(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161701
(43)【公開日】2023-11-08
(54)【発明の名称】浮遊物除去装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/40 20230101AFI20231031BHJP
【FI】
C02F1/40 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022072198
(22)【出願日】2022-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111970
【弁理士】
【氏名又は名称】三林 大介
(72)【発明者】
【氏名】柘植 真吾
【テーマコード(参考)】
4D051
【Fターム(参考)】
4D051AA06
4D051AB04
4D051DC04
4D051DC08
(57)【要約】
【課題】浮遊物除去装置における可動体の内側に形成された接続通路の水位上昇に起因して浮遊物の除去性能が低下することを抑制する。
【解決手段】水中本体10に対して上下方向に移動可能に可動体30を接続し、浴槽水面から突出する可動体の水上部分の高さが標準高さとなる浮力を浮力部31で発生させる。また、可動体の内側に一端が上向きに開口し、他端が水中本体に連通する接続通路35aと、可動体の外周から浴槽の湯水を接続通路に取り入れる取水口32とを備え、接続通路の湯水を放水口13に向けてポンプ12で移送しながらフィルタ24で濾過する。そして、可動体の水上部分の高さが標準高さにある状態で、取水口の上部を浴槽水面よりも上方に位置させると共に、取水口における取水量を、ポンプによる湯水の移送量よりも少なく設定しておき、可動体における接続通路の上方を覆う被覆部36を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽の水面に浮かぶ浮遊物を除去する浮遊物除去装置において、
前記浴槽の水中に位置する水中本体と、
前記水中本体に対して上下方向に移動可能に接続された可動体と、
前記可動体の上部を前記浴槽の水面よりも上方に突出させ、該水面から突出している水上部分の高さが所定の標準高さとなる浮力を発生させる浮力部と、
前記可動体の内側に一端が上向きに開口し、他端が前記水中本体と連通する接続通路と、
前記可動体の外周から前記浴槽の湯水を前記接続通路に取り入れる取水口と、
前記接続通路の湯水を、前記浴槽内に開口した放水口に向けて移送するポンプと、
前記接続通路から前記放水口に向かって流れる湯水を濾過するフィルタと
を備え、
前記可動体の前記水上部分の高さが前記標準高さに維持された状態で、前記取水口の上部は前記浴槽の水面よりも上方に位置すると共に、該取水口における取水量は、前記ポンプによる湯水の移送量よりも少なく設定されており、
前記可動体における前記接続通路の上方を覆う被覆部が設けられている
ことを特徴とする浮遊物除去装置。
【請求項2】
請求項1に記載の浮遊物除去装置において、
前記被覆部の下面側には、前記浴槽の水面と接した場合に働く表面張力を低減する低減部が設けられている
ことを特徴とする浮遊物除去装置。
【請求項3】
請求項2に記載の浮遊物除去装置において、
前記低減部には、撥水性の表面処理が施されている
ことを特徴とする浮遊物除去装置。
【請求項4】
請求項2に記載の浮遊物除去装置において、
前記低減部は、前記浴槽の水面との間に空気を溜めることが可能な凹みを有する
ことを特徴とする浮遊物除去装置。
【請求項5】
請求項1に記載の浮遊物除去装置において、
前記被覆部の下面側には、下方に向かって断面が縮小する形状であると共に、前記浴槽の水面に対して傾斜した下向きの面を有する傾斜部が設けられている
ことを特徴とする浮遊物除去装置。
【請求項6】
請求項5に記載の浮遊物除去装置において、
前記傾斜部は、下方に向かって細くなる先細り形状の複数の突起で構成されている
