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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161638
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】火災報知システム
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/00 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
G08B17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072087
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 悠平
(72)【発明者】
【氏名】山納 正人
【テーマコード(参考)】
5G405
【Fターム(参考)】
5G405AA01
5G405AA06
5G405AC06
5G405CA05
5G405CA08
5G405CA09
5G405CA16
5G405CA30
(57)【要約】
【課題】誤報を防ぎつつ火災発生の判断を行うことができる火災報知システムを提供する。
【解決手段】受信機に、複数個のアナログ感知器の出力を受信する信号受信部と、複数個のアナログ感知器の設置位置情報および火災発報閾値を記憶する記憶部と、火災発報閾値を変更調整する感度調整手段と、アナログ感知器の出力が火災発報閾値を超えると監視エリアにおける火災発生を判断する火災判断手段とを設け、感度調整手段は、複数個のアナログ感知器の中に出力が火災発報閾値よりも小さい調整開始閾値を超えた1のアナログ感知器が存在する場合に、当該1のアナログ感知器の出力と調整開始閾値との差が大きいほど周囲に設置された他のアナログ感知器の火災発報閾値を、感度を高める方向に変更し、火災判断手段は前記1のアナログ感知器の出力および他のアナログ感知器の出力がいずれも対応する火災発報閾値を超えている場合に火災発生と判断するようにした。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信機と、当該受信機から引き出された信号線に接続され、監視エリアに設置された複数個のアナログ感知器と、を備えた火災報知システムであって、
前記受信機は、
前記複数個のアナログ感知器の出力を、前記信号線を介して受信する信号受信部と、
前記複数個のアナログ感知器の前記監視エリアにおける設置位置情報および当該アナログ感知器のそれぞれに対応した火災発報閾値を記憶する記憶部と、
前記火災発報閾値を変更調整する感度調整手段と、
前記アナログ感知器の出力が前記火災発報閾値を超えると前記監視エリアにおける火災発生を判断する火災判断手段と、
を備え、
前記感度調整手段は、前記複数個のアナログ感知器の中に出力が前記火災発報閾値よりも小さい調整開始閾値を超えた1のアナログ感知器が存在する場合に、当該1のアナログ感知器の出力と前記調整開始閾値との差が大きいほど当該1のアナログ感知器の周囲に設置された他のアナログ感知器のそれぞれに対応した火災発報閾値を、感度を高める方向に変更し、
前記火災判断手段は、前記1のアナログ感知器の出力および前記他のアナログ感知器の出力がいずれも対応する前記火災発報閾値を超えている場合に火災発生と判断する
ことを特徴とした火災報知システム。
【請求項2】
前記感度調整手段は、前記調整開始閾値を超えた前記1のアナログ感知器の火災発報閾値を、最大火災発報閾値を限度として当該1のアナログ感知器の出力と前記調整開始閾値との差が大きいほど感度を低くする方向に変更することを特徴とした請求項1に記載の火災報知システム。
【請求項3】
前記火災判断手段は、いずれかの1の前記アナログ感知器の出力が、最大火災発報閾値を超えると、他の前記アナログ感知器の出力に関わらず直ちに火災の発生を判断することを特徴とした請求項2に記載の火災報知システム。
【請求項4】
前記感度調整手段は、前記他のアナログ感知器の火災発報閾値を、当該他のアナログ感知器と前記1のアナログ感知器との設置距離が大きいほど高感度となるよう変更することを特徴とした請求項1乃至3のいずれか一項に記載の火災報知システム。
【請求項5】
前記受信機は、さらに、送信手段および計時手段を備え、
前記計時手段は、前記1のアナログ感知器の出力が前記火災発報閾値を超えた一方で前記他のアナログ感知器のいずれかの出力が前記火災発報閾値を超えなかった誤報防止の期間を計時し、
