アスファルト乳剤の分解剤。前記界面活性剤(A)が、2種以上の混合物であり、かつ、芳香族系のスルホン酸塩を必須に含むと好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)と、硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩及びチオ硫酸塩から選ばれる少なくとも1種の含硫黄型無機塩(B)と、下記一般式(1)で示される化合物(C)とを含み、20℃における比重が1.03~1.30である、カチオン系アスファルト乳剤の分解剤。
RO-[(PO)p/(EO)q]-H (1)
(式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルケニル基、フェニル基、炭素数7~15のアルキルフェニル基、炭素数7~15のアルコキシフェニル基又はベンジル基を示す。POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を各々示す。pおよびqは、各々の平均付加モル数を示し、p=1~40、q=0~39、p+q=1~40である。[(PO)p/(EO)q]はpモルのPOとqモルのEOとが付加してなるポリオキシアルキレン基である。POとEOの付加形態はランダム付加形態、ブロック付加形態いずれでも良い。)(ただし、Rが水素原子の場合、p=2~40、q=0~39、p+q=2~40とする。)
【請求項2】
前記界面活性剤(A)が、2種以上の混合物であり、かつ、芳香族系のスルホン酸塩を必須に含む、請求項1に記載の分解剤。
【請求項3】
前記化合物(C)の平均分子量(Mw)が1000以下である、請求項1又は2に記載の分解剤。
【請求項4】
20℃における前記化合物(C)の水100gに対する溶解度が20g以下である、請求項1又は2に記載の分解剤。
【請求項5】
炭素数6以上のカルボン酸塩(D)をさらに含む、請求項1又は2に記載の分解剤。
【請求項6】
分解剤に対して、前記界面活性剤(A)の重量割合が0.1~40重量%、前記含硫黄型無機塩(B)の重量割合が0.1~20重量%、前記化合物(C)及び前記カルボン酸塩(D)の合計の重量割合(C+D)が0.1~40重量%である、請求項5に記載の分解剤。
【請求項7】
カチオン系アスファルト乳剤に請求項1又は2に記載の分解剤を接触させる、アスファルト乳剤の散布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト乳剤の分解剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルトは石油を蒸留してナフサやガソリン、灯油、軽油等を取り出した後に得られる最終精製物で、古くから舗装材料に用いられている。
アスファルトは常温では高粘度の半固体または固体であり、その粘着性の高さから取り扱い時の作業性が非常に悪い。
常温での取り扱い時の作業性を改善する手法の一つとして、乳化剤を用いてアスファルトを水に乳化させた形態での利用が知られており、該乳化物はアスファルト乳剤と呼ばれている。
アスファルト乳剤の分類の方法として、使用する乳化剤によりカチオン系、アニオン系、ノニオン系等に分類する方法があり、道路舗装用として使用されるアスファルト乳剤は、カチオン系アスファルト乳剤が大部分を占める。
【0003】
アスファルト乳剤の要求特性としては、アスファルト乳剤製造後から施工現場で使用するまでの間の貯蔵安定性及び、乳剤の移送や散布時に利用するポンプ等によるせん断や圧縮等の外力がかかっても乳化が壊れない機械的安定性が挙げられる。
さらに、施工現場でアスファルト乳剤を散布した後はできるだけ短時間で分解し、速やかに水とアスファルトに分離する事が強く望まれる。
これは、アスファルト中に水分が残存すると、アスファルト本来の粘着性が得られず、接着不良となってしまうが、一般的にアスファルト乳剤散布後は剤中の水分が蒸発して十分に分解するまで待たなければならず、その間は道路の通行規制が必要で、通行開放までに時間がかかるという問題がある事に起因する。
【0004】
かかる問題を解決するために、アスファルト乳剤の乳化を破壊する分解剤を使用する方法が知られており、具体的なカチオン系アスファルト乳剤の分解剤について、特許文献1及び2で提案されている。しかし、十分なアスファルト乳剤の分解性を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-122352号公報
【特許文献2】特開2016-164345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記、分解性が不十分である原因を調査した結果、従来のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、温度依存性があり、特に低温で十分な分解性が得られないことが判明した。
そこで、本発明は、冬場や夜間といった低温での施工でも分解性に優れるカチオン系アスファルト乳剤の分解剤を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定のアニオン性界面活性剤と、特定の含硫黄型無機塩と、特定の構造を有する化合物とを含み、一定の比重を示すカチオン系アスファルト乳剤の分解剤であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)と、硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩及びチオ硫酸塩から選ばれる少なくとも1種の含硫黄型無機塩(B)と、下記一般式(1)で示される化合物(C)とを含み、20℃における比重が1.03~1.30である。
