(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161598
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】ポリロタキサン添加によるポリマーへの分解性の付与
(51)【国際特許分類】
C08G 81/00 20060101AFI20231031BHJP
C08G 65/331 20060101ALI20231031BHJP
C08G 65/333 20060101ALI20231031BHJP
C08G 65/334 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
C08G81/00
C08G65/331
C08G65/333
C08G65/334
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072001
(22)【出願日】2022-04-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 耕三
(72)【発明者】
【氏名】安藤 翔太
【テーマコード(参考)】
4J005
4J031
【Fターム(参考)】
4J005AA03
4J005BD06
4J031AA15
4J031AA53
4J031AA56
4J031AB01
4J031AB04
4J031AC08
4J031AD01
4J031AE15
(57)【要約】
【課題】刺激により分解可能なポリロタキサンとポリマーの架橋体を提供すること。
【解決手段】1または複数のポリマー鎖と、複数の環状分子と、前記複数の環状分子を貫通し、かつ両端に前記複数の環状分子の鎖状分子からの脱離を防止する封鎖基を有する鎖状分子とを備えたポリロタキサンであって、前記複数の環状分子が前記1または複数のポリマー鎖と結合されているとともに、前記鎖状分子と前記封鎖基が分解性結合を介して結合されているポリロタキサンと、を備えた架橋体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数のポリマー鎖と、
複数の環状分子と、前記複数の環状分子を貫通し、かつ両端に前記複数の環状分子の鎖状分子からの脱離を防止する封鎖基を有する鎖状分子とを備え、前記複数の環状分子が前記1または複数のポリマー鎖と結合されているとともに、前記鎖状分子と前記封鎖基が分解性結合を介して結合されているポリロタキサンと、
を備えた架橋体。
【請求項2】
前記分解性結合が、熱分解性結合、光分解性結合、酸分解性結合、または酵素分解性結合である請求項1に記載の架橋体。
【請求項3】
前記複数の環状分子と前記1または複数のポリマー鎖との間の結合が共有結合である請求項1に記載の架橋体。
【請求項4】
前記1または複数のポリマー鎖が、複数の環状分子の各々の官能基と反応性の官能基を有するポリマー鎖を含む請求項1~3のいずれかに記載の架橋体。
【請求項5】
前記環状分子が、水酸基の一部または全部が-O-(CHR1)n-CHR2-OH(式中、R1はH、メチル基、またはエチル基であり、R2はH、メチル基、またはエチル基であり、nは1~6の整数である)で置換されたシクロデキストリンを含み、前記ポリロタキサンの包接率が1~22%である請求項1に記載の架橋体。
【請求項6】
請求項1に記載の架橋体の分解方法であって、
前記架橋体に刺激を加え、前記鎖状分子と前記封鎖基の間の前記分解性結合を切断することを含む方法。
【請求項7】
前記分解性結合を切断することは、分解性結合を切断し、それにより、前記複数の環状分子を前記鎖状分子から脱離させ、かつ前記1または複数のポリマー鎖を前記鎖状分子による拘束から解放させることを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1または複数のポリマー鎖が第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖を含み、前記鎖状分子に串刺し状に貫通された前記複数の環状分子が第1の環状分子と第2の環状分子を含み、前記第1の環状分子と前記第1のポリマー鎖が結合し、前記第2の環状分子と前記第2のポリマー鎖が結合し、
前記分解性結合を分解し、それにより、第1の環状分子と結合された前記第1のポリマー鎖と、前記第2の環状分子と結合させた前記第2のポリマー鎖とを、前記鎖状分子から解放させて分離することを含む請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記刺激は可視光線または紫外線である請求項6~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記刺激を加えた後で、前記架橋体の貯蔵弾性率が、刺激を加える前と比較して50%以下に低下する請求項6~8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリロタキサンとポリマー鎖とを含む架橋体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリロタキサンを種々の高分子材料へ添加すると、材料の靭性が向上することが知られている。例えば非特許文献1は、ポリ乳酸にポリロタキサンをグラフトすることにより靭性が増大することについて開示している。非特許文献2は、ポリロタキサンを架橋剤として用いるとエラストマーの靭性が改善されることについて記載している。
【0003】
一方で、ポリロタキサンを添加した高分子材料は、使用後には分解処理することができれば望ましい。ポリロタキサンの鎖状分子に分解性部分を設けて、ポリロタキサン自体の分解性を高める試みがなされている(非特許文献3、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表WO2017/191827
【特許文献2】特願2021-176932
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Inclusion Phenomena and Macrocyclic Chemistry volume 93, pages107-116 (2019)
【非特許文献2】SCIENCE ADVANCES, 12 Oct 2018, Vol 4, Issue 10
