IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハイモ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161607
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】歩留及び濾水性向上を図る抄紙方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/41 20060101AFI20231031BHJP
   D21H 21/10 20060101ALI20231031BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
D21H17/41
D21H21/10
C08L33/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072028
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】境 健自
(72)【発明者】
【氏名】三井 奈穂
【テーマコード(参考)】
4J002
4L055
【Fターム(参考)】
4J002BG131
4J002GK04
4J002HA07
4L055AG57
4L055AG71
4L055AG72
4L055AG74
4L055AG89
4L055AG97
4L055AH18
4L055BD12
4L055EA25
4L055EA32
4L055FA08
4L055FA10
(57)【要約】
【課題】
抄紙工程における歩留向上システムを用いた製紙原料の抄紙方法に関するものであり、添加率を上げても濾水性、搾水性の低下を招くことなく製紙原料の歩留向上を達成する抄紙方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
特定の組成を有する、カチオン性あるいは両性水溶性高分子を抄紙前の製紙原料に添加後、特定の組成を有し、25℃で測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度が7dl/g以下であるアニオン性水溶性高分子を添加する抄紙方法を適用することで濾水性を低下させることなく歩留向上を達成することができる。カチオン性あるいは両性水溶性高分子の25℃で測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度が15~30dl/gであることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙工程における抄紙前の製紙原料に、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体5~100モル%、下記一般式(2)で表されるアニオン性単量体0~30モル%、非イオン性単量体0~95モル%を構成単位とするカチオン性あるいは両性水溶性高分子を添加後、下記一般式(2)で表される単量体を5~80モル%、非イオン性単量体20~95モル%を構成単位とするアニオン性水溶性高分子であり、該アニオン性水溶性高分子の25℃で測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度が7dl/g以下であるアニオン性水溶性高分子を添加することを特徴とする抄紙方法。
一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1~3のアルキル基あるいはアルコキシ基、Rは炭素数1~3のアルキルあるいはアルコキシ基、7~20のアルキル基あるいはアリール基、Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基を表わす、X は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO 、CSO 、CONHC(CHCHSO 、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOOY、YあるいはYは水素または陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項2】
前記カチオン性あるいは両性水溶性高分子の25℃で測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度が15~30dl/gであることを特徴とする請求項1に記載の抄紙方法。
【請求項3】
前記アニオン性水溶性高分子の製紙工程における添加場所がスクリーン出口であることを特徴とする請求項1に記載の抄紙方法。
【請求項4】
前記カチオン性あるいは両性水溶性高分子の形態が、塩水中分散液であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の抄紙方法。




























【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙工程において歩留向上剤を使用する抄紙方法に関するものであり、詳しくは、抄紙工程において歩留向上剤を用いた歩留向上システムにより製紙原料のワイヤー上での歩留向上及び濾水性向上を図る抄紙方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗工原紙、PPC用紙、上質紙、板紙及び新聞用紙等の抄紙工程において、原料パルプ、微細繊維、填料、製紙用薬剤等のワイヤー上での歩留率向上を図るために歩留向上剤、あるいは歩留と同時に濾水改善の機能を重視した濾水性向上剤(あるいは歩留濾水性向上剤)が使用されている。一般的にポリアクリルアミド系(PAM系)ポリマーが歩留向上剤として汎用されるが、近年の抄造条件の多様化により、有効な歩留向上剤や歩留向上システムがそれぞれ異なる。