前記送信手段は、前記誤報防止の期間が一定時間以上継続している場合に、前記1のアナログ感知器について所定の作業の実施を要請するメッセージを管理者が使用する情報端末へ送信することを特徴とした請求項4に記載の火災報知システム。
【請求項6】
前記メッセージは、前記管理者に非火災要因の除去または究明を要請する内容であり、少なくとも前記1のアナログ感知器の清掃要請、前記1のアナログ感知器の構成部品の交換要請、前記1のアナログ感知器の交換要請のいずれか1つを含むことを特徴とした請求項5に記載の火災報知システム。
【請求項7】
前記設置位置情報には、複数の前記アナログ感知器のそれぞれと当該アナログ感知器から一定の設置距離内にあるアナログ感知器との対応関係を示す情報が含まれていることを特徴とする請求項6に記載の火災報知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙感知器を用いた火災報知システムに適用して有効な技術に関し、煙の広がりを考慮して火災発生判断の高精度化が可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
火災報知システムにおいては、防災管理センター等に設置された火災受信機から引き出された信号線が建物の各フロアに延設され複数の感知器が接続されている。また、感知器はフロアのレイアウトに応じて部屋ごとに1つまたは複数個設置される。
火災報知システムを構成する火災感知器には、煙を検知するタイプや熱を検出するタイプ、赤外線(炎)を検出するタイプなど幾つか種類があり、煙感知器のように、検出した煙濃度を火災受信機へ送信するタイプもある。火災受信機は、受信した煙濃度が予め設定された濃度を超えると、火災発生と判断し火災発生を報知(火災発報)する。
【0003】
従来、煙感知器を用いた火災報知システムにおいては、実際には火災が発生していないにも関わらず発生していると判断して通報する非火災報(誤報)が発生することがある。例えばタバコや加熱調理の煙に反応したり、煙感知器の内部に結露が発生あるいは埃が蓄積したりすることが原因で感知器の出力が高くなって非火災報が発生する事例が報告されている。
【0004】
この点、特許文献1には、複数の煙感知器をグループ化して、各煙感知器が検出した煙濃度が基準値を超えた場合の他、グループに含まれる煙感知器の出力の総合値(平均値が例示)がグループごとに設定された基準値を超えた場合にも、火災と判断するアナログ式火災判定回路に関する発明が開示されている。
また、特許文献2には、火災感知器からの多段階火災レベルに基づいて火災発生の可能性の有無を判定し、火災発生の可能性有りと判定された感知器に隣接する感知器からの多段階火災レベルが予め設定された所定閾値を超えているならば、火災発生と判断して火災受信機へ火災発生情報を伝達すること、および隣接する感知器からの多段階火災レベルが予め設定された所定閾値を超えているならば蓄積時間を短くするようにした火災警報システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-170895号公報
【特許文献2】特開平09-288779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記いずれの特許文献でも、複数の煙感知器からの出力を併用することで、誤報を防止あるいは誤報を少なくすることができると謳っているものの、特許文献1では各煙感知器単独の出力でも火災発生の判定をしているので、非火災報(誤報)を防止しきれない。
また、特許文献2では、煙感知器の設置間隔や注目する煙感知器からの煙の広がりの程度に依っては、隣接するいずれの煙感知器の測定濃度も条件を満たさず失報したり、逆に簡単に条件を満たしたりしてしまうことがあり誤報を防ぎきれないという課題がある。
【0007】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、複数の煙感知器からの測定濃度を火災発生の判断材料として併用することで、非火災報(誤報)を防ぎつつ火災発生の判断を行うことが可能な火災報知システムを提供することにある。
本発明の他の目的は、建物やシステムの管理者に対して誤報原因を取り除く対策を実施する動機づけを与えることが可能な火災報知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は、
受信機と、当該受信機から引き出された信号線に接続され、監視エリアに設置された複数個のアナログ感知器と、を備えた火災報知システムにおいて、
