(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161666
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20231031BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20231031BHJP
G21C 19/02 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
G21F9/28 525D
G21D1/00 Y
G21F9/28 525B
G21C19/02 090
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072138
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】大平 高史
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 慎太郎
(57)【要約】 (修正有)
【課題】還元除染液の分解時に炭素鋼部材の腐食量を従来よりも抑制することができる原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法を提供する。
【解決手段】所定の除染液で還元溶解して除染する酸化物皮膜還元除染ステップと、前記所定の除染液を分解し浄化する還元除染液分解浄化ステップとを有し、前記還元除染液分解浄化ステップは、シュウ酸を投入するシュウ酸添加サブステップと、前記腐食抑制剤の分解を先行させるために過酸化水素を投入する過酸化水素供給サブステップと、前記腐食抑制剤が分解した領域にシュウ酸鉄皮膜を形成するシュウ酸鉄皮膜形成サブステップと、前記ギ酸を分解させるギ酸分解サブステップと、過酸化水素の分解によって生成する鉄イオンを除去するUV照射-カチオン交換除去サブステップと、前記アスコルビン酸およびその関連物質を分解させるアスコルビン酸関連物質分解サブステップとを有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法であって、
化学除染対象物となる前記炭素鋼部材に付着した放射性核種の酸化物皮膜を所定の除染液で還元溶解して除染する酸化物皮膜還元除染ステップと、
前記酸化物皮膜還元除染ステップの後に、前記所定の除染液を分解し浄化する還元除染液分解浄化ステップとを有し、
前記所定の除染液は、ギ酸とアスコルビン酸と腐食抑制剤とを含み、前記ギ酸の濃度が最も高く、前記アスコルビン酸の濃度が前記ギ酸の濃度の1/3以上2/3以下であり、前記腐食抑制剤の濃度が前記ギ酸の濃度の1/20以上1/10以下であり、
前記還元除染液分解浄化ステップは、
前記所定の除染液に前記ギ酸の濃度の1/9以上1/6以下の濃度のシュウ酸を投入するシュウ酸添加サブステップと、
前記腐食抑制剤の分解を先行させるために、前記腐食抑制剤の分解当量の1以上2以下の量の過酸化水素を投入する過酸化水素供給サブステップと、
前記腐食抑制剤が分解した領域にシュウ酸鉄皮膜を形成するシュウ酸鉄皮膜形成サブステップと、
前記シュウ酸鉄皮膜形成サブステップの後に、前記ギ酸の分解当量の1以上2以下の量の過酸化水素を投入して前記ギ酸を分解するギ酸分解サブステップと、
前記過酸化水素の分解によって生成する鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元した上で除去するUV照射-カチオン交換除去サブステップと、
前記アスコルビン酸の分解当量の8/10以上12/10以下の量の過酸化水素を投入して前記アスコルビン酸およびその関連物質を分解させるアスコルビン酸関連物質分解サブステップとを有する、
ことを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法。
【請求項2】
請求項1に記載の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において、
前記シュウ酸鉄皮膜形成サブステップは、1時間以上2時間以下の保持時間を確保することを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において、
前記ギ酸の濃度が1500 ppm以上9000 ppm以下であり、
前記アスコルビン酸の濃度が500 ppm以上6000 ppm以下であり、
前記腐食抑制剤の濃度が75 ppm以上900 ppm以下であり、
前記シュウ酸の濃度が250 ppm以上1000 ppm以下であることを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において、
前記UV照射-カチオン交換除去サブステップと、前記アスコルビン酸関連物質分解サブステップとの間に、前記炭素鋼部材の金属表面が露出するのを抑制するために前記腐食抑制剤を再導入する腐食抑制剤再導入サブステップを更に有する、ことを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法において、
前記アスコルビン酸関連物質分解サブステップの後に、前記所定の除染液を混床樹脂に通水して浄化する混床樹脂通水浄化サブステップを更に有する、ことを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素鋼部材を化学除染する技術に関し、特に、原子力プラントで使用される炭素鋼部材に好適な化学除染方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラント(BWRプラントと称する)では、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。RPVには再循環ポンプ(インターナルポンプとも称する)が接続され、炉心の冷却とタービンの回転駆動源となる流体とを兼ねる炉水が循環している。炉水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が水蒸気になる。この水蒸気は、RPVからタービンに導かれてタービンを回転させる。タービンから排出される水蒸気は、復水器で凝縮されて水になり、凝縮した水は、給水ポンプによって炉水として炉心に供給される。