【非特許文献3】Tae Woong Kang et al., Polym. Chem., 2021, 12 3794
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリロタキサンが分解性部分を有し、外部刺激により分解を促進できる、ポリロタキサンと複数のポリマー鎖とを含む架橋体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.1または複数のポリマー鎖と、
複数の環状分子と、前記複数の環状分子を貫通し、かつ両端に前記複数の環状分子の鎖状分子からの脱離を防止する封鎖基を有する鎖状分子とを備え、前記複数の環状分子が前記1または複数のポリマー鎖と結合されているとともに、前記鎖状分子と前記封鎖基が分解性結合を介して結合されているポリロタキサンと、
を備えた架橋体。
項2.前記分解性結合が、熱分解性結合、光分解性結合、酸分解性結合、または酵素分解性結合である項1に記載の架橋体。
項3.前記複数の環状分子と前記1または複数のポリマー鎖との間の結合が共有結合である項1に記載の架橋体。
項4.前記1または複数のポリマー鎖が、複数の環状分子の各々の官能基と反応性の官能基を有するポリマー鎖を含むポリビニルアルコール、ポリウレタン、またはそれらの組み合わせを含む項1~3のいずれかに記載の架橋体。
項5.前記環状分子が、水酸基の一部または全部が-O-(CHR1)n-CHR2-OH(式中、R1はH、メチル基、またはエチル基であり、R2はH、メチル基、またはエチル基であり、nは1~6の整数である)で置換されたシクロデキストリンを含み、前記ポリロタキサンの包接率が1~22%である項1に記載の架橋体。
項6.項1に記載の架橋体の分解方法であって、
前記架橋体に刺激を加え、前記鎖状分子と前記封鎖基の間の前記分解性結合を切断することを含む方法。
項7.前記分解性結合を切断することは、分解性結合を切断し、それにより、前記複数の環状分子を前記鎖状分子から脱離させ、かつ前記1または複数のポリマー鎖を前記鎖状分子による拘束から解放させることを含む項6に記載の方法。
項8.前記1または複数のポリマー鎖が第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖を含み、前記鎖状分子に串刺し状に貫通された前記複数の環状分子が第1の環状分子と第2の環状分子を含み、前記第1の環状分子と前記第1のポリマー鎖が結合し、前記第2の環状分子と前記第2のポリマー鎖が結合し、
前記分解性結合を分解し、それにより、第1の環状分子と結合された前記第1のポリマー鎖と、前記第2の環状分子と結合させた前記第2のポリマー鎖とを、前記鎖状分子から解放させて分離することを含む項6に記載の方法。
項9.前記刺激は可視光線または紫外線である項6~8のいずれかに記載の方法。
項10.前記刺激を加えた後で、前記架橋体の貯蔵弾性率が、刺激を加える前と比較して50%以下に低下する項6~8のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の架橋体によれば、ポリロタキサンの分解性部分を切断することにより、分解を促進することができる架橋体が提供される。また、本発明の分解方法によれば、かかる架橋体を外部刺激により分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)本発明の実施形態の架橋体の模式図、(B)刺激により分解性結合が切断されて架橋体が分解された状態の模式図。
【
図2】引張り試験における各TD-PR添加ポリビニルアルコール樹脂のサンプルの応力と歪みの関係を示すグラフ。
【
図5】引張り試験における各TD-PR添加ポリビニルアルコール樹脂のサンプルの応力と歪みの関係を示すグラフ。
【
図6】引張り試験における各TD-PR添加ポリウレタン樹脂のサンプルの応力と歪みの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「靭性」とは、すなわち材料の粘り強さであって、破壊に対する抵抗性を指す。
【0011】
本明細書において、「擬ポリロタキサン」とは、環状分子の開口部を鎖状分子が串刺し状に貫通した分子を指す。「擬ポリロタキサン」の鎖状分子の一端または両端には、環状分子の鎖状分子からの脱離を防止する封鎖基が配置されていない。
【0012】
本明細書において、「ポリロタキサン」とは、「擬ポリロタキサン」の鎖状分子の両端に、環状分子の鎖状分子からの脱離を防止する封鎖基を配置してなるものを指す。
【0013】
本明細書において、「重量%」は「質量%」、「重量部」は「質量部」と、それぞれ互換的に使用することができる。
【0014】
本発明の一態様によれば、1または複数のポリマー鎖と、複数の環状分子と前記複数の環状分子を貫通し、かつ両端に複数の環状分子の前記鎖状分子からの脱離を防止する封鎖基を有する鎖状分子とを備えたポリロタキサンであって、複数の環状分子が前記1または複数のポリマー鎖と結合されているとともに、鎖状分子と封鎖基が分解性結合を介して結合されているポリロタキサンと、を備えた架橋体が提供される。
【0015】
架橋体は、架橋複合体または架橋ポリマー複合体と称することもできる。
【0016】
前記1または複数のポリマー鎖は、特に限定されず、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、エラストマー、ゴムなどのいずれのポリマーから形成されたポリマー鎖であってもよい。
【0017】
そのようなポリマーの例としては、ポリエステル、ポリウレタン(熱可塑性ポリウレタン)、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン)、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリ(メタ)アクリル、ポリアミド、ポリイミド、エチレン酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ノボラック樹脂などの熱可塑性ポリマー;ポリウレタン(熱硬化性ポリウレタン)、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレア、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、ポリイミドなどの熱硬化性ポリマー;イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム;ポリスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー(熱可塑性ポリマーおよびゴムであるものを除く)などが挙げられる。なお、エラストマーは、弾性を発現する部分であるソフトセグメントと、架橋点であるハードセグメントとを有する。