前記受信機は、
前記複数個のアナログ感知器の出力を、前記信号線を介して受信する信号受信部と、
前記複数個のアナログ感知器の前記監視エリアにおける設置位置情報および当該アナログ感知器のそれぞれに対応した火災発報閾値を記憶する記憶部と、
前記火災発報閾値を変更調整する感度調整手段と、
前記アナログ感知器の出力が前記火災発報閾値を超えると前記監視エリアにおける火災発生を判断する火災判断手段と、
を備え、
前記感度調整手段は、前記複数個のアナログ感知器の中に出力が前記火災発報閾値よりも小さい調整開始閾値を超えた1のアナログ感知器が存在する場合に、当該1のアナログ感知器の出力と前記調整開始閾値との差が大きいほど当該1のアナログ感知器の周囲に設置された他のアナログ感知器のそれぞれに対応した火災発報閾値を、感度を高める方向に変更し、
前記火災判断手段は、前記1のアナログ感知器の出力および前記他のアナログ感知器の出力がいずれも対応する前記火災発報閾値を超えている場合に火災発生と判断するように構成したものである。
【0009】
ここで、アナログ感知器とは、火災に関連した物理量を検出して検出量の情報を送信する機能を有する感知器を意味する。
上記のような構成を有する火災報知システムによれば、いずれか1のアナログ感知器の出力が調整開始閾値を超えた場合に、周囲に設置された他のアナログ感知器の火災発報閾値が感度を高める方向に変更され、1のアナログ感知器の出力および周囲のアナログ感知器の出力がそれぞれ火災発報閾値を超えている場合に火災発生と判断するため、非火災報(誤報)を防ぎつつ火災発生の報知を行うことができる。
【0010】
また、望ましくは、前記火災判断手段は、いずれかの1の前記アナログ感知器の出力が、最大火災発報閾値を超えると、他の前記アナログ感知器の出力に関わらず直ちに火災の発生を判断するように構成する。
かかる構成によれば、最大火災発報閾値を超えると発報することで失報を確実に防止できる。
【0011】
また、望ましくは、前記感度調整手段は、前記調整開始閾値を超えた前記1のアナログ感知器の火災発報閾値を、最大火災発報閾値を限度として当該1のアナログ感知器の出力と前記調整開始閾値との差が大きいほど感度を低くする方向に変更するように構成する。
かかる構成によれば、埃が堆積したり結露で水分が付着したりすることで、出力(検出濃度)が増加している感知器の感度が低くされるため、ノイズ等によって受信機が誤って火災発生と判断するのを抑制することができる。
【0012】
また、望ましくは、前記感度調整手段は、前記他のアナログ感知器の火災発報閾値を、当該他のアナログ感知器と前記1のアナログ感知器との設置距離が大きいほど高感度となるよう変更するように構成する。
かかる構成によれば、埃が堆積したり結露で水分が付着したりすることで出力(検出濃度)が増加している感知器の出力が火災発報閾値を超えている場合にそれを無視することで誤報を防止したとしても、周囲の感知器の感度が高くされることで、本来の火災発生を見逃す事態が生じるのを回避することができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記受信機は、さらに、送信手段および計時手段を備え、
前記計時手段は、前記1のアナログ感知器の出力が前記火災発報閾値を超えた一方で前記他のアナログ感知器のいずれかの出力が前記火災発報閾値を超えなかった誤報防止の期間を計時し、
前記送信手段は、前記誤報防止の期間が一定時間以上継続している場合に、前記1のアナログ感知器について所定の作業の実施を要請するメッセージを管理者が使用する情報端末へ送信するように構成する。
かかる構成によれば、誤報防止の期間が一定時間以上継続した場合に、管理者の情報端末へメッセージが送信されるため、建物やシステムの管理者に対して誤報原因を取り除く対策を実施する動機づけを与えることができる。
【0014】
また、望ましくは、前記メッセージは、前記管理者に非火災要因の除去または究明を要請する内容であり、少なくとも前記1のアナログ感知器の清掃要請、前記1のアナログ感知器の構成部品の交換要請、前記1のアナログ感知器の交換要請のいずれか1つを含むようにする。
かかる構成によれば、誤報防止の期間が一定時間以上継続した場合に、管理者に対して実施すべき作業を具体的に提示して作業の実施を促すことができる。
【0015】
また、望ましくは、前記設置位置情報には、複数の前記アナログ感知器のそれぞれと当該アナログ感知器から一定の設置距離内にあるアナログ感知器との対応関係を示す情報が含まれているようにする。