RO-[(PO)p/(EO)q]-H (1)
【0008】
(式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルケニル基、フェニル基、炭素数7~15のアルキルフェニル基、炭素数7~15のアルコキシフェニル基又はベンジル基を示す。POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を各々示す。pおよびqは、各々の平均付加モル数を示し、p=1~40、q=0~39、p+q=1~40である。[(PO)p/(EO)q]はpモルのPOとqモルのEOとが付加してなるポリオキシアルキレン基である。POとEOの付加形態はランダム付加形態、ブロック付加形態いずれでも良い。)(ただし、Rが水素原子の場合、p=2~40、q=0~39、p+q=2~40とする。)
【0009】
カチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、以下の発明特定事項を満たすことが好ましい。
1)前記界面活性剤(A)が、2種以上の混合物であり、かつ、芳香族系のスルホン酸塩を必須に含む。
2)前記化合物(C)の平均分子量(Mw)が1000以下である。
3)20℃における前記化合物(C)の水100gに対する溶解度が20g以下である。
4)炭素数6以上のカルボン酸塩(D)をさらに含む。
5)分解剤に対して、前記界面活性剤(A)の重量割合が0.1~40重量%、前記含硫黄型無機塩(B)の重量割合が0.1~20重量%、前記化合物(C)及び前記カルボン酸塩(D)の合計の重量割合(C+D)が0.1~40重量%である。
【0010】
本発明のアスファルト乳剤の散布方法は、カチオン系アスファルト乳剤に上記分解剤を接触させる散布方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、低温で分解性に優れる効果を有する。本発明のアスファルト乳剤の散布方法は、低温で分解性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)と硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩及びチオ硫酸塩から選ばれる少なくとも1種の含硫黄型無機塩(B)と、下記一般式(1)で示される化合物(C)を含み、20℃における比重が特定の値を示す。
RO-[(PO)p/(EO)q]-H (1)
(式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルケニル基、フェニル基、炭素数7~15のアルキルフェニル基又は炭素数7~15のアルコキシフェニル基、ベンジル基を示す。POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を各々示す。pおよびqは、各々の平均付加モル数を示し、p=1~40、q=0~39、p+q=1~40である。[(PO)p/(EO)q]はpモルのPOとqモルのEOとが付加してなるポリオキシアルキレン基である。POとEOの付加形態はランダム付加形態、ブロック付加形態いずれでも良い。)(ただし、Rが水素原子の場合、p=2~40、q=0~39、p+q=2~40とする。)
【0013】
〔含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)〕
含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)は、本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に必須の成分であり、アスファルト乳剤の油滴表面に存在するカチオン系乳化剤の電荷を中和するとともに、疎水基部分がアスファルト乳剤との親和性を有している為、油滴を破壊し合一を促進する役割をする。界面活性剤(A)は、後述する含硫黄型無機塩(B)、化合物(C)と併用することで、低温分解性に優れる効果を得ることができる。
【0014】
界面活性剤(A)としては、芳香族系のスルホン酸塩、芳香族系のスルホン酸、脂肪族系のスルホン酸、脂肪族系のスルホン酸塩、有機硫酸塩、が挙げられる。
芳香族系のスルホン酸塩又は芳香族系のスルホン酸としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、キシレンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、クメンスルホン酸塩、アルコキシベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
脂肪族系のスルホン酸又は脂肪族系のスルホン酸塩としては、例えば、アルキル又はアルケニルスルホン酸、アルキル又はアルケニルスルホン酸塩、メラミンスルホン酸、メラミンスルホン酸塩、アルキルメラミンスルホン酸、アルキルメラミンスルホン酸塩、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、アルキルメラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルメラミンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、アルキルスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸アミドスルホン酸、脂肪酸アミドスルホン酸塩等が挙げられる。