【0003】
放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、BWRプラントの構成部材(例えばRPV及び再循環系配管等)における炉水と接する表面で発生する。腐食生成物をできるだけ抑制するため、主要な一次系構成部材には耐食性の高いステンレス鋼やニッケル基合金などが使用されている。また、低合金鋼製のRPVの内面にはステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が炉水と直接接触することを防いでいる。さらには、原子炉浄化系のろ過脱塩装置をRPVに接続することによって、炉水中に存在する金属不純物を積極的に除去している。
【0004】
しかしながら、上述のような腐食対策を講じても、炉水中に極僅かな金属不純物が混入することは避けられないため、それら金属不純物が燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に金属酸化物として付着する。燃料棒表面に付着した不純物の金属元素は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂により放出される中性子の照射によって原子核反応を起こし、放射性核種(例えば、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54など)になる。
【0005】
これらの放射性核種は、通常、酸化物の形態で燃料棒表面に付着した状態になるが、当該酸化物の溶解度に応じて一部の放射性核種は、炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水に混入した放射性物質はRPVに接続された原子炉浄化系によって大部分が取り除かれるが、除去しきれなかった放射性物質は炉水とともに原子力プラントを循環している間に、原子力プラントの構成部材(例えば、配管)の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、それら構成部材の表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被ばくの要因となる。
【0006】
従事者の被ばく線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被ばく線量を可能な限り低くする必要が生じている。そこで、定検作業での被ばく線量が高くなることが予想される場合は、配管に付着した放射性腐食生成物を溶解して除去する化学除染が実施されることが好ましい。
【0007】
例えば、特許文献1(特開2009-109427)には、炭素鋼製の部材の表面から放射性物質を除去する化学除染方法であって、シュウ酸水溶液により前記炭素鋼製の部材を除染する第1の工程と、前記第1の工程後にシュウ酸とギ酸の混合水溶液により前記炭素鋼製の部材を除染する第2の工程とを具備したことを特徴とする化学除染方法、が開示されている。また、前記第1の工程おいて、前記炭素鋼製の部材の表面にシュウ酸鉄の保護皮膜を形成して、当該炭素鋼製の部材を構成する炭素鋼母材の溶解を抑制することが開示されている。
【0008】
特許文献1によると、炭素鋼製の部材を含む配管や機器等の化学除染を行う際に、炭素鋼製の部材の腐食を抑制することができ、健全性を維持することのできる化学除染方法およびその装置を提供することができる、とされている。
【0009】
また、特許文献2(特開2018-151210)には、炭素鋼を含む除染対象物に付着した金属酸化物を含有する放射性不溶物を除染液で溶解する溶解工程と、該溶解工程によって生成する金属イオン含有除染液をカチオン交換樹脂と接触させて金属イオンを除去する金属イオン除去工程とを有する化学除染方法において、前記溶解工程は、ギ酸と、アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸と、腐食抑制剤とを含有する除染液による還元溶解工程を含むことを特徴とする化学除染方法、が開示されている。
【0010】
特許文献2によると、化学除染において、炭素鋼の腐食を抑制するための腐食抑制剤を使用することによって、腐食による除染液中の金属イオンの増加を抑制できるため、除染排液である金属イオン含有除染液の浄化のためのカチオン交換樹脂の使用量及び廃棄物量を低減できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009-109427号公報
【特許文献2】特開2018-151210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の技術では、第1の工程でシュウ酸水溶液を用いて炭素鋼部材の還元除染を行うので、シュウ酸鉄(II)2水和物が生成され、このシュウ酸鉄(II)2水和物が炭素鋼部材の表面に析出する。その結果、炭素鋼部材の表面に蓄積した放射性核種の酸化物皮膜(放射性腐食生成物)の溶解が阻害され、化学除染の効率が低下することが懸念される。また、第2の工程では、ギ酸を含むシュウ酸水溶液で還元除染が行われるので、ギ酸によりシュウ酸鉄(II)2水和物が一旦溶解されるが、シュウ酸が存在するためにシュウ酸鉄(II)2水和物が新たに生成され、結果として放射性核種の酸化物皮膜の溶解が再度阻害される懸念がある。
【0013】