ことを特徴とする浮遊物除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽の水面に浮かぶ浮遊物を除去する浮遊物除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入浴の際に、浴槽の水面に垢や髪の毛などのゴミが浮遊物として浮いていると、衛生的ではなく不快である。そこで、こうした浮遊物を除去する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載された装置では、浴槽の水中に位置する水中本体(筒状本体)に対して上下方向に移動可能に可動体(遊動筒)が接続されており、この可動体は、フロートの浮力で上部が浴槽の水面よりも上方に突出しており、水面の変動に追従することが可能である。また、可動体の周面の上端側には、可動体の内側に形成された接続通路に浴槽の湯水を取り入れるための切欠部が複数設けられている。一方、水中本体側には、ポンプやフィルタが設置されており、ポンプを駆動すると、接続通路の湯水がフィルタを通過して浴槽へと放出されるのに伴い、接続通路の水位が低下する。そして、浴槽と接続通路との水位差が生じることによって、浴槽の水面付近の湯水が浮遊物と一緒に切欠部を通って接続通路に流れ落ち、フィルタで濾過されることで浮遊物を除去することができる。このとき、浴槽の水面に対して切欠部の下端が所定の深さに位置するようにフロートの浮力を適切に設定しておくことで、ポンプによる放水量よりも切欠部における取水量が少なくなって水位差が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の装置では、浴槽の水面に対して切欠部の下端が所定の深さに位置していても、接続通路の水位が上昇して浴槽との水位差が僅かになることがあり、そうした場合に、浴槽から切欠部を通って接続通路に流入する湯水の流れは水面よりも水中が主となるため、水面に浮かぶ浮遊物を取り込み難くなってしまうという問題があった。
【0005】
この発明は、従来の技術における上述した課題に対応してなされたものであり、浮遊物除去装置における可動体の内側に形成された接続通路の水位上昇に起因して浮遊物の除去性能が低下することを抑制可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の浮遊物除去装置は次の構成を採用した。すなわち、
浴槽の水面に浮かぶ浮遊物を除去する浮遊物除去装置において、
前記浴槽の水中に位置する水中本体と、
前記水中本体に対して上下方向に移動可能に接続された可動体と、
前記可動体の上部を前記浴槽の水面よりも上方に突出させ、該水面から突出している水上部分の高さが所定の標準高さとなる浮力を発生させる浮力部と、
前記可動体の内側に一端が上向きに開口し、他端が前記水中本体と連通する接続通路と、
前記可動体の外周から前記浴槽の湯水を前記接続通路に取り入れる取水口と、
前記接続通路の湯水を、前記浴槽内に開口した放水口に向けて移送するポンプと、
前記接続通路から前記放水口に向かって流れる湯水を濾過するフィルタと
を備え、
前記可動体の前記水上部分の高さが前記標準高さに維持された状態で、前記取水口の上部は前記浴槽の水面よりも上方に位置すると共に、該取水口における取水量は、前記ポンプによる湯水の移送量よりも少なく設定されており、
前記可動体における前記接続通路の上方を覆う被覆部が設けられている
ことを特徴とする。
【0007】
このような本発明の浮遊物除去装置では、可動体の水上部分の高さが標準高さにある状態で、取水口の上部が水面よりも上方に位置すると共に、ポンプによる放水量よりも取水口における取水量が少なっていることにより、接続通路の水位が低下して浴槽との水位差が生じるため、浴槽の水面付近の湯水が浮遊物と一緒に取水口を通って接続通路へと流れ落ち、フィルタで浮遊物を除去することができる。但し、可動体の水上部分の高さが想定の標準高さに維持されていても、接続通路の水位が上昇して浴槽との水位差が減少することがあり、水位差が僅かになると、浴槽から接続通路に流入する湯水の流れは水面よりも水中が主となるため、水面に浮かぶ浮遊物を取り込む効率が悪くなってしまう。こうした接続通路の水位の上昇の原因としては、例えば、シャワーの湯水が接続通路にかかったり、子供が故意に湯水を接続通路に注ぎ込んだりするなど取水口を経ない接続通路への直接的な湯水の浸入や、あるいは接続通路への異物の投入が考えられる。そこで、接続通路の上方を被覆部で覆うことにより、接続通路への直接的な湯水の浸入や異物の投入を防ぐことができるので、接続通路の水位の上昇を抑制して浴槽との水位差の安定化を図り、浮遊物の除去性能を維持することが可能となる。
