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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161695
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20231031BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 127
B41J2/01 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072183
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 善信
(72)【発明者】
【氏名】餘田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】中村 潔
(72)【発明者】
【氏名】波越 翔平
(72)【発明者】
【氏名】太田 琢也
(72)【発明者】
【氏名】塙 啓太
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA23
2C056EC28
2C056FA13
2C056HA44
2C056HA60
(57)【要約】
【課題】小型化を図りつつ、硬化阻害を抑制することのできる記録装置を提供すること。
【解決手段】放射線硬化型インクジェット組成物を吐出して記録媒体上に付着するインクジェットヘッドと、前記放射線硬化型インクジェット組成物が付着した前記記録媒体上に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記不活性ガスが供給された状態で、前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に、放射線を照射する照射部と、を備え、前記不活性ガス供給部は、前記不活性ガスを前記照射部直下に向けて傾けて吐出する、インクジェット記録装置。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線硬化型インクジェット組成物を吐出して記録媒体上に付着するインクジェットヘッドと、
前記放射線硬化型インクジェット組成物が付着した前記記録媒体上に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記不活性ガスが供給された状態で、前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に、放射線を照射する照射部と、を備え、
前記不活性ガス供給部は、前記不活性ガスを前記照射部直下に向けて傾けて吐出する、
インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記不活性ガス供給部は、前記不活性ガスを前記記録媒体の搬送方向の上流に向けて傾けて吐出する、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクジェットヘッドは、前記記録媒体の幅以上の幅を有する、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記不活性ガス供給部と前記照射部は、それぞれ、前記記録媒体の幅以上の幅を有する、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記不活性ガスの供給量は、0.8L/min/cm以上4.0L/min/cm以下である、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記不活性ガス供給部から供給される前記不活性ガスの供給方向と、前記記録媒体の表面とのなす角が、10~85°である、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記不活性ガス供給部が、前記不活性ガスの供給方向を制御するガイド部材を備える、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、放射線硬化型インクの硬化方法等について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、酸素の少ない雰囲気下で活性線を照射することにより、インクジェットインクを効率よく硬化させる工程を含むインクジェット記録方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-043010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、LED光源ユニットは不活性ガスブランケットに囲まれており、ブランケット内の雰囲気を貧酸素雰囲気とすることが開示されている。しかしながら、酸素による硬化阻害を下位にするためとはいえ、このようなブランケットを用いると、記録装置を大型化せざるを得ない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のインクジェット記録装置は、放射線硬化型インクジェット組成物を吐出して記録媒体上に付着するインクジェットヘッドと、前記放射線硬化型インクジェット組成物が付着した前記記録媒体上に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記不活性ガスが供給された状態で、前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に、放射線を照射する照射部と、を備え、前記不活性ガス供給部は、前記不活性ガスを前記照射部直下に向けて傾けて吐出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】本実施形態のインクジェット記録装置の一態様を示す概略図である。