特許文献2の技術では、シュウ酸を使用しないので放射性核種の酸化物皮膜を溶解する上ではシュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の形成という問題は起こらない。また、ギ酸やアスコルビン酸の分解に際して過酸化水素を利用するとともに有機系の防錆剤を添加することから炭素鋼部材の腐食抑制にも配慮されている。
【0014】
原子力プラントにおいて、安全性の確保は最優先課題であるが、ランニングコストの低減も重要課題のうちの一つである。本発明者等は、特許文献2の技術を詳細に検討したところ、当該技術による炭素鋼部材の腐食量は炭素鋼部材の腐食裕度に対して小さいことを確認したが、当該腐食量をより少なくすることができれば炭素鋼部材の寿命を延ばすことができ、ランニングコストの低減に寄与できると考えた。
【0015】
したがって、本発明の目的は、炭素鋼部材に付着した放射性核種の酸化物皮膜を化学除染するにあたって、還元除染液の分解時に炭素鋼部材の腐食量を従来よりも抑制することができる原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(I)本発明の一態様は、原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法であって、
化学除染対象物となる前記炭素鋼部材に付着した放射性核種の酸化物皮膜を所定の除染液で還元溶解して除染する酸化物皮膜還元除染ステップと、
前記酸化物皮膜還元除染ステップの後に、前記所定の除染液を分解し浄化する還元除染液分解浄化ステップとを有し、
前記所定の除染液は、ギ酸とアスコルビン酸と腐食抑制剤とを含み、前記ギ酸の濃度が最も高く、前記アスコルビン酸の濃度が前記ギ酸の濃度の1/3以上2/3以下であり、前記腐食抑制剤の濃度が前記ギ酸の濃度の1/20以上1/10以下であり、
前記還元除染液分解浄化ステップは、
前記所定の除染液に前記ギ酸の濃度の1/9以上1/6以下の濃度のシュウ酸を投入するシュウ酸添加サブステップと、
前記腐食抑制剤の分解を先行させるために前記腐食抑制剤の分解当量の1以上2以下の量の過酸化水素を投入する過酸化水素供給サブステップと、
前記腐食抑制剤が分解した領域にシュウ酸鉄皮膜を形成するシュウ酸鉄皮膜形成サブステップと、
前記シュウ酸鉄皮膜形成サブステップの後に、前記ギ酸の分解当量の1以上2以下の量の過酸化水素を投入して前記ギ酸を分解させるギ酸分解サブステップと、
前記過酸化水素の分解によって生成する鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元した上で除去するUV(紫外線)照射-カチオン交換除去サブステップと、
前記アスコルビン酸の分解当量の8/10以上12/10以下の量の過酸化水素を投入して前記アスコルビン酸およびその関連物質を分解させるアスコルビン酸関連物質分解サブステップとを有する、ことを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法、を提供するものである。
【0017】
本発明は、上記の原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記シュウ酸鉄皮膜形成サブステップは、1時間以上2時間以下の保持時間を確保する。
(ii)前記ギ酸の濃度が1500 ppm以上9000 ppm以下であり、前記アスコルビン酸の濃度が500 ppm以上6000 ppm以下であり、前記腐食抑制剤の濃度が75 ppm以上900 ppm以下であり、前記シュウ酸の濃度が250 ppm以上1000 ppm以下である。
(iii)前記UV照射-カチオン交換除去サブステップと、前記アスコルビン酸関連物質分解サブステップとの間に、前記炭素鋼部材の金属表面が露出するのを抑制するために前記腐食抑制剤を再導入する腐食抑制剤再導入サブステップを更に有する。
(iv)前記アスコルビン酸関連物質分解サブステップの後に、前記所定の除染液を混床樹脂に通水して浄化する混床樹脂通水浄化サブステップを更に有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炭素鋼部材に付着した放射性核種の酸化物皮膜を化学除染するにあたって、還元除染液の分解時に炭素鋼部材の腐食量を従来よりも抑制可能な原子力プラントの炭素鋼部材の化学除染方法を提供することができる。その結果、炭素鋼部材の寿命を延ばすことができ、ランニングコストの低減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】BWRプラントの概略構成を示す系統模式図である。
【
図2】実施形態1に係る化学除染装置の概略構成を示す系統模式図である。
【
図3】90℃における還元除染液中のシュウ酸濃度とシュウ酸鉄(II)2水和物の生成による鉄イオン濃度との関係を示すグラフである。
【
図4】90℃、500 ppmシュウ酸水溶液におけるシュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の形成厚さと形成時間との関係を示すグラフである。
【
図5】実施形態1に係る炭素鋼部材の化学除染方法の基本手順を示すフロー図である。
【
図6】還元除染液分解・浄化ステップS5の基本手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0021】
[原子力プラントの概略構成]
まず、本発明が適用される原子力プラントの概略構成を、BWRプラントを例として簡単に説明する。なお、当然のことながら、本発明はBWRプラントに限定されるものではなく、加圧水型原子力プラント(PWRプラント)にも適用することができる。
【0022】
図1は、BWRプラントの概略構成を示す系統模式図である。
図1に示したように、BWRプラントは、概略的に、原子炉格納容器11、その中に設置された原子炉49、原子炉49内で炉水を循環させる再循環系統、主蒸気配管55で接続されたタービン56及び復水器57、凝縮した水を原子炉49に戻す給水系統、再循環系統と給水系統とに接続され炉水を浄化する原子炉浄化系統、再循環系統に接続され原子炉停止時に炉心51の余熱を除去する残留熱除去系統(RHR系統と称する)を備えている。構成部材の化学除染を行う化学除染装置1は、仮設設備であり、必要に応じて接続される。