【0018】
1または複数のポリマー鎖は、ポリロタキサンが均一に分散する材料が好ましく、架橋点となる官能基を側鎖や末端に有するものがなお好ましい。
【0019】
前記1または複数のポリマー鎖は、複数の環状分子の各々の官能基と反応性の官能基を有するポリマー鎖を含むことが好ましい。
【0020】
1または複数のポリマー鎖は、ポリロタキサンが均一に分散されるポリマーが好ましい。ポリロタキサンとの架橋点を形成する官能基(水酸基など)を側鎖や末端に有するポリマーが、なお好ましい。
【0021】
中でも、複数の環状分子の各々の官能基と反応性の官能基を有し、ポリロタキサンとの相溶性が良好で、架橋体の靭性の増大の点で、1または複数のポリマー鎖は、ポリビニルアルコール、ポリウレタンなどが好ましい。
【0022】
前記1または複数のポリマー鎖の各々は、マクロモノマーのみからなってもよいし、あるモノマー(モノマーとしてマクロモノマーも含む)のみからなるホモポリマーであってもよいし、2種以上のモノマー(モノマーとしてマクロモノマーも含む)からなるコポリマーであってもよい。コポリマーの場合、該コポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、交互コポリマーまたはその他の形態のコポリマーであってもよい。1または複数のポリマー鎖は、1種類のポリマー鎖であってもよいし、2種類以上のポリマー鎖であってもよい。
【0023】
前記1または複数のポリマー鎖の各々はさらに、ポリロタキサンに付与する所望の特性;および/または用いるモノマー;などに依存して、種々の官能基を有することができる。それには、例えば、水酸基、アミノ基、スルフォン酸基、カルボン酸基、アルコキシシラン基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アンモニウム塩基などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0024】
複数の環状分子と結合させる前の1または複数のポリマー鎖各々の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が1000~5000000、好ましくは5000~1000000、より好ましくは10000~700000である。あるいは、数平均分子量が、1000~5000000、好ましくは5000~1000000、より好ましくは10000~700000である。
【0025】
前記1または複数のポリマー鎖同士は、結合していなくてもよいし、結合していてもよい。1または複数のポリマー鎖同士が結合している場合、1または複数のポリマー鎖の官能基同士が直接反応して結合を形成してもよいし、1または複数のポリマー鎖が架橋剤を介して連結されてもよい。ただし、1または複数のポリマー鎖間の結合は、後述の鎖状分子と封鎖基との間の分解性結合の切断により引き起こされる本態様の架橋体の分解を妨げない程度とすることが望ましい。
【0026】
本態様の架橋体において、ポリロタキサンは、ポリロタキサンを添加しない場合と比較して1または複数のポリマー鎖の靭性を高め、かつ刺激による架橋体の分解を促進するために添加される。
【0027】
ポリロタキサンを構成する環状分子としては、例えばα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラウンエーテル、ピラーアレン、カリックスアレン、シクロファン、ククルビットウリルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。擬ポリロタキサンの形成能の点から、環状分子は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、またはγ-シクロデキストリンであることが好ましい。
【0028】
環状分子は、置換基を有しなくてもよいし、1または複数の置換基を有していてもよい。環状分子としてシクロデキストリンを使用する場合、シクロデキストリンの水酸基の一部または全部に置換基を導入することができる。そのような置換基としては、例えば、-O-(CHR1)n-CHR2-OH(式中、R1はH、メチル基、またはエチル基であり、R2はH、メチル基、またはエチル基であり、nは1~6の整数である)が挙げられる。シクロデキストリン(α-、β-、またはγ-シクロデキストリン)の水酸基がこのような置換基により置換されたポリロタキサンは包接率が1~22%と低く、靭性の増大の点で好ましい。包接率は好ましくは1~15%、より好ましくは1~10%である。
【0029】
また、環状分子は、所望とする架橋体の特性などに依存して、その他の基、例えば、1) ヒドロキシ基を有する炭化水素基、-NH2 、アミノ基を有する炭化水素基、カルボキシル基、メチル基、およびチオール基からなる群から選択される基、2)アクリル基、メタクリル基、スチリル基、ビニル基、およびビニリデン基からなる群から選択される重合性基; などを有してもよい。
【0030】
ヒドロキシ基を有する炭化水素基としては、2-ヒドロキシエトキシエチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシエトキシエチル基などが挙げられる。
【0031】
アミノ基を有する炭化水素基としては、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、N,N-ジメチルアミノエチル基などが挙げられる。
【0032】
環状分子は複数種の置換基を含んでいてもよい。
【0033】
ポリロタキサンを構成する鎖状分子は、一本鎖の鎖状分子であってもよいし、分岐鎖であってもよい。
【0034】
本願において、鎖状分子は、環状分子の開口部を貫通することができる鎖状分子であれば、特に限定されない。
【0035】