【0015】
有機硫酸塩としては、例えば、アルキル硫酸、アルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、オレイン酸イソブチル硫酸エステル、アルキルフェニル硫酸、アルキルフェニル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、油脂の硫酸化物、油脂の硫酸化物の塩、硬化油脂の硫酸化物、硬化油脂の硫酸化物の塩、不飽和脂肪酸エステルの硫酸化物、不飽和脂肪酸エステルの硫酸化物の塩等が挙げられる。
【0016】
含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)の中でも、本願の効果を発揮する観点から、芳香族系のスルホン酸塩を必須で含むと、好ましい。
含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)の中でも、本願の効果を発揮する観点から、アルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂の硫酸化物の塩、不飽和脂肪酸エステルの硫酸化物の塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル又はアルケニルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩又はアルコキシベンゼンスルホン酸塩が好ましく、これらの2種以上の混合物であると、低温でのアスファルト乳剤の分解性が向上する観点から、さらに好ましい。
【0017】
アルキル硫酸塩のアルキル基は、低温でのアスファルト乳剤の分解性が向上する観点から、炭素数が4~30が好ましく、6~22がより好ましく、8~18がさらに好ましい。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩のアルキル基は、低温でのアスファルト乳剤の分解性が向上する観点から、炭素数が4~30が好ましく、6~22がより好ましく、8~18がさらに好ましい。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩のポリオキシアルキレン基としては、たとえば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、これらの基を構成する単量体から2種以上を選び重合して得られる基等を挙げることができる。ポリオキシアルキレン基の付加モル数としては、1~30が好ましい。
【0018】
アルキルスルホン酸のアルキル基は、低温でのアスファルト乳剤の分解性が向上する観点から、炭素数が4~30が好ましく、6~22がより好ましく、8~18がさらに好ましい。アルキルスルホン酸のアルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、アルキル基に分布があるものでもよい。
アルキルスルホン酸としては、特に限定されないが、例えば、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、デカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、テトラデカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、オクタデカンスルホン酸、イコサンスルホン酸、ヘンイコサンスルホン酸等が挙げられる。
【0019】
有機スルホン酸の塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩又はアンモニウム塩等が挙げられ、中でも入手の容易さ、安全性、及び環境への影響から、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
【0020】
アルキルベンゼンスルホン酸としては、オクチルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸等が挙げられる。
【0021】
アルキルスルホコハク酸としては、ジオクチルスルホコハク酸、ジデシルスルホコハク酸、ジドデシルスルホコハク酸、ジトリデシルスルホコハク酸、オクチルスルホコハク酸、デシルスルホコハク酸、ドデシルスルホコハク酸、トリデシルスルホコハク酸等が挙げられる。
【0022】
〔含硫黄型無機塩(B)〕
含硫黄型無機塩(B)は、本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に必須の成分であり、硫酸イオン、亜硫酸イオン、亜硫酸水素イオン、チオ硫酸イオンがアスファルト乳剤の油滴表面に存在するカチオン系乳化剤の電荷を中和するのに寄与するとともに、分解剤の比重を特定の範囲に調整することができ、先に散布したアスファルト乳剤との比重差により自然混合が促進され、散布時に接触した表層部分だけでなく、非接触の下層部分まで速やかに分解が進行するという効果を得ることができる。
【0023】
含硫黄型無機塩(B)としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸銀、硫酸ジルコニル、硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。