かかる構成によれば、受信機は、火災発報閾値を超えた感知器の周囲に設置されている感知器を容易に知ることができ、速やかに周囲の感知器の火災発報閾値を変更する処理を実行することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る火災報知システムによれば、複数の煙感知器からの測定濃度を火災発生の判断材料として併用することで、非火災報(誤報)を防ぎつつ火災発生の判断を行うことができる。また、建物やシステムの管理者に対して誤報原因を取り除く対策を実施する動機づけを与えることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る火災報知システムの実施形態を示すシステム構成図である。
図2】実施形態の火災報知システムにおける火災発生の判別値としての火災発報閾値の設定方法の基本的な考え方を示すグラフである。
図3】実施形態の火災報知システムにおける周囲感知器の火災発報閾値の変更の仕方を示すグラフである。
図4】実施形態の火災報知システムにおける調整開始閾値を超えた感知器の火災発報閾値の変更の仕方を示すグラフである。
図5】実施形態の火災報知システムにおける周囲感知器の火災発報閾値の他の変更の仕方を示すグラフである。
図6】実施形態の火災報知システムを構成する火災受信機の演算処理部における火災発生判定処理の手順の一例(前半)を示すフローチャートである。
図7図6の火災発生判定処理のフローチャートの続き(後半)を示すフローチャートである。
図8】実施形態の火災報知システムの変形例における周囲感知器の火災発報閾値の変更の仕方を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を適用した火災報知システムの実施形態について説明する。図1は、本実施形態の火災報知システムの概略構成の一例を示すシステム構成図である。
本実施形態の火災報知システムは、図1に示すように、監視エリアMAに設置された複数の感知器11と、防災管理センター等に設置された火災受信機(以下、受信機と記す)12とから構成され、受信機12から引き出された信号線13が建物の各フロアに延設されそれぞれに複数の感知器11が接続されている。
【0019】
ここで、感知器11は連続するとみなせるような値(アナログ値)を出力するアナログ感知器であり、例えば煙感知器のように、検出した煙濃度の情報を受信機12へ送信する機能を有しており、フロアのレイアウトに応じて1つの空間に複数個設置される。受信機12へ送信する情報はアナログ信号(電圧、電流)でも良いし、それをA/D変換したディジタル信号(バイナリコード)であっても良い。なお、本実施形態は、フロアのレイアウトとして、例えばフロア全体が1つのオフィスあるいは数個に分割された比較的大きな部屋や会議室、ホールのような空間に感知器11が複数個設置されるシステムを想定している。また、信号線13には中継器等が接続されることもある。
【0020】
受信機12は、信号線13を介して感知器11より送られている情報信号を受信する信号受信部21と、演算処理部22、記憶部23、データ送信部24を備えており、記憶部23には、フロアの形状、レイアウト(部屋の間取り)、フロアのどの位置に感知器11が設置されているか示す設置位置情報、「1の感知器」のそれぞれに対応する「他の感知器」がどれかを示す対応テーブル情報、火災が発生したか否か判断するための火災発報閾値情報、外部へ通知するメッセージ情報(例文)などが記憶されている。
なお、各「1の感知器」と「他の感知器」との距離も、フロア形状、レイアウト情報に基づいてそれぞれ予め算出されて、対応テーブル情報と共に記憶されている。ここで、「他の感知器」は、「1の感知器」(「注目感知器」)の周囲に設置されている感知器を指しており、比較的離れた位置に設置されている感知器は含まない。
【0021】
演算処理部22は、複数個の感知器11より受信した煙濃度と予め設定された火災発報閾値Thまたは即時火災発報閾値(最大値)Thmaxとを比較して火災発生の判断をする火災判断手段22A、火災発生の判断に用いる閾値を変更して各感知器の感度を調整する感度調整手段22B、時刻を計時する計時手段(タイマ)22C、メッセージ作成手段22D、その他の手段を備えており、これらの手段は、演算処理部22を構成するCPU(マイクロプロセッサ)とCPUが実行するプログラムとによって実現される。記憶部23は、半導体メモリあるいはハードデイスクなどの記憶装置により構成される。演算処理部22は、複数の素子からなる電子回路として構成することも可能である。
【0022】