鎖状分子としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、カゼイン、ゼラチン、でんぷん、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、またはこれらの共重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらとその他のオレフィン単量体との共重合体;ポリエステル、ポリ塩化ビニル;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体;ポリメチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、またはアクリロニトリル-メチルアクリレート共重合体;ポリカーボネート、ポリウレタン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類;ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類;ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選択されるポリマーが挙げられる。
【0036】
擬ポリロタキサンの形成能の点から、鎖状分子は、例えば、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールおよびポリビニルメチルエーテルからなる群から選択されることが好ましい、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールが特に好ましい。これらのポリマーから選択された異なる2種以上が、鎖状分子の少なくとも2つまたは少なくとも3つのブロックを形成することができる。
【0037】
鎖状分子の平均分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が500~500000、好ましくは1000~100000、より好ましくは2000~40000、より好ましくは5000~20000であるのがよい。あるいは、数平均分子量が、500~500000、好ましくは1000~100000、より好ましくは2000~40000、より好ましくは5000~20000であるのがよい。鎖状分子の重量平均分子量および数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)で測定することができる。GPCの測定条件は、鎖状分子の種類にも依るが、溶離液やカラムの種類、温度、標準物質、流速を適切に選択するのがよい。
【0038】
鎖状分子は、その全体が同じモノマーの繰り返し構造であるポリマーであってもよいし、少なくとも2つのブロックを備えるブロックコポリマーであってもよいし、少なくとも3つのブロックを備えるブロックコポリマーであってもよい。
【0039】
なお、「ブロックコポリマー」の各ブロックは、1つの繰り返し単位のみからなるのが好ましい。「ブロックコポリマー」の隣接するブロック間は、直接接続していてもよいし、スペーサ基が設けられてもよい。
【0040】
スペーサ基として、例えば、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基(一部、フェニル基などの芳香族環で置換されてもよい); 炭素数1~20の直鎖または分岐鎖のエーテル類; 炭素数1~20の直鎖または分岐鎖のエステル類;炭素数6~24の芳香族基、例えばフェニル基などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0041】
環状分子は、少なくとも2つのブロックを備える鎖状分子の、該少なくとも2つのブロックのうちの1つのブロックや、少なくとも3つのブロックのうちの1つのブロック(特には中央のブロック)に包接されてもよい。
【0042】
また、鎖状分子は、水溶性鎖状分子であるのが好ましい。水溶性鎖状分子は、水溶性、例えば水1Lに1g溶解することが可能という特性を有する限り、特に限定されない。
【0043】
水溶性鎖状分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリペプチド、およびポリエチレングリコールを含む共重合体を挙げることができるが、これに限定されない。即ち、水溶性鎖状分子は、上記に挙げたポリマー種からなる群から選ばれる少なくとも1種、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、およびポリエチレングリコールを含む共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種、より好ましくはポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
【0044】
鎖状分子が1種類のポリマーからなる水溶性鎖状分子である場合、ポリエチレングリコールのみ、ポリプロピレングリコールのみ、ポリビニルアルコールのみ、ポリエチレンイミンのみ、またはポリエチレングリコールのみからなるポリマーであり得る。鎖状分子が3つのブロックからなる水溶性鎖状分子である場合、中央のブロックがポリプロピレングリコールで、その両側がポリエチレングリコールであり得る。
【0045】
水溶性鎖状分子の分子量(数平均分子量または重量平均分子量)は、特に限定されないが、500~500000、好ましくは1000~50000、より好ましくは2000~20000であるのがよい。
【0046】
本明細書において、包接率とは、鎖状分子への環状分子の最大包接量に対する鎖状分子を包接している環状分子の包接量の割合をいう。包接率は、例えば核磁気共鳴スペクトル測定(NMR)ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定により求めることができる。
【0047】
ポリロタキサンの包接率は、0.1~100%であることが好ましく、0.1~50%であることがより好ましく、1~50%であることがさらに好ましく、1~30%であることが最も好ましい。
【0048】
鎖状分子の両末端は、鎖状分子からの環状分子の脱落を防止するための封鎖基と反応し得る反応基を有することが好ましく、これにより、後述の封鎖基が鎖状分子の両末端に結合されやすくなる。反応基としては、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、およびチオール基、ジスルフィド、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スルホ基等が例示される。好ましくはアミノ基、アルボキシル基である。