【0023】
原子炉49は、複数の燃料棒(図示せず)が装荷された炉心51と、ジェットポンプ52とをRPV 50内に具備し、再循環ポンプ53及びステンレス鋼製の再循環系配管54を有する再循環系統が接続されている。RPV 50内の炉水は、再循環ポンプ53で昇圧され、再循環系配管54を通ってジェットポンプ52に噴出される。ジェットポンプ52から吐出された炉水は、炉心51に供給され炉心51を冷却するとともに、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された炉水の一部が水蒸気になる。
【0024】
炉心51で発生した水蒸気は、RPV 50から主蒸気配管55を通ってタービン56に導かれ、タービン56を回転させる。タービン56に連結された発電機(図示せず)が回転され、電力が発生する。タービン56から排出された水蒸気は、復水器57で凝縮されて水に戻る。
【0025】
給水系統は、復水器57とRPV 50を連絡する給水系配管58に、復水器57からRPV 50に向かって復水ポンプ59、復水浄化装置60、低圧給水加熱器61、給水ポンプ63、及び高圧給水加熱器62が設置されて構成される。給水系配管58を流れる水は、復水ポンプ59で昇圧され、復水浄化装置60で不純物が除去され、給水ポンプ63でさらに昇圧され、低圧給水加熱器61及び高圧給水加熱器62で加熱される。抽気配管74で主蒸気配管55及びタービン56から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器61及び高圧給水加熱器62にそれぞれ供給され、流通する水の加熱源となる。
【0026】
また、復水浄化装置60をバイパスするバイパス配管65が給水配管58に接続される。さらに、炉水の放射線分解で生じた酸化性化学種(過酸化水素や酸素など)を減少させて炉水の水質改善(構成部材の腐食電位の低下)を促すための水素注入装置66が、復水器57と復水ポンプ59との間で給水配管58に接続される。なお、BWRプラントにおいて、給水系統に水素を注入しながら行う運転を水素注入水質(HWC:Hydrogen Water Chemistry)運転と言い、水素注入を行わない運転を通常水質(NWC:Normal Water Chemistry)運転と言う。
【0027】
原子炉水浄化系統は、再循環系配管54と給水系配管58とを連絡する浄化系配管67に、浄化系ポンプ68、再生熱交換器69、非再生熱交換器70及び炉水浄化装置71を設置して構成される。浄化系配管67は、再循環ポンプ53より上流で再循環系配管54に接続される。再循環系配管54内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ68の駆動によって浄化系配管67内に流入し、再生熱交換器69、再生熱交換器70で冷却された後、炉水浄化装置71で浄化され、再生熱交換器69によって加熱された後、給水系配管58を流れる給水に供給され、RPV 50に戻される。
【0028】
RHR系統は、炭素鋼製のRHR配管82、熱交換器(図示せず)、及びポンプ83を有する。RHR配管82の一端部は、再循環系ポンプ53よりも上流で再循環系配管54に接続され、RHR配管82の他端部は、炉心よりも上方でRPV 50に接続される。なお、図においては、図面簡素化のためにRHR系統を一つの再循環系配管54にのみ図示したが、実際にはそれぞれの再循環系配管54に配設される。
【0029】
BWRプラントは、所定の運転サイクルでの運転が終了すると停止され、定期検査が実施される。定期検査が終了した後、BWRプラントが再度起動される。この定期検査の期間中において、炉心51内の一部の燃料集合体が使用済燃料集合体として取り出され、燃焼度0 GWd/tの新燃料集合体が炉心51に装荷される。定期検査を実施する前に、BWRプラントの配管等に対する化学除染が実施される場合がある。
【0030】
{実施形態1}
[化学除染装置の概略構成]
化学除染装置1は、しばしば原子炉水浄化系統に接続され、主に浄化系配管67及び浄化系ポンプ68に蓄積した放射性腐食生成物(放射性核種の酸化物皮膜)の除去を行う。
図2は、実施形態1に係る化学除染装置の概略構成を示す系統模式図である。
【0031】
図2に示したように、化学除染装置1は、概略的に、循環配管2、循環ポンプ21及び20、フィルタ22、冷却器23、陽イオン交換樹脂塔24、混床樹脂塔25、紫外線照射装置26、酸化剤注入装置7、内部に加熱器18を設置したサージタンク17、還元除染液供給装置6、電気伝導率計(EC)19、及び過酸化水素注入装置12を備えている。化学除染装置1内では、炉水は、浄化系配管67に接続された開閉弁27から開閉弁33に向かって、循環ポンプ21、弁28~31、サージタンク17、循環ポンプ20、及び弁32の順で流れていく。
【0032】
弁28をバイパスするように循環配管2に接続された配管34には、弁35及びフィルタ22が設置される。弁29をバイパスするように循環配管2に接続された配管36には、冷却器23及び弁37が設置される。弁30をバイパスするように循環配管2に接続された配管38及び39には、それぞれ陽イオン交換樹脂塔24及び弁40、混床樹脂塔25及び弁41が設置される。陽イオン交換樹脂塔24は、陽イオン交換樹脂を充填した樹脂層を内部に有し、混床樹脂塔25は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を充填した樹脂層を内部に有している。
【0033】
弁31をバイパスするように循環配管2に接続された配管42には、紫外線照射装置26及び弁43が設置される。紫外線照射装置26は、主にアスコルビン酸の分解に使用する。化学除染に使用する還元除染用の薬剤としては、廃棄物量の低減化を考慮して水及び二酸化炭素に分解できる有機酸を用いることが好ましい。