本発明の火災報知システムの目的は、監視エリア内に設置されている感知器は、埃の付着や結露による水分の付着によって検出濃度が変化して、誤報が発生するおそれがあるので、各感知器の火災発報閾値を工夫することによって失報を回避しつつ非火災報(誤報)を防止することにある。
次に、図2を用いて、上記実施形態の火災報知システムにおける火災発生の判断の閾値としての火災発報閾値の設定方法の基本的な考え方について説明する。
【0023】
図2は、埃や水分の付着によって検出出力(濃度)が高くなっている感知器(注目感知器)Aと、その感知器Aの周囲の感知器であって埃や水分が付着しておらず検出出力が正常である感知器B1,B2の検出濃度の一例を示すもので、図2(A)は感知器Aの近くで火災が発生したと想定した場合の各感知器の検出濃度、図2(B)は火災が発生していないと想定した場合の各感知器の検出濃度である。なお、図2において、Thは初期設定された各感知器の火災発報閾値(デフォルト値)である。
【0024】
図2においては、(A)と(B)のいずれも、感知器Aの検出濃度が火災発報閾値Thを超えている。しかし、図2(A)では感知器B1,B2の検出濃度もある程度高くなるが、図2(B)では感知器B1,B2の検出濃度は低いままである。そのため、各感知器の火災発報閾値がデフォルト値のままであると、実際には火災が発生していないと想定した図2(B)のように、受信機12は埃や結露による水分が付着した感知器Aが例えばタバコの煙のような僅かな煙やノイズで検出濃度が上昇したことに基づいて火災発生と判断してしまう、つまり非火災報(誤報)がなされてしまうことになる。
【0025】
そこで、感知器Aの検出濃度が火災発報閾値Thよりも低い調整開始閾値Thsを超えていると判断した場合には、図2(C)に示すように、周囲の感知器B1,B2の火災発報閾値をThからそれよりも低いTh1,Th2に下げて感度を高くする。
具体的には、感知器Aの検出濃度をSaとすると、感知器B1,B2の火災発報閾値Th1,Th2を、例えば次式
Th1= Th-C1×(Sa-Ths)
Th2= Th-C2×(Sa-Ths)
を用いて算出する。ここで、C1,C2は感知器B1,B2の条件に応じて、実験的に決定される定数である。
【0026】
上記のように注目する感知器Aの周囲に設置されている感知器の感度を下げることによって、感知器Aの検出濃度が火災発報閾値Thを超えてもそれだけでは火災発生と判断しないようにし、実際に発生した火災に伴う煙で感知器B1,B2の検出濃度がTh1,Th2よりも高くなれば火災発生と判断し、感知器B1,B2の検出濃度がTh1,Th2よりも低ければ火災が発生していないと判断する。これにより、失報を回避しつつ誤報を防止することができる。なお、上記説明では、周囲の感知器を2個としたが、3個以上の感知器についても同様に火災発報閾値を下げる処理を行うようにしても良い。
【0027】
本実施形態の火災報知システムにおいては、上記のような火災発報閾値の変更を可能にするため、上記調整開始閾値Thsが記憶部23に記憶されているとともに、受信機12の演算処理部22に感度調整手段22Bが設けられている。そして、感度調整手段22Bは、いずれかの感知器の出力(検出濃度)が調整開始閾値Thsを超えたと判断すると、記憶部23内の設置位置情報に基づいて当該感知器の周囲の感知器B1,B2……を抽出して、その火災発報閾値をTh1,Th2……に下げ、火災判断手段22Aは周囲の感知器B1,B2……の出力と変更後の火災発報閾値Th1,Th2……とを比較して火災発生の判断をするように構成されている。
【0028】
また、本実施形態においては、火災が発生していないにも関わらず、図3に示すように、ある感知器Aの検出濃度が増加傾向にあり調整開始閾値Thsを超えた場合には、Thsを超えて上昇した増加分δThの大きさに応じて、周囲の感知器B1,B2の火災発報閾値をTh1,Th2に下げる量ΔThを大きくするようにしている。これにより、埃や結露の付着が進行して単独では判断の信頼性が低下した分を、周囲の感知器の感度を高くすることで補うことができ、失報が生じるのを回避することができる。なお、調整開始閾値Thsは、設置条件等に応じて、感知器ごとに異ならせるようにしても良い。
【0029】
さらに、火災が発生していないにも関わらず、図4に示すように、ある感知器Aの検出濃度が増加傾向にあり調整開始閾値Thsを超えかつ上昇した増加分δThが所定以上大きくなった場合には、感知器Aの火災発報閾値を、Thよりも高いTh’に変更しかつThsを超えて上昇した増加分δThの大きさに応じてその上昇量ΔThを大きくするようにしても良い。また、このとき同時に、周囲の感知器の火災発報閾値Thを下げるようにする。これにより、埃の堆積や結露の付着が進行しても誤報を抑制して、火災報知システムの火災発生判断の信頼性が低下するのを回避することができる。