中でも、入手の容易さ、安全性、及び環境への影響から、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、チオ硫酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
〔化合物(C)〕
化合物(C)は、上記一般式(1)で示される。
式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルケニル基、フェニル基、炭素数7~15のアルキルフェニル基又は炭素数7~15のアルコキシフェニル基、ベンジル基を示す。POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を各々示す。
炭素数1~8のアルキル基の場合、炭素数が1~6が好ましく、炭素数1~4がより好ましい。
pおよびqは、各々の平均付加モル数を示し、p=1~40、q=0~39、p+q=1~40である。
pは、本願効果を奏する観点から、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、1~15がさらに好ましく、1~12が特に好ましい。
qは、本願効果を奏する観点から、0~30が好ましく、0~20がより好ましく、0~10がさらに好ましく、特に0~8が好ましい。
p+qは、本願効果を奏する観点から、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~8が特に好ましい。
【0025】
[(PO)p/(EO)q]は、POとEOの付加形態を示すが、ランダム付加形態、ブロック付加形態のいずれでも良い。
Rが水素原子の場合、p=2~40、q=0~39、p+q=2~40とする。
化合物(C)の平均分子量(Mw)は、本願効果を奏する観点から、1000以下が好ましく、800以下がより好ましく、600以下がさらに好ましい。化合物(C)の平均分子量(Mw)の好ましい下限値は、90である。
本願効果を奏する観点から、p>qが好ましい。
【0026】
化合物(C)の20℃における前記化合物(C)の水100gに対する溶解度は、本願効果を奏する観点から、20g以下が好ましく、15g以下がより好ましく、10g以下がさらに好ましい。化合物(C)の20℃における前記化合物(C)の水100gに対する溶解度の下限値は0である。
【0027】
化合物(C)としては、例えば、ポリオキシアルキレンメチルエーテル、ポリオキシアルキレンエチルエーテル、ポリオキシアルキレンプロピルエーテル、ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンヘキシルエーテル、ポリオキシアルキレンオクチルエーテル、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンベンジルエーテル、ジプロピレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。
【0028】
〔炭素数6以上のカルボン酸塩(D)〕
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、低温でのアスファルト乳剤の分解性が向上する観点から、炭素数6以上のカルボン酸塩(D)をさらに含むと好ましい。
炭素数6以上のカルボン酸塩(D)としては、例えば、モノ塩基酸のアルカリ金属塩、多価カルボン酸のアルカリ金属塩、芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0029】
モノ塩基酸のアルカリ金属塩の原料となる脂肪酸は、アルキル基の炭素数に分布があってもよく、アルキル基は直鎖状であっても分岐を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。アルキル基の炭素数は6~24が好ましく、8~22がより好ましく、8~20がさらに好ましく、8~18が特に好ましい。モノ塩基酸のアルカリ金属塩としては、例えば、カプリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、椰子脂肪酸ナトリウム、牛脂脂肪酸ナトリウム、ヒマシ油脂肪酸ナトリウム、ナフテン酸ナトリウム等が挙げられる。
多価カルボン酸のアルカリ金属塩としては、例えば、アジピン酸二ナトリウム、ピメリン酸二ナトリウム、スベリン酸二ナトリウム、セバシン酸二ナトリウム、ウンデカン酸二ナトリウム、ドデカン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩は、例えば、安息香酸ナトリウム、フタル酸ナトリウム、テレフタル酸ナトリウム、ヒドロキシ安息香酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、アニス酸ナトリウム、及びケイ皮酸ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
〔カチオン系アスファルト乳剤の分解剤〕
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の20℃における比重は1.03~1.30であり、1.03~1.20が好ましく、1.03~1.15がより好ましい。1.03未満では非接触の下層部分まで分解が進行しない。一方、1.30超では、低温でのアスファルト乳剤の分解性が劣る。