【0034】
酸化剤注入装置7は、薬液タンク8、注入ポンプ9、及び弁45を有し、注入配管44を介して紫外線照射装置26の上流で配管42に接続される。薬液タンク8には、酸化剤として、例えば過酸化水素またはオゾン水が貯蔵される。
【0035】
還元除染液供給装置6は、弁3、エゼクタ4、及びホッパ5を有し、供給配管75を介して一端部がサージタンク17の上部に接続され、他端部が循環ポンプ20と弁32との間で循環配管2に接続される。
【0036】
腐食抑制剤除去用の過酸化水素注入装置12は、過酸化水素を貯蔵する薬液タンク13、注入ポンプ14、及び弁15を有し、注入配管16介して弁32と弁33との間の循環配管2に接続される。また、電気伝導率計19が、弁32と弁33との間の循環配管2に設置される。
【0037】
弁46を設けた配管47は、一端部が電気伝導率計19と開閉弁33との間の循環配管2に接続され、他端部が開閉弁27と循環ポンプ21との間の循環配管2に接続される。
【0038】
[化学除染プロセス]
(腐食抑制プロセスの検討)
前述したように、本発明者等は、ギ酸、アスコルビン酸、及び有機系腐食抑制剤を含む水溶液(還元除染液)を用いた炭素鋼の化学除染に対して、還元除染液の分解過程での炭素鋼の腐食を抑制する方法を検討した。まず、特許文献2の技術をベースにして、基準となる炭素鋼腐食量を調査した。
【0039】
ギ酸3500 ppm、アスコルビン酸1500 ppm、腐食抑制剤200 ppmの水溶液に鉄濃度が100 ppmとなるようにマグネタイトを添加して90℃で溶解した第1の還元除染液を用意した。腐食抑制剤には市販の酸腐食抑制剤(朝日化学工業株式会社製、イビット30AR)を用いた。用意した第1の還元除染液に対して炭素鋼試験片を浸漬して該炭素鋼試験片の酸洗を行った後、過酸化水素をギ酸分解当量の約1.5倍(8000 ppm)添加して炭素鋼の腐食量を測定し、この腐食量を基準とした。前述したように、この基準腐食量は炭素鋼部材の腐食裕度よりも小さいものである。
【0040】
なお、ギ酸は、鉄(II)イオンと過酸化水素とのフェントン反応(化学反応式1)で形成されるヒドロキシルラジカルによって化学反応式2のように分解される。
【0041】
【0042】
【0043】
本発明者等は、炭素鋼が腐食する要因について種々考察した結果、過酸化水素によってギ酸を分解する際に、腐食抑制剤が先に分解しきってしまうことに起因する過酸化水素と炭素鋼との直接接触が主たる腐食要因ではないかと考えた。そこで、シュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜を形成することによって過酸化水素と炭素鋼とが直接接触することを抑制して腐食抑制することを検討した。
【0044】
なお、シュウ酸鉄皮膜は、鉄(II)イオンとシュウ酸とが化学反応式3に示す化学反応よって生成する低溶解度のシュウ酸鉄(II)2水和物が析出するものである。
【0045】
【0046】
添加するシュウ酸の濃度について検討するため、還元除染液中のシュウ酸濃度とシュウ酸鉄(II)2水和物の生成量との関係を調査した。シュウ酸鉄(II)2水和物は、難溶性ではあるがある程度の溶解度をもつ。このことから、シュウ酸鉄(II)2水和物の生成・析出は、初期段階では生成しても再溶解して鉄イオンを生じさせ、飽和溶解度に近づくにつれて再溶解よりも析出が優位になると考えられる。言い換えると、溶液中の鉄イオン濃度を測定することにより、シュウ酸鉄(II)2水和物の生成度合を定性的に把握することができる。そこで、還元除染液中のシュウ酸濃度と鉄イオン濃度との関係を測定した。結果を
図3に示す。
図3は、90℃の還元除染液に添加したシュウ酸濃度と該還元除染液中の鉄イオン濃度との関係を示すグラフである。
【0047】
図3に示したように、還元除染液中のシュウ酸濃度を高めると鉄イオン濃度が増加することが分かる。詳細に見ると、シュウ酸濃度250 ppm程度までは、該シュウ酸濃度の増加に伴って鉄イオン濃度が比較的高い傾きで増加するが、シュウ酸濃度250 ppm程度以上から鉄イオン濃度の傾きが緩くなり、シュウ酸濃度500 ppm程度以上から鉄イオン濃度が飽和傾向を示すことが分かる。これは、シュウ酸濃度250 ppm程度以上から、シュウ酸鉄(II)2水和物の再溶解よりも析出が優位になることを意味する。
【0048】
一方、化学除染が終了した後の還元除染液の分解・浄化を考慮すると、生成量を必要以上に高めることは分解処理量の増加につながることから好ましくない。これらのことから、還元除染液中のシュウ酸濃度は、250 ppm以上1000 ppm以下が好ましく、300 ppm以上900 ppm以下がより好ましいと考えられた。
【0049】
つぎに、シュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の形成量と形成時間との関係を調査した。シュウ酸水溶液(500 ppm、90℃)に炭素鋼試験片を複数枚浸漬し、経過時間ごとに試験片を取り出して、形成されているシュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の厚さを測定した。結果を
図4に示す。
図4は、90℃、500 ppmシュウ酸水溶液におけるシュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の形成厚さと形成時間との関係を示すグラフである。
【0050】