【0008】
上述した本発明の浮遊物除去装置における被覆部の下面側には、浴槽の水面と接した場合に働く表面張力を低減する低減部を設けておいてもよい。
【0009】
接続通路の上方を被覆部で覆った可動体を上から手で押さえ付けるなどして浴槽で水没させた場合、被覆部の下面側に表面張力(分子間力)によって水面の湯水が貼り付き、手を放しても可動体が水没したまま浮き上がらないことがある。結果として、浴槽と接続通路との水位差が生じず、浴槽から接続通路に流入する湯水の流れは水面よりも水中が主となるため、水面に浮かぶ浮遊物を取り込み難くなってしまう。そこで、被覆部の下面側に表面張力を低減する低減部を設けておくことにより、被覆部の下面側と水面との貼り付きを抑制することができる。
【0010】
上述した本発明の浮遊物除去装置では、低減部に撥水性の表面処理を施しておいてもよい。
【0011】
このようにすれば、被覆部の下面側が水面に接しても、低減部の撥水性によって湯水をはじくので、表面張力を低減して被覆部の下面側と水面との貼り付きを防ぐことが可能となる。
【0012】
また、前述した本発明の浮遊物除去装置における低減部には、浴槽の水面との間に空気を溜めることが可能な凹みを設けておいてもよい。
【0013】
このようにすれば、被覆部の下面側には、低減部の凹みによって浴槽の水面との間に空気層が生じ、空気層がない場合に比べて水面との接触面積が減るので、表面張力の作用部分の低減によって被覆部の下面側と水面との貼り付きを抑制することが可能となる。
【0014】
さらに、前述した本発明の浮遊物除去装置における被覆部の下面側には、下方に向かって断面が縮小する形状であると共に、浴槽の水面に対して傾斜した下向きの面を有する傾斜部を設けておいてもよい。
【0015】
このようにすれば、被覆部の下面側に表面張力で水面の湯水が貼り付いても、浮力部の浮力で被覆部が浮き上がろうとすると、貼り付いた湯水(表面張力の作用部分)が傾斜部の傾斜した面に沿って下方へと移動することにより、被覆部の下面側が水平である場合に比べて、被覆部の下面側と水面との貼り付きの解除を容易とすることができる。
【0016】
上述した本発明の浮遊物除去装置では、下方に向かって細くなる先細り形状の複数の突起で傾斜部を構成してもよい。
【0017】
このようにすれば、被覆部の下面側に表面張力で水面の湯水が貼り付いても、浮力部の浮力で被覆部が浮き上がろうとすると、貼り付いた湯水(表面張力の作用部分)が突起の先細り形状の勾配に沿って下方へと移動することにより、突起がない場合に比べて、被覆部の下面側と水面との貼り付きの解除を容易とすることができる。また、突起の数を増やすことで、突起の高さを抑えつつ、先細り形状の勾配を急峻にして貼り付いた湯水を下方へと移動させる効果を高めることができる。さらに、突起同士の隙間に空気が溜まり易く、空気層によって水面との接触面積が減るので、表面張力の作用部分の低減によって被覆部の下面側と水面との貼り付きを抑制する効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施例の浮遊物除去装置1を分解した状態を示した斜視図である。
【
図2】本実施例の可動体30を拡大して示した斜視図である。
【
図3】本実施例の浮遊物除去装置1を浴槽40に設置した状態を示した説明図である。
【
図4】浴槽40から湯水を可動体30に取り入れる様子を示した説明図である。
【
図5】蓋板36によって可動体30が水没したまま浮き上がらない状態を示した説明図である。
【
図6】第1別例の蓋板36の構成を示した説明図である。
【
図7】第2別例の蓋板36の構成を示した説明図である。
【
図8】第3別例の蓋板36の構成を示した説明図である。
【
図9】第1変形例の浮遊物除去装置1における可動体30を拡大して示した斜視図である。
【