二液以上使用する歩留向上システムとして、抄紙条件や製紙原料の性状に合わせてPAM系ポリマーを中心にイオンバランスを考慮したシステムが種々考案されている。例えば、カチオン性あるいは両性PAMを添加後、アニオン性PAMを添加する処方(特許文献1)や、高い固有粘度の陽イオン性合成重合体添加後、3dl/gを超える固有粘度、及び0.5以上の0.005Hzでのtanδを有する分枝鎖陰イオン性水溶性重合体を添加する処方(特許文献2)が挙げられる。しかし、これら処方では製紙原料の歩留率向上は得られるが、二液目に添加するアニオン性PAMにより形成したフロック内に過多に水分が取り込まれる結果、濾水性や搾水性が低下し生産性が低下する場合が多い。そこで、濾水性や搾水性を低下させない歩留濾水性向上処方が種々提案されている。
例えば、カチオン性ポリマー添加後、アニオン性無機物質のベントナイトを添加する処方(特許文献3)、陽イオン性基を有するアクリルアミド系ポリマーとコロイド状硅酸とを添加する処方(特許文献4)等が挙げられる。
しかし、これら処方でも濾水性や搾水性の改善傾向は得られるものの期待する歩留効果が得られない。そこで、特に生産効率を上げるために製紙原料のワイヤーパートでの歩留効果を維持し濾水性向上効果が改善できる歩留向上システムが要望されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001-254290号公報
【特許文献2】特表2002-509587号公報
【特許文献3】特開昭62-191598号公報
【特許文献4】特開昭62-15391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、抄紙工程における歩留向上剤を用いた製紙原料の抄紙方法に関するものであり、濾水性や搾水性を低下させることなくワイヤー上での製紙原料の歩留向上ができる抄紙方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため鋭意検討を行なった結果、抄紙前の製紙原料に、特定の組成を有するカチオン性あるいは両性水溶性高分子を添加後、特定の組成、物性を有するアニオン性水溶性高分子を添加することで製紙原料の歩留向上及び濾水性向上を達成できることを見出したものである。
【発明の効果】
【0006】
抄紙前の製紙原料に、本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子を添加後、アニオン性水溶性高分子を添加することで添加率を上げても濾水性や搾水性の低下を招くことなく歩留効果を発揮し、生産性の向上や紙品質の向上を達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子は、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体5~100モル%、下記一般式(2)で表されるアニオン性単量体0~30モル%、非イオン性単量体0~95モル%を含有する単量体混合物水溶液を重合して製造したものである。一般式(1)で表わされるカチオン性単量体は5~50モル%が好ましく、5~30モル%がより好ましい。これは、カチオン性単量体がこの範囲にあると高分子量のものが得られやすいためである。
一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1~3のアルキル基あるいはアルコキシ基、Rは炭素数1~3のアルキルあるいはアルコキシ基、7~20のアルキル基あるいはアリール基、Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基を表わす、X は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO 、CSO 、CONHC(CHCHSO 、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOOY、YあるいはYは水素または陽イオンをそれぞれ表わす。
【0008】
一般式(1)で表わされるカチオン性単量体としては、以下の様なものがある。即ち、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である。その例として、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物である。これら二種以上組み合わせることも可能である。
【0009】
一般式(2)で表されるアニオン性単量体としては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸あるいはp-カルボキシスチレン酸、あるいはそれらの塩、等が挙げられる。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。
【0010】
本発明で使用する非イオン性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。
【0011】