なお、この実施例の処理は、火災発報閾値Thの初期値が、これ以上濃度が高くなったら必ず火災発生と判断するための最大火災発報閾値Thmax(15%/m)よりも低い値(5~10%/m)に設定される場合に有効な処理であり、変更後のTh’はThmaxを超えることない。
【0030】
次に、本実施形態の火災報知システムにおける他の特徴的な処理について説明する。
第1の特徴的な処理は、ある感知器Aの検出濃度が前述したように火災発報閾値Thを超えたものの、その周囲の感知器B1,B2……の検出濃度が変更後の火災発報閾値Th1,Th2を超えていなかったため火災発生と判断せず発報しなかった期間(誤報状態継続期間)を計時手段22Cにより計時し、その期間が所定時間以上継続した場合に、建物やシステムの管理者へ通知を行うようにするというものである。
管理者への通知は、例えば管理者が使用する情報端末のアドレスおよび送信内容の文例を予め記憶部23に登録しておいて、誤報状態継続期間が所定時間以上継続した場合に、登録されている管理者アドレスに所定のメッセージをデータ送信部24より送信することで行う。
【0031】
ここで、送信するメッセージの内容としては、誤報状態にある感知器の設置位置と当該感知器の点検を促す文章や、感知器の清掃、機器や部品の交換、他の機種への変更を促す文章などが考えられる。つまり、管理者の知識や技術によって、誤報の原因を比較的容易に取り除く対策が可能な内容を通知するようにしている。
【0032】
上記のようにメッセージを建物やシステムの管理者へ通知することによって、誤報の原因が感知器への埃や結露の蓄積である場合に、正常に動作するように原因の除去が可能になる。また、誤報の原因が感知器の不具合である場合も考えられるので、メーカに連絡して調査、点検を依頼して失報が発生する前に、部品(例えば防虫網や暗箱等)や機器自体の交換を行うきっかけを与えることができる。さらに、必要に応じて設置環境に最適な機種への変更を推奨することができる。
なお、メッセージは感知器のメーカへ直接送信または間接的に知らせても良く、それによってメーカはその情報を製品の性能改善の基礎データとして活用することができる。
【0033】
第2の特徴的な処理は、ある感知器Aの検出濃度が調整開始閾値Thsを超えたことに応じて周囲の感知器B1,B2……の火災発報閾値Th1,Th2……を下げるにあたり、図5に示すように、感知器Aから感知器B1,B2……までの距離DA_B1,DA_B2……に比例して、下げる量ΔThを大きくするものである。具体的には、次式
Thn= Th-E×DA_Bn (ただしn=1,2,……)
を用いて火災発報閾値を変更する。
【0034】
なお、上記式において、Eは距離を「%/m」なる次元の量に変換するための係数で、全感知器共通でも良いし、感知器ごとに定められても良い。正確には、上記の例の場合、周囲の感知器B1,B2……までの距離DAB1、DAB2……に掛け算されるEは共通である必要はあるが、感知器Aと他の感知器とで異ならせるようにしても良い。
感知器A,B1,B2……が煙感知器の場合、感知器Aの近傍での火災発生で生じた煙は、離れた位置にある感知器の位置まで流れるうちに薄まると考えられるので、感知器Aからの距離の大きな感知器ほど低い火災発報閾値で火災発生を判断することは合理的であり、それによって判断結果の信頼性が高くなる。
【0035】
次に、本実施形態の火災報知システムを構成する受信機12の演算処理部22による火災発生判定処理の手順の一例を、図6図7に示すフローチャートを用いて説明する。このフローチャートは、例えば受信機12の電源が投入されることにより開始される。
受信機12の電源が投入されると、演算処理部22は、先ずすべてのカウンタのクリア、全ての発報フラグのオフ等の初期化処理を行う(ステップS1)。次に、演算処理部22は各信号線13に接続されている感知器11から検出濃度情報を受信して、調整開始閾値を超えた感知器があるか否か判断する(ステップS2)。
【0036】
そして、調整開始閾値を超えた感知器(以下、注目感知器と称する)がある(Yes)と判定した場合には、ステップS3へ進み、注目感知器ごとに出力(検出濃度)が調整開始閾値よりも所定量以上高いか否か判定し、出力が調整開始閾値よりも高い(Yes)と判定した場合には、注目感知器の火災発報閾値を、現在の出力と調整開始閾値との差に応じた分だけ高い値に変更し(ステップS4)、続いてステップS5に進む。