【0031】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の20℃における粘度は、低温でのアスファルト乳剤の分解性、広範囲への均一散布に優れる観点から、500mPa・S以下が好ましく、400mPa・S以下がより好ましく、300mPa・S以下がさらに好ましく、200mPa・S以下が特に好ましい。低温でのアスファルト乳剤の分解性が優れる観点から、好ましい下限値は0.1mPa・Sである。
【0032】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に占める含硫黄型アニオン性界面活性剤の重量割合は、即時分解性に優れる観点から、0.1~40.0重量%が好ましく、1.0~30.0重量%がより好ましく5.0~25.0重量%がさらに好ましく、8.0~25.0重量%が特に好ましい。
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に占める含硫黄型無機塩の重量割合は、0.1~20.0重量%が好ましく、0.5~15.0重量%がより好ましく1.0~10.0重量%がさらに好ましい。0.1重量%未満では非接触の下層部分まで分解が進行しないことがある。20.0重量%超では分解剤溶液の安定性が低下し均一散布が困難となることがある。
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に占める化合物(C)及びカルボン酸塩(D)の合計の重量割合(C+D)の重量割合は、0.1~40.0重量%が好ましく、1.0~35.0重量%がより好ましく、3.0~30.0重量%がさらに好ましく、5.0~25.0重量%が特に好ましい。0.1重量%未満では非接触の下層部分まで分解が進行しないことがある。40.0重量%超では分解剤溶液の安定性が低下し均一散布が困難となることがある。
【0033】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤のpHは、低温でのアスファルト乳剤の分解性、散布時の安全性、及び環境への影響から、5.0~8.0が好ましく、5.5~7.5がより好ましい。
【0034】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、JIS-K2208に規定するカチオン系アスファルト乳剤「PK-4」又は日本アスファルト乳剤協会規格JEAASに規定された「PKM-T」、「PKM-T-Q」に用いると、乳化剤の種類や、その他の成分の影響を受けずに本願の効果を発現するため、好ましい。
【0035】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、その効果を阻害しない程度にその他の成分として水溶性溶剤、乳化・可溶化剤、消泡剤等を使用しても良い。
【0036】
前記水溶性溶剤としては、特に限定はないが、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、2-エトキシエタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、フェノキシエタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記乳化・可溶化剤としては、特に限定はないが、たとえば、本発明の含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)及び炭素数6以上のカルボン酸塩(D)以外のアニオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が挙げられ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記消泡剤としては、特に限定はないが、たとえば、エステル系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、鉱物油系消泡剤、シリコーン系消泡剤、粉末消泡剤等が挙げられ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に占めるその他の成分の重量割合については、特に限定はないが、好ましくはカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の0.001~50重量%、より好ましくは0.01~30重量%、さらに好ましくは0.01~20重量%、特に好ましくは0.01~10重量%である。その他の成分の重量割合がカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の0.001重量%未満であると、カチオン系アスファルト乳剤の分解剤の品質が低下する場合がある。一方、その他の成分の重量割合が50重量%超であると、本願の効果が十分でないことがある。
【0040】
〔カチオン系アスファルト乳剤の分解剤の製造方法〕
本発明の分解剤の製造方法としては、未溶解・未分散の成分の残存がなく、均一に溶解・分散していれば良く、特に限定はないが、たとえば、次の各方法が挙げられる。
(1)攪拌下、水及び/又は溶媒中に含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)、含硫黄型無機塩(B)、化合物(C)、炭素数6以上のカルボン酸塩(D)を少量ずつ添加し混合する方法
(2)含硫黄型無機塩(B)を攪拌しながら水及び/又は溶媒に溶解した後、充分攪拌しながら含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)、化合物(C)、炭素数6以上のカルボン酸塩(D)を少量ずつ添加し混合する方法