図10】第2変形例の浮遊物除去装置1を分解した状態を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本実施例の浮遊物除去装置1を分解した状態を示した斜視図である。浴槽で使用される本実施例の浮遊物除去装置1は、浴槽の水中に位置する水中本体10や、水中本体10に対して上下方向に移動可能に接続される可動体30などを備えている。水中本体10は、ポンプ12を内蔵した駆動部11と、駆動部11の下方に配置され、ポンプ12に電力を供給するバッテリ16を内蔵した電源部15とで構成されている。電源部15は、駆動部11から取り外してバッテリ16に充電することが可能である。尚、バッテリ16に代えて、乾電池を電源としてもよい。
【0020】
駆動部11に内蔵のポンプ12を駆動すると、上面の流入口12aから湯水を吸入して側面の流出口12bから吐出するようになっており、駆動部11の側面には、流出口12bと対向する位置に放水口13が開口している。また、駆動部11におけるポンプ12の上方には、上部ユニット20を収容する収容空間14が設けられており、上部ユニット20を着脱可能となっている。
【0021】
上部ユニット20は、収容空間14の上面開口部を塞ぐ上面板21の略中央に円形の挿通孔22が開口していると共に、この挿通孔22と連通して円筒形状の挿通筒部23が垂設されている。挿通筒部23の下端には、フィルタ24が着脱可能に設置されている。図示した例では、挿通筒部23を間に置いて挟持部25が一対で垂設されており、その一対の挟持部25の間にフィルタ24が挟持されている。本実施例のフィルタ24には、スポンジを用いているが、通過する湯水を濾過できればよく、メッシュやフェルトなどであってもよい。
【0022】
本実施例の可動体30は、上面視で略矩形に形成されており、可動体30を浴槽の水面に浮かべる浮力を発生させるフロート部31が四隅に設けられると共に、浴槽の湯水を可動体30の内側に取り入れる取水口32がフロート部31とフロート部31との間に設けられている。尚、本実施例のフロート部31は、本発明の「浮力部」に相当している。
【0023】
また、可動体30の下側には、可動体30の内側と連通して円筒形状の接続筒部35が垂設されている。この接続筒部35の外径は、上部ユニット20の挿通孔22の孔径や挿通筒部23の内径よりも小さくなっている。そして、接続筒部35を挿通孔22から挿通筒部23に挿し込むと、接続筒部35の内側が水中本体10(駆動部11)と連通する接続通路35aとなり、接続通路35aの可動体30側は上向きに開口している。
【0024】
挿通孔22の周縁には、複数(本実施例では4つ)の切込み22aが等間隔に形成されており、接続筒部35の外周面には、切込み22aの各々と対応する箇所に上下方向の突条35bが形成されている。接続筒部35は、突条35bが切込み22aにガイドされることにより、挿通孔22および挿通筒部23に対して回り止めされた状態で上下方向に摺動可能である。さらに、可動体30には、接続通路35aの上方を覆って蓋板36が取り付けられる。詳しくは後述するが、本実施例の蓋板36は、下面側に撥水性の表面処理が施されており、湯水をはじくようになっている。尚、本実施例の蓋板36は、本発明の「被覆部」に相当している。
【0025】
図2は、本実施例の可動体30を拡大して示した斜視図である。図では、フロート部31を通る垂直な平面で可動体30を切断した状態を表している。本実施例の可動体30は、樹脂成形によって製造されるのに伴い、フロート部31の下面が開放されており、下向きに開口した空気溜め31aを有している。可動体30は、フロート部31(空気溜め31a)の下面が浴槽の水面で塞がれることにより、空気溜め31a内の空気が浮力を生じさせ、可動体30の上部が浴槽の水面よりも上方に突出した状態となる。
【0026】
また、フロート部31における接続通路35a側に向いた面には、係合凹部31bが形成されている。一方、蓋板36の下面から接続通路35aに向けて各フロート部31に対応する突出部37が突設されており、突出部37の下部には、径方向の外側に向けて係合突起38が形成されている。蓋板36を可動体30に取り付ける際には、突出部37を取水口32と向き合わせた状態で蓋板36をフロート部31に載置した後、可動体30に対して蓋板36を時計回りに回転させると、係合突起38が係合凹部31bの上端と係合して上方への蓋板36の離脱が不能となる。逆に、蓋板36を反時計回りに回転させれば、係合突起38と係合凹部31bとの係合が解除され、蓋板36を外すことができる。尚、蓋板36は、接着剤などで可動体30に固着させておいてもよい。