【0049】
ポリロタキサンの鎖状分子に結合される封鎖基は、環状分子の鎖状分子からの脱離を防止するように作用する基であれば、特に限定されない。 例えば、封鎖基として、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン、シルセスキオキサン、ピレン、置換ベンゼン(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つまたは複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つまたは複数存在してもよい。)、およびステロイドからなる群から選ばれるのがよい。 なお、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン、シルセスキオキサン、およびピレンからなる群から選ばれるのが 好ましく、より好ましくはアダマンタン基またはシクロデキストリンであるのがよい。
【0050】
鎖状分子の両端に配置される封鎖基としては、複数の環状分子の鎖状分子からの脱離を防止するように作用する基であれば、特に限定されない。
【0051】
鎖状分子の末端が、封鎖基を形成する化合物と反応し得る反応基を有し、封鎖基を形成する化合物と、鎖状分子の末端の反応基とが反応することにより、封鎖基が鎖状分子の末端に結合されることが好ましい。
【0052】
鎖状分子の末端の反応基としては、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、およびチオール基、ジスルフィド、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スルホ基等が例示される。好ましくはアミノ基、アルボキシル基である。
【0053】
封鎖基を形成する化合物は、これらの鎖状分子の末端の反応基と反応し得る官能基を有するかさ高い化合物であり、例えばアミノ基、水酸基、カルボキシル基、およびチオール基、ジスルフィド、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スルホ基等の官能基を有する芳香族化合物または脂環式化合物が挙げられる。そのような化合物の例として、カルボキシル基を有するトリチオカルボナートが公知であり、例えば刺激分解基であるメチルトリチオカルボナート-S-フェニル酢酸(MTP)が挙げられる。刺激により分解する分解性結合を形成するための化合物およびこれを用いた分解性結合の形成は、例えばTae Woong Kang et al., Plym. Chem. 2021, 12, 3794; S. Yusa et al., J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 2009、特願2021-176932に記載されている。
【0054】
鎖状分子と封鎖基との間の分解性結合としては、アミド結合(ペプチド結合)、カーバメート結合、エステル結合、オルトエステル結合、エーテル結合、ヒドラジド結合、アセタール結合、ケタール結合、ジスルフィド結合などが挙げられ、分解の制御の容易性から、アミド結合が好ましい。
【0055】
代わりに、鎖状分子の両端に配置される封鎖基として、擬ポリロタキサンの鎖状ポリマーからの環状分子の脱離を防止するように作用する公知の封鎖基を使用してもよい。そのような封鎖基としては、シクロデキストリン、第三ブチルを有する基(例えば第三ブチルカルボニル、アミノ酸第三ブチルエステル)、アダマンタン基、トリチル基(例えばトリチルグリシン)、フルオレセイン、シルセスキオキサン、ピレン、トリフェニルアルキル基(例えばO-トリフェニルメチル基、S-トリフェニルメチル基、N-トリフェニルメチル基)、置換ベンゼン(例えばジニトロフェニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9-フレオレニルメチルオキシカルボニル基、ベンジルエステル基)、置換されていてもよい多核芳香族、ステロイドなどが挙げられる。置換ベンゼンと、置換されていてもよい多核芳香族の置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つまたは複数存在してもよい。
【0056】
このような封鎖基を使用する場合、封鎖基は、分解性結合を介して鎖状分子の末端に結合される。分解性結合としては、アミド結合(ペプチド結合)、カーバメート結合、エステル結合、オルトエステル結合、エーテル結合、ヒドラジド結合、アセタール結合、ケタール結合、ジスルフィド結合、チオエーテル結合、(ジ、トリ)チオカーボネート結合、ウレア結合、チオウレア結合、チオアミド結合が挙げられ、結合の容易性から、好ましくはアミド結合である。
【0057】
鎖状分子と封鎖基との間の分解性結合は、好ましくは熱分解性、光分解性、酸分解性、または酵素分解性である。すなわち、熱、光、酸、または酵素などの外部刺激を本態様の架橋体に加えると、鎖状分子と封鎖基との間の分解性結合が切断される。
【0058】
前記1または複数のポリマー鎖と、ポリロタキサンの複数の環状分子との間の結合形式は、特に限定されない。複数の環状分子と前記1または複数のポリマー鎖との間の結合は、通常、環状分子の官能基と、ポリマー鎖の対応する官能基との反応により生じる。複数の環状分子と前記1または複数のポリマー鎖との間の結合は、鎖状分子と封鎖基の間の分解性結合が外部刺激により切断されるときに、切断されても切断されなくてもよいが、切断されないことが好ましい。好ましくは、複数の環状分子と前記1または複数のポリマー鎖との間の結合は共有結合である。複数の環状分子の官能基と1または複数のポリマー鎖の官能基の反応により共有結合が形成される。共有結合としては、脱水縮合、上記分解性結合の例として列挙した結合などが挙げられる。複数の環状分子と1または複数のポリマー鎖との間の共有結合は、分解性結合と同じ種類の結合であってもよいが、異なる種類の結合であってもよい。鎖状分子と封鎖基の間の分解性結合の切断と、複数の環状分子と1または複数のポリマー鎖の間の共有結合の切断とを同時に行う場合、共有結合と分解性結合は同じ種類の結合であることが好ましい。鎖状分子と封鎖基の間の分解性結合の切断と、複数の環状分子と1または複数のポリマー鎖の間の共有結合の切断を区別する場合、共有結合と分解性結合は異なる種類であることが好ましい。