【0037】
一方、ステップS3で出力(検出濃度)が調整開始閾値よりも高くない(No)と判定すると、ステップS14へ移行する。
ステップS5では、注目感知器の出力が火災発報閾値を超えているか否か判定する。そして、火災発報閾値を超えていない(No)と判定した場合にはステップS14へ移行し、火災発報閾値を超えている(Yes)と判定した場合には、ステップS6へ進み、注目感知器の火災発報閾値は最大値(15%/m)であるか否か判定する。ここで、火災発報閾値は最大値(15%/m)でない(No)と判定した場合にはステップS7へ進み、記憶部23内のテーブルを参照して当該感知器の周囲の感知器を特定する。
【0038】
続いて、演算処理部22は、特定した周囲感知器ごとに当該感知器の火災発報閾値を、注目感知器との距離および注目感知器の出力と調整開始閾値との差に応じた分だけ低い値に変更する(ステップS8)。続いて、周囲感知器の出力が火災発報閾値を超えているか否か判定し(ステップS9)、火災発報閾値を超えた(Yes)と判定した場合には、ステップS10へ進んで、注目感知器に対応する発報フラグをオンにする。
一方、演算処理部22は、ステップS9で、火災発報閾値を超えていない(No)と判定した場合にはステップS11へ移行して、発報を行なわずに、注目感知器に対応するカウンタをインクリメントする。その後、当該カウンタの値が一定値以上になったか否か判定し(ステップS12)、カウンタの値が一定値以上になった(Yes)と判定した場合には、ステップS13へ進んで、注目感知器の点検等を促すメッセージを管理者の情報端末へ送信する。
【0039】
その後、演算処理部22は、発報フラグがオンになっている注目感知器があるか否か判定し(ステップS14)、発報フラグがオンになっている注目感知器がある(Yes)と判定した場合には、ステップS15へ進んで、当該注目感知器の設置位置の近傍で火災が発生しているとして通報(発報)を実行する。一方、ステップS14で発報フラグがオンになっている注目感知器がない(No)と判定すると、ステップS2へ戻って上記処理を繰り返す。
【0040】
次に、図8を用いて、前記実施形態の火災報知システムの変形例について説明する。
前記実施形態の火災報知システムにおいては、ある感知器が周囲の感知器に比べて埃の堆積や結露による水分の付着が多い場合を想定している。しかし、建物の構造等によっては、ある領域に設置されている複数の感知器において、同時に埃の堆積や結露による水分の付着が多くなる場合も考えられる。
【0041】
そこで、図8に示す変形例においては、監視エリアに設置されている全ての感知器について、その検出濃度を履歴情報として記憶部23に記憶し、ある感知器Aの検出濃度が調整開始閾値Thsを超えたことに応じて周囲の感知器B1,B2……の火災発報閾値Th1,Th2……を下げるにあたり、図8に示すように、周囲の感知器B1,B2……の履歴情報を参照する。そして、周囲の感知器B1,B2……においても、埃の堆積や結露による水分の付着で検出濃度が増加していると判断した場合には、周囲の感知器B1,B2……の火災発報閾値Th1,Th2……を下げない、あるいは下げる量ΔThを、前実施形態に比べて小さくするようにしたものである。
上記のようにすることによって、複数の感知器において埃の堆積や結露による水分の付着が多くなることによって、火災が発生していない状況下で検出濃度が増加した場合にも精度の高い火災発生の判断を行うことができる。
【0042】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、アナログ感知器として煙濃度を検出する煙感知器を使用した火災報知システムについて説明したが、アナログ感知器は煙感知器に限定されるものでなく、COなどの有害ガスを検知するガスセンサ等の素子およびこれらの素子からの信号を増幅する増幅回路が実装されたガス感知器であっても良く、本発明は煙感知器とガス感知器とが混在した火災報知システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
11 煙感知器(アナログ感知器)
12 火災受信機(受信機)
13 信号線
21 信号受信部
22 演算処理部
23 記憶部
24 データ送信部
22A 火災判断手段
22B 感度調整手段
22C 計時手段(タイマ)
22D メッセージ作成手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8