図1B】本実施形態のインクジェット記録装置の他の態様を示す概略図である。
図1C】本実施形態のインクジェット記録装置の他の態様を示す概略図である。
図2A】不活性ガス吐出部の一態様を示す概略図である。
図2B】不活性ガス吐出部の他の態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0008】
1.インクジェット記録装置
本実施形態のインクジェット記録装置は、放射線硬化型インクジェット組成物(以下、単に「インク組成物」といもいう。)を吐出して記録媒体上に付着するインクジェットヘッドと、前記放射線硬化型インクジェット組成物が付着した前記記録媒体上に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記不活性ガスが供給された状態で、前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に、放射線を照射する照射部と、を備え、前記不活性ガス供給部は、前記不活性ガスを前記照射部直下に向けて傾けて吐出する。
【0009】
従来の記録装置では、記録媒体とUV照射部との間の空間が比較的広いため、記録媒体上に吐出されたインク組成物の硬化の際には、酸素による重合阻害を受けやすい。このような重合阻害を抑制する観点から、ブランケットなどで囲んだ部分に不活性ガスを充填した中でUV照射を行うことで、酸素濃度が低い状況下で硬化を実施することも検討されている。しかし、ブランケットで囲った場合には装置が大型化してしまうおそれがある。他方で、ブランケットで囲わない場合には、UV照射部の空間が広く、不活性ガスによる酸素濃度低減効率が悪く、重合阻害を達成しにくい。特に、印刷速度を高めた時に十分な酸素阻害防止効果が得られないほか、不活性ガスの使用量が増大し大型のガス発生装置が必要となる。
【0010】
これに対して、本実施形態においては、不活性ガス供給部により、不活性ガスを照射部直下に向けて傾けて吐出する。これにより、ブランケットなどで囲わなくとも、インク組成物が硬化される照射部直下の記録媒体近傍のみを酸素濃度が小さい状態とできるため、不活性ガスによる酸素濃度低減効率を向上することができ、記録装置の小型化も達成することができる。
【0011】
図1A図1Cに、本実施形態のインクジェット記録装置の概略図を示す。図1A図1Cに示すように、インクジェット記録装置100は、照射部11と、不活性ガス供給部12と、インクジェットヘッド20と、搬送部30と、を有する。以下、各構成について詳説する。
【0012】
1.1.インクジェットヘッド
インクジェットヘッド20は、インク組成物を吐出して記録媒体M上に付着する手段である。インクジェットヘッド20は、記録媒体Mと対向するノズルプレート表面にノズルを有し、そのノズルからインク組成物を吐出する。ノズルは列状に配列されていてもよい。
【0013】
本実施形態の記録装置100は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ホワイトなどの色ごとに一つ一つの独立したインクジェットヘッド20を有してもよい。また、一つのインクジェットヘッド20が2色以上のインク組成物を吐出可能に構成されていてもよい。
【0014】
インク組成物をノズルから吐出させる方式としては、圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填された組成物をノズルから吐出させる方法が挙げられる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。ノズル内のインク組成物に圧力を加える方法としては、特に限定されないが、例えば、圧電素子を用いてインク組成物の液滴を吐出するピエゾ方式や、加熱により液滴を吐出するサーマル方式が挙げられる。
【0015】
また、吐出工程において用いるインクジェットヘッド20は、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドとが挙げられる。このなかでも、ラインヘッドが好ましい。これによって、印刷速度の向上を図ることができる。
【0016】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0017】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してヘッドのノズル開口からインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録することができる。
【0018】
このなかでも、高速に多量の印刷を可能とする観点からは、ライン方式を用いることが好ましい。ライン方式の場合、記録媒体を副走査方向に連続的に送りつつ、ラインヘッドにより、1パスにて、連続的に記録と放射線照射を行うことができる。特に記録媒体が搬送方向に沿って長尺状をなす場合、搬送方向の下流側でインクを付着させた記録媒体を巻き取る構成を取りやすい。なお、図1において示す記録装置の形式はライン方式の例を示している。
【0019】
1.2.照射部