【0027】
図3は、本実施例の浮遊物除去装置1を浴槽40に設置した状態を示した説明図である。図示されるように、浮遊物除去装置1の水中本体10は、自在スタンド41によって浴槽40に対して固定され、湯水を溜めた浴槽40の水中に位置している。自在スタンド41は、一端が水中本体10(駆動部11)の側面に固定され、他端が浴槽40の内壁面に固定される。尚、固定には、吸盤や磁石などを用いることができる。
【0028】
また、自在スタンド41は、アーム部41aの角度を変更可能な関節部41bを有しており、関節部41bで角度を調整することで、浴槽40の水中における水中本体10の姿勢を略垂直に合わせることが可能である。そして、この水中本体10に対して可動体30が上下方向に移動可能に接続されている。
【0029】
前述したように可動体30の接続筒部35は、水中本体10(駆動部11)における上面板21の挿通孔22から挿通筒部23に挿し込まれ、上下方向に摺動可能となっている。また、取水口32が設けられた可動体30は、浮力を発生させるフロート部31を備えており、上部を浴槽40の水面よりも上方に突出させるようになっている。そのため、浴槽40の水面が上下に変動しても、可動体30は、水中本体10(挿通筒部23)に対する接続筒部35の挿し込み量の変化によって水面の変動に追従することが可能であり、可動体30と水中本体10との接続を維持しつつ、可動体30の上部を水面よりも突出させた状態を保つことができる。これにより、水中本体10に内蔵のポンプ12を駆動すると、浴槽40の水面付近の湯水を可動体30に取り入れることが可能である。
【0030】
図4は、浴槽40から湯水を可動体30に取り入れる様子を示した説明図である。図では、取水口32を通る垂直な平面で可動体30を切断した断面を拡大して表している。尚、図示した例では、蓋板36を省略している。前述したように、水中本体10のポンプ12を駆動すると、流入口12aから吸入された湯水が流出口12bから吐出されるため(
図1参照)、接続通路35aの湯水がフィルタ24を通って放水口13から浴槽40へと放出されるのに伴い、接続通路35aの水位が低下する。こうして浴槽40と接続通路35aとの水位差Δhが生じることにより、浴槽40の水面付近の湯水が浮遊物と一緒に取水口32を通って接続通路35aへと流れ落ち、フィルタ24で濾過されることで浮遊物を除去することができる。
【0031】
また、本実施例の可動体30は、フロート部31の浮力を適切に設定しておくことで、浴槽40の水面から突出している水上部分の高さHが所定の標準高さHstとなるように調整されている。このとき、浴槽40の水面に対して取水口32の下端が所定の深さDに位置することにより、ポンプ12による放水量よりも取水口32における取水量が少なくなって水位差Δhが維持される。
【0032】
しかしながら、このような浮遊物除去装置1では、可動体30の水上部分の高さHが想定の標準高さHstに維持されていても、接続通路35aの水位が上昇して浴槽40との水位差Δhが僅かとなることがあり、そうすると、浴槽40から取水口32を通って接続通路35aへと流入する湯水の流れは水面よりも水中が主となるため、水面に浮かぶ浮遊物を取り込む効率が悪くなってしまう。こうした接続通路35aの水位の上昇の原因としては、例えば、シャワーの湯水が接続通路35aにかかったり、子供が故意に湯水を接続通路35aに注ぎ込んだりするなど取水口32を経ない接続通路35aへの直接的な湯水の浸入や、あるいは接続通路35aへの異物の投入が考えられる。
【0033】
そこで、本実施例の浮遊物除去装置1では、前述したように接続通路35aの上方を覆って可動体30に取り付けられる蓋板36を備えている(