本発明におけるアニオン性水溶性高分子を製造する際に使用するアニオン性単量体、即ち前記一般式(2)で表される単量体は5~80モル%、非イオン性単量体20~95モル%を含有する単量体混合物水溶液を重合して製造したものである。5モル%より少ないとアニオン性水溶性高分子のアニオン基による大きな凝集作用は得られず、80モル%より多いと先に添加されるカチオン性あるいは両性水溶性高分子により形成したフロック中の高分子内の未反応のカチオン基並びに製紙原料懸濁液中のカチオン性物質との適正な微細なフロックが形成され難くなる。好ましくは10~60モル%であり、より好ましくは10~50モル%の範囲である。
【0012】
一般式(2)で表されるアニオン性単量体としては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸あるいはp-カルボキシスチレン酸、あるいはそれらの塩、等が挙げられる。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。
【0013】
アニオン性水溶性高分子を製造する際に使用する非イオン性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。非イオン性単量体のモル数としては、20~95モル%であるが、好ましくは40~90モル%、より好ましくは50~90モル%である。
【0014】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子及びアニオン性水溶性高分子の製品形態は特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。カチオン性単量体及び/又はアニオン性単量体及び非イオン性単量体を含有する単量体混合物を共重合することによって製造することができる。重合はこれら単量体を混合した水溶液を調製した後、例えば、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、油中水型分散重合、塩水中分散重合等によって重合した後、水溶液、油中水型エマルジョン、塩水中分散液、あるいは粉末等、任意の製品形態を使用できる。カチオン性あるいは両性水溶性高分子については、これら重合法の中でも高分子量のものが製造しやすい油中水型エマルジョン重合あるいは塩水中分散重合が好ましい。製紙原料への分散性と二液目に添加するアニオン性水溶性高分子との反応性から塩水中分散重合がより好ましい。
【0015】
油中水型エマルジョンの製造方法としては、特開昭55-137147号公報、特開昭59-130397号公報、特開平10-140496号公報、特開2011-99076号公報等に準じて適宜に製造することができる。即ち、アニオン性単量体及び非イオン性単量体含有する単量体混合物を水、水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合する。
【0016】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子及びアニオン性水溶性高分子を塩水中分散重合法によって行なう場合は、特開62-20511号公報、特開平10-212320号公報あるいは特開2004-231822号公報等に準じて適宜に製造することができる。即ち、塩水溶液中において、該塩水溶液中に溶解可能な高分子分散剤を共存させカチオン性単量体及び/又はアニオン性単量体及び非イオン性単量体混合物を分散重合して製造する。
【0017】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子は、重合時あるいは重合後、構造変性剤として、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン等の架橋性単量体を使用しても良い。この架橋性単量体は、単量体総量に対し質量で0.5~200ppmの範囲で存在させる。又、ギ酸ナトリウム、イソプロピルアルコール、メタリルスルホン酸ナトリウム等の連鎖移動剤を併用することも架橋性を調節する手法として効果的である。添加率としては、単量体総量に対し0.001~1.0質量%存在させる。本発明におけるアニオン性水溶性高分子については、架橋性単量体を使用しても良いが、直鎖型高分子が好ましい。架橋性単量体不存在下製造し、実質的に分岐構造や架橋構造を有さないことが好ましい。これは、直鎖型高分子の方が、一液目に添加するカチオン性水溶性高分子との反応性がより高まる傾向にあり、本発明における歩留向上システムの性能が向上するためである。
【0018】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子は、高い凝集力を得るには高分子量が必要である。分子量は、固有粘度で表わすと、水溶性高分子の25℃で測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度が15~30dl/gであるが、好ましくは18~30dl/gの範囲である。固有粘度が15dl/gより低いと歩留向上効果が著しく低下し、30dl/gより高いと紙の品質、特に地合いが低下する傾向にあり好ましくはない。極限粘度法による重量平均分子量では、1000万~3000万の範囲内が好ましい。
【0019】
一方、本発明におけるアニオン性水溶性高分子は、水溶性高分子の25℃で測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度が7dl/g以下である。固有粘度が7dl/gより高いと製紙原料中での拡散性が低下するため好ましくはない。又、ある程度の歩留効果を発揮するには、0.3dl/g以上が好ましく、2dl/g以上が好ましく、3dl/g以上が更に好ましい。極限粘度法による重量平均分子量では、3万~300万の範囲が好ましい。