照射部11は、不活性ガスが供給された状態で、記録媒体に付着したインク組成物に、放射線を照射する。放射線が照射されると、インク組成物中のモノマーの重合反応が開始することで組成物が硬化し、塗膜が形成される。このとき、重合開始剤が存在すると、ラジカル、酸、及び塩基などの活性種(開始種)を発生し、モノマーの重合反応が、その開始種の機能によって促進される。
【0020】
ここで、放射線としては、紫外線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。照射部11は、インクジェットヘッド20の下流に設けられていてもよい。これにより、記録媒体に付着したインク組成物に、放射線を照射できる。照射部11としては、特に制限されないが、例えば、UV-LEDが挙げられる。このような放射線源を使用することで、装置の小型化やコストの低下を実現できる。
【0021】
ラインヘッドを用いたライン方式では、照射部11も記録媒体の幅以上の幅を有することが好ましい。これにより、1パスにて、連続的に記録と放射線照射を行い、下流でインクを付着した記録媒体を巻き取ることができる。
【0022】
1.3.不活性ガス供給部
不活性ガス供給部12は、インク組成物が付着した記録媒体上に不活性ガスを供給する手段であり、不活性ガスを照射部11の直下に向けて傾けて吐出する。上記のように、照射部11により放射線が照射されると、インク組成物中のモノマーの重合反応が開始することで組成物が硬化し、塗膜が形成される。この際に、空気中など酸素が存在する雰囲気下で放射線の照射を行うと、重合開始剤の酸素による脱活性化や、成長ポリマー末端と酸素との反応による重合反応の停止などが生じる可能性がある。
【0023】
そこで、本実施形態においては、不活性ガス供給部12によって、不活性ガスを照射部11の直下に向けて傾けて吐出することにより、照射部11の直下であり、インク組成物が付着した面S1の近傍において酸素濃度の低い空間を形成する。そして、その空間に向けて、照射部11により放射線を照射することにより、重合開始剤の失活や重合反応の停止を抑制できる。
【0024】
記録装置100は、照射部11と不活性ガス供給部12とを記録媒体の搬送方向の順に有してもよいし、不活性ガス供給部12と照射部11とを記録媒体の搬送方向の順に有してもよい。
【0025】
図1Aに示すように、照射部11と不活性ガス供給部12とを記録媒体の搬送方向の順に有する場合、不活性ガス供給部12は、不活性ガスを記録媒体の搬送方向の上流に向けて傾けて吐出する態様となる。このように、不活性ガスを記録媒体の搬送方向の上流に向けて傾けて吐出すると、不活性ガスの吐出方向と記録媒体の搬送方向とは逆の方向となる。そうすると、吐出された不活性ガスは搬送された記録媒体とぶつかり、照射部直下で滞留しやすくなる。それによって、酸素による硬化阻害がより抑制されるほか、吐出する不活性ガス量を比較的少なくすることもできる。
【0026】
また、図1Bに示すように不活性ガス供給部12と照射部11とを記録媒体の搬送方向の順に有する場合、不活性ガス供給部12は、不活性ガスを記録媒体の搬送方向の下流に向けて傾けて吐出する態様となる。このように、不活性ガスを記録媒体の搬送方向の下流に向けて傾けて吐出すると、不活性ガスの吐出方向と記録媒体の搬送方向と同じ方向となる。そうすると、吐出された不活性ガスは搬送された記録媒体の流れに沿って、照射部直下に導かれやすくなる。それによって、酸素による硬化阻害がより抑制される傾向にある。
【0027】
以上のように、不活性ガスを前記照射部直下に向けて傾けて吐出することにより、インク組成物が付着した面S1の近傍において酸素濃度の低い空間を形成することが可能となり、これにより、ブランケットなどで囲わなくとも、不活性ガスによる酸素濃度低減効率を向上することができる。
【0028】
図2Aに示すように、不活性ガス供給部12は、不活性ガスの吐出口として、所定の傾きθを有するノズル13を備えていてもよい。また、図2Bに示すように、不活性ガス供給部12は、吐出された不活性ガスの供給方向を制御するガイドとして、所定の傾きθを有するガイド14を備えていてもよい。ガイド14は、板状の部材であってもよい。
【0029】
不活性ガス供給部12は、不活性ガスを照射部11の直下に向けて傾けて吐出する。なお、本発明における「傾けて吐出」とは、不活性ガスの供給方向と、記録媒体の表面とのなす角θが90°とならないように吐出されることを表す。不活性ガス供給部12から供給される不活性ガスの供給方向と、記録媒体の表面とのなす角θは、好ましくは10~85°であり、より好ましくは20~75°であり、さらに好ましくは30~65°である。角θが上記範囲内であることにより、照射部11の直下に不活性ガスを供給しやすくなるため、酸素濃度低減効率がより向上する傾向にある。
【0030】
また、本実施形態のように照射部の直下に不活性ガスを供給することで、従来法と比べて不活性ガスを供給する範囲を小さくすることができる。また、具体的には、不活性ガスの供給量は、好ましくは0.8L/min/cm以上4.0L/min/cm以下であり、より好ましくは1.0L/min/cm以上3.5L/min/cm以下である。不活性ガスの供給量が上記範囲内であることにより、比較的小さい不活性ガスの供給量であっても酸素濃度低減効率がより向上する傾向にある。
【0031】
ラインヘッドを用いたライン方式では、不活性ガス供給部12も記録媒体の幅以上の幅を有することが好ましい。これにより、1パスにて、連続的に記録と放射線照射を行い、下流でインクを付着した記録媒体を巻き取ることができる。
【0032】