(3)硫黄型アニオン性界面活性剤(A)、化合物(C)、炭素数6以上のカルボン酸塩(D)を水及び/又は溶媒に高濃度で溶解したもの(a)と、含硫黄型無機塩(B)を水に高濃度で溶解したもの(b)を別々に作製し、(a)を充分攪拌しながら(b)を少量ずつ添加し混合する方法
(4)硫黄型アニオン性界面活性剤(A)、含硫黄型無機塩(B)、化合物(C)、炭素数6以上のカルボン酸塩(D)各成分を水及び/又は溶媒に高濃度で溶解したものを別々に作製し、充分攪拌しながら混合する方法
【0041】
〔アスファルト乳剤の分解剤の散布方法〕
本発明のアスファルト乳剤の分解剤の散布方法は、前記カチオン系アスファルト乳剤に本発明の分解剤を接触させる散布方法である。
アスファルト乳剤の分解剤はアスファルト乳剤と同時に散布してもよく、アスファルト乳剤散布後に、その上から分解剤を散布してもよい。
アスファルト乳剤は道路路盤や基層、表層に散布される他、法面や壁面等の吹き付け防水等にも利用されるが、本発明のアスファルト乳剤の分解剤は即時分解性に優れることから、これらの用途にも利用することが可能である。
散布の際は斑なく均一にする為、霧状にして散布することが好ましく、たとえば小規模の舗装であれば、エンジンスプレーヤ、ギアスプレーヤ、エア-スプレーヤ、ハンドスプレーヤ、エアレスポンプスプレーヤー等を用いてもよく、大規模舗装では、アスファルトスプレーヤ、アスファルトディストリビュータ、乳剤散布機能付きアスファルトフィニッシャ等のアスファルト乳剤を散布する装置を用いてもよい。
分解剤の散布量は、低温でのアスファルト乳剤の分解性が優れる観点から、乳剤100部に対して10部以上が好ましい。
【実施例0042】
〔分解剤の製造〕
表1~5に示す質量比となるように、実施例1~22及び比較例1~11のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤を上記(3)の方法で製造した。
実施例1~22及び比較例1~11の各カチオン系アスファルト乳剤の分解剤の比重及び粘度を次のように測定した結果を表1~5に示す。
アスファルト乳剤の分解性試験を次のように行った。その試験結果を表6に示す。
【0043】
〔比重〕
JIS-Z8804-9記載の方法に準拠し、温度20℃に於けるカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の比重を測定した。
密度比重計:京都電子工業製 DA-200
【0044】
〔粘度〕
ブルックフィールド型粘度計を用いて、温度20℃に於けるカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の粘度を測定した。
【0045】
〔アスファルト乳剤の分解性試験〕
縦150mm×横150mm×厚さ3mmのスレートボード上に、カチオン系アスファルト乳剤PK-4 0.4L/m2を均一に塗布し自然乾燥させたものを試験用基盤とした。試験用基盤は5℃と20℃の恒温槽で4時間以上養生し、カチオン系アスファルト乳剤、分解剤は20℃の恒温槽で4時間以上養生した。各温度で養生した試験用基盤にカチオン系アスファルト乳剤PK-4 0.4L/m2を塗布し、速やかにその上部よりスプレーでアスファルト乳剤量の10wt%の分解剤を散布した後、再度5℃と20℃の恒温槽に戻し静置した。
直後から1分後、3分後、5分後、10分後の乳剤の分解状態を観察した。
○ アスファルトが皮膜化しており、下層まで分解
△1 表面は分解し皮膜化しているが、下層は未分解の乳剤が残存
△2 下層まで分解しているが皮膜化せず、凝集物が沈降
× アスファルトが皮膜化せず、未分解の乳剤が残存
10分以内に下層まで分解しアスファルトが皮膜化すれば合格、10分を超えてもアスファルト乳剤が分解せず残存する場合や、分離したアスファルトが皮膜化しない場合を不合格とした。
【0046】
なお、表中の化合物(C)の分子量、20℃における水100gに対する溶解度(g/100g)は、以下の通りである。
POP(2)メチルエーテル 分子量:148 溶解度:>100
POP(2)プロピルエーテル 分子量:176 溶解度:5.0
POP(1)ブチルエーテル 分子量:132 溶解度:6.8
POP(2)ブチルエーテル 分子量:190 溶解度:3.1
POE(3)POP(5)ブチルエーテル 分子量:497 溶解度:16.0
POE(4)POP(12)ブチルエーテル 分子量:947 溶解度:0.3
POP(1)フェニルエーテル 分子量:152 溶解度:0.2
POP(3)フェニルエーテル 分子量:268 溶解度:<0.1
ポリプロピレングリコール2000 分子量:2000 溶解度:<0.1
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
表1~6から分かるように、実施例1~22に係るカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)と、硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩及びチオ硫酸塩から選ばれる少なくとも1種の含硫黄型無機塩(B)と、上記一般式(1)で示される化合物(C)とを含み、20℃における比重が1.03~1.30であるため、本願の課題を解決できている。
一方、含硫黄型無機塩(B)がない(比較例1、3、5及び8)、含硫黄型アニオン性界面活性剤(A)がない(比較例2、3、6及び7)、化合物(C)がない(比較例1,2,4,9及び10)、比重が低い(比較例1、3、5及び11)ため、本願の課題が解決できていない。