【0059】
本態様の架橋体におけるポリロタキサンの含有量は、含有量が多すぎると架橋体の機械的強度が低下するため、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0060】
また、架橋体の靭性の向上と分解の促進の点で、生分解性ポリマー組成物中のポリロタキサンの含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。
【0061】
本態様の架橋体における、1または複数のポリマー鎖とポリロタキサンの配合比は、1または複数のポリマー鎖100質量部に対して、ポリロタキサンが0.1~100質量部であることが好ましく、1~70質量部であることが好ましく、1~50質量部であることがより好ましい。
【0062】
前記1または複数のポリマー鎖とポリロタキサンの複数の環状分子との結合前後で、ポリロタキサンの含有量は通常変化しないため、上記のポリロタキサンの含有量の好ましい範囲は、前記1または複数のポリマー鎖とポリロタキサンの複数の環状分子とが結合する前の状態のポリロタキサンの含有量、および前記1または複数のポリマー鎖とポリロタキサンの複数の環状分子とが結合した後のポリロタキサンに由来する部分の含有量の両方に当てはまる。
【0063】
本態様の架橋体は、ポリロタキサンが添加されているため、ポリロタキサンを添加していない場合と比較して、ポリマー鎖の靭性が増大している。さらに、本態様の架橋体は、前記1または複数のポリマー鎖がポリロタキサンの複数の環状分子と結合されているとともに、ポリロタキサンの鎖状分子と封鎖基との間の分解性結合を有している。このため、本態様の架橋体は、外部刺激を加えることにより、架橋点が消失し、ポリロタキサンの鎖状分子上の複数の環状分子が鎖状分子から外れ、前記1または複数のポリマー鎖も鎖状分子による拘束から解放され、分解することができる。
【0064】
次に、
図1(A)および(B)を参照しながら、刺激による本態様の架橋体の分解方法について説明する。
【0065】
図1(A)において、本態様の架橋体は、ポリロタキサン10と、1または複数のポリマー鎖20とを有し、ポリロタキサン10は、複数の環状分子11と、複数の環状分子11を貫通し、かつ前記複数の環状分子11の鎖状分子12からの脱離を防止する封鎖基13を両端に有する鎖状分子12とを備えている。鎖状分子12と封鎖基13は分解性結合14を介して結合されている。1または複数のポリマー鎖20は、複数の環状分子11に結合されている。符号30は、環状分子11とポリマー鎖20との間の結合を指す。符号22は、1または複数のポリマー鎖20の間の結合を指す。
【0066】
熱、光、酸、または酵素などの外部刺激が本態様の架橋体に加わると、
図1(B)に示すように、鎖状分子12と封鎖基13との間の分解性結合14が切断される。分解性結合14を切断すると、それにより、複数の環状分子11が鎖状分子12から脱離され、かつ複数の環状分子11に結合された1または複数のポリマー鎖20が鎖状分子12による拘束から解放される。
【0067】
このように、熱、光、酸、または酵素などの外部刺激により、鎖状分子12と封鎖基13との間の分解性結合14が切断され、1または複数のポリマー鎖20が解放され、1または複数のポリマー鎖20が集合することにより発現していた本態様の架橋体の靭性が低下する。すなわち、ポリロタキサン10の添加と、外部刺激の架橋体への適用という複数の条件により、鎖状分子12上の複数の環状分子11によるロックが一斉に解除され、架橋体の分解が開始するマルチロック分解が達成される。外部刺激により、ポリロタキサン10が分解することで架橋点が消失し、ネットワークが消失し、靭性の低下が引き起こされる。
【0068】
特定の実施形態では、鎖状分子に串刺し状に貫通された複数の環状分子が第1の環状分子と第2の環状分子を含み、1または複数のポリマー鎖が第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖を含み、前記第1の環状分子と前記第1のポリマー鎖が結合し、前記第2の環状分子と第2のポリマー鎖が結合する。そして、刺激により分解性結合を分解することにより、第1の環状分子と結合された第1のポリマー鎖と、第2の環状分子と結合させた第2のポリマー鎖とが、鎖状分子から解放されて分離される。なお、第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。第1の環状分子と第2の環状分子は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0069】
このように、第1のポリマー鎖と第2のポリマー鎖とを互いに分離することができる。
【0070】
特定の実施形態では、上記刺激は可視光線または紫外線である。特定の実施形態では、刺激を加えた後で、架橋体の貯蔵弾性率が、刺激を加える前と比較して50%以下に低下する。
【0071】
特定の実施形態では、本態様の架橋体は、紫外線の照射前の歪み256%に対する応力が0.2MPa以上であり、紫外線を5~60分間、200~650mW/cm2の強度で照射すると、紫外線の照射前に比べて、歪みが190%以上低下し、応力が640%以上低下する。
【0072】
特定の実施形態では、本態様の架橋体は、周波数1Hz、負荷荷重0.4Paの繰り返し一軸引張下にて3℃/minの昇温速度条件で加熱すると、動的粘弾性試験で測定した弾性率(kPa)が80~90℃の範囲内で2400%以上低下する。
【0073】
特定の実施形態では、本態様の架橋体は、窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度条件で加熱すると、熱重量測定で測定した残余重量(%)が108~270℃の範囲内で10重量%以上低下する。
【0074】
本態様の架橋体およびその分解方法は、高分子架橋体の分解処理がより容易となるため、廃棄物の問題において重要な技術であり、また環境への負荷の低減にも貢献し得る。
【0075】
次に、本態様の架橋体の製造方法について説明する。
【0076】