図1Cに、本実施形態のインクジェット記録装置100の他の態様を示す概略図を示す。図1Cに示すように、本実施形態の記録装置100は、複数のインクジェットヘッド20を備え、上記照射部11及び不活性ガス供給部12を、インクジェットヘッド20に対応して一つずつ備えてもよい。
【0033】
より具体的には、本実施形態の記録装置100は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ホワイトなどの色ごとに一つ一つの独立したインクジェットヘッド20を有し、そのインクジェットヘッド20に対応して一組の照射部11及び不活性ガス供給部12を有していてもよい。これにより、より記録物の画質がより一層向上する傾向にある。
【0034】
特に、本実施形態の照射部11及び不活性ガス供給部12は、上述のとおり、ブランケットなどを設けずとも、照射部11と記録媒体Mの表面で挟まれる空間において、不活性ガスによる酸素濃度低減効率を向上することができ、放射線照射による硬化効率を向上することができる。そのため、照射部11及び不活性ガス供給部12を小型化することが可能となるため、一つのインクジェットヘッド20に対応して一組の照射部11及び不活性ガス供給部12を設置することが可能となる。
【0035】
他方で、ブランケットなどを設ける従来の記録装置においては、装置の大きさの現実的な制限から考えて、複数のインクジェットヘッド20に対応して一組の照射部11及び不活性ガス供給部12を設置することが妥当であり、一つのインクジェットヘッド20に対応して一組の照射部11及び不活性ガス供給部12を設置することは実質上困難となる。
【0036】
1.4.搬送部
本実施形態の記録装置100は、記録媒体Mを搬送する搬送部30を有していてもよい。搬送部30は、記録媒体Mを搬送方向Fに搬送するように構成されたものであれば、特に限定されないが、例えば、図1A図1Cにおいては、ロール状の記録媒体Mを送り出しと、ロール状の記録媒体Mを巻き戻しを実行する搬送部30が表現されている。
【0037】
1.5.記録媒体
本実施形態の記録装置100が使用する記録媒体は、特に限定されないが、例えば、非吸収性記録媒体が好ましい。特に、本実施形態において用いる記録媒体は、記録面および非記録面は、いずれも非吸収性であることが好ましい。このような記録媒体を用いることにより、ラベル用途等に適した記録物を得ることができる。
【0038】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体等が挙げられる。
【0039】
なお、本実施形態において非吸収性とは、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msecまでの水吸収量が10mL/m2以下であることをいう。また、非吸収性記録媒体とは、このような非吸収性を有する記録媒体をいう。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0040】
2.記録方法
本実施形態の記録方法は、上記インクジェット記録装置を用いた記録方法であって、インク組成物を吐出して、記録媒体に付着させる吐出工程と、記録媒体に付着したインク組成物に対して、放射線を照射してインク組成物の硬化塗膜を得る照射工程と、を有し、照射工程において、インク組成物が付着した記録媒体上に、不活性ガスを照射部直下に向けて供給した状態で放射線を照射する。
【0041】
2.1.吐出工程
吐出工程は、インク組成物をインクジェットヘッド20から吐出して、記録媒体Mに付着させる工程である。より具体的には、圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填された組成物をノズルから吐出させる。
【0042】
インクを付着させた記録媒体を巻き取る観点から、吐出工程においてはライン方式を用いることが好ましい。ライン方式の場合、記録媒体を副走査方向に連続的に送りつつ、ラインヘッドにより連続的に記録と放射線照射を行い、下流でインクを付着した記録媒体を巻き取る。なお、図1A図1Cにおいて示す記録装置の形式はライン方式である。
【0043】
吐出工程におけるインクのDuty等の付着態様は、特に制限されず、目的とする画像に応じて適宜調整することができる。
【0044】
2.2.照射工程
照射工程は、記録媒体Mに付着したインクに対して、不活性ガス供給部12から照射部11の直下に不活性ガスを流しつつ、照射部11から放射線を照射することで、酸素による重合阻害を抑制しつつ、インクの硬化塗膜を得る工程である。
【0045】
この照射工程では、記録媒体に付着したインク組成物に対して、放射線を照射する。放射線が照射されると、モノマーの重合反応が開始することで組成物が硬化し、塗膜が形成される。このとき、重合開始剤が存在すると、ラジカル、酸、及び塩基などの活性種(開始種)を発生し、モノマーの重合反応が、その開始種の機能によって促進される。
【0046】
照射工程は、記録媒体に付着した放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射して放射線硬化型インクジェット組成物の硬化塗膜を得る工程である。特に、本実施形態においては、照射工程において、放射線硬化型インクジェット組成物が付着した記録媒体上に不活性ガスを供給した状態で放射線を照射する。
【0047】
ここで、放射線としては、紫外線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線源は、インクジェットヘッドの下流に設けられた放射線源によって、組成物に対して照射する。
【0048】
2.3.積層工程