【0020】
本発明において、一液目のカチオン性あるいは両性水溶性高分子添加後、二液目としてアニオン性水溶性高分子を添加する。
【0021】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子及びアニオン性水溶性高分子は、抄紙前の製紙原料に添加される。通常、製紙工程において上流からパルプ乾燥固形分濃度が2.0質量%以上で移送されてきた製紙原料が抄紙機の直前では白水や清水等によりパルプ乾燥固形分濃度が2.0質量%より低い製紙原料に希釈されている。インレットあるいはヘッドボックスと呼ばれる装置から希釈された原料が抄紙機に噴射され抄紙される。一般的には0.5~1.5質量%に希釈されており、これらはインレット原料やヘッドボックス原料と呼ばれており、これら原料(以下、インレット原料とする。)に対して歩留向上剤が添加され抄紙される。本発明における歩留向上システムもインレット原料に適用する。
【0022】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子及びアニオン性水溶性高分子の製紙工程における添加場所は、せん断工程であるファンポンプ前後やスクリーン前後が適用される。本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子の添加後にアニオン性水溶性高分子を添加するという添加順序であれば、これらのどこの添加場所にも適用が可能である。
本発明においては、一液目のカチオン性あるいは両性水溶性高分子と二液目のアニオン性水溶性高分子との反応性が高いため、せん断工程を通さなくても効果を発揮する。即ち、製紙原料がファンポンプ通過後からスクリーン前に一液目、二液目添加、あるいはスクリーン通過後に一液目、二液目を添加することも可能である。二液目のアニオン性水溶性高分子は、スクリーン通過後のスクリーン出口に添加することが好ましい。
【0023】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子は一定の高分子量である。カチオン性あるいは両性水溶性高分子中のカチオン基と製紙原料中のアニオン性に帯電しているセルロース繊維や填料との中和作用と架橋吸着作用により凝集し粗大なフロックを形成する。その後、形成フロックが移送中やせん断工程により徐々に破壊され小さなフロックになる。その後、二液目にアニオン性水溶性高分子を添加するが、せん断や混合が十分でない場合、形成フロックの拡散が遅く、フロック形成に時間が掛かる結果、粗大なフロックが形成され、微細繊維や填料の取りこぼし、フロック内に水分を持ち込む結果、歩留効果及び濾水性、搾水性が低下する。一液目のカチオン性あるいは両性水溶性高分子の分子量が大きい程、この現象は顕著である。
しかし、本発明においては、せん断や混合が十分でない条件においても、二液目に添加するアニオン性水溶性高分子の固有粘度が7dl/g以下であり、フロック中の高分子内の未反応のカチオン基並びに製紙原料懸濁液中のカチオン性物質とアニオン性水溶性高分子との反応により微細なフロックを形成し、ワイヤーパートで抄紙される結果、フロック内に水分をあまり持ち込まずに歩留率を向上させることができるという機構が推察される。
製紙原料に対するせん断が弱い場合やアニオン性水溶性高分子の添加場所からインレット到達迄の時間が短い場合において、本発明における抄紙方法が特に有効である。例えば、歩留向上剤と製紙原料が混合され歩留効果を最大限に発揮するには歩留向上剤添加後、インレット(ヘッドボックス)到達迄の時間が通常10秒程度は要する場合が多いが、本発明におけるアニオン性水溶性高分子は、製紙原料への拡散性が高く、インレット到達迄の時間が5秒以内の場合でも効果を発揮する。
【0024】
本発明における抄紙方法を適用する紙の種類としては、新聞用紙、上質印刷用紙、中質印刷用紙、グラビア印刷用紙、PPC用紙、塗工原紙、微塗工紙、包装用紙、ライナーや中芯原紙の板紙等が挙げられる。製紙原料のアニオン量、即ちカチオン要求量が比較的低い製紙原料に有効である。具体的にはカチオン要求量が0.03meq/L以下であれば本発明におけるアニオン性水溶性高分子が有効に作用する。又、製紙原料がカチオン性(=アニオン要求量)を示しても効果を発揮する。カチオン性あるいは両性澱粉や合成紙力剤等の紙力剤や硫酸バンドの添加率が多い抄紙系に適用すると効果的である。カチオン要求量は、Whatman No.41濾紙濾過液を市販の粒子電荷計(BTG社製PCD-05型等)で測定した値(meq/L)で表される。
【0025】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子及びアニオン性水溶性高分子は、水で0.01~1.0質量%に希釈溶解して使用する。溶解する水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、工業用水等が使用できる。これらが混合されていても差し支えない。希釈溶解液を更に二次希釈、三次希釈しても差し支えない。
カチオン性あるいは両性水溶性高分子及びアニオン性水溶性高分子の添加率は、紙料固形分濃度に対して10~1000ppm(ポリマー純分)の範囲である。
【0026】
本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子及びアニオン性水溶性高分子は、紙力剤、サイズ剤やその他の製紙用薬品と併用することができる。又、その他の歩留向上剤と併用しても差し支えないが、本発明における歩留向上システムのみを適用することが、より優位性が発揮され好ましい。