まず、Tae Woong Kang et al., Plym. Chem. 2021, 12, 3794; S. Yusa et al., J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 2009、特願2021-176932などを参照して、上述の刺激分解基などの刺激により分解する分解性結合を形成するための化合物を調製する。
【0077】
次に、複数の環状分子と、前記複数の環状分子を貫通する鎖状分子とを備えた擬ポリロタキサンを提供する。
【0078】
次に、上記擬ポリロタキサンの鎖状分子を、刺激により分解する分解性結合を形成するための化合物と反応させ、ポリロタキサンの鎖状分子の末端部分に分解性結合を導入する。例えば擬ポリロタキサンを含む溶媒に、分解性結合を導入する上で選択的な反応が可能となる縮合剤と、縮合反応を促進するための塩基性触媒と、刺激により分解する分解性結合を形成するための化合物とを加え、0℃~80℃の範囲で十分に反応が進行する4時間~48時間攪拌し、末端分解基により鎖状分子の末端が封止されたポリロタキサンを合成することができる。
【0079】
次に、鎖状分子の末端に分解性結合が導入されたポリロタキサンと、1または複数のポリマー鎖とを反応させ、ポリロタキサンの複数の環状分子と、1または複数のポリマー鎖とを結合する。環状分子の官能基と、環状分子の官能基に対して反応性の官能基を有するポリマー鎖との組み合わせを、当業者は通常の技能により適切に選択することができる。1または複数のポリマー鎖を、ポリマー鎖を構成するモノマー化合物の重合により合成するときに、モノマー化合物中の官能基と、環状分子の官能基が反応することにより、ポリロタキサンの複数の環状分子と、1または複数のポリマー鎖とが結合されてもよい。
【0080】
このようにして、1または複数のポリマー鎖と、ポリロタキサンとを備えた架橋体であって、該ポリロタキサンが、複数の環状分子と、複数の環状分子を貫通し、かつ両端に複数の環状分子の鎖状分子からの脱離を防止する封鎖基を有する鎖状分子とを備え、複数の環状分子が前記1または複数のポリマー鎖と結合されているとともに、鎖状分子と前記封鎖基が分解性結合を介して結合されている、架橋体を製造することができる。
【0081】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0082】
実施例1 ポリロタキサンとPVAとを含む架橋体の製造及び評価
1.刺激分解基の合成
既報を参考に硫化炭素(CS2)のジエチルエーテル溶液をナトリウムチオメトキシド(NaSCH3)のジエチルエーテル溶液に20分かけて滴下し、室温で2時間撹拌後、ジエチルエーテルを留去した。生成したトリチオカーボネート化合物Aを酢酸エチルに溶解し、不純物であるNaSCH3をろ過により除去し、その溶液にα-ブロモフェニル酢酸を添加し、70℃15時間撹拌し反応させた。反応後1M塩酸水溶液と飽和食塩水により十分に洗浄し、分液した酢酸エチル相を硫酸マグネシウムにて十分に乾燥後、ヘキサンに沈殿させることで刺激分解基である化合物B(メチルトリチオカーボネート-S-フェニル酢酸:MTP)を得た(スキーム1)。
【0083】
【0084】
2.末端分解型ポリロタキサンの合成
軸分子であるポリエチレングリコール(PEG)にはSINOPEG社製の分子量40kg/molの両末端アミノ基改質PEG(ジアミノPEG)を使用し、環状分子にはSigma-Aldrich社製のヒドロキシプロピル-α-シクロデキストリン(hpCD)を使用した。ポリロタキサンの包接率が5%になるよう調製したhpCDのジメチルホルムアミド(DMF)溶液にジアミノPEGを添加し、48時間室温で撹拌することで擬ポリロタキサン(hPR)溶液を作製した。そこにヘキサフルオロリン酸1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム(BOP試薬)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、および実施例1の「1.刺激分解基の合成」で合成したMTPを添加し、室温で24時間撹拌することで末端分解基により末端封止されたポリロタキサンを合成した(スキーム2)。PEG のMTPによる末端修飾の反応はスキーム3に示す通りである。PEGその後アセトンを用いて化合物を沈殿し、DMFを除去した後、水に溶解し透析膜にて環状分子や不純物を除去した。凍結乾燥にて十分に乾燥することで末端分解型ポリロタキサン(TD-PR)を得た。
【0085】
【0086】
【0087】
3.ポリロタキサンとPVAとを含む架橋体の製造
ポリビニルアルコール(PVA)をジメチルスルホキシド(DMSO)に80℃で十分溶解し、室温まで自然冷却した後、「2.末端分解型ポリロタキサンの合成」により合成したTD-PR(PVAに対し20質量%)とヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)を添加し、よく撹拌した。その後、生成物をシャーレにキャストし、反応触媒としてジブチル錫ジラウレートを添加し撹拌することで架橋が進行し、ゲルが形成された。室温で24時間静置後、アセトンに含浸しながら剥離することでゲル組成物(PVA+TD-PR組成物)を得た。
【0088】
4.紫外線照射試験
「3.ポリロタキサンとPVAとを含む架橋体の製造」で作製した組成物を理想計測株式会社製のUV-LED光劣化促進試験機により紫外線照射した。紫外線照射による末端分解による力学物性の変化について、組成物に対して垂直引張試験を行い、島津製作所製引張試験機により観察した。紫外線照射条件として、大気雰囲気下、室温、紫外線波長325 nm、照射強度650 mW/cm2、照射時間約10分にて実施した。引張試験の測定条件として、引張モード、室温、引張速度100 mm/min、20 Nロードセル、7号ダンベル形状サンプルとした。
【0089】
図2に結果を示す。照射による組成物の外観に大きな変化はなかった。しかし引張試験にて、TD-PRを添加したPVAのゲル組成物の照射前後にて大きな力学物性の差異が生じた。具体的には、PVA+TD-PR組成物は、照射前にて破断強度0.20MPa、破断伸長率256%であったが、照射後において破断強度0.03MPa、破断伸長率88%と力学物性が大幅に低下する結果が得られた。これはポリロタキサンの刺激分解性封止基がUV照射により分解し、架橋構造として機能しているポリロタキサンが崩壊することによると示唆される。
【0090】