本実施形態の記録方法は、記録物を、インク組成物が付着した記録面と、インク組成物が付着していない非記録面とが対向するように積み重ねる積層工程を有していてもよい。
【0049】
積層工程における積み重ね方法は、特に制限されないが、例えば、単票状の記録物を一枚ずつ記録面と非記録面とが対向するように積み重ねるほか、長尺な記録媒体に対して連続して記録した記録物を、記録装置の下流において、ロール状に巻き取ることにより、記録面と、非記録面とが対向するように積み重ねることが挙げられる。より具体的には、巻取ローラにて巻きとることで、記録物を巻回体とすることができる。この巻回体の中では、記録面と非記録面とが対向するように積み重ねられて記録物が巻かれる。
【0050】
3.インク組成物
本実施形態において放射線硬化型インクジェットインク組成物とは、放射線を照射することにより硬化するものをいう。放射線としては、紫外線、電子線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。このなかでも、放射線としては、放射線源が入手しやすく広く用いられている点、及び紫外線の放射による硬化に適した材料が入手しやすく広く用いられている点から、紫外線が好ましい。
【0051】
本実施形態の放射線硬化型インクジェットインク組成物は、特に制限されないが、例えば、重合性化合物、光重合開始剤、重合禁止剤、スリップ剤、色材、分散剤等を含んでいてもよい。なお、インク組成物は、下地などに用いられるアンダーコート用のインク組成物であってもよいし、カラーインクなどの画像形成用のインク組成物であってもよいし、オーバーコート用のインク組成物であってもよい。
【0052】
3.1.重合性化合物
重合性化合物は、単官能モノマーを含み、必要に応じて、多官能モノマーを含んでいてもよい。
【0053】
単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、脂環族基を有する単官能モノマー、芳香族基を有する単官能モノマー、含窒素複素環を有する単官能モノマーが挙げられる。また、単官能モノマーとしてはこれら以外のモノマーを用いてもよい。
【0054】
多官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、ビニル基含有(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、が挙げられる。
【0055】
3.2.光重合開始剤
光重合開始剤としては、放射線を照射することにより活性種を生じるものであれば特に限定されないが、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、アルキルフェノン系重合開始剤、チタノセン系重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等の公知の光重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が好ましい。このような光重合開始剤を用いることにより、インクの硬化性がより向上し、特にUV-LEDの光による硬化プロセスによる硬化性がより向上する傾向にある。光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
3.3.重合禁止剤
重合禁止剤としては、以下に限定されないが、例えば、p-メトキシフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ヒドロキノン、クレゾール、t-ブチルカテコール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-ブチルフェノール)、及び4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。重合禁止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
3.4.スリップ剤
スリップ剤としては、シリコーン系界面活性剤が好ましく、ポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性シリコーンであることがより好ましい。ポリエステル変性シリコーンとしては、BYK-347、348、BYK-UV3500、3510、3530(以上、BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンとしては、BYK-3570(BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられる。スリップ剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
3.5.色材
色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。また、色材の種類に応じて、分散剤を用いてもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち1種以上を主成分とするものが挙げられる。分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0059】
11…照射部、12…不活性ガス供給部、13…ノズル、14…ガイド、20…インクジェットヘッド、30…搬送部、100…インクジェット記録装置、F…搬送方向、M…記録媒体
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B