図2参照)。この蓋板36によって、接続通路35aへの直接的な湯水の浸入や異物の投入を防ぐことができるので、接続通路35aの水位の上昇を抑制して浴槽40との水位差Δhの安定化を図り、浮遊物の除去性能を維持することが可能となる。
【0034】
但し、蓋板36を取り付けた可動体30は、上から手で押さえ付けるなどして浴槽40で水没させた場合に、手を放しても水没したまま浮き上がらないことがある。
図5は、蓋板36によって可動体30が水没したまま浮き上がらない状態を示した説明図である。図では、蓋板36に着目しているため、可動体30については図示を省略しており、垂直な平面で蓋板36を切断した断面を表している。
【0035】
蓋板36を取り付けた可動体30が一旦水没すると、図示されるように水面において蓋板36の下面側に表面張力(分子間力)によって湯水が貼り付いた状態となる。そのため、図中の白抜きの矢印で示すように、可動体30のフロート部31の浮力で蓋板36が上方に浮き上がろうとしても、図中の実線の矢印で示すように、蓋板36の下面側には貼り付いた湯水の荷重が下方にかかることになる。また、蓋板36の下面側に貼り付いた湯水が僅かに持ち上げられて負圧になることによって、持ち上げられた湯水の外周がくびれると共に、貼り付きがより強固になる。さらに、図中の破線の矢印で示すように、蓋板36の上面側には大気圧が下方にかかっている。こうした表面張力に基づく湯水の荷重や大気圧が、フロート部31の浮力を上回ることによって、蓋板36(および可動体30)が浮き上がらなくなってしまう。結果として、浴槽40と接続通路35aとの水位差Δhが生じないため、浴槽40から取水口32を通って接続通路35aへと流入する湯水の流れは水面よりも水中が主となり、水面の浮遊物を取り込み難くなってしまう。
【0036】
そこで、本実施例の浮遊物除去装置1では、蓋板36の下面側に撥水性の表面処理を施している。撥水性の表面処理としては、例えば、フッ素系の塗料などを用いたコーティングであってもよいし、ロータス加工などの機械的な加工であってもよい。こうした撥水性の表面処理により、蓋板36の下面側が浴槽40の水面に接しても、湯水をはじくので、表面張力自体を低減して蓋板36の下面側と水面との貼り付きを防ぐことが可能となる。尚、本実施例の蓋板36の下面側で撥水性の表面処理が施された部分は、本発明の「低減部」に相当している。
【0037】
上述した蓋板36では、下面側に撥水性の表面処理を施すこととしたが、蓋板36によって可動体30が水没したまま浮き上がらない事態を回避するための構成は、これに限られず、次のような各種の別例を挙げることができる。以下では、上述の蓋板36とは異なる点を中心に別例を説明する。
【0038】
図6は、第1別例の蓋板36の構成を示した説明図である。まず、
図6(a)には、垂直な平面で第1別例の蓋板36を切断した状態が斜視図で示されている。図示されるように第1別例の蓋板36には、外縁に沿って下向きに突出した枠部36aが設けられている。これにより、蓋板36の下面側は、枠部36aの内側が凹みになっている。尚、本実施例における枠部36aの内側の凹みは、本発明の「低減部」に相当している。
【0039】
図6(b)には、第1別例の蓋板36の下面側が浴槽40の水面に接した状態が示されている。図示されるように蓋板36の下面側は、枠部36aの下端が水面に接することにより、枠部36aの内側の凹みに空気が閉じ込められて空気層が生じる。すなわち、蓋板36の下面側のうち、表面張力で水面が貼り付くのは枠部36aの下端だけであり、空気層がない場合に比べて水面との接触面積が減るので、表面張力の作用部分の低減によって蓋板36の下面側と水面との貼り付きを抑制することが可能となる。
【0040】
図7は、第2別例の蓋板36の構成を示した説明図である。まず、
図7(a)には、垂直な平面で第2別例の蓋板36を切断した状態が斜視図で示されている。図示されるように第2別例の蓋板36の下面側には、下方に向かって断面が縮小する形状であると共に、浴槽40の水面に対して傾斜した下向きの面を有する傾斜部36bが設けられている。図示した傾斜部36bでは、蓋板36の外縁から中央に向かって下方に傾斜した面を有している。尚、傾斜部36bの傾斜した面は、浴槽40の水面に対して傾斜していれば、これに限られず、例えば、蓋板36の短手方向の一端から他端に向かって下方に傾斜していてもよい。