一方で、TD-PRを添加することで、TD-PR を添加しない場合に比べてPVAゲル組成物の破断伸度を約5倍向上したことから、TD-PR添加による強靭性と刺激分解性を両立する特性を有することが示された。
【0091】
5.熱分解試験
熱刺激によるTD-PRの末端分解による力学物性の低下を観察するためMetravib製の動的粘弾性測定(DMA)装置を用いた試験を実施した。測定条件は引張モード、大気雰囲気下、昇温速度3℃/min、測定周波数1Hz、動的負荷荷重0.4Nにより連続的に一定の力でサンプルを伸縮させながら加熱することで力学物性が低下する温度を測定した。
【0092】
図3に示すように、TD-PR を添加しないPVAゲル組成物では加熱により物性の変化が見受けられない一方で、TD-PRを添加したPVA+TD-PR組成物では90℃付近(図中の矢印)で急激に弾性率が低下している。これは架橋点として機能しているポリロタキサンが同時に分解することでサンプルが破断したためであると示唆される。
【0093】
この分解温度の妥当性を確認するためにリガク社製の熱重量分析(TGA)によるポリロタキサンの分解挙動について確認した。
図4に示すように、通常の封止基で合成したポリロタキサンは310℃付近に1段階の分解が観察される一方で、TD-PRでは3段階の熱分解が観察された。TD-PRでは、108℃付近で末端封止基の分解が開始し、270℃付近で運動性の高い末端付近から分解が進行し、310℃付近でポリロタキサン全体の分解が進行したと示唆された。
【0094】
実施例2 ポリロタキサンとPVAとを含む架橋体の製造及び評価
1.ポリロタキサンとPVAとを含む架橋体の製造
実施例1の「3.ポリロタキサンとPVAとを含む架橋体の製造」と同様にポリビニルアルコール(PVA)をジメチルスルホキシド(DMSO)に80℃で十分溶解し、室温まで自然冷却した後、実施例1の「2.末端分解型ポリロタキサンの合成」により合成したTD-PR(PVAに対し20質量%)とヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)を添加しよく撹拌した。その後、シャーレにキャストし、反応触媒としてジブチル錫ジラウレートを添加し撹拌することで架橋が進行し、ゲルが形成された。組成物を真空オーブンにて50℃48時間乾燥後、剥離することでPVAの樹脂状組成物を得た。
【0095】
2.紫外線照射試験
実施例1の「4.紫外線照射試験」と同様に、実施例2の3.で作製した組成物を理想計測株式会社製のUV-LED光劣化促進試験機により紫外線照射した。紫外線照射による末端分解による力学物性の変化について、組成物に対して垂直引張試験を行い、島津製作所製引張試験機により観察した。紫外線照射条件として、大気雰囲気下、室温、紫外線波長325 nm、照射強度650 mW/cm2、照射時間約30分にて実施した。引張試験の測定条件として、引張モード、室温、引張速度10 mm/min、1 kNロードセル、7号ダンベル形状サンプルとした。
【0096】
図5に結果を示す。照射による組成物の外観には大きな変化はなかった。しかし引張試験にて、TD-PRを添加したPVAのゲル組成物の照射前後にて大きな力学物性の差異が生じた。具体的には、照射前にてヤング率0.48 Gpa、破断強度49 Mpa、破断伸長率201%であったが、照射後においてヤング率1.45 GPa、破断強度55 MPa、破断伸長率67%とヤング率や破断強度が増加した一方で、破断伸度が大幅に低下する結果が得られた(表1)。これは架橋点であるポリロタキサンがUV照射により分解し、その自由体積を埋めるようにPVAのポリマー鎖が凝集することでより硬度が増加したと示唆される。
【0097】
一方で、TD-PRを添加することで、TD-PR を添加しない場合に比べてPVA樹脂組成物の破断伸度を約1.3倍向上したことから、TD-PR添加による強靭性と刺激分解性を両立する特性を有することが示された。
【0098】
【0099】
実施例3 ポリロタキサンとポリウレタン(PU)とを含む架橋体の製造及び評価
1.ポリロタキサンとポリウレタンとを含む架橋体の製造
1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(BIMC)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、1,3-プロパンジオール(PD)及び実施例1で製造したTD-PR(20質量%)を混合し、40℃、10分間攪拌した。混合物に触媒(ジブチル錫ジラウレート:DBTDL)を加えて撹拌後、40℃、5時間静置により硬化させ、80℃オーブンで2時間加熱し、TD-PRとポリウレタン樹脂の架橋体(PU+TD-PR組成物)を得た。
【0100】
得られたTD-PR添加ポリウレタン樹脂を減圧加熱プレス機で150℃、10kNで3分プレス成形し、フィルム状試験片を作製した。
【0101】
【0102】
2.紫外線照射試験
(1)測定方法
「1.ポリロタキサンとポリウレタンとを含む架橋体の製造」で作製した組成物を、実施例1の「4.紫外線照射試験」と同様に、理想計測株式会社製のUV-LED光劣化促進試験機により紫外線照射した。紫外線照射による末端分解による力学物性の変化について、組成物に対して垂直引張試験を行い、島津製作所製引張試験機により観察した。
紫外線照射条件として、大気雰囲気下、室温、紫外線波長325 nm、照射強度650 mW/cm2、照射時間約30分にて実施した。引張試験の測定条件として、引張モード、室温、引張速度100 mm/min、20 Nロードセル、7号ダンベル形状サンプルとした。
【0103】
図6に結果を示す。照射による組成物の外観に大きな変化はなかった。しかし引張試験にて、TD-PRを添加したPUの照射前後にて大きな力学物性の差異が生じた。具体的には、PU+TD-PR組成物は、照射前にてヤング率0.64 GPa、破断強度47 MPa、破断伸長率117%であったが、照射後においてヤング率0.65 GPa、破断強度33 MPa、破断伸長率22%と、破断伸度を含む力学物性が大幅に低下する結果が得られた(表2)。これは架橋点であるポリロタキサンがUV照射により分解したことに由来するものと示唆される。
【0104】
一方で、TD-PRを添加することで、TD-PR を添加しない場合に比べてPU樹脂組成物の破断伸度を約29倍向上したことから、TD-PR添加による強靭性と刺激分解性を両立する特性を有することが示された。
【0105】