図4に示したように、形成時間(シュウ酸水溶液への浸漬時間)が長くなるとシュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の厚さが増加する。また、1時間程度の形成時間までは、シュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の厚さが比較的高い傾きで増加するが、1時間程度以上の形成時間から傾きが緩くなり、2時間程度以上の形成時間から飽和傾向を示すことが分かる。十分な形成量の確保、形成量の制御性、およびワークタイムの短縮の観点から、シュウ酸鉄(II)2水和物皮膜の形成時間は、1時間以上3時間以下が好ましく、1.5時間以上2.5時間以下がより好ましいと考えられた。
【0051】
図3~
図4の結果を受けて、第1の還元除染液にシュウ酸500 ppmを更に添加した第2の還元除染液を用意した。90℃の第2の還元除染液に対して炭素鋼試験片を2時間浸漬してシュウ酸鉄の形成を促した。つぎに、過酸化水素をギ酸分解当量の約1.5倍添加して腐食量を求めたところ、腐食量は先の基準に対して約90%(すなわち、腐食抑制効果は約10%)であった。シュウ酸の添加によって、試験片表面の上にシュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜は形成したと考えられるが、試験片表面に密着せず弱く堆積しただけのようであり、水流によって容易に剥離したものと考えられた。
【0052】
本発明者等は、シュウ酸鉄(II)2水和物が試験片表面に密着しなかった要因を検討した。その結果、還元除染液中の腐食抑制剤が炭素鋼試験片の表面に吸着してシュウ酸鉄(II)2水和物の密着を阻害している可能性があると考えられた。一方、先の実験から、過酸化水素によってギ酸を分解しようとすると、腐食抑制剤が先に分解しきってしまうことが確認されている。
【0053】
そこで、過酸化水素によって表面に吸着している腐食抑制剤を先行除去し、その除去した領域にシュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜を形成することを考えた。具体的には、腐食抑制剤を分解するのに必要十分な量の過酸化水素を添加して、炭素鋼試験片の表面から腐食抑制剤を除去してから、その領域(腐食抑制剤を除去した領域)にシュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜の形成を行い、その後にギ酸を分解するのに必要十分な量の過酸化水素を再度添加するという方法を考えた。この方法による腐食量を求めたところ、腐食量は先の基準に対して約30%(すなわち、腐食抑制効果は約70%)に改善することが分かった。
【0054】
上記の検討から、過酸化水素と炭素鋼との直接接触による炭素鋼の腐食を抑制するためには、還元除染液にシュウ酸を単純添加することではなく、腐食抑制剤の濃度を基準に過酸化水素を添加して腐食抑制剤を先行除去し、その除去した領域にシュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜を形成することが重要であることが判明した。
【0055】
(化学除染方法)
以下、実施形態1に係る炭素鋼部材の化学除染方法について、
図1~
図2、
図5を参照しながら具体的に説明する。
図5は、実施形態1に係る炭素鋼部材の化学除染方法の基本手順を示すフロー図である。
【0056】
前述したように、運転を経験したBWRプラントでは、RPV 50内の炉水が流れる再循環系配管54及び浄化系配管67等の内面に、放射性核種を含む酸化物皮膜(放射性腐食生成物)が付着・堆積しており、この酸化物皮膜を化学除染により除去することが望ましい。一例として、炭素鋼製の配管である浄化系配管67に設けられた浄化系ポンプ68、再生熱交換器69及び非再生熱交換器70等の点検、保守作業が計画されている定期検査において、点検作業員または保守作業員の放射線被ばく低減のため、浄化系配管67に対して化学除染を実施する場合を説明する。
【0057】
はじめに、運転が停止された原子力プラントの化学除染対象物(ここでは浄化系配管67)に化学除染装置1を接続する化学除染装置接続ステップS1を行う。例えば、化学除染装置1の循環配管2の両端を浄化系配管67に接続する。具体的な手順としては、浄化系配管67に設置されている弁72のボンネットを開放して再循環系配管54側を封鎖する。化学除染装置1の循環配管2の一端を弁72のフランジに接続する。浄化系ポンプ68の下流側で浄化系配管67に設置された弁73のボンネットを開放して再生熱交換器69側を封鎖する。化学除染装置1の循環配管2の他端を弁73のフランジに接続する。これにより、浄化系配管67及び循環配管2を含む閉ループが形成される。
【0058】
つぎに、浄化系配管67、循環配管2、及びサージタンク17に水を充填するとともに水温を調節する水張・温調ステップS2を行う。具体的な手順としては、
図2のすべての弁を閉止し、その後サージタンク17に水を張り、弁32、46、28、29、30、31を開いて化学除染装置1の循環系統に水を循環させる。続いて、弁33、27を開いて、弁46を閉めることで炉水浄化系配管67に水を張る。その際、サージタンク17への給水は継続する。循環ポンプ20、21を駆動させながら、サージタンク17内の加熱器18によって循環配管2及び浄化系配管67内を循環する循環水を加熱し、循環水の温度を約90℃に調節する。
【0059】
つぎに、還元除染液を用いて浄化系配管67の内面を還元除染する還元除染ステップS3を行う。具体的な手順としては、ギ酸、アスコルビン酸、及び腐食抑制剤(例えば、朝日化学工業株式会社製、イビット30AR)を還元除染液供給装置6のホッパ5に添加して還元除染液を調合し、適宜水を加えながら弁3を開くことでエゼクタ4の水流を利用してホッパ5内の還元除染液を吸い込ませてサージタンク17に供給する。供給された還元除染液は、循環ポンプ20、21の駆動によって化学除染系統内に供給され、炉水浄化系配管67の内面に形成された酸化物皮膜を溶解し、酸化物皮膜に含まれるCo-60などの放射性核種も溶解する。
【0060】