【0041】
図7(b)には、第2別例の蓋板36の下面側が浴槽40の水面に接した状態が示されている。図示されるように蓋板36の下面側(傾斜部36b)には、水面の湯水が表面張力によって貼り付くものの、可動体30のフロート部31の浮力で蓋板36が上方に浮き上がろうとすると、図中の太線の矢印で示すように、貼り付いた湯水(表面張力の作用部分)が傾斜部36bの傾斜した面に沿って下方へと移動することにより、蓋板36の下面側が水平である場合(
図5参照)に比べて、蓋板36の下面側と水面との貼り付きの解除を容易とすることができる。
【0042】
図8は、第3別例の蓋板36の構成を示した説明図である。まず、
図8(a)には、垂直な平面で第3別例の蓋板36を切断した状態が斜視図で示されている。図示されるように第3別例の蓋板36の下面側には、下方に向かって細くなる先細り形状の複数の突起36cが一面に設けられている。図示した突起36cの先細り形状は、円錐形状になっているが、これに限られず、四角錐などの角錐形状であってもよい。
【0043】
図8(b)には、第3別例の蓋板36の下面側が浴槽40の水面に接した状態が示されており、図では、突起36cの1つを拡大して表している。図示されるように蓋板36の下面側(突起36c)には、水面の湯水が表面張力によって貼り付くものの、可動体30のフロート部31の浮力で蓋板36が上方に浮き上がろうとすると、図中の太線の矢印で示すように、貼り付いた湯水(表面張力の作用部分)が突起36cの先細り形状の勾配に沿って下方へと移動することにより、突起36cがない場合(
図5参照)に比べて、蓋板36の下面側と水面との貼り付きの解除を容易とすることができる。また、突起36cの数を増やすことで、突起36cの高さを抑えつつ、先細り形状の勾配を急峻にして貼り付いた湯水を下方へと移動させる効果を高めることができる。
【0044】
さらに、突起36c同士の隙間に空気が溜まり易く、空気層によって水面との接触面積が減るので、表面張力の作用部分の低減によって蓋板36の下面側と水面との貼り付きを抑制する効果も得られる。尚、突起36c同士の間隔は任意であるものの、間隔が狭すぎると、毛細管現象によって湯水が入り込んで蓋板36の下面側と水面との貼り付きが強固になる場合があるため、毛細管現象が起こらない程度に間隔を確保しておけばよい。
【0045】
また、上述した本実施例の浮遊物除去装置1には、次のような変形例も存在する。以下では、上述の実施例とは異なる点を中心に変形例について説明する。尚、変形例の説明では、上述の実施例と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0046】
図9は、第1変形例の浮遊物除去装置1における可動体30を拡大して示した斜視図である。図では、フロート部31を通る垂直な平面で可動体30を切断した状態を表している。前述した実施例の可動体30は、樹脂成形によって製造されるのに伴い、フロート部31の下面が開放されていた(
図2参照)。これに対して、第1変形例の可動体30は、同じく樹脂成形によって製造されるものの、フロート部31の上面が開放されており、上向きに開口した空間31cを有している。この空間31cの下面が底板31dで塞がれていることで、第1変形例の可動体30の下面は平坦になっている。
【0047】
このような第1変形例の可動体30では、下面が平坦であるため、浴槽40の水面の揺れによる影響を受け難くすることができる。すなわち、浴槽40の水面が揺れても、フロート部31内の空気が下面から抜けるようなことはないので、浮力を維持し易く可動体30の安定化を図ることができる。
【0048】
こうした第1変形例の可動体30では、シャワーの湯水がかかるなどすると、フロート部31の空間31cに湯水が溜まることになり、浴槽40の水面に対して可動体30が想定よりも沈んでしまうことがある。そこで、前述した実施例と同様に、可動体30に上方を覆って蓋板36を取り付けておくことにより、接続通路35aへの直接的な湯水の浸入や異物の投入を防ぐだけでなく、空間31cに湯水が溜まることも防ぐことができる。尚、蓋板36には、前述した実施例や各種の別例の構成を採用することが可能である。