【実施例0027】
以下に本発明におけるカチオン性あるいは両性水溶性高分子及びアニオン性水溶性高分子を用いた製紙原料の抄紙方法について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
(カチオン性水溶性高分子試料)
本発明におけるカチオン性水溶性高分子試料A、Bをそれぞれ塩水中分散重合法、油中水型エマルジョン重合法の常法により調製した。これらの組成、物性を表1に示す。
【0029】
(表1)
単量体;DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、AAM:アクリルアミド
製品形態;D:塩水液中分散重合液、E:油中水型エマルジョン
固有粘度;水溶性高分子の25℃において測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度。
【0030】
(アニオン性水溶性高分子試料)
本発明におけるアニオン性水溶性高分子試料1~4、及び本発明の範囲外のアニオン性水溶性高分子試料5~7をそれぞれ水溶液重合法、油中水型エマルジョン重合法、及び塩水中分散重合法の常法により調製した。これらの組成、物性を表2に示す。
【0031】
(表2)
単量体組成;AAC:アクリル酸、AAM:アクリルアミド
製品形態;AQ:水溶液重合体、E:油中水型エマルジョン、D:塩水液中分散重合液
固有粘度;水溶性高分子の25℃において測定した1規定食塩水溶液中の固有粘度。
【0032】
(実施例1)
(濾水性能評価試験)
動的濾水性試験機DDA(Dynamic Drainage Analyzer、PulpEye社)による濾水性能評価を実施した。段ボールを離解、叩解度270mLに調製した紙料を紙料固形分1質量%になる様に清水希釈後、pH調整を行い調製インレット紙料として試験に用いた。
調製インレット紙料の物性値は、pH7.1、電気伝導度86.6mS/mであった。調製インレット紙料のSZP-7.2mV、WhatmanNo.41濾紙濾過液の濁度38NTU(HACH社製2100P型を使用)、カチオン要求量0.023meq/L(BTG社製PCD-05型を使用)であった。
調製インレット紙料の所定量を底部にワイヤーの付いたDDA攪拌槽に投入した。攪拌回転数600rpmで5秒攪拌後、市販のカチオン化澱粉0.5質量%添加(対紙料固形分)、600rpmで40秒攪拌、200rpmで5秒攪拌後、一液目として表1の試料Aの0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して240ppm添加(ポリマー純分)、攪拌回転数200rpmで3秒攪拌後(スクリーン入口添加想定)、二液目として表2の試料1の0.1質量%水溶液を100ppm添加(ポリマー純分)、攪拌回転数200rpmで4秒攪拌後(スクリーン出口添加想定)、300mBarの減圧下で紙料を吸引し、ワイヤー上にシートを形成した時点の濾水時間及びシート含水率を測定した。又、表1の一液目の試料と表2の二液目の試料の組合せを替えて同様な試験を実施した。これらの結果を表3に示す。
【0033】
(比較例1)
実施例1と同じ調製インレット紙料を用いて、表1のカチオン性水溶性高分子試料、表2のアニオン性水溶性高分子試料5~7、及び市販品のコロイダルシリカ(試料8)を用いて、同様な条件で同様な試験を実施した。これらの結果を表3に示す。
【0034】
(表3)
【0035】
本発明におけるカチオン性水溶性高分子試料添加後、アニオン性水溶性高分子試料を添加した実施例では、比較例に対して濾水時間が短縮、シート含水率が低い結果を示した。本発明の範囲外の添加方法の比較例では、濾水時間の短縮とシート含水率低下を同時に示す結果は得られなかった。本発明における抄紙方法の濾水性能及び搾水性能が優れることが確認できた。
【0036】
(実施例2)
(歩留率測定試験)
動的濾水性試験機DDA(Dynamic Drainage Analyzer、PulpEye社)を用いて歩留率測定試験を実施した。
実施例1と同じ調製インレット紙料の所定量を底部にワイヤーの付いたDDA攪拌槽に投入した。攪拌回転数600rpmで5秒攪拌後、カチオン化澱粉を0.5質量%添加(対紙料固形分)、攪拌回転数600rpmで40秒攪拌、200rpmで5秒攪拌後、一液目として表1の試料Aの0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して240ppm添加(ポリマー純分)、攪拌回転数200rpmで3秒攪拌後(スクリーン入口添加想定)、二液目として表2の試料1の0.1質量%水溶液を紙料固形分に対して100ppm添加(ポリマー純分)、攪拌回転数200rpmで4秒攪拌後(スクリーン出口添加想定)、300mBarの減圧下で紙料を吸引し、ワイヤー上にシートを形成した時点の濾液を採取しADVANTEC No.2濾紙にて濾過後、SSを測定、総歩留率を求めた。又、表1の一液目の試料と表2の二液目の試料の組合せを替えて同様な試験を実施した。これらの結果を表4に示す。
【0037】
(比較例2)
実施例1と同じ調製インレット紙料を用いて、表1のカチオン性水溶性高分子試料、表2のアニオン性水溶性高分子試料6、及び市販品のコロイダルシリカ(試料8)を用いて、実施例2と同様な条件で同様な試験を実施した。これらの結果を表4に示す。
【0038】
(表4)
【0039】
本発明における抄紙方法は、比較例と比べて歩留率を維持あるいは向上でき、濾水性、搾水性を改善できることが判明した。