ギ酸、アスコルビン酸の濃度は高濃度なほど酸化物皮膜の溶解には有効であるが、後の還元除染液分解・浄化ステップS5に大きな負荷がかかるので、あまり高い濃度で実施することは現実的ではない。具体的には、ギ酸の濃度は、1500 ppm以上9000 ppm以下が好ましく、1800 ppm以上7500 ppm以下がより好ましい。アスコルビン酸の濃度は、ギ酸の濃度の1/3以上2/3以下を目安とし、500 ppm以上6000 ppm以下が好ましく、600 ppm以上5000 ppm以下がより好ましい。腐食抑制剤の濃度は、ギ酸の濃度の1/20以上1/10以下を目安とし、75 ppm以上900 ppm以下が好ましく、90 ppm以上750 ppm以下がより好ましい。
【0061】
酸化物皮膜が溶解してくると還元除染液中のFe濃度やCo-60濃度などが増加してくるので、弁30、40の開度を調整して陽イオン交換樹脂塔24に還元除染液を通水してカチオン成分を除去する。この時、腐食抑制剤も除去されるので除去量に相当する量をホッパ5から供給する。陽イオン交換樹脂塔24でカチオンが除去された還元除染液は、弁30を通過した還元除染液と一緒にサージタンク17に導かれる。このようにして、還元除染液が、浄化系配管67及び循環配管2で形成される閉ループ内を循環しすることで、浄化系配管67の内面の還元除染が行われる。
【0062】
つぎに、還元除染の終了の可否を判断する還元除染終了判断ステップS4を行う。
図2に示したように化学除染対象物である浄化系配管67の外側には放射線検出器76が配置されており、放射線検出器76によって浄化系配管67から放出される放射線(放射性酸化物皮膜の付着・堆積量に依存する)を検出し、放射線検出信号を出力する。この放射線検出信号に基づいて浄化系配管67の線量率を求める。線量率が目標範囲に到達していない場合は、水温を90℃に再調整して還元除染ステップS3から繰り返す。
【0063】
線量率は低いほど好ましいが、ゼロを目指すのは費用対効果の観点で非現実的なことから、適切な被ばく線量管理ができる範囲で目標を設定する。例えば、目標線量率を0.1 mSv/hとしたり、1時間あたりの線量率低下が初期線量率の1%を下回った時点としたりすることができる。
【0064】
つぎに、還元除染液を分解・浄化する還元除染液分解・浄化ステップS5を行う。実施形態1に係る化学除染方法は、本ステップS5に最大の特徴がある。詳細は後述する。
【0065】
つぎに、化学除染で使用した水を浄化系配管67及び循環配管2の閉ループから排出する排水ステップS6を行う。排水先は原子力プラントの排水処理系統とし、導電率やpHなどの排水基準をクリアしていることを確認して排水する。
【0066】
排水ステップS6の後、化学除染対象物に接続した化学除染装置1を取り外す化学除染装置撤去ステップS7を行って、化学除染を終了する。
【0067】
(還元除染液分解・浄化ステップS5)
還元除染液分解・浄化ステップS5について具体的に説明する。
図6は、還元除染液分解・浄化ステップS5の基本手順を示すフロー図である。なお、以下の説明では、還元除染終了判断ステップS4を経た還元除染液を、還元除染廃液と称することがある。
【0068】
還元除染終了判断ステップS4の後、還元除染廃液にシュウ酸を加えるシュウ酸添加サブステップS5-1を行う。具体的な手順としては、ホッパ5にシュウ酸と水とを添加し、弁3を開いて配管75に還元除染廃液を流通させてホッパ5のシュウ酸水溶液を吸い込ませてサージタンク17へシュウ酸を添加する。還元除染廃液が一巡する間、シュウ酸を添加することで還元除染液全体にシュウ酸が行き渡る。
【0069】
つぎに、炉水浄化系配管67の内表面に吸着している腐食抑制剤を先行除去するために還元除染廃液に過酸化水素を供給する過酸化水素供給サブステップS5-2を行う。具体的な手順としては、弁30を開いて弁40を閉じて陽イオン交換樹脂塔24への流入を停止する。過酸化水素注入装置12の弁15を開いて注入ポンプ14を駆動し、タンク13内の過酸化水素を循環配管2内の還元除染廃液に注入する。過酸化水素の供給量は、過酸化水素の濃度が腐食抑制剤の濃度の1倍以上2倍以下となるように制御することが好ましく、1.2倍以上1.8倍以下となるように制御することがより好ましい。還元除染廃液に供給された過酸化水素は、循環に伴って浄化系配管67の内表面に吸着していた腐食抑制剤を除去しながら自身は分解する。
【0070】
その後、腐食抑制剤を除去した領域にシュウ酸鉄(II)2水和物皮膜を形成するシュウ酸鉄皮膜形成サブステップS5-3に移行する。サブステップS5-2で腐食抑制剤が先行除去されて炉水浄化系配管67の内表面の地金(炭素鋼)が露出すると、当該露出した地金とサブステップS5-1で添加したシュウ酸との間で、化学反応式3に示した化学反応によってシュウ酸鉄(II)2水和物皮膜が形成する。このとき、
図4で検討したように、十分な形成量の確保、形成量の制御性、及びワークタイムの短縮の観点から、サブステップS5-3の保持時間を1時間以上3時間以下とすることが好ましい。
【0071】
つぎに、ギ酸の分解当量の1倍以上2倍以下の過酸化水素を投入してギ酸を分解するギ酸分解サブステップS5-4を行う。具体的な手順としては、紫外線照射装置26に付属する酸化剤注入装置7を使用し、弁31と弁43とを調整開として配管42に還元除染廃液を流通させる。弁45を開いて注入ポンプ9を駆動して、薬液タンク8内の過酸化水素を配管42に供給する。このとき、紫外線照射装置26は稼働させない。供給された過酸化水素は、循環に伴って還元除染廃液全体に行き渡り、化学反応式1~2に示した化学反応によってギ酸が分解される。
【0072】
また、未分解の過酸化水素及びギ酸が炉水浄化系配管67を循環する際、サブステップS5-2で腐食抑制剤が先行除去された領域にはサブステップS5-3でシュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜が形成されているため、過酸化水素やギ酸が炉水浄化系配管67の金属表面と直接接触することがなく、炭素鋼部材の腐食が抑制される。
【0073】