【0049】
図10は、第2変形例の浮遊物除去装置1を分解した状態を示した斜視図である。前述した実施例の浮遊物除去装置1における水中本体10では、ポンプ12を内蔵した駆動部11の下方に、バッテリ16を内蔵した電源部15が配置されていた(
図1参照)。これに対して、第2変形例の浮遊物除去装置1では、水中本体10の駆動部11と電源部15とが横並びに配置されている。このような第2変形例の浮遊物除去装置1では、上下方向の寸法を小さくできるので、浴槽40内で上下方向に設置スペースを確保することが困難な場合でも、設置が可能となる。
【0050】
また、水中本体10の上部には上部ユニット20が装着され、その上面板21における駆動部11側に開口した挿通孔22に、可動体30の下側に垂設された接続筒部35が上下方向に摺動可能に挿し込まれる。第2変形例の可動体30は、上面視で略円形に形成されており、浮力を発生させる4つのフロート部31が外周に沿って均等に設けられると共に、浴槽40の湯水を可動体30の内側の接続通路35aに取り入れる取水口32がフロート部31とフロート部31との間に設けられている。図示したフロート部31は、下面が開放された仕様であるが、上面が開放された仕様であってもよい。さらに、可動体30には、上方を覆って円形の蓋板36が取り付けられる。
【0051】
このような第2変形例の浮遊物除去装置1においても、フロート部31の浮力を適切に設定しておくと共に、可動体30における接続通路35aの上方を覆う蓋板36を備えることにより、前述した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0052】
以上、本実施例および変形例の浮遊物除去装置1、さらに蓋板36の別例について説明したが、本発明は上記の実施例や変形例や別例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0053】
例えば、前述した実施例の浮遊物除去装置1では、水中本体10が自在スタンド41によって浴槽40の内壁面に対して固定されていた。しかし、水中本体10は、固定されていなくてもよく、独自に備えるフロートによって可動体30とは独立して浮力を調整することとして、水中で所定の深さを維持するようにしてもよい。
【0054】
また、前述した実施例および変形例の浮遊物除去装置1では、ポンプ12、放水口13、およびフィルタ24の何れも水中本体10に設置されていた。しかし、ポンプ12、放水口13、およびフィルタ24の設置箇所は、水中本体10に限られない。例えば、給湯器と浴槽40とに湯水を循環させるために浴槽40の壁面下部に開口した循環金具と、水中本体10とを接続しておくこととして、ポンプ12を給湯器に設置する(給湯器のポンプを流用する)と共に、放水口13やフィルタ24を循環金具に設置しておいてもよい。これにより、浮遊物除去装置1のコンパクト化を図ることができる。
【0055】
また、前述した実施例および変形例の浮遊物除去装置1では、水中本体10に対して可動体30を上下方向に移動可能に接続するために、挿通孔22および挿通筒部23に接続筒部35が挿し込まれて上下方向に摺動可能となっていた。しかし、水中本体10と可動体30とを接続する態様は、これに限られず、例えば、蛇腹によって伸縮自在な連結管で水中本体10と可動体30とを接続してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…浮遊物除去装置、 10…水中本体、 11…駆動部、
12…ポンプ、 12a…流入口、 12b…流出口、
13…放水口、 14…収容空間、 15…電源部、
16…バッテリ、 20…上部ユニット、 21…上面板、
22…挿通孔、 22a…切込み、 23…挿通筒部、
24…フィルタ、 25…挟持部、 30…可動体、
31…フロート部、 31a…空気溜め、 31b…係合凹部、
31c…空間、 31d…底板、 32…取水口、
35…接続筒部、 35a…接続通路、 35b…突条、
36…蓋板、 36a…枠部、 36b…傾斜部、
36c…突起、 37…突出部、 38…係合突起、
40…浴槽、 41…自在スタンド、 41a…アーム部、
41b…関節部。