つぎに、過酸化水素の分解によって生成する鉄(III)イオンを鉄(II)イオンに還元した上で除去するUV照射-カチオン交換除去サブステップS5-5を行う。具体的な手順としては、注入ポンプ9を停止し、弁45を閉じる。続いて、紫外線照射装置26の紫外線を点灯する。還元除染廃液中に何かしらの有機酸が存在すると該有機酸が還元剤として作用し、鉄(III)イオンは還元されて鉄(II)イオンとなる。
【0074】
例えば、シュウ酸が還元剤として作用する場合の化学反応式は次のようになる。
【0075】
【0076】
【0077】
続いて、還元生成した鉄(II)イオンを還元除染廃液から除去するため、弁30及び弁40の開度を調整して陽イオン交換樹脂塔24に還元除染廃液を通水する。これにより鉄(II)イオンがカチオン交換樹脂に吸着されて還元除染廃液から除去される。鉄濃度が所定値(例えば5 ppm以下)になったところで陽イオン交換樹脂塔24の運用を停止するため弁30を開いて弁40を閉じる。
【0078】
つぎに、除染対象物(ここでは、炉水浄化系配管67)の腐食をより抑制するために腐食抑制剤を再導入する腐食抑制剤再導入サブステップS5-6を行う。サブステップS5-3により、炉水浄化系配管67の内表面にはシュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜が形成されているが、サブステップS5-4のギ酸分解プロセスにより、シュウ酸鉄(II)2水和物の沈殿皮膜もある程度は分解除去されていると考えられる。本サブステップS5-4は必須の工程ではないが、炭素鋼部材の金属表面が露出するのを抑制する観点から、本サブステップS5-6を行うことは好ましい。
【0079】
具体的な手順としては、ホッパ5に腐食抑制剤と水とを添加し、弁3を開いてエゼクタ4から腐食抑制剤を吸い込ませてサージタンク17へ供給する。本サブステップS5-4での腐食抑制剤添加濃度に特段の限定はないが、例えば、還元除染ステップS3の時と同量とする。サージタンク17に供給された腐食抑制剤は、循環に伴って炉水浄化系配管67へ供給され、母材の腐食を抑制する。
【0080】
つぎに、サブステップS5-4のギ酸分解、サブステップS5-5の鉄イオン除去後の還元除染廃液に残っている不純物の主成分であるアスコルビン酸関連物質を分解するアスコルビン酸関連物質分解サブステップS5-7を行う。ステップS3の還元除染で使用したアスコルビン酸は、サブステップS5-4の過酸化水素添加によって大部分が酸化形態のデヒドロアスコルビン酸となり、一部はフェントン反応(化学反応式1参照)で生成するヒドロキシルラジカルで更に分解が進んでいる。本サブステップS5-7は、これらのアスコルビン酸およびその関連物質を分解除去するものである。
【0081】
具体的な手順としては、弁31と弁43の開度を調整して紫外線照射装置26へ還元除染廃液の一部を流通させる。紫外線照射装置26を稼働させながら、弁45を開いて注入ポンプ9を駆動して、薬液タンク8内の過酸化水素を配管42に供給する。過酸化水素の供給量は、アスコルビン酸の分解当量の8/10以上12/10以下が好ましく、9/10以上11/10以下がより好ましい。
【0082】
アスコルビン酸及びデヒドロアスコルビン酸の過酸化水素及び紫外線照射による分解反応は次のようになる。
【0083】
【0084】
【0085】
アスコルビン酸関連物質の分解/残存は、還元除染廃液からサンプリングして全有機炭素(TOC)を測定することで監視できる。TOC濃度の低下が収束したところ(例えば、TOC濃度≦10 ppm)でアスコルビン酸関連物質の分解がほぼ完了したと判断し、本サブステップS5-7を終了する。
【0086】
つぎに、還元除染廃液中に残留している不純物を更に浄化するため、混床樹脂に通水して浄化する混床樹脂通水浄化サブステップS5-8を行う。具体的な手順としては、まず、混床樹脂塔25の混床樹脂に含まれるアニオン交換樹脂の耐熱温度以下に還元除染廃液を冷却するため、弁29と弁37との開度を調整して冷却器23に還元除染廃液を通水する。循環配管2と配管36との合流点の温度がアニオン交換樹脂の耐熱温度以下(例えば60℃以下)になったら、還元除染廃液を混床樹脂塔25に通水するため弁30と弁41との開度を調整する。還元除染廃液に含まれるカチオン成分及びアニオン成分は混床樹脂に含まれるカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂に吸着されて除去される。カチオン成分及びアニオン成分の除去によって還元除染廃液の導電率が低下することから、電気伝導率計19が所定の導電率(例えば2μS/cm以下)を示したところで完了と判断する。
【0087】
上記のサブステップからなる還元除染液分解・浄化ステップS5を行うことにより、還元除染液の分解・浄化の際に、炭素鋼部材の腐食量を従来よりも抑制することができる。その結果、炭素鋼部材の寿命を延ばすことができ、原子力プラントのランニングコストの低減に寄与できる。また、炭素鋼部材の腐食量を抑制することは、溶出する鉄イオン量を減少させることを意味し、溶出イオンを捕捉するためのイオン交換樹脂の寿命を延ばし廃棄量を抑制できる副次的な効果もある。
【0088】
上述した実施形態は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0089】
1…化学除染装置、2…循環配管、6…還元除染液供給装置、7…酸化剤注入装置、12…過酸化水素注入装置、17…サージタンク、19…電気伝導率計、20,21…循環ポンプ、22…フィルタ、23…冷却器、24…陽イオン交換樹脂塔、25…混床樹脂塔、26…紫外線照射装置、76…放射線検出器、77…腐食抑制剤注入装置、
11…原子炉格納容器、49…原子炉、50…原子炉圧力容器、51…炉心、54…再循環系配管、55…主蒸気配管、56…タービン、57…復水器、58…給水系配管、66…水素注入装置、67…浄化系配管、74…